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7149892光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法
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  • -光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法 図1
  • -光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法 図2
  • -光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/08 20060101AFI20220930BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20220930BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20220930BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C09D133/08
G02C7/10
G02B5/23
C08F220/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019067807
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164692
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/058218(WO,A1)
【文献】特開2017-052869(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161642(WO,A1)
【文献】特開2015-025063(JP,A)
【文献】特開2000-008032(JP,A)
【文献】国際公開第03/011967(WO,A1)
【文献】特開2019-019171(JP,A)
【文献】特開2008-058932(JP,A)
【文献】特開2006-249220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
G02C 1/00- 13/00
G02B 5/20- 5/28
C08C19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
B05D 1/00- 7/26
C08J 7/04- 7/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、
脂環式の2官能(メタ)アクリレートと、
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
を含む、光学物品用コーティング組成物。
【請求項2】
前記2種以上の(メタ)アクリレートは、非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含む、請求項1に記載の光学物品用コーティング組成物。
【請求項3】
前記脂環式の2官能(メタ)アクリレートを、前記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含む、請求項1または2に記載の光学物品用コーティング組成物。
【請求項4】
前記脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、メタクリレートである、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学物品用コーティング組成物。
【請求項5】
レンズ基材と、
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品用コーティング組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
を有する眼鏡レンズ。
【請求項6】
請求項5に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【請求項7】
基材と、
請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品用コーティング組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
を有する光学物品。
【請求項8】
ゴーグル用レンズである、請求項7に記載の光学物品。
【請求項9】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項7に記載の光学物品。
【請求項10】
ヘルメットのシールド部材である、請求項7に記載の光学物品。
【請求項11】
基材上に請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品用コーティング組成物を塗布すること、および、
前記塗布された光学物品用コーティング組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成すること、
を含む光学物品の製造方法。
【請求項12】
前記光学物品は、眼鏡レンズである、請求項11に記載の光学物品の製造方法。
【請求項13】
前記光学物品は、ゴーグル用レンズである、請求項11に記載の光学物品の製造方法。
【請求項14】
前記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分である、請求項11に記載の光学物品の製造方法。
【請求項15】
前記光学物品は、ヘルメットのシールド部材である、請求項11に記載の光学物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品用コーティング組成物、眼鏡レンズ、眼鏡および眼鏡レンズの製造方法、ならびに光学物品および光学物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で発色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。眼鏡レンズ等の光学物品にフォトクロミック性を付与する方法としては、フォトクロミック化合物と硬化性化合物とを含むコーティングを基材上に設け、このコーティングを硬化させてフォトクロミック性を有する硬化層(フォトクロミック層)を形成する方法が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2003/011967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなフォトクロミック性を有する光学物品に望まれる性質としては、光に対する応答速度が速いこと(光応答性に優れること)が挙げられる。また、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高いことも望ましい。
【0005】
本発明の一態様は、光応答性に優れ、かつ高濃度で発色可能なフォトクロミック層を形成することが可能な光学物品用コーティング組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、
上記2種以上の(メタ)アクリレートは、
脂環式の2官能(メタ)アクリレートと、
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートと、
を含む、光学物品用コーティング組成物(以下、単に「組成物」とも記載する。)、
に関する。
【0007】
上記光学物品用コーティング組成物は、(メタ)アクリレートとして、脂環式の2官能(メタ)アクリレートと非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートとを含む。これにより、この組成物を硬化させて形成されるフォトクロミック層において、フォトクロミック化合物は、優れた光応答性を示すことができ、かつ光照射を受けて高濃度で発色することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、光応答性に優れ、かつ光照射を受けて高濃度で発色可能なフォトクロミック層を形成することが可能な光学物品用コーティング組成物を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズであって、光応答性に優れ、かつ光照射を受けて高濃度で発色可能な眼鏡レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例および比較例の発色濃度の評価結果を示す。
図2】実施例1~3および比較例1の光応答性(退色速度)の評価結果を示す。
図3】実施例および比較例の硬化性の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[光学物品用コーティング組成物]
本発明の一態様にかかる光学物品用コーティング組成物は、フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含む。以下に、これら成分について、更に詳細に説明する。
【0011】
<(メタ)アクリレート>
本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。なおアクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。以下に記載の「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシル基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0012】
上記組成物は、2種以上の(メタ)アクリレートを含む。そのうちの1種は脂環式の2官能(メタ)アクリレートであり、他の1種は非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートである。脂環式の2官能(メタ)アクリレートとは、脂環構造を有し、1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基の数が2つである化合物をいうものとする。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートとは、環状構造を含まず、1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基の数が3つ以上である化合物をいうものとする。これら化合物を含むことが、この組成物から形成されるフォトクロミック層が光照射を受けて高濃度で発色可能であり、かつ優れた光応答性を示すことができる理由と推察される。
【0013】
(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)
脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、例えば、R-(L)n1-Q-(L)n2-Rで表される構造を有する化合物であることができる。ここでQは二価の脂環族基を表し、RおよびRはそれぞれ独立に(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に連結基を表し、n1およびn2はそれぞれ独立に0または1を表す。Qで表される二価の脂環族基としては、炭素数3~20の脂環式炭化水素基が好ましく、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、トリシクロデカニレン基、アダマンチレン基等を挙げることができる。LおよびLで表される連結基としては、例えばアルキレン基を挙げることができる。アルキレン基は、例えば炭素数1~6のアルキレン基であることができる。
脂環式の2官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。脂環式の2官能(メタ)アクリレートの分子量は、例えば200~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。なお本発明および本明細書において、重合体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用している。脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一態様では、脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むこと、即ちメタクリレートであることが好ましい。
【0014】
(非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート)
非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、3~5官能の(メタ)アクリレートであることが好ましく、3官能または4官能の(メタ)アクリレートであることがより好ましく、3官能(メタ)アクリレートであることが更に好ましい。非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの分子量は、例えば200~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一態様では、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むこと、即ちメタクリレートであることが好ましい。
【0015】
(他の(メタ)アクリレート)
上記組成物は、(メタ)アクリレートとして、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを1種または2種以上含むことができ、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートを1種または2種以上含むことができる。上記組成物は、これらの(メタ)アクリレートに加えて、他の(メタ)アクリレートを1種以上含んでもよく、含まなくてもよい。他の(メタ)アクリレートは、例えば組成物の粘度調整等のために使用することができる。他の(メタ)アクリレートは、例えば非環状または環状の2官能以上の(メタ)アクリレートであることができる。他の(メタ)アクリレートは、2~5官能の(メタ)アクリレートであることができ、2~4官能であることが好ましく、2官能または3官能であることがより好ましく、2官能であることが更に好ましい。他の(メタ)アクリレートの分子量は、例えば150~350の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0016】
一態様では、他の(メタ)アクリレートは、非環状の2官能(メタ)アクリレートであることができる。その具体例としては、例えば、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0017】
上記組成物に含まれる2種以上の(メタ)アクリレートの合計量を100質量%とすると、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。また、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの上記含有率は、例えば80質量%以下であることができ、80質量%超であることもできる。一方、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの含有率は、上記組成物に含まれる2種以上の(メタ)アクリレートの合計量を100質量%とすると、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートの上記含有率は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。脂環式の2官能(メタ)アクリレートと非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートとの合計含有率は、上記組成物に含まれる2種以上の(メタ)アクリレートの合計量を100質量%とすると、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが一層好ましい。また、脂環式の2官能(メタ)アクリレートと非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートとの上記合計含有率は、例えば90質量%以下であることができ、85質量%以下であることもできる。一方、脂環式の2官能(メタ)アクリレートおよび非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート以外の他の(メタ)アクリレートの含有率は、上記組成物に含まれる2種以上の(メタ)アクリレートの合計量を100質量%とすると、0質量%であることもでき、0質量%超であることもできる。上記組成物に他の(メタ)アクリレートが含まれる場合、その含有率は、上記組成物に含まれる2種以上の(メタ)アクリレートの合計量を100質量%とすると、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、他の(メタ)アクリレートの上記含有率は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。また、上記組成物は、(メタ)アクリレートを合計で、この組成物の全量100質量%に対して、例えば80~99.9質量%の含有率で含むことができる。
【0018】
<フォトクロミック化合物>
上記組成物は、2種以上の(メタ)アクリレートとともにフォトクロミック化合物を含む。上記組成物に含まれるフォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用するおともできる。上記組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、組成物全量を100質量%として、例えば0.1~15質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0019】
<任意成分>
先に記載した(メタ)アクリレートは硬化性化合物であるため、(メタ)アクリレートを含む上記組成物は硬化性組成物であることができ、硬化処理が施されると硬化して硬化層を形成することができる。上記組成物は、硬化反応(重合反応ともいう)を開始するための重合開始剤を含むことができる。重合開始剤としては、硬化反応の種類に応じて、光重合開始剤、熱重合開始剤等の公知の重合開始剤を使用することができる。重合開始剤の使用量は、重合条件や重合開始剤の種類、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物の種類に応じて決定すればよい。
【0020】
上記組成物には、更に、フォトクロミック化合物を含む組成物に添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0021】
上記組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0022】
上記組成物は、光学物品用コーティング組成物である。光学物品用コーティング組成物とは、光学物品の製造のために基材等に塗布される組成物を意味する。光学物品としては、各種レンズが挙げられ、好ましくは眼鏡レンズを挙げることができる。上記組成物をレンズ基材に塗布して作製される眼鏡レンズは、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズとなり、フォトクロミック性を示すことができる。
【0023】
[眼鏡レンズおよび眼鏡レンズの製造方法]
本発明の一態様は、
レンズ基材と上記組成物を硬化させたフォトクロミック層とを有する眼鏡レンズ;ならびに、
レンズ基材上に上記組成物を塗布すること、および、
塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成すること、
を含む眼鏡レンズの製造方法、
に関する。以下に、上記眼鏡レンズおよび眼鏡レンズの製造方法について更に詳細に説明する。
【0024】
<レンズ基材>
上記眼鏡レンズに含まれるレンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0025】
上記眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0026】
上記組成物を用いて形成されるフォトクロミック層は、レンズ基材の表面上に直接設けてもよく、一層以上の他の層を介して間接的に設けてもよい。他の層としては、フォトクロミック層とレンズ基材との密着性を向上させるためのプライマー層を挙げることができる。そのようなプライマー層は公知である。
【0027】
<フォトクロミック層>
上記眼鏡レンズのフォトクロミック層は、レンズ基材の表面上に直接または一層以上の他の層を介して間接的に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記組成物に含まれる各種成分(先に記載した(メタ)アクリレート、重合開始剤等)の種類や上記組成物の組成に応じて決定すればよい。こうして形成されるフォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0028】
上記のフォトクロミック層を有する眼鏡レンズは、フォトクロミック層に加えて一層以上の機能性層を有してもよく、有さなくてもよい。機能性層としては、ハードコート層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の眼鏡レンズの機能性層として公知の層を挙げることができる。
【0029】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡レンズは、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて発色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【0030】
[光学物品および光学物品の製造方法]
本発明の一態様は、
基材と上記組成物を硬化させたフォトクロミック層とを有する光学部材;ならびに、
基材上に上記組成物を塗布すること、および、
塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成すること、
を含む光学物品の製造方法、
に関する。
【0031】
上記光学物品の一態様は、先に記載した眼鏡レンズである。また、上記光学物品の一態様としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることができる。
【実施例
【0032】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
<光学物品用コーティング組成物の調製>
プラスチック製容器内で、(メタ)アクリレートの合計100質量%に対して、68質量%のトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)、12質量%のトリメチロールプロパントリメタクリレート(非環状の3官能(メタ)アクリレート)、20質量%のネオペンチルグリコールジメタクリレート(他の(メタ)アクリレート)を混合し、(メタ)アクリレート混合物を調製した。この(メタ)アクリレート混合物に、フォトクロミック化合物(米国特許第5645767号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)、光重合開始剤(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)、酸化防止剤(ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)])、光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し十分に撹拌した後、シランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を撹拌しながら滴下した。その後、自動公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。
以上の方法により、下記表1に示す組成を有する光学物品用コーティング組成物を調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
<眼鏡レンズの作製>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS;中心肉厚2.5mm、半径75mm、S-4.00)を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。詳しくは、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン;粘度100CPS、固形分濃度38質量%)を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、15分間自然乾燥させることにより、厚さ5.5μmのプライマー層を形成した。
上記プライマー層の上に、上記で調製した組成物をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載の方法により行った。その後、プラスチックレンズ基材上に塗布された上記組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは45μmであった。
実施例および比較例について、それぞれ光照射時間を変えることでフォトクロミック層の硬化反応の進行の程度を変えた眼鏡レンズを複数作製した。
【0036】
[実施例2]
脂環式の2官能(メタ)アクリレートをトリシクロデカンジメタノールジアクリレートに変更した点以外、実施例1と同様にしてフォトクロミック層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0037】
[実施例3]
ネオペンチルグリコールジメタクリレートを使用しなかった点以外、実施例1と同様にしてフォトクロミック層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0038】
[比較例1]
脂環式の2官能(メタ)アクリレートに代えて、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(2,2ビス[4-(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(EO10mol))を使用した点以外、実施例1と同様にしてフォトクロミック層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0039】
[比較例2]
脂環式の2官能(メタ)アクリレートに代えて、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量508)を使用した点以外、実施例1と同様にしてフォトクロミック層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0040】
[評価方法]
<発色濃度>
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって発色濃度の評価を行った。
実施例および比較例の各眼鏡レンズのフォトクロミック層に対し、キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、フォトクロミック層の表面に対して光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を発色させた。この発色時の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。上記光照射は、JIS T7333:2005に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表2に示す値となるように行った。
【0041】
【表2】
【0042】
上記で測定される透過率の値が小さいほどフォトクロミック化合物が高濃度に発色していることを意味する。
【0043】
図1に、発色濃度の評価結果として、フォトクロミック層形成時の光照射時間に対して上記で求められた透過率をプロットしたグラフを示す。
【0044】
<光応答性(退色速度)>
光応答性(退色速度)を以下の方法により評価した。
実施例および比較例の各眼鏡レンズの光照射前(未発色状態)の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。ここで測定された透過率を「初期透過率」と呼ぶ。
実施例および比較例の各眼鏡レンズのフォトクロミック層に対し、キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、フォトクロミック層の表面に対して光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を発色させ、発色時透過率を上記と同様に測定した。
その後、光照射を止めた時間から透過率が[(初期透過率-発色時透過率)/2]となるまでに要する時間(半減期)を測定した。こうして測定される半減期の値が小さいほど、退色速度が速く光応答性に優れると判断することができる。
【0045】
上記評価後の眼鏡レンズのフォトクロミック層の硬さ(マルテンス硬さ)を、以下の方法により測定した。フォトクロミック層の硬化反応の進行の程度はフォトクロミック層の硬さで判断することができ、フォトクロミック層が硬いほど硬化反応がより進行していると判断できる。
エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT-2100を使用して、フォトクロミック層の表面に荷重100mgfで圧子を押し込み、このときに圧子が侵入した表面積を押し込み深さから測定し、「荷重/圧子が侵入した表面積」としてマルテンス硬さ(kgf/mm)を求めた。
【0046】
図2に、光応答性(退色速度)の評価結果として、実施例1~3および比較例1について、上記で求められたフォトクロミック層のマルテンス硬さに対して半減期をプロットしたグラフを示す。
【0047】
図1に示す結果から、発色濃度の観点からは、実施例1~3および比較例1の眼鏡レンズは、比較例2の眼鏡レンズより優れていることが確認できる。
一方、光応答性(退色速度)の観点から実施例1~3と比較例1とを対比すると、図2に示されているように、実施例1~3の眼鏡レンズは同様の硬さでの半減期の値が比較例1より小さく、光応答性に優れている。
以上の結果から、実施例1~3の眼鏡レンズは、フォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物の発色濃度が高く、かつ光応答性に優れることが確認された。
【0048】
図3は、実施例および比較例の各眼鏡レンズについて、硬化性の評価結果として、フォトクロミック層形成時の光照射時間に対して上記で測定されたマルテンス硬さをプロットしたグラフである。図3に示す結果から、実施例1~3の眼鏡レンズは、同様の光照射時間でのフォトクロミック層のマルテンス硬さが比較例1、2の眼鏡レンズより高かった。この結果から、(メタ)アクリレートとして脂環式の2官能(メタ)アクリレートと非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートとを併用することは、高硬度のフォトクロミック層を形成するうえでも好ましいことが確認できる。
【0049】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0050】
一態様によれば、フォトクロミック化合物および2種以上の(メタ)アクリレートを含み、上記2種以上の(メタ)アクリレートは、脂環式の2官能(メタ)アクリレートと非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートとを含む光学物品用コーティング組成物が提供される。
【0051】
上記光学物品用コーティング組成物によれば、光応答性に優れ、かつ高濃度で発色可能なフォトクロミック層を形成することができる。
【0052】
一態様では、上記2種以上の(メタ)アクリレートは、非環状の2官能(メタ)アクリレートを更に含むことができる。
【0053】
一態様では、上記組成物は、上記脂環式の2官能(メタ)アクリレートを、上記2種以上の(メタ)アクリレートの合計量に対して50質量%以上含むことができる。
【0054】
一態様では、上記脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、メタクリレートであることができる。
【0055】
一態様によれば、レンズ基材と上記組成物を硬化させたフォトクロミック層とを有する眼鏡レンズが提供される。
【0056】
上記眼鏡レンズは、光応答性に優れ、かつ高濃度で発色可能なフォトクロミック層を有することができる。
【0057】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0058】
一態様によれば、基材と上記組成物を硬化させたフォトクロミック層とを有する光学物品が提供される。
【0059】
一態様によれば、基材上に上記組成物を塗布すること、および、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することを含む光学物品の製造方法が提供される。
【0060】
上記製造方法によれば、防眩機能を有する光学物品を提供することができる。
【0061】
一態様では、上記光学物品は、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー部分、ヘルメットのシールド部材等であることができる。
【0062】
本明細書に記載の各種態様は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0063】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、眼鏡、ゴーグル、サンバイザー、ヘルメット等の技術分野において有用である。
図1
図2
図3