(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
E02F9/22 Q
(21)【出願番号】P 2019180039
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】秋田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
(72)【発明者】
【氏名】伊東 勝道
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/180798(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/123511(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/186180(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20-9/22
E02F 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端を上部旋回体に回動可能に連結されたブーム、前記ブームの先端に一端を回動可能に連結されたアーム、及び、前記アームの他端に回動可能に連結された作業具を含む複数の被駆動部材で構成された多関節型の作業装置と、
操作信号に基づいて前記ブームを駆動するブームシリンダ、前記アームを駆動するアームシリンダ、及び、前記作業具を駆動する作業具シリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、
複数の前記油圧アクチュエータを駆動するための圧油を吐出する複数の油圧ポンプと、
複数の前記油圧アクチュエータのうちオペレータの所望する油圧アクチュエータを操作するための前記操作信号を出力する操作装置と、
複数の前記油圧アクチュエータに対応して各々設けられ、前記操作装置からの操作信号に基づいて前記油圧ポンプから複数の前記油圧アクチュエータに供給される圧油の方向および流量を制御する複数の流量制御弁と、
前記作業装置による作業対象について設定された目標面およびその上方の領域内で前記作業装置が動くように、複数の前記油圧アクチュエータのうち少なくとも1つに対応する前記流量制御弁を制御する制御信号を出力するか、又は、前記操作装置から複数の前記油圧アクチュエータのうち少なくとも1つに対応する前記流量制御弁を制御するために出力された前記制御信号を補正する領域制限制御を実行するコントローラとを備えた作業機械において、
前記コントローラは、
前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量以下の場合には、前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量と前記アームシリンダの推定速度との関係を予め定めた第1の条件に基づいて、前記領域制限制御に用いる前記アームシリンダの推定速度を算出し、
前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量よりも大きい場合には、前記領域制限制御に用いる前記アームシリンダの推定速度を前記第1の条件に基づいて算出される前記アームシリンダの推定速度よりも大きい速度として算出することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、
前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量よりも大きい場合に算出される前記アームシリンダの推定速度を、前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作に基づいてポジティブコントロールされる前記油圧ポンプの吐出流量と、前記アームシリンダに対応する前記操作装置の操作に基づいてポジティブコントロールされる前記油圧ポンプの吐出流量とに基づいて算出することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧アクチュエータで駆動される作業装置(例えば、ブーム、アーム、及びバケットから成る作業装置)を備える、作業機械(例えば油圧ショベル)の作業効率を向上する技術としてマシンコントロール(MC:Machine Control)がある。マシンコントロール(以降、単にMCと称する)とは、オペレータによる操作装置の操作と、予め定めた条件とに従って作業装置の動作を半自動的に制御することでオペレータの操作支援を行う技術である。
【0003】
このようなMCに係る技術として、例えば、特許文献1には、ブームと、アームと、バケットと、前記アームを駆動するアームシリンダと、移動可能なスプールを有し、前記スプールの移動により前記アームシリンダに作動油を供給して前記アームシリンダを動作させる方向制御弁と、アーム操作レバーの操作量に従う前記方向制御弁のスプールの移動量と前記アームシリンダの速度との相関関係に基づいて前記アームシリンダの推定速度を算出する算出部と、前記アームシリンダの推定速度に基づいて、前記ブームの目標速度を決定する速度決定部とを備え、前記算出部は、前記アーム操作レバーの操作量が所定量未満の場合には、前記アーム操作レバーの操作量に従う前記方向制御弁のスプールの移動量と前記アームシリンダの速度との相関関係に従う前記アームシリンダの速度よりも大きい速度を、前記アームシリンダの推定速度として算出する、作業車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術においては、アームシリンダの速度に影響を及ぼす作業装置の自重を考慮することで、アームシリンダの速度をより正確に推定しようとしている。しかしながら、例えば、オープンセンタ・ポジティブコントロール制御の油圧システムを用いる作業機械に上記従来技術を適用した場合、複合操作時には操作量の大きい方のアクチュエータを優先してポンプ流量を制御するため、操作量の小さい方のアクチュエータに供給されるポンプ流量が増える場合があり、実速度が単独操作時のメータリング特性から算出される推定速度よりも速くなってしまう場合がある。すなわち、複合動作時にアクチュエータの実速度が測定速度と異なってしまい、作業装置の動作にハンチング等が生じて挙動が不安定となるおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、作業装置の挙動を安定させることができる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、基端を上部旋回体に回動可能に連結されたブーム、前記ブームの先端に一端を回動可能に連結されたアーム、及び、前記アームの他端に回動可能に連結された作業具を含む複数の被駆動部材で構成された多関節型の作業装置と、操作信号に基づいて前記ブームを駆動するブームシリンダ、前記アームを駆動するアームシリンダ、及び、前記作業具を駆動する作業具シリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、複数の前記油圧アクチュエータを駆動するための圧油を吐出する複数の油圧ポンプと、複数の前記油圧アクチュエータのうちオペレータの所望する油圧アクチュエータを操作するための前記操作信号を出力する操作装置と、複数の前記油圧アクチュエータに対応して各々設けられ、前記操作装置からの操作信号に基づいて前記油圧ポンプから複数の前記油圧アクチュエータに供給される圧油の方向および流量を制御する複数の流量制御弁と、前記作業装置による作業対象について設定された目標面およびその上方の領域内で前記作業装置が動くように、複数の前記油圧アクチュエータのうち少なくとも1つに対応する前記流量制御弁を制御する制御信号を出力するか、又は、前記操作装置から複数の前記油圧アクチュエータのうち少なくとも1つに対応する前記流量制御弁を制御するために出力された前記制御信号を補正する領域制限制御を実行するコントローラとを備えた作業機械において、前記コントローラは、前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量以下の場合には、前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量と前記アームシリンダの推定速度との関係を予め定めた第1の条件に基づいて、前記領域制限制御に用いる前記アームシリンダの推定速度を算出し、前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量よりも大きい場合には、前記領域制限制御に用いる前記アームシリンダの推定速度を前記第1の条件に基づいて算出される前記アームシリンダの推定速度よりも大きい速度として算出するものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業装置の挙動を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
【
図2】油圧ショベルの油圧回路システムをコントローラを含む周辺構成とともに抜き出して示す図である。
【
図3】
図2中のフロント制御用油圧ユニットを関連構成とともに抜き出して詳細に示す図である。
【
図5】コントローラの処理機能を示す機能ブロック図である。
【
図6】
図5におけるMC制御部の処理機能の詳細を示す機能ブロック図である。
【
図7】コントローラによるMCのブームについての処理内容を示すフローチャートである。
【
図8】油圧ショベルについて設定するショベル座標系について説明する図である。
【
図9】バケットにおける速度成分の一例を示す図である。
【
図10】操作量に対するシリンダ速度の設定テーブルの一例を示す図である。
【
図11】ポンプコントロール圧とポンプ流量の関係を示す図である。
【
図12】バケット爪先速度の垂直成分の制限値と距離との関係を示す図である。
【
図13】アームシリンダ速度補正処理の処理内容を示すフローチャートである。
【
図14】油圧ショベルにおける作業状態の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の説明においては、作業機械の一例として、作業装置の先端に作業具(アタッチメント)としてバケットを備える油圧ショベルを例示して説明するが、バケット以外のアタッチメントを備える作業機械に本発明を適用することが可能である。また、複数の被駆動部材(アタッチメント、アーム、ブーム等)を連結して構成される多関節型の作業装置を有するものであれば、油圧ショベル以外の作業機械への適用も可能である。
【0011】
また、以下の説明においては、ある形状を示す用語(例えば、目標面、設計面等)とともに用いられる「上」、「上方」又は「下方」という語の意味に関し、「上」は当該或る形状の「表面」を意味し、「上方」は当該或る形状の「表面より高い位置」を意味し、「下方」は当該或る形状の「表面より低い位置」を意味することとする。
【0012】
また、以下の説明においては、同一の構成要素が複数存在する場合、符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが、当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。すなわち、例えば、2つの油圧ポンプ2a,2bが存在するとき、これらをまとめて油圧ポンプ2と表記することがある。
【0013】
<基本構成>
図1は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。また、
図2は、油圧ショベルの油圧回路システムをコントローラを含む周辺構成とともに抜き出して示す図であり、
図3は、
図2中のフロント制御用油圧ユニットを関連構成とともに抜き出して詳細に示す図である。
【0014】
図1において、油圧ショベル1は、多関節型の作業装置1Aと、本体1Bで構成されている。油圧ショベル1の本体1Bは、左右の走行油圧モータ3a,3bにより走行する下部走行体11と、下部走行体11の上に取り付けられ、旋回油圧モータ4により旋回する上部旋回体12とからなる。
【0015】
作業装置1Aは、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム8、アーム9、及び、バケット10)を連結して構成されている。ブーム8の基端は上部旋回体12の前部においてブームピンを介して回動可能に支持されている。ブーム8の先端にはアームピンを介してアーム9が回動可能に連結されており、アーム9の先端にはバケットピンを介してバケット10が回動可能に連結されている。ブーム8はブームシリンダ5によって駆動され、アーム9はアームシリンダ6によって駆動され、バケット10はバケットシリンダ7によって駆動される。なお、以降の説明において、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、及び、バケットシリンダ7をまとめて油圧シリンダ5,6,7や油圧アクチュエータ5,6,7と称することがある。
【0016】
図8は、油圧ショベルについて設定するショベル座標系について説明する図である。
【0017】
図8に示すように、本実施の形態においては、油圧ショベル1に対して、ショベル座標系(ローカル座標系)を定義する。ショベル座標系は、上部旋回体12に対して相対的に固定で定義されるXY座標系であり、上部旋回体12に回動支持されているブーム8の基端を原点とし、上部旋回体12の旋回軸に沿う方向に原点を通って上方を正とするZ軸を、作業装置1Aの稼動する平面に沿う方向であってZ軸に垂直にブームの基端を通って前方を正とするX軸を有する車体座標系を設定する。
【0018】
また、ブーム8の長さ(両端の連結部の間の直線距離)をL1、アーム9の長さ(両端の連結部の間の直線距離)をL2、バケット10の長さ(アームとの連結部と爪先の間の直線距離)をL3とし、ブーム8とX軸との成す角(長さ方向の直線とX軸との相対角度)を回動角度α、アーム9とブーム8との成す角(長さ方向の直線の相対角度)を回動角度β、バケット10とアーム9との成す角(長さ方向の直線の相対角度)を回動角度γと定義する。これにより、ショベル座標系におけるバケット爪先位置の座標および作業装置1Aの姿勢はL1,L2,L3,α,β,γで表現することができる。
【0019】
さらに、油圧ショベル1の本体1Bの水平面に対する前後方向の傾きを角度θ、作業装置1Aのバケット10の爪先と目標面60との距離をDとする。なお、目標面60とは、掘削作業の目標として施工現場の設計情報などに基づいて設定される目標掘削面である。
【0020】
作業装置1Aには、ブーム8、アーム9、バケット10の回動角度α,β,γを測定する姿勢検出装置として、ブームピンにブーム角度センサ30、アームピンにアーム角度センサ31、バケットリンク13にバケット角度センサ32がそれぞれ取付けられ、また、上部旋回体12には基準面(例えば水平面)に対する上部旋回体12(油圧ショベル1の本体1B)の傾斜角θを検出する車体傾斜角センサ33が取付けられている。なお、角度センサ30,31,32は、複数の被駆動部材8,9,10の連結部における相対角度を検出するものを例示して説明するが、複数の被駆動部材8,9,10の基準面(例えば水平面)に対する相対角度をそれぞれ検出する慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)に代替可能である。
【0021】
また、
図1及び
図2において、上部旋回体12に設けられた運転室内には、右走行操作レバー23a(
図1)を有し右走行油圧モータ3a(すなわち、下部走行体11)を操作するための操作装置47a(
図2)と、左走行操作レバー23b(
図1)を有し左走行油圧モータ3b(すなわち、下部走行体11)を操作するための操作装置47b(
図2)と、右操作レバー1a(
図1)を共有しブームシリンダ5(すなわち、ブーム8)及びバケットシリンダ7(すなわち、バケット10)を操作するための操作装置45a,46a(
図2)と、左操作レバー1b(
図1)を共有しアームシリンダ6(すなわち、アーム9)及び旋回油圧モータ4(すなわち、上部旋回体12)を操作するための操作装置45b,46b(
図2)とが設置されている。なお、以下では、右走行操作レバー23a及び左走行操作レバー23bを走行操作レバー23a,23b、右操作レバー1a及び左操作レバー1bを操作レバー1a,1bと総称することがある。
【0022】
また、運転室内には、目標面60と作業装置1Aの位置関係が表示可能な表示装置(例えば液晶ディスプレイ)53と、マシンコントロール(以下、MCと称する)による動作制御の許可・禁止(ON/OFF)を択一的に選択するためのMC制御ON/OFFスイッチ98と、MCによるバケット角度制御(作業具角度制御とも称する)の許可・禁止(ON/OFF)を択一的に選択するための制御選択スイッチ97と、MCによるバケット角度制御における目標面60に対するバケット10の角度(目標角度)を設定するための目標角度設定装置96と、目標面60に関する情報(各目標面の位置情報や傾斜角度情報を含む)を入力可能なインタフェースである目標面設定装置51とが配置されている(後の
図4及び
図5を参照)。
【0023】
制御選択スイッチ97は、例えば、ジョイスティック形状の操作レバー1aにおける前面の上端部に設けられており、操作レバー1aを握るオペレータの親指により押下操作される。また、制御選択スイッチ97は、例えば、モーメンタリスイッチであり、押下される度にバケット角度制御(作業具角度制御)の有効(ON)と無効(OFF)が切り替えられる。なお、制御選択スイッチ97の設置箇所は操作レバー1a(1b)に限られず、その他の場所に設けても良い。また、制御選択スイッチ97は、ハードウェアで構成する必要は無く、例えば表示装置53をタッチパネル化し、その表示画面上に表示されるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)で構成しても良い。
【0024】
目標面設定装置51は、グローバル座標系(絶対座標系)上に規定された目標面の3次元データを格納した外部端末(図示せず)と接続されており、この外部端末からの情報に基づいて目標面60の設定を行う。なお、目標面設定装置51を介した目標面60の入力は、オペレータが手動で行っても良い。
【0025】
図2に示すように、上部旋回体12に搭載された原動機であるエンジン18は、油圧ポンプ2a,2bとパイロットポンプ48を駆動する。油圧ポンプ2a,2bはレギュレータ2aa,2baによって容量が制御される可変容量型ポンプであり、パイロットポンプ48は固定容量型ポンプである。油圧ポンプ2およびパイロットポンプ48は作動油タンク200より作動油を吸引する。
【0026】
操作装置45,46,47から操作信号として出力される油圧信号を伝達するパイロットライン144,145,146,147,148,149の途中にはシャトルブロック162が設けられている。操作装置45,46,47から出力された油圧信号がシャトルブロック162を介してレギュレータ2aa,2baにも入力される。シャトルブロック162は、パイロットライン144,145,146,147,148,149の油圧信号を選択的に抽出するための複数のシャトル弁等により構成されるものであるが、詳細構成の説明は省略する。操作装置45,46,47からの油圧信号がシャトルブロック162を介してレギュレータ2aa,2baに入力されており、油圧ポンプ2a,2bの吐出流量が当該油圧信号に応じて制御される。
【0027】
パイロットポンプ48の吐出配管であるポンプライン48aは、ロック弁39を通った後、複数に分岐して操作装置45,46,47、及び、フロント制御用油圧ユニット160内の各弁に接続されている。ロック弁39は、例えば、電磁切換弁であり、その電磁駆動部は運転室(
図1)に配置された図示しないゲートロックレバーの位置検出器と電気的に接続されている。ゲートロックレバーのポジションは位置検出器で検出され、その位置検出器からロック弁39に対してゲートロックレバーのポジションに応じた信号が入力される。ゲートロックレバーのポジションがロック位置にあればロック弁39が閉じてポンプライン48aが遮断され、ロック解除位置にあればロック弁39が開いてポンプライン48aが開通する。つまり、ゲートロックレバーがロック位置に操作されてポンプライン48aが遮断された状態では、操作装置45,46,47による操作が無効化されて、旋回および掘削等の動作が禁止される。
【0028】
操作装置45,46,47は、油圧パイロット方式であり、パイロットポンプ48から吐出される圧油をもとに、オペレータにより操作される操作レバー1a1b,23a,23bの操作量(例えば、レバーストローク)と操作方向に応じたパイロット圧(操作圧と称することがある)を油圧信号として生成する。このようにして生成されたパイロット圧(油圧信号)は、対応する流量制御弁15a~15h(
図2,
図3参照)の油圧駆動部150a~157bにパイロットライン144a~149b(
図3参照)を介して供給され、これら流量制御弁15a~15hを駆動する操作信号として利用される。
【0029】
油圧ポンプ2から吐出された圧油は、流量制御弁15a~15h(
図2参照)を介して右走行油圧モータ3a、左走行油圧モータ3b、旋回油圧モータ4、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、及び、バケットシリンダ7に供給されるともに、各流量制御弁15a~15hを結ぶセンタバイパス管路158a~158dを介して作動油タンク200に導かれる。油圧ポンプ2から流量制御弁15a,15bを介して供給される圧油によってブームシリンダ5、流量制御弁15c,15dを介して供給される圧油によってアームシリンダ6、及び、流量制御弁15cを介して供給される圧油によってバケットシリンダ7がそれぞれ伸縮することにより、ブーム8、アーム9、及び、バケット10がそれぞれ回動されてバケット10の位置及び姿勢が変化する。また、油圧ポンプ2から流量制御弁15fを介して供給される圧油によって旋回油圧モータ4が回転することで、下部走行体11に対して上部旋回体12が旋回する。また、油圧ポンプ2から流量制御弁15g,15hを介して供給される圧油によって右走行油圧モータ3a及び左走行油圧モータ3bが回転することで、下部走行体11が走行する。
【0030】
<フロント制御用油圧ユニット160>
図3に示すように、フロント制御用油圧ユニット160は、ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144a,144bに設けられ、操作レバー1aの操作量としてパイロット圧(第1制御信号)を検出するオペレータ操作検出装置としての圧力センサ70a,70bと、一次ポート側がポンプライン48aを介してパイロットポンプ48に接続されパイロットポンプ48からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁54aと、ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144aと電磁比例弁54aの二次ポート側に接続され、パイロットライン144a内のパイロット圧と電磁比例弁54aから出力される制御圧(第2制御信号)の高圧側を選択し、流量制御弁15a,15bの油圧駆動部150a,151aに導くシャトル弁82aと、ブーム8用の操作装置45aのパイロットライン144bに設置され、コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン144b内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して流量制御弁15a,15bの油圧駆動部150b,151bに導く電磁比例弁54bとを備えている。
【0031】
フロント制御用油圧ユニット160は、アーム9用のパイロットライン145a,145bに設置され、操作レバー1bの操作量としてパイロット圧(第1制御信号)を検出してコントローラ40に出力するオペレータ操作検出装置としての圧力センサ71a,71bと、パイロットライン145bに設置され、コントローラ40からの制御信号を基にパイロット圧(第1制御信号)を低減して流量制御弁15c,15dの油圧駆動部152b,153bに導く電磁比例弁55bと、パイロットライン145aに設置され、コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン145a内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して流量制御弁15c,15dの油圧駆動部152a,153aに導く電磁比例弁55aとを備えている。
【0032】
また、フロント制御用油圧ユニット160は、バケット10用のパイロットライン146a,146bに設置され、操作レバー1aの操作量としてパイロット圧(第1制御信号)を検出してコントローラ40に出力するオペレータ操作検出装置としての圧力センサ72a,72bと、コントローラ40からの制御信号を基にパイロット圧(第1制御信号)を低減して出力する電磁比例弁56a,56bと、一次ポート側がパイロットポンプ48に接続されパイロットポンプ48からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁56c,56dと、パイロットライン146a,146b内のパイロット圧と電磁比例弁56c,56dから出力される制御圧の高圧側を選択し、流量制御弁15eの油圧駆動部154a,154bに導くシャトル弁83a,83bとを備えている。
【0033】
なお、
図3においては図示の簡単のため、同一のパイロットラインに複数の流量制御弁が接続される場合については一つのみを図示し、他の流量制御弁についてはその符号を括弧書きで示す。また、
図3においては、圧力センサ70,71,72とコントローラ40との接続線は紙面の都合上省略している。
【0034】
電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bは、非通電時には開度が最大で、コントローラ40からの制御信号である電流が増大するほど開度が小さくなる。一方、電磁比例弁54a,56c,56dは、非通電時には開度がゼロであり、通電時にはコントローラ40からの制御信号である電流が増大するほど開度が大きくなる。すなわち、各電磁比例弁54,55,56の開度はコントローラ40からの制御信号に応じたものとなる。
【0035】
以降、本実施の形態においては、流量制御弁15a~15eに対する制御信号のうち、操作装置45a,45b,46aの操作によって発生したパイロット圧を「第1制御信号」と称する。また、流量制御弁15a~15eに対する制御信号のうち、コントローラ40で電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bを駆動して第1制御信号を補正(低減)して生成したパイロット圧と、コントローラ40で電磁比例弁54a,56c,56dを駆動して第1制御信号とは別に新たに生成したパイロット圧を「第2制御信号」と称する。
【0036】
<コントローラ40>
図4は、コントローラのハードウェア構成図である。
【0037】
図4において、コントローラ40は、入力インタフェース91と、プロセッサである中央処理装置(CPU)92と、記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)93及びランダムアクセスメモリ(RAM)94と、出力インタフェース95とを有している。入力インタフェース91は、姿勢検出装置(ブーム角度センサ30、アーム角度センサ31、バケット角度センサ32、車体傾斜角センサ33)からの信号、目標面設定装置51からの信号、オペレータ操作検出装置(圧力センサ70a,70b,71a,71b,72a,72b)、制御選択スイッチ97からの信号、目標角度設定装置96からの目標角度を示す信号、制御選択スイッチ97からのバケット角度制御の有効又は無効の選択状態を示す信号、及び、MC制御ON/OFFスイッチ98からのMCの許可・禁止(ON/OFF)の選択状態を示す信号を入力し、A/D変換を行う。ROM93は、後述するフローチャートを実行するための制御プログラムと、当該フローチャートの実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり、CPU92は、ROM93に記憶された制御プログラムに従って入力インタフェース91及びメモリ93、94から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力インタフェース95は、CPU92での演算結果に応じた出力用の信号を作成し、その信号を表示装置53や電磁比例弁54,55,56に出力することで、油圧アクチュエータ3a,3b,3cを駆動・制御したり、油圧ショベル1の本体1B、バケット10及び目標面60等の画像を表示装置53の表示画面上に表示させたりする。なお、
図4のコントローラ40は、記憶装置としてROM93及びRAM94という半導体メモリを備えている場合を例示しているが、記憶機能を有する装置であれば代替可能であり、例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備える構成としても良い。
【0038】
本実施の形態におけるコントローラ40は、マシンコントロール(MC)として、操作装置45,46がオペレータに操作されたとき、作業装置1Aを予め定められた条件に基づいて制御する処理を実行する。本実施の形態におけるMCは、操作装置45a,45b,46a,46bの非操作時に作業装置1Aの動作をコンピュータにより制御する「自動制御」に対して、操作装置45a,45b,46a,46bの操作時にのみ作業装置1Aの動作をコンピュータにより制御する「半自動制御」と称することがある。
【0039】
作業装置1AのMCとしては、操作装置45b,46aを介して掘削操作(具体的には、アームクラウド、バケットクラウド及びバケットダンプのうち少なくとも1つの指示)が入力された場合、目標面60と作業装置1Aの先端(本実施形態ではバケット10の爪先とする)の位置関係に基づいて、作業装置1Aの先端の位置が目標面60上及びその上方の領域内に保持されるように油圧アクチュエータ5,6,7のうち少なくとも1つを強制的に動作させる制御信号(例えば、ブームシリンダ5を伸ばして強制的にブーム上げ動作を行う)を該当する流量制御弁15a~15eに出力する、所謂、領域制限制御を行う。
【0040】
このようなMCによりバケット10の爪先が目標面60の下方に侵入することが防止されるので、オペレータの技量の程度に関わらず目標面60に沿った掘削が可能となる。なお、本実施の形態では、MC時の作業装置1Aの制御点を、油圧ショベルのバケット10の爪先(作業装置1Aの先端)に設定しているが、制御点は作業装置1Aの先端部分の点であればバケット爪先以外にも変更可能である。すなわち、例えば、バケット10の底面や、バケットリンク13の最外部に制御点を設定しても良い。
【0041】
フロント制御用油圧ユニット160において、コントローラ40から制御信号を出力して電磁比例弁54a,56c,56dを駆動すると、対応する操作装置45a,46aのオペレータ操作が無い場合にもパイロット圧(第2制御信号)を発生できるので、ブーム上げ動作、バケットクラウド動作、バケットダンプ動作を強制的に発生できる。また、これと同様にコントローラ40により電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bを駆動すると、操作装置45a,45b,46aのオペレータ操作により発生したパイロット圧(第1制御信号)を減じたパイロット圧(第2制御信号)を発生することができ、ブーム下げ動作、アームクラウド/ダンプ動作、バケットクラウド/ダンプ動作の速度をオペレータ操作の値から強制的に低減できる。
【0042】
第2制御信号は、第1制御信号によって発生される作業装置1Aの制御点の速度ベクトルが所定の条件に反するときに生成され、当該所定の条件に反しない作業装置1Aの制御点の速度ベクトルを発生させる制御信号として生成される。なお、同一の流量制御弁15a~15eにおける一方の油圧駆動部に対して第1制御信号が、他方の油圧駆動部に対して第2制御信号が生成される場合は、第2制御信号を優先的に油圧駆動部に作用させるものとし、第1制御信号を電磁比例弁で遮断し、第2制御信号を当該他方の油圧駆動部に入力する。したがって、流量制御弁15a~15eのうち第2制御信号が演算されたものについては第2制御信号を基に制御され、第2制御信号が演算されなかったものについては第1制御信号を基に制御され、第1及び第2制御信号の双方が発生しなかったものについては制御(駆動)されないことになる。すなわち、本実施の形態におけるMCとは、第2制御信号に基づく流量制御弁15a~15eの制御ということもできる。
【0043】
図5は、コントローラの処理機能を示す機能ブロック図である。また、
図6は、
図5におけるMC制御部の処理機能を関連構成とともに詳細に示す機能ブロック図である。
【0044】
図5に示すように、コントローラ40は、MC制御部43と、電磁比例弁制御部44と、表示制御部374とを備えている。
【0045】
表示制御部374は、MC制御部43から出力される作業装置姿勢及び目標面を基に表示装置53を制御する機能部である。表示制御部374には、作業装置1Aの画像及びアイコンを含む表示関連データが多数格納されている表示ROMが備えられており、表示制御部374が、入力情報に含まれるフラグに基づいて所定のプログラムを読み出すとともに、表示装置53における表示制御をする。
【0046】
図6に示すように、MC制御部43は、操作量演算部43aと、姿勢演算部43bと、目標面演算部43cと、アクチュエータ制御部81とを備えている。また、アクチュエータ制御部81は、ブーム制御部81aとバケット制御部81bとを有している。
【0047】
操作量演算部43aは、オペレータ操作検出装置(圧力センサ70,71,72)からの入力を基に操作装置45a,45b,46a(操作レバー1a,1b)の操作量を算出する。操作量演算部43aでは、圧力センサ70,71,72の検出値から操作装置45a,45b,46aの操作量を算出する。なお、本実施の形態で示す圧力センサ70,71,72による操作量の算出は一例に過ぎず、例えば、各操作装置45a,45b,46aの操作装置の回転変位を検出する位置センサ(例えば、ロータリーエンコーダ)で当該操作装置の操作量を検出しても良い。
【0048】
姿勢演算部43bは姿勢検出装置(ブーム角度センサ30、アーム角度センサ31、バケット角度センサ32、車体傾斜角センサ33)からの情報に基づき、ローカル座標系における作業装置1Aの姿勢と、バケット10の爪先の位置を演算する。
【0049】
目標面演算部43cは、目標面設定装置51からの情報に基づき目標面60の位置情報を演算し、これをROM93内に記憶する。本実施の形態では、
図8に示すように、3次元の目標面を作業装置1Aが移動する平面(作業装置1Aの動作平面)で切断した断面形状を目標面60(2次元の目標面)として利用する。
【0050】
なお、
図8では、目標面60が1つである場合を例示しているが、目標面が複数存在する場合もある。目標面が複数存在する場合には、例えば、作業装置1Aから最も近いものを目標面と設定する方法や、バケット爪先の下方に位置するものを目標面とする方法、或いは、任意に選択したものを目標面とする方法等がある。
【0051】
ブーム制御部81a及びバケット制御部81bは、操作装置45a,45b,46aの操作時に、予め定めた条件に従って複数の油圧アクチュエータ5,6,7のうち少なくとも1つを制御するアクチュエータ制御部81を構成する。アクチュエータ制御部81は、各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a~15eの目標パイロット圧を演算し、その演算した目標パイロット圧を電磁比例弁制御部44に出力する。
【0052】
ブーム制御部81aは、操作装置45a,45b,46aの操作時に、目標面60の位置と、作業装置1Aの姿勢及びバケット10の爪先の位置と、操作装置45a,45b,46aの操作量とに基づいて、目標面60上またはその上方にバケット10の爪先(制御点)が位置するようにブームシリンダ5(ブーム8)の動作を制御するMCを実行するための機能部である。ブーム制御部81aでは、ブームシリンダ5の流量制御弁15a,15bの目標パイロット圧が演算される。
【0053】
バケット制御部81bは、操作装置45a,45b,46aの操作時に、MCによるバケット角度制御を実行するための機能部である。具体的には、目標面60とバケット10の爪先の距離が所定値以下のとき、目標面60に対するバケット10の角度(角度θ,φから算出可能)が目標角度設定装置96で予め設定した対目標面バケット角度となるようにバケットシリンダ7(すなわち、バケット10)の動作を制御するMC(バケット角度制御)が実行される。バケット制御部81bでは、バケットシリンダ7の流量制御弁15eの目標パイロット圧が演算される。
【0054】
電磁比例弁制御部44は、MC制御部43のアクチュエータ制御部81から出力される各流量制御弁15a~15eへの目標パイロット圧を基に、各電磁比例弁54~56への指令を演算する。なお、オペレータ操作に基づくパイロット圧(第1制御信号)と、アクチュエータ制御部81で算出された目標パイロット圧が一致する場合には,該当する電磁比例弁54~56への電流値(指令値)はゼロとなり、該当する電磁比例弁54~56の動作は行われない。
【0055】
<MCに係るブーム制御(ブーム制御部81a)>
ここで、MCに係るブーム制御の詳細を説明する。
【0056】
図7は、コントローラによるMCのブームについての処理内容を示すフローチャートである。また、
図9はバケットにおける速度成分の一例を、
図10は操作装置の操作量に対するシリンダ速度の設定テーブルの一例をそれぞれ示す図である。
【0057】
コントローラ40は、MCにおけるブーム制御として、ブーム制御部81aによるブーム上げ制御を実行する。ブーム制御部81aによる処理は、操作装置45a,45b,46aがオペレータにより操作されると開始される。
【0058】
図7において、ブーム制御部81aは、操作装置45a,45b,46aがオペレータにより操作されると、まず、操作量演算部43aで演算された操作量を基に各油圧シリンダ5,6,7の動作速度(シリンダ速度)を演算するシリンダ速度算出処理を行う(ステップS100)。具体的には、
図10で示すように、あらかじめ実験やシミュレーションで求めた、例えば、ブーム8、アーム9、バケット10等の操作レバーの操作量に対するブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7等のシリンダ速度をテーブルとして設定し、これに従って各油圧シリンダ5,6,7についてシリンダ速度を算出する。また、アームシリンダ6の速度については、後述のアームシリンダ速度補正処理において、補正ゲインkを用いることで補正を行う。
【0059】
続いて、ブーム制御部81aは、ステップS100で演算された各油圧シリンダ5,6,7の動作速度と、姿勢演算部43bで演算された作業装置1Aの姿勢とに基づいて、オペレータ操作によるバケット先端(爪先)の速度ベクトルBを演算する(ステップS110)。
【0060】
続いて、ブーム制御部81aは、バケット10の爪先の目標面60からの距離Dと制限値ayとの予め定めた関係に基づいて、距離Dを用いてバケット先端の速度ベクトルの目標面60に垂直な成分の制限値ayを算出する(ステップS120)。
【0061】
続いて、ブーム制御部81aは、ステップS120で算出したオペレータ操作によるバケット先端の速度ベクトルBについて、目標面60に垂直な成分byを取得する(ステップS130)。
【0062】
続いて、ブーム制御部81aは、ステップS130で算出した制限値ayが0以上か否かを判定する(ステップS140)。なお、
図9に示したように、バケット10に対してxy座標を設定する。
図9のxy座標では、x軸は目標面60と平行で図中右方向を正とし、y軸は目標面60に垂直で図中上方向を正とする。
図9では、垂直成分by及び制限値ayは負であり、水平成分bx及び水平成分cx及び垂直成分cyは正である。そして、
図12から明らかであるが、制限値ayが0のときは距離Dが0、すなわち爪先が目標面60上に位置する場合であり、制限値ayが正のときは距離Dが負、すなわち爪先が目標面60より下方に位置する場合であり、制限値ayが負のときは距離Dが正、すなわち爪先が目標面60より上方に位置する場合である。
【0063】
ステップS140での判定結果がYESの場合、すなわち、制限値ayが0以上と判定された場合であって、爪先が目標面60上またはその下方に位置する場合には、ブーム制御部81aは、オペレータ操作による爪先の速度ベクトルBの垂直成分byが0以上か否かを判定する(ステップS150)。垂直成分byが正の場合は速度ベクトルBの垂直成分byが上向きであることを示し、垂直成分byが負の場合は速度ベクトルBの垂直成分byが下向きであることを示す。
【0064】
ステップS150での判定結果がYESの場合、すなわち、垂直成分byが0以上と判定された場合であって、垂直成分byが上向きの場合には、ブーム制御部81aは、制限値ayの絶対値が垂直成分byの絶対値以上か否かを判定し、(ステップS160)、判定結果がYESの場合には、ブーム制御部81aは、マシンコントロールによるブーム8の動作で発生すべきバケット先端の速度ベクトルCの目標面60に垂直な成分cyを算出する式として「cy=ay-by」を選択し、その式とステップS140で算出した制限値ayとステップS150で算出した垂直成分byを基に垂直成分cyを算出する(ステップS170)。
【0065】
続いて、ブーム制御部81aは、ステップS170で算出した垂直成分cyを出力可能な速度ベクトルCを算出し、その水平成分をcxとする(ステップS180)。
【0066】
続いて、ブーム制御部81aは、目標速度ベクトルTを算出し(ステップS190)、ステップS200に進む。目標速度ベクトルTは、目標面60に垂直な成分をty、水平な成分txとし、それぞれ「ty=by+cy,tx=bx+cx」とすることで表すことができる。これに、ステップS170で算出したcy=ay-byを代入すると目標速度ベクトルTは「ty=ay,tx=bx+cx」となる。つまり、ステップS190の処理に至った場合の目標速度ベクトルの垂直成分tyは制限値ayに制限され、マシンコントロールによる強制ブーム上げの制御が発動される。
【0067】
ステップS140での判定結果がNOの場合、すなわち、制限値ayが0未満の場合には、ブーム制御部81aは、オペレータ操作による爪先の速度ベクトルBの垂直成分byが0以上か否かを判定する(ステップS141)。ステップS141での判定結果がYESの場合には、ステップS143に進み、判定結果がNOの場合には、ステップS142に進む。
【0068】
ステップS141での判定結果がNOの場合、すなわち、垂直成分byが0未満の場合には、ブーム制御部81aは、制限値ayの絶対値がと垂直成分byの絶対値以上か否かを判定し(ステップS142)、判定結果がYESの場合には、ステップS143に進み、判定結果がNOの場合にはステップS170に進む。
【0069】
ステップS141での判定結果がYESの場合、すなわち、垂直成分byが0以上と判定された場合(垂直成分byが上向きの場合)、又は、ステップS142での判定結果がYESの場合、すなわち、制限値ayの絶対値が垂直成分byの絶対値未満の場合には、ブーム制御部81aは、マシンコントロールでブーム8を動作させる必要が無いとし、速度ベクトルCをゼロとする(ステップS143)。
【0070】
続いて、ブーム制御部81aは、目標速度ベクトルTをステップS190と同様の式(ty=by+cy,tx=bx+cx)に基づいて「ty=by,tx=bx」とする(ステップS144)。これは、オペレータ操作による速度ベクトルBと一致する。
【0071】
ステップS190、又は、ステップS144の処理が終了すると、続いて、ブーム制御部81aは、ステップS520又はステップS540で決定した目標速度ベクトルT(ty,tx)に基づいて各油圧シリンダ5,6,7の目標速度を演算する(ステップS200)。なお、上記説明から明らかであるが、目標速度ベクトルTが速度ベクトルBに一致しないときには、マシンコントロールによるブーム8の動作で発生する速度ベクトルCを速度ベクトルBに加えることで目標速度ベクトルTを実現する。
【0072】
続いて、ブーム制御部81aは、ステップS200で算出された各シリンダ5,6,7の目標速度を基に各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a~15eへの目標パイロット圧を演算する(ステップS210)。
【0073】
続いて、ブーム制御部81aは、各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a~15eへの目標パイロット圧を電磁比例弁制御部44に出力し(ステップS220)、処理を終了する。
【0074】
このように、
図7に示したフローチャートの処理を行うことにより、電磁比例弁制御部44は、各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a~15eに目標パイロット圧が作用するように電磁比例弁54,55,56を制御し、作業装置1Aによる掘削が行われる。例えば、オペレータが操作装置45bを操作してアームクラウド動作によって水平掘削を行う場合には、バケット10の先端が目標面60に侵入しないように電磁比例弁55cが制御され、ブーム8の上げ動作が自動的に行われる。
【0075】
<アームシリンダ速度補正処理>
続いて、
図7のステップS100で示したアームシリンダ速度補正処理について説明する。
【0076】
図13は、アームシリンダ速度補正処理の処理内容を示すフローチャートである。
【0077】
図13では、まず、ブームの操作量Qbmがアームの操作量Qamよりも大きいかどうかを判定する(ステップS300)。ステップS300での判定結果がYESの場合、すなわち、ブームの操作量Qbmがアームの操作量Qamよりも大きい場合には、あらかじめ定めた関数k=Kpc(Qbm,Qam)に従って補正ゲインkを算出する(ステップS310)。なお、関数Kpcは、ブーム操作量Qbmに基づくポジディブコントロールによるポンプ流量およびアーム操作量Qamに基づくポジディブコントロールによるポンプ流量と相関のある関数である。
【0078】
また、ステップS300での判定結果がNOの場合、すなわち、ブームの操作量Qbmがアームの操作量Qam以下である場合には、補正ゲインk=0(ゼロ)とする。
【0079】
ステップS310又はステップS301において補正ゲインkが算出されると、続いて、アーム速度Vam=Vamt+kとする補正を行い(ステップS320)、処理を終了する。このアームシリンダ速度補正処理により算出されるVamが
図7のステップS100で算出されるアームシリンダ速度となる。
【0080】
以上のように構成した本実施の形態における作用効果を説明する。
【0081】
図14は、油圧ショベルにおける作業状態の変化の一例を示す図である。
【0082】
図14においては、状態S1(ブームの操作量>アームの操作量)から状態S2(ブームの操作量≦アームの操作量)に遷移する場合のオペレータの操作とコントローラ40(ブーム制御部81a)によるMCとについて説明する。
【0083】
図14の状態S1から状態S2に遷移する間、オペレータはアーム9のダンプ操作を行う。アーム9のダンプ操作によりバケット10が目標面60に侵入すると判断されるときには、ブーム制御部81aから電磁比例弁54aに指令を出すことでブーム8を上昇させる制御(MC)を実行する。
【0084】
また、状態S1のようにブームの操作量がアームの操作量より大きい状態でMCが実行されるときは、アームシリンダ速度補正処理(
図13参照)により、想定よりも大きなアームシリンダ速度の推定値が算出することによって実際のポンプ流量がアーム単独操作時よりも増加して想定よりもアームシリンダ速度が大きくなることを抑制することができ、ブーム上げ操作量をより的確に算出することができる。
【0085】
また、状態S2のようにブームの操作量がアームの操作量より小さい状態でMCが実行されるときは、実際のポンプ流量はアーム単独操作時と一致しており、アームシリンダ速度に対するポンプ流量の影響はほぼなく、アームシリンダ速度補正処理(
図13参照)によってもブーム上げ操作量をより的確に算出することができる。
【0086】
すなわち、以上のように構成した本実施の形態においては、ブーム操作量に基づくポジコンによるポンプ流量とアーム操作量に基づくポンプ流量を考慮して,想定していたアーム速度に対して適切な補正量を加算するので、実際のアームシリンダ速度との乖離が小さくなり、適切なブーム上げ操作量を算出でき、MCを安定させることができる。
【0087】
なお、本実施の形態においては、ブーム8、アーム9、バケット10の角度を検出する角度センサを用いたが、角度センサではなくシリンダストロークセンサによりショベルの姿勢情報を算出するように構成しても良い。また、油圧パイロット式の油圧ショベルを例示して説明したが、電気レバー式の油圧ショベルにも適用可能であり、例えば、電気レバーから生成される指令電流を制御するような構成としても良い。また、作業装置1Aの速度ベクトルは、オペレータ操作によるパイロット圧ではなく、ブーム8、アーム9、バケット10の角度を微分することで算出される角速度から求めても良い。
【0088】
次に上記の各実施の形態の特徴について説明する。
【0089】
(1)上記の実施の形態では、基端を上部旋回体12に回動可能に連結されたブーム8、前記ブームの先端に一端を回動可能に連結されたアーム9、及び、前記アームの他端に回動可能に連結された作業具(例えば、バケット10)を含む複数の被駆動部材で構成された多関節型の作業装置1Aと、操作信号に基づいて前記ブームを駆動するブームシリンダ5、前記アームを駆動するアームシリンダ6、及び、前記作業具を駆動する作業具シリンダ(例えば、バケットシリンダ7)を含む複数の油圧アクチュエータと、複数の前記油圧アクチュエータを駆動するための圧油を吐出する複数の油圧ポンプ2a,2bと、複数の前記油圧アクチュエータのうちオペレータの所望する油圧アクチュエータを操作するための前記操作信号を出力する操作装置45a,45b,46a,46bと、複数の前記油圧アクチュエータに対応して各々設けられ、前記操作装置からの操作信号に基づいて前記油圧ポンプから複数の前記油圧アクチュエータに供給される圧油の方向および流量を制御する複数の流量制御弁15a~15eと、前記作業装置による作業対象について設定された目標面およびその上方の領域内で前記作業装置が動くように、複数の前記油圧アクチュエータのうち少なくとも1つに対応する前記流量制御弁を制御する制御信号を出力するか、又は、前記操作装置から複数の前記油圧アクチュエータのうち少なくとも1つに対応する前記流量制御弁を制御するために出力された前記制御信号を補正する領域制限制御を実行するコントローラ40とを備えた作業機械において、前記コントローラは、前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量以下の場合には、前記操作装置の操作量と前記アームシリンダの推定速度との関係を予め定めた第1の条件に基づいて、前記領域制限制御に用いる前記アームシリンダの推定速度を算出し、前記ブームシリンダに対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダに対応する操作装置の操作量よりも大きい場合には、前記領域制限制御に用いる前記アームシリンダの推定速度を前記第1の条件に基づいて算出される前記アームシリンダの推定速度よりも大きい速度として算出するものとした。
【0090】
これにより、作業装置の挙動を安定させることができる。
【0091】
(2)また、上記の実施の形態では、(1)の作業機械(例えば、油圧ショベル1)において、前記ブームシリンダ5に対応する前記操作装置の操作量が前記アームシリンダ6に対応する操作装置45aの操作量よりも大きい場合に算出される前記アームシリンダの推定速度を、前記ブームシリンダに対応する前記操作装置45bの操作に基づいてポジティブコントロールされる前記油圧ポンプの吐出流量と、前記アームシリンダに対応する前記操作装置の操作に基づいてポジティブコントロールされる前記油圧ポンプの吐出流量とに基づいて算出するものとした。
【0092】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…油圧ショベル、1a,1b…操作レバー,1A…作業装置、1B…本体、2…油圧ポンプ、2aa,2ba…レギュレータ、3a,3b…走行油圧モータ、4…旋回油圧モータ、5…ブームシリンダ、6…アームシリンダ、7…バケットシリンダ、8…ブーム、9…アーム、10…バケット、11…下部走行体、12…上部旋回体、13…バケットリンク、15a~15h…流量制御弁、18…エンジン、23a,23b…走行操作レバー、30…ブーム角度センサ、31…アーム角度センサ、32…バケット角度センサ、33…車体傾斜角センサ、39…ロック弁、40…コントローラ、43…MC制御部、43a…操作量演算部、43b…姿勢演算部、43c…目標面演算部、44…電磁比例弁制御部、45~47…操作装置、48…パイロットポンプ、50…姿勢検出装置、51…目標面設定装置、53…表示装置、54~56…電磁比例弁、60…目標面、70~72…圧力センサ、81…アクチュエータ制御部、81a…ブーム制御部、81b…バケット制御部、81c…バケット制御判定部、82a,83a,83b…シャトル弁、91…入力インタフェース、92…中央処理装置(CPU)、93…リードオンリーメモリ(ROM)、94…ランダムアクセスメモリ(RAM)、95…出力インタフェース、96…目標角度設定装置、97…制御選択スイッチ、144~149…パイロットライン、150a~157a,150b~157b…油圧駆動部、160…フロント制御用油圧ユニット、162…シャトルブロック、200…作動油タンク、374…表示制御部