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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ガラス及び結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20220930BHJP
   C03C 10/04 20060101ALI20220930BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C03C3/097
C03C10/04
C03C21/00 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019061125
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158363
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391009936
【氏名又は名称】株式会社住田光学ガラス
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】手塚 達也
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03059214(EP,A1)
【文献】特表2008-515549(JP,A)
【文献】特開2001-288027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03C 21/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算のモル%で、
SiO:50%以上70%以下、
:0%超15%以下、
:0%超2%以下、
Al:0%超0.4%以下、
LiO:25%以上35%以下、
NaO:0%超10%以下、
O:0%以上5%以下、
TiO:0%以上10%以下、及び
ZrO:0%以上10%以下
であり、SiO及びLiOの合計が95%以下である組成を有する、ことを特徴とする、ガラス。
【請求項2】
1200℃における粘度が100dPa・s以下である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
表面に圧縮応力層を備える、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
JIS R1601:2008に準拠して測定される3点曲げ強さが400MPa以上である、請求項3に記載のガラス。
【請求項5】
酸化物換算のモル%で、
SiO:50%以上70%以下、
:0%超15%以下、
:0%超2%以下、
Al:0%超0.4%以下、
LiO:25%以上35%以下、
NaO:0%超10%以下、
O:0%以上5%以下、
TiO:0%以上10%以下、及び
ZrO:0%以上10%以下
であり、SiO及びLiOの合計が95%以下である組成を有し、且つ、
LiSi結晶を含む、ことを特徴とする、結晶化ガラス。
【請求項6】
JIS R1601:2008に準拠して測定される3点曲げ強さが200MPa以上である、請求項5に記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
表面に圧縮応力層を備える、請求項5又は6に記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
JIS R1601:2008に準拠して測定される3点曲げ強さが400MPa以上である、請求項7に記載の結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス及び結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン及びタブレット端末などのモバイル機器においては、非接触充電への対応の観点及び/又は意匠性の観点から、ガラスを、前面ディスプレーだけでなく、裏面カバーや筐体そのものに使用することが一般的になってきている。また、そのような用途のガラス材料に対しては特に、高強度で、形状自由度が高い(複雑な形状への成形が可能である)ことの要望が高まっている。
【0003】
ここで、ガラス材料を用い、モバイル機器の筐体などの複雑な形状を有する部材を作製する方法として、ダイレクトプレス法(以下、「DP」と称することがある。)が挙げられる。このDPは、低粘度のガラス融液を金型に直接受け、プレスを行う方法であり、比較的低コストでガラス部材を作製できるという利点がある。
【0004】
一方、高強度のガラスについては、これまで種々の報告がされている。
例えば、特許文献1は、成分組成の適正化が図られた、表面圧縮応力が300MPa以上の強化ガラスを開示している。
また、特許文献2は、二ケイ酸リチウムの結晶相及びβ-スポジュメンの結晶相を所定比で含むガラスセラミックが、高い機械的強度を有することができることを開示している。
更に、特許文献3は、成分組成の適正化が図られた、主結晶としてメタケイ酸リチウム(LiSiO)を含むガラスセラミック材料を開示している。このガラスセラミック材料は、そのままでは機械加工し易いが、熱処理により、機械的特性に優れるガラスセラミック製品へと変換され得る材料であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-104285号公報
【文献】特表2016-529201号公報
【文献】特開2005-053776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の強化ガラス及び特許文献2に記載のガラスセラミックは、融液の粘度が高い傾向にある。そのため、これらの材料についてDPにより部材を作製するためには、極めて高温に加熱する必要が生じるので、生産コスト及び成形装置の耐久性の点で不利である。特許文献3に記載の材料も、融液にしたときの粘度が十分に低いとはいえず、融液の粘度をより一層低減するという点で、改良の余地がある。
また、特許文献3に記載の材料は、イオン交換(化学強化)による圧縮応力層の形成を考慮していないため、イオン交換性が低く、強度の点で不十分である。
【0007】
また、モバイル機器の裏面カバーや筐体などの部材は、内部の構造が見えないよう、均質に不透明であることが求められる。この点、特許文献1に記載の強化ガラスは、透明体であるため、上述した部材に用いるためには、表面コーティングなどの不透明化処理を別途施さなければならず、製造工程及び製造コストの増加をもたらす。その一方で、モバイル機器の前面ディスプレーなどの部材は、透明であることが求められるが、特許文献2及び特許文献3に記載のガラスセラミックは、結晶を析出させており透明ではないため、上述した部材に使用することはできない。
【0008】
このような現状の下、結晶化させたガラスへと容易に変換できるとともに、そのまま(未結晶化状態)でも結晶化させてもそれぞれ所望の特性を具備させることが可能な、順応性の高いガラス材料の開発が望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、融液にしたときの粘度が十分に低く、結晶化処理によって高強度で且つ均質な結晶化ガラスを形成可能である上、そのまま(未結晶化ガラスの状態)でも結晶化ガラスの状態にしてもイオン交換(化学強化)により効果的に高い強度を発揮するガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、上述したガラスから形成可能であり、高い強度を有する均質な結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ケイ酸リチウム系ガラスにB、P及びNaOを所定量含有させ、また、Alを微量含有させ、更にSiO及びLiOの合計量を所定範囲内とすることにより、上記目的に適うガラスが得られることを見出した。このようなガラスは、結晶化処理を施すことにより、高強度を発揮するLiSi結晶を均質に析出させることができる。
【0011】
即ち、本発明のガラスは、
酸化物換算のモル%で、
SiO:50%以上70%以下、
:0%超15%以下、
:0%超2%以下、
Al:0%超0.5%以下、
LiO:25%以上35%以下、
NaO:0%超10%以下、
O:0%以上5%以下、
TiO:0%以上10%以下、及び
ZrO:0%以上10%以下
であり、SiO及びLiOの合計が95%以下である組成を有する、ことを特徴とする。かかるガラスは、融液にしたときの粘度が十分に低く、結晶化処理によって高強度で且つ均質な結晶化ガラスを形成可能である上、そのまま(未結晶化ガラスの状態)でも結晶化ガラスの状態にしてもイオン交換(化学強化)により効果的に高い強度を発揮する。
【0012】
本発明のガラスは、1200℃における粘度が100dPa・s以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のガラスは、表面に圧縮応力層を備えることが好ましい。
【0014】
本発明のガラスは、JIS R1601:2008に準拠して測定される3点曲げ強さが400MPa以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の結晶化ガラスは、
酸化物換算のモル%で、
SiO:50%以上70%以下、
:0%超15%以下、
:0%超2%以下、
Al:0%超0.5%以下、
LiO:25%以上35%以下、
NaO:0%超10%以下、
O:0%以上5%以下、
TiO:0%以上10%以下、及び
ZrO:0%以上10%以下
であり、SiO及びLiOの合計が95%以下である組成を有し、且つ、
LiSi結晶を含む、ことを特徴とする。かかる結晶化ガラスは、上述したガラスから形成可能であり、高い強度を有し、且つ均質である。
【0016】
本発明の結晶化ガラスは、JIS R1601:2008に準拠して測定される3点曲げ強さが200MPa以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の結晶化ガラスは、表面に圧縮応力層を備えることが好ましい。
【0018】
本発明の結晶化ガラスは、表面に圧縮応力層を備えるとともに、JIS R1601:2008に準拠して測定される3点曲げ強さが400MPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、融液にしたときの粘度が十分に低く、結晶化処理によって高強度で且つ均質な結晶化ガラスを形成可能である上、そのまま(未結晶化ガラスの状態)でも結晶化ガラスの状態にしてもイオン交換(化学強化)により効果的に高い強度を発揮するガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上述したガラスから形成可能であり、高い強度を有する均質な結晶化ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る結晶化ガラスの、走査電子顕微鏡(SEM)による画像図(5000倍)である。
図2】本発明の一実施形態に係る結晶化ガラスの外観を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る結晶化ガラスの顕微鏡による画像図(50倍)である。
図4】一比較例に係る結晶化ガラスの顕微鏡による画像図(50倍)である。
図5】本発明の一実施形態に係る結晶化ガラスのX線回折(XRD)パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ガラス)
以下、本発明の一実施形態のガラス(「本実施形態のガラス」と称することがある。)を具体的に説明する。本実施形態のガラスは、酸化物換算のモル%で、
酸化物換算のモル%で、
SiO:50%以上70%以下、
:0%超15%以下、
:0%超2%以下、
Al:0%超0.5%以下、
LiO:25%以上35%以下、
NaO:0%超10%以下、
O:0%以上5%以下、
TiO:0%以上10%以下、及び
ZrO:0%以上10%以下
であり、SiO及びLiOの合計が95%以下である組成を有する、ことを特徴とする。なお、本明細書において単に「ガラス」と称するものは、別で説明がない限り、後述する「結晶化ガラス」との対比としての「結晶化されていないガラス」又は「未結晶化ガラス」を指すものとする。
【0022】
本実施形態のガラスは、上述した所定組成を有するため、融液にしたときの粘度が十分に低い。そのため、本実施形態のガラスを用いれば、DPにより複雑な形状を有する部材を作製することができ、また、低コスト化及び大量生産が可能となる。また、本実施形態のガラスは、上述した所定組成を有するため、結晶化処理によって高強度で且つ均質な結晶化ガラスに変換することができる。更に、本実施形態のガラスは、上述した所定組成に起因して、イオン交換性が高い。そのため、そのまま(未結晶化ガラスの状態)でも結晶化ガラスの状態にしても、イオン交換(化学強化)により効果的に高い強度を発揮することができる。即ち、本実施形態のガラスは、ガラス材料としての順応性が高い。
【0023】
なお、本実施形態のガラスは、上述した成分以外のその他の成分(後述)を含んでもよい。但し、本実施形態のガラスは、所望の特性をより確実に発現させる観点から、上述した成分のみからなる組成(SiO、B、P、Al、LiO及びNaOを必須成分とし、KO、TiO及びZrOのみを任意成分とする組成)を有することが好ましい。
ここで、「上述した成分のみからなる」とは、当該成分以外の不純物成分が不可避的に混入する、具体的には、不純物成分の割合が0.2モル%以下である場合を包含するものとする。
【0024】
まず、本実施形態において、ガラスの組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り、酸化物換算のモル%を意味するものとする。
【0025】
<SiO
本実施形態のガラスにおいて、SiOは、ガラス形成を可能にする必須成分であり、また、結晶化させた際に主に析出するLiSi結晶を構成する重要な成分である。しかしながら、その含有量が70%を超えると、ガラス融液の粘度が著しく高くなる虞がある。一方、その含有量が50%未満であると、ガラス形成能が低下するか、或いは、結晶化させた際にLiSi結晶が析出しない虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、SiOの含有量を50%以上70%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるSiOの含有量は、52%以上であることが好ましく、54%以上であることがより好ましく、56%以上であることが更に好ましく、また、68%以下であることが好ましく、66%以下であることがより好ましく、64%以下であることが更に好ましい。
【0026】
<B
本実施形態のガラスにおいて、Bは、ガラス形成成分であるとともに、ガラス融液の粘度を低下させ、更にはNaNO熔融塩等を使用した化学強化処理(イオン交換処理)においてイオン交換性を高め、加えて均質な結晶化を促進する重要な必須成分である。また、本実施形態のガラスにおいて、Bは、ガラスを結晶化させた際の収縮(比重の増加)を抑制する成分でもある。しかしながら、その含有量が15%を超えると、均質な結晶化が進まない虞がある。一方、含有していないと、ガラス融液の粘度の低下が図れないか、或いは、均質な結晶化ガラスを得ることができない。よって、本実施形態のガラスにおいては、Bの含有量を0%超15%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるBの含有量は、1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、また、12%以下であることが好ましい。
【0027】
<P
本実施形態のガラスにおいて、Pは、均質な結晶化を促進する重要な必須成分である。しかしながら、その含有量が2%を超えると、ガラス形成能が低下する虞がある。一方、含有していないと、結晶化処理を施したときに均質に結晶を析出させることができない。よって、本実施形態のガラスにおいては、Pの含有量を0超~2%とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるPの含有量は、0.5%以上であることが好ましく、また、1.5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0028】
<Al
本実施形態のガラスにおいて、Alは、ガラス形成能を高め、更にはNaNO熔融塩等を使用した化学強化処理においてイオン交換性を高める重要な必須成分である。しかしながら、その含有量が0.5%を超えると、ガラス融液の粘度が著しく高くなる虞、及び、均質な結晶化ガラスを得ることができない虞がある。一方、含有していないと、化学強化処理による強度向上を十分に図ることができない虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、Alの含有量を0%超0.5%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるAlの含有量は、0.4%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることが更に好ましい。
【0029】
<LiO>
本実施形態のガラスにおいて、LiOは、ガラス融液の粘度を大幅に低下させる必須成分であり、また、結晶化させた際に主に析出するLiSi結晶を構成するとともに、NaNO熔融塩等を用いた化学強化処理においてNaイオンと交換されるLiイオン源となる重要な成分である。しかしながら、その含有量が35%を超えると、ガラス形成能が低下する虞、及び結晶化させた際の変形の度合いが大きくなる虞がある。一方、その含有量が25%未満であると、ガラス融液の粘度を低下させる効果が不十分であり、均質な結晶化が進まない虞があり、更には、化学強化処理による強度向上を十分に図ることができない虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、LiOの含有量を25%以上35%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるLiOの含有量は、26%以上であることが好ましく、27%以上であることがより好ましく、28%以上であることが更に好ましく、また、34%以下であることが好ましく、33%以下であることがより好ましく、32%以下であることが更に好ましい。
【0030】
<SiO及びLiOの合計>
ここで、本実施形態のガラスは、SiO及びLiOの合計が95%を超えると、たとえSiO及びLiOそれぞれの含有量が上述した範囲内にあったとしても、結晶化させた際の体積(密度)変化量の増大の虞、均質な結晶化が進まない虞、及び化学強化処理におけるイオン交換性の低下の虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、SiO及びLiOの合計を95%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるSiO及びLiOの合計は、92%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。また、本実施形態のガラスにおけるSiO及びLiOの合計は、結晶化させた際に十分な量のLiSi結晶を析出させる観点から、80%以上であることが好ましい。
【0031】
<NaO>
本実施形態のガラスにおいて、NaOは、ガラス融液の粘度を低下させ、LiOとの併用によりガラス形成能を高める必須成分であり、また、NaNO熔融塩等を使用した化学強化処理においてNaイオンとLiイオンとのイオン交換性を高め、更にKNO熔融塩等を用いた化学強化処理においてKイオンと交換されるNaイオン源となる重要な成分である。また、本実施形態のガラスにおいて、NaOは、ガラスを結晶化させた際の収縮(比重の増加)を抑制する成分でもある。しかしながら、その含有量が10%を超えると、ガラス形成能が低下する虞、及び結晶化させた際の変形の度合いが大きくなる虞がある。一方、含有していないと、均質な結晶化が進まない虞、及び、化学強化処理による強度向上を図ることができない虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、NaOの含有量を0%超10%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるNaOの含有量は、1%以上であることが好ましく、また、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0032】
<KO>
本実施形態のガラスにおいて、KOは、ガラス融液の粘度を低下させ、また、KNO熔融塩を用いた化学強化処理においてKイオンとNaイオンとの交換性を高める成分である。しかしながら、その含有量が5%を超えると、ガラス形成能が低下する虞、及び結晶化させた際の変形の度合いが大きくなる虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、KOの含有量を0%以上5%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるKOの含有量は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましい。
【0033】
<TiO
本実施形態のガラスにおいて、TiOは、結晶化ガラスの不透明性を高める成分である。しかしながら、その含有量が10%を超えると、化学強化処理におけるイオン交換性が低下する虞、及び、結晶化させた際の変形の度合いが大きくなる虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、TiOの含有量を0%以上10%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるTiOの含有量は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましい。
【0034】
<ZrO
本実施形態のガラスにおいて、ZrOは、結晶化ガラスの不透明性を高める成分である。しかしながら、その含有量が10%を超えると、ガラス融液の粘度が高くなる虞、化学強化処理におけるイオン交換性が低下する虞、及び、結晶化させた際の変形の度合いが大きくなる虞がある。よって、本実施形態のガラスにおいては、ZrOの含有量を0%以上10%以下とした。同様の観点から、本実施形態のガラスにおけるZrOの含有量は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましい。
【0035】
<その他の成分>
本実施形態のガラスには、目的を外れない限り、上述した成分以外のその他の成分、例えばV、Cr、MnO、MnO、FeO、Fe、Co、Co、NiO、CuO、MoO、CeO、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er及びTmから選択される1種以上の着色成分を少量(例えば、外割りで10モル%以下となるような量)含有させることができる。
なお、本実施形態のガラスにおける各成分(SiO、LiOなど)の組成の計算には、上記その他の成分を考慮しないものとする。
【0036】
次に、本実施形態のガラスの諸特性について説明する。
【0037】
本実施形態のガラスは、通常は透明である。そのため、本実施形態のガラスは、例えばモバイル機器の前面ディスプレーなどといった、透明性が求められる部材の作製に適している。
なお、本明細書において、ガラスに関して「透明」とは、厚み2.0mmの当該ガラスにおいて、可視光(波長380~780nm)における任意の波長の透過率が80%以上であることを指すものとする。
【0038】
本実施形態のガラスは、上述した通り、融液にしたときの粘度が十分に低い。より具体的に、本実施形態のガラスは、1200℃における粘度が100dPa・s以下とすることができる。また、本実施形態のガラスの1200℃における粘度は、90dPa・s以下であることがより好ましく、80dPa・s以下であることが更に好ましい。また、本実施形態のガラスの1200℃における粘度は、特に制限されないが、DP等におけるプレスをより確実に行う観点から、5dPa・s以上であることが好ましい。
なお、ガラスの1200℃における粘度は、例えばガラス組成を適宜調節することにより、調整することができる。
【0039】
本実施形態のガラスは、表面に圧縮応力層を備えることが好ましい。上述の通り、本実施形態のガラスは、イオン交換性が高いため、イオン交換(化学強化)等によりガラス表面に圧縮応力層を形成することで、効果的により高い強度をガラスに発現させることができる。
なお、ガラス表面への圧縮応力層の形成は、例えば、ガラスに対し、化学強化処理(イオン交換処理)を施す、急冷させて表面に歪みを加える等により、達成することができる。
【0040】
そして、本実施形態のガラスが表面に圧縮応力層を備える場合、当該ガラスは、3点曲げ強さが400MPa以上とすることができる。また、本実施形態のガラスの3点曲げ強さは、420MPa以上であることがより好ましく、440MPa以上であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、ガラスの3点曲げ強さは、JIS R1601:2008「ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法」に準拠して測定される。
【0041】
<ガラスの製造方法>
次に、本実施形態のガラスの製造方法について説明する。
ここで、本実施形態のガラスは、各成分の組成が上述した範囲を満足していればよく、その製造方法については特に限定されることなく、従来の製造方法に従って製造することができる。
例えば、まず、本実施形態のガラスに含まれ得る各成分の原料として、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩などを所定の割合で秤量し、十分混合したものをガラス調合原料とする。次いで、このガラス調合原料を、ガラス原料等と反応性のない熔融容器(例えば貴金属坩堝)に投入して、電気炉にて1200~1500℃に加熱して熔融し、適時撹拌する。次いで、電気炉で清澄、均質化してから、適当な温度に予熱した金型内に鋳込んだ後、電気炉内で徐冷して歪みを取り除くことで、本実施形態のガラスを得ることができる。なお、ガラスの着色改善や脱泡のため、Sbを少量(例えば、外割りで0.5モル%以下となるような量)加えることができる。
なお、本実施形態のガラスにおける各成分(SiO、LiOなど)の組成の計算には、上記Sbを考慮しないものとする。
【0042】
或いは、本実施形態のガラスは、ダイレクトプレス法(DP)により所定形状を有する部材に成形することで製造することもできる。より具体的に、上述したようなガラス調合原料を、電気炉にて1200~1500℃に加熱して熔融する。次いで、得られたガラス融液を1200℃以下とした後、所定形状を有する金型に対し、流出パイプ等により流下させる。そして、シャー刃により、或いは金型を真下に急降下させることにより、表面張力でくびれ部を形成させてガラス融液流を分離し、所望質量のガラス融液塊とする。その後、金型内で冷却されつつ、このガラス融液塊をプレスして、所定形状を有するガラス部材(本実施形態のガラス)を得ることができる。
このようなDPによる成形は、特に、モバイル機器の筐体などといった、比較的大きく複雑な形状を有する部材を作製するのに好適である。
【0043】
また、得られたガラスは、例えば化学強化処理を施すことにより、表面に圧縮応力層を形成することができる。より具体的に、加熱されたNaNO又はKNOの熔融塩に上記ガラスを浸漬させることにより、当該ガラスの表面付近のLiイオンやNaイオンがよりイオン半径の大きなイオンと入れ替わり、こうしてガラス表面に圧縮応力層を形成することができる。
【0044】
なお、より高強度の圧縮応力層を形成する観点から、化学強化処理における熔融塩の温度は、360~440℃であることが好ましい。また、より高強度の圧縮応力層を形成する観点から、化学強化処理における浸漬時間は、16時間以下であることが好ましい。
【0045】
(結晶化ガラス)
以下、本発明の一実施形態の結晶化ガラス(「本実施形態の結晶化ガラス」と称することがある。)を具体的に説明する。本実施形態の結晶化ガラスは、酸化物換算のモル%で、
SiO:50%以上70%以下、
:0%超15%以下、
:0%超2%以下、
Al:0%超0.5%以下、
LiO:25%以上35%以下、
NaO:0%超10%以下、
O:0%以上5%以下、
TiO:0%以上10%以下、及び
ZrO:0%以上10%以下
であり、SiO及びLiOの合計が95%以下である組成を有し、且つ、
LiSi結晶を含む、ことを特徴とする。
なお、本明細書において「結晶化ガラス」とは、部分的に結晶を含むガラスを指すものとし、「ガラスセラミック」と概ね同義である。
【0046】
本実施形態の結晶化ガラスは、上述した所定組成を有し、且つLiSi結晶を含むため、高い強度を有する上、均質である。なお、本実施形態の結晶化ガラスは、例えば、上述したガラスに結晶化処理を施すことにより得ることができる。また、LiSi結晶を含むか否かは、X線回折(XRD)パターンから判断することができる。また、本実施形態の結晶化ガラスは、上述した所定組成に起因して、イオン交換性が高い。そのため、イオン交換(化学強化)により効果的に高い強度を発揮することができる。
【0047】
本実施形態の結晶化ガラスの組成(酸化物換算)の具体的な説明は、上述したガラスの組成の説明と同じであるため、省略する。
【0048】
ガラスの結晶化処理としては、例えば、熱処理、レーザアニール等が挙げられる。
【0049】
そして、本実施形態の結晶化ガラスは、3点曲げ強さが200MPa以上とすることができる。また、本実施形態の結晶化ガラスの3点曲げ強さは、220MPa以上であることがより好ましく、240MPa以上であることが更に好ましい。
なお、結晶化ガラスの3点曲げ強さは、JIS R1601:2008「ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法」に準拠して測定される。
【0050】
本実施形態の結晶化ガラスは、表面に圧縮応力層を備えることが好ましい。上述の通り、本実施形態の結晶化ガラスは、イオン交換性が高いため、イオン交換(化学強化)等により結晶化ガラス表面に圧縮応力層を形成することで、効果的により高い強度を結晶化ガラスに発現させることができる。
なお、結晶化ガラス表面への圧縮応力層の形成は、例えば、結晶化ガラスに対し、化学強化処理(イオン交換処理)を施す、急冷させて表面に歪みを加える等により、達成することができる。
【0051】
そして、本実施形態の結晶化ガラスが表面に圧縮応力層を備える場合、当該結晶化ガラスは、3点曲げ強さが400MPa以上とすることができる。また、本実施形態の結晶化ガラスが表面に圧縮応力層を備える場合、当該結晶化ガラスの3点曲げ強さは、420MPa以上であることがより好ましく、440MPa以上であることが更に好ましい。
【0052】
<結晶化ガラスの製造方法>
本実施形態の結晶化ガラスは、各成分の組成が上述した範囲を満足し、且つLiSi結晶を含んでいればよく、その製造方法については特に限定されることなく、従来の製造方法に従って製造することができる。
例えば、上述したガラス(未結晶化ガラス)を、ガラス転移温度より高く且つガラスが熔融しない温度域で熱処理することで、LiSi結晶が析出し、本実施形態の結晶化ガラスを得ることができる。なお、熱処理の温度は、より確実に所望の結晶化ガラスを得る観点から、500~800℃であることが好ましい。また、熱処理の時間は、より確実に所望の結晶を析出させる観点から、1~10時間であることが好ましい。
【0053】
なお、本実施形態の結晶化ガラスは、ガラス調合原料を用いてダイレクトプレス法(DP)により成形する際に得られることもある。例えば、DPによる成形の際、500~800℃の温度域における冷却速度が緩やかである場合には、ガラス中で結晶が析出し得る。
【0054】
また、得られた結晶化ガラスは、例えば化学強化処理を施すことにより、表面に圧縮応力層を形成することができる。なお、結晶化ガラスの化学強化処理の具体的な説明は、ガラスの化学強化処理の説明と同様であるため、省略する。
【実施例
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明のガラスを具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
表1,2に記載の各成分の原料としてそれぞれに相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩などを、ガラス化した後に100gとなるように秤量し、十分混合して、白金坩堝に投入し、電気炉にて1200~1500℃で1~2時間熔融した。その後、適時撹拌し、均質化を図り、清澄してから適当な温度に予熱した金型内に鋳込んだ後、電気炉内で徐冷して歪みを取り除くことで、実施例1~10及び比較例1~10のガラス(未結晶化ガラス)を得た。なお、少なくとも実施例1~10のガラスは、透明であることを確認した。
【0057】
また、それぞれのガラス(未結晶化ガラス)について、電気炉にて800℃以下、1~10時間の熱処理を行う(表1,2参照)ことで、結晶化ガラスを得た。
【0058】
更に、それぞれのガラス(未結晶化ガラス)及び結晶化ガラスについて、化学強化処理を施す、より具体的には、360~440℃に加熱されたNaNO又はKNOの熔融塩に16時間以下浸漬させる(表1,2参照)ことで、表面に圧縮応力層を形成した。
【0059】
各実施例及び比較例において、以下に示す手順に従い、ガラスの1200℃における粘度の測定、結晶化ガラスの均質性の評価、及び、3点曲げ強さ(圧縮応力層が形成されたガラス、圧縮応力が形成されていない結晶化ガラス、及び、圧縮応力層が形成された結晶化ガラスに対して)の測定を行った。更に、各実施例及び比較例の結晶化ガラスにおいて、圧縮応力層の形成に伴う3点曲げ強さ増加率を算出した。結果を表1,2に示す。
【0060】
ガラスの1200℃における粘度の測定は、回転円筒法にて行った。具体的に、1200℃のガラス融液中に白金製の円筒を浸漬させ、円筒を回転させたときに当該円筒の受ける回転力(トルク)から粘度を求めた。
【0061】
結晶化ガラスの均質性の評価は、結晶化ガラス(圧縮応力層無し)の断面の外観を目視及び顕微鏡(50倍)で観察し、以下の基準に従って行った。
A:顕微鏡下でも結晶の析出に偏りが認められない
B:目視では偏りが認められないが、顕微鏡下にて偏りが認められる
C:目視にて結晶の析出に偏りが認められる、又は結晶が析出していない
参考までに、実施例1の結晶化ガラス(圧縮応力層無し)に関して、走査電子顕微鏡(SEM)による画像(5000倍)を図1に示し、外観を図2に示し、顕微鏡による画像(50倍)を図3に示す。また、比較例8の結晶化ガラス(圧縮応力層無し)に関して、顕微鏡による画像(50倍)を図4に示す。
図1の画像においては、比較的暗く見える領域がLiSi結晶であり、比較的明るく見える領域がガラス質である。
【0062】
3点曲げ強さの測定は、JIS R1601:2008「ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法」に準拠して行った。
【0063】
なお、少なくとも実施例1~10の結晶化ガラスについては、XRDパターンから、LiSi結晶が析出していることを確認した。参考までに、実施例1の結晶化ガラスのXRDパターンを図5に示す。
【0064】
また、実施例1及び比較例7のガラス(未結晶化ガラス)及び結晶化ガラスについて、JOGIS05-1975「光学ガラスの比重の測定方法」に準拠し、比重の測定を行った。その結果、実施例1の未結晶化ガラス及び結晶化ガラスの比重は、それぞれ2.405及び2.424であり、比較例7の未結晶化ガラス及び結晶化ガラスの比重は、それぞれ2.360及び2.479であった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1より、実施例1~10に係るガラスは、いずれも融液の粘度が十分に低いため、DPによる部材の作製に適していることが分かる。また、表1より、実施例1~10に係る圧縮応力層を表面に備えるガラスは、いずれも3点曲げ強さが400MPa以上であり、強度が高いことが分かる。
【0068】
また、表1より、熱処理を行うことで得られた実施例1~10の結晶化ガラスは、いずれも、均質性が高い上、3点曲げ強さが200MPa以上であり強度が高いことが分かる。特に、図3より、実施例1の結晶化ガラスは、50倍の顕微鏡画像で結晶の構造(模様)が確認されなかったことから、結晶の析出に偏りがなく、均質であることが明らかである。かかる均質性は、実施例1の結晶化ガラスの外観を示す図2からも明らかである。
【0069】
更に、実施例1~10に係る圧縮応力層を表面に備える結晶化ガラスは、いずれも3点曲げ強さが400MPa以上であり、強度が高いことが分かる。特に、実施例1~10の結晶化ガラスにおいては、圧縮応力層の形成に伴う3点曲げ強さ増加率が大きく、イオン交換により強度が効果的に向上していることも分かる。
【0070】
これに対し、表2より、比較例1~10においては、ガラス融液の粘度及び結晶化ガラスの均質性の一方又は両方の結果が良好でないことが分かる。なお、比較例9においては、ガラス化しなかった。これは、LiOが多すぎることに起因するものと考えられる。また、図4より、比較例8の結晶化ガラスは、50倍の顕微鏡画像で結晶の構造(模様)が確認されたことから、結晶の析出に偏りがあり、不均質であることが分かる。
【0071】
また、比較例1~10においては、ガラス又は結晶化ガラスの3点曲げ強さが十分に高くないものが多いことも分かる。更に、比較例1~10の結晶化ガラスにおいては、圧縮応力層の形成に伴う3点曲げ強さ増加率が小さい、即ち、イオン交換による効果的な強度向上が図れていないものが多いことも分かる。
【0072】
更に、実施例1においては、ガラスを結晶化させることにより、比重が2.405から2.424に変化し、即ち比重の変化率は0.79%であった。これに対し、比較例7においては、ガラスを結晶化させることにより、比重が2.360から2.479に変化し、即ち比重の変化率は5.04%であった。このことから、実施例1のガラスは、比較例7のガラスに比べ、結晶化を行っても寸法の変化が少なく、DP等による成形の際に結晶化前の形状を維持し易いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、融液にしたときの粘度が十分に低く、結晶化処理によって高強度で且つ均質な結晶化ガラスを形成可能である上、そのまま(未結晶化ガラスの状態)でも結晶化ガラスの状態にしてもイオン交換(化学強化)により効果的に高い強度を発揮するガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上述したガラスから形成可能であり、高い強度を有する均質な結晶化ガラスを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5