(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】庭園部に隣り合う共用部の構造及び共用部用演出システム
(51)【国際特許分類】
E04H 1/04 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
E04H1/04 B
(21)【出願番号】P 2020059529
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2021-03-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月5日に,以下アドレスのウェブサイトにて公開。https://www.albio-iidabashi.jp/
(73)【特許権者】
【識別番号】307042385
【氏名又は名称】ミサワホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 博
(72)【発明者】
【氏名】千野 大介
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】マンションエントランスの水盤,youtube,2013年02月04日,https://www.youtube.com/watch?v=lTuyHI_RrVE
【文献】~世田谷区・用賀の丘に全281邸のハイグレードマンション~ 「グランフォート用賀」発売,2004年07月22日,https://www.daikyo.co.jp/dev/files/20040722.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/00 - 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の屋内に設けられ、屋外に設けられた庭園部に隣り合う共用部の構造であって、
前記共用部と前記庭園部との境界には、前記共用部及び前記庭園部の双方に隣接し、窓ガラスによって構成されたガラス壁を有する境界壁が設けられており、
前記共用部のうち前記境界壁の下端部には、当該境界壁の下端部に沿って、上面に水が張られる水盤部が設けられており、
前記庭園部の床には、水を意匠化した模様が形成されており、
前記共用部と、前記水盤部と、前記境界壁における前記ガラス壁と、前記庭園部は、前記建物の一方向に並んで配置され
ており、
前記共用部の床は、前記庭園部の床よりも低い位置に設けられ、
前記水盤部の上面は、前記庭園部の床よりも高い位置に設けられていることを特徴とする庭園部に隣り合う共用部の構造。
【請求項2】
請求項1に記載の庭園部に隣り合う共用部の構造において、
前記共用部の床
には、腰掛が設けられており、
前記腰掛における座面の高さは、前記水盤部における上面の高さと同等かそれ以上に設定されていることを特徴とする庭園部に隣り合う共用部の構造。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の庭園部に隣り合う共用部の構造において、
前記建物の屋外には、前記庭園部を囲むようにして植栽が施される植栽部が設けられていることを特徴とする庭園部に隣り合う共用部の構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の庭園部に隣り合う共用部の構造に
導入される共用部用演出システムであって、
前記水盤部の上方に設けられ、前記水盤部に向かって水滴を落とす滴下部と、
前記水盤部の上方に設けられ、前記水盤部に向かって光を照射する照明部と、
前記水盤部の底部に設けられ、前記水盤部に張られた水に波を造り出す造波部と、
前記滴下部、前記照明部、前記造波部を制御する制御部と、を備えており、
前記制御部は、前記滴下部の動作及び前記造波部の動作を制御するとともに、前記照明部の動作を、前記滴下部の動作及び前記造波部の動作に連動させる制御を行うことを特徴とする
共用部用演出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、庭園部に隣り合う共用部の構造及び共用部用演出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マンション等の集合住宅における一階部分には、例えばエントランスホールやラウンジのように、集合住宅の居住者や来訪者が利用する共用部が設けられる(例えば特許文献1参照)。
近年では、共用部における快適性を向上させるために、様々な趣向を凝らしたものが増えてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、屋内の共用部から屋外に造られた庭園を眺めてゆっくりと過ごせるようにすることで、共用部における快適性を向上させたいという要望がある。しかしながら、単に、庭園の風景を共用部から窓ガラス越しに眺めるだけでは、共用部と庭園との一体性を感じにくい。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、共用部に居ながらにして庭園部との連続性を感じられるようにし、共用部における快適性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、例えば
図1~
図6に示すように、建物Mの屋内に設けられ、屋外に設けられた庭園部10に隣り合う共用部1の構造であって、
前記共用部1と前記庭園部10との境界には、前記共用部1及び前記庭園部10の双方に隣接し、窓ガラスによって構成されたガラス壁6bを有する境界壁6(第三壁6)が設けられており、
前記共用部1のうち前記境界壁6の下端部には、当該境界壁6の下端部に沿って、上面に水が張られる水盤部7が設けられており、
前記庭園部10の床には、水を意匠化した模様10a,10bが形成されており、
前記共用部1と、前記水盤部7と、前記境界壁6における前記ガラス壁6bと、前記庭園部10は、前記建物Mの一方向に並んで配置され
ており、
前記共用部1の床2aは、前記庭園部10の床よりも低い位置に設けられ、
前記水盤部7の上面は、前記庭園部10の床よりも高い位置に設けられていることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、屋外に設けられた庭園部10に隣り合う共用部1と、境界壁6の下端部に沿って設けられた水盤部7と、共用部1と庭園部10との境界に設けられたガラス壁6bと、床に水を意匠化した模様10a,10bが形成された庭園部10が、建物Mの一方向に並んで配置されているので、共用部1の利用者は、ガラス壁6bを有する境界壁6側に視線を向けることで、水の張られた屋内側の水盤部7と、床に水を意匠化した模様10a,10bが形成された屋外側の庭園部10と、が同時に視界に入ることになる。そのため、共用部1の利用者は、あたかも、屋内側の水盤部7と屋外側の庭園部10とが連続しているかのような印象を受ける。これにより、共用部1の利用者は、共用部1に居ながらにして庭園部10との連続性を感じられるようにし、共用部1における快適性を向上させることができる。
【0009】
また、共用部1の床2aは、庭園部10の床よりも低い位置に設けられ、水盤部7の上面は、庭園部10の床よりも高い位置に設けられているので、例えば共用部1の床2aと水盤部7の上面とが同一の高さである場合に比して、共用部1の利用者における視線の高さと、水盤部7の上面の高さが近くなる。そのため、共用部1から水盤部7側に視線を向けることで、その視線の延長線上に、庭園部10が入りやすくなる。これにより、水盤部7に張られた水と、庭園部10の床に形成された水を意匠化した模様10a,10bが同時に視界に入りやすくなるので、共用部1の利用者は、屋内の共用部1と屋外の庭園部10との連続性を感じやすくなる。
【0010】
請求項
2に記載の発明は、例えば
図1~
図6に示すように、請求項
1に記載の庭園部10に隣り合う共用部1の構造において、
前記共用部1の床2aには、腰掛Sf(ソファーSf)が設けられており、
前記腰掛Sfにおける座面Sf1の高さは、前記水盤部7における上面の高さと同等かそれ以上に設定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、共用部1の床2aに設けられた腰掛Sfにおける座面Sf1の高さは、水盤部7における上面の高さと同等かそれ以上に設定されているので、共用部1の利用者が腰掛Sfに腰掛けた場合、屋外への視線は、水盤部7を越えて庭園部10にも届くことになる。さらに、水盤部7の上面も視界に入るため、水盤部7の凹部7aに水が張られた状態と、庭園部10の床に形成された水を意匠化した模様10a,10bと、を同時に見やすくなる。
【0012】
請求項
3に記載の発明は、例えば
図1~
図6に示すように、請求項1
又は2に記載の庭園部に隣り合う共用部1の構造において、
前記建物Mの屋外には、前記庭園部10を囲むようにして植栽11a,11b(背の低い草木11a、背の高い樹木11b)が施される植栽部11が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、建物Mの屋外には、庭園部10を囲むようにして植栽11a,11bが施される植栽部11が設けられているので、共用部1の利用者が屋外側に視線を向ければ、庭園部10を囲む植栽部11を見ることができ、水に関連する景色だけでなく、緑豊かな景色も楽しむことができる。
【0014】
請求項
4に記載の発明は、例えば
図7~
図9に示すように、請求項1~
3のいずれか一
項に記載の庭園部10に隣り合う共用部1の構造に導入される共用部用演出システムであって、
前記水盤部7の上方に設けられ、前記水盤部7に向かって水滴を落とす滴下部15と、
前記水盤部7の上方に設けられ、前記水盤部7に向かって光を照射する照明部16と、
前記水盤部7の底部に設けられ、前記水盤部7に張られた水に波を造り出す造波部17と、
前記滴下部15、前記照明部16、前記造波部17を制御する制御部18と、を備えており、
前記制御部18は、前記滴下部15の動作及び前記造波部17の動作を制御するとともに、前記照明部16の動作を、前記滴下部15の動作及び前記造波部17の動作に連動させる制御を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、制御部18は、滴下部15の動作及び造波部17の動作を制御するとともに、照明部16の動作を、滴下部15の動作及び造波部17の動作に連動させる制御を行うので、共用部1の利用者は、水盤部7側に視線を向けることで、滴下部15や造波部17によって造り出された水盤部7に張られた水の演出や、その動きを照らし出す照明部16による光の演出を楽しむことができる。そのため、共用部1の利用者は、共用部1と庭園部10との境界にある水盤部7において水に係る視覚情報や聴覚情報を多く得ることになるので、共用部1と庭園部10との連続性を意識しやすくなる。これにより、共用部1の利用者は、共用部1に居ながらにして庭園部10との連続性を感じられるようにし、共用部1における快適性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、共用部に居ながらにして庭園部との連続性を感じられるようにし、共用部における快適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】共用部及び庭園部が設けられた建物の2階を示す平断面図である。
【
図2】庭園部に隣り合う共用部の構造を示す平面図である。
【
図3】庭園部に隣り合う共用部の構造を示す庭園部側からの斜視図である。
【
図4】庭園部に隣り合う共用部の構造を示す共用部側からの斜視図である。
【
図6】共用部においてソファーの斜め後方から庭園部を見た場合の斜視図である。
【
図7】共用部用演出システムの構成を説明する図である。
【
図8】共用部用演出システムの構成を説明するブロック図である。
【
図9】共用部用演出システムにおける制御シークエンスを説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。なお、以下の実施形態及び図示例における方角は、あくまでも説明の便宜上設定したものである。
【0019】
まず、
図1~
図6を参照して屋内の構成について説明する。
符号1は、マンション等の集合住宅M(建物M)における屋内側の共用部であり、床2と、天井3と、第一壁4と、第二壁5と、屋外との境界壁である第三壁6と、上面に水が張られる水盤部7と、水盤部7から溢れる水を受ける排水溝8と、を備える。
共用部1は、例えばエントランスホールやラウンジのように、集合住宅の居住者や来訪者が利用するスペースである。なお、本実施形態における共用部1は、マンション等の集合住宅におけるラウンジとするが、これに限られるものではなく、オフィスビル等の建物における共用部であってもよいし、戸建て住宅において共用可能な部屋であってもよい。
また、本実施形態における共用部1は、
図1に示すように、集合住宅Mの2階に設けられている。なお、本実施形態における集合住宅Mは、北側と南側とで高低差があり、下方に位置する北側のエリアには、1階エントランスホールM1が設けられ、上方に位置する南側のエリアには、2階エントランスホールM2が設けられている。ラウンジである共用部1は、2階エントランスホールM2から廊下(スロープ)を進んだ先に設けられている。
【0020】
床2は、ソファーSf及びテーブルTaが配置された下段床部2aと、この下段床部2aよりも上方に位置する上段床部2bと、を有する。
下段床部2aは、人の歩行が想定され、集合住宅における同一階の他のスペースに連続している。
上段床部2bは、水盤部7よりも下方に位置しており、平面視において下段床部2aと水盤部7との間に配置されている。
ソファーSfは、平面視において略T字型に形成された腰掛であり、座った人が第三壁6に身体を向けやすい配置となっている。
【0021】
天井3は、境界壁である第三壁6よりも屋内側に位置する部位と、屋外側に位置する部位と、を有しており、これら屋内側の部位と屋外側の部位は、同一の高さ位置に設けられることで、第三壁6を挟んで連続している。
なお、これら屋内側の部位と屋外側の部位は、同一の色・素材の天井材が使用されることが望ましい。
【0022】
第一壁4及び第二壁5は、互いに平行し、かつ対向して配置されている。これら第一壁4及び第二壁5は、境界壁である第三壁6よりも屋内側に位置する部位と、屋外側に位置する部位と、を有する。第一壁4及び第二壁5の双方は、それぞれ、屋内側の部位と屋外側の部位が、同一の鉛直面上に設けられることで、第三壁6を挟んで連続している。
また、第一壁4及び第二壁5のうち少なくとも一方の壁の、屋外側の部位における屋外側への突出寸法は、天井3の屋外側の部位における屋外側への突出寸法と略等しく設定されている。
【0023】
第三壁6は、第一壁4と第二壁5との間に設けられており、中央の柱6aと、この柱6aの左右両側に設けられたガラス壁6bと、を有する。
より詳細に説明すると、柱6aは、第一壁4と第二壁5との間の中央部分に立設され、この柱6aの左右両側には開口部が形成されており、当該開口部のそれぞれに、ガラス壁6bを構成する窓ガラスが嵌め殺しの状態で設けられている。
ガラス壁6bを構成する窓ガラスが設けられる左右の開口部は、下縁が水盤部7によって規定され、上縁が天井3によって規定され、外側縁が第一壁4及び第二壁5によって規定され、内側縁が柱6aによって規定される大開口とされている。すなわち、第三壁6は、柱6aを除く部位が、透視性及び透光性を有する状態となっており、屋外の景色を大きく見渡せるようになっている。
なお、柱6aのうち左右両側(双方のガラス壁6b側)の表面は、鏡面仕上げが施されて、屋外の景色が映り込むようになっている。
【0024】
水盤部7は、第三壁6における屋内側には、当該第三壁6に沿って設けられている。すなわち、水盤部7は、第一壁4と第二壁5との間に亘って長尺に形成されており、上面には、水を貯留するための凹部7aが形成され、水を張ることができる。
このような水盤部7における上面の高さ位置は、上段床部6bの高さ位置よりも上方に設定されている。
なお、凹部7aには、図示しない給水手段が設けられて、常時、水が張られた状態となっている。
【0025】
排水溝8は、水盤部7から溢れて零れ落ちる水を受ける溝であり、水盤部7と上段床部6bとの間に、第一壁4と第二壁5との間に亘って形成されている。すなわち、水盤部7と上段床部6bとの間は、排水溝8によって彼岸と此岸に分かれた状態となっている。
なお、排水溝8には、図示しない排水口が形成され、水盤部7から受けた水を、図示しない排水管に流すことができる。排水管は、排水処理装置に続いており、排水を濾過することができる。濾過された水は、上記の給水手段によって水盤部7に給水される。
【0026】
なお、床2のうち下段床部2aの仕上げ材は木調(木質)とされており、上段床部2bと水盤部7と排水溝8の仕上げ材は石調とされている。特に、水盤部7から零れ落ちる水が流れる排水溝8の側面には、不規則な(又は不規則に見える)凹凸が形成されて、水が流れる際に音を生じさせたり、後述する第四照明部16dを始めとする照明部16の明かりを不規則に反射させたりすることができる。
【0027】
次に、
図1~
図6を参照して屋外の構成について説明する。
屋外には、共用部1に対し、境界壁である第三壁6を挟んで屋外側に位置する庭園部10が設けられている。庭園部10は、第三壁6に沿って設けられており、表面の床には、水のせせらぎ(浅瀬などの水の流れ)を象った模様10aや、波紋(水紋)を象った模様10bが形成されている。すなわち、これら模様10a,10bは、水を意匠化した模様である。また、これらの模様10a,10bは、床の表面に対して突出した突条によって構成されており、陰影が生じるようになっている。
水のせせらぎを象った模様10aは、庭園部10の床に、直線状に形成された複数の模様を指している。せせらぎとは、小川の浅瀬やその部分の水の流れを意味しており、複数の直線型によって、せせらぎを表現している。
波紋(水紋)を象った模様10bは、庭園部10の床に、円状に形成された複数の模様を指している。
【0028】
なお、庭園部10の床に形成される水を意匠化した模様は、上記の模様10a,10bに限られるものではなく、例えば日本古来の、流水紋や青海波文、荒磯模様、観世水文などのような、水を意匠化した模様を採用してもよいし、その他の、水を想起させ得る模様を適宜採用してもよい。また、床に形成される模様の他に、岩を配置してもよいし、橋のオブジェを配置してもよい。
つまり、庭園部10は、水を意匠化した模様が形成された床を水面に見立て、これにより、実際に水を用いずに山水の風景を表現する所謂枯山水式の庭園となっている。
庭園部10の床は、コンクリートやアスファルトのような舗装用材料によって形成されてもよいし、敷石(張石)やレンガなどによって形成されてもよい。
【0029】
庭園部10は、水を意匠化した模様が形成された床と一体に形成された第一堤部10cと、床及び第一堤部10cから離間して配置された第二堤部10dと、を有する。
第一堤部10cは、庭園部10と後述する植栽部11との境界に設けられるとともに平面視においてクランク状に形成され、庭園部10と植栽部11とを区画している。
一方、第二堤部10dは、第一堤部10cと同様の高さに設定され、かつ平面視L字状に形成されている。さらに、この第二堤部10dは、床及び第一堤部10cから離間して配置されるとともに、第一堤部10cのうち最も長さの長い部分の延長線に配置されることで、第一堤部10cの飛び石した箇所として認識される。また、この第二堤部10dは、庭園部10の床からも離間しているため、植栽部11に植栽される植物に埋もれて見えることとなる。
【0030】
共用部1の利用者は、ソファーSfに座り、ガラス壁6bを有する第三壁6側に視線を向けることで、水の張られた屋内側の水盤部7と、屋外側の庭園部10と、が同時に視界に入ることになる。これにより、利用者は、あたかも、屋内側の水盤部7と屋外側の庭園部10とが連続しているかのような印象を受ける。
すなわち、共用部1、水盤部7と、第三壁6におけるガラス壁6bと、庭園部10は、建物Mの一方向(屋内外方向)に並んで配置されているため、共用部1から水盤部7側に目を向ければ、水盤部7に張られた水と、ガラス壁6bと、庭園部10は少なくとも視界に入ることになる。そして、水盤部7に張られた水と、水を意匠化した模様10a,10bが同時に視界に入るため、庭園部10の床に形成された模様10a,10bが、見た瞬間にはそれが水を意匠化したものだとは気づかなくても、水盤部7に張られた水から、水を意匠化した模様10a,10bであると連想しやすい。換言すれば、共用部1の利用者にとっては、実際の水と、水を意匠化した模様10a,10bとが、ガラス壁6bを通じて同時に視界に入るため、屋内外の連続性を感じやすい。
【0031】
屋外には、庭園部10を囲むようにして植栽が施される植栽部11が更に設けられている。植栽部11には、盛土が適宜施され、背の低い草木11aや、背の高い樹木11bが植栽されている。
背の低い草木11aは、第一堤部10c及び第二堤部10dよりも奥側と、第二堤部10dよりも手前(共用部1)側に植栽される。なお、一部の草木11aは、第一堤部10cよりも手前(共用部1)側に植栽されてもよい。
また、背の高い樹木11bは、第一堤部10c及び第二堤部10dよりも奥側にのみ植栽され、第一堤部10c及び第二堤部10dや背の低い草木11aによって根元が見えにくい状態となっている。
【0032】
植栽部11に植栽された背の高い樹木11bは、隣地に対する目隠しや風除けとして機能する屋敷林であり、共用部1から庭園部10を見た場合、共用部1の利用者は、屋外の植栽部11における景色を、庭園部10の借景として鑑賞することができる。そのため、植栽部11に植栽される植物の選定は、隣地側からの視線だけでなく、共用部1側からの視線も考慮することが望ましい。
さらに、共用部1側からの視線を考慮し、第三壁6における中央の柱6aを境にした左側と右側とで、植生の異なる植物を植栽してもよい。これにより、共用部1の利用者は、中央の柱6aを境にした左側と右側とで趣の異なる風景を見て楽しむことができる。
【0033】
以上のように構成された共用部1及び庭園部10においては、下段床部2aが最も低い位置に設けられ、次いで上段床部2bが低い位置に設けられ、その次は屋外の庭園部10における床となっており、水盤部7の上面が最も高い位置に設けられている。
植栽部11については盛土が施され、様々な植物が植栽されることから、起伏が生じて場所ごとに高さが異なるため、特に考慮されないものとするが、庭園部10との境界に設けられた第一堤部10c及び第二堤部10dの上面は、水盤部7の上面よりも高い位置に設けられている。
【0034】
また、下段床部2aに設置された腰掛であるソファーSfの座面Sf1は、上段床部2bよりも高く設定されるとともに、水盤部7の上面と略等しいか、若しくは高い位置に設定されている。
そのため、ソファーSfに座った場合(仮に寝転んだとしても)、屋外への視線は、水盤部7を越えて庭園部10にも届くことになる。さらに、水盤部7の上面も視界に入るため、水盤部7の凹部7aに水が張られた状態と、庭園部10の床に形成された水を意匠化した模様10a,10bと、を同時に見ることができるようになっている。
【0035】
そして、庭園部10の床には水が一切流れていないものの、床には水を意匠化した模様10a,10bが形成され、しかも、水盤部7から溢れて零れ落ちる水は、水盤部7よりも手前の排水溝8に流れ落ち、さらに排水溝8の手前には石調の仕上げ材によって仕上げされた上段床部2bが設けられた状態となっている。
そのため、ソファーSfから水盤部7側に視線を向ける人は、自分のいる場所があたかも浅瀬であるかのような、若しくは自身が水辺にいるかのような印象を受けることになり、共用部1における快適性の向上を図ることができる。
【0036】
以上のような効果を高めるために、共用部1には、
図7~
図9に示すように、共用部用演出システムが設けられている。
本実施形態における共用部用演出システムは、水盤部7に張られた水を利用し、共用部1における快適性向上の効果を高めるための演出を行うためのものであり、滴下部15と、照明部16と、造波部17と、これら滴下部15、照明部16、造波部17を制御する制御部18と、を備える。
【0037】
滴下部15は、水盤部7に向かって水滴15aを落とすためのものであり、共用部1における天井3のうち水盤部7の上方に位置する箇所に設けられている。本実施形態における滴下部15は、天井3に対し、中央の柱6aの左右両側に3か所ずつ設けられている。
このような滴下部15は、図示しない給水部に接続され、当該給水部から供給される水を、水滴15aとして微量ずつ水盤部7に滴下することができる。より詳細に説明すると、滴下部15は、水を微量ずつ滴下するための滴下口と、給水部から滴下口までの流路上に設けられて当該流路を開閉する弁(図示省略)と、を有する。弁は、例えば電磁弁であり、その開閉動作が制御部18によって制御可能となっている。つまり、例えば電磁弁である弁に電流を流したり止めたりする給電部(図示省略)と、制御部18とが通信可能に接続されており、給電部が、制御部18からの信号を受けて弁の開閉を行う。
【0038】
滴下部15から水滴15aを滴下するタイミングは、
図9に示すように、深夜を除く時間帯を通じて一定の間隔に設定されている。
滴下部15から滴下された水滴15aは、水盤部7に張られた水に落ちたときに音を発生させたり、水盤部7に張られた水に波紋を生じさせたりすることができる。
【0039】
造波部17は、水盤部7に張られた水に波紋を生じさせるためのものであり、水盤部7における凹部7aの底部に設けられている。本実施形態における造波部17は、凹部7aの底部に対し、中央の柱6aの左右両側に3か所ずつ設けられている。
このような造波部17としては、例えば水を噴出することによって波を造り出す方式や、振動によって波を造り出す方式などが適宜採用される。本実施形態においては、例えば、上記の水を噴出して波を造り出す方式が採用されている。そのため、この造波部17も、滴下部15と同様に給水部から水が供給され、弁の開閉によって水の出し入れが可能となっている。また、水の噴出時に圧縮空気を用いる場合は、給気部(図示省略)とも接続されている。造波部17は、制御部18と通信可能に接続されており、これらの動作は、制御部18によって制御される。
【0040】
造波部17によって波を造り出すタイミングは、
図9に示すように、深夜を除く時間帯を、いくつかに区切り、区切られた時間帯ごとに最適な動作を行うように制御されている。
具体的には、出勤や通学の始まる早朝の時間帯(5時~7時)は、中程度の吐水量で造波動作が行われ、出勤や通学・通園が続く朝の時間帯(7時~11時)は、大程度の吐水量で造波動作が行われ、昼食などにより共用部1の利用が少ないと見込まれる昼の時間帯(11時~16時)は、造波動作が停止される。
また、帰宅が始まる夕方の時間帯(16時~19時)は、大程度の吐水量で造波動作が行われ、夕食などにより共用部1の利用が少ないと見込まれる宵の時間帯(19時~22時)は、造波動作が停止され、夜遅い帰宅を想定した夜の時間帯(22時~1時)は、中程度の吐水量で造波動作が行われる。
すなわち、造波部17は、集合住宅の居住者の生活シーンを考慮したシーン制御が行われるようになっている。
【0041】
なお、造波部17によって波を造り出すと、水盤部7に張られた水は、水盤部7から溢れて排水溝8へと流れる。
また、造波部17によって波を造り出さずに、水を吐出して水盤部7から水を溢れ出させる動作のみを行ってもよい。
【0042】
照明部16は、第一照明部16aと、第二照明部16bと、第三照明部16cと、第四照明部16dと、を備える。
第一照明部16aは、水盤部7に向かって光を照射するためのものであり、共用部1における天井3のうち水盤部7の上方に位置する箇所に設けられている。本実施形態における第一照明部16aは、2つ一組とされ、一組の第一照明部16aが、天井3に対し、中央の柱6aの左右両側に3か所ずつ設けられている。また、一組の第一照明部16aの間には、滴下部15が設けられている。すなわち、水盤部7の長さ方向に、第一照明部16a、滴下部15、第一照明部16aの順に並んで設けられている。
第二照明部16bは、滴下部15と併設されている。より詳細には、滴下部15のうち水滴が滴下される滴下口を避けて配置されている。第二照明部16bからは、滴下部15から落ちた水滴15aに光を当てることができる。
第三照明部16cは、配置位置については図示しないが、天井3のうちソファーSfの後方及び右側方にあたる位置に設けられており、ソファーSfの後方及び右側方から光を照射する設定となっている。
第四照明部16dは、排水溝8の内側に、排水溝8の延在方向に点在して設けられており、排水溝8を流れる水や水盤部7から零れ落ちる水のライトアップを行うことができる。なお、本実施形態における第四照明部16dは、排水溝8のソファーSf側面に設けられているが、底面に設けられてもよい。
【0043】
このような照明部16は、制御部18と通信可能に接続されており、制御部18による制御で、点灯・消灯・点滅・調光が可能となっている。制御部18によって制御される照明部16の動作は、滴下部15の動作及び造波部17の動作に連動して行われる。
【0044】
第一照明部16aは、滴下部15と並んで設けられているため、滴下部15から滴下される水滴15aを強調するために消灯する。なお、第一照明部16aは、
図9に示すように朝から夜までの時間帯のうち、第二照明部16bが点灯しない時間帯に動作するように制御されている。第一照明部16aによれば、第二照明部16bが消灯しているときに、水盤部7に張られた水を照らしたり、造波部17で造り出された波(波紋)を照らし出したりするように制御されている(
図9の表における「第一照明部」欄を参照)。
【0045】
第二照明部16aは、滴下部15の動作と連動し、滴下部15から水が滴下するタイミングで、第二照明部16bが点灯又は点滅するように制御されている。これにより、滴下部15から滴下される水滴15aを強調することができる。
より詳細には、第二照明部16bは、滴下する水滴15aに光を当てたり、水滴15aの落下に合わせて点滅したりするなどして、落下する水滴15aに照明を当てる演出を行うことができる。このように第二照明部16bによって、演出として光を照射するタイミングは、
図9に示すように昼の時間帯と宵の時間帯であり、滴下部15の動作を契機にして動作するように制御されている(
図9の表における「第二照明部」欄を参照)。つまり、第二照明部16bが点灯・点滅する(演出を行う)時間帯に、第一照明部16aは消灯して第二照明部16bによる水滴15aの演出を強調し、第二照明部16bが消灯する(演出を行わない)時間帯に、第二照明部16bは点灯する。なお、第二照明部16bが消灯する(演出を行わない)時間帯も、滴下部15は、深夜を除いて動作し、水滴15aを落とし続ける。
【0046】
ソファーSf後方及び右側方の第三照明部16cが点灯するタイミングは、
図9に示すように朝から夜までの時間帯、すなわち、第一照明部16aが一日のうち最初に点灯する時から最後に消灯するまでの時間帯に点灯するように制御されている(
図9の表における「第三照明部、第四照明部」欄を参照)。
【0047】
第四照明部16dは、第三照明部16cと同様に、
図9に示すように朝から夜までの時間帯、すなわち、第一照明部16aが一日のうち最初に点灯する時から最後に消灯するまでの時間帯に点灯するように制御されている(
図9の表における「第三照明部、第四照明部」欄を参照)。
【0048】
制御部18は、
図8に示すように、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサがプログラムを実行することにより実現される。
CPUによって実行されるプログラムには、上記の滴下部15の動作を制御するための滴下プログラム19aと、上記の照明部16(第一照明部16a、第二照明部16b、第三照明部16c、第四照明部16d)の動作を制御するための照明プログラム19bと、上記の造波部17の動作を制御するための造波プログラム19cと、が含まれる。また、これらの各プログラム19a,19b,19cは、記憶部19に記憶されている。
なお、制御部18は、図示しない通信手段を備え、外部の管理用端末と通信可能に接続されてもよい。これにより、管理用端末から共用部用演出システムの制御シークエンスを変更したり、新たに設置したデバイスデバイスを制御するためのプログラムを導入したりすることができる。
【0049】
以上のように構成された共用部用演出システムが導入された共用部1では、共用部1の利用者は、下段床部2aに設置されたソファーSfに腰掛けながら水盤部7側に視線を向けることで、滴下部15や造波部17によって造り出された水盤部7に張られた水の動き(演出)や、その動きを照らし出す照明部16による光の演出を楽しむことができる。
また、このような水や光の演出は、時間帯ごと、場面(シーン)ごとに異なるので、一日を通して様々な演出を楽しむことができる。
【0050】
本実施の形態によれば、屋外に設けられた庭園部10に隣り合う共用部1と、第三壁6の下端部に沿って設けられた水盤部7と、共用部1と庭園部10との境界に設けられたガラス壁6bと、床に水を意匠化した模様10a,10bが形成された庭園部10が、建物Mの一方向(屋内外方向)に並んで配置されているので、共用部1の利用者は、ガラス壁6bを有する第三壁6側に視線を向けることで、水の張られた屋内側の水盤部7と、床に水を意匠化した模様10a,10bが形成された屋外側の庭園部10と、が同時に視界に入ることになる。そのため、共用部1の利用者は、あたかも、屋内側の水盤部7と屋外側の庭園部10とが連続しているかのような印象を受ける。これにより、共用部1の利用者は、共用部1に居ながらにして庭園部10との連続性を感じられるようにし、共用部1における快適性を向上させることができる。
【0051】
また、共用部1の下段床部2aは、庭園部10の床よりも低い位置に設けられ、水盤部7の上面は、庭園部10の床よりも高い位置に設けられているので、例えば共用部1の下段床部2aと水盤部7の上面とが同一の高さである場合に比して、共用部1の利用者における視線の高さと、水盤部7の上面の高さが近くなる。そのため、共用部1から水盤部7側に視線を向けることで、その視線の延長線上に、庭園部10が入りやすくなる。これにより、水盤部7に張られた水と、庭園部10の床に形成された水を意匠化した模様10a,10bが同時に視界に入りやすくなるので、共用部1の利用者は、屋内の共用部1と屋外の庭園部10との連続性を感じやすくなる。
【0052】
また、共用部1の下段床部2aに設けられたソファーSfにおける座面Sf1の高さは、水盤部7における上面の高さと同等かそれ以上に設定されているので、共用部1の利用者がソファーSfに腰掛けた場合、屋外への視線は、水盤部7を越えて庭園部10にも届くことになる。さらに、水盤部7の上面も視界に入るため、水盤部7の凹部7aに水が張られた状態と、庭園部10の床に形成された水を意匠化した模様10a,10bと、を同時に見やすくなる。
【0053】
また、建物Mの屋外には、庭園部10を囲むようにして植栽11a,11b(背の低い草木11a、背の高い樹木11b)が施される植栽部11が設けられているので、共用部1の利用者が屋外側に視線を向ければ、庭園部10を囲む植栽部11を見ることができ、水に関連する景色だけでなく、緑豊かな景色も楽しむことができる。
さらに、植栽部11に植栽された背の高い樹木11bは、隣地に対する目隠しや風除けとして機能する屋敷林であり、共用部1から庭園部10を見た場合、共用部1の利用者は、屋外の植栽部11における景色を、庭園部10の借景として鑑賞することができる。
【0054】
また、共用部1に導入された共用部用演出システムにおいては、制御部18が、滴下部15の動作及び造波部17の動作を制御するとともに、照明部16の動作を、滴下部15の動作及び造波部17の動作に連動させる制御を行うので、共用部1の利用者は、水盤部7側に視線を向けることで、滴下部15や造波部17によって造り出された水盤部7に張られた水の演出や、その動きを照らし出す照明部16による光の演出を楽しむことができる。そのため、共用部1の利用者は、共用部1と庭園部10との境界にある水盤部7において水に係る視覚情報や聴覚情報を多く得ることになるので、共用部1と庭園部10との連続性を意識しやすくなる。これにより、共用部1の利用者は、共用部1に居ながらにして庭園部10との連続性を感じられるようにし、共用部1における快適性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 共用部
2 床
2a 下段床部
2b 上段床部
3 天井
4 第一壁
5 第二壁
6 第三壁
6a 柱
6b ガラス壁
7 水盤部
7a 凹部
8 排水溝
10 庭園部
10a 模様
10b 模様
10c 第一堤部
10d 第二堤部
11 植栽部
11a 背の低い草木
11b 背の高い樹木
15 滴下部
16 照明部
16a 第一照明部
16b 第二照明部
16c 第三照明部
16d 第四照明部
17 造波部
18 制御部
Sf ソファー
Ta テーブル