(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】難燃性木質繊維板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/04 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
B27N3/04 D
(21)【出願番号】P 2018150201
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390030340
【氏名又は名称】株式会社ノダ
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】吉山 恭平
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-062983(JP,A)
【文献】特開2009-107165(JP,A)
【文献】特開2009-066790(JP,A)
【文献】特開平02-270547(JP,A)
【文献】特開平02-258201(JP,A)
【文献】特開昭54-091576(JP,A)
【文献】特開平06-254817(JP,A)
【文献】特開2018-103452(JP,A)
【文献】特開2012-121274(JP,A)
【文献】特開2007-136992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
B27N 1/00 - 9/00
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質繊維を撹拌しながら成形に必要な接着剤の全量の一部を木質繊維に噴霧して接着剤を木質繊維に付着させる第一工程と、第一工程で得た混合物
を撹拌しながら該混合物に水不溶性難燃薬剤を混合して水不溶性難燃薬剤を接着剤を介して木質繊維に付着させる第二工程と、第二工程で得た混合物
を撹拌しながら該混合物に前記必要な接着剤の全量の残部を噴霧して木質繊維と接着剤と水不溶性難燃薬剤とからなる混合物を得る第三工程と、第三工程で得た混合物を熱圧成形する第四工程とを順次に行うことを特徴とする難燃性木質繊維板の製造方法。
【請求項2】
第一工程で前記必要量の10~90重量%の接着剤を噴霧し、第三工程で前記必要量の90~10重量%の接着剤を噴霧することを特徴とする、請求項1記載の難燃性木質繊維板の製造方法。
【請求項3】
第一工程で木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の接着剤を噴霧し、第三工程で木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の接着剤を噴霧することを特徴とする、請求項1または2記載の難燃性木質繊維板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性木質繊維板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無垢材や合板などの木質材料に難燃性を付与する方法として、下記特許文献1に、水溶性不燃薬剤を水に溶かした水溶液(以下、「不燃溶液」と言う。)に木質材料を浸漬して数回の減圧・加圧を繰り返して含浸させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-270547号公報
【文献】特開2000-037710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、当業界において周知のように、MDFなどの木質繊維板は表裏に密度の高い硬質層を有するため、木質繊維板を対象として従来の方法で不燃溶液を含浸させようとしても、その表裏の硬質層からはほとんど含浸されない。木質繊維板に不燃溶液を含浸させた場合、木口に露出する密度の低い部分(表裏の硬質層の間に位置する中間層)から不燃溶液が入り込み、板の長手方向中央に向けて徐々に含浸されていくことになるので、木質繊維板の全体(木口から長手方向中央まで)に均一に不燃溶液が行き渡るには数日に亙る含浸処理が必要となり、製造効率が非常に悪いものとなる。また、不燃性能は不燃薬剤の含有量に比例して向上し、より多くの不燃薬剤を含有させるには減圧加圧の含浸処理回数を増やさなければならず、木質繊維板に膨れなどの変形や割れなどの破損が生じる恐れがある。
【0005】
すなわち、従来技術のように不燃溶液を含浸させることのみによって木質繊維板に所望の難燃性を付与することは困難である。本発明者は、含浸以外の方法によって木質繊維板に難燃性を付与することについて研究と試験を重ねた結果、木質繊維板の成形段階で、木質繊維に接着剤と共に難燃薬剤を混入することが有効な手法となり得ることを見出した。
【0006】
木質繊維板は、一般に、木材を蒸煮・解繊して得た木質繊維に成形に必要な量(MDFの場合であれば、一般に、木質繊維に対して3~50%程度、特許文献2参照)の接着剤を噴霧して混合物とし、この混合物をマット状に成形した後に熱圧して製造されるものであるから、成形段階で難燃薬剤を混入するのであれば、木質繊維に接着剤および難燃薬剤を混合して得た混合物を熱圧成形すれば良いのではないかと考えた。しかしながら、必要量の接着剤の全量を一度に混合すると、難燃薬剤の付着状態を均一にすることができなかったり、成形不良を起こすなどの問題が生ずることが分かった(詳しくは後述)。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、難燃性を有する木質繊維板を効率よく製造することができる新規な方法を提供することであり、より具体的には、成形不良や変形・破損を生じさせることなく、難燃薬剤が木質繊維板の全般に亘って均一に付着して難燃性が高められた木質繊維板を効率的に製造することができる新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため、本願の請求項1に係る発明は、木質繊維を撹拌しながら成形に必要な接着剤の全量の一部を木質繊維に噴霧して接着剤を木質繊維に付着させる第一工程と、第一工程で得た混合物を撹拌しながら該混合物に水不溶性難燃薬剤を混合して水不溶性難燃薬剤を接着剤を介して木質繊維に付着させる第二工程と、第二工程で得た混合物を撹拌しながら該混合物に前記必要な接着剤の全量の残部を噴霧して木質繊維と接着剤と水不溶性難燃薬剤とからなる混合物を得る第三工程と、第三工程で得た混合物を熱圧成形する第四工程とを順次に行うことを特徴とする難燃性木質繊維板の製造方法である。
【0009】
本願の請求項2に係る発明は、請求項1記載の難燃性木質繊維板の製造方法において、第一工程で前記必要全量の10~90重量%の接着剤を噴霧し、第二工程で前記必要量の90~10重量%の接着剤を噴霧することを特徴とする。
【0010】
本願の請求項3に係る発明は、請求項1または2記載の難燃性木質繊維板の製造方法において、第一工程で木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の接着剤を噴霧し、第三工程で木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の接着剤を噴霧することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による木質繊維板の製造方法では、不燃溶液を含浸させる手法によっては十分な難燃性能を付与することが困難であった木質繊維板について、水不溶性の難燃薬剤を成形段階で混入させることとし、且つ、その際に、木質繊維板に成形するために必要な接着剤を2段階に分けて噴霧し、その間に水不溶性難燃薬剤を混合させる手法を採用している。
【0012】
より詳しくは、撹拌しながら木質繊維板に成形するために必要な接着剤の全量の一部、好ましくは10~90重量%を第一工程において木質繊維に噴霧することにより接着剤を木質繊維に満遍なく均一に付着させることができ、これにより得た接着剤付着木質繊維に対して撹拌しながら水不溶性難燃薬剤の全量を混合する第二工程を行うことにより水不溶性難燃薬剤を接着剤を介して木質繊維に満遍なく均一に付着させることができ、さらに、第三工程では撹拌しながら木質繊維板に成形するために必要な接着剤の全量の残部、好ましくは90~10重量%を噴霧することにより、木質繊維と接着剤と水不溶性難燃薬剤とが均一に混合されてなる混合物を得ることができるので、この混合物を第四工程で熱圧成形することにより水不溶性難燃薬剤が満遍なく均一に分布した木質繊維板を製造することができる。すなわち、長尺の木質繊維板であっても長さ方向に略均一の難燃性能を有する木質繊維板とすることができる。
【0013】
また、本発明によれば、木質繊維板に成形するために必要な接着剤の全量を一度に投入するのではなく、2段階に分け投入することとしているので、後述する試験結果からも明らかなように、成形不良や変形・破損を生じさせることなく、難燃薬剤が木質繊維板の全般に亘って均一に付着して難燃性が高められた木質繊維板を効率的に製造することができる。
【0014】
第一工程で木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の接着剤を噴霧し、第三工程で木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の接着剤を噴霧することが好ましく、これにより、前述の効果をより確実に実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による難燃性木質繊維板の製造工程を示す説明図である。
【
図2】実施例2における第三工程後の木質繊維に対する接着剤の付着状態を示す顕微鏡写真(倍率:150倍)である。
【
図3】
図2と同じ部分をさらに拡大して示す顕微鏡写真(倍率:300倍)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、成形に必要な接着剤の全量の一部、好ましくは必要量の10~90重量%を木質繊維に噴霧して接着剤を木質繊維に付着させる第一工程と、第一工程で得た混合物に難燃性を付与するに必要な所定量の水不溶性難燃薬剤(以下、単に「難燃薬剤」という。)を混入して難燃薬剤を接着剤を介して木質繊維に付着させる第二工程と、第二工程で得た混合物に前記必要量の残部、好ましくは必要量の90~10重量%の接着剤を噴霧して木質繊維と接着剤と難燃薬剤とからなる混合物を得る第三工程と、第三工程で得た混合物を熱圧成形する第四工程とを順次に行うことを特徴とする難燃性木質繊維板の製造方法である。
【0017】
より具体的に
図1を参照して説明すると、木質繊維10を用意し(a)、これをブレンダー11に投入して撹拌しながら(b)、スプレー12から接着剤13aを一次噴霧し(c)、次いで、薬剤投入装置14から粉状の水不溶性難燃薬剤15を混入する(d)。この時点で木質繊維10には既に接着剤13aが付着しているので、これを示すために、
図1(d)における木質繊維は符号10aを付して、付着前の木質繊維10(
図1(a),(b))より太い線で示されている(
図1(e)以降に示す木質繊維10b,10cも同じ)。
【0018】
次いで、一次噴霧の接着剤13aおよび水不溶性難燃薬剤15が付着した木質繊維10bに対してスプレー16(スプレー12と同じであっても良い)から接着剤13bを二次噴霧して(e)、一次噴霧の接着剤13a、水不溶性難燃薬剤15および二次噴霧の接着剤13bが付着した木質繊維10cを有する混合物を得る(f)。
図1(b)~(d)において矢印は木質繊維10,10aが撹拌されていることを示している。これにより得た混合物(
図1(f)を上下熱盤17,18間で熱圧する(g)ことにより、難燃性木質繊維板19を得る(h)。
【0019】
図1(a)~(h)に示す各工程のうち、
図1(c)が前記第一工程に相当し、
図1(d)が前記第二工程に相当し、
図1(e)が前記第三工程に相当し、
図1(g)が前記第四工程に相当する。
【0020】
木質繊維10としては、針葉樹または広葉樹の木材を蒸煮解繊して得られる木質繊維を用いることができ、建築廃材やパレット廃材を由来とする木質繊維や、パルプ、麻、亜麻などの植物繊維などであっても良い。
図1(c)および
図1(e)で噴霧する接着剤13a,13bとしては、ユリア樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、ユリアメラミン共縮合樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤、あるいは、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDIプレポリマー、TDIプレポリマーなどのイソシアネート樹脂接着剤を用いることができる。
【0021】
図1(d)で混入する難燃薬剤15としては、水不溶性の難燃薬剤として公知である水酸化金属系難燃薬剤(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど)を用いることができるほか、水溶性難燃薬剤(リン酸系、ホウ酸系、ハロゲン系など)の表面を水不溶化処理することにより水不溶性に変性させたものを用いても良い。なお、難燃薬剤15として水溶性のものを用いると、製造した木質繊維板19が湿気を吸収したときに、その水分で難燃薬剤15が木質繊維板19の表面に溶け出してしまい、見栄えが悪くなると共に表面平滑性が低下するだけでなく、難燃性も低下させてしまうので、難燃薬剤15としては水不溶性のものを用いる。
【0022】
以下に試験例を挙げて本発明の実施例について比較例と共に説明する。まず、試験1では、絶乾重量にして926gの木質繊維(複数樹種の広葉樹廃材から得た木質繊維を用いた)に、木質繊維板の成形に必要な量として274g(木質繊維の絶乾重量に対して約30%)の接着剤(ユリアメラミン系接着剤を用いた)と、難燃性能を向上させるために必要な量として303g(木質繊維の絶乾重量に対して約33%)の水不燃性難燃薬剤(水酸化アルミニウムを用いた)を混合して得た混合物を、温度180℃、面圧46kg/cm2、熱圧時間8分の条件で熱圧成形して木質繊維板を製造した。
【0023】
実施例1~3では、第一工程において、木質繊維を撹拌しながら、木質繊維板に成形するために必要な接着剤量の一部(全量に対して90%、50%、10%)を噴霧し、難燃薬剤を混合する第二工程を経て、第三工程において、接着剤および難燃薬剤混合後の木質繊維を撹拌しながら、接着剤の必要量の残部(全量に対して10%、50%、90%)を噴霧して混合物を得たが、比較例1では接着剤の必要量の全量を第一工程で噴霧し(第三工程なし)、比較例2では接着剤の必要量の全量を第三工程で噴霧した(第一工程なし)。
図1に示すように、第一工程ないし第三工程はブレンダー11内で実施した。
【0024】
このようにして得た各実施例および比較例の混合物を前記条件で熱圧成形して、成形不良の有無を評価した。この試験1における実施例1~3および比較例1,2における木質繊維、接着剤および難燃薬剤の混合条件および目視観察による成形不良の有無を表1に示す。
【0025】
【0026】
表1に示されるように、接着剤の必要量を第一工程と第三工程の2段階に分けて噴霧した実施例1~3では成形不良は生じなかったが、接着剤の必要量の全量を一度に噴霧した比較例1,2では成形不良となった。この理由は、次のように考えることができる。
【0027】
第一工程における接着剤の噴霧は、木質繊維全体に亘って満遍なく均一に接着剤を付着させることが目的であり、これを行うことにより、その後の第二工程で混入する難燃薬剤(粉体)を接着剤を介して木質繊維に満遍なく均一に付着させることができる。
【0028】
これに対し、第一工程を実施しなかった比較例2では、第二工程で難燃薬剤を投入しても、接着剤が付着されていない木質繊維に粉状の難燃薬剤が十分に付着せずに単に分散された状態となるにすぎない。このため、第三工程で必要量の全量の接着剤を噴霧しても、難燃薬剤が浮き上がってしまい、熱圧時に成形不良(いわゆるパンク)を生じた。また、難燃薬剤を混入する第二工程を実施した後にブレンダーの底を観察したところ、実施例1~3ではいずれも難燃薬剤が底に落下していなかったのに対し、比較例2ではブレンダーの底に多量の難燃薬剤が落下していたことが確認された。このことは、仮に成形が可能であったとしても、十分な量の難燃薬剤を木質繊維板に混入させることができず、難燃性能の向上効果が不十分であることを意味している。
【0029】
第三工程における接着剤の噴霧は、第一工程および第二工程を経て木質繊維に付着させた難燃薬剤の表面に接着剤を塗布するため、および、第一工程で噴霧した接着剤の不足量を補って木質繊維板に成形するために必要な接着剤を付与するために行う。実施例1~3によれば、第一工程および第二工程を経て、難燃薬剤が接着剤を介して木質繊維に満遍なく均一に付着された状態が得られているので、第三工程で残量の接着剤を噴霧することにより、難燃薬剤も接着剤も満遍なく木質繊維に均一に混合された混合物が得られ、成形性が良好になる。
図2および
図3は、実施例2の第三工程実施後の状態を示す顕微鏡写真であり、木質繊維の全体にわたって接着剤(粒状に見えるもの)が満遍なく均一に付着していることが分かる。
【0030】
これに対し、第一工程で成形に必要な量の全量の接着剤を噴霧した比較例1では、難燃薬剤の量に対して過剰な量の接着剤が木質繊維に付着することになるため、第二工程で難燃薬剤を投入したときに、難燃薬剤が所々で接着剤に付着して固まってしまい、木質繊維に対して満遍なく均一に難燃薬剤が付着した状態が得られない。また、木質繊維に付着した難燃薬剤の表面に接着剤が塗布されないので、難燃薬剤が木質繊維同士の間に絡み合って付着した状態を形成することができなくなり、熱圧したときに成形不良(亀裂、剥離など)が生じると共に、仮に成形が可能であったとしても、特に長さ方向に均一な難燃性能を有する木質繊維板を製造することができない。
【0031】
次に、第一工程で噴霧する接着剤量と第三工程で噴霧する接着剤量の好適な範囲を確認するために、試験2を行った。試験2では、第一工程における接着剤の噴霧量を27g(木質繊維の絶乾重量に対して約3%)に固定しつつ、第三工程における接着剤の噴霧量を27g、57g、84gおよび108g(木質繊維の絶乾重量に対してそれぞれ約3%、約6%、約9%および約12%)の4通りに変えたほかは、試験1と同様の条件で実施して、成形不良の有無を目視観察した。これらの条件および結果を表2に示す。
【0032】
【0033】
既述したように、第一工程における接着剤の噴霧は、木質繊維全体に亘って満遍なく均一に接着剤を付着させることが目的であり、木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の接着剤を噴霧することにより、木質繊維に接着剤が満遍なく均一に付着するので、次の第二工程で混入される難燃薬剤の全量を該接着剤を介して木質繊維に付着させることができ、成形不良を生じずに均一な難燃性能を有する木質繊維板を製造することができる。難燃薬剤を混入する第二工程を実施した後にブレンダーの底を観察したところ、実施例4~7ではいずれも難燃薬剤が底にほとんど落下していなかった。このことは、第一工程で噴霧した接着剤を介して、第二工程で混入した難燃薬剤の全量が木質繊維に付着したことを示している。なお、試験2では第一工程における接着剤の噴霧量を3%に固定して実施したが、3%とした実施例4~7で成形不良を生じないことが実証されているので、より多くの噴霧量としても同様の作用効果を発揮することは明らかである。
【0034】
第一工程を省略(すなわち第一工程における接着剤の噴霧量が0)して実施した比較例2(表1)の結果も踏まえて考察すると、第一工程における接着剤の噴霧量が3%未満であると、接着剤を木質繊維に満遍なく均一に付着させることができず、第二工程で混入した難燃薬剤の一部が木質繊維に付着することができずに撹拌によって舞い上がり、あるいはブレンダーの底に落下してしまうので、いわゆるパンクなどの成形不良を生じやすくなると共に、成形できたとしても全体に均一な難燃性能を有する木質繊維板を製造することが困難になる。
【0035】
既述したように、第三工程における接着剤の噴霧の一目的は、第一工程および第二工程を経て木質繊維に付着させた難燃薬剤の表面に接着剤を塗布することであり、この観点から、木質繊維の絶乾重量に対して3%以上の噴霧量とすることが好ましいことが表2の結果から実証された。
【0036】
第三工程を省略(すなわち第三工程における接着剤の噴霧量が0)して実施した比較例1(表1)の結果も踏まえて考察すると、第三工程における接着剤の噴霧量が3%未満であると、第一工程および第二工程を経て木質繊維に満遍なく均一に難燃薬剤を付着させることができたとしても、第三工程ですべての難燃薬剤の表面に接着剤を付着させることができず、難燃薬剤が木質繊維同士の間に絡み合って付着した状態を形成することができないため、亀裂や剥離などの成形不良の原因となる。
【0037】
第三工程における接着剤の噴霧量のもう一つの目的は、第一工程で噴霧した接着剤の不足量を補って木質繊維板に成形するために必要な接着剤を付与することであるから、3%以上であって、且つ、第一工程における接着剤の噴霧量との合計量が上記成形必要量となるように設定されるが、この合計量は木質繊維の絶乾重量に対して6~35%とすることが好ましい。この範囲であれば、成形不良を生じさせずに難燃性能を有する木質繊維板を製造することができる。接着剤の合計量が6%未満であると、接着剤が木質繊維の全体に行き渡ることが困難になり、木質繊維同士が接着されない部分が生じて、成形不良の原因となり得る。接着剤の合計量が35%を超えると、接着剤に含まれる水分量が過大となって、熱圧時の接着剤の硬化に長時間を要することになり、製造効率が低下する。また、接着剤に含まれる水分が熱圧時に高温高圧になって、圧縮された木質繊維内で水蒸気となって膨張し、亀裂や剥離などの成形不良が発生しやすくなる。
【0038】
以上に述べた試験結果および考察から、第一工程における接着剤の噴霧量は木質繊維の絶乾重量に対して3~32%であり、第三工程における接着剤の噴霧量は木質繊維の絶乾重量に対して3~32%であることが好ましい範囲であると考えられる。
【0039】
以上に本発明について図示実施形態に基いて詳述したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲の記載に基いて解釈される発明の範囲内において多種多様に変形ないし変更して実施可能である。
図1では、第一工程(c)、第二工程(d)および第三工程(e)を同じブレンダー11内で行っているが、異なるブレンダーを使用しても良く、また、木質繊維10またはこれに接着剤などが付着した状態の木質繊維10a,10bをダクトなどで風送する間にこれらの工程を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0040】
10 木質繊維
10a 接着剤(一部)が付着した木質繊維
10b 接着剤(一部)および難燃薬剤が付着した木質繊維
10c 接着剤(全量)および難燃薬剤が付着した木質繊維
11 ブレンダー
12 スプレー
13a 成形に必要な全量の一部の接着剤
13b 成形に必要な全量の残部の接着剤
14 薬剤投入装置
15 粉状の水不溶性難燃薬剤
16 スプレー
17 上熱盤
18 下熱盤
19 難燃性木質繊維板