(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20220930BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20220930BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220930BHJP
【FI】
H01J49/02 500
H01J49/00 360
H01J49/02 200
H01J49/00 130
G01N27/62 B
(21)【出願番号】P 2020119188
(22)【出願日】2020-07-10
(62)【分割の表示】P 2020502720の分割
【原出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-07-14
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】パンデュランガン アナンド
(72)【発明者】
【氏名】セルヴァラジ シヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ヘッジ アヌープ
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ プラカッシ スリダラ
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0073548(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/02
H01J 37/244
G01N 27/62
G01R 19/00
G01J 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガス分子をイオン化して、複数の原子質量単位(AMU)数を含む複数のガスイオンから構成されるイオン流にするように構成されたイオンドライブと、
前記複数のガスイオンの第1の部分を選択的に通すように構成された質量フィルタであって、前記複数のガスイオンの前記第1の部分のそれぞれのガスイオンは第1のAMU値を含む質量フィルタと、
前記複数のガスイオンの前記第1の部分を検出し、第1のイオン電流を生成するように構成されたイオンセンサーと、
前記イオンセンサーからの電流を検出する検出装置とを有する質量分析装置であって、
前記検出装置は、
ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークを含み、前記電流を、積分時間の間、電圧勾配に変換するように構成され、さらに、オンになると前記コンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するように構成されたリセットスイッチを含む積分回路と、
前記電圧勾配を複数の電圧サンプルにデジタル化するように構成されたアナログデジタルコンバータ(ADC)と、
一組のモジュールを格納するメモリと、
前記一組のモジュールを実行するプロセッサと有し、
前記一組のモジュール
は、
前記複数の電圧サンプルを解析し、前記電圧勾配の傾きを決定するように構成された解析モジュールと、
前記電圧勾配の前記傾きおよび前記ゲイン設定に基づき、前記電流の大きさを決定するように構成された出力モジュールと、
前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記リセットスイッチにより前記電圧勾配をリセットするように構成された再構成モジュールとを含む一組のモジュールとを有し、
前記解析モジュールは、前記複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定するように構成されたモジュールと、
前記質量フィルタが、ある値の質量電荷比m/zのイオンを通過する状態から、異なる値の質量電荷比m/zのイオンを通過する状態へ調整される際の一時的な摂動の間の前記第1次近似ラインの傾きから、前記摂動が安定した後の前記電圧勾配の前記傾きを予測するように構成されたモジュールとを含む、
質量分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記再構成モジュールは、前記積分時間を調整して、検出速度または検出精度が改善されるように前記コンデンサのネットワークを再構成する、
質量分析装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記積分回路は、前記コンデンサのネットワークに対する
前記電流をオンオフするように構成された入力スイッチをさらに含み、
前記一組のモジュールは、前記電流が前記電圧勾配に変換される間は前記電流が通過し、前記リセットスイッチがオンされ前記電圧勾配をリセットする間は前記電流を遮断するように前記入力スイッチを制御するように構成されたスイッチ制御モジュールをさらに含む、
質量分析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記一組のモジュールは、前記電流を前記電圧勾配に変換することを複数回繰り返すように構成された繰り返しモジュールを含み、前記複数の電圧サンプルは、前記繰り返しにより得られた複数の電圧サンプルの複数のセットを備え、前記解析モジュールは、前記複数の電圧サンプルの複数のセットを平均することにより前記電圧勾配の前記傾きを決定する、
質量分析装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記一組のモジュールは、既知の値の校正用電流を前記積分回路に供給して前記校正用電流から得られた前記電圧勾配の前記傾きを記録することにより、前記積分回路の前記ゲイン設定を校正するように構成された校正モジュールをさらに含む、
質量分析装置。
【請求項6】
質量分析装置のイオンセンサーからの電流を、検出装置を用いて検出する方法であって、
前記質量分析装置は、
複数のガス分子をイオン化して、複数の原子質量単位(AMU)数を含む複数のガスイオンから構成されるイオン流にするように構成されたイオンドライブと、
前記複数のガスイオンの第1の部分を選択的に通すように構成された質量フィルタであって、前記複数のガスイオンの前記第1の部分のそれぞれのガスイオンは第1のAMU値を含む質量フィルタと、
前記複数のガスイオンの前記第1の部分を検出し、前記電流を生成するように構成された前記イオンセンサーと、
前記検出装置とを有し、
前記
検出装置は、ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークおよびそのコンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するためのリセットスイッチを備えた積分回路と、アナログデジタルコンバータ(ADC)と、プロセッサとを含み、
当該方法は、
前記検出装置が、
積分時間の間、
前記ゲイン設定を備えた前記積分回路により前記電流を電圧勾配に変換することと、
前記ADCにより、前記電圧勾配を複数の電圧サンプルによりデジタル化し、前記複数の電圧サンプルにより前記電圧勾配を示すことと、
前記プロセッサにより、前記複数の電圧サンプルを、前記電圧勾配の傾きを決定するために解析することと、
前記電圧勾配の前記傾きと前記ゲイン設定とに基づき、前記電流の大きさを決定することと、
前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記リセットスイッチを介して前記電圧勾配をリセットする、再構成することとを含み、
前記解析することは、
前記複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定することと、
前記質量フィルタが、ある値の質量電荷比m/zのイオンを通過する状態から、異なる値の質量電荷比m/zのイオンを通過する状態へ調整される際の一時的な摂動の間の前記第1次近似ラインの傾きから、前記摂動が安定した後の前記電圧勾配の前記傾きを予測することとを含む、方法。
【請求項7】
請求項
6において、
前記再構成することは、前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記積分時間を調整し、検出速度または検出精度を改善することを含む、方法。
【請求項8】
請求項
6または
7において、
前記積分回路は、前記コンデンサのネットワークに対する前記電流をオンオフするように構成された入力スイッチをさらに含み、
当該方法は、前記電流が前記電圧勾配に変換される間は前記電流が通過し、前記リセットスイッチがオンされ前記電圧勾配をリセットする間は電流を遮断するように前記入力スイッチを切り替えることをさらに含む、方法。
【請求項9】
請求項
6ないし
8のいずれかにおいて、
前記電流を前記電圧勾配に変換することを複数回繰り返すことをさらに含み、前記複数の電圧サンプルは電圧サンプルの複数のセットを備え、前記電圧サンプルの複数のセットを平均することにより前記電圧勾配の前記傾きを決定する、方法。
【請求項10】
質量分析装置を操作するコンピュータのためのコンピュータプログラムであって、
前記質量分析装置は、
複数のガス分子をイオン化して、複数の原子質量単位(AMU)数を含む複数のガスイオンから構成されるイオン流にするように構成されたイオンドライブと、
前記複数のガスイオンの第1の部分を選択的に通すように構成された質量フィルタであって、前記複数のガスイオンの前記第1の部分のそれぞれのガスイオンは第1のAMU値を含む質量フィルタと、
前記複数のガスイオンの前記第1の部分を検出し、第1のイオン電流を生成するように構成されたイオンセンサーと、
前記イオンセンサーからの電流を検出するように構成された検出装置とを有し、
前記
検出装置は、
ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークを含む積分回路であって、前記電流を、積分時間の間、電圧勾配に変換するように構成され、オンになるとコンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するように構成されたリセットスイッチをさらに含む積分回路と、前記電圧勾配を複数の電圧サンプルにデジタル化するように構成されたアナログデジタルコンバータ(ADC)とを含み、
当該コンピュータプログラムは、
前記複数の電圧サンプルを解析して前記電圧勾配の傾きを決定するステップと、
前記電圧勾配の前記傾きと前記ゲイン設定に基づき前記電流の大きさを決定するステップと、
前記電圧勾配の前記傾きに基づき前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記リセットスイッチを介して前記電圧勾配をリセットするステップとを実行するための実行可能なコードを含み、
前記電圧勾配の傾きを決定するステップは、
前記複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定するステップと、
前記
質量フィルタが、ある値の質量電荷比m/zのイオンを通過する状態から、異なる値の質量電荷比m/zのイオンを通過する状態へ調整される際の一時的な摂動の間の前記第1次近似ラインの傾きから、前記摂動が安定した後の前記電圧勾配の前記傾きを予測するステップとを含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高速、低ノイズの電流検出装置、および本装置を用いた、質量分析装置、光学分光装置などのスペクトロメーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スペクトロメーターは、物理現象のスペクトル成分を分離、測定する科学機器である。スペクトロメーターは、スペクトル成分が何らかの形で混合される現象の連続的変化を測定するセンサーを含んでもよい。例えば、光学分野では、スペクトロメーター(光学的スペクトロメーター、光学分光装置、分光計)は、色、周波数、波長などのいわゆるスペクトルにおける光の狭い帯域のそれぞれを分離し、測定してもよく、一方、質量スペクトロメーター(質量分析装置、質量分析計)は、ガス中に存在する原子や分子の質量のスペクトルを測定する。スペクトロメーターは、物理学、天文学、および化学の初期の研究において開発され、定性分析のみならず定量分析の両面で産業用途に用いられている。スペクトロメーターに用いられる、ある種のセンサーは、測定対象の強度および/または分量に対応する電流を出力し、それらのセンサーからの電流を検出する装置が、それらのセンサーを用いるスペクトロメーターにおいて、それらのセンサーの出力を測定、決定、判定または解釈するために必要とされる。
【0003】
スペクトロメーターの設計と実装にあたっての課題は、とりわけ、検出装置または回路が、大きなダイナミックレンジにわたり変化し得る電流を、いかに精度よく、かつ効率的に検出できるか、ということにある。試料の量、あるいは特定の種類の試料の相対濃度または強度に依存するが、例えば、小型で持ち運び可能な、またはバッテリー駆動タイプのスペクトロメーターにおいては、電流は、大きくて100nA(ナノアンペア)、すなわち、10-7A(アンペア)ほどであり、小さいと10fA(フェムトアンペア)、すなわち、10-14Aほどである。このため、電流のダイナミックレンジは、少なくとも7桁ほどの大きさになり得る。したがって、検出装置には、この広いダイナミックレンジの全体を検出できることが要求され、このため厳しい設計要件が課されることになる。加えて、fAレベルの微小電流を検出するために、さらなる厳しい設計要件が課せられる。電子回路は、その役目を果たすよう設計されたシステム内の様々な種類のノイズ源にさらされる。しかしながら、高いオープンループゲインを有するオペアンプを使用する検出回路は、ノイズの影響をより高く受け、飽和状態からの回復時間が長くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、これらの課題と障害とを克服し、高速で低ノイズの検出装置と方法の提供を可能とする装置および方法が、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様の1つは、センサーからの電流を検出する装置である。この装置は、ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークを含み、電流を、積分時間(所定の積分時間の長さ)の間、(積分時間を通じ、積分時間にわたり)電圧勾配に変換するように構成された積分回路を有する。この積分回路は、オンになると、コンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するように構成されたリセットスイッチをさらに含む。この装置は、電圧勾配を複数の電圧サンプルにデジタル化(デジタイズ)するアナログデジタルコンバータ(Analog-to-Digital Converter、ADC)と、一組のモジュール(モジュール一式、モジュールのセット)とをさらに含む。一組のモジュールは、複数の電圧サンプルを解析して電圧勾配の傾き(勾配)を決定するように構成された解析モジュールと、電圧勾配とゲイン設定に基づいて電流の大きさを決定するように構成された出力モジュールと、コンデンサのネットワークを再構成し、リセットスイッチを介して電圧勾配をリセットするように構成された再構成モジュールとを含む。解析モジュールは、複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定するように構成されたモジュールと、リセット後の一時的な摂動の間の前記第1次近似ラインの傾きから、摂動が安定した後の電圧勾配の傾きを予測するように構成されたモジュールとを含む。
【0006】
一組のモジュールは、電圧勾配に基づき、範囲外(Out-of-Range、OOR)状態を決定するように構成された判定モジュールをさらに含んでもよい。再構成モジュールは、OOR状態に基づきコンデンサのネットワークを再構成してもよい。判定モジュールは、電圧勾配と既定の検出可能範囲に基づきOOR状態を予測してもよい。一組のモジュールは、OOR状態に基づき積分時間(所定の積分時間の長さ)を調整する調整モジュールを含んでもよい。再構成モジュールは、コンデンサのネットワークを再構成し、積分時間(所定の積分時間の長さ)を調整し、検出速度または検出精度を改善してもよい。
【0007】
解析モジュールは、複数の電圧サンプルに基づいて第1次近似ラインを決定するように構成されたモジュールと、第1次近似ラインの傾きを電圧勾配の傾きとして特定するように構成されたモジュールとを含んでもよい。
【0008】
積分回路は、コンデンサのネットワークに対する電流をオンオフするように構成された入力スイッチを含んでもよい。一組のモジュールは、電流が電圧勾配に変換される間は電流が通過し、リセットスイッチがオンされ電圧勾配をリセットする間は電流を遮断するように入力スイッチを制御するように構成されたスイッチ制御モジュールを含んでもよい。
【0009】
一組のモジュールは、電流を電圧勾配に変換することを複数回繰り返すように構成された繰り返しモジュールを含んでもよい。複数の電圧サンプルは、繰り返しの結果から得られた、複数の電圧サンプルの複数のセットを備えてもよい。解析モジュールは、複数の電圧サンプルの複数のセットを平均することにより、電圧勾配の傾きを決定してもよい。一組のモジュールは、既知の校正用の電流を積分回路に供給し、校正用の電流から得られる電圧勾配の傾きを記録することにより、積分回路のゲイン設定を校正するように構成された校正モジュールを含んでもよい。
【0010】
この装置は、複数の電圧サンプルのノイズ成分を低減し、複数の電圧サンプルの1つまたは複数の電圧サンプルを生成するように構成された、1つまたは複数のデジタルフィルタを含んでもよい。この装置は、一組のモジュール(モジュールのセット)を格納するメモリ(記録媒体)と、一組のモジュールを実行するプロセッサとを含んでもよい。
【0011】
本発明の異なる態様の1つは、質量分析装置(質量スペクトロメーター)である。質量分析装置は、複数のガス分子をイオン化して、複数の原子質量単位(AMU)数を含む複数のガスイオンから構成されるイオン流にするように構成されたイオンドライブと、複数のガスイオンの第1の部分を選択的に通すように構成された質量フィルタであって、複数のガスイオンの第1の部分のそれぞれのガスイオンは第1のAMU値を含む質量フィルタと、複数のガスイオンの第1の部分を検出し、第1のイオン電流を生成するように構成されたイオンセンサーと、第1のイオン電流を検出する装置とを含んでもよい。
【0012】
本発明のさらに異なる態様の1つは、光学分光装置(光学スペクトロメーター)である。光学分光装置は、電磁気スペクトルの特定の部分の範囲の光の特性を測定し、第1の光電流を生成するように構成された光学センサーと、第1の光電流を検出する装置とを含んでもよい。
【0013】
本発明のさらに異なる態様の1つは、解釈される(解析される)電流シグナルを生成するように構成されたセンサーと、その電流シグナルを検出するための装置とを含むシステムである。
【0014】
本発明のさらに異なる態様の1つは、センサーからの電流を、装置を用いて検出する方法である。この装置は、ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークおよびそのコンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するためのリセットスイッチを備えた積分回路と、アナログデジタルコンバータ(ADC)と、プロセッサとを含む。この方法は、(1)積分時間について(積分時間の間、積分時間にわたり)、ゲイン設定を備えた積分回路により、電流を電圧勾配に変換することと、(2)ADCにより、電圧勾配を複数の電圧サンプルにデジタル化(デジタイズ)し、複数の電圧サンプルにより電圧勾配を示すことと、(3)プロセッサにより、複数の電圧サンプルを電圧勾配の傾きを決定するために解析することと、(4)電圧勾配の傾きとゲイン設定とに基づき電流の大きさを決定することと、(5)コンデンサのネットワークを再構成し、リセットスイッチを介して電圧勾配をリセットすることとを含む。解析することは、複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定することと、リセット後の一時的な摂動の間の第1次近似ラインの傾きから、摂動が安定した後の電圧勾配の前記傾きを予測することとを含む。
【0015】
この方法は、電圧勾配に基づき、範囲外(OOR)状態を判定することを含んでもよい。再構成するステップは、OOR状態に基づきコンデンサのネットワークを再構成することを含んでもよい。OOR状態を判定するステップは、電圧勾配と既定の検出可能な範囲とに基づいて、OOR状態を予測することを含んでもよい。この方法は、OOR状態に基づいて積分時間(所定の積分時間の長さ)を調整することを含んでもよい。再構成するステップは、コンデンサのネットワークを再構成して、積分時間を調整し、検出速度または検出精度を改善することを含んでもよい。
【0016】
解析するステップは、複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定することと、第1次近似ラインの傾きを電圧勾配の傾きとして特定することとを備えてもよい。
【0017】
この方法は、入力スイッチを切り替えて、電流が電圧勾配に変換される間は電流を通し、リセットスイッチがオンされて電圧ランプをリセットする間は電流を遮断することを含んでもよい。この方法は、電流の電圧勾配への変換を複数回繰り返すことを含んでもよく、複数の電圧サンプルは、電圧サンプルの複数のセットを構成し、電圧サンプルの複数のセットを平均することにより、電圧勾配の傾きを決定してもよい。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、スペクトロメーターを含むシステムを操作するコンピュータ用のコンピュータプログラム(プログラム製品)である。スペクトロメーターは、センサーと、センサーからの電流を検出するように構成された装置とを含む。コンピュータプログラムは、以下のステップ、(a)複数の電圧サンプルを解析し、電圧勾配の傾きを決定する、(b)電圧勾配の傾きとゲイン設定とに基づき電流の大きさを決定する、(c)電圧勾配の傾きに基づいて、コンデンサのネットワークを再構成し、リセットスイッチを介して電圧勾配をリセットする、を実行するための実行可能なコードを含む。プログラム(プログラム製品)は、記憶媒体に格納されて提供されてもよい。
【0019】
電流を検出するための本装置およびシステムは、電流の高速および低ノイズの検出を実現するための手段を提供する。本発明により向上した電流検出スキームにより、本装置を備えたスペクトロメーターおよびその他のシステムの性能を大きく改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
非限定で、網羅的でもない本開示の実施形態は、以下の図を参照して説明され、そこでは特定されない限り、様々な図を通して、同様の構成要素には同一符号を付す。
【
図1】
図1は、質量分析計に実装可能な従来のイオン電流検出回路を示す図である。
【
図2】
図2は、従来のイオン電流検出回路の入力および出力波形を示す図である。
【
図3】
図3は、従来のイオン電流検出回路の様々なゲイン設定の波形を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態による電流検出装置の例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施形態によるイオン電流検出装置の一例の様々なゲイン設定の一連の波形を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施形態によるイオン電流検出装置の一例の様々なゲイン設定の異なる一連の波形を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施形態によるイオン電流検出装置の一例の入力および主力波形を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態によるイオン電流検出装置の一例の処理過程のフローチャートである。
【
図9】
図9は、電流検出装置を用いた電流検出方法の一例のフローチャートである。
【
図10】
図10は、本開示の実施形態による質量分析装置の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施形態によるスペクトロメーターの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明では、説明の一部をなす図を用いて、特定の典型的な実施形態が示され、開示される。これらの実施形態は、当業者は本願で開示された概念を実施できる程度に実践できる十分な詳細を以って説明され、本開示の範囲から逸脱しない範囲で、開示された様々な実施形態に対する変更が加えられてもよく、その他の実施形態が用いられてもよいことを理解されたい。したがって、以下の詳細な説明は、開示範囲を限定するような趣旨ではない。
【0022】
質量分析装置は、質量スペクトロメトリーの分析技法において用いられる装置であり、試料物質または化学試料の組成を分析する。質量スペクトロメトリー(質量分布分析)は、試料を構成する成分(原子および/または分子)の濃度を少なくとも相対的に測定または決定することが可能である。試料、一般的には気体状態(ガス状態)の試料は、高エネルギー電子の流れによりイオン化され、試料の原子および/または分子が様々な種類のイオンに変換される。各種のイオンは、特有の質量電荷比(以下「m/z」)を有してもよい。イオン化された試料(以下「イオンフロー」)は、電気的に加速されフィルタに入り、フィルタは特定のm/zを示すイオン(以下「選択されたイオン」)だけを通過させ、その他のイオンは遮断する。選択されたイオンは、フィルタを通過した後、電極に到達し、選択されたイオンにより運ばれた電荷は電極で収集され、電流(以下「イオン電流」)が生成され、検出回路/サブシステムへと流れる。検出回路はイオン電流を測定し、イオン電流の大きさを、通過するイオンに関連する、特定の原子および/または分子の存在数を表すものとして特定する。典型的なフィルタの1つは、4重極質量フィルタ(QMF)である。4重極質量フィルタにより通過可能なイオンのm/zは、4重極マスフィルタに印加される1つまたは複数の高周波(RF)および/または直流電圧により通常は決定される。質量分析装置は、4重極マスフィルタの高周波と直流電圧とを調整するように構成され、通過可能なイオンを特定のm/zのイオンから異なるm/zのイオンへと変化させる。このプロセスを異なるm/z値に対して繰り返すことにより、試料を形成する原子および/または分子の相対的濃度を明らかにすることができる。フィルタは、ウィンフィルタ、飛行時間型分析計(TOF)、イオントラップなどのその他のタイプで実現されてもよい。
【0023】
質量分析装置の設計および実装において、直面する課題の中で困難な課題は、いかにして検出回路により、大きなダイナミックレンジにわたり変化し得るイオン電流を、精度よくかつ効率的に検出できるか、ということである。試料の量(例えば、モル数で測定される)により、また、試料中の特定種類のイオンの相対的濃度に応じて、イオン電流は、大きい場合で100ナノアンペア(nA)、つまり10-7A、小さい場合では、10フェムトアンペア(fA)、つまり10-14Aになり得る。すなわち、イオン電流のダイナミックレンジは、少なくとも7桁の大きさになり得る。このように検出回路は、この大きなダイナミックレンジにわたり(の範囲で)、イオン電流を検出できる必要があり、そのため厳しい設計要求が容易に課される。加えて、fAの範囲で微小電流を検出するには、別の厳しい設計要求が課される。電子回路は、それらが働くよう設計されたシステム内の様々な種類のノイズ源にさらされ、このことは質量分析装置においても同様である。少なくとも、高エネルギーの電子フローの生成、ガス試料のイオン化、イオンフローの加速、および4重極マスフィルタの作動のためには、全て高電圧、高出力および/または高周波発振電圧源が用いられる。これらの電圧源は、電気的ノイズを、敏感な検出回路に簡単に加えることができ、検出回路の電気シグナルを妨害し、測定結果に影響を及ぼす可能性がある。
【0024】
図1は、質量分析装置で一般的に使用されるイオン電流検出回路100の概略図を示す。検出回路100は、演算増幅器(オペアンプ)110を含み、その+側の入力端子は接地されている。フィードバック(負帰還)コンデンサC11は、検出回路100のフィードバックの安定性のために設けられ、その値は、通常10フェムトファラド(fF)から100fFの範囲である。コンデンサC11は、オペアンプ110の出力端子とオペアンプ110の-側の入力端子の間に接続される。抵抗器R11とR12は、ゲイン抵抗器である。抵抗器R11は、コンデンサC11と並列に固定して接続され、抵抗器R12は、スイッチS12が閉またはオンの場合は、コンデンサC11と抵抗器R11と並列で接続されるように構成される。スイッチS12が開またはオフの場合、抵抗器R12は検出回路100と電気的に接続されず、検出回路100の作動には関与しない。質量分析装置の収集電極で収集されたイオン電流105は、入力ノード101を介して検出回路100に流入し、抵抗器R11(スイッチS12がオンなら抵抗器R12)を流れる。抵抗器R11およびR12を流れることにより、イオン電流105は、出力電圧(以下「Vout」)115に変換される。具体的に、抵抗Rがオペアンプ110の出力端子と-側の入力端子の間の総抵抗値を示し、電流Iがイオン電流105の大きさを示す場合、検出回路100は、出力電圧Vout(Vout=IxR)を生成する。即ち、Voutは、Rをゲインとして電流Iに比例し、イオン電流105の大きさに対応するか、または一致する。換言すれば、イオン電流105は、I(I=Vout/R)として導出可能であり、質量分析装置で分析されている試料中の特定種類のイオンまたは分子の存在量の指標として解釈可能である。ゲインRは、スイッチS12を介してプログラム可能であり、それにより、検出回路100に様々なゲイン設定が可能である。例えば、S12が開の時、ゲインR=R11である。S12が閉の時は、ゲインR=R11//R12(R12とR11の並列の合成抵抗)である。異なるゲイン設定は、異なるレベルのイオン電流105に有効である場合がある。例えば、より弱いイオン電流105には、より大きいゲイン設定が要求されてもよく、より大きな(強い)イオン電流105には、より小さいゲイン設定を用いてもよい。
【0025】
実際には、
図1の検出回路100には多くの制限がある。まず、検出回路100は、微弱なイオン電流105を正確に検出することが困難である。明らかに、任意の無限小シグナルを検出することは不可能である。一般的に、電子検出回路には、様々なノイズ源と回路のオフセットが存在し、それらは共に検出回路の最小検出可能レベル、即ち「ノイズフロア」を決定し、ノイズフロアより下では、検出回路は、検出対象のシグナルと、回路が影響を受けるノイズとを区別できない。すなわち、ノイズフロアが検出予定のシグナルより高い場合、そのシグナルはノイズフロアの下に「埋もれ」、この回路による検出は不可能である。個別の電子部品において実現された検出回路100は、通常300マイクロボルト(μV)ほどのノイズフロアを有している。ゲイン設定は、実質的に6e
9(即ち、
6,000,000,000)ほどに限定されるので、300μVのノイズフロアにより、検出回路100の最小検出可能なイオン電流は、約50fAに制限される。即ち、イオン電流105が約50fAかそれを下回ると、検出回路100ではイオン電流105を検出できない可能性がある。6e
9以上のゲイン設定を使用すると、小型質量分析計には収まりきらない程大きなゲイン抵抗が必要になり、それとともに、または、ゲイン抵抗が高くなると、抵抗値の誤差が大きくなるという必然性があり、言うまでもないが、高い値のゲイン抵抗は、検出装置100の主なノイズ源となり、ノイズフロアを著しく上昇させる。したがって、より大きな値のゲイン抵抗を用いると、検出回路100は、50fA以下に検出可能範囲を拡張できないだけでなく、検出回路100の最小検出可能電流レベルに対し負の影響を実際に与え得る。しかしながら、実際の状況においては、高性能な質量分析装置において、10fAあるいはそれ以下のイオン電流の検出が求められることはしばしば起こる。したがって、検出回路100は、この要求を満たすことができない。
【0026】
次に、検出回路100には、実際の検出場面では、長い待機期間(待ち時間)による検出プロセスの遅れが問題となる。
図2に示されている待機期間232および234は、それぞれ長い待機期間の例であり、待機期間232は待機期間234より長い。
図2は、
図1の検出回路100のイオン電流105のグラフ210と、Vout115のグラフ220とを示す。具体的に、グラフ210は、2つのイオン電流波形212と214とを示し、一方、グラフ220は、2つのVout波形222と224とを示す。波形212のイオン電流105が、入力ノード101にて受信されると、それに対応して波形222のVoutがオペアンプの出力端子110にて生成される。同様に、波形214のイオン電流105が、入力ノード101にて受信されると、それに対応する波形224のVoutがオペアンプ110の出力端子にて生成される。イオン電流およびVoutの波形の各セットは、それぞれのm/zのイオンを表してもよい。すなわち、波形212および222は、m/zの特定値のイオンの結果であり、一方、波形214および224は、m/zが異なる値のイオンの結果であってもよい。
【0027】
質量分析装置に実装されたときに、検出回路100で長い待機期間が起こり得る理由は以下の通りである。4重極質量フィルタ(QMF)が、m/zの第1の値(以下「(m/z)1」)のイオンの通過から、m/zの第2の値(以下「(m/z)2」)のイオンの通過に調整される場合、質量分析装置の様々なソースからの容量結合が原因となって、遷移では、通常、瞬間的または一時的にイオン電流が摂動するという結果となり、その遷移では、イオン電流の波形の中に、1つまたは複数の大きな山または谷、またはその両方が表れる。移行フェーズの間にイオン電流を計測すると、複数の山および谷が実際の(m/z)2のイオン電流が誤って読み取られる要因になり得る。(m/z)2のイオン電流の正確な計測を行うために、質量分析装置の検出回路は、この一時的な摂動が収まるまで待つ必要が生じる可能性がある。イオン電流が安定するまでの待機期間は、イオン電流が安定した後の実際の計測より100倍、またはそれ以上に長いかもしれない。長い待機期間中、イオン電流検出は、結果をもたらさず、質量分析装置におけるイオン電流の検出プロセスは劇的に遅延する。
【0028】
この現象は、
図2にはっきりと示されており、
図2ではイオン電流波形212および214のそれぞれと、Vout波形222および224のそれぞれとが、複数の山および谷を含む最初の期間を示す。例えば、質量分析装置のQMFは、時刻t0において(m/z)
1から(m/z)
2へと変化してもよく、イオン電流105およびVout115にそれぞれ対応する波形212および波形222が得られる。説明したように、波形212および波形222は、Vout=IxRという線形関係で定義されたゲインRで関連するため、お互いに似た形状となる。波形212および222はそれぞれ、時刻t0およびt3の間で比較的大きい山と谷とを示し、時刻t3まで安定しない。そのため、検出回路100は、(m/z)
2のイオン電流を示す値v2が得られる前に、時刻t3~t0の長さの待機期間232を待つ必要があるだろう。代表値v2の実際の検出時間は検出期間242として示されており、時刻t4~t3の長さ程度でよい。同様に、質量分析装置のQMFは、時間t0において、m/zの第3の値(以下「(m/z)
3」)からm/zの第4の値(以下「(m/z)
4」)へと変化してもよく、イオン電流105およびVout115にそれぞれ対応する波形214および波形224が得られる。波形214および波形224は、Vout=IxRという線形関係で定義されるゲインRで関連しており、お互いに似た形状を有する。波形214および224のそれぞれは、時刻t0とt1との間で比較的大きな山と谷を示し、時刻t1まで安定しない。したがって、検出回路100は、(m/z)
4のイオン電流を示す値V4が得られる前に、待機期間234を待たねばならず、その待機期間は時刻t1-t0の長さとなる。代表値V4の実際の検出時間は、検出期間244として示されており、その長さは、時刻t2-t1の間である。検出期間242および244は、普通数ミリ秒であり、通常同じ長さであってもよく、検出回路の設計によって決定される。対照的に、待機期間(待機時間)232および234は、異なる長さであってもよく、それらはより制御されにくい傾向があり、または予測されにくい傾向があり、通常数10ミリ秒から数100ミリ秒の範囲である。即ち、質量分析装置のイオン電流検出の殆どの時間は、実際の検出期間242および244ではなく、待機時間232および234で費やされる。
【0029】
図2のグラフ210および220のぞれぞれにおいて、質量分光装置のQMFを調整し、異なるm/z値のイオンを通過させる際の時間に対して、時間軸が正規化されていることに注目すべきである。すなわち、波形212および222において、時刻t0はQMFの設定が(m/z)
1から(m/z)
2へと変更された時間を表す。同様に、波形214および224において、時刻t0はQMFの設定が(m/z)
3から(m/z)
4へと変更された時間を表す。質量分析装置は、通常1つのQMFしか有しないため、波形212および222は、波形214および224と同様に、同時に生成されることはない。波形の2つのセットは、2つの異なる時点、または、試料の「2つの異なるスキャン」において、別々に生成される。したがって、波形212および214は、同時に発生するものではなく、波形222および224も、同時に発生するものではない。
【0030】
検出回路100のノイズフロア201が
図2のグラフ220に示されていることにも注目すべきである。前述の様に、ノイズフロア201の値より低いVout115は、検出回路100で検出されないだろう。波形224を例にとる。波形224は、待機時間234では一時的に、値Vminのノイズフロア201より高いため、待機時間234の間のどこかで検出されるかもしれない。しかしながら、波形224は、時刻t1にて安定した後は、ノイズフロア201より完全に低いため検出不可能である。すなわち、検出回路100は、検出期間244の間に、Vout115の代表値V4を検出するはずであるが、実際は、代表値V4は値Vminより低いために、検出回路100は値V4を検出できない。その代わり、検出回路100は、Vout115を単に0ボルトとして検出するであろう。
【0031】
検出回路100が、Vout115を非常に小さいか、または0に近いと検出する場合、検出回路100は、検出回路100のゲイン設定を増加して、より大きいVout115が得られるか否かを確認してもよい。前述の様に、検出回路100のゲイン設定は、オペアンプ110の出力端子と-側(負側)の入力端子の間の総抵抗Rにより決まる。オペアンプ110の出力端子と負側の入力端子の間の総抵抗Rを増加させることにより、より高いゲインがイオン電流105に印加され、Vout115が高くなり、それによりノイズフロア201より高くなり、検出回路100により検出可能となってもよい。
【0032】
図3は、検出回路100において、イオン電流105の同じ波形311に対応した、様々なゲイン設定(即ち、Rの様々な値)の下でのVout115の様々な波形を示す。前述の様に、Vout=IxRという線形関係にしたがい、より高いゲイン設定に対し、Vout115の値はより高くなる。すなわち、波形322は、波形321より高いR値に対応し、波形323は、波形322より高いR値に対応する。同様に、波形323は、波形322より高いR値に対応し、波形324は、波形323より高いR値に対応し、波形325は、波形324より高いR値に対応する。
【0033】
図3の波形321-325のうち、波形322、323および324のみが検出回路100により検出可能であることに注目すべきである。上述の様に、波形321に対応するVoutの値V1は、ノイズフロア301の値Vminより低いため、波形321は検出不可能である。さらに、波形325に対応するVoutの値v5は、飽和状態の閾値399の値Vmaxより大きいため、波形325も検出不可能である。飽和状態の閾値399の値Vmaxは、検出回路100にとって、Vout電圧の検出可能な最大電圧を表す。Vout115が、Vmaxを超えると、回路100は飽和し、所定の機能を果たさない(例えば、オペアンプ110の高いオープンループゲインが維持されないかもしれない)ため、Vout115とイオン電流105との間のVout=IxRという線形関係が維持されないかもしれない。すなわち、Vout115が、Vmaxとして、またはそれ以上の値で検出される場合、I=Vout/Rの逆算式は、もはや有効ではない。波形321および325の両方は、検出回路100が正しく作動するよう設計されている検出可能範囲内のVoutの範囲の外であるため、「範囲外」または略して「OOR」(Out-of-Range)として参照される。
【0034】
検出回路100において、波形をOOR状態から、VminとVmaxとの間の検出可能範囲に動かす方法は、検出回路100のゲイン設定Rを変化させることである。例えば、Vout115は、オペアンプ110の出力端子と負側の入力端子との間の総抵抗Rを増加させることにより、波形321から波形322、323および324のいずれにも動かすことができる。同様に、Vout115は、オペアンプ110の出力端子と負側の入力端子との間の総抵抗Rを減少させることにより、波形325から波形322、323および324のいずれにも動かすことができる。総抵抗Rは、
図1のスイッチS12をオンオフすることにより、増減できる。しかしながら、抵抗Rの変化により、検出回路100に別の制限が生じる。つまり、検出回路100にとって、あるゲイン設定から異なるゲイン設定に動くプロセスは遅いものとなる。具体的に、fAレンジで弱いイオン電流を検出するために高いゲインを設けると、検出回路100は、
図1のR1やR2として高抵抗の抵抗器を使う必要がある。高抵抗の抵抗器は、検出回路100にとって大きな時定数となり、ゲイン設定の変化のプロセスを遅いものにする。例えば、検出回路100がゲイン設定を変えた後、Vout115が安定するまでに、数100ミリ秒がかかるかもしれない。
【0035】
同じ理由から、検出回路100は、イオン電流105の突然のサージ電流に対する反応が遅い。質量分析装置の実際の作動において、イオンフロー内で、あるイオンの濃度が劇的に高くなることが時折あるかもしれない。高密度のイオンがQMFを通過すると、一時的に高いレベルのイオン電流105が発生したり、「突然のサージ(急増)」の原因となる。突然のサージは、検出回路100を一時的に飽和させ、Vout115がOOR状態に入る要因となる。突然のサージに対してゲイン設定を変更しなくてもよいかもしれないが、突然のサージが過ぎても、検出回路100は、上記で説明された長い時定数のために、飽和状態から回復し、OOR状態から脱するのが遅くなる。
【0036】
上述の制限に加え、
図1の検出回路100などの質量分析装置の従前の検出回路では、高ノイズと低速度が問題となる別の理由がある。例えば、イオン電流105の大きさは、測定されたVout115の値そのものを示すため、検出回路100は、非常に高いオープンループゲインを有するオペアンプ110を用いる必要がある。非常に高いオープンループゲインを設けたオペアンプ110は、よりノイズの影響を受けやすく、飽和状態からの回復時間が長くなることが典型的な問題となっている。
【0037】
本開示は、上述した、
図1に示す従前のイオン電流検出回路100の様々な制約を克服することを目的としている。以下では、高速で低ノイズの検出回路を提供するための斬新な検出技術が説明され、一例として、現在および次世代の質量分析装置のイオン電流検出において用いられるようにカスタマイズされた検出装置が開示される。
【0038】
図4は、センサー(検出器、ディテクタ)490と、センサー490から電流シグナル405を検出するための装置400とが含まれるシステム10の概要を表す。センサー490は、測定対象の大きさ、規模、エネルギー、強度、濃度、または量を決定(判定)するために、解釈(解析、分析)または測定されるための電流シグナル405を発生するように構成され、イオン電流検出器、光電流検出器などであってもよい。高速で低ノイズの電流検出装置(ディテクションデバイス、検出デバイス、回路)400は、イオン電流検出のための質量分析装置に、または光電流検出のための光学分光装置に、または別のスペクトロメーターに実施されてもよい。以下、本発明は、質量分析装置に用いられた装置400を例として参照し、説明される。
【0039】
装置400は、イオン電流検出器490からのイオン電流405を検出する。装置400は、ゲイン設定を設ける(提供する)ためのコンデンサのネットワーク430を含み、電流を、所定の積分時間(長さ)Tiの間(積分時間にわたり、積分時間を通じて)電圧勾配に変換するように構成された積分回路435と、電圧勾配を複数の電圧サンプル(電圧採取値)にデジタル化するアナログデジタルコンバータ440と、複数の電圧サンプルのノイズ成分を低減し、複数の電圧サンプルの1つまたは複数の電圧サンプルを生成するように構成された1または複数のデジタルフィルタ450と、メモリ47とプロセッサ460とを有する。積分回路435は、スイッチがオンになると、コンデンサのネットワーク430の入力401と出力402とを接続するように構成されたリセットスイッチ420と、コンデンサのネットワーク430に対する電流405をオンオフするように構成された入力スイッチ422とをさらに含む。コンデンサのネットワークは、C41、C42およびC43などの複数のコンデンサを含む。コンデンサのネットワーク430は、再構成用のスイッチマトリクス437と、チャネルマトリクス438とをさらに含み、複数のコンデンサを相互に並列および/または直列に柔軟に接続し、複数のコンデンサ間の接続を動的に再構成する。コンデンサのネットワーク430により、最小電気容量と最大電気容量との間の積分ゲインとして、適切な電気容量(容量)を、1つまたは複数のコンデンサにより、例えば、1または複数のクロックまたはサイクルといった短い時間で動的に構成することが可能である。
【0040】
積分回路435は、オペアンプ410を含んでもよく、その非反転端子は、基準電圧に接続されてもよい。基準電圧は、シングルエンド構成の検出装置400用の質量分光装置の電気接地電位であってもよい。あるいは、基準電圧は、コモンモード電圧(同相電圧)であってもよく、それは完全差動構成の検出装置400のための仮想接地電圧として電気的に見られてもよい。リセットスイッチ420は、オペアンプ410の出力端子402と、オペアンプ410の入力端子401である反転入力端子との間に接続されてもよい。リセットスイッチ420は、閉状態はたはオンされたときに、オペアンプ410の出力端子402と入力ノード401とを短絡してもよい。
【0041】
コンデンサのネットワーク(可変リレー)430は、オペアンプ410の入力端子401と出力端子402との間に、リセットスイッチ420と並列に接続されてもよい。オペアンプ410と、リセットスイッチ420と、コンデンサのネットワーク430とをまとめて、イオン電流検出装置400の「積分回路」435と参照されてもよい。コンデンサのネットワーク430は、コンデンサC41、C42、およびC43を含むコンデンサマトリクス439と、スイッチS42、S43、およびS44を含むスイッチングマトリクス437とを含んでもよく、オペアンプ410の出力端子402と入力端子401との間の値Cの全電気容量を設けることができる、プログラマブル(プログラム可能な)、または、可変コンデンサバンクとして機能してもよい。スイッチS42、S43およびS44の内の1または複数を閉状態またはオンすることにより、コンデンサのネットワーク430は再構成され、オペアンプ410の出力端子402と入力端子401との間のコンデンサネットワーク430の電気容量値Cを調整できる。例えば、C41、C42、およびC43のそれぞれが、電気容量値Cunitを有すると仮定すると、コンデンサのネットワーク430は、スイッチS42、S43、およびS44のそれぞれが開状態またはオフのときは、総電気容量C=Cunitとなる。スイッチS42およびS43が両方ともオフで、スイッチS44がオンのときは、コンデンサのネットワーク430は、総電気容量C=1.5・Cunitとなってもよい。スイッチS42がオンされ、スイッチS43およびS44の両方がオフのときは、コンデンサのネットワーク430は、総電気容量C=2・Cunitとなってもよい。スイッチS42およびS43がオンされ、スイッチS44がオフのときは、コンデンサのネットワーク430は、総電気容量C=3・Cunitとなってもよい。以下で明確化される様に、コンデンサのネットワーク430の値Cで、積分回路435のゲイン設定を決定してもよい。7桁の大きさのダイナミックレンジを有するイオン電流405を検出するために、コンデンサのネットワーク430は、スイッチS42、S43、およびS44を様々な組み合わせでオンオフすることによりコンデンサのネットワークを再構成し、コンデンサ430のネットワークの総電気容量Cをプログラムすることにより、広い範囲のゲイン設定を提供してもよい。スイッチS42、S43、およびS44を含むスイッチングマトリクス437は、この理由のために、「レンジスイッチ」437として参照されてもよい。
【0042】
本実施形態では、検出装置400は、アナログデジタルコンバータ(ADC)440と、1または複数ステージのデジタルフィルタ450(
図4にて「FIR」として示される)と、プロセッサ460とを含む。ADC440は、オペアンプ410の出力端子402に現れるアナログシグナルであるVout415の電圧勾配(電圧傾斜、傾斜電圧、voltage ramp)をデジタル化して、デジタル化された複数のサンプルを提供してもよく、デジタル化された複数のサンプルは全体で電圧勾配Vout415の電圧勾配を表す。ADC440により出力される複数のデジタルサンプルは、プロセッサ460に受信され、解析される前に、1つまたは複数のステージのデジタルフィルタ450を通過してもよい。プロセッサ460は、デジタルフィルタ450から受信した複数のデジタルサンプルを解析(分析)し、スイッチングマトリクス437を用いてコンデンサのネットワーク430を再構成し、コンデンサのネットワーク430のゲイン設定を調整し、および/または、リセットスイッチ420を制御してもよい。プロセッサ460は、複数のデジタルサンプルに基づいて、イオン電流405の大きさ、参照値、説明、あるいは性能指数470を決定してもよい。ADC440と、デジタルフィルタ450およびプロセッサ460のさらなる詳細については、以下において説明される。
【0043】
いくつかの実施形態では、検出装置400は、プロセッサ460に制御されてイオン電流405を通過または遮断する入力スイッチ422を含んでもよい。入力スイッチ422は、検出装置400のリセット作動の間、コンデンサ430のネットワークを短絡するリセットスイッチ420と連動して制御されてもよい。具体的に、プロセッサ460は、検出装置400の通常作動の間、スイッチ420が開(即ち、オフ)となり入力スイッチ422が閉(即ち、オン)となるようにリセットスイッチ420と入力スイッチ422とを制御し、イオン電流405がコンデンサのネットワーク430を流れるようにしてもよい。逆に、検出装置400のリセット作動のときは、プロセッサ460は、リセットスイッチ420が閉(即ち、オン)となり、入力スイッチ422が開(即ち、オフ)となるように、リセットスイッチ420と入力スイッチ422とを制御し、コンデンサのネットワーク430を短絡させ、Vout415を0にリセットしてもよい。入力スイッチ422がオフにされると、イオン電流405がリセットスイッチ420(非ゼロのオン抵抗を有してもよい)へ流入することと、オペアンプ410の出力端子402と入力端子401に望ましくない電圧降下が生じることとが防がれる。
【0044】
積分回路435は、オペアンプ410と、リセットスイッチ420と、コンデンサのネットワーク430を含み、所定の時間間隔(積分時間)Tiにわたりイオン電流405を積分し、イオン電流405を、オペアンプ410の出力端子402における出力電圧Vout415として出力される電圧勾配に変換してもよい。コンデンサのネットワーク430の総電気容量をCとし、イオン電流405の大きさをIとし、積分時間の長さをTiとすると、積分回路435は、Vout(Vout=I・Ti/C)を生成してもよい。すなわち、X軸が積分時間Ti、Y軸がオペアンプ410による電圧Voutの出力とする2次元平面において、Voutは、I/Cの傾きの線形勾配として表されてもよい。したがって、Voutの傾き(スロープ、勾配)は、ゲイン1/Cで電流Iに比例してもよく、イオン電流405の大きさを表す(代表する)か、または、それに対応するものであってもよい。別の言い方をすると、イオン電流405は、I=Vout・C/Tiとして導出(逆算)されてもよく、質量分析装置10により分析される試料中の特定のm/zを有するイオンまたは分子の存在量が表示されていると解釈されてもよい。
【0045】
ADC440は、10から20マイクロ秒(μs)の時間で分離されたパルスによって正確に時間計測された変換開始パルスにより、アナログデジタル変換を行ってもよい。ADC440は、24ビット構造であってもよく、20から21の有効ビット数(Effective Number of Bits、ENOB)を有してもよい。
【0046】
ADC440がアナログ入力のあるサンプルに対する変換を完了した後、デジタル化された複数の電圧サンプルは、デジタルフィルタ450を通過し、さらなる分析のためにプロセッサ460に受信されてもよい。プロセッサ460は、ADC440により供給され、デジタルフィルタ450を通過した、Vout415のデジタル化された複数のサンプルに基づき、Vout415が装置400の検出範囲外か否かを決定(詳細は後述)してもよい。プロセッサ460が、Vout415が検出範囲外であると決定すると、プロセッサ460はコンデンサのネットワーク430を再構成し、および/または、積分時間Tiの長さを調整することにより、Vout415を装置400の検出範囲内に戻してもよい。
【0047】
本実施形態において、メモリ47に格納されたプログラム(プログラム製品、ソフトウェア、アプリケーション)48は、ホストプロセッシングシステム(プロセッサ)460で稼働し、この装置400の処理、論理および解析を実装するための一組のモジュール(モジュール一式、モジュールのセット)480を機能させ、それとともに他の処理を行うために提供されている。アプリケーションソフトウェア48は、プロセッサ460またはその他のタイプのコンピュータにより読み取り可能なその他の記憶媒体で提供されてもよい。一組のモジュール(モジュールのセット)480は、モニタリングや測定等の作動条件を最適化するように構成された最適化モジュール481と、複数の電圧サンプルを解析(分析)し、電圧勾配の傾きを決定するように構成された解析モジュール(分析モジュール)482と、電圧勾配に基づき範囲外(OOR)状態を判定するように構成された判定モジュール483と、傾き、OOR状態、および/またはその他の最適化条件に応じてコンデンサのネットワーク430を再構成し、リセットスイッチを介して電圧勾配をリセットするように構成された再構成モジュール484と、OOR状態および/またはその他の最適化条件に応じて積分時間Tiの長さを調整するように構成された調整モジュール485と、入力スイッチ422およびリセットスイッチ420を制御するように構成されたスイッチ制御モジュール486と、電流を電圧勾配に変換することを複数回繰り返すように構成された繰り返しモジュール487と、電圧勾配の傾きとコンデンサのネットワーク430のゲイン設定に基づき電流の大きさを決定するように構成された出力モジュール488と、テスト電流(キャリブレーション電流)出力ユニット426により、既知の値のキャリブレーション電流を積分回路435に送り、キャリブレーション電流から生じた電圧勾配の傾きを記録することにより、積分回路435のゲイン設定を校正(キャリブレーション)するように構成された校正(キャリブレーション)モジュール489とを含む。
【0048】
解析モジュール482は、複数の電圧サンプルに基づく第1次近似ラインを決定するように構成されたモジュール482aと、その第1次近似ラインの傾きを、電圧勾配の傾きとして特定するように構成されたモジュール482bとを含んでもよい。スイッチ制御モジュール486は、入力スイッチ422を制御し、電流405が電圧勾配に変換される間は電流405を通過させ、リセットスイッチ420がオンされ電圧勾配をリセットする間は電流405を遮断するように構成される。繰り返しモジュール487は、電流405を電圧勾配に変換する処理を複数回繰り返すように構成され、複数の電圧サンプルが、繰り返しから得られる複数の電圧サンプルの複数のセット(複数組の複数の電圧サンプル)を備え、解析モジュール482は、複数の電圧の複数のセットを平均することにより電圧勾配の傾きを決定する。
【0049】
図4の装置400は、ノイズフロアおよびサチュレーション閾値(飽和閾値)の影響を受け、これらによりVout415に対する検出回路の検出可能範囲が定義されてもよい。コンデンサネットワーク430のゲイン設定を適切に選択すること(即ち、コンデンサのネットワーク430の適切に選択された総電気容量C)が、Vout415を検出可能範囲に保つために必要であってもよい。解析モジュール482が、受信したVout415の複数のサンプルを解析する間、判定モジュール483は、Vout415が範囲外であることを判定または予測し、再構成モジュール484は、コンデンサのネットワーク430を再構成し、ゲイン設定を調整してもよい。コンデンサのネットワーク430の新たなゲイン設定により、積分回路435が、再度積分を行い、Vout415に対する新たな電圧勾配を構築する前に、再構成モジュール484は、リセットスイッチ420を制御し、またはオンすることにより、電圧勾配をリセットし、Vout415を0に戻してもよい。コンデンサのネットワーク430のゲイン変更の直後にVout415をリセットすることは、ゲイン変更後にVout415が素早く安定するために非常に重要かもしれない。これに対し、検出回路100は、リセットスイッチを備えていないため、前述のように、回路100のゲイン設定が変更されると、長い安定化のための時間を要する可能性がある。ちなみに、検出回路100は、通常、安定するのに数100ミリ秒かかる可能性があり、一方、検出回路400は、通常、安定するのにたった1ミリ秒、またはそれ以下しか要しないだろう。したがって、ゲイン設定の変更を含めても、装置400では、検出速度は大幅に改善可能である。同様に、前述したような検出回路100のイオン電流105における突然のサージと同様にイオン電流405において突然のサージがあっても、リセットスイッチ420の作動によって急速に安定し得る。
【0050】
電気機械式リレーは、リセットスイッチ420として、およびコンデンサのネットワーク430の積分フィードバックコンデンサの間のスイッチングマトリクス437として、放電のために使用されてもよい。MOSリレー駆動メカニズムは電荷注入を最小にできるので、これらのスイッチを制御するために使用されてもよい。電気機械式リレーおよびMOSリレー駆動メカニズムを用いる設計は、実際に起こり得る残余電荷注入の影響を補償するために好適である。
【0051】
図5は、波形511のイオン電流405から得られるVout415の波形を示す。イオン電流405は、装置400の入力ノード401を通り、その後、コンデンサのネットワーク430を通過して流れ、オペアンプ410の出力端子402にVout415を構築してもよい(増大させてもよい)。コンデンサの再構成可能なネットワーク430は、検出装置400に対し、いくつかのゲイン設定の1つを提供(設定)してもよい。それぞれのゲイン設定は、コンデンサのネットワーク430の総電気容量Cにより決定され、いくつかの電圧勾配521、522、523、524、および525の1つに対応してもよい。上記で説明された様に、電圧勾配521、522、523、524、および525のそれぞれの傾きは、I/Cとして表わされてもよい。したがって、イオン電流405の所定の波形511に対し、コンデンサのネットワーク430の電気容量Cの値が高いほど、対応する電圧勾配の傾きは小さくなってもよい(すなわち、傾きが緩い)。例えば、
図5において、電圧勾配521は、電圧勾配522に対応する値Cよりも大きな値Cに対応しており、電圧勾配521の傾き571は、電圧勾配522の傾き572より小さい。同様に、電圧勾配522は、電圧勾配523に対応する値Cよりも大きな値Cに対応しており、電圧勾配522の傾き572は、電圧勾配523の傾き573より小さい。同様に、電圧勾配523は、電圧勾配524に対応する値Cよりも大きな値Cに対応しており、電圧勾配523の傾き573は、電圧勾配524の傾き574より小さい。
【0052】
図5は、検出回路400が影響を受ける可能性のある、値Vminのノイズフロア501と、値Vmaxのサチュレーション閾値(飽和閾値)599とを示す。Vout415は、積分時間505の端で、Vmaxより高くても、またはVminより低くてもよく、検出回路400が適切に検知できないかもしれないOOR状態であってもよい。
図5に示すように、時間(長さ)Tの積分時間505により、波形521は、積分の終わりの時点でVminより低く、OOR状態である可能性がある。一方、波形523および524は、積分の終わりの時点で、値Vmaxの飽和閾値599を超え、OOR状態である可能性があり、検出不可能である。すなわち、積分時間505がTに設定された場合は、検出回路400は波形522と525とを検出可能であり、波形521、523および524はOOR状態である可能性があり検出できない。したがって、コンデンサのネットワーク430は、積分時間505の終わりの時点で、Vout415の電圧勾配が装置400の検出可能範囲内にあるような、適切なゲインを提供する(設ける)ように適切に設定される必要があるであろう。
【0053】
図5に示すように、検出装置(回路)400の検出可能範囲は、Vminより上でVmaxより下のVoutの範囲である。コンデンサのネットワーク430の1以上のゲイン設定により、Vout415の電圧勾配を検出回路400の検出可能範囲内に収めることが可能である。例えば、
図5において、傾き572を有する波形522と、傾き575を有する波形525との両方が積分時間505の端(終端)においても検出回路400の検出可能範囲内であるが、波形525のコンデンサのネットワーク430のゲイン設定が波形522よりも大きく、波形525の傾き575が波形522の傾き572より大きい。両者ともに検出回路400の検出可能範囲内にあるが波形525の方が波形522より望ましく、それは、積分時間505の終端において、波形522に対し波形525のVout415がより高い値に到達するからである。すなわち、波形525は、検出回路400の検出可能範囲のより大きな範囲を利用でき、ADC440によるデジタル化の処理が、より容易かつ正確になる。
【0054】
本開示による検出回路400と、従来型の検出回路100とを比較する際、
図3に示された検出回路100の波形と、
図5に示された検出回路400の波形とを比較することにより、その大きな違いが容易に理解される。検出回路100では、イオン電流105の大きさはVout115の値そのものにより示され、一方、検出回路400では、イオン電流405の大きさはVout415の値そのものではなく、Vout415の電圧勾配の傾きにより示される。いくつかの実施形態では、コンデンサのネットワーク430のゲイン設定(即ち、電圧勾配Vout415の傾きとイオン電流405の大きさとの間の関係)は、キャリブレーションモジュール(校正モジュール)489とテスト電流供給ユニット425とを使用して、検出回路400に既知の電流を流すことにより校正(キャリブレーション)されてもよい。テスト電流供給ユニット425は、テスト電流426の電源(ソース)と、校正モジュール489に制御される切り替えスイッチ427とを含む。すなわち、検出装置400は、スイッチ422と427とを必要に応じて交互に切り替えることにより、既知の大きさの電流(テスト電流)をイオン電流405として受信する(受け入れる)ように構成されていてもよく、校正モジュール489は、その際の電圧勾配Vout415を解析し、電圧勾配の傾きと既知の電流値とを相互に関連付けてもよい。このようなキャリブレーションは、コンデンサのネットワーク430のそれぞれのゲイン設定(即ち、電気容量設定の各々)に対して実行されてもよい。そして、そのようなゲイン設定の各々のキャリブレーションを複数回行い、その複数回の結果を繰り返しモジュール487で平均化し、それぞれのゲイン設定のキャリブレーションをより正確に行ってもよい。
【0055】
Vout415の値そのものではなく、Vout415の電圧勾配の傾きを検出することによって、様々な利点がもたらされる可能性がある。例えば、Vout415の波形をOOR状態から動かす際に、検出装置400は、コンデンサのネットワーク430によりゲイン設定Cを調整しなくてもよい。代わりに、装置400は、調整モジュール485により、積分時間Tiを延長または短縮することを選択して目的を達成してもよい。
図5に示された様に、イオン電流405が非常に小さい(低いレベルである)ために波形521の上昇は緩やかである。波形521は、積分時間Tiの間はノイズフロア501の下に留まるかもしれないが、波形521は、傾き571で時間と共に上昇を続けるであろう。コンデンサのネットワーク430の総電気容量Cを変えなくても(即ち、装置400の積分回路435のゲイン設置を変えることなしに)、より長い積分時間Tiにすることにより、波形521はノイズフロア501(値Vmin)を超え、検出装置400により検出可能になってもよい。すなわち、装置400の利点は、より長い検出時間Tiと引き換えに、微弱なイオン電流405を測定する能力が得られる柔軟性にある。積分回路のゲインが既に最大設定(即ち、コンデンサのネットワーク430の総電気容量Cが既に最小)で、総電気容量Cをさらに低い値に切り替えることによりVout波形の傾きを増す方法が無い場合において特に有効である。つまり、検出回路100とは異なり、十分に長い積分時間Tiが許されるのであれば、検出装置400のノイズフロアは、装置400により微弱なイオン電流405を測定する際の制限とはならない。測定速度と引き換えに測定感度が得られるといった柔軟性(フレキシビリティ)は、検出装置100ではなし得ない。検出装置400のノイズフロア501が、検出回路100のノイズフロア301と同じであっても、検出装置400のフレキシビリティにより、検出回路100が検出できるよりも低いレベルのイオン電流405を測定時間を延ばすことにより検出することが可能になる。いくつかの実施形態では、検出装置400は、検出時間50マイクロ秒以内で10ピコアンペア(pA)程度の微弱なイオン電流405を検出することができる。
【0056】
測定速度と引き換えに測定感度が得られるというフレキシビリティは、イオン電流405が強い場合にも有効である。前述の様に、
図1の検出回路100では、検出時間は決まっているのに対し、
図4の検出装置400では、より強いイオン電流405に対しては検出時間をより短縮することができ、これにより質量分析装置10は、より速いスキャン速度を達成できる。例えば、
図5に示されている様に、解析モジュール482が波形523に基づき傾き573を決定するのに積分時間Tiの全部の時間(長さ)Tを使う必要がなくてもよい。積分時間Tiが0.75T、または0.5Tに短縮されても、解析モジュール482は、波形523に基づき傾き573を決定できる。すなわち、装置400では、Vout415の複数のサンプルは、波形523の最初の3/4、または最初の1/2で傾き573を決定するのに十分である。積分時間Tiを短縮することは、イオン電流の検出プロセスの検出速度を50%または100%改善することになり、これにより、検出装置400を備えた質量分析装置10の測定効率を高めることができる。最適化モジュール481は、再構成モジュール484によりコンデンサのネットワーク430のゲイン設定を調整するか、調整モジュール485により積分時間Tiを調整するか、またはその両方で調整することを判定してもよい。Vout415も、リセットスイッチ420を開閉すること(および、いくつかの実施形態では、イオン電流405を遮断または通す入力スイッチ422も同様に)により、同時に接地電位にリセットされてもよく、コンデンサのネットワーク430の新しいゲイン設定、および/または、新しい長さの積分時間Tiに伴う、Vout415の新しい電圧勾配に対し明確な基準を設けることができる。
【0057】
Vout415の値そのものではなく傾きを検出することの別の重要な利点は、検出装置400における、オフセットなどの誤差要因に対する耐性が高いことである。例えば、検出装置100および400は双方、ある程度のDCオフセット誤差の影響を受ける。回路100に現れるDCオフセット電圧は、イオン電流105の測定の読み取り誤差の要因となるのに対し、同じDCオフセットは、イオン電流405の測定においては測定誤差の要因とならない。
図3に示される様に、オペアンプ110の出力端子に示されるDCオフセット電圧Vosは、波形323を波形3231にシフトし、その結果、Vout115を示す値がv3から(v3+Vos)にシフトすることになり得る。検出回路100はプラス方向に10%のVosがある(すなわち、Vos=0.1・v3)とすると、測定されたイオン電流105は実際よりも10%高くなり、テスト中の試料の、対応するイオンの相対的濃度においては10%のエラーにつながる。しかしながら、検出装置400の場合、DCオフセット電圧Vosは、Vout415の波形の傾きを変えず、イオン電流405の測定における誤差を引き起こさない。
図5に示される様に、オペアンプ410の出力端子402にDCオフセット電圧5531(値Vos)が現れても、波形523が波形5231にシフトする。しかしながら、波形5231の傾き5731は、波形523の傾き573と実質的に同じである。したがって、検出装置400のDCオフセット電圧5531によっては測定中の誤差は誘発されない。
【0058】
Vout415のアナログ電圧勾配がプロセッサ460において解析される前にADC440によりデジタル化される際に、様々な技術がデジタル領域で実行されてもよく、それにより、実用的な不完全さに対する検出装置400の耐性をさらに強化できる。
図6には、
図5に示されたのと同様の波形のセット(一連の波形)が、より実際的に詳細を含めて示されている。イオン電流波形511と比較し、イオン電流波形611はいくらかの変動を含み、その変動は、質量分析装置内の様々な高電圧、高出力、または高周波をソースとする容量結合(容量カップリング)に起因するものであってもよい。Vout=I・Ti/C(Iはイオン電流405の大きさ、Tiは積分時間の長さ、Cはコンデンサのネットワーク430の総電気容量を表す)という基本的な関係によると、Vout波形621、622、623、および624も、電流波形611における変動(振動、フラクチュエーション)に対応するいくらかの変動を含んでもよく、それぞれの波形621、622、623、および624は、コンデンサのネットワーク430の異なるゲイン設定に対応したものである。電圧勾配624を例にとる。波形624をデジタル化した複数のサンプルも、その中に変動が含まれるが、ADC440に続く、1つまたは複数のステージのデジタルフィルタ450により、第1オーダーまで変動は低減または除去されてもよい。解析モジュール482のモジュール482aは、デジタルフィルタ450から出力され、フィルタされた複数のデジタルサンプルを処理して、それらの中の非理想的なものを低減して、Vout415における電圧勾配の波形624に最も近い第1次近似(第1次フィッティング)ライン664を得てもよい。次に、第1次近似(第1次フィッティング)ライン664の傾き674は、解析モジュール482のモジュール482bにより決定され、波形624の傾きとして特定され、それは、質量分析装置で分析される試料中の所定のm/zのイオンまたは分子の量を示す値として提供される。
【0059】
いくつかの実施形態では、コンデンサのネットワーク430の所定のゲイン設定に対する電圧勾配、すなわち、波形621、622、623、および624の測定は、繰り返しモジュール487により複数回繰り返されてもよく、その繰り返しの間に、解析モジュール482はそれらを平均し、Vout415の電圧勾配をより正確に得てもよく、それにより、電圧勾配の傾きをより精度よく決定してもよい。複数の電圧勾配を平均化することにより、イオン電流波形に含まれるシグナルノイズ比を効率的に改善できる。例えば、コンデンサのネットワーク430のゲイン設定を変えずに、検出装置400はリセットして(リセットスイッチ420をオンして)Vout415を0にし、リセットスイッチ420をオフして最初のVout415の電圧勾配を取得し、再度リセットしてVout415を再び0にして次の(2回目の)Vout415の電圧勾配を取得し、さらに、再度リセットしてVout415を再び0にして3回目のVout415の電圧勾配を取得してもよい。次に、解析モジュール482は、ADC440からそれら3つの勾配(それらはFIR450を通過しても、しなくてもよい)の複数のサンプルを取得し、それら3つの勾配の複数のサンプルを平均し、より正確なVout415の電圧勾配を取得し、それとともに、電圧勾配の傾きをより精度よく決定してもよい。
【0060】
前述したように、いくつかの実施形態では、質量分析装置のQMFが、ある値のm/zのイオンを通過する状態から、異なる値のm/zのイオンを通過する状態へ調整される際に、1つまたは複数の大きな山と谷、またその両方がイオン電流に含まれることがある。
図2に、この現象が
図1の検出回路100に起きた場合を示している。検出装置100は、この一時的な摂動が消滅するまで待機することにより、イオン電流に対するこの大きな一時的な摂動に対応する。この結果、検出プロセスにおいて、待機時間234および232といった、著しく長い待機期間が浪費される。
【0061】
一方、検出装置400は、大きな一時的な摂動の間のVout波形を利用して、一時的な摂動が安定した後のVout波形に最もよく適合し得る第1次近似カーブの傾きを予測するという強みを有することができる。
図7は、
図2のイオン電流波形214と同一のイオン電流波形714を示す。
図7は、さらに、検出装置400に印加されたイオン電流波形714から得られるVout波形724を示す。イオン電流714が安定するまで、期間734を要してもよい。時刻t0とt1との間の大きな一時的な摂動が安定したとき、第1次近似ライン764は、時刻t1の後のVout波形724に最もフィットし得る。高度なアルゴリズムと複雑なデジタルフィルタリングにより、解析モジュール482は、期間734の間のVout波形724に基づき、傾き774を推定、外挿、または概算してもよい。即ち、検出装置400は、適度な許容可能な傾き774の推定値を得る前に、期間734が経過することを待つ必要はない。この方法で推定または近似された傾き774は、時刻t1のVout波形724にのみ基づくものほど正確ではないかもしれないが、合理的に近似した結果を与える可能性があり、この方法では、QMFのそれぞれのスキャンの後にVoutが安定するのを待つ時間を不要として、試料の検出結果が迅速に提供される必要がある場合に特に有益である。
【0062】
上述の主たる理由に加え、少なくとも次のいくつかの理由により、回路100と比べ、検出装置400は、質量分析装置において高速、低ノイズのイオン電流検出回路を実現できる。第1に、検出装置100のゲイン設定が高抵抗抵抗器により実現されるのに対し、装置400では、ゲイン設定は、コンデンサのネットワークと、低インピーダンスのレンジスイッチにより実現され得る。高抵抗抵抗器はそれ自体がノイズ源であるのに対し、コンデンサはそれ自体がノイズフィルタリングである。したがって、検出装置400は、検出装置100と比べ本質的に低ノイズ設計である。第2に、オフセットに敏感であるために、検出装置100は、オペアンプ110の非常に高いオープンループゲインを必要とする。高いオープンループゲインのオペアンプは、ノイズを拾う傾向があり、オペアンプが一度飽和状態になると回復が遅くなる。これに対し、Vout415の傾きがDCオフセット電圧には敏感ではないため、装置400で使用されるオペアンプ410は、高いオープンループゲインが要求されない。したがって、オペアンプ410は、ノイズを拾う傾向が低く、飽和状態からの回復はより早くなり得る。第3に、
図5のノイズフロア501は、
図3のノイズフロア301より、そもそもずっと低い。ノイズフロア501が低ければ、様々な信号処理/デジタルフィルタリング技術の使用が可能であり、デジタル領域における不要なシグナルおよびランダムなノイズを低減できる。検出回路100は、ノイズフロア301がより高いことから、デジタルフィルタリングまたはシグナルプロセッシング技術を活用して、不要なシグナルを低減またはフィルタで除去できない可能性がある。
【0063】
図8は、本開示に関連するシステムにおいて、電流を検出するための例示的なプロセス800を示している。
図8には、質量分析装置においてイオン電流を検出するためのプロセス800を例示する。プロセス800は、1つまたは複数の処理、動作、または機能を含み、810、820、830、840、850、および860のブロックとして示される。プロセス800においては、ブロックに分けて、ブロックを変えて示されているが、追加のブロックに分割されたり、より少ないブロックと結合されたり、または削除されてもよく、実装に応じて変えることができる。プロセス800は、イオン検出装置400として実施されてもよい。プロセス800は、ブロック810から始まってもよい。
【0064】
810において、プロセス800は、検出装置400の積分回路435が、イオン電流405を、アナログ領域の電圧勾配を示す電圧シグナル415に変換することを含んでもよい。積分回路435は、
図4に示される様に、オペアンプ410と、リセットスイッチ420と、コンデンサのネットワーク430とを含んでいてもよい。変換するステップ810は、積分時間Tiにわたり継続してもよい。イオン電流405は、
図6の波形611を有してもよく、Vout415は、コンデンサのネットワーク430のゲイン設定に依存して波形621、622、623または624を有してもよい。ブロック810の後に、ブロック820が続いてもよい。
【0065】
820において、プロセス800は、ADCが、Vout415の電圧勾配をアナログ領域からデジタル領域の複数の電圧サンプル(電圧採取、電圧採取値)へとデジタル化することを有してもよい。ADCは、
図4の装置400のADC440であってもよい。デジタル化された複数の電圧サンプルは、アナログ領域内のVout415の電圧勾配を等価に示す(代表する)ものであってもよい。ブロック820の後に、ブロック830が続いてもよい。
【0066】
830において、プロセス800は、直列に接続された1または複数のデジタルフィルタが、複数のデジタル電圧サンプルから不必要なノイズおよび/またはその他の非線形成分を除去または抑制することを含んでもよい。1つまたは複数のデジタルフィルタは、
図4に示される様に、装置400のデジタルフィルタ450の1つまたは複数のステージを含んでもよい。ブロック830の後に、ブロック840が続いてもよい。
【0067】
840において、プロセス800は、1つまたは複数のデジタルフィルタを通過した複数のデジタルサンプルを解析するプロセッサを有してもよい。プロセッサは、
図4のプロセッサ460であってもよい。プロセッサ460に実装された判定モジュール483の解析に従って、プロセス800は、積分回路435によりイオン電流405から変換された電圧勾配が、プロセス800の検出範囲外(OOR)か否かを判定(決定)してもよい。例えば、
図6に示される波形621を有するVout415に対し、このプロセス800において、判定モジュール483は、Vout415が積分時間Tiの終端においてノイズフロア601より下の値を有することから、Vout415が検出範囲外(範囲外、OOR)であると判定してもよい。別の例としては、
図6に示される波形623を有するVout415に対し、判定モジュール483は、Vout415が積分時間Tiの終端においてサチュレーション閾値(飽和閾値)699を超える値を有することから、Vout415が範囲外(OOR)であると判定してもよい。一方、
図6に示される波形622を有するVout415に対し、判定モジュール483は、Vout415が積分時間Tiの終端においてノイズフロア601と飽和閾値699との間の値を有することから、Vout415が範囲外ではないと判定してもよい。840において、判定モジュール483は、時間節約のために、電圧勾配とあらかじめ設定された検出可能範囲に基づいて、積分時間Tiの終了前にOOR状態を予測してもよい。プロセス800において、判定モジュール483が、積分回路435によりイオン電流405から変換された電圧勾配がOORであると判定されると、プロセス800は、OOR状態をポジティブ(可能性が高い)と判定してもよい。その他のときは、プロセス800は、OOR状態をネガティブ(可能性が低い)と判定してもよい。OOR状態がポジティブとの判定により、ブロック840の後にブロック850が続いてもよい。あるいは、OOR状態がネガティブとの判定により、ブロック840の後にブロック860が続いてもよい。
【0068】
850において、プロセス800は、ネットワークコンデンサ430を再構成し、積分回路435のゲイン設定を調整することを含んでもよい。850において、再構成モジュール484は、装置400のコンデンサのネッワーク430の総電気容量を調整してもよい。代わりに、または、それとともに、プロセス800は、その間、イオン電流405が電圧勾配Voutに変換される積分時間Tiの長さを調整することを含んでもよい。例えば、調整モジュール485は、波形623を有する電圧勾配415に対し、積分時間TiをTから0.75Tに短縮してもよい。ブロック850の後に、ブロック810が続いてもよい。
【0069】
860において、プロセス800は、アナログ電圧のデジタル化した複数の電圧サンプルを解析して、電圧勾配の傾きを決定することを含んでもよい。解析モジュール482は、アナログ電圧勾配をデジタル化した複数の電圧サンプルを最もよく表す第1次近似(第1次フィッティング)ラインを決定し、第1次近似ラインの傾き(勾配)をアナログ電圧勾配の傾きとして特定(決定)してもよい。例えば、解析モジュール482は、波形622の電圧勾配に最もよく適合(フィット)する第1次近似ライン662を決定し、第1次近似ライン662の傾き672を波形622の傾きとして特定してもよい。傾き672は、イオン電流405の大きさを表してもよい。プロセス800は、電圧勾配の傾きとゲイン設定に基づき、イオン電流405の大きさを決定することを含んでもよく、質量分析装置で分析される試料中の特定のm/zを有するイオンまたは分子の量(存在度)を示すものとして解釈されてもよい。プロセス800は、ブロック860で終了してもよい。
【0070】
図9は、装置400を用いてセンサー490からの電流を検出するための方法(プロセス)900の一例を示している。方法900が開始されると、ステップ910において、スイッチングモジュール486は、リセットスイッチ420と入力スイッチ422とを設定してもよい。初めに、入力スイッチ422はオフされて、電流405を遮断してもよく、リセットスイッチ420はオンされて、コンデンサのネットワーク430をリセットしてもよく、次に、リセットスイッチ420はオフされて、積分が開始され、入力スイッチ422はオンされて、電流405が流れ、積分回路435により電圧勾配に変換してもよい。ステップ912において、解析モジュール482は、複数の電圧サンプルを解析(分析)し、
図8に記述されたプロセス800により、電圧勾配の傾きを決定してもよい。ステップ913において、解析中または解析後に、もしOOR状態が判定モジュール483により判定され、または予測されると、ステップ915において、スイッチングモジュール486はリセットスイッチ420をオフして、電圧勾配に再変換するために、コンデンサのネットワーク430を再構成してもよい。
【0071】
OOR状態がステップ913では見つからないとしても、ステップ914において、最適化モジュール481は、測定速度、測定感度、測定精度の観点から、決定された傾き、積分時間Tiなどの状態または状況を検討(チェック)してもよい。決定された傾きがそれほど大きく(鋭い、急角度)なく、飽和閾値599または699に基づいて、より大きい傾きが選択可能な場合は、コンデンサのネットワークのゲインを変更し、より大きい傾きを選択することは、積分時間Tiを最小化することに役立ち、装置400の検出時間が短縮でき、特に繰り返し測定が選択される場合は短縮される可能性がある。一方、速度よりも測定精度が要求される場合で、決定された傾きがそれほど小さくなく、ノイズフロア501または601に基づき、より小さい(より角度の小さい)傾きが選択可能であれば、コンデンサのネットワークのゲイン設定を変更して、より小さい傾き(角度の小さい勾配)を選択することは、精度を高めるのに好都合である。
【0072】
OOR状態および/または最適化要求の観点から、ステップ920において、もしコンデンサのネットワーク430の再構成が、ゲインを変更するために要求されるなら、ステップ925において、再構成モジュール484は、コンデンサのネットワーク430を再構成し、適切なゲインを設定し、積分時間Tiを調整し、検出速度または検出精度を改善する。同様に、OOR状態および/または最適化要求の観点から、または、ステップ925において設定されたコンデンサのネットワークのゲインに基づき、ステップ930において積分時間Tiの調整が要求されると、調整モジュール485は、ステップ935において、OOR状態、最適化要求、および/または再構成されたコンデンサのネットワーク430のゲインに基づいて積分時間Tiの長さを調整してもよい。
【0073】
次に、ステップ950においてキャリブレーション(校正処理)が要求されると、キャリブレーションモジュール(校正モジュール)489が、ステップ955において、電流供給回路425を使って既知の値のキャリブレーション電流(テスト電流)を積分回路435に送ることにより、積分回路435のゲイン設定を校正してもよい。キャリブレーションモジュール489は、テスト電流から得られる電圧勾配の傾きを記録してもよく、そのゲイン設定により測定されたイオン電流405を修正または補償してもよい。
【0074】
OOR状態が観察されず、最適化が要求されない場合、ステップ960において、測定の繰り返しの必要性が判定される。繰り返しが必要であれば、繰り返しモジュール487はイオン電流405を電圧勾配に変換する処理を複数回繰り返してもよい。繰り返しの回数は、事前に決められてもよい。複数の電圧サンプルは、複数の電圧サンプルの複数のセットを構成し、そして、繰り返しの間、解析モジュール482は、ステップ912において、電圧サンプルの複数のセットを平均することにより、複数の電圧サンプルの複数のセットを解析し、電圧勾配の傾きを決定してもよい。出力モジュール488は、ステップ970において電圧勾配の傾きとゲイン設定とに基づき、イオン電流405の大きさを決定してもよく、そして、Wi-Fi接続、無線LAN、携帯電話接続、ブルートゥース(登録商標)などの有線または無線の通信手段を介してイオン電流405の大きさを出力してもよい。
【0075】
図10は、読み取られるべき電流シグナル405を生成するように構成されたセンサーと、その電流シグナル405を検出する装置400とを含むシステムの一例を示している。
図10に示されるシステムは、小型質量分析計(小型のマススペクトロメータ)90であり、
図4の装置400と同様のイオン電流検出回路を含んでもよく、それにより質量電荷比(m/z)によりフィルタされた複数のガスイオンの一部を感知するためのイオン電流405を検出してもよい。質量分析計90は、イオンドライブ91を含んでもよい。イオンドライブ91は、1つまたは複数のフィラメントヒーターを含んでもよく、それらは、それぞれのフィラメントヒーターを通して流れるフィラメント電流により加熱されることにより電子を放出してもよい。フィラメント電流は高い精度で維持され、フィラメントから放射された電子数の変動を最小化する。質量分析計90は、加速電極のアレイ92を含んでもよい。加速電極92は、質量分析計90の中の荷電粒子を誘導および加速するよう使用されてもよい。イオンドライブ91から放射された電子は、加速電極92により加速され、質量分析計90の反対側の端部に向かって流れる高速電子流95を形成してもよい。高速電子流95は、試料のガス分子96と遭遇してガス分子96をイオン化し、イオン化されたガス分子を含むイオン流97にしてもよい。
【0076】
イオン流97は、加速電極92により、さらに加速および誘導され、質量フィルタ93に向かって進んでもよい。質量フィルタ(マスフィルタ)93は、QMFでもあってもよい。QMF(4重極マスフィルタ)93は、イオン流(イオンフロー)97の中のイオン化されたガス分子96の、特定のm/z値または特定の原子質量単位(AMU)を有する一部、または、選択されたイオン98を選択して通過させてもよい。QMF93を通過した、選択されたイオン98は、続いてイオン検出装置99(490)により検出または収集され、イオン電流検出装置400の入力端子へと流れるイオン電流405に変換されてもよい。イオン検出装置99は、様々なメカニズムや、それらの組み合わせを使用して具体化されてもよい。例えば、イオン検出装置99は、ファラデーカップ、イオントラップ、電子倍増管、またはファラデーカップおよび電子倍増管の結合型(ハイブリッド)であってもよい。いくつかの実施形態では、質量分析計90は、筐体94も含んでもよく、その筐体内には、イオンドライブ91と、QMF93と、イオン検出装置99と、イオン電流検出回路400とが含まれていてもよい。筐体(外装)94は、ほぼ円筒形であってもよい。あるいは、筐体(外装)94は、ほぼ楕円形、またはその他の適切な形状であってもよい。
【0077】
図11は、電流シグナル405を生成するように構成されたセンサーを含むシステムの異なる例を示す。
図11に示されたシステムは、小型の分光計(スペクトロメータ、光学分光計、オプティカルスペクトロメータ)80であり、
図4の装置400と同様の光電流検出回路を含んでもよく、それにより光電流405を検出し、電磁気スペクトルの特定の範囲の光の性質(属性)を測定する。測定される変数は、光の強度であってもよい。独立した変数は、光の波長または光子エネルギーに直に比例する単位であってもよく、例えば、長さ(cm)の逆数であってもよく、エレクトロンボルトであってもよく、波長と逆数の関係を含むものであってもよい。スペクトロメータ(分光計)はまた、ガンマ線およびX線から赤外線にわたる、非可視光を含む広範囲で動作するものであってもよい。
【0078】
図11に示されたシステム80は、ラマン分光システムであり、CARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattereing、コヒーレント反ストークスラマン散乱)分光システム80であり、ストークス光(ストークスビーム)およびポンプ光(ポンプビーム)87を人体などのサンプル89へ照射するためのレーザーユニットと、サンプル89からCARS光88を検出するための検出ユニット82とを含んでもよい。検出ユニット82は、格子などの分光器83と、光電流を生成するフォトダイオードやCCDなどの光検出器84(490)と、検出装置400とを含んでもよい。
【0079】
本開示は、質量分析装置(マススペクトロメータ)およびその他のタイプのスペクトロメーターなどのシステムにおける電流を検出するための斬新な方法と回路を提供する。従来的な電流検出回路と比較すると、本開示は、センシングされた電流を高速で、かつ低ノイズで検出することを実現する方法を提供する。本開示による、進歩した電流検出に関する構想により、1つまたは複数のセンサーが搭載されたスペクトロメーターおよびその他のシステムの性能を大幅に改善できる。
【0080】
本明細書では、質量分析装置においてイオン電流を検出するための方法および回路が開示されている。回路および方法は、ゲイン設定を有する積分回路により、所定の積分時間について(積分時間にわたり、積分時間の間)イオン電流を電圧勾配に変換することを含んでもよい。回路および方法は、電圧勾配の傾きを決定することを含んでもよい。回路および方法は、電圧勾配の傾きとゲイン設定とに基づき、イオン電流の大きさを決定することも含んでもよい。回路および方法は、電圧勾配に基づき範囲外状態を判定し、範囲外の状態の判定に反応して、積分回路のゲイン設定、または積分時間の長さ、またはその両方を調整することをさらに含んでもよい。
【0081】
上記にて開示された態様の1つは、質量分析装置においてイオン電流を検出する方法である。その方法は、(1)ゲイン設定を有する積分回路により、所定の積分時間にわたり(所定の積分時間の間)、イオン電流を電圧勾配に変換することと、(2)電圧勾配の傾きを決定することと、(3)電圧勾配の傾きとゲイン設定に基づき、イオン電流の大きさを決定することとを有する。電圧勾配の傾きを決定するステップは、(a)アナログデジタルコンバータ(ADC)により電圧勾配を複数の電圧サンプル(電圧採取)にデジタル化し、複数の電圧サンプルが電圧勾配を代表するようにすることと、(b)プロセッサにより複数の電圧サンプルを解析し、電圧勾配の傾きを決定することとを含んでいてもよい。複数の電圧サンプルを解析(分析)して電圧勾配の傾きを決定することは、複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定することと、第1次近似ラインの傾きを電圧勾配の傾きとして特定することとを含んでいてもよい。
【0082】
この方法は、複数の電圧サンプルを解析する前に、直列に結合された1つまたは複数のデジタルフィルタにより、複数の電圧サンプルのノイズ成分を低減することをさらに有してもよい。この方法は、電圧勾配と、予め設定された(既定の)検出可能範囲とに基づき、範囲外(検出可能範囲外、OOR)状態を判断することと、OOR状態の判定に対応して、積分時間の終端において電圧勾配が既定の検出可能範囲内にあるように、積分回路のゲイン設定、積分時間の長さ、またはその両方を調整することと、をさらに含んでもよい。この方法は、イオン電流を電圧勾配に変換することを複数回繰り返すことをさらに含んでもよい。複数の電圧サンプルは、繰り返しから生じた複数の電圧サンプルの複数のセットを有してもよく、複数の電圧サンプルを解析して電圧勾配の傾きを決定することは、複数の電圧サンプルの複数のセットを平均することを含んでもよい。この方法は、既知の値のキャリブレーション電流を積分回路に送り、キャリブレーション電流から得られた電圧勾配の傾きを記録することにより、積分回路のゲイン設定をキャリブレーションすることをさらに含んでもよい。
【0083】
上記に記載された異なる態様の1つは、イオン電流を検出でき、質量分析装置に実装可能な回路である。この回路は、ゲイン設定が可能で、所定の積分時間の長さにわたり(積分時間の間、積分時間について)イオン電流を電圧勾配に変換するように構成された積分回路と、電圧勾配を複数の電圧サンプル(電圧採取値)にデジタル化するように構成されたアナログデジタルコンバータ(ADC)と、複数の電圧サンプルの1つまたは複数の電圧サンプルに基づき電圧勾配の傾きを決定し、さらに、電圧勾配の傾きとゲイン設定に基づきイオン電流の大きさを決定するように構成されたプロセッサとを有する。回路は、複数の電圧サンプルのノイズ成分を低減し、複数の電圧サンプルの1つまたは複数の電圧サンプルを生成するように構成された1つまたは複数のデジタルフィルタをさらに含んでもよい。
【0084】
積分回路は(1)入力端子としての反転端子と、アース端子として基準電圧に接続された非反転端子と、出力端子とを備えたオペアンプであって、入力端子がイオン電流を受信するように構成されたオペアンプと、(2)オペアンプの入力端子と出力端子との間を接続するリセットスイッチであって、オンになるとオペアンプの出力端子とオペアンプの入力端子と短絡するように構成されたリセットスイッチと、(3)オペアンプの入力端子と出力端子間に接続された可変リレーであって、積分回路のゲイン設定を提供するように構成された可変リレーとを含んでもよい。可変リレーは、複数のコンデンサと、複数の範囲(レンジ)スイッチとを含んでもよく、それぞれの複数のレンジスイッチは、複数のコンデンサの少なくとも1つに接続される。複数のレンジスイッチは、1つまたは複数のコンデンサに接続され、積分回路のゲイン設定を提供(設定)するように構成される。複数の範囲スイッチは、1つまたは複数のコンデンサを、直列に、または並列に、または直列および並列の両方で、接続し、積分回路のゲイン設定を調整するようにさらに構成される。
【0085】
プロセッサは、さらに、電圧勾配と既定の検出可能範囲に基づき、範囲外(OOR)状態を判定するように構成されてもよい。プロセッサは、さらに、OOR状態に基づき、積分回路のゲイン設定を調整し、リセットスイッチを介して電圧勾配をリセットするよう構成されてもよい。プロセッサは、さらに、電圧勾配と既定の検出可能範囲に基づき範囲外(OOR)状態を判定するように構成され、また、OOR状態に基づき、リセットスイッチを介して電圧勾配をリセットし、積分時間の長さを調整するよう構成されてもよい。積分回路は、イオン電流が電圧勾配に変換される間にイオン電流を通過させるように構成された入力スイッチをさらに含んでもよく、そして、リセットスイッチがオンされ電圧勾配をリセットする間にイオン電流を遮断するようさらに構成されてもよい。
【0086】
本明細書では、気体分子(ガス分子)を分析するための小型質量分析計が開示される。質量分析計は、(1)ガス分子を、複数の原子質量単位(AMU)を有する複数のガスイオンから構成されるイオンフローにイオン化するように構成されたイオンドライブと、(2)複数のガスイオンの第1の部分を選択的に通すように構成された4重極マスフィルタ(QMF)であって、複数のガスイオンの第1の部分のそれぞれのガスイオンは、第1のAMU値を有するQMFと、(3)複数のガスイオンの第1部分を検出し、第1のイオン電流を生成するように構成されたイオン検出装置と、(4)第1のイオン電流を検出するように構成されたイオン電流検出回路とを有する。イオン電流検出装置は、ゲイン設定を含む積分回路であって、所定の長さの積分時間の間、第1のイオン電流を電圧勾配に変換するように構成された積分回路と、電圧勾配を、複数の電圧サンプルにデジタル化するように構成されたアナログデジタルコンバータ(ADC)と、複数の電圧サンプルの1つまたは複数の電圧サンプルに基づき電圧勾配の傾きを決定するように構成されたプロセッサであって、さらに、電圧勾配の傾きとゲイン設定とに基づき、第1のイオン電流の大きさを決定するよう構成されたプロセッサとを有してもよい。
【0087】
イオンドライブは、複数の電子を生成するように構成されたフィラメントヒーターと、複数の電子を加速し、ガス分子をイオンフローにイオン化する高速の電子フローを形成するように構成された1つまたは複数の加速電極とを含んでもよい。イオン検出回路は、複数の電圧サンプルのノイズ成分を低減し、複数の電圧サンプルの1つまたは複数のサンプルを生成するように構成された1つまたは複数のデジタルフィルタをさらに含んでもよい。積分回路は、入力端子としての反転端子と、アースとしての基準電圧に接続された非反転端子と、出力端子とを含むオペアンプであって、入力端子が第1のイオン電流を受けるように構成されたオペアンプと、オペアンプの入力端子と出力端子との間に接続されたリセットスイッチであって、オンになるとオペアンプの出力端子とオペアンプの入力端子とを短絡するように構成されたリセットスイッチと、オペアンプの入力端子と出力端子との間に接続され、積分回路のゲイン設定を設けるように構成された可変リレーとを備えていてもよい。可変リレーは、複数のコンデンサと、複数のレンジスイッチとを含んでもよく、複数のレンジスイッチのそれぞれは、複数のコンデンサの少なくとも1つに接続されてもよい。複数のレンジスイッチは、複数のコンデンサのうちの1つ以上のコンデンサに接続するように構成され、積分回路のゲイン設定を可能とする。複数のレンジスイッチは、複数のコンデンサの1つまたは複数のコンデンサに直列、並列、または直列および並列の両方で接続するようさらに構成され、積分回路のゲイン設定を調整してもよい。
【0088】
プロセッサは、電圧勾配と、予め設定された(既定の)検出可能範囲とに基づき、範囲外(OOR)状態を判定するようさらに構成されてもよい。プロセッサは、さらに、OOR状態に基づいて、積分時間の最終時点で電圧勾配が既定の検出可能範囲内となるように積分回路のゲイン設定と、積分時間の長さと、またはその両方とを調整するよう構成されてもよい。イオン検出装置は、ファラデーカップ、イオントラップ、電子倍増管、またはそれら2つまたはそれ以上の組み合わせを備えてもよい。
【0089】
本明細書において、冠詞の「a」および「an」は、冠詞の文法的対象の1つまたは1つ以上(即ち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「ユーザー」とは、1人または複数のユーザーを意味する。本明細書を通じて、実施形態または関連する例として記述された「実施形態の1つ」、「実施形態(ある実施形態)」、「一例」、または「例(ある例)」が参照される場合、本開示の少なくとも1つの実施形態における特定の特徴、構造、または特性が含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「実施形態の1つにおいて」、「実施形態において(ある実施形態において)」、「一例」、「例(ある例)」という語句が現れることは、必ずしも同じ実施形態や例に言及している訳ではない。さらに、特定の特徴、構造、データベース、または特性は、1つまたは複数の実施形態または例において、適切な組み合わせ、または部分的な組み合わせで組み合わされてもよい。さらに、本明細書で提供された図は、当業者への説明目的のためであり、図面は必ずしも縮尺通りに描かれていないことを理解されたい。
【0090】
本開示による実施形態は、装置、方法、またはコンピュータプログラム製品として実施されてもよい。したがって、本件の開示は、完全にハードウェアで構成された形態、完全にソフトウェアで構成された形態(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含む)であってもよく、ソフトウェアとハードウェアとを結合させた形態で構成されてもよく、それらは、本願では「回路」、「モジュール」、または「システム」として参照される。さらに、本開示の実施形態は、媒体に格納されたコンピュータが使用可能なプログラムコードと表現され得る、具体的な媒体に格納されたコンピュータプログラム製品の形態をとってもよい。
【0091】
添付の図のフローチャートとブロック図とは、本開示の様々な実施形態に基づくシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品の実装可能な構成、機能および動作を示す。この点に関し、フローチャートまたはブロック図のそれぞれのブロックは、モジュール、セグメント、またはコードの1部を表してもよく、それは、特定の1つまたは複数の論理機能を実装するための1つまたは複数の実行可能なコードを構成してもよい。フローチャートおよび/またはブロック図のそれぞれのブロック、およびフローチャートおよび/またはブロック図のブロックの組み合わせは、特定の機能または技術を実行する専用のハードウェアをベースとするシステムに実装されてもよく、専用のハードウェアとコンピュータに対する命令との組み合わせで実装されてもよい。これらのコンピュータプログラムの命令は、コンピュータまたはその他のプログラム可能なデータプロセッシング装置に対し、特定の方法で機能するよう指示することができるコンピュータ可読媒体に格納されてもよく、その結果、コンピュータ可読媒体に格納された指示は、フローチャートおよび/またはブロック図またはブロックにおいて特定された機能/行為を実行する指示手段を含む製品を生成する。
上記には、センサーからの電流を検出する装置であって、ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークを含み、前記電流を、積分時間の間、電圧勾配に変換するように構成され、さらに、オンになると前記コンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するように構成されたリセットスイッチを含む積分回路と、前記電圧勾配を複数の電圧サンプルにデジタル化するように構成されたアナログデジタルコンバータ(ADC)と、一組のモジュールであって、前記複数の電圧サンプルを解析し、前記電圧勾配の傾きを決定するように構成された解析モジュールと、前記電圧勾配の前記傾きおよび前記ゲイン設定に基づき、前記電流の大きさを決定するように構成された出力モジュールと、前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記リセットスイッチにより前記電圧勾配をリセットするように構成された再構成モジュールとを含む一組のモジュールとを有する、装置が開示されている。前記一組のモジュールは、前記電圧勾配に基づき、検出可能範囲外(OOR)の状態を判定するように構成された判定モジュールをさらに含んでもよく、前記再構成モジュールは、前記OOR状態に基づき前記コンデンサのネットワークを再構成してもよい。前記判定モジュールは、前記電圧勾配および既定の検出可能範囲に基づき前記OOR状態を予測してもよい。前記一組のモジュールは、前記OOR状態に基づき前記積分時間を調整するように構成された調整モジュールをさらに含んでもよい。前記再構成モジュールは、前記積分時間を調整して、検出速度または検出精度が改善されるように前記コンデンサのネットワークを再構成してもよい。前記解析モジュールは、前記複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定するように構成されたモジュールと、前記第1次近似ラインの傾きを前記電圧勾配の前記傾きとして特定するように構成されたモジュールとを含んでもよい。前記積分回路は、前記コンデンサのネットワークに対する電流をオンオフするように構成された入力スイッチをさらに含み、前記一組のモジュールは、前記電流が前記電圧勾配に変換される間は前記電流が通過し、前記リセットスイッチがオンされ前記電圧勾配をリセットする間は前記電流を遮断するように前記入力スイッチを制御するように構成されたスイッチ制御モジュールをさらに含んでもよい。前記一組のモジュールは、前記電流を前記電圧勾配に変換することを複数回繰り返すように構成された繰り返しモジュールを含んでもよく、前記複数の電圧サンプルは、前記繰り返しにより得られた複数の電圧サンプルの複数のセットを備え、前記解析モジュールは、前記複数の電圧サンプルの複数のセットを平均することにより前記電圧勾配の前記傾きを決定してもよい。前記一組のモジュールは、既知の値の校正用電流を前記積分回路に供給して前記校正用電流から得られた前記電圧勾配の前記傾きを記録することにより、前記積分回路の前記ゲイン設定を校正するように構成された校正モジュールをさらに含んでもよい。この装置は、前記複数の電圧サンプルのノイズ成分を低減し、前記複数の電圧サンプルの1つまたは複数の電圧サンプルを生成するように構成された、1つまたは複数のデジタルフィルタをさらに有してもよい。
上記には、前記一組のモジュールを格納するメモリと、前記一組のモジュールを実行するプロセッサとをさらに有する、装置が開示されている。また、複数のガス分子をイオン化して、複数の原子質量単位(AMU)数を含む複数のガスイオンから構成されるイオン流にするように構成されたイオンドライブと、前記複数のガスイオンの第1の部分を選択的に通すように構成された質量フィルタであって、前記複数のガスイオンの前記第1の部分のそれぞれのガスイオンは第1のAMU値を含む質量フィルタと、前記複数のガスイオンの前記第1の部分を検出し、第1のイオン電流を生成するように構成されたイオンセンサーと、上述した装置であって、前記第1のイオン電流を検出する装置とを有する質量分析装置が開示されている。また、電磁気スペクトルの特定の部分の範囲の光の特性を測定し、第1の光電流を生成するように構成された光学センサーと、上述した装置であって、前記第1の光電流を検出する装置とを有する光学分光装置が開示されている。また、解析される電流シグナルを生成するように構成されたセンサーと、上述した装置であって、前記電流シグナルを検出する装置とを有するシステムが開示されている。
上記には、また、センサーからの電流を、装置を用いて検出する方法が開示されている。前記装置は、ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークおよびそのコンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するためのリセットスイッチを備えた積分回路と、アナログデジタルコンバータ(ADC)と、プロセッサとを含み、当該方法は、積分時間の間、ゲイン設定を備えた前記積分回路により前記電流を電圧勾配に変換することと、前記ADCにより、前記電圧勾配を複数の電圧サンプルによりデジタル化し、前記複数の電圧サンプルにより前記電圧勾配を示すことと、前記プロセッサにより、前記複数の電圧サンプルを解析し、前記電圧勾配の傾きを決定する、解析することと、前記電圧勾配の前記傾きと前記ゲイン設定とに基づき、前記電流の大きさを決定することと、前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記リセットスイッチを介して前記電圧勾配をリセットする、再構成することとを含む。この方法は、前記電圧勾配に基づき、検出可能範囲外(OOR)の状態を判断することをさらに含み、前記再構成することは、前記OOR状態に基づいて前記コンデンサのネットワークを再構成することを含んでもよい。前記OOR状態を判断することは、前記電圧勾配および既定の検出可能範囲に基づき前記OOR状態を予測することを含んでもよい。この方法は、さらに、前記OOR状態に基づき前記積分時間を調整することをさらに含んでもよい。前記再構成することは、前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記積分時間を調整し、検出速度または検出精度を改善することを含んでもよい。前記解析することは、前記複数の電圧サンプルに基づき第1次近似ラインを決定することと、前記第1次近似ラインの傾きを前記電圧勾配の前記傾きとして特定することとを含んでもよい。前記積分回路は、前記コンデンサのネットワークに対する前記電流をオンオフするように構成された入力スイッチをさらに含み、当該方法は、前記電流が前記電圧勾配に変換される間は前記電流が通過し、前記リセットスイッチがオンされ前記電圧勾配をリセットする間は電流を遮断するように前記入力スイッチを切り替えることをさらに含んでもよい。当該方法は、前記電流を前記電圧勾配に変換することを複数回繰り返すことをさらに含み、前記複数の電圧サンプルは電圧サンプルの複数のセットを備え、前記電圧サンプルの複数のセットを平均することにより前記電圧勾配の前記傾きを決定してもよい。
また、上記には、スペクトロメーターを含むシステムを操作するコンピュータのためのコンピュータプログラムであって、前記スペクトロメーターは、センサーと、前記センサーからの電流を検出するように構成された装置とを含み、前記装置は、ゲイン設定を設けるためのコンデンサのネットワークを含む積分回路であって、前記電流を、積分時間の間、電圧勾配に変換するように構成され、オンになるとコンデンサのネットワークの入力と出力とを接続するように構成されたリセットスイッチをさらに含む積分回路と、前記電圧勾配を複数の電圧サンプルにデジタル化するように構成されたアナログデジタルコンバータ(ADC)とを含み、当該コンピュータプログラムは、前記複数の電圧サンプルを解析して前記電圧勾配の傾きを決定するステップと、前記電圧勾配の前記傾きと前記ゲイン設定に基づき前記電流の大きさを決定するステップと、前記電圧勾配の前記傾きに基づき前記コンデンサのネットワークを再構成し、前記リセットスイッチを介して前記電圧勾配をリセットするステップとを実行するための実行可能なコードを含む。
【0092】
本開示はいくつかの実施形態に関して記述されているが、本開示からの便益を考慮すると、その他の実施形態が当業者には明らかになるであろう。そして、本願で説明された便益および特徴を全てではなく提供する実施形態も含まれ、それはまた本開示の範囲内である。本開示の範囲から逸脱することなく、その他の実施形態が用いられ得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0093】
400 検出装置、 490 センサー