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特許7149806水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システム及びこれに使用する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システム及びこれに使用する装置
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20220930BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
F17C11/00 C
C01B3/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018201968
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020067171
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000225201
【氏名又は名称】那須電機鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075410
【弁理士】
【氏名又は名称】藤沢 則昭
(74)【代理人】
【識別番号】100135541
【弁理士】
【氏名又は名称】藤沢 昭太郎
(72)【発明者】
【氏名】徳山 榮基
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 一公
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真丈
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-252015(JP,A)
【文献】特開昭61-201996(JP,A)
【文献】特開平10-172584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
C01B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の大気温度環境下で外部熱源なしに水素を吸蔵・放出可能な水素吸蔵合金タンクを、密閉した筐体内に1個又は複数個収納したタンク収納機器において、
前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部に開閉自在な開口部を夫々設け、また、筐体内に送風機を設け、さらに、前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部が繋がった通気経路を筐体の外部に設け、
大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内である時は、前記各開口部を開放して前記送風機を稼働させて大気により水素吸蔵合金タンクの熱交換を行い、
大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲外である時は、前記各開口部を閉め、外部熱源の冷・温水又は燃料電池の排熱水を前記筐体内に導入して前記送風機により冷風又は温風に変え、当該冷風又は温風を筐体内及び前記通気経路を介して循環させて水素吸蔵合金タンクの熱交換を行うことを特徴とする、水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システム。
【請求項2】
大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内か一定範囲外かは筐体内の温度センサーにより測定し、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内であっても、前記水素吸蔵合金タンクの表面温度が急変したとき又は前記タンクの圧力が規定以上になったときは、前記各開口部を閉めて上記外部熱源又は燃料電池の排熱水による冷風又は温風を循環させることを特徴とする、請求項1に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システム。
【請求項3】
前記外部熱源の冷・温水又は燃料電池の排熱水を前記筐体内に導入して前記送風機により温風又は冷風に変える手段はラジエータ及び送風機であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システム。
【請求項4】
任意の大気温度環境下で外部熱源なしに水素を吸蔵・放出可能な水素吸蔵合金タンクを、密閉した筐体内に1個又は複数個相互に間隔を空けて収納したタンク収納機器において、
前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部に開閉自在な開口部を夫々設け、送風の上流側となる筐体の一端部内に、外部熱源による冷・温水又は燃料電池の排熱水を循環導入可能なラジエータ及び送風機を設け、さらに、前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部に孔を夫々穿ち、当該各孔に両端を夫々接続した通気経路を筐体の外部に設けたことを特徴とする、水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給装置。
【請求項5】
前記開口部は、前記タンクの長手方向に沿った筐体の、送風の下流側となる一端部の端面又は側面に設けられた第1開口部と、前記タンクの長手方向に沿った筐体の、送風の上流側となる他端部の端面又は側面に設けられた第2開口部とから成ることを特徴とする、請求項4に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給装置。
【請求項6】
前記筐体内に温度センサー、水素吸蔵合金タンクの表面温度センサー及びタンク圧力計を備え、これらの測定値により前記各開口部を自動的に開閉し、冷風又は温風供給を大気による冷風又は温風か、上記外部熱源又は燃料電池の排熱水による冷風又は温風かをコントロールする構成としたことを特徴とする、請求項4又は5に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、任意の大気温度環境下で外部熱源なしに水素を吸蔵、放出できる水素吸蔵合金タンクの水素吸蔵・放出を促進させる、水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システム及びこれに使用する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1及び2に示すように、水素吸蔵合金タンクの殆どは、冷・温水の循環により水素供給促進を行っている。特にタンク管群構成となるカードル構造又は収納機器での熱供給方法は全て冷・温水循環方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-208696号公報
【文献】特開2011-99511号公報
【0004】
この方式はタンクへの熱交換性に優れている反面、大気とは断熱構造となっていることから、合金の冷・温熱が内部に籠るため、外部熱源なしには水素吸蔵・放出を継続的に行うことは出来ない。また、タンク内に循環水配管の設置や、タンクを二重構造にするなど、タンクはその付帯設備の構造が複雑化する欠点もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、複数の水素吸蔵合金タンクを収納したタンク収納機器において、大気との熱交換により、外部熱源を極力利用しないで、継続的に水素の吸蔵・放出が行え、一方、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる大気温度を大きく逸脱するような環境下では、外部熱源や燃料電池の排熱水を利用する水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システム及びこれに使用する装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、任意の大気温度環境下で外部熱源なしに水素を吸蔵・放出可能な水素吸蔵合金タンクを、密閉した筐体内に1個又は複数収納したタンク収納機器において、前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部に開閉自在な開口部を夫々設け、また、筐体内に送風機を設け、さらに、前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部が繋がった通気経路を筐体の外部に設け、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内である時は、前記各開口部を開放して送風機を稼働させて大気により水素吸蔵合金タンクの熱交換を行い、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲外である時は、前記各開口部を閉め、外部熱源の冷・温水又は燃料電池の排熱水を前記筐体内に導入して前記送風機により冷風又は温風に変え、当該冷風又は温風を筐体内及び前記通気経路を介して循環させて水素吸蔵合金タンクの熱交換を行う、水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システムとした。
【0007】
請求項2の発明は、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内か一定範囲外かは筐体内の温度センサーにより測定し、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内であっても、前記水素吸蔵合金タンクの表面温度が急変したとき又は前記タンクの圧力が規定以上になったときは、前記各開口部を閉めて上記外部熱源又は燃料電池の排熱水による冷風又は温風を循環させる、請求項1に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システムとした。
【0008】
また、請求項3の発明は、前記外部熱源の冷・温水又は燃料電池の排熱水を前記筐体内に導入して前記送風機により温風又は冷風に変える手段はラジエータ及び送風機である、請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給システムとした。
【0009】
また、請求項4の発明は、任意の大気温度環境下で外部熱源なしに水素を吸蔵・放出可能な水素吸蔵合金タンクを、密閉した筐体内に1個又は複数個相互に間隔を空けて収納したタンク収納機器において、前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部に開閉自在な開口部を夫々設け、送風の上流側となる筐体の一端部内に、外部熱源による冷・温水又は燃料電池の排熱水を循環導入可能なラジエータ及び送風機を設け、さらに、前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部に孔を夫々穿ち、当該各孔に両端を夫々接続した通気経路を筐体の外部に設けた、水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給装置とした。
【0010】
請求項5の発明は、前記開口部は、前記タンクの長手方向に沿った筐体の、送風の下流側となる一端部の端面又は側面に設けられた第1開口部と、前記タンクの長手方向に沿った筐体の、送風の上流側となる他端部の端面又は側面に設けられた第2開口部とから成る、請求項4に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給装置とした。
【0011】
請求項6の発明は、前記筐体内に温度センサー、水素吸蔵合金タンクの表面温度センサー及びタンク圧力計を備え、これらの測定値により前記各開口部を自動的に開閉し、上記冷風又は温風供給を大気による冷風又は温風か、外部熱源又は燃料電池の排熱水による冷風又は温風かをコントロールする構成とした、請求項4又は5に記載の水素吸蔵合金タンク収納機器の冷風又は温風供給装置とした。
【発明の効果】
【0012】
請求項1又は4の各発明によれば、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度上下の一定範囲内である時は、前記各開口部を開放して送風機を稼働させて大気により水素吸蔵合金タンクの熱交換を行い、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲外である時は、前記各開口部を閉め、外部熱源の冷・温水又は燃料電池の排熱水を前記筐体内に導入して前記送風機により冷風又は温風に変え、当該冷風又は温風を筐体内及び前記通気経路を介して循環させて水素吸蔵合金タンクの熱交換を行うため、水素吸蔵合金タンクの熱交換を効率的、かつ低コストで行うことが出来る。
【0013】
また、請求項2又は6の発明によれば、大気の温度が、上記水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内であっても、必要以上の急速な水素の吸蔵や放出などで、上記水素吸蔵合金タンクの表面温度が急変した場合又はタンク圧力が規定以上になった場合は、前記各開口部を閉鎖して大気吹き流しモードから外部熱源等の冷風又は温風循環モードに切り替えることにより、水素の吸蔵・放出を安定して行うことが出来る。
【0014】
また、請求項3の発明によれば、ラジエータと送風機により容易に外部熱源等を筐体内で冷風又は温風に変えることが出来る。
【0015】
請求項5の発明によれば、第1開口部及び第2開口部を夫々前記タンクの長手方向に沿った筐体の両端部の端面又は側面に設ける構造となっているため、筐体の前方に、タンク配管の集管部であるヘッダーが設けられている場合においては、第1開口部を筐体の上下左右のいずれかの側面に設けることにより大気による冷風又は温風を筐体の上流側から下流側に吹き流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルの平面図である。
図2】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルの側面図である。
図3】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルの端面図である。
図4】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルの筐体の断面図である。
図5】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルに収納する水素吸蔵合金タンクの拡大側面図である。
図6】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルの大気吹き流しモードのイメージ側面図である。
図7】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルの冷風又は温風の循環モードのイメージ側面図である。
図8】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルにおいて、大気温度5°Cでシャッターを開放し、大気吹き流しモードでのこの発明の水素吸蔵特性を示すグラフ図である。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル内温度を示す。
図9】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルにおいて、大気温度25°Cでシャッターを開放し、大気吹き流しモードでのこの発明の水素吸蔵特性を示すグラフ図である。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル内温度を示す。
図10】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルにおいて、大気温度35°Cでシャッターを閉鎖し、外部熱源を用いて冷風を送風ファンの運転により供給し、筐体内及びダクト内を循環させた際のこの発明の水素吸蔵特性を示すグラフ図である。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル内温度を示す。
図11】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルにおいて、大気温度5°Cでシャッターを開放し、外部熱源を用いて送風ファンの運転により温風の供給を行った場合のこの発明の水素放出特性を示すグラフ図である。(a)図は水素吸蔵率の上昇と経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル内温度を示す。
図12】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルにおいて、大気温度5°Cでシャッターを閉鎖し、外部熱源を用いて送風ファンの運転により温風を供給し、筐体内及びダクト内を循環させた際のこの発明の水素放出特性を示すグラフ図である。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル内温度を示す。
図13】この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルにおいて、水素放出時にシャッターを開放し、外部熱源から温風を供給した場合の温風吹き流しモードとシャッターを閉鎖し、外部熱源から温風を供給した場合の温風循環モードにおける投入熱出力の比較を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態例1)
以下、この発明の実施の形態例1の水素吸蔵合金タンクカードルAを図に基づいて説明する。
【0018】
この水素吸蔵合金タンクカードルAは中空密閉式の筐体1から構成されている。そして、当該筐体1内に、多数の水素吸蔵合金タンク2が、相互に間隔を空けて収納されている。これらの多数の各水素吸蔵合金タンク2は任意の大気温度環境下で外部熱源なしに水素を吸蔵・放出可能なものである。
【0019】
上記水素吸蔵合金タンク1の長手方向に沿った筐体1の一端部には、タンク配管の集管部であるヘッダー3が設けられている。そして当該ヘッダー3がある筐体1の一端部の左右側板に夫々第1シャッター4が設けられている。また、上記水素吸蔵合金タンク1の長手方向に沿った筐体1の他端部の端面には第2シャッター5が設けられている。冷風又は温風は第2シャッター5側が上流となり、第1シャッター4側が下流となって流れる。また、第1シャッター4及び第2シャッター5は自動開閉式となっている。また、上記第1シャッター4は筐体1の一端部の左右側板に限らず、上下の側板に設けても良い。
【0020】
また、筐体1の上記他端部の内部であって、前記水素吸蔵合金タンク2の端部にはラジエータチャンバー6が設けられ、当該ラジエータチャンバー6内にラジエータ7及び送風ファン8が収納されている。このラジエータ7及び送風ファン8により、冷風又は温風が筐体1内に流れるようになっており、前記ラジエータ7内に、燃料電池の排熱水、又は外部機器として冷・温水機の循環水を供給可能になっている。
【0021】
また、当該筐体1の上記一端部と他端部、即ち送風の上流側と下流側とを、筐体1の外部でつなぐダクト9が設けられている。当該ダクト9は、筐体の長手方向両端部の上面に孔を開け、当該各孔に両端を接続したものである。また、このダクト9はカバー10で被われている。
【0022】
前記筐体1内は、図4に示すように、前記多数の水素吸蔵合金タンク2が三段のタンク支持材11によって分けて支持され、各段に3個の水素吸蔵合金タンク2が間隔を空けて並べられている。各タンク支持材11は、冷風又は温風の流れ性を向上させるため、台形断面の剛性平板から成り、前記各水素吸蔵合金タンク2の長手方向に間隔を空けて、長手方向に直角な方向に並べられている。これにより冷風又は温風の流れ面に対して、障害物の投影面積を低減している。
【0023】
また、筐体1の側板1aの内側には整流板12を設け、カードル骨組み縦材による渦の発生を抑えている。さらに、図5に示すように、前記各水素吸蔵合金タンク2の底面部に曲面状のキャップ13を取付け、タンク底面周辺の流れを整え、冷風又は温風の送風抵抗を抑えている。また、タンク2の外周には、数ミリ径のワイヤー14を、間隔を空けて巻き付け、当該タンク表面の境界層の厚さを低減させ、冷風又は温風の当該タンクへの供給効率を向上させている。
【0024】
また、図示は省略したが、筐体1内には、筐体1内の温度センサー、タンク表面温度センサー、タンク内の合金温度センサー及びタンク圧力計が設置されており、これらの測定値により冷風又は温風の供給をコントロールする制御コントローラが設けられている。当該制御コントローラは、具体的には、上記の測定値により前記第1シャッター4及び第2シャッター5の開閉を行うと共に、外部熱源の冷・温水又は燃料電池の排熱水の筐体1内への導入を制御したり、送風ファン8の稼働を制御する情報処理装置から構成されている。
【0025】
以下、この発明のシステムを説明する。
【0026】
水素吸蔵合金は吸蔵時に発熱反応し、放出時に吸熱反応となるため、よって水素吸蔵合金タンク2に充填されている水素吸蔵合金は、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度範囲の上限を上回るようなときの水素吸蔵は合金の発熱を大気に放出しづらくなり反応性が劣る。また、大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度範囲の下限を下回るようなときの水素放出は合金の吸熱に対して大気から吸収しづらくなり、やはり反応性が劣る。
【0027】
そこで、筐体1内の温度を上記温度センサーにより測定し、水素吸蔵合金タンク2に熱供給が必要かどうかを判断する。大気の温度が、水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲内である時、例えば、水素吸蔵合金タンク2が室温環境下で水素を吸蔵・放出できる場合、筐体1内の温度が20~30°Cの範囲内であれば、前記第1及び第2シャッター4、5を全開放して送風ファン8のみを稼働させて大気を筐体1内に呼び込み、図6に示すように、大気の吹き流し状態(モード)で各水素吸蔵合金タンク2の熱交換を行う。
【0028】
また、大気の温度が、上記水素吸蔵合金タンクが水素を吸蔵・放出できる温度の上下の一定範囲外である時、例えば、筐体1内の温度が20~30°Cの範囲外の場合に水素の吸蔵・放出運転をするときは、前記第1及び第2シャッター4、5を閉め、外部熱源の冷・温水又は燃料電池の排熱水を前記ラジエータ7内に循環させ、前記送風ファン8により冷風又は温風を筐体1内に流す。その際、冷風又は温風は、図7に示すように、筐体1内及び前記ダクト9を介して循環させて各水素吸蔵合金タンク2の熱交換を行う。
【0029】
また、以上の様に、筐体1内の温度を上記温度センサーにより測定し、水素吸蔵合金タンク2に熱供給が必要かどうかを判断するが、常時上記タンク表面温度センサーにより上記タンクの表面温度を測定しており、筐体1内の温度が上記20~30°Cの範囲内であっても、必要以上の急速な水素の吸蔵や放出などで、上記タンク2の表面温度が急変した場合は、大気吹き流しモードから熱源による冷風又は温風循環モードに切り替える。
【0030】
また、上記水素吸蔵合金は温度を下げると、水素の吸蔵圧力が低下する特徴がある。そこで、上記タンク圧量計の測定により、タンク圧力が規定以上になったら外部熱源による冷風循環モードにして、タンクを急冷することでタンク内圧力を低下させる。
【0031】
なお、万が一、冷風又は温風循環モードの際にタンク2から水素が漏洩すると、水素ガスはカードルの筐体1内に溜まり爆発限界内に入ってしまう恐れがある。そこで、筐体1内に水素センサーを設ければ、当該センサーにより水素漏洩を検知した時に大気吹き流しモードへ切り替えることで、筐体1内の水素ガス蓄積を防止することも可能となる。
【0032】
この様に、上記各センサーの測定値から冷風又は温風供給モードを制御コントローラにより自動的に切り替えることが、このシステムの基本運転パターンとなる。
【0033】
図8から図13は、この発明の水素吸蔵・放出特性を示したものである。なお、この実験で用いた水素吸蔵合金タンク2は、室温環境下で外部熱源なしに水素を吸蔵・放出可能なものである。
【0034】
図8は、大気温度5°Cにおいて、第1及び第2シャッター4、5を開放し、送風ファン8による運転のみ、即ち大気吹き流しモードでのこの発明の水素吸蔵特性を示す。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル(筐体1)内温度を示す。
【0035】
図9は、大気温度25°Cにおいて、第1及び第2シャッター4、5を開放し、送風ファン8による運転のみ、即ち大気吹き流しモードでのこの発明の水素吸蔵特性を示す。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル(筐体1)内温度を示す。
【0036】
図10は、大気温度35°Cにおいて、第1及び第2シャッター4、5を閉鎖し、外部熱源を用いて20°Cの冷風をラジエータ7及び送風ファン8の運転により供給し、筐体1内及びダクト9内を循環させた際のこの発明の水素吸蔵特性を示す。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル(筐体1)内温度を示す。
【0037】
水素吸蔵合金が発熱反応を起こす水素吸蔵時において、大気から熱交換し易い大気温度5°C及び25°Cについては、第1及び第2シャッター4、5を開口し、送風ファン8のみ可動した、大気吹き流しモードで、設計通りの水素吸蔵速度を保った。一方、大気からの熱交換が厳しい大気温度35°Cでは、外部熱源を用いて20°Cの冷風を供給し、第1及び第2シャッター4、5を閉口し、ダクト9を介して完全循環することで、他の温度環境と同等の水素吸蔵速度を保持できた。
【0038】
次に、水素吸蔵合金が吸熱反応を起こす水素放出時として、厳しい環境となる大気温度5°Cの条件において、開放方式と循環方式における水素放出性能を比較した。
【0039】
図11は、大気温度5°Cにおいて、第1及び第2シャッター4、5を開放し、外部熱源によりラジエータ7及び送風ファン8による運転をして20°Cの温風供給を行った場合のこの発明の水素放出特性を示す。(a)図は水素吸蔵率の上昇と経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル(筐体1)内温度を示す。
【0040】
また、図12は、大気温度5°Cにおいて、第1及び第2シャッター4、5を閉鎖し、外部熱源を用いて20°Cの温風をラジエータ7及び送風ファン8の運転により供給し、筐体1内及びダクト9内を循環させた際のこの発明の水素放出特性を示す。(a)図は水素吸蔵率が80%になるまでの経過時間を示し、(b)図はその際のタンク表面温度、合金温度及びカードル(筐体1)内温度を示す。
【0041】
上記開放方式では外部熱源により温風供給を行っても、循環方式に比べて明らかに水素放出速度が低下し、図11に示すように、全貯蔵量の35%しか放出することが出来なかった。一方、図12に示すように、循環方式は吸蔵時とほぼ変わらない速度で放出することが確認できた。また、その時の外部熱源供給量をみると、図13に示すように、放出性能の悪い開放状態の方が、循環方式に比べて約2.3倍ものエネルギーを投入している。このことから、外部熱源を投入する場合は、循環方式にすることで効率的に水素吸蔵合金タンクに熱を供給できることが分かった。
【0042】
なお、上記実施の形態例1の第1シャッター4及び第2シャッター5は、自動開閉式となっており、筐体1内の温度センサー、タンク表面温度センサー及びタンク圧力計を一定時間ごとに計測し、これらの値が前記制御コントローラに送り込まれ、当該制御コントローラにより前記第1シャッター4及び第2シャッター5を自動的に開閉し、また、大気吹き流しモードか又は外部熱源等による冷風又は温風循環モードに自動的に切り替える方式となっているが、これらのコントロールを手動で行ってもよい。
【0043】
上記実施の形態例1では、水素吸蔵合金タンクカードルで説明したが、この発明はカードルに限らず、広く水素吸蔵合金タンク収納機器を対象とする。また、上記実施の形態例1では多数の水素吸蔵合金タンク2を筐体1に収納しているが、この発明は筐体1に1個の水素吸蔵合金タンク2を収納する場合も含まれる。
【0044】
また、上記実施の形態例1では、筐体1内のカードル骨組み縦材に整流板12を設け、また、水素吸蔵合金タンク2の底面部にキャップ13、また、外周にワイヤー14を夫々設けたが、これらはこの発明の必須要件ではない。また、上記実施の形態例1では、タンク2内に合金温度センサーを設けたが、この合金温度センサーはこの発明の必須要件ではない。
【0045】
さらに、上記実施の形態例1では、筐体1に第1シャッター4及び第2シャッター5を設けたが、これらに限らず、広く開口部としても良い。また、これらの第1開口部及び第2開口部の位置は、上記実施の形態例1に限らず、タンクの長手方向に沿った筐体の両端部の端面又は上下左右のいずれかの側面に設けても良い。また、送風ファン8はこれに限らず広く送風機であればよい。また、ダクト9に関してもこれに限らず、タンクの長手方向に沿った筐体の両端部が繋がった通気経路としても良い。
【符号の説明】
【0046】
A 水素吸蔵合金タンクカードル
1 筐体 1a 側板
2 水素吸蔵合金タンク 3 ヘッダー
4 第1自動開閉式シャッター 5 第2自動開閉式シャッター
6 ラジエータチャンバー 7 ラジエータ
8 送風ファン 9 ダクト
10 カバー 11 支持材
12 整流板 13 キャップ
14 ワイヤー
図1
図2
図3
図4
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図13