(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】キャビテーションエロージョン試験方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20220930BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N3/32 F
(21)【出願番号】P 2018195802
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】志賀 元泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晴美
(72)【発明者】
【氏名】奥 達也
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和芳
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 純夫
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-331052(JP,A)
【文献】実開昭63-058736(JP,U)
【文献】特開昭60-169735(JP,A)
【文献】特開昭56-112639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
G01N 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験液中で試験片を振動させキャビテーションを発生させるキャビテーションエロージョン試験方法であって、
圧力容器の内部に挿入され磁歪振動素子の振動が伝達される振動ホーンに前記試験片を装着する試験片配置ステップと、
前記圧力容器内の高圧下で前記振動ホーン及び前記試験片を前記圧力容器に接触させずに磁歪振動によって振動させ、発生したキャビテーションにより前記試験片にエロージョンを生じさせる運転ステップと、
前記試験片への影響を調べる検査ステップと、
を含むことを特徴とするキャビテーションエロージョン試験方法。
【請求項2】
前記試験液は、常圧下で気化する物質で構成され、
前記運転ステップ及び前記検査ステップの前に行われ、前記圧力容器内を前記試験液の少なくとも一部が液状を維持する温度及び圧力に調整する調整ステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のキャビテーションエロージョン試験方法。
【請求項3】
前記試験液は、冷凍サイクルを構成する冷凍装置に用いられる冷媒で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャビテーションエロージョン試験方法。
【請求項4】
圧力容器と、
前記圧力容器の外部に設けられた磁歪振動素子と、
前記圧力容器の内部に挿入され前記磁歪振動素子の振動が伝達される振動ホーンと、
を備え、
試験片が装着された前記振動ホーンを前記圧力容器に接触させずに振動させるように構成されたことを特徴とするキャビテーションエロージョン試験装置。
【請求項5】
前記振動ホーンは、前記圧力容器の壁部を貫通して前記圧力容器内に挿入され、
前記磁歪振動素子と前記振動ホーンとの間に介装される振動伝達体を前記壁部に固定する固定部と、
前記振動伝達体による前記壁部の貫通部を封密可能なシール部と、
を備え、
前記振動伝達体は、振動の節部となる部位が前記壁部に固定されることを特徴とする請求項4に記載のキャビテーションエロージョン試験装置。
【請求項6】
前記固定部は、
前記振動伝達体の周囲に配置され、前記振動伝達体の外周に形成された鍔部を前記壁部とで挟むように配置される環状押え部と、
前記環状押え部を前記壁部に結合する結合具と、
を備え、
前記シール部は、前記鍔部と前記壁部との間に挿入される封密部材を含むことを特徴とする請求項5に記載のキャビテーションエロージョン試験装置。
【請求項7】
前記環状押え部は、半円形を有する一対の押え片で構成される2組の前記環状押え部で構成され、
前記2組の環状押え部は、互いに前記振動ホーンの軸方向に重ねて配置され、かつ、前記一対の押え片の当接部が前記振動伝達体の周方向に沿って異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項6に記載のキャビテーションエロージョン試験装置。
【請求項8】
前記封密部材はガスケット又はOリングで構成されることを特徴とする請求項6又は7に記載のキャビテーションエロージョン試験装置。
【請求項9】
前記圧力容器内の試験液の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサの検出値に応じて前記試験液の温度を調節する温度調節部と、
を備えることを特徴とする請求項4乃至8の何れか一項に記載のキャビテーションエロージョン試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試験片に対するキャビテーションエロージョンの影響を試験するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フロンに代表されるオゾン層を破壊する物質の製造、消費等を規制する動きが国際的に広がっている情勢を背景として、冷凍冷蔵分野では、環境負荷が小さい自然冷媒であるアンモニアやCO2等を用いた冷凍システムへの関心が高まっている。冷凍システムは冷媒の圧縮、凝縮、膨張、蒸発を繰り返すサイクルで構成され、膨張過程では膨張弁によって冷媒液に急激な圧力低下を発生させる。このような減圧機構を有する機器において、冷媒流量を調節する機構が損傷し、調節機構に不具合を生じる事例がある。これはアンモニアなどを冷媒として用いた場合に特に顕著に表れ、その発生原因はキャビテーションエロージョンであると推測されている。
【0003】
液中でのキャビテーションエロージョン試験は、既存の評価規格であるASTM規格G32-16で規定される磁歪振動装置を用いた振動試験法による評価試験がある。この評価試験は、ビーカに入った水などの試験液中にキャビテーションを発生させるための振動子を挿入する大気開放型の試験手法である。
また、特許文献1には、磁歪振動試験装置を用いてキャビテーションエロージョンの影響を試験することが開示されている。特許文献2には、磁歪振動子を用いてキャビテーションを発生させ、発生したキャビテーションによる加圧を加圧要素として付け加えた核融合の実験装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭53-28491号公報
【文献】特開平03-67196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アンモニアのように毒性や可燃性を有する試験液でキャビテーションエロージョン試験を行う場合、液体の蒸発による拡散が人体や周囲環境に及ぼす影響が懸念される。また、冷凍装置に用いられるアンモニア冷媒のように、試験液が常圧下で気化し高圧下でのみ液状を呈する高圧液化ガスの場合、飽和蒸気圧が大気圧より低いため、液化ガスが蒸発することで液中に気泡が発生してしまうため、上記のような大気開放型の装置では試験を実施できない。
【0006】
一実施形態は、キャビテーションを発生させる試験液が常圧下で気化する高圧液化ガスでもキャビテーションエロージョン試験を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)一実施形態に係るキャビテーションエロージョン試験方法は、
試験液中で試験片を振動させキャビテーションを発生させるキャビテーションエロージョン試験方法であって、
圧力容器の内部に挿入され磁歪振動素子の振動が伝達される振動ホーンに前記試験片を装着する試験片配置ステップと、
前記圧力容器内の高圧下で前記振動ホーン及び前記試験片を前記圧力容器に接触させずに磁歪振動によって振動させ、発生させたキャビテーションにより前記試験片にエロージョンを発生させる運転ステップと、
前記試験片への影響を調べる検査ステップと、
を含む。
【0008】
上記(1)の方法によれば、圧力容器の内部に上記振動ホーンを挿入し、該振動ホーンに試験片を装着して高圧下で試験を行うことができるので、試験液が高圧液化ガスであっても試験液が蒸発するのを抑制でき、液体状態を維持したまま試験を行うことができる。また、圧力容器内で振動ホーン及び試験片を圧力容器に接触させずに振動させるので、振動ホーン及び試験片の振動が阻害されず、キャビテーションを確実に発生させることができる。また、試験液がアンモニアのように毒性や可燃性を有する物質であっても、圧力容器内で行うので、これらの物質が周囲に飛散するのを防止できる。
【0009】
(2)一実施形態では、前記(1)の方法において、
前記試験液は、常圧下で気化する物質で構成され、
前記運転ステップ及び前記検査ステップの前に行われ、
前記圧力容器内を前記液体の少なくとも一部が液状を維持する温度及び圧力に調整する調整ステップを含む。
上記(2)の方法によれば、キャビテーションが発生する試験液が、例えば、NH3冷媒のように常圧下で気体となる高圧液化ガスであっても、圧力容器内の温度及び圧力を調整することで、試験液の少なくとも一部を液状に維持できるので、試験に支障をきたさない。
【0010】
(3)一実施形態では、前記(1)又は(2)の方法において、
前記試験液は、冷凍サイクルを構成する冷凍装置に用いられる冷媒で構成される。
上記(3)の方法によれば、試験液がアンモニアなどのように、冷凍サイクルを構成する冷凍装置に用いられる冷媒であり、常圧下で気化する物質であっても、圧力容器内の高圧下で試験を行うので、これら冷媒を液状に保ったまま試験を行うことができる。
【0011】
(4)一実施形態に係るキャビテーションエロージョン試験装置は、
圧力容器と、
前記圧力容器の外部に設けられた磁歪振動素子と、
前記圧力容器の内部に挿入され前記磁歪振動素子の振動が伝達される振動ホーンと、
を備え、
試験片が装着された前記振動ホーンを前記圧力容器に接触させずに振動させるように構成される。
上記(4)の構成によれば、圧力容器の内部に上記振動ホーンを挿入し、該振動ホーンに試験片を装着して高圧下で試験を行うので、試験液が高圧液化ガスであっても液体状態を維持して試験を行うことができる。また、試験液がアンモニアのように毒性や可燃性を有する物質であっても、圧力容器内で行うので、試験液が周囲に飛散するのを防止できる。さらに、圧力容器内で振動ホーン及び試験片を圧力容器に接触させずに振動させるので、振動ホーン及び試験片の振動が阻害されず、キャビテーションを確実に発生させることができる。
【0012】
(5)一実施形態では、前記(4)の構成において、
前記振動ホーンは、前記圧力容器の壁部を貫通して前記圧力容器内に挿入され、
前記磁歪振動素子と前記振動ホーンとの間に介装される振動伝達体を前記壁部に固定する固定部と、
前記振動伝達体による前記壁部の貫通部を封密可能なシール部と、
を備え、
前記振動伝達体は、振動の節部となる部位が前記壁部に固定される。
上記(5)の構成によれば、上記振動伝達体が圧力容器の壁部を貫通する貫通部(以下単に「貫通部」とも言う。)を上記シール部によって封密するため、圧力容器内の高圧状態を維持できると共に、圧力容器内の試験液が圧力容器外へ飛散するのを防止できる。また、上記振動伝達体は、振動の節部となる部位が圧力容器の壁部に固定されるので、キャビテーションを発生させるための振動ホーンの振動機能を保持しつつ、上記シール部のシール効果を保持できる。
【0013】
(6)一実施形態では、前記(5)の構成において、
前記固定部は、
前記振動伝達体の周囲に配置され、前記振動伝達体の外周に形成された鍔部を前記壁部とで挟むように配置される環状押え部と、
前記環状押え部を前記壁部に結合する結合具と、
を備え、
前記シール部は、前記鍔部と前記壁部との間に挿入される封密部材を含む。
上記(6)の構成によれば、上記固定部は、上記環状押え部が振動伝達体の外周に形成された鍔部を圧力容器の壁部と挟むように配置され、かつ該鍔部と壁部との間に上記封密部材が挿入されるので、貫通部のシール性能を高めることができる。また、振動伝達体は、上記鍔部を介して圧力容器の壁部に固定されるので、振動伝達体は振動を拘束されずに該壁部に固定される。
【0014】
(7)一実施形態では、前記(6)の構成において、
前記環状押え部は、半円形を有する一対の押え片で構成される2組の前記環状押え部で構成され、
前記2組の環状押え部は、互いに前記振動ホーンの軸方向に重ねて配置され、かつ、前記一対の押え片の当接部が前記振動伝達体の周方向に沿って異なる位置に配置されている。
上記(7)の構成によれば、環状押え部が、半円形を有する一対の押え片で構成される2組の環状押え部が重ねて配置され、該一対の押え片の当接部が周方向にずらした位置に配置されているので、貫通部のシール性能を高めることができる。
【0015】
(8)一実施形態では、前記(6)又は(7)の構成において、
前記封密部材はガスケット又はOリングで構成される。
上記(8)の構成によれば、封密部材はガスケット又はOリングで構成されるため、貫通部のシール性能を高めることができる。
【0016】
(9)一実施形態では、前記(4)~(8)の何れかの構成において、
前記圧力容器内の試験液の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサの検出値に応じて前記試験液の温度を調節する温度調節部と、
を備える。
上記(9)の構成によれば、上記温度調節部を備え、圧力容器の内部温度を所望の温度に調整することで、圧力容器内を試験に適した温度及び圧力に保持できる。
【発明の効果】
【0017】
幾つかの実施形態によれば、試験液として高圧液化ガスを用いたキャビテーションエロージョン試験が可能になると共に、試験液が毒性や可燃性を有する物質であっても、圧力容器外に拡散しないので、人体や周囲環境を害するおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態に係るキャビテーションエロージョン試験装置の縦断面図である。
【
図2】一実施形態に係る環状押え部の平面図である。
【
図3】一実施形態に係るキャビテーションエロージョン試験方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0020】
図1は、一実施形態に係る試験装置10を示す縦断面図である。試験装置10は、圧力容器12の外部に磁歪振動素子14が設けられ、磁歪振動素子14と一体に設けられ磁歪振動素子14の振動が伝達される振動ホーン16が圧力容器12の内部に挿入されている。
振動ホーン16の先端に試験片18が装着され、振動ホーン16及び試験片18は、圧力容器12の内部で圧力容器12の壁面に接触せずに振動するように構成されている。圧力容器12は気密構造を有し、試験中内部は高圧に維持可能であり、試験液として内部に封入された高圧液化ガスは液状を保ち、液面Lが形成される。試験片18は液面下に配置される。
【0021】
上記構成によれば、圧力容器12の内部に振動ホーン16を挿入し、振動ホーン16に試験片18を装着して高圧下で試験を行うことができるので、試験液が高圧液化ガスであっても液体状態を維持して試験を行うことができる。また、試験液がアンモニアのように毒性や可燃性を有する物質であっても、圧力容器12内で試験を行うので、これらの物質が周囲に飛散するのを防止できる。さらに、圧力容器12内で振動ホーン16及び試験片18は中空空間に配置され、圧力容器12の壁面に接触させずに振動するので、振動ホーン16及び試験片18の振動は阻害されない。これによって、キャビテーションを確実に発生させることができる。
【0022】
一実施形態では、圧力容器12は圧力配管用炭素鋼STPGで構成され、圧力容器12の内部は例えば1.0~2.0MPaGの圧力に保持される。即ち、冷凍機で使用する冷媒の実際の使用条件に合わせた圧力及び温度で試験を行うことができる。例えば、NH3冷媒の場合、凝縮温度40℃で1.6MPaで試験を行う。
一実施形態では、電源ユニット20から出力ケーブル22を介して磁歪振動素子14に電流を流し、磁歪振動素子14を振動させる。一実施形態では、磁歪振動素子14と振動ホーン16との間に振動伝達体24が介装される。磁歪振動素子14、振動伝達体24及び振動ホーン16は一体に配置され、磁歪振動素子14の振動は、振動伝達体24を介して振動ホーン16に伝達される。振動ホーン16及び振動伝達体24は棒状に形成され、振動伝達体24の先端に振動ホーン16が装着され、振動伝達体24と振動ホーン16とは同一軸線上に配置される。そして、振動ホーン16の先端に試験片18が装着される。例えば、振動ホーン16は振動伝達体24の先端に着脱可能にねじ込み接続され、試験片18は振動ホーン16の先端に着脱可能にねじ込み接続される。また、圧力容器12には安全弁56が設けられる。
【0023】
一実施形態では、振動ホーン16又は振動伝達体24は、圧力容器12の壁部を貫通して圧力容器12内に挿入され、振動伝達体24は固定部26によって圧力容器12の壁部に固定される。振動伝達体24が圧力容器12の壁部を貫通する貫通部Thは、シール部28によって封密される。また、振動伝達体24は、振動の節部となる部位が圧力容器12の壁部に固定される。
一実施形態では、貫通部Thには、磁歪振動素子14、振動伝達体24、振動ホーン16及び固定部26を支持するために、圧力容器12の壁部の一部として肉厚で高強度の支持部12aが設けられる。
図1に示す実施形態では、振動伝達体24が貫通部Thに配置され、シール部28は振動伝達体24に設けられている。
【0024】
この実施形態によれば、貫通部Thをシール部28によって封密するため、圧力容器12内の高圧状態を維持できると共に、圧力容器内の液体が気化して圧力容器外へ飛散するのを防止できる。
また、貫通部Thにおいて、振動伝達体24は、振動の節部となる部位が圧力容器12の壁部(支持部12a)に固定されるため、振動伝達体24が支持部12aに固定される部位は振動しない。従って、キャビテーションを発生させるための振動ホーン16の振動機能を保持しつつ、シール部28のシール効果を維持できる。
【0025】
一実施形態では、固定部26は、振動伝達体24の周囲に配置された環状押え部30と、環状押え部30を支持部12aに結合するボルト32(結合具)とで構成される。振動伝達体24の外周に円盤形状の鍔部34が形成され、環状押え部30は鍔部34を支持部12aとで挟むように配置され、シール部28において、鍔部34と支持部12aとの間に挿入される封密部材が挿入される。
この実施形態によれば、固定部26は、環状押え部30が振動伝達体24の外周に形成された鍔部34を圧力容器12の壁部(
図1では支持部12a)と挟むように配置され、かつ鍔部34と該壁部との間に上記封密部材が挿入されるので、貫通部Thのシール性能を高めることができる。また、振動伝達体24は、鍔部34を介して圧力容器12の壁部に固定されるので、振動伝達体24は振動を拘束されずに該壁部に固定される。さらに、上述のように、振動伝達体24が支持部12aに固定される部位は節部であって振動しないので、鍔部34に振動は伝わらない。従って、鍔部34の疲労破壊を抑制できる。
一実施形態では、
図1に示すように、振動伝達体24が貫通部Thに配置され、振動伝達体24の外周に鍔部34が形成される。
【0026】
一実施形態では、
図2に示すように、環状押え部30は、半円形を有する一対の押え片36a、36b及び38a、38bで構成される2組の環状押え部30(30a)及び30(30b)で構成され、これら2組の環状押え部は、互いに振動ホーン16の軸方向に重ねて配置され、かつ、これら一対の押え片の当接部40及び42が振動伝達体24の周方向に沿って異なる位置に配置されている。
図1に示す実施形態では、ボルト32で2組の環状押え部30(30a)及び30(30b)を支持部12aに結合し、ボルト33で2組の環状押え部30(30a)及び30(30b)同士を結合している。
この実施形態によれば、一対の押え片36a、36b及び38a、38bで構成される2組の環状押え部30(30a)及び30(30b)が重ねて配置され、かつ該一対の押え片の当接部40及び42が振動伝達体24の周方向にずらした位置に配置されているので、貫通部Thのシール性能を高めることができる。
【0027】
一実施形態では、シール部28を構成する上記封密部材はガスケット又はOリングで構成される。これによって、貫通部Thのシール性能を高めることができる。
【0028】
一実施形態では、圧力容器12内の高圧液化ガスの温度を検出する温度センサ44と、温度センサ44の検出値に応じて高圧液化ガスの温度を調節する温度調節部46と、を備える。これによって、圧力容器12の内部温度を所望の温度に調整することで、圧力容器内を試験に適した温度及び圧力に保持できる。
一実施形態では、温度調節部46は圧力容器内に導設された恒温水配管48を備える。恒温水配管48には温度調節部46で温度調節された恒温水が循環される。例えば、恒温水によって液化アンモニアの温度を25±0.1℃に制御する。試験片18の振動周波数及び振幅は例えば20kHz及び50μmに設定する。材料の耐エロージョン強さは、例えば、時間経過毎に試験片重量を分析用電子天秤で計測し、エロージョンに伴う重量減少速度を評価する。
【0029】
一実施形態では、
図1に示すように、圧力容器12の側面及び底面にサイトグラス50及び52を設けるようにする。サイトグラス50及び52からキャビテーションの発生状態を観察できる。また、サイトグラス50及び52にカメラを設置して撮像できる。
一実施形態では、圧力容器12を図示しない支持フレームで中空に浮かせた状態で支持すると、サイトグラス52の下方にカメラなどを設置して撮像するのが容易になる。
【0030】
図3は、一実施形態に係るキャビテーションエロージョン試験方法の工程図である。この試験は、
図1に示す圧力容器12が用いられ、高圧に保持された圧力容器12の内部で液状に保持された試験液中で試験片を振動させ、キャビテーションを発生させる。
まず、
図3に示す試験片配置ステップS10において、圧力容器12の内部に挿入され磁歪振動素子14の振動が伝達される振動ホーン16に試験片18を装着する。次に、圧力容器内の高圧下で振動ホーン16及び試験片18を圧力容器12に接触させずに磁歪振動によって振動させ、この運転によって試験液中にキャビテーションを発生させ試験片18にエロージョンを発生させる(運転ステップS14)。運転開始後、試験片18への影響を調べるため、質量や表面性状を検査する(検査ステップS16)。
【0031】
上記方法によれば、圧力容器12の内部に振動ホーン16を挿入し、振動ホーン16に試験片18を装着して高圧下で試験を行うことができるので、試験液として用いた高圧液化ガスが気化するのを抑制でき、液体状態を維持したまま試験を行うことができる。また、圧力容器内で振動ホーン16及び試験片18を圧力容器12の壁面に接触させずに振動させるので、振動ホーン16及び試験片18の振動が阻害されず、従って、キャビテーションを確実に発生させることができる。また、試験液がアンモニアのように毒性や可燃性を有する物質であっても、圧力容器内で行うので、これらの物質が周囲に飛散するのを防止できる。
【0032】
一実施形態では、試験液が常圧下で気化する高圧液化ガスであるとき、運転ステップS14の前工程として、圧力容器内を高圧液化ガスの少なくとも一部が液状を維持する温度及び圧力に調整する(調整ステップS12)。
この実施形態によれば、試験液が、例えばNH3冷媒のように常圧下で気相を呈する高圧液化ガスであっても、圧力容器内の温度及び圧力を調整することで、試験液の少なくとも一部を液状に維持できるので、試験に支障をきたさない。
【0033】
一実施形態では、試験液は、冷凍サイクルを構成する冷凍装置に用いられる冷媒で構成される。試験液がアンモニアなどのように、冷凍サイクルを構成する冷凍装置に用いられる冷媒であり、常圧下で気化する物質であっても、圧力容器内の高圧下で試験を行うので、これら冷媒を液状にしたまま試験を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
幾つかの実施形態によれば、常圧下で気化する高圧液化ガス中でキャビテーションを発生させ試験片にエロージョンを生じさせるキャビテーションエロージョン試験を可能にする。
【符号の説明】
【0035】
10 試験装置
12 圧力容器
12a 支持部
14 磁歪振動素子
16 振動ホーン
18 試験片
20 電源ユニット
22 出力ケーブル
24 振動伝達体
26 固定部
28 シール部
30(30a、30b) 環状押え部
32、33 ボルト(結合具)
34 鍔部
36a、36b、38a、38b 押え片
40、42 当接部
44 温度センサ
46 温度調節部
48 恒温水配管
50、52 サイトグラス
56 安全弁
L 液面
Th 貫通部