(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】生体利用可能なジチオカルバメート-金属錯体粒子、その調製方法および使用
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20220930BHJP
A61K 31/325 20060101ALI20220930BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20220930BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20220930BHJP
A61K 33/38 20060101ALI20220930BHJP
A61K 33/242 20190101ALI20220930BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220930BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220930BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220930BHJP
A61K 51/12 20060101ALI20220930BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20220930BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K31/325
A61K33/34
A61K33/30
A61K33/38
A61K33/242
A61K47/42
A61P35/00
A61K49/00
A61K51/12 200
A61K51/12 100
A61K51/08 100
A61K51/08 200
G01T1/161 A
(21)【出願番号】P 2020537873
(86)(22)【出願日】2018-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2018076098
(87)【国際公開番号】W WO2019063601
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-05-22
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514145785
【氏名又は名称】パラッキ ユニバーシティ,オロモウツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】スクロット,ズデニェク
(72)【発明者】
【氏名】ミストリク,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ハイドゥッフ,マリアン
(72)【発明者】
【氏名】ジュバク,ペトル
(72)【発明者】
【氏名】バルテク,ジリ
(72)【発明者】
【氏名】ズボリル,ラーデク
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第103222961(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/14
A61K 31/145
A61K 31/325
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジチオカルバメート-金属錯体と少なくとも1つの血液タンパク質とのナノ粒子であって、
前記金属が銅、亜鉛、銀および金から選択され、
血液タンパク質はアルブミン、トランスフェリン、免疫グロブリン、およびこれらのタンパク質を含む混合物、を含む群から選択される血清タンパク質であり、
分子集合体の形態であり、
前記ナノ粒子は、
ジチオカルバメートおよび金属塩から選択される第1成分と少なくとも1つの血液タンパク質とを、水性溶媒中において混合すること、およびジチオカルバメートおよび金属塩から選択される第2成分を続けて添加することによって調製されており、
第1成分がジチオカルバメートであるときは第2成分が金属塩であり、または、第1成分が金属塩であるときは第2成分がジチオカルバメートである、ナノ粒子。
【請求項2】
少なくとも50%が2~220nmの範囲のサイズを有している、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記金属が銅である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記金属が、
63Cu、
65Cu、
64Cuおよびそれらの混合物から選択される、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記ジチオカルバメートが式(R1)(R2)N-CS
2
-を有し、式中、R1およびR2は同一または異なっており、独立して、C1~C8アルキル、C2~C8アルケニル、C3~C10シクロアルキル、C6~C14アリール、O、S、Nから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含むC4~C14ヘテロアリール、O、S、Nから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含むC3~C10ヘテロシクリルから選択され;または、R1およびR2はそれらが結合している窒素原子と共に複素環を形成し、-R1-R2-はC2~C6アルキレンまたはC2~C6アルケニレンであり、1~2個の炭素原子は任意で、O、S、NHから選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよく;R1およびR2を形成する部分は置換されていなくてもよく、または、C1~C4アルキル、ヒドロキシ、メルカプト、C1~C4アルコキシ、C1~C4アルキルチオ、ハロゲン、フェニル、ベンジル、ケト基、カルボキシル基、C1~C4アルキルオキシカルボニルから選択される少なくとも1つの置換基によってさらに置換されてもよい、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項6】
R1およびR2は独立して、C1~C6(またはC1~C4)アルキル、C2~C6(またはC1~C4)アルケニル、C3~C6シクロアルキル、フェニルから選択され;または、R1およびR2はそれらが結合している窒素原子と共に複素環を形成し、-R1-R2-はC2~C6アルキレンまたはC2~C6アルケニレンである、請求項
5に記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記血液タンパク質を含む前記混合物は、全血、血漿または血清から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のナノ粒子の調製方法であって、
ナノ粒子は、
ジチオカルバメートおよび金属塩から選択される第1成分と少なくとも1つの血液タンパク質とを、水性溶媒中において混合すること、およびジチオカルバメートおよび金属塩から選択される第2成分を続けて添加することによって調製され、
第1成分がジチオカルバメートであるときは第2成分が金属塩であり、または、第1成分が金属塩であるときは第2成分がジチオカルバメートである、方法。
【請求項9】
(a)水性溶媒中において、少なくとも1つの血液タンパク質を、0.01%(w/v)~飽和濃度の溶液で溶解する工程、または、患者の全血または血漿または血清を提供する工程と、
(b)水性溶媒に少なくとも1つのジチオカルバメートを添加し、1μM~100mMの範囲の前記ジチオカルバメートになるように、溶解させる工程と、
(c)1μM~100Mの金属塩濃度を有するように、水性溶媒中に前記金属塩溶液を添加する工程を含み、
前記工程は(a)、(b)、(c)の順、または(a)、(c)、(b)の順に実行される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(a)において、アルブミン、トランスフェリン、免疫グロブリンもしくはそれらの混合物、または、全血、血清もしくは血漿が、血液タンパク質として使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
金属イオン:ジチオカルバメートイオンのモル比が1:5~5:1である、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記水性溶媒が水、または、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、Tris、HEPES、生理食塩水等の水系バッファである、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水性溶媒が無菌である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項に記載のナノ粒子を含み、治療剤および/または診断剤として使用される、製剤。
【請求項15】
請求項1~7のいずれか1項に記載のナノ粒子を含み、癌の化学療法、癌の放射線療法および/または腫瘍の可視化から選択される治療
または診断において使用される、製剤。
【請求項16】
前記ナノ粒子が非経口投与用である、請求項14または15のいずれかに記載の製剤。
【請求項17】
血液タンパク質として免疫グロブリンまたは免疫グロブリン含有血液タンパク質混合物を含み、腫瘍抗原に対する抗体または抗体断片をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、癌処置および診断を含む医学用途に適する抗腫瘍組成物を得るのに有用である、R1,R2-ジチオカルバメート-金属錯体と血清タンパク質または血清タンパク質の混合物との粒子、ならびに当該粒子の製造方法に関する。
[背景技術]
R1,R2-ジチオカルバメート(DTC)は、文献で公知となっている強力な金属イオンキレート剤である。一度、DTCと金属との錯体が形成されると、一部の錯体は、種々の癌細胞モデルを用いる細胞系において抗癌活性を示す。しかしながら、提唱される抗腫瘍活性を有する錯体は水溶性ではないため、このような錯体を患者に投与することは特に困難である。また、このような錯体は癌細胞に対する優先毒性が低く、したがって治療指数がほぼ狭い。上記の2つの制限は、本発明によって克服し得る。
【0002】
ジチオカルバメート(DTC)は、特に種々の二価金属との錯体について、種々の前臨床モデルにおいて有望な抗癌活性を示す。DTCの金属キレート特性は抗腫瘍活性と同様に、長年知られている。いくつかの特許文献には、種々の悪性腫瘍の治療戦略として、重金属(特に銅、亜鉛、金または銀)とのジチオカルバメート錯体の使用が含まれている(例えば、US20030229064、US20050096304を参照)。しかしながら、これらの特許文献のいずれも、これまでヒトにおける実用化には至っていない。明らかに、臨床手順におけるジチオカルバメート-金属錯体の使用の主な障害は、好ましくない薬理学的特性(すなわち、安定性および水性製剤化への可能性)である。例えば、最も有望な抗癌錯体であるビス(ジエチルジチオカルバメート)銅(II)(または銅ビス(ジエチルジチオカルバメート))については、水中での溶解度定数が1L当たりナノグラムの範囲にすぎず、これは患者において治療用量を送達するには不十分である。
[発明の概要]
本発明の主な目的は、ジチオカルバメート-金属錯体の新規な粒子形態、および抗癌剤または診断剤として直接使用可能な粒子の生体利用可能な分散液の形態におけるその調製方法(例えば、インサイチュ(in-situ)調製)である。
【0003】
粒子形態は、ジチオカルバメート-金属錯体、および少なくとも1つの血液タンパク質(好ましくは、少なくとも1つの血清タンパク質)を含むか、またはそれらから成る。好ましくは、ジチオカルバメート-金属錯体および血液タンパク質は分子集合体の形態である、および/または、2~900nmの範囲のサイズを有する。好ましくは、粒子形態は有機溶媒を実質的に含まない。
【0004】
用語「分子集合体」は、ジチオカルバメート-金属錯体および少なくとも1つの血液タンパク質を含む分子複合体を示す。分子集合体の成分は、典型的には非共有結合相互作用によって共に結合し、分子複合体を形成する。
【0005】
分子集合体の構造は、特に、分子集合体が非共有結合相互作用によって共に結合された成分の分子を化学量論比で含む点で、例えば、コア-シェル粒子、凝集体、混合物等とは異なる。
【0006】
平均粒子径は、動的光散乱(DLS)によって測定されるZ-平均径を指す。Z-平均はキュムラントの技術を用いた分析によるDLSデータから得られる。DLSデータからZ-平均径を決定する方法は当業者に知られている。Z-平均径は流体力学的サイズを示す。
【0007】
好ましくは、粒子形態がジチオカルバメート-銅錯体および少なくとも1つの血液タンパク質、好ましくは少なくとも1つの血清タンパク質を含むか、またはそれらから成る。ジチオカルバメート-金属錯体および血液タンパク質は好ましくは分子集合体の形態であり、および/または2~900nmの範囲のサイズを有する。粒子形態は、好ましくは有機溶媒を実質的に含まない。
【0008】
本発明によれば、粒子形態(本明細書では粒子、好ましくはナノ粒子とも示す)はジチオカルバメートおよび金属塩から選択される第1成分を、水性溶媒中において少なくとも1つの血液タンパク質と混合させ、同時にまたは続いて、ジチオカルバメートおよび金属塩から選択される第2成分を添加することによって調製される。一方、第1成分がジチオカルバメートである場合、第2成分は金属塩である。第1成分が金属塩である場合、第2成分はジチオカルバメートである。
【0009】
本発明の構成の範囲内において、本明細書に記載されるように試薬を同時添加または連続添加の実施を行うとき、第2成分の添加後、血液タンパク質は溶液中で速やかに形成されるジチオカルバメート-金属錯体に結合する重要な能力を有し、好ましくは2~900nmの平均粒子径を有する粒子に自然に集合し、注射可能である生体利用可能な粒子の分散液が形成されることを見出した。本粒子形態において、ジチオカルバメート-銅錯体等のジチオカルバメート-金属錯体分子は均一に分布し、元々の化学特性を維持し、インビトロおよびインビボにおける生物学的活性が実質改善される。よって、別の方法における水不溶性化合物の予想外の医薬的使用(癌処置および腫瘍可視化における使用を含む)を可能にする。
【0010】
粒子の調製方法は、非常に短時間(1分未満)で、患者の病床においてでも、有機(非極性)溶媒を必要とせず即時または持続的非経口投与のいずれかを可能にする単一の反応容器中で実施することができる。
【0011】
本発明はさらに、ジチオカルバメートと、金属塩と、滅菌水性溶媒(好ましくは、滅菌水性溶媒は水または水系バッファである)と、ジチオカルバメート、金属塩および少なくとも1つの血液タンパク質を無菌条件下において水性溶媒中で混合するための容器を含む、パーツキットを含む。パーツキットは、少なくとも1つの血液タンパク質、好ましくは実質的に純粋な血液タンパク質をさらに含み得る。キットの成分は、キット内の別個の容器に提供されていてもよい。
[発明の詳細な説明]
本発明において、「金属」は、遷移金属(またはd-金属)ならびに周期律表のIIIA族およびIVA族の金属から選択される金属を意味する。好ましくは、金属は遷移金属である。より好ましくは、金属が銅、亜鉛、カドミウム、水銀から選択される。最も好ましくは、金属は銅である。本発明の全ての利点は、銅においても最も強く顕著である。
【0012】
金属は、単一の同位体または同位体混合物の形態であってもよい。同位体は、放射性同位体であっても非放射性同位体であってもよい。銅については、非放射性同位元素は63Cuおよび65Cuであり、放射性同位元素は好ましくは64Cuまたは67Cuである。64Cuが銅の陽電子放出同位体であり、分子放射線療法および陽電子放出断層撮影法に適用される。
【0013】
「金属塩」は、陰イオンを有する陽イオンの形態である金属塩を意味する。粒子分散液の意図される医薬用途に関して、当業者は陰イオンが薬学的に許容し得る陰イオンであるべきであり、好ましくは水溶性であることを理解するであろう。陰イオンは例えば、ハロゲン化物(特に塩化物、臭化物、ヨウ化物)、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩;カルボン酸陰イオン、ジカルボン酸陰イオン、トリカルボン酸陰イオン、スルホン酸陰イオン、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、トリフラート、グルコン酸塩、ビスグリシネート等の無機酸陰イオンから選択してもよい。
【0014】
「ジチオカルバメート」は、式(R1)(R2)N-CS2
-(本明細書では、R1,R2-ジチオカルバメートとも示す)を有する部分を意味する。式中、R1およびR2は同一または異なり、独立して、C1~C8アルキル、C2~C8アルケニル、C3~C10シクロアルキル、C6~C14アリール、O、S、Nから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含むC4~C14ヘテロアリール、O、S、Nから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含むC3~C10ヘテロシクリルから選択され;または、R1およびR2はそれらが結合している窒素原子と共に複素環を形成し、-R1-R2-はC2~C6アルキレンまたはC2~C6アルケニレンであり、1~2個の炭素原子は任意で、O、S、NHから選択されるヘテロ原子によって置換されてもよい。R1およびR2を形成する部分は、置換されていなくてもよく、または、C1~C4アルキル、ヒドロキシ、メルカプト、C1~C4アルコキシ、C1~C4アルキルチオ、ハロゲン、フェニル、ベンジル、ケト基、カルボキシル基、C1~C4アルキルオキシカルボニルから選択される少なくとも1つの置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0015】
より好ましくは、R1およびR2は独立して、C1~C6(またはC1~C4)アルキル、C2~C6(またはC2~C4)アルケニル、C3~C6シクロアルキル、フェニルから選択され;またはR1およびR2はそれらが結合している窒素原子と共に複素環を形成し、-R1-R2-はC2~C6アルキレンまたはC2~C6アルケニレンである。
【0016】
最も好ましくは、ジチオカルバメートはジエチルジチオカルバメートである(R1およびR2はエチルである)。
【0017】
ジチオカルバメートは、負に帯電した陰イオンの形態、典型的にはジチオカルバメート-金属錯体として存在し得る。本発明の方法における出発化合物としては、中性化合物(R1)(R2)N-C(S)SHの形態として使用してもよい。好ましくは、[(R1)(R2)N-CS2]m-Catm+の塩の形態として使用してもよい。当該塩の例は、アルカリ金属塩(Cat+はアルカリ金属陽イオンであり、m=1である)、アンモニウム塩(Cat+はアンモニウム陽イオンであり、m=1である)、または、アルカリ土類金属塩(Cat+はアルカリ土類金属陽イオンであり、m=2である)。当業者は、用語「ジチオカルバメート」が使用される文脈に依って、どの形態を意味しているか、またはどの形態が必要であるかを理解する。
【0018】
「ジチオカルバメート-金属錯体」は、少なくとも1つのジチオカルバメート部分および少なくとも1つの金属(好ましくは、1つの金属)を含む錯体である。例えば、ジチオカルバメート-金属錯体は、式(I)に対応し得る。
【0019】
【0020】
式中、Mは金属であり、好ましくは銅であり、
Anは薬学的に許容し得る陰イオンであり、好ましくは本明細書で定義されるとおりであり、
nはd-金属の原子価であり、典型的には、nは1、2、または3であり、
R1およびR2は、本明細書中で定義されるとおりである。
【0021】
ジチオカルバメートに対する金属の比率(金属:ジチオカルバメート)は、例えば、1:5~5:1の範囲、または1:2~5:1の範囲であり得る。ジチオカルバメートに対する金属の比率は、錯体中のそれらの化学量論比率、またはそれらの化学量論比率±20%、またはそれらの化学量論比率±50%に最適に対応し得る。例えば、銅において、化学量論比は2:1である。
【0022】
「血液タンパク質」は、動物(ヒトを含む)の血液中に天然に存在するタンパク質を意味する。血液タンパク質は好ましくは、動物(ヒトを含む)の血清中に天然に存在するタンパク質を意味する「血清タンパク質」である。好ましくは、本発明はヒト血液タンパク質またはヒト血清タンパク質を使用する。イヌ、ネコ、ウマ、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシの血液タンパク質または血清タンパク質を使用してもよい。血液タンパク質または血清タンパク質は、血液または血清からそれぞれ単離してもよいし。組換え由来であってもよい。
【0023】
血液タンパク質(より具体的には、血清タンパク質)は、実質的に純粋なタンパク質の形態であってもよく、タンパク質の混合物の形態であってもよい。
【0024】
血清タンパク質は好ましくは、アルブミン、トランスフェリン、免疫グロブリン、セルロプラスミン、およびこれらのタンパク質を含む混合物を含む群から選択される。最も好ましくは、血清タンパク質はアルブミンである。いくつかの好ましい実施形態において、血清タンパク質は免疫グロブリンである。
【0025】
「少なくとも1つの血液タンパク質」は、1つまたは複数の血液タンパク質を意味する。したがって、本発明の方法における反応混合物および/または本発明の粒子は、1つの血液タンパク質または血液タンパク質の混合物を含み得る。血液タンパク質の混合物は例えば、全血、血漿または血清、または少なくとも2つの血液タンパク質の人工的に調製された混合物であり得る。
【0026】
「少なくとも1つの血清タンパク質」は、1つまたは複数の血清タンパク質を意味する。したがって、本発明の方法における反応混合物および/または本発明の粒子は、1つの血清タンパク質または血清タンパク質の混合物を含み得る。血清タンパク質の混合物は例えば、全血、血漿または血清、または少なくとも2つの血清タンパク質の人工的に調製された混合物であり得る。
【0027】
粒子状分子集合体は、いくつかの実施形態においては、水性溶媒中の懸濁液または分散液の形態である。いくつかの実施形態においては、それらは凍結乾燥形態または乾燥形態で提供される。
【0028】
「水性溶媒」は、水、または、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、Tris、HEPES、生理食塩水または他の一般的なバッファ等の水系バッファである。好ましくは、水性溶媒は無菌である。
【0029】
自己集合粒子(すなわち、分子集合体)のサイズは、2~900nmである。好ましくは、粒子の少なくとも90%が2~500nmのサイズを有する。いくつかの実施形態では、粒子の少なくとも50%、または少なくとも70%、または少なくとも90%が2~100nm、または10~100nm、または2~90nm、または2~80nm、または2~220nm、または2~200nm、または10~200nmの範囲のサイズを有する。粒子径およびそれらの分布は動的光散乱(DLS)法によって測定された。本明細書を通して使用される用語「サイズ」または「平均径」は、DLSによって決定される平均径を示す。
【0030】
本発明の粒子状分子集合体は、好ましくは負のゼータ電位を有する。より好ましくは、粒子状分子集合体は-15mVより低い(=-15mVよりも負である)ゼータ電位を有する。さらにより好ましくは、粒子状分子集合体は-20mVよりも低い、または-30mVよりも低いゼータ電位を有する。
【0031】
ジチオカルバメート-金属錯体および少なくとも1つの血液タンパク質から成るかまたはそれらを含む粒子形態は、濾過滅菌(滅菌濾過)してもよい。好ましくは0.22マイクロメートルフィルターを使用して濾過滅菌(滅菌濾過)してもよい。
【0032】
ジチオカルバメート-金属錯体および少なくとも1つの血液タンパク質から成るかまたはそれらを含む粒子形態は、注射液または注入液(溶液、分散液または懸濁液)、滴剤、スプレー、点滴、坐剤、カプセル、錠剤、軟膏、ローションまたはクリームの形態で提供され得る。医薬製剤は、緩衝剤、界面活性剤、キレート剤、等張性調整剤、pH調整剤、保存剤、安定剤、抗酸化剤、還元剤、可溶化剤、金属イオン、結合剤、流動促進剤、滑沢剤、希釈剤、崩壊剤、甘味料、風味料、コーティングポリマー、エマルジョン成分、軟膏基剤またはクリーム基剤から選択される少なくとも1つの薬学的に許容し得る賦形剤および/または成分をさらに含む。
【0033】
ジチオカルバメート-金属錯体および少なくとも1つの血液タンパク質から成る、またはそれらを含む粒子形態は、乾燥形態において、特に凍結乾燥(lyophilized)(凍結乾燥(freeze-dried))形態で、または噴霧乾燥形態で提供することができる。凍結乾燥製剤は、典型的には凍結保護剤、緩衝剤、界面活性剤、キレート剤、等張性調整剤、pH調整剤、防腐剤、安定剤、抗酸化剤、還元剤、可溶化剤、金属イオンから選択される少なくとも1つの薬学的に許容し得る賦形剤をさらに含む。噴霧乾燥製剤は、緩衝剤、界面活性剤、キレート剤、等張性調整剤、pH調整剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、還元剤、可溶化剤、金属イオンから選択される少なくとも1つの薬学的に許容し得る賦形剤をさらに含んでもよい。特に、凍結乾燥は安定性をさらに改善し、したがって、貯蔵および物流を容易にする。凍結乾燥粒状成形は特に、粉末、カプセル、錠剤、軟膏、ローションまたはクリームに使用され得、同様に、再懸濁による、注射液、注入液および他の液体医薬形態の調製のために使用され得る。
【0034】
緩衝剤は、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、トリエタノールアミン、アルギニン、リン酸塩緩衝剤を含むことができる。
【0035】
界面活性剤は例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188、ポロキサマー407であってもよい。
【0036】
キレート剤は、エデト酸ナトリウム、グルタミン酸、アスパラギン酸を含むことができる。
【0037】
等張性調整剤は例えば、マンニトール、塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、ソルビトール、デキストロースから選択され得る。
【0038】
pH調整剤としては、例えば、酢酸、塩酸を用いることができる。
【0039】
安定剤は、アルギニン、メチオニン、グルタミン酸、グリシン、ロイシン、アスパラギン酸、脂肪酸、ホスファチジルコリン、エタノールアミン、アセチルトリプトファネート、PEG、PVP(10、24、40)、ソルビトール、グルコース、プロピレングリコール、エチレングリコールを含むことができる。
【0040】
抗酸化剤としては、グリセリン、アスコルビン酸、システインHCl、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオソルビトール、グルタチオン、αトコフェロール、二硫化ナトリウムが挙げられる。
【0041】
還元剤は、例えばチオールである。
【0042】
可溶化剤は、例えばアラニンであってもよい。
【0043】
金属イオンには、Ca2+、Ni2+、Mg2+、Mn2+が含まれる場合がある。
【0044】
防腐剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メタクレゾールおよびパラベンを含み得る。
【0045】
凍結保護剤(cryoprotectants)(または凍結保護剤(lyoprotectants))は単糖類、二糖類、アミノ酸、多糖類高分子、および凍結保護性を有する他の物質、ならびにそれらの誘導体を含んでいてもよい。特に、凍結保護剤(または凍結保護剤)は、マンニトール、トレハロース、サッカロース、アルブミン、ラクトース、デキストロース、スクロース、グルコース、マルトース、イノシトール、ラフィノース、イヌリン、マルトデキストリン、多糖類、ヘパリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、グリセロール、イノシトール、ソルビトール、メルカプタン、ポリエチレングリコール、アドニトール、アミノ酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween80)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えば、Pluronic)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、Brij)、ドデシル硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ポリビニルピロリドン(PVP K15)、デキストランから選択されるそれらの誘導体を含み得る。
【0046】
結合剤としては、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、アルファ化でんぷん、ラクトース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、硫酸カルシウム、リン酸カルシウムを含み得る。
【0047】
流動促進剤は、ステアリン酸マグネシウム、コロイド状二酸化ケイ素、デンプン、タルクを含み得る。
【0048】
滑沢剤は、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、ポリオキシルステアレート、ポリソルベート、脂肪酸硫酸ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、タルクを含み得る。
【0049】
希釈剤は、ラクトース、微結晶セルロース、マンニトール、炭酸水素ナトリウムを含み得る。
【0050】
崩壊剤は、架橋ポリビニルピロリドン、クロスカルメロースナトリウム、変性デンプングリコール酸ナトリウムを含み得る。
【0051】
コーティングポリマーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等のセルロースエーテル;メタクリル酸コポリマー、メタクリレートアミノエステルコポリマーおよび他の種類メタクリレートエステルコポリマー等のアクリルポリマー;酢酸フタル酸セルロース、ポリ酢酸ビニルフタレート、セラック、酢酸セルローストリメリテートを含む。
【0052】
ナノ粒子形態(任意で、薬学的に許容し得る賦形剤と共に)を、任意の適切な方式で、特に非経口的に、経口的に、または局所的に、治療を必要とする対象に投与してもよい。
【0053】
特に明記しない限り、パーセンテージはw/v%である。
【0054】
本発明は、ジチオカルバメート-銅錯体および少なくとも1つの血液タンパク質のナノ粒子へのインサイチュ自己集合のプロセスを記載する。当該プロセスは、以下の工程を含む方法によって達成される:
(a)水性溶媒(例えば、水または水系バッファ)中において、少なくとも1つの血液タンパク質を0.01%(w/v)~飽和濃度の溶液(好ましくは0.1%~10%(w/v))の濃度に溶解する工程、または患者の全血または血漿または血清を提供する工程;
(b)水性溶媒(例えば、水または水系バッファ)に溶解した少なくとも1種のジチオカルバメートを、1μM~100mM、好ましくは1~10mMの範囲の濃度に添加する工程;
(c)1μM~100mM、好ましくは1~10mMの金属塩濃度を有するように、水性溶媒(例えば、水または水系バッファ)中に金属塩溶液を添加する工程;
上記工程について、工程(a)、(b)、(c)の順番で行ってもよいし、工程(a)、(c)、(b)の順番で行ってもよいし、工程(b)および(c)を同時に行ってもよい。
【0055】
好ましくは、振盪またはボルテックスを伴う少なくとも10秒間の遅延が個々の工程の間に生じる。
【0056】
この単一管反応はタンパク質-ジチオカルバメート-銅ナノ粒子形態の迅速で自発的な自己集合をもたらし、ナノ粒子の分散液を形成する。
【0057】
工程(a)において、血液タンパク質、好ましくは、アルブミン、トランスフェリン、免疫グロブリン、またはそれらの混合物のような血清タンパク質;または血清、血漿もしくは全血が使用され得る。最終製品を受ける患者から採取した血清または血漿または全血を使用することが有利であり得る。
【0058】
工程(a)は、好ましくは10~45℃、好ましくは20~38℃の範囲の温度、および/または5~8、最も好ましくは6.8の範囲のpHで行われる。
【0059】
工程(b)において、ジチオカルバメートは、好ましくは中性化合物または塩の形態である。
【0060】
好ましい実施形態では、金属イオン:ジチオカルバメートイオンのモル比は1:2である。
【0061】
水性溶媒の使用はさらなる精製の必要なしに、生物学的に適合性であるナノ粒子形態をもたらす。ジチオカルバメートを溶解するのに好ましい有機溶媒が使用される場合、得られるナノ粒子はコア-シェル構造(分子集合体構造ではない)を形成し、除去するのが困難な残留量の有機溶媒を含む。これは、ナノ粒子の生体適合性、安全性および生体利用可能性を低下させる。さらに、有機溶媒の使用は血液タンパク質の変性および修飾をもたらすことが知られており、これは、修飾されたタンパク質構造、増加した免疫原性をもたらし得、そして修飾、変性または部分的変性によって引き起こされる血液タンパク質構造の変化に起因する強力な望ましくない免疫系反応をもたらし得る。従って、本発明の枠組み内で、驚くべきことに、調製方法が水性溶媒中で実施される場合、ジチオカルバメートは水中で低い溶解度を有するが、分子集合体構造を有するナノ粒子形態が形成されることが見出された。水性溶媒の使用は、有機溶媒の使用に起因するのであろう欠点を除去する。
【0062】
本発明のナノ粒子は生体利用可能なナノ粒子の分散液を形成し、このような治療を必要とする患者に投与することができる。ナノ粒子の分散液は特に、化学療法、放射線療法、免疫療法、腫瘍治療照射野を含む癌治療や、黒色腫、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎癌、結腸直腸癌、乳癌、膵癌、胃癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、リンパ腫、前立腺癌、結腸の腺癌およびリンパ節転移または肝転移、固形癌および血液癌の脳転移、多発性骨髄腫、膠芽腫等の固形腫瘍の治療等の温熱療法に使用することができる。好ましくは、治療すべき癌は固形腫瘍、多発性骨髄腫、膠芽腫および膵癌の脳転移から選択される。ナノ粒子の分散液は例えば、陽電子放出断層撮影法、単一光子放出断層撮影法等による腫瘍可視化等の診断にも使用することができる。
【0063】
本発明に従って反応が行われる場合、タンパク質-ジチオカルバメート-銅ナノ粒子の得られた分散液は、抽出、分離、製品洗浄、濃度増強等の追加の化学的または物理的処理を必要とせず、処置された被験体(ヒトまたは動物)への直接的な非経口、経口または局所適用を可能にすることに留意することが重要である。
【0064】
本発明の治療用の粒子形態は好ましくは、注射投与1時間後の血液中のCuETの濃度が少なくとも1ng/Lになる、または、注入投与中の血液中のCuETの濃度が少なくとも5ng/Lになるように、処置対象に投与してもよい。
【0065】
さらに、本発明の反応は、薬学的に許容し得る成分の組み合わせを用いて、患者の病床で直接的に、または病院の薬局で実施することができる。例えば、ヒト血清アルブミン溶液、ジエチルジチオカルバメートおよびCuCl2は、医薬グレードで一般に市販されている。このような処置は、高価な化学反応器、追加の装置での処理を必要とせず、規制の承認を単純化することができる。さらに、ナノ粒子の分散液の貯蔵に関連するロジスティックな問題の一部を著しく制限し、新鮮な薬物を高い再現性で調製し、直ちに適用することができる。
【0066】
本発明はまた、組み立てられたナノ粒子のサイズの単純な変更を可能にする。ジチオカルバメート-金属(特に銅)錯体とタンパク質との間の比率を変化させることによって、高いタンパク質濃度がより小さい粒子をもたらすという規則に従って、形成されたナノ粒子は異なるサイズとなる。ナノ粒子のサイズはインビボでのその挙動、特に生体分布(例えば、血液脳関門浸透)および動態の重要な決定因子であるので、最適な反応条件を決定して、最適な薬理学的特性を有するナノ粒子を生成することができる。製造されるナノ粒子のサイズは、反応に入るジチオカルバメートの置換基R1、R2にも依存する。例えば、アルブミンを有するジメチルジチオカルバメートは、アルブミンを有するピロリジンジチオカルバメートと比較して、2つの反応の他の全ての条件が同一であるにもかかわらず、より大きな粒子を形成する。このことは、より長いR1、R2基を有すると、より小さな粒子の形成を示唆する。
【0067】
調製されたナノ粒子の分散液は比較的安定であり、4℃で数ヶ月間、有意な分解または沈殿なしに保存することができる。タンパク質-ジチオカルバメート-金属の形成されたナノ粒子は安定性、貯蔵および物流をさらに改善するために、乾燥または凍結乾燥によってさらに処理することができる。乾燥ナノ粒子は、滅菌水ベースのバッファに繰り返し溶解され、治療に使用され得る。タンパク質-ジチオカルバメート-金属ナノ粒子特性のこの重要な側面は、大規模または小規模の工業生産の両方に、貯蔵および物流に対して特に価値がある。
【0068】
免疫グロブリンまたは免疫グロブリン含有混合物はナノ粒子の製造に使用し得るので、得られるナノ粒子は、特定の腫瘍または組織抗原に対する抗体(または抗体断片)を含み得る。このアプローチは腫瘍/組織へのナノ粒子の特異的標的化を可能にし、より良好な抗癌効果および全身毒性の減少を生じる。
【0069】
この粒子の一般的な適用性を示すために、以下の実施例は、アルブミン、トランスフェリンおよび免疫グロブリンをそれぞれ単独でまたはこれらの組み合わせを含む血液タンパク質を含むジチオカルバメート-金属錯体ナノ粒子の調製および特徴付けを示し、ナノ粒子の分散液により得られる一般的な製剤、癌標的化および腫瘍可視化能力を示した。実施例は、特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
[図面の簡単な説明]
[
図1]
図1は、実施例1で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約20~100nm;最大画分:30~40nmを形成する。
【0070】
[
図2]
図2は、およその垂直寸法を有する粒子の代表的な原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。実施例1に従って調製した約20~40nmの範囲。
【0071】
[
図3]
図3は、ナノ粒子(約30nm)の代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す;結晶面の表示なく、電子回折なく、実施例1に従って調製された分子集合体(ナノ粒子)の全体的な特徴を示す。
【0072】
[
図4]
図4は、cca 60nm分子集合体のHAADF/EDS画像を示す。実施例1に従って調製したナノ集合体中に、主要元素(Cu、N、S)が明確に埋め込まれている。
【0073】
[
図5]
図5は、ビス(ジエチルジチオカルバメート)銅錯体(CuET)のXバンド電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルを示す(a-bは東京化学工業(株)から入手した純粋なCuET粉末の共鳴であり;c-dは実施例1に従って調製したCuET-アルブミンナノ粒子の共鳴である)。2.044の推定g
avg-valueと全共鳴プロファイルから、ナノ粒子生成に際して銅酸化状態の修飾はなく、Cu八面体場の実質的な変質は生じないことを明確に示している。
【0074】
[
図6]
図6は、0.01%アルブミン(実施例2)または5%アルブミン(実施例3)の存在下での化学反応中に形成されたナノ粒子の多分散系のDLSスペクトル(上側画像)および代表的なTEM画像(下側2つの画像)を示す。この分析は、より高いアルブミン濃度が化学反応に入る場合に、より小さい粒子に向かう顕著なシフトを示す。
【0075】
[
図7]
図7は、ジチオカルバメート(ジメチルジチオカルバメート-DMC対ピロリジンジチオカルバメート-PDT)の使用されるタイプに応じて、形成されたナノ粒子(実施例4、5)の異なるサイズを示す、形成されたナノ粒子のDLS粒度分布(上部画像)および代表的なTEM画像(下部2つの画像)を示す。
【0076】
[
図8]
図8は、実施例7で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約10~40nm;最大画分:15~30nmを形成する。
【0077】
[
図9]
図9は、実施例8で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約15~100nm;最大画分:20~40nmを形成する。
【0078】
[
図10]
図10は、実施例9で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約50~800nm;最大画分:60~200nmを形成する。
【0079】
[
図11]
図11は、種々の濃度(125nM~10μM)の24時間処理後の、実施例1に従って調製されたCuET-アルブミン(CuET-HSA)ナノ粒子毒性の2,3-ビス-(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキサニリド(XTT)-ベースの細胞生存度分析を示す。癌細胞株(DU-145、MDA-MB-231)は、正常細胞(RPE-1、RWPE-1)と比較して高い感受性を示す。CuET-HSAナノ粒子は、癌細胞株においてジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解された純粋なCuET粉末と同様の効力を有するが、正常細胞によってより寛容される。
【0080】
[
図12]
図12は、5mg/kgCuETの腹腔内へ1回適用後の、マウス血清中のCuET濃度に関する、飛行時間型質量分析計と連結した高圧液体クロマトグラフィー(HPLC-TOF/MS)による分析を示す。CuETは、実施例1に従ってアルブミンナノ粒子として製剤化されたCuET、またはオリーブオイルに溶解した純粋なCuET粉末(東京化成工業(株)から入手した)として製剤化されたCuETである。オリーブオイルは、マウス実験において腹腔内投与される非極性化合物用の標準製剤である。測定された濃度は、ナノ粒子製剤の場合、有意に高いCuET循環濃度を示す。
【0081】
[
図13]
図13は、重症複合免疫不全(SCID)マウス中の、コンピュータ断層撮影と複合陽電子放出断層撮影を組み合わせた画像化(PET/CT)によって視覚化された腫瘍(矢印によってマークされる)における
64Cu放射性同位元素の存在を示す。PETシグナルは、MSA-ジエチル-ジチオカルバメート-銅
64ナノ粒子(左)のナノ粒子の分散液およびヒトトランスフェリン-ジエチル-ジチオカルバメート-銅
64ナノ粒子(右)のナノ粒子の分散液を、それぞれ実施例10および11に従って調製した後、後眼窩注入の22時間後に収集した。PETシグナルは、複合体に包埋された
64CuがMDA-MB-231皮下腫瘍塊内に蓄積されることを示す。GIT陽性は、化合物が腸管から排泄されることを示す。
【0082】
[
図14]
図14は実施例1に従ってナノ粒子として製剤されたCuET(1mg/ml)または非極性化合物の標準製剤であるオリーブオイルに溶解した純粋なCuET粉末(東京化成工業株式会社より取得)を、マウス実験にて腹腔内に適用した処置の後の、SCIDマウスに皮下異種移植したMDA-MB-231乳癌腫瘍の成長を示す。CuET-アルブミンナノ粒子のみが、腫瘍増殖に対して有意な効果を示す。
【0083】
[
図15]
図15は、実施例1に従ってアルブミンナノ粒子として製剤化されたCuET(1mg/ml)で処置したSCIDマウスに皮下異種移植したAMO-1腫瘍の増殖を示す。ナノ粒子治療は腫瘍増殖(上部画像、カリパス)を有意に減少させ、そしてこの治療された動物はアルブミンのみによって治療された対照マウスと比較して、延長された生存(下部画像、カプラン-マイヤー生存プロット)を示す。この動物は、5日間の処置+2日間の休薬の処方で、1日1回、腹腔内適用により処置された。また、これらの実験は動物に100回以上注射したときのCuET-アルブミンナノ粒子の非常に良好な耐容性を示す。
[実施例]
<材料および方法>
調製したナノ粒子の平均径およびサイズ分布を決定することを可能にする動的光散乱(DLS)分析を、Zetasizer Nano ZS器具(Malvern、U.K.)によって、以下のパラメータ設定で行った:V=400uL、T=25℃、実行回数:10、実行持続時間:1s、測定回数:3、測定角度:173°後方散乱(NIBSデフォルト)、セルタイプ:ZEN0040。
【0084】
透過型電子顕微鏡(TEM)画像を、100kVで動作するLaB6型発光銃を有するTEM JEOL 2010器具で得た。ナノ粒子の結晶構造/非晶質性の分析は、制限視野電子回折(SAED)分析で可能である。ナノ粒子の元素組成のEDS(エネルギー分散X線分光)マッピングのためのSTEM/HAADF(走査透過型電子顕微鏡/高角度環状暗視野)分析を80kVで作動するFEI Titan G2 HRTEM顕微鏡で行った。STEM測定には、4個のシリコンドリフト検出器(Bruker)を持つSuper‐Xシステムを用いた。これら全ての顕微鏡分析のために、ナノ粒子含有分散液の水滴を、炭素被覆銅グリッド上に堆積させ、室温でゆっくりと乾燥させた。
【0085】
原子間力顕微鏡(AFM)画像は走査型トンネル顕微鏡Ntegra(Nt-MDT社)の半接触AFMモードにて撮影された。サンプルをHa-NCチップでスキャンした。サンプル調製のために、ナノ粒子含有分散液1滴をマイカ支持体上に置き、室温で乾燥させた。
【0086】
凍結したナノ粒子の分散液の電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルを、可変温度制御ES 13060DVT5器具を装備し、Xバンド周波数(9.17GHz)で動作するJEOL JES‐X‐320器具上で140Kにて記録した。高純度石英管を使用した(Suprasil、Wilmad、≦0.5OD)。他の実験パラメータは以下の通りである。:100KHz変調周波数、0.1mWマイクロ波電力、0.03s時定数、8Gauss変調幅。
【0087】
<細胞株>
細胞株を、10%ウシ胎仔血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充した適切な培地中で培養し;そして加湿された37℃の5%CO2大気内で維持した。DMEM培地中で培養した株は、HCT116(American Type Culture Collection、ATCCから入手)、DU145(European Collection of Authenticated Cell Cultures、ECACCから入手)、MDA-MB-231(ATCC)、U-2-OS(ECACC)、HeLa(ATCC)、CAPAN-1(ATCC)、A253(ATCC)、FaDu(ATCC)、h-TERT-RPE1(ATCC)であった。RPMI1640培地中で培養した細胞株は、AMO-1(ATCC)、MM-1S(ATCC)、OVCAR-3(NCI60)、CCRF-CEM(ATCC)、K562(ATCC)、786-0(NCI60)であった。EMEM培地中で培養した細胞株は、U87-MG(ATCC)、SiHA(ATCC)であった。細胞株A549(ATCC)を、McCoy培地中のF12K培地、HT29(ATCC)中で培養した。RWPE-1(ATCC)細胞を、ウシ下垂体抽出物およびヒト組換え上皮成長因子(Thermo Scientific)を補充したケラチノサイト無血清培地中で培養した。
【0088】
<細胞生存度試験>
細胞生存度をXTTテストによって測定した。10000細胞を96ウェルプレートに播種した。翌日、細胞を示したように処理した。24時間後、XTTアッセイを、製造業者の使用書(Applichem)に従って行った。XTT溶液を培地に添加し、30~60分間インキュベートし、次いで分光計(TECAN、Infinite M200PRO)を用いて475nm波長で色素強度を測定した。結果は、3回の独立した実験からの平均値および標準偏差として示され、各々3回繰り返して行った。拡張データ2dに列挙した細胞株のパネルにわたるLD50(致死量)分析のために、細胞株を種々の投与(少なくとも5投与)で48時間処理した。LD50は、少なくとも2つの独立した実験からの生存曲線に基づいて、Graphpad Prismソフトウェアを使用して計算される。
【0089】
<CuETの薬物動態および/または組織分布のHPLC/MS分析のためのサンプル調製>
液体窒素凍結生物学的サンプル(脳組織)を、メスによって小片に切断した。サンプル(30~100mg)を、サンプル対アセトンを1:10の比率で、100%アセトン中で均質化することによって直ちに処理した(血漿または血清については、比率は1:4であった)。均質化は、冷室(4℃)に置かれた卓上ホモジナイザー(Retsch MM301)にて、2個のガラスボール(5mm)を有する2mlのエッペンドルフチューブ中で1分間、30Hzで行った。次に、チューブを直ちに4℃、20.000G、2分で遠心分離した。上清を新しい1.5mlエッペンドルフチューブに静かに移し替え、直ちに-80℃フリーザー内に置いた小型表遠心分離機(BioSan FVL-2400N)を用いて30分間遠心分離した。上清をガラスHPLCバイアルに迅速に移し替え、-80℃で6時間以下維持した。HPLC分析の直前に、バイアルを予め冷却した(4℃)LCサンプルラックに入れ、直ちに分析した。薬物動態分析からの血清サンプルを、均質化せずに、同様に処理した。分析されたCuETの定量を可能にするために、検量線を作成した。次いで、標準を、上記のサンプルと同様に処理した。
【0090】
<銅-ジエチルジチオカルバメート錯体のHPLC-MS検出>
銅-ジエチルジチオカルバメート分析は、DuoSpray ESIを用いて、AB Sciex TripleTOF 5600+質量分析計を備えたHPLCクロマトグラフThermo UltiMate 3000からなるHPLC-ESI-QTOFシステムで行った。データはCuETの分析のために、2つの親質量358.9および360.9を有する生産モードで取得した。クロマトグラフィー分離は、C18吸着剤(IntellMed、cat.no.IM_301)で満たされた強力な金属キレート剤の分析のために特に設計されたPTFEカラムによって行った。分析は、アイソクラティッククロマトグラフィーを用いて、室温および流量1500μL/分で行った。移動相は、HPLCグレードのアセトン(Lachner)99.9%、HPLC水(Merck Millipore)0.1%および0.03%のHPLCギ酸(Sigma)からなる。取得した質量スペクトルをソフトウェアPeakView 1.2で評価した。0.1質量許容範囲の遷移88.0と116.0(両親質量共通)の抽出したイオンクロマトグラムを2点の幅でGauss平滑化した。
【0091】
<PET画像>
腫瘍中の64Cu放射性同位元素の存在を、MDA-MB-231異種移植片を有する重症複合免疫不全(SCID)マウスにおける複合陽電子放出断層撮影とコンピュータ断層撮影(PET/CT)を組み合わせた画像化によって可視化した。PETシグナルはMSA-ジエチル-ジチオカルバメート-銅64ナノ粒子の、ナノ粒子の分散液の、後眼窩注入の22時間後に収集され、ヒトトランスフェリン-ジエチル-ジチオカルバメート-銅64ナノ粒子のナノ粒子の分散液はそれぞれ、活性33MBqおよび29MBqに対応した。シグナルは、Albira PET/SPECT/CTイメージングシステム(Bruker Biospin Corporation、Woodbridge、CT、USA)を用いて記録した。
【0092】
<マウスのインビボ実験>
CuET-アルブミンナノ粒子の効果を直接試験するために、MDA-MB-231およびAMO1モデルを用いた。MDA-MB-231を注射して(5×106細胞を皮下移植した)、SCIDマウス(Anlab、CZ)において腫瘍を増殖させた。同様に、AMO-1異種移植片をSCIDマウスで増殖させた。各群は10匹の動物からなり、各々2つの腫瘍が認められた。CuETは、実施例12に従ってマウス血清アルブミン中のナノ粒子系として、または腹腔内に最終濃度1mg/mLまで適用するマウス実験において、非極性化合物のための標準製剤であるオリーブオイルに溶解された純粋なCuET粉末(東京化学工業(株)から入手)として、製剤化された。オリーブオイル単独およびマウス血清アルブミン溶液をビヒクル対照群として使用した。全ての溶液を、5日間のオンおよび2日間のオフのスケジュールで腹腔内に適用し、CuETを、体重1kgあたり1mgの最終用量で適用した。動物実験のすべての側面が、実験動物の医療および実験使用のために認められた基準に合致した。
【0093】
<HPLC-MSを用いたタンパク質同定>
アセトン沈殿タンパク質をダイジェスションバッファ(8M尿素、0.5重炭酸アンモニウム、pH=8)に、タンパク質濃度1~5μg/μL)にて溶解した。サンプル中のタンパク質を、56℃で30分間、還元のためにジチオトレイトールで処理し、続いて暗所で室温で30分間、アルキル化のためにヨードアセトアミドで処理した。サンプルを50mM重炭酸アンモニウムバッファで0.8M尿素に希釈し、タンパク質を、37℃で一晩、トリプシン(1/60)で分解した。TFA(pH=2)を添加することによって分解を停止させた。C18カラムを用いてペプチドを精製した。サンプルは、EASY-sprayイオン源(Thermo Fisher Scientific)を介してOrbitrap Elite質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に連結されたDionex UltiMate 3000 RSLCnanoシステム(Thermo Fisher Scientific)からなるLC-MSを用いて測定した。精製したペプチドを50cm EASY-sprayカラム(内径75μm、PepMap C18、2μm粒子、孔径100Å; Thermo Fisher Scientific)で分離した。各LC-MS/MS分析について、約1μgのペプチドを165分間の実験に使用した。最初の5分間、ペプチドを、6μL/分の流速で、ローディングバッファ(98.9%/1%/0.1%、v/v/v、水/アセトニトリル/ギ酸)中の2cmトラップカラム(Acclaim PepMap 100、内径100μm、C18、5μm粒子、100Å孔径; Thermo Fisher Scientific)に装填した。その後、バルブを切り替え、ペプチドをバッファA(99.9%/0.1%、v/v、水/ギ酸)に装填し、2%~35%のバッファB(99.9%/0.1%、v/v、アセトニトリル/ギ酸)の直線(linear)120分勾配でEASY-Sprayカラムから溶出し、続いて、流速300nL/分で5分間90%B洗浄した。EASY-sprayカラム温度を35℃に保った。質量分析データは、上位12個のデータ依存MS/MSスキャン法を用いて取得した。フルスキャンMSスペクトルの目標値は300~1700m/z温度範囲で1×106電荷であり、最大注入時間は35ms、分解能はm/z400で120,000であった。MS/MSスキャンのために2m/z分離ウィンドウを使用した。前駆体イオンのフラグメンテーションは、35の正規化衝突エネルギーでのCID解離によって行った。MS/MSスキャンを、1×104のイオン目標値および100msの最大注入時間を有するイオントラップ中で行った。同一ペプチドの反復配列決定を避けるために、ダイナミックエクスクルージョンを70秒に設定した。
【0094】
<タンパク質のデータ解析>
質量分析生ファイルを、MaxQuantソフトウェア環境(バージョン1.5.6.5)およびその内蔵Andromeda検索エンジンを使用して分析した。UniProtKB(UP000005640、2017年1月)からのヒトプロテオーム、および一般的な汚染物質データベースに対するMSおよびMS/MSデータを検索することによって、タンパク質を同定した。システインのカルバミドメチル化をfixed modificationとして設定した。メチオニンのN末端アセチル化および酸化をvariable modificationとして設定した。トリプシンをプロテアーゼとして設定し、データベース検索において、最大2回の切断失敗を許容した。ペプチド同定は、7ppmまでの許容初期前駆体質量偏差(Orbitrap)および0.5Daの許容フラグメント質量偏差(衝突誘起解離、イオントラップ)で行った。「matching between runs」オプションは、20秒の時間ウィンドウ内のaligned retention timeでのサンプル間の識別をマッチングすることを可能にした。誤発見率はタンパク質および最小7アミノ長のペプチドの両方について0.01に設定された。LFQは最小比カウント2で行われた。タンパク質存在度は特異的な「razor」ペプチドの合計ペプチド強度に基づいて計算された。reverseデータベースへのタンパク質のマッチングおよび修飾ペプチドのみで同定されたタンパク質を抽出した。
【0095】
〔実施例1〕
0.2%ヒト血清アルブミン(HSA)およびジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩からのナノ粒子の分散液の調製。
【0096】
手順:
FDAの規格(pH=6.9±0.5)に準拠した注射可能である20%(w/v)HSA水溶液を、注射のための滅菌水で0.2%(w/v)に希釈する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を0.2%HSAに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む0.2%HSA溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0097】
結果:
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-HSAナノ粒子を含む。この反応から得られたナノ粒子を、DLS、AFM、TEM、EDSおよびEPRを含む種々の高度な分析ツールによってさらに分析し、それらの基本的な物理的および化学的特性を示した(
図1~5参照)。分析はナノ粒子が多分散系を形成することを示す。粒子のサイズはDLS分析によって示されるように、約20~100nmの範囲にわたり、20~40nmの最大画分を有した(
図1)。AFM画像(
図2)およびTEM画像(
図3)は、DLSサイズ分布の結果を裏付ける。さらに、ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像は、結晶面の兆候を示していない(および非晶質様パターンを有する電子回折がない)。このことは、ナノ粒子が分子集合体の特性を有することを裏付ける事実である。単一ナノ粒子のEDS化学マッピング(
図4)は、銅ビス(ジエチルジチオカルバメート)構造の重要な元素(Cu、N、S)が分子集合体内に均一に分布していることを示している。X-バンドEPR分光法による比較分析(
図5)は、純粋なビス(ジエチルジチオカルバメート)銅錯体(CuET)とほぼ同じナノ粒子中に埋め込まれたCuETのスペクトルを示す。推定されたg
avg-値と全共鳴プロファイルは、薬物のカプセル封入で銅酸化とスピン状態(CuII、S=1/2)の改質がなく、Cu八面体照射の実質的な改質が生じないことを明確に示している。得られた粒子はまた、溶液中で良好な安定性を示し、電気化学的インピーダンス分光法によって測定された低いゼータ電位(ζ)-35,6mVを示す。
【0098】
ナノ粒子の分散液はまた、形質細胞腫(AMO-1;LD50=63nM)、膵臓腺癌(Capan-1;LD50=64nM)、多発性骨髄腫(MM1s;LD50=69nM)、急性リンパ芽球性白血病(CCRF-CEM;LD50=70nM)、卵巣腺癌(OVCAR3;LD50=83nM)、肺癌(A549;LD50=91nM)、結腸直腸癌(HCT116;LD50=117nM)、唾液腺癌(A253;LD50=214nM)、腎細胞腺癌(786-O;LD50=235nM)、骨肉腫(U2OS;LD50=271nM)、扁平上皮癌(FADU;LD50=330nM、SiHA;LD50=777nM)、慢性骨髄性白血病(K562;LD50=318nM)、乳腺癌(MDA-MB-231;LD50=517nM)、神経膠芽腫(U87-MG;LD50=696nM)、正常網膜上皮細胞(hTERT-PRE1;LD50=1000nM以上)および正常前立腺上皮細胞(RWPE;LD50=2000nM以上)を含む初代(正常)細胞を含むヒト細胞株パネルでの細胞毒性試験を含む生物学的実験で試験された。ナノ粒子の毒性を、XTTに基づく細胞生存率アッセイで試験した。癌細胞株(DU-145、MDA-MB-231)は、正常細胞(RPE-1、RWPE-1)と比較して高い感受性を示す。重要なことに、CuET-HSAナノ粒子は癌細胞株においてジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解された純粋なCuET粉末と同様の効力を有するが、正常細胞によってより寛容され、腫瘍細胞に対する一般的な優先毒性を示唆する(
図11参照)。
【0099】
ナノ粒子の分散液も、4℃での長期保存安定性試験で試験した。リードアウトとして、細胞培養物中の活性を選択した。4℃で4週間保存したナノ粒子は、骨肉腫系統U2OS(271nMと比較してLD50 280nM)を用いたXTT細胞生存率試験において、新たに調製したナノ粒子と細胞毒性に関して同様の効力を示した。
【0100】
ナノ粒子の分散液を、乾燥および続いての再溶解の可能性についても試験した。ナノ粒子を真空下で16時間室温で乾燥させた。乾燥粉末を4℃で1週間保存し、次いで滅菌水と混合し、24時間振盪機上で維持して、完全な再溶解を達成した。得られた再溶解ナノ粒子を、DLSおよび電気化学インピーダンス分光法によって分析した。測定された82nmの最確平均粒子径およびゼータ電位(ζ)-40mVは、乾燥および再溶解処理後のナノ粒子の化学的/物理的特性の最小の変化を示す。
【0101】
〔実施例2〕
0.01%ヒト血清アルブミン(HSA)およびジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩からのナノ粒子の分散液の調製。
【0102】
<手順>
FDAの規格(pH=6.9±0.5)に準拠した注射可能である20%(w/v)HSA水溶液を、注射のための滅菌水で0.01%(w/v)に希釈する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を0.01%HSAに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む0.01%HSA溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0103】
<結果>
得られた溶液は2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-HSAナノ粒子を含む。次いで、ナノ粒子をDLSおよびTEMによってさらに試験したところ、ナノ粒子の主要画分は約50~60nmであり、優位に、より大きな粒子の画分ではあるが、サイズは500nmを超えなかったことが示された(
図6参照)。
【0104】
〔実施例3〕
5%ヒト血清アルブミン(HSA)およびジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩からのナノ粒子の分散液の調製。
【0105】
<手順>
FDAの規格(pH=6.9±0.5)に準拠した注射可能である20%(w/v)HSA水溶液を、注射のための滅菌水で5%(w/v)に希釈する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、5%HSAに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む5%HSA溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0106】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-HSAナノ粒子を含む。この反応の結果、DLSおよびTEMによって試験したところ、約20~30nmの粒子の主要画分を示したナノ粒子が生じ;一般に、サイズ分布は、HSA濃度が増加することにつれて、より小さい粒子に向かって有意にシフトする(
図6を参照)。
【0107】
〔実施例4〕
1%ヒト血清アルブミン(HSA)およびジメチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩からのナノ粒子の分散液の調製。
【0108】
<手順>
FDAの規格(pH=6.9±0.5)に準拠した注射可能である20%(w/v)HSA水溶液を、注射のための滅菌水で1%(w/v)に希釈する。濃度280mMの、水に溶解したジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム塩(DMC)の滅菌溶液を、1%HSAに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDMCを含む1%HSA溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0109】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジメチルジチオカルバメート-銅-HSAナノ粒子を含む。この反応の結果、DLSおよびTEMによって試験したところ、粒子の主要画分が60~70nmの範囲を示したナノ粒子が生じた(
図7を参照)。
【0110】
〔実施例5〕
1%ヒト血清アルブミン(HSA)およびピロリジンジチオカルバメートおよび塩化銅塩からのナノ粒子の分散液の調製。
【0111】
<手順>
FDAの規格(pH=6.9±0.5)に準拠した注射可能である20%(w/v)HSA水溶液を、注射のための滅菌水で1%(w/v)に希釈する。濃度280mMの、水に溶解したピロリジンジチオカルバミン酸塩(PDC)の滅菌溶液を、1%HSAに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのPDCを含む1%HSA溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0112】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のピロリジンジチオカルバメート-銅-HSAナノ粒子を含む。この反応の結果、DLSおよびTEMで試験したところ、主要画分が約15nmの粒子を示したナノ粒子が生じた(
図7を参照)。明らかに、アルブミンを有するジメチルジチオカルバメートは、アルブミンを有するピロリジンジチオカルバメート(PDT)と比較して、2つの反応の他の全ての条件が同一であるにもかかわらず、より大きな粒子を形成する。この事実は、より長いR1、R2基を有すると、より小さい粒子が形成されることを反映する。
【0113】
〔実施例6〕
1%ヒト血清トランスフェリンおよびジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩のナノ粒子の分散液の調製。
【0114】
<手順>
注射可能である1%(w/v)ヒト血清トランスフェリン水溶液を、注射のための滅菌水中に調製する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、1%トランスフェリンに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む1%トランスフェリン溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0115】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-トランスフェリンナノ粒子を含む。この反応は、DLSによって試験したところ、最確平均径が約60nmを示したナノ粒子を生じた。得られた粒子は、電気化学的インピーダンス分光法によって測定された低いゼータ電位(ζ)-21,5 mVを示し、溶液中での良好な安定性を示している。
【0116】
〔実施例7〕
1%ヒト血清免疫グロブリン(IgG)およびジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩のナノ粒子の分散液の調製。
【0117】
<手順>
注射可能である1%(w/v)免疫グロブリン水溶液(ヒトガンマグロブリン画分)を、注射のための滅菌水中に調製する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、1%トランスフェリンに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む1%免疫グロブリン溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0118】
<結果>
得られた溶液は、約2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-免疫グロブリンナノ粒子を含む。この反応は、DLSによって試験したところ、約20nmの最確平均径が約20nmを示したナノ粒子を生じた(
図8参照)。得られた粒子は電気化学的インピーダンス分光法によって測定したところ、ゼータ電位(ζ)-1,39mVを示し、溶液中での安定性が比較的低いことを示している。
【0119】
〔実施例8〕
1%ヒト血清トランスフェリンおよび1%ヒト血清アルブミンならびにジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩の混合物からのナノ粒子の分散液の調製。
【0120】
<手順>
注射可能である1%(w/v)ヒト血清トランスフェリン水溶液を、注射可能である1%(w/v)HSA水溶液と混合する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、タンパク質の混合物に最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含むタンパク質溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0121】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-トランスフェリン/HSAナノ粒子を含む。この反応は、DLSによって試験したところ、最確平均径が約30nmを示したナノ粒子を生じた(
図9参照)。
【0122】
〔実施例9〕
1%ヒト血清アルブミンおよび1%(w/v)免疫グロブリン溶液ならびにジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩の混合物からのナノ粒子の分散液の調製。
【0123】
<実験設定>
注射可能である1%(w/v)ヒト血清アルブミン水溶液を、注射可能である1%(w/v)免疫グロブリン水溶液と混合する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、タンパク質の混合物に最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含むタンパク質溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0124】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-アルブミン/免疫グロブリンナノ粒子を含む。この反応は、DLSによって試験したところ最確平均径が約120nmを示したナノ粒子を生じた(
図10を参照)。
【0125】
〔実施例10〕
腫瘍イメージングおよび生体内分布のための、0.2%マウス血清アルブミン(MSA)およびジエチルジチオカルバメートおよび放射性酢酸銅(64Cu)塩からのナノ粒子の分散液の調製。
【0126】
<実験設定>
濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、1%MSAに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む1%MSA水溶液に、滅菌銅(64Cu)(ii)アセテートおよび非活性塩化銅(水中濃度100mM)の混合物を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0127】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/ml)のジエチルジチオカルバメート-銅(
64Cu)-MSAナノ粒子を含む。この反応から得られたナノ粒子を、皮下MDA-MB-231腫瘍異種移植片を有するマウスへの後眼窩注入(活動33MBqに対応する投与1mg/kg)によってインビボでさらに適用し、続いて、この適用後の複数の時点で、Albira PET/SPECT/CTイメージングシステム(Bruker Biospin Corporation、Woodbridge、CT、USA)を使用して、PET分析した。測定されたPETシグナルは、腫瘍塊内の蓄積を示す(
図13)。
【0128】
〔実施例11〕
腫瘍イメージングおよび生体内分布のための、0.2%ヒト血清トランスフェリン(HST)およびジエチルジチオカルバメートおよび放射性酢酸銅(64Cu)塩からのナノ粒子の分散液の調製。
【0129】
<実験設定>
濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、1%HSTに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む1%HST溶液に、滅菌銅(64Cu)(ii)アセテートおよび非活性塩化銅(水中濃度100mM)の混合物を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0130】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/ml)のジエチルジチオカルバメート-銅(
64Cu)-HSTナノ粒子を含む。この反応から得られたナノ粒子を、皮下MDA-MB-231腫瘍異種移植片を有するマウスへの後眼窩注入(活性29MBqに対応する投与1mg/kg)によってインビボでさらに適用し、続いて、この適用後の複数の時点で、Albira PET/SPECT/CTイメージングシステム(Bruker Biospin Corporation、Woodbridge、CT、USA)を使用して、PET分析した。PETシグナルは、腫瘍塊内の蓄積を示す(
図13)。
【0131】
〔実施例12〕
0.2%マウス血清アルブミン(MSA)およびジエチルジチオカルバメートおよび塩化銅塩のナノ粒子の分散液の調製。
【0132】
<実験設定>
注射可能である20%(w/v)MSA水溶液(pH=6.9±0.5)を、注射のための滅菌水で0.2%(w/v)に希釈する。濃度280mMの、水に溶解したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、0.2%MSAに最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMのDTCを含む0.2%MSA溶液に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0133】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-MSAナノ粒子を含む。この反応から得られたナノ粒子を、HPLC/MSによるCuETの血清薬物動態を含む種々のマウスのインビボ実験によってさらに分析した(
図12を参照)。動物を、5mg/kgのCuETに相当する濃度のナノ粒子で腹腔内処理した。投与後1および3時間に血清を採取した。対照として、オリーブオイル中に分散させた5mg/kgのCuETを使用した。抗腫瘍活性については、ナノ粒子を1mg/kgのCuETに対応する濃度で投与した(
図14~15および方法を参照)。CuET濃度もまた、脳組織におけるHPLC/MSによって分析した(方法を参照)。動物を、1mg/kgのCuETに相当する濃度のナノ粒子で腹腔内処理した。動物を、1mg/kgのCuETに相当する濃度のナノ粒子で腹腔内処理した。腹腔内投与の1時間後、脳のCuETレベルは血中レベルと同様であり、約3ng/mlに達した。これは、asx MSAナノ粒子に製剤化されたCuETが、血液脳関門を通って非常に良好に浸透することを示す。
【0134】
〔実施例13〕
0.2%ヒト血清アルブミン(HSA)および塩化銅塩およびジエチルジチオカルバメートからのナノ粒子の分散液の調製。
【0135】
<実験設定>
注射可能である20%(w/v)MSA水溶液(pH=6.9±0.5)を、注射のための滅菌水で0.2%(w/v)に希釈する。濃度1Mの、水に溶解した滅菌塩化銅(ii)の滅菌溶液を、0.2%HSAに最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。2.8mM塩化銅(ii)を含む0.2%HSA溶液に、滅菌ジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(水中濃度280mM)を最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。
【0136】
<結果>
得られた溶液は、2.8mM(1mg/mL)のジエチルジチオカルバメート-銅-HSAナノ粒子を含む。
【0137】
〔実施例14〕
塩化銅塩およびジエチルジチオカルバメートとナノ粒子を形成可能な血漿タンパク質のプロテオミック同定。
【0138】
<実験設定>
健常ボランティアからのヘパリン血漿を、超遠心分離(4℃で3時間200000g)によって予備浄化して、血漿中の天然に存在する全ての沈殿物および大きな複合体を除去する。濃度280mMの水に可溶化したジエチルジチオカルバメートナトリウム塩(DTC)の滅菌溶液を、予備浄化した血漿に最終濃度5.6mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。5.6mMDTCを含む予備洗浄した血漿に、滅菌塩化銅(ii)(水中濃度1M)を最終濃度2.8mMまで添加し、続いて短時間撹拌する。ナノ粒子溶液を、450nmポアフィルター(Millipore)によって濾過して、全ての大きな粒子を除去する。濾過した溶液を超遠心分離(4℃で3時間200000g)して、ナノ粒子を単離する。ナノ粒子を含むペレットを洗浄し、生理食塩水に再懸濁して、潜在的な汚染物質を除去し、再び超遠心分離する(4℃で3時間200000g)。ナノ粒子を含むペレットを80%アセトンに溶解させて、タンパク質を沈殿させ、単離する。タンパク質は、HPLC-MSに基づくプロテオミック同定のため、さらに使用される(確認されたタンパク質は、多くの血液タンパク質が本発明のナノ粒子形態を形成可能なことを示す)。
【0139】
<結果>
得られた溶液は、HPLC-MSプロテオミクスにより、さらに同定された種々の血漿タンパク質を有するジエチルジチオカルバメート-銅ナノ粒子2.8mM(1mg/ml)を含む。以下のタンパク質が同定された:フィブリノーゲンベータ鎖;フィブリノーゲンガンマ鎖;アルファ-2-マクログロブリン;フィブリノーゲンα鎖;Ig mu鎖C領域;アポリポタンパク質A-I;アポリポタンパク質C-III;Ig mu重鎖diseaseタンパク質;Igカッパ鎖C領域;血清アルブミン;CD5抗原様;クラステリン;Igガンマ-1鎖C領域;アポリポタンパク質B-100;アポリポタンパク質B-48;アポリポタンパク質A-IV;Igアルファ-1鎖C領域;フィブロネクチン;アナステリン;Ugl-Y1;Ugl-Y2;Ugl-Y3;免疫グロブリンラムダ様ポリペプチド5;Igラムダ-1鎖C領域;C4B結合タンパク質アルファ鎖;アポリポタンパク質C-I;切断アポリポタンパク質C-1;補体C3;補体C3-ベータ鎖;補体C3-ベータ-c;補体C3アルファ鎖;C3aアナフィラトキシン;アシル化刺激タンパク質;補体C3bアルファ鎖;補体C3cアルファ鎖フラグメント1;補体C3dgフラグメント;補体C3dフラグメント;補体C3fフラグメント;補体C3cアルファ鎖フラグメント2;未同定タンパク質C1orf177;補体C1rサブ成分;補体C1rサブ成分重鎖;補体C1rサブ成分軽鎖;補体C1sサブ成分;補体C1sサブ成分重鎖;補体C1sサブ成分軽鎖;インター-アルファ-トリプシンインヒビターH4;70kDaインター-アルファ-トリプシンインヒビター重鎖H4;35kDaインター-アルファ-トリプシンインヒビター重鎖H4;ビトロネクチン;ビトロネクチンV65サブユニット;ビトロネクチンV10サブユニット;ソマトメジン-B;アポリポタンパク質C-II;プロアポリポタンパク質C-II;補体C1qサブ成分サブユニットB;免疫グロブリンJ鎖;補体因子H;アポリポタンパク質A-II;プロアポリポタンパク質A-II;切断アポリポタンパク質A-II;Ig ガンマ-3鎖C領域;Ig ガンマ-4鎖C領域;補体C1qサブ成分サブユニットA;ハプトグロビン関連タンパク質;アポリポタンパク質E;ハプトグロビン;ハプログロビンアルファ鎖;ハプトグロビンベータ鎖;補体C4-A;補体C4ベータ鎖;補体C4-Aアルファ鎖;C4aアナフィラトキシン;C4b-A;C4d-A;補体C4ガンマ鎖;補体C4-B;補体C4ベータ鎖;補体C4-Bアルファ鎖;C4aアナフィラトキシン;C4b-B;C4d-B;補体C4ガンマ鎖;トランスサイレチン;ヘモグロビンサブユニットベータ;LVV-ヘモルフィン-7;スピノルフィン;ガレクチン-3結合タンパク質;フィコリンー3;Igガンマ-2鎖C領域;プラスミノーゲン;プラスミン重鎖A;活性化ペプチド;アンジオスタチン;プラスミン重鎖A短鎖型;プラスミン軽鎖B;補体C1qサブ成分サブユニットC;ヒスチジン-リッチ糖タンパク質;Ig重鎖V-III領域CAM;Ig重鎖V-III領域23;Igカッパ重鎖V-IV領域;Ig重鎖V-III領域BUT;Ig重鎖V-III領域KOL;Ig重鎖V-III領域WEA;Ig重鎖V-III領域TRO;Igアルファ-2鎖C領域;Igラムダ-3鎖C領域;Igラムダ-2鎖C領域;Igラムダ-6鎖C領域;Igラムダ-7鎖C領域;Igカッパ鎖V-III領域VG;アポリポタンパク質D;アポリポタンパク質(a);ゲルソリン;インターアルファートリプシンインヒビター重鎖H1;プロトロンビン;活性化ペプチドフラグメント1;活性化ペプチドフラグメント2;トロンビン軽鎖;トロンビン重鎖;セルコプラスミン;ビタミンK-依存タンパク質S;Ig ラムダ鎖V-I領域HA;Ig ラムダ鎖V-I領域VOR;補体C5;補体C5ベータ鎖;補体C5アルファ鎖;C5aアナフィラトキシン;補体C5aアルファ鎖;Igカッパ鎖V-III領域POM;セロトランスフェリン;β-2-糖タンパク質1;インター-アルファ-トリプシンインヒビター重鎖H2;一過性受容器電位チャネルサブファミリーMメンバー6;補体成分C8アルファ鎖;ヘモグロビンサブユニットアルファ;Igカッパ鎖V-III領域B6;キニノーゲン-1;キニノーゲン-1重鎖;T-キニン;ブラジキニン;リシル-ブラジキニン;キニノーゲン-1軽鎖;低分子量成長促進因子;Igカッパ鎖V-II領域FR;補体成分C8ベータ鎖;Ig重鎖V-II領域NEWM;Ig重鎖V-II領域ARH-77;Ig重鎖V-II領域WAH;C4b-結合タンパク質ベータ鎖;補体因子B;補体因子BBa断片;補体因子BBbフラグメント;アルファ-1-アンチトリプシン;AAT由来の短鎖ペプチド;補体因子H関連タンパク質1;補体因子H関連タンパク質2;アルファ-2-HS-糖タンパク質A;アルファ-2-HS-糖タンパク質B;アポリポタンパク質M;アポリポタンパク質L1;Igラムダ鎖V-I領域NEWM;Igラムダ鎖V-III領域LOI;凝固因子V;凝固因子V重鎖;凝固因子V軽鎖;IgGFc-結合タンパク質;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ1;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ1重鎖;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ1軽鎖;N-アセチルムラモイル-L-アラニンアミダーゼ;血漿カリクレイン;血漿カリクレイン重鎖;血漿カリクレイン軽鎖;血清パラオキソナーゼ/アリルエステラーゼ1;タンパク質AMBP;アルファ-1-マイクログロブリン;インター-アルファ-トリプシンインヒビター軽鎖;トリプスタチン;Igラムダ鎖V領域4A;ヘモペキシン;フィコリン-2;アルファ-1-酸糖タンパク質2;アルファ-1-酸糖タンパク質1;補体成分C8ガンマ鎖;フィブリン-1;細胞外マトリックスタンパク質1;凝固因子XII;凝固因子XIIa重鎖;ベータ-因子XIIaパート1;凝固因子XIIa軽鎖;カリスタチン;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ2A鎖;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ2B鎖;フォン・ヴィレブランド因子;フォン・ヴィレブランドアンチジン2;ヘパリン補因子2;コレステリルエステル転移タンパク質、SUNドメイン含有タンパク質3;Igデルタ鎖C領域;補体成分C6;ホスファチジルイノシトール-グリカン特異的ホスホリパーゼD;アポリポタンパク質F;血清アミロイドA-2タンパク質;血清アミロイドA-1タンパク質;アミロイドタンパク質A;血清アミロイドタンパク質A(2-104);血清アミロイドタンパク質A(3-104);血清アミロイドタンパク質A(2-103);血清アミロイドタンパク質A(2-102);血清アミロイドタンパク質A(4-101);2-ヒドロキシアシルスフィンゴシン1-β-ガラクトシルトランスフェラーゼ;ビタミンD結合タンパク質;アンギオテンシノーゲン;アンギオテンシン-1;アンギオテンシン-2;アンギオテンシン-3;アンギオテンシン-4;アンギオテンシン1-9;アンギオテンシン1-7;アンギオテンシン1-5;アンギオテンシン1-4;ケラチン、I型細胞骨格10;血清アミロイドA-4タンパク質;Ig重鎖V-II領域MCE;ケラチン、I型細胞骨格9;Ig重鎖V-I領域HG3;Ig重鎖V-I領域EU;ポリコームタンパク質SUZ12;アファミン;補体成分C9;補体成分C9a;補体成分C9b;ケラチン、II型細胞骨格1;補体成分C7;凝固因子XI;凝固因子XIa重鎖;凝固因子XIa軽鎖;アルファ-2-アンチプラスミン;アンチトロンビン-III;マトリックスグリアタンパク質;ヘモグロビンサブユニットデルタ;Small ubiquitin-related modifier 2;Small ubiquitin-related modifier 3;カルボキシペプチダーゼN触媒鎖;推定上のヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼPRDM6;UBA様ドメイン含有タンパク質2;液胞融合タンパク質MON1ホモログA;Igカッパ鎖V-I領域HK102;凝固因子XIIIA鎖;高分子免疫グロブリン受容体;分泌成分;アクチン、細胞質1;アクチン、細胞質1、N末端修飾された;アクチン、細胞質2;アクチン、細胞質2、N-末端修飾された;Ig重鎖V-I領域V35;インヒビンベータC鎖;アポリポタンパク質C-IV;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ1;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ1重鎖;マンナン結合レクチンセリンプロテアーゼ1軽鎖;ケラチン、II型細胞骨格2表皮;レチノール結合タンパク質4;血漿レチノール結合タンパク質(1-182);血漿レチノール結合タンパク質(1-181);血漿レチノール結合タンパク質(1-179);血漿レチノール結合タンパク質(1-176);血漿プロテアーゼC1インヒビター;ルミカン;WDリピート含有タンパク質20;Sialic acid-binding Ig様レクチン16;アルファ-1B-糖タンパク質;ビンクリン;クロモドメイン-ヘリケース-DNA結合タンパク質7;未同定タンパク質C17orf102;トランスロケーションタンパク質SEC62;Growth arrest-specific protein6;ベータ-2-マイクログロブリン;ベータ-2-マイクログロブリンform pI 5.3;トランスゲリン-2;テトラネクチン;タンパク質S100-A9;ジンクフィンガータンパク質215;ジンクフィンガーFYVEドメイン含有タンパク質1;Igカッパ鎖V-II領域Cum;組織因子経路インヒビター;線維芽細胞増殖因子受容体1;妊娠性血漿タンパク質;セレノプロテインP;リン脂質転送タンパク質;ミオトロフィン;ジンクフィンガーMYNDドメイン含有タンパク質11;シナプトタグミン-13;未同定タンパク質C19orf68;E3ユビキチン-タンパク質リガーゼRNF169;LIMドメイン-onlyタンパク質7;ソーティングネキシン-27。これらのタンパク質またはそれらの組み合わせは、CuETナノ粒子の工業的製造に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【
図1】
図1は、実施例1で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約20~100nm;最大画分:30~40nmを形成する。
【
図2】
図2は、およその垂直寸法を有する粒子の代表的な原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。実施例1に従って調製した約20~40nmの範囲。
【
図3】
図3は、ナノ粒子(約30nm)の代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す;結晶面の表示なく、電子回折なく、実施例1に従って調製された分子集合体(ナノ粒子)の全体的な特徴を示す。
【
図4】
図4は、cca 60nm分子集合体のHAADF/EDS画像を示す。実施例1に従って調製したナノ集合体中に、主要元素(Cu、N、S)が明確に埋め込まれている。
【
図5】
図5は、ビス(ジエチルジチオカルバメート)銅錯体(CuET)のXバンド電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルを示す(a-bは東京化学工業(株)から入手した純粋なCuET粉末の共鳴であり;c-dは実施例1に従って調製したCuET-アルブミンナノ粒子の共鳴である)。2.044の推定g
avg-valueと全共鳴プロファイルから、ナノ粒子生成に際して銅酸化状態の修飾はなく、Cu八面体場の実質的な変質は生じないことを明確に示している。
【
図6】
図6は、0.01%アルブミン(実施例2)または5%アルブミン(実施例3)の存在下での化学反応中に形成されたナノ粒子の多分散系のDLSスペクトル(上側画像)および代表的なTEM画像(下側2つの画像)を示す。この分析は、より高いアルブミン濃度が化学反応に入る場合に、より小さい粒子に向かう顕著なシフトを示す。
【
図7】
図7は、ジチオカルバメート(ジメチルジチオカルバメート-DMC対ピロリジンジチオカルバメート-PDT)の使用されるタイプに応じて、形成されたナノ粒子(実施例4、5)の異なるサイズを示す、形成されたナノ粒子のDLS粒度分布(上部画像)および代表的なTEM画像(下部2つの画像)を示す。
【
図8】
図8は、実施例7で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約10~40nm;最大画分:15~30nmを形成する。
【
図9】
図9は、実施例8で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約15~100nm;最大画分:20~40nmを形成する。
【
図10】
図10は、実施例9で調製したナノ粒子の動的光散乱(DLS)スペクトルを示す。ナノ粒子は、多分散系:約50~800nm;最大画分:60~200nmを形成する。
【
図11】
図11は、種々の濃度(125nM~10μM)の24時間処理後の、実施例1に従って調製されたCuET-アルブミン(CuET-HSA)ナノ粒子毒性の2,3-ビス-(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキサニリド(XTT)-ベースの細胞生存度分析を示す。癌細胞株(DU-145、MDA-MB-231)は、正常細胞(RPE-1、RWPE-1)と比較して高い感受性を示す。CuET-HSAナノ粒子は、癌細胞株においてジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解された純粋なCuET粉末と同様の効力を有するが、正常細胞によってより寛容される。
【
図12】
図12は、5mg/kgCuETの腹腔内へ1回適用後の、マウス血清中のCuET濃度に関する、飛行時間型質量分析計と連結した高圧液体クロマトグラフィー(HPLC-TOF/MS)による分析を示す。CuETは、実施例1に従ってアルブミンナノ粒子として製剤化されたCuET、またはオリーブオイルに溶解した純粋なCuET粉末(東京化成工業(株)から入手した)として製剤化されたCuETである。オリーブオイルは、マウス実験において腹腔内投与される非極性化合物用の標準製剤である。測定された濃度は、ナノ粒子製剤の場合、有意に高いCuET循環濃度を示す。
【
図13】
図13は、重症複合免疫不全(SCID)マウス中の、コンピュータ断層撮影と複合陽電子放出断層撮影を組み合わせた画像化(PET/CT)によって視覚化された腫瘍(矢印によってマークされる)における
64Cu放射性同位元素の存在を示す。PETシグナルは、MSA-ジエチル-ジチオカルバメート-銅
64ナノ粒子(左)のナノ粒子の分散液およびヒトトランスフェリン-ジエチル-ジチオカルバメート-銅
64ナノ粒子(右)のナノ粒子の分散液を、それぞれ実施例10および11に従って調製した後、後眼窩注入の22時間後に収集した。PETシグナルは、複合体に包埋された
64CuがMDA-MB-231皮下腫瘍塊内に蓄積されることを示す。GIT陽性は、化合物が腸管から排泄されることを示す。
【
図14】
図14は実施例1に従ってナノ粒子として製剤されたCuET(1mg/ml)または非極性化合物の標準製剤であるオリーブオイルに溶解した純粋なCuET粉末(東京化成工業株式会社より取得)を、マウス実験にて腹腔内に適用した処置の後の、SCIDマウスに皮下異種移植したMDA-MB-231乳癌腫瘍の成長を示す。CuET-アルブミンナノ粒子のみが、腫瘍増殖に対して有意な効果を示す。
【
図15】
図15は、実施例1に従ってアルブミンナノ粒子として製剤化されたCuET(1mg/ml)で処置したSCIDマウスに皮下異種移植したAMO-1腫瘍の増殖を示す。ナノ粒子治療は腫瘍増殖(上部画像、カリパス)を有意に減少させ、そしてこの治療された動物はアルブミンのみによって治療された対照マウスと比較して、延長された生存(下部画像、カプラン-マイヤー生存プロット)を示す。この動物は、5日間の処置+2日間の休薬の処方で、1日1回、腹腔内適用により処置された。また、これらの実験は動物に100回以上注射したときのCuET-アルブミンナノ粒子の非常に良好な耐容性を示す。