(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】導波管スロットアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/10 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
H01Q13/10
(21)【出願番号】P 2018220670
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】平野 聡
(72)【発明者】
【氏名】森 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】青木 生朗
(72)【発明者】
【氏名】安達 拓也
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】ULFAH et al.,Bandwidth Enhancement of Substrate Integrated Waveguide Cavity-Backed Slot Antenna,The 3rd International Conference on Wireless and Telematics 2017,2017年07月27日,pages 90-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/10
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、前記誘電体基板の下面に形成された第1導体層と、前記誘電体基板の上面に形成され、一又は複数のスロットが設けられる第2導体層と、前記第1導体層と前記第2導体層との間を電気的に接続し、信号伝送方向となる第1の方向に延在する1対の側壁部と、により構成された導波管を備える導波管スロットアンテナであって、
少なくとも前記誘電体基板の下面及び上面の間を貫通して形成され、前記導波管に入力信号を給電する給電部を備え、
前記
一又は複数のスロットは、前記第1の方向に沿って所定のスロット長を有し、
前記一又は複数のスロットに含まれるスロットであり、前記第2導体層に垂直な第2の方向から見た平面視で、前記給電部が前記第1の方向に沿って前記スロット長の範囲を逸脱せず、かつ前記給電部が自身と重なる位置に配置された第1スロットを有する、
ことを特徴とする導波管スロットアンテナ。
【請求項2】
前記給電部は、
前記第1導体層と同一平面内に配置され、前記第1導体層と接触しない給電端子と、
前記第2導体層と同一平面内に配置され、前記第2導体層と接触しない上端部と、
下端が前記給電端子に接続され、上端が前記上端部に接続される給電用ビア導体と、
を含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項3】
前記第1導体層と前記第2導体層との間を電気的に接続し、前記導波管のうち前記第1の方向に直交する少なくとも一方の短絡面となる短絡壁部を更に備え、
前記短絡壁部と前記給電部との間の前記第1の方向に沿った距離は、前記導波管の管内波長の1/4倍に相当する、
ことを特徴とする請求項1に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項4】
前記1対の側壁部及び前記短絡壁部のそれぞれは、前記第1導体層と前記第2導体層との間をそれぞれ接続する複数のビア導体からなることを特徴とする請求項3に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項5】
前記第2の方向から見た平面視で、前記一又は複数のスロットは、前記第1及び第2の方向に直交する第3の方向における前記1対の側壁部の間の中心位置から偏移した位置に配列されることを特徴とする請求項1に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項6】
前記一又は複数のスロットは、前記第1スロットのみを含むことを特徴とする請求項5に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項7】
前記一又は複数のスロットは、前記第1スロット以外のスロットを含み、前記一又は複数のスロットのうち隣接するスロット同士は、前記中心位置を挟んで前記第3の方向に対称的な位置に配列されることを特徴とする請求項5に記載の導波管スロットアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体基板を用いて構成した導波管に一又は複数のスロットを設けた導波管スロットアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ波帯やミリ波帯の高周波信号を用いた無線通信において、導波管に複数のスロットを形成し、給電部から給電された高周波信号を導波管に伝搬させて複数のスロットから電磁波として放射する導波管スロットアンテナが知られている。近年では、導波管スロットアンテナの小型軽量化や加工の容易性に鑑み、誘電体基板を取り囲むように上下の導体層や側面のビア導体群を形成した導波管を構成し、導体層の一部に複数のスロットを設けた構造を有する導波管スロットアンテナが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、このような構造の導波管スロットアンテナに関し、導波管の信号伝送方向に直交する短絡面となる短絡壁部を設けた構造が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に開示される短絡壁部を設けた導波管スロットアンテナを構成する場合、積層基板の高さ方向から見て給電部とスロットが重ならないように配置し、かつ、スロットから遠方側の短絡壁部の位置から給電部の位置までの距離が管内波長の1/4倍となるように配置することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-051331号公報
【文献】特開2005-051330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導波管スロットアンテナを小型化するには、信号伝送方向に沿った長さを極力短くする必要がある。しかし、上記従来の構造において、導波管内の定在波の周期性から給電部を短絡壁部に接近させることは困難であるし、給電部とスロットを接近させることは互いの干渉により特性上の問題が生じる。よって、上記導波管スロットアンテナの構造によれば、短絡壁部と給電部とスロットとを離して配置せざるを得ず、導波管スロットアンテナの信号伝送方向に沿った長さが長くなることは避けられない。これに加えて、給電部の上端部と誘電体基板に形成された導体層との間に発生する容量が特性に影響を与える懸念もある。このように、従来の導波管スロットアンテナの構造によれば、良好な特性を保ちつつ、導波管スロットアンテナの小型化を図るには限界があるという課題があった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、給電部の構造と配置に基づいて、良好な特性を保ちつつ小型化に適した導波管スロットアンテナを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の導波管スロットアンテナは、誘電体基板(10)と、前記誘電体基板の下面に形成された第1導体層(11)と、前記誘電体基板の上面に形成され、一又は複数のスロット(14)が設けられる第2導体層(12)と、前記第1導体層と前記第2導体層との間を電気的に接続し、信号伝送方向となる第1の方向(X)に延在する1対の側壁部(W1、W2)とにより構成された導波管を備えて構成され、少なくとも前記誘電体基板の下面及び上面の間を貫通して形成され、前記導波管に入力信号を給電する給電部(15)を備え、前記一又は複数のスロットは、前記第1の方向に沿って所定のスロット長(L)を有し、前記一又は複数のスロットに含まれるスロットであり、前記第2導体層に垂直な第2の方向(Z)から見た平面視で、前記給電部が前記第1の方向に沿って前記スロット長の範囲を逸脱せず、かつ前記給電部が自身と重なる位置に配置された第1スロット(14a)を有することを特徴としている。
【0007】
本発明の導波管スロットアンテナによれば、導波管を構成する誘電体基板の下面と上面とを貫通する給電部を形成し、この給電部を、第2の方向から見た平面視で、第1スロットと重なる位置に形成し、かつ第1スロットのスロット長を逸脱しないように配置したので、給電部とスロットとを第1の方向で離して配置した従来の構造に比べ、主に導波管スロットアンテナの第1の方向の寸法を格段に縮小することができる。この場合、第1スロットと給電部の上端部は一体的な形状を有する1つのアンテナとして作用するので、互いの干渉によるアンテナ特性への影響を抑制することができる。また、給電部が第2導体層と所定の間隔で対向しない構造となり、給電部と第2導体層との間の容量成分を低減できるので、高周波特性が向上する。
【0008】
本発明の給電部は、第1導体層と同一平面内に配置されて第1導体層と接触しない給電端子(15a)と、第2導体層と同一平面内に配置されて第2導体層と接触しない上端部(15b)と、下端が給電端子に接続され上端が上端部に接続される給電用ビア導体(15c)とを含んで構成することができる。このような構造により、給電部の上端部が第2導体層と同一平面内に配置されるので、特に上端部と第2導体層との間の容量成分を格段に低減するとともに、給電用ビア導体の径に応じてインピーダンス整合を適切に調整可能となる。
【0009】
本発明は、更に、第1導体層と第2導体層との間を電気的に接続し、導波管のうち第1の方向に直交する少なくとも一方の短絡面となる短絡壁部(W3)を設け、短絡壁部と給電部との間の第1の方向に沿った距離が導波管の管内波長の1/4倍に相当するように構成してもよい。これにより、導波管内の定在波に関し、電界のゼロ点を短絡壁部の位置に一致させ、電界のピークを給電部の位置に一致させることができる。この場合、1対の側壁部及び短絡壁部のそれぞれは、第1導体層と第2導体層との間をそれぞれ接続する複数のビア導体で構成することができる。これにより、誘電体基板を作製する際に積層技術を適用する場合、導波管の側壁部及び短絡壁部を所望の形状で容易に形成することができる。
【0010】
本発明において、第2の方向から見た平面視で、一又は複数のスロットは第1及び第2の方向に直交する第3の方向における1対の側壁部の間の中心位置から偏移した位置に配列してもよい。これにより、主に導波管内の磁界分布に対応して、各々のスロットを最適な位置に配置することができる。この場合、一又は複数のスロットは第1スロットのみを含んでいてもよい。あるいは、一又は複数のスロットは第1スロット以外のスロットを含み、一又は複数のスロットのうち隣接するスロット同士が、第3の方向の中心位置を挟んで第3の方向に対称的な位置に配列してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘電体基板の下面と上面とを貫通する給電部を平面視で第1スロットに重なるように配置したので、導波管スロットアンテナの小型化を実現することができる。また、第1の方向に給電部が第1スロットのスロット長の範囲を逸脱しないことを前提に、給電部と第1スロットとが互いに干渉することなく一体的なアンテナとして作用し、給電部と第2導体層との間の容量成分も低減できるので、導波管スロットアンテナの良好な特性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用した一実施例に係る導波管スロットアンテナの構造例について示す図であり、
図1(A)は導波管スロットアンテナを上方から見た上面図であり、
図1(B)は
図1(A)の導波管スロットアンテナのA-A断面における断面図であり、
図1(C)は
図1(A)の導波管スロットアンテナを下方から見た下面図である。
【
図2】本発明の効果を説明するための比較例を示す図であり、
図2(A)は
図1(A)に対応する上面図であり、
図2(B)は
図1(B)に対応する断面図であり、
図2(C)は
図1(C)に対応する下面図である。
【
図3】アンテナ特性の面から好ましくない給電部15の第1の配置例を示す図である。
【
図4】アンテナ特性の面から好ましくない給電部15の第2の配置例を示す図である。
【
図5】給電部15の位置を変更した第1の変形例を示す図である。
【
図6】スロット14の個数を変更した第2の変形例を示す図である。
【
図7】本実施形態の導波管スロットアンテナの作製方法の概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明の技術思想を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0014】
まず、
図1を用いて、本発明を適用した一実施例に係る導波管スロットアンテナの構造について説明する。
図1(A)は本実施形態の導波管スロットアンテナを上方から見た上面図であり、
図1(B)は
図1(A)の導波管スロットアンテナのA-A断面における断面図であり、
図1(C)は
図1(A)の導波管スロットアンテナを下方から見た下面図である。なお、
図1においては、説明の便宜のため、互いに直交するX方向(本発明の第1の方向)、Y方向(本発明の第3の方向)、Z方向(本発明の第2の方向)をそれぞれ矢印にて示している。
【0015】
本実施形態の導波管スロットアンテナは、セラミック等の誘電体材料からなる誘電体基板10と、誘電体基板10の下面に形成された導電材料からなる導体層11(本発明の第1導体層)と、誘電体基板10の上面に形成された導電材料からなる導体層12(本発明の第2導体層)と、上下の導体層11、12の間を接続する複数のビア導体13と、上面の導体層12に形成された複数のスロット14(14a、14b)と、誘電体基板10の上面と下面の間を貫通して形成された給電部15とを備えている。なお、
図1(A)では、複数のビア導体13を導体層12側から透視した状態を示している。
【0016】
誘電体基板10は、X方向を長尺方向とする直方体の外形形状を有し、一般には複数の誘電体層を積層して形成される。誘電体基板10の周囲のうち、上下(Z方向の両側)は前述の1対の導体層11、12で覆われ、4つの側面(X方向及びY方向のそれぞれの両側)に沿って前述の複数のビア導体13が配列されている。このような構造により、誘電体基板10は、1対の導体層11、12及び複数のビア導体13からなる金属部材により取り囲まれた導波管として機能する。この導波管は、X方向を信号伝送方向として、例えば、上下面をH面とするTE10モードが主モードとして伝搬する。
【0017】
複数のビア導体13は、それぞれ誘電体基板10を貫く複数の貫通孔に導電材料を充填した複数の柱状導体であり、隣接するビア導体13の間隔が導波管の遮断波長の半分以下になるように設定されている。複数のビア導体13の各々は、下端が導体層11と接続され、上端が導体層12と接続され、その柱状導体の側面が外部に露出することなく誘電体基板10で覆われている。
図1(A)に示すように、複数のビア導体13は、Z方向から見た平面視で、X方向に2列で延在する1対の側壁部W1、W2と、Y方向に2列で延在する1対の短絡壁部W3、W4とに区分される。すなわち、誘電体基板10からなる導波管のうち、1対の側壁部W1、W2は両側のXZ平面の側面を構成し、1対の短絡壁部W3、W4は、信号伝送方向であるX方向に垂直なYZ平面の短絡面を構成する。
【0018】
なお、1対の側壁部W1、W2と1対の短絡壁部W3、W4は、
図1に示す複数のビア導体13を用いて構成する場合には限られず、Z方向から見た平面視で、誘電体基板10の四辺を取り囲むベタ状の導体壁を用いて構成してもよい。また、本実施形態の導波管スロットアンテナを他の導波管や機器に接続する場合を想定し、1対の短絡壁部W3、W4のうち、いずれか一方又は両方が省略されている構造であっても本発明の適用が可能である。
【0019】
複数のスロット14は、導体層12においてX方向に沿って所定の間隔で配列されている。本実施形態では、
図1(A)の右側から順に2個のスロット14a、14bを設ける場合を示す。Z方向から見た平面視で、各々のスロット14a、14bは、X方向の所定のスロット長LとY方向の所定の幅とを有する矩形の形状を有する。なお、一方のスロット14aに重なる位置に給電部15が設けられているが、この構造については後述する。
図1(B)からわかるように、2個のスロット14の位置では、導体層12が開口されており下側の誘電体基板10が部分的に露出している。また、
図1(A)に示すように、スロット14a、14bは、1対の側壁部W1、W2の間のY方向の中心位置から互いに対称的な位置に偏移した位置に配置されている。本実施形態において、2個のスロット14のスロット長L、間隔、Y方向の偏移量については、導波管内の電界及び磁界の分布に応じてアンテナの特性を向上させるように適切に設定される。
【0020】
給電部15は、
図1(B)に示すように、下面の導体層11と同一平面内に配置される給電端子15aと、上面の導体層12と同一平面内に配置される上端部15bと、これらの給電端子15aと上端部15bとを電気的に接続する給電用ビア導体15cとにより構成される。給電端子15a及び上端部15bは、導体層11、12と同じ導電材料から形成されるが、導体層11、12とは接触していない。よって、Z方向から見た平面視で、給電端子15a及び上端部15bの周囲には、それぞれリング状の抜きパターンが形成されている。このように、給電部15は誘電体基板10の下面及び上面の間を貫通する構造を有し、外部からの入力信号が給電端子15aを介してビア導体15c及び上端部15bに順次供給されて前述の導波管内を伝送される。給電用ビア導体15cは円柱状に形成されるが、その径は給電部15のインピーダンス整合を最適化するように適切に設定される。
【0021】
前述したように、Z方向から見た平面視で、給電部15が部分的に右側のスロット14aと重なる位置に配置されている。すなわち、給電部15及びスロット14aが重なる領域は、スロット14aの矩形の基本形状のうち、長辺の一部が半円状に突出する形状を有する。また、給電部15の中心位置と右側の短絡壁部W3との間のX方向に沿った距離は、導波管の管内波長の1/4倍に設定される。これは、導波管内のX方向に発生する定在波のうち、電界のピークを給電部15の位置に一致させ、電界のゼロ点を短絡壁部W3の位置に一致させるためである。以上のような給電部15の構造及び配置により、本実施形態の導波管スロットアンテナを小型化する効果が得られるとともに、給電部15と導体層12との間に発生する容量成分を低減する効果が得られる。以下、これらの効果について具体的に説明する。
【0022】
図2は、本発明の効果を説明するための比較例であって、従来の構造及び配置を有する給電部20を設けた導波管のスロットアンテナの構造を示している。
図2(A)は
図1(A)に対応する上面図であり、
図2(B)は
図1(B)に対応する断面図(
図2(A)のB-B断面)であり、
図2(C)は
図1(C)に対応する下面図である。
図2の構造においては、本実施形態の給電部15(
図1)とは構造及び配置が異なる給電部20が設けられている。また、
図2のうちの誘電体基板10aは、給電部20の配置に応じて、本実施形態の誘電体基板10よりもX方向のサイズが長くなっている。それ以外の構造については、
図1と共通であるため、説明を省略する。
【0023】
図2においては、Z方向から見た平面視で、給電部20は2個のスロット14と重ならない位置に配置されている。これは、主に2個のスロット14(14a、14b)と給電部20との間の電磁波の干渉を抑制するための配置である。一方、誘電体基板10a内における給電部20の中心位置と左側の短絡壁部W4との間のX方向に沿った距離は、導波管の管内波長の1/4倍に設定される。これは、導波管内のX方向に発生する定在波のうち、電界のピークを給電部20の位置に一致させ、電界のゼロ点を短絡壁部W4の位置に一致させるためである。このような給電部20の配置により、
図2の誘電体基板10aのX方向の長さは、
図1の誘電体基板10に比べて2倍以上必要になる。
【0024】
また、
図2の給電部20は、下面の導体層11と同一平面内に配置される給電端子20aと、誘電体基板10aの内層に形成された上端部20bと、これらの給電端子20aと上端部20bとを電気的に接続する給電用ビア導体20cとにより構成される。
図2の給電部20の構造が
図1の給電部15と顕著に異なるのは、給電部20が誘電体基板10aの上面と下面の間を貫通しておらず、Z方向で上端部20bが
図1の上端部15bよりも低い位置に配置される点である。そして、上端部20bの高さの違いから、
図2の給電用ビア導体20cのZ方向の高さは、
図1の給電用ビア導体15cに比べて短くなっている。ただし、給電端子20aのX方向の長さは、
図1の給電端子15aに比べて長くなっている。
【0025】
本実施形態の給電部15の構造及び配置は、誘電体基板10のサイズを小さくするのに有効であるが、前提として、給電部15と一方のスロット14aとが重なる配置によるアンテナ特性への影響を考慮する必要がある。
図3は、アンテナ特性の面から好ましくない給電部15の第1の配置例を示している。第1の配置例では、給電部15のX方向の位置を
図1と同様に保ったまま、給電部15のY方向の位置はスロット14aとは重ならないように離して配置されている。第1の配置例では、給電部15がスロット14aの近傍の別体のアンテナとして機能し、X方向が同位置にある疑似的な2個のアンテナが互いに干渉することでスロット14aのアンテナ特性を劣化させる恐れがある。これに対し、本実施形態の給電部15の配置によれば、スロット14aの矩形の基本形状に給電部15aの形状が重なる一体的なアンテナとして作用し、前述の互いの干渉は抑制することができる。
【0026】
また
図4は、アンテナ特性の面から好ましくない給電部15の第2の配置例を示している。第2の配置例では、給電部15の位置がX方向に沿ったスロット14aのスロット長Lの範囲を逸脱している。よって、スロット14aの矩形の基本形状に給電部15aの形状が重なる一体的なスロットは、スロット長Lよりも拡張したスロット長を有することになる。一般に、導波管スロットアンテナの共振周波数は、スロット14のスロット長に依存するので、第2の配置例における給電部15の配置が
図1の構造を有する導波管スロットアンテナの共振周波数に影響を及ぼすことは避けられない。これに対し、本実施形態の給電部15の配置によれば、X方向に沿ったスロット14aのスロット長Lの範囲を逸脱しないため、前述のような共振周波数に与える影響を避けることができる。ここで、スロット14aのスロット長Lの範囲は、矩形のスロット14aを画定するX方向に沿って延びる1対の長辺によって挟まれた領域のことを意味する。
【0027】
一方、本実施形態の給電部15の容量成分に着目すると、上端部15bが導体層12と同一平面内に配置されるので、上端部15bと導体層12の間の容量は小さくなる。これに対し、従来構造の
図2の給電部20は、内層の上端部20bがZ方向に沿って上下の導体層11、12と比較的近い距離でZ方向に対向している。しかも、上端部20bと導体層11、12との間には、誘電率が高い誘電体基板10aが介在している。それぞれの給電部15、20に関しては、給電端子15a、20aや給電用ビア導体15c、20cの容量成分も存在するが、特に上端部20bのZ方向の位置の相違の影響が大きいため、
図2の給電部20は本実施形態の給電部15に比べて容量成分が格段に大きくなる。その結果、本実施形態の給電部15は、
図2の給電部20に比べて容量成分を低減することで、高周波特性の向上が可能となる。
【0028】
以上のように、本発明を適用した導波管スロットアンテナは、従来構造とは異なる給電部15の構造及び配置を採用することで小型化の効果を実現しながら、良好な特性を保つことができる。
図1と
図2を対比すれば明らかなように、本実施形態の導波管スロットアンテナのX方向のサイズは、主にスロット14の個数と配置に依存し、給電部15を設けることによるX方向のサイズの拡大はない。一方、従来構造の
図2の導波管スロットアンテナのX方向のサイズは、スロット14の個数と配置に加えて、給電部20を設けることによりX方向に沿って余分なサイズが必要となる。例えば、
図1と
図2を対比すると、本発明の適用により、導波管スロットアンテナのX方向のサイズが従来構造に比べて概ね半分以下になることがわかる。
【0029】
本発明を適用した導波管スロットアンテナは、
図1の構成には限定されず、本発明の効果を奏することを前提に、多様な変形例がある。
図5は、給電部15の位置を変更した第1の変形例であり、
図1(A)に対応する上面図を示している。すなわち、Z方向から見た平面視で、
図1(A)の場合は給電部15の一部がスロット14aに重なる配置であるのに対し、第1の変形例の場合は給電部15の全体がスロット14aに重なる配置となっている。換言すれば、Z方向から見た平面視で、給電部15の円形の領域が、スロット14aの矩形の領域に内包されている。なお、
図5の給電部15のZ方向の構造とX方向の位置については、
図1と共通である。第1の変形例では給電部15を設けてもスロット14a自体の基本形状は保たれる。また、導波管スロットアンテナの小型化や良好な特性などの効果については、第1の変形例を採用しても前述と同様である。
【0030】
また
図6は、スロット14の個数を変更した第2の変形例であり、
図1(A)に対応する上面図を示している。
図6から明らかなように、導体層12には1個のスロット14aのみが配置されている。
図6におけるスロット14aに重なる給電部15の配置については、
図1(A)と共通である。第2の変形例を採用する場合は、複数のスロット14を設ける場合に比べて導波管スロットアンテナの放射レベルは小さくなるが、導波管スロットアンテナのX方向のサイズを最も縮小することができるので、小型化に最も適した構成である。
【0031】
なお、導波管スロットアンテナとして機能する限り、スロット14の個数は、1個又は2個には制約されない。例えば、3個以上の多数のスロット14を配列する場合であっても、本発明を適用することで、従来の構造で同数のスロット14が設けられる場合に比べて、導波管スロットアンテナの小型化に効果が得られる。また、本実施形態では、それぞれのスロット14が同一のスロット長Lを有する場合を説明したが、複数のスロット14が互いに異なるスロット長を有していてもよい。
【0032】
次に、本実施形態の導波管スロットアンテナの作製方法の概要について、
図7を参照しつつ説明する。まず、誘電体基板10を構成する複数の誘電体層として、例えば、ドクターブレード法により形成した低温焼成用の複数のセラミックグリーンシート30を用意する。そして、
図7(A)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート30の所定位置に打ち抜き加工を施して、複数のビアホール31を開口する。なお、各セラミックグリーンシート30における各ビアホール31の位置及び個数は、導波管の1対の側面及び1対の短絡面となる複数のビア導体13の配置と、給電用ビア導体15cの配置とに対応して設定される。
【0033】
次に、
図7(B)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート30に開口された複数のビアホール31のそれぞれに、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により充填することにより、複数のビア導体13及び1個の給電用ビア導体15cを形成する。続いて、
図7(C)に示すように、最下層のセラミックグリーンシート30の下面に、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布することにより、導体層11と、給電部15の給電端子15aとをそれぞれ形成する。同様に、最上層のセラミックグリーンシート30の上面に、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布することにより、スロット14a、14bを有する導体層12と、リング状の抜きパターンで囲まれた給電部15の上端部15bとをそれぞれ形成する。
【0034】
そして、複数のセラミックグリーンシート30を順に積層した上で、加熱加圧することにより積層体を形成する。その後、得られた積層体を脱脂、焼成することにより、
図1を用いて既に説明したように、誘電体基板10に構成された導波管スロットアンテナが完成する。
【0035】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。例えば、本実施形態の
図1の構造例は1例であって、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や材料を用いた多様な導波管スロットアンテナに対して広く本発明を適用することができる。さらに、その他の点についても上記実施形態により本発明の内容が限定されるものではなく、本発明の作用効果を得られる限り、上記実施形態に開示した内容には限定されることなく適宜に変更可能である。
【0036】
本実施形態においては、スロット14aの基本形状をX方向に長辺を有する矩形として説明したが、スロット14aの形状は、X方向に長辺を有する矩形の角部に曲線状又は直線状の面取り部を有する略矩形状であってもよい。この場合、スロット14aのスロット長Lの範囲は、本実施形態と同様に、X方向に沿って延びる1対の長辺によって挟まれた領域のことを意味するが、この1対の長辺に面取り部は含まれない。
【符号の説明】
【0037】
10…誘電体基板
11、12…導体層
13…ビア導体
14…スロット
15…給電部
30…セラミックグリーンシート
31…ビアホール
W1、W2…側壁部
W3、W4…短絡壁部