(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】車両用複合タンク
(51)【国際特許分類】
B60K 15/03 20060101AFI20220930BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20220930BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20220930BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B60K15/03 B ZAB
F01N3/08 B
F02M37/00 301B
F02M37/00 301J
B60K15/03 C
B01D53/94 222
B01D53/94 400
(21)【出願番号】P 2018081626
(22)【出願日】2018-04-20
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591237537
【氏名又は名称】末吉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(74)【代理人】
【識別番号】100169247
【氏名又は名称】小野 佳世
(72)【発明者】
【氏名】牛島 雄一
(72)【発明者】
【氏名】飯野 剛
(72)【発明者】
【氏名】千代田 雄一
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248696(JP,A)
【文献】特開2005-54788(JP,A)
【文献】特開2010-208154(JP,A)
【文献】特開2005-291086(JP,A)
【文献】特開平10-67235(JP,A)
【文献】特開2000-254783(JP,A)
【文献】特開平9-263148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/03,
F01N 3/08,
F02M 37/00,
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が異なる金属材料で構成した貯液タンク同士を一体化した
車両用複合タンクであって、
低い熱伝導率の金属材料で構成した第1貯液タンクと、高い熱伝導率の金属材料で構成した第2貯液タンクとの間に接続空間を備え、この接続空間の外壁に複数の開口を備えることを特徴とする
車両用複合タンク。
【請求項2】
前記開口は、三角形、四角形、円形又は楕円形の開口形状である請求項1に記載の
車両用複合タンク。
【請求項3】
前記
車両用複合タンクは、その胴体外周に沿った幅をW、胴体高さをHとし、前記接続空間の外壁が備えるn個(nは2以上の整数)の開口の当該胴体外周に沿った開口長さをL1~Lnとしたとき、以下の条件式(1)に示す関係を備える請求項1又は請求項2に記載の
車両用複合タンク。
【数1】
【請求項4】
燃料を貯蔵する燃料タンクと排気ガス浄化用の尿素水を貯蔵する尿素水タンクとを一体化
し、
前記第1貯液タンクがステンレス鋼製の尿素水タンクであり、
前記第2貯液タンクが亜鉛めっき鋼製の燃料タンクである請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の
車両用複合タンク。
【請求項5】
前記第2貯液タンクを構成する金属材料は、その表面に樹脂被覆層を備える請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の
車両用複合タンク。
【請求項6】
前記樹脂被覆層は、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂のいずれか一種、又は、これらの混合樹脂で形成したものである請求項5に記載の
車両用複合タンク。
【請求項7】
前記第1貯液タンクと、前記第2貯液タンクの接続部は、溶接にて接合が行われ、
当該溶接の開始位置は第1貯液タンク側に存在し、当該溶接の終了位置は第2貯液タンク側に存在する請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の
車両用複合タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、トラック等の車両に搭載される複合タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トラック等の車両には、環境保護を図るために、搭載したエンジンの排気浄化を行うための尿素SCR(Selective Catalytic Reduction:選択的触媒還元)システムを採用したものがある。この尿素SCRシステムは、尿素水を排気ガスに吹きかけてアンモニアを生成し、このアンモニアと排気ガス中の窒素酸化物(NOX)とを触媒還元反応させることにより窒素(N2)と水(H2O)に分解し無害化するものである。
【0003】
尿素SCRシステムにおいて、アンモニアの発生源として前駆体となる尿素水は、車両に搭載した尿素水タンクに貯蔵される。ここで、この車両には、尿素水タンクの他に、燃料を貯蔵する燃料タンクが搭載される。
【0004】
例えば、特許文献1には、空間を設けて配置した2枚の遮蔽板によって1つのタンクを燃料タンク室と尿素水タンク室とに仕切り、しかも、この空間が存在する位置のタンク本体壁面に点検孔を設けることで、燃料の温度上昇の影響を受けにくくし、かつ、尿素水凍結時の体積膨張によるタンクの歪を吸収でき、さらに漏れを容易に確認できるタンク構造が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ステンレス鋼板と、溶融アルミめっき鋼板とをレーザー溶接等で突合せ溶接により一体化した自動車等のマフラが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-248696号公報
【文献】実開昭63-52918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のタンクは、空間を設けて配置した2枚の遮蔽板によって、1つのタンクを燃料用タンクと尿素水用のタンクに仕切っている。特に遮蔽板で仕切られた一方のタンクを尿素水用タンクとして使用するため、タンクを構成する材料には優れた耐食性が必要である。しかし、遮蔽板で仕切られた他方の燃料用タンクは、尿素水用タンクほどの耐食性は必要とされない。しかし、1つのタンクを用途の異なるタンクとして使用できるように遮蔽板で仕切るため、タンク材料として優れた耐食性が必要となる。その結果、タンク自体が高価になってしまうという欠点がある。さらに、1つのタンクを遮蔽板により仕切るために、各々個別にタンクの容積を設定することができず、2つのタンクを組み合わせたタンクを小型化することが難しいという欠点を有する。加えて、空間を設けて配置した2枚の遮蔽板の空間を設けた位置のタンク本体壁面に漏れを確認できる点検孔を設けているが、点検孔の位置と遮蔽板空間との位置合わせが必要なこと、及びタンク完成後に漏洩検査を行い漏れを検出しても補修できないため廃棄となり、タンクの製造コストが上昇してしまうという欠点を有する。
【0008】
また、特許文献2では、異種材料である「ステンレス鋼板」と「溶融アルミめっき鋼板」とをレーザー溶接等で突合せ溶接した場合に、溶接熱の影響が大きく、鋼板に歪みが生じてしまうために、溶接した鋼材の平面性が保てないという欠点がある。また、突合せ溶接部分に溶接痕の盛り上がり(以下、「溶接ビード」という。)が生じ、この溶接ビード部では、2つの材料組成の均一な混合が行われずに溶接部から割れやすいという欠点もある。
【0009】
本発明は、複合タンクの小型化を図ると同時に、異種材料溶接時の平面性を維持しつつ、溶接ビードの発生を抑えた安価な複合タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、以下の技術的思想に想到し、上述の課題を解決するに到った。
【0011】
本発明に係る複合タンクは、熱伝導率が異なる金属材料で構成した貯液タンク同士を一体化した複合タンクであって、低い熱伝導率の金属材料で構成した第1貯液タンクと、高い熱伝導率の金属材料で構成した第2貯液タンクとの間に接続空間を備え、この接続空間の外壁に複数の開口を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る複合タンクにおいて、開口は、三角形、四角形、円形又は楕円形の開口形状であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る複合タンクは、その胴体外周に沿った幅をW、胴体高さをHとし、接続空間の外壁が備えるn個(nは2以上の整数)の開口の胴体外周に沿った開口長さをL1~Lnとしたとき、以下の条件式(1)に示す関係を備えることが好ましい。
【0014】
【0015】
本発明に係る複合タンクは、燃料を貯蔵する燃料タンクと排気ガス浄化用の尿素水を貯蔵する尿素水タンクとを一体化した車両用の複合タンクであって、低い熱伝導率の金属材料で構成した第1貯液タンクがステンレス鋼製の尿素水タンクであり、高い熱伝導率の金属材料で構成した第2貯液タンクが亜鉛めっき鋼製の燃料タンクであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る複合タンクにおいて、第2貯液タンクを構成する金属材料は、その表面に樹脂被覆層を備えることも好ましい。
【0017】
本発明に係る複合タンクにおいて、樹脂被覆層は、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂のいずれか一種、又は、これらの混合樹脂で形成したものであることが好ましい。
【0018】
本発明に係る複合タンクにおいて、第1貯液タンクと、第2貯液タンクの接続部は、溶接にて接合が行われ、溶接の開始位置は第1貯液タンク側に存在し、溶接の終了位置は第2貯液タンク側に存在することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、異種材料からなる別箇のタンクを溶接して複合タンクを得るために、別体のタンクそれぞれに設けた開口部を有する接続部を溶接することで、複合タンクの小型化を図ると同時に、異種材料溶接時の平面性を維持しつつ、溶接ビードの発生を抑えた安価な複合タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合タンクの模式斜視図である。
【
図5】
図1の複合タンクにおける尿素水タンク側の模式図である。
【
図6】
図1の複合タンクにおける燃料タンク側の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る複合タンクについて図面を参照して説明するが、本件出願はこれに限定解釈されるものではない。
【0022】
A.本発明に係る複合タンクが備える構造的特徴
本発明に係る複合タンク1は、熱伝導率が異なる金属材料で構成した貯液タンク10,20同士を一体化した複合タンクであって、低い熱伝導率の金属材料で構成した第1貯液タンク10と、高い熱伝導率の金属材料で構成した第2貯液タンク20との間に接続空間5(
図4に示す第1貯液タンク10の側面鋼板12と第2貯液タンク20の側面鋼板22との間の空間)を備え、この接続空間5の外壁3に複数の開口4(
図3を参照のこと。)を備えることを特徴とする。以下に、複合タンク1の技術的効果に関して、具体的に説明する。
【0023】
本発明に係る複合タンク1は、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20とが熱伝導率の異なる金属材料、例えば、後述するように、尿素水を貯えるステンレス鋼からなる第1貯液タンク10、燃料を貯える亜鉛めっき鋼板からなる第2貯液タンク20とすることで、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20共に、高価なステンレス鋼板を使用することなく、高価な素材の使用量を極力削減することができる。
【0024】
また、本発明に係る複合タンク1は、接続空間5を備えることで、その外壁3を介して第1貯液タンク10と第2貯液タンク20とを、後述する溶接により一体化し、複合タンク自体の小型化を図ることができる(
図1、
図3及び
図4を参照のこと。)。さらに、本発明に係る複合タンク1は、接続空間5を備えることで、これら貯液タンク10,20同士を接続する際に部品点数を減らして製造コストの低減及びメンテナンス性の向上を図ることができる。ここで、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20との接続方法に関しては特に限定されないが、後述する溶接による方法を採用することが好ましい。
【0025】
さらに、本発明に係る複合タンク1は、接続空間5の外壁3を介して第1貯液タンク10と第2貯液タンク20とを接続して製造するものであるため、これら貯液タンク10,20個別の貯液の漏洩検査を事前に行うことができる。従って、これら貯液タンク10,20において貯液の漏洩に関する不具合が確認された場合に、被害を最小限にし、容易に補修作業を行うことができる。
【0026】
加えて、本発明に係る複合タンク1は、接続空間5の外壁3に沿った外周方向に複数の開口4を備えている。本発明に係る複合タンク1は、この開口4を備えることで、主に以下に示す3つの効果が得られる。第1の効果としては、開口4から接続空間5内部を容易に観察することができ、貯液タンク10,20の接続空間5に面した側で貯液の漏洩等の不具合が生じた場合に早期発見して迅速に対処することが可能となる。第2の効果としては、開口4を介して全方位から光を入射させることができ、接続空間5内部を明るくでき視認性向上を図ることが可能となる。第3の効果としては、外壁3における開口4を含むラインで貯液タンク10,20同士を突合せ溶接する場合でも、溶接距離を短縮できる。その結果、溶接歪みが抑制されることで、溶接後の良好な平面性が得られ、外観品質が向上する。
【0027】
ところで、本発明に係る複合タンク1において、開口4は、原則いかなる形状でも構わないが、三角形、四角形、円形又は楕円形の開口形状であることが製造方法を考慮したときに好ましい。このような開口4形状を採用すると、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20とを接続する際に、容易かつ正確に位置合わせができ、更なる製造コストの低減及び溶接品質が向上する。
【0028】
また、本発明に係る複合タンク1は、その胴体2外周に沿った幅をW、胴体2高さをHとし、接続空間5の外壁が備えるn個(nは2以上の整数)の開口4の胴体2外周に沿った開口長さをL1~Lnとしたとき、以下の条件式(1)に示す関係を備えることが好ましい(
図1及び
図2を参照のこと。)。
【0029】
【0030】
本発明に係る複合タンク1は、この条件式(1)に示す関係を満たすことで、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20との溶接強度を十分に確保しながらも、複合タンク1完成後に貯液漏れの確認を行うのに十分な大きさの開口を設けることができる。ここで、[Lsum] / [Rtotal]が、0.007未満となると、複合タンク1完成後に貯液漏れの確認を行うことが困難となる。一方、[Lsum] / [Rtotal]が、0.5を超えると、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20との溶接強度が低下し、複合タンク1をトラック等の車両に用いた場合に、車両走行に伴う振動により破損する恐れがあり好ましくない。
【0031】
B.車両用複合タンクに関する技術概念
本発明に係る複合タンク1は、燃料を貯蔵する燃料タンクと排気ガス浄化用の尿素水を貯蔵する尿素水タンクとを一体化した車両用の複合タンクとして好適である。すなわち、本発明に係る車両用の複合タンク1は、第1貯液タンク10がステンレス鋼製の尿素水タンクであり、第2貯液タンク20が亜鉛めっき鋼製の燃料タンクである。このような組み合わせとしたのは、燃料タンクとなる第2貯液タンク20の材質は、尿素水に対する耐食性が要求されるステンレス鋼(SUS)製とする必要がなく、比較的安価な素材を用いて効果的に製品コストの低減を図ることができるからである。なお、第2貯液タンク20は、危険物である燃料を貯蔵するために厳密な成形が必要となるため、低炭素鋼や極低炭素鋼等の成形性に優れた素材を採用することが好ましい。
【0032】
さらに、車両用の第2貯液タンク20は、鋼板の表面に亜鉛めっきを施すことで、燃料に対する耐食性を確保することができる。ここでいう亜鉛めっきには、亜鉛合金めっきも含まれ、例えばZn-Al、Zn-Ni、Zn-Fe、Zn-Cr、Zn-Sn等が挙げられる。そして、第2貯液タンク20は、めっき膜厚としては2μm~5μmであることが、耐腐食性、加工性、及び溶接性等を総合的に考慮すると好ましい。なお、第2貯液タンク20に施す亜鉛めっき方法は、特に限定されず、電気めっきあるいは無電解めっき等の公知の方法を適宜採用することができる。
【0033】
また、本発明に係る複合タンク1において、第2貯液タンク20を構成する金属材料は、その表面に樹脂被覆層を備えることが好ましい。第2貯液タンク20は、上述したように亜鉛めっき鋼板等の高い熱伝導率の金属材料で構成したものであるため、耐食性が十分とは言えない。そこで、第2貯液タンク20の表面に樹脂被覆層を備えることで、良好な耐食性を得ることができる。
【0034】
なお、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20との接合を後述する低入熱溶接、例えばCMT溶接により行う場合、樹脂被覆層の厚みを20μm~100μmとすることで、溶接熱により樹脂被覆を容易に除去することができ、溶接時のアーク安定性を得ることができる。
【0035】
ところで、本発明に係る複合タンク1は、樹脂被覆層が、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂のいずれか一種、又は、これらの混合樹脂で形成したものであることが、耐食性の観点から好ましい。特に、第2貯液タンク20が燃料タンクである場合、これらの樹脂で形成した樹脂被覆層を表面に備えることで、劣化した燃料付着による鋼板の腐食防止や、雨水や融雪剤が透過できないほどに緻密な被膜が形成され、耐食性の向上を図ることができる。
【0036】
以下、本発明の一実施形態に係る複合タンク1を構成する第1貯液タンク10と第2貯液タンク20の接合時の製造方法について示す。
【0037】
本実施形態の溶接工程では、第1貯液タンク10側接続面の第1接続用峻立壁面13と第2貯液タンク20側接続面の第2接続用峻立壁面23とを、第1接続用峻立壁面13の第1開口部14と第2接続用峻立壁面23の第2開口部24とが対向するようにして突き合わせる。そして、第1接続用峻立壁面13と第2接続用峻立壁面23との開口部14,24の無い箇所を、低入熱溶接の一つであるCMT溶接により突合せ溶接することにより、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20とを接合し、筒状の複合タンク1とする(
図1、
図5及び
図6を参照のこと。)。
【0038】
このように、本実施形態に係る複合タンク1の溶接は、低入熱溶接を用いることが好ましい。ここで、低入熱溶接は、アーク溶接の一種であり、消耗式電極と溶融池との短絡を強制的に切断することによって、溶接アークを断続的に発生させるものである。この溶接方法によれば、溶接の際に母材への入熱を大幅に下げることが可能であるため、溶接歪みの低減、溶け落ちリスクの回避、スパッタ発生の抑制等の効果が得られ、薄肉鋼板同士の接合に好適であり、複合タンク1について更なる品質の向上を図ることができる。
【0039】
また、第1貯液タンク10と第2貯液タンク20とを溶接接合する際には、第1貯液タンク10側に溶接開始点を設け、溶接アークを安定化させた後に、第2貯液タンク20側に溶接点を移動することが好ましい。このような溶接軌道とすることで、第2貯液タンク20表面の絶縁体である樹脂被覆層をアーク熱により溶融除去して、接合部の溶接ビードの不良を抑制することができる。また、溶接接合後は、溶接開始位置が第1貯液タンク10側に存在し、溶接終了位置が第2貯液タンク20側に存在することとなり、溶接軌道の確認は目視により行うことができる。
【0040】
以下、本発明に係る複合タンク1について、実施例及び比較例を用い詳細に説明する。なお、本発明に係る複合タンク1はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
実施例1では、突合せ溶接する2つの貯液タンク10,20のうち、燃料タンクである第2貯液タンク20を構成する素材は、板厚が1.6mmで熱伝導率が71.2W/m・kの亜鉛めっき鋼板であり、尿素水タンクである第1貯液タンク10を構成する素材は、板厚が1.5mmで熱伝導率が16.7W/m・kのステンレス鋼板である。なお、亜鉛めっき鋼板は、その表面に平均60μmの厚みのポリエステル樹脂被膜層(塗装被膜)を形成した。
【0042】
また、亜鉛めっき鋼板とステンレス鋼板とのそれぞれに開口部14,24を設け、開口部14,24同士が対向するようにして突き合わせた状態で溶接を行う。実施例1では、亜鉛めっき鋼板とステンレス鋼板とを突き合わせた際に形成される開口4の寸法比率[Lsum]/[Rtotal](上述の条件式(1)を参照のこと)を0.5とした。
【0043】
さらに、亜鉛めっき鋼板とステンレス鋼板とを突合せ溶接する際の溶接開始点(位置)は、ステンレス鋼板の端部近傍(端部より約1mmの位置)に設け、ステンレス鋼板端部近傍で約10mm程度溶接を行った後、亜鉛めっき鋼鈑側に溶接点を移動させ、亜鉛めっき鋼板側で溶接を終了した。また、溶接時の2つの貯液タンク10,20の溶接部分は、表1の説明図に示すように水平(面)との角度(以下、「母材角度(θ)」と称する。)は40度とし、高い位置から溶接を開始し、低い位置で溶接を終了した。
【0044】
この時の溶接条件を以下に記載する。
・溶接方法:CMT溶接(低入熱溶接)
・シールドガス:Ar-CO2混合ガス(Ar:80%、CO2:20%)
・溶接電流:150A
・溶接速度:80cm/min
・ワイヤ材料:JIS-Z3312YGW12(φ1.2mm)
【実施例2】
【0045】
突合せ溶接する接合部分の開口4寸法比率[Lsum]/[Rtotal](上述の条件式(1)を参照のこと)を0.4としたことを除いては、全て実施例1と同じである。
【実施例3】
【0046】
開口4寸法比率[Lsum]/[Rtotal](上述の条件式(1)を参照のこと)を0.3としたことを除いては、全て実施例1と同じである。
【比較例】
【0047】
[比較例1]
突合せ溶接する接合部分には、上述した開口部14,24を有さないこと、母材角度が20度及び2つの部材の突き合わせ位置にて溶接を行った以外は、実施例1と同じである。
【0048】
[比較例2]
溶接開始点をステンレス鋼板端部近傍(端部より1mm程度の位置)及び母材角度(θ)を0度とした以外は、比較例1と同じである。
【0049】
[比較例3]
突合せ溶接する接合部分に開口部14,24を有さないこと以外は実施例1と同じである。
【0050】
[比較例4]
母材角度(θ)が20度で溶接を行った以外は、比較例3と同じである。
【0051】
[評価]
実施例1~実施例3、比較例1~比較例4にそれぞれ示す条件で、亜鉛めっき鋼板からなる第2貯液タンク20とステンレス鋼板からなる第1貯液タンク10とを突合せ溶接を行った結果を、溶接ビード形状、溶接スパッタ量、及び溶接歪み量について評価した。以下、それぞれの評価項目について詳述する。
【0052】
(溶接ビード形状)
溶接ビード形状は、ビードの幅や高さ、ビードの表面性状等を総合的に評価した。評価した結果を表1に示す。表1において、溶接ビード形状について、全体的に問題ない場合を「○」、一部にくびれや表面性状不良等の不良部位がある場合を「△」、突き抜け等の甚大な不良がある場合を「×」とした。
【0053】
(溶接スパッタ量)
溶接スパッタ量は、アーク溶接中に飛散した溶融金属の微小粒子の量を評価した。評価した結果を表1に示す。表1において、溶接スパッタの付着がない場合を「○」、溶接スパッタの付着はあるが、その程度が微小である場合を「△」、溶接スパッタの付着が多い場合を「×」とした。
【0054】
(溶接歪み量)
溶接歪み量は、溶接後の異種金属板の曲がり量を評価した。評価した結果を表1に示す。表1において、溶接歪み量が極めて小さい(金属板の曲がり角度が2°以下である)場合を「○」、溶接歪み量が比較的小さい(金属板の曲がり角度が2°を超えかつ5°未満である)場合を「△」、溶接歪み量が大きい(金属板の曲がり角度が5°以上である)場合を「×」とした。
【0055】
【0056】
表1に示すように、実施例1~実施例3の試料がいずれも溶接歪み量が2°以下であるのに対し、比較例1~比較例4の試料は、いずれも溶接歪み量が5°以上であった。この結果より、異種金属材料からなる貯液タンク10,20の接合部に開口4が設けられておらず溶接距離が長くなると、溶接歪みが大きくなり好ましくないことが確認された。
【0057】
また、実施例1~実施例3の試料、比較例3及び比較例4の試料において、溶接ビード形状が安定している。これに対して、比較例1及び比較例2の試料は、くびれや突き抜け等の溶接不良が生じた。これは、比較例1の試料においては、溶接開始点が亜鉛めっき鋼板とステンレス鋼板との突き合わせ位置であり、亜鉛めっき鋼板表面の樹脂被覆層が絶縁体であるため、電気が十分に流れずに溶接アークが不安定になったためと考えられる。また、比較例2の試料においては、溶接位置をステンレス鋼板側のみに設けているため、発生した溶接アークの熱が十分に亜鉛めっき鋼板側に伝わらず、亜鉛めっき鋼板表面の樹脂被覆層を溶融除去することができなかったためと考えられる。以上のことから、溶接は、溶接アークが安定した後に、溶接点を第1貯液タンク10側から第2貯液タンク20側に移行することで、接合部の溶接ビードの不良を抑制できることが確認された。
【0058】
さらに、実施例1~実施例3の試料、比較例2~比較例4の試料において、溶接スパッタの付着がないのに対して、比較例1の試料は、スパッタ付着が若干見受けられた。これは、溶接ビード不良が発生する理由であるアークの安定性の差によるものと考えられる。
【0059】
加えて、比較例3及び比較例4の接合部溶接時の母材角度(表1の説明図を参照のこと。)を比較すると、母材角度が大きくなるにつれて溶接ひずみ量が小さくなることがわかる。さらに、実施例1~実施例3から、溶接時の母材角度(θ)を40度程度にして、かつ溶接部に開口を設けることで溶接ひずみ量が低減できることがわかる。このことから、母材角度(θ)を20度より大きくすることにより、溶接時の溶融母材の流れが急になり、溶接熱を上手く逃がすことができたために溶接ひずみ量が小さくなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る複合タンクは、異種材料からなる別体のタンクそれぞれに設けた開口部を有する接続部を溶接により接合することで、複合タンクの小型化を図ると同時に、異種材料溶接時の平面性を維持しつつ、溶接ビードの発生を抑えた安価な複合タンクを提供でき、産業上の利用価値が極めて高いものである。
【符号の説明】
【0061】
1 複合タンク
2 胴体(複合タンク)
3 外壁(接続空間)
4 開口
5 接続空間
10 第1貯液タンク
11 胴体(第1貯液タンク)
12 側面鋼板(第2貯液タンク接続側)
13 第1接続用峻立壁面
14 第1開口部
15 側面鋼板
20 第2貯液タンク
21 胴体(第2貯液タンク)
22 側面鋼板(第1貯液タンク接続側)
23 第2接続用峻立壁面
24 第2開口部
25 側面鋼板
H 胴体高さ
W 胴体幅