IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ユメックスの特許一覧

<>
  • 特許-箔シール型ショートアーク水銀ランプ 図1
  • 特許-箔シール型ショートアーク水銀ランプ 図2
  • 特許-箔シール型ショートアーク水銀ランプ 図3
  • 特許-箔シール型ショートアーク水銀ランプ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】箔シール型ショートアーク水銀ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/36 20060101AFI20220930BHJP
   H01J 61/86 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
H01J61/36 B
H01J61/86
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021029535
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022130890
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2022-08-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599117211
【氏名又は名称】株式会社ユメックス
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】山本 良介
(72)【発明者】
【氏名】濱本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】赤松 崇行
(72)【発明者】
【氏名】谷本 京平
(72)【発明者】
【氏名】君塚 誠
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-519435(JP,A)
【文献】特開2003-297228(JP,A)
【文献】米国特許第5859492(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00-61/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に封止部を有するガラス封体、
先端に電極を有する電極支持棒、
前記封止部に配置され、前記電極支持棒の先端とは逆側の端部を支持するガラス製の電極支持棒保持部材、
前記電極支持棒保持部材の電極側に隣接して配置され、前記電極支持棒の中途を支えるガラス製の電極支持棒中途支持部材、
前記電極支持棒保持部材の外周に配設され、前記電極支持棒と電気的に接続される複数の金属箔、
を備えた箔シール型ショートアーク水銀ランプであって、
前記電極支持棒中途支持部材の軸方向の長さを、前記電極支持棒保持部材の長さよりも長くしたこと、
を特徴とする箔シール型ショートアーク水銀ランプ。
【請求項2】
両端に封止部を有するガラス封体、
先端に電極を有する電極支持棒、
前記封止部に配置され、前記電極支持棒の先端とは逆側の端部を支持するガラス製の電極支持棒保持部材、
前記電極支持棒保持部材の電極側に隣接して配置され、前記電極支持棒の中途を支えるガラス製の電極支持棒中途支持部材、
前記電極支持棒保持部材の外周に配設され、前記電極支持棒と電気的に接続される複数の金属箔、
を備えた箔シール型ショートアーク水銀ランプであって、
前記電極支持棒中途支持部材の軸方向の長さ/前記電極支持棒保持部材の長さ>1としたこと、
を特徴とする箔シール型ショートアーク水銀ランプ。
【請求項3】
請求項1または2の箔シール型ショートアーク水銀ランプにおいて、
定格電力8kW以上で、かつ、水銀量が40mg/cc以上であること、
を特徴とする箔シール型ショートアーク水銀ランプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は箔シール型ショートアーク水銀ランプに関し、特に封止部近傍における箔浮き抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、点灯中に水銀の凝集が生じにくい箔シールタイプの水銀ショートアークランプが開示されている。
【0003】
かかる箔シールタイプの水銀ショートアークランプは、近年、一層の高照度化が要求されており、ランプへの高負荷化で封止部の破損が問題となっている。
【0004】
かかる破損の原因について簡単に説明する。前記封止部における封止はモリブデン箔がガラスと溶着されることでなされるが、ランプへの高負荷化に伴う封止部への高負荷化が、溶着部のモリブデン箔をガラスから剥離(以下、箔浮きという。)させる。前記箔浮きで生じた隙間周辺のガラスに、熱応力および点灯時に数十気圧にもなる水銀ガスによる内圧応力が加わることで、封止部近傍が破損する。
【0005】
特に、陰極側では、このような熱応力や内圧応力による負荷に加えて、水銀やガラス部材に含まれる金属不純物等のプラスイオンがマイナス電荷に引き寄せられ、これらが封止部のガラスおよびモリブデン箔の結合を破壊するといった化学的な要因も加わる。
【0006】
特許文献2には、略円柱状ガラス部材に、直線部と平面部を形成することで、ガラスとモリブデン箔の間に生じる非溶着領域を小さくし、封止部の強度を高くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-186121号公報
【文献】特開2020-24893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2のガラス部材を用いると、直線部及び平面部の形成によって、略円柱状ガラス部材に必然的に角部が生ずる。かかる、角部は封止部を形成する製造工程で割れや欠けが生じてしまうという問題があった。また、特許文献2は封止部の強度を向上させるものにすぎず、封止部への負荷それ自体を低減するものではない。
【0009】
この発明は、箔浮きが生じにくい箔シール型ショートアーク水銀ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明にかかる箔シール型ショートアーク水銀ランプは、両端に封止部を有するガラス封体、先端に電極を有する電極支持棒、前記封止部に配置され、前記電極支持棒の先端とは逆側の端部を支持するガラス製の電極支持棒保持部材、前記電極支持棒保持部材の電極側に隣接して配置され、前記電極支持棒の中途を支えるガラス製の電極支持棒中途支持部材、前記電極支持棒保持部材の外周に配設され、前記電極支持棒と電気的に接続される複数の金属箔、を備えた箔シール型ショートアーク水銀ランプであって、前記電極支持棒中途支持部材の軸方向の長さを、前記電極支持棒保持部材の長さよりも長くしている。したがって、箔浮きが防止でき、これによりクラック発生率が低い箔シール型ショートアーク水銀ランプを提供することができる。
【0011】
(2)本発明にかかる箔シール型ショートアーク放電ランプにおいては、前記電極支持棒中途支持部材の軸方向の長さ/前記電極支持棒保持部材の長さ>1である。したがって、箔浮きが防止でき、これによりクラック発生率が低い箔シール型ショートアーク水銀ランプを提供することができる。
【0012】
(3)本発明にかかる箔シール型ショートアーク放電ランプにおいては、定格電力8kW以上で、かつ、水銀量が40mg/cc以上である。したがって、いわゆる大型ランプにおいて箔浮きが防止でき、これによりクラック発生率が低い箔シール型ショートアーク水銀ランプを提供することができる。
【0013】
特許請求の範囲にて用いた用語と実施形態における部材との対応について説明する。「電極支持棒保持部材」はキャップ9が、「電極支持棒中途支持部材」とは、ビーズ6が該当する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかるショートアーク放電ランプ1のシール部構造を示す説明図である。
図2図2Aは、第1実施形態における箔浮き長さおよびクラックの有無を示す結果一覧である。図2Bは従来ランプ51本の箔浮き長さおよびクラックの有無を示す結果一覧である。
図3】温度測定方法を説明するための図である。
図4】第1実施形態と第2実施形態の違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.第1実施形態
図1に、本発明にかかるショートアーク放電ランプ1の主要断面図を示す。ショートアーク放電ランプ1は、箔シール型の放電ランプ(定格電力13.5kW)であり、封体3、陽極4、陰極5、リード棒7、キャップ9、およびビーズ6を備えている。
【0016】
封体3は水銀とキセノンガスが封入されており、両端に封止部3aを有する。封止部3aには、ガラス製のキャップ9が配置されている。キャップ9の先端にはリード棒7の基端が挿入されており、キャップ9はリード棒7を支える。キャップ9の外周には陰極5に通電するための導電部材として5枚のモリブデン製の金属箔13が設けられている。キャップ9の先端にはリード棒7が挿入される貫通穴が設けられた金属板15が設けられている。
【0017】
本実施形態においては水銀量を40mg/cc、ガス700Torrとした。
【0018】
リード棒7と口金18は、金属箔13、電気板(図示せず)、後方リード棒17、口金18と電気的に接続されており、これにより、リード棒7の先端に設けられた陰極5に外部から通電することができる。
【0019】
ビーズ6について図1Bを用いて説明する。ビーズ6はガラス製であり、キャップ9側の一端は、キャップ9の先端の金属板15とほぼ同径で構成されている。また、中央にリード棒7が挿入される貫通穴29を有する。
【0020】
本実施形態においては、ビーズ6の長さLbを55mm、キャップ長さLcを40mmとした(Lb>Lc)。ビーズ長さLb/キャップ長さLc(以下ビーズ・キャップ比という)=1.38となる。ちなみに従来はLbを35mm、キャップ長さLcを60mm(ビーズ・キャップ比は0.6)であった。
【0021】
従来の仕様のランプ3本、また、図1に示す実施形態のビーズ・キャップ比のランプを2本、製作し、これら5本のランプについての箔浮き長さを計測した。
【0022】
各ランプは、陰極側で5枚の金属箔を使用しており、各々、表側および裏側に箔浮きが存在する可能性がある。すなわち、合計5本*5枚*2(表裏)=50箇所について、箔浮き長さ(陰極側における口金側の金属ワッシャ15の端から軸方向の距離)およびクラックの発生を調査した。
【0023】
図1に示す実施形態のビーズ・キャップ比のランプについては、2本とも1000時間、点灯して1枚も箔浮きなしであった。
【0024】
これに対して、従来のランプ3本は、図2Aに示すように、それぞれ点灯時間169時間で計測した。1本は、クラック無、3mm以下の箔浮きが9箇所あった(比較例1)。また、別の1本は、クラック有、34mm以下の箔浮きが10箇所のあった(比較例2)。また、別の1本は、クラック無、22mm以下の箔浮きが10箇所(比較例3)あった。
【0025】
なお、かかる点灯試験は、過入力状態(定格電力13.5kWに対して入力電力14.2kWで、かつ、内壁にウール生地を張った筒状部材で封止部の周りを被覆した状態)で、行った。一般的には、定格電力13.5kWであっても初期は10kW程度から使用開始する。したがって、入力電力14.2kWは、1.4倍以上の過入力状態である。
【0026】
かかる箔浮きが減少した理由は定かではないが、発明者は、点灯時における金属箔13の温度、すなわち、ビーズを長くすることで熱源である発光部から金属箔の距離をとったことで溶着部温度が低下し、これにより、封止部に移動してくる金属プラスイオンによる石英ガラスとモリブデン箔の結合破壊を抑制できるからと考えた。封止部の箔浮きおよびそれに伴う破損は、石英ガラスとモリブデン箔の結合界面の生成物(Mo-O-Si化合物)と封止部に移動してくる金属プラスイオンとの化学反応による結合界面破壊による強度低下と、金属箔のガラスとの熱膨張差による応力歪による強度低下の両方が影響して生じていると考えられる。温度を低下させることで化学反応速度が低下し、かつ応力歪も減少する為、二つの要因による強度低下が緩和され、破損を防ぐことができるのであろう。
【0027】
なお、従来は、ビーズ6の軸方向の長さを長くすると、貫通穴29とリード棒7との隙間に、未蒸発の水銀が溜まり、立ち上がり時間が長くなるという問題が生ずるのではないかと考えられていた。しかし、本件のようにビーズ・キャップ比を1以上としても、特に、上記デメリットはなかった。
【0028】
発明者は金属箔13の温度を計測した。本実施形態における温度測定方法について、図3を用いて説明する。
【0029】
1辺が約1mの立方体のランプハウス50内に、陽極4が上方に位置するようにショートアーク放電ランプ1を垂直設置する。ランプハウス50には、陰極5から放射される光による影響を防止するため、陰極5側の封止部近傍を覆う遮光ボックス51を設ける。遮光ボックス51の内面には黒体塗料が塗られている。放射温度計(FLIR社製A6261)(図示せず)を、ランプハウス50の測定窓53を通して、金属箔13と垂直になるように、設置する。なお放射率は0.37に設定した。
【0030】
ショートアーク放電ランプ1を電圧108V、直流電流92.6Aで点灯させ、安定状態となった後、消灯後4ミリ秒経過後の温度を放射温度計で計測する。これはランプ点灯時のアーク光が測定値に影響するのを防ぐためである。
【0031】
なお、温度測定で電圧108V、直流電流97Aで点灯させたのは、一般的な照度一定条件下で使用する場合と同じ入力電力とするためである。すなわち、定格電力13.5kWであっても初期は10kW程度から使用開始し、使用とともに照度が低下した場合は電力を大きくして使用するからである。
【0032】
ショートアーク放電ランプ1と従来品を比べると、金属箔13の温度は平均で約40度低下していた。
【0033】
発明者は、箔浮きとシール部のクラックの相関関係を確認する為、顧客から回収した従来の使用済みランプ51本(「5枚箔/本」なので、各々表と裏の合計510カ所)について、箔浮き長さおよびクラック発生率を調査した。結果を図2Bに示す。51本中、4本はクラックが発生していた。また、これら4本のうち、1本については、2枚の箔が起点となりクラックが発生していた。
【0034】
図2Bの510カ所について、集計した結果を図2Cに示す。このように、従来品は、109/510=21.4%が箔浮きなしで、それ以外は箔浮きが生じていた。また、これらについて、クラックが発生したのは、箔浮き長さが26mm以上の箔については、その63%でクラックが発生し、箔浮き長さが21~25mmの箔については、その17%でクラックが発生し、箔浮き長さが16~20mmの箔については、その14%でクラックが発生し、箔浮き長さが1~5mmの箔は、1%はクラックが発生していた。
【0035】
このように、箔浮き長さが長くなるほどクラック発生率は高くなる。これに対して、従来のランプであっても箔浮きなしのランプについてはクラック発生率は0であった。
【0036】
なお、クラック割合とは、クラック有りとなった箇所が全部で10カ所有り、これを分母としてどのデータ区間に分布しているかを表す。この場合、5割が箔浮き長さが26mm以上の箔であった。
【0037】
2.第2実施形態
また、第1実施形態ではキャップ9の先端のテーパー長が21mmであったがこれを4mmにしたショートアーク放電ランプを製作した。キャップ9のテーパー角は計算上、10度から46度となる。図4A、Bに第1実施形態と第2実施形態の封止部部品図を示す。この封止部部品図を用いてショートアーク放電ランプを5本製作した。
【0038】
この実施形態では、前記過入力試験(定格電力13.5kWに対して入力電力14.2kWで、かつ、内壁にウール生地を張った筒状部材で封止部の周りを被覆した状態)で120時間点灯させても、箔浮き「無」、当然クラック「無」であった。
【0039】
このようにキャップ9のテーパー角を大きくすることで、以下に説明するように、箔浮きのおそれが低くなる。
【0040】
一般に箔の幅方向の断面は端部にいくにつれて薄くなっている(ナイフエッジ)。これは端部の密着性を高くするためである。ところで、ビーズのテーパー部分では、5枚の金属箔の相互に重なることを避けるために金属箔の側面が削除される。その結果、前記ナイフエッジ部分もなくなってしまう。かかるナイフエッジが存在しない部分は箔浮きがおこりやすい。前記テーパー部分の長さを短くできれば、ナイフエッジが存在しない部分の長さは短くなるので、箔浮きのおそれが低くなる。
【0041】
3.他の実施形態
本実施形態においては、定格電力13.5kWのショートアーク水銀ランプについて説明した。しかし定格電力はこれに限定されない。
【0042】
なお、一般に定格電力が大きくなるほど、内圧が高くなり、内圧が高くなるほど上記箔浮きが起こりやすくなる。しかし、定格電力が高くてもそれほどクラックが発生しないものもある。これは定格電力が高くても内圧がそれほど高くないランプがあるからである。発明者が過去のランプを調査したところ、定格電力8kW以上で、かつ、単位容積あたりの水銀量が40mg/ccを超えると、クラックが起こる程度の箔浮きが生じていた。したがって、本件発明は定格電力8kW以上で、かつ、水銀量が40mg/cc以上の箔シール型ショートアーク水銀ランプに有用である。
【0043】
本実施形態においては、ビーズ・キャップ比を1.38の場合について説明したが、これに限定されず、ビーズ・キャップ比が1以上であればよい。
【0044】
本実施形態においては、ビーズ・キャップ比を従来と比べて大きくすることで箔浮きを防止している。このため基準面から陰極までの距離を変更することなく、ビーズの長さを長くすることができる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・・ショートアーク放電ランプ
3・・・・封体
3a・・・封止部
4・・・・陽極
5・・・・陰極
6・・・・ビーズ
7・・・・リード棒
9・・・・キャップ
13・・・金属箔
15・・・金属板
51・・・遮光ボックス
図1
図2
図3
図4