(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】傾斜CT用の観察試料保持治具
(51)【国際特許分類】
G01N 23/044 20180101AFI20220930BHJP
【FI】
G01N23/044
(21)【出願番号】P 2019113614
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 万里亜
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 勝治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 知哉
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-153821(JP,A)
【文献】特開2018-004341(JP,A)
【文献】特開2005-134175(JP,A)
【文献】特開2019-184255(JP,A)
【文献】N.Lenoir,Volumetric Digital Image Correlation Applied to X-ray Microtomography Images from Triaxial Compression Tests on Argillaceous Rock,Strain,2007年,Vol.43 No.3,pp.193-205
【文献】浅田崇史,放射光ラミノグラフィと画像相関法によるデバイス実装材料の3次元内部ひずみ分布測定,日本機械学会2014年度年次大会講演論文集,2014年,pp.J0310204-1~J0310204-4
【文献】政木清孝,放射光ラミノグラフィによるFSW継手材の疲労き裂進展挙動調査,日本機械学会2013年度年次大会講演論文集,2013年,pp.G031032-1~G031032-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01B 15/00-15/08
G01N 3/00-3/62
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を利用する傾斜CT法による測定に用いる観察試料保持治具であって、
観察試料を収容するための空洞部を有する容器と、該容器の空洞部内において観察試料を2つの圧子により圧縮して挟持するための圧縮手段とを備えており、
前記2つの圧子がそれぞれ、測定に用いる電磁波の透過率が5%以上となる材料からなりかつ前記観察試料に当接させる面を有する先端部と、JIS K7181に準拠して23℃の温度条件下において測定される圧縮強度が100MPa以上の材料からなりかつ前記先端部を支持する部位である支持部とを備えるものであり、
前記2つの圧子のうちの少なくとも1つは、前記容器の内面のいずれかの部位に前記支持部が当接するように配置され、かつ、該支持部の容器当接面の面積が該支持部の先端部当接部の面積と比べて5~100倍の大きさを有するものであること、
を特徴とする傾斜CT用の観察試料保持治具。
【請求項2】
前記容器の内面のいずれかの部位に前記支持部が当接するように配置されている圧子は、該支持部の容器当接面の面積が該支持部の先端部当接部の面積と比べて8~10倍の大きさを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の傾斜CT用の観察試料保持治具。
【請求項3】
前記支持部が、前記圧縮強度が100MPa~300MPaの材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の傾斜CT用の観察試料保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜CT用の観察試料保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
観察試料を非破壊三次元計測する方法としてCT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)法が知られている。そして、このようなCT法としては、近年では、
図1に模式的に示すような通常CT法や、
図2に模式的に示すような傾斜CT法が利用されている。
【0003】
ここで、
図1を参照すると、平板状の観察試料OSを通常CT法で測定する場合、かかる測定に際しては、回転軸Cを中心に平板状の観察試料OSを回転させながら回転軸Cと直交する方向から電磁波(例えばX線等)を照射して測定することとなる。このような測定に際しては、観察試料OS内における電磁波の透過距離が長くなり(厚さ方向と直交する方向の観察試料OSの長さの分、試料内を電磁波が透過する必要があり)、観察試料OS内の電磁波の透過率が低く、スクリーンSには不明瞭な像が映し出されたり、場合によっては真っ黒(又は真っ白)な像が映し出されるだけとなってしまうといった問題があった。そのため、平板状の観察試料OSの内部構造を通常CT法で測定することは困難であった。
【0004】
これに対し、
図2に示すように、回転軸Cを電磁波の照射方向に対して傾斜させた状態で回転させながら電磁波を照射する傾斜CT法(このような傾斜CT法は「ラミノグラフィCT」ともいう)によれば、観察試料OS内の電磁波の透過距離は短くなるため、観察試料OSを透過させた電磁波によって、スクリーンS上に像Iが映し出され、この像Iを解析することによって観察試料OSの内部構造を非破壊で三次元的に観察することが可能である。そのため、特に、平板状の観察試料OSのような、通常CT法による測定に不向きな薄膜やシート形状の試料の内部構造を測定する場合には、傾斜CT法を好適に利用することが可能である。
【0005】
このような傾斜CT法により内部構造を非破壊三次元計測する場合に利用される、観察試料の保持治具に関して、例えば、2003-329616号公報(特許文献1)においては、ユーセントリックテーブルが開示されている。また、Elsevier社より2017年に発行された刊行物である「Procedia IUTAM(Vol.20)」のP.66~P.72に記載されているAnte Buljac et al.の論文“In Situ Observation Of Strained Bands And Ductile Damage In Thin AA2139-T3 Alloy Sheets”(非特許文献1)には、その図(a)や(b)に、平板状の観察試料に形成されたスリットに引張力を付与した状態でスリット先端部をラミノグラフィCTによって観察することが可能となるようにした装置が開示されている。なお、これらの文献等に記載されている治具以外にも、例えば、一般的なCT法に利用可能な治具として、株式会社フレックス・サービスのホームページ(URL:https://www.flex-service.com/file/X-CT.pdf)に「X線CT/シンクロトロン用引張圧縮試験機」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】論文:Ante Buljac et al.,“In Situ Observation Of Strained Bands And Ductile Damage In Thin AA2139-T3 Alloy Sheets”,Procedia IUTAM,Vol.20,Elsevier,2017,P.66-P.72
【文献】株式会社フレックス・サービスのホームページ(URL:https://www.flex-service.com/file/X-CT.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の観察試料を保持するための治具は、観察試料に圧縮力を付与することができず、圧縮力を付与した状態でラミノグラフィCTによって肉部構造を観察することができなかった。また、非特許文献1に記載のような観察試料を保持するための治具は観察試料に引張力を付与することは可能なものの、やはり、観察試料に圧縮力を付与することができず、圧縮力を付与した状態でラミノグラフィCTによって肉部構造を観察することができなかった。更に、非特許文献2に記載のような観察試料を保持するための治具は、観察試料に圧縮力を付与することは可能であるものの、いわゆるラミノグラフィCT法による測定に利用して、斜め方向から電磁波を照射したとしても治具が電磁波の透過を阻害してしまう。このような理由から、非特許文献2に記載のような治具は、ラミノグラフィCT法による測定に利用することができないものであった。
【0009】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、観察試料に対して十分に高度な圧縮力を付与しながら傾斜CT法による測定を行うことを可能とし、圧縮状態の観察試料に対して内部構造の非破壊三次元計測をより精度高く行うことを可能とする傾斜CT用の観察試料保持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、電磁波を利用する傾斜CT法による測定に用いる観察試料保持治具を、観察試料を収容するための空洞部を有する容器と、該容器の空洞部内において観察試料を2つの圧子により圧縮して挟持するための圧縮手段とを備えるものとし;前記2つの圧子をそれぞれ、測定に用いる電磁波の透過率が5%以上となる材料からなりかつ前記観察試料に当接させる面を有する先端部と、JIS K7181に準拠して23℃の温度条件下において測定される圧縮強度が100MPa以上の材料からなりかつ前記先端部を支持する部位である支持部とを備えるものとし;かつ、前記2つの圧子のうちの少なくとも1つを、前記容器の内面のいずれかの部位に前記支持部が当接するように配置し、かつ、該支持部の容器当接面の面積を該支持部の先端部当接部の面積と比べて5~100倍の大きさを有するものとすることにより、観察試料に対して十分に高度な圧縮力を付与しながら傾斜CT法による測定を行うことが可能となり、圧縮状態の観察試料に対して内部構造の非破壊三次元計測をより精度高く行うことが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具は、電磁波を利用する傾斜CT法による測定に用いる観察試料保持治具であって、
観察試料を収容するための空洞部を有する容器と、該容器の空洞部内において観察試料を2つの圧子により圧縮して挟持するための圧縮手段とを備えており、
前記2つの圧子がそれぞれ、測定に用いる電磁波の透過率が5%以上となる材料からなりかつ前記観察試料に当接させる面を有する先端部と、JIS K7181に準拠して23℃の温度条件下において測定される圧縮強度が100MPa以上の材料からなりかつ前記先端部を支持する部位である支持部とを備えるものであり、
前記2つの圧子のうちの少なくとも1つは、前記容器の内面のいずれかの部位に前記支持部が当接するように配置され、かつ、該支持部の容器当接面の面積が該支持部の先端部当接部の面積と比べて5~100倍の大きさを有するものであること、
を特徴とするものである。
【0012】
上記本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具においては、前記容器の内面のいずれかの部位に前記支持部が当接するように配置されている圧子は、該支持部の容器当接面の面積が該支持部の先端部当接部の面積と比べて8~10倍の大きさを有するものであることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具においては、前記支持部が、前記圧縮強度が100MPa~300MPaの材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、観察試料に対して十分に高度な圧縮力を付与しながら傾斜CT法による測定を行うことを可能とし、圧縮状態の観察試料に対して内部構造の非破壊三次元計測をより精度高く行うことを可能とする傾斜CT用の観察試料保持治具を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】いわゆる通常CT法を採用した測定を行う場合の平板状の観察試料と電磁波とスクリーンとの関係を模式的に示す模式図である。
【
図2】いわゆる傾斜CT法を採用した測定を行う場合の平板状の観察試料と電磁波とスクリーンとの関係を模式的に示す模式図である。
【
図3】観察試料保持治具を備える傾斜CT装置用の治具の好適な一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す治具のA-A’断面の一部を模式的に示す縦断面図である。
【
図5】
図4に記載の圧縮手段を拡大して模式的に示す模式図(圧縮手段の拡大図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明及び図面中、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することが可能である。
【0017】
先ず、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具の好適な一実施形態について、
図3~5を参照しながら説明する。
図3は、観察試料保持治具10を備える傾斜CT装置用の治具の好適な一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図4は、
図3に示す治具のA-A’断面の一部を模式的に示すものであり、観察試料保持治具10を備える傾斜CT装置用の治具の好適な一実施形態を示す模式断面図である。なお、かかるA-A’断面は
図4に示す回転軸C(中心軸)を含む面である。また、
図5は、
図4に記載の観察試料保持治具10が備える圧縮手段12を模式的に示す拡大図である。
【0018】
図3~5に示す実施形態において、観察試料保持治具10は、容器11と、圧縮手段12と、圧縮力付与機構13とを備えるものである。ここにおいて、本実施形態の圧縮手段12は、容器に接する下側の圧子121と、圧縮力付与機構13に接続された上側の圧子122とからなり、圧縮力付与機構13により圧縮力を付与されて、観察試料OSを圧縮しながら挟持することが可能な構成となっている。なお、
図3~4に示すように、観察試料保持治具10は、容器11のフランジ部(円筒状の容器の部分から外側に出っ張った部分)において、取付部材20に固定具50により固定されている。
【0019】
また、
図3に示すように、観察試料保持治具10は、取付部材20を介して傾斜CT装置の回転ステージ30に固定されており、回転軸Cを中心に回転可能な状態となっている。なお、傾斜CT測定は、観察試料OSの傾斜角度(いわゆる斜めCT測定における測定時の回転軸Cの電磁波Eの照射軸に対する傾斜角度)に応じて角度補正を行って内部構造を再構成することにより透過像を得る測定である。そのため、より精度の高い透過像を得るためには、観察試料OSを360°回転させて測定を行うことが好ましく、かかる観点から、電磁波(X線等)の経路にある各部材等は、回転軸Cを中心として回転対称のものを利用することがより好ましい。このような観点から、本実施形態においては容器11、圧縮手段12、圧縮力付与機構13、取付部材20、回転ステージ30はいずれも、回転軸Cに対して回転対称のものを利用している。
【0020】
また、
図4~5において、Eで示す矢印は、電磁波及びその電磁波の進行方向(照射方向:照射軸:電磁波の進行経路)を概念的に示すものである。ここで、傾斜CTに利用する電磁波Eとしては、CT測定に利用可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、X線、ガンマ線、中性子線などが挙げられ、必要な空間分解能や試料の構成材料から適切な線源を適宜選択して利用することが好ましい。
【0021】
このような観察試料保持治具10を構成する容器11は、その内部に観察試料OSを収容するための空間(空洞部)が形成されてなるものである。すなわち、このような容器11は、観察試料OSを収容するための空洞部を有するものであればよく、特に制限されず、観察試料OSや後述の圧縮手段12の少なくとも一部を収容できるような、公知の容器(筐体)を適宜利用できる。
【0022】
また、
図4に記載のように、容器(筐体)11は電磁波Eの進行経路に存在するものとなるため、その容器11中の少なくとも電磁波Eの進行経路に存在する部位は、電磁波Eを透過させることが可能な材料からなるものとする必要がある。このように、電磁波Eを透過させるといった観点からは、容器11中の少なくとも電磁波Eの進行経路に存在する部位が、金属材料よりも電磁波Eの透過性が高い材料で形成されていることが好ましく、樹脂材料で形成されていることがより好ましい。また、このような容器11としては、製造容易性の観点から、容器11の全体が、金属材料よりも電磁波Eの透過性が高い同一の材料で形成されていることが好ましく、同一の樹脂材料で形成されていることがより好ましい。このような樹脂材料としては、特に制限されないが、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノール樹脂(ベークライト)等が挙げられる。
【0023】
なお、容器11には、観察試料OSに圧縮力を印加した場合、その圧縮力と同じ力の引張応力が負荷される。すなわち、圧縮力付与機構13により下側に応力(圧縮力)が加えられると、結果的に容器11にも下側の圧子121Aにより下側に向かう応力が加えられ、容器の壁面には前記圧縮力と同じ力の引張応力が負荷される。そのため、容器11の製造には、上述のような引張応力により破損しない程度の機械的強度の高い材料を用いることが好ましい。なお、容器に負荷される応力を考慮して壁面の厚みを向上させることも考えられるが、容器11の電磁波透過部位の厚みが増大すると電磁波Eの透過率が低下してしまうことから(電磁波の壁面内の透過距離が長くなってしまうことから)、電磁波透過部位の厚みはより薄いものとすることが好ましい。このような観点から、壁面の厚みを増大させて容器11の機械的な強度を上げるといった対応は、精度の高い測定をするといった観点から現実的には採用困難である。また、例えば、容器11の円筒を大きくすること(外径R1を大きくすること)で断面積を確保し、下側の圧子121Aの接続部位の面積を大きくすることで容器11の十分な強度を得るといった対応も考えられるが、より精度の高い透過像を得るためには屈折の影響も減らす必要性が高く、観察試料OSと電磁波の検出器との間の距離はできるだけ近くすることが好ましい。そのため、容器11の外径R1を大きくするといった対応も精度の高い測定をするといった観点から現実的には採用困難である。このような観点から、容器11の外径(フランジ部を除いた部分の外側の最大径)R1は特に制限されるものではないが、10~30mm程度とすることがより好ましく、また、容器11の側壁部分の厚みTは特に制限されるものではないが、電磁波Eの透過距離をより短いものとして側壁部分を透過する際の電磁波Eの透過率をより向上させるといった観点と、容器としてより高い強度を得るといった観点とから、1.5~2.5mm程度とすることがより好ましい。また、容器11の取付部材20と当接する部位からの容器11の高さH1は特に制限されないが、たわみの発生による傾斜CT測定時の回転軸のずれを防止する観点から、60mm以下とすることがより好ましい。さらに、容器11の取付部材と接続させるために設けられているフランジ部の厚みH2は特に制限されないが、試料への圧縮力印加時の反力として発生する引張応力を分散すること、並びに、観察視野への移り込みを防止すること、等の観点から、5~10mm程度とすることがより好ましい。
【0024】
なお、このような容器11は、該容器の電磁波Eが入射する側の壁面が回転軸Cに対して斜めに形成されており、電磁波Eを回転軸Cに対して斜めに照射するような傾斜CT測定において、電磁波Eの容器11への入射角が略垂直となるように構成したものを利用している。このように、電磁波Eの容器11への入射角が略垂直(好ましくは90°±10°程度)となると、壁面の厚みが一定である場合、電磁波Eの透過距離をより短いものとして、側壁部分を透過する際の電磁波Eの透過率をより向上させることが可能となる。
【0025】
また、容器11としては、天板部(天井部分)と回転軸Cに対して平行な側壁の部分を含む上側の構造体(上部構造体)と、容器11の底面部と回転軸Cに対して斜めの側壁の部分を含む下側の構造体(下部構造体)とからなるものを使用している。また、このような容器11の上部構造体はフランジ部が設けられた円筒状の形状であり、内部が空洞となっている。そして、容器11の下部構造体は底面部と斜めの側壁とにより上部に開口部を有する凹部が形成された形状となっており、外側にフランジ部が形成されている。このように、容器11の上部構造体と、下部構造体には、それぞれフランジ部(外側に出っ張った部分)が形成されており、これらのフランジ部において固定具50により固定されている。このような固定具50としては特に制限されず、公知のものを適宜利用でき、例えば、ねじ等を利用してもよい。なお、固定具50としては取り外しが可能なものを利用することが好ましく、これにより、使用時に容器の上部構造体を蓋のように取り外して、観察試料OSを収容したり、交換したりすることが容易となる。
【0026】
また、容器11の底面部(下部構造体の凹部の底面)には、下側の圧子121を載置する部分に、下側の圧子121の容器接触面S3と同じ大きさの面を有する円柱状の突出部(突起部)P1を設けている。このような突出部P1を設けることで、下側の圧子12から受ける力(容器に対するプレス圧)の方向及びその反力として発生する応力の方向が回転軸Cと平行な方向となるようにしている。このように、下側の圧子12から受ける力(容器に対するプレス圧)及びその反力として発生する応力の方向が回転軸Cと平行な方向となるようにして、底面の突出部P1で下側の圧子121を支持することで、容器11の局所的な変形量による応力換算が可能となる。
【0027】
圧縮手段12は、下側の圧子121と、上側の圧子122とからなり、圧縮力付与機構13により圧縮力を付与されて、容器の空洞部内において、観察試料OSを圧縮しながら挟持することが可能な構成となっている。なお、このような圧縮手段12において、下部の圧子121は、観察試料OSを載置するための載置台としても機能している。また、下部の圧子121は、上側の圧子122から加えられる応力の反力により観察試料OSを押圧して、上側の圧子122とともに観察試料OSを圧縮することを可能としている。
【0028】
圧縮手段12を構成する下側の圧子121は、
図4~5に示すように、観察試料OSに当接させる面S1を有する先端側の部位である先端部121Aと、かかる先端部121Aを支持する部位である支持部121Bとからなる。なお、下側の圧子121の形状は、面S1(先端部121Aの観察試料OSに接触させる面)を有する円柱状の突出部P2が、台座部(突出部の台座となるような部位)P3上に形成されているような形状となっており、かかる突出部P2の観察試料OSに接触させる先端側の部位が、先端部121Aとなっている。このように、先端部121Aは、観察試料OSに接触させる面(圧縮時には押圧する面となる)S1を有する圧子の先端側の部位である(
図5参照)。なお、本実施形態において先端部121Aは、円柱状の形状を有し、その上面S1及び底面(支持部121Bの面S2に接する面)はいずれも同じ直径を有する円形をしている。また、先端部121Aの上面S1及び底面はいずれも平面状となっている。
【0029】
このような先端部121Aは、電磁波Eの経路上に存在するものであり、かつ、圧子の先端部121A以外の部分(支持部121B)が電磁波Eの経路上に存在しないように厚みや大きさ等が設計されている。このような先端部121Aは、電磁波Eの進行経路上に存在するものであることから、より精度の高い傾斜CTによる測定を行うことを可能とするために、測定に用いる電磁波Eの透過率が5%以上となる材料からなるものを利用する必要がある。このような透過率が前記下限未満では透過画像が不鮮明となる傾向にある。このような先端部121Aを構成する材料としては、測定に用いる電磁波Eに応じて、その電磁波Eの透過率が5%以上となる材料を適宜選択して利用すればよい。また、このような先端部121Aを構成する材料としては、より精度の高い測定を行うことを可能とするといった観点から、測定に用いる電磁波Eの透過率が40%以上(更に好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上)となる材料がより好ましい。なお、このような電磁波Eの透過率の値としては、透過率を測定する材料からなる透過率測定用の試料(なお、試料は、その大きさを、測定に利用する電磁波Eの検出素子の総面積より十分に大きな面積を有しかつ厚みが一様なものとする)を調製し、その試料の厚み方向に向かって(表面に垂直となるようにして)、傾斜CT測定に利用する電磁波Eを照射し、検出器を利用して電磁波Eの透過率を求めることにより得られる値を採用する。なお、電磁波Eの透過率を求める際に利用し得る前記検出器は、電磁波Eの種類に応じて適宜選択して利用でき、例えば、電磁波EがX線の場合にはX線カメラ等を利用できる。
【0030】
このような先端部121Aを構成する材料としては、測定に用いる電磁波Eの透過率が5%以上のものであればよく、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノール樹脂(ベークライト)、窒化アルミ(AlN)、窒化ケイ素、サファイア等が挙げられ、測定に用いる電磁波Eの種類に応じて(例えば電磁波EがX線である場合にはX線のエネルギー等に応じて)、その電磁波Eの透過率が上記条件を満たすような材料を適宜選択して利用することができる。また、このような材料は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0031】
また、このような先端部121Aを構成する材料は、先端部121Aが観察試料OSに接触する面を有する部位であり、圧縮時には観察試料OSを押圧する部位となることから、圧縮力により変形や破損が起こらないような機械的な強度を有するものであることが好ましい。すなわち、圧子121の先端部121Aの圧縮強度の大きさにより、圧縮力付与機構13により圧子121に負荷させることが可能な圧縮力(圧縮応力)の大きさが変わってしまうため、測定対象等に応じて、測定に必要な圧縮力を付与することが可能となる、十分な圧縮強度を有する材料を適宜選択して用いることが好ましい。このような観点から、先端部121Aは、圧縮強度が100~300MPa程度のものを利用することが好ましい。また、先端部121Aは、透過率と圧縮強度の両立の観点からは、ポリエーテルエーテルケトンのような機械的強度の高い樹脂、及び、窒化アルミのような軽元素からなるセラミックスからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなることが特に好ましい。なお、圧縮強度の測定方法は後述する。
【0032】
圧子121の先端部121Aの円柱状の上面(観察試料OSに当接させる面)S1の直径は、特に制限されるものではなく、電磁波Eの種類や測定目的に応じて、その設計を適宜変更できる。なお、例えば、電磁波Eが15keV~30keV程度のX線(放射光X線)である場合について検討すると、一般的な0.5μm~3mm程度の薄膜状の試料を測定する場合においては、圧子内部を透過するX線の透過距離の観点から、上面S1の直径を3mm~5mm程度に設計することが好ましいといえる。なお、圧子121の先端部121Aの円柱状の上面S1の直径をより小さくした場合には、電磁波Eの先端部121A中の透過距離をより短くすることが可能であるため、例えば、観察試料OSの変形部の面積を小面積化してCT測定をすることが可能な場合(一軸圧縮変形から変形モードを変えても問題がない場合)には、直径をより小さくして測定を行ってもよい。
【0033】
また、先端部121Aは、より精度の高い測定を行うために、先端部121A自体の電磁波Eの透過率が5%以上となるように、先端部中の電磁波Eの透過距離等から、その厚み等のサイズや形状を適宜設計することが好ましい。
【0034】
また、圧子121の支持部121Bは、電磁波Eの進行経路上に入らないような形状としている。支持部121Bが電磁波Eの進行経路上に入ると、測定に利用する電磁波Eの透過率が低下して、精度のよい測定を行うことが困難となる。このような観点から、支持部121Bは電磁波Eの進行経路上に入らないような形状に設計することが好ましく、本実施形態では、電磁波Eの進行経路上に入らないように、先端部121Aに接している支持部121Bの上側の突出した部位を円柱状の形状とし、中間の部位を円錐台形状とし、かつ、下側の部位(底面側の部位)を円柱状の形状としている。なお、支持部121Bの形状の説明のために、上側、中間、下側の形状を説明しているが、支持部121Bとしては一体成形されたものを利用している。
【0035】
このような圧子121の支持部121Bは、JIS K7181(2011年発行)に準拠して23℃の温度条件下において測定される圧縮強度が100MPa以上(より好ましくは圧縮強度が100~300MPa、更に好ましくは150~300MPa)の材料からなるものである。このような材料の圧縮強度が前記下限未満では圧縮時に圧縮面積が変化し、高精度な計測が行えなくなるとなる。また、このような圧縮強度に関して、前記上限を超えても大きな問題はないが、300MPa以下であることが好ましい。なお、本明細書において、材料の圧縮強度は、JIS K7181に準拠して23℃の温度条件下において測定される値を採用する。すなわち、圧縮強度を測定する材料からなる角柱、円柱又は管状の形状の測定試料を調製し、23℃の温度条件下において、かかる測定試料に対して、圧縮試験をすることにより求められる値を採用することができる。なお、このような圧縮強度の観点から、支持部121Bは、ステンレス等の鋼鉄や合金からなる群から選択される少なくとも1種の材料からなるものを利用することがより好ましい。
【0036】
また、下側の圧子121は、容器11の底面上に支持部121Bが当接するように配置されている。このような支持部121Bの容器11と接する底面S3の形状は円形であり、かつ、その表面は平面状となっている。
【0037】
このような支持部121Bの容器当接面(容器と接する面)S3の面積は、支持部121Bの先端部当接部(先端部が接している領域)S2の面積と比べて5~100倍(より好ましくは8~10倍)の大きさを有する必要がある。このような先端部当接部S2の面積に対する容器当接面S3の面積の比率(倍率)が前記下限未満では、容器11の強度の観点から測定に必要となるような十分に高い圧縮力を付与することができなくなる。すなわち、圧縮力付与機構13を用いて上側の圧子122に下側に向かって圧縮力(圧縮応力)を付与した場合、容器11も下側の圧子121Aの当接面S3から下側に前記圧縮力と同じ力の引張応力が負荷されることとなる。この際に、当接面S3の面積が小さいと、容器にかかる応力を十分に分散させることが困難となり、容器の一部(圧子が接触している部分)に応力が集中してしまうため、容器が圧子の設置部分において破壊されやすくなってしまう。他方、このような先端部当接部S2の面積に対する容器当接面S3の面積の比率(倍率)が前記上限を超えると付与する圧縮応力に対して、容器11の変形量が非常に小さくなり、圧縮応力の大きさを検出しながらCT測定をする場合に、応力の検出感度を上げる必要が出てくる可能性があり、また、該当接面S3の大きさに併せて底面積の大きな容器を利用する必要が生じ、治具のサイズが大きくなってしまう傾向にある。
【0038】
このように、本発明においては、容器11の破損を防止しつつ、測定に必要な範囲で圧縮力を付与することを可能とするために、容器当接面S3の面積に対する先端部当接部S2の面積の比率(倍率)を5~100倍とし(これにより、支持部121Bの容器当接面S3から容器11にかかる応力は、容器当接面S3を先端部当接部S2の面積と同じ面積とした場合と比較して、1/5~1/100程度となる)、応力を十分に分散させて容器11の破損を十分に抑制している。また、本発明においては、圧縮応力の大きさを検出しながらCT測定する場合、支持部121Bの容器(筐体)11との当接面S3の面積を、その応力の検出感度を損なわない範囲で大きくすることが好ましく、このようにして当接面S3の面積を大きくした場合には、応力の検出を十分な精度で行いながら、容器11にかかる引張応力を十分に分散させることが可能となり、容器(筐体)への応力負荷を軽減させて容器11の破損を十分に抑制することが可能となる。なお、容器当接面S3の面積に対する先端部当接部S2の面積の比率(倍率)を8~10倍とした場合には、容器当接面S3を先端部当接部S2の面積と同じ面積とした場合と比較して、支持部121Bの容器当接面S3から容器11にかかる応力は1/8~1/10程度となり、例えば、100~300MPaといった高い圧縮力を圧縮力付与機構13から付加したとしても、容器11にかかる応力は最大でも37.5MPa程度となるものと考えられることから、この場合には、容器11に37.5MPaの圧縮強度を有する材料を利用できる。そのため、容器当接面S3の面積に対する先端部当接部S2の面積の比率(倍率)を8~10倍とする場合、容器11の材料としては、いわゆるエンジニアプラスティック(軽元素のため、基本的に電磁波の透過率が高い)を好適に使用することができる。このように、本発明においては、用いる2つの圧子のうちの容器の内面に接する側の圧子の支持部が、容器当接面S3の面積に対する先端部当接部S2の面積の比率(倍率)が5~100倍となっているため、容器に、例えば、低強度ではあるがX線透過率の高い樹脂材料(アクリル樹脂等)を適宜使用でき、これにより更に高いX線透過率で傾斜CT測定を実施することも可能となる。
【0039】
また、このような支持部121Bの容器当接面S3の直径R3としては、特に制限されないが、10~50mm程度であることが好ましい。このような直径R3が前記下限未満では容器当接面S3の面積が小さくなることから、容器11の破損を防止するといった観点から圧縮する際に十分に高い圧縮力を付与することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると低圧縮応力で傾斜CT測定する場合に応力の検出感度が低くなる傾向にある。
【0040】
また、本実施形態において、支持部121Bの先端部当接部(先端部が接している領域)S2の直径R2は、先端部121Aの底面側(支持部121Bに接触している面側)の面の直径と同様の大きさとなる(本実施形態においては、先端部121Aが円柱状の形状であるため、先端部121Aの面S1と同じ直径となる)。そのため、かかる直径R2は、先端部121Aの面S1の直径と同様に、3mm~5mm程度とすることを好適な一例として挙げることができる。
【0041】
なお、下側の圧子121は、容器部11の底面の突起部P1上に配置されて固定されている。容器11の底面の突起部P1上に下側の圧子121を固定する方法は特に制限されず、例えば、接着剤等により固定してもよい。
【0042】
圧縮手段12を構成する上側の圧子122は、容器本体部11の空洞部内に収納されており、下側の圧子121上に載置された観察試料OSを、下側の圧子121との間において圧縮することを可能とするものである。なお、本実施形態において、上側の圧子122の形状や材質等の設計は、下側の圧子121と同様の設計としている。
【0043】
このような上側の圧子122は、先端部122Aと、その先端部122Aを支持する支持部122Bとからなるものである。このような上側の圧子122は、設置する位置が異なる以外は、基本的に下側の圧子121と同様のものを好適に利用することができる。そのため、上側の圧子122の先端部122Aとしては、前述の下側の圧子121の先端部121Aと同一の条件を満たすものを好適に利用できる。なお、先端部122Aの材料は、下側の圧子の先端部121Aと同様に、測定に用いる電磁波Eの透過率が5%以上となる材料からなる必要がある。また、上側の圧子122の支持部122Bとしても、前述の下側の圧子121の支持部121Bと同一の条件を満たすものを好適に利用できる。なお、支持部122Bは、下側の圧子の支持部121Bと同様に、JIS K7181に準拠して23℃の温度条件下において測定される圧縮強度が100MPa以上の材料からなる必要がある。
【0044】
また、上側の圧子122の先端部122Aの観察試料OSと接触する面の直径は、下側の圧子121の先端部121Aの観察試料OSと接触する面の直径と同一の大きさとすることが好ましい。このような直径とすることで、上側の圧子122と下側の圧子121との間に観察試料OSの中心部の同じ領域を挟んで効率よく圧縮することができる。このようにして、下側の圧子121上に観察試料OSを載置させた後に、下側の圧子121と上側の圧子122とにより観察試料OSを圧縮して挟持することで、観察試料OSに対して圧縮力を付与しながら傾斜CT法による測定を行うことが可能となる。なお、観察試料OSに対する圧縮力は、後述する圧縮力付与機構13によって圧縮手段12に付与される。また、上側の圧子122は、圧縮力付与機構13からの圧縮力を受けた場合に、下側の圧子121の方向に向かって圧力(プレス圧)をかけることが可能なように配置されている。このような上側の圧子122は、前述のような圧力(プレス圧)を観察試料OSにかけることが可能な状態となっていればよく、その配置方法等は特に制限されず、例えば、圧縮力付与機構13に接着して固定させてもよく、また、ガイドや中心軸出し治具等を別途利用して圧縮付与機構13による圧縮力を受ける構造としてもよい。
【0045】
圧縮力付与機構13は、圧縮手段12に圧縮力を付与することが可能な構造体であればよく、特に制限されず、圧縮力を付与して上側の圧子122と下側の圧子121との間において観察試料OSをプレスして圧縮することが可能となるような、公知の機構を有する構造体を適宜利用できる。例えば、圧縮力付与機構13をいわゆるボールネジからなるものとして、回転モータ等でネジを締めることにより下方(上側の圧子122)に向かって圧縮力を付与してもよく、また、圧縮力付与機構13を応力伝達部(例えば金属製のロッド)のみからなるものとして、その応力伝達部に接続した上側の圧子122に別途プレス機等により圧縮力を付与してもよく、あるいは、応力伝達部を下方に移動させる装置を別途接続することにより下方(上側の圧子122)に向かって圧縮力を付与してもよい。また、圧縮力付与機構13の材質も特に制限されず、その構造に応じ、圧縮力付与機構13内の部位によって適宜材質等を変更してもよい。なお、このような圧縮力付与機構13には容器11の天板に接続するためのフランジ部が設けられており、そのフランジ部において固定具50(例えばネジなど)により容器11の天板に固定されている。
【0046】
なお、
図3~4に示す実施形態の観察試料保持治具10は、いわゆる傾斜CT装置の回転ステージ30に取り付けるための円筒状の取付部材20に固定具50(例えばネジなど)により固定されている。このような円筒状の取付部材20は、電磁波Eの透過経路上に存在するため、電磁波Eの透過率の観点から、樹脂材料からなるものを好適に利用できる。また、このような取付部材20は内部に空間を有する円筒部材を好適に利用できる。このような樹脂材料で形成されかつ内部に空間を有する円筒部材からなる取付部材20を介して観察試料保持治具10を回転ステージ30に取付けた場合には、ラミノグラフィCTにおいて、電磁波Eの透過経路に取付部材20が存在しても該部材20自体は電磁波の透過の大きな妨げとならないため、ラミノグラフィCTによる非破壊三次元計測を精度よく行うことが可能となる。このような取付部材20の外径R4は特に制限されるものではないが、回転時の試料周辺のたわみの防止の観点から、30~100mm程度とすることが好ましい。
【0047】
また、
図3に示すように、本実施形態の観察試料保持治具10は、取付部材20を介して回転ステージ30に設置されている。このような回転ステージ30を回転駆動させることで、観察試料保持治具10を回転軸Cを中心に回転させることが可能となり、観察試料OSの観測部位に関して360°回転した状態のCT測定を行うことが可能となる。このように、傾斜CT用の観察試料保持治具10を、内部に空間を有する取付部材20(好ましくは樹脂製の取付部材20)を介して回転ステージ30に取り付けた構成とすることで、観察試料に対して圧縮力を付与しつつ、試料を回転させながら、傾斜CT法により、観察試料OSの内部構造の非破壊三次元計測を行うことが可能となる。なお、このような回転ステージ30としては、CT装置や傾斜CT装置に利用されている、回転駆動させることが可能な公知のステージを適宜利用できる。
【0048】
ここで、
図3~5に示す実施形態の観察試料保持治具10は、使用時に、観察試料OSを容器11の空洞部内の下側の圧子121の先端部121Aの表面上に配置するように収容する。そして、圧縮力付与機構13により上側の圧子122に圧縮力を付与して、下側の圧子121と上部上側の圧子122との間において、観察試料OSを挟持する。このようにして、観察試料OSを挟持することで、上側の圧子122の突出部の上側構造部122Aと、下側の圧子121の突出部の上側構造部121Aとの間に挟まれた、観察試料OSの領域を圧縮された状態とすることができる。そのため、かかる観察試料保持治具10を利用した場合には、圧縮状態の観察試料に対して内部構造の非破壊三次元計測を、より精度高く行うことが可能となる。なお、圧縮状態の観察試料の内部構造を傾斜CT測定することで、圧縮時の試料の挙動を詳細に理解することが可能となる。
【0049】
このような観察試料保持治具10を利用して傾斜CTを行う場合、上記観察試料保持治具10を利用する以外は公知の傾斜CT装置(斜めCT装置)と同様の構成とした装置を適宜用いて測定を行うことができる。また、観察試料保持治具10を利用して傾斜CTを行う場合に用いるCT装置としては、電磁波Eの発生源(線源)と、電磁波Eを検出する検出器と、観察試料保持治具とを備えるものとし、かつ、回転軸Cと電磁波の進行方向(前記線源と前記検出器の中心とを結ぶ照射軸)とが斜めに交わるように、それらが配置されている装置を好適に利用できる。このように、測定に利用する傾斜CT装置においては、回転軸Cと、電磁波Eの進行方向(電磁波Eの照射軸)とが斜めに交わるように、電磁波Eの発生源(線源)、検出器及び観察試料保持治具10を配置すればよく、これを利用することで、圧縮状態の観察試料OSに対してラミノグラフィCTを効率よく行うことが可能となる。
【0050】
さらに、傾斜CTの測定対象となる観察試料OSは特に制限されないが、測定時間内に内部の構造等が変化しないものを対象とすることが好ましい。また、このような傾斜CTの観察試料OSの形状は特に制限されるものではないが、観察試料保持治具10が、通常のCT測定では測定困難な平板状(薄膜状、シート状等)の観察試料を圧縮変形して傾斜CT測定を行うことができ、平板状の試料であっても内部構造の非破壊三次元計測をより精度高く行うことが可能であることから、特に、平板状の試料を好適に利用できる。なお、厚み(圧縮方向に平行方向)が大きい観察試料OSの場合には、CT装置を傾斜させるだけで、観察試料を挟持する圧子の先端部が電磁波Eの経路にかからないようにしてCT測定をすることも可能ではあるが、この場合には、試料内における電磁波Eの透過距離が長くなってしまい、電磁波Eの透過率が低下する傾向にあることから、観察試料OSの厚みはより薄いものとすることが好ましい。このような観点からも、通常のCT測定では測定困難な、平板状(薄膜状、シート状等)の観察試料OSを測定対象とすることが好ましい。なお、このような観察試料OSの厚み(圧縮方向に平行方向)としては特に制限されるものではないが、傾斜CT測定においてより精度の高い測定が可能となることから、10μm~3mmとすることが好ましい。
【0051】
また、観察試料保持治具10を利用して傾斜CTを行う場合、観察試料保持治具10の回転軸Cと電磁波Eの進行方向(電磁波Eの照射軸)とのなす角度(傾斜CTの傾斜角度)は15°~75°であることがより好ましく、25°~45°であることが更に好ましい。このような回転軸Cと電磁波Eの進行方向とのなす角度が前記下限未満では試料中の電磁波Eの透過距離が長くなることから、得られる再構成像の鮮明度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、再構成時に使用する透過像の角度補正量が多くなることから、再構成像中のノイズが多くなる傾向にある。なお、回転軸Cと電磁波Eの進行方向とのなす角度を上記範囲とするために、回転軸Cを鉛直方向に対して上記角度(15°~75°)となるように傾斜させた状態(姿勢)として観察試料保持治具10を取付部材20を介して回転ステージ30上に設置してもよい。このように、観察試料保持治具10としては、傾斜CTの傾斜角度が上記角度(15°~75°)となるようなCT測定に利用することが好ましい。なお、このような傾斜角度となるように、測定に際しては、回転軸Cを地表面(水平面)に対して、15~75°傾けて、電磁波Eの進行方向を水平面と平行となるようにして傾斜CT測定を行うことが好ましい。
【0052】
また、電磁波Eの発生源(線源)としては特に制限されず、測定に用いる電磁波Eの種類に応じて、公知の線源を適宜利用でき、例えば、電磁波EとしてX線を利用する場合には、公知のX線発生器(例えばX線管等)を適宜利用することができる。また、電磁波の検出器も特に制限されず、電磁波の種類に応じて公知の検出器を適宜利用でき、例えば、電磁波EとしてX線を利用する場合には、公知のX線検出器を適宜利用することができる。なお、傾斜CT装置の他の構成は特に制限されるものではなく、公知のCT装置のものを適宜利用できる。
【0053】
このようにして、例えば、X線発生器とX線検出器を利用して、X線(電磁波E)の進行方向(X線発生器とX線検出器の中心とを結ぶ軸)と、上記回転軸Cとが傾斜して交わるように、X線発生器と、X線検出器と、観察試料保持治具10とを配置した場合には、X線を利用した傾斜CT法により、回転軸Cを中心に、観察試料OSの観測部位が360°回転した状態について、X線CT測定を行うことが可能となる。このようにして本実施形態の観察試料保持治具10を用いた場合には、例えば、X線ラミノグラフィCTによって、圧縮された状態にある観察試料OSに対してX線を透過させて、観察試料OSの非破壊三次元計測を精度よく行うことも可能である。
【0054】
以上、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具の好適な実施形態について
図3~5を参照しながら説明したが、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0055】
例えば、上記実施形態においては、容器の底面側の側面が回転軸Cに対して斜めに形成されているが、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具において、容器の形状は特に制限されるものではなく、容器の側面がいずれも回転軸Cと平行となるような形状のものを利用してもよい。なお、傾斜CT法による測定においては、より精度の高い透過像を得るために観察試料OSを360°回転させて測定を行うことが好ましいことから、本発明において、電磁波(X線等)の経路にある容器を含む各部部材等は、回転軸Cに対して回転対称のものとすることがより好ましい。また、上記実施形態においては、前述のように、容器11は、天板部と一部の側壁部を含む上部構造体と底面部と一部の側壁部を含む下部構造体とからなるものを利用しているが、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具において、容器11の構成(構造)は特に制限されるものではなく、例えば、凹部を有する容器本体部とその蓋となる天板とからなるものを容器11として利用してもよい。
【0056】
また、上記実施形態においては、前述のように、下側の圧子121と上側の圧子122とが同一の形状となっているが、本発明において、2つの圧子は別々の形状となっていてもよく、例えば、上側の圧子122の圧縮力付与機構13への接触面(支持部の接触部)の大きさは、特に先端部に接触する部位の面積に対する比率をどのようなものとしても大きな問題はないため、上側の圧子122の先端部と支持部をいずれも円柱状のものとした形態としてもよい。
【0057】
また、上記実施形態においては、下側の圧子121と上側の圧子122とにおいて、突出部P2の先端部分を先端部(121A、122A)としているが、本発明において、先端部(121A、122A)の大きさや形状は特に制限されず、例えば、電磁波Eの進行経路等に応じて、円柱状の突起部P2の全体を先端部121Aとして、測定に用いる電磁波の透過率が5%以上となる材料からなるものとする等、大きさや形状等を適宜変更してもよい。なお、円柱状の突起部P2の全体を先端部121Aとした場合には、台座となる部分P3と円柱状の突起部P2との接触領域の面積が「支持部の先端部当接部の面積」となる。
【0058】
また、上記実施形態においては、上側の圧子122が圧縮力付与機構13に直接接続されているが、本発明においては、例えば、2つの圧子により観察試料OSを圧縮して挟持することが可能となり、かつ、2つの圧子のうちの少なくとも1つが前記容器の内面のいずれかの部位に前記支持部が当接するように配置されていれば、上側の圧子122の配置方法や容器の構造等は特に制限されず、例えば、円筒状の容器本体と該容器本体の開口部の内径と同じ大きさの天板とからなり、容器の空洞部内を天板が上下に稼動可能なように構成された容器を用いて、その容器の天板の表面に上側の圧子122を支持部が当接するように固定して配置し、かつ、容器本体の底面部に下側の圧子121を支持部が当接するように固定して配置した後、容器の天板に対して圧縮力付与機構13を接続して圧縮力を付与し、その天板を下側に移動させることにより、結果的に下側の圧子121と上側の圧子122との間に圧縮力が付与されるような構成としてもよい。このような構成を採用した場合には、2つの圧子がいずれも容器11の内面(天上面と底面)に、支持部が当接するように配置されたものとなる。
【0059】
さらに、上記実施形態においては、上側の圧子を下方に移動させることにより応力を付与しているが、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具において、圧縮の方向は特に制限されず、例えば、上下を逆転させて、下側の圧子を上方に移動させる構成としてもよい。また、上記実施形態の傾斜CT用の観察試料保持治具を用いた場合においては、例えば、容器11の微小な変形を応力値の換算に利用して、圧縮応力を測定しながら傾斜CT測定をすることも可能である。なお、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具を用いて、圧縮応力を測定しながらCT測定を行う場合において、圧縮応力の検出方法は特に制限されず、例えば、ロードセルを利用してもよい。
【0060】
このように、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具は、観察試料OSを収容するための空洞部を有する容器11と、容器11の空洞部内において観察試料OSを2つの圧子により圧縮して挟持するための圧縮手段12とを備えており、前記2つの圧子がそれぞれ、測定に用いる電磁波の透過率が5%以上となる材料からなりかつ前記観察試料に当接させる面を有する先端部と、JIS K7181に準拠して23℃の温度条件下において測定される圧縮強度が100MPa以上の材料からなりかつ前記先端部を支持する部位である支持部とを備えるものであり、前記2つの圧子のうちの少なくとも1つは、前記容器の内面のいずれかの部位に前記支持部が当接するように配置され、かつ、該支持部の容器当接面の面積が該支持部の先端部当接部の面積と比べて5~100倍の大きさを有するものであるといった条件を満たすものであればよく、他の構成は特に制限されない。なお、このような本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具により上記目的が達成される理由について、本発明者らは以下のように推察する。
【0061】
すなわち、先ず、一般に、傾斜CT(ラミノグラフィCT:
図2参照)のような計測手法を採用する場合、X線等の電磁波が対象物に対して斜めに入射する。そのため、例えば、通常のCT(
図1参照:対象物に対して電磁波を垂直に入射させる計測手法)において利用する観察試料の保持治具を、そのままラミノグラフィCTの観測試料の保持治具として利用した場合、電磁波(X線等)を透過させることが困難となる。これに対して、本発明においては、電磁波の透過率が5%以上となる材料からなる先端部を有する圧子により、容器内において観察試料を挟持するため、観察試料を挟持する圧縮手段に電磁波が透過する場合においても電磁波の透過率の低下を十分に抑制しながら、観察試料を圧縮して測定を行うことが可能である。このように、傾斜CT(ラミノグラフィCT:
図2参照)のような計測手法に、通常のCTにおいて利用する観測試料の保持治具をそのまま利用すると、全体としての電磁波の透過率が低下する等して、試料の再構成像が不明瞭になってしまうが、本発明においては、圧子の先端部を、電磁波の透過率が5%以上となる材料からなるものとしているため、これにより、より明瞭な像を得ることが可能であるものと本発明者らは推察する。
【0062】
また、圧縮状態の観察試料に対してCT測定を行う場合、圧子と容器との接続面に応力がかかるため、一般に、高い圧縮力をかけた場合に容器が破損し易い状態となるが、本発明においては、支持部が容器の内面に当接するように配置されている圧子を、支持部の容器当接面の面積が該支持部の先端部当接部の面積と比べて5~100倍の大きさを有するものとすることにより、容器の底面にかかる圧力を広く分散させることを可能として、これにより、容器(筐体)への応力負荷を軽減させて容器の破損を十分に防止している。さらに、本発明においては、圧子の支持部をいずれも前記圧縮強度が100MPa以上の材料からなるものとしているが、これにより高い圧縮力での精度の高い傾斜CT法による測定を行うことが可能となるものと本発明者らは推察する。そのため、本発明においては、2つの圧子により、十分に高い圧縮力で観察試料を圧縮しながら、測定する電磁波の透過率をより高いものとすることが可能となり、電磁波の高透過率と高圧縮強度を両立することも可能となる。このように、本発明によれば、十分に高度な圧縮力で観察試料を圧縮することができ、圧縮状態の観察試料に対して精度の高い傾斜CT法による測定を行うことが可能であるものと本発明者らは推察する。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、観察試料に対して十分に高度な圧縮力を付与しながら傾斜CT法による測定を行うことを可能とし、圧縮状態の観察試料に対して内部構造の非破壊三次元計測をより精度高く行うことを可能とする傾斜CT用の観察試料保持治具を提供することが可能となる。したがって、本発明の傾斜CT用の観察試料保持治具は、特に、通常CTでは測定が困難な平板状やフィルム状などの形状の観察試料に対して傾斜CT測定を行う際の観察試料を保持するための治具等として有用である。
【符号の説明】
【0064】
10…傾斜CT用の観察試料保持治具、11…容器、12…圧縮手段、121…下側の圧子、121A…下側の圧子の先端部、121B…下側の圧子の支持部、122…上側の圧子、122A…上側の圧子の先端部、122B…上側の圧子の支持部、13…圧縮力付与機構、20…取付部材、30…回転ステージ、50…固定具、E…電磁波、C…回転軸、OS…観察試料、S…スクリーン、I…像、P1…容器の底面の突出部、P2…圧子の突出部、P3…圧子の突出部の支持部(台座となる部位)、S1…先端部の観察面と接触する面、S2…下側の圧子の先端部当接部(先端部が接している領域)、S3…下側の圧子の容器当接面、T…容器の側壁の厚み、R1…容器の外径、R2…先端部当接部S2の直径、R3…面S3の直径、R4…取付部材の外径。