(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】付加製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 3/20 20060101AFI20220930BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20220930BHJP
B28C 5/18 20060101ALI20220930BHJP
B28C 5/48 20060101ALI20220930BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220930BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20220930BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220930BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20220930BHJP
C04B 24/30 20060101ALI20220930BHJP
C04B 24/32 20060101ALI20220930BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20220930BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B28B3/20 A
B28B1/30
B28C5/18
B28C5/48
B33Y10/00
C04B22/06 Z
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
C04B22/14 B
C04B24/30 B
C04B24/32 A
C04B24/38 Z
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2017017580
(22)【出願日】2017-02-02
【審査請求日】2020-01-29
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505243788
【氏名又は名称】有限会社ニコラデザイン・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(72)【発明者】
【氏名】前堀 伸平
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】谷村 充
(72)【発明者】
【氏名】御法川 学
(72)【発明者】
【氏名】水野 操
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0107332(US,A1)
【文献】米国特許第5529471(US,A)
【文献】特開平3-81454(JP,A)
【文献】特開平7-52140(JP,A)
【文献】特開昭49-039609(JP,A)
【文献】特開2009-234890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B1/30
B28B3/20
B28C1/00-9/04
C04B28/02
B33Y10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)造形用セメント組成物
100質量部に対し、水
15~35質量部を添加して混練してセメント質混練物を得るための混練工程と、
(B)該セメント質混練物を押し出して硬化させて造形物を得るための押し出し工程
を少なくとも含む、付加製造方法。
ただし、
(A-1)前記造形用セメント組成物は、セメント含有結合材を25~70質量%、混和剤を0.1~5質量%、および細骨材を25~70質量%を少なくとも含み、
(A-2)前記セメント含有結合材は、セメントを50~90質量%、非晶質アルミノケイ酸塩を7~30質量%、並びに、石膏および/または硫酸アルカリ金属塩を前記非晶質アルミノケイ酸塩100質量部に対し10~150質量部含む。また、
(B-1)前記押し出し工程は、前記セメント質混練物を充填したカートリッジを50kPa以上に加圧してセメント質混練物を押し出す工程であり、
(B-2)前記カートリッジは、ピストンとノズルを備え、該カートリッジに付属するノズルの排出口の内側の断面積は0.1~1cm
2
である。
【請求項2】
前記(A)混練工程が、造形用セメント組成物と水を袋に入れて、該袋全体を非せん断混合方式の混合機で混練する工程である、請求項
1に記載の付加製造方法。
【請求項3】
前記非せん断混合方式の混合機が、揺動ミキサ、傾胴ミキサ、ドラム式ミキサ、餅つき機、洗濯機、パドル型混合機、またはパン型造粒機である、請求項
2に記載の付加製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質混練物と付加製造装置(3Dプリンタ)を用いて造形する付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂等の造形材料を、連続的に積載台(台座)の上に押し出しながら逐次固化して積層することにより、繊細な形状を造形することできる付加製造装置が普及している。
そして、最近では樹脂のほかに、セメントや石膏等の水硬性材料と付加製造装置を用いて造形する方法が提案されている。例えば、特許文献1に記載の造形方法は、造形領域中に、セメントを補助結合剤として含む粒状の造形材料(アルカリ金属ケイ酸塩)を層状に敷き詰めて、これを硬化する工程を繰り返して、模型を積層造形する方法である。
【0003】
しかし、これらの方法は、固化した範囲以外では粉体が残るため、造形の最終段階で粉体を除く作業が必要になり、その分手間がかかる。また、材料押し出し(ME)方式の付加製造装置は、水硬性混練物を造形材料に用いた場合、水硬性混練物の水和の進行に伴う流動性の低下等により可使時間が限られるため、流動性の低下が速ければ付加製造装置や供給配管の中で水硬性混練物が硬化して閉塞し、造形作業を継続できない場合がある。また、石膏はセメントと比べ、一般に造形物の強度が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、セメント質混練物と付加製造装置を用いて、繊細かつ多様なデザインを有する造形物を製造できる付加製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の方法(手段)でセメント質混練物を押し出して造形物を製造する付加製造方法は、セメント質混練物の水和が進行して該混練物の流動性が低下しても、繊細かつ多様なデザインを有する造形物を安定的に製造できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する付加製造方法である。
【0007】
[1](A)造形用セメント組成物100質量部に対し、水15~35質量部を添加して混練してセメント質混練物を得るための混練工程と、
(B)該セメント質混練物を押し出して硬化させて造形物を得るための押し出し工程
を少なくとも含む、付加製造方法。ただし、
(A-1)前記造形用セメント組成物は、セメント含有結合材を25~70質量%、混和剤を0.1~5質量%、および細骨材を25~70質量%を少なくとも含み、
(A-2)前記セメント含有結合材は、セメントを50~90質量%、非晶質アルミノケイ酸塩を7~30質量%、並びに、石膏および/または硫酸アルカリ金属塩を前記非晶質アルミノケイ酸塩100質量部に対し10~150質量部含む。また、
(B-1)前記押し出し工程は、前記セメント質混練物を充填したカートリッジを50kPa以上に加圧してセメント質混練物を押し出す工程であり、
(B-2)前記カートリッジは、ピストンとノズルを備え、該カートリッジに付属するノズルの排出口の内側の断面積は0.1~1cm
2
である。
[2]前記(A)混練工程が、造形用セメント組成物と水を袋に入れて、該袋全体を非せん断混合方式の混合機で混練する工程である、前記[1]に記載の付加製造方法。
[3]前記非せん断混合方式の混合機が、揺動ミキサ、傾胴ミキサ、ドラム式ミキサ、餅つき機、洗濯機、パドル型混合機、またはパン型造粒機である、前記[2]に記載の付加製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の付加製造方法は、フレッシュな状態のセメント質混練物を、適時、迅速に供給でき、セメント質混練物の水和が進行して該混練物の流動性が低下しても、繊細かつ多様なデザインを有する造形物を安定的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の付加製造方法における押し出し工程で用いるカートリッジの一例を示す図である。
【
図2】カートリッジを装着した付加製造装置(一例)の全体を示す写真である。
【
図3】カートリッジを加圧するため付加製造装置に設置したラック・ピニオン機構(一例)を示す写真である。
【
図4】実施例において使用した円筒型カートリッジにセメント質混練物を充填している様子を示す写真である。
【
図5】実施例において造形した模型(造形物)の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の付加製造方法は、前記のとおり、(A)造形用セメント組成物と水を混練してセメント質混練物を得るための混練工程と、(B)該セメント質混練物を押し出して硬化させて造形物を得るための押し出し工程を、少なくとも含む製造方法である。
以下、本発明を、(A)混練工程、(B)押し出し工程、(C)造形用セメント組成物、および(D)セメント質混練物に分けて、詳細に説明する。
【0011】
(A)混練工程
該混練工程は、造形用セメント組成物と水を混練してセメント質混練物を得るための工程である。該混練工程における混練は、特に制限されないが、造形用セメント組成物と水を袋に入れて、この袋全体を非せん断混合方式の混合機で混練するのが好ましい。袋の中の混練物は、袋の一部に穴を開けることにより、後述する押し出し工程で用いるカートリッジ内に、手を汚すことなく容易に注入できる。また、非せん断混合方式の混合機を用いた混練では、せん断力がないか、または極めて弱いため、袋が破損することなく袋の中で造形用セメント組成物と水を充分に混練できる。また、袋内の混練物は混合機内に付着しないから、混練機の洗浄は不要である。さらに、この袋を用いた混練工程は、複数の種類(配合)の造形用セメント組成物と水を、それぞれ別々の袋に入れて混練できるため、複数の配合の混練物を1回の混練操作で得ることができるという利点もある。
ここで、前記袋は、ビニール袋、ゴム袋、絞り袋、三角パック、フレキシブル容器、またはフレキシブルコンテナバッグ(フレコンバッグ)等が挙げられる。また、袋の開口部を閉じる方法は、ビニールテープ、チャック、ジップロック、クリップ、ゴム栓、ネジ栓、または熱融着等により、袋の開口部を結束する方法等が挙げられる。
また、前記非せん断混合方式の混合機は、揺動ミキサ、傾胴ミキサ、ドラム式回転機(例えば、乾燥器、ボールを使用しないボールミル等)、餅つき機、洗濯機、パドル型混合機、またはパン型造粒機等が挙げられる。
【0012】
(B)押し出し工程
該押し出し工程は、前記セメント質混練物を押し出して硬化させて造形物を得るための工程であり、例えば、前記セメント質混練物を充填したカートリッジを加圧して、カートリッジ中のセメント質混練物を押し出す工程(方式)が挙げられる。
該カートリッジは、後掲の
図1に示すように、加圧および押し出しの効率の観点から、ピストン21とノズル23を備えたカートリッジ2が好ましい。また、カートリッジ2に付属するノズル23の排出口の内側の断面積は、特に制限されないが、好ましくは0.1~1cm
2、より好ましくは0.2~0.8cm
2である。ノズル23の排出口が1cm
2以下であれば、繊細で多様なデザインを有する造形物を得ることができるが、0.1cm
2未満では押し出しが困難になる場合がある。
押し出しの圧力は、50kPa以上が好ましく、より好ましくは100kPa以上である。このようにカートリッジ式のピストンで50kPa以上の高圧で押し出すことができるので、ノズルの排出口を狭くできる上、積層後に分離したり変形を生じることのないセメント質混練物を押し出すことができ、繊細かつ多様なデザインを有する造形物を安定的に製造できる。なお、押し出しの圧力の上限は、カートリッジやノズルの耐圧性にもよるが500kPaが好ましい。
また、セメント質混練物を充填したカートリッジ2を用いる方式は、下記(i)~(iv)の利点がある。すなわち、
(i)カートリッジ2を加振しながら、セメント質混練物をカートリッジ2内に充填すれば、セメント質混練物中の気泡を容易に除去でき、気泡のない(少ない)造形物が製造できる。
(ii)セメント質混練物を充填したカートリッジ2を複数本準備しておけば、カートリッジ2の交換という簡単な操作により、安定した品質のセメント質混練物を、適時、迅速に、作業者の手を汚すことなく付加製造装置に補充できるため、連続して安定的に造形できるほか、ノズル23が詰まっても、カートリッジ2の交換により容易かつ迅速に対処できる。
(iii)カートリッジ2を用いれば、セメント質混練物の貯蔵タンク、供給ポンプ、および供給配管が不要になるため、付加製造装置を簡素化できる。
(iv)カートリッジ2に付属するピストン21を単に加圧してセメント質混練物を押し出す方式であるから、押し出し速度の調整(制御)が容易である。停止時にもノズル23の排出口からのダレが生じない。
また、カートリッジ2を加圧する方式は特に制限されないが、後掲の
図3に示すように、付加製造装置に設置した電動機の駆動により、ラック・ピニオン機構を用いてピストン21に圧力を直接伝達する方式が、高圧による押し出しできるため好ましい。また、カートリッジ2として、例えば市販のコーキングガンで使用されている円筒形容器が使用できる。
セメント質混練物を押し出す際のノズル23の位置決め機構は、一般的な付加製造装置に採用されている機構である、直交軸の機構を採用してノズル(射出ヘッド)を動かす際に、X軸、Y軸およびZ軸の位置を決めるモーターを、それぞれ独立に動かす機構のほかに、パラレルリンク機構が使用できる。ここで、パラレルリンク機構とは、常に3つのモーターを同時に、並列(パラレル)にリンクさせながら動かして、X軸、Y軸およびZ軸の位置を決める機構である。パラレルリンク機構を採用した付加製造装置は、ノズル(射出ヘッド)の位置決めがより速く、また、モーターへの負荷や位置決め時の慣性によるブレが減るため、より精度の高い造形が可能になるから、本発明のノズルの位置決め機構として好ましい。
【0013】
(C)造形用セメント組成物
次に、造形用セメント組成物について説明する。
造形用セメント組成物は、少なくとも、セメント含有結合材を25~70質量%、混和剤を0.1~5質量%、および細骨材を25~70質量%含む組成物である。ただし、前記セメント含有結合材、混和剤、および細骨材の合計は100質量%である。前記各構成成分が前記範囲内にあれば、セメント質混練物のチクソトロピー性が高く、造形性に優れる。
なお、セメント含有結合材の含有率は、好ましくは35~65質量%、より好ましくは40~60質量%であり、混和剤の含有率は、好ましくは0.3~4.0質量%、より好ましくは0.5~3.5質量%であり、細骨材の含有率は、好ましくは35~65質量%、より好ましくは40~60質量%である。
以下、さらに、(i)セメント含有結合材、(ii)混和剤、および(iii)細骨材に分けて説明する。
【0014】
(i)セメント含有結合材
該セメント含有結合材は、セメント、非晶質アルミノケイ酸塩、並びに、石膏および/または硫酸アルカリ金属塩を必須の成分として含む混合物である。
前記セメントは、白色ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、シリカフューム含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、コロイドセメント、およびエコセメント等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記セメント含有結合材中のセメントの含有率は、好ましくは50~90質量%である。該値が50質量%未満では、造形物の特に短期強度の発現性が充分でない場合があり、90質量%を超えるとセメント含有結合材中のセメント以外の必須成分の含有率が、その分低くなり、チクソトロピー性が低下し、形状の保持性が低下するおそれがある。なお、セメントの含有率は、より好ましくは60~85質量%、さらに好ましくは65~80質量%である。
【0015】
前記非晶質アルミノケイ酸塩は、A型、X型、Y型、Pc型、およびT型等のゼオライトや、カオリン、アナルサイム、チヤバサイト、モルデナイト、エリオナイト、ホージャサイト、並びに、クリノパチロライトから選ばれる1種以上に対して、酸処理、イオン交換処理、および焼成処理から選ばれる1種以上の処理をして得られる、非晶質化したアルミノケイ酸塩が挙げられる。また、一部が非晶質化しているフライアッシュ等も使用できる。
前記セメント含有結合材中の非晶質アルミノケイ酸塩の含有率は、好ましくは7~30質量%である。該値が7質量%未満では、チクソトロピー性の低下により形状の保持性が十分でなく、30質量%を超えると相対的にセメントの含有率が低下して、セメントによる強度発現性が低下するおそれがある。なお、非晶質アルミノケイ酸塩の含有率は、より好ましくは7~25質量%、さらに好ましくは10~20質量%である。
【0016】
前記石膏は、無水石膏、半水石膏、および二水石膏から選ばれる1種以上が挙げられる。また、該石膏は天然石膏のほか、フッ酸石膏、リン酸石膏、芒硝石膏、排脱石膏等の副産石膏や、廃石膏ボード等の廃材を加熱処理して得られる再生石膏が使用できる。
前記硫酸アルカリ金属塩は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸水素ナトリウム、および硫酸水素カリウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
前記セメント含有結合材中の石膏および/または硫酸アルカリ金属塩の配合量は、非晶質アルミノケイ酸塩100質量部に対し10~150質量部が好ましく、より好ましくは20~120質量部、さらに好ましくは30~100質量部である。
なお、石膏と硫酸アルカリ金属塩を併用する場合、石膏と硫酸アルカリ金属塩の割合は特に制限されないが、石膏:硫酸アルカリ金属塩の質量比で、好ましくは99.99:0.01~70:30、より好ましくは99.95:0.05~80:20である。
【0017】
前記セメント含有結合材は、さらに水酸化カルシウムを含有することが好ましい。セメント含有結合材中の水酸化カルシウムの含有率は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0.5~4.5質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。水酸化カルシウムの含有率が前記範囲内であれば、セメント混練物の急硬性が向上するとともに、チクソトロピー性による形状の保持性も向上する。
【0018】
(ii)混和剤
該混和剤は、減水剤、消泡剤、並びに、増粘剤および/または粉末セルロースを、必須の成分として含む混合物である。
前記減水剤は、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩(メラミン系)、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩(ナフタレン系)、アクリル酸塩-アクリル酸エステルの共重合体などを主鎖としポリエチレンオキサイド等をグラフト鎖として有するポリカルボン酸系と称されるものなど、通常、コンクリートに用いられる減水剤が使用できるが、本発明では、特にメラミン系減水剤が好ましい。
前記減水剤は、液体状、粉末状の別は問わないが、その取り扱いの利便性から粉末状のものが好ましい。
該混和剤中の減水剤の割合は、混和剤を100質量%として、流動性向上の観点から、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~40質量%である。
【0019】
前記消泡剤は、シリコーン系、エーテル系、鉱物油系、エステル系、エマルション系、およびノニオン系等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記消泡剤は、エマルジョン、粉末状の別は問わないが、取り扱いの利便性から粉末状のものが好ましい。
前記混和剤中の消泡剤の割合は、前記減水剤100質量部に対して、好ましくは1~300質量部、より好ましくは3~200質量部、さらに好ましくは5~150質量部である。なお、減水剤としてメラミン系粉末減水剤を使用する場合は、消泡剤の割合は、メラミン系粉末減水剤100質量部に対して、好ましくは2~200質量部、より好ましくは2.5~150質量部、さらに好ましくは5~100質量部である。消泡剤の割合が該範囲内であれば、空気の混入を抑制できる。
【0020】
前記増粘剤は、増粘効果を有するものであれば特に限定されず、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)、アルギン酸、β-1,3グルカン、プルラン、ウェランガム、キサンタンガム、グアガム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ペクチン、メチルスターチ、エチルスターチ、プロピルスターチ、メチルプロピルスターチ、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルスターチ等の増粘多糖類;ポリアクリル酸;ポリビニルアルコール;ポリエチレングリコール等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、前記粉末セルロースは、繊維長が18~1000μm、繊維径が15~50μmのセルロース繊維である。
【0021】
前記混和剤中の増粘剤および/または粉末セルロースの割合は、前記減水剤100質量部に対して、好ましくは5~900質量部、より好ましくは10~800質量部、さらに好ましくは15~700質量部である。なお、減水剤としてメラミン系粉末減水剤を使用する場合は、増粘剤および/または粉末セルロースの割合は、メラミン系粉末減水剤100質量部に対して、好ましくは10~600質量部、より好ましくは20~550質量部、さらに好ましくは30~500質量部である。増粘剤および/または粉末セルロースの割合が該範囲内であれば、粘性が適切なため造形性が高く、また形状保持性にも優れる。
なお、増粘剤と粉末セルロースを併用する場合は、増粘剤と粉末セルロースの割合は特に制限されないが、増粘剤:粉末セルロースの質量比で、好ましくは99:1~1:99、より好ましくは98:2~2:98である。
【0022】
(iii)細骨材
該細骨材は、川砂、陸砂、海砂、砕砂、軽量骨材、重量骨材、スラグ骨材、石灰石砂、珪砂、および人工砂から選ばれる1種以上である。そして、細骨材の最大粒径は、好ましくは2.5mm以下である。細骨材の最大粒径が2.5mmを超えると、繊細なデザインの造形が困難となる。なお、デザインの造形の繊細さの観点から、細骨材の最大粒径は、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下であり、粉末状であってもよい。
【0023】
(iv)造形用セメント組成物のその他の任意の成分
前記造形用セメント組成物は、前記(i)~(iii)の必須の成分のほか、組成物の機能を著しく損なう可能性のない任意の成分を含有できる。例えば、該任意の成分は、各種のスラグ(高炉スラグ、徐冷スラグ、鉄鋼スラグ等)、ポゾラン物質、膨張材、収縮低減剤、ポリマーディスパージョン(液状のエマルション、再乳化型の粉末の別は問わない。)、中空微粒子、樹脂粉末、硬化遅延剤、繊維、発泡剤、起泡剤、および空気連行剤等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0024】
(D)セメント質混練物
該混練物は、前記造形用セメント組成物と水を混練したものであり、セメント質混練物の流動性は、好ましくは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定するフローコーンに該混練物を充填した後、該フローコーンを上方に垂直に取り去って、50Hzの振動を10秒間加えて流動が停止したときのフロー値で150~220mmである。該フロー値を有するセメント質混練物であれば、本発明の付加製造方法の押し出し工程に用いるカートリッジ2のノズル23からの混練物の押し出しの開始および停止を容易に制御できる。また、押し出し後の混練物は自立して造形性が高い。
前記セメント質混練物は、造形用セメント組成物100質量部に対し、水を好ましくは15~35質量部添加して混練して調製する。水量が該範囲内にあれば、セメント質混練物の前記フロー値が150~220mmの範囲内になり粘性が適正で造形性が高い。なお、用いる水は水道水でよい。
【0025】
本発明で用いるセメント質混練物は、さらに硬化促進剤を任意の成分として含んでもよい。
硬化促進剤を含むセメント質混練物は、硬化促進剤を含まないセメント質混練物に、硬化促進剤を接触させた混練物である。硬化促進剤の使用により、セメント質混練物の硬化が促進して造形効率が向上する。ここで前記セメント質混練物に硬化促進剤を接触させるとは、セメント質混練物層に硬化促進剤を滴下、塗布、散布、噴霧、またはセメント質混練物中に硬化促進剤を含めるなどの行為をいう。
前記硬化促進剤は、アルミン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、カルシウムアルミネート、カルシウムサルフォアルミネート、硫酸アルミニウム、およびミョウバン等から選ばれる1種以上の固体(粉体)、懸濁液、または水溶液が使用可能であるが、硬化促進性、長期強度発現性、および作業の安全性から、特に、硫酸アルミニウムを主成分とする水溶液が好ましい。
前記硫酸アルミニウム水溶液中の硫酸アルミニウムの濃度は、好ましくは5質量%以上である。該濃度が5質量%未満では、硬化の促進が小さい。なお、該濃度の上限は飽和濃度である。下層となるセメント質混練物の硬化が進み、表面が乾燥していると、上層の混練物層との一体化が困難になるため、下層となるセメント質混練物の硬化層が前記試験方法において終結以前の硬化の状態で、上層のセメント質混練物層を形成するのが、一体性を確保する上で好ましい。
【0026】
なお、本発明の付加製造方法により製造した造形物の養生方法は、特に限定されず、1種類または2種類以上の養生方法を併用してもよく、例えば、気中養生、封緘養生、湿空養生、蒸気養生、水中養生、温熱養生、炭酸ガス養生、およびオートクレーブ養生等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
1.使用材料
下記のセメント含有結合材、混和剤、および細骨材を含む造形用セメント組成物と、下記の水を用いた。
(1)造形用セメント組成物
(1-1)セメント含有結合材
(i)セメント:白色ポルトランドセメント(山陽白色セメント社製)
(ii)非晶質アルミノケイ酸塩:メタカオリン(商品名 MetaMax HRM、BASFジャパン社製)
(iii)石膏:II型無水石膏(旭硝子社製)
(iv)水酸化カルシウム(重安石灰社製)
(v)硫酸アルカリ金属塩:芒硝(東ソー社製)
(1-2)混和剤
(i)メラミン系粉末減水剤:メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩を有効成分とする減水剤(メルメント[登録商標]、BASFジャパン社製)
(ii)増粘剤:増粘多糖類(商品名 Esacol210H[登録商標]、BASFジャパン社製)
(iii)粉末セルロース:セルロース微粉末(商品名 Arbocel PWC500、レッテンマイヤー社製)
(iv)消泡剤:ポリエーテル系消泡剤(商品名 アデカネートB317F、ADEKA社製)
(1-3)細骨材
石灰石砂(最大粒径 0.6mm)
(2)水
上水道水
【0028】
2.本発明の付加製造方法を用いた混練
ポリエチレン製の袋(縦35cm、横45cm、厚さ0.1mm)に、表1に示す造形用セメント組成物100質量部(1000g)を入れ、さらに水32.5質量部(325g)を添加した後、開口部をビニールテープで巻いて封をし、非せん断混合方式の混合機(製品名スタンダードオーエムミキサーOM-5、チヨダマシナリー社製)を用いて混練してセメント質混練物を調製した。
次に、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定するフローコーンに、前記セメント質混練物を充填した後、該フローコーンを上方に垂直に取り去って、50Hzの振動を10秒間加えて流動が停止したときのフロー値は193mmであった。
【0029】
【0030】
3.本発明の付加製造方法を用いた造形
内径4.9cm、長さ21.5cmの円筒型カートリッジを縦に設置した後、前記セメント質混練物を、
図4に示すように、袋の先端に穴を開けて、カートリッジ上部よりカートリッジ内に加振しながら充填した。充填後も、カートリッジを加振して、前記セメント質混練物内の巻き込み気泡を除去した。
前記セメント質混練物を充填したカートリッジは、ただちに上部からピストンを挿入し、混練物との間に隙間がなくなるまで密着させた。カートリッジとピストンを密着させるため、ピストンの側面にはワセリンが塗布されている。なお、使用したピストンの形状は、直径4.8cm、長さ2cmの中空円柱型である。
次に、カートリッジの下部に対して、先端の尖った道具を用い、カートリッジ内部に予め貼り付けられているアルミ箔のシールに穴を開け、直ちに排出口にノズルを取り付けて、混練物がノズルから排出できるようにした。取り付けたプラスチック製ノズルの形状は、根元部の内径が1.6cm、排出口の内側の断面積は0.28cm
2、長さ5.7cmの円錐台型である。ノズルを取り付けたカートリッジは、
図2に示す、付加製造装置のカートリッジをストックする位置にセットした。
付加製造装置を起動し、予め製造する造形物の形状データを取り込んで、カートリッジのセットが完了した後、造形作業を開始した。造形作業では、最初に位置決め機構部にカートリッジを取り込み、ピストンの突起部をチャックで掴むことにより、カートリッジから混練物を押し出した。
図3に示すように、付加製造装置に設置した電動機の駆動により、ラック・ピニオン機構を用いてピストンを作動させて、混練物の押し出しの開始および停止を制御した。押し出しの開始時における負荷は20kgであった。
また、混練物を押し出す際のノズルの位置決めは、一般的な付加製造装置に採用されているパラレルリンク機構により、X軸、Y軸、およびZ軸の位置を決める3つのモーターを同時かつ並列にリンクさせながら動かして、X軸、Y軸、およびZ軸の位置を決定した。
カートリッジからの混練物の押し出し量(ピストンの押し込み量)が所定の値になると、付加製造装置が自動的にカートリッジの交換作業を行い、引き続き造形作業を行なった。以上の作業を連続的に実施した結果、繊細かつ多様なデザインを有する造形物を安定的に製造することができた。
図6に得られた造形物の一例を示す。
【符号の説明】
【0031】
2 カートリッジ
21 ピストン
22 セメント質混練物
23 ノズル