(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】締結ネジ
(51)【国際特許分類】
F16B 35/06 20060101AFI20220930BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
F16B35/06 A
F16B35/00 M
(21)【出願番号】P 2018100488
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000250672
【氏名又は名称】立川ブラインド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143568
【氏名又は名称】英 貢
(72)【発明者】
【氏名】中村 元
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-015179(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008482(WO,A1)
【文献】米国特許第06802680(US,B1)
【文献】特開2008-223943(JP,A)
【文献】特開平11-173317(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0024142(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0076677(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 35/06
F16B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掴持可能な締結ネジであって、
螺旋溝を有する螺合シャフトと、
前記螺合シャフトの頭部に嵌着される回転伝達頭部と、を備え、
前記螺合シャフトは、当該螺旋溝が形成されたシャフトと、前記シャフトの基端に位置し面上に第1の凸部が形成された円板部と、前記シャフトと同軸上に位置して前記シャフトとは逆面側の前記円板部から伸びる軸部と、前記軸部に形成される係止部と、を有するように成形され、
前記回転伝達頭部は、前記螺合シャフトの前記円板部を収容し回転支持する第2の凸部が形成された回転支持部と、前記回転支持部の中心軸上に形成され前記螺合シャフトの前記係止部を弾性変形させて貫通させ係止可能とする軸受孔と、前記螺合シャフトの前記円板部を収容する側とは逆面側の前記軸受孔から延びる頭部と、を有するように成形され、
前記螺合シャフトにおける前記第1の凸部と前記
回転伝達頭部における第2の凸部を互いに周方向に当接させることで、前記回転伝達頭部の正逆回転を前記螺合シャフトの正逆回転へと伝達し一体的に回転させることを可能とし、前記螺合シャフトにおける前記第1の凸部と前記
回転伝達頭部における第2の凸部が互いに周方向に非当接の範囲内では、前記回転伝達頭部の正逆回転は前記螺合シャフトへと回転伝達されないようにして、前記回転伝達頭部は、回転遊びを有して前記回転伝達頭部の回転を前記螺合シャフトに伝達するように構成されていることを特徴とする締結ネジ。
【請求項2】
掴持可能な締結ネジであって、
螺旋溝を有する螺合シャフトと、
前記螺合シャフトの頭部に嵌着される回転伝達頭部と、を備え、
前記回転伝達頭部は、前記螺合シャフトの締結による固定状態を保持しながら180°以上
とする所定角度内で回転調整可能とするよう構成されていることを特徴とする締結ネジ。
【請求項3】
前記螺合シャフトの先端に、螺入対象とするナットの螺合孔と係合突出する弾性変形可能な抜け止めが形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の締結ネジ。
【請求項4】
前記回転伝達頭部は、前記回転伝達頭部の回転により前記螺合シャフトを回転させて前記螺合シャフトを締結させるときの過剰締め付けを防止するために、該回転伝達頭部及び該螺合シャフトの各々に、前記螺合シャフトの所定の締結負荷を超える前記回転伝達頭部の回転を前記螺合シャフトに非伝達とする部位が形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の締結ネジ。
【請求項5】
前記回転伝達頭部は、回転ツマミとして作用させるために摘持可能に構成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の締結ネジ。
【請求項6】
前記回転伝達頭部は、前記螺合シャフトの頭部を嵌着する側とは逆面側に、所定のフック材を掛装可能とする部位が設けられているか、又は図柄が施されているか、或いは回転させるために用いる工具に嵌合する工具受部が穿設されていることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の締結ネジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナットや固定対象部材の被取り付け部等に締結回転可能とする締結ネジに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ネジはドライバー等の工具を用いてナットや固定対象部材の被取り付け部等に締結される。
【0003】
また、そのような工具を用いることなく使用者が掴持して締結回転可能とするツマミ付ネジも一般的に知られている。
【0004】
これらのドライバー等の工具を用いるネジやツマミ付ネジに対して過剰締め付けが行われると、過重疲労により損耗することがあり、締結対象のナットや固定対象部材の被取り付け部等から取り外すことができなくなるなど種々の問題が生じる。
【0005】
そこで、ドライバー等の工具を用い締め付けを行う際に、トルクリミッタ構造により過剰締め付けを防止するネジ構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
まず、ネジを用いてドライバー等の工具を用いてナットや固定対象部材の被取り付け部等に締結するためには、そのネジのネジ頭には当該工具に嵌合する工具受部が穿設される。例えば、プラスドライバーを工具とするものであれば、ネジ頭には十字溝が穿設される。しかし、従来のネジを用いて、固定対象部材の被取り付け部を複数箇所で壁等への固定するとき、そのネジの締結状態によっては、当該複数箇所で十字溝の向きが揃わず、ちぐはぐになり、これを改善したいとする要望がある。
【0008】
また、ドライバー等の回転工具を用いることなくネジを締結可能とするには、ネジ頭にツマミ部を設け、使用者が当該ツマミ部を掴持してネジを締結回転可能とすることができ、用途によっては利便性が高いものとなる。
【0009】
しかし、そのようなツマミ部を有するネジであっても、過重疲労により損耗することがあり、締結対象のナットや固定対象部材の被取り付け部等から取り外すことができなくなるなど種々の問題が生じる。
【0010】
上述したように、特許文献1には、ドライバー等の工具を用い締め付けを行う際に、トルクリミッタ構造により過剰締め付けを防止するネジ構成が開示されている。
【0011】
この技法では基本的にドライバー等の回転工具を用いて機能するものとなっており、且つベアリング機構等の極めて複雑な構造を有している。仮に、特許文献1におけるネジのネジ頭にツマミ部を設けた場合でも、ネジを一旦ナットや固定対象部材の被取り付け部等に締結すると、その締結状態を緩めることなくそのツマミ部の向きを変えることができないため、用途によっては意匠性や使用上の問題が生じることがある。
【0012】
従って、締結ネジにおいて、締結状態を緩めることなく回転操作に係る締結ネジの頭部の回転位置を変更可能とし、好適には工具を用いることなく使用者が掴持して締結回転可能とし、より好適には過重疲労による損耗を防止可能とする技法が望まれる。
【0013】
本発明の目的は、上述の問題に鑑みて、締結状態を緩めることなく回転操作に係る締結ネジの頭部の回転位置を変更可能とし、好適には工具を用いることなく使用者が掴持して締結回転可能とし、より好適には過重疲労による損耗を防止可能とする締結ネジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の締結ネジは、掴持可能な締結ネジであって、螺旋溝を有する螺合シャフトと、前記螺合シャフトの頭部に嵌着される回転伝達頭部と、を備え、前記螺合シャフトは、当該螺旋溝が形成されたシャフトと、前記シャフトの基端に位置し面上に第1の凸部が形成された円板部と、前記シャフトと同軸上に位置して前記シャフトとは逆面側の前記円板部から伸びる軸部と、前記軸部に形成される係止部と、を有するように成形され、前記回転伝達頭部は、前記螺合シャフトの前記円板部を収容し回転支持する第2の凸部が形成された回転支持部と、前記回転支持部の中心軸上に形成され前記螺合シャフトの前記係止部を弾性変形させて貫通させ係止可能とする軸受孔と、前記螺合シャフトの前記円板部を収容する側とは逆面側の前記軸受孔から延びる頭部と、を有するように成形され、前記螺合シャフトにおける前記第1の凸部と前記回転伝達頭部における第2の凸部を互いに周方向に当接させることで、前記回転伝達頭部の正逆回転を前記螺合シャフトの正逆回転へと伝達し一体的に回転させることを可能とし、前記螺合シャフトにおける前記第1の凸部と前記回転伝達頭部における第2の凸部が互いに周方向に非当接の範囲内では、前記回転伝達頭部の正逆回転は前記螺合シャフトへと回転伝達されないようにして、前記回転伝達頭部は、回転遊びを有して前記回転伝達頭部の回転を前記螺合シャフトに伝達するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の締結ネジは、掴持可能な締結ネジであって、螺旋溝を有する螺合シャフトと、前記螺合シャフトの頭部に嵌着される回転伝達頭部と、を備え、前記回転伝達頭部は、前記螺合シャフトの締結による固定状態を保持しながら180°以上とする所定角度内で回転調整可能とするよう構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の締結ネジにおいて、前記螺合シャフトの先端に、螺入対象とするナットの螺合孔と係合突出する弾性変形可能な抜け止めが形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の締結ネジにおいて、前記回転伝達頭部は、前記回転伝達頭部の回転により前記螺合シャフトを回転させて前記螺合シャフトを締結させるときの過剰締め付けを防止するために、該回転伝達頭部及び該螺合シャフトの各々に、前記螺合シャフトの所定の締結負荷を超える前記回転伝達頭部の回転を前記螺合シャフトに非伝達とする部位が形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の締結ネジにおいて、前記回転伝達頭部は、回転ツマミとして作用させるために摘持可能に構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の締結ネジにおいて、前記回転伝達頭部は、前記螺合シャフトの頭部を嵌着する側とは逆面側に、所定のフック材を掛装可能とする部位が設けられているか、又は図柄が施されているか、或いは回転させるために用いる工具に嵌合する工具受部が穿設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、締結ネジを一旦ナットや固定対象部材の被取り付け部等に締結した後でも、その締結状態を緩めることなくその回転伝達頭部の向きを変えることができるため、意匠性や利便性が向上する。より好適には、締結ネジにおける過重疲労による損耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a),(b)は、それぞれ本発明による第1実施形態の締結ネジの概略構成を示す上面図及び下面図である。
【
図2】(a)乃至(d)は、それぞれ本発明による第1実施形態の締結ネジの概略構成を示す上面図、正面図、下面図、及びA‐A’断面図である。
【
図3】本発明による第1実施形態の締結ネジを、固定対象部材の被取り付け部を介してナットに螺入した状態を示す断面図である。
【
図4】(a)乃至(d)は、それぞれ本発明による第1実施形態の締結ネジにおける動作と作用を説明するための部分的な見下げ図である。
【
図5】(a)は本発明による第1実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト及び回転伝達頭部の概略構成を示す斜視図であり、(b)はその変形例の螺合シャフト及び回転伝達頭部の概略構成を示す斜視図である。
【
図6】本発明による第1実施形態に対する変形例として構成される第2実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト及び回転伝達頭部の概略構成を示す斜視図である。
【
図7】(a),(b)は、それぞれ本発明による第2実施形態の締結ネジにおける動作と作用を説明するための部分的な見下げ図である。
【
図8】(a)は本発明による第1実施形態に対する変形例として構成される第3実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト及び回転伝達頭部の概略構成を示す斜視図であり、(b)は螺合シャフトの概略構成を示す正面図であり、(c)及び(d)はそれぞれ回転伝達頭部の概略構成を示す断面図及び下面図である。
【
図9】(a)は本発明による第3実施形態に対する更なる変形例として構成される第4実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト及び回転伝達頭部の概略構成を示す斜視図であり、(b)は螺合シャフトの概略構成を示す正面図であり、(c)及び(d)はそれぞれ回転伝達頭部の概略構成を示す断面図及び下面図である。
【
図10】(a)は比較例の締結ネジの適用例であり、(b)は本発明に係る締結ネジの適用例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る締結ネジについて説明する。尚、本願明細書中、
図1(a)に示す締結ネジを正面図とし、図示上方及び図示下方をそれぞれ上方向(又は上側)及び下方向(又は下側)と定義する。
【0023】
〔第1実施形態〕
図1(a),(b)は、それぞれ本発明による第1実施形態の締結ネジにおける螺合シャフト30の概略構成を示す上面図及び下面図である。そして、
図2(a)乃至(d)は、それぞれ本発明による第1実施形態の締結ネジにおける回転伝達頭部40の概略構成を示す上面図、正面図、下面図、及びA‐A’断面図である。
図3は、本発明による第1実施形態の締結ネジ(螺合シャフト30及び回転伝達頭部40)を、固定対象部材の被取り付け部10を介してナット20に螺入した状態を示す断面図である。
【0024】
本実施形態の締結ネジは、締結ネジ本体を構成する螺合シャフト30と、螺合シャフト30の頭部に嵌着される回転伝達頭部40とを備える。
【0025】
螺合シャフト30は、
図1に示すように、先端側に螺旋溝31aが形成された円柱状のシャフト31と、シャフト31の基端に位置しそのシャフト31より大径でフランジ状の円板部32と、シャフト31と同軸上に位置してシャフト31とは逆面側の円板部32からシャフト31とほぼ同径から縮径するように伸びる台形円錐状の軸部34と、軸部34の頭部にて拡径して形成される係止部35と、を有するように樹脂材料で成形される。軸部34が形成される円板部32の面上には、略台形の凸部33が形成されている。
【0026】
回転伝達頭部40は、
図2に示すように、螺合シャフト30の円板部32を収容し回転支持する回転支持部41と、その回転支持部41の中心軸上に形成され螺合シャフト30の係止部35を弾性変形させて貫通させ係止可能とする軸受孔42と、螺合シャフト30の円板部32を収容する側とは逆面側の軸受孔42から延び、回転ツマミとして作用し、且つフック材等を掛装可能とする環状の頭部44と、を有するように樹脂材料で成形される。軸受孔42は、螺合シャフト30の軸部34の軸周面を回転支持し、且つ螺合シャフト30の係止部35の一部周面を回転支持するように円周方向に段差を有している。
【0027】
回転支持部41内には、略台形の凸部43が形成されている。螺合シャフト30の係止部35を回転伝達頭部40の軸受孔42に係止させ、螺合シャフト30の円板部32を回転支持部41に収容した状態では、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33は、互いに周方向に当接・非当接の状態が形成される。
【0028】
即ち、回転伝達頭部40は、螺合シャフト30の基端側に嵌着され、回転遊び(凸部33,43の回転係合)を有して回転伝達頭部40の回転を螺合シャフト30に回転伝達する構造を有する。より具体的には、回転伝達頭部40の頭部44を使用者が摘持して回転伝達頭部40を回転させたときに、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33が互いに周方向に当接させることで、回転伝達頭部40の正逆回転を螺合シャフト30の正逆回転へと伝達し一体的に回転させることができる。
【0029】
一方、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33が互いに周方向に非当接の範囲内では、回転伝達頭部40の正逆回転は螺合シャフト30へと回転伝達されない。換言すれば、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33の非当接の範囲内で、回転伝達頭部40を螺合シャフト30に対し任意角度で相対回転させることができる。
【0030】
ここで、
図3を参照して、本発明による第1実施形態の締結ネジの螺合シャフト30を、固定対象部材の被取り付け部10を介してナット20に螺入して締結する例を説明する。回転伝達頭部40の回転で螺合シャフト30を締め込むと、螺合シャフト30のシャフト31の先端はナット20の螺合孔23から突出し、ナット20と螺合シャフト30の円板部32の上面とで固定対象部材の被取り付け部10が挟着されるので、本実施形態の締結ネジを固定対象部材の被取り付け部10に取着し固定することができる。
【0031】
また、回転伝達頭部40の回転で螺合シャフト30を締め込み、本実施形態の締結ネジを固定対象部材の被取り付け部10に取着し固定した後、その締め付けた状態を維持したままで、回転伝達頭部40を螺合シャフト30に対し任意角度で相対回転させることができる。これにより、本実施形態の締結ネジを一旦ナット20や固定対象部材の被取り付け部10等に締結した後でも、その締結状態を緩めることなくその回転伝達頭部40の向きを変えることができるため、意匠性や利便性が向上する。
【0032】
より具体的に
図4を参照して説明する。
図4(a)乃至(d)は、それぞれ本発明による第1実施形態の締結ネジにおける動作と作用を説明するための部分的な見下げ図である。
図4(a)乃至(d)にそれぞれ対応させて区分するA欄は回転伝達頭部40の回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33との当接・非当接の状態図であり、B欄は回転伝達頭部40における頭部44の向きを示す状態図である。
【0033】
まず、
図4(a)に示すように、螺合シャフト30の係止部35を回転伝達頭部40の軸受孔42に係止させ、螺合シャフト30と回転伝達頭部40とを嵌着することで組み付けると、回転支持部41の凸部43の周方向一端と、螺合シャフト30の凸部33の周方向一端とが当接した状態とすることができる。
【0034】
続いて、
図4(b)に示すように、回転伝達頭部40の頭部44を使用者が摘持して回転伝達頭部40を回転させ、その回転を螺合シャフト30に伝達させて、シャフト31の螺旋溝31aをナット20の螺合孔23に対して螺入する締結動作を開始する。
【0035】
続いて、
図4(c)に示すように、回転伝達頭部40の同方向の回転で螺合シャフト30を締め込み(通常、頭部44の締め込みは使用者側から見て時計周り)、本実施形態の締結ネジを固定対象部材の被取り付け部10に固定して締結動作を完了する。
【0036】
続いて、
図4(d)に示すように、頭部44の向き調整を行う際には、締結ネジをナット20及び固定対象部材の被取り付け部10に取着し固定した状態を維持したままで、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33の非当接の範囲内で、回転伝達頭部40を螺合シャフト30に対し任意角度で相対回転させることができる。
【0037】
従って、使用者は回転伝達頭部40の頭部44を指で掴持し、回転伝達頭部40が通常の締付トルクでは回らなくなるまで時計回りに回すことで螺合シャフト30の締結を完了させることができる(
図4(a)乃至(c)参照)。締結完了後、回転伝達頭部40の頭部44が例えば固定対象部材の被取り付け部10と平行になっていない場合はその締結状態を維持したまま回転伝達頭部40を反時計まわりに戻すことができ、固定対象部材の被取り付け部10と平行にすることができる(
図4(d)参照)。
【0038】
これにより、回転伝達頭部40における頭部44は、螺合シャフト30の締結を緩めることなく、回転伝達頭部40における頭部44を回転させて任意角度に調整することができるようになる。
【0039】
尚、本実施形態の締結ネジをナット20及び固定対象部材の被取り付け部10から取り外すときは、
図4(c)に示す状態から、回転支持部41の凸部43の周方向他端と、螺合シャフト30の凸部33の周方向他端とが当接した状態となるよう逆方向に回転させて、螺合シャフト30を取り外せばよい(通常、螺合シャフト30の取り外しは使用者側から見て頭部44を反時計周りに回転させる)。
【0040】
回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33の各々は、螺合シャフト30及び回転伝達頭部40の回転軸中心に対し例えば30°の形状角度とすることができる。この場合、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33の非当接の範囲内は約300°となり、従って頭部44の向き調整も約300°で可能となる。凸部43と凸部33の各々の形状角度を随意定めることで、頭部44の向き調整可能な角度も変更できる。通常、頭部44の向き調整は180°程度あれば十分である。
【0041】
以上のように、本発明による第1実施形態の締結ネジによれば、取付ネジやプラスドライバー等の専用の工具を用いることなく、締結ネジをナット20及び固定対象部材の被取り付け部10に固定可能となり、施工性又は組み付け性を向上させることができる。
【0042】
また、本発明による第1実施形態の締結ネジによれば、取付ネジを用いずに、回転ツマミとして機能する頭部44を形成し回転遊びを有して回転可能に構成しているため、意匠性及び利便性を向上させることができる。
【0043】
(変形例)
図5(a)は上述した本発明による第1実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト30及び回転伝達頭部40の概略構成を示す斜視図であるが、
図5(b)はその変形例の螺合シャフト30と、回転伝達頭部40の概略構成を示す斜視図である。
図5(a),(b)において、同様な構成要素には同一の参照番号を付している。
【0044】
尚、
図5(b)に示す回転伝達頭部40は
図5(a)に示すもの(上述した本発明による第1実施形態)と同一構造であり、
図5(b)に示す変形例の螺合シャフト30は、
図5(a)に示すものと比較して、シャフト31の先端に二股状の抜け止め36が形成されている点で相違している。また、説明の都合上、
図5(b)に示す螺合シャフト30のシャフト31の断面径を
図5(a)に示すものより大きくなるように図示しているが、シャフト31の断面径は随意設計して定めることができる。
【0045】
図5(a)に示す上述した第1実施形態に係る螺合シャフト30では、使用者側から見て回転伝達頭部40の頭部44を反時計周りに回転させていくことで、その取り外しを行うことができる。しかし、完全に螺合シャフト30を取り外してしまうと落下し紛失してしまうおそれがある。
【0046】
そこで、
図5(b)に示す変形例の螺合シャフト30には、シャフト31の先端に二股状の抜け止め36が形成されている。二股状の抜け止め36は、図示するように爪状になっており弾性変形可能であり、その最大径はシャフト31の断面径よりやや大きいものとなっている。
【0047】
図5(b)に示す変形例の螺合シャフト30においては、ナット20の螺合孔23に締結する際に、変形例の螺合シャフト30の二股状の抜け止め36は縮径方向に弾性変形して挿通され、シャフト31の螺旋溝31aが板片21に形成される螺合孔23に螺入される。
【0048】
そして、上述した
図3を参照して説明したときと同様に、回転伝達頭部40の回転で螺合シャフト30を締め込むと、変形例の螺合シャフト30の二股状の抜け止め36はナット20の螺合孔23から係合突出する。抜け止め36が螺合孔23から係合突出した直後では、縮径方向に弾性変形していた状態が解放され容易には外れない状態となる。
【0049】
尚、シャフト31の螺旋溝31aがナット20の螺合孔23に螺入される前に、二股状の抜け止め36がナット20の螺合孔23から係合突出するように形成することもできる。この場合、抜け止め36が螺合孔23から係合突出した直後では、縮径方向に弾性変形していた状態が解放され容易には外れない状態となる一方で、意図的に強い力で抜け止め36を螺合孔23に引き込み、変形例の螺合シャフト30を取り外すことができる。
【0050】
抜け止め36が螺合孔23から係合突出した後、回転伝達頭部40の回転で螺合シャフト30を更に締め込むと、螺合シャフト30を固定対象部材の被取り付け部10に固定することができる。
【0051】
このように、
図5(b)に示す変形例の螺合シャフト30を備える締結ネジによれば、上述した第1実施形態の全ての利点を包含し、尚且つ当該螺合シャフト30の抜け止め作用で、落下を防止し紛失を回避することができる。
【0052】
尚、
図5(b)に示す例では、抜け止め36を二股状とする例を説明したが、三股状や四股状とするなど、同様に機能する抜け止め作用を持つ形状であれば任意の形状とすることができる。
【0053】
〔第2実施形態〕
図6は、本発明による第1実施形態に対する変形例として構成される第2実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト30及び回転伝達頭部40の概略構成を示す斜視図である。尚、第1実施形態と同様な構成要素には同一の参照番号を付している。
【0054】
図6に示す第2実施形態の締結ネジにおける螺合シャフト30及び回転伝達頭部40は、螺合シャフト30の締結に係る過剰締め付けを構造的に回避させる機能を持たせた例である。過剰締め付けを構造的に回避させることで、螺合シャフト30の過重疲労による損耗を防止させることができる。
【0055】
まず、
図6に示す第2実施形態の締結ネジは、第1実施形態の締結ネジと比較して、回転伝達頭部40における回転支持部41内の略台形の凸部43として、その周方向一端43aの突出高さを周方向他端43bの突出高さよりも低く形成している点で相違している。
【0056】
尚、
図6に示す例では
図5(b)に例示した二股状の抜け止め36が形成されている螺合シャフト30を使用する例を示しているが、
図5(a)に示す螺合シャフト30(上述した本発明による第1実施形態)としてもよい。第2実施形態に係る締結ネジのその他の構造は第1実施形態と同様とすることができる。
【0057】
図7(a),(b)は、それぞれ本発明による第2実施形態の締結ネジにおける動作と作用を説明するための部分的な見下げ図である。
図7(a),(b)にそれぞれ対応させて区分するA欄は回転伝達頭部40の回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33との当接・非当接の状態図であり、B欄は回転伝達頭部40における頭部44の向きを示す状態図である。
【0058】
まず、
図7(a)に示すように、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、使用者は回転伝達頭部40の頭部44を摘持して回転伝達頭部40を回転させて螺合シャフト30を締め込み(通常、頭部44の締め込みは使用者側から見て時計周り)、本実施形態の締結ネジを固定対象部材の被取り付け部10に固定して締結動作を完了させることができる。この螺合シャフト30の締結動作は、回転伝達頭部40における回転支持部41内の凸部43の周方向一端43aが螺合シャフト30の凸部33の周方向一端に当接した状態で、回転伝達頭部40の回転で螺合シャフト30を締め込み(通常、頭部44の締め込みは使用者側から見て時計周り)、本実施形態の締結ネジを固定対象部材の被取り付け部10に固定して締結動作を完了する。
【0059】
一方、螺合シャフト30の締結動作が完了する状態になると、螺合シャフト30の締結負荷が大きくなり、螺合シャフト30の所定の締結負荷を超えて更に回転伝達頭部40を回転させると、
図7(b)に示すように、回転伝達頭部40における回転支持部41が弾性変形して、回転伝達頭部40における回転支持部41内の凸部43の周方向一端43aと螺合シャフト30の凸部33の周方向一端との当接が外れ、凸部43が凸部33の外径側を突き抜ける。これにより、螺合シャフト30の所定の締結負荷を超える回転伝達頭部40の回転は螺合シャフト30に非伝達となり、螺合シャフト30の締結に係る過剰締め付けが回避され、螺合シャフト30の過重疲労による損耗を防止させることができる。
【0060】
尚、本実施形態の締結ネジをナット20及び固定対象部材の被取り付け部10から取り外すときは、
図12(b)に示す状態、即ち回転支持部41の凸部43の周方向他端43bと、螺合シャフト30の凸部33の周方向他端とが当接した状態から逆方向に回転させて、螺合シャフト30を取り外せばよい(通常、螺合シャフト30の取り外しは使用者側から見て頭部44を反時計周りに回転させる)。凸部43の周方向他端43bは凸部43の周方向一端43aよりも突出高さよりも高く形成され、例え回転伝達頭部40における回転支持部41が弾性変形しても、凸部43が凸部33の外径側を突き抜けることが無いようになっている。
【0061】
このようにして、第2実施形態の締結ネジは、螺合シャフト30の所定の締結負荷を超える回転伝達頭部40の回転は螺合シャフト30に非伝達となるように構成され、これにより螺合シャフト30の締結に係る過剰締め付けが回避され、螺合シャフト30の過重疲労による損耗を防止させることができる。
【0062】
〔第3実施形態〕
上述した第1及び第2実施形態の締結ネジにおける回転伝達頭部40は、回転ツマミとして作用し、且つフック材等を掛装可能とする環状の頭部44とした例を説明したが、この頭部44の形状は、螺合シャフト30の基端側に嵌着され、回転遊び(凸部33,43の回転係合)を有して回転伝達頭部40の回転を螺合シャフト30に回転伝達する形状であればよい。
【0063】
例えば、
図8(a)は本発明による第1実施形態に対する変形例として構成される第3実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト及び回転伝達頭部の概略構成を示す斜視図であり、
図8(b)は螺合シャフトの概略構成を示す正面図である。また、
図8(c),(d)はそれぞれ回転伝達頭部の概略構成を示す断面図及び下面図である。
図8において、第1実施形態と同様な構成要素には同一の参照番号を付している。
【0064】
尚、
図8(a),(b)に示す螺合シャフト30は、
図1及び
図5(a)に示すもの(上述した本発明による第1実施形態)と同一構造であり、これに代えて
図5(b)に示す螺合シャフト30としてもよい。
【0065】
図8(a),(c)及び(d)に示す本実施形態に係る変形例の回転伝達頭部40は、
図2及び
図5に示すものと比較して、回転遊び(凸部33,43の回転係合)を有して回転伝達頭部40の回転を螺合シャフト30に回転伝達するよう同様の構造を有しているが、頭部44の形状が円形キャップ状に形成されている点で相違している。
【0066】
即ち、
図8(a),(c)及び(d)に示す回転伝達頭部40は、螺合シャフト30の円板部32を収容し回転支持する回転支持部41と、その回転支持部41の中心軸上に形成され螺合シャフト30の係止部35を弾性変形させて貫通させ係止可能とする軸受孔42と、螺合シャフト30の円板部32を収容し、回転ツマミとして作用する円形キャップ状の頭部44と、を有するように樹脂材料で成形される。軸受孔42は、螺合シャフト30の軸部34の軸周面を回転支持し、且つ螺合シャフト30の係止部35の一部周面を回転支持するように円周方向に段差を有している。
【0067】
本例の回転支持部41と頭部44は、それぞれ個別に成形したものを相対回転不能に固着し、本例ではそれぞれ同径としている。また、
図8(a)に示すように頭部44の周面上にて、摘持して回転容易にするためにローレットを刻設してもよい。そして、
図8(c)に示すように頭部44の円表面上にて、任意の図柄44aを施してもよい。
【0068】
従って、
図8(a),(c)及び(d)に示す回転伝達頭部40は、第1実施形態と同様、回転伝達頭部40の頭部44を使用者が摘持して回転伝達頭部40を回転させたときに、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33が互いに周方向に当接させることで、回転伝達頭部40の正逆回転を螺合シャフト30の正逆回転へと伝達し一体的に回転させることができる。
【0069】
一方、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33が互いに周方向に非当接の範囲内では、回転伝達頭部40の正逆回転は螺合シャフト30へと回転伝達されない。換言すれば、回転支持部41の凸部43と螺合シャフト30の凸部33の非当接の範囲内で、回転伝達頭部40を螺合シャフト30に対し任意角度で相対回転させることができる。
【0070】
つまり、回転伝達頭部40の回転で螺合シャフト30を締め込み、本実施形態の締結ネジを固定対象部材の被取り付け部10(
図3の例示同様)に取着し固定した後、その締め付けた状態を維持したままで、回転伝達頭部40を螺合シャフト30に対し任意角度で相対回転させることができる。これにより、本実施形態の締結ネジを一旦ナット20や固定対象部材の被取り付け部10等に締結した後でも、その締結状態を緩めることなく、例えば図柄44aが施されたその回転伝達頭部40の向きを変えることができるため、意匠性や利便性が向上する。
【0071】
尚、
図8に例示した回転伝達頭部40における凸部43は、第1実施形態と同様として説明したが、
図6及び
図7に示す第3実施形態のものと同様に構成することもでき、この場合には過剰締め付けを構造的に回避させることができる。
【0072】
〔第4実施形態〕
図9(a)は本発明による第3実施形態に対する更なる変形例として構成される第3実施形態の締結ネジに係る螺合シャフト及び回転伝達頭部の概略構成を示す斜視図であり、
図9(b)は螺合シャフトの概略構成を示す正面図である。また、
図9(c),(d)はそれぞれ回転伝達頭部の概略構成を示す断面図及び下面図である。
図9において、第3実施形態と同様な構成要素には同一の参照番号を付している。
【0073】
図9(a),(c)及び(d)に示す本実施形態に係る変形例の回転伝達頭部40は、
図8に示すものと比較して、同様の構造を有しているが、
図9(c),(d)に示すように頭部44の円表面上にて、任意の図柄44aを施す代わりに、本例ではプラスドライバーのビット先端が嵌合する工具受部(本例では十字溝)44bが穿設されている点で相違している。
【0074】
つまり、
図9に示す例ではプラスドライバーを用いて、回転伝達頭部40の頭部44を使用者が回転伝達頭部40を回転させ、回転伝達頭部40の回転で螺合シャフト30を締め込み、本実施形態の締結ネジを固定対象部材の被取り付け部10(
図3の例示同様)に取着し固定した後、その締め付けた状態を維持したままで、回転伝達頭部40を螺合シャフト30に対し任意角度で相対回転させることができる。これにより、本実施形態の締結ネジを一旦ナット20や固定対象部材の被取り付け部10等に締結した後でも、その締結状態を緩めることなく、工具受部(本例では十字溝)44bが穿設されたその回転伝達頭部40の向きを変えることができるため、意匠性や利便性が向上する。
【0075】
例えば、
図10(a)に示すように、工具受部(本例では十字溝)440bがネジ頭400に穿設された従来のネジを用いて、固定対象部材100の被取り付け部10を上下二箇所で壁等への固定するとき、そのネジの締結状態によっては、当該上下二箇所で工具受部(本例では十字溝)440bの向きが揃わず、ちぐはぐになり、これを改善したいとする要望がある。
【0076】
このような要望に対し、固定対象部材100の被取り付け部10を上下二箇所で壁等への固定するとき、
図9に示す第4実施形態の締結ネジを用いることで、
図10(b)に示すように、当該締結状態を緩めることなく、当該上下二箇所で工具受部(本例では十字溝)44bの向きを任意角度で揃えることができ、その意匠性を向上させることができる。
【0077】
尚、
図9に例示した回転伝達頭部40における凸部43は、第1実施形態と同様として説明したが、
図6及び
図7に示す第3実施形態のものと同様に構成することもでき、この場合には過剰締め付けを構造的に回避させることができる。
【0078】
また、
図9に例示した第4実施形態に係る回転伝達頭部40は、ドライバー等による工具による回転機能と、ツマミ作用による回転機能とを兼ね備えたものとなる。ツマミ作用による回転機能を高めるために、
図9に例示した回転伝達頭部40の周面上にて、
図8(a)に例示したものと同様に、摘持して回転容易にするためのローレットを刻設してもよい。
【0079】
以上、特定の実施形態の例を挙げて本発明を説明したが、本発明は前述の実施形態の例に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、各実施形態に係る締結ネジにおいて、回転伝達頭部40における凸部43、及び螺合シャフト30の凸部33をそれぞれ1つずつ設ける構成としているが、それぞれ複数設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、締結ネジを一旦ナットや固定対象部材の被取り付け部等に締結した後でも、その締結状態を緩めることなくその回転伝達頭部の向きを変えることができるため、意匠性や利便性が向上し、より好適には、締結ネジにおける過重疲労による損耗を防止することができるため、ネジの用途に有用である。
【符号の説明】
【0081】
10 固定対象部材の被取り付け部
20 ナット
30 螺合シャフト
31 シャフト
31a 螺旋溝
32 円板部
33 凸部
34 軸部
35 係止部
36 抜け止め
40 回転伝達頭部
41 回転支持部
42 軸受孔
43 凸部
44 頭部
44a 図柄
44b 工具受部