(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】薬剤保持具及び薬剤との洗浄セット
(51)【国際特許分類】
E03D 9/02 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
E03D9/02
(21)【出願番号】P 2019567062
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2019001724
(87)【国際公開番号】W WO2019146556
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2018009430
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512160070
【氏名又は名称】ニッソーファイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】亀ヶ谷 直幸
(72)【発明者】
【氏名】笠原 富規
(72)【発明者】
【氏名】佐原 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 博之
(72)【発明者】
【氏名】樋口 嘉恵
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0209276(US,A1)
【文献】特開2005-009156(JP,A)
【文献】特開2008-248521(JP,A)
【文献】米国特許第03668717(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水洗式トイレ便器内側の壁面上部に洗浄用固形薬剤を設置するための薬剤保持具であって、
該薬剤保持具を便器リム部に係止するための係止部、係止部に延設され、設置時に固形薬剤(C)よりも便器中央方向にあり下方に垂下する垂下部、及び垂下部の下部に
略L字状に延設され、固形薬剤を支持するための薬剤支持部を有し、かつ、弾性を有する係止部材(A)、及び
少なくとも設置時には前記薬剤支持部に係止することができ、固形薬剤(C)を、少なくとも固形薬剤の便器内壁に相対する面が露出し、かつ、
係止部材(A)の弾性回復力により、固形薬剤の表面の少なくとも一部が便器内壁に
押し付けられて接触している状態で固定するための薬剤固定部材(B)
を有する薬剤保持具。
【請求項2】
前記固形薬剤(C)の露出した面が、便器リム部の下方でリム部に沿って延びる凹部に面し、固形薬剤が凹部内の水流への接触を可能とすることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤保持具。
【請求項3】
垂下部及び薬剤支持部が、設置時に固形薬剤が前記凹部内へ進入する形状を有することを特徴とする、請求項2に記載の薬剤保持具。
【請求項4】
水洗式トイレ便器がトルネード方式であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の薬剤保持具。
【請求項5】
前記薬剤固定部材(B)の端部に、尖形又は流線形の水流緩衝部を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の薬剤保持具。
【請求項6】
前記薬剤固定部材(B)が、固形薬剤(C)を、固形薬剤の全面が露出した状態で固定するものであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の薬剤保持具。
【請求項7】
水洗式トイレ便器内側の壁面上部に洗浄用固形薬剤を設置するための薬剤セットであって、
請求項1~6のいずれかに記載の係止部材(A)、及び
請求項1~6のいずれかに記載の薬剤固定部材(B)に固形薬剤(C)を固定してなる薬剤部材(D)
を有する洗浄セット。
【請求項8】
薬剤部材(D)の固形薬剤(C)が、薬剤を薬剤固定部材(B)において溶融成形することにより得られたものであることを特徴とする、請求項7に記載の洗浄セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗式トイレ内に洗浄用固形薬剤を設置するための薬剤保持具及び該薬剤保持具と薬剤との洗浄セットに関する。
本願は、2018年1月24日に出願された日本国特許出願第2018-9430号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年の洋式トイレは、洗浄効果の向上や節水のため、洋式トイレの洗浄水が渦流(トルネード方式)のものが増えてきている。この方式では、便器の壁面上縁(リム)の内側の凹部に洗浄水吐出口があり、吐出後の洗浄水は該凹部により案内されて渦流を形成しながら便器下部へ流下する。そのため、洗浄水の流速が速くなることにより便器の汚れが減少したこともあり、洗浄タンクが無いため洗浄タンクの内部や上部にセットする洗浄剤は使用されなくなってきている。しかし、例えば多数の公衆が利用する施設のトイレでは、洗浄が不十分になっていた。また家庭用トイレでも、便器の汚れを防止するための洗浄剤が求められていた。
この問題への対処として、便器リムに吊り下げる固形薬剤が使用されている。これらは単純に吊り下げると、便器ボウル下部に対しては効果があるが、前記凹部に対して効果がないため、清掃の面倒な該箇所は人手で清掃する必要があった。
吊り下げ型固形薬剤には、大きく分けて、固形薬剤が露出したタイプと、固形薬剤を容器に収納したタイプとがある。このうち、固形薬剤が露出したタイプ(例えば特許文献1)では、薬剤の種類によっては必要以上に消耗し、頻繁な取り換えが必要となる場合があった。このため特許文献1では、吊り下げ具に、固形薬剤と便器壁面との接触を防ぐ突出部を設けるのが好ましいとしている。一方、固形薬剤を容器に収納したタイプについては、薬剤溶出調節効果がある(例えば特許文献2)が、容器自体の汚れを防止するのが困難であるという問題があった。また、薬剤又は薬剤容器が凹部に進入し過ぎると、洗浄水がこれと衝突して飛び散り易いという問題もあり、従来は便器ボウル下部を洗浄対象とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2007/148052パンフレット
【文献】特開2009-68224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水洗式の洋式トイレ内部に設置するトイレ洗浄用固形薬剤の保持具であって、薬剤の少なくとも一部が露出した状態で薬剤を一定の位置に保持し、しかも薬剤を必要以上に消耗せずに効果を発揮し、便器上部、特にリム内側の凹部付近にまで効果を発揮する薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、固形薬剤を少なくともその一部が露出した状態で使用すれば、器具自体に汚れが残る問題は軽減され、薬剤の固定方法を工夫することにより、凹部の洗浄効果も得られ、さらに、洗浄水が渦流(トルネード方式)による場合にも、固形薬剤から見て水流上流側に当たる1端に尖形又は流線形の水流緩衝部を設けることで水の衝突の問題は回避できることを見出し、発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
(1)水洗式トイレ便器内側の壁面上部に洗浄用固形薬剤を設置するための薬剤保持具であって、該薬剤保持具を便器リム部に係止するための係止部、係止部に延設され、設置時に固形薬剤(C)よりも便器中央方向にあり下方に垂下する垂下部、及び垂下部の下部に延設され、固形薬剤を支持するための薬剤支持部を有し、かつ、弾性を有する係止部材(A)、及び少なくとも設置時には前記薬剤支持部に係止することができ、固形薬剤(C)を、少なくとも固形薬剤の便器内壁に相対する面が露出した状態で固定するための薬剤固定部材(B)を有する薬剤保持具。
(2)前記固形薬剤(C)の露出した面が、便器リム部の下方でリム部に沿って延びる凹部に面し、固形薬剤が凹部内の水流への接触を可能とすることを特徴とする、(1)に記載の薬剤保持具。
(3)垂下部及び薬剤支持部が、設置時に固形薬剤が前記凹部内へ進入する形状を有することを特徴とする、(2)に記載の薬剤保持具。
(4)水洗式トイレ便器がトルネード方式であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の薬剤保持具。
(5)前記薬剤固定部材(B)の端部に、尖形又は流線形の水流緩衝部を有することを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の薬剤保持具。
(6)前記薬剤固定部材(B)が、固形薬剤(C)を、固形薬剤の全面が露出した状態で固定するものであることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の薬剤保持具。
(7)水洗式トイレ便器内側の壁面上部に洗浄用固形薬剤を設置するための薬剤セットであって、(1)~(6)のいずれかに記載の係止部材(A)、及び(1)~(6)のいずれかに記載の薬剤固定部材(B)に固形薬剤(C)を固定してなる薬剤部材(D)を有する洗浄セット。
(8)薬剤部材(D)の固形薬剤(C)が、薬剤を薬剤固定部材(B)において溶融成形することにより得られたものであることを特徴とする、(7)に記載の洗浄セット。
【発明の効果】
【0006】
本発明のトイレの洗浄用固形薬剤保持具、及びこれを利用した固形薬剤セットは、洋式トイレ等に設置することができ、リム内側凹部も含めて洗浄効果を得ることが出来る。器具自体の汚れの問題も軽減され、便器内部全体の清潔性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の薬剤保持具と固形薬剤の洗浄セット及びそれを便器に設置した時の模式図である。
【
図2】本発明の薬剤保持具の係止部材を示す図である。
【
図3】本発明の薬剤保持具と固形薬剤の洗浄セットを示す断面図である。
【
図4】本発明の洗浄セットを便器に設置した時の便器中央方向から見た断面図である。
【
図5】本発明の固形薬剤を有する薬剤固定部材(薬剤部材ともいう)を、設置時において便器上方から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、「水洗式トイレ」とは、便器の縁の一部若しくは全域に洗浄水吐出口があって、吐出された洗浄水により便器内壁の全域を洗浄するタイプのトイレであって、便座に直接座るタイプのトイレ(洋式トイレ)等がある。
「トルネード方式のトイレ」とは、前記水洗式トイレのうち、洗浄水が便器の縁を流れて、徐々に便器の下方に流れるものである。そのため、便器の縁から自然落下して便器の下方に流れるものはトルネード方式には含まれない。
「リム部」とは、便器上部の縁を指す。
「凹部」とは、便器内側のリム部の下方にリム部に沿って洗浄水吐出口と共に設けられたへこみ部を指し、特にトルネード方式においては洗浄水の流路となる部位である。
「洗浄水」とは、洋式トイレ等のトイレにおいて、トイレ内の排泄物を流す目的を有する水であり、自動的若しくは手動によって便器内を流れる水を指す。
「薬剤」とは、本発明で使用される、水に溶解可能な固形状物質のことを示し、洗浄に関する薬効成分を含有している。
「薬剤保持具」とは、本発明において、便器に薬剤を保持し使用するための器具全体を指し、構成部材が別になっていて、使用時に係止できるようになっていてもよいし、構成部材の少なくとも一部がそのまま使用できるように接続されていてもよい。
「薬剤セット」とは、薬剤と薬剤保持具とを合わせた製品全体を意味し、上記同様に、構成部材が別でも一部が接続されていてもよい。特に以下説明するように、薬剤保持具の構成部材である「薬剤固定部」と薬剤とが予め固定されていることが好ましい。
【0009】
本発明の薬剤保持具は、薬剤をトルネード方式等の水洗式トイレ便器内側の壁面上部に設置するための部材である。
薬剤保持具は、少なくとも、下記係止部材(A)及び薬剤固定部材(B)の両部材からなる。
【0010】
(A)係止部材
係止部材は、少なくとも
本発明の薬剤保持具を便器リム部に係止するための係止部と、
係止部に延設し、設置時に固形薬剤(C)よりも便器中央方向にあり下方に垂下する垂下部と、
垂下部の下部に延設され、薬剤を支持するための薬剤支持部とからなり、かつ弾性を有する。
なお、ここで、下方、下部とは、薬剤をトイレに設置した状態での方向又は位置を意味する。
係止部材は、全体として弾性を有し、弾性回復力を発揮する。
係止部材の材料としては、弾性を有するプラスチック、金属等からなる板状材料、若しくはばね要素、あるいはこれらの材料を含む複数の材料の組み合わせが挙げられるが、一体成形が容易である点からプラスチックが好ましい。
【0011】
(係止部)
係止部の構造としては、少なくとも、便器リム部に吊り下げられるようクリップ状に湾曲又は屈曲した構造が必要であるが、特に、使用時には湾曲した構造を開いてリム部に嵌合されるようにすることにより、弾性回復力を利用して、リム部の一定位置に固定され、かつ垂下部を通して薬剤支持部と薬剤固定部材(B)が便器内壁側に押し付けられる効果を奏する。
【0012】
(垂下部)
垂下部は、直線状で、トイレに設置した状態で略鉛直方向に配置される。垂下部の長さは特に限定されないが、過度に長いと薬剤が便器下方の中央部に近く配置されて本発明の効果が得られないため、薬剤が便器内部周縁部、特に凹部付近に配置されるように調整することが好ましく、薬剤が便器リム部の下方の凹部に進入するように垂下部の長さを調節することがさらに好ましい。また、薬剤の溶解が進み小型化した場合にも、薬剤が凹部に配置されるよう、垂下部を設計することが好ましい。
【0013】
(薬剤支持部)
薬剤支持部は、垂下部の下部に略L字状に延設されており、少なくとも使用時には薬剤固定部材(B)と接続され薬剤固定部材を固定することにより、薬剤を支持する部材である。
なおここで「垂下部の下部」について説明すると、垂下部は係止部と薬剤支持部を結合する機能を有するものであるから、垂下部が薬剤支持部よりも下に突出する必要は特になく、「垂下部の下端」に薬剤支持部を延設することが好ましい。
薬剤支持部は、薬剤固定部材(B)と、一体成形等の方法により予め接続されていてもよい。すなわち、係止部材(A)と薬剤固定部材(B)とが一体の部材であってもよい。しかし、下述のように薬剤固定部材(B)と薬剤(C)とが一体に形成されている方が好ましいため、製造及び包装の便宜上、薬剤支持部は薬剤固定部材(B)と別の部材とし、使用時に両部材を係止する方が好ましい。この両部材が係止される部分は、使用時には係止部材(A)の弾性回復力が薬剤(C)まで伝達されるように固定された構造を有する必要がある。
薬剤支持部に薬剤固定部材(B)を係止する手段としては、嵌合、接着、ねじ等の固定用部品による係止等が挙げられ、使用時に両部材を嵌合できるように設計されていることが好ましい。
薬剤支持部は、薬剤の溶解が進み薬剤が小型化した場合にも、薬剤が凹部に配置されるよう設計されることが好ましい。
【0014】
使用時には、薬剤支持部は、略鉛直に配置された垂下部と略直交して略水平に配置されている。便器の上方から見ると、垂下部は薬剤よりも便器内側方向にあり、薬剤支持部が垂下部と薬剤固定部材とを結合している。また、(A)・(B)両部材を通る便器縦断面を見ると、薬剤支持部は、薬剤固定部材及び薬剤よりも便器内側方向にあって、薬剤固定部材を支持している。
従来の多くの洋式便器用固形洗浄剤は、便器リム部に吊り下げることのみを必須条件としていることから、洗浄剤又はその容器を吊り下げる様式となっている。すなわち、本発明で言う垂下部の下端に、薬剤若しくは薬剤容器を単純に結合した様式である。
このような様式では、洗浄剤又はその容器が便器内部周縁部から離れて配置されることになり、便器内部周縁部、特にリム部下方の凹部に対する洗浄効果に劣る。また、便器洗浄時には洗浄水の水流によって洗浄剤が浮き上がることもある。
それに対し本発明では、洗浄剤を便器内部周縁部、特にリム部下方の凹部付近に配置することができ、この付近に対する洗浄効果に優れる。洗浄剤として泡立ちが高い効果を有するものを使用する場合には、水流の強い凹部付近に配置されることにより、泡立ちをさらに高める効果が期待される。また、水流によって洗浄剤が浮き上がることも防げる。特に、使用者の目に付きにくいリム部下方の凹部に洗浄剤を配置することは、従来の洗浄剤の使用法に比して審美的にも優れている。
なお、本発明では、薬剤の表面が便器内壁に接触していても構わない。特に、凹部に対する洗浄効果を向上させる観点から、薬剤の表面の少なくとも一部が便器内壁に接触している方が好ましい。
【0015】
(B)薬剤固定部材
薬剤固定部材(B)は、上述の通り、少なくとも使用時には薬剤支持部に係止されるとともに、固形薬剤(C)を、少なくとも固形薬剤の便器内壁に相対する面が露出した状態で固定できる部材である。
ここで「露出」とは、単に水や空気が流通し得る(例えば籠状の容器に完全に収納されている場合)ということではなく、薬剤の表面の少なくとも一部が便器内壁に接触し得る程度に露出していることを意味する。
薬剤固定部材が薬剤を固定する方法として、具体的には、薬剤の一部が容器あるいは遮蔽物で保護されていてもよいが、使用終了時、すなわち薬剤がほぼ完全に溶解消失するまで、便器内壁に相対する面が露出した状態で固定されていることが好ましい。
このような効果を発揮するために好ましい薬剤固定部材の構造は、薬剤内部で薬剤を固定する「骨」の機能を果たす構造である。ただし、薬剤固定部材のうち、少なくとも薬剤支持部との係止部は、薬剤の外部に出ている必要がある。また後記「薬剤部材の製造方法」の項に例示するように、複数個の薬剤を連結する場合には、薬剤固定部材が各薬剤の間で薬剤の外部に出ていてもよい。この「骨構造」の具体的な形態は特に限定されないが、棒状あるいは板状の形態を挙げることができ、特に薬剤を固定する効果を高くするため単一若しくは複数の貫通孔を有する板状の形態が好ましい。また、使用終了時まで、水流によって薬剤の一部が固形のままで脱離することのないよう、固形薬剤の中心部に存在させることが好ましい。
薬剤固定部材の材料としては、プラスチック、金属等が挙げられ、好ましくはプラスチックが挙げられる。
薬剤固定部材における、薬剤支持部との係止部位の位置は、特に限定されない。設置時における係止部位の位置に関しては、薬剤固定部材の上側、中央付近、下側のいずれでもよく、製造の容易さ等に応じて選択できる。また、設置時に便器中央方向から薬剤を見た場合の左右方向に関しては、薬剤固定部材と薬剤とを合わせた部分(後記の薬剤部材(D))の重心付近に該係止部位があるように設計すれば、安定に設置しやすい点で好ましい。
【0016】
(水流緩衝部)
薬剤が、リム部下方の凹部に配置されている場合、特にトルネード方式のトイレではここでの水流が強いため、背景技術の項で述べたように、洗浄水がこれと衝突して飛び散り易いという欠点がある。これを防止するためには、少なくとも薬剤から見て水流上流側に当たる薬剤固定部材の端部に、尖形又は流線形の水流緩衝部を設けることが有効である。
水流緩衝部は、薬剤と同程度の径を有することが好ましい。なお、ここでいう「径」とは、便器縦断面図上で薬剤又は水流緩衝部が占める長さである。水流緩衝部の径は、薬剤の径に比較して特に大きくする必要はなく、水流緩衝部の径/薬剤の径の比が1/2以上であれば好ましい。
このような水流緩衝部は、水の飛び散りを防ぐだけでなく、薬剤の必要以上の溶解を防止する効果もある。
特に、水流が、水流緩衝部の壁側に向かうのでなく、便器内側方向を迂回するように、水流緩衝部の形状を設計すると好ましい。これにより、水の飛び散りが防止されると共に、薬剤の溶解を軽減する効果が高くなる。
水流緩衝部は、薬剤固定部材の端部に一体的に又は別体として、好ましくは、一体的に設けられる。また、水流緩衝部は、薬剤から見て水流上流側に当たる1端のみでなく、両端に設けてもよく、このようにすれば水流方向の異なる便器にも対応できる。
水流緩衝部を薬剤固定部材の端部に別体として設ける場合は、接着、ねじ等の固定用部品等の手段により固定的に設けてもよいし、嵌合等の手段により着脱自在に設けてもよい。
水流緩衝部の材料としては、プラスチック、金属等が挙げられ、好ましくはプラスチックが挙げられる。
【0017】
(C)固形薬剤
本発明における薬剤は、水に溶解可能な固形状物質であって、洗浄に関する薬効成分を含有しているものであれば、特に限定されない。
薬剤の形態は特に限定されないが、リム部下方の凹部に進入し得る径を有するものが好ましい。
また、薬剤の使用可能期間は、薬剤の成分組成、製造方法、形態等により任意に設定することが可能であるが、あまりに短期間で取り換える必要がない程度の体積を確保するのが好ましい。以上を両立させるためには、リム部下方の凹部に沿って進入し得る、ある程度の長さを有する形態が好ましい。
薬剤の形態は特に限定されず、球状、楕円体状、円柱状、直方体状等、さらに貫通孔や凹凸を有する形態が挙げられ、成分組成、製造方法、溶解に対する効果、具体的な用途、美的意匠効果等に応じて最適なものを選択することができる。
【0018】
薬剤に含有される成分は少なくとも洗浄効果があればよい。また特に、便器の使用に支障を来すことのない程度の適切な起泡効果を有するものであれば、防臭効果や排泄時のはね防止効果等が発揮されるため、好ましい。
以上の効果を発揮するための成分としては、非イオン性界面活性剤、及び/又はイオン性界面活性剤が挙げられる。溶融成形により製造するためには、非イオン性界面活性剤を主要成分として含有することが好ましい。さらに固体酸、消臭又は抗菌成分、香料、着色成分等を添加することもできる。
更に、薬剤の強度維持、使用過程での薬剤のサイズに応じた溶解度の変化、香料や着色成分の変化等の効果を得る為に必要であれば、薬剤の部分により(例えば表面付近と中心付近とで)成分組成が異なってもよい。
【0019】
(非イオン性界面活性剤)
非イオン性界面活性剤としては、プロピレンオキシド・エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル、アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、ポリエチレングリコール等を例示することができる。
【0020】
(イオン性界面活性剤)
イオン性界面活性剤としては、アニオン界面活性剤が好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩等の硫酸塩、ミリスチン酸塩等のカルボン酸塩等を例示することができる。
【0021】
(固体酸)
固体酸は、尿の分解により生成するカルシウム系化合物等が固着した尿石と称されるスケールを防止する効果がある。また、微生物に対する抑制効果があり、これによる消臭効果も期待される。
固体酸とは、常温で固体の酸性物質であり、カルシウムイオンと反応してpH5~8.5の範囲の水に対する溶解度が0.001g/100g(水)以下の塩を生成しないものであれば、特に、制限はない。たとえば、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素アンモニウム等の水溶性酸性塩類、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等の強酸と弱塩基との水溶性塩類およびホウ酸、スルファミン酸などを挙げることができる。また、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、イソフタル酸、酒石酸、フマル酸、アジピン酸、サリチル酸、安息香酸、リンゴ酸等の常温固体の有機酸類も使用でき、これら酸性物質は、1種単独または2種以上の混合物として使用できる。
【0022】
(消臭又は抗菌成分)
消臭成分は、水に拡散できる消臭成分であれば、特に限定されるものではない。水に拡散できる消臭成分とは、水に溶解することができる消臭成分、水に分散することができる消臭成分等である。
水に溶解することができる消臭成分としては、第四級アンモニウム塩、カテキン、タンニン、アミノ酸等を例示することができる。特に第四級アンモニウム塩は抗菌効果も有するため好ましい。
水に分散することができる消臭成分としては、木炭や活性炭等を例示することができる。
【0023】
(香料)
香料としては、好ましい香りであれば特に限定されないが、ユーカリ精油に代表される植物性香料が好ましい。
【0024】
(着色成分)
着色成分としては特に限定されるものではないが、水溶性であるものが好ましい。また、着色成分自体に消臭効果、香料、洗浄効果等の効果を有していてもよい。
【0025】
(D)薬剤部材
本発明では、薬剤固定部材(B)に固形薬剤(C)を固定したものが独立した部材である場合に、この部材を薬剤部材(D)と称する。
本発明においては、薬剤固定部材と薬剤とが、少なくとも使用時には固定されていることが必要である。容器に収納されたタイプの洗浄剤であれば、薬剤が消費された後に薬剤のみを詰め替えることが容易であるが、本発明では少なくとも一部表面が露出していることが必須であり、このような詰め替え可能型との両立は困難である。従って、薬剤固定部材と薬剤とは、予め固定された「薬剤部材」となっていることが好ましい。
薬剤部材としては、具体的には前述のように、薬剤固定部材が薬剤内部における骨構造により薬剤を固定したものが挙げられる。
当該薬剤部材(D)は、上記係止部材(A)と共にトルネード方式等の水洗式トイレ便器用の薬剤セットとして使用に供することができる。係止部材(A)と薬剤部材(D)とは、取り付けた状態でセットとして供給してもよいし、それぞれ別体であるものをセットとして供給し、使用時に両者を取り付けるようにしてもよい。
【0026】
(薬剤部材の製造方法)
以上のような薬剤部材の製造方法は、使用終了までに薬剤が薬剤固定部材から脱離する心配がない限り特に限定されず、薬剤固定部材を含めて打錠、溶融成形等により成形する方法が挙げられるが、溶融成形が、製造容易である点で好ましい。
薬剤を、前述のように、リム部下方の凹部に沿って進入し得る、ある程度の長さを有する形態とする場合には、特に溶融成形が有利である。この場合には、薬剤部全体を一体として成形することも可能であるが、長軸方向に複数の部分に分けて成形する方法が容易である。
製造方法の一例を以下に挙げる。溶融された薬剤を入れるための複数の直方体状の容器を直列配置する。薬剤固定部材としては、この容器列に嵌合し、各容器間で容器外に出るような屈曲した形態とする。これらの容器に溶融された薬剤を注入して冷却により固化させれば、複数個の直方体状薬剤が薬剤固定部材により連結されてなる薬剤部材が得られる。
【0027】
以下に、添付の図と共に、本発明の薬剤保持具及び洗浄セットの一態様について説明するが、本発明の技術的範囲は添付の図に限定されない。
図1は、本発明の薬剤保持具(1)に固形薬剤(2)が取り付けられたもの(洗浄セット)と洗浄セットを便器に取り付けた場合の模式図(縦方向の断面図)である。
図1の模式図においては、薬剤固定部材に該当する部材は図示されていない。
薬剤保持具(1)は、
図2及び3にも示されるように、係止部(3)、垂下部(4)及び薬剤支持部(5)からなる係止部材と、
図3に示すように、薬剤支持部(5)に係止された薬剤固定部材(6)からなる。
なお、
図2は、係止部材のみの部分の断面図を示し、
図3は、係止部材に薬剤固定部材(6)と固形薬剤(2)を取り付けた洗浄セットの断面図を示す。また、
図4は、洗浄セットを設置時の便器中央方向から見た図である。
薬剤保持具(1)の係止部(3)は、
図1~3において示されるように、弾性部材が巻き込まれた形状を有しており、便器(8)のリム部(9)に設置したときに、係止部(3)が伸びてリム部(9)の上面に巻き戻される力を利用して巻き付く。係止部(3)には垂下部(4)が延設されており、設置時には、垂下部(4)は便器リム部(9)から固形薬剤(2)よりも便器中央方向にあり下方に垂下する。垂下部(4)の先には、略L字状に薬剤支持部(5)が延設されている。このような形状とすることにより、
図1の設置時の図に示すように、設置時に固形薬剤(2)を凹部(10)内へ進入させることができる。
薬剤支持部(5)には、突起(11)を設けて、薬剤固定部材(6)を薬剤支持部(5)に嵌合させたときに、外れないようにすることができる。
薬剤固定部材(6)は、
図4に示されるように、細長い形状で複数個の小孔(12)を有し、一端に水流緩衝部(7)が設けられている。薬剤固定部材(6)の中央下部には、薬剤支持部(5)に係止するための差し込み口を有する。
【0028】
薬剤固定部材(6)は、
図5に示すように、設置時の便器上方から見たときに、固形薬剤(2)(図中では3個の固形薬剤が使用されている)の中を貫通し、各固形薬剤(2)の間では折れ曲がって外に出ている。
この様に薬剤固定部材(6)が3個の固形薬剤(2)の中を貫通しているものを製造するには、薬剤固定部材(6)の挿入口を有する容器を3個一列に並べ、薬剤固定部材(6)を容器に挿入してから、溶融した薬剤を容器内に注入し冷却して成形する。成形後、容器を取り外す。
【符号の説明】
【0029】
1 薬剤保持具
2 固形薬剤
3 係止部
4 垂下部
5 薬剤支持部
6 薬剤固定部材
7 水流緩衝部
8 便器
9 リム部
10 凹部
11 突起
12 小孔