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特許7149511日射遮蔽ガラスおよびこれを備えた日射遮蔽窓
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】日射遮蔽ガラスおよびこれを備えた日射遮蔽窓
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/32 20060101AFI20220930BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20220930BHJP
   E06B 9/24 20060101ALI20220930BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C03C17/32 C
B32B17/06
E06B9/24 Z
C03C27/12 N
C03C27/12 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018077698
(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2019182720
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気通信回線を通じた公開 掲載日 平成29年12月 4日 掲載アドレス (1)http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000083.html (2)http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000146.html (3)http://www.mlit.go.jp/common/001211773.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501267357
【氏名又は名称】国立研究開発法人建築研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 慶朗
(72)【発明者】
【氏名】児島 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】桑沢 保夫
(72)【発明者】
【氏名】西澤 繁毅
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-026781(JP,A)
【文献】特表2002-527326(JP,A)
【文献】国際公開第2008/087077(WO,A1)
【文献】特開2012-057462(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0301642(US,A1)
【文献】特開平02-289782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00
C03C 27/00 -29/00
B32B 17/06
E06B 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス温度の上昇によって透過する透過日射量が少なくなる一方、ガラス温度の低下によって透過する透過日射量が多くなる特性を有したサーモクロミックガラスと、前記サーモクロミックガラスの屋内面に形成されていると共に赤外線を遮断する熱遮断膜とを備えており、
前記熱遮断膜は、可視光線を透過し且つ赤外線を吸収する特性を有した熱線吸収膜によって構成されており、
前記熱線吸収膜の赤外線透過率は、前記サーモクロミックガラスの赤外線透過率よりも低くなっている
ことを特徴とする日射遮蔽ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の日射遮蔽ガラスにおいて、
前記熱線吸収膜の可視光線透過率は、前記サーモクロミックガラスの可視光線透過率よりも高くなっている
ことを特徴とする日射遮蔽ガラス。
【請求項3】
ガラス温度の上昇によって透過する透過日射量が少なくなる一方、ガラス温度の低下によって透過する透過日射量が多くなる特性を有したサーモクロミックガラスと、前記サーモクロミックガラスの屋内面に形成されていると共に赤外線を遮断する熱遮断膜とを備えており、
前記熱遮断膜は、可視光線を透過し且つ赤外線を反射する特性を有した熱線反射膜によって構成されており、
前記熱線反射膜の赤外線透過率は、前記サーモクロミックガラスの赤外線透過率よりも低くなっている
ことを特徴とする日射遮蔽ガラス。
【請求項4】
建物壁の開口に設置される日射遮蔽窓であって、
枠体と、前記枠体に取り付けられた請求項1から請求項のいずれか一項に記載の日射遮蔽ガラスとを備えている
ことを特徴とする日射遮蔽窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモクロミックガラスを備えた日射遮蔽ガラスおよびこれを備えた日射遮蔽窓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーモクロミックガラスとして、第1の合わせガラス部材および第2の合わせガラス部材の間に中間膜を挟んで構成された合わせガラスが知られている(特許文献1参照)。中間膜は、第1の樹脂層および第2の樹脂層の間にサーモクロミック層を挟んで構成されている。サーモクロミック層は、二酸化バナジウムなどを含んでおり、温度変化に応じて赤外線透過率が変化する特性を有している。この合わせガラスでは、第1の樹脂層の赤外線透過率は第2の樹脂層の赤外線透過率よりも高い設定となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-164892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の合わせガラスでは、第1の合わせガラス部材、第1の樹脂層およびサーモクロミック層を透過した赤外線(熱線)は、第1の樹脂層よりも赤外線透過率が低い第2の樹脂層においてある程度反射されるが、この第2の樹脂層および第2の合わせガラス部材を透過した赤外線、すなわち、合わせガラス全体を透過した赤外線はサーモクロミック層の温度上昇に利用することができない。
【0005】
本発明の目的は、サーモクロミックガラスを透過した赤外線を利用してサーモクロミックガラスのガラス温度の上昇を促進できる日射遮蔽ガラスおよびこれを備えた日射遮蔽窓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の日射遮蔽ガラスは、ガラス温度の上昇によって透過する透過日射量が少なくなる一方、ガラス温度の低下によって透過する透過日射量が多くなる特性を有したサーモクロミックガラスと、赤外線を遮断する熱遮断膜とを備えており、前記熱遮断膜は、前記サーモクロミックガラスの屋内面に形成されていることを特徴とする。
本発明の日射遮蔽ガラスによれば、サーモクロミックガラスの屋内面に形成された熱遮断膜が、サーモクロミックガラス全体を透過した赤外線を吸収や反射によって遮断する。このため、赤外線を吸収してフィルム温度が上昇した熱遮断膜からサーモクロミックガラスに熱伝導されたり、熱遮断膜が反射した赤外線がサーモクロミックガラスに再び戻されたりすることで、サーモクロミックガラスのガラス温度の上昇を促進できる。これにより、太陽の日射量が多くなって屋外温度が高まる場合には、例えば熱遮断膜が屋内面に形成されていないサーモクロミックガラスと比べて、日射遮蔽ガラスが遮蔽する日射量を速やかに多くすることができ、日射遮蔽ガラスから屋内空間への熱侵入量を抑えることができる。
【0007】
本発明の日射遮蔽ガラスでは、前記熱遮断膜は、可視光線を透過し且つ赤外線を吸収する特性を有した熱線吸収膜によって構成されていてもよい。
このような構成によれば、サーモクロミックガラスを透過する可視光線に対する熱線吸収膜の影響を抑えることができると共に、サーモクロミックガラスを透過した赤外線を熱線吸収膜によって吸収することができる。このように赤外線を吸収することで熱線吸収膜の温度が上昇し、熱線吸収膜からサーモクロミックガラスに熱伝導して、サーモクロミックガラスのガラス温度の上昇を促進できる。
【0008】
本発明の日射遮蔽ガラスでは、前記熱線吸収膜の赤外線透過率は、前記サーモクロミックガラスの赤外線透過率よりも低くなっていてもよい。
このような構成によれば、サーモクロミックガラスを透過した赤外線を熱線吸収膜で遮断できるので、日射遮蔽ガラスから屋内空間への熱侵入量を抑えることができる。
【0009】
本発明の日射遮蔽ガラスでは、前記熱線吸収膜の可視光線透過率は、前記サーモクロミックガラスの可視光線透過率よりも高くなっていてもよい。
このような構成によれば、サーモクロミックガラスを透過した可視光線を熱線吸収膜にも透過させることができ、熱線吸収膜の可視光線への影響を抑えることができる。
【0010】
本発明の日射遮蔽ガラスでは、前記熱遮断膜は、可視光線を透過し且つ赤外線を反射する特性を有した熱線反射膜によって構成されていてもよい。
このような構成によれば、サーモクロミックガラスを透過する可視光線に対する熱線反射膜の影響を抑えることができる共に、サーモクロミックガラスを透過した赤外線を熱線反射膜によって反射することができる。このように赤外線を反射してサーモクロミックガラスに再び戻すことで、サーモクロミックガラスのガラス温度の上昇を促進できる。
【0011】
本発明の日射遮蔽ガラスでは、前記熱線反射膜の赤外線透過率は、前記サーモクロミックガラスの赤外線透過率よりも低くなっていてもよい。
このような構成によれば、サーモクロミックガラスを透過した赤外線を熱線反射膜で遮断できるので、日射遮蔽ガラスから屋内空間への熱侵入量を抑えることができる。
【0012】
本発明の日射遮蔽ガラスでは、前記熱線反射膜の可視光線透過率は、前記サーモクロミックガラスの可視光線透過率よりも高くなっていてもよい。
このような構成によれば、サーモクロミックガラスを透過した可視光線を熱反射フィルムにも透過させることができ、熱線反射膜の可視光線への影響を抑えることができる。
【0013】
本発明の日射遮蔽窓は、建物壁の開口に設置される日射遮蔽窓であって、枠体と、前記枠体に取り付けられた前述した本発明の日射遮蔽ガラスとを備えていることを特徴とする。
本発明の日射遮蔽窓によれば、前述した本発明の日射遮蔽ガラスの作用効果と同様の作用効果を発揮する日射遮蔽窓を構成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サーモクロミックガラスを透過した赤外線を利用してサーモクロミックガラスのガラス温度の上昇を促進できる日射遮蔽ガラスおよびこれを備えた日射遮蔽窓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る日射遮蔽窓を示す模式図。
図2】前記実施形態に係る日射遮蔽窓の分光透過率を示すグラフ。
図3】前記実施形態に係る日射遮蔽窓の熱遮断フィルムの分光特性を示すグラフ。
図4】前記実施形態に係る日射遮蔽窓のガラス温度および日射量の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本実施形態の構成]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、本実施形態に係る日射遮蔽窓1は、建物壁2の開口3に対して、枠体である窓枠4を介して日射遮蔽ガラス10が設置されることによって構成されている。日射遮蔽ガラス10は、矩形板状のサーモクロミックガラス20と、サーモクロミックガラス20の屋内面22に貼り付けられた熱遮断膜としてのシート状の熱遮断フィルム30とを備えている。熱遮断フィルム30は、屋内面22のうち屋内空間に露出する全面に貼り付けられている。なお、サーモクロミックガラス20の屋外面21は、これに熱遮断フィルム30などは貼り付けられておらず、屋外空間に露出している。
【0017】
サーモクロミックガラス20は、透明ガラスに二酸化バナジウムなどの遷移金属酸化物を含んだサーモクロミック層を設けて構成されている。サーモクロミックガラス20は、ガラス温度の変化によって日射量の透過率が変化するサーモクロミック現象が生じるものであり、ガラス温度の上昇によって透過する透過日射量が少なくなる一方、ガラス温度の低下によって透過する透過日射量が多くなる特性を有している。本実施形態では、サーモクロミックガラス20はガラス温度の変化によって主に可視光線透過率が変化する特性を有している。
【0018】
図2(A)のグラフはサーモクロミックガラス20の分光透過率を示している。このグラフでは、縦軸が日射の透過率(%)であり、横軸が日射の波長(nm)であり、ガラス温度が20℃、40℃、50℃、70℃である場合の透過率と波長の関係を、線種を分けてそれぞれ示している。
ここで、本実施形態では、可視放射の波長範囲は、短波長限界を360nm~400nmとし、且つ長波長限界を760nm~830nmとし、この波長範囲を可視光線領域とする。また、赤外放射の波長範囲は、単色光成分の波長が可視放射の波長よりも長く、短波長限界を760nm~830nmとした波長範囲を赤外線領域とする。
【0019】
図2(A)のグラフでは、ガラス温度20℃~70℃の変化に応じて、サーモクロミックガラス20の可視光線領域における可視光線透過率は、赤外線領域における赤外線透過率よりも大きく変化している。具体的には、可視光線領域において波長が600nm程度である場合に可視光線透過率の変化が大きくなっており、ガラス温度20℃では可視光線透過率が65%程度である一方、ガラス温度70℃では可視光線透過率が15%程度であり、およそ50%の可視光線透過率の変化範囲がみられる。これに対して、赤外線領域において波長が1000nm程度である場合に赤外線透過率の変化が大きくなっており、ガラス温度20℃では赤外線透過率が62%程度である一方、ガラス温度70℃では赤外線透過率が47%程度であり、およそ15%の赤外線透過率の変化がみられる。このように、サーモクロミックガラス20のガラス温度20℃~70℃の変化に応じて、可視光線透過率が50%程度も変化するのに対し、赤外線透過率は15%程度しか変化しない。
【0020】
また、図2(A)のグラフでは、サーモクロミックガラス20のガラス温度20℃の場合には、可視光線領域における波長800nm程度で可視光線透過率73%程度であるのに対し、赤外線領域における波長1600nm程度で赤外線透過率70%程度となっている。このことより、ガラス温度が低下した場合、サーモクロミックガラス20の可視光線透過率および赤外線透過率は同程度(数%の違いを含む)となる。一方、サーモクロミックガラス20のガラス温度70℃の場合には、可視光線領域における波長600nm程度で可視光線透過率15%程度であるのに対し、赤外線領域における波長1700nm程度で赤外線透過率31%程度である。このことより、ガラス温度が上昇した場合、サーモクロミックガラス20の可視光線透過率は赤外線透過率よりも低くなる。
【0021】
熱遮断フィルム30は、主に赤外線(熱線)を吸収する特性を有した熱線吸収膜としてのシート状の熱線吸収フィルムによって構成されている。
熱線吸収フィルムは、例えばポリエステル等の樹脂フィルムが積層された構造とされるが、前述した特性および後述する特性を発揮可能な構成であれば前記構造でなくてもよい。
【0022】
図3(A)のグラフは熱線吸収フィルムの分光特性を示している。このグラフでは、縦軸が日射の透過率・吸収率(%)であり、横軸が日射の波長(nm)であり、熱線吸収フィルムの透過率と波長の関係を実線で示しており、熱線吸収フィルムの吸収率と波長の関係を点線で示している。
図3(A)のグラフでは、熱線吸収フィルムは、可視光線はあまり吸収せずに透過する一方、赤外線を多く吸収してあまり透過しない特性を有していることがわかる。また、熱線吸収フィルムの可視光線透過率が、サーモクロミックガラス20の可視光線透過率よりも高くなっており、熱線吸収フィルムの赤外線透過率が、サーモクロミックガラス20の赤外線透過率よりも低くなっていることがわかる。
【0023】
図2(B)のグラフは、本実施形態の日射遮蔽ガラス10として、サーモクロミックガラス20の屋内面22に熱遮断フィルム30として熱線吸収フィルムを貼り付けたものの分光透過率を示している。このグラフでは、縦軸が日射の透過率(%)であり、横軸が日射の波長(nm)であり、ガラス温度が20℃、40℃、50℃、70℃である場合の透過率と波長の関係を、線種を分けてそれぞれ示している。
図2(B)のグラフでは、日射遮蔽ガラス10の可視光線透過率の変化範囲は、図2(A)のグラフに示されるサーモクロミックガラス20の可視光線透過率の変化範囲と比べて、同程度以上の変化範囲を保っていることがわかる。また、図2(B)のグラフにおける可視光線透過率は、図2(A)のグラフにおける可視光線透過率と比べて、10%前後の低下に抑えられていることから、サーモクロミックガラス20の屋内面22に熱線吸収フィルムを貼り付けても、日射遮蔽ガラス10の可視光線透過率への影響は低いことがわかる。
一方、図2(B)のグラフでは、日射遮蔽ガラス10の赤外線透過率が、図2(A)のグラフに示されるサーモクロミックガラス20の赤外線透過率に対して大幅に低くなっており、このように透過率が低くなった分は熱線吸収フィルムによって吸収され、熱線吸収フィルムのフィルム温度が上昇してサーモクロミックガラス20に熱伝導されることが推測される。
【0024】
サーモクロミックガラス20の屋内面22に熱遮断フィルム30として熱線吸収フィルムを貼り付けた日射遮蔽ガラス10が窓枠4に取り付けられた日射遮蔽窓1は、次のように作用する。ここでは、外気温(屋外温度)が室温(屋内温度)よりも高い場合を想定する。
図1に示すように、太陽5からの日射をサーモクロミックガラス20が受けると、サーモクロミックガラス20はその透過率に応じて可視光線および赤外線を透過すると共に透過されない赤外線を直接吸収する。
次に、サーモクロミックガラス20を透過した日射を熱線吸収フィルムが受けると、熱線吸収フィルムはその透過率に応じて可視光線を透過し且つ赤外線を吸収する。熱線吸収フィルムを透過した可視光線は屋内空間に入射されるが、赤外線は熱線吸収フィルムに吸収されて屋内空間にほぼ入射されないので、日射遮蔽ガラス10が受ける日射量(屋外面21が受ける窓面日射量)に対する屋内空間への熱侵入率は低く抑えられる。また、熱線吸収フィルムは、吸収した赤外線によってフィルム温度が上昇するので、フィルム温度がサーモクロミックガラス20のガラス温度よりも高くなった場合には熱伝導してガラス温度の上昇を促進させる。
【0025】
太陽5からの日射が強まって日射遮蔽ガラス10の屋外面21が受ける窓面日射量が多くなっていく場合、サーモクロミックガラス20のガラス温度は、日射を直接吸収するうえ、熱線吸収フィルムから熱伝導されて熱取得することで速やかに上昇する。このため、サーモクロミックガラス20の可視光線透過率は速やかに低くなり、可視光線遮蔽率は高くなる。また、太陽5からの日射が弱まって日射遮蔽ガラス10の屋外面21が受ける窓面日射量が少なくなっていく場合、サーモクロミックガラス20が日射を直接吸収する量が少なくなると共に、熱線吸収フィルムから熱取得する量も少なくなり、サーモクロミックガラス20のガラス温度が低下する。このため、サーモクロミックガラス20の可視光線透過率は高くなり、可視光線遮蔽率は低くなる。このように、日射遮蔽窓1は日射量に応じて日射遮蔽する。
【0026】
図4のグラフは、外気温30℃および室温25℃の下、前述したように日射遮蔽ガラス10の屋外面21が受ける窓面日射量(W/m)およびガラス温度(℃)の関係と、熱遮断フィルム30が貼り付けられていないサーモクロミックガラス20単体における窓面日射量(W/m)およびガラス温度(℃)の関係とを示している。
サーモクロミックガラス20単体のガラス温度は、窓面日射量が100W/mから900W/mまで多くなる間に、30℃程度から46℃程度にまで上昇する。これに対して、日射遮蔽ガラス10(サーモクロミックガラス20+熱線吸収フィルム)のガラス温度は、窓面日射量が100W/mから900W/mまで多くなる間に、31℃程度から55℃程度にまで上昇する。このことより、窓面日射量に対するガラス温度の上昇率は、サーモクロミックガラス20単体よりも日射遮蔽ガラス10の方が高いことがわかる。
【0027】
以上の日射遮蔽窓1において、サーモクロミックガラス20の屋内面22に貼り付けられる熱遮断フィルム30は熱線吸収フィルムとして説明したが、熱線吸収フィルムではなく、主に赤外線を反射する特性を有した熱線反射膜としてのシート状の熱線反射フィルムとしてもよい。
熱線反射フィルムは、例えばポリエステル等の樹脂フィルムが積層された構造とされるが、前述した特性および後述する特性を発揮可能な構成であれば前記構造でなくてもよい。
【0028】
図3(B)のグラフは熱線反射フィルムの分光特性を示している。このグラフでは、縦軸が日射の透過率・反射率(%)であり、横軸が日射の波長(nm)であり、熱線反射フィルムの透過率と波長の関係を実線で示しており、熱線反射フィルムの反射率と波長の関係を点線で示している。
図3(B)のグラフでは、熱線反射フィルムは、可視光線はあまり反射せずに透過する一方、赤外線を多く反射してあまり透過しない特性を有していることがわかる。また、熱線反射フィルムの可視光線透過率は、サーモクロミックガラス20の赤外線透過率よりも低くなっていることがわかる。
【0029】
サーモクロミックガラス20の屋内面22に熱遮断フィルム30として熱線反射フィルムを貼り付けた日射遮蔽ガラス10が窓枠4に取り付けられた日射遮蔽窓1は、次のように作用する。ここでは、外気温が室温よりも高い場合を想定する。
図1に示すように、太陽5からの日射をサーモクロミックガラス20が受けると、サーモクロミックガラス20はその透過率に応じて可視光線および赤外線を透過すると共に透過されない赤外線を直接吸収する。
次に、サーモクロミックガラス20を透過した日射を熱線反射フィルムが受けると、熱線反射フィルムはその透過率に応じて可視光線を透過し且つ赤外線を反射する。熱線反射フィルムを透過した可視光線は屋内空間に入射されるが、赤外線は熱線反射フィルムに反射されることで屋内空間への入射量が少ないので、日射遮蔽ガラス10が受ける日射量に対する屋内空間への熱侵入率は低く抑えられる。また、熱線反射フィルムに反射された赤外線は再びサーモクロミックガラス20に戻され、サーモクロミックガラス20は反射された赤外線を吸収するので、サーモクロミックガラス20のガラス温度の上昇は促進される。
【0030】
太陽5からの日射が強まって日射遮蔽ガラス10の屋外面21が受ける窓面日射量が多くなっていく場合、サーモクロミックガラス20のガラス温度は、日射を直接吸収するうえ、熱線反射フィルムに反射された赤外線を吸収することで速やかに上昇する。このため、サーモクロミックガラス20の可視光線透過率は速やかに低くなり、可視光線遮蔽率は高くなる。また、太陽5からの日射が弱まって日射遮蔽ガラス10の屋外面21が受ける窓面日射量が少なくなっていく場合、サーモクロミックガラス20が日射を直接吸収する量が少なくなると共に、熱線反射フィルムに反射する赤外線の量も少なくなり、サーモクロミックガラス20のガラス温度が低下する。このため、サーモクロミックガラス20の可視光線透過率は高くなり、可視光線遮蔽率は低くなる。このように、日射遮蔽窓1は日射量に応じて日射遮蔽する。
【0031】
[本実施形態の効果]
(1)本実施形態では、日射遮蔽ガラス10は、ガラス温度の上昇によって透過する透過日射量が少なくなる一方、ガラス温度の低下によって透過する透過日射量が多くなる特性を有したサーモクロミックガラス20の屋内面22に熱遮断フィルム30が貼り付けられることで、熱遮断フィルム30が、サーモクロミックガラス20全体を透過した赤外線を吸収や反射によって遮断でき、吸収や反射された赤外線を利用してサーモクロミックガラス20のガラス温度の上昇を促進できる。これにより、太陽5の日射量が多くなる場合には、日射遮蔽ガラス10が遮蔽する日射量を速やかに多くすることができ、日射遮蔽ガラス10から屋内空間への熱侵入量を抑えることができる。
(2)熱遮断フィルム30が可視光線を透過し且つ赤外線を吸収する特性を有した熱線吸収フィルムによって構成される場合、サーモクロミックガラス20を透過する可視光線に対する熱線吸収フィルムの影響を抑えることができると共に、サーモクロミックガラス20を透過した赤外線を熱線吸収フィルムによって吸収することができ、サーモクロミックガラス20のガラス温度の上昇を促進できる。
(3)熱線吸収フィルムの赤外線透過率がサーモクロミックガラス20の赤外線透過率よりも低くなっているので、サーモクロミックガラス20を透過した赤外線を熱線吸収フィルムで遮断でき、日射遮蔽ガラス10から屋内空間への熱侵入量を抑えることができる。
(4)熱線吸収フィルムの可視光線透過率がサーモクロミックガラス20の可視光線透過率よりも高くなっているので、サーモクロミックガラス20を透過した可視光線を熱線吸収フィルムにも透過させることができ、熱線吸収フィルムの可視光線への影響を抑えることができる。
(5)熱遮断フィルム30が可視光線を透過し且つ赤外線を反射する特性を有した熱線反射フィルムによって構成される場合、サーモクロミックガラス20を透過する可視光線に対する熱線反射フィルムの影響を抑えることができると共に、サーモクロミックガラス20を透過した赤外線を熱線反射フィルムによって反射することができ、サーモクロミックガラス20のガラス温度の上昇を促進できる。
(6)熱線反射フィルムの赤外線透過率がサーモクロミックガラス20の赤外線透過率よりも低くなっているので、サーモクロミックガラス20を透過した赤外線を熱線反射フィルムで遮断でき、日射遮蔽ガラス10から屋内空間への熱侵入量を抑えることができる。
(7)熱線反射フィルムの可視光線透過率がサーモクロミックガラス20の可視光線透過率よりも高くなっているので、サーモクロミックガラス20を透過した可視光線を熱線反射フィルムにも透過させることができ、熱線反射フィルムの可視光線への影響を抑えることができる。
【0032】
[変形例]
前記実施形態では、熱線吸収フィルムは、図2(A)に示す分光特性を有しているが、この特性に限らず、可視光線を透過し、且つサーモクロミックガラス20のガラス温度を上昇できる程度に赤外線を吸収する特性を有していればよい。また、前記実施形態では、熱線反射フィルムは、図2(B)に示す分光特性を有しているが、この特性に限らず、可視光線を透過し、且つサーモクロミックガラス20のガラス温度を上昇できる程度に赤外線を反射する特性を有していればよい。
前記実施形態では、熱線吸収フィルムは、可視光線透過率がサーモクロミックガラス20の可視光線透過率よりも高くなっているが、同程度であってもよい。また、前記実施形態では、熱線反射フィルムは、可視光線透過率がサーモクロミックガラス20の可視光線透過率よりも高くなっているが、同程度であってもよい。
前記実施形態では、熱遮断フィルム30は、サーモクロミックガラス20の屋内面22に貼り付けられているので、他の熱遮断フィルム30と貼り替えることで日射遮蔽ガラス10の特性を調整、変更することが可能であり、例えば熱線反射フィルムから熱線吸収フィルムに貼り替えることができる。
前記実施形態では、熱遮断フィルム30は、屋内面22のうち屋内空間に露出する全面に貼り付けられているが、部分的に貼り付けられていてもよく、例えば日射の入射角などを考慮して、サーモクロミックガラス20の上下半分などに貼り付けられていてもよい。
前記実施形態では、熱遮断フィルム30は、サーモクロミックガラス20の屋内面22に貼り付けられているが、これに限らず、スパッタリング等で形成された熱遮断膜であってもよい。
前記実施形態に係る日射遮蔽窓1は、日射遮蔽ガラス10が窓枠4に不動に固定された固定窓(FIX窓)でもよく、日射遮蔽ガラス10が窓枠4に開閉可能に取り付けられた各種の窓であってもよい。また、日射遮蔽窓1は、日射遮蔽ガラス10のほかにも透明ガラスなどを備えて複層窓とされてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…日射遮蔽窓、10…日射遮蔽ガラス、2…建物壁、20…サーモクロミックガラス、21…屋外面、22…屋内面、3…開口、30…熱遮断フィルム、4…窓枠(枠体)、5…太陽。
図1
図2
図3
図4