(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】電気音響変換器及び電気音響変換装置
(51)【国際特許分類】
H04R 19/02 20060101AFI20220930BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20220930BHJP
H04R 7/24 20060101ALI20220930BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
H04R19/02
H04R7/04
H04R7/24
H04R1/10 104Z
(21)【出願番号】P 2018235314
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】入井 広一
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0035212(US,A1)
【文献】特表2019-509678(JP,A)
【文献】国際公開第2017/161667(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0177211(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/02
H04R 7/04
H04R 7/24
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を音に変換する電気音響変換器であって、
音を外部に放出する放音部を有する筐体と、
前記筐体に固定された固定極と、
前記固定極に対向して設けられており、前記電気信号に基づいて前記固定極との間に生じた電位差に応じて振動するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムの一部の領域を前記固定極に向けて支持する支持部と、
を備え、
前記一部の領域における前記ダイヤフラムと前記固定極との間隔は、前記一部の領域の外側における前記ダイヤフラムと前記固定極との間隔よりも狭く、
前記支持部は、
前記筐体内の圧力の変化に応じて前記ダイヤフラムが変位する方向に変位する変位部と、
前記変位部と結合しており、弾性を有する面で前記一部の領域と接触する接触部と、
を有する、
電気音響変換器。
【請求項2】
前記変位部は、前記ダイヤフラムと前記放音部との間における前記放音部を横断する位置に設けられている、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記変位部は、前記放音部を横断する一以上の棒状部材を有する、
請求項1又は2に記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記変位部は、前記放音部の開口に一端が固定された複数の棒状部材を有し、
前記接触部は、前記複数の棒状部材が結合された位置に設けられている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記接触部は、弾性を有する樹脂により形成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記樹脂は、時間の経過に伴い弾性が大きくなる材料を含む、
請求項5に記載の電気音響変換器。
【請求項7】
前記電気音響変換器は、人の耳に挿入されるイヤホンに含まれており、
前記変位部は、前記イヤホンが人の耳に装着された場合、又は前記イヤホンが人の耳から外された場合に生じる前記筐体内の圧力変化に応じて変位する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項8】
前記固定極に対して前記放音部の側と反対側において前記固定極に接続された第1導電部と、
前記固定極に対して前記放音部の側において前記ダイヤフラムに接続された第2導電部と、
をさらに有し、
前記ダイヤフラムは、前記第1導電部と前記第2導電部との間に生じた前記電位差に応じて振動する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項9】
前記第2導電部は、
前記ダイヤフラムの周縁部に接触する環状部と、
前記環状部の少なくとも一部から前記固定極に対して前記放音部の側と反対側まで延伸した延伸部と、
を有する、
請求項8に記載の電気音響変換器。
【請求項10】
前記固定極の前記ダイヤフラムに対向する面に設けられたエレクトレット層をさらに有する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の第1電気音響変換器と、
高域周波数における感度が前記第1電気音響変換器の感度よりも高く、低域周波数における感度が前記第1電気音響変換器の感度よりも低い第2電気音響変換器と、
を備える電気音響変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を音に変換する電気音響変換器(electro-acoustic transducer)及び電気音響変換装置(electro-acoustic conversion device)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平板状の固定電極(以下、固定極という)と、固定極に対向して設けられた振動板とを有する電気音響変換器が知られている。特許文献1には、薄膜状の振動板の周縁部が筐体に固定されたコンデンサ型イヤホンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンデンサ型のイヤホン又はヘッドホン等のように電気信号を音に変換する電気音響変換器においては、装着状態によって耳孔内部の圧力が変化することに伴って、電気音響変換器の内部の圧力が変化する。振動板の周縁部のみにおいて振動板が筐体に固定された状態で電気音響変換器の内部の圧力が変化すると、振動板が変位することにより振動板の周縁部に応力が集中し、振動板が破損してしまうおそれがあるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、振動板が破損しづらい電気音響変換器及び電気音響変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の電気音響変換器は、電気信号を音に変換する電気音響変換器である。当該電気音響変換器は、音を外部に放出する放音部を有する筐体と、前記筐体に固定された固定極と、前記固定極に対向して設けられており、前記電気信号に基づいて前記固定極との間に生じた電位差に応じて振動するダイヤフラムと、前記ダイヤフラムの一部の領域を前記固定極に向けて支持する支持部と、を備え、前記一部の領域における前記ダイヤフラムと前記固定極との間隔は、前記一部の領域の外側における前記ダイヤフラムと前記固定極との間隔よりも狭く、前記支持部は、前記筐体内の圧力の変化に応じて前記ダイヤフラムが変位する方向に変位する変位部と、前記変位部と結合しており、弾性を有する面で前記一部の領域と接触する接触部と、を有する。
【0007】
前記変位部は、前記ダイヤフラムと前記放音部との間における前記放音部を横断する位置に設けられていてもよい。前記変位部は、前記放音部を横断する一以上の棒状部材を有してもよい。前記変位部は、前記放音部の開口に一端が固定された複数の棒状部材を有し、前記接触部は、前記複数の棒状部材が結合された位置に設けられていてもよい。
【0008】
前記接触部は、弾性を有する樹脂により形成されていてもよい。前記樹脂は、例えば、時間の経過に伴い弾性が大きくなる材料を含む。
【0009】
前記電気音響変換器は、人の耳に挿入されるイヤホンに含まれており、前記変位部は、前記イヤホンが人の耳に装着された場合、又は前記イヤホンが人の耳から外された場合に生じる前記筐体内の圧力変化に応じて変位してもよい。
【0010】
前記電気音響変換器は、前記固定極に対して前記放音部の側と反対側において前記固定極に接続された第1導電部と、前記固定極に対して前記放音部の側において前記ダイヤフラムに接続された第2導電部と、をさらに有し、前記ダイヤフラムは、前記第1導電部と前記第2導電部との間に生じた前記電位差に応じて振動してもよい。
【0011】
前記第2導電部は、前記ダイヤフラムの周縁部に接触する環状部と、前記環状部の少なくとも一部から前記固定極に対して前記放音部の側と反対側まで延伸した延伸部と、を有してもよい。
【0012】
前記電気音響変換器は、前記固定極の前記ダイヤフラムに対向する面に設けられたエレクトレット層をさらに有してもよい。
【0013】
本発明の第2の態様の電気音響変換装置は、上記の電気音響変換器として、第1電気音響変換器と、高域周波数における感度が前記第1電気音響変換器の感度よりも高く、低域周波数における感度が前記第1電気音響変換器の感度よりも低い第2電気音響変換器と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気音響変換器が有する振動板が破損しづらくなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】電気音響変換装置の一例であるイヤホン1の外観を示す図である。
【
図4】
図3のC-C線からイヤピース14の側を見た図である。
【
図5】試作したイヤホン1の感度の周波数特性を示す図である。
【
図6】電気音響変換器20aの内部構成を示す図である。
【
図8】電気音響変換器20bの内部構成を示す図である。
【
図9】電気音響変換器20cの内部構成を示す図である。
【
図10】フロントハウジング13aの内部構成を模式的に示す図である。
【
図11】フロントハウジング13bの内部構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[イヤホン1の概要]
図1は、電気音響変換装置の一例であるイヤホン1の外観を示す図である。イヤホン1は、ケーブル11と、リアハウジング12と、フロントハウジング13と、イヤピース14と、を有する。イヤピース14の先端には音を外部に放出するための開口15が形成されている。
【0017】
ケーブル11は、音源から供給される電気信号で伝送するためのケーブルである。リアハウジング12は、ケーブル11と、フロントハウジング13とを結合する部材である。リアハウジング12は、例えばケーブルを覆う形状の樹脂により形成されている。
【0018】
フロントハウジング13は、リアハウジング12とイヤピース14との間に設けられており、リアハウジング12に対する角度が可変となる構造を有する。フロントハウジング13は、ケーブル11を介して伝送された電気信号を音に変換する電気音響変換器20を有している。電気音響変換器20の内部構成の詳細については後述する。
【0019】
イヤピース14は、イヤホン1のユーザの耳に挿入される部位であり、フロントハウジング13に突出して形成された音導管に結合されている。イヤピース14は、電気音響変換器20が発生した音を開口15から放出する。
【0020】
[電気音響変換器20の詳細構成]
図2から
図4は、電気音響変換器20の内部構成を示す模式図である。
図2は、
図1のA-A線における断面図である。
図3は、
図2のB-B線における断面図である。
図4は、
図3のC-C線からイヤピース14の側を見た図である。
【0021】
図2から
図4に示すように、電気音響変換器20は、筐体21と、固定極22と、固定極カバー23と、端子24と、ダイヤフラム25と、絶縁部材26と、導電性部材27と、変位部28と、接触部29と、を有する。
【0022】
筐体21は、例えば樹脂により形成されており、音源から供給された電気信号に基づいて音を発生する部品を収容する空間を有する。筐体21は、当該空間と連通しており、電気信号に基づいて発生された音を、イヤピース14を介して外部に放出する放音部30を有する。放音部30は、例えば円筒形状の部位であり、イヤピース14に向けて延びている。
【0023】
筐体21における電気信号を受ける側はリアハウジング12に結合されており、筐体21における音を放出する側はイヤピース14に結合されている。
図2から
図4に示す例においては、筐体21が円形の断面を有する場合を示しているが、筐体21の形状は任意であり、筐体21が多角形の断面を有してもよい。
【0024】
固定極22は、平板状の導電性部材(例えばアルミニウム)により形成されており、端子24を介してバイアス電圧が印加されることにより、あるいはエレクトレットによる外部電界により、ダイヤフラム25との間に電場を発生する。また、固定極22及びダイヤフラム25には、それぞれ端子24及び導電性部材27を介して、音源から入力された電気信号が入力される。
【0025】
固定極22は、例えば固定極カバー23を介して筐体21に固定されている。固定極22の形状及び大きさは任意であるが、固定極22は例えば直径20mmの円盤形状である。固定極22には、ダイヤフラム25の振動により発せられる音を通過させる複数の音孔221が形成されている。
【0026】
固定極カバー23は、固定極22を収容するための凹部を有している。固定極カバー23は、絶縁性部材により形成されている。固定極22の外縁が絶縁性部材により囲まれているため、固定極22と後述する導電性部材27とが電気的に絶縁される。
【0027】
端子24は、固定極22に電気信号を供給するための導電性の端子である。端子24は、固定極22に対して放音部30の側と反対側において固定極22に接続された第1導電部である。端子24は固定極22と電気的に結合されており、バイアス電圧あるいはエレクトレットの表面電位に重畳されて音源から供給される電気信号が入力される。
【0028】
ダイヤフラム25は、固定極22に対向して設けられており、音源から供給される電気信号に基づいて振動する振動板である。ダイヤフラム25は、導電性を有する薄膜で形成されている。ダイヤフラム25は、例えば金属箔又は金が蒸着された高分子フィルムにより形成されている。
【0029】
ダイヤフラム25は、電気信号により生じる端子24と導電性部材27との間の電位差に応じて振動する。具体的には、ダイヤフラム25は、端子24及び導電性部材27に印加される電気信号に基づいて固定極22との間に生じた電位差に応じて振動する。より具体的には、ダイヤフラム25は端子24と導電性部材27との間に生じた電位差の交流成分の大きさの変化に応じて振動する。
【0030】
ダイヤフラム25の一部の領域(
図2に示す例においては、中央部分)は接触部29により固定極22の側に押し付けられており、一部の領域におけるダイヤフラム25と固定極22との間隔は、一部の領域の外側におけるダイヤフラム25と固定極22との間隔よりも狭い。ダイヤフラム25は、接触部29により加えられる押圧によって、一部の領域で固定極22と接触する。ダイヤフラム25がこのように構成されていることにより、ダイヤフラム25と固定極22との距離がダイヤフラム25の位置によって異なる状態になるので、広い周波数範囲の電気信号に対する電気音響変換器20の感度が向上する。
【0031】
絶縁部材26は、ダイヤフラム25が固定極22と導通することを妨げるために設けられており、例えば樹脂により形成されている。絶縁部材26の全体が絶縁性部材により形成されていてもよく、絶縁部材26における固定極22に接触する面又はダイヤフラム25に接触する面の少なくとも一方が絶縁性を有していてもよい。
【0032】
絶縁部材26は、例えば環状の形状を有しており、ダイヤフラム25の周縁部と固定極22との間に挟まれている。その結果、ダイヤフラム25の周縁部が固定極22に接触しない状態で固定され、ダイヤフラム25における絶縁部材26に接触していない領域は、電気信号に応じて振動する。
【0033】
導電性部材27は、ダイヤフラム25に電気信号を印加するための部材である。導電性部材27は、固定極22に対して放音部30の側においてダイヤフラム25に接続された第2導電部である。導電性部材27は、例えば導電性シートにより形成されている。導電性部材27は、ダイヤフラム25の周縁部に接触する環状部271と、環状部271の少なくとも一部から固定極22に対して放音部30の側と反対側まで延伸する延伸部272とを有する。延伸部272は、筐体21と固定極カバー23及び絶縁部材26との間を通ってリアハウジング12の側にまで延伸している。
【0034】
変位部28及び接触部29は、ダイヤフラム25の一部の領域を固定極22に向けて支持する支持部を構成し、ダイヤフラム25の一部の領域に押圧を加える。変位部28は、例えば弾性を有する棒状の樹脂、バネ又はゴムにより形成されており、筐体21内の圧力の変化に応じてダイヤフラム25が変位する方向に変位する。具体的には、変位部28は、イヤホン1の筐体の一部であるイヤピース14が人の耳に装着された場合、又はイヤピース14が人の耳から外された場合に生じる筐体21内の圧力変化に応じてダイヤフラム25が変位すると、ダイヤフラム25が変位することにより生じる応力を受けて変位する。
【0035】
図4に示す例において、変位部28は、放音部30を横断する位置に設けられている。変位部28は、放音部30を横断する一以上の棒状部材を有する。具体的には、変位部28は、放音部30の開口に一端が固定された複数の棒状部材を有する。
図4に示す例においては、放音部30のダイヤフラム25の側の開口からそれぞれ120度ずつ異なる方向に延伸する3本の棒状部材が、放音部30の中央で結合しているが、棒状部材が延伸する方向及び棒状部材の本数は任意である。
【0036】
変位部28が有する棒状部材は、筐体21と一体に成形されることにより形成されてもよく、筐体21と異なる棒状部材が接着剤等により筐体21に固定されてもよい。
図4に示す棒状部材は均一の太さであるが、棒状部材は、放音部30の開口の中心位置(すなわち接触部29が設けられた位置)に近づくほど細くなる形状であってもよい。棒状部材がこのような形状を有することで、棒状部材と放音部30との間の結合力が大きくなるとともに、筐体21の内部の圧力変化に応じて撓みやすくなる。
【0037】
接触部29は、変位部28と結合しており、弾性を有する面でダイヤフラム25の一部の領域と接触する。接触部29は、例えば変位部28の中央位置に設けられており、
図4に示す例においては、変位部28が有する複数の棒状部材が結合された位置に設けられている。接触部29は、ユーザが耳からイヤホン1を取り外した時に筐体21の内部が減圧してダイヤフラム25が放音部30の側に変位することで、表面が変形するような弾性を有する。
【0038】
接触部29は、硬化する前に、表面張力により曲面が形成される流動性を有しており、時間の経過に伴い弾性が大きくなり、かつ硬化後に弾性を有する樹脂により形成されていることが好ましい。接触部29をこのような材料により形成することにより、接触部29を所望の形状に形成しやすい。このような材料として、ニトリルゴム系の接着剤、合成ゴム系の接着剤、ビニール系の接着剤、シリコーンゴム、及びスポンジを例示できるが、これらの材料に限定されない。接触部29は、例えば変位部28と同一の材料により形成されていてもよく、ABS樹脂により形成されていてもよい。接触部29が弾性を有する材料により形成されていることで、ダイヤフラム25が接触部29から局所的に応力を受けないので、ダイヤフラム25が破損しづらい。
【0039】
また、ダイヤフラム25が変位する方向の所定の応力が接触部29に加えられた際の接触部29の先端の変位量は、ダイヤフラム25が変位する方向の上記の所定の応力が変位部28に加えられた場合の変位部28の変位量よりも大きいことが好ましい。接触部29がこのように構成されていることにより、筐体21の内部圧力の変化によってダイヤフラム25が放音部30の側に変位する際に、変位部28が変位する前に接触部29が変形するので、ダイヤフラム25に加わるストレスを小さくすることができる。
【0040】
<実験例>
図5は、試作したイヤホン1の感度の周波数特性を示す図である。
図5の横軸は周波数であり、縦軸は感度である。
図5における破線は、イヤホン1が変位部28及び接触部29を有しない場合の感度の周波数特性を示しており、実線は、イヤホン1が変位部28及び接触部29を有する場合の感度の周波数特性を示している。
【0041】
図5から明らかなように、1kHz以下の範囲において、イヤホン1が変位部28及び接触部29を有する場合の感度は、イヤホン1が変位部28及び接触部29を有しない場合の感度に比べて5dBから10dB程度良好である。これは、弾性を有する接触部29がダイヤフラム25の中央部を固定極22に押し付けることにより、ダイヤフラム25の位置によって固定極22との距離が異なることに起因していると考えられる。
【0042】
[電気音響変換器20の第1変形例]
図6及び
図7は、電気音響変換器20の第1変形例である電気音響変換器20aの内部構成を示す図である。
図7は、
図6のD-D線における断面図である。
図3及び
図4に示した電気音響変換器20においては、変位部28の一端が放音部30の開口の位置に固定されていたのに対して、
図6及び
図7に示す電気音響変換器20aにおいては、ダイヤフラム25の全面に対向するように変位部31が設けられている。変位部31が有する棒状部材は、変位部28が有する棒状部材よりも長い。
【0043】
変位部31は、スペーサ32と導電性部材27とに挟まれるようにして固定されている。スペーサ32は、環状の部材であり、筐体21の内面に固定されている。スペーサ32は、変位部31が変位する幅よりも大きな厚みを有しており、変位部31は、最大に変位した状態でも筐体21に接触しない。このように、電気音響変換器20aが、変位部28よりも長い棒状部材を有する変位部31を有することにより、電気音響変換器20の内部の圧力が変化してダイヤフラム25が変位する際に変位部31が変位部28よりも撓みやすいので、ダイヤフラム25に加わる応力をさらに小さくすることができる。
【0044】
さらに、変位部31が有する棒状部材は、例えば、接触部29が設けられた位置に近づくほど細くなる形状である。棒状部材がこのような形状を有することで、変位部31の周縁部が安定して固定されるとともに、変位部31における接触部29が設けられている付近が撓みやすくなる。
【0045】
[電気音響変換器20の第2変形例]
図8は、電気音響変換器20の第2変形例である電気音響変換器20bの内部構成を示す図である。
図8に示す電気音響変換器20bは、エレクトレット層33を有するという点で電気音響変換器20と異なり、他の構成は電気音響変換器20と同等である。エレクトレット層33は、電荷を半永久的に保持する誘電体を含んでおり、固定極22にバイアス電圧を印加する。
【0046】
エレクトレット層33は、固定極22のダイヤフラム25に対向する面に設けられている。ダイヤフラム25の周縁部は、環状の絶縁部材26と導電性部材27とにより挟まれている。
【0047】
図8に示す例において、エレクトレット層33は、固定極22と重ねられた状態で、固定極カバー23の凹部に収容されている。エレクトレット層33には、固定極22に形成された音孔221と同じ位置に音孔が形成されている。固定極22及びエレクトレット層33には、例えば重ねられた状態で打ち抜き加工をすることで音孔が形成される。エレクトレット層33が固定極カバー23に収容されていることで、エレクトレット層33と導電性部材27とが絶縁され、ダイヤフラム25にはバイアス電圧が印加されない。このように電気音響変換器20bはエレクトレット層33を有するので、外部から直流のバイアス電圧を印加する必要がなく、ユーザの使い勝手を向上させることができる。
【0048】
[電気音響変換器20の第3変形例]
図9は、電気音響変換器20の第3変形例である電気音響変換器20cの内部構成を示す図である。電気音響変換器20cは、電気音響変換器20bが有する変位部28の代わりに、
図6に示した電気音響変換器20aが有する変位部31を有する。変位部31は、導電性部材27とスペーサ32とにより挟まれている。以上の第1変形例から第3変形例に示したように、バイアス電圧を固定極22に印加する手段、及び接触部29を変位させる手段の組合せは任意である。
【0049】
[フロントハウジング13の第1変形例]
図10は、フロントハウジング13の第1変形例であるフロントハウジング13aの内部構成を模式的に示す図である。第1実施形態から第4実施形態に係るフロントハウジング13は、1つの電気音響変換器を有していたが、フロントハウジング13aは、複数の電気音響変換器として、第1電気音響変換器としての電気音響変換器20と、第2電気音響変換器としての電気音響変換器40とを有するという点でフロントハウジング13と異なる。以下、フロントハウジング13aが電気音響変換器20を有する場合を例にして説明する。
【0050】
電気音響変換器40は、高域周波数における感度が電気音響変換器20の感度よりも高く、低域周波数における感度が電気音響変換器20の感度よりも低い電気音響変換器である。電気音響変換器40は、磁石に取り付けられたコイルに電流を流してアーマチュアを振動させることにより振動板を振動させるバランスド・アーマチュア型(BA型)の電気音響変換器である。
【0051】
図5における実験結果が示すように、電気音響変換器20は、低域周波数(例えば1kHz以下の周波数)における感度が、従来の電気音響変換器よりも良好である。したがって、フロントハウジング13aが、低域周波数において比較的感度が高い電気音響変換器20と、高域周波数において比較的感度が高い電気音響変換器40とを有することで、広い周波数範囲において良好な感度を得ることができる。
【0052】
フロントハウジング13aは、耳に近い側(すなわち放音部30の側)に電気音響変換器40を有し、耳から遠い側(すなわち音源の側)に電気音響変換器20を有してもよい。フロントハウジング13aがこのような構成を有することで、比較的減衰しやすい高域周波数の音が耳に届くまでの減衰量を低減することができるので、広い周波数範囲においてさらに良好な感度を得ることができる。
【0053】
[フロントハウジング13の第2変形例]
図11は、フロントハウジング13の第2変形例であるフロントハウジング13bの内部構成を模式的に示す図である。フロントハウジング13bは、複数の電気音響変換器として、外部から直流電圧が供給される電気音響変換器20又は電気音響変換器20aと、エレクトレット層を有する電気音響変換器20b又は電気音響変換器20cとを有してもよい。電気音響変換器20b又は電気音響変換器20cは、例えば高域周波数用であり、高域周波数における感度が電気音響変換器20又は電気音響変換器20aの感度よりも高い。
【0054】
電気音響変換器20b又は電気音響変換器20cを主に高域周波数用の電気音響変換器として機能させる場合、電気音響変換器20b又は電気音響変換器20cのダイヤフラム25の直径を電気音響変換器20又は電気音響変換器20aのダイヤフラム25の直径よりも小さくすることができる。したがって、フロントハウジング13bは、広い周波数範囲においてさらに良好な感度を得ることを可能にするとともに、小型化を実現することができる。
【0055】
[変位部の変形例]
図12は、変位部28の変形例である変位部28aの形状を示す図である。
図4に示した変位部28は、直線状の棒状部材により構成されていたが、変位部28aは、放音部30の半径よりも長い曲線状の部材を含んでいる。変位部28aがこのような曲線状の部材を含むことにより、変位部28aは、放音部30から音が放出される方向において、変位部28よりも大きく変位することができる。
【0056】
[電気音響変換装置の変形例]
以上の説明においては、電気音響変換装置としてカナル型のイヤホン1を例示し、電気音響変換器20、20a、20b、20cがカナル型のイヤホンに設けられている場合を例示したが、電気音響変換装置はカナル型のイヤホン1に限らない。電気音響変換器20、20a、20b、20cは、電気信号を音に変換する機能を装置であれば任意の電気音響変換装置に適用することができる。例えば、電気音響変換器20、20a、20b、20cは、オーバーヘッド型ヘッドホンに設けられていてもよい。
【0057】
[本実施の形態に係る電気音響変換器による効果]
以上説明したように、電気音響変換器20、20a、20b、20cは、弾性を有する面でダイヤフラム25の一部の領域と接触する接触部29を有する。電気音響変換器20、20a、20b、20cがこのような接触部29を有することで、ダイヤフラム25が固定極22に押し付けられる際にダイヤフラム25に加わるストレスを低減することができる。その結果、電気音響変換器20、20a、20b、20cは、ダイヤフラム25が破損しづらい。また、接触部29が弾性を有する材料で形成されていることにより、電気音響変換器20、20a、20b、20cは、ダイヤフラム25が固定極22から離れたり、固定極22に接触したりする場合であっても、ノイズ音を発生しづらい。
【0058】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【符号の説明】
【0059】
1 イヤホン
11 ケーブル
12 リアハウジング
13 フロントハウジング
14 イヤピース
15 開口
20 電気音響変換器
21 筐体
22 固定極
23 固定極カバー
24 端子
25 ダイヤフラム
26 絶縁部材
27 導電性部材
28 変位部
29 接触部
30 放音部
31 変位部
32 スペーサ
33 エレクトレット層
40 電気音響変換器
221 音孔
271 環状部
272 延伸部