(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】希土類元素添加光ファイバ、及び希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/067 20060101AFI20220930BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20220930BHJP
H01S 3/17 20060101ALI20220930BHJP
C03C 13/04 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
H01S3/067
G02B6/02 376A
H01S3/17
C03C13/04
(21)【出願番号】P 2018133651
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2017138508
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄太
(72)【発明者】
【氏名】荒木 智宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】関谷 エジソン 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】市井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 亮一
【審査官】淺見 一喜
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-331091(JP,A)
【文献】特開2002-055244(JP,A)
【文献】特開2002-009376(JP,A)
【文献】特開2002-236232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0101261(US,A1)
【文献】特開2010-135801(JP,A)
【文献】特開昭60-257408(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102147496(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
G02B 6/02
C03C 13/04
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、前記コア部の周囲を覆うクラッド部とを有し、前記コア部が、エルビウム、イッテルビウム、リン及びゲルマニウムを含み、
前記エルビウムの含有量が0.05質量%以上であり、
前記リンの含有量が、前記リンと前記エルビウムとの質量比P/Erで13.5以上92.6以下
であり、
前記ゲルマニウムの含有量が0.5質量%以上12.0質量%以下であり、
前記イッテルビウムの含有量が、前記イッテルビウムと前記エルビウムとの質量比Yb/Erで3.9以上11.6以下である、
希土類元素添加光ファイバ。
【請求項2】
前記ゲルマニウムの含有量が0.5質量%以上8.6質量%以下である、
請求項1に記載の希土類元素添加光ファイバ。
【請求項3】
前記リンの含有量が、0.9質量%以上18質量%以下である、
請求項1または2に記載の希土類元素添加光ファイバ。
【請求項4】
前記イッテルビウムの含有量が、0.2質量%以上2.5質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の
希土類元素添加光ファイバ。
【請求項5】
前記コア部はセリウムを含み、前記セリウムの含有量が0.12質量%以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の希土類元素添加光ファイバ。
【請求項6】
前記コア部はアルミニウムを含み、前記アルミニウムの含有量が、前記アルミニウムと前記リンとの質量比Al/Pで1.0未満である、請求項1
~5のいずれか一項に記載の希土類元素添加光ファイバ。
【請求項7】
前記コア部はホウ素を含み、前記ホウ素の含有量が0.6質量%以下である、請求項1
~6のいずれか一項に記載の希土類元素添加光ファイバ。
【請求項8】
コア部と、前記コア部の周囲を覆うクラッド部とを有し、前記コア部が、エルビウム、イッテルビウム及びリンを含む希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法であって、
前記コア部に、
前記エルビウムを0.05質量%以上、前記リンと前記エルビウムとの質量比P/Erで13.5以上92.6以下、前記ゲルマニウムを
0.5質量%以上12.0質量%以下、前記イッテルビウムを前記イッテルビウムと前記エルビウムとの質量比Yb/Erで3.9以上11.6以下添加する、希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法。
【請求項9】
前記ゲルマニウムの含有量を0.5質量%以上8.6質量%以下とする、請求項8に記載の希土類添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法。
【請求項10】
前記リンの含有量を0.9質量%以上18質量%以下とする、請求項8または9に記載の希土類添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法。
【請求項11】
前記イッテルビウムの含有量を0.2質量%以上2.5質量%以下とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法。
【請求項12】
前記コア部にセリウムを含有させ、前記セリウムの含有量を0.12質量%以下とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法。
【請求項13】
前記コア部にアルミニウムを含有させ、前記アルミニウムの含有量を前記アルミニウムと前記リンとの質量比Al/Pで1.0未満とする、請求項8~12のいずれか一項に記載の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法。
【請求項14】
前記コア部にホウ素を含有させ、前記ホウ素の含有量を0.6質量%以下とする、請求項8~13のいずれか一項に記載の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素添加光ファイバ、及び希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、一般に、コア部と、そのコア部を被覆するクラッド部とを有する。この種の光ファイバでは、コア部の屈折率をクラッド部の屈折率よりも大きくして、光をコア部とクラッド部の境界で全反射させることにより、その光をコア部内に閉じ込めて、光信号として遠方に伝播させる。
【0003】
また、光ファイバは、増幅器としても利用されている。増幅器用の光ファイバとして、コア部に希土類元素を添加した希土類元素添加光ファイバが知られている。希土類元素として、エルビウム(Er)を添加したEr添加光ファイバは、1.55μm帯の増幅器として利用されている。
増幅器として利用する希土類元素添加光ファイバでは、利得を向上させるために、コア部の希土類元素の含有量を多くすることが有効である。しかしながら、希土類元素(特に、Er)の含有量を多くし過ぎると、希土類元素同士のクラスタリング(寄り集ること)が生成して濃度消光が起こり、却って利得が低下することがある。この希土類元素同士のクラスタリングの生成を防止するために、希土類元素添加光ファイバでは、コア部に、リン(P)やアルミニウム(Al)を共添加して希土類元素を分散させることが行なわれている。
【0004】
近年の光通信技術の進展に伴って、光ファイバは様々な環境で利用されるようになっている。例えば、光ファイバは、宇宙空間や原子力発電所などの放射線が存在する環境においても利用されている。しかしながら、コア部に金属元素が添加されている光ファイバは、放射線(特に、X線、γ線などの電磁放射線)によって劣化しやすいという問題がある。
【0005】
例えば、光ファイバのコア部の屈折率を向上させるためにGeが添加された光ファイバは、純粋なシリカコアの光ファイバと比較して耐放射線性が劣ることが知られている。このため、Geを使用せずにコア部の屈折率を高めることが検討されている。特許文献1には、Geを使用せずにコア部の屈折率を高める方法として、クラッド部として高濃度のフッ素を含む石英ガラス質クラッド部を用いて、クラッド部をコア部よりも低屈折率とすることによって、コア部の屈折率を相対的に高める方法が開示されている。
【0006】
また、希土類元素のクラスタリングの発生を防止するためにPやAlがコア部に添加された希土類元素添加光ファイバは、放射線が照射されると、光の欠陥吸収が生成して利得が低下することが知られている。この光の欠陥吸収は、コア部に添加されているPやAlに起因するとされている。
【0007】
特許文献2には、放射線に敏感な他のいかなるドーパントも追加することを必要としない希土類元素添加光ファイバとして、コア部が、コアマトリックスを有し、かつ希土類ドーピングのシリカベースナノ粒子を含む希土類元素添加光ファイバが開示されている。この特許文献2に開示されている希土類元素添加光ファイバでは、コアマトリックスとしてはリンやアルミニウムを含まないシリカベースマトリックスが用いられている。
【0008】
特許文献3には、リンに起因する放射線による利得の低下を抑制するために、コア部に、セリウム(Ce)を共ドープすることが開示されている。この特許文献3には、コア部のエルビウム濃度が100~1000ppmであり、イッテルビウム濃度が500~10000ppmであり、リン濃度が2~10原子%であり、セリウム濃度が500~10000ppmである希土類元素添加光ファイバが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭60-257408号公報
【文献】特開2010-135801号公報
【文献】米国特許出願公開第2013/0101261号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐放射線性に優れる新規な希土類元素添加光ファイバを提供することにある。すなわち、本発明は、コア部に希土類元素とリンとを含みながらも耐放射線性が高く、放射線が存在する環境で使用しても利得が低減しにくい新規な希土類元素添加光ファイバを提供することを目的とする。また、本発明は、コア部に希土類元素とリンとを含む希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる新規な方法を提供することもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の希土類元素添加光ファイバは、コア部と、前記コア部の周囲を覆うクラッド部とを有し、前記コア部が、エルビウム、イッテルビウム、リン及びゲルマニウムを含み、前記エルビウムの含有量が0.05質量%以上であり、前記リンの含有量が、前記リンと前記エルビウムとの質量比P/Erで13.5以上92.6以下であり、前記ゲルマニウムの含有量が0.5質量%以上12.0質量%以下であり、前記イッテルビウムの含有量が、前記イッテルビウムと前記エルビウムとの質量比Yb/Erで3.9以上11.6以下であることを特徴としている。
【0012】
本発明の希土類元素添加光ファイバにおいては、前記ゲルマニウムの含有量が0.5質量%以上8.6質量%以下であってもよい。
【0013】
また、本発明の希土類元素添加光ファイバにおいては、前記リンの含有量が、0.9質量%以上18質量%以下であってもよい。
また、本発明の希土類元素添加光ファイバにおいては、前記イッテルビウムの含有量が、0.2質量%以上2.5質量%以下であってもよい。
【0014】
また、本発明の希土類元素添加光ファイバにおいては、前記コア部はセリウムを含み、前記セリウムの含有量が0.12質量%以下であってもよい。
【0015】
また、本発明の希土類元素添加光ファイバにおいては、前記コア部はアルミニウムを含み、前記アルミニウムの含有量が、前記アルミニウムと前記リンとの質量比Al/Pで1.0未満であってもよい。
【0016】
また、本発明の希土類元素添加光ファイバにおいては、前記コア部はホウ素を含み、前記ホウ素の含有量が0.6質量%以下であってもよい。
【0017】
本発明の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法は、コア部と、前記コア部の周囲を覆うクラッド部とを有し、前記コア部が、エルビウム、イッテルビウム及びリンを含む希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法であって、前記コア部に、前記エルビウムを0.05質量%以上、前記リンと前記エルビウムとの質量比P/Erで13.5以上92.6以下、前記ゲルマニウムを0.5質量%以上12.0質量%以下、前記イッテルビウムを前記イッテルビウムと前記エルビウムとの質量比Yb/Erで3.9以上11.6以下添加することを特徴としている。
本発明に係る希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法において、前記ゲルマニウムの含有量を0.5質量%以上8.6質量%以下とすることができる。
本発明に係る希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法において、前記リンの含有量を0.9質量%以上18質量%以下とすることができる。
本発明に係る希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法において、前記イッテルビウムの含有量を0.2質量%以上2.5質量%以下とすることができる。
本発明に係る希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法において、前記コア部にセリウムを含有させ、前記セリウムの含有量を0.12質量%以下とすることができる。
本発明に係る希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法において、前記コア部にアルミニウムを含有させ、前記アルミニウムの含有量を前記アルミニウムと前記リンとの質量比Al/Pで1.0未満とすることができる。
本発明に係る希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法において、前記コア部にホウ素を含有させ、前記ホウ素の含有量を0.6質量%以下とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コア部にエルビウムとゲルマニウムとイッテルビウムとリンとを含みながらも、リンとエルビウムとの質量比P/Erで13.5以上92.6以下、ゲルマニウムを0.5質量%以上12.0質量%以下、イッテルビウムをイッテルビウムとエルビウムとの質量比Yb/Erで3.9以上11.6以下添加したので、耐放射線性が高く、放射線が存在する環境で使用しても利得が低減しにくい新規な希土類元素添加光ファイバを提供することが可能となる。
上述のエルビウム添加により、コア部において励起光により信号光を生成する作用を得ることができ、上述のゲルマニウム添加によりリン添加に起因する放射線照射による欠陥吸収の生成を抑制し、耐放射線性を向上できる。更に、上述のようにイッテルビウムとエルビウムとの質量比を調整すると、エルビウムの含有量が多くても、エルビウムの濃度消光を抑えることができ、信号光の生成量を増加できる。更に、上述のようにエルビウムとリンとの質量比を調整すると、エルビウムのクラスタリングの発生を確実に抑制することができる。
また、本発明によれば、上述のエルビウム含有量とゲルマニウム含有量を選択し、上述の質量比P/Erと質量比Yb/Erを選択することにより、コア部にエルビウムとゲルマニウムとイッテルビウムとリンとを含む希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる新規な方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図2】実施例2で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図3】実施例3で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図4】実施例4で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図5】実施例5で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図6】実施例6で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図7】実施例7で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図8】実施例8で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図9】実施例9で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図10】実施例10で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図11】実施例11で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図12】実施例12で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図13】実施例13で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図14】実施例14で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図15】実施例15で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図16】実施例16で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図17】実施例17で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図18】実施例18で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図19】実施例19で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図20】実施例20で作製した希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布を示すグラフである。
【
図21】実施例1~10で作製した希土類元素添加光ファイバ母材のX線照射後の光の吸収係数増加量を示すグラフである。
【
図22】実施例11~20で作製した希土類元素添加光ファイバ母材のX線照射後の光の吸収係数増加量を示すグラフである。
【
図23】実施例1、6、8、10及び比較例1で作製した希土類元素添加光ファイバのγ線照射後の光の吸収損失増加量を示すグラフである。
【
図24】実施例11、12、13、18、19、21、22、23及び比較例1で作製した希土類元素添加光ファイバのγ線照射後の光の吸収損失増加量を示すグラフである。
【
図25】実施例1~23及び比較例1で作製した希土類元素添加光ファイバのコア部のGe添加濃度と耐X線特性と耐γ線特性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る希土類元素添加光ファイバ、及び希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法の実施形態について説明する。
【0021】
本実施形態の希土類元素添加光ファイバは、コア部と、このコア部の周囲を覆うクラッド部とを有する。コア部は、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、リン(P)及びゲルマニウム(Ge)を含むシリカ組成物で形成されている。コア部は、さらに必要に応じて、セリウム(Ce)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)を含んでいてもよい。
【0022】
本実施形態の希土類元素添加光ファイバは、コア部がErを含むEr添加光ファイバである。本実施形態の希土類元素添加光ファイバは、マルチモード型光ファイバ(MMF)、シングルモード型光ファイバ(SMF)、ダブルクラッド型光ファイバ(DCF)、偏波保持型光ファイバなどの光ファイバとして利用されている種々の形態とすることができる。本実施形態の希土類元素添加光ファイバは、例えば、1.55μm帯の光の増幅器として使用することができる。本実施形態の希土類元素添加光ファイバは、宇宙機(例えば、ロケット、人工衛星、宇宙船)に搭載される光通信機器や光ファイバジャイロ、原子炉における光ファイバ増幅器、航空機搭載用の光通信機器などの耐放射線性が要求される用途において好適に使用することができる。
【0023】
コア部に含まれるErは、波長0.98μmあるいは波長1.48μmの光(励起光)によって励起されて、波長1.55μmの光(信号光)を生成する作用を有する。
コア部のEr含有量は、好ましくは0.05質量%以上であり、特に好ましくは0.09質量%以上である。一方、Er含有量が多くなりすぎると、クラスタリングの発生による濃度消光が発生するおそれがあるため、次項以降に示す範囲でYb、Pを共添加させる必要がある。
【0024】
Ybは、波長0.8~1.1μmの広い波長範囲の光で励起され、その励起したYbからErへのエネルギー遷移によってErを励起させる作用を有する。この作用によって、波長1.55μmの光の生成量を増加させることができる。また、Ybは、Erの周囲に配位して、Er同士の距離を長くすることによって、Erのクラスタリングの発生を抑制する作用も有する。この作用によって、Erの含有量が多くてもErの濃度消光を抑えることができ、これによっても波長1.55μmの光の生成量を増加させることができる。コア部のYb含有量は、YbとErとの質量比Yb/Erで、好ましくは4以上50以下の範囲、より好ましくは4以上40以下の範囲、特に好ましくは4以上20以下の範囲である。Yb含有量を上記の範囲とすることによって、波長1.55μmの光の生成を確実に増加させることができる。
【0025】
Pは、Erの周囲に配位して、Er同士の距離を長くすることによって、Erのクラスタリングの発生を抑制する作用を有する。この作用によって、Erの含有量が多くてもErの濃度消光を抑えることができ、これによって波長1.55μmの光の生成量を増加させることができる。また、Pは、Erの励起状態吸収(ESA)や励起したErからYbへのエネルギーの逆移動を抑制する作用も有する。
コア部のP含有量は、PとErとの質量比P/Erで、好ましくは18以上360以下の範囲である。P含有量が上記の範囲にあることによって、Erのクラスタリングの発生を確実に抑制することができる。
【0026】
Geは、後述の実施例で示すように、Pに起因する放射線の照射による欠陥吸収の生成を抑制して、耐放射線性を向上させる作用を有する。
本発明の発明者は、Pを含む希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させるために、コア部に種々の元素を添加した。そして、その結果、意外にも従来は耐放射線性の観点から使用が避けられていたGeを添加することによって、Pに起因する放射線の照射による欠陥吸収の生成が抑制され、希土類元素光ファイバの耐放射線性が向上することを見出した。
【0027】
コア部のGe含有量は、好ましくは0.5質量%以上12.0質量%以下の範囲である。Ge含有量の下限値は、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.3質量%以上、特に好ましくは3.2質量%以上である。Ge含有量の上限値は、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは9.0質量%以下、特に好ましくは8.6質量%以下、さらにより好ましくは6.0質量%以下、最も好ましくは5.0質量%以下である。Ge含有量が少なくなりすぎると、耐放射線性を十分に向上させることが難しくなるおそれがある。一方、Ge含有量が多くなりすぎても、耐放射線性の向上効果は飽和し、またNA(開口数)が大きくなりすぎるおそれがある。
【0028】
Ceは、上記のGeと共に耐放射線性を向上させる作用を有する。
コア部のCe含有量は、好ましくは0.12質量%以下であり、特に好ましくは0.08質量%以上0.12質量%以下の範囲である。Ceの含有量を上記の範囲とすることによって、耐放射線性をより確実に向上させることが可能となる。
【0029】
Alは、上記のPと共に、Erの周囲に配位して、Er同士の距離を長くすることによって、Erのクラスタリングの発生を抑制する作用を有する。また、Alは、増幅利得を平準化させる作用やPと共添加することでコア部のNAを低減させる効果がある。
コア部のAl含有量は、AlとPとの質量比Al/Pで、好ましくは1.0未満である。Alの含有量が多くなりすぎると、放射線の照射によってAlに起因する欠陥吸収が生成し易くなり、耐放射線性が低下するおそれがあるが、上記の範囲とすることによって、Alに起因する放射線の照射による欠陥吸収の生成を抑制しつつ、Erのクラスタリングの発生をより抑制でき、さらにコア部のNAを低減させることができる。
【0030】
Bは、耐放射線性を劣化させずに、コアのNAを低減させる作用を有する。コアのNAを低減させる観点では、BはAlの代替となり得るため、Bを添加することによって、Alの添加量を減らすことができる。
コア部のBの含有量は、好ましくは0.6質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以上0.6質量%以下の範囲である。Bの含有量が多くなりすぎると、MCVD法により希土類元素添加光ファイバ母材(プリフォーム)を製造する場合は、Bと希土類元素の両方を高濃度に添加することが難しく、相対的に希土類元素の含有量が低下することにより、希土類元素の添加効果が低減するおそれがある。また、Bの含有量が多くなりすぎると、希土類元素添加光ファイバの製造時において、希土類元素添加光ファイバ母材のコア部分とクラッド部分の線膨張係数の差が大きくなり、プリフォームが割れてしまう可能性がある。また、Bの含有量が0.1質量%未満であると、Bの添加によってコアのNAを低減させる効果が小さくなるおそれがある。
【0031】
本実施形態の希土類元素添加光ファイバにおいて、クラッド部は、コア部よりも屈折率が低いものであれば、その材料には特に制限はない。クラッド部の材料としては、例えば、シリカ(石英ガラス)を使用することができる。
【0032】
本実施形態の光ファイバは、特に限定されないが、クラッド部の直径が50μm以上400μm以下の範囲であってもよい。コア部の直径は、特に限定されないが、3μm以上110μm以下の範囲であってもよい。
【0033】
次に、本実施形態の希土類元素添加光ファイバの製造方法について説明する。
本実施形態の希土類元素添加光ファイバは、例えば、コア部と、このコア部の周囲を覆うクラッド部とを有する希土類元素添加光ファイバ母材(プリフォーム)を作製する母材作製工程と、希土類元素添加光ファイバ母材を線引きして希土類元素添加光ファイバを製造する線引き工程とを有する方法によって製造することができる。
【0034】
(母材作製工程)
母材作製工程では、Er、Yb、P及びGeを含み、さらに必要に応じてCe、Al、Bを含むシリカ組成物を備えるコア形成部と、そのコア形成部の周囲を覆うクラッド形成部とを有する希土類元素添加光ファイバ母材を作製する。希土類元素添加光ファイバ母材の作製方法としては、MCVD法(Modified Chemical Vapor Deposition Method)を用いることができる。具体的には、石英管に、シリカ源(例えば、SiCl4)、Er源(例えば、Er(DPM)3)、Yb源(例えば、Yb(DPM)3)、P源(例えば、POCl3)、Ge源(例えば、GeCl4)、Ce源(例えば、Ce(DPM)4)、Al源(例えば、AlCl3)、B源(例えば、BCl3)及び酸素を含む原料ガスを供給しながら、石英管を酸水素バーナにより加熱する。このとき、原料ガスの種類や組成を調整することによって、コア部に含有されるEr、Yb、P、Ce、Al、Bの量を調整することができる。こうしてEr、Yb、P、Ce、Al、Bを含むガラス組成物粒子からなるスートを石英管に堆積させる。次いで、石英管を酸水素バーナにより加熱して、スートを透明のガラス層とする。そして最後に、原料ガスの供給を止めて、石英管を酸水素バーナにより加熱して、石英管を軟化させて、中空部を潰す。これにより、Er、Yb、P、Ge、Ce、Al、Bを含むシリカ組成物を備えるコア形成部と、そのコア形成部の周囲を覆うクラッド形成部とを有する希土類元素添加光ファイバ母材が得られる。
【0035】
なお、希土類元素添加光ファイバ母材作製方法としては、上記のMCVD法以外に光ファイバ母材の作製方法として一般に用いられている各種の方法、例えば、OVD法(Outside Vaper Deposition Method)、VAD法(Vapor phase Axial Deposition Method)などを利用することができる。
【0036】
(線引き工程)
線引き工程では、上記の母材作製工程で作製した希土類元素添加光ファイバ母材を加熱して溶融させ、溶融した希土類元素添加光ファイバ母材を糸状に引き伸ばして、冷却する。希土類元素添加光ファイバ母材を糸状に引き伸ばす方法としては、光ファイバの製造で一般に用いられている各種の方法を利用することができる。
【0037】
得られた希土類元素添加光ファイバは、クラッド部の外周を保護樹脂で被覆して使用することができる。クラッド部の外周を保護樹脂で被覆する方法としては、光ファイバの製造で一般に用いられている各種の方法を利用することができる。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態である希土類元素添加光ファイバによれば、コア部が、Er、Yb、P及びGeを含むので、Erの含有量を多くしても、Erのクラスタリングが発生しにくく、かつ耐放射線性が高く、放射線が存在する環境で使用しても利得が低減しにくい。
【0039】
本実施形態の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法は、コア部と、このコア部の周囲を覆うクラッド部とを有し、コア部が、Er、Yb及びPを含む希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法である。本実施形態では、このコア部にGeを添加する。コア部には、さらに必要に応じて、Ce、Al、Bを添加してもよい。
【0040】
本実施形態の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法は、具体的には、希土類元素添加光ファイバの母材作製時に、コア形成部にGeを含有させる方法である。本実施形態の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法を利用して得られる光ファイバのコア部に含まれるEr、Yb、P、Ce、Al、Bの量は、上述のとおりである。
【0041】
本実施形態の希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる方法によれば、コア部が、Er、Yb及びPを含む光ファイバのコア部にGeを添加するので、Pに起因する放射線の照射による欠陥吸収の生成を抑制することができ、これによって、希土類元素添加光ファイバの耐放射線性が向上する。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の作用効果を、実施例により説明する。
【0043】
[実施例1]
(希土類元素添加光ファイバ母材の作製)
MCVD法により、コア部が、Er含有量が0.12質量%、Yb含有量が0.69質量%、P含有量が9.95質量%、Ge含有量が4.0質量%のシリカ組成物からなり、クラッド部がシリカガラスである希土類元素添加光ファイバ母材(直径:13mm)を作製した。
【0044】
(光ファイバの作製)
上記の希土類元素添加光ファイバ母材を、線引きして希土類元素添加光ファイバを作製した。作製した希土類元素添加光ファイバは、クラッド部の直径が125μmであり、コア部の直径が35μmのマルチモード型光ファイバ(MMF)であった。
【0045】
[実施例2~23、比較例1]
(希土類元素添加光ファイバ母材の作製)
コア部の組成を、下記の表1、2に記載の組成としたこと以外は実施例1と同様にして、希土類元素添加光ファイバ母材を作製した。なお、表1、2には、コア部の組成として、Er含有量%、Yb含有量、P含有量、Ge含有量、Ce含有量、Al含有量、B含有量、Yb/Er質量比、P/Er質量比、Al/Er質量比を示した。
【0046】
(希土類元素添加光ファイバ母材の作製)
実施例6、8、10、11、12、13、18、19、21、22、23及び比較例1では、得られた希土類元素添加光ファイバ母材を用いて、下記の表1、2に示す構造の希土類元素添加光ファイバを製造した。実施例6と実施例21と実施例22、及び実施例10と実施例23は同じ希土類元素添加光ファイバ母材を用いて希土類元素添加光ファイバを製造した。なお、表1、2において、MMFは、マルチモード型光ファイバを、SMFは、シングルモード型光ファイバを、DCFは、ダブルクラッド型光ファイバを、2LP-DCFは、LP01モードとLP11モードの2LPモードで伝搬するダブルクラッド型光ファイバを意味する。
SMF、DCF、2LP-DCFは、希土類元素添加光ファイバ母材の外周部に、シリカガラス(クラッドガラス)をジャケット法(ロッドインチューブ法とも呼ばれる)により追加した後、コア径が表1、2に示す値で、かつクラッド部の直径が125μmとなるように線引きして作製した。
【0047】
得られた希土類元素添加光ファイバは、第1樹脂層で被覆し、次いで第1樹脂層を第2樹脂層で被覆した。第2樹脂層は、外径が250μmとなるように被覆した。なお、MMF及びSMFでは、希土類元素添加光ファイバ側の第1樹脂層の材料として、シリカガラス(クラッド部)よりも高屈折率な樹脂を用いた。DCF及び2LP-DCFでは、第1樹脂層の材料としてシリカガラスよりも低屈折率な樹脂を用い、第2樹脂層の材料として、シリカガラス(クラッド部)よりも高屈折率な樹脂を用いた。
【0048】
[評価]
希土類元素添加光ファイバ母材を用いて、添加元素の濃度分布と耐X線特性とを測定した。また、希土類元素添加光ファイバを用いて、耐γ線特性を測定した。測定方法を以下に示す。
【0049】
(希土類元素添加光ファイバ母材の添加元素の濃度分布)
希土類元素添加光ファイバ母材を径方向に切断した。得られた切断片の切断面の中心線に沿って、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)を用いて、添加元素の濃度を線分析した。EPMAの測定条件を次に示す。
<EPMAの測定条件>
加速電圧:15.0kV
照射電流:1.17×10-7A
ビーム形状:circle
プローブ径:50μm
測定点数:200
スキャン幅:1cm
計測時間:2 sec
【0050】
実施例1~20で作製した希土類元素添加光ファイバ母材について得られた結果を、順に
図1~20に示す。
図1~20において、横軸は、母材中心からの測定位置を示し、「0」は、母材のコア部の中心を示す。縦軸は、母材に含まれる各添加元素の濃度を表す。この
図1~20から算出される実施例1~20の各添加元素の平均濃度は、表1に記載されている実施例1~20のコア部の添加元素量と一致することが確認された。
【0051】
(耐X線性)
希土類元素添加光ファイバ母材を径方向に切断した。得られた切断片について、切断面のコア部の光の吸収係数を下記の条件で測定した。
<光の吸収係数の測定条件>
波長範囲:200~1600nm
分解能:0.5nm
【0052】
次いで、切断片の切断面のコア部に、波長が0.71Å(Mo)のX線を、17.5keVの出力で100分間照射した。X線照射後の切断片について、切断面のコア部の光の吸収係数を再測定した。そして、X線照射後のコア部の光の吸収係数からX線照射前のコア部の光の吸収係数を減じた値を、吸収係数増加量として算出した。なお、比較例1で作製した希土類元素添加光ファイバ母材は、X線照射後のコア部が赤紫色に着色し、光の吸収係数が大幅に増加したことが明らかであったため、光の吸収係数の再測定は実施しなかった。
【0053】
実施例1~10で作製した希土類元素添加光ファイバ母材について得られた結果を
図21に、実施例1~10で作製した希土類元素添加光ファイバ母材について得られた結果を
図22に示す。波長240nm、400nm、510nm、570nmの光の吸収は、P-OHC(リン酸素正孔中心)による誘起欠陥吸収である。
図21及び
図22の結果から、X線照射後の希土類元素添加光ファイバのコア部は、P-OHCによる光の吸収が増加することが分かる。表1及び表2に、耐X線性として、波長550nmの光の吸収係数増加量を示す。
【0054】
(耐γ線性)
実施例1、6、8、10、11、12、13、18、19、21、22、23及び比較例1で作製した希土類元素添加光ファイバについて、横軸を光の波長とし、縦軸を光の吸収損失とした光の損失スペクトルを下記の方法で測定した。
<光の損失スペクトルの測定方法>
損失スペクトルはカットバック法により測定した。条長L0[m]の被測定ファイバに白色光を入射し、光スペクトラムアナライザを用いて透過光スペクトルを測定した。このときの光パワーをP0[dBm]とした。次いで、被測定ファイバの条長をL1[m]にカットバックし、カットバック後の被測定ファイバの透過光スペクトルを測定した。このときの光パワーをP1[dBm]とした。L0は約10m、L1は約2mとした。吸収損失[dB/m]は、(P1-P0)/ (L0-L1)により求めた。
【0055】
次いで、希土類元素添加光ファイバに、コバルト60のγ線照射装置を用いて、γ線を1000Gy(静止軌道に10年間静置した場合に相当)照射した。γ線照射後の希土類元素添加光ファイバについて、光の損失スペクトルを再測定した。そして、γ線照射後の希土類元素添加光ファイバの光の損失スペクトルからγ線照射前の光の損失スペクトルを減じた値を、吸収損失の増加量として算出した。光の損失スペクトルの波長(nm)を光子エネルギー量(eV)に換算して、横軸を光子エネルギー量(eV)とし、縦軸に吸収損失の増加量をプロットしたグラフを作成し、このプロットしたデータを用いて、ガウシアンフィッティングを行って近似曲線を得た。ガウシアンフィッティングは、下記の文献に記載されているパラメータを用いて行った。
「D. L. Griscom, E. J. Friebele, K. J. Long and J. W. Fleming, “Fundamental defect centers in glass: Electron spin resonance and optical absorption studies of irradiated phosphorus-doped silica glass and optical fibers,” Jounal of Applied Physics, vol. 54, no. 7, pp. 3743-3762, 1983.」
【0056】
実施例1、6、8、10及び比較例1で作製した希土類元素添加光ファイバについて得られた結果を
図23に、実施例11、12、13、18、19、21、22、23及び比較例1で作製した希土類元素添加光ファイバについて得られた結果を
図24に示す。波長1570nmの光の吸収は、リン(P1)による誘起欠陥吸収である。
図23及び
図24の結果から、γ線照射後の希土類元素添加光ファイバは、P1による光の吸収が増加することが分かる。表1及び表2に、耐γ線性として、波長1570nmの光の吸収損失増加量を示す。
【0057】
【0058】
【0059】
コア部にGeが添加されていない比較例1においては、X線照射後の光の吸収係数及びγ線照射後の光の吸収損失が大きくなった。これは、放射線の照射によって、POHC及びP1による誘起欠陥吸収が大きくなったためであると考えられる。
【0060】
これに対してコア部にGeが添加されている実施例1~23においては、X線照射後の光の吸収係数及びγ線照射後の光の吸収損失が小さくなった。すなわち実施例1~23の結果から、希土類元素添加光ファイバでは、Geの添加によって耐放射線性が向上することが確認された。また、実施例7、8の結果からGeと共にCeを添加することによって、さらに耐放射線性が向上することが確認された。さらに、実施例9、10、11~20、23の結果から、Geは、PとAlを含む希土類元素添加光ファイバに対しても有効であることが確認された。
【0061】
図25に、希土類元素添加光ファイバのコア部のGe添加濃度と耐X線特性と耐γ線特性の関係を示す。
図25の横軸はコア部のGe添加濃度を示し、左縦軸のRIA of P-OHC(X-ray)(550nm)はX線照射後の波長550nmの光の吸収係数増加量を示し、右縦軸のRIA of P1(Gannma-ray)(1570nm)はγ線照射後の波長1570nmの光の吸収損失増加量を示す。また、白丸及び黒丸のP-Geは、Yb及びErとPとGeを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバの測定結果を、白三角及び黒三角のP-Ge-Ceは、Yb及びErとPとGeとCeを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバの測定結果を、白四角及び黒四角のP-Ge-Alは、Yb及びErとPとGeとAlを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバの測定結果を、白菱形及び黒菱形のP-Ge-Al-Bは、Yb及びErとPとGeとAlとBを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバの測定結果を示す。そして、白丸、白三角、白四角及び白菱形は、X線照射後の波長550nmの光の吸収係数増加量を示し、黒丸、黒三角、黒四角及び黒菱形は、γ線照射後の波長1570nmの光の吸収損失増加量を示す。
【0062】
図25のグラフから次のことが分かる。
(1)Yb及びErとPとGeを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバ(白丸及び黒丸)の測定結果から、Geの添加濃度に比例して、耐X線特性と耐γ線特性とが向上する。
(2)上記(1)の効果は、Geの添加濃度が高くなると飽和する傾向にある。
(3)Yb及びErとPとGeとCeを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバ(白三角及び黒三角)の測定結果から、Geの添加濃度が同じであっても、Ceを共添加することによって、耐X線特性と耐γ線特性とが向上する。
(4)Yb及びErとPとGeとAlを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバ(白四角及び黒四角)の測定結果から、Al/Pが1.0未満となる範囲でAlを共添加した希土類元素添加光ファイバは、Yb及びErとPとGeを含む希土類元素添加光ファイバ(白丸及び黒丸)と同等の耐X線特性と耐γ線特性を示す。
(5)Yb及びErとPとGeとAlとBを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバ(白菱形及び黒菱形)の測定結果から、Bを共添加してAlの濃度を低下した希土類元素添加光ファイバは、Yb及びErとPとGeを含む希土類元素添加光ファイバ母材及び光ファイバ(白丸及び黒丸)と同等の耐X線特性と耐γ線特性を示す。
【0063】
以上の結果から、本発明によれば、コア部に希土類元素とPとを含みながらも耐放射線性が高く、放射線が存在する環境で使用しても利得が低減しにくい新規な希土類元素添加光ファイバを提供できることが確認された。また、本発明によれば、コア部に希土類元素とPとを含む希土類元素添加光ファイバの耐放射線性を向上させる新規な方法を提供できることが確認された。