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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】眼測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018181159
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020048857
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100107010
【弁理士】
【氏名又は名称】橋爪 健
(72)【発明者】
【氏名】三橋 俊文
(72)【発明者】
【氏名】広原 陽子
(72)【発明者】
【氏名】森嶋 俊一
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531276(JP,A)
【文献】特開2017-093992(JP,A)
【文献】米国特許第06692126(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼測定装置であって、
測定光を出力する光源を有し、測定光を予め定められた角度又は形状で走査し、被検眼の角膜断面又は前眼部断面又は眼のその他の断面の断層についての検出信号を求める断層画像測定部と、
前眼部画像データを測定する前眼部観察系と、
前記断層画像測定部による検出信号から求められた断層画像データ及び前記前眼部観察系により測定された前眼部画像データに基づき、眼の内部のひとつ又は複数の面の面形状を求める演算制御ユニットと、
を備え、
前記演算制御ユニットは、
光線始点と光線ベクトルによる各入射光線ベクトルを設定し、設定した各入射光線ベクトルの角膜前面入射位置を、前記前眼部観察系により測定された前眼部画像データを用いて求め、
前記各入射光線ベクトルが前記角膜前面入射位置から眼の内部へ向かう各出射光線ベクトル方向に、前記断層画像測定部による検出信号から求められた断層画像データから、予め定められた眼の内部のひとつ又は複数の面までの光路長を得て、光路長から物理距離を求めることで、予め定められたひとつ又は複数の面について前記面形状を求め、
それぞれの前記面形状の情報を、面の識別情報及び対象者情報及び装置情報及び日時のうちひとつ又は複数の情報とともに記憶部に記憶する、
眼測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼測定装置において、
前記演算制御ユニット又は他の演算ユニットは、前記断層画像測定部により、眼の中心又は中心近傍の周り予め定められた角度毎にラジアル走査して眼の断層画像情報を測定し、測定した断層画像情報から眼全体の断層画像データを作成し、作成した断層画像データを記憶部に記憶することを特徴とする眼測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された眼測定装置において、
前記演算制御ユニットは、
line of sight に垂直な面で、対象物にテレセントリックな光線の光線始点及び光線ベクトルを複数設定し、
前記眼測定装置と対象物との相対的位置に従い、設定した複数の光線の光線始点及び光線ベクトルを座標変換し、
前記前眼部観察系により予め測定された前眼部画像データを参照して、各光線ベクトルの角膜前面入射位置を求め、
各光線ベクトルについての角膜前面から眼の内部へ向けた出射光線ベクトルを、予め定められた眼の内部の屈折率により求め、
前記断層画像測定部により予め作成された断層画像データを参照して、各々の前記光線ベクトルの入射位置から角膜と予め定められた面の光路長を求め、前記屈折率により光路長を物理距離に変換して、各々の前記出射光線ベクトル上の位置を求め、
複数の前記位置に基づき前記面の面形状を求め、記憶部に記憶及び/又は表示部に表示する、
ことを特徴とする眼測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された眼測定装置において、
前記断層画像測定部は、OCT測定部を備え、断層画像データとしてOCTデータを求めることを特徴とする眼測定装置。
【請求項5】
断層画像測定部により、測定光を出力する光源を有し、測定光を予め定められた角度又は形状で走査し、被検眼の角膜断面又は前眼部断面又は眼のその他の断面についての検出信号を求め、
前眼部観察系により、前眼部画像データを測定し、
演算制御ユニットにより、前記断層画像測定部による検出信号から求められた断層画像データ及び前記前眼部観察系により測定された前眼部画像データに基づき、眼の内部のひとつ又は複数の面の面形状を求める、
眼測定方法であって、
前記演算制御ユニットにより、
光線始点と光線ベクトルによる各入射光線ベクトルを設定し、設定した各入射光線ベクトルの角膜前面入射位置を、前記前眼部観察系により測定された前眼部画像データを用いて求め、
前記各入射光線ベクトルが前記角膜前面入射位置から眼の内部へ向かう各出射光線ベクトル方向に、前記断層画像測定部による検出信号から求められた断層画像データから、予め定められた眼の内部のひとつ又は複数の面までの光路長を得て、光路長から物理距離を求めることで、予め定められたひとつ又は複数の面について前記面形状を求め、
それぞれの前記面形状の情報を、面の識別情報及び対象者情報及び装置情報及び日時のうちひとつ又は複数の情報とともに記憶部に記憶する、
ことを特徴とする眼測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼測定装置及び方法に係り、特に、OCT(光干渉断層画像診断法、光干渉断層像:Optical Coherence Tomography)等の断層画像測定による眼の内部の各面の形状を測定するための眼測定装置及び方法に関する。ここで、眼の内部の各面とは、例えば、角膜前面、ボーマン膜(ボーマン層、Bowman layer)、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面、網膜等を含むが、これに限らず適宜の面を含むことができる。また、眼の内部の各面には、さらに詳細に、角膜については、例えば、角膜上皮、ボーマン膜、固有層、デュア層、デスメ層、角膜内皮等を含み、水晶体については、核との境界、水晶体上皮、水晶体皮質、後水晶体包、前水晶体包、水晶体赤道の境界・面等を含み、網膜については、網膜内の各層とRPEや脈絡膜とRPE・強膜との境界面等、さらに非生理的な、手術で発生した境界面等を含むことができる。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば、特許文献1には、OCT装置が開示され、「OCT装置は、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、測定光を被測定物体に照射し、被測定物体からの測定光の戻り光と参照光との干渉光を検出する。OCT装置は、分散部と、情報生成部とを含む。分散部は、測定光の光路である測定光路の分散特性と参照光の光路である参照光路の分散特性とを深さレンジに対応した動作モードに応じて相対的に変更する。情報生成部は、干渉光の検出結果に基づいて、動作モードに応じた被測定物体の情報を生成する。」(要約)ようにしたものが記載されている。
特許文献2には、眼科装置が開示され、「被検眼Eの眼屈折力を測定するため眼屈折力視標を投影する眼屈折力測定視標光学系を有する。さらに、被検眼Eを固視・雲霧される固視標投影光学系、被検眼Eを観察する観察光学系、受光光学系、被検眼Eの角膜形状を測定するための角膜形状視標を投影するためのリング板及び赤外LED、対物レンズを通して角膜中心部に投影するリング板及び赤外LED84、アライメント視標投影光学系70を有する。」(要約参照)ことが記載されている。

また、特許文献3には、「被検眼に投射される測定光を2次元的に偏向可能な光偏向器と、前記被検眼からの前記測定光の戻り光を参照光と干渉させる干渉計と、前記干渉計により生成された干渉光を検出する検出器とを含み、角膜の少なくとも一部を含む前記被検眼の3次元領域のデータを収集するデータ収集部と、 前記データ収集部により収集された前記データを処理することにより、前記角膜内皮の
状態を表す評価値を算出する演算制御ユニット200と を備える角膜検査装置。」(請求項1)が開示されている。
特許文献4には、「被検眼の固有情報を測定する測定手段と、被検眼の基準位置を検出する検出手段と、前記測定手段と前記検出手段とを含む光学部を駆動する駆動手段と、前記各手段を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、被検眼の前記基準位置と前記測定手段との位置合わせの測定許容領域を複数の領域に分割し、被検眼の前記基準位置が前記複数の領域の内のどの領域に存在するかによって前記測定手段と前記駆動手段の少なくとも一方の制御方法を変えることを特徴とする眼科装置」(請求項1)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-47099号公報
【文献】特開2002-518982号公報
【文献】特開2017-93992号公報
【文献】特開2010-162424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に普及しているOCTは、照射光、受光光ともに、同じシングルモードファイバー端を出射部及び受光部とし、走査型の光学系として構成されている。測定の対象物(眼)の3次元情報は、フーリエドメインOCTでは深度方向についてほぼ一瞬(波長掃引光源 (Swept Source: SS)の場合、波長走査の時間(例えば10μs)で測定ができ、その測定に用いる光ビームを2次元にメカニカル走査することで得ることができる。
しかしながら、OCT等のように走査を伴う測定方法では、例えば眼の移動や回転又は装置の移動や回転等により測定装置と対象物の間にアライメントの変化があると、眼の絶対形状は正しく測定できない場合が想定される。

本発明は、以上の点に鑑み、対象物(眼)が動いたり回転しても対象物(眼)の各面の形状を測定できるようにした眼測定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の解決手段によると、
眼測定装置であって、
測定光を出力する光源を有し、測定光を予め定められた角度又は形状で走査し、被検眼の角膜断面又は前眼部断面又は眼のその他の断面の断層についての検出信号を求める断層画像測定部と、
前眼部画像データを測定する前眼部観察系と、
前記断層画像測定部による検出信号から求められた断層画像データ及び前記前眼部観察系により測定された前眼部画像データに基づき、眼の内部のひとつ又は複数の面の面形状を求める演算制御ユニットと、
を備え、
前記演算制御ユニットは、
光線始点と光線ベクトルによる各入射光線ベクトルを設定し、設定した各入射光線ベクトルの角膜前面入射位置を、前記前眼部観察系により測定された前眼部画像データを用いて求め、
前記各入射光線ベクトルが前記角膜前面入射位置から眼の内部へ向かう各出射光線ベクトル方向に、前記断層画像測定部による検出信号から求められた断層画像データから、予め定められた眼の内部のひとつ又は複数の面までの光路長を得て、光路長から物理距離を求めることで、前記面形状を求め、
求めた前記面形状の情報を記憶部に記憶する及び/又は表示部に表示させる、
眼測定装置が提供される。
【0006】
本発明の第2の解決手段によると、
眼測定方法であって、
断層画像測定部により、測定光を出力する光源を有し、測定光を予め定められた角度又は形状で走査し、被検眼の角膜断面又は前眼部断面又は眼のその他の断面についての検出信号を求め、
前眼部観察系により、前眼部画像データを測定し、
前記演算制御ユニットにより、
光線始点と光線ベクトルによる各入射光線ベクトルを設定し、設定した各入射光線ベクトルの角膜前面入射位置を、前記前眼部観察系により測定された前眼部画像データを用いて求め、
前記各入射光線ベクトルが前記角膜前面入射位置から眼の内部へ向かう各出射光線ベクトル方向に、前記断層画像測定部による検出信号から求められた断層画像データから、予め定められた眼の内部のひとつ又は複数の面までの光路長を得て、光路長から物理距離を求めることで、前記面形状を求め、
求めた前記面形状の情報を記憶部に記憶する及び/又は表示部に表示させる、
ことを特徴とする眼測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、対象物(眼)が動いたり回転しても対象物(眼)の各面の形状を測定できるようにした眼測定装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】2つの座標系の相対位置測定についての説明図。
図2】OCT走査と前眼部計測の説明図。
図3】ビデオケラト測定の説明図。
図4】各面の計算のフローチャートを示す。
図5】装置座標での光線ベクトルと起点についての説明図。
図6】初期の座標関係の決定についての説明図。
図7】眼測定装置の構成図。
図8】OCT測定処理について説明図。
図9】ボーマン膜を求める処理についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1. 概要

本実施の形態において、OCT測定で、いわゆるa-mode(A-モード)測定中は深度方向はほぼ一瞬で測定できアライメントの影響は無いとし、また眼の形状も変化しないと仮定する。角膜形状は、例えばプラチドリング、ビデオケラトメトリ等で正確に測定でき、これら仮定により測定中に変化しない。角膜形状は、通常、眼の特徴と関連付けられた座標系(以下、「対象物座標系」と呼ぶ。)で表される。測定装置にも容易に座標系(以下、「装置座標系」と呼ぶ。)を定義することができるので、これら2つの座標系の関係が分かれば、走査中のビームが角膜のどこに入射しているかを知ることができる。なお、以下「測定装置」を単に「装置」と呼ぶ場合がある。
新たな仮定として、角膜などの屈折率は分かっているものとする。照射光の対象物(眼)への入射位置での角膜形状も分かっているので、測定ビームの角膜前面による屈折後の方向ベクトルがスネルの法則により得られる。また、OCTの干渉信号の解析により、角膜前面から次の面(典型的にはボーマン膜)までの光路長を知ることができるので、これを仮定している屈折率で割ることにより計算している光線とボーマン膜の交点をもとめることができる。よって、眼の内部の面(例えばボーマン膜)の位置情報が得られる。眼の内部の各面の位置情報を複数又は大量に得ることで、この境界の形状が得られる。そうすると、再度スネルの法則を使って、今求まった境界面からの光線の出射ベクトルを求めることができ、再度各光線の干渉情報から、眼の内部の他の様々な面、例えば、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面、網膜等の各面の面形状を、上述のそれぞれの面に対して実行することで知ることができる。
【0010】
2. 2つの座標系の相対位置測定

図1に、2つの座標系の相対位置測定についての説明図を示す。
2つの座標系(対象物座標系及び装置座標系)の相対位置は、前眼部観察からXY方向の情報が得られ、光てこ、あるいは角膜前面の無限遠と有限距離の光源からの光束に対する反射光の情報、あるいはOCT測定により装置から前眼部までの距離情報からZ方向の情報が得られ、また予め既知の角膜形状をこれらの時系列的に得られる情報とともに使うこともできる。
次に、時系列データ、つまり測定用のビームの情報であるが、本発明のためには,対象物(眼の)座標系と装置座標系とはそれぞれに関する相対的な情報が分かれば良いので、装置と眼球がともに動いたり回転したりする必要はない。例えば、眼球を動かないとして考えると簡単である。相対位置関係が前に節明する方法で分かったら、その変化は装置のみが動いたり回転したりすることにより生じたとする(実際には装置と眼球がともに独立に動いているであろう)。
以下に詳述するように、装置から出射される光線の光線ベクトルの始点及び方向を設定することになる。この情報に加えて、OCTの測定するところの多数の光線からの光路長情報から各面の形状が再現できる。
【0011】
3.眼測定装置

図7に、測定装置の構成図を示す。以下に、各部について説明する。

本実施の形態の眼測定装置は、測定系1000と電気系2000とを備える。測定系1000は、固視標投影光学系1、ケラト照明部2、前眼部観察系3、OCT部4、アライメント系5-1,5-2を有する。電気系2000は、演算制御ユニット200、アライメント制御部300、入力部600、表示部700、記憶部800を備える。なお、表示部700が無い場合や、インタフェースを有し、他の装置への転送機能、メモリー機能を有する場合もある。
以下、各部について説明する。
【0012】
固視標投影光学系1: 固視標投影光学系1は、被検眼を固視させるために、被検眼の眼底に固視標の指標光を投影する。指標光は、M2で反射し、M1、L1を透過して被検眼へ投影する。

ケラト照明部2:
ケラト照明部2は、ケラト板を照明する。ケラト照明部2は、被検眼上Φ3付近にリングを形成するように、リングパターンがあるケラト板やプラチドリング等及び近赤外光(不可視光)のLED等の照明部を備える。LED等の照明部から射出された光はリングパターンを透過し、被検眼を照明する。

前眼部観察系3:
前眼部観察系3は、被検眼の前眼部を観察するためのものであり、前眼部を撮像素子等で撮影して得られた観察像の画像データを演算制御ユニット200に出力する。

OCT部4:
OCT部4には、例えば、スウェプトソースOCT、スペクトラルドメインOCT等を用いることができ、どちらを用いても良く、また、他にも適宜の構成を用いてもよい。スウェプトソースOCTは時分割でスペクトル分布を取得するOCT手法であり、スペクトラルドメインOCTは空間分割でスペクトル分布を取得するOCT手法である。
スウェプトソースOCTでは、波長可変光源(波長掃引光源)からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光をバランスドフォトダイオード等で検出し、波長の掃引及び測定光のスキャンに応じて収集された検出信号(干渉信号)に演算制御ユニット200でフーリエ変換等を施して画像を形成する。
スペクトラルOCTでは、低コヒーレンス光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル分布を分光器で検出し、検出信号(スペクトル分布)に演算制御ユニット200でフーリエ変換等を施して、さらに光線の走査を組み合わせることで断層等の画像を形成する。

OCT部4は、測定光を出力する光源を有し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、干渉光により得られる被検眼の角膜断面又は前眼部断面についての検出信号を出力する。また、OCT部4は、被検眼に向かって任意方向に測定光の進行方向を変更可能とし且つ被検眼を測定光でスキャンする光スキャナを有し、測定光を光スキャナを経て被検眼に導き、被検眼からの戻り光を検出部に導くための測定光学系を備える。OCT部4は、光スキャナにより定められたラインで被検眼を走査することで、被検眼の検出信号(例、断層画像測定データ)を測定・検出する。このOCT部からの測定光線は、対物レンズでの屈折も考慮して、眼に対して、テレセントリックで走査される様に構成されることもある。

アライメント系5-1,5-2:
アライメント系(ケラト板)5-1、アライメント系(アライメント輝点)5-2は、被検眼に対する測定ヘッドのアライメント状態を検出する各種アライメント指標(ケラトリング像、輝点像)を被検眼に向けて投影する。被検眼の角膜にて反射されたアライメント指標の戻り光が前眼部観察系3により撮影される。アライメント指標の代わりにステレオカメラを用いてもよい(公知技術特許5989523等参照)。
また、アライメント系には、ここで説明した前眼部画像を使用する方法のほかに、角膜反射像(プルキンエ像)を用いる方法、リンバスや瞳孔の境界の光量比を用いる方法等あり、これらを利用することも考えられる。
【0013】
演算制御ユニット200:
演算制御ユニット200は、前眼部観察系3、OCT部4、アライメント系5-1,5-2、入力部600、表示部700、記憶部800等の各部からの信号を入力し、被検眼の光学特性を求める。また、演算制御ユニット200は、演算結果に応じた信号又は他の信号・データを、固視標投影光学系1、ケラト照明部2、前眼部観察系3、OCT部4、アライメント系5-1,5-2、表示部700、記憶部800等の各部にそれぞれ適宜出力し、また、各部を制御する。
演算制御ユニット200は、OCT部4が測定・検出した検出信号に基づき、断層画像を求める。演算制御ユニット200は、各種の演算処理を実行する。例えば、演算制御ユニット200は、一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、検出器125により得られた検出結果に基づくスペクトル分布にフーリエ変換等の信号処理を施すことにより、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することにより画像データを形成する。そのための演算処理は、従来のスウェプトソースOCTと同様である。

演算制御ユニット200は、前眼部観察系3が測定・検出した検出信号に基づき求めた角膜頂点(角膜最高位)等の適宜の位置の水平座標(視軸又は光軸又は他の眼球の参照軸に垂直な平面上の座標)をアライメント制御部300に出力する。アライメント制御部300は、演算制御ユニット200から入力した角膜頂点(角膜最高位)等の適宜の位置の水平座標に合わせるように、光スキャナのアライメントを制御する。光スキャナは、アライメント制御部300の指示に従い、角膜頂点(角膜最高位)等の適宜の位置を中心に被検眼を走査する。なお、光スキャナを制御する代わりにOCT部4を搭載した可動部を備え、可動部を動かして角膜頂点(角膜最高位)を中心に合わせてもよい。

また、演算制御ユニット200は、光スキャナにより被検眼を予め定められたラインで走査して、OCT部4により測定した被検眼の角膜断面又は前眼部断面等の断面についての検出信号により、被検眼の断層画像を形成し、角膜前面の形状を検出して角膜最高位を求めることができる。また、演算制御ユニット200は、光スキャナにより、角膜最高位を中心に予め定められた角度方向のラインで走査して、OCT部4により測定した被検眼の角膜断面又は前眼部断面についての検出信号により、被検眼の断層画像を形成し、角膜前面の形状を検出して角膜最高位を求める処理を実行する。

演算制御ユニット200は、OCT部4の光源・照射方向・角度・位置等の制御、固視標投影系の点灯・消灯の制御、アライメント輝点、アライメント制御部300の制御、アライメント系5-1,5-2のケラト板照明部及びアライメント輝点等のLED等のオンオフ等の各種制御する。
【0014】
アライメント制御部300:
アライメント制御部300は、例えば演算制御ユニット200より指示された制御部610からの信号に基づいて、アライメントを制御・調整する。

入力部600:
入力部600は、表示部700に表示された適宜のボタン、アイコン、位置、領域等を指示するためのポインティングデバイス、各種データを入力するためのキーボード等を備える。

表示部700:
表示部700は、演算制御ユニット200による処理結果を表示する。表示部700は、数値・データの他にも、演算制御ユニット200で求められた断層画像ばかりでなく、複数の断層画像からの境界面のheight mapやpower mapなどを表示することもできる。なお、グレースケールコード又はカラーコードを表示できるようにしてもよい。

記憶部800:
記憶部800は、演算制御ユニット200により、OCTデータ、前眼部画像データ、各面の面形状のデータ等の各種データを記憶する。また、演算制御ユニット200は、これら各種データを記憶部800から読み出す。
【0015】
4. 前処理(OCT走査とビデオケラトのタイミング等)

まず、前処理として、OCTと前眼部の測定は解析前に終わらせる。演算制御ユニット200は、OCT測定で測定された検出信号に基づき演算したOCTの情報(断面像と同等)(OCTデータ)と、前眼部測定で測定された前眼部像の情報(前眼部画像データ)とを記憶部800に記憶する。その際、OCTデータと前眼部画像データと、その撮影時間とを対応付けて測定データとして記憶部800に記憶してもよい。なお、測定データには、装置ID、被験者ID(名前)等適宜のデータを含んでも良い。
【0016】
図2に、OCT測定と前眼部測定の説明図を示す。
また、図8に、OCT測定処理について説明図を示す。
OCT測定時、演算制御ユニット200は、OCT走査、例えばラジアル走査で、図2上図のように、眼の中心(又は中心付近)の周りに予め定められた角度(例えば、15度)毎にずらして走査する。演算制御ユニット200は、ラジアル走査により得られたOCT情報を基に、ラジアル走査間のデータを周知の方法で補完して対象物(眼)の全体のOCTデータを求める。
各ラジアル走査の際に、前眼部観察系3による前眼部測定により測定された前眼部画像を、それぞれ図2下図に示す。
ここでは、一例として、ラジアル走査を用いる例を示したが、これに限らず、、ラリサージュ走査又はスパイラル走査又はラスター走査等の適宜の走査を用いることができる。また、図示の例では、OCT走査と前眼部計測が同時に行われているように示されているが、これらが同時に行われなくてもよい。
OCTと前眼部測定の周期が合わない場合は、前眼部を測定で得られる位置情報を時間的に内挿することが考えられる。また、前眼部画像が数枚しか得られない場合は、もっとも近いときのデータを使うことも考える。
眼球の動きを考える場合、眼球運動には3種類があるが、そのうちサッカード(又は、サッケード)は、もっとも移動距離が大きく、またミリ秒オーダーの速さで移動する。その他の動きは微小でサッカードに比べはるかに遅い。よって、前眼部画像やOCT測定データから、サッカードがあったと判断できる場合は、その測定部分又は測定全体を使用しないこともある。
これら前処理等の一部又は全部は、演算制御ユニット200により処理されることができ、又は、外部に追加される、あるいはネットワークで接続されているコンピュータを含む、演算ユニットで処理されることがある。
【0017】
図3に、ビデオケラト測定の説明図を示す。
一例として、前眼部観察系3により、前眼部画像をビデオケラトで測定する場合を説明する。このとき、演算制御ユニット200は、周知又は公知の方法による眼球運動等の測定を介して、OCT測定とビデオケラト測定のアライメントを、装置に備えられているアライメント制御部300により解析時に合わせる。なお、図2下図又は図3下図のようなビデオケラト撮影時の前眼部画像は、図3上図のようなビデオケラト画像やプラチドリング画像等で代用することもできる。また、ビデオケラト画像は同じ装置で測定される必要はなく、予め専用の装置で測定するのでもよい。
複雑なビデオケラト測定は、例えば、本測定シーケンスの直前に1回だけ行い、上述の前眼部測定は、例えば中心反射やリンバスのエッジディテクション等だけに特化し、高速に行うことが好ましい。なお、上述の例のように、OCT測定と前眼部測定の両者が同期している必要は必ずしもない。
また、OCT装置に対して、ビデオケラトなど角膜形状を測定できる装置で、OCT装置と同様のアライメント機能を有する装置から、角膜形状データとアライメント情報をあわせて、入力部200から入力することで、本発明及び/又は本実施の形態の機能を実現することも可能である。
【0018】
5. 各面の計算のフローチャート

図4に、各面の計算のフローチャートを示す。
前処理の後の各面の計算のフローチャートでは、演算制御ユニット200は、前処理により予め得られた測定データ(OCTデータ及び/又は前眼部画像データ)を記憶部800から読み出して用いれば良く、OCTデータ及び/又は前眼部画像データをフィードバックしてデータを取得することはないので、計算途中での測定は必要ない。なお、演算制御ユニット200は、予め測定した前眼部画像データをつかっても良いし、そのときのOCTデータを使っても良い。
なお、アライメント系の測定及びアライメント設定のための装置は、両方の測定装置に備わっているものとする。

計算フローチャートでは、演算制御ユニット200は、測定したOCTデータ及び/又は前眼部画像データを適宜のタイミングで記憶部800から読み出して、所定の演算処理を実行する。また、演算制御ユニット200は、OCTデータ及び前眼部画像データを表示部700に適宜のタイミングで適宜のレイアウト等により表示することができる。
なお、光線追跡は全ての光線について行われるが、以下のフローチャートでは省略する。
【0019】
以下に、演算制御ユニット200が実行する各ステップについて説明する。
(ステップS1)
図5に、装置座標での光線ベクトルと起点についての説明図を示す。
前処理の後、計算のフローチャートの処理が開始されると、演算制御ユニット200は、初期の光線始点と光線ベクトルを、OCT測定の装置構造及びセッティング等により、図示のように設定する。
ステップS1では、コンピュータによる計算上で、始点を定めて光線ベクトルを定めて発生させる。装置における走査方法はあらかじめ決まっていて、それと、アライメント制御部300による前眼部像などの装置の眼に対するアライメント情報により、計算に必要な初期の光線データを決める。
ここで、一例として、図示のように装置の端面に貼りついたX、Y、Z座標系を定義する(主光線がこの面をきるところが原点)。測定はテレセントリックな光線走査をすると仮定する(そうでなければ実際の走査法に置き換えればよい。)。よって、図のように、光線ベクトルs(0,0,1)の光線が、縦軸(Y軸とする)に等間隔で出るとして初期位置は装置の瞳半径をaとすれば、
(0,a,0), (0,a-Δa,0), (0,a-2Δa,0),・・・・, (0,-a,0)
を光線の初期位置P0y=[P0y,a, P0y,a-Δa, P0y,a-2Δa,・・・・, P0y,-a]とする。
同様に、光線ベクトルs(0,0,1)の光線が、横軸(X軸とする)に等間隔で出るとして初期位置は装置の瞳半径をaとすれば、
(a,0,0), (a-Δa,0,0), (a-2Δa,0,0),・・・・, (-a,0,0)
を光線の初期位置P0x=[P0x,a, P0x,a-Δa, P0x,a-2Δa,・・・・, P0x,-a]
とする。
なお、記号の上に付される”→”は、ベクトルを表す記号であり、この記号は、入力の都合上、文字の右上に記載するが、数式で示すように、文字の真上に記載されたものと同一である。
【0020】
図6に、初期の座標関係の決定についての説明図を示す。
演算制御ユニット200は、測定開始時に固視を点灯させ、被験者がしっかり固視した状態で、装置が備えるカメラなどにより瞳孔中心をもとめ、瞳孔中心と固視を結ぶline of sight(ライン・オブ・サイト、視線)の座標を確定し、そのときのアライメント系による眼の位置、角度計測の結果を記憶部800に記録する。本実施の形態では、line of sightを基準座標として使うので、瞳孔中心と装置から角膜前面までの距離が必要となる。瞳孔中心は前眼部像(前眼部画像データ)から得られる。演算制御ユニット200は、距離を、周知又は公知の典型的な方法で取得することができる。line of sightは固視点をみているときの、瞳孔中心位置と、固視点と眼の距離がわかればよいので、固視点が装置内にあり、装置と眼の距離がわかればよい。角度は、固視点をみるということで制御されているので、特に必要ない。
【0021】
(ステップS2)
演算制御ユニット200は、前眼部測定から光線ベクトルを眼に対する相対的な始点とベクトルに変換する。
装置と眼の相対位置関係は、図1で説明したように動き、演算制御ユニット200は、h演算制御ユニット200は、この相対位置関係を、2つの座標系の相対位置の測定時におけるアライメント系5-1,5-2及び/又はアライメント制御部300(例えば前眼部画像を使うこと等)により測定できる。なお、この測定は、頻繁にとれれば尚よい。この位置関係の変化を並進と回転にわけて、装置座標系で表されていた光線ベクルsと光線の起点Pの眼のline of sight座標による表示は、装置と眼の相対位置関係による座標変換の並進変換行列をT、回転変換行列をRとすると、次式で表わされる。

【数1】
【0022】
(ステップS3)
演算制御ユニット200は、予め測定された前眼部画像データを記憶部800から読み出し、各光線の角膜前面入射位置を、測定された角膜形状(前眼部画像データ)を用いて求める。
例えばビデオケラトスコープで測定された角膜形状(サグ量h(x,y)、x,yはline of sightの角膜との交点を原点とし、line of sightに垂直方向にx,yをとる座標系を使うとする)は、一般に球の方程式とtiltから必要な次数(n)までのZernike多項式で、次式で表される。

【数2】
ここで、
:ゼルニケ多項式の係数
:ゼルニケ多項式
a:評価したい領域の角膜の半径
r:角膜の平均的な半径

上式は高次の方程式であるので、演算制御ユニット200は、これとステップS1で定義された光線との交点を非線形最小二乗法等で求めることができる。
【0023】
(ステップS4)
演算制御ユニット200は、角膜前面から眼の内部へ向けられた出射光線ベクトルを、角膜前面への入射光線ベクトルに基づき、一般の光線追跡であるスネル法則により求める。

(ステップS5)
図9に、ボーマン膜を求める処理についての説明図を示す。なお、ここでは、求める面としてボーマン膜を例に説明する。
演算制御ユニット200は、予め測定されたOCTデータを記憶部800から読み出し、角膜とボーマン膜の光路長を各光線ビームの角膜前面入射位置(図中×印参照)における干渉情報(OCTデータ)より得て(図9(A)参照)、さらに予め定められた屈折率で光路長を物理距離に直し、ボーマン膜と各ビームの交点を求める(図9(B)参照)。なお、OCTデータは、装置から眼までの間は空気中なので、その光路長は距離と等しいとすることができる。
ステップS3とステップS4による、OCTの光路長情報(OCTデータ)が得られている光線の角膜前面からの光線が決まったので、光路長情報(OCTデータ)からボーマン膜の位置を求めるのは光線追跡のtransfer equation(伝達方程式)そのものとすることができる。すなわち、演算制御ユニット200は、表面の角膜前面入射位置から眼の内部へ向けて屈折した光線ベクトル方向に、OCTの干渉情報から光路長(OCTデータ)を得て、それを屈折率で割ることにより物理距離を求めてボーマン膜の位置を求める。
【0024】
(ステップS6)
演算制御ユニット200は、複数又は大量の光線ベクトルによる交点(入射位置情報)から、ボーマン膜の形状を、例えば多項式近似により計算する。
例えば、演算制御ユニット200は、ステップS5で得られたボーマン膜の位置に対してステップS3で使った形状の式をそのまま使ってフィッテイングすればよい。演算制御ユニット200は、求めたボーマン膜の面形状の情報を、面の識別情報と共に記憶部800に記憶する。なお、面形状の情報には、対象者情報、装置情報、日時等の適宜の情報を付加しても良い。

(ステップS7)
演算制御ユニット200は、ステップS4からステップS6を、ボーマン膜、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面、網膜等の予め定められたひとつ又は複数の面について繰り返し実行し、各面の面形状の情報を求め、面の識別情報と共に記憶部800に記憶する。
演算制御ユニット200は、記憶部800から装置の入力部600により面の識別情報等で指示されたひとつ又は複数の面形状データを読み出し、表示部700に表示する。なお、演算制御ユニット200は、デフォルトで定められたひとつ又は複数の面形状データを表示したり、記憶部800に記憶する前又は同時に表示部700に表示しても良い。表示方法は、レイアウト、種類など適宜とすることができる。
【0025】
6.付記

前眼部OCTの光学系の構成については、周知又は公知の適宜のOCT測定部・装置を用いることができる。なお、以上の説明では、主にOCT測定を用いる場合について説明したが、OCT測定部・装置以外にも、例えば、光切断法や他の方法による断層画像測定部・装置を使用して被検眼の角膜断面又は前眼部断面等の断層画像を得るようにしてもよい。この場合、例えば、OCT部4等を、使用する各装置・方法に従い測定ユニット及び測定光学系等にそれぞれ変更すれば良い。

本発明の眼測定方法又は眼測定装置・システムは、その各手順をコンピュータに実行させるための眼測定プログラム、眼測定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、眼測定プログラムを含みコンピュータの内部記憶部にロード可能なプログラム製品、そのプログラムを含むサーバ等のコンピュータ、等により提供されることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 固視標投影光学系
2 ケラト照明部
3 前眼部観察系
4 OCT部
5-1,5-2 アライメント系
200 演算制御ユニット
300 アライメント制御部
600 入力部
700 表示部
800 記憶部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9