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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】骨代替材料および独立型注入システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/88 20060101AFI20220930BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20220930BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20220930BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20220930BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220930BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20220930BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20220930BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20220930BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61B17/88
A61L27/18
A61L27/16
A61L27/58
A61L27/50 100
A61L27/14
A61L27/02
A61L27/12
A61F2/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018568790
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2017066346
(87)【国際公開番号】W WO2018002335
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】1656231
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518457484
【氏名又は名称】テクニムド
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イール,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】アルバン,ゴーティエ
(72)【発明者】
【氏名】センデール,シリル
(72)【発明者】
【氏名】サラウィ,ヌールディン
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0191963(US,A1)
【文献】特表2005-510291(JP,A)
【文献】特表2004-500963(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0202063(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0130386(US,A1)
【文献】特表2011-514818(JP,A)
【文献】特表2008-522667(JP,A)
【文献】特表2010-523225(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0211058(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/88
A61F 2/28
A61L 27/02 - 27/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回分の使用量のロッドまたはペレットの形態を有し、40重量%~100重量%の、分子量が30,000~60,000であるポリカプロラクトンポリマーと、0重量%~40重量%のリン酸カルシウム生体材料とを備える骨充填材用組成物が予め充填された、シリンジと、
前記シリンジから構造的に分離していて、前記シリンジを加熱し、投与される前記1回分の使用量の骨充填材用組成物を溶融または柔軟化させる、外部加熱手段と、
を備え、
前記組成物は、約50℃において40Pa・s~4000Pa・sの粘度を有し、約37℃においてヤング率が0.5GPa~4GPaであり、前記シリンジは、前記組成物の保管および投与を可能にし、該シリンジは、2つの端部のそれぞれに開口を有するシリンジ本体を備え、遠位の第1開口は、第1開口を密閉するための密封手段、および、前記組成物を投与するための手段に着脱可能に接続され、近位の第2開口は、第2開口を密閉し、前記シリンジ内を摺動可能なピストンシールを有する密封手段を備え、第2開口を密閉するための密封手段は、遠位の第1開口に向けて移動可能であり、かつ、第2開口を密閉するための密封手段に結合されたピストンロッドにより前記シリンジ本体を摺動可能であり、前記シリンジ本体、第1開口を密閉するための前記密封手段および/または前記投与手段、および、第2開口を密閉するための前記摺動可能な密封手段は、前記組成物が保持される容積部を画定する、
装置。
【請求項2】
第1開口を密封するための手段は、プラグからなり、前記投与手段は、カニューレからなる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記シリンジ内に保持された前記組成物の前記1回分の使用量は、1ml~50mlである、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記組成物を投与するための手段は、前記シリンジ本体の端部に連結され、直径が8ゲージ~15ゲージであるカニューレを備える、請求項1~3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
記リン酸カルシウム生体材料は、リン酸カルシウムバイオセラミック、または、ストロンチウム含有リン酸カルシウムバイオセラミックからなる、請求項1~4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記リン酸カルシウムバイオセラミックまたは前記ストロンチウム含有リン酸カルシウムバイオセラミックを構成するリン酸カルシウムバイオセラミックは、ハイドロキシアパタイト、α-およびβ-リン酸三カルシウム、二相性リン酸カルシウム材料からなる群からなる、焼結リン酸カルシウム化合物から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記組成物の前記ポリカプロラクトンポリマー/前記リン酸カルシウム生体材料の重量比は、90/10~50/50の間である、請求項1~6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
絶縁シースが、完全または部分的にシリンジを包囲し、前記組成物を投与するための手段、および/または、第1開口を密閉するための前記密封手段は前記シリンジ本体上に備えられている、請求項1~のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、前記装置の温度を調整するのに適したオーブンを備え、該オーブンは、前記シリンジの直径と等しい、あるいは、わずかに大きい直径を有するシリンダーの形態を有し、前記シリンジを該オーブンの本体に挿入可能となっており、かつ、該オーブンは、前記装置の長さと等しい、あるいは、わずかに大きい長さを有する、請求項1~のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、失われた骨質に代替して骨を再構築するためにヒトに移植される生体吸収性または非生体吸収性の骨代替材の分野に関する。より具体的には、本発明は、機械的応力下における骨充填の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は主要な医学的問題であり、次第に主要な経済的問題ともなってきている。50歳の女性の3分の1、そして男性7人中約1人が、その生涯において骨粗鬆症の二次的症状である骨折を患っている。
【0003】
最も一般的なのは、椎体骨折である。初めての経皮的椎体形成術は、1984年に行われた。ガリベールら(Galivert et al.)は、経皮穿刺により椎体をポリメチルメタクリレート(PMMA)セメントで充填することによる、頚椎血管腫の治療を行った。ここ数年間で、椎体形成術は、骨粗鬆症性脊椎骨折の治療において次第に受け入れられつつある。
【0004】
椎体形成術では、X線蛍光透視および/または断層撮影によるモニタリング下で、アクリルセメントなどのセメントを椎体に経皮的に注入する。椎体形成方法は、全体的にくさび状となった椎体を原形に修復するために最適である。椎骨形成術では、セメントを注入する前に、膨張可能な風船によって椎体を膨らませる(すなわち、復位させる)。
【0005】
このような技術により、痛みを軽減させ、痛み止めの使用を低減させ、入院期間を短縮することができる。椎体形成術後の72時間で、骨粗鬆症性脊椎骨折患者の85%~90%において、痛みの顕著な軽減あるいは完全な消失がみられる。
【0006】
アクリル樹脂は、約80MPa~90MPaの圧縮強度という高い機械的強度を有し、応力下における骨充填技術において用いられる。しかしながら、PMMAセメントには、いくつかの欠点がある。生体内でPMMAセメントを硬化させると、フリーラジカルを生じることが認められている。さらに、手術室で調合される場合、これらの材料の重合反応は、発熱性であり、硬化中に生じた熱は高く、90℃を超えるため、周辺組織に損傷を与える。リン酸カルシウムセラミックス、バイオガラス、その他のブロックやペレットの形態で入手可能な埋込み型医療用品といった、再吸収性および生体適合性骨代替材は、機械的強度が不十分である。リン酸カルシウムセメントは、生体内原位置で硬化でき、最も耐性のあるものでは機械的強度が4MPa~20MPaであるにも拘わらず、応力下における骨充填技術に適用するための性能を満たしていない。また、これらのポリマーの硬化は不可逆的であり、一旦開始されると、外科医はわずかな時間内に注入を行わなければならない。また、外科医が何らかの理由で注入を中断しなければならず、注入されるべき空洞に注入されていない場合には、外科医は最初からやり直さなければならないだけでなく、硬化したポリマーを含む注入器材を破棄しなければならない。
【0007】
リン酸カルシウムセラミック型またはボーン型の薬剤を1つ以上の生体吸収性ポリマーと組み合わせる骨代替材の開発が行われている。
【0008】
たとえば、欧州特許第2395949号には、70℃~95℃の温度まで加熱すると液体またはペースト状になり、押出可能となって移植部位に注入可能となる骨代替材料が開示されている。この材料は、冷却後に、固化し、再吸収され、骨組織のためのスペースを残す。欧州特許第2395949号に記載された発明では、この材料を投与するために用いられる装置によって、高温で液体となる骨代替材料が加熱される仕組みになっている。
【0009】
骨/ポリマー複合体、ミネラル/ポリマー複合体、セラミック/ポリマー複合体など、数々の組み合わせが開示されている。このようなポリマーとしては、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、または、ポリウレタンが挙げられる。複合骨代替材料の例は、米国特許出願公開第2005/0008672号、国際公開第04/53112号、国際公開第2007/084725号、米国特許出願公開第2008/0069852号、および、米国特許出願公開第2007/0191963号を参照することにより、本明細書において開示される。これらの公報は、骨誘導体、無機材料、骨代替材料、あるいは、これらの組み合わせに関連する、種々の起源および化学的性質のポリマーの組み合わせからなる骨インプラントを開示している。
【0010】
国際公開第2003/059409号は、生体吸収性ポリマーおよびリン酸カルシウムで補完された無水硫酸カルシウムからなるインプラントを開示している。この生体吸収性ポリマーは、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシド、または、ポリエチレンテレフタレートのポリマーまたはコポリマーである。しかしながら、この文献は、約60℃の温度まで加熱して、溶解あるいは少なくとも軟化させて、押出しおよび骨の特定部位への投与に適したインプラントを開示していない。
【0011】
米国特許出願公開第2008/0003255号は、骨修復用の熱可塑性材料を開示している。この文献では、適切な材料として、脂肪族ポリエステル、具体的にはポリカプロラクトンが挙げられている。ポリカプロラクトンは、分子量が100,000以上であり、その融点は約60℃であり、注入することが可能である。また、この材料は、抵抗ヒータおよび温度制御ループを備えるヒートガンを用いて加熱および注入することが可能である。
【0012】
米国特許第8562619号は、骨充填用および/または修復用の方法、材料、および、この材料を注入するための装置を開示している。この方法は、骨セメント組成物を加熱し、該組成物を流動体にして、この流動体を注入部位に注入して固化させることからなる。注入温度は、壊死を防止するために、本来の溶融温度よりも低くするが、流動状態は維持される。この骨セメント組成物は、リン酸カルシウムに加えて、融点が70℃~200℃である熱可塑性生体適合性ポリマーを有する。この熱可塑性生体適合性ポリマーは、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリアルキレンコハク酸、ポリブチレンジグリコレート、ポリカプロラクトン、および、これらの組み合わせから選択される。ポリ乳酸-グリコール酸共重合体に関して開示された唯一の実施例およびテストされた混合物の融点は、100℃以上の範囲にある。この文献の組成物の流動性を確保するためには、この組成物を非常な高温で扱うことが要求される。
【0013】
国際公開第2010/0030220号は、セメントを調合するためのセメントリザーバを形成するチャンバと、ニードル形状のインジェクタと、および、リザーバチャンバとインジェクタとの間に配置される活性化チャンバとを有する、複数のセクションからなるシステムを開示している。活性化チャンバは、活性化チャンバに対応するセクション内に備えられる加熱手段に電力を供給する電源に接続される。セメントは、2つの成分および触媒からなる。この混合物の粘度は、変動しやすく、活性化チャンバによりこの組成物を加熱することが教示され、かつ、重合化の際には、この混合物の温度を制御するためのループによって、有意かつ安定した粘度を得ることが開示されている。このようなシステムは複雑であり、高い製造コストがかかる。
【0014】
特に、これらの文献に開示された発明はいずれも、組成物の加熱および吐出に複雑で高価な装置を使用する必要がある。
【0015】
一般的には、これらは、リザーバとカニューレを備えたガンタイプの装置であり、骨代替材料を溶融しその流動性を維持するために十分な熱を供給する、一体化した加熱および温度制御システムを備える。
【0016】
このような装置においては、材料の流動性を維持するために、熱量はユーザによって直接制御されるか、電子フィードバックシステムによって制御される。このような吐出装置は、一般的には、材料を投与するためのハンドル、ハウジング、および、チャンバを備える。これらのガンタイプの装置は、上述した骨代替材料を受け入れるリザーバと、カニューレと、リザーバおよびカニューレの端部において、材料を加熱してその温度を制御し、注入部位に注入する前に材料を流動体に維持するための(一体化されたまたは別体の)手段を備える。
【0017】
これらの装置は、製造、使用、および維持のいずれの点でも複雑である。また、これらの装置は高価であり、外科医が扱うには重量がある。さらに、温度制御を確実にするためには、有線の電気的接続あるいは電池が必要となるため、装置の使用をさらに複雑にし、および/または、患者に感電の危険をもたらす。これらの装置を使用する際には、骨代替材料タイプの材料を処理して、装置の加熱および押出しチャンバに装填する工程が含まれる。このような装置は、硬化型ポリマー材料を即座に調合できる場合にのみ使用することができる。なぜなら、その調合、保存、および加熱は、異なるチャンバまたはセクションで行われるためである。さらに、使用ごとに、使用済のガンタイプ装置は破棄される。使用ごとに、無菌ガンタイプの装置を組み立て、用意され、加熱され、温度管理がなされた、1回分の無菌充填材料を装填しなければならない。これらすべての作業は、無菌状態を維持して行う必要があり、重量があり複雑な装置を用いてこのような操作をすることは非常に困難であり、あるいは、非常に高額となる。上述したように、装置は使用ごとに破棄する必要がある。また、使用中に外科医が外科的処置を中断する事情が生じた場合には、重合が不可逆的であることから、注入物を再利用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】欧州特許第2395949号
【文献】米国特許出願公開第2005/0008672号
【文献】国際公開第04/53112号
【文献】国際公開第2007/084725号
【文献】米国特許出願公開第2008/0069852号
【文献】米国特許出願公開第2007/0191963号
【文献】国際公開第2003/059409号
【文献】米国特許出願公開第2008/0003255号
【文献】米国特許第8562619号
【文献】国際公開第2010/0030220号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このため、高い機械的応力下での骨充填技術に関する、操作および注入のための新たな装置を用いた、新規なフォーマット/デリバリーシステムによる、新規な材料システムであって、外科医の使用に対して、シンプルさ、人間工学的な最適化、平易性を提供し、かつ、患者の安全を確保しつつ、上述した課題を解決できるシステムが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の目的は、少なくとも1つの再吸収性または非再吸収性の熱可塑性ポリマー材料を備えた、あるいは、この材料からなる、ロッドまたはペレットなどの1回分の使用量でパッケージされた骨充填用組成物を提供することである。該組成物は、約50℃の温度における粘度が、40Pa・s~4000Pa・s、好ましくは50Pa・s~3000Pa・s、より好ましくは80Pa・s~2500Pa・sであり、さらに好ましくは150Pa・s~2000Pa・s、さらにより好ましくは200Pa・s~1500Pa・sであり、約37℃の温度におけるヤング率が、0.5GPa~4GPa、好ましくは1GPa~4GPa、より好ましくは1.5GPa~3.5GPa、さらに好ましくは2GPa~3GPaである。
【発明を実施するための他形態】
【0021】
本発明において、「1回分の使用量」とは、患者に対して行われる、少なくとも1つの骨充填を伴う外科的処置、あるいは、骨が欠損した部位への材料の追加を伴うあらゆるタイプの外科的処置に適した組成物の量を意味する。また、1回分の使用量とは、また、以下に説明する発明に基づく装置の使用に適した、連続的かつ単回使用形式であることを意味する。1回分の使用量は、ポリマー材料のロッドまたはペレットにより構成されうる。
【0022】
該ポリマー材料は、注入部位に応じて再吸収性または非再吸収性であるが、熱可塑性である。該ポリマー材料は、予め重合化され、単量体反応物質および触媒を即席で調合する必要はない。
【0023】
該再吸収性または非再吸収性ポリマー材料は、約60℃~90℃の範囲にある融点を有することができ、その融点に基づいて選択されうる。
【0024】
ただし、融解温度自体は、障壁とならない。融点が90℃以上であるが、60℃でも展性を示す材料も適切に用いられる。実際に、発明者は、このような融点を有するポリマーまたは組成物を、融点に近いが融点以下である温度まで加熱すれば、該ポリマーまたは組成物が、シリンジより、カニューレおよび注射用ニードルを通じて、押し出されることを観察している。
【0025】
さらに、融解温度に近接すると、ポリマー鎖間の「弱い結合」は、熱擾乱の影響により不安定となるため、ポリマーは柔軟になり、破壊せずに、弾性的または可塑的に変形することが可能となる。この特性は、本発明のほとんどのポリマーの有用性を部分的に正当化するものである。
【0026】
したがって、患者の組織に許容され適合する温度を事実上超える、融点(または融点以上)とする必要はない。
【0027】
好ましくは、再吸収性または非再吸収性ポリマー材料は、熱可塑性ポリマーである。
【0028】
該ポリマー材料は、該組成物の約50℃の温度における粘度が、40Pa・s~4000Pa・s、好ましくは50Pa・s~3000Pa・s、より好ましくは80Pa・s~2500Pa・sであり、さらに好ましくは150Pa・s~2000Pa・s、さらにより好ましくは200Pa・s~1500Pa・sとなるよう選択される。
【0029】
この特徴は、前記温度において該組成物が流動体または展性を有することを示しているため、カニューレを通って容易に押し出され、火傷や患者の組織を壊死させるリスクなく、骨部位に注入することができる。
【0030】
さらに、該ポリマー材料は、冷却後、より具体的には、約37℃における、ヤング率が、0.5GPa~4GPa、好ましくは1GPa~4GPa、より好ましくは1.5GPa~3.5GPa、さらに好ましくは2GPa~3GPaとなる、該組成物の硬度を有するように選択される。
【0031】
「流動体または展性を有する」とは、組成物が流動可能または柔軟であり、その粘度は上記の値、すなわち、約50℃の温度において40Pa・s~4000Pa・sの範囲内にあるため、押し出し可能または注入可能であることを意味する。加熱によって「流動体または展性を有する」組成物は、直径8ゲージ~15ゲージ(3.264mm~1.45mm)であるカニューレを通過することができる。前記ポリマーの融点に近くなるようまたは融点以上の温度となるよう前記組成物を加熱することにより、該組成物が、流動化または少なくとも柔軟化して、注入のための圧力を加えることにより、カニューレのキャビティを前進することが可能となる。
【0032】
融点が50℃または60℃より高い、たとえば、約80℃、90℃、または100℃であるいくつかのポリマーについては、融点に到達または融点を超過するために約100℃または120℃となるよう加熱した後、約50℃または60℃となるよう徐々に冷却しても、余分な労力を要することなく、シリンジからニードルを介して押し出し注入することが可能である。
【0033】
冷却後の該組成物のヤング率は、具体的には37℃において、2GPa~3GPaである。
【0034】
ヤング率、すなわち(縦方向の)弾性率あるいは引張弾性率は、一定であり、引張(または圧縮)応力と材料の変形開始とのリンクを形成する。
【0035】
弾性の法則はフックの法則であり、換言すると、σ=Eεである。ここで、
σは、(単位圧力あたりの)応力であり、
Eは、(単位圧力あたりの)ヤング率であり、
εは、相対的な伸び、または、ひずみ(無次元)である。
【0036】
ヤング率は、実際に加えることができたとした場合の、ある材料の元の長さを100%伸長させる(したがって、長さを2倍にする)機械的応力である。実際には、この値に到達する前に材料は永久的に変形するか、破壊する。ヤング率は、応力-ひずみ曲線の最初の傾斜度である。
【0037】
ヤング率が高い材料は、剛性を有する。ヤング率は、たえばDIN/EN/ISO 527-2に基づいて計測することができる。
【0038】
このような剛性を有することにより、組成物は高い機械的強度を有し、骨のキャビティ内に注入した後に、恒久的または再吸収性の骨インプラントを形成する。恒久的あるいは再吸収性となるかについては、組成物の性質および品質に応じる。
【0039】
再吸収性または非再吸収性の熱可塑性ポリマー材料の選択は、当該分野における従来的な実務および手段により可能であり、公知または利用可能な実験技術を用いて計測可能な、融点などの物理化学的特性および流動学的性質に基づいて行われる。
【0040】
「骨インプラント」とは、欠陥のある骨形成を補助または強化するために用いられる、いかなる材料をも意味する。骨インプラントは、たとえば、損傷、奇形、変形、欠陥、または外科的処置などに基づく、骨量の減少を充填し増補するために用いられる。
【0041】
本発明の組成物を構成するポリマー材料は、再吸収性熱可塑性ポリマーでありうる。この場合、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(グリセロールセバシン酸)(PGS)、ポリジオキサノンからなる群から選択され、これらを単独であるいは組み合わせて用いることができる。好ましくは、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)から選択され、これらを単独であるいは組み合わせて用いることができる。
【0042】
再吸収性熱可塑性ポリマーは、上述した化合物の物理的混合物または化学的混合物でありうる。化学的混合物とは、PCL-PLA、PCL-PGA、またはPCL-PLGAの共重合体であると解することができる。物理的混合物とは、たとえばPCL-PLAなどのポリマーからなる混合物であるが、モノマーユニットは、コポリマーの場合のように共有結合で結合していない。したがって、異なる割合でのPCL-PLA、PCL-PGA、PCL-PLGAの物理的混合物と解される。PLA、PGAまたはPLGAを含む混合物にPCLを統合させることの利点は、PLA、PGA、またはPLGAの融点を低下させるとともに、該混合物が冷却された後に剛性を維持することである。
【0043】
本発明の組成物を構成するポリマーは、アクリル酸およびメタクリル酸、ポリウレタン、ポリエチレンから選択される、単一またはこれらの混合物のポリマーおよびコポリマーからなる群から、好ましくは、アクリル酸およびメタクリル酸のポリマーおよびコポリマーから選択される、非再吸収性熱可塑性ポリマーでありえる。
【0044】
アクリル酸およびメタクリル酸のうち、ポリメタクリル酸アルキル(C6~C18)のポリマーおよびコポリマーまたはこれらの混合物が選択可能である。たとえば、ポリメタクリル酸メチルよりも融点が低い、ポリメタクリル酸ステアリルなどが選択可能である。したがって、多少の長鎖側鎖を備える可変量のポリマーを有するポリメタクリル酸アルキル(C1~C18)の物理的混合物が調製される。このような物理的混合物により、所望の剛性を維持しつつ、100℃に近い融点を有する熱可塑性ポリマーの混合物を得ることができる。
【0045】
ある特定の実施形態においては、該ポリマーは再吸収性熱可塑性ポリマーであり、この場合、ポリカプロラクトン単独か、ポリカプロラクトンと別の再吸収性熱可塑性ポリマーとの混合物である。
【0046】
ある特定の実施形態においては、該ポリマーは、分子量が10,000~100,000、好ましくは30,000~60,000、より好ましくは30,000~50,000、さらに好ましくは40,000であるポリカプロラクトンである。
【0047】
ポリカプロラクトンの分子量は、ポリマーの融点を決定するとともに、組成物の融点を決定する。分子量が高いほど、融点が低くなる。しかしながら、この分子量は、約37℃の温度、すなわち体温における材料の剛性も決定する。したがって、分子量が低いと、硬化した材料がもろくなり、適切でない。その一方で、融点以上に加熱された材料の粘度は、主として分子量によって決定される。また、粘度は、分子量に比例する。
【0048】
溶融状態あるいは展延状態において、患者の生体組織に適合する温度である約50℃の温度において、余分な労力をかけることなく組成物の押し出しおよび注入を可能とする粘度を有するポリマーが選択される。
【0049】
また、注入され、体温まで冷却された組成物の機械的強度および剛性は、充填材としての役目を果たし、機械的応力に耐えるのに十分な強度および剛性である必要がある。
【0050】
したがって、ポリマーは、当業者により、常用試験により溶解温度や粘度を計測し、組成物が約50℃の温度において上述した粘度を有することを可能にするポリマーを採択することにより選択される。
【0051】
適切なポリマーを選択するための第2の基準は、ポリマーを備えるまたはポリマーからなる組成物のヤング率を計測し、該組成物のヤング率が、約37℃の温度で、0.5GPa~4GPa、好ましくは1GPa~4GPa、より好ましくは1.5GPa~3.5GPa、さらに好ましくは2GPa~3GPaとなることを可能にするポリマーを採用することである。
【0052】
別の実施形態においては、本発明の組成物は、ロッドやペレットなどの1回分の使用量の形態を採るが、この場合、該組成物は、無機材料、具体的には無機生体材料、より具体的にはリン酸カルシウム生体材料をさらに備える。
【0053】
この場合、本発明による組成物のポリマー/無機材料の重量比は、たとえば100/0~40/60であり、好ましくは90/10~50/50であり、より好ましくは80/20~70/30である。
【0054】
この比率は、注入時の組成物の粘度のみならず、充填すべきキャビティ内に配され、骨インプラントの状態における固化された組成物の強度に、影響を与える。この比率は、ポリマーの性質とともに、該ポリマーの粘度や硬度によって決定される。したがって、この比率は、50℃における該組成物の粘度が40Pa・s~4000Pa・sとなり、約37℃における該組成物のヤング率が、0.5GPa~4GPa、好ましくは1GPa~4GPa、より好ましくは1.5GPa~3.5GPa、さらに好ましくは2GPa~3GPaとなるように決定される。
【0055】
本発明の組成物による1回分の使用量は、1回以上の骨充填に対応する量であり、2ml~50ml、好ましくは4~12mlである。
【0056】
また、1回分の使用量は、円筒断面のロッドの形態を採りうるが、この場合、ロッドの長さは約4cm~10cmであり、ロッドの直径は約1cm~3cmである。このようなフォーマットにより、装置内において1回分の使用が可能となるが、これについては以下でさらに説明する。
【0057】
別の実施形態においては、1回分の使用量は、ペレットの形態を採りうるが、シリンジ内に存在するこれらペレットの量は、注入量に相当する。
【0058】
1つの実施形態によれば、リン酸カルシウム生体材料タイプの無機材料は、リン酸カルシウムバイオセラミック、好ましくはストロンチウム含有リン酸カルシウムバイオセラミックである。
【0059】
リン酸カルシウムバイオセラミックなどのリン酸カルシウム材料は、生体吸収性に優れる。
【0060】
該バイオセラミックは、ハイドロキシアパタイト(HA)、α-およびβ-リン酸三カルシウム(α-TCP、β-TCP)、二相性リン酸カルシウム材料(BCP)、および、これらの混合物からなる群から選択される1つ以上の焼結リン酸カルシウム化合物を含む、あるいは、このような焼結リン酸カルシウム化合物からなることが好ましい。
【0061】
上記バイオセラミックは、約80%のHAおよび約20%のTCPまたは約20%のHAおよび約80%のβ-TCPを備える、または、これらからなる二相性リン酸カルシウム材料を備えることが特に好ましい。
【0062】
1つの実施形態においては、該無機基材は、再吸収性リン酸カルシウム生体材料である。好ましくは、該リン酸カルシウム生体材料は、1つ以上のカルシウム原子をストロンチウム原子で代替することにより補完される。ストロンチウム原子の追加により、最終生体材料の放射線不透過性が比例的に増加される。
【0063】
リン酸カルシウム生体材料タイプの無機化合物は、アモルファスリン酸カルシウム(ACP):Ca(PO.HO、リン酸一カルシウム一水和物(MCPH):CaH(PO.HO、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD):CaHPO.2HO、無水リン酸二カルシウム(DCPA):CaHPO、沈降性またはカルシウム欠損型のアパタイト(CDA):(Ca,Na)10(PO,HPO(OH)、α-またはβ-リン酸三カルシウム(α-TCP、β-TCP):Ca(PO、および、リン酸四カルシウム(TTCP):Caからなる群から選択される。
【0064】
好ましくは、本発明による該組織物の1回分の使用量は、ロッドまたはペレットの形態であり、分子量が10,000~100,000、好ましくは30,000~60,000であるポリカプロラクトンポリマーを40重量%~100重量%備えるとともに、0重量%~60重量%のリン酸カルシウム生体材料、具体的には、ハイドロキシアパタイトおよび/またはリン酸三カルシウムからなるリン酸カルシウム生体材料を備える。
【0065】
好ましくは、ポリカプロラクトンポリマーは再吸収性である。
【0066】
リン酸カルシウム生体材料におけるハイドロキシアパタイト/リン酸三カルシウムの重量比は、好ましくは80/20~20/80であり、より好ましくは65/35~35/65である。
【0067】
本発明の好適な実施形態によれば、本発明によるリン酸カルシウム生体材料は、ハイドロキシアパタイト65重量%と、ストロンチウム含有リン酸三カルシウム35重量%とを含む。
【0068】
本発明による組成物の無機材料は、バイオガラス、ケイ酸塩、具体的にはアルミノケイ酸塩、硫酸カルシウム、および、硫酸バリウムからなる群からも選択されうる。
【0069】
本発明による組成物は、多糖類、タンパク質、または、ペプチド、脂質などの有機分子および化合物を備えることができる。
【0070】
本発明による組成物は、たとえば、椎体形成術または椎骨形成術や、より一般的な骨整形などでの使用が増加している新たな外科的技術に非常に有用である。
【0071】
これらの施術は、場合に応じて、恒久的あるいは非恒久的な放射線不透過性を有する材料を必要とする。これらの施術は、程度に拘わらず骨折している椎骨内において行われ、椎骨外への材料の漏洩は非常に危険であり、神経系および血管系の合併症を引き起こし、死に至る危険性がある。このため、注入された製品の量や椎骨内で分散状況を観察し、特に該材料が椎骨内に保持されていることを確認できることは、外科医に有用である。
【0072】
本発明によれば、医療用X線撮像に用いられる放射線不透過性薬剤を本発明による組成物に添加することができる。このような薬剤としては、イオメロン(登録商標)またはイオパミドール(登録商標)などのイオン性または非イオン性のヨウ化物がある。これらのヨウ化物溶液は、ゲルを完全に放射線不透過性とし、X線撮影によって検知されることを可能とする。ストロンチウム安定化誘導体も、上述したように想定される。
【0073】
再吸収性製品の場合には、組成物中に存在する放射線不透過性薬剤および化合物は、一度注入されると、時間の経過と共に消失するというさらなる利点があり、骨再建の効果を評価することを可能にする。
【0074】
さらに、本発明による組成物は、加熱後に顕著なレオロジー特性を示す。
【0075】
本発明による組成物は、ペースト状で厚肉構造の粘性製品を形成する。該製品は、カニューレを通じて注入可能であり、この場合、カニューレの出口において約50℃の温度である。
【0076】
本発明は、本発明の組成物の椎体形成術用骨代替材料としての使用にも関する。
【0077】
本発明は、上述した組成物の調合方法にも関する。該方法は、以下の連続する工程からなる。
再吸収性または非再吸収性の熱可塑性ポリマーと、選択的に無機材料とを備える、均一な混合物を調合する。具体的には、再吸収性熱可塑性ポリマーは、ポリカプロラクトンタイプであり、分子量は10,000~100,000である。
前記混合物は、制御された機械的処理または化学的処理によって得られる。
該混合物は、射出成形機を通過後に、ロッドなどの形状を得る。代替的に、該混合物は、ペレットとして形成されることができる。
【0078】
得られた製品の滅菌は、酸化エチレンなどの当業者に公知の手段で行われる。
【0079】
本発明の他の目的は、骨充填のために骨の部位に本発明の組成物を注入するための、該組成物を含むシリンジタイプの装置を提供することである。
【0080】
具体的には、本発明は、シリンジと、本発明の1回分の使用量の組成物とを備えるアセンブリに関し、該シリンジには、前記1回分の使用量の組成物が予め充填されており、該シリンジは、前記組成物の保管および投与の両方を可能にする。該シリンジは、2つの端部のそれぞれに開口を有するシリンジ本体を備える。第1開口は、第1開口を密閉するための密封手段、具体的にはプラグ、および/または、前記組成物を投与するための手段、具体的にはカニューレを備える。第2開口は、密封手段、具体的にはピストンシールを備える。好ましくは、該ピストンシールは、ピストンロッドにより前記シリンジ本体を摺動可能である。好ましくは、該ピストンロッドは、該摺動可能なピストンシールに結合している。前記シリンジ本体、前記密封手段および/または投与手段、および、前記摺動可能な密封手段は、前記組成物が保持される容積部を画定する。
【0081】
本発明の装置は、
ロッドまたはペレットなどの1回分の使用量の骨充填用組成物が予め充填されたシリンジと、および、
前記シリンジから構造的に分離していて、該シリンジを加熱し、投与される前記1回分の使用量の骨充填用組成物を溶融または柔軟化させる、外部加熱手段と、を備え、
前記組成物は、少なくとも1つの再吸収性または非再吸収性の熱可塑性ポリマー材料を備え、該組成物は、約50℃において40Pa・s~4000Pa・sの粘度を有し、約37℃においてヤング率が0.5GPa~4GPaであり、前記シリンジは、前記組成物の保管および投与を可能にし、該シリンジは、2つの端部のそれぞれに開口を有するシリンジ本体を備え、遠位の第1開口は、第1開口を密閉するための密封手段、具体的にはプラグ、および/または、前記組成物を投与するための手段、具体的にはカニューレを備え、近位の第2開口は、第2開口を密封するための密封手段、具体的には、ピストンシールを備え、該ピストンシールは、具体的には遠位の第1開口に向けて移動可能なピストンロッドにより前記シリンジ本体を摺動可能であり、該ピストンロッドは、該摺動可能なピストンシールに結合しており、前記シリンジ本体、前記密封手段および/または投与手段、および、前記摺動可能な密封手段は、前記組成物が保持される容積部を画定する。
【0082】
本発明のシリンジ本体は、80℃~150℃の温度、特に120℃の温度での耐熱性を有する材料により構成されることができ、具体的には、該シリンジ本体は金属製である。好適な金属は、軽量で、優れた熱伝導を可能とする熱慣性を有する観点から、アルミニウムである。
【0083】
前記ピストンロッドは、ねじ付きロッドにより構成することができ、該ピストンロッドをねじ込むことにより加熱溶融後の前記組成物を前進させることができる。この場合、該ピストンロッドが通過する前記端部には、該ピストンロッドのねじ山と相補するねじ山が備えられる。
【0084】
本発明による、予め充填されたシリンジを使用することにより、医師は、上述したように、充填製品を調合し、容器から注入装置へ移動させる工程を省略することが可能となり、その使用を容易にし、製品の滅菌状態をより確実にすることができる。
【0085】
予め充填されたシリンジの使用により、使い捨てが可能となり、取り扱いが容易になるとともに、使用される容量が不正確になるリスクが低減する。
【0086】
1つの実施形態によれば、本発明は、上述した本発明によるアセンブリに関し、シリンジに保管された組成物の1回分の使用量は、1ml~50ml、好ましくは2ml~35ml、より好ましくは4ml~20mlである。
【0087】
本発明の内容における「1回分の使用量」とは、患者に対して行われる、少なくとも1回の骨充填または骨が欠損した部位への材料の追加を伴うあらゆる外科的処置に適した組成物の量である。この「1回分の使用量」は、連続的であり、使い捨ての形式であって、かつ、本発明の装置への使用に適する。該使用量は、シリンジの内部容積を占める再吸収性ポリマー材料のロッドの形態でありえるが、該材料のビーズまたはペレットの形態も採りうる。
【0088】
該組成物の1回分の使用量の容積は、前記シリンジが含有することができる最大容積以下である。好適な実施形態によれば、本発明は、シリンジに保管された前記組成物の1回分の使用量の容積が、1ml~20ml、好ましくは2ml~10ml、より好ましくは4ml~10mlであるアセンブリに関する。別の実施形態によれば、本発明は、シリンジに保管された前記組成物の1回分の使用量の容積が、10ml~50ml、好ましくは10ml~35ml、より好ましくは10ml~20mlである装置に関する。
【0089】
好適な実施形態によれば、本発明は、前記組成物の前記投与手段が、前記シリンジ本体の前記端部に結合し、直径が8ゲージ~15ゲージ(3.264mm~1.45mm)、好ましくは10ゲージ~14ゲージ(2.588mm~1.628mm)であるカニューレを備えるまたは該カニューレからなる、アセンブリに関する。
【0090】
前記シリンジの容量は、前記密封手段を本体内で遠位の第1開口に向けて摺動させることにより変更することができ、該開口は密封手段を備えなくてもよい。遠位の第1開口が、密封手段、具体的にはプラグ、および、投与手段、具体的にはカニューレを備える場合には、該密封手段は、当初は液密であるが、前記投与手段を配置することにより貫通される。この場合、該組成物を投与するために該投与手段を備える密封手段を交換する必要はない。ピストンロッドを前記ピストンシールに適合させることで、該組成物の投与を可能とし、該投与は、手動または自動投入手段により実行される。
【0091】
ある特定の実施形態においては、本発明による予め充填されたシリンジは、投与手段の有無に拘わらず、前記シリンジ本体内に保持される骨充填用組成物の融点付近あるいは該融点以上になるまで加熱される。
【0092】
該加熱は、当業者に公知である適切な手段ではあるが、外部の前記シリンジとは構造的に分離した手段により実行される。本発明の装置のかかる特徴により、組成物の保管および投与手段、すなわち、前記シリンジに、公知技術における一体化された電気的または電子的加熱システムは備えられていない。この構成により、シンプルで、経済的で、製造および使用に関して堅牢なシステムとすることができる。具体的には、使用前に、予め充填されたシリンジは、投与手段の有無に拘わらず、80℃~150℃、好ましくは80℃~120℃、より好ましくは80℃~90℃に温度制御された加熱チャンバ内に置かれる。また、注入カニューレの有無に拘わらず、前記シリンジ本体を受け入れることが可能な大きさのシース型またはカラー型のヒータにより、前記シリンジを加熱することもできる。
【0093】
該加熱により、熱可塑性ポリマー材料の融点に接近、到達、あるいは超過して、前記組成物に十分な展性あるいは流動性を付与し、押し出しおよび注入を容易とすることができる。該ポリマーの性質または該熱可塑性ポリマーを含む混合物の性質により、前記組成物を十分に液化するために、一定時間、加熱システムに装置を置くことができる。この流動性または展性を有する状態に到達すると、冷却時には、所定の温度において、温度上昇中に確認された粘度よりも粘度が常に低下するというヒステリシスを、発明者は発見した。これにより、ポリマーの融点付近である90℃または100℃まで加熱された後、約50℃で押出し可能かつ注入可能な、展性を有する組成物を得ることができる。
【0094】
したがって、前記シリンジは、保管媒体または熱交換リザーバとして使用される。
【0095】
ある特定の実施形態においては、前記シリンジから構造的に分離した外部加熱手段は、本発明による組成物を含むシリンジの温度を制御するのに適したオーブンである。該オーブンは、オーブン本体にシリンジを挿入することができるように、シリンジの直径と実質的に等しい、あるいは、わずかにより大きい直径を有するシリンダーの形態を採りうる。同様に、このシリンダーの長さは、本発明によるアセンブリの全体の長さと実質的に等しいか、あるいは、わずかにより長い。該アセンブリの一端にカニューレを有する場合あるため、その場合には、オーブンのシリンダーの長さを、少なくともカニューレを含むシリンジの長さに等しくなるようにして、該カニューレを加熱するようにすることもできる。
【0096】
本発明の他の目的は、前記加熱手段は、そのチャンバ本体に前記シリンジを挿入することを可能にするために、該シリンジの直径と実質的に等しい、あるいは、わずかにより大きい直径を有する加熱シリンダーの形態を有するオーブンからなり、該シリンダーの長さは、結合したカニューレを有するまたは有しない装置の長さに実質的に等しい、あるいは、わずかにより長くなっている、本発明の装置を提供することである。
【0097】
前記オーブンの前記加熱シリンダーは、温度の上昇を確実に行うことができる電気加熱抵抗器を備えるか、あるいは、誘導加熱などの、温度の上昇を達成することができる、その他の手段を備えることができる。
【0098】
本発明による骨充填用組成物の再吸収性または非再吸収性の熱可塑性ポリマー材料の融点は、50℃~120℃、好ましくは50℃~90℃、より好ましくは50℃~70℃である。該融点は、ポリマーの性質、ポリマーの分子量、より具体的には、たとえばポリカプロラクトンからなる再吸収性ポリマーの場合には、該ポリマーの量、あるいは、物理的混合物の場合には、該組成物中のポリマーの割合などに応じる。前述のように、分子量が高いほど、溶解温度は高くなる。さらに、組成物中の無機化合物のリン酸カルシウム生体材料タイプの存在は、熱可塑性ポリマーを備える組成物の溶解温度または柔軟化温度を低下させる傾向がある。これにより、溶解温度が約100℃までの範囲、あるいは、より高い温度までの範囲にあるポリマーを使用することができる。
【0099】
したがって、本発明によるアセンブリ、すなわち、1回分の使用量の骨充填用組成物を含むシリンジの温度制御は、該組成物の容量および性質により設定される。
【0100】
上述のように、本発明によるアセンブリの温度制御を、たとえば、約3分間~20分間にわたって約90℃に設定することで、1回分の使用量の組成物の中心部温度を約80℃とすることができ、シリンジ本体に保持されている組成物を流動化させて、適切な管材料を通じて患者の椎体への注入を可能とすることができる。該中心部温度も、使用される組成物の性質により異なる。
【0101】
この温度(約80℃)は、明らかに組織に損傷を与える温度であるが、熱伝達および熱損失により、注入時において、装置の部分ごとに温度が低下して、組織に接触する部分におけるカニューレの温度は約50℃となり、ニードル内および注入部位(たとえば、椎骨)における組成物の温度もこの順に低下するため、組織の火傷を回避することができる。
【0102】
さらに、ニードル内における組成物の温度(約50℃~60℃)では、該組成物は流動性を有するため、ニードルを容易に除去することができる。上述のように、シリンジ本体の第1端部は、組成物を投与するための手段、具体的には外科用カニューレを備える。
【0103】
該カニューレの長さは、適用例に基づいて選択され、約100mm~150mmである。
【0104】
一般的には、ピストンロッドに圧力をかけて流動化した組成物を押し出す際、患者の体内に挿入されたカニューレに沿って液状組成物が前進することにより、該組成物は冷却される。同様にして、充填箇所に該組成物が到達すると、温度低下が観察される。
【0105】
したがって、組成物が、患者の骨キャビティ内に配置されたカニューレを通って、トロカールを介して、キャビティの開口部まで前進した際に、組成物が固化しないように、シリンジ本体における組成物を適切な温度に設定することが必要である。このため、本発明による組成物のシリンジ本体内における温度を好ましくは約80℃とすることで、150mmのカニューレの端部に到達した際にも約45℃~50℃の温度で、その流動性を維持する、組成物を流動性で注入可能とすることができる。
【0106】
骨キャビティの開口部において、患者の内部組織と接触すると、組成物の温度は約40℃~45℃となり、組成物は概ね流動性を維持しつつ、効果的にキャビティを充填する。
【0107】
このような温度分布により、効果的な注入と投与が可能となるとともに、患者の組織を壊死などのリスクから守ることができる。
【0108】
本発明の目的は、本発明によるアセンブリを備えるキットおよび組成物を注入するためのカニューレに関する。
【0109】
現時点においては、本発明によるアセンブリまたはキットを使用する際には、シリンジ端部のプラグは除去されるが、カニューレ、特にキットに含まれるカニューレは、該端部に取り付けられており、該アセンブリは、たとえば上述の円筒形オーブンなどの適切な加熱装置内に、加熱のために配置される。
【0110】
椎体形成術に該組成物を使用する場合には、アセンブリを加熱する間、外科医は、たとえば、トロカールを骨折した椎骨または処置すべき椎骨に配置することができる。これは、外科的処置中での連続的な放射線画像による監視下で安全に行われる。その後、トロカールを通してバルーンを挿入して、膨張させる。これによって椎骨は復元され、キャビティが形成される。バルーンを除去した後、シリンジのカニューレをトロカール内に挿入し、組成物を押し出して、充填組成物でキャビティを充填する。
【0111】
熱可塑性ポリマーの性質および量によって、該組成物は、数分後または数十分後に完全に固化する。
【0112】
シリンジ本体は、金属製であることが好ましく、特に内部に迅速に熱を移動させて、含有される組成物を流動化させるとともに、該組成物を溶融状態、および、押出しに十分な粘度に維持するための十分な熱慣性を確保する観点から、アルミニウム製であることが好ましい。
【0113】
外科医が、投与中において、シリンジおよび/またはカニューレに含まれる組成物の流動性を増大させることを希望する場合には、前記シリンジを前記加熱手段に再導入して、投与のために前記組成物を液状化させることができる。
【0114】
ある特定の実施形態においては、外科医によるシリンジの取り扱いを容易化するために、シリンジの全体または一部を絶縁シースで被覆し、シリンジ本体に、組成物投入手段および/または密封手段を配置する。
【0115】
該シースは、シリンジ本体と一体化して備えられていてもよく、着脱可能に備えられていてもよい。
【0116】
該シースは、一体化してあるいは着脱可能に備えられ、シリンジ本体の縦軸に沿って摺動可能であり、該シリンジ本体を完全または部分的に被覆し、ピストンロッドの前進を、たとえば、ねじ込みまたは単に押圧することにより可能にしつつ、前記シリンジ本体を所定の位置に固定し、保持する。このようなシースは、加熱装置からシリンジ本体を取り出す際に、シリンジ本体の温度による火傷から外科医またはシリンジを扱う使用者を保護する。該シースは、たとえば、前記シリンジを固定して保持するヒンジにより、接続された2つのハーフシェルの形態を採ることもできる。
【0117】
加熱装置にアセンブリを導入する際には、該絶縁シースは摺動して除去され、該絶縁シースがシリンジ本体を被覆しないため、該シリンジ本体は該シースから独立して加熱される。該シリンジ本体が所望の温度まで加熱されると、前記シースは反対方向に摺動され、シリンジ本体を被覆する。除去可能なシースの場合、該シースはシリンジ本体において再配置される。該シースは、1つまたは両方のスライディング位置に固定され、シリンジ本体を握り、充填されていた組成物を押し出す際には、シリンジ本体を完全に被覆する。固定は、たとえば、バヨネットシステムの押圧および回転運動により達成される。
【0118】
絶縁保護シースは、熱伝導率の低い素材であればどのような材料でもよく、断熱材であってもよい。たとえば、シリコン樹脂、ポリカーボネートポリマー、その他の熱伝導率の低い材料を用いることができる。
【0119】
本発明によれば、セメントを即席で調合する工程、材料をペレットの形態にして、加熱ガンの加熱チャンバに挿入する工程は必要とされない。
【0120】
本発明によるアセンブリである、予め充填されたシリンジは、無菌状態でパッケージされており、必要な取り扱い工程を最小限に抑えながら手術室において直接使用することが可能である。
【0121】
さらに、加熱後および取り扱い中は、シリンジ本体に含まれるまたはカニューレにすでに存在する組成物が固化してしまった場合には、使用者は、チャンバまたは加熱シースなどの外部加熱手段にアセンブリ戻し、再度加熱して、組成物に流動性を再度付与することにより、注入を再開させることができる。
【0122】
このような利点は、既存のヒートガンタイプの装置では不可能であった。既存の装置では、カニューレに含まれる組成物が固化した際には、カニューレを加熱することができないため、該カニューレを除去した上で、加熱を再開する必要がある。
【0123】
本発明のシステムは、加熱手段あるいは外部熱源から構造的に分離したシリンジを備え、該シリンジは、適切な温度まで加熱されると、自己完結型の熱伝導システムとなる。電池、抵抗器、外部電源に接続するための電線が存在しないため、外科医にとって取り扱いが容易であるとともに、患者に対する電気的な危険性が一掃される。また、本発明のシステムは、機械的にシンプルな設計であるため、その低価格での大量生産が可能である。
【0124】
このように、本発明のシステムは、その取り扱いが容易である、その製造が容易かつ低価格である、および、使用後に破棄することができるという利点を有する。
【0125】
[実施例1]
[レオロジー(粘弾性)の測定]
使用した装置は、
・MCR51レオメータ、
・3-EC-02人工気候室(SLH100-Secasi)、
・RheoPlusソフトウェア、
を備えていた。
【0126】
ポリカプロラクトンポリマーの粘度を測定する試験を、アントンパール(AntonPaar)社のMCR51レオメータ/粘度計を用いて、動的剪断モード(1Hz)で行った。この装置は、時間の経過に伴う複素粘度の進展を一定温度で記録することができた。加熱インジェクタを実際の使用状態に近似させるために、該ポリマーを装置内で90℃で溶融し、温度設定点を固定した(充填すべき骨部位に材料が到達したときの温度)。サポートの所望温度(50℃)が安定してから、測定値の取得を開始した。
【0127】
[実施例2]
ポリカプロラクトン(PCL)とストロンチウム含有リン酸カルシウムの組成物:
PCLと、分子量Mn=30,000g/molのβ-TCP ストロンチウム、
PCL/リン酸カルシウム薬剤の割合:
PCL/β-TCP(Sr)=70/30、
リン酸カルシウム薬剤の粒径:
Β-TCP(Sr)=30μm、
注入装置/シリンジ。
【0128】
PCL/TCP(Sr)のロッドで充填された金属カートリッジを有する本発明による注入装置を、10ゲージ(2.588mm)のトロカールに挿入可能な11ゲージ(2.305mm)のカニューレに接続した。該装置を、温度制御された加熱チャンバにおいて90℃に加熱した後、椎骨内への注入を行った。