(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20220930BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220930BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2018119455
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】音羽 拓也
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓資
(72)【発明者】
【氏名】和田 環
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513161(JP,A)
【文献】特開2006-188551(JP,A)
【文献】特開2009-120631(JP,A)
【文献】特表2013-532195(JP,A)
【文献】特開2016-117845(JP,A)
【文献】特表2010-503741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/38
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、顔料、導電剤、非水溶剤を含む帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクであって、
前記導電剤が、前記非水溶剤中で陰イオン及び陽イオンを生じる塩構造であって、
前記陰イオンはトリフルオロメチルスルホニル基を有し、
前記陽イオン
は不飽和複素環構造を有
し、前記不飽和複素環構造はピリジニウム構造又はピロリウム構造を有し、前記ピリジニウム構造の1位及び3位に、直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基が結合しており、前記1位及び3位に結合している炭化水素基の合計炭素数は4以上10以下であり、前記ピロリウム構造の1位に、直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基が2つ結合しており、前記1位に結合している2つの炭化水素基の合計炭素数が4以上8以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項2】
請求項1に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクであって、
前記陰イオンは、CF
3SO
3
-、(CF
3SO
2)
2N
-、(CF
3SO
2)
3C
-のいずれかであることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクであって、
さらに樹脂前駆体と重合開始剤とを含み、
前記樹脂前駆体は重合可能な二重結合を有し、
前記インクは紫外線照射により硬化するインクであることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクであって、
前記陰イオンの酸度関数は-12
以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクであって、
前記陽イオンの
複素環部分の分子量は80以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
賞味期限、使用期限、製造番号等の印刷のため、食品、電子部品等幅広い分野で帯電制御方式のインクジェットプリンタが用いられている。帯電制御式インクジェットプリンタのインクは、主に樹脂、着色剤、導電剤、溶剤から構成されている。これに印字ドットの形状を制御するためのレベリング剤等の添加剤が加えられる。
【0003】
着色剤はインクの発色のために添加される。樹脂は、着色剤等の部材を印字部分に保持するために添加される。レベリング剤としては通常シリコーン系の化合物が用いられる。
【0004】
帯電制御方式のインクジェットプリンタでは、ノズルから吐出したインク粒子を帯電させ、偏向電極で曲げて印字面にインクを吹き付けている。そのため、インクに電荷をチャージする必要がある。導電剤は、インク滴に適正なチャージを付与するために添加される。具体的には導電剤はインクの導電性を向上させ抵抗を低減する機能を有する。
【0005】
導電剤としては、一般的に塩構造を有する有機物が用いられる。
【0006】
特許文献1には、アセトン、プロピレングリコールメチルエーテル等の有機溶媒と、溶媒可溶性のバインダ樹脂と、水不溶性キノン染料と、を含むインクジェット用インク組成物が開示されている。また、導電剤としてリチウムトリフルオロメタンスルホネートを用いることができることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、有機光起電セルを調製するための導電性インクとして、有機半導体と、有機溶媒と、導電性を増加させるための添加剤とを含む調合物が開示されている。導電性添加剤として、アニオンがトリフレート(トリフルオロメタンスルホネート)又はビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドからなるアルカリ金属塩や有機塩を用いることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2010-503741号公報
【文献】特表2011-504650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インクジェットプリンタ用インクの印字の耐擦性、密着性は主に樹脂が担っており、印字するために許容できる粘度まで添加することが可能である。インクにおける着色剤や導電剤の割合を高めると、印字の物理的強度を確保するために添加している樹脂の割合が低下するため、耐擦性、密着性が低下する。着色剤は視認性を確保するため添加する必要がある。そのため着色剤の含有率を減らすのは困難である。そこで、低抵抗を維持したまま、導電剤の添加率を減らすことが望まれている。
【0010】
特許文献1に開示された導電剤は、陽イオンがアルカリ金属等の無機物であるため、樹脂、溶剤への溶解性に課題がある。
【0011】
特許文献2に開示された導電性調合物は、回路等の形成を目的としており、インクジェットプリンタ用インクに含まれる樹脂、着色剤を含まない。そのため、樹脂の添加により得られる高密着・高耐擦と、導電剤の添加による低抵抗化と、を両立させるという課題が生じない。
【0012】
そこで、本発明は、導電剤の添加率を低減でき、かつ低抵抗なインクジェットプリンタ用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクは、樹脂、顔料、導電剤、非水溶剤を含み、導電剤は非水溶剤中で陰イオン及び陽イオンを生じる塩構造であって、陰イオンはトリフルオロメチルスルホニル基を有し、陽イオンは不飽和複素環構造を有し、上記不飽和複素環構造はピリジニウム構造又はピロリウム構造を有し、ピリジニウム構造の1位及び3位に、直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基が結合しており、1位及び3位に結合している炭化水素基の合計炭素数は4以上10以下であり、上記ピロリウム構造の1位に、直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基が2つ結合しており、1位に結合している2つの炭化水素基の合計炭素数が4以上8以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電剤の添加率を低減でき、かつ低抵抗なインクジェットプリンタ用インクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】帯電制御方式のインクジェットプリンタによる印字プロセスを示す模式図である。
【
図2】実施例及び比較例のインクの抵抗を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
1.インクジェットプリンタ用インク
インクは、樹脂、着色剤、非水溶剤、導電剤を含む。これらをスターラーチップ又はオーバーヘッドスターラー等により攪拌しお互いを相溶させることによりインクが形成される。
【0018】
<樹脂>
インクに含まれる樹脂の種類は溶剤に溶解するものであれば特に限定されず、印字対象(被印字物)への密着性や耐擦性等を考慮して選定される。樹脂としては、具体的には、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、塩素含有の酢酸ビニル、及びこれらの樹脂の混合物を用いることができる。これら樹脂の重量平均分子量は数千~2万程度であることが好ましい。印字の耐擦性、密着性を確保する点で、インク中の樹脂の含有率は、5wt%以上であることがこのましい。印字可能な粘度とするために、インク中の樹脂の含有量は15wt%以下であることが好ましい。
【0019】
<着色剤>
着色剤としては、染料又は顔料を用いることができる。
【0020】
(染料)
染料は用いる溶剤に溶解する材料であれば特に限定は無い。具体的には以下の染料が挙げられる。黒色系染料としては、オイルブラックHBB(C.I.ソルベントブラック3)、バリファストブラック3804(C.I.ソルベントブラック34)、スピリットブラックSB(C.I.ソルベントブラック5)、オレオゾルファストブラックRL(C.I.ソルベントブラック27)、アイゼンゾットブラック8(C.I.ソルベントブラック7)、オラゾールブラックCN(C.I.ソルベントブラック28)等が挙げられる。
【0021】
赤色系染料としては、オイルレッド5B(C.I.ソルベントレッド27)、バリファストレッド1306(C.I.ソルベントレッド109)、オレオゾルファストレッドBL(C.I.ソルベントレッド132)、アイゼンゾットレッド1(C.I.ソルベントレッド24)、オラゾールレッド3GL(C.I.ソルベントレッド130)、フィラミッドレッドGR(C.I.ソルベントレッド225)等が挙げられる。
【0022】
黄色系染料としては、オイルイエロー129(C.I.ソルベントイエロー29)、オレオゾルブリリアントイエロー5G(C.I.ソルベントイエロー150)、アイゼンゾットイエロー1(C.I.ソルベントイエロー56)、オラゾールイエロー3R(C.I.ソルベントイエロー25)等が挙げられる。
【0023】
青色系染料としては、オイルブルー2N(C.I.ソルベントブルー35)、バリファストブルー1605(C.I.ソルベントブルー38)、オレオゾルファストブルーELN(C.I.ソルベントブルー70)、アイゼンゾットブルー1(C.I.ソルベントブルー25)、オラゾールブルーGN(C.I.ソルベントブルー67)等が挙げられる。
【0024】
(顔料)
顔料としては、黒色の場合はカーボンブラックを用いることができる。白色の場合は二酸化チタン、酸化亜鉛等を用いることができる。赤色の場合はカドミウムレッド、ベンガラ(三酸化第二鉄)、キナクリドンレッド等を用いることができる。黄色の場合はクロムイエロー、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー等を用いることができる。青色の場合はプルシアンブルー、銅フタロシアニン等を用いることができる。緑色の場合はフタロシアニングリーン、クロムイエローと紺青の混合物、チタンコバルト緑等を用いることができる。
【0025】
白色顔料を除く顔料は平均粒子径100nm~1000nmに粉砕したものを適切な分散剤とともに用いることが好ましい。白色顔料は小さすぎると隠蔽率が低下するので、平均粒子径は200nm以上であることが好ましく、これを分散剤とともにインクに添加する。
【0026】
<非水溶剤>
非水溶剤としては、樹脂を溶解し、インクを印字可能な粘度まで低減させるものであれば特に制限はなく、例えば、芳香系、エステル系、ケトン系、炭化水素系、アルコール系、グリコール系等の有機溶剤を用いることができる。なお、帯電制御方式のインクジェットプリンタでは、インクの粘度は20℃で約1~5mPa・Sに制御されている。これより高粘度の場合はインクがプリンタヘッドから吐出しにくくなるためである。
【0027】
帯電制御方式のインクジェットプリンタのインクの溶剤としては、2-ブタノン(慣用名はメチルエチルケトン(MEK))、アセトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン系溶剤が用いられることが多い。これらの溶剤は、樹脂を溶解しやすいことに加え、蒸気圧が大きいため、印字後の乾燥が早い。そのため、樹脂、導電剤はケトン系の溶剤への溶解性が高いことが好ましい。ケトン系溶剤の他には、ジメトキシエタン、エタノールを溶剤に用いても良い。
【0028】
<導電剤>
導電剤は、非水溶剤中で陰イオン及び陽イオンを生じる塩構造であって、陰イオンはトリフルオロメチルスルホニル基(CF3SO2)を有し、陽イオンは、第四級アンモニウムカチオンであるか、不飽和複素環構造を有する。
【0029】
(陰イオン)
インク中の導電剤の含有割合を高めると、印字の物理的強度を確保するために添加している樹脂のインク中(印字中)の含有割合が低下するため、印字の耐擦性、密着性が低下する。そのため導電剤の添加率は極力下げる必要がある。
【0030】
我々の検討の結果、導電剤を構成している塩構造のうち、陰イオンは、それにプロトンが結合した酸の酸性が強いものほど、添加量が小さく導電性が高まることが判った。酸の強度を示すパラメータの一つにハメットの酸度関数があるが、この酸度関数で-12以下のものが好ましいことが判った。
【0031】
また、インク組成中の物質からの酸化、還元反応をほとんど受けないことも必要である。更に過塩素酸や硝酸などの強酸とは異なりインク組成中の物質に対する酸化力も示さないことも求められる。陰イオンとしても化学的に安定で、還元性や求核性をほとんど示さないことも必要である。つまり、強酸性で且つ化学的に安定な酸が望まれている。これに該当するものとしては、トリフルオロメチルスルホニル基(CF3SO2)を有する陰イオンが挙げられる。具体的には、CF3SO3
-で表されるトリフルオロメタンスルホナート(トリフルオロメタンスルホン酸の共役塩基)、(CF3SO2)2N-で表されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの共役塩基、(CF3SO2)3C-で表されるトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドの共役塩基等である。
【0032】
(陽イオン)
導電剤としては、非水溶剤に溶解するものを用いる必要がある。インクはMEK等のケトン系溶剤が主流のため導電剤もMEK等のケトン系溶剤に溶解するものであることが好ましい。溶剤への溶解性を向上させるために、本発明では、陽イオンはLi、Naといったアルカリ金属等の無機物ではなく有機物を用いる。具体的には陽イオンは1~4本のアルキル鎖を有する第四級アンモニウムカチオン(第四級アンモニウム塩構造を有する陽イオン)であるか、不飽和複素環を有する陽イオンである。
【0033】
第四級アンモニウム塩構造を有する陽イオンとしては、直鎖構造又は分岐構造のアルキル鎖を有するアミンや、ピロール、ピリジン等の複素環構造を有するアミンが挙げられる。
【0034】
また、不飽和複素環構造は、窒素を含有することが好ましく、さらに単環の不飽和六員環構造又は単環の不飽和五員環構造であることが好ましい。
【0035】
インクに対する添加率を低減するためには、陽イオンの分子量は小さい方がよい。インクの導電剤として良く使用されているテトラアルキルアンモニウム塩(陽イオンはテトラアルキルアンモニウムイオン)は、アルキル基が長いほど有機溶剤への溶解性が高い。そのため、帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクには、炭素数が4以上のアルキル基を有するテトラアルキルアンモニウムイオンを陽イオンとして用いることが好ましい。ただし、炭素数が4以上のアルキル基を有するテトラアルキルアンモニウムイオンを陽イオンは分子量が大きい。元素の分子量を小数点以下四捨五入して整数で計算した場合、アルキル基の炭素数が4の場合は分子量が308、炭素数が6の場合は分子量が420、炭素数が8の場合は分子量が532、テトラフェニルアミンの場合も分子量が392あり、有機溶剤への溶解性を向上させるため、フルオロ基を導入したフェニル基の場合は分子量が464もある。
【0036】
一方、陽イオンを単環の不飽和複素環とすることにより、分子量を小さくすることができる。例えば、分子内にアルキル基を有しない場合、単環の不飽和五員環構造を有するイミダゾリウム構造、ピロリウム構造の分子量はそれぞれ69、72と小さい。また、分子内にアルキル基を有しない場合、単環の不飽和六員環構造を有するピリジニウム構造の分子量は80と小さい。これら構造では、分子内の窒素に1個又は2個のアルキル基を導入することで有機溶剤に対する溶解性を確保することができる。しかしながら、アルキル基が長すぎてもエタノールなどのアルコール系溶剤への溶解性が低下する。したがって、不飽和複素環構造がピリジニウム構造である場合は、ピリジニウム構造の窒素に結合している直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基の合計炭素数は4~10であることが好ましい。また、不飽和複素環構造がイミダゾリウム構造である場合は、イミダゾリウム構造の窒素に結合している直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基の合計炭素数は2~8であることが好ましい。また、不飽和複素環構造がピロリウム構造である場合は、ピロリウム構造の窒素に結合している直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基の合計炭素数が4~8であることが好ましい。
【0037】
上述した陽イオンを用いることにより、インクジェットプリンタ用インクによく用いられる非水溶剤に対する溶解性が向上する。
【0038】
さらに陽イオンを含窒素不飽和複素単環にすることで、分子量の小さなトリフルオロメチルスルホニル基を有する酸塩構造の導電剤を得ることができる。
【0039】
次にアルキル基の導入部位について記す。1位の窒素は四級化しているため親水性が高い。言い換えれば疎水性が低いので、窒素部位のMEK等の疎水性の有機溶剤への溶解性を向上させるには、1位の窒素への疎水性のアルキル基の導入が好適となる。
【0040】
また、1位以外のアルキル基の導入部位としては、窒素から離れた部位が好適である。2位よりも3位、4位であることが好ましい。これは窒素近傍への陰イオンの接近を容易にすることで、塩構造の熱的安定性を高められるためである。2位にアルキル基があると、立体障害が生じ、窒素への陰イオンの接近が妨げられるため、塩の熱的安定性が低下する傾向がある。インクはインクジェットプリンタ内部のポンプ等熱を発生する部位の近くで数十度に熱せられる可能性があるので、熱的安定性の確保は重要である。そのため、熱的安定性を確保するためにも1位以外のアルキル基の導入部位としては、3位、4位等、窒素から離れた部位であることが好ましい。
【0041】
以上より、不飽和複素環構造がピリジニウム構造である場合は、化学式1で表されるようにピリジニウム構造の1位及び3位に、直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基が結合しており、1位及び3位に結合している炭化水素基の合計炭素数は4~10であることが好ましい。
【0042】
【0043】
化学式1において、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基であり、R1とR2の合計炭素数は4以上10以下である。
また、不飽和複素環構造がイミダゾリウム構造である場合は、化学式2で表されるようにイミダゾリウム構造の1位及び3位に、直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基が結合しており、1位と3位に結合している炭化水素基の合計炭素数は2~8であることが好ましい。
【0044】
【0045】
化学式2において、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基であり、R1とR2の合計炭素数は2以上8以下である。
【0046】
また、不飽和複素環構造がピロリウム構造である場合は、化学式3で表されるピロリウム構造の1位に、直鎖構造又は分岐構造の炭化水素基が2つ結合しており、1位に結合している2つの炭化水素基の合計炭素数が4~8であることが好ましい。
【0047】
【0048】
化学式3において、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基であり、R1とR2の合計炭素数は4以上8以下である。
【0049】
したがって、導電剤としては、以下に記載の化合物群1、化合物群2、化合物群3で表される化合物が好適である。
【0050】
【0051】
化合物群1において、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基であり、R1とR2の合計炭素数は2以上8以下である。nは1以上3以下の整数であり、nが1のときXは酸素、nが2のときXは窒素、nが3のときXは炭素である。
【0052】
【0053】
化合物群2において、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基であり、R1とR2の合計炭素数は4以上8以下である。nは1以上3以下であり、nが1のときXは酸素、nが2のときXは窒素、nが3のときXは炭素である。
【0054】
【0055】
化合物群3において、R1、R2はそれぞれ独立したアルキル基であり、R1とR2の合計炭素数が4以上10以下である。nは1以上3以下であり、nが1のときXは酸素、nが2のときXは窒素、nが3のときXは炭素である。
【0056】
化合物群1、化合物群2、化合物群3の分子量を比較すると、化合物群1の分子量は97~181、
化合物群2の分子量は180~292、化合物群3の分子量136~220である。したがって、溶剤への溶解性の観点からは、導電剤として化合物群1を用いることが特に好ましい。
【0057】
インクジェットプリンタ用のインクとして、紫外線等の光を照射することにより硬化する光硬化型のインクを用いても良い。光硬化型のインクは、溶剤、樹脂、着色剤、導電剤、樹脂前駆体、及び重合開始剤等を含む。溶剤、樹脂、着色剤、導電剤は、上述したインクと同様のものを用いることができる。
【0058】
樹脂前駆体は、重合可能な二重結合を有する。樹脂前駆体に、重合開始剤存在下で紫外線等の光を照射することにより、重合体となり硬化する。
【0059】
樹脂前駆体としては、アクリルモノマー、或いはメタクリレートモノマーが挙げられる。アクリルモノマーは例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸シクロオクチル、アクリル酸シクロデシル、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,8-オクタンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,12-ドデカンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等を用いることができる。メタクリレートモノマーは例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸シクロデシル、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、フェノキシエチレングリコールメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,8-オクタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ポリプロピレンジメタクリレート等を用いることができる。
【0060】
重合開始剤は重合反応の種類によって選ぶこととなる。開始剤の構造は、過酸化物系、アルキルフェノン系、オキシムエステル系等がある。過酸化物としては例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、ジ-tert-ブチルペルオキシド、アルキルフェノン系としては2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルプロパン-1-オン、2-ハイドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキシド、オキシムエステル系としては1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(オルトベンゾイルオキシム)]等を用いることができる。
【0061】
2.インクジェットプリンタ
上記で説明したインクをインクジェットプリンタに入れて、印字を行い、所望の印字を与えることが可能である。
【0062】
帯電制御式のインクジェットプリンタのインク吐出、着弾までの印字プロセスを
図1に示す。ノズル1から吐出したインク滴2は帯電電極3で電荷を付与され、その後、偏向電極4で方向を制御され、被印字基材5に着弾する。印字されないインクはガター6から回収され、インクタンク(
図1では図示省略)に戻される。
【0063】
印字されたインクのドットサイズは、およそ300~400μmである。被印字基材がポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の樹脂表面の場合、被印字基材の疎水性が高いため、ドットサイズは約300~350μmと小型である。一方、親水性の高いアルミ缶、ガラス瓶の表面に印字する場合は、ドットサイズは約350~400μmである。
【実施例】
【0064】
本発明の実施例を以下に示す。
【0065】
<インク1~26の調製>
平均粒子径300nmの二酸化チタン粉(100g)、水酸基価が130で重量平均分子量が15000のポリビニルブチラール樹脂(32g)、2-ブタノン(308g)をビーズミルで混合し、二酸化チタンの分散液を調製した。これに酸価が74で、重量平均分子量が10000のアクリル樹脂(100g)、下記の化学式4で表される両末端にポリエトキシ鎖を有するポリジメチルシロキサン誘導体(2g)、及び、導電剤を加えた。
【0066】
【0067】
導電剤は、下記で表される化合物1-17を用い、添加量は3g又は5gとした。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
これに、導電剤の添加量が3gのときは2-ブタノンを455g、導電剤の添加量が5gのときは2-ブタノンを453g添加した。その後二酸化チタン以外が溶解するまで攪拌することにより、インク1~26を1kgずつ調整した。調製したインクの組成を表1に示す。なお、導電剤の添加量が3gのときは、インク中の導電剤の添加率は0.3重量%、導電剤の添加量が5gのときはインク中の導電剤の添加率は0.5重量%となる。
【0082】
【0083】
<インク27~29の調製>
酸価72で重量平均分子量が10000のアクリル樹脂(100g)の代わりに、重量平均分子量が3000のポリエステル(ジカルボン酸ユニットがイソフタル酸:テレフタル酸=1:1、ジオールユニットがプロピレングリコール)を用いたこと以外はインク1、3、5と同様にしてそれぞれインク27、28、29を調整した。
【0084】
<インク30~32の調製>
平均粒子径300nmの二酸化チタン粉(100g)の代わりに、平均粒子径150nmのカーボンブラック粉(50g)とMEK(50g)を用いたこと以外はインク1、3、5と同様にして、それぞれインク30、31,32、を調整した。
【0085】
<インク33の調製>
平均粒子径150nmのカーボンブラック粉(50g)に水酸基価が130で重量平均分子量が15000のポリビニルブチラール樹脂(30g)、MEK(570g)をビーズミルで混合し、カーボンブラックの分散液を調製した。これに樹脂の前駆体である1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(100g)とジプロピレングリコールジアクリレート(100g)、重合開始剤である2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(50g)、導電剤である化合物5(100g)を加え良く撹拌した。こうしてUV硬化インク33を調整した。
【0086】
<インクの抵抗測定>
調整したインク1-33について、堀場製作所製電気導電率計ES-51を用いてインクの抵抗を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。
【0087】
表1及び
図2より、インク1-16、27-33については、導電剤の添加率が0.3重量%、0.5重量%のいずれの場合であっても、インクの抵抗値は2000Ω・cm以下であった。
【0088】
インク1-16の結果より、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-のいずれかの陰イオンと、イミダゾリウム構造、ピロリウム構造又はピリジニウム構造を有する陽イオンの塩を導電剤として用いることにより、添加率が0.3重量%と少なくても抵抗を2000Ω・cm以下まで低減できることが分かった。
【0089】
これは、導電剤として用いた化合物1~8の陰イオンが、超強酸であるトリフルオロメタンスルホン酸の共役塩基を含み、塩としての解離の度合いが大きいためであると考えられる。
【0090】
インク27~29の結果より、樹脂の種類が変わっても、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-のいずれかの陰イオンと、イミダゾリウム構造、ピロリウム構造又はピリジニウム構造を有する陽イオンの塩を導電剤として用いることにより、僅かの添加率でインクの抵抗を大きく下げられることが分かった。
【0091】
インク30~32の結果より、顔料の種類が変わっても、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-のいずれかの陰イオンと、イミダゾリウム構造、ピロリウム構造又はピリジニウム構造を有する陽イオンの塩を導電剤として用いることにより、僅かの添加率でインクの抵抗を大きく下げられることが分かった。
【0092】
一方、インク17、19、21、23-26については、インクの抵抗値が2000Ω・cmを超えた。インク18、19、22については、抵抗は2000Ω・cm以下であったが、導電剤の添加率が0.5重量%と多かった。
【0093】
インク17~26は、導電剤を構成する陰イオンが臭素イオンであったために、インクの抵抗が高くなってしまったと考えられる。以上の結果から、導電剤の化学構造中、陰イオンをCF3SO2を含む構造とすることにより、インク抵抗を大きく下げられ、良好な印字が可能になることが明らかになった。
【0094】
<インク印字評価>
調整したインク1-33について、株式会社日立産機システム社製インクジェットプリンタUX型に充填し、印字動作を確認した。印字結果を表1に示す。表1において、良好な印字は「◎」、正常に印字できれば「○」、印字不能を「×」とした。
【0095】
実施例であるインク1-16、27-33については、正常に印字されること、印字乱れが生じておらず良好な印字であることを確認できた。
【0096】
導電剤の添加率が5重量%であるインク18、20、22、26は正常に印字されたが、インク24では帯電不良のため印字不能であった。また、導電剤の添加率3重量%であるインク17、19、21、23、25についてもいずれも帯電不良のため印字不能であった。印字不能のインクの抵抗は、いずれも2100Ω・cm以上であることから、印字を可能にするためには、用いるインクの抵抗を2100Ω・cm未満にする必要があると推定される。
【0097】
以上の結果から、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-のいずれかの陰イオンと、イミダゾリウム構造、ピロリウム構造又はピリジニウム構造を有する陽イオンの塩を導電剤として用いることにより、導電剤の添加率が少なくても良好な印字が可能であることが分かった。
【0098】
また、インク33については、印字後365nmの紫外光を照射できる紫外線LEDランプを用いて印字に2J/cm2の光を照射したところ、印字が固化することが確認できた。よって、樹脂の代わりに樹脂の前駆体を用いてもトリフルオロメタンスルホン酸構造の陰イオンを有する導電剤は僅かの添加率でインクの抵抗を大きく下げられ、良好な印字が可能になることが明らかになった。
【0099】
以上の結果より、トリフルオロメチルスルホニル基を有するイオンと、第四級アンモニウムカチオン又は不飽和複素環構造を有する陽イオンにより、構成される導電剤を用いることにより、わずかな添加量でインクの導電性を向上できることが分かった。このインクを用いれば、密着性、耐擦性などの樹脂添加の効果を維持したまま、インクの導電性を向上できる。
【符号の説明】
【0100】
1…ノズル
2…インク滴
3…帯電電極
4…偏向電極
5…被印字基材
6…ガター