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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】搬送装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 20/02 20060101AFI20220930BHJP
   B21B 39/08 20060101ALI20220930BHJP
   B21B 39/14 20060101ALI20220930BHJP
   B65G 13/00 20060101ALI20220930BHJP
   B65G 43/00 20060101ALI20220930BHJP
   B21B 39/00 20060101ALI20220930BHJP
   B65H 23/038 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B65H20/02 A
B21B39/08 A
B21B39/14 J
B65G13/00 A
B65G43/00 F
B21B39/00 J
B65H23/038 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019007533
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020116588
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 茂
(72)【発明者】
【氏名】新保 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 格
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-323312(JP,A)
【文献】特開平05-123743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/06
B65H 20/02
B65H 23/038
B65H 23/198
B21B 39/00
B21B 39/08
B21B 39/14
B65G 13/00
B65G 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれに圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれに荷重測定装置を備えたピンチロール装置を同一ライン上に直列に複数基有する板材の搬送装置の制御方法であって、
該ピンチロール装置の少なくとも1基は板材に搬送方向に向かう駆動力を与え、また少なくとも別の1基は板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与え
ピンチロールにおいて挟圧されている板材の板幅中心位置現在値を検出し、該板幅中心位置現在値を板幅中心位置目標値に近づけることを目標とし、
該ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている前記少なくとも1基においては、該板材と該ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に大きくする方向に該ピンチロール装置の作業側および駆動側の圧下装置を操作し、
該ピンチロールが該板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与えている前記少なくとも別の1基においては、該板材と該ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に小さくする方向に該ピンチロール装置の作業側および駆動側の圧下装置を操作、することを特徴とする搬送装置の制御方法。
【請求項2】
板材の先端部通板時において、該板材最先端が下流側に配置されたピンチロール装置に咬み込む毎に、該板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置から板材に作用させる駆動力を、隣接する上流側ピンチロール装置に該板材最先端が咬み込んだときに作用させた駆動力とは有意に異なる値とすることを特徴とする請求項記載の搬送装置の制御方法。
【請求項3】
板材の先端部通板時において、該板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置よりも上流側のピンチロール装置間に存在する板材に作用する張力を、経時的に変化させないように、該上流側ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御することを特徴とする請求項記載の搬送装置の制御方法。
【請求項4】
板材の尾端部通板時において、該板材最尾端が上流側に配置されたピンチロール装置を抜ける毎に、その時点で該板材尾端部を把持している最上流側ピンチロール装置と隣接する下流側ピンチロール装置間に存在する板材に作用する張力を、経時的に変化させないように、該最上流側ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御することを特徴とする請求項記載の搬送装置の制御方法。
【請求項5】
板材の先端部通板時において、該板材最先端が下流側に配置されたピンチロール装置に咬み込む毎に、該板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置より上流側に位置し板材を把持しているピンチロール装置の圧下装置を操作して圧下力を解放し、同時に、圧下力が解放された位置の板材に作用している張力を維持するように、該最下流ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御することを特徴とする請求項記載の搬送装置の制御方法。
【請求項6】
板材の尾端部通板時において、該板材最尾端が上流側に配置されたピンチロール装置を抜け、圧下力が解放される毎に、その時点で該板材尾端部を把持している最上流側ピンチロールより下流側に配置され、圧下力を解放状態で待機していたピンチロール装置のうち最上流側のピンチロール装置で板材を把持し所定の圧下力を付加するように圧下装置を操作し、同時に、当該ピンチロール装置より下流側の板材の張力を維持するように当該ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御することを特徴とする請求項記載の搬送装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板材の製造ラインにおいては、板材の面外変形を防止しながら板材を円滑に搬送すべく、上下一対のピンチロールで板材を挟圧し、板材に張力を付与しつつ搬送するピンチロール装置が用いられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-108208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような板材を搬送する装置においては、板材の搬送時において、板材の板幅中心位置が搬送ラインの中心からずれる場合がある。この現象を本開示では「板材の蛇行」と称することにするが、最悪の場合、板材の一部が該ピンチロール胴部から咬み出し板材が損傷する事象が発生し得る。
【0005】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、特に搬送ラインに複数のピンチロール装置を直列に配した板材の搬送装置において、板材の板幅中心位置を板幅中心目標位置に良好に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、板材の蛇行を抑制することが可能な搬送装置とその制御方法について鋭意研究を行った。本発明者らは、まず、ピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定し、荷重が大きい側に板材が蛇行しているとみなして、荷重が大きい側の圧下位置を相対的に締め込む方向の圧下位置制御を実施することにより、荷重が小さい側に板材を逃がし蛇行を改善する従来技術の構成が有効と考えた。しかしながら、上記圧下位置制御を行った場合においても、荷重が小さい側に板材を逃がすことができず、蛇行を十分に改善できない場合があった。
【0007】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、ピンチロール装置が板材に対して搬送方向の制動力を与え、入側張力より出側張力が大きい状態の場合は、上記従来技術で板材の蛇行を抑制できるが、その逆、すなわちピンチロール装置が板材に対して搬送方向の駆動力を与え、入側張力が出側張力より大きい状態の場合は、上記従来技術の方法では板材の蛇行が逆に激しくなり、従来技術とは逆方向の圧下位置制御、すなわち板材が蛇行した側の圧下位置を相対的に開放方向に操作することで蛇行が抑制できること、そしてピンチロール装置が板材に対して実質的に駆動力も制動力も与えず入側張力と出側張力が実質的に等しい状態の場合は、圧下位置制御を実施しても板材の蛇行挙動を効果的に制御できないことを見いだした。本発明者らは、この発見に基づき、従来技術の問題点を解決し、板材の板幅中心位置を目標値に良好に制御しながら搬送する装置の制御方法を見いだすに至った。
【0008】
本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、板材を搬送する上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおいてピンチロールを圧下する圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定する荷重測定装置を備えたピンチロール装置を直列に複数基有する搬送装置において、該ピンチロール装置の少なくとも1基は板材に搬送方向に向かう駆動力を与え、また少なくとも別の1基は板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与える。
【0009】
また本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、板材を搬送する上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおいてピンチロールを圧下する圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定する荷重測定装置を備えたピンチロール装置を同一ライン上に直列に複数基有し、該ピンチロール装置の少なくとも1基は板材に搬送方向に向かう駆動力を与え、また少なくとも別の1基は板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与える板材の搬送装置の制御方法であって、それぞれのピンチロール装置において挟圧されている板材の板幅中心位置現在値を検出し、該板幅中心位置現在値を板幅中心位置目標値に近づけることを目標とし、該ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えているピンチロール装置においては、該板材と該ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に大きくする方向に該ピンチロール装置の作業側および駆動側の圧下装置を操作し、該ピンチロールが該板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与えているピンチロール装置においては、該板材と該ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に小さくする方向に該ピンチロール装置の作業側および駆動側の圧下装置を操作する。
【0010】
また本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、板材を搬送する上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおいてピンチロールを圧下する圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定する荷重測定装置を備えたピンチロール装置を同一ライン上に直列に複数基有する板材の搬送装置の制御方法であって、該板材の先端部通板時において、該板材最先端が下流側に配置されたピンチロール装置に咬み込む毎に、該板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置から板材に作用させる駆動力を、隣接する上流側ピンチロール装置に該板材最先端が咬み込んだときに作用させた駆動力とは有意に異なる値になるように該板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御する。
【0011】
また本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、板材を搬送する上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおいてピンチロールを圧下する圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定する荷重測定装置を備えたピンチロール装置を同一ライン上に直列に複数基有する板材の搬送装置の制御方法であって、該板材の先端部通板時において、該板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置よりも上流側のピンチロール装置間に存在する板材に作用する張力を、経時的に変化させないように、該上流側ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御する。
【0012】
また本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、板材を搬送する上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおいてピンチロールを圧下する圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定する荷重測定装置を備えたピンチロール装置を同一ライン上に直列に複数基有する板材の搬送装置の制御方法であって、該板材の尾端部通板時において、該板材最尾端が上流側に配置されたピンチロール装置を抜ける毎に、その時点で該板材尾端部を把持している最上流側ピンチロール装置と隣接する下流側ピンチロール装置間に存在する板材に作用する張力を、経時的に変化させないように、該最上流側ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御する。
【0013】
また本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、板材を搬送する上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおいてピンチロールを圧下する圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定する荷重測定装置を備えたピンチロール装置を同一ライン上に直列に複数基有する板材の搬送装置の制御方法であって、該板材の先端部通板時において、該板材最先端が下流側に配置されたピンチロール装置に咬み込む毎に、該板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置より上流側に位置し板材を把持しているピンチロール装置の圧下装置を操作して圧下力を解放し、同時に、圧下力が解放された位置の板材に作用している張力を維持するように、該最下流ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御する。
【0014】
また本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、板材を搬送する上下一対のピンチロールと、該ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおいてピンチロールを圧下する圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれにおける荷重を測定する荷重測定装置を備えたピンチロール装置を同一ライン上に直列に複数基有する板材の搬送装置の制御方法であって、該板材の尾端部通板時において、該板材最尾端が上流側に配置されたピンチロール装置を抜け、圧下力が解放される毎に、その時点で該板材尾端部を把持している最上流側ピンチロールより下流側に配置され、圧下力を解放状態で待機していたピンチロール装置のうち最上流側のピンチロール装置で板材を把持し所定の圧下力を付加するように該ピンチロール装置の圧下装置を操作し、同時に、当該ピンチロール装置より下流側の板材の張力を維持するように当該ピンチロール装置の駆動装置の電動機トルクを制御する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、複数のピンチロール装置を直列に配する搬送装置を用いた板材の搬送において、板材に作用する張力を所定の範囲に制御しつつ、板材の形状を悪化させることなく、板材の板幅中心位置を目標値に良好に制御することができ、安定的な通板が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示に係る板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図2】本開示に係る板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図3】本開示に係る板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図4】本開示に係る板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図5】本開示に係るピンチロール装置の概略構成を示す図である。
図6】本開示に係る板材搬送装置の制御方法の概略を示すフローチャートである。
図7】ピンチロールと板材の位置関係を示す図。
図8】ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている条件下で、板材が作業側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図9】ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている条件下で、板材が駆動側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図10】ピンチロールが板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与えている条件下で、板材が作業側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図11】ピンチロールが板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与えている条件下で、板材が駆動側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図12】作業側および駆動側荷重測定値と板位置との関係を示す図である。
図13】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材先端部通板時における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図14】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材先端部の捲取機導入過程における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図15】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材尾端部通板時における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図16】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材先端部通板時における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図17】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材先端部の捲取機導入過程における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図18】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材尾端部通板時における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図19】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材先端部通板時における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図20】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材先端部の捲取機導入過程における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図21】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材尾端部通板時における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図である。
図22】入側張力が出側張力より大きい場合のピンチロール近傍において板材に負荷される搬送方向の力を模式的に示す図である。
図23】入側張力が出側張力より大きくピンチロールが板材の作業側を駆動側より強く挟圧している場合の板材に負荷される搬送方向力の左右差とモーメントを示す図である。
図24】入側張力が出側張力より小さい場合のピンチロール近傍において板材に負荷される搬送方向の力を模式的に示す図である。
図25】入側張力が出側張力より小さくピンチロールが板材の作業側を駆動側より強く挟圧している場合の板材に負荷される搬送方向力の左右差とモーメントを示す図である。
図26】複数のピンチロール装置を配した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブルを対象とする、板材先端部通板時における本開示の板材搬送装置の制御方法の概略を示す図13と対比して、好ましくない実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施態様について図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素または同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
最初に、図5を参照して、本開示に係る板材のピンチロール装置100の概要を説明する。ピンチロール装置100は、板材2の製造・処理ラインにおいて、上下一対のピンチロール1a、1bで板材2を挟持しながら所定の搬送方向に板材2を搬送する装置である。板材のピンチロール装置100は、ピンチロール1a、1bと、圧下装置3a、3bと、荷重測定装置4a、4bを、備えている。またピンチロール1a、1bはスピンドル7a、7b、ピニオンスタンド8を介して電動機6によって駆動される構成となっており、本開示では、スピンドル7a、7b、ピニオンスタンド8、電動機6、および図示していない電動機6の制御装置を合わせて駆動装置と総称する。さらに図5のピンチロール装置100では、本開示の実施態様の一例として板材の作業側の板端位置を測定する板端位置測定装置5を備えている。
【0019】
ピンチロール1a、1bは、板材2を上下から所定の圧力で挟持し、所定の搬送方向に板材2を搬送する回転体である。上側のピンチロール1aにおける軸方向の一端側(作業側)はチョックを介して圧下装置3aに接続されており、軸方向の他端側(駆動側)はチョックを介して圧下装置3bに接続されている。下側のピンチロール1bにおける作業側はチョックを介して荷重測定装置4aに接続されており、駆動側はチョックを介して荷重測定装置4bに接続されている。
【0020】
圧下装置3a、3bは、ピンチロール1aの作業側および駆動側(軸方向両端部)それぞれにおいてピンチロール1aを圧下する。圧下装置3aは、ピンチロール1aの作業側を、設定されたピンチロール圧下位置で圧下する。圧下装置3bは、ピンチロール1aの駆動側を、設定されたピンチロール圧下位置で圧下する。
【0021】
荷重測定装置4a、4bは、ピンチロール1bの作業側および駆動側それぞれにおける荷重を測定する。荷重測定装置4aは、ピンチロール1bの作業側における荷重を測定する。荷重測定装置4bは、ピンチロール1bの駆動側における荷重を測定する。
【0022】
電動機6はピニオンスタンド8、スピンドル7a、7bを介して所定の駆動トルクまたは制動トルクをピンチロール1a、1bに与えることによって、板材に所定の張力を付与する役割を担っている。
【0023】
板材の板端位置測定装置5は、ピンチロール1a、1bによって搬送されている板材2の、板端位置を連続的に(常時)測定する。板端位置測定装置5は、例えばピンチロール装置100近傍の所定の位置に固定して配置されており、検出した板端位置と既知である板材2の板幅とから、搬送されている板材2の板幅中心位置を導出する。あるいは、板端位置測定装置5は、板材2の板幅が既知でない場合には、板材2の板材幅方向における両端位置を測定することにより板材2の板幅中心位置を導出してもよい。なお、板端位置測定装置5による位置測定方法は限定されるものではなく、例えば、フォトマイクロセンサ、エリアセンサ、光電センサ、近接センサ、ファイバセンサ、又はレーザセンサ等の既知のセンサを用いることができる。
【0024】
次に、図1を参照して、本開示の搬送装置の制御方法の一態様について詳細に説明する。図1では、2基のピンチロール装置を有する搬送装置における制御方法を例示している。図1(a)では、2基のピンチロール装置のうち板材の搬送方向11に対して上流側に位置する#1ピンチロール装置の電動機トルクをα・T、下流側に位置する#2ピンチロール装置の電動機トルクを-α・Tとしている。ここで、T(>0)は板材に張力σ(>0)を与えるピンチロール装置の電動機トルクで、αは0<α<1の範囲の定数である。なお電動機トルクが正の値の場合はピンチロール装置が板材に搬送方向に向かう駆動力を与え、電動機トルクが負の値の場合はピンチロール装置が板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与えることになる。図1(a)では、#1ピンチロール装置の入側張力は、ブライドルロール等の図示しない設備によって、σに制御されており、#1ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tとしているので、#1ピンチロール装置出側張力は入側張力よりもα・σだけ小さくなり、(1-α)σとなる。さらに図1(a)では、#2ピンチロール装置の電動機トルクを-α・Tとし、制動力を与えているので、#2ピンチロール装置出側張力は、入側張力よりもα・σだけ大きくなり、σ、すなわち#1ピンチロール装置入側張力と同じ張力になる。
【0025】
図1(a)において、もし#2ピンチロール装置の電動機トルクを#1ピンチロール装置と同じα・Tの駆動力とした場合、#2ピンチロール装置出側張力は(1-2α)σとなる。この場合、#2ピンチロール装置出側張力はσに比べて大幅に小さくなり、通板が不安定になる危険性が高くなる。そして、もしαが0.5を超える値の場合、#2ピンチロール装置出側張力は負の値、すなわち圧縮力となり、この圧縮力が板材の座屈限界を超えた場合、安定的な通板は不可能となる。以上のことから、板の蛇行を抑制する有効な圧下位置制御を実施するためピンチロール装置に有意な駆動力または制動力を与えることが必要であるという前記した本発明者らの発見を踏まえ、板材の張力を安定通板が可能な一定範囲に収めるためには、図1(a)のように、ピンチロール装置の1基は板材に搬送方向に向かう駆動力を与え、別の1基は板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与えるように制御することが必要となる。
【0026】
図1(b)は、図1(a)とは逆に、#1ピンチロール装置の電動機トルクを-α・T、#2ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tとしている。その結果、#1ピンチロール装置と#2ピンチロール装置間の張力は(1+α)σとなるが、#2ピンチロール出側張力は#1ピンチロール入側張力と同じσとなり、板材の張力の観点からは安定的な通板が可能となる。
【0027】
図1(b)において、もし#2ピンチロール装置の電動機トルクを#1ピンチロール装置と同じ-α・Tの制動力とした場合、#2ピンチロール装置出側張力は (1+2α)σとなる。この場合、αの値が比較的大きい場合、#2ピンチロール装置出側張力はσに比べて大幅に大きくなり、板材の破断の危険性が高くなる。そしてピンチロール装置において有効な蛇行制御を実施するためには、当該ピンチロール装置は十分な駆動力または制動力を付加する必要があることからαの値は大きい方が好ましいのである。
【0028】
図2(a)の実施態様では、#1ピンチロール装置の電動機トルクをα・T、#2ピンチロール装置の電動機トルクを-β・Tとしている。ここで、βはαと同様に0<β<1の範囲の定数である。この結果、図2(a)の実施態様では、#2ピンチロール装置出側張力は(1-α+β)σとなり、βの値に応じて張力レベルを一定範囲に収めつつ、その後の板材処理に好適となるように、#1ピンチロール入側張力とは異なる張力に制御することが可能となる。
【0029】
図2(b)の実施態様では、#1ピンチロール装置の電動機トルクを-α・T、#2ピンチロール装置の電動機トルクをβ・Tとしている。この結果、図2(b)の実施態様では、#2ピンチロール装置出側張力は(1+α-β)σとなり、この場合もβの値に応じて張力レベルを一定範囲に収めつつ、その後の板材処理に好適となるように、#1ピンチロール入側張力とは異なる張力に制御することが可能となる。
【0030】
図3には、さらに多くのピンチロール装置、すなわちn基のピンチロール装置を有する搬送装置における本開示の制御方法の実施態様を示す。図3(a)では、#1ピンチロール装置と#2ピンチロール装置は図1(a)の場合と同じ電動機トルクを与えており、#3ピンチロール装置以降はその繰り返しパターンの電動機トルクを与えるように制御している。その結果、板材の張力は、σと(1-α)σの2水準の繰り返しとなり、多くのピンチロール装置を配していても張力レベルが異常になることはなく、良好な蛇行制御機能を発揮して安定的な通板が可能となる。
【0031】
図3(b)では、#1ピンチロール装置と#2ピンチロール装置は図1(b)の場合と同じ電動機トルクを与えており、#3ピンチロール装置以降はその繰り返しパターンの電動機トルクを与えるよう制御している。その結果、板材の張力は、σと(1+α)σの2水準の繰り返しとなり、多くのピンチロール装置を配していても張力レベルが異常になることはなく、安定的な通板が可能となる。
【0032】
図3(c)は、図3(a)とは異なり、連続した二つのピンチロール装置に同じ電動機トルクを与える実施形態を示している。つまり#1ピンチロール装置の電動機トルクはα・Tであるが、#2ピンチロール装置および#3ピンチロール装置の電動機トルクは-α・T、#4ピンチロール装置および#5ピンチロール装置の電動機トルクはα・T、以下#nピンチロールまでその繰り返しパターンで電動機トルク制御を実施する。その結果、板材の張力は、σ、(1-α)σ、σ、(1+α)σのパターンの繰り返しとなり、この場合も、多くのピンチロール装置を配していても張力レベルが異常になることはなく、安定的な通板が可能となる。
【0033】
図3(d)は、図3(c)と同様に、連続した二つのピンチロール装置に同じ電動機トルクを与える実施形態であるが、図3(c)とは電動機トルクの符号を反転させたパターンとなっている。つまり#1ピンチロール装置の電動機トルクは-α・Tであるが、#2ピンチロール装置および#3ピンチロール装置の電動機トルクはα・T、#4ピンチロール装置および#5ピンチロール装置の電動機トルクは-α・T、以下#nピンチロールまでその繰り返しパターンで電動機トルク制御を実施する。その結果、板材の張力は、σ、(1+α)σ、σ、(1-α)σのパターンの繰り返しとなり、この場合も、多くのピンチロール装置を配していても張力レベルが異常になることはなく、安定的な通板が可能となる。
【0034】
図3(e)は、電動機トルク零のピンチロール装置が混在する搬送装置の実施形態である。#1ピンチロール装置の電動機トルクは-α・Tであるが、#2ピンチロール装置および#3ピンチロール装置の電動機トルクは0、#4ピンチロール装置の電動機トルクはα・T、#5ピンチロール装置の電動機トルクは-α・T、以下#nピンチロールまでは図3(b)と同じパターンで電動機トルク制御を実施する。その結果、#1ピンチロール装置とから#4ピンチロール装置間の板材の張力は(1+α)σとなり、#4ピンチロール以降の張力はσ、(1+α)σのパターンの繰り返しとなり、この場合も、多くのピンチロール装置を配していても張力レベルが異常になることはない。また、電動機トルク0の#2ピンチロール装置と#3ピンチロール装置自体は有効な蛇行制御を実施することはできないものの、その上流側の#1ピンチロール装置と下流側の#4ピンチロール装置において有効な蛇行制御を実施できるため、搬送装置全体としては安定的な通板が可能となる。
【0035】
図4には、搬送ラインの上流側から下流側に向かって板材の張力レベルを次第に変化させることができる実施態様を示す。図4(a)の搬送装置では2n基のピンチロールを有し、1≦i≦nの任意の整数iに対して、#(2i-1)ピンチロール装置の電動機トルクをα・T(0<α<1)、#2iピンチロール装置の電動機トルクを-β・T(0<β<1)としている。その結果、#2iピンチロール装置の出側張力σ2iは次式で表される。
【数1】

したがってα=β≡αであれば図3(a)と同じ張力状態となるが、例えば、α<βであれば下流側で次第に張力が大きくなる。このような張力分布は、例えば、板材の温度が、上流が高く、下流が低くなるようなプロセスに対しては、下流側の方が板材の変形抵抗が高くなるため好適となる場合が多い。逆に、α>βとすれば下流側で次第に張力を小さくすることもできる。なお、この実施態様では、α、βの値をiの値に応じて変更することによって、種々の張力パターンを得ることができ、板材の加熱、冷却、表面処理等の種々の処理装置の配置に応じて最適な張力状態を実現しつつ、有効な蛇行制御実施し、安定通板を実現することが可能となる。
【0036】
図4(b)の搬送装置では2n基のピンチロールを有し、1≦i≦nの任意の整数iに対して、#(2i-1)ピンチロール装置の電動機トルクを-α・T (0<α<1)、#2iピンチロール装置の電動機トルクをβ・T(0<β<1)としている。その結果、#2iピンチロール装置の出側張力σ2iは次式で表される。
【数2】

したがって図4(b)の実施態様は図4(a)の実施態様に比べて、α、βの符号を反転したものとなっており、#(2i-1)ピンチロール装置出側張力が入側張力に比べて高く設定されることが特徴となっている。
【0037】
次に、図6を参照して、本開示のピンチロール装置の圧下装置の制御方法の実施態様について詳細に説明する。まず板幅中心位置現在値を検出する。図5のように板端位置を連続的に測定できる装置5が搬送装置近傍に配備されている場合、この測定値と既知の板幅から板幅中心位置現在値を算出する。例えば、図5に示すようにラインセンターを原点としピンチロール軸に沿って作業側を正とする座標zを定義して位置を示すものとし、作業側に配備された板端位置測定装置5で測定された作業側板端位置をzとし、既知の板幅をbとするとき、駆動側の板端位置はz-bで推定されるから板幅中心位置現在値zはこれらの平均値として次式で計算される。
【数3】

なお板幅の値が不確定な場合は駆動側にも板端位置測定装置を配し、駆動側板端位置zを実測して、作業側板端位置zと駆動側板端位置zの平均値として板幅中心位置現在値zを算出する。板幅中心位置現在値は厳密にはピンチロール直下の板幅中心位置であることが好ましいが、板端位置測定装置5が搬送装置に十分近ければ上記計算値zを板幅中心位置現在値とみなしてよい。さらに正確さを期する場合、搬送装置の入側と出側双方に板端位置測定装置を配備し、それぞれの実測値から計算される板幅中心位置zの平均をとって板幅中心位置現在値とすることが好ましい。本開示では以上のように実測値から演算によって板幅中心位置現在値を得ることを“板幅中心位置現在値を検出”と表現している。
【0038】
図6のフローチャートに戻り本開示に係る搬送装置の制御方法の説明を続ける。板材2の板幅中心位置現在値を検出した後、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えているかどうかを判定する。本開示に係る搬送装置の制御方法の一態様では、ピンチロール1a、1bを駆動している電動機6は板材2に所定の張力を付加するためトルク制御を実施する。これは具体的には電動機に供給する電流を制御することになる。そこで電動機の電流の制御目標値を抽出するか、または電流実績値を測定することにより、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えているかどうかを判定する。
【0039】
さらに図6のフローチャートにおいて、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えていると判定された場合、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として、ピンチロールの作業側と駆動側のうち、板幅中心位置目標値側の荷重が相対的に大きくなる方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作する。この圧下位置操作について図7を用いて説明する。図7ではピンチロールの胴長中心となるラインセンター9に対して板幅中心位置現在値10は作業側に寄っている。ここでは説明を簡単にするため、このときの板幅中心位置目標値はラインセンター9に一致しているものとするが、目標値はその他の位置であっても差支えない。この場合、板材2を駆動側に戻すことが制御目標となるが、その時、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値10を基準として板幅中心位置目標値(ラインセンター9)側、すなわち駆動側の荷重が、作業側の荷重に比べて、相対的に大きくなる方向に圧下装置を操作する。具体的には作業側の圧下位置をロールギャップ開の方向、駆動側の圧下位置をロールギャップ閉の方向に操作する。このように作業側と駆動側で逆方向に同じ大きさだけ圧下位置操作を実施することを本開示では圧下レベリング操作と称するが、上記の圧下レベリング操作により、ピンチロール~板材間の荷重合計は変化することなく荷重分布が変化し、図7における板材2はピンチロール回転に伴い駆動側に戻る。
【0040】
一方、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向とは逆方向の制動力を与えていると判定された場合、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として、ピンチロールの作業側と駆動側のうち、板幅中心位置目標値側の荷重が相対的に小さくなる方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作する。図7の例では、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値10を基準として板幅中心位置目標値(ラインセンター9)側すなわち駆動側の荷重が、作業側の荷重に比べて、相対的に小さくなる方向に圧下装置を操作する。すなわち作業側ロールギャップ閉、駆動側ロールギャップ開の方向に圧下レベリング操作をすることで図7における板材2はピンチロール回転に伴い駆動側に戻る。なお、ピンチロールが板材に駆動力も制動力も与えていない場合、すなわちピンチロールがアイドル回転状態の場合は、圧下レベリング操作は、必ずしも蛇行制御に有効ではなく逆に板材の形状を乱す危険性もあるので、実施しない。
【0041】
次に図6のフローチャートにおいてS1、S2で示されている圧下レベリング操作の詳細について、さらに具体的な実施態様を示して説明する。
【0042】
板材2の板幅をb、図8に示すようにラインセンター9を原点としピンチロール軸に沿って作業側を正とする座標zを定義して、板幅中心位置現在値10の座標をz、板幅中心位置目標値の座標をzとする。図8の例では説明を簡単にするためz=0、すなわち板幅中心位置目標値はラインセンター9に一致しているものとする。このとき荷重作用点位置目標値zp_refを、例えば以下の式(4)により導出する。
【数4】

ここで、δは制御パラメータである。式(4)は板幅中心位置現在値zと板幅中心位置目標値zとの差で板位置誤差を算出し、これに制御パラメータδを掛けたものを板幅中心位置現在値zに加算して荷重作用点位置zp_refを演算している。なお荷重作用点位置とは作業側荷重測定装置による荷重測定値Pと駆動側荷重測定装置による荷重測定値Pの二つの力を、荷重およびモーメントバランスのとれる一つの集中荷重Pに置き換えた場合の荷重作用点の位置を示すものである。そして荷重P,Pは板材からピンチロールに作用する荷重の反力であるから、当該荷重作用点位置は、板材とピンチロール間に作用する荷重分布を、荷重およびモーメントバランスの観点から集中荷重に置き換えた場合の荷重作用点位置とも一致する。
【0043】
まずピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合、すなわち図6のS1の圧下レベリング操作の具体例について詳細に説明する。この場合、式(4)の制御パラメータδを負の値に設定する。例えば、δ=-0.5とすると、z=0を考慮して、式(4)よりzp_ref=0.5zが得られる。このようにすると、図8のようにz>0すなわち板幅中心位置現在値10がラインセンター9より作業側にある場合は、荷重作用点位置目標値は板幅中心位置現在値10よりも駆動側に位置することになり、このことによって板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布20は、図8に示したように、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重、すなわち駆動側の荷重が、作業側に比べて相対的に大きくなる。
【0044】
上記した荷重作用点位置と板材~ピンチロール間の荷重分布の関係を定量的に示しておく。板材~ピンチロール間の荷重分布を直線分布で近似し、任意の位置の単位幅あたりの荷重pを次式で表現する。なお以後、単位幅あたりの荷重を線荷重と呼称する。
【数5】

ここで、ζは板幅中心を原点とし作業側を正とする板幅方向座標、pは板幅中心位置の線荷重、pdfは作業側板端の線荷重と駆動側板端の線荷重の差異である。
式(5)の荷重分布による板幅中心まわりのモーメントMを計算すると次のようになる。
【数6】

したがって、板材~ピンチロール間の荷重分布を力およびモーメントに関して等価な集中荷重で置き換えたときの力の作用点の板幅中心からの距離ζは次式で計算される。
【数7】

式(7)より、荷重作用点位置が板幅中心より駆動側にある場合、すなわちζ<0の場合、pdf<0となり、駆動側の板材~ピンチロール間荷重が作業側の板材~ピンチロール間荷重よりも大きくなることが理解できる。
【0045】
さて以上のように荷重作用点位置目標値zp_refが求められた後、圧下レベリング操作までの具体的手順の例について説明を続ける。まず、作業側および駆動側それぞれにおける荷重目標値PW_ref,PD_refを導出する。具体的には、式(4)で与えられた荷重作用点位置目標値zp_refに基づいて、ピンチロール荷重の左右差(作業側―駆動側)、すなわち差荷重の目標値Pdf_refを、ピンチロールのモーメントバランスから導かれる次式で計算する。
【数8】

W_ref,PD_refは、式(8)で計算されるPdf_refとトータル荷重の目標値P_ref=PW_ref+PD_refとから以下の式(9)および式(10)で計算される。
【数9】

【数10】
【0046】
次に、作業側および駆動側それぞれにおける荷重目標値PW_ref,PD_refと、荷重測定装置4a、4bにより測定される作業側および駆動側それぞれにおける荷重現在値と、に基づき、作業側および駆動側それぞれにおけるピンチロール圧下位置制御量の目標値を導出する。板材2の板厚、板幅、弾性定数を考慮したピンチロール装置の剛性を片側分でK、荷重測定装置4a、4bで測定された荷重の現在値をP,Pとすると、ピンチロール装置の圧下位置修正量の作業側目標値ΔgW_refおよび駆動側目標値ΔgD_refは以下の式(11)および式(12)で与えられる。
【数11】

【数12】
【0047】
ここでΔgW_ref,ΔgD_refは上下ピンチロール間隙を大きくする方向を正として定義している。これらの圧下位置修正量の目標値ΔgW_ref,ΔgD_refにスケールファクターαをかけてピンチロール圧下位置制御量Δg,Δgを以下の式(13)および式(14)で演算する。
【数13】

【数14】

式(13)に基づいて導出した作業側ピンチロール圧下位置制御量の目標値Δgに基づき作業側の圧下装置3aを制御すると共に、式(14)に基づいて導出した駆動側ピンチロール圧下位置制御量の目標値Δgに基づき駆動側の圧下装置3bを操作して、作業側および駆動側それぞれのピンチロール圧下位置を制御する。このようにして圧下位置制御を行うことにより、制御の1サイクルが完結し、以後この一連の操作を繰り返すことで圧下レベリング操作による良好な蛇行制御が実現できる。
【0048】
なお上記の具体例では、圧下位置制御は作業側および駆動側で同じ方向の同時圧下成分が含まれることもあるが、この成分は作業側荷重と駆動側荷重の合計となるピンチロール荷重を制御することになる。一方、本開示の制御方法にとって本質的に重要なのは作業側と駆動側で逆方向となる圧下レベリング成分であり、この成分は作業側荷重と駆動側荷重の差異となる差荷重を制御する。そこで、同時圧下成分による荷重制御は他の制御機能に委ね、板の蛇行制御に関しては圧下レベリング操作に特化する方法も有効である。具体的には式(8)で計算される差荷重目標値Pdf_refと差荷重現在値Pdfとの差で差荷重制御量ΔPdfを算出し、これを達成するための圧下レベリング制御量目標値Δgdf_refを板材の板厚、板幅、弾性定数、そしてピンチロール装置の変形特性を考慮して求め、これにスケールファクターを考慮して圧下レベリング制御量Δgdfを求める。
【0049】
次に図9を参照して、板幅中心位置現在値10がラインセンター9より駆動側にある場合の図1のS1の手続きについて説明する。この場合も荷重作用点位置は式(4)で計算する。δ=-0.5、z=0を考慮すると、荷重作用点の位置は、図8の場合と同様にzp_ref=0.5zとなる。しかしながら、図9の場合、z<0であるから荷重作用点位置は板幅中心位置現在値10よりも作業側に位置することになる。したがって、図9の場合、図8とは逆に、作業側の板材~ピンチロール間荷重を駆動側の板材~ピンチロール間荷重に比べて大きくすることになる。
【0050】
次に、図10を参照して、図6のS2の圧下レベリング操作の具体例について説明する。S2の手続きはピンチロールが板材に搬送方向に向かう制動力を与えていると判定された場合に実行する。この場合の手続きも、1点を除いて前記したS1の手続きと同じである。唯一異なる点は、式(4)の制御パラメータδを正の値に設定することである。例えば、式(4)においてδ=0.5、z=0とするとzp_ref=1.5zが得られる。これにより、図10に示すようにz>0すなわち板幅中心位置現在値10がラインセンター9より作業側にある場合は、荷重作用点位置目標値は板幅中心位置現在値10よりもさらに作業側に位置することになり、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布20は、図10に示したように、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重、すなわち駆動側の板材~ピンチロール間荷重が、作業側の板材~ピンチロール間荷重に比べて相対的に小さくなる。上記のようにして荷重作用点位置目標値が得られた後の手続きはS1の手続きと全く同じである。
【0051】
次に図11を参照して、板幅中心位置現在値10がラインセンター9より駆動側にある場合の図6のS2の手続きについて説明する。この場合も荷重作用点位置は式(4)で計算する。図10の実施例と同様にδ=0.5、z=0とするとzp_ref=1.5zが得られる。しかしながら、図11の場合、z<0であるから荷重作用点位置は板幅中心位置現在値10よりも駆動側に位置することになる。したがって、図11の場合、図10とは逆に、作業側の板材~ピンチロール間荷重を駆動側の板材~ピンチロール間荷重に比べて小さくすることになる。
【0052】
本開示の搬送装置の制御方法の一態様では、図5に示した板端位置測定装置5を配備することなく、ピンチロールの軸方向両端部それぞれに配備された荷重測定装置により測定される作業側および駆動側の荷重測定値から、板材の板幅中心位置現在値を検出し、この板幅中心位置現在値に基づき圧下レベリング操作を実施する。以下、図12を参照して、荷重測定値より板幅中心位置現在値を算出する方法の一例を具体的に説明する。図12では板材からピンチロールに作用する荷重Pを板材の板幅中心に作用する集中荷重で表現している。板材の板幅中心はラインセンター9よりzの位置にあり、ピンチロールの軸方向両端部のうち作業側の荷重測定装置で測定される荷重測定値をP、駆動側の荷重測定装置で測定される荷重測定値をPとする。作業側荷重測定装置と駆動側荷重測定装置の距離をaとするとき、これらの荷重の間にはピンチロールのモーメントの平衡条件より次の関係式が成立する。
【数15】

式(15)をzについて解くと板幅中心位置現在値zが次式で得られる。
【数16】

式(16)によれば作業側および駆動側の荷重測定値より板材の板幅中心位置を求めることができる。ただし、式(16)は板材~ピンチロール間荷重分布が板幅方向に左右対称となっていることを前提とした計算式であり、左右非対称となっている場合は、その非対称性が荷重測定値の左右差P-Pにおよぼす影響を除外した上で板幅中心位置zを計算しなければならない。例えば、板材~ピンチロール間荷重分布が直線分布であり、作業側の線荷重と駆動側の線荷重との差異すなわち荷重分布左右差がpdfとなっている場合、この荷重分布左右差がP-Pにおよぼす影響は、板幅をbとするとき、pdf・b/(6a)で与えられるから式(16)の代わりに次式を用いて板幅中心位置 を計算する。
【数17】
【0053】
ここで荷重分布左右差pdfについては、例えば、初期設定の圧下位置では零を仮定し、その後の圧下レベリング操作Δgdfに対しては、ピンチロールと板材の弾性変形を考慮して計算される板材~ピンチロール間荷重分布左右差の変化量Δpdfを、例えば次式によって計算し、これを時系列的に積算することによって求めることができる。
【数18】

ここで、mは板材を単位厚さだけピンチロール圧下したときの線荷重増分を表す板材の弾性定数であり、Dは、第二種平行剛性と呼ばれ、荷重分布左右差が単位量だけ変化したときにピンチロールを含めた搬送装置の弾性変形により生ずる板厚左右差を表わすパラメータであり、何れも設備仕様および板材の寸法と弾性係数が与えられれば公知の方法により予め計算できるものである。
【0054】
図13には、仕上圧延機12から捲取前ピンチロール13、捲取機14に至るランアウトテーブル上にn基のピンチロール装置を配して搬送装置を構成する薄鈑熱間圧延設備において、板材の先端に張力を付加しつつ通板する本開示の制御方法の実施態様を示す。ピンチロール装置は仕上圧延機12直後の最上流側に#1ピンチロール装置、捲取前ピンチロール13直前の最下流側に#nピンチロール装置が配置されている。図13(a)では、仕上圧延機12が圧延ラインの速度ピボットとして速度制御で作業ロールを駆動して圧延を実行しており、板材の最先端が#1ピンチロール装置に把持され、#1ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tとすることによって、仕上圧延機12~#1ピンチロール装置間の板材に張力α・σが付加されている。
【0055】
図13(b)では、図13(a)より板材が進行して、板材の最先端が#2ピンチロール装置に把持され、#2ピンチロール装置の電動機トルクをTとすることによって、#1ピンチロール装置~#2ピンチロール装置間に張力σが付加されている。さらに#2ピンチロール装置の電動機トルクTが付加されると同時に、#1ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tから-(1-α)Tに変更する。このようにすることで、仕上圧延機12~#1ピンチロール装置間の板材の張力α・σをそのままの値に維持することができる。
【0056】
図13(c)では、図13(b)より、さらに板材が進行して、板材の最先端が#3ピンチロール装置に把持され、#3ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tとすることによって、#2ピンチロール装置~#3ピンチロール装置間に張力α・σが付加されている。さらに#3ピンチロール装置の電動機トルクα・Tが付加されると同時に、#2ピンチロール装置の電動機トルクをTから(1-α)Tに変更する。このようにすることで、#1ピンチロール装置~#2ピンチロール装置間の板材の張力σ、そして仕上圧延機12~#1ピンチロール装置間の板材の張力α・σを維持することができる。
【0057】
図13(d)では、図13(c)より、さらに板材が進行して、板材の最先端が#4ピンチロール装置に把持され、#4ピンチロール装置の電動機トルクをTとすることによって、#3ピンチロール装置~#4ピンチロール装置間に張力σが付加されている。さらに#4ピンチロール装置の電動機トルクTが付加されると同時に、#3ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tから-(1-α)Tに変更する。このようにすることで、#2ピンチロール装置~#3ピンチロール装置間の板材の張力α・σ、#1ピンチロール装置~#2ピンチロール装置間の板材の張力σ、そして仕上圧延機12~#1ピンチロール装置間の板材の張力α・σを維持することができる。
【0058】
図13(e)では、図13(d)より、さらに板材が進行して、板材の最先端が#5ピンチロール装置に把持され、#5ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tとすることによって、#4ピンチロール装置~#5ピンチロール装置間に張力α・σが付加されている。さらに#5ピンチロール装置の電動機トルクα・Tが付加されると同時に、#4ピンチロール装置の電動機トルクをTから(1-α)Tに変更する。このようにすることで、#4ピンチロール装置より上流側の板材の張力を図13(d)の状態に維持することができる。
【0059】
図13(f)では、図13(e)より、さらに板材が進行して、板材の最先端が#6ピンチロール装置に把持され、#6ピンチロール装置の電動機トルクをTとすることによって、#5ピンチロール装置~#6ピンチロール装置間に張力σが付加されている。さらに#6ピンチロール装置の電動機トルクTが付加されると同時に、#5ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tから-(1-α)Tに変更する。このようにすることで、#5ピンチロール装置より上流側の板材の張力を図13(e)の状態に維持することができる。
【0060】
図13において、四角で囲んだ電動機トルクまたは板材の張力の値は、例えば、図13(f)では図13(e)の状態から変更あるいは変化した値を示している。図13(a)~図13(f)より、本実施形態では、板材先端部を把持している最下流のピンチロール装置と、これに隣接する上流側の1基のピンチロール装置の電動機トルクを変更するだけで、さらに上流側のピンチロール装置の電動機トルクを変更することなく、板材に作用する張力も維持できていることがわかる。このようなことが可能になるのは、板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置から板材に作用させる駆動力、例えば図13(b)における#2ピンチロール装置の電動機トルクT、を、隣接する上流側ピンチロール装置に板材最先端が咬み込んだときに作用させた駆動力、例えば図13(a)における#1ピンチロール装置の電動機トルクα・T、とは有意に異なる値としたことによるものである。すなわち、板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置から上流側のピンチロール装置の電動機トルクを順に列挙すると、#5ピンチロール装置に板材最先端が把持された状態すなわち図13(e)の状態では、#5:α・T、#4:(1-α)T、#3:-(1-α)T、#2:(1-α)T、#1:-(1-α)T、となっているが、#6ピンチロール装置に板材最先端が把持された状態すなわち図13(f)の状態では、#6:T、#5:-(1-α)T、#4:(1-α)T、#3:-(1-α)T、#2:(1-α)T、#1:-(1-α)T、となっており、#4ピンチロール装置より上流側のピンチロール装置の電動機トルクは変更する必要がなく、板材に作用する張力も変化がないことが確認できる。
【0061】
図26には、図13と同様に、ランアウトテーブル上にn基のピンチロール装置を配して搬送装置を構成する薄鈑熱間圧延設備において、板材の先端に張力を付加しつつ通板する制御方法の例を示す。図26の例では、板材先端部を把持している最下流側ピンチロール装置の電動機トルクを常にα・Tとしている。このため、図13の場合と同様に板材に作用する張力をσとα・σの2水準と仮定すると、ピンチロール装置の電動機トルクは、#5ピンチロール装置に板材最先端が把持された状態すなわち図26(e)の状態では、#5:α・T、#4:(1-α)T、#3:-(1-α)T、#2:(1-α)T、#1:-(1-α)T、となっているが、#6ピンチロール装置に板材最先端が把持された状態すなわち図26(f)の状態では、#6:α・T、#5:(1-α)T、#4:-(1-α)T、#3:(1-α)T、#2:-(1-α)T、#1:(1-α)T、となっており、すべてのピンチロール装置の電動機トルクを、図26(e)の状態から図26(f)の状態に移行する際に変更する必要がある。このような操業は頻繁な電動機トルクの反転を伴い、安定通板の阻害要因となる上、ピンチロール装置の設備劣化を早めることにもつながるため好ましくない。さらに図26の例では、図26(f)の状態で#5ピンチロール装置と#6ピンチロール装置の間に存在する板材の先端部分には、図26(a)~(e)の状態においても、常に張力α・σが作用し、図26(f)の状態で#4ピンチロール装置と#5ピンチロール装置の間に存在する板材の部分には、常に張力σが作用している。このように板材の長手方向位置によって作用する張力レベルが常に異なることで、特に熱間圧延の場合、板幅の長手方向変動を引き起こす危険性が高まるので、この点でも図26の例は好ましくない。
【0062】
図14には、図13に示した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブル上にn基のピンチロール装置を配した搬送装置の制御方法のその後の手続きを示している。図14(a)では、板材最先端が#n-1ピンチロール装置の手前に達しており、図14(b)では、板材の最先端が#n-1ピンチロール装置に把持され、#n-1ピンチロール装置の電動機トルクをTとしている。その結果、#n-1ピンチロール装置入側張力はσとなっている。
【0063】
図14(c)では、板材の最先端が#nピンチロール装置に把持され、#nピンチロール装置の電動機トルクをα・Tとすることによって、#n-1ピンチロール装置と#nピンチロール装置の間の張力はα・σとなり、同時に#n-1ピンチロール装置の電動機トルクをTから(1-α)Tに変更することによって、#n-1ピンチロール装置より上流側の張力を維持することができている。
【0064】
図14(d)では、板材先端部が捲取前ピンチロール13を経て捲取機14に捲き付き、捲取前ピンチロール13および捲取機14の電動機トルクによって#nピンチロール~捲取前ピンチロール13間に張力σが作用し、同時に#nピンチロール装置の電動機トルクを-(1-α)Tに変更することによって、#nピンチロール装置より上流側で板材に作用している張力を維持することができている。
【0065】
図15には、図14に示した薄板熱間圧延設備のランアウトテーブル上にn基のピンチロール装置を配した搬送装置の制御方法のさらにその後の手続き、すなわち板材の尾端部通板時の制御方法を示している。まず板材最尾端が仕上圧延機12を抜ける前に、圧延ラインの速度ピボットを仕上圧延機12から捲取機14に移行し、捲取機14を、それまでのトルク制御から板材の速度制御へと切り替える。そして図15(a)に示すように板材最尾端が仕上圧延機12を抜けた時点で、仕上圧延機12~#1ピンチロール装置間の張力が0になるので、#1ピンチロール装置~#2ピンチロール装置間の張力σを維持するため、#1ピンチロール装置の電動機トルクをα・Tから-Tに変更する。この操作によって#1ピンチロール装置より下流側の板材の張力を図14の状態のまま維持することができる。
【0066】
図15(b)では、板材最尾端が#1ピンチロール装置を抜け、#1ピンチロール装置~#2ピンチロール装置間の板材張力が0となった時点で、#2ピンチロール装置の電動機トルクを(1-α)Tから-α・Tに変更する。この操作によって#2ピンチロール装置より下流側の板材の張力を図14の状態のまま維持することができる。
【0067】
図15(c)~(f)では、板材の最尾端が#2、#3、#4、#5ピンチロール装置を順次抜ける毎に、各時点において板材を把持している最上流側ピンチロール装置の電動機トルクを-Tまたは-α・Tに変更することにより、当該ピンチロール装置より下流側の板材に作用する張力を経時的に変化させないようにしている。
【0068】
図13~15ではピンチロール装置間の板材に作用する張力が2水準の実施形態を示したが、図16図18には、ピンチロール装置間の板材に作用する張力が3水準の実施形態を示している。この実施形態では、図16および図17に示すように、板材最先端が#1ピンチロール装置から#nピンチロール装置まで順次把持されていく際、それぞれの時点で板材最先端を把持している最下流側ピンチロール装置の電動機トルクを、α・T、2α・T、3α・T、2α・T、α・T、2α・T、・・・と周期的に変更して行き、当該最下流側ピンチロールに隣接する上流側ピンチロール装置の電動機トルクを該ピンチロール装置より上流側の板材張力が変化しないように変更している。このようにすることで最終的に、各ピンチロール装置の電動機トルクは、上流側から下流側に向かって、-α・T、-α・T、α・T、α・T、-α・T、-α・T、・・・となり、板材に作用する張力は、α・σ、2α・σ、3α・σ、2α・σ、α・σ、2α・σ、・・・と周期的に変化する。また図18には板材尾端部通板時の制御方法を示すが、図15の場合と同様に、板材の最尾端が各ピンチロール装置を順次抜ける毎に、各時点において板材を把持している最上流側ピンチロール装置の電動機トルクを、-α・T、-2α・T、-3α・Tの何れかに変更することにより、当該ピンチロール装置より下流側の板材に作用する張力を経時的に変化させないようにしている。このような制御を実施することによって、各ピンチロール装置の電動機は、常時、有意な駆動力または制動力を発揮しており、搬送装置全体として有効な蛇行制御を実施して安定な通板を実現することができる。
【0069】
図13~15の実施形態、そして図16~18の実施形態ともに、上流側のピンチロール装置から下流側のピンチロール装置まで、すべて一定のαの値を前提としてきたが、図4の実施形態に示したように、αの値を上流側から下流側に向かって変化させることで、板材に作用する張力レベルを状況に応じて変化させる実施形態も可能であることは言うまでもない。
【0070】
図19図21には、図16図18に示した板材に作用する張力が3水準の実施形態の応用例として、少ないピンチロール装置を用いて板材に所要の張力を与え、安定通板を実現する実施形態を示す。図19は板材先端部通板時の制御方法を示している。板材先端部が#1~#3ピンチロール装置に把持されている図19(a)~(c)までは図16(a)~(c)と全く同じ制御形態であるが、図19(d)において、板材最先端が#4ピンチロール装置に把持され#4ピンチロール装置の電動機トルクを3α・Tとすると同時に、#3ピンチロール装置の圧下装置を操作し上ピンチロールを開放し板材と非接触状態とする。また、#3ピンチロール装置の電動機はそれまでの3α・Tの駆動トルク制御から板材との同期速度による速度制御に切り替える。以後、図19(e)、(f)では、板材最先端がそれぞれ#5ピンチロール装置そして#6ピンチロール装置に達し、順次電動機トルク3α・Tを付加すると同時に#4ピンチロール装置そして#5ピンチロール装置の圧下装置を操作して上ピンチロールを開放する。
【0071】
図20には、図19の状態からさらに板材が進行し、捲取機14に板材先端部が捲き付くまでの実施形態を示している。図20(a)では、#n-1ピンチロール装置に板材最先端が把持され駆動トルク3α・Tを付加すると同時に、図示していないが、#n-2ピンチロール装置の圧下装置を操作して上ピンチロールを開放している。図20(b)では、#nピンチロール装置に板材最先端が把持され駆動トルク3α・Tを付加すると同時に、#n-1ピンチロール装置の圧下装置を操作して上ピンチロールを開放している。そして図20(c)では、捲取機14に板材先端部が捲き付き、捲取機14および捲取前ピンチロール13によって板材に張力3α・σが付加され、#nピンチロール装置の圧下装置を操作して上ピンチロールを開放している。図20(c)の状態、すなわち非接触状態のピンチロール装置の領域では板材の張力3α・σが付加された状態で、板材の定常部の圧延が進行する。
【0072】
図21には、図20(c)の定常圧延状態が終了し、板材尾端部通板時の制御方法を示している。まず板材最尾端が仕上圧延機12を抜ける前に、圧延ラインの速度ピボットを仕上圧延機12から捲取機14に移行し、捲取機14を、それまでのトルク制御から板材の速度制御へと切り替える。そして図21(a)に示すように、板材最尾端が仕上圧延機12を抜けた時点で、それまで上ピンチロール開放状態であった#3ピンチロール装置の圧下装置を操作して板材に接触させ所定の圧下力を与えた上で、電動機をトルク制御に切り替え-α・Tの制動トルクを与える。その後、図21(b)、(c)、(d)に示すように、板材最尾端が順次#1、#2、#3ピンチロール装置を抜けると同時に、それまで上ピンチロール開放状態であった#4、#5、#6ピンチロール装置の圧下装置を操作して板材に接触させ所定の圧下力を与えた上で、電動機をトルク制御に切り替え-α・Tの制動トルクを与える。このようにすることで板材尾端部近傍の張力をほとんど変化させることなく板材を捲き取ることが可能となる。そして図21(e)では、板材最尾端が、図示しない#n-2ピンチロール装置を抜けた時点で、#n-1ピンチロール装置の電動機トルクを-α・T、#nピンチロール装置の電動機トルクを-2α・Tとして、#nピンチロール装置~捲取前ピンチロール13間の張力3α・σを維持する。なお図示していないが、図21(e)の前段階として、#n-3ピンチロール装置を板材最尾端が抜けた時点で、#n-2ピンチロール装置、#n-1ピンチロール装置、#nピンチロール装置が板材尾端部近傍を把持し、-α・Tの電動機トルクを付加している状態がある。そして図21(f)に示すように、板材最尾端が#n-1ピンチロール装置を抜けた時点で、#nピンチロール装置の電動機トルクを-3α・Tとして、#nピンチロール装置~捲取前ピンチロール13間の張力3α・σを維持する。
【0073】
図19~21の実施形態では、板材先端部通板時は、少なくとも1基のピンチロール装置が常に板材最先端を把持しており、最上流側は2~3基のピンチロール装置が常に板材を把持していたが、これら板材を常時把持するピンチロールの基数については、必要に応じて変更することが可能であることは言うまでもない。
【0074】
[本実施形態の作用効果]
従来、板材の製造・処理ラインにおいては、板材に張力を与えつつ面外変形を防止して板材を円滑に搬送するため、上下一対のピンチロールで板材を挟圧し搬送する装置が用いられる。このような装置においては、板材の板幅中心が該板材製造・処理ラインの中心から外れ、最悪の場合、板材の一部が該ピンチロール胴部から咬み出し板材が損傷する事象が発生し得る。当該事象を回避するために、例えば特許文献1には、ピンチロールのプロフィルとベンディング力の制御に加えて、作業側および駆動側の荷重を測定して、荷重の大きい側の圧下位置を相対的に締め込む方向の圧下レベリング制御を実施する装置が開示されている。この圧下レベリング制御の考え方は圧延機の蛇行制御の考え方と同じで、板材が蛇行した側の荷重が大きくなるので、これを検知して荷重が大きくなった側の圧下位置を相対的に締め込む方向に圧下レベリング制御を実施するものである。ここで具体例として、板材が作業側に寄った場合を考える。圧延の場合、作業側を締め込む圧下レベリング操作によって、作業側の圧下率そして伸び率が大きくなり、その結果、作業側の後進率が大きくなって入側板材が余り、上流側の板材は駆動側に傾くことになる。このように傾斜した板材を圧延することによって板材は駆動側に戻ることになる。ピンチロールによる搬送装置の場合、板材は圧延のように塑性変形することはないが、ピンチロール圧下により板材は弾性的に搬送方向に伸びるので、定性的には圧延と同様の蛇行制御効果が期待できると考えられてきた。
【0075】
本発明者らは、以上のような考え方に基づき、特許文献1に開示されたものと同様の搬送装置と圧下レベリング制御方法を用いて実験を実施した。その結果、良好に蛇行制御できた条件もあったものの、圧下レベリング制御によって逆に蛇行が激しくなった場合も見られた。そこでピンチロール装置の蛇行特性と実験条件の関係を詳細に調査した結果、以下のようなことが明らかとなった。
【0076】
(A)ピンチロール装置入側において板材に負荷されている張力と出側において板材に負荷されている張力とが等しい場合は、板材が蛇行した側の圧下位置を締め込む方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行がやや抑制されたが、その感度は鈍く、外乱が大きい場合は、蛇行を抑制するための圧下レベリング操作が過大となり、板材が塑性変形して板形状が悪化する場合があった。
【0077】
(B)ピンチロール装置の入側張力が出側張力より大きい場合は、板材が蛇行した側の圧下位置を締め込む方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行が発散傾向となり、板位置を安定させることができなかった。逆に、板材が蛇行した側の圧下位置を開放する方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行が抑制され、安定した通板が実現できた。
【0078】
(C)ピンチロール装置の出側張力が入側張力より大きい場合は、板材が蛇行した側の圧下位置を締め込む方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行が抑制され、安定した通板が実現できた。
【0079】
上記したように、入側張力が出側張力より大きい場合は、従来技術の圧下レベリング制御、すなわち板材が蛇行した側の圧下位置を相対的に締め込む圧下レベリング制御が機能しないばかりか、逆に蛇行を助長することが明らかとなった。そしてこの場合、従来技術とは逆方向、すなわち板材が蛇行した側の圧下位置を相対的に開放する圧下レベリング制御が有効であることが明らかとなった。
【0080】
この実験結果が普遍的なものかどうかを検討するため、上記現象のメカニズムについて考察した。
【0081】
従来は、板材の弾性伸びが、ピンチロールの圧下レベリング操作による蛇行制御の基本メカニズムと考えられてきた。しかしながら、このメカニズムだけでは上記した入・出側張力バランス変化による蛇行特性の反転現象を説明することはできない。そこで本発明者らは、この現象のメカニズムについて鋭意検討した結果、次のような思考過程を経て新たなピンチロール装置の蛇行メカニズムを想到するに至った。
【0082】
従来の板材の弾性伸びによる蛇行メカニズムでは、ピンチロールから板材に作用するピンチ力、すなわち板厚方向の圧下力のみを考慮してきたが、この考え方だけでは入・出側張力バランスによる蛇行特性の反転現象を説明することはできない。そこで、入・出側張力バランスが、ピンチロールから板材に作用する力におよぼす影響について考察した。図22にはピンチロール近傍で板材に負荷される搬送方向の力を模式的に示している。図22では入側張力が出側張力より大きい場合を示しているが、この場合、板材に作用する搬送方向力の平衡条件によって、ピンチロールから板材に23a、23bの矢印で示したような搬送方向に向かう駆動力が作用していなければならない。言い換えると、ピンチロールから板材に駆動力23a、23bが作用しているので入側張力が出側張力より大きくなるのである。
【0083】
図23には図22を上から見た平面図を示しており、この例では板材~ピンチロール間荷重分布20は作業側が大きくなっていると想定している。この場合、ピンチロールは板材の作業側を駆動側より強く挟圧しているので、ピンチロールから板材に作用する駆動力は作業側駆動力23a-1が駆動側駆動力23b-2よりも大きくなると考えられる。その結果、ピンチロールから板材に対してモーメント25が作用し、板材の進行速度は作業側が駆動側より僅かに速くなり、板材は図23に示したように傾くことになる。このように入側上流で作業側に傾いた板材がピンチロールによって搬送方向に送られることによって板材は作業側に蛇行することになる。すなわち圧下レベリング操作によって、圧下を強くし荷重が大きくなる側に蛇行することを説明することができる。このような考察から、上記実験事実(B)が普遍的な現象であることが確認できる。なお、ピンチロールから板材に作用する駆動力は、実際には、板材とピンチロールの接触領域にわたって分布する力であるが、ここでは説明を簡単にするため、作業側と駆動側の矢印で代表させて示した。
【0084】
図24には、図22とは逆に、出側張力が入側張力より大きい場合の板材に負荷される搬送方向の力を示している。この場合、板材に作用する搬送方向力の平衡条件によって、ピンチロールから板材に24a、24bの矢印で示したような搬送方向とは逆方向の制動力が作用していなければならない。言い換えれば、ピンチロールから板材に制動力24a、24bが作用しているので出側張力が入側張力より大きくなるのである。
【0085】
図25には図24を上から見た平面図を示しており、この例では板材~ピンチロール間荷重分布20は作業側が大きくなっていると仮定している。この場合、ピンチロールは板材の作業側を駆動側より強く挟圧しているので、ピンチロールから板材に作用する制動力は作業側制動力24a-1が駆動側制動力24b-2よりも大きくなると考えられる。その結果、ピンチロールから板材に対してモーメント25が作用し、板材の進行速度は作業側が駆動側より僅かに遅くなり、板材は図25に示したように傾くことになる。このように入側上流で駆動側に傾いた板材がピンチロールによって搬送方向に送られることによって板材は駆動側に蛇行することになる。すなわち圧下レベリング操作によって、圧下を強くし荷重が大きくなる側と反対側に蛇行することになる。この蛇行特性は板材の弾性伸びを考慮したメカニズムと定性的には同じである。このような考察から、上記実験事実(C)が普遍的な現象であることが確認できる。
【0086】
ところで、入側張力が出側張力より有意に大きい場合、すなわちピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合、例外なく、圧下を強くし荷重が大きくなる側に板材は蛇行した。この蛇行特性は板材の弾性伸びを考慮したメカニズムとは逆方向であることを考慮すると、蛇行特性におよぼす板材の弾性伸びの効果は、入・出側張力差すなわちピンチロールの駆動力または制動力の効果に比べて、極めて小さいと結論される。このような考察から、上記実験事実(A)が普遍的な現象であることが確認できる。したがって、ピンチロール装置の圧下レベリング操作によって有効な蛇行制御を実施するにはピンチロール装置が板材に対して有意な駆動力または制動力を与える必要があることが確認できる。
【0087】
上記のような発見と考察を経て本発明はなされたものであり、ピンチロールで板材を狭圧し搬送するピンチロール装置を直列に複数基有する搬送装置において、板材の張力を所定の許容範囲に制御しつつ、良好な蛇行制御を実施する制御方法を開示している。特に、板材の張力を所定の許容範囲に制御するため、ピンチロール装置の少なくとも1基は板材に搬送方向に向かう駆動力を与え、また少なくとも別の1基は板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与える制御を実施し、板材の蛇行制御に関しては、板材に搬送方向に向かう駆動力を与えているピンチロール装置においては、板材と該ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に大きくする方向に該ピンチロール装置の作業側および駆動側の圧下装置を操作し、板材に搬送方向とは逆方向の制動力を与えているピンチロール装置においては、板材と該ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に小さくする方向に該ピンチロール装置の作業側および駆動側の圧下装置を操作する。
【0088】
このような制御を実施することによって、ピンチロール装置を直列に複数基有する搬送装置において、あらゆる状態に対応した板材の張力制御および蛇行制御が実現できる。
【符号の説明】
【0089】
1a、1b…ピンチロール、2…板材、3a、3b…圧下装置、4a、4b…荷重測定装置、5…板材の板端位置測定装置、6…電動機、7a、7b…スピンドル、8…ピニオンスタンド、9…ラインセンター、10…板幅中心位置現在値、11…板材の搬送方向、12…仕上圧延機、13…捲取前ピンチロール、14…捲取機、20…板材~ピンチロール間荷重分布、21…入側張力、22…出側張力、23a、23b、23a-1、23a-2…ピンチロールから板材に作用する駆動力、24a、24b、24a-1、24a-2…ピンチロールから板材に作用する制動力、25…ピンチロールから板材に作用するモーメント、100…板材搬送装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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図17
図18
図19
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