IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本酢ビ・ポバール株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ポリビニルアルコール系重合体 図1
  • 特許-ポリビニルアルコール系重合体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/06 20060101AFI20220930BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20220930BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220930BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220930BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C08F16/06
C08F8/12
C08L29/04 C
C08J5/18 CEX
G02B5/30
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020501765
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019005989
(87)【国際公開番号】W WO2019163739
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2018028335
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】金里 脩平
(72)【発明者】
【氏名】河西 将利
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-002109(JP,A)
【文献】欧州特許第02097563(EP,B1)
【文献】HAN, M. H. et al.,Preparation of Syndiotacticity-Rich High Molecular Weight Poly(vinyl alcohol)/Iodine Polarizing Film,Journal of Applied Polymer Science,2010年,vol.115,pp.917-922,全文,特に,ABSTRACT, TABLE I(No.1,2,3), p.918 "Preparation of a- and s- PVAs", "Preparations of PVA
【文献】CHIROWODZA, H. et al.,Effect of Vinyl Pivalate/Vinyl Acetate Comonomer Composition on the Self-Assembled Morphology of Pol,Journal of Applied Polymer Science,2010年,vol.117,pp.3460-3465,全文,特に,ABSTRACT, p.3460"INTRODUCTION", TABLE II,III(sample 5)
【文献】YEUM, J. H. et al.,Effect of syndiotacticity on the morphology of water-soluble low molecular weight poly(vinyl alcohol) by solution copolymerization of vinyl pivalate/vinyl acetate in tetrahydrofuran and saponification,Polymer,2004年,vol.45,pp.4037-4043,全文,特に,ABSTRACT, p.4037"1. Introduction",p.4038"2.2. Solution copolymerization of VPi/VAc", "2
【文献】YEUM, J. H. et al.,Effect of syndiotacticity on the morphology of water-soluble low molecular weight poly(vinyl alcohol,Polymer,2004年,vol.45,pp.4037-4043,全文,特に,ABSTRACT, p.4037"1. Introduction",p.4038"2.2. Solution copolymerization of VPi/VAc", "2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08J 5/18
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクティシティが54.0~56.0モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が98~99.9モル%、ピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~1.8モル%であるポリビニルアルコール系重合体(ただし、下記(1)~(5)を充足するものを除く。
(1)シンジオタクティシティが56.0モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が99.9モル%
(2)シンジオタクティシティが55.4モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が98.7モル%
(3)シンジオタクティシティが55.7モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が100モル%
(4)シンジオタクティシティが55.7モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が99.9モル%
(5)シンジオタクティシティが54.0モル%又は56.0モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が99.6モル%)
【請求項2】
(A)シンジオタクティシティが54.1~55.5モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が98.8~99.9モル%、ピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~1.1モル%である、(B)シンジオタクティシティが54.1~55.2モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が98~99.9モル%、ピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~1.8モル%である、又は(C)シンジオタクティシティが54.0~56.0モル%、ビニルアルコール単位含有量が98~99.9モル%、かつピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~1.8モル%である、ポリビニルアルコール系重合体。
【請求項3】
シンジオタクティシティが54.1~55.5モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が99.0~99.9モル%、ピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~1.0モル%であるポリビニルアルコール系重合体。
【請求項4】
シンジオタクティシティが54.2~55.2モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が98.8~99.9モル%、ピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~1.1モル%であるポリビニルアルコール系重合体。
【請求項5】
シンジオタクティシティが54.2~55.2モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が99.0~99.9モル%、ピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~1.0モル%であるポリビニルアルコール系重合体。
【請求項6】
シンジオタクティシティが54.2~55.2モル%であり、かつビニルアルコール単位含有量が99.0~99.モル%、ピバリン酸ビニル単位含有量が0.2~0.7モル%であるポリビニルアルコール系重合体。
【請求項7】
シンジオタクティシティが54.2~55.2モル%であり、ビニルアルコール単位含有量が99.0~99.9モル%、かつピバリン酸ビニル単位含有量が0.1~0.7モル%であるポリビニルアルコール系重合体。
【請求項8】
酢酸ビニル及びピバリン酸ビニルを重合成分とする重合体の鹸化物であり、かつ酢酸ビニル単位含有量が0.5モル%以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
【請求項9】
1種のポリビニルアルコール系重合体である、請求項1~8のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
【請求項10】
2種以上のポリビニルアルコール系重合体の混合物であり、混合物を構成するすべてのポリビニルアルコール系重合体のシンジオタクティシティが53.0~56.0モル%である請求項1~9のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
【請求項11】
95℃の水に対して90質量%以上溶解し、かつ50℃の水に対して95質量%以上非溶解である請求項1~10のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
【請求項12】
4%水溶液粘度が8~2500mPa・sである請求項1~11のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
【請求項13】
偏光膜用である請求項1~12のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
【請求項14】
酢酸ビニル及びピバリン酸ビニルを重合成分とし、ピバリン酸ビニル単位含有量が4~24モル%である、重合体を鹸化し、請求項1~13のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を製造する方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を含む水溶液。
【請求項16】
請求項1~13のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を用いた偏光膜。
【請求項17】
60℃、90%RHの雰囲気下で10時間放置したとき、下記式で表される偏光度の変化率が20%以下である請求項16記載の偏光膜。
変化率(%)=(放置前の偏光度-放置後の偏光度)/放置前の偏光度×100
【請求項18】
請求項1~13のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を含む水溶液をフィルム成形する工程を含む、請求項16又は17記載の偏光膜の製造方法。
【請求項19】
請求項16又は17記載の偏光膜を備えた偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリビニルアルコール系重合体及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は電卓、腕時計、自動車や機器類の計器類、ノートパソコン、モニター、テレビ、プロジェクター、携帯電話など広範囲において用いられている。特に近年はモバイル用途での需要が増えており、耐久性の向上が要求されている。したがって、液晶表示装置の構成要素である偏光膜に関しても、上記課題を達成するために、耐久性や耐湿熱性の向上が求められている。
【0003】
偏光膜としては一般的に、ヨウ素や二色性色素を吸着させたポリビニルアルコール系重合体(以下PVA系重合体と略することがある)の一軸延伸フィルムが用いられている。この偏光膜は偏光度には優れているものの、耐湿熱性に乏しいという欠点を有している。これに対して、重合度が2500以上の高重合度のPVA系重合体の一軸延伸フィルムを基材として使用する方法や一軸延伸ポリエステルフィルムを基材とし、特定の二色性染料を用いた偏光膜が提案されている(特許文献1、2)。しかし、前者においては、重合度の効果は認められるものの必ずしも十分ではなく、後者では、PVA系重合体基材の偏光膜の欠点である耐湿性はある程度改善されているが、偏光度が不十分であり、上記要求に十分に答えられるものではない。
【0004】
耐湿熱性が高い偏光フィルムを得る方法として、シンジオタクティシティが高いPVA系重合体(以下高シンジオPVA系重合体と略することがある)を用いる方法が提案されており(特許文献3)、この文献には具体的にピバリン酸ビニルのホモポリマーの鹸化物が例示されている。
この文献には、シンジオタクティシティについて、55モル%以上などと漠然とした範囲が記載されているが、実際に得られたPVA系重合体のシンジオタクティシティは、それぞれ61.5モル%という、非常に高いものであるが、このようにシンジオタクティシティが高すぎる場合、フィルムの延伸性が低く、また二色染料の染色性も悪いため、従来の偏光膜製造技術では、十分な高偏光性を有する偏光膜が得られなくなる虞がある。
【0005】
高耐湿熱性と高偏光性を両立させる方法として、高シンジオPVA系フィルムとシンジオタクティシティが低いPVA系フィルムを積層させる提案もされている(特許文献4)。
しかし、十分な耐湿熱性を有する偏光膜を製造するためには、シンジオタクティシティが低いPVA系フィルムの両面に高シンジオPVA系フィルムを積層させる必要があり、偏光膜の薄膜化が難しい。
なお、この文献には、高シンジオPVA系フィルムのシンジオタクティシティについて、55%以上などと漠然とした範囲が記載されているが、実際に得られたPVA系重合体のシンジオタクティシティは61.3%と非常に高く、前記と同様の問題を生じる虞がある。
【0006】
また、高シンジオPVA系フィルムの延伸性を向上させる方法として、N-ビニルピロリドンなどの水溶性が高い不飽和単量体を共重合させる方法が提案されている(特許文献5)。なお、この文献には、高シンジオPVA系フィルムのシンジオタクティシティについて、55%以上などと漠然とした範囲が記載されているが、実際に得られたPVA系重合体のシンジオタクティシティは62%と非常に高い。
【0007】
しかしながら、この文献のように、N-ビニルピロリドンなどを共重合させることで、フィルム強度が低下してしまい、十分な耐久性を有する偏光膜が得られなくなる虞があり、また、このような共重合ポリマーは、不飽和単量体ユニットが存在するため、ヨウ素等の二色性染料を用いた場合の発色性が悪く、偏光特性が低下する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平01-105204号公報
【文献】特開昭58-68008号公報
【文献】特開平3-206402号公報
【文献】特開2001-91739号公報
【文献】特開平8-201626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規なポリビニルアルコール系重合体(PVA系重合体)を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、耐湿熱性に優れたPVA系重合体を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、水溶液を効率よく作製可能なPVA系重合体を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、優れた光学特性と耐湿熱性とを両立しうるPVA系重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、PVA系重合体について調べたところ、シンジオタクティシティが高くなると、水への溶解性が大きく変動し、100℃未満の水(熱水)でさえも溶解しなくなること、そのため、水溶液を得るためには、加圧溶解装置等の特殊な設備・手法が必要であり著しく生産性を損なう場合があり、しかも、仮に水溶液を得た場合でも、4質量%程度の濃度でさえ容易にゲル化してしまうことがあり、水溶液の保管時、また製膜及び塗膜の作製時に従来の方法を適用することができないことがわかった。
【0014】
一方で、本発明者らの検討によれば、前記のように、シンジオタクティシティを低くしていくと、得られるフィルム(偏光膜)の耐湿熱性が大きく低下してしまうこと(ひいては、耐湿熱性と水溶解性とがトレードオフの関係にあること)がわかった。
【0015】
しかも、これらの水への溶解性や耐湿熱性、さらには、光学特性は、単純に、シンジオタクティシティだけで決まるものではなく、これらを両立できるPVA系重合体の探索には困難を極めた。
【0016】
このような中、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シンジオタクティシティとビニルアルコール単位含有量(又はけん化度)を特定範囲に調整することで、特殊な設備・手法によらなくても、効率よく水溶液を調製できるPVA系重合体が得られること、また、このようなPVA系重合体によれば、溶解設備、製膜設備、偏光膜の製造設備等を用いて、偏光膜を生産することができ、光学特性と耐湿熱性を両立できること等を見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明は、次の発明等に関する。
[1]
シンジオタクティシティが54.0~56.0モル%(又は%)であり、かつビニルアルコール単位含有量が98~100モル%であるポリビニルアルコール系重合体。
[2]
酢酸ビニル及びピバリン酸ビニルを重合成分とする重合体(共重合体)の鹸化物であり、ピバリン酸ビニル単位含有量が2モル%以下であり、かつ酢酸ビニル単位含有量が0.5モル%以下である、[1]記載のポリビニルアルコール系重合体。
[3]
1種のポリビニルアルコール系重合体である、[1]又は[2]記載のポリビニルアルコール系重合体。
[4]
2種以上のポリビニルアルコール系重合体(例えば、シンジオタクティシティにおいて異なる2種以上のポリビニルアルコール系重合体)の混合物であり、混合物を構成するすべてのポリビニルアルコール系重合体のシンジオタクティシティが53.0~56.0モル%である[1]又は[2]記載のポリビニルアルコール系重合体。
[5]
95℃の水に対して90質量%以上溶解し、かつ50℃の水に対して95質量%以上非溶解である[1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
[6]
4%水溶液粘度が8~2500mPa・sである[1]~[5]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
[7]
偏光膜用である[1]~[6]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体。
[8]
酢酸ビニル及びピバリン酸ビニルを重合成分とし、ピバリン酸ビニル単位含有量が4~24モル%である、重合体を鹸化し、[1]~[7]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を製造する方法。
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を含む水溶液。
[10]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を用いた偏光膜。
[11]
60℃、90%RHの雰囲気下で10時間放置したとき、下記式で表される偏光度の変化率が20%以下である[10]記載の偏光膜。
変化率(%)=(放置前の偏光度-放置後の偏光度)/放置前の偏光度×100
[12]
[1]~[7]のいずれかに記載のポリビニルアルコール系重合体を含む水溶液をフィルム成形する工程を含む、[10]又は[11]記載の偏光膜の製造方法。
[13]
[10]又は[11]記載の偏光膜を備えた偏光板。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、新規なPVA系重合体を提供できる。
本発明の態様では、優れた耐湿熱性を実現しうるPVA系重合体を提供できる。
また、本発明の他の態様では、水溶液を効率よく作製可能なPVA系重合体を提供できる。例えば、特殊な溶解設備を必要とすることなく、PVA系重合体の水溶液を得ることができる。しかも、このような水溶液において、PVA系重合体は、通常、良好な安定性(溶解安定性)を示す場合が多い。
さらに、本発明の他の態様では、優れた光学特性と耐湿熱性とを両立しうるPVA系重合体を提供できる。
特に、このようなPVA系重合体は、通常、前記のように、良好な溶解安定性を示す安定な水溶液を効率よく作製でき、また、得られるフィルムの延伸性や染色性も良い。そのため、本発明のPVA系重合体によれば、既存設備や既存手法を用いて、高い生産性や成膜性で、優れた光学特性と耐湿熱性を両立できる偏光膜を効率よく製造しうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体におけるピバリン酸ビニル単位含有量と、それを鹸化して得られるPVA系重合体のシンジオタクティシティの関係を示す図である。
図2図2は、ピバリン酸ビニル/酢酸ビニル=60/40で共重合時の、重合時間と共重合体のピバリン酸ビニル単位含有量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[ポリビニルアルコール系重合体]
ポリビニルアルコール系重合体(PVA系重合体、PVAなどということがある)のシンジオタクティシティは、通常、54.0~56.0モル%(例えば、54.1~55.9モル%)であり、54.2~55.8モル%が好ましく、54.3~55.5モル%がより好ましい。
【0021】
なお、PVA系重合体のシンジオタクティシティは、例えば、DMSO-dを溶媒としてH-NMRスペクトルを測定し、アイソタクティシティ(I)、ヘテロタクティシティ(H)、およびシンジオタクティシティ(S)それぞれに帰属されるピークの面積比を使用して以下の通り算出できる。
シンジオタクティシティ(モル%)
=(S/(I+H+S)+H/(2×(I+H+S))×100
【0022】
PVA系重合体において、ビニルアルコール単位含有量は、通常、98~100モル%であり、98.2~99.95モル%が好ましく、98.5~99.9モル%がより好ましく、99~99.9モル%が特に好ましい。
【0023】
なお、ビニルアルコール単位含有量は、当該PVA系重合体が含有するビニルアルコール単位およびその他の単位(例えば、ビニルエステル単位)に占めるビニルアルコール単位の割合である。このようなビニルアルコール単位含有量は、例えば、DMSO-dを溶媒としてPVA系重合体のH-NMRスペクトルを測定し、ビニルアルコール単位(A)およびその他の単位(例えば、ビニルエステル単位)(B)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出できる。
ビニルアルコール単位(モル%)=A/(A+B)×100
【0024】
PVA系重合体の平均重合度は、例えば、1000~8000が好ましく、1500~6000がより好ましく、1700~5000がさらに好ましく、2500~4500が特に好ましい。このような平均重合度であれば、耐久性に優れた偏光膜を得やすく、また、入手や生産の点でも有利である。
なお、平均重合度は、例えば、JIS K 6726(1994)に従って測定できる。
【0025】
PVA系重合体の4%水溶液粘度は、例えば、8~2500mPa・sが好ましく、15~1000mPa・sがより好ましく、25~650mPa・sがさらに好ましく、50~350mPa・sが特に好ましい。このような4%水溶液粘度であれば、耐久性に優れた偏光膜を得やすく、また、入手や生産の点でも有利である。
なお、4%水溶液粘度は、例えば、JIS K 6726(1994)に従って測定できる。
【0026】
PVA系重合体は、95℃の水に対して、例えば、90質量%以上溶解することが好ましく、95質量%以上溶解することがより好ましく、98質量%以上溶解することがより好ましく、99質量%以上溶解することが特に好ましい。
【0027】
PVA系重合体は、耐湿熱性などの観点から、50℃の水に対して5質量%以下(0~5質量%、例えば、5質量%未満)溶解することが好ましく、2質量%以下(例えば、2質量%未満)溶解することがより好ましく、1質量%以下(例えば、1質量%未満)溶解することが特に好ましい。
換言すれば、PVA系重合体は、50℃の水に対して、例えば、95質量%以上、好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上非溶解(溶解しないもの)であってもよい。
【0028】
上記のような水(95℃、50℃)に対する溶解性は、例えば、PVA系重合体を所定温度(95℃又は50℃)の水(純水)に所定割合で混合し、求めることができる。
例えば、95℃の水に対する溶解性は、PVA系重合体5質量部を、95℃の水95質量部中で攪拌(例えば、1時間などの所定時間又は十分な時間撹拌)し、得られた水溶液の上澄み液濃度および試験に用いたPVA系重合体の質量から求めることができる。
また、50℃の水に対する溶解性は、PVA系重合体10質量部を、95℃の水90質量部中で攪拌(例えば、1時間などの所定時間又は十分な時間撹拌)し、得られた水溶液の上澄み液濃度および試験に用いたPVA系重合体の質量から求めることができる。
なお、PVA系重合体は、必要に応じて、洗浄・乾燥処理した後、溶解性の測定に供してもよい(例えば、PVA系重合体は、メタノールで洗浄した後、120℃で1時間真空乾燥させ、金属塩や揮発分を除去した後、水中で撹拌してもよい)。
【0029】
なお、上記のような溶解性は、例えば、PVA系重合体のシンジオタクティシティ、ビニルアルコール単位含有量、重合度などを適宜調整することにより、効率良く調整しうる。
【0030】
本発明によれば、耐湿熱性、水溶解性、光学特性などにおいてバランス良いPVA系重合体を提供しうる。
【0031】
例えば、上記PVA系重合体は、耐湿熱性に優れる他、フィルムの延伸性や染色性にも優れるため、優れた光学特性を有するフィルム(膜)を形成するのに有用である。さらに、耐久性に優れたフィルムも得やすい。
【0032】
また、上記PVA系重合体は、水(熱水)に対して溶解しやすいため、特殊な設備・手法によらなくても、効率良く水溶液を得ることができ、生産性の点で有利である。
【0033】
そのため、上記PVA系重合体によれば、意外にも、生産性を損なうことなく、既存設備を用いて、十分な所望の物性を有する偏光膜(偏光フィルム)を得ることが可能となる。
【0034】
なお、PVA系重合体は、通常、ビニルエステル系重合体(少なくともビニルエステルを重合成分とする重合体)の鹸化物(けん化物)である。ビニルエステル系重合体は、ビニルエステル単位を有していればよく、ビニルエーテル単位、その他のモノマー由来の単位を有していてもよい。
【0035】
特に、後述するように、ビニルエステル系重合体は、シンジオタクティシティの観点から、ビニルエステル(酢酸ビニル、安息香酸ビニルなど、特に酢酸ビニル)に加えて、側鎖に嵩高い構造や極性の高い官能基を有するビニルエステル及び/又はビニルエーテル(例えば、ピバリン酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、t-ブチルビニルエーテル、トリメチルシリルビニルエーテルなど)などを重合成分としてもよく、PVA系重合体は、このような側鎖に嵩高い構造や極性の高い官能基を有するビニルエステル及び/又はビニルエーテル由来の単位を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0036】
例えば、PVA系重合体のピバリン酸ビニル単位含有量は、耐湿熱性や光学特性などの観点から、2モル%以下が好ましく、0.1~1.8モル%がより好ましく、0.2~1.5モル%がさらに好ましく、0.2~1.0モル%が特に好ましい。
【0037】
なお、ピバリン酸ビニル単位含有量は、例えば、当該PVA系重合体が含有するすべての単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位およびピバリン酸ビニル単位)に占めるピバリン酸ビニル単位の割合である。このような割合は、例えば、DMSO-dを溶媒としてPVA系重合体のH-NMRスペクトルを測定し、ビニルアルコール単位(A)、その他の単位(例えば、酢酸ビニル単位)(C)およびピバリン酸ビニル単位(D)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出できる。
ピバリン酸ビニル単位(モル%)=D/(A+C+D)×100
【0038】
PVA系重合体の酢酸ビニル単位含有量は、耐湿熱性や光学特性などの観点から、0.5モル%以下が好ましく、0.4モル%以下がより好ましく、0.01~0.3モル%が特に好ましい。
【0039】
なお、酢酸ビニル単位含有量とは、当該PVA系重合体が含有するすべての単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位およびピバリン酸ビニル単位)に占める酢酸ビニル単位の割合である。このような割合は、例えば、DMSO-dを溶媒としてPVA系重合体のH-NMRスペクトルを測定し、ビニルアルコール単位(A)、酢酸ビニル単位(C)およびその他の単位(例えば、ピバリン酸ビニル単位など)(D)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出できる。
酢酸ビニル単位(モル%)=C/(A+C+D)×100
【0040】
なお、上記PVA系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、共重合可能な他の不飽和単量体、例えば、(メタ)アクリル酸;マレイン酸;無水マレイン酸;フマル酸;クロトン酸;イタコン酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体、マレイン酸モノメチル;イタコン酸モノメチル等の不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類、アクリルアミド;ジメチルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド;ジエチルアクリルアミド;ジメチルアミノプロピルアクリルアミド;イソプロピルアクリルアミド;N-メチロールアクリルアミド;N-ビニルアセトアミド;ダイアセトンアクリルアミド等のアミド基含有不飽和単量体、塩化ビニル;フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類、アリルグリシジルエーテル;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基を有する不飽和単量体、N-ビニル-2-ピロリドン;N-ビニル-3-プロピル-2-ピロリドン;N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン;N-ビニル-5,5-ジメチル-2-ピロリドン;N-ビニル-3,5-ジメチル-2-ピロリドン;N-アリル-2-ピロリドン等の2-ピロリドン環含有不飽和単量体、メチルビニルエーテル;n-プロピルビニルエーテル;i-プロピルビニルエーテル;n-ブチルビニルエーテル;i-ブチルビニルエーテル;t-ブチルビニルエーテル;ラウリルビニルエーテル;ドデシルビニルエーテル;ステアリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、アクリロニトリル;メタアクリロニトリル等のニトリル類、アリルアルコール;ジメチルアリルアルコール;イソプロペニルアリルアルコール;ヒドロキシエチルビニルエーテル;ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有不飽和単量体、アリルアセテート;ジメチルアリルアセテート;イソプロペニルアリルアセテート等のアセチル基含有不飽和単量体、(メタ)アクリル酸メチル;(メタ)アクリル酸エチル;アクリル酸-2-エチルヘキシル;アクリル酸-n-ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、トリメトキシビニルシラン;トリブチルビニルシラン;ジフェニルメチルビニルシランなどのビニルシラン類、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート;ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド;ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類、ポリオキシエチレンビニルエーテル;ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル類、ポリオキシエチレンアリルエーテル;ポリオキシプロピレンアリルエーテル;ポリオキシエチレンビチルビニルエーテル;ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類、エチレン;プロピレン;n-ブテン;1-ヘキセン等のα-オレフィン類、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン;3,4-ジアシロキシ-1-ブテン;3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン;4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン;3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン等のブテン類、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン;4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン;4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン;4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン等のペンテン類、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン;5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等のヘキセン類、N,N-ジメチルアリルアミン;N-アリルプペラジン;3-ピペリジンアクリル酸エチルエステル;2-ビニルピリジン;4-ビニルピリジン;2-メチル-6-ビニルピリジン;5-エチル-2-ビニルピリジン;5-ブテニルピリジン;4-ペンテニルピリジン;2-(4-ピリジル)アリルアルコール等のアミン系不飽和単量体、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩などの第四アンモニウム化合物を有する不飽和単量体、スチレン等の芳香族系不飽和単量体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;2-アクリルアミド-1-メチルプロパンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;ビニルスルホン酸またはそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;アリルスルホン酸またはそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩;メタアリルスルホン酸またはそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩或いは有機アミン塩等のスルホン酸基を含有する不飽和単量体、グリセリンモノアリルエーテル;2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン;2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン;3-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン;3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン;グリセリンモノビニルエーテル;グリセリンモノイソプロペニルエーテル;アクリロイルモルホリン;ビニルエチレンカーボネート等から選ばれる1種以上とを共重合したものであってもよい。
【0041】
なお、共重合可能な他の不飽和単量体を使用する場合、他の不飽和単量体の割合は、PVA系重合体の重合成分(モノマー)全体に対して、例えば、2モル%未満、好ましくは1モル%以下、さらに好ましくは0.5モル%以下、特に好ましくは0.1モル%以下であってもよい。
【0042】
この他、本発明の効果を阻害しない範囲で、PVA系重合体は、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、アセトアセチル化、カチオン化等の反応によって後変性したものでもよい。
【0043】
なお、PVA系重合体は、1種のポリビニルアルコール系重合体であってもよく、2種以上のポリビニルアルコール系重合体の混合物であってもよい。
【0044】
このような混合物は、混合物全体において、通常、上記物性(例えば、シンジオタクティシティ、ビニルアルコール単位含有量、4%水溶液粘度、水溶解性など)を充足してもよい。
【0045】
一方、混合物において、各PVA系重合体は、上記物性(例えば、シンジオタクティシティ、ビニルアルコール単位含有量、水溶解性など)を充足してもよく、充足しなくてもよいが、充足しない場合でも、極端に上記範囲からはずれないのが好ましい。
【0046】
例えば、混合物において、各PVA系重合体(混合物を構成するすべてのPVA系重合体)のシンジオタクティシティは、53.0~56.0モル%程度であってもよく、53.2~56.0モル%が好ましく、53.4~55.8モル%がより好ましく、53.5~55.5モル%が特に好ましい。
【0047】
(PVA系重合体の製造方法)
以下、PVA系重合体の製造方法について詳細に説明する。
PVA系重合体の製造方法としては、例えば、酢酸ビニルを少なくとも含むモノマーをメタノール等の溶媒を用いて溶液重合し、未反応の酢酸ビニルなどのモノマーを除去したポリ酢酸ビニル(又は酢酸ビニル共重合体)のメタノール等溶液に、水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、鹸化させた後、溶媒を分離し、乾燥する方法が用いられる。
【0048】
PVA系重合体のシンジオタクティシティの調整は、例えば、モノマーとして用いるビニルエステルやビニルエーテルの種類を変えることによって行うことができる。例えば、酢酸ビニルに加えて、ピバリン酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等の、側鎖に嵩高い構造や極性の高い官能基を有するビニルエステルおよび/またはt-ブチルビニルエーテル、トリメチルシリルビニルエーテル等の、ビニルエーテルを重合成分とする重合体(ビニルエステル系重合体)を鹸化して得られるPVA系重合体は、酢酸ビニルのみを用いた重合体を鹸化して得られるPVAよりも、それぞれ固有の高いシンジオタクティシティ値を示す。一方、安息香酸ビニルを使用して得られるポリ安息香酸ビニルの鹸化物は、酢酸ビニルを用いたPVAよりも、低いシンジオタクティシティ値を示す。
【0049】
本発明者らは、ビニルエステルおよびビニルエーテルから選ばれる2種以上のモノマーを組み合わせて得られる共重合体の鹸化物は、それぞれのモノマーの含有比に応じて、シンジオタクティシティの値が決定されることを見出した。例えば、図1のように、酢酸ビニルとピバリン酸ビニルを重合した共重合体の鹸化物の場合、PVA系重合体のシンジオタクティシティの値は、ポリ酢酸ビニルの鹸化物のシンジオタクティシティの値53.9モル%とポリピバリン酸ビニルの鹸化物のシンジオタクティシティの値61.3モル%の間の値をとり、鹸化前のピバリン酸ビニルの含有率が大きくなるとともに、直線的にシンジオタクティシティの値も大きくなる。
【0050】
したがって、シンジオタクティシティ54.2~56.0モル%のPVA系重合体を得る方法としては、第一のモノマーとして酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のホモポリマーの鹸化物のシンジオタクティシティが54.2モル%以下である1種以上のモノマーを選択し、第二のモノマーとして、ピバリン酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、t-ブチルビニルエーテル、トリメチルシリルビニルエーテル等のホモポリマーの鹸化物のシンジオタクティシティが56.0モル%以上となる1種以上のモノマーを選択し、得られた二元共重合体または多元共重合体を鹸化することによって得られ、それぞれの共重合比を変えることによって目的のシンジオタクティシティ値を調整することができる。
【0051】
中でも、酢酸ビニルとピバリン酸ビニルは、共重合性が良く、それぞれの重合速度も近いため、図2からわかるように、重合時間によって酢酸ビニルとピバリン酸ビニルの共重合比がほとんど変わらないことから、得られる共重合体のシンジオタクティシティを調整しやすいという点で好ましい。また、酢酸ビニルおよびピバリン酸ビニルは、重合時の連鎖移動が起こりにくいため、重合度の高いPVA系重合体を得られやすく、偏光膜用のPVA系重合体を得るための共重合モノマーとして好適である。
【0052】
この場合、酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体中のピバリン酸ビニル単位含有量は、4~24モル%が好ましく、4~20モル%がより好ましく、5~15モル%がさらに好ましい。このようなピバリン酸ビニル単位含有量とすることで、シンジオタクティシティを効率よく前記範囲に調整しやすく、生産性、光学特性、耐湿熱性などの点で有利である。
【0053】
なお、酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体において、ピバリン酸ビニル単位含有量は、鹸化前の共重合体が含有するピバリン酸ビニル単位および酢酸ビニル単位に占めるピバリン酸ビニル単位の割合である。すなわち、CDClを溶媒として共重合体のH-NMRスペクトルを測定し、ピバリン酸ビニル単位(E)および酢酸ビニル単位(F)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出できる。
ピバリン酸ビニル単位(モル%)=E/(E+F)×100
【0054】
PVA系重合体の原料モノマー(例えば、ビニルエステル類および/またはビニルエーテル類)の共重合方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を採用することができ、中でもメタノールを溶媒とする溶液重合が工業的に好ましい。
【0055】
PVA系重合体は、所望のシンジオタクティシティに調整することが重要であり、そのため、前述のとおり、ビニルエステル類、ビニルエーテル類から適切な共重合モノマーを選択し、適切な共重合比からなる共重合体にすることが必要であるが、各モノマーの重合速度に応じて、モノマーの仕込み組成を調整したり、使用するモノマーの重合速度が大きく異なる場合、重合速度の大きいモノマーを、重合中、途中添加したり、連続添加することが必要となる。
【0056】
共重合モノマーとして、酢酸ビニルとピバリン酸ビニルを用いる場合、共重合時の各モノマーの仕込み量は、目的とするピバリン酸ビニル含有量を考慮して決定し、初期一括で仕込むことができる。図2に示したように、ピバリン酸ビニルと酢酸ビニルは同程度のラジカル反応性を有しており、仕込みモル比と共重合体のピバリン酸ビニル単位含有量はほぼ同一の値となる。また、同程度のラジカル反応性を有しているため、当該共重合体はピバリン酸ビニル単位含有量のムラが小さいという特徴を有する。そのため、未溶解物に起因する欠点(偏光膜ないし偏光フィルムにおける欠点)が生じにくい。
【0057】
酢酸ビニルとピバリン酸ビニルの共重合方法は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を採用することができ、中でもメタノールを溶媒とする溶液重合が工業的に好ましい。
【0058】
本発明で使用される重合触媒(重合開始剤)は、特に限定されないが、通常アゾ系化合物や過酸化物が用いられる。
【0059】
重合の際、酢酸ビニルやピバリン酸ビニルの加水分解を防止する目的で酒石酸、クエン酸、酢酸等の有機酸を添加してもよい。
【0060】
また重合の際には、重合容器の形状、重合攪拌機の種類、さらには重合温度や重合容器内の圧力等いずれも公知の方法を使用してかまわない。重合の終了は、特に限定されないが、重合停止剤を使用することもできる。重合停止剤は、特に限定されず、例えば、m-ジニトロベンゼン等が挙げられる。
【0061】
上記共重合体の鹸化方法は、従来公知のアルカリ鹸化及び酸鹸化を適用することができるが、中でも酢酸ビニル系共重合体を溶媒に溶解させ、水酸化アルカリの存在下で鹸化する方法が工業的に好ましい。
【0062】
鹸化に用いられる溶媒は、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、アミルアルコール、シクロヘキサノ―ルなど)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、フラン、ジエチルエーテルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ピナコリンなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチルなど)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、飽和炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなど)、ジメチルスルホキシド、水などがあげられる。これらの溶媒は、一種単独で使用してもよく、二種類以上を混合して使用することもできる。
【0063】
鹸化に用いられる鹸化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド、水素化アルミニウムリチウム、硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸などが挙げられる。
これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好適に用いられる。
【0064】
鹸化時の乾燥、粉砕方法も特に制限はなく、公知の方法を使用してもかまわない。
【0065】
なお、鹸化前の共重合体に含まれるピバリン酸ビニル単位と酢酸ビニル単位は加水分解性が大きく異なり、通常は酢酸ビニル単位から優先的に鹸化される。
【0066】
[水溶液]
前記PVA系重合体は、通常、水(熱水)に溶解する。そのため、本発明には、前記PVA系重合体を含む水溶液も含まれる。
【0067】
水溶液は、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、水以外の溶媒成分(後述の溶媒など)、各種添加剤(可塑剤、界面活性剤など)を含んでいてもよい。
【0068】
なお、水以外の溶媒成分を含む水溶液において、水と他の溶媒成分との割合は、例えば、質量比で、99/1~50/50、好ましくは98/2~70/30、さらに好ましくは97/3~80/20程度であってもよく、95/5~85/15程度であってもよい。
【0069】
このような水溶液において、PVA系重合体の濃度は、用途等に応じて選択でき、特に限定されないが、例えば、90~100℃(例えば、95~99.5℃、96~99℃)において、0.1~50質量%、好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1~25質量%(例えば、3~20質量%)程度であってもよく、2~15質量%(例えば、3~10質量%など)であってもよい。
【0070】
[PVA系重合体の用途]
前記PVA系重合体(及びその水溶液)は、膜(フィルム)、特に、偏光膜(偏光フィルム)を形成するのに有用である。そのため、前記PVA系重合体は、膜(フィルム)、特に、偏光膜(偏光フィルム)用のPVA系重合体であってもよい。
【0071】
以下、膜(フィルム)、特に偏光膜(偏光フィルム)について詳細に説明する。
【0072】
本発明の膜(フィルム)は、PVA系重合体を含む塗布液(特に水溶液)をフィルム(膜)成形する工程を経て製造できる。
【0073】
特に、上記PVA系重合体を用いて膜(偏光膜)を製造する際の具体的な方法は特に制限されず、従来から採用されているいずれの方法を採用してもよい。例えば、樹脂基材の片側にPVA系重合体層を形成し、樹脂基材とPVA系重合体層との積層体を延伸および染色してPVA系重合体層を偏光膜とする方法を挙げることができる。
【0074】
上記膜(PVA系重合体層)の形成方法は特に限定されないが、樹脂基材上にPVA系重合体を含む塗布液(特に水溶液)を塗布(さらに乾燥)する方法が好適に用いられる。
【0075】
上記樹脂基材は、特に限定されないが、通常熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、エステル系樹脂が好適に用いられる。
【0076】
樹脂基材(延伸前)の厚みは、20μm~300μmが好ましく、50μm~200μmがより好ましい。このような厚みの樹脂基材を用いることで、PVA系重合体層の形成しやすくなるとともに、延伸時の負荷を軽減することができる。
【0077】
上記塗布液は、特に限定されないが、通常PVA系重合体を溶媒に溶解させた溶液が用いられる。
【0078】
塗布液に用いられる溶媒は、特に限定されないが、例えば、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、グリセリン、グリコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなど)、多価アルコール類(例えば、トリメチロールプロパンなど)、アミン類(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど)などがあげられる。これらの溶媒は、一種単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用することもできる。これらの中でも、水が好適に用いられる。
【0079】
そのため、溶媒は、少なくとも水を含んでいてもよい。このような水を含む溶媒において、水と他の溶媒とを組み合わせる場合、水と他の溶媒との割合は、例えば、質量比で、99/1~50/50、好ましくは98/2~70/30、さらに好ましくは97/3~80/20程度であってもよく、95/5~85/15程度であってもよい。
【0080】
上記塗布液のPVA系重合体濃度は、特に限定されないが、溶媒100質量部に対して3質量部~20質量部が好ましい。このような濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成しやすい。
【0081】
塗布液には、必要に応じて、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA重合体層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。また、添加剤としては、例えば、易接着成分が挙げられる。易接着成分を用いることにより、樹脂基材とPVA系重合体層との密着性を向上させ得る。その結果、例えば、基材からPVA系重合体層が剥がれる等の不都合を抑制して、後述の染色、水中延伸を良好に行うことができる。易接着成分としては、例えば、アセトアセチル変性PVAなどの変性PVAが用いられる。
【0082】
塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0083】
PVA系重合体層を形成する前に、樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、樹脂基材とPVA系重合体層との密着性を向上させることができる。
【0084】
上記PVA系重合体層(延伸前)の厚みは、好ましくは3μm~20μmである。
【0085】
次に、上記で得られた樹脂基材とPVA系重合体層の積層体を延伸および染色して前記PVA系重合体層を偏光膜とする。延伸および染色の順序は、目的、延伸方式等に応じて適切に設定され得る。具体的には、延伸を先に行ってもよく、染色を先に行ってもよく、延伸を多段階で行う場合には延伸と延伸の間に染色を行ってもよい。
【0086】
延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間にPVA系重合体を通して一軸延伸する方法)でもよい。
【0087】
一軸延伸は、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合はホウ酸を含む水溶液中で行うこともできるし、後述する染色液中、不溶化浴中または架橋浴中で行うこともできる。また乾式延伸の場合は空気中で行うこともできる。延伸温度は特に限定されないが、湿式延伸法の場合は30~90℃が、乾式延伸法の場合は50~180℃が好ましい。
【0088】
延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、例えば、上記自由端延伸と固定端延伸とを組み合わせてもよい。
【0089】
延伸倍率は、PVA系重合体層(積層体)の元長に対して、好ましくは4.0倍以上である。
【0090】
PVA系重合体層の染色は、代表的には、PVA系重合体層にヨウ素を吸着させることにより行う。前記吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系重合体層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系重合体層に前記染色液を塗工する方法、PVA重合体層に前記染色液を噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、染色液にPVA系重合体層(積層体)を浸漬させる方法が好適に用いられる。
【0091】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~0.5質量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0092】
ヨウ素水溶液において、ヨウ化物の配合量は、水100質量部に対して、好ましくは0.02質量部~20質量部、より好ましくは0.1質量部~10質量部である。
【0093】
染色液の染色時の液温は、PVA系重合体の溶解を抑制するため、好ましくは20℃~50℃である。染色液にPVA系重合体層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系重合体層の透過率を確保するため、好ましくは5秒~5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度、単体透過率および/またはヨウ素濃度分布が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が高くなる(例えば、97%以上、98%以上、99%以上などとなる)ように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%~44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0094】
上記PVA系重合体層(積層体)は、延伸および染色以外に、偏光膜とするための処理が、適宜施され得る。偏光膜とするための処理としては、例えば、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が挙げられる。なお、これらの処理の回数、順序等は、特に限定されない。
【0095】
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系重合体層(積層体)を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系重合体層に耐水性を付与することができる。前記ホウ酸水溶液の濃度は、水100質量部に対して、好ましくは1質量部~4質量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~50℃である。
【0096】
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系重合体層(積層体)を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系重合体層に耐水性を付与することができる。前記ホウ酸水溶液の濃度は、水100質量部に対して、好ましくは1質量部~5質量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系重合体層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100質量部に対して、好ましくは1質量部~5質量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20~60℃である。好ましい実施形態においては、延伸処理、染色処理および架橋処理をこの順で行う。
【0097】
上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系重合体層(積層体)を浸漬することにより行う。上記乾燥処理における乾燥温度は、好ましくは30℃~100℃である。
【0098】
以上のようにして、樹脂基材上に偏光膜が形成される。
【0099】
代表的には、偏光膜は、その片側または両側に保護フィルムが積層された状態で(すなわち、偏光板として)使用される。保護フィルムの積層には、任意の適切な接着剤または粘着剤が用いられる。上記樹脂基材を用いる場合、樹脂基材を剥離せずにそのまま保護フィルムとして用いてもよい。
【0100】
本発明の偏光膜(又は偏光板)は、通常、耐湿熱性に優れている。例えば、偏光膜(又は偏光板)を60℃、90%RHの雰囲気下で10時間放置したとき、下記式で表される偏光度の変化率は、20%以下(例えば、18%以下)、好ましくは15%以下(例えば、13%以下)、さらに好ましくは10%以下(例えば、8%以下)であってもよい。
変化率(%)=(放置前の偏光度-放置後の偏光度)/放置前の偏光度×100
【0101】
偏光膜(又は偏光板の)放置後の偏光度[すなわち、偏光膜(又は偏光板)を60℃、90%RHの雰囲気下で10時間放置したときの下記式で表される偏光度]は、例えば、80%以上(例えば、82%以上)、好ましくは83%以上(例えば、84%以上)、さらに好ましくは85%以上(例えば、86%以上)であってもよく、88%以上、90%以上、92%以上、94%以上、95%以上などであってもよい。
【0102】
本発明の偏光膜(又は偏光板)は、特に限定されないが、例えば、電卓、腕時計、自動車や機器類の計器類、ノートパソコン、モニター、テレビ、プロジェクター、携帯電話、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCDなど)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具などに用いられる。
【実施例
【0103】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、例中の「部」および「%」は、特に指定しない限り「質量部」および「質量%」を示す。
【0104】
[共重合体のピバリン酸ビニル単位含有量]
CDClを溶媒として共重合体のH-NMRスペクトル(400MHz、23℃)を測定し、ピバリン酸ビニル単位(E)および酢酸ビニル単位(F)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出した。
ピバリン酸ビニル単位(モル%)=E/(E+F)×100
【0105】
[PVA系重合体の重合度]
JIS K 6726(1994)に従って求めた。ただし、100℃未満の水に対して溶解しないPVA系重合体については、160℃で加圧溶解して水溶液の調製を行い、重合度の測定を行った。
【0106】
[PVA系重合体のビニルアルコール単位含有量]
DMSO-dを溶媒としてPVA系重合体のH-NMRスペクトル(400MHz、23℃)を測定し、ビニルアルコール単位(A)、酢酸ビニル単位(C)およびピバリン酸ビニル単位(D)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出した。
ビニルアルコール単位(モル%)=A/(A+C+D)×100
【0107】
[PVA系重合体のピバリン酸ビニル単位含有量]
DMSO-dを溶媒としてPVA系重合体のH-NMRスペクトル(400MHz、23℃)を測定し、ビニルアルコール単位(A)、酢酸ビニル単位(C)およびピバリン酸ビニル単位(D)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出した。
ピバリン酸ビニル単位(モル%)=D/(A+C+D)×100
【0108】
[PVA系重合体の酢酸ビニル単位含有量]
DMSO-dを溶媒としてPVA系重合体のH-NMRスペクトル(400MHz、23℃)を測定し、ビニルアルコール単位(A)、酢酸ビニル単位(C)およびピバリン酸ビニル単位(D)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出した。
酢酸ビニル単位(モル%)=C/(A+C+D)×100
【0109】
[PVA系重合体のシンジオタクティシティ]
DMSO-dを溶媒としてH―NMRスペクトル(400MHz、23℃)を測定し、アイソタクティシティ(I)、ヘテロタクティシティ(H)、およびシンジオタクティシティ(S)それぞれに帰属されるピークの面積値比を使用して以下の通り算出した。
シンジオテクティシティ(ダイアッド表示)(モル%)
=(S/(I+H+S)+H/(2×(I+H+S))×100
なお、鹸化度が99モル%未満のPVA系重合体については、鹸化度99モル%以上となるまで鹸化した後、測定に供した。
【0110】
[PVA系重合体の4%水溶液粘度]
JIS K 6726(1994)記載の回転粘度計法に従って求めた。
【0111】
[PVA系重合体の熱水溶解性]
メタノールで洗浄したPVA系重合体を65℃で1時間乾燥させた後、120℃で1時間乾燥させ、金属塩や揮発分を除去したPVA系重合体を下記の試験に用いた。
上記操作を行ったPVA系重合体5部、純水95部および攪拌子を入れたスクリュー管を用意した。このスクリュー管を95℃の油浴に浸け、95℃で1時間加熱攪拌を行った。次いで20℃で1時間冷却した後、上澄み液の濃度を測定した。
試験に用いたPVA系重合体の質量および上済み液の濃度から、PVA系重合体が95℃の水に溶解した割合を算出した。
【0112】
[PVA系重合体の温水溶解濃度]
メタノールで洗浄したPVA系重合体を65℃で1時間乾燥させた後、120℃で1時間乾燥させ、金属塩や揮発分を除去したPVA系重合体を下記の試験に用いた。
上記操作を行ったPVA系重合体10部、純水90部および攪拌子を入れたスクリュー管を用意した。このスクリュー管を50℃の油浴に浸け、50℃で1時間加熱攪拌を行った。次いで20℃で1時間冷却した後、上澄み液の濃度を測定した。
試験に用いたPVA系重合体の質量および上済み液の濃度から、PVA系重合体が50℃の水に溶解した割合を算出した。
【0113】
[偏光膜の透過度および偏光度]
作製した偏光膜について、380~780nmの波長光における分光透過度を積分球付き分光光度計を用いて測定した。
なお、偏光度は、2枚の同じ偏光膜を両者の透過軸が平行となるように重ね合わせた場合の透過度(Tp)および、両者の透過軸が直交するように重ね合わせた場合の透過度(Tc)を以下の式に適用することにより求められるものである。
偏光度(%)=[(Tp-Tc)/(Tp+Tc)]1/2×100
各透過度は、グランテラープリズム偏光子を通して得られた完全偏光を100%として測定し、測定された分光透過率によりCIE1931 Yxy表色系に従い、2度視野(C光源)により視感度補正したY値で示したものである。
【0114】
[重合例1]
攪拌機を備えた加温可能な重合缶に、酢酸ビニル2000部、ピバリン酸ビニル159部、およびメタノール526部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、還流状態になるまで昇温した。昇温後5分間還流させてから、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.14部をメタノール9.4部に溶解させて添加し、重合を開始した。重合缶内に窒素流通を続けながら、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.07部をメタノール4.3部に溶解させた溶液を2回に分けて分割添加した。3時間後に重合禁止剤とメタノールを添加し、重合を停止した。重合収率は69%であった。得られた反応混合物にメタノールを加えて溶媒を留去すること操作を繰り返すことで、未反応の単量体を除き、酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体の53%メタノール溶液を得た。
【0115】
[重合例2~5]
酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、メタノールの仕込み量を表1のように変えた以外は、重合例1と同様にして酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体を得た。
【0116】
[比較重合例1]
酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、メタノールの仕込み量を表1のように変えた以外は、重合例1と同様にして酢酸ビニル重合体を得た。
【0117】
[比較重合例2]
攪拌機を備えた加温可能な重合缶に、酢酸ビニル492部、ピバリン酸ビニル1100部、およびメタノール388部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、還流状態になるまで昇温した。昇温後5分間還流させてから、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.10部をメタノール6.9部に溶解させて添加し、重合を開始した。重合缶内に窒素流通を続けながら、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.05部をメタノール3.2部に溶解させた溶液を添加した。3時間後に重合禁止剤とメタノールを添加し、重合を停止した。重合収率は77%であった。得られた反応混合物からメタノールと未反応の単量体を除去した後、アセトンに再溶解させ、酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体の25%アセトン溶液を得た。
【0118】
[比較重合例3]
酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、メタノールの仕込み量を表1のように変えた以外は、比較重合例2と同様にしてピバリン酸ビニル重合体を得た。
【0119】
【表1】
【0120】
[実施例1]
重合例1で得られた酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体のメタノール溶液228部に、メタノール154部、水酸化ナトリウムの5%メタノール溶液22部を加えてよく混合し、40℃で30分鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、メタノールでよく洗浄した後、メタノール33部、水酸化ナトリウムの5%メタノール溶液324部を加えた後よく混合し、50℃で2日間鹸化反応を行った。得られた固体をメタノールでよく洗浄した後に乾燥し、PVA系重合体を得た。
【0121】
[実施例2~6]
使用する重合体と鹸化条件を変えた以外は、実施例1と同様の方法で表2に示すPVA系重合体を得た。
【0122】
[比較例1~4]
使用する重合体と鹸化条件を変えた以外は、実施例1と同様の方法で表2に示すPVA系重合体を得た。
【0123】
[比較例5]
比較例2で得られた酢酸ビニル-ピバリン酸ビニル共重合体のアセトン溶液151部に、水酸化カリウムの25%メタノール溶液53部を加えてよく混合し、50℃で1時間鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、アセトン150部、水酸化カリウムの25%メタノール溶液169部を加えた後よく混合し、50℃で4時間鹸化反応を行った。得られた固体をメタノールでよく洗浄した後に乾燥し、PVA系重合体を得た。
【0124】
[比較例6]
使用する重合体と鹸化条件を変えた以外は、比較例5と同様の方法で表2に示すPVA系重合体を得た。
【0125】
[実施例7]
実施例1で得られたPVA系重合体(90部)と比較例1で得られたPVA系重合体(10部)をよく混合し、PVA系重合体の混合物を得た。
【0126】
[実施例8]
実施例1で得られたPVA系重合体(90部)と比較例3で得られたPVA系重合体(10部)をよく混合し、PVA系重合体の混合物を得た。
【0127】
[実施例9]
実施例1で得られたPVA系重合体(70部)と比較例4で得られたPVA系重合体(30部)をよく混合し、PVA系重合体の混合物を得た。
【0128】
実施例1~9および比較例1~6を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
表2に示したように、本発明のPVA系重合体(実施例1~9)は、95℃の熱水に対する溶解性が良好で、50℃の温水に対する溶解性が低かった。
【0131】
ビニルアルコール単位含有量が98質量%未満のPVA系重合体(比較例1~2)やシンジオタクティシティが54.0モル%未満のPVA系重合体(比較例3~4)は、50℃の温水に対する溶解性が高くなってしまった。
【0132】
一方、シンジオタクティシティが56.0モル%を超えるPVA系重合体(比較例5~6)は、95℃の熱水に対する溶解性が低かった。
【0133】
[実施例10]
実施例1で作製したPVA系重合体100部と、グリセリン10部を98℃で水に溶解し、濃度7%のPVA系重合体水溶液を調製した。前記水溶液を表面が平滑で水平なPETフィルム上に流延し、乾燥して厚さ75μmのフィルムを作製した。得られたフィルムを30℃の水中に5分間浸漬して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸漬した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で5.0倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。得られた偏光膜を用いて透過度および偏光度の測定を行った。また、前記偏光膜を60℃、90%RHの雰囲気下で10時間放置し、再度偏光度の測定を行った。
【0134】
[実施例11~18、比較例7~11]
使用するPVA系重合体を表3のように変えた以外は実施例10と同様の方法で偏光膜を作製し、初期と湿熱処理後の透過度および偏光度を測定した。
【0135】
【表3】
【0136】
表3に示すように、本発明のPVA系重合体は、初期の偏光度が高く、湿熱処理後の偏光度の減少も少なかった(実施例10~18)。
【0137】
ビニルアルコール単位が98.0モル%未満であるPVA系重合体やシンジオタクティシティが54.0モル%未満のPVA系重合体は、初期の偏光度が低く、湿熱処理後の偏光度の減少も大きかった(比較例7~9)。
【0138】
シンジオタクティシティが56.0モル%を超えるPVA系重合体は、98℃の条件でも完全に溶解しなかったため、偏光膜を作製することができなかった(比較例10~11)。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明では、新規なPVA系重合体を提供できる。このようなPVA系重合体は、偏光膜用などとして好適である。偏光膜は、例えば、電卓、腕時計、自動車や機器類の計器類、ノートパソコン、モニター、テレビ、プロジェクター、携帯電話、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCDなど)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具などに好適に用いられる。
図1
図2