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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】傾斜車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 23/00 20060101AFI20220930BHJP
   B62K 19/16 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B62J23/00 C
B62J23/00 E
B62K19/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019507677
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2018010921
(87)【国際公開番号】W WO2018174037
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2017055007
(32)【優先日】2017-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】上野 亮
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-21761(JP,A)
【文献】特開平6-127449(JP,A)
【文献】登録実用新案第3040362(JP,U)
【文献】国際公開第2019/097859(WO,A1)
【文献】BMW HP4 Race カーボンずくしマシンのフォトギャラリー,モーターサイクルナビゲーター[オンライン],日本,2016年11月09日,インターネット: <URL:http://www.rock-tune.com/2016/11/09/6792>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 23/00,
B62K 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜姿勢で旋回する傾斜車両であって、
左方向に旋回する際に左方向に傾斜し、右方向に旋回する際に右方向に傾斜する車体を備え、
前記車体は、
繊維によって樹脂が強化された繊維強化樹脂を含み、前記車体の一部を構成するフレーム構造体と、
前記フレーム構造体の左側面に取り付けられた第1左取付部及び第2左取付部、
前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1左取付部と前記第2左取付部との間に位置するとともに、車両の左右方向において、前記第1左取付部及び前記第2左取付部よりも左方に位置し、前記車体が停車状態で左方向に傾斜した際に路面と接触して荷重を受ける左荷重受け部、
前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1左取付部と前記左荷重受け部との間に位置する第1左荷重伝達部、及び、
前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第2左取付部と前記左荷重受け部との間に位置する第2左荷重伝達部、を含み、
前記第1左取付部、前記左荷重受け部及び前記第2左取付部は、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向に、前記第1左取付部、前記左荷重受け部及び前記第2左取付部の順に並んでいる、
左側面繊維方向荷重変換部材と、
前記フレーム構造体の右側面に取り付けられた第1右取付部及び第2右取付部、
前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1右取付部と前記第2右取付部との間に位置するとともに、前記左右方向において、前記第1右取付部及び前記第2右取付部よりも右方に位置し、前記車体が停車状態で右方向に傾斜した際に路面と接触して荷重を受ける右荷重受け部、
前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1右取付部と前記右荷重受け部との間に位置する第1右荷重伝達部、及び、
前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第2右取付部と前記右荷重受け部との間に位置する第2右荷重伝達部、を含み、
前記第1右取付部、前記右荷重受け部及び前記第2右取付部は、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向に、前記第1右取付部、前記右荷重受け部及び前記第2右取付部の順に並んでいる、
右側面繊維方向荷重変換部材と、
を有する、傾斜車両。
【請求項2】
請求項1に記載の傾斜車両において、
前記第1左荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記左荷重受け部から前記第1左取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に前記左荷重受け部と重なることなく、前記左荷重受け部から前記第1左取付部に延びていて、
前記第2左荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記左荷重受け部から前記第2左取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に前記左荷重受け部と重なることなく、前記左荷重受け部から前記第2左取付部に延びていて、
前記第1右荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記右荷重受け部から前記第1右取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に前記右荷重受け部と重なることなく、前記右荷重受け部から前記第1右取付部に延びていて、
前記第2右荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記右荷重受け部から前記第2右取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に前記右荷重受け部と重なることなく、前記右荷重受け部から前記第2右取付部に延びている、傾斜車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の傾斜車両において、
前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材は、それぞれ、前記フレーム構造体の外表面に、外方に向かって突出するように前記フレーム構造体に設けられている、傾斜車両。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の傾斜車両において、
前記フレーム構造体では、前記繊維強化樹脂内に、複数の繊維シートが、複数積層されている、傾斜車両。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の傾斜車両において、
前記左側面繊維方向荷重変換部材は、前記フレーム構造体と、前記左荷重受け部、前記第1左荷重伝達部及び前記第2左荷重伝達部との間に空間が形成されるように、前記フレーム構造体に取り付けられ、
前記右側面繊維方向荷重変換部材は、前記フレーム構造体と、前記右荷重受け部、前記第1右荷重伝達部及び前記第2右荷重伝達部との間に空間が形成されるように、前記フレーム構造体に取り付けられている、傾斜車両。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一つに記載の傾斜車両において、
前記フレーム構造体と、前記左側面繊維方向荷重変換部材の前記左荷重受け部との間には、前記左荷重受け部に入力される荷重を吸収する左荷重吸収部材が配置され、
前記フレーム構造体と、前記右側面繊維方向荷重変換部材の前記右荷重受け部との間には、前記右荷重受け部に入力される荷重を吸収する右荷重吸収部材が配置されている、傾斜車両。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の傾斜車両において、
前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材は、それぞれ、繊維によって強化された繊維強化樹脂を含む、傾斜車両。
【請求項8】
請求項7に記載の傾斜車両において、
前記第1左取付部、前記第1左荷重伝達部、前記左荷重受け部、前記第2左荷重伝達部及び前記第2左取付部は、前記第1左取付部、前記第1左荷重伝達部、前記左荷重受け部、前記第2左荷重伝達部、前記第2左取付部の順に、前記左側面繊維方向荷重変換部における前記繊維強化樹脂の繊維方向に並んで設けられ、
前記第1右取付部、前記第1右荷重伝達部、前記右荷重受け部、前記第2右荷重伝達部及び前記第2右取付部は、前記第1右取付部、前記第1右荷重伝達部、前記右荷重受け部、前記第2右荷重伝達部、前記第2右取付部の順に、前記右側面繊維方向荷重変換部における前記繊維強化樹脂の繊維方向に並んで設けられている、傾斜車両。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一つに記載の傾斜車両において、
前記第1左取付部及び前記第2左取付部は、接着剤によって前記フレーム構造体に固定され、
前記第1右取付部及び前記第2右取付部は、接着剤によって前記フレーム構造体に固定されている、傾斜車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜姿勢で旋回する傾斜車両として、例えば、特許文献1に開示されるフレーム構造体を備えた自動二輪車が知られている。前記特許文献1に開示されているフレーム構造体は、カーボン繊維を用いた繊維強化樹脂によって、それぞれ一体形成された上側フレーム及び下側フレームを有する。前記上側フレーム及び前記下側フレームは、該上側フレームに設けられた上側ヘッドパイプと前記下側フレームに設けられた下側ヘッドパイプとが結合されるように、組み合わせられる。
【0003】
前記特許文献1に開示されている構成では、前記フレーム構造体は、カーボン繊維を用いた繊維強化樹脂によって構成されている。これにより、軽量且つ高強度なフレーム構造体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-307944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1に開示されている自動二輪車のフレーム構造体では、フレーム構造体に金属を用いた場合に比べて車両の軽量化を図れる。しかしながら、フレーム構造体の強度を確保しつつ、さらなる車両の軽量化を図りたいという要求がある。
【0006】
本発明は、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両において、フレーム構造体の強度を確保しつつ、さらなる軽量化を図れるような構成を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
傾斜姿勢で旋回する傾斜車両において、フレーム構造体の強度を確保しつつ、さらなる軽量化を図るためには、以下のような手法が考えられる。例えば、繊維強化樹脂の特性を利用して、フレーム構造体に、モノコック構造、セミモノコック構造、または、カバー等の他物品との一体形成等の構成を採用することが考えられる。
【0008】
しかしながら、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両は、停車状態で左右方向に転倒する特性を有する。前記傾斜車両が停車状態で左右方向に転倒すると、前記傾斜車両の車体が路面から荷重を受ける。したがって、フレーム構造体を、繊維強化樹脂によって構成されたモノコック構造等にすると、前記車体が路面から荷重を受けた際、前記フレーム構造体の繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化する場合がある。
【0009】
さらに、前記傾斜車両が停車状態で左右方向に転倒した際に車体が路面から荷重を受ける位置は、前記傾斜車両のデザインによって、車両ごとに異なる。また、前記車体は、前記傾斜車両の重量及び転倒時における路面との接触位置によって、転倒した際に路面から受ける荷重の大きさが異なる。上述のようにフレーム構造体を繊維強化樹脂によって構成されたモノコック構造等とした場合、傾斜車両が転倒した際の路面との接触によって前記フレーム構造体の繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化する。そのため、前記傾斜車両の重量及び転倒時における路面との接触位置を考慮して、前記傾斜車両のデザイン等を検討する必要がある。よって、傾斜車両の設計は制約を受ける。したがって、繊維強化樹脂によって構成されたフレーム構造体を採用可能な車両は、限られていた。
【0010】
そこで、本発明者は、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両において、設計自由度を向上させる手法を検討した。
【0011】
まず、本発明者は、傾斜車両が停車状態で左右方向に転倒した際の車体に対する荷重の入力に着目し、詳細に検討した。傾斜車両は、左右方向に転倒する際、接地しているタイヤを中心に、左方向または右方向に傾く。前記車体が路面に接触した際に、前記車体には、路面との接触部分に荷重が作用する。そのため、本発明者は、車両の構造等から、前記接触部分の位置を特定しやすいことに気がついた。
【0012】
また、傾斜車両は、該傾斜車両が停車状態で左右方向に転倒した際に、バウンドすることが分かった。バウンドの際に前記傾斜車両に生じる振動の加速度は、振動の初期段階では大きいが、最終的には小さくなる。そのため、本発明者は、前記加速度が最も大きい時に車体が受ける荷重を小さくすることが好ましいことに気がついた。
【0013】
そこで、本発明者は、車体が受ける荷重の入力方向について検討した。具体的には、本発明者は、前記フレーム構造体を繊維強化樹脂を含む材料によって構成した場合において、繊維強化樹脂の繊維の積層方向に対する荷重の入力方向を変えて検討した。その結果、前記繊維の積層方向に荷重が入力された場合に、前記繊維強化樹脂を含む材料によって構成された前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一方の構造が変化する場合があることが分かった。
【0014】
そのため、本発明者は、前記フレーム構造体を構成する前記繊維強化樹脂の繊維の積層方向に入力される荷重の成分を低減することを検討した。本発明者は、検討の結果、前記フレーム構造体に対して前記繊維の積層方向に入力される荷重の成分を減らすために、前記フレーム構造体に入力される前記荷重を、前記フレーム構造体を構成する前記繊維強化樹脂の繊維方向に変換することを思いついた。すなわち、本発明者は、前記荷重を前記フレーム構造体の前記繊維方向に入力した場合、前記フレーム構造体を構成する前記繊維強化樹脂の前記繊維の引張方向に力が入力されるため、前記フレーム構造体の強度上、有利であることに気付いた。
【0015】
よって、本発明者は、前記フレーム構造体に入力される荷重を、前記フレーム構造体を構成する前記繊維強化樹脂の繊維方向に変換するために、繊維方向荷重変換部材を用いることを思いついた。そして、本発明者は、前記繊維方向荷重変換部材を、前記フレーム構造体とは別の部材によって構成するとともに、前記繊維方向荷重変換部材を、前記フレーム構造体において、前記傾斜車両が停車状態で転倒した際に路面等に接触する部位に取り付けることを思いついた。
【0016】
これにより、前記傾斜車両は、転倒による前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂における構造の変化を別の部材で抑制できるため、モノコック構造等を採用する場合に比べて、設計自由度を向上することができる。すなわち、繊維強化樹脂を含むフレーム構造体において、傾斜車両の設計に制約を受けることなく、前記フレーム構造体の強度を確保することができる。
【0017】
したがって、上述の構成により、フレーム構造体の強度を確保しつつ、繊維強化樹脂を用いることにより、さらなる軽量化を図れるような構成を得ることができる。
【0018】
上述のような検討結果に基づいて、本発明者は、以下のような構成に想到した。
【0019】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両は、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両である。この傾斜車両は、左方向に旋回する際に左方向に傾斜し、右方向に旋回する際に右方向に傾斜する車体を備える。前記車体は、繊維によって樹脂が強化された繊維強化樹脂を含み、前記車体の一部を構成するフレーム構造体と、前記フレーム構造体の左側面に取り付けられた第1左取付部及び第2左取付部、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1左取付部と前記第2左取付部との間に位置するとともに、車両の左右方向において、前記第1左取付部及び前記第2左取付部よりも左方に位置し、前記車体が停車状態で左方向に傾斜した際に路面と接触して荷重を受ける左荷重受け部、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1左取付部と前記左荷重受け部との間に位置する第1左荷重伝達部、及び、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第2左取付部と前記左荷重受け部との間に位置する第2左荷重伝達部、を含み、前記第1左取付部、前記左荷重受け部及び前記第2左取付部は、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向に、前記第1左取付部、前記左荷重受け部及び前記第2左取付部の順に並んでいる、左側面繊維方向荷重変換部材と、前記フレーム構造体の右側面に取り付けられた第1右取付部及び第2右取付部、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1右取付部と前記第2右取付部との間に位置するとともに、前記左右方向において、前記第1右取付部及び前記第2右取付部よりも右方に位置し、前記車体が停車状態で右方向に傾斜した際に路面と接触して荷重を受ける右荷重受け部、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第1右取付部と前記右荷重受け部との間に位置する第1右荷重伝達部、及び、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向において、前記第2右取付部と前記右荷重受け部との間に位置する第2右荷重伝達部、を含み、前記第1右取付部、前記右荷重受け部及び前記第2右取付部は、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向に、前記第1右取付部、前記右荷重受け部及び前記第2右取付部の順に並んでいる、右側面繊維方向荷重変換部材と、を有する。
【0020】
上述のように、フレーム構造体を、繊維によって樹脂が強化された繊維強化樹脂を含む構成とすることで、フレーム構造体の軽量化を図ることができる。よって、傾斜車両の軽量化を図ることができる。
【0021】
ところで、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両は、停車状態で左右方向に転倒する場合がある。前記傾斜車両が停車状態で転倒した際に、前記傾斜車両のフレーム構造体は、路面と接触して荷重を受ける。上述のように繊維強化樹脂を含むフレーム構造体は、前記傾斜車両の転倒時に荷重を受けた場合、フレーム構造体の繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化する可能性がある。
【0022】
これに対し、上述の構成のように、フレーム構造体の左側面及び右側面に、それぞれ左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材を取り付ける。これにより、前記傾斜車両が停車状態で左右方向に転倒した際に、前記左側面繊維方向荷重変換部材または前記右側面繊維方向荷重変換部材が荷重を受ける。
【0023】
具体的には、前記傾斜車両が停車状態で左方向に転倒した際には、前記左側面繊維方向荷重変換部材が路面等に接触する。この際、前記左側面繊維方向荷重変換部材の左荷重受け部に対して荷重が入力される。前記左側面繊維方向荷重変換部材は、前記荷重を、第1左荷重伝達部及び第2左荷重伝達部を介して、それぞれ第1左取付部および第2左取付部に伝達する。ここで、前記第1左取付部、前記左荷重受け部及び前記第2左取付部は、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向に、前記第1左取付部、前記左荷重受け部及び前記第2左取付部の順に並んでいる。
【0024】
よって、前記左側面繊維方向荷重変換部材は、前記左荷重受け部に入力された荷重を、前記繊維方向の荷重に変換する。前記繊維方向に変換された荷重は、前記第1左取付部及び前記第2左取付部を介して、前記フレーム構造体に入力される。このように、前記左側面繊維方向荷重変換部材に入力された荷重は、前記繊維方向の荷重として前記フレーム構造体に入力される。前記荷重は、前記フレーム構造体に対して繊維の引張方向の力として入力される。よって、前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0025】
同様に、前記傾斜車両が停車状態で右方向に転倒した際には、前記右側面繊維方向荷重変換部材が路面等に接触する。この際、前記右側面繊維方向荷重変換部材の右荷重受け部に対して荷重が入力される。前記右側面繊維方向荷重変換部材は、前記荷重を、第1右荷重伝達部及び第2右荷重伝達部を介して、それぞれ第1右取付部および第2右取付部に伝達する。ここで、前記第1右取付部、前記右荷重受け部及び前記第2右取付部は、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の繊維方向に、前記第1右取付部、前記右荷重受け部及び前記第2右取付部の順に並んでいる。
【0026】
よって、前記右側面繊維方向荷重変換部材は、前記右荷重受け部に入力された荷重を、前記繊維方向の荷重に変換する。前記繊維方向に変換された荷重は、前記第1右取付部及び前記第2右取付部を介して、前記フレーム構造体に入力される。このように、前記右側面繊維方向荷重変換部材に入力された荷重は、前記繊維方向の荷重として前記フレーム構造体に入力される。前記荷重は、前記フレーム構造体に対して繊維の引張方向の力として入力される。よって、前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0027】
しかも、前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材は、前記フレーム構造体とは別の部材であるため、前記傾斜車両の転倒を考慮して前記フレーム構造体を設計する必要がない。よって、前記フレーム構造体の設計自由度を向上させることができる。
【0028】
したがって、上述の構成により、前記フレーム構造体の設計自由度を低下させることなく前記傾斜車両の強度を確保することができる。よって、前記傾斜車両の強度を確保しつつ、該傾斜車両のさらなる軽量化を図ることが可能になる。
【0029】
前記第1左荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記左荷重受け部から前記第1左取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に前記左荷重受け部と重なることなく、前記左荷重受け部から前記第1左取付部に延びていてもよい。前記第2左荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記左荷重受け部から前記第2左取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に前記左荷重受け部と重なることなく、前記左荷重受け部から前記第2左取付部に延びていてもよい。前記第1右荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記右荷重受け部から前記第1右取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に前記右荷重受け部と重なることなく、前記右荷重受け部から前記第1右取付部に延びていてもよい。前記第2右荷重伝達部は、前記フレーム構造体との間隔が前記右荷重受け部から前記第2右取付部に向かうほど小さくなるとともに、前記フレーム構造体の前記繊維強化樹脂に含まれる前記繊維の前記繊維方向に見て前記右荷重受け部と重なることなく、前記右荷重受け部から前記第2右取付部に延びていてもよい。
【0030】
これにより、前記傾斜車両が停車状態で左方向に転倒した際に、前記左側面繊維方向荷重変換部材の前記左荷重受け部に荷重が入力されると、該荷重は、前記第1左荷重伝達部及び前記第2左荷重伝達部によって、前記フレーム構造体に含まれる繊維の繊維方向の荷重に容易に変換される。変換後の荷重は、前記第1左取付部及び前記第2左取付部を介して、前記フレーム構造体に対して前記繊維の引張方向の力として入力される。
【0031】
同様に、前記傾斜車両が停車状態で右方向に転倒した際に、前記右側面繊維方向荷重変換部材の前記右荷重受け部に荷重が入力されると、該荷重は、前記第1右荷重伝達部及び前記第2右荷重伝達部によって、前記フレーム構造体に含まれる繊維の繊維方向の荷重に容易に変換される。変換後の荷重は、前記第1右取付部及び前記第2右取付部を介して、前記フレーム構造体に対して前記繊維の引張方向の力として入力される。
【0032】
よって、上述の構成により、前記左側面繊維方向荷重変換部材または前記右側面繊維方向荷重変換部材に入力された荷重を前記繊維方向の荷重に容易に変換して、該変換後の荷重を前記フレーム構造体に前記繊維の引張方向の荷重として入力できる。したがって、前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することをより確実に抑制できる。
【0033】
前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材は、それぞれ、前記フレーム構造体の外表面に、外方に向かって突出するように前記フレーム構造体に設けられていてもよい。
【0034】
これにより、前記傾斜車両が停車状態で左方向に転倒した際に、前記フレーム構造体よりも先に左側面繊維方向荷重変換部材が路面と接触する。また、前記傾斜車両が停車状態で右方向に転倒した際に、前記フレーム構造体よりも先に右側面繊維方向荷重変換部材が路面と接触する。
【0035】
よって、前記傾斜車両が左右方向に転倒した際に車体が受ける荷重を、前記左側面繊維方向荷重変換部材または前記右側面繊維方向荷重変換部材によって、前記フレーム構造体の前記繊維の前記繊維方向の荷重に、より確実に変換できる。したがって、前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することをより確実に抑制できる。
【0036】
前記フレーム構造体では、前記繊維強化樹脂内に、複数の繊維シートが、複数積層されていてもよい。
【0037】
これにより、前記フレーム構造体において、前記繊維の前記繊維方向の強度をより向上できる。よって、前記左側面繊維方向荷重変換部材または前記右側面繊維方向荷重変換部材を介して前記フレーム構造体の前記繊維方向に荷重が入力された場合に、前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することをより確実に抑制できる。
【0038】
前記左側面繊維方向荷重変換部材は、前記フレーム構造体と、前記左荷重受け部、前記第1左荷重伝達部及び前記第2左荷重伝達部との間に空間が形成されるように、前記フレーム構造体に取り付けられていてもよい。前記右側面繊維方向荷重変換部材は、前記フレーム構造体と、前記右荷重受け部、前記第1右荷重伝達部及び前記第2右荷重伝達部との間に空間が形成されるように、前記フレーム構造体に取り付けられていてもよい。
【0039】
これにより、前記傾斜車両が停車状態で左方向に転倒した際に、前記左側面繊維方向荷重変換部材に対して前記フレーム構造体の前記繊維の前記積層方向に入力された荷重の少なくとも一部は、前記フレーム構造体と、前記左荷重受け部、前記第1左荷重伝達部及び前記第2左荷重伝達部との間に形成された空間によって吸収される。しかも、前記フレーム構造体と前記左側面繊維方向荷重変換部材との間に前記空間を設けることにより、前記左側面繊維方向荷重変換部材に対して前記積層方向に荷重が入力された場合に、前記左側面繊維方向荷重変換部材が容易に変形を生じる。これにより、前記左側面繊維方向荷重変換部材によって、前記積層方向に入力された荷重を、前記フレーム構造体の前記繊維の前記繊維方向に容易に変換することができる。
【0040】
同様に、前記傾斜車両が停車状態で右方向に転倒した際に、前記右側面繊維方向荷重変換部材に対して前記フレーム構造体の前記繊維の前記積層方向に入力された荷重の少なくとも一部は、前記フレーム構造体と、前記右荷重受け部、前記第1右荷重伝達部及び前記第2右荷重伝達部との間に形成された空間によって吸収される。しかも、前記フレーム構造体と前記右側面繊維方向荷重変換部材との間に前記空間を設けることにより、前記右側面繊維方向荷重変換部材に対して前記積層方向に荷重が入力された場合に、前記右側面繊維方向荷重変換部材が容易に変形を生じる。これにより、前記右側面繊維方向荷重変換部材によって、前記積層方向に入力された荷重を、前記フレーム構造体の前記繊維の前記繊維方向に容易に変換することができる。
【0041】
よって、上述の構成により、前記フレーム構造体に伝達される前記積層方向の荷重がより低減される。したがって、前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することをより確実に抑制できる。
【0042】
前記フレーム構造体と、前記左側面繊維方向荷重変換部材の前記左荷重受け部との間には、前記左荷重受け部に入力される荷重を吸収する左荷重吸収部材が配置されてもよい。前記フレーム構造体と、前記右側面繊維方向荷重変換部材の前記右荷重受け部との間には、前記右荷重受け部に入力される荷重を吸収する右荷重吸収部材が配置されてもよい。
【0043】
これにより、前記傾斜車両が停車状態で左方向に転倒した際に、前記左側面繊維方向荷重変換部材に入力された荷重の少なくとも一部は、左荷重吸収部材によって吸収される。
【0044】
同様に、前記傾斜車両が停車状態で右方向に転倒した際に、前記右側面繊維方向荷重変換部材に入力された荷重の少なくとも一部は、右荷重吸収部材によって吸収される。
【0045】
よって、上述の構成により、前記フレーム構造体に伝達される荷重がより低減される。したがって、前記フレーム構造体における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することをより確実に抑制できる。
【0046】
前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材は、それぞれ、繊維によって強化された繊維強化樹脂を含んでもよい。
【0047】
これにより、軽量で且つある程度の強度を有する左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材が得られる。よって、前記傾斜車両のさらなる軽量化を図れる。
【0048】
前記第1左取付部、前記第1左荷重伝達部、前記左荷重受け部、前記第2左荷重伝達部及び前記第2左取付部は、前記第1左取付部、前記第1左荷重伝達部、前記左荷重受け部、前記第2左荷重伝達部、前記第2左取付部の順に、前記左側面繊維方向荷重変換部材における前記繊維強化樹脂の繊維方向に並んで設けられてもよい。前記第1右取付部、前記第1右荷重伝達部、前記右荷重受け部、前記第2右荷重伝達部及び前記第2右取付部は、前記第1右取付部、前記第1右荷重伝達部、前記右荷重受け部、前記第2右荷重伝達部、前記第2右取付部の順に、前記右側面繊維方向荷重変換部材における前記繊維強化樹脂の繊維方向に並んで設けられてもよい。
【0049】
前記左側面繊維方向荷重変換部材において、前記左荷重受け部に荷重が入力されると、前記第1左荷重伝達部及び前記第2左荷重伝達部を介して、前記第1左取付部及び前記第2左取付部に伝達される。上述のように、前記第1左取付部、前記第1左荷重伝達部、前記左荷重受け部、前記第2左荷重伝達部及び前記第2左取付部を、前記左側面繊維方向荷重変換部材の繊維の繊維方向に配置することで、前記荷重の伝達方向において、前記左側面繊維方向荷重変換部材の強度を向上できる。よって、前記荷重によって、前記左側面繊維方向荷重変換部材における繊維及び樹脂の構造が変化することを抑制できる。
【0050】
同様に、前記右側面繊維方向荷重変換部材において、前記右荷重受け部に荷重が入力されると、前記第1右荷重伝達部及び前記第2右荷重伝達部を介して、前記第1右取付部及び前記第2右取付部に伝達される。上述のように、前記第1右取付部、前記第1右荷重伝達部、前記右荷重受け部、前記第2右荷重伝達部及び前記第2右取付部を、前記右側面繊維方向荷重変換部材の繊維の繊維方向に配置することで、前記荷重の伝達方向において、前記右側面繊維方向荷重変換部材の強度を向上できる。よって、前記荷重によって、前記右側面繊維方向荷重変換部材における繊維及び樹脂の構造が変化することを抑制できる。
【0051】
前記第1左取付部及び前記第2左取付部は、接着剤によって前記フレーム構造体に固定されていてもよい。前記第1右取付部及び前記第2右取付部は、接着剤によって前記フレーム構造体に固定されていてもよい。
【0052】
これにより、前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材を、前記フレーム構造体に対して、該フレーム構造体の強度を低下させることなく容易に取り付けることができる。すなわち、前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材をボルト等によって前記フレーム構造体に固定する場合、前記フレーム構造体にボルト穴等を形成する必要があるため、前記フレーム構造体の強度が部分的に低下する可能性がある。これに対し、上述のように、前記左側面繊維方向荷重変換部材及び前記右側面繊維方向荷重変換部材を、前記フレーム構造体に対して接着剤によって固定することにより、前記フレーム構造体を加工する必要がないため、前記フレーム構造体の強度低下を抑制できる。
【0053】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施例のみを定義する目的で使用されるのであって、前記専門用語によって発明を制限する意図はない。
【0054】
本明細書で使用される「及び/または」は、一つまたは複数の関連して列挙された構成物のすべての組み合わせを含む。
【0055】
本明細書において、「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」及びそれらの変形の使用は、記載された特徴、工程、要素、成分、及び/または、それらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/または、それらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0056】
本明細書において、「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」、及び/または、それらの等価物は、広義の意味で使用され、“直接的及び間接的な”取り付け、接続及び結合の両方を包含する。さらに、「接続された」及び「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な接続または結合を含むことができる。
【0057】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0058】
一般的に使用される辞書に定義された用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0059】
本発明の説明においては、いくつもの技術および工程が開示されていると理解される。これらの各々は、個別の利益を有し、他に開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
【0060】
したがって、明確にするために、本発明の説明では、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。しかしながら、本明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0061】
本明細書では、本発明に係る傾斜車両の実施形態について説明する。
【0062】
以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な例を述べる。しかしながら、当業者は、これらの具体的な例がなくても本発明を実施できることが明らかである。
【0063】
よって、以下の開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0064】
<フレーム構造体の定義>
本明細書において、フレーム構造体とは、車両の走行中に応力が生じる主骨格部材であり、一般的なフレームはもちろんのこと、応力外皮構造体等も含む。
【0065】
<繊維方向の定義>
本明細書において、繊維方向とは、繊維の長手方向を意味する。繊維を用いてシート状に形成された繊維シートでは、該繊維シートに含まれる繊維の長手方向が、繊維方向に対応する。繊維が交差するように配置されているシート状の部材の場合には、交差する繊維のそれぞれの方向を、繊維方向と呼ぶ。
【0066】
本発明の適用対象は、自動二輪車に限らない。本発明は、自動二輪車以外の傾斜車両に適用してもよい。傾斜車両とは、右旋回時に車両の右方に傾斜し、左旋回時に車両の左方に傾斜する車体フレームを有する車両である。
【発明の効果】
【0067】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両によれば、強度を確保しつつ、さらなる軽量化を図れるような構成が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1図1は、本発明の実施形態1に係る車両の全体構成の概略を示す左側面図である。
図2図2は、車両の上面図、左側面繊維方向荷重変換部の断面図及び右側面繊維方向荷重変換部の断面図である。
図3図3は、リア構造体の概略構成を示す斜視図である。
図4図4は、図3におけるIV-IV線断面図である。
図5図5は、左方向に倒れる車両を後方から見た図である。
図6図6は、車両が停車状態で左右方向に転倒して路面に接触した際の振動値の時間変化を模式的に示す図である。
図7図7は、図3におけるVII-VII線断面図である。
図8図8は、実施形態2に係る車両の図1相当図である。
図9図9は、図8におけるIX-IX線断面図である。
図10図10は、その他の実施形態に係る車両の左側面繊維方向荷重変換部の図4相当図である。
図11図11は、その他の実施形態に係る車両の左側面繊維方向荷重変換部の図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下で、実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同一部分には同一の符号を付して、その同一部分の説明は繰り返さない。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0070】
以下、図中の矢印Fは、車両の前方向を示す。図中の矢印RRは、車両の後方向を示す。図中の矢印Uは、車両の上方向を示す。図中の矢印Lは、車両の左方向を示す。図中の矢印Rは、車両の右方向を示す。また、以下の説明において前後左右の方向は、それぞれ、車両を運転する乗員から見た場合の前後左右の方向を意味する。
【0071】
[実施形態1]
<全体構成>
図1は、実施形態1に係る車両1(傾斜車両)の全体構成の概略を示す側面図である。車両1は、例えば、自動二輪車であり、車体2と、前輪3と、後輪4とを備える。車両1は、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両である。すなわち、車両1は、左方向に旋回する際に左方向に傾斜し、右方向に旋回する際に右方向に傾斜する。
【0072】
車体2は、車体カバー5、ハンドル6、シート7及びパワーユニット8等の各構成部品を支持する。本実施形態では、車体2は、フレーム10と、リア構造体20(フレーム構造体)と、左側面繊維方向荷重変換部材31と、右側面繊維方向荷重変換部材41(図2参照)とを含む。車体2は、フレーム10及びリア構造体20を含み、且つ、車両1の各構成部品を支持する構造体である。
【0073】
フレーム10は、ヘッドパイプ11と、メインフレーム12とを有する。ヘッドパイプ11は、車両1の前部に位置し、ハンドル6に接続されたステアリングシャフト(図示省略)を回転可能に支持する。メインフレーム12は、ヘッドパイプ11から車両後方に向かって延びるように、ヘッドパイプ11に接続されている。メインフレーム12には、パワーユニット8等が支持されている。なお、フレーム10は、一部が車体カバー5によって覆われている。
【0074】
フレーム10は、金属材料によって構成されていてもよいし、炭素などの繊維によって樹脂が強化された繊維強化樹脂を含む材料によって構成されていてもよい。
【0075】
リア構造体20は、リア構造体20によって支持する構成部品の荷重及びリア構造体20に入力される力を、壁部21(図2から図4参照)によって負担する、いわゆる応力外皮構造を有する。リア構造体20は、車体2の外表面を構成する。すなわち、リア構造体20は、前記荷重及び力を負担する構造部材としての機能と、車体2の外表面の一部を構成するカバー部材としての機能とを有する。
【0076】
図2は、車両の上面図、後述する左側面繊維方向荷重変換部材の断面図及び右側面繊維方向荷重変換部材の断面図である。図2における左側面繊維方向荷重変換部材の断面図及び右側面繊維方向荷重変換部材の断面図を、図4及び図7に拡大して示す。図3は、リア構造体20の概略構成を示す斜視図である。図4は、図3におけるIV-IV線断面図である。図7は、図3におけるVII-VII線断面図である。
【0077】
本実施形態では、リア構造体20は、車両1のリアフレームとして機能するとともに、車両1のリアカバーとしても機能する。
【0078】
リア構造体20は、炭素繊維によって樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなど)が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されている。本実施形態では、前記炭素繊維は、厚み方向に複数積層された繊維シートを含む。この繊維シート(繊維)の積層方向は、リア構造体20の壁部21の厚み方向である。前記繊維シートは、繊維を例えば編んだり固めたりすることによって、シート状(平面状)に形成された部材を意味する。よって、リア構造体20において、炭素繊維強化樹脂に用いられる炭素繊維の繊維方向は、リア構造体20の壁部21の厚み方向に直交する方向である。なお、本実施形態の場合、前記繊維方向は、前記繊維シートを構成する繊維の方向のうち一方向を意味する。図4及び図7に、リア構造体20の壁部21内の繊維を模式的に破線で示す。
【0079】
図3に示すように、リア構造体20は、車両1の前後方向に長い形状を有する。リア構造体20は、内部に空間20aを形成するように該空間20aを囲む壁部21を有する。リア構造体20は、壁部21によって、構造部材としての機能を有するとともに、車体2の外表面の一部として機能する。なお、リア構造体20の前部には、シート7を配置するための切り欠き部22が設けられている。
【0080】
図3及び図4に示すように、リア構造体20は、車両1の左方向の端部に、後述する左側面繊維方向荷重変換部材31が配置される左側面21aを有する。また、リア構造体20は、車両1の右方向の端部に、後述する右側面繊維方向荷重変換部材41が配置される右側面21bを有する(図3及び図7参照)。本実施形態では、左側面21a及び右側面21bは、曲面である。左側面21a及び右側面21bは、壁部21の一部である。
【0081】
上述のように、本実施形態のリア構造体20は、炭素繊維によって樹脂が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されているため、外部から衝撃が加わると、前記繊維及び前記樹脂の少なくとも一部の構造が変化する可能性がある。なお、繊維及び樹脂の構造が変化するとは、樹脂が繊維に対して剥離したり、樹脂が割れた状態に変化したりすることを意味する。
【0082】
なお、本実施形態では、リア構造体20の炭素繊維強化樹脂は、厚み方向に積層された複数の繊維シートを含む。車両1が停車状態で左右方向に転倒した場合、路面との接触によって、リア構造体20に対して前記繊維シートの積層方向に荷重が入力される。
【0083】
これに対し、本実施形態では、図3に示すように、リア構造体20に対し、車両1の左右方向の両側面に、リア構造体20とは別部材である左側面繊維方向荷重変換部材31及び右側面繊維方向荷重変換部材41が取り付けられている。すなわち、リア構造体20の左側面21aの外表面上に、左方に突出するように左側面繊維方向荷重変換部材31が設けられているとともに、リア構造体20の右側面21bの外表面上に、右方に突出するように右側面繊維方向荷重変換部材41が設けられている。左側面繊維方向荷重変換部材31及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、それぞれ、リア構造体20の外表面に、外方に向かって突出するように設けられている。これにより、車両1が停車状態で左右方向に転倒した場合に、リア構造体20よりも先に左側面繊維方向荷重変換部材31または右側面繊維方向荷重変換部材41が路面と接触する。よって、リア構造体20を構成する炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の構造が変化することを抑制できる。
【0084】
本実施形態において、左側面繊維方向荷重変換部材31と右側面繊維方向荷重変換部材41とは同様の構成を有するため、以下では、左側面繊維方向荷重変換部材31の構成についてのみ説明する。
【0085】
図4に示すように、左側面繊維方向荷重変換部材31は、凸状に湾曲した板状部材である。左側面繊維方向荷重変換部材31は、車両1の左方に突出するように、リア構造体20の左側面21a上に取り付けられている。
【0086】
左側面繊維方向荷重変換部材31は、車両1が停車状態で左方向に転倒した場合(図5の場合)に、路面Gと接触する。これにより、左側面繊維方向荷重変換部材31には、荷重が入力される。左側面繊維方向荷重変換部材31は、リア構造体20を構成する炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化する前に、入力された荷重をリア構造体20の繊維方向の荷重に変換して、該荷重をリア構造体20に伝達する。
【0087】
したがって、車両1が停車状態で左方向に転倒した場合に、リア構造体20に対して繊維シートの積層方向に入力される荷重を、左側面繊維方向荷重変換部材31によって低減できる。すなわち、リア構造体20に左側面繊維方向荷重変換部材31を設けることにより、リア構造体20を構成する炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化するような荷重が入力されることを抑制できる。
【0088】
詳しくは、左側面繊維方向荷重変換部材31は、第1左取付部32と、第2左取付部33と、左荷重受け部34と、第1左荷重伝達部35と、第2左荷重伝達部36とを有する。第1左取付部32及び第2左取付部33は、左側面繊維方向荷重変換部材31のうち、リア構造体20の左側面21a上に固定される部分である。すなわち、第1左取付部32及び第2左取付部33は、車両1の左方に突出する左側面繊維方向荷重変換部材31において、基端部に位置する。
【0089】
第1左取付部32及び第2左取付部33は、例えば接着剤によって、左側面21a上に固定されている。すなわち、左側面繊維方向荷重変換部材31は、例えば接着剤によって、リア構造体20に固定されている。このように、接着剤等を用いて左側面繊維方向荷重変換部材31をリア構造体20に固定することにより、リア構造体20にボルト穴等の加工を行う必要がないため、リア構造体20の強度低下を防止できる。
【0090】
左荷重受け部34は、左側面繊維方向荷重変換部材31のうち、リア構造体20の左部に位置する突出端である。すなわち、左荷重受け部34は、左側面繊維方向荷重変換部材31において、突出方向(車両1の左方向)の先端(凸の先端)である。よって、左荷重受け部34は、第1左取付部32及び第2左取付部33よりも左方に位置する。左荷重受け部34は、車両1が停車状態で左方向に転倒した際に、路面に接触する。よって、左荷重受け部34には、車両1が左方向に転倒した際の路面との接触によって、図4に白抜き矢印で示す方向に荷重が入力される。なお、左荷重受け部34に入力される荷重の方向は、リア構造体20の繊維シートの積層方向である。
【0091】
第1左荷重伝達部35は、左荷重受け部34と第1左取付部32との間に位置する。第1左荷重伝達部35は、リア構造体20との間隔が左荷重受け部34から第1左取付部32に向かうほど小さくなるように設けられている。第1左荷重伝達部35は、リア構造体20の繊維方向に左荷重受け部34と重なることなく、左荷重受け部34から第1左取付部32に延びている。なお、本実施形態では、第1左荷重伝達部35は、リア構造体20の繊維シートの積層方向(リア構造体20の壁部21の厚み方向)から見て、左荷重受け部34と重ならない。
【0092】
これにより、左荷重受け部34に左方から荷重が入力された場合、該荷重は第1左荷重伝達部35によって第1左取付部32に伝達される。上述のように第1左荷重伝達部35とリア構造体20との間隔は、左荷重受け部34から第1左取付部32に向かうほど小さいため、第1左荷重伝達部35からリア構造体20に対し、リア構造体20に沿う方向に荷重を伝達できる。また、第1左荷重伝達部35は、リア構造体20の繊維方向に左荷重受け部34と重なることなく、左荷重受け部34から第1左取付部32に延びているため、第1左荷重伝達部35を介して左荷重受け部34からリア構造体20に効率良く荷重を伝達できる。
【0093】
第2左荷重伝達部36は、左荷重受け部34と第2左取付部33との間に位置する。第2左荷重伝達部36は、リア構造体20との間隔が左荷重受け部34から第2左取付部33に向かうほど小さくなるように設けられている。第2左荷重伝達部36は、リア構造体20の繊維方向に左荷重受け部34と重なることなく、左荷重受け部34から第2左取付部33に延びている。なお、本実施形態では、第2左荷重伝達部36は、リア構造体20の繊維シートの積層方向(リア構造体20の壁部21の厚み方向)から見て、左荷重受け部34と重ならない。
【0094】
これにより、左荷重受け部34に左方から荷重が入力された場合、該荷重は第2左荷重伝達部36によって第2左取付部33に伝達される。上述のように第2左荷重伝達部36とリア構造体20との間隔は、左荷重受け部34から第2左取付部33に向かうほど小さいため、第2左荷重伝達部36からリア構造体20に対し、リア構造体20に沿う方向に荷重を伝達できる。また、第2左荷重伝達部36は、リア構造体20の繊維方向に左荷重受け部34と重なることなく、左荷重受け部34から第2左取付部33に延びているため、第2左荷重伝達部36を介して左荷重受け部34からリア構造体20に効率良く荷重を伝達できる。
【0095】
以上のように、左荷重受け部34に左方から入力された荷重は、左側面繊維方向荷重変換部材31において、第1左荷重伝達部35を介して第1左取付部32に伝達されるとともに、第2左荷重伝達部36を介して第2左取付部33に伝達される。すなわち、左側面繊維方向荷重変換部材31において、左荷重受け部34と第1左取付部32及び第2左取付部33との間に、それぞれ、荷重の伝達経路が形成されている。
【0096】
また、左荷重受け部34に左方から入力された荷重は、第1左荷重伝達部35及び第1左取付部32によって、リア構造体20の厚み方向に直交する方向、すなわち、リア構造体20の繊維の繊維方向の荷重に変換される。左荷重受け部34に左方から入力された荷重は、第2左荷重伝達部36及び第2左取付部33によって、リア構造体20の厚み方向に直交する方向、すなわち、リア構造体20の繊維方向の荷重に変換される。
【0097】
上述のように変換された荷重は、リア構造体20に対して前記繊維方向(図4における矢印方向)に入力される。換言すれば、左側面繊維方向荷重変換部材31に入力された荷重は、リア構造体20に対して前記繊維方向の引張方向に入力される。よって、炭素繊維強化樹脂を含む材料で構成されたリア構造体20において、最も強度が高い方向に荷重が入力されるため、リア構造体20の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0098】
左側面繊維方向荷重変換部材31は、左荷重受け部34、第1左荷重伝達部35及び第2左荷重伝達部36と、リア構造体20の左側面21aとの間に、左空間部37を有する。これにより、左荷重受け部34に荷重が入力された場合に、左側面繊維方向荷重変換部材31は容易に変形する。左側面繊維方向荷重変換部材31の変形によって、前記荷重の一部を吸収できるとともに、前記荷重をリア構造体20の繊維方向の荷重に容易に変換できる。したがって、前記荷重が、リア構造体20に伝達されることをより確実に防止できる。
【0099】
左側面繊維方向荷重変換部材31は、リア構造体20と同様、炭素繊維によって樹脂が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されている。すなわち、左側面繊維方向荷重変換部材31は、炭素繊維によって樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなど)が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されている。本実施形態では、前記炭素繊維は、厚み方向に複数積層された繊維シートを含む。繊維シート(繊維)の積層方向は、左側面繊維方向荷重変換部材31の厚み方向である。前記繊維シートは、繊維を例えば編んだり固めたりすることによって、シート状(平面状)に形成された部材を意味する。よって、左側面繊維方向荷重変換部材31において、炭素繊維強化樹脂に用いられる炭素繊維の繊維方向は、左側面繊維方向荷重変換部材31の厚み方向に直交する方向である。なお、本実施形態の場合、前記繊維方向は、前記繊維シートを構成する繊維の方向のうち一方向を意味する。図4に、左側面繊維方向荷重変換部材31内の繊維を模式的に破線で示す。
【0100】
図4に示すように、左側面繊維方向荷重変換部材31を左右方向に切断した場合の断面で見て、第1左取付部32、第2左取付部33、左荷重受け部34、第1左荷重伝達部35及び第2左荷重伝達部36は、左側面繊維方向荷重変換部材31の繊維方向に沿って、第1左取付部32、第1左荷重伝達部35、左荷重受け部34、第2左荷重伝達部36及び第2左取付部33の順に、並んで設けられている。
【0101】
これにより、上述のように左荷重受け部34に左方から荷重が入力された場合、前記繊維方向に沿って、第1左荷重伝達部35及び第1左取付部32に前記荷重の一部が伝達されるとともに、第2左荷重伝達部36及び第2左取付部33に前記荷重の一部が伝達される。よって、車両1が停車状態で左方向に転倒した際に、左側面繊維方向荷重変換部材31に荷重が入力されると、左側面繊維方向荷重変換部材31の最も強度が高い方向、すなわち前記繊維方向の引張方向に前記荷重が伝達される。これにより、前記荷重によって、左側面繊維方向荷重変換部材31の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の構造が変化することを抑制できる。
【0102】
以上の構成により、左側面繊維方向荷重変換部材31は、車両1が停車状態で左方向に転倒した場合に、左荷重受け部34を介して路面から入力される荷重を、リア構造体20の繊維方向の荷重に変換して、該変換された荷重をリア構造体20に伝達する。よって、左側面繊維方向荷重変換部材31によって、リア構造体20に対してリア構造体20の繊維シートの積層方向に入力される荷重を低減できる。これにより、車両1が停車状態で左方向に転倒した際に、リア構造体20の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0103】
図5に示すように車両1が停車状態で左方向に傾斜して転倒した場合、車両1が路面Gと接触した際に車両1に生じる振動値(振動の加速度)は、図6に示すように変動する。すなわち、図6に示すように、車両1が路面Gと接触した際に車両1に生じる振動値は、初期段階では大きく、時間の経過とともに徐々に減少する。これは、車両1が路面Gと接触した際に、車両1が路面に対してバウンドすることが理由と考えられる。したがって、路面Gとの接触によって車両1に入力される荷重は、接触の初期段階で大きい。
【0104】
上述のような車両1と路面Gとの接触において、左側面繊維方向荷重変換部材31は、車両1に入力される荷重のピークを低減する。よって、左側面繊維方向荷重変換部材31によって、車両1が停車状態で左方向に転倒した場合に路面Gとの接触によって車両1に入力される荷重を低減できる。
【0105】
右側面繊維方向荷重変換部材41は、リア構造体20に対して車両1の右部に設けられている点以外、上述の左側面繊維方向荷重変換部材31と同様の構成及び作用効果を有する。図7に、図3におけるVII-VII線断面を示す。図7に示すように、右側面繊維方向荷重変換部材41は、第1右取付部42と、第2右取付部43と、右荷重受け部44と、第1右荷重伝達部45と、第2右荷重伝達部46とを有する。右荷重受け部44は、第1右取付部42及び第2右取付部43よりも右方に位置する。右側面繊維方向荷重変換部材41は、右荷重受け部44、第1右荷重伝達部45及び第2右荷重伝達部46と、リア構造体20の右側面21bとの間に、右空間部47を有する。
【0106】
車両1が停車状態で右方向に転倒した際に、右側面繊維方向荷重変換部材41の右荷重受け部44が路面と接触する。これにより、右荷重受け部44に、図7に白抜き矢印で示す方向(リア構造体20の繊維シートの積層方向)に荷重が入力される。右荷重受け部44に入力された荷重は、第1右荷重伝達部45を介して第1右取付部42に伝達されるとともに、第2右荷重伝達部46を介して第2右取付部43に伝達される。よって、右側面繊維方向荷重変換部材41に対してリア構造体20の繊維シートの積層方向に入力された荷重は、リア構造体20の繊維方向の荷重に変換される。そして、変換後の荷重は、第1右取付部42及び第2右取付部43によって、リア構造体20に対して前記繊維方向に伝達される。
【0107】
よって、右側面繊維方向荷重変換部材41によって、リア構造体20に対してリア構造体20の繊維シートの積層方向に入力される荷重を低減できる。これにより、車両1が停車状態で右方向に転倒した際に、リア構造体20の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを防止できる。
【0108】
以上より、本実施形態の構成では、リア構造体20を、積層された繊維によって樹脂が強化された繊維強化樹脂を含む構成とすることで、リア構造体20の軽量化を図ることができる。よって、車両1の軽量化を図ることができる。
【0109】
また、リア構造体20の左側面21a及び右側面21bに、それぞれ左側面繊維方向荷重変換部材31及び右側面繊維方向荷重変換部材41を取り付ける。これにより、車両1が停車状態で左右方向に転倒した際に、左側面繊維方向荷重変換部材31または右側面繊維方向荷重変換部材41に荷重が入力される。
【0110】
具体的には、車両1が停車状態で左方向に転倒した際には、左側面繊維方向荷重変換部材31が路面Gに接触する。この際、左側面繊維方向荷重変換部材31の左荷重受け部34に対して、リア構造体20の繊維シートの積層方向に荷重が入力される。左側面繊維方向荷重変換部材31は、前記荷重を、リア構造体20の繊維方向の荷重に変換して、リア構造体20に伝達する。これにより、リア構造体20に対して入力される前記積層方向の荷重を低減できる。よって、リア構造体20の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0111】
同様に、車両1が停車状態で右方向に転倒した際には、右側面繊維方向荷重変換部材41が路面等に接触する。この際、右側面繊維方向荷重変換部材41の右荷重受け部44に対して、リア構造体20の繊維シートの積層方向に荷重が入力される。右側面繊維方向荷重変換部材41は、前記荷重を、リア構造体20の繊維方向の荷重に変換して、リア構造体20に伝達する。これにより、リア構造体20に対して入力される前記積層方向の荷重を低減できる。よって、リア構造体20の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0112】
また、上述のように、リア構造体20の左右両側面にそれぞれ左側面繊維方向荷重変換部材31及び右側面繊維方向荷重変換部材41を設けることにより、車体2の後部の側面に、付属品や乗員等が接触した場合でも、リア構造体20の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0113】
しかも、左側面繊維方向荷重変換部材31及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、リア構造体20とは別の部材であるため、リア構造体20の設計に際して、車両1の転倒に対する強度を考慮する必要がない。よって、リア構造体20の設計自由度を向上させることができる。
【0114】
したがって、上述の構成により、リア構造体20の設計自由度を低下させることなく車両1の強度を確保しつつ、車両1のさらなる軽量化を図ることができる。
【0115】
[実施形態2]
図8に、実施形態2に係る車両101の左側面図を示す。図9に、車両101の左側面繊維方向荷重変換部材131の断面を示す。この実施形態2における左側面繊維方向荷重変換部材131は、車両101のフロント構造体120の外表面上に取り付けられているとともに、台形状の断面を有する点で、実施形態1の構成とは異なる。よって、以下では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。なお、以下では、左側面繊維方向荷重変換部材131の構成について説明するが、実施形態1と同様、右側面繊維方向荷重変換部材も左側面繊維方向荷重変換部材131と同様の構成を有する。
【0116】
図8に示すように、車両101の車体102は、フロント構造体120(フレーム構造体)と、フレーム110と、左側面繊維方向荷重変換部材131と、右側面繊維方向荷重変換部材(図示省略)とを含む。すなわち、車体102は、フロント構造体120と、フレーム110とを含み、且つ、車両101の各構成部品を支持する。
【0117】
フロント構造体120は、フロント構造体120によって支持する構成部品の荷重やフロント構造体120に入力される力を、壁部121(図9参照)によって負担する、いわゆる応力外皮構造を有する。フロント構造体120は、車体102の外表面を構成する。すなわち、フロント構造体120は、前記荷重及び力を負担する構造部材としての機能と、車体102の外表面の一部を構成するカバー部材としての機能とを有する。具体的には、フロント構造体120は、車両101のメインフレームとして機能するとともに、車両101のフロントカバーとしても機能する。
【0118】
フロント構造体120は、炭素繊維によって樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなど)が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されている。本実施形態では、前記炭素繊維は、厚み方向に複数積層された繊維シートを含む。この繊維シートの積層方向は、フロント構造体120の壁部121の厚み方向である。前記繊維シートは、繊維を例えば編んだり固めたりすることによって、シート状(平面状)に形成された部材を意味する。よって、フロント構造体120において、炭素繊維強化樹脂に用いられる炭素繊維の繊維方向は、フロント構造体120の壁部121の厚み方向に直交する方向である。なお、本実施形態の場合、前記繊維方向は、前記繊維シートを構成する繊維の方向のうち一方向を意味する。図9に、フロント構造体120の壁部121内の繊維を模式的に破線で示す。
【0119】
フロント構造体120の後部には、フレーム110の前部が接続されている。フレーム110は、フロント構造体120から車両101の後方に向かって延びている。フレーム110は、金属材料によって構成されていてもよいし、炭素などの繊維によって樹脂が強化された繊維強化樹脂を含む材料によって構成されていてもよい。
【0120】
本実施形態では、フロント構造体120に対し、車両101の左右方向の両側部に、フロント構造体120とは別部材である左側面繊維方向荷重変換部材131及び右側面繊維方向荷重変換部材(図示省略)が取り付けられている。本実施形態において、左側面繊維方向荷重変換部材131と右側面繊維方向荷重変換部材とは同様の構成を有するため、以下では、左側面繊維方向荷重変換部材131の構成についてのみ説明する。
【0121】
図9に示すように、左側面繊維方向荷重変換部材131は、第1左取付部132と、第2左取付部133と、左荷重受け部134と、第1左荷重伝達部135と、第2左荷重伝達部136とを有する。車両101の前後方向に切断した場合の断面で見て、左荷重受け部134は、フロント構造体120の左側面121aに沿って配置される平板状である。第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136は、左荷重受け部134から左側面121aに向かって延びる平板状である。左荷重受け部134、第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136は、一体で形成されている。
【0122】
第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136は、左荷重受け部134に接続された基端部から先端部(フロント構造体120の左側面121a方向)に向かって間隔が大きくなるように拡がっている。第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136は、それぞれ、先端部がフロント構造体120の壁部121の外表面上に接着剤等によって固定されている。すなわち、第1左荷重伝達部135の先端部によって、第1左取付部132が構成され、第2左荷重伝達部136の先端部によって、第2左取付部133が構成される。
【0123】
第1左荷重伝達部135は、フロント構造体120との間隔が左荷重受け部134から第1左取付部132に向かうほど小さくなるように構成されている。第1左荷重伝達部135は、フロント構造体120の繊維方向に左荷重受け部134と重なることなく、左荷重受け部134から第1左取付部132に延びている。なお、本実施形態では、第1左荷重伝達部135は、フロント構造体120の繊維シートの積層方向から見て、左荷重受け部134と重ならない。
【0124】
第2左荷重伝達部136は、フロント構造体120との間隔が左荷重受け部134から第2左取付部133に向かうほど小さくなるように構成されている。第2左荷重伝達部136は、フロント構造体120の繊維方向に左荷重受け部134と重なることなく、左荷重受け部134から第2左取付部133に延びている。なお、本実施形態では、第2左荷重伝達部136は、フロント構造体120の繊維シートの積層方向から見て、左荷重受け部134と重ならない。
【0125】
上述のような第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136の構成により、左荷重受け部134に左方から入力された荷重は、第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136によって、フロント構造体120の繊維方向の荷重に変換される。変換後の荷重は、第1左取付部132及び第2左取付部133を介して、フロント構造体120に対して繊維方向に伝達される。
【0126】
次に、車両101が停車状態で左方向に転倒した場合に、左側面繊維方向荷重変換部材131からフロント構造体120に対して入力される荷重について、説明する。
【0127】
車両101が停車状態で左方向に転倒した場合、左側面繊維方向荷重変換部材131は、左荷重受け部134が路面Gと接触する。よって、左荷重受け部134には、図9に白抜き矢印で示す方向(フロント構造体120の繊維シートの積層方向)に荷重が入力される。
【0128】
左荷重受け部134に入力された荷重は、第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136によって、それぞれ、第1左取付部132及び第2左取付部133に伝達される。すなわち、左荷重受け部134に入力された荷重は、第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136によって、フロント構造体120の繊維方向の荷重に変換される。変換された荷重は、図9に矢印で示すように、第1左取付部132及び第2左取付部133からフロント構造体120に伝達される。
【0129】
左側面繊維方向荷重変換部材131からフロント構造体120に伝達された荷重は、フロント構造体120の繊維方向の荷重である。そのため、前記荷重は、フロント構造体120の繊維に対して引張方向に加わる。すなわち、前記荷重は、フロント構造体120に対して、フロント構造体120の最も強度が高い方向に入力される。
【0130】
したがって、左側面繊維方向荷重変換部材131から入力された荷重によって、フロント構造体120における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0131】
左側面繊維方向荷重変換部材131は、左荷重受け部134、第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136と、フロント構造体120の左側面121aとの間に、左空間部137を有する。これにより、左荷重受け部134に上述の荷重が入力された場合に、左側面繊維方向荷重変換部材131は容易に変形する。左側面繊維方向荷重変換部材131の変形によって、前記荷重の一部を吸収できるとともに、前記荷重をフロント構造体120の繊維方向の荷重に容易に変換できる。したがって、フロント構造体120に伝達される荷重をより低減できる。
【0132】
左側面繊維方向荷重変換部材131は、フロント構造体120と同様、炭素繊維によって樹脂が強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。すなわち、左側面繊維方向荷重変換部材131は、炭素繊維によって樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなど)が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されている。本実施形態では、前記炭素繊維は、厚み方向に複数積層された繊維シートを含む。繊維シート(繊維)の積層方向は、左側面繊維方向荷重変換部材131の厚み方向である。前記繊維シートは、繊維を例えば編んだり固めたりすることによって、シート状(平面状)に形成された部材を意味する。よって、左側面繊維方向荷重変換部材131において、炭素繊維強化樹脂に用いられる炭素繊維の繊維方向は、左側面繊維方向荷重変換部材131の厚み方向に直交する方向である。なお、本実施形態の場合、前記繊維方向は、前記繊維シートを構成する繊維の方向のうち一方向を意味する。図9に、左側面繊維方向荷重変換部材131内の繊維を模式的に破線で示す。
【0133】
図9に示すように、左側面繊維方向荷重変換部材131を前後方向に切断した場合の断面で見て、第1左取付部132、第2左取付部133、左荷重受け部134、第1左荷重伝達部135及び第2左荷重伝達部136は、左側面繊維方向荷重変換部材131の繊維方向に沿って、第1左取付部132、第1左荷重伝達部135、左荷重受け部134、第2左荷重伝達部136及び第2左取付部133の順に、並んで設けられている。
【0134】
これにより、上述のように左荷重受け部134に荷重が入力された場合、前記繊維方向に沿って、第1左荷重伝達部135及び第1左取付部132に前記荷重の一部が伝達されるとともに、第2左荷重伝達部136及び第2左取付部133に前記荷重の一部が伝達される。よって、車両101が停車状態で左方向に転倒した際に左側面繊維方向荷重変換部材131に荷重が入力されると、左側面繊維方向荷重変換部材131の最も強度が高い方向、すなわち前記繊維方向の引張方向に前記荷重が伝達される。これにより、前記荷重によって、左側面繊維方向荷重変換部材131の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の構造が変化することを抑制できる。
【0135】
以上の構成により、左側面繊維方向荷重変換部材131は、車両1が停車状態で左方向に転倒した場合に、左荷重受け部134を介して路面から入力される荷重を、フロント構造体120の繊維方向の荷重に変換して、該変換された荷重をフロント構造体120に伝達する。よって、左側面繊維方向荷重変換部材131によって、フロント構造体120に対してフロント構造体120の繊維シートの積層方向に入力される荷重を低減できる。これにより、車両101が停車状態で左方向に転倒した際に、フロント構造体120の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0136】
特に図示しないが、同様に、フロント構造体120の右側面の外表面上にも、左側面繊維方向荷重変換部材131と同様の構成を有する右側面繊維方向荷重変換部材が取り付けられる。これにより、車両101が停車状態で右方向に転倒した場合に、右荷重受け部に入力された荷重は、第1右荷重伝達部及び第2右荷重伝達部によって、フロント構造体120の繊維方向の荷重に変換される。変換された荷重は、第1右取付部及び第2右取付部を介してフロント構造体120に伝達される。よって、フロント構造体120には、繊維方向に引張方向の荷重が入力される。したがって、車両101が右方向に転倒した場合でも、フロント構造体120における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0137】
本実施形態の構成により、車両101が停車状態で左右方向に転倒した場合に、左側面繊維方向荷重変換部材131または右側面繊維方向荷重変換部材によって、フロント構造体120に対して繊維の積層方向に入力される荷重を低減することができる。したがって、フロント構造体120の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0138】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0139】
前記各実施形態では、リア構造体20の左側面21aに断面凸状の左側面繊維方向荷重変換部材31が固定され、フロント構造体120の左側面121aに断面台形状の左側面繊維方向荷重変換部材131が固定されている。しかしながら、リア構造体の左側面に断面台形状の左側面繊維方向荷重変換部材が固定されていてもよい。フロント構造体の左側面に断面凸状の左側面繊維方向荷重変換部材が固定されていてもよい。また、左側面繊維方向荷重変換部材の断面形状は、繊維強化樹脂を含む構造体の繊維の積層方向に入力された荷重を、該繊維の繊維方向の荷重に変換可能な形状であれば、例えば円形状、三角形状など、どのような断面形状であってもよい。
【0140】
なお、左側面繊維方向荷重変換部材に限らず、右側面繊維方向荷重変換部材についても同様に、右側面繊維方向荷重変換部材の断面形状は、繊維強化樹脂を含む構造体の繊維の積層方向に入力された荷重を、該繊維の繊維方向の荷重に変換可能な形状であれば、どのような断面形状であってもよい。
【0141】
前記各実施形態では、左側面繊維方向荷重変換部材31,131及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、リア構造体20及びフロント構造体120に対して固定されている。しかしながら、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、リア構造体及びフロント構造体以外に取り付けてもよい。すなわち、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、車両の骨格を形成するフレーム構造体に取り付けられていればよい。
【0142】
図10に示すように、例えば、リア構造体220の左側面221aに、左側面繊維方向荷重変換部材31の第1左取付部32及び第2左取付部33を固定するための凹部221bを設けてもよい。凹部221bは、リア構造体220の左側面221aにおいて、左側面繊維方向荷重変換部材31の第1左取付部32及び第2左取付部33が接触する接触面221cを有する。なお、凹部221bは、左側面繊維方向荷重変換部材31の第1左取付部32及び第2左取付部33を安定して保持可能な断面形状であれば、どのような断面形状であってもよい。
【0143】
このようにリア構造体220の左側面221aに凹部221bを設けることにより、リア構造体220に対して左側面繊維方向荷重変換部材31をより確実に固定できる。
【0144】
上述の構成においても、第1左取付部32及び第2左取付部33が凹部221bの接触面221cに接触する部分では、左側面繊維方向荷重変換部材31の左荷重受け部34に入力された荷重が、第1左取付部32及び第2左取付部33からリア構造体220に対して、リア構造体220の繊維方向の荷重として入力される(図10の矢印参照)。よって、車両が停車状態で左方に転倒した場合に、リア構造体220に対して繊維の積層方向に入力される荷重を低減できる。したがって、リア構造体220の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することを抑制できる。
【0145】
なお、上述のような凹部は、左側面繊維方向荷重変換部材が固定される部分に設けられてもよいし、リア構造体に限らず、フロント構造体などの他の構造体に設けられてもよい。
【0146】
前記各実施形態では、左側面繊維方向荷重変換部材31,131及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、それぞれ、内部に左空間部37,137または右空間部47を有する。しかしながら、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材の内部に、それぞれ、左荷重吸収部材及び右荷重吸収部材を配置してもよい。例えば図11に示すように、左側面繊維方向荷重変換部材31の内部、すなわちリア構造体20の左側面21aと左側面繊維方向荷重変換部材31の左荷重受け部34との間に、左荷重吸収部材50を配置してもよい。特に図示しないが、同様に、右側面繊維方向荷重変換部材41の内部、すなわちリア構造体20の右側面21bと右側面繊維方向荷重変換部材41の右荷重受け部44との間に、右荷重吸収部材を配置してもよい。
【0147】
左荷重吸収部材50及び右荷重吸収部材は、例えば、発泡樹脂などの樹脂、ゴム、ゲル状材料など、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材に入力された荷重を吸収可能な材料であれば、どのような材料であってもよい。
【0148】
これにより、車両が停車状態で左右方向に転倒した際に、路面との接触によって左側面繊維方向荷重変換部材または右側面繊維方向荷重変換部材に入力された荷重(左側面繊維方向荷重変換部材に入力される荷重の方向は、図11に白抜き矢印で示す方向)は、左荷重吸収部材または右荷重吸収部材によって少なくとも一部が吸収される。したがって、上述の構成により、車両の左右方向の転倒によってフレーム構造体に入力される荷重をより低減できる。よって、車両の左右方向の転倒によってフレーム構造体の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の少なくとも一部の構造が変化することをより抑制できる。
【0149】
なお、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材の一方のみに、荷重吸収部材を設けてもよい。
【0150】
前記各実施形態では、リア構造体20,220、フロント構造体120、左側面繊維方向荷重変換部材31,131及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、炭素繊維によって樹脂が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されている。しかしながら、リア構造体、フロント構造体、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材を、炭素繊維以外の繊維(例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ガラス繊維など)によって樹脂が強化された繊維強化樹脂を含む材料によって構成してもよい。また、前記実施形態では、リア構造体20,220、フロント構造体120、左側面繊維方向荷重変換部材31,131及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなどの樹脂によって構成されている。しかしながら、樹脂は、繊維によって強化可能な樹脂であれば、他の種類の樹脂であってもよい。
【0151】
また、リア構造体、フロント構造体、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、例えば金属や樹脂など、繊維強化樹脂以外の材料を含んでいてもよい。
【0152】
さらに、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、繊維強化樹脂を含んでいなくてもよい。この場合、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、たとえば、樹脂、金属などの材料で構成されていてもよい。
【0153】
前記各実施形態において、炭素繊維強化樹脂に用いられる炭素繊維は、繊維同士が編まれていてもよいし、編まれていない状態であってもよい。すなわち、炭素繊維は、繊維シートでなくてもよい。また、前記各実施形態では、炭素繊維の繊維シートは、複数、積層されているが、この限りではなく、繊維シートが1枚だけであってもよい。この場合には、前記各実施形態における積層方向は、炭素繊維強化樹脂によって構成された部材の厚み方向に対応する。さらに、前記炭素繊維は、所定長さ(例えば1mm)以上、連続した繊維であってもよいし、不連続繊維であってもよい。なお、前記炭素繊維が不連続繊維の場合には、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、構造体において強度が比較的高い方向に荷重を伝達するように、前記構造体に取り付けられることが好ましい。
【0154】
前記各実施形態において、炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂層と、発泡合成樹脂を含む発泡樹脂層とが厚み方向に積層された複合材料によって構成されていてもよい。この複合材料は、一対の前記炭素繊維強化樹脂層を有し、それらの炭素繊維強化樹脂層の間に、前記発泡樹脂層が配置された材料である。前記複合材料を用いることにより、炭素繊維強化樹脂層のみを用いる場合に比べて、炭素繊維強化樹脂を含む各部材の軽量化を図れるとともに、前記各部材の厚みを容易に変えることができる。なお、前記発泡樹脂層の前記発泡合成樹脂として、振動を吸収可能な樹脂を用いてもよい。
【0155】
前記各実施形態では、左側面繊維方向荷重変換部材31,131及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、入力された荷重を、リア構造体20,220またはフロント構造体120の繊維方向に変換し、該変換後の荷重をリア構造体20,220またはフロント構造体120に伝達する。しかしながら、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、構造体の炭素繊維強化樹脂における繊維及び樹脂の一部の構造が変化しなければ、入力された荷重を前記構造体の繊維方向以外の方向の荷重に変換して、該変換後の荷重を前記構造体に伝達してもよい。
【0156】
前記各実施形態では、車体は、応力外皮構造を有するリア構造体20,220またはフロント構造体120を有する。しかしながら、車体は、メインフレーム及びシートレールを含むフレーム構造を有していてもよい。この場合には、フレーム構造は、炭素繊維によって樹脂が強化された炭素繊維強化樹脂を含む材料によって構成されている。そして、前記フレーム構造の外表面上で、且つ、車両が停車状態で左右方向に転倒した場合に接触する位置に、左側面繊維方向荷重変換部材または右側面繊維方向荷重変換部材を取り付ければよい。
【0157】
前記各実施形態では、左側面繊維方向荷重変換部材31,131及び右側面繊維方向荷重変換部材41は、リア構造体20,220、フロント構造体120に対し、接着剤によって固定されている。しかしながら、左側面繊維方向荷重変換部材及び右側面繊維方向荷重変換部材は、溶着やボルト固定など、接着剤以外の方法によって、リア構造体及びフロント構造体に固定されていてもよい。なお、第1左取付部、第2左取付部、第1右取付部及び第2右取付部のうち一部のみが、接着剤によって、繊維強化樹脂を含む構造体に固定されていてもよい。
【符号の説明】
【0158】
1、101 車両
2、102 車体
10、110 フレーム
20、220 リア構造体(フレーム構造体)
20a 空間
21、121 壁部
21a、121a 左側面
21b 右側面
31、131 左側面繊維方向荷重変換部材
32、132 第1左取付部
33、133 第2左取付部
34、134 左荷重受け部
35、135 第1左荷重伝達部
36、136 第1左荷重伝達部
37、137 左空間部
41 右側面繊維方向荷重変換部材
42 第1右取付部
43 第2右取付部
44 右荷重受け部
45 第1右荷重伝達部
46 第1右荷重伝達部
47 右空間部
50 左荷重吸収部材
120 フロント構造体(フレーム構造体)
図1
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