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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ニコチン含有透明経皮吸収治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/465 20060101AFI20220930BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220930BHJP
   A61P 25/34 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61K31/465
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K47/34
A61P25/34
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019544928
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 DE2018100168
(87)【国際公開番号】W WO2018153413
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】102017104026.9
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ヒル
(72)【発明者】
【氏名】ガーブリエル・ヴァウアー
(72)【発明者】
【氏名】ペートラ・ボッツェム
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ザイベルツ
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214425(JP,A)
【文献】特開昭59-196817(JP,A)
【文献】特表2002-539239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮吸収治療システム(TTS)であって、
a)ニコチンに対して非浸透性のバック層と、
b)活性物質としての、遊離塩基の形態のニコチン、およびビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーである、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーを含む、活性物質含有層と、
c)取り外し可能な保護層
を含み、
ニコチンの、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーに対する重量比は、5:1から1:1である、
前記経皮吸収治療システム。
【請求項2】
ポリマーの酸アミド基は、ラクタム基である、請求項1に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項3】
側方官能基としての酸アミド基を含むポリマーは、部分的に加水分解されているビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーである、請求項1または請求項2に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項4】
5~400mg、好ましくは10~300mg、特に14~150mgのニコチンを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項5】
バック層は、ポリエステル類、特にポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートの群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項6】
自己接着性である層または固定機構が、バック層に対向する取り外し可能な保護層の表面に配置され、ここで、自己接着性の該層または該固定機構は、活性物質含有層であるか、または異なる自己接着性の層もしくは固定機構であってもよい、請求項1~5のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項7】
経皮吸収治療システムは、d)活性物質の放出を制御するためのマトリックス層も含み、ここで、該マトリックス層は自己接着層であり、および/または、経皮吸収治療システムは、e)取り外し可能な保護層と該マトリックス層との間に配置される自己接着性の層もしくは固定機構も含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項8】
マトリックス層、および取り外し可能な保護層と該マトリックス層との間の自己接着性の層または固定機構を含む、請求項7に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項9】
活性物質含有層は、自己接着層である、請求項1~8のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項10】
自己接着性である層または固定機構は、天然または合成ゴム類、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリエステル類、ポリクロロプレン類、ポリイソブテン類、ポリビニルエーテル類、ポリウレタン類、ポリ酢酸ビニル類、エチレン-酢酸ビニルコポリマー類、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー類のようなスチレン-ジエンコポリマー類、およびシリコーン類から選択されるポリマーを含む感圧接着剤、またはホットメルト接着剤を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項11】
マトリックス層、および/または自己接着性の層もしくは固定機構は、設けられる場合は、ジメチルアミノエチルメタクリレートおよび中性のメタクリル酸エステル類がベースのカチオン性コポリマー類ならびにブチルメタクリレートおよびメチルメタクリレート類がベースの中性コポリマー類からなる群から選択される材料を含む、請求項6~10のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項12】
活性物質含有層は、マトリックス層に埋め込まれている、および/またはバック層に対向するマトリックス層の表面に配置されている、請求項7~11のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項13】
ニコチンに対して非浸透性のバック層は透明である、請求項1~12のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項14】
バック層および取り外し可能な保護フィルムを除く経皮吸収治療システム中の酸の割合は、バック層および取り外し可能な保護フィルムを除く経皮吸収治療システムの重量に対して、2重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.02重量%以下であり、ここで、活性物質含有層は、好ましくは、酸を実質的に含まない、請求項1~13のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項15】
経皮吸収治療システムは透明である、請求項1~14のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システム。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の経皮吸収治療システムを製造するための方法であって、ここで、該方法は、
- 第1のキャリア層を用意する工程、または第1のキャリア層を含む出発積層材を製造する工程と、
- 活性物質としての、遊離塩基の形態のニコチン、およびビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーである、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーを含む、流動可能な活性物質含有組成物を、該第1のキャリア層または該出発積層材に塗布する工程と、
- 第2のキャリア層を含む、該経皮吸収治療システムの層の残りを、該活性物質含有
組成物が備えられた該第1のキャリア層、または該活性物質含有組成物が備えられた該出発積層材に積層させる工程と
を含み、ここで、該経皮吸収治療システムは、該活性物質含有組成物を塗布する前または後の時点までに作成された製造物または積層材から、切断および/または押し抜かれることにより分離でき、該第1のキャリア層は、ニコチンに対して好ましくは非浸透性である、取り外し可能な保護層を形成し、かつ該第2のキャリア層は、ニコチンに対して非浸透性のバック層を形成するか、またはその逆である、前記方法。
【請求項17】
前記出発積層材は、第1のキャリア層とマトリックス層またはマトリックス層の一部とを含み、ここで、自己接着性の層または固定機構は、場合により、該第1のキャリア層と該マトリックス層との間に配置され、
前記流動可能な活性物質含有組成物は、該マトリックス層または該マトリックス層の一部に塗布され
前記第2のキャリア層を含む、経皮吸収治療システムの層の残りは、該活性物質含有組成物が備えられた該マトリックス層に積層され、ここで、該出発積層材が該マトリックス層の一部のみを含む場合、該マトリックス層の残りは、該活性物質組成物が備えられた部分的なマトリックス層に、第1の層として塗布される、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
プリント法によって流動可能な活性物質含有組成物を塗布するために、該流動可能な活性物質含有組成物の個々に調薬されたポーションが、第1のキャリア層、またはマトリックス層もしくはマトリックス層の一部に塗布される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
プリント法は、パッドプリント法であるか、またはプリント法は、流動可能な活性物質含有組成物が、少なくとも1つのアパーチャが備えられた塗布装置の分配板により、第1のキャリア層、またはマトリックス層もしくはマトリックス層の一部に転写される方法である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
第1のキャリア層は、ニコチンに対して非浸透性であり、取り外し可能な保護層を形成する、請求項16~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ニコチン含有経皮吸収治療システムにおいてニコチンを安定化するための、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーである、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーの使用方法であって、
前記ニコチン含有経皮吸収治療システムは、
a)ニコチンに対して非浸透性のバック層と、
b)活性物質としての、遊離塩基の形態のニコチンとビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーを含む、活性物質含有層と、
c)取り外し可能な保護層と
を含み、
ニコチンの、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーに対する重量比が、5:1から1:1となるように前記ポリマーを添加する前記使用方法。
【請求項22】
ニコチンの変色を減速または回避するための、請求項21に記載の使用方法。
【請求項23】
ニコチン含有経皮吸収治療システムにおいてニコチンを安定化するための方法であって、製造中に、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーである、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーを、経皮吸収治療システムに仕込む工程を含み、前記経皮吸収治療システムは、
a)ニコチンに対して非浸透性のバック層と、
b)活性物質としての、遊離塩基の形態のニコチンとビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーを含む、活性物質含有層と、
c)取り外し可能な保護層と
を含み、
ニコチンの、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーに対する重量比が、5:1から1:1となるように前記ポリマーをニコチンに添加する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性物質であるニコチンを含有する経皮吸収治療システム(TTS)、TTSを製造するための方法、およびTTS中のニコチンを安定化するための特定のポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチンを含むTTSは、従来技術において公知である。それらは、既に認可されており、ニコチン中毒を抑制するための医薬製品として、Nicotinell(Habitrol)、Nicorette、およびNiquitinという商品名の下で、何年間も世界的に販売されてきたが、大量の毒性ニコチン塩基が、身に付けられたTTSに過度に残るか、またはニコチン塩基の変色が、審美的に魅力的でないTTSをもたらすので、未だ決して最適な手法ではない。この点に関し、ニコチンの光感応性は、一般的に公知であり、例えば、非特許文献1に記載されていることに留意されたい。
【0003】
医薬製品の適用は、自由裁量に関する患者のニーズを考慮に入れるべきである。したがって、はっきりと見え、目立つTTSは、特に避けるべきである。国際的にTTSを売買するニーズにより、バック層として、「皮膚色」の不透明フィルムとして公知であるものを使用せず、代わりに、世界中の様々な皮膚の色の人々を考慮に入れるために、透明、すなわち光透過性のフィルムを使用するのが非常に望ましい。ここで、従来技術にかかるニコチンTTSの不利な点について、簡潔に説明する。
【0004】
市販製品Niquitinは、透明なバック層を備えるTTSであって、特許文献1に記載されており、ポリイソブチレンのマトリックスにニコチン114mgを含み、患者向け情報によると、24時間でわずか21mgの活性物質しか放出しない。これは、公表含有量のわずか18.4%を示し、ニコチン93mgが、身に付けられたTTSに残り、最後には家庭廃棄物となることを意味する。このことは、ニコチンの極めて高い毒性のため、受け入れがたい。
【0005】
市販製品NicoretteおよびNicotinellの場合、活性物質の利用率は、Niquitinの場合よりもはるかに良い。ニコチン21mgを放出するNicotinellは、ニコチン52.5mgのみしか含まず、したがって、ニコチン31.5mgのみがTTS中で未使用のままとなり、40%の活性物質が治療上使用される。
【0006】
その事情は、Nicoretteの場合と同様である。このTTSは、24時間の代わりに16時間だけ身に付けられ、ニコチン40mgを含み、14mgを放出し、これは35%に相当し、ニコチン26mgのみがTTS中で未使用のままであることを意味する。両方の市販製品は、透明なバック層を持たないが、代わりに、ベージュ塗りのバック層または艶消し(matt)のバック層のいずれかを持つ。
【0007】
しかしながら、不適切な活性物質の利用は、TTSに残る活性物質によりもたらされるだけでなく、NiquitinおよびNicoretteの場合であれば、それらがウェブ状材料から押し抜かれた(punched)ときにTTSの製造中にも引き起こされ、その理由は、絆創膏(plaster)様の医薬製品および丸い角を備える絆創膏が、ウェブ状材料から押し抜かれ、個々の絆創膏の間の格子状活性物質含有材料を、有害廃棄物として廃棄および処分しなければならないからである。
【0008】
特許文献2は、止痒性の活性物質がさらに含まれる、ニコチンを投与するためのTTSを開示している。金属化ポリプロピレンフィルムが、活性物質非浸透性上部層として好ましく使用される。
【0009】
特許文献3は、ニコチンを投与するためのTTSを開示しており、その目的は、活性物質が連続的および何度も放出されることを確かなものにすることである。
【0010】
特許文献4は、ニコチンの減速および遅延された放出を確かなものにすることを意図した、禁煙用のニコチン含有ゲルに関する。
【0011】
特許文献5は、TTSが、安定した様式で患者の皮膚に接着することを確かなものにすることを意図した、ニコチンを投与するための多層TTSを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許出願公開第0525105号
【文献】米国特許第4,908,213号
【文献】特開2007-262007
【文献】独国特許第60201134(T2)号
【文献】米国特許出願公開第2015/0190349(A1)号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Merck Index(Merck Index,13th edition,6551.Nicotine)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、特に、保存中の変色が回避されるか、少なくとも大幅に低減される、ニコチン含有TTSを提供することである。このようにすれば、そのような変色により見かけが悪くならない透明なTTSを提供することが可能である。前記TTSを製造するための方法もまた同じであり、その理由は、活性物質の利用率が最適であり、製造に誘発される活性物質のロスが、多分にまたは完全に回避できるからである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、驚くべきことに、ニコチンを含み、かつニコチンを安定化するための側部官能基(lateral functional group)としての酸アミド基を含むポリマーを含有する、経皮吸収治療システム(TTS)により取り組まれる。
【0016】
したがって、本発明は、請求項1に定義されるような、活性物質であるニコチンを含有する経皮吸収治療システム(TTS)に関する。本発明にかかるTTSは、驚くべきことに、従来技術にかかるニコチン含有TTSと比較して著しく減速された経時的変色を示し、したがって、36ヶ月の医薬製品の最小貯蔵寿命の間に変色しないニコチン含有TTSを提供できる。
【0017】
本発明は、これらの経皮吸収治療システムを製造するための方法にも関し、好ましい実施形態では、そのシステムは、プリント法(printing method)により活性物質が仕込まれ、ここで、個々の調薬が完成される調整プロセスにより、格子状材料から個々の絆創膏を押し抜く(punching)ときには通常は回避できない活性物質含有格子状材料の生産ロスが回避される。ここで、格子状材料は、切断および/または打ち抜き(stamping)による分離後に残りかつ格子の幾何学的形状を一般的に有する、周囲に残った材料に関する。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
TTSは、「経皮吸収治療システム」の略語として使用される。
【0020】
光透過性層は、透明(=シースルー)または半透明(=部分的にシースルー)な層を意味すると理解される。透明な層は、光をほとんど妨げずに通過させるのに対して、半透明な層は、大部分の光を通過させるが、その際、光が拡散的に分散する。
【0021】
表面は、光沢スケールに対してほんの小さなグロス単位(GU)しか達成しない場合に艶消しであると言及され、光沢スケールは、黒ガラス標準の光沢の100GUから、完全に艶消表面の0GUまでの範囲である。そのため、表面の反射計値は、85°の幾可学的配置の反射計を使用する光沢測定によって判定できる。艶消表面は、好ましくは、<10グロス単位(GU)の反射計値を有する。
【0022】
本発明にかかるTTSの好ましい実施形態の層は、透き通っており、シースルーである。好ましい実施形態では、本発明にかかるTTSは透明であり、とりわけ透明および無色である。代替的な実施形態では、TTSは、艶消表面を備えるバック層を有することもある。
【0023】
TTSまたはフィルムもしくは層のような材料の透明度は、例えば、Macbeth 1500/Plus測色システム(Kollmorgen Instruments Corp.,Newburgh,N.Y.,USA)を用いて、材料に透過または吸収された光を確認することにより判定できる。材料を通過するとともに吸収される入射光のパーセンテージが、不透明度指数である。
【0024】
TTSまたはフィルムもしくは層のような材料は、ここで、不透明度指数が50%未満である場合、透明であると判断される。TTS、または取り外しフィルムが除去されたTTSは、好ましい実施形態では、50%未満、好ましくは35%未満の不透明度指数を有する。好ましい実施形態では、バック層は、50%未満、より好ましくは35%未満、特に好ましくは20%未満の不透明度指数を有する。
【0025】
特に明記しない限り、薬学的に許容可能なポリマーは、以後に列記される全てのポリマーについて好ましい。
【0026】
経皮吸収治療システムは、皮膚を介して、薬学的活性物質を制御して投与するためのシステムである。それらは、様々な病気、肉体的および精神的な機能障害、不調および疾患を治療するために、比較的長期にわたって使用されてきた。経皮吸収治療システムは、一般的に、絆創膏の形状の多層製品であり、活性物質非浸透性バック層と、少なくとも1つの活性物質含有リザーバまたはマトリックス層と、場合により活性物質放出速度を制御する膜と、使用前にTTSから除去される取り外し可能な保護層とを含む。
【0027】
本発明は、
a)ニコチンに対して非浸透性のバック層と、
b)活性物質としての、遊離塩基の形態のニコチン、および側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーを含む、活性物質含有層と、
c)取り外し可能な保護層と、を含む、経皮吸収治療システム(TTS)に関する。
【0028】
活性物質含有層は、活性物質としてニコチンを含む。ニコチンは、遊離塩基の形態である。したがって、プロトン化された形態または塩形態は存在しない。室温での純粋なニコチンは、無色の油性液体であり、空気にさらされた場合、急速に茶色になる。
【0029】
TTSは、例えば、10~400mg、好ましくは15~300mg、特に20~150mgのニコチンを含有する。
【0030】
活性物質含有層は、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーも含む。ポリマーは、特に有機ポリマーである。ポリマーは、好ましくは、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む、薬学的に許容可能なポリマーである。
【0031】
酸アミド基は、側方官能基の形態であり、すなわち、酸アミド基がポリマーの側鎖に位置する。対照的に、ポリアミドは、例えば、主鎖に酸アミド基を持つ。酸アミド基は、アミド基とも呼ばれ、一般的に構造単位-NR-C(=O)-を有し、式中、Rは、水素、または置換されているもしくは置換されていないアルキル、または置換されているもしくは置換されていないアリールのような有機基であってもよい。酸アミド基は、ラクタム基、すなわち環状酸アミド基であってもよい。酸アミド基は、好ましくは、ラクタム基である。酸アミド基はまた、酸イミド基、特に環状酸イミド基であってもよい。
【0032】
酸アミド基の窒素原子、特にラクタム基の窒素原子が、ポリマーの、主鎖、特に主鎖の炭素原子に直接結合されることが好ましい。したがって、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーは、好ましくは、N-ビニルアミドホモポリマーまたはN-ビニルアミドコポリマー、特にN-ビニルラクタムホモポリマーまたはN-ビニルラクタムコポリマーである。
【0033】
酸アミド基が、酸アミド基のカルボニル炭素を介して、ポリマーの主鎖、特に主鎖の炭素原子に直接結合されることも可能である。例は、アクリルアミドホモポリマーまたはアクリルアミドコポリマーである。酸アミド基が、ポリマーの主鎖に直接位置せず、側鎖に位置し、連結基、例えばアルキレン基を介して主鎖に結合されることも可能である。
【0034】
側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよく、すなわち、1つまたはそれ以上のモノマーから形成される。ポリマーの繰り返し単位またはモノマー単位の全てまたは一部のみが、側方官能基としての酸アミド基を持つことができる。
【0035】
側方官能基としての酸アミド基を持つモノマーの割合は、ポリマーを形成する全てのモノマーに対して、好ましくは、30から100重量%まで、好ましくは50から100重量%までの範囲にある。側方官能基としての酸アミド基を持たないモノマーの割合は、従って、0から70重量%まで、好ましくは0~50重量%の範囲にある。側方基としての酸アミド基を持たないモノマーもある割合で含むポリマーの場合では、側方官能基としての酸アミド基を持つ1つまたはそれ以上のモノマーの、側方官能基としての酸アミド基を持たない1つまたはそれ以上のモノマーに対する重量比は、好ましくは80:20から30:70まで、より好ましくは70:30から50:50までの範囲にある。これは、特に、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーに対して当てはまる。
【0036】
ポリマーは、側方官能基としての酸アミド基を持つ1つまたはそれ以上のモノマー、およびできる限り、側方官能基としての酸アミド基を持たない1つまたはそれ以上のモノマーから形成される。
【0037】
側方官能基としての酸アミド基を持つモノマーの例は、アクリルアミドおよびN-ビニルアミド、特にN-ビニルラクタムである。N-ビニルアミド類およびN-ビニルラクタム類の例は、N-ビニルアミド、N-ビニル-メチルアセトアミド、ビニル-エチルアセトアミド、N-ビニルメチル-イソブチルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-ピロリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、ならびにN-ビニルスクシンイミドおよびN-ビニルフタルイミドのようなN-ビニルイミド類である。N-ビニル-2-ピロリドンが、特に好ましい。
【0038】
側方官能基としての酸アミド基を持たないモノマーの例は、酢酸ビニルまたはN-ビニルイミダゾールである。
【0039】
側方官能基としての酸アミド基を持つホモポリマーの例は、ポリアクリルアミドおよびポリ-N-ビニルアミド類、特にポリ-N-ビニルラクタム類である。ポリ-N-ビニルアミド類およびポリ-N-ビニルラクタム類の例は、ポリ-N-ビニルアミド、ポリ-N-ビニル-メチルアセトアミド、ポリ-N-ビニル-エチルアセトアミド、ポリ-N-ビニルメチル-イソブチルアミド、ポリ-N-ビニル-2-ピロリドン、ポリ-N-ビニル-3-ピロリドン、ポリ-N-ビニル-2-ピペリドン、ポリ-N-ビニルカプロラクタム、ポリ-N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、ポリ-N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、ならびにポリ-N-ビニルスクシンイミドおよびポリ-N-ビニルフタルイミドのようなポリ-N-ビニルイミド類である。
【0040】
側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーは、特に好ましくは、ビニルピロリドンホモポリマーまたはビニルピロリドンコポリマーであり、ここで、そのコポリマーは、好ましくは、ビニルピロリドンと、N-ビニルイミダゾール、酢酸ビニルおよび/またはビニルカプロラクタムから選択された少なくとも1つのコモノマーとから形成される。特に明記しない限り、ビニルピロリドンは、当技術分野でよくあるように、好ましくはN-ビニル-2-ピロリドンである。
【0041】
ポリマーは、極めて特に好ましくは、ポリビニルピロリドン、特にポリ(N-ビニル-2-ピロリドン)であるか、または部分的に加水分解できるビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマー、特に部分的に加水分解できるN-ビニル-2-ピロリドン-酢酸ビニルコポリマーである。部分加水分解は、ここで、アセタート基の部分加水分解を指す。ポリビニルピロリドンは、PVPまたはポビジンとも呼ばれ、例えば、BASFからKollidonという商品名で市販されている。側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマー、特にポリビニルピロリドンは、好ましくは水溶性である。ポリビニルピロリドンは、特に、非架橋ポリビニルピロリドンである。クロスポビドンとも呼ばれる架橋ポリビニルピロリドンは、適切ではない。適切なビニルピロリドン酢酸ビニルコポリマーは、例えば、Kollidon VA 64(ビニルピロリドンの酢酸ビニルに対する重量比が60対40)という商品名でBASFにより販売されている。ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマー類は、Ashland Inc.、USAからも市販されている。
【0042】
可溶性ポリビニルピロリドン類の平均モル質量は、k値として、一般的な薬局方であるPh.Eur、USP、およびJPEに記載されている。この値は、水性ポリビニルピロリドン溶液の相対粘度として算出され、BASFのポリビニルピロリドン類の場合ではいつも、商品名の一部となる。したがって、PVP K 90は、90の平均k値(81.0~97.2)を有する。
【0043】
粘度測定による調査方法は、液体が、粒子を導入した結果として、その粒子の体積に比例する粘度の増加を受けるという知識に基づく。ポリマー同族列の場合では、高分子の体積がモル質量とともに増加するので、粘度の増加とモル質量との間に相関がなければならない。相対粘度の増加は、一般的に比粘度と呼ばれる。したがって、k値は、ポリビニルピロリドン溶液の比粘度であり、固体画分は、1または5%である。
【0044】
TTS中の、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの量は、例えば、少なくとも10mg、好ましくは少なくとも15mg、および/または、例えば、100mg以下、好ましくは60mg以下である。
【0045】
TTS中の、ニコチンの、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーに対する重量比は、好ましくは10:1~1:2、特に好ましくは5:1~1:1、さらに一層好ましくは3:1~1:1である。
【0046】
側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーを添加することにより、TTSに含有されるニコチンは、驚くべきことに、変色しないか、または大幅によりゆっくりと変色するように安定化される。この安定化機能に加えて、ポリマーは、個々の調薬のためのTTSの好ましい製造の場合において必要である、活性物質含有組成物の適切な粘度を設定するためにも使用される。
【0047】
前述の市販製品Kollidon(ポリビニルピロリドン)またはKollidon VA 64(ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマー)は、一般的な薬局方Ph.Eur.、USP、およびJPEに、薬学的賦形剤としてモノグラフが書かれており;例えば、Buhler、Volker、Kollidon(登録商標)Polyvinylpyrrolidone excipients for the pharmaceutical industry BASF SE 9th edition,March 2008も参照されたい。両方のポリマータイプが、水素架橋結合を介してプロトン物質または酸を含む付加化合物を形成するが、非プロトン性極性酸化感受性物質を安定化するためのそれらの使用は、以前には公知ではなく、したがって、ニコチンを安定化するためのそれらの効果は、なおさら驚くべきことであり、医薬部門における革新を引き起こす。
【0048】
驚くほどに、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーを使用すると、光透過性層またはフィルムを、目に見える見かけが悪い変色がないバック層として使用することが可能であるように、経時的なニコチンの変色が回避されるかまたはその減速が生じる。
【0049】
TTSは、ニコチンに対して非浸透性のバック層を含む。TTSのバック層は、皮膚から離れる方のTTSの側面からの活性物質の望ましくない漏出を防止するために、TTSに含有される活性物質に対して非浸透性でなければならない。
【0050】
TTSのバック層は、好ましくは、光透過性であり、特に透明である。代替的な実施形態では、バック層は、艶消しであってもよく、その結果、TTSでは、バック層の外側に向いている表面が、艶消表面である。
【0051】
プラスチック、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)から作られる層またはフィルムが、バック層にとって最も都合が良い。これらのプラスチック層またはプラスチックフィルムの利点は、それらが経済的に製造され、実際的には全ての薬学的活性物質に対して非浸透性であるという事実にある。ニコチンに対して非浸透性のバック層は、好ましくは、プラスチックフィルム、特に透明プラスチックフィルムである。
【0052】
ポリエステル類は、活性物質非浸透性バック層のため、特に活性物質非浸透性透明バック層のためのプラスチックとして適切であり、特に、特定の強度を特徴とするポリエステル類、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートであるが、アクリロニトリル-メチルアクリレートコポリマー類、例えばarbo plastic AG、SwitzerlandのBarex(登録商標)フィルムのような、他の皮膚適合性のプラスチックが、加えて適切である。2つ以上のプラスチックフィルムから形成された複合積層材は、バック層にも使用できる。
【0053】
ポリエチレンテレフタレート(PET)から形成されたフィルム、特にPETから形成された透明フィルムは、特に好ましくは、バック層に使用される。多くの様々なタイプの適切なPETフィルムは、Hostaphan(登録商標)という商品名でMitsubishi Polyester Film GmbHから市販されている。
【0054】
金属アルミニウムを含む層は、特にアルミホイルおよびプラスチックフィルムの複合積層材の形態のバック層として、従来技術においてしばしば使用される。しかしながら、これは、本発明では好ましくなく、すなわち、好ましくは、例えばアルミホイルの形態の金属アルミニウムは、バック層に設けられない。さらに、バック層はまた、好ましくは、着色顔料および色素を含まないか、またはそれらを実質的に含まない。
【0055】
バック層は、好ましくは無色であり、特に透明かつ無色である。バック層は、特に好ましくは、透き通っているか、またはシースルーである。適切な透明フィルムまたはシースルーフィルムは、市販されている。
【0056】
TTSは、取り外し可能な保護層も含む。そのような取り外し可能な保護層は、市販されている。取り外し可能な保護層は、同様に、ニコチンに対して非浸透性である。
【0057】
原理的に、バック層に使用されるものと同じ材料は、取り外し可能な適切な表面処理、例えばシリコーン化を用いて設けられるならば、取り外し可能な保護層に使用できる。しかしながら、他の取り外し可能な保護層、例えば、ポリテトラフルオロエチレンで処理された紙またはCellophan(登録商標)(セルロース水和物)も使用できる。
【0058】
以後議論される層および固定機構は、ニコチンに対して非浸透性のバック層と、取り外し可能な保護層との間のTTSに配置される。
【0059】
皮膚に経皮吸収治療システムを固定し、かつ活性物質の制御された投与を確かなものにするために、TTSは、特に、自己接着層が備えられている。この自己接着層は、例えば、後に説明するマトリックス層、または皮膚側の活性物質含有層と同一であってもよいだけでなく、加えて、活性物質含有層、または場合により設けられる膜、またはマトリックス層が自己接着性でない場合に設けられる。
【0060】
したがって、本発明にかかる経皮吸収治療システムは、特に、自己接着性でありかつニコチンに対して非浸透性のバック層に対向する取り外し可能な保護層の表面に配置された、層または固定機構を含み、ここで、その自己接着性の層もしくは固定機構は、例えば、活性物質含有層、またはそれとは異なる自己接着性の層もしくは固定機構であってもよい。活性物質含有層とは異なるこの自己接着性の層もしくは固定機構は、例えば、以下さらに説明するマトリックス層、または追加の自己接着性の層もしくは固定機構であってもよい。TTSの特定のタイプによって、どの自己接着性の層または固定機構が、後に説明されるような、バック層に対向する取り外し可能な保護層の表面に配置されるのかが決定される。他の層もまた、必要に応じて自己接着性であってもよい。
【0061】
取り外し可能な保護層は使用時に取り外され、その後、取り外し可能な保護層により露出したTTSは、自己接着性である上記の層または固定機構を用いて、所望位置で皮膚に接着される。
【0062】
自己接着性である層または固定機構が、活性物質含有層、マトリックス層、または追加の自己接着性の層もしくは固定機構であるかどうかに関わらず、自己接着性の層または固定機構は、特に、感圧接着剤を含む。感圧接着剤は、少なくとも1つのポリマーに基づく。そのようなポリマーは、当技術分野で周知である。感圧接着剤用のポリマーの適切な例を、以下に提供する。
【0063】
感圧接着剤は、好ましくは、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリイソブチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、天然および/もしくは合成ゴム類、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー類のようなスチレン-ジエンコポリマー類、ポリエステル類、ポリクロロプレン類、ポリビニルエーテル類、ポリウレタン類、ポリシロキサンとも言われるシリコーンポリマー類から選択される少なくとも1つのポリマー、またはホットメルト接着剤を含む。
【0064】
天然のおよび/または合成ゴム類の例は、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、またはネオプレンゴムである。ポリ(メタ)アクリレート類は、アクリル酸エステル類、および/またはメタクリル酸エステル類、および/またはアクリル酸、および/またはメタクリル酸、ならびに場合により、酢酸ビニルのような追加のコモノマーから選択される、1つまたはそれ以上のモノマーのポリマーであり、ここで、少なくとも1つのアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルは、好ましくは、含有される。1つまたはそれ以上のアクリル酸エステル類、ならびに場合により、アクリル酸、および/または酢酸ビニルのような1つの追加のコモノマーのアクリレート類は、好ましい。例えば、シリコーンポリマーは、シリコーンゴムであってもよい。
【0065】
感圧接着剤用のポリマーは、特に、ガラス転移温度(Tg)が<0℃であるポリマーであり、マトリックスを形成するポリマーとして適切である。感圧接着剤用の少なくとも1つのポリマーは、好ましくは、光透過性または透明である。前述のポリマーに加えて、感圧接着剤は、場合により、さらなる成分、例えば、少なくとも1つの樹脂および/または可塑剤も含有できる。一実施例は、脂肪酸のトリグリセリドにより構成される。
【0066】
追加の接着性の層または固定機構は、層として構成できる。あるいは、それは、自己接着性の固定機構であってもよく、取り外し可能な保護層とその上の層との間に配置される。固定機構は、例えば、感圧接着剤の部分、例えば、その上の層に埋め込まれた、外周接着性縁または接着性スポットにより形成できる。
【0067】
TTSは、場合により、膜を追加で含むことができる。活性物質含有層またはマトリックス層は、特に、Tgが<0℃である1つまたはそれ以上のポリマーを含み、そのポリマーには物質が溶解できるが、任意選択の膜は、Tg>0℃である1つまたはそれ以上のポリマーから形成される。物質は、そのようなポリマーから形成された膜によって溶解されず、したがって、膜には、物質がそれを介して拡散できる穴または細孔がなければならない。マトリックス層および膜からの活性物質の放出は、動力学の様々な原理に従う。膜は、設ける場合は、例えば、活性物質含有層またはマトリックス層と、固定機構との間に配置できる。
【0068】
本発明にかかるTTSは、当技術分野で公知の様々なタイプのTTSのために使用できる。様々な実施形態が、タイプに応じて提供され、以下に説明する。
【0069】
第1の実施形態では、活性物質含有層は、ニコチン、および側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの他に、加えて、マトリックス、好ましくは接着性マトリックスを形成するための少なくとも1つのポリマーを含むことができる。しかしながら、マトリックスはまた、自己接着性でなくてもよい。マトリックスを形成するための少なくとも1つのポリマーは、上で定義された感圧接着剤用のポリマーであってもよい。そこに示された例を参照されたい。マトリックスを形成するのに適切な少なくとも1つのポリマーのための他のポリマーは、原理的に、ガラス転移温度Tgが<0℃であるポリマーであるが、これは、その後、ポリマーが、ゴム状態である場合にマトリックスとして作用するためである。
【0070】
第1の実施形態では、活性物質含有層は、自己接着性であってもよい。それゆえ、活性物質含有層は、好ましくは、上で定義されるような感圧接着剤用の少なくとも1つのポリマーを含有する感圧接着剤を含む。この場合、TTSは、バック層、自己接着性の活性物質含有層、および取り外し可能な保護層を含むことができるか、またはそれらから形成できる。この種類のTTSは、モノリシックマトリックスTTSとも呼ばれる。
【0071】
第1の実施形態では、マトリックスを形成するための少なくとも1つのポリマーを含む活性物質含有層に加えて、追加の自己接着性の層または固定機構も含むことができ、活性物質含有層と取り外し可能な保護層との間に配置される。この変形体では、活性物質含有層が自己接着性である必要は必ずしもない。追加の自己接着性の層または固定機構は、上で定義されており、そして、好ましくは、上記したような感圧接着剤用の少なくとも1つのポリマーを含有する感圧接着剤を含む。この種類のTTSは、多層マトリックスTTSとも呼ばれる。
【0072】
第1の実施形態では、活性物質含有層中の、ニコチンおよび側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの合計分率(joint fraction)は、例えば、活性物質含有層の重量に対して1~20重量%、好ましくは5~15重量%である。
【0073】
第2の好ましい実施形態では、加えて、TTSは、活性物質またはニコチンの放出を制御するためのマトリックス層、および場合により、マトリックス層と取り外し可能な保護層との間に配置される、追加の自己接着性の層または固定機構を含む。マトリックス層は、自己接着性であってもよい。この場合、追加の自己接着性の層または固定機構は、必要ではない。第2の実施形態では、TTSが、取り外し可能な保護層とマトリックス層との間に自己接着性の層または固定機構を含むことが好ましい。この場合、マトリックス層が自己接着性である必要は、必ずしもない。
【0074】
本発明にかかるTTSのマトリックス層および自己接着性の層または固定機構は、同じ材料から成ることができるか、または異種材料から成ることができる。
【0075】
活性物質の放出を制御するためのマトリックス層は、好ましくは、マトリックス、好ましくは接着性マトリックスを形成するための少なくとも1つのポリマーを含む。マトリックスを形成するための少なくとも1つのポリマーは、上で説明した接着剤のためのポリマーであってもよい。そこに示された例を参照されたい。マトリックス形成ポリマーは、自己接着性でもある。
【0076】
活性物質の放出を制御するためのマトリックス層は、好ましくは、常態の活性物質を含まない。
【0077】
場合によりおよび好ましくは提供される追加の自己接着性の層または固定機構は、第2の実施形態では、既に上で定義されており、好ましくは、上記したような感圧接着剤用の少なくとも1つのポリマーを含有する感圧接着剤を含む。そこに示された例を参照されたい。
【0078】
マトリックス層、および/または追加の自己接着性の層または固定機構は、設けられる場合は、場合により、ジメチルアミノエチルメタクリレートおよび中性のメタクリル酸エステル類がベースのカチオン性コポリマー類ならびにブチルメタクリレートおよびメチルメタクリレート類がベースの中性コポリマー類から選択される材料を含むことができる。例は、Eudragit(登録商標)E100(2:1:1の比率のジメチルアミノエチルメタクリレート、ブチルメタクリレートおよびメチルメタクリレートがベースのカチオン性コポリマー)である。
【0079】
マトリックス層が自己接着性の場合、好ましくは、上記したような感圧接着剤用の少なくとも1つのポリマーを含有する感圧接着剤を含む。マトリックス層は、多数の層、例えば2つの層に形成でき、ここで、個々の層は、例えば勾配を形成するために、例えば様々なタイプの原料または様々な濃度の原料を含有する。
【0080】
第2の実施形態では、活性物質含有層は、ニコチンの放出を制御するためのマトリックス層に埋め込むことができ、および/またはバック層に対向するマトリックス層の表面に配置できる。ここで、活性物質含有層が、バック層に埋め込まれているか、または一部の領域にのみ、例えば、マトリックス層の中央領域のマトリックス層の表面に、配置されることが好ましい。活性物質含有層が、バック層に埋め込まれていないか、またはマトリックス層の表面上に、連続層の形状ではないが、代わりに2層以上の部分的な層の形状で配置されることも可能である。
【0081】
既に上で述べたように、この実施形態では、上で定義されるような追加の自己接着性の層または固定機構が、マトリックス層と取り外し可能な保護層との間に設けられることが好ましい。
【0082】
第2の実施形態では、活性物質含有層は、ニコチン、および側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの他に、好ましくは、小さい割合のさらなる成分のみを含むか、またはそれ以上の成分を含まない。
【0083】
第2の実施形態では、活性物質含有層中の、ニコチンおよび側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの合計分率は、従って、例えば、活性物質含有層の重量に対して、1~100重量%、好ましくは5~100重量%、より好ましくは5~75重量%である。好ましい実施形態では、活性物質含有層中の、ニコチンおよび側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの合計分率は、例えば、活性物質含有層の重量に対して、60~100重量%、好ましくは80~100重量%、より好ましくは90~100重量%である。
【0084】
マトリックス層は、ニコチンの放出を制御する。当初の状態では、マトリックス層は、好ましくは、活性物質を含まない。活性物質含有層に含有されているニコチンは、場合によっては飽和濃度に到達するまで、経時的にマトリックス層に拡散するまたは流入する。TTSが使用されるとき、マトリックス層のニコチン濃度は、皮膚に吸収された結果として減少する。その後、さらなるニコチンは、必要に応じて、活性物質含有層からマトリックス層へと拡散できる。マトリックス層へのニコチンの拡散は、マトリックス層に活性物質含有層を塗布した後すぐに開始する。したがって、活性物質含有層の組成が、経時的に変化する場合があることは言うまでもない。したがって、活性物質含有層に関連して上記で提供された詳細は、特に、活性物質含有層を形成するためであるが、一般的に、TTSの生産後に活性物質含有層に塗布するために使用される活性物質含有組成物に関する。
【0085】
第2の実施形態では、活性物質含有層は、好ましくは半固体層である。活性物質含有層は、好ましくは、室温(20℃)で判定された10から100dPa・sまでの範囲の、特に好ましくは、15から30dPa・sまでの範囲のブルックフィールド粘度を有する活性物質含有組成物を塗布することにより得られる。
【0086】
経皮吸収治療システムは、場合により、少なくとも1つの酸、例えば、酒石酸およびサリチル酸のような有機酸、または塩酸のような無機酸を含有することもあるが、これは好ましくない。TTS、特に活性物質含有層は、好ましくは、酸を実質的に含まない。バック層および取り外し可能な保護フィルムを除くTTS中の酸の割合は、例えば、バック層および取り外し可能な保護フィルムを除く経皮吸収治療システムの重量に対して、2重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.02重量%以下であるべきである。これは、特に、バック層および取り外し可能な保護層を除くTTSの酸の割合に対して当てはまる。TTSは、特に好ましくは、ニコチン塩が皮膚を通って拡散しないので、酸を含まない。
【0087】
経皮吸収治療システムは、場合により、前述の層の1層以上に、1つまたはそれ以上の抗酸化剤を含有することもある。しかしながら、TTSは、好ましくは、少なくとも取り外し可能な保護層およびバック層とは異なる層に、抗酸化剤を含まない。
【0088】
本発明にかかるTTSの典型的な厚さは、およそ123μm~5550μm、好ましくは285μm~1550μmの総厚;8から50μmまで、好ましくは15から25μmまでの、ニコチンに対して非浸透性のバック層の厚さである。
【0089】
酸アミド含有ポリマーによる、ニコチンの本発明にかかる安定化により、変色が存在しないか、または極めて減速した変色が存在するのみである。したがって、透明なTTSを、本発明によって提供できる。特に好ましい実施形態では、したがって、透明なバック層が使用され、ここで、TTSのさらなる層もまた、光透過性である必要が必ずしもない取り外し可能な保護層以外は、光透過性である。本出願では、TTSは、ユーザーの自然な皮膚の色がTTSを介して目に見えるので、それが接着される皮膚に対してほとんど目に見えない。
【0090】
本発明は、上記したような本発明にかかる経皮吸収治療システムを製造するための方法にも関し、ここで、その方法は、以下の工程、
- 第1のキャリア層を用意する工程、または第1のキャリア層を含む出発積層材を製造する工程と、
- 活性物質としての、遊離塩基の形態のニコチン、および側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーを含む、流動可能な活性物質含有組成物を、第1のキャリア層または出発積層材に塗布する工程と、
- 第2のキャリア層を含む、経皮吸収治療システムの層の残りを、活性物質含有組成物が備えられた第1のキャリア層、または活性物質含有組成物が備えられた出発積層材に積層させる工程と
を含み、ここで、経皮吸収治療システムは、活性物質含有組成物を塗布する前または後の時点までに作成された製造物または積層材から、切断および/または押し抜かれることにより分離でき、第1のキャリア層は、ニコチンに対して好ましくは非浸透性である取り外し可能な保護層を形成し、かつ第2のキャリア層は、ニコチンに対して非浸透性のバック層を形成するか、またはその逆である。
【0091】
流動可能な活性物質含有組成物中の、ニコチンおよび側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの合計分率は、例えば、1~100重量%、好ましくは5~100重量%である。さらに好ましい実施形態では、流動可能な活性物質含有組成物中の、ニコチンおよび側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーの合計分率は、例えば、流動可能な活性物質含有組成物の重量に対して、60~100重量%、好ましくは80~100重量%、より好ましくは90~100重量%である。
【0092】
第1のキャリア層は、好ましくは、取り外し可能な保護層であり、好ましくは、ニコチンに対して非浸透性である。第2のキャリア層は、好ましくは、バック層であり、ニコチンに対して非浸透性であり、好ましくは透明である。
【0093】
第2のキャリア層を含む、経皮吸収治療システムの層の残りの積層は、ここで、層の残りを連続して個々に塗布することによって、または好ましくは、層の残りを全体として一緒に積層することによって実施できる。もちろん、その積層は、層の残りのうちの1つまたはそれ以上を個々に積層すること、および/または層の残りのうちの2つ以上を一緒に積層することの組合せによっても実施できる。
【0094】
切断および/または押し抜きによる分離は、好ましくは、活性物質含有組成物の塗布後に、例えば、TTSの全ての層が一度互いに接続されてから実施される。しかしながら、活性物質含有調合物の塗布後であるが、バック層の塗布前の時点までに形成された複合積層材からTTSを分離し、その後、バック層でTTSを単に覆うことも可能である。
【0095】
好ましい実施形態では、本発明にかかる方法は、以下の工程、
- 第1のキャリア層と、マトリックス層またはマトリックス層の一部をと含む出発積層材を製造する工程であって、ここで、自己接着性の層または固定機構は、場合により、第1のキャリア層とマトリックス層との間に配置される、工程と、
- 流動可能な活性物質含有組成物を、マトリックス層またはマトリックス層の一部に塗布する工程と、
- 第2のキャリア層を含む、経皮吸収治療システムの層の残りを、活性物質含有組成物が備えられたマトリックス層に積層する工程であって、ここで、出発積層材がマトリックス層の一部のみを含む場合、マトリックス層の残りは、活性物質組成物が備えられた部分的なマトリックス層に、第1の層として塗布される、工程と
を含む。
【0096】
ここで、マトリックス層の一部とは、厚さ方向の一部を指す。例えば、総厚のおよそ半分、3分の2、または、他のあらゆる割合のマトリックス層が、初めに塗布でき、マトリックス層の厚さの残りは、活性物質含有組成物の塗布後に塗布できる。
【0097】
流動可能な活性物質含有組成物は、好ましくは、流動可能な活性物質含有組成物の個々に調薬されるポーションが、出発積層材、またはマトリックス層もしくはマトリックス層の一部に塗布されるプリント法により塗布される。特に、個々に調薬されたポーションは、その領域の一部に塗布される。
【0098】
前述のプリント法は、パッドプリント法であってもよい。そのような方法は、例えば、特許文献である米国特許第5110599号から公知であり、その全てを参照する。
【0099】
前述のプリント法は、加えて、活性物質含有調合物が、少なくとも1つのアパーチャが備えられた塗布装置の分配板によって、活性物質を受けるように意図されるマトリックス層に転写される方法であってもよい。この種類の方法は、特許文献である米国特許第6187322号から公知であり、その全てを参照する。
【0100】
活性物質であるニコチンは、2つの前述のプリント法を用いて直接塗布できる。しかしながら、本発明に従って、活性物質は、液の形態で使用され、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含む少なくとも1つのポリマーを添加した結果として、所望の粘度を有する。プリント媒体として使用される活性物質含有組成物のブルックフィールド粘度は、好ましくは、温度が20℃に制御されているサンプルで測定して、10から100dPa・sまでの範囲、特に好ましくは15から30dPa・sまでの範囲内にある。
【0101】
ブルックフィールド粘度を決定するために、回転式粘度計、例えば、会社HaakeのVT500が、下記条件下で使用される:システム番号25、速度8、回転体ISO 3 d6。
【0102】
分離は、好ましくは、ニコチン溶液がプリントまたは部分的にプリントされた領域の外側にのみ切断および/または押し抜きが実施されるように、実施される。このように、製造に誘発される活性物質のロスは、おおむね回避できる。このように、活性物質含有層は、好ましくは、形成されたTTSの中央領域に位置するが、TTSの外周領域は、活性物質含有層を含まない。
【0103】
本発明にかかるTTSを製造するための方法は、特に好ましい実施形態では、
- 活性物質非浸透性キャリア層(取り外し可能な保護層のため)、自己接着性の固定層、およびマトリックス層またはマトリックス層の一部から形成された積層材が製造され、- 流動可能な活性物質含有調合物の個々に調薬されたポーションが、プリント法を用いて、このマトリックス層、特にその領域の一部に塗布され、
- さらなるマトリックス層またはマトリックス層の残りが、場合により、その上に積層され、
- 得られた積層材は、最後に、活性物質非浸透性バック層が備えられ、
ここで、経皮吸収治療システムは、活性物質含有調合物を塗布する前または後の時点までに製造された複合積層材から、切断および/または押し抜かれることにより分離できる、ことを特徴とする。
【0104】
分離は、特に、ニコチン溶液がプリントされた領域の外側にのみ切断および/または押し抜きが実施されるように、実施される。
【0105】
本発明は、ニコチン含有経皮吸収治療システム、特に本発明にかかるTTSのニコチンを安定化するための、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーの使用にも関する。
【0106】
ニコチンの安定化の結果として、特に、安定化されていないTTSを保存している間に発生するTTSのニコチンの変色が、減速または回避される。ニコチンの変色の減速または回避は、特に、無色から淡黄色までの変色が、例えば、25℃、より好ましくは40℃、特に好ましくは60℃で、空気中暗所で3ヶ月間保存した後に、Pantone1215、特に好ましくはPantone2015Cの色を越えないことを意味するように理解されよう。
【0107】
本発明は、ニコチン含有経皮吸収治療システムのニコチンを安定化するための方法にも関し、その方法は、製造中に、側方官能基としての少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーを、経皮吸収治療システムに仕込む工程を含む。
【0108】
本発明は、皮膚に対する治療システムのための、本発明にかかるTTSの使用にも関し、ここで、活性物質は、予防上または治療上効果的な量で、好ましくは少なくとも24時間の期間で、経皮的に放出させられる。
【0109】
本発明にかかるTTSは、極めて良好な活性物質収率を示す。皮膚に対して24時間使用した後のTTSに残存するニコチン含有量は、最大で60%であってもよい(室温での環境で)。
【0110】
以下、実際的な例、および本発明にかかるTTSの例の構造を概略的に示す添付の図面を参照しながら、本発明を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1】本発明にかかるTTSの好ましい実施形態を通る断面図を示す。
図2】活性物質含有層が、ニコチンのためのリザーバの形態で、バック層とマトリックス層との間に位置する治療システムの、さらに好ましい実施形態を通る断面図を示す。TTSは、取り外し可能な保護層を除去した後に皮膚に接着されて示されている。
【発明を実施するための形態】
【0112】
図1および図2の活性物質含有層は、ニコチンと、少なくとも1つの酸アミド基を含むポリマーとを含む。
【0113】
図1は、自己接着性の固定層16により皮膚18に固定される、本発明にかかる治療システムを通る断面図を概略的に示す。マトリックス層12は、自己接着層16上に位置し、好ましくは、製造の時点で活性物質が含まれていない(活性物質の浸透は保存の間に起こる)。活性物質含有層14は、マトリックス層に埋め込まれ、ニコチンは、活性物質含有層から外に溶け出すか、または拡散し、自己接着層16を通って皮膚に送達される。治療システムは、透明なバック層10で外に向かって終端となり、そのバック層は、活性物質であるニコチンに対して、好ましくは水分に対しても非浸透性であると同時に、システムのための支持機能を果たす。
【0114】
図2では、活性物質含有層14は、バック層10とマトリックス層12との間に位置する。マトリックス層12は、自己接着性であり、皮膚18に固定される。あるいは、自己接着層(図1の層16に対応する)、または自己接着性の機構を、マトリックス層12と皮膚18との間に配置することができる(図示せず)。この場合、マトリックス層は、必ずしも自己接着性というわけではない。
【実施例
【0115】
参考例
ポリイソブチレンが末端二重結合を含み、したがって、抗酸化剤であるブチルヒドロキシトルエンにより安定化しなければならないので、ニコチン変色の回避が抗酸化剤により達成できるかどうかを調査した。したがって、薬学的に許容可能な抗酸化剤を、2つの試験系列で、段階的な濃度でニコチンに添加して、EudragitE100(2:1:1の比率のジメチルアミノエチルメタクリレート、ブチルメタクリレートおよびメチルメタクリレートがベースのカチオン性コポリマー)の溶液を形成した。これらの溶液を、60℃または80℃で、4週間暗所に保存した。
【0116】
ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、パルミチン酸アスコルビル、およびトコフェロールを、抗酸化剤として試験した。試験したサンプルの組成を、表1に要約する。
【0117】
【表1】
【0118】
サンプルを、保存後に視覚的に調査し、サンプルの色に対して妥当なPantoneカラーコードを決定した。Pantoneカラーコードは、会社Pantone LLC、USAにより開発された、国際的に使用されるカラーシステムである。その結果、抗酸化剤がニコチンの変色を抑制できなかったと判定できた。例えば、0.05、0.15および0.5%のパルミチン酸アスコルビルを含むニコチン/Eudragit溶液(AP、Nic0005~Nic0007)が、80℃で4週間後に、著しく茶色の変色を示した:
Nic0005(+0.05%AP) Pantoneカラーコード:7580C
Nic0006(+0.15%AP) Pantoneカラーコード:7675C
Nic0007(+0.5%AP) Pantoneカラーコード:7589C
【0119】
ニコチンのどの分解生成物が茶色の色を引き起こすかを確かめるために、サンプルNic0007を分析した。その結果を表2にまとめる。
【0120】
【表2】
【0121】
パルミチン酸アスコルビルは、ニコチンの茶色の変色を防止しないが、その分解を防止することが分かった。
【0122】
したがって、Irganoxもまた、ニコチン安定化効果に関してBHTと比較して調査し、ここで、保存には低温を使用した。サンプルの組成および混合比を、表3に示す。
【0123】
【表3】
【0124】
その結果、この試験系列でも同様に、ニコチンの変色を抑制することが可能ではないことと判定できた。例えば、0.03%Irganoxを含むニコチンEudragitE100は、3ヶ月保存した後に以下の変色を示した:
25℃で保存した997Nic0005-1 Pantoneカラーコード:120C
40℃で保存した997Nic0005-3 Pantoneカラーコード:7549C
60℃で保存した997Nic0005-5 Pantoneカラーコード:7618C
【0125】
明白に、抗酸化剤はニコチンの変色を抑制できないため、これを達成する他の手法を求めた。中性ポリマーを、プリント法のための高粘度を達成するために、ニコチンに溶解した。
【0126】
以下に挙げたポリマーを、ニコチンと混合して試験した。混合物を、25℃、40℃および60℃で、3ヶ月の期間、空気中暗所で保存した。サンプルの組成および混合比を、表4に示す。
【0127】
ニコチンと混合するために使用されたポリマー:
PlastoidB Evonikのメチルメタクリレート-ブチルメタクリレートコポリマー(1:1)
EudragitL100-55 Evonik Industriesのメタクリル酸-エチルアクリレートコポリマー(1:1)
12500cSTシリコーンオイル シリコーンオイル
ポビドンK-90 BASFの、ポリビニルピロリドンであるKollidon(登録商標)90F
ポビドンVA64 BASFの、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマーであるKollidon(登録商標)VA 6:4
【0128】
【表4】
【0129】
EudragitL100-55およびシリコーンオイル12500cSTは、ニコチンと相溶しない。PlastoidBは、相分離を示す。
【0130】
10%PVP(KollidonK-90F)を含むニコチンの場合では、60℃で保存されたサンプルは、3ヶ月の保存後に、わずかに変色しただけであった。25℃および40℃で保存されたサンプルは、さらに少ししか変色せず、実際的には変化しなかった。その色を、PVPを含むサンプルのためのPantoneカラーコードに従って、以下に明示する:
初期の997Nic0013-1 Pantoneカラーコード:7401C
25℃で保存した997Nic0013-1 Pantoneカラーコード:2015C
40℃で保存した997Nic0013-3 Pantoneカラーコード:2015C
60℃で保存した997Nic0013-5 Pantoneカラーコード:7549C
【0131】
ニコチンEudragitE100溶液は、製造直後に、Pantone1205の色を有し、25℃または40℃での保存の3ヶ月以内に、Pantone1215Cへと変色するが、茶色の色には、60℃で達した。
【0132】
PVP VA64を含むニコチン溶液は、PVP溶液と同様に、7401Cで開始し、25℃、40℃または60℃の保存温度にもかかわらず、Pantone1215Cの色までしか達しなかった。
【0133】
したがって、ニコチン塩基の粘度を増大させるために、EudragitE100を使用せず、代わりに、ビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマー(Kollidon(登録商標)VA 6:4(ビニルピロリドン対酢酸ビニルの重量比は60対40、BASF))を使用した、ニコチンTTSを製造した。
【0134】
実施例
最初に、感圧接着剤化合物HSを、
a)市販製品(会社Henkel、Dusseldorf、GermanyのDuro-Tak(登録商標)387-2516 - これは、酢酸エチル、エタノール、ヘプタンおよびメタノールの溶媒混合液中の、2-エチルヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸およびチタンキレートエステルベースの自己架橋アクリレートポリマーの40%溶液である)933gを
b)分留ココナッツ脂肪酸のトリグリセリド8g(C8-C10;会社Evonik Witten、GermanyのMiglyol(登録商標)812)と均質化することにより、製造した。
【0135】
加えて、Duro-Tak(登録商標)387-2516の6210g、酢酸エチル553g、およびエタノール311gを、前述のトリグリセリド66g、ならびにジメチルアミノエチルメタクリレートおよび中性のメタクリル酸エステル類から形成されたアクリル樹脂(会社Rohm-Pharma、Darmstadt、GermanyのEudragit(登録商標)E100)(接着剤化合物MS)626gと混合し均質化した。
【0136】
加えて、ビニルピロリドン酢酸ビニルコポリマー(Kollidon(登録商標)VA 64)33gを、ニコチン66gへ導入し、それに溶解した。これにより、活性物質調合物を得た。
【0137】
感圧接着剤化合物HSを、溶媒が蒸発した後に40g/mの単位面積当たりの重量を有する感圧接着剤層が形成されるように、接着剤保護層(A)に塗布した。
【0138】
接着剤化合物MSを、溶媒が蒸発した後に220g/mの単位面積当たりの重量を有するフィルムが製造されるように、別の接着剤保護層(B)に塗布した。このフィルムを、保護層(A)に塗布された感圧接着剤層へと積層した。これにより、底部ウェブを生じさせた。
【0139】
さらなるコーティング工程では、接着剤化合物MSを、溶媒が蒸発した後110g/mの単位面積当たりの重量を有するフィルムが製造されるように、さらなる接着剤保護層(C)に塗布し、その上に、活性物質に対して非浸透性の透明なバック層を積層した。このように、上部ウェブを形成した。
【0140】
底部ウェブから接着剤保護層(B)を除去した後、活性物質調合物を、ショア硬さ6の、卵形のシリコーン発泡成形ゴムパッドを用いて接着剤ウェブ上にプリントした。活性物質調合物の量は、各TTSが、その後、ニコチンビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマー30mgを含むような量であった。
【0141】
上部ウェブを、接着剤保護層(C)を除去した後に、底部ウェブ(ドープされた活性物質調合物が備えられている)へと積層し、TTSを押し抜いた。
【0142】
図1の概略的な構造に従ったTTSを得た。
図1
図2