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特許7149965毛状体を有する熱可塑性樹脂シート及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】毛状体を有する熱可塑性樹脂シート及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20220930BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20220930BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B29C59/04 Z
B29C51/10
B32B3/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019567111
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2019002066
(87)【国際公開番号】W WO2019146635
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018009386
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前田 圭史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 純平
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159678(WO,A1)
【文献】特表2002-506753(JP,A)
【文献】特開2009-138092(JP,A)
【文献】特開平07-001626(JP,A)
【文献】特開昭64-042218(JP,A)
【文献】特表2002-526669(JP,A)
【文献】米国特許第3390403(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/04 - 59/18
B29C 51/00 - 51/46
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂からなる、下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有する樹脂シートであって、毛状体が下地層から離間する方向に毛状に伸び、その先端にふくらみが形成された構成とされている、樹脂シート
【請求項2】
歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂を、押出成形法によってダイスから溶融押出し、凹凸加工が成された転写ロールとタッチロールを用いて、転写ロールの温度を、熱可塑性樹脂の伸長可能温度かつプローブタック測定における熱可塑性樹脂の付着力が0.05~0.25N/mm となる温度もしくはそれより0~80℃低い温度に調節し、転写ロールとタッチロールとのピンチ圧を30~120Kg/cm としてキャスティングすることで毛状体を形成することを特徴とする、
下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有する樹脂シートの製造方法であって、毛状体の平均径が1μm以上30μm以下である、製造方法
【請求項3】
転写ロール表面の少なくとも一部がセラミック溶射されており、該セラミック溶射された表面が凹凸加工されていることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
毛状体の平均高さが100μm以上1200μm以下、毛状体の平均間隔が20μm以上200μm以下である、請求項2又は3に記載の製造方法
【請求項5】
毛状体を有する面の動摩擦係数が0.05~0.80である請求項2から4の何れか一項に記載の製造方法
【請求項6】
毛状体を有する面の接触時における熱移動速度が0.005~0.500W/cmである請求項2から5の何れか一項に記載の製造方法
【請求項7】
毛状体が下地層から離間する方向に毛状に伸び、その先端にふくらみが形成された構成とされている請求項2から6の何れか一項に記載の製造方法
【請求項8】
熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂である、請求項2から7の何れか一項に記載の製造方法
【請求項9】
熱可塑性樹脂がウレタン系エラストマーである、請求項2から8の何れか一項に記載の製造方法
【請求項10】
毛状体の平均高さが165μm以上1200μm以下である、請求項2から9の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項に記載の樹脂シートの成形品。
【請求項12】
文房具部材である請求項11に記載の成形品。
【請求項13】
動車内装材、電子機器外装材、又は化粧品容器部材である請求項11に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛状体を有する熱可塑性樹脂シート及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の内装材や付属部品の筐体、電子機器や家電の筐体、壁紙などの建材用、玩具やゲーム機の筐体、生活用品の部材用として、紙材、高分子素材のシートが用いられている。また、シート表面に良い触感性を付与する方法として、例えば、特許文献1には、化粧紙に熱可塑性ポリエステル系樹脂を押出ラミネートした加飾シートが提案されている。
【0003】
特許文献2では、樹脂ビーズを含有した加飾シートが提案されている。特許文献3では、ポリ乳酸樹脂にウレタン系樹脂コーティングし、その表面を熱エンボス加工した加飾樹脂シートが提案されている。
【0004】
更に、特許文献4では、シート表面の凹凸形状を損なわないために、エンボス加工したABS樹脂シートの表面に、耐摩粒子とウレタン系樹脂からなる保護層を形成した加飾シートが提案されている。特許文献5では、一定方向に多数の筋を有し、その筋から起毛してなる毛羽立ち加飾面を備えた容器が提案されている。
しかしながら、より良好な触感を発現する樹脂シートの提供が望まれている。
【0005】
【文献】特開平9-057934号公報
【文献】特許第04877008号
【文献】特開2011-152795号公報
【文献】特開2010-280203号公報
【文献】特開2011-098739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良触感性を発現するシート及びその成型品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明者は、様々な触感性発現手段を検討した結果、表面に規則的に配列された毛状体を形成することにより良い触感性が発現すると考えた。本発明者は鋭意研究を進め、歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂を、押出成形法によってダイスから溶融押出し、凹凸加工が成された転写ロールとタッチロールを用いてキャスティングすることで毛状体を形成することにより、下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有する樹脂シートを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記課題を解決する本発明は、下記より構成される。
(1)歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂からなる、下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有する樹脂シート。
(2)毛状体の平均高さが100μm以上1200μm以下、毛状体の平均径が1μm以上50μm以下、毛状体の平均間隔が20μm以上200μm以下である、(1)に記載の樹脂シート。
(3)毛状体を有する面の動摩擦係数が0.05~0.80である、(1)又は(2)に記載の樹脂シート。
(4)毛状体を有する面の接触時における熱移動速度が0.005~0.500W/cmである、(1)から(3)の何れかに記載の樹脂シート。
(5)毛状体が下地層から離間する方向に毛状に伸び、その先端にふくらみが形成された構成とされている、(1)から(4)の何れかに記載の樹脂シート。
(6)熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂である、(1)から(5)の何れかに記載の樹脂シート。
(7)熱可塑性樹脂がウレタン系エラストマーである、(1)から(5)の何れかに記載の樹脂シート。
(8)歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂を、押出成形法によってダイスから溶融押出し、凹凸加工が成された転写ロールとタッチロールを用いてキャスティングすることで毛状体を形成することを特徴とする、
下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有する樹脂シートの製造方法。
(9)転写ロール表面の少なくとも一部がセラミック溶射されており、該セラミック溶射された表面が凹凸加工されていることを特徴とする、(8)に記載の製造方法。
(10)(1)から(7)の何れかに記載の樹脂シートの成形品。
(11)文房具部材である(10)に記載の成形品。
(12)既製の成形品表面に真空圧空成形された、自動車内装部材、電子機器、電子機器外装材、化粧品容器又は容器部材である(10)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良触感性を発現するシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一実施形態に係る樹脂シートを示す概略縦側断面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る樹脂シートの変形例を示す概略縦側断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る樹脂シートのさらなる変形例を示す概略縦側断面図である。
図4図1の樹脂シートの概略平面図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る樹脂シートの積層構造を示す概略縦側断面図である。
図6】本発明の第三実施形態に係る樹脂シートの積層構造を示す概略縦側断面図である。
図7】直鎖状低密度ポリエチレンの伸長粘度測定結果を示す図である。
図8】ウレタン系エラストマーの伸長粘度測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、樹脂シートの種々の実施形態を説明し、ついで樹脂シートの製造方法について説明するが、一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している。
【0012】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る樹脂シートは、歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂からなる、下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有する樹脂シートである。
【0013】
<下地層>
下地層(1a)は、少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有する層であり、図1に示されるように、表面の毛状体以外の部分をいう。下地層の厚みは、毛状体の根元から下地層の反対側の表面までの厚みをいう。下地層の平均厚みは50μm~1000μmであることが好ましく、150μm~800μmであることがより好ましい。50μm以上とすることで、毛状体の高さを十分に発現することができる。また、1000μm以下とすることで、毛状体を効率よく形成することができる。下地層と毛状体との間には構造的な境界がなく、連続相を形成している。構造的に境界がないとは、下地層と毛状体とが一体型に形成され、これらの間に構造的に明確な境界部がないことを意味している。また、連続相を形成しているとは、下地層と毛状体との間に継ぎ目がなく、不連続でない(連続相となっている)状態をいう。この点で、下地層に毛状体を植毛している構造とは異なっている。下地層及び毛状体は同組成であり、下地層と毛状体との結合には共有結合が含まれてもよい。共有結合とは、電子対が2つの原子に共有されることによって形成される化学結合をいうが、モノマーが連なった鎖状分子である熱可塑性樹脂において、個々のポリマーは共有結合により結合しており、ポリマー分子間で働くファンデルワールス結合や水素結合よりも強く結合している。
また、下地層及び毛状体は、別個ではない同一固体の熱可塑性樹脂シートに由来してもよい。同一固体の熱可塑性樹脂シートに由来するとは、例えば、毛状体及び下地層が同一の樹脂シートに基づいて直接的又は間接的に得られることを意味する。
また、下地層及び毛状体は、同一固体の熱可塑性樹脂シートから形成されたものであってもよい。同一固体の熱可塑性樹脂シートから形成されるとは、毛状体及び下地層が一の樹脂シートを加工することにより直接的に形成されることを意味する。
下地層と毛状体との間には構造的な境界がなく、連続相を形成していることにより、外的刺激によって毛状体が下地層から分離することが抑制され、触感性が良いシートとなる。また、毛状体を植毛する場合よりも少ない工程で製造することができる。
【0014】
下地層は、熱可塑性樹脂を用いて形成されている。熱可塑性樹脂としては、歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0015】
(伸長可能温度)
本実施形態において、伸長可能温度とは、熱可塑性樹脂が可塑性を示し、伸長(例えば延伸成形)可能となる温度を指す。伸長可能温度は、一軸伸長粘度計にストランドをセットし、様々な温度で伸長させたときのストランドの状態から判断することができる。温度が低い場合には樹脂が可塑性を示さず(剛直状態)、ストランドを固定するロールが空転してしまう。また、温度が高い場合には樹脂が溶融状態となり、ロールに固定することができない、もしくは固定して伸長させたときの伸長粘度が1.0×10(単位:Pa・S)に満たずストランドが破断してしまう。この剛直状態と溶融状態の間に位置するような温度を伸長可能温度と定義した。
【0016】
(伸長粘度)
本実施形態の熱可塑性樹脂は、歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有する。
伸長粘度は、市販の伸長粘度測定機を用いて、熱可塑性樹脂が伸長可能である温度、例えば100、110、120、130、140、150又は160℃の測定温度において、0.17、0.5又は0.83S-1の歪み速度で測定することができる。
熱可塑性樹脂が上記のような領域を有することにより、伸長可能温度において可塑性を示し、延伸成形を行った場合に、熱可塑性樹脂の延伸された箇所が延伸する力から解放された場合でも大きく収縮することなく延伸された状態を維持することができる。
【0017】
(付着力)
熱可塑性樹脂の付着力は、例えば傾斜式ボールタック法、ローリングボールタック法及びプローブタック法を用いて測定することができる。
プローブタック測定としては、Wetzelの方法、神戸・鎌形の方法、Hammondの方法、レスカ法がある。この内、レスカ法を除くプローブタック測定は、試料の粘着面を下にして置かれた試料に下からプローブを接近させ、接触後に下方に一定の速度でプローブを移動させて粘着面からプローブを引き剥がすのに要する力を検出するものである。レスカ法は、試料の粘着面を上にして置き、上部からプローブを粘着面に押しつけ、引き剥がす力を検出するものである。加工途中の溶融高分子材料表面の粘着性を測定する場合は、レスカ法を好適に用いることができる。
本実施形態において、付着力が0.05~0.25N/mmの範囲内であれば、熱可塑性樹脂が転写ロール表面に適度に付着し、毛状体を形成することができる。また、転写ロール表面の素材と同じプローブを用いたプローブタック測定における付着力が0.10~0.20N/mmの範囲内であることがより好ましい。
ある実施形態において、転写ロール表面と熱可塑性樹脂との付着性は、転写ロール表面の材質を変更したり、キャスティングする際の温度(熱可塑性樹脂、転写ロール及びタッチロールの温度)を調節するだけでなく、転写ロール表面に離型剤を用いたり、転写ロール表面の表面粗さを変更することで、調節することができる。
【0018】
熱可塑性樹脂の190℃から300℃におけるメルトマスフローレートは4g/10分以上であることが好ましい。4g/10分以上とすることで、毛状体の形状の転写性を向上することができる。なお、メルトマスフローレートは、JIS K 7210に準拠し、試験温度190℃から300℃の温度範囲で、荷重(2.16Kgから10.0Kg)の条件下で測定した値である。
【0019】
本実施形態の熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマー、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂の1種類以上を含む樹脂から選択して用いることができる。
【0020】
スチレン系樹脂としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン-アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、又は前記スチレン系モノマーと更に他のポリマー、例えばポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン-アクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等のポリスチレンを用いることができる。また、スチレン系の熱可塑性エラストマーも用いることができる。
【0021】
オレフィン系樹脂は、α-オレフィンを単量体として含む重合体からなる樹脂を意味し、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂を含む。ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン等を用いることができ、また単体のみならず、それらの構造を有する共重合物やグラフト物やブレンド物も用いることができる。後者の樹脂としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体やさらに酸無水物との3元共重合体等とブレンドしたもののようにポリエチレン鎖に極性基を有する樹脂を共重合およびブレンドしたものが挙げられる。
【0022】
また、ポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等を用いることができる。ホモポリプロピレンを用いる場合、該ホモポリプロピレンの構造は、アイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれであってもよい。ランダムポリプロピレンを用いる場合、プロピレンと共重合させるα-オレフィンとしては、好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数4~12のもの、例えばエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンを用いることができる。ブロックポリプロピレンを用いる場合、ブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体等を用いることができる。これらオレフィン樹脂を単独で使用する以外に、他のオレフィン系樹脂を併用することもできる。
【0023】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体または塩化ビニルと他の共単量体との共重合体を用いることができる。ポリ塩化ビニルが共重合体である場合は、ランダム共重合体であってもよく、またグラフト共重合体であってもよい。グラフト共重合体の一例として、たとえばエチレン-酢酸ビニル共重合体や熱可塑性ウレタン重合体を幹ポリマーとし、これに塩化ビニルがグラフト重合されたものを挙げることができる。本実施形態で用いることができるポリ塩化ビニルは、押出成形可能な軟質ポリ塩化ビニルを示し、高分子可塑剤などの添加物を含有している組成物である。高分子可塑剤としては、公知の高分子可塑剤を用いることができるが、たとえばエチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体、酢酸ビニル含有量の多いエチレン-酢酸ビニル共重合体などのエチレン共重合体高分子可塑剤を好ましい例として挙げることができる。
【0024】
熱可塑性エラストマーとしては、軟質高分子物質と硬質高分子物質を組み合わせた構造を有するものが含まれる。具体的には、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどが挙げられる。ポリウレタン系エラストマーについては、原料であるイソシアネートとポリオールの組み合わせとして、イソシアネートがMDI系、H12MDI系、HDI系、ポリオールがポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のいずれの組み合わせを選択しても良く、また複数を組み合わせても良い。これらエラストマーは一般的に市販されているものの中から選択して用いることが出来る。
【0025】
フッ素系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、及びフッ化ビニリデンを主成分とするフッ化ビニリデン共重合体を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂は、α型、β型、γ型、αp型などの様々な結晶構造を示す結晶性樹脂であるが、フッ化ビニリデン共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0026】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート、および共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分や、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分などを共重合したポリエステル樹脂などを用いることができる。
【0027】
ナイロン系樹脂としては、カプロラクタム、ラウロラクタム等のラクタム重合体、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重合体、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-又は1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p-アミノシクロヘキシルメタン)等の脂環式ジアミン、m-又はp-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等のジアミン単位と、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸単位との重縮合体、及びこれらの共重合体等を用いることができる。例えば、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、ナイロン6/66、ナイロン6/610、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T等があり、なかでもナイロン6、ナイロンMXD6が好適である。
【0028】
熱可塑性樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記の各熱可塑性樹脂と任意の割合でアロイしてあってもよい。さらに、他の添加物を含有してもよい。他の添加物としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、撥水・撥油剤、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物や帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤のような添加剤を添加することができる。また、樹脂シート製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合して用いることもできる。
【0029】
撥水・撥油剤としては、シリコン系撥水剤、カルナバワックス、フッ素系撥水撥油剤が挙げられる。シリコンとしては、オルガノポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられ、なかでも、ジメチルポリシロキサンが好適に用いられる。市販品としては、例えばシリコンを樹脂にアロイした「クリンベルCB50―PP」、「クリンベルCB-30PE」、「クリンベルCB-1」、「クリンベルCB-50AB」(富士ケミカル社製)などが挙げられる。カルナバワックスは、市販品としては、「カルナバ1号」(日興リカ社製)などが挙げられ、フッ素系撥水撥油剤はパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤が挙げられ、市販品としては、「サーフロンKT-PA」(AGCセイミケミカル社製)が挙げられる。撥水・撥油剤の添加量は1質量%から25質量%が好ましい。
【0030】
帯電防止剤としては、ポリエーテルエステルアミド系高分子型帯電防止剤、アイオノマー系高分子型帯電防止剤などが挙げられる。ポリエーテルエステルアミド系高分子型帯電防止剤は、市販品としては、「ペレスタット230」、「ペレスタット6500」、「ぺレクトロンAS」、「ぺレクトロンHS」(三洋化成社製)などが挙げられる。アイオノマー系高分子型帯電防止剤は、市販品としては、「エンティラSD100」、「エンティラMK400」(三井・デュポンポリケミカル社製)などが挙げられる。帯電防止剤の添加量は5質量%から30質量%が好ましい。
【0031】
抗菌剤としては、無機系、有機系のうち、どちらを添加してもよい。分散性を考慮すると無機系が好ましい。具体的には金属イオン(Ag、Zn、Cu)の無機系抗菌剤、貝殻焼成カルシウム系抗菌剤などが挙げられる。金属イオンの無機系抗菌剤の市販品としては、「バクテキラーBM102VT」(富士ケミカル社製)、「ノバロンVZF200」、「ノバロン(AG300)」(東亜合成社製)、「KM-10D-G」、「IM-10D-L」(シナネンゼオミック社製)などが挙げられる。貝殻焼成カルシウム系抗菌剤としては、「スカロー」(FID社製)などが挙げられる。抗菌剤の添加量は0.5質量%~5質量%が好ましい。
【0032】
<毛状体>
毛状体(1b)とは、熱可塑性樹脂を用いて形成されており、図1に示すように下地層(1a)の表面から毛状に伸びている部分をいう。毛状体は、下地層の表面に規則的に配列されている。ここで、規則的配列とは、毛状体がランダムではない配列状態、即ち、一方向又は二方向に整然と配列した状態を意味するものである。毛状体の根元の配列状態をもって毛状体の配列が規則的であるか否かを判断する。ある実施形態では、毛状体は所定の間隔で下地層上に位置し、毛状体の底面の位置が下地層の長手方向及び短手方向に整然と配列している。また、毛状体の配置形態は特に限定はされず、縦横に配置した碁盤目配置や千鳥配置などを選択することができる。毛状体が下地層の表面に規則的に配列されていることにより、均一でムラがなく、良触感性が発現しやすくなる。毛状体は、例えば指でなぞるなど荷重がかかることによって毛倒れが起こり、周囲の部分とは光沢、色調が異なって見えるフィンガーマークを形成し得る。また、毛状体により、スエード調の起毛シートのような触感となり得る。
【0033】
毛状体の平均高さ(h)は、100μm~1200μmであることが好ましく、120μm~900μmであることがより好ましい。平均高さを100μm以上とすることで良触感性が十分に確保でき、平均高さを1200μm以下とすることでしっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。
毛状体が下地層に対してほぼ直立している場合は、毛状体の長さが毛状体の高さを表すことになる。一方、図2に示すように毛状体が下地層に対して傾斜している場合や、図3に示すように毛状体が巻回する部分を有する場合は、毛状体が下地層の表面から最も離間している箇所における、下地層の表面からの距離を毛状体の高さとする。
毛状体の平均高さは、樹脂シートの任意の3箇所より断面切片を切り出し、それぞれの試料について毛状体10個の高さを測定し、その30測定値の算術平均値を用いることができる。
【0034】
毛状体の平均径(d)は1μm~50μmであることが好ましく、5μm~30μmであることが好ましい。毛状体の平均径を1μm以上とすることで良触感性を確保することができ、毛状体の平均径を50μm以下とすることでしっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。毛状体の平均径は、樹脂シートの数箇所から、毛状体の中間高さ(h/2)の径を測定し、その測定値の算術平均値を用いた値とする。
また、毛状体が下地層に対してほぼ直立している場合の毛状体のアスペクト比は、(毛状体の平均高さ/毛状体の平均径)として表すことができる。毛状体が下地層に対して傾斜している場合や、毛状体が巻回する部分を有する場合の毛状体のアスペクト比は、(毛状体の平均長さ/毛状体の平均径)として表すことができる。毛状体の平均長さは、樹脂シートの数箇所において毛状体の長さを測定し、その測定値の算術平均値を用いることができる。いずれの場合も、毛状体のアスペクト比は、2~1200であることが好ましく、10~600であることがより好ましく、40~200であることがさらに好ましい。アスペクト比を2以上とすることで、良触感性が確保でき、アスペクト比を1200以下とすることで、しっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。
一方、アスペクト比は、毛状体の平均底面径を基準とすることもできる。毛状体の平均底面径は10μm~150μmであることが好ましい。毛状体の平均底面径は、樹脂シートの数箇所において、隣接する毛状体の間隔を測定し、その測定値の算術平均値を用いた値とする。毛状体の底面径を基準とした場合のアスペクト比は、0.6~120であることが好ましく、アスペクト比を0.6以上とすることで、良触感性が確保でき、アスペクト比を120以下にすることで、しっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。
【0035】
毛状体の平均間隔(t)は、20μm~200μmであることが好ましく、40μm~150μmであることがより好ましい。毛状体の間隔とは、毛状体の根元の中心と隣接する毛状体の根元の中心との距離を意味する。平均間隔を20μm以上とすることで、良触感性が確保され、200μm以下とすることで、しっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。毛状体の平均間隔は、樹脂シートの数箇所において、隣接する毛状体の間隔を測定し、その測定値の算術平均値を用いた値とする。
【0036】
毛状体の形状は特に限定されないが、下地層から離間する方向に毛状に伸び、先端に近づくにつれ、漸次細くなる形状や、その先端にふくらみが形成された構成となっていてもよい。つまり、下地層から離れるにつれ、断面積が漸次小さくなった後に一旦大きくなってから終端する形状であってもよい。また、毛状体の先端部の形状が、つぼみ状又はきのこ形状であってもよい。また、毛状体は、下地層から離れる方向に延び出る基端に位置する部分と、この基端に位置する部分から延び出て一定の曲率をもって、又は漸次曲率を変化させて曲がった部分、さらには螺旋状又は渦巻状に巻かれた部分とを有していてもよい。この場合、毛状体の先端部が内側に折りたたまれている形状であってもよい。このような形状であることにより良好な触感が発現する。また、つぼみ状又はきのこ形状の部分が中空であることにより、より良好な触感が発現する。つぼみ状又は、きのこ形状を毛状先端に形成する場合、毛状体の平均径に対するつぼみ状又は、きのこ形状の幅の平均径の比が1.1倍以上であることが好ましい。つぼみ状又は、きのこ形状の高さは7μm以上であることが好ましい。毛状体の平均径、つぼみ状又は、きのこ形状の幅の平均径、高さは電子走査型顕微鏡写真より測定し、算術平均値を用いた値とする。毛状体は、熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、上記下地層で用いることができる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0037】
<樹脂シート>
本実施形態において、樹脂シートの厚みとは、毛状体の平均高さと下地層の平均厚みを合わせたシート厚みをいう。シート厚みは、好ましくは150μm~1500μm、より好ましくは300~1000μmである。厚みを150μm以上とすることで良触感性が十分に確保でき、1500μm以下とすることで製造コストを抑えることができる。
【0038】
本実施形態において、「触感性」とは、樹脂シートの表面の風合い、肌触りを意味する。樹脂シート表面を触った際に心地よさを感じるかを判断し、感じる場合、しっとり、やわらか、ふんわりなどの具体的な肌触り感が良いものを良触感とする。また、良触感性は、肌触り感などの官能試験以外にも、前述したアスペクト比や、樹脂シートの動摩擦係数に対する静摩擦係数の比、接触冷温感の値、樹脂の硬度により規定することができる。
【0039】
樹脂シートの動摩擦係数が0.05~0.80であることが好ましく、0.15~0.60であることがより好ましい。樹脂シートの動摩擦係数を0.8以下とすることで良触感性が確保できる。また、樹脂シートの動摩擦係数を0.05以上とすることでしっとり感、やわらか感、ふんわり感などの触感性を発現することができる。
【0040】
樹脂シートの接触冷温感は、接触時における熱移動速度q-maxにより示すことができ、q-maxの値が大きい程冷たく、小さい程暖かいことを示す。このため、q-maxは0.005~0.500W/cmであることが好ましく、0.200~0.450W/cmであることがより好ましい。樹脂シートの、接触時における熱移動速度を0.005W/cm以上とすることでしっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が確保できる。また、樹脂シートの接触時における熱移動速度を0.500W/cm以下とすることでしっとり感、やわらか感、ふんわり感などの触感性を発現することができる。
【0041】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態に係る樹脂シートの例としては、図5に示すように、下地層(1)と基材層(3)との間に、シーラント樹脂層(2)が形成された樹脂シートである。すなわち、第二実施形態に係る樹脂シートの層構成は、上から下に向かって、毛状体及び下地層(1)、シーラント樹脂層(2)、基材層(3)である。ここで、毛状体は、第一実施形態において説明したものと同じであるので、説明を省略する。但し、毛状体の平均高さ及び下地層の平均厚みの合計で表される毛状体及び下地層の厚みは、150~900μmが好ましい。150μm以上とすることで良触感性を確保でき、900μm以下とすることで生産コストを抑えることができる。
【0042】
<基材層>
基材層は、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂、熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性樹脂が好ましい。また、積層する場合、共押出成形による積層や無延伸フィルム、二軸延伸フィルムを用いた押出ラミネート成形、ドライラミネート成形による積層がある。
【0043】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート、および共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分や、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分などを共重合したポリエステル樹脂などを用いることができる。
【0044】
ナイロン系樹脂としては、カプロラクタム、ラウロラクタム等のラクタム重合体、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重合体、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-又は1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p-アミノシクロヘキシルメタン)等の脂環式ジアミン、m-又はp-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等のジアミン単位と、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸単位との重縮合体、及びこれらの共重合体等を用いることができる。例えば、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、ナイロン6/66、ナイロン6/610、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T等があり、なかでもナイロン6、ナイロンMXD6が好適である。
【0045】
メタクリル酸エステル単量体に基づくビニル重合体であれば、アクリル系樹脂として用いることができ、その構造などは特に限定されない。メタクリル酸エステル単量体としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル及びメタクリル酸ヘキシルなどが挙げられる。また、メタクリル酸エステル単量体におけるプロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基などのアルキル基は、直鎖であってもよく、分岐していてもよい。メタクリル酸エステル樹脂は、メタクリル酸エステル単量体の単独重合体や、複数のメタクリル酸エステル単量体の共重合体であってもよく、メタクリル酸エステル以外の公知のビニル化合物であるエチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル及びアクリル酸などに由来する単量体単位を有してもよい。
【0046】
基材層には、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記の各熱可塑性樹脂と任意の割合でアロイしてあってもよい。さらに、他の添加物を含有してあってもよい。他の添加物としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、撥水・撥油剤、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物や帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤のような添加剤を添加することができる。また、樹脂シート製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合して用いることもできる。
【0047】
<シーラント樹脂層>
シーラント樹脂層は、下地層と基材層との接着性を発現させるためのものであり、樹脂成分としては、変性オレフィン系樹脂、水添スチレン系熱可塑性エラストマー等を用いることができる。
【0048】
変性オレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン-1等の炭素数2~8程度のオレフィン、それらのオレフィンとエチレン、プロピレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、デセン-1等の炭素数2~20程度の他のオレフィンの共重合体や酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物との共重合体等のオレフィン系樹脂や、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体等のオレフィン系ゴムを、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、または、その酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等でグラフト反応条件下に変性したものを用いることができる。
【0049】
なかでも、不飽和ジカルボン酸またはその無水物、特にマレイン酸またはその無水物で変性した「エチレン-プロピレン-ジエン共重合体」又はエチレン-プロピレン又はブテン-1共重合体ゴムが好適である。
【0050】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系モノマーとブタジエンやイソプレンの共重合体の水素添加物、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体)等を用いることができ、特にスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。
【0051】
シーラント樹脂層の平均厚みは、好ましくは20~90μm、より好ましくは40~80μmである。20μm以上とすることで、下地層と基材層間で層間剥離が発生するのを抑制でき、90μm以下とすることで、生産コストを抑えることができる。
【0052】
[第三実施形態]
本発明の第三実施形態に係る樹脂シートは、図6に示すように、第二実施形態で示したシーラント樹脂層(2)を用いずに、毛状体及び下地層(1)と基材層(3)を直接積層したものである。すなわち、第三実施形態に係る樹脂シートの層構成は、上から下に向かって、毛状体及び下地層(1)/基材層(3)であり、第二実施形態に係る熱可塑性樹脂シートからシーラント樹脂層を除いた層構成を有している。ここで、毛状体及び下地層は、第一実施形態及び第二実施形態における層と同じであるので、説明を省略する。一方、本実施形態における基材層(3)は、下地層と十分な接着性を備えたものとするのが好ましい。
【0053】
また、第三実施形態に係る樹脂シートにおいて、基材層としては、下地層との接着性に優れる熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。例えば、下地層がフッ素系樹脂の場合、アクリル系樹脂を用いることが出来、下地層がオレフィン系樹脂の場合、水添スチレン系熱可塑性エラストマーを添加したスチレン系樹脂組成物を用いることもできる。耐衝撃性ポリスチレン樹脂と水添スチレン系熱可塑性エラストマーを併用するときは、耐衝撃性ポリスチレン樹脂が90~95質量部に対して、5~10質量部の水添スチレン系熱可塑性エラストマーを添加することが好ましい。この場合、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの添加量が5質量部以上とすることで下地層との接着性が十分となり、層間剥離の発生を抑制でき、10質量部以下とすることで生産コストを抑えることができる。
【0054】
<樹脂シートの製造>
本発明に係る樹脂シートの製造方法は、
歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂を、押出成形法によってダイスから溶融押出し、凹凸加工が成された転写ロールとタッチロールを用いてキャスティングすることで毛状体を形成することを含んでなる。
ある実施形態において、樹脂シートの製造方法は、実質的に上記2工程からなり、平均高さが不十分な毛状体様突起をコーミングやブラッシング等により引き延ばすことで毛状体を形成する等の追加の工程を要することなく、シート状の熱可塑性樹脂をキャスティングすることで良触感性を発現する樹脂シートを提供することができる。
【0055】
単層シート又は多層樹脂シートの作製に際しては、任意の樹脂シート成形方法を使用できる。例えば、単層の場合は1台の単軸押出機を、複層の場合は複数台の単軸押出機を用いて、各々の原料樹脂を溶融押出し、Tダイによって樹脂シートを得る方法が挙げられる。多層の場合は、フィードブロックやマルチマニホールドダイを使用することができる。尚、本発明の樹脂シートの各実施形態の層構成は、基本的に前述した通りであるが、他に、例えば、本発明の樹脂シートや成形容器の製造工程で発生したスクラップ原料を、物性等の劣化が見られない限り、基材層へ添加してもよいし、更なる層として積層してもよい。
【0056】
例えば、押出成形方式を用いる場合、Tダイ法により、樹脂シートを押し出し、この樹脂シートの表面に毛状体形状を付与するように、凹凸加工が成された転写ロールと、タッチロールでキャスティングすることにより、本発明に係る樹脂シートを製造することができる。
凹凸加工が成された転写ロールとして、レーザー彫刻法や電鋳法、エッチング法、ミル彫刻法などによりロールの表面に微細な凹凸が規則的に施されたものを用いることができる。ここで、規則的とは、凹凸がランダムではない配列状態、即ち、一方向又は二方向に整然と配列した状態を意味するものである。ある実施形態における凹凸の配置として、縦横に配置した碁盤目配置や千鳥配置などを選択することができる。凹凸部の形状としては、例えば、凹部の形状であれば、錐形(円錐、四角錐、三角錐、六角錐など)、半円形、矩形(四角柱)などが挙げられる。そのサイズとしては、凹部の開口径、凹部深さ、凹部形状の間隔等が数μmから数百μmである。転写ロールの凹部の間隔を調節することで毛状体の間隔を、転写ロールの凹部深さを調節することで毛状体高さを調節することができ、それにより触感を調節することもできる。
また、転写ロール表面に高アスペクト比の凹凸加工をすることが好ましい。例えば、転写ロール表面に凹部形状を加工する場合のアスペクト比(凹部深さ/凹部開口径)は0.5~6.0であることが好ましい。転写ロール表面に高アスペクト比の凹凸加工をするには、レーザー彫刻法または、電鋳法が、エッチング法やブラスト法、ミル彫刻法等に比べて、深さ方向に精密な加工をする場合に適するため、特に好適に用いられる。
転写ロール表面の少なくとも一部がセラミック溶射されており、該セラミック溶射された表面が凹凸加工されていることが好ましい。セラミック溶射されることにより凹凸の加工性が向上し、また転写ロールから樹脂シートを安定的にリリースできるようになる。
転写ロールの材質としては、例えば金属、セラミック等を用いることができ、その表面が酸化クロム(クロミア)、アルミナ、チタニア、アルミナ-チタニア、又はジルコニアで溶射、又はめっきされたものも用いることができる。
一方、タッチロールとしては、様々な材質のものを用いることができるが、例えばシリコン系ゴム、NBR系ゴム、EPT系ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム製のロールを用いることができる。ある実施形態において、ゴム硬度(JIS K 6253)40~100のタッチロールを用いることができる。また、タッチロールの表面に、テフロン(登録商標)層が形成されていてもよい。
上記の転写ロール及びタッチロールのロールセットを用いることで、本実施形態の樹脂シートを製造することができる。
ある実施形態において、転写ロールの温度を、熱可塑性樹脂の伸長可能温度かつプローブタック測定における熱可塑性樹脂の付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度もしくはそれより0~80℃低い温度に調節し、転写ロールとタッチロールとのピンチ圧を30~120Kg/cmとしてキャスティングすることで、本実施形態の樹脂シートを製造することができる。キャスティングした樹脂シートは、ピンチロール等を用いて0.5~30m/分、1~5m/分又は2~4m/分のライン速度で引き取られる。
歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下となる領域を有し、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と少なくとも一部重複することを特徴とする熱可塑性樹脂を用いることで、毛状体の平均高さが100μm以上1200μm以下、毛状体の平均径が1μm以上50μm以下、毛状体の平均間隔が20μm以上200μm以下の表面形状を有する樹脂シートを得ることができる。歪み速度0.5(単位:S-1)で伸長可能温度において測定される伸長粘度η(t)(単位:Pa・S)を縦軸、伸長時間t(単位:S)を横軸とした両対数グラフにおいて、0.1<t<1.0の区間で傾き(logη/logt)が0.5以下とならない場合には、樹脂の弾性変形挙動が強く毛状体が形成されない(一度伸長されても収縮してしまう)ことが考えられる。また、プローブタック測定における付着力が0.05~0.25N/mmとなる温度範囲が伸長可能温度と重複しない状況として、伸長可能温度が高くなり重複しない場合には、同温度域で凹凸転写ロールへ粘着が強くなりすぎ、樹脂シートが転写ロールに巻付くトラブルが発生したり、転写ロールから強く引き剥がすために樹脂シートの外観不良に繋がることが予想される。一方、伸長可能温度が低くなり重複しない場合には、同温度域で凹凸転写ロールへ粘着が足りず、毛状体の平均高さが100μm以上1200μm以下、毛状体の平均径が1μm以上50μm以下、毛状体の平均間隔が20μm以上200μm以下の表面形状有する樹脂シートを得ることができないと予想される。
また、上記実施形態を具体的に示しているが、これらに限定されるものではない。
【0057】
<成形品>
本発明の成形品は、本発明の樹脂シートを成形してなる。従来技術では3次元成形には対応できないが、本発明の毛状体シートは熱可塑性樹脂からなるため、一般的な成形への対応が可能である。成形方法としては、一般的な真空成形、圧空成形やこれらの応用として、樹脂シートを真空状態化で加熱軟化させ、大気圧下に開放することで既存の成形品表面へオーバーレイ(成形)する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、成形前にシートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適応することができる。ある実施形態の真空圧空成形において、例えば樹脂シートは60℃~140℃で、20秒~480秒間加熱してから既存の成形品表面へと成形され、表面の形状により1.05~1.50倍に延伸され得る。
【0058】
<物品>
本発明にかかる毛状体を表面に付与した樹脂シートは、前記に示した良触感性が必要とされる用途に適用できる。例えば、本発明の樹脂シートは、自動車内装材、電子機器外装材、化粧品容器部材、文具部材などに適用できる。
【0059】
自動車内装材としては、自動車社内で手の触れる部分として、ハンドル、ダッシュボード、レバー、スイッチなどが挙げられる。例えば、公知のインストルメントパネル、ピラー(例えば、特開2009-184421号公報)に、上記した樹脂シートを貼り合わせた内装材を挙げることができる。樹脂シートを貼り合わせることで、良触感性を付与した内装材とすることができる。貼り合せる樹脂シートの材質としては、耐候性、耐薬品性を考慮し、オレフィン系樹脂、塩ビ系樹脂、ウレタン系エラストマーが好ましい。樹脂シートと内装材とを貼り合せる方法は、特に限定されない。
【0060】
電子機器外装材としては、キーレスエントリーシステムの送信機筐体、スマートフォン筐体、スマートフォンケース、ミュージックプレーヤーケース、ゲーム機筐体、デジタルカメラ筐体、電子手帳筐体、電卓筐体、タブレット筐体、モバイルパソコン筐体、キーボード、マウス、などが挙げられる。例えば、公知のキーレスエントリーシステムの携帯用送信機筐体(例えば、特開2005-228911号公報)に、本発明樹脂シートを貼り合せた携帯用送信機を挙げることができる。樹脂シートを貼り合せることで、良触感性を付与した携帯用送信機とすることができる。貼り合せる樹脂シートの材質としては、オレフィン系樹脂、ウレタン系エラストマーが好ましい。樹脂シートと筐体とを貼り合せる方法は、特に限定されない。
【0061】
化粧品容器部材としては、フェイスクリーム、パッククリーム、ファンデーション、アイシャドウの容器が挙げられ、例えば、公知のファンデーション用容器(特開2017-29608号公報)の蓋部材に、本発明樹脂シートを貼り合せた化粧品容器を挙げることができる。樹脂シートを貼り合せることで、良触感性を付与した化粧品容器とすることができる。貼り合せる樹脂シートの材質としては、オレフィン系樹脂、ウレタン系エラストマーが好ましい。樹脂シートと貼り合せる方法は、特に限定されない。
【0062】
文房具部材としては、ブックカバー、手帳カバー、ペンケースカバーなどが挙げられ、例えば、公知のブックカバー(例えば、特開2007-246122号公報)を本発明シートを用いて作製し、良触感性、防水性を付与したブックカバーとすることができる。また、ブックカバー形態は特に限定されない。シートの材質としては、オレフィン系樹脂、ウレタン系エラストマーが好ましい。樹脂シートを用いて作製する方法は、特に限定されない。
【0063】
さらには、毛状体の表面に、一般的な印刷方法(オフセット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、箔押しなど)で、文字、絵柄を印刷した毛状体シートを作製し、上記の用途に適用することが出来る。印刷する樹脂シートの材質としては、特に限定されないが、印刷に使用するインキ剤との印刷性を考慮することが好ましい。
【0064】
また、本発明樹脂シートは、文字、絵柄などが印刷された印刷物(紙、金属薄膜など)、不織布などとラミネート成形(ドライラミネート成形、押出ラミネート成形)した積層体を作製し、例えば、名刺の印刷面にラミネート成形し、触感性のある名刺を作製することができる。ラミネートする樹脂シートの材質は特に限定はされない。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0066】
実施例等で用いた各種原料は以下の通りである。
(1)毛状体及び下地層
・(A)LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)「ネオゼックス45200」(プライムポリマー社製)
・(B-1)TPU(ウレタン系エラストマー)「エラストランET880」(BASFジャパン社製)
・(B-2)TPU(ウレタン系エラストマー)「エラストランET680」(BASFジャパン社製)
・(B-3)TPU(ウレタン系エラストマー)「エラストランET3685」(BASFジャパン社製)
・(C)離型剤「ワックスマスターV」(BASFジャパン社製)
・(D)ABS「GT-R-61A」(デンカ社製)
【0067】
伸長粘度測定
熱可塑性樹脂の伸長粘度は、メルテンレオメータ(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、熱可塑性樹脂の伸長可能温度に保たれたオイルバス中で、直径2mmの円柱形状の試験片を100mmの幅でロールで保持し、一定速度(0.5S-1)でロールを回転させて試験片を引っ張ることにより測定した。LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)「ネオゼックス45200」及びTPU(ウレタン系エラストマー)「エラストランET880」の伸長粘度を、それぞれ110℃及び135℃で測定した。その結果をそれぞれ図7及び図8に示す。
【0068】
付着力測定
熱可塑性樹脂の付着力は、タッキング試験機(TAC-II)(株式会社レスカ製)を用いて、以下に記載する条件で、試料材をステージ上に設置し、上部より円柱状プローブの底面を指定された速度とコントロール方法(荷重制御及び侵入量制御)で試料粘着面へ接触させ、設定された速度でプローブを試料から離脱させ、このときプローブが粘着力により受ける抵抗を荷重値として測定した。
温度:各熱可塑性樹脂の伸長可能温度
接触速度:120mm/分
剥離速度:600mm/分
接触荷重:500gf(0.25N/mm
接触時間:15秒
プローブ形状:円柱状、φ5mm
プローブ材質:酸化クロム(SUS材質プローブの表面を酸化クロムで溶射した)
【0069】
実施例および比較例で作製した樹脂シートとその樹脂シートを真空圧空成形した成形品についての各種特性の評価方法は以下の通りである。
【0070】
(1)毛状体の平均高さ、毛状体の平均径、毛状体の平均間隔、下地層の平均厚み
樹脂シートの毛状体の高さ(h)、毛状体の径(d)、毛状体の間隔(t)、下地層の厚みを、レーザー顕微鏡VK-X100(キーエンス社製)を用いて測定した。なお、測定した試料は、ミクロトームを用いて樹脂シートの任意の3箇所より断面切片を切り出し用いた。毛状体の平均高さは、それぞれの試料について毛状体10個の高さを測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。毛状体の平均径については、それぞれの試料について10個の毛状体の中間高さ(h/2)における径を測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。毛状体の平均間隔については、それぞれの試料について毛状体の根元の中心と隣接する毛状体の根元の中心との距離を10箇所測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。下地層の平均厚みについては、それぞれの試料について毛状体の根元から他方の層界面までの厚みを10箇所測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。
【0071】
(2)良触感性官能評価
良触感性は、男性15人、女性15人の計30人に樹脂シートを触ってもらう官能評価を実施した。樹脂シート表面を触った際に心地よさを感じるかを「○」、「×」判断し、「○」と判断した場合、しっとり、やわらか、ふんわりなどの具体的な肌触り感で評価した。このうち、8割以上の同じ肌触り感を評価した場合、その肌触り感とした。また、樹脂シートを用いた真空圧空成形した成形品の表面においても、同じ肌触り感が維持されているかを評価した。
【0072】
(3)動摩擦係数に対する静摩擦係数の比
静動摩擦測定機「TL201Ts(トリニティーラボ社製)」を用い、そのテーブル上に樹脂シートを、毛状体形状等を付与した面を上にして貼り付けた。接触子はウレタン製(デュロメータ硬度:32±2)を用いて、100gの荷重をかけながら、10mm/秒の速度でテーブルを動かし、静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。
【0073】
(4)接触冷温感(熱移動速度:q-max)測定
フィンガーロボットサーモラボ(カトーテック社製)を用いて、20℃設定の試料台に樹脂シートサンプルを5分置き、樹脂シートの温度調整後、30℃の接触温度センサー(1mm×1.5mm)を接触させ、0.2秒間での熱移動速度(q-max)を測定した。
【0074】
(5)真空圧空成形
両面真空成形機(NGF-0709-S型:布施真空社製)で樹脂シートを真空雰囲気下で加熱し、その後、大気圧雰囲気下で準備したスマートフォンカバーの表面へ真空圧空成形することにより成形品を作製した。80℃で120秒間加熱し、最も延伸された箇所では1.5倍に延伸された。
【0075】
[実施例1]
(A)の熱可塑性樹脂を用いて、1台の65mm単軸押出機を使用し、Tダイ法により押し出された樹脂シートを、酸化クロム溶射かつレーザー彫刻法で凹凸加工が成され、60~150℃に調節された金属製の転写ロールと、10~90℃に調節されたゴム硬度70のシリコン系ゴム製のタッチロールとを用いてキャスティングし、ピンチロールを用いてライン速度2~15m/分で引き取った。これにより、表1に示す組成、厚み及び表面形状によって、表面を触った際に心地よさを感じる樹脂シートを得ることができた。
【0076】
[実施例2]
1台の40mm単軸押出機から(B)熱可塑性樹脂と(C)離型剤のドライブレンド品を流し、1台の65mm単軸押出機から(D)熱可塑性樹脂を流し、Tダイ法により押し出された樹脂シートを、酸化クロム溶射かつレーザー彫刻法で凹凸加工が成され、60~150℃に調節された金属製の転写ロールと、10~90℃に調節されたゴム硬度70のシリコン系ゴム製のタッチロールとを用いてキャスティングし、ピンチロールを用いてライン速度2~15m/分で引き取った。これにより、表1に示す組成、厚み及び表面形状によって、表面を触った際に心地よさを感じる樹脂シートを得ることができた。
【0077】
[比較例1、2]
1台の40mm単軸押出機から(B)熱可塑性樹脂と(C)離型剤のドライブレンド品を流し、1台の65mm単軸押出機から(D)熱可塑性樹脂を流し、Tダイ法により押し出された樹脂シートを、酸化クロム溶射かつレーザー彫刻法で凹凸加工が成され、60~150℃に調節された金属製の転写ロールと、10~90℃に調節されたゴム硬度70のシリコン系ゴム製のタッチロールとを用いてキャスティングし、ピンチロールを用いてライン速度2~15m/分で引き取った。しかしながら、上記転写ロール温度域では樹脂への粘着が強く、樹脂シートが転写ロールに巻付くトラブルが起こったため、樹脂シートが転写ロールに巻付かない最大温度(60℃以下)に調整して製膜を行い、その際の組成、厚み及び表面形状を表1に記載した。本条件では、毛状体の平均高さが100μm以上1200μm以下、毛状体の平均径が1μm以上50μm以下、毛状体の平均間隔が20μm以上200μm以下の表面形状を満たす樹脂シートが得られず、表面を触った際に心地よさを感じることができなかった。
【0078】
各実施例、比較例で得られた樹脂シートを用いて、各種特性について評価試験を実施し、結果を表2に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示した結果から以下のことが明らかになった。
実施例1及び2の樹脂シートにおいて、良触感性に関する評価基準を満足する結果が得られた。動摩擦係数、熱移動速度においても満足する結果が得られた。これに対して、比較例1及び2の樹脂シートでは、毛状体の平均高さが100μm以上1200μm以下の毛状体が形成された樹脂シートが得られなかった。
【0082】
また、実施例1及び2で得られた樹脂シートの形状について、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子株式会社JSM-7001F型)を用いて以下の条件で観察した。
走査電子顕微鏡像から、毛状体同士が絡合することなく一定方向に伸びていることが観察された。また、毛状体は下地層から離間する方向に毛状に伸び、その先端にふくらみが形成された構成となっていた。つまり、毛状体の形状は、下地層から離れるにつれ、断面積が漸次小さくなった後に一旦大きくなってから終端する形状であった。また、毛状体の先端部の形状は、つぼみ状又はきのこ形状であり、つぼみ状又はきのこ形状の部分が一部中空となっていることが観察された。更には毛状体が下地層に対して傾斜している形状や、図3に示すように毛状体が巻回する部分を有する形状も観察された。このような形状を有することにより、より良好な触感が発現していることが推察された。
【0083】
以上、様々な実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0084】
1 毛状体及び下地層
1a 下地層
1b 毛状体
d 毛状体径
h 毛状体の高さ
t 毛状体の間隔
2 シーラント樹脂層
3 基材層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8