(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220930BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220930BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220930BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20220930BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20220930BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 J
C23C2/06
C23C2/26
C23C2/40
(21)【出願番号】P 2020533604
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 KR2018011965
(87)【国際公開番号】W WO2019124693
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】10-2017-0178003
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】アン、 ヨン-サン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 チャン-ヒョ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ガン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ウル-ヨン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-009057(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107109588(CN,A)
【文献】国際公開第2013/047820(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/047755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
C23C 2/00 - 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):1.5%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.7~2.5%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下、ボロン(B):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)、残部Fe及びその他の不可避な不純物からなり、
前記C、Si、Al、Mn、Mo及びCrの関係が下記関係式1を満たし、
[関係式1]
(Si+Al+C)/(Mn+Mo+Cr)≧0.25
(ここで、各元素は重量含量を意味する。)
微細組織として、面積分率40%以上のフェライトと残部ベイナイト、フレッシュ(fresh)マルテンサイト及び残留オーステナイトを含み、
前記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と前記ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの分率(Mb)との比(Mb/Mt)が60%以上であり、前記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と平均粒度3μm以下の微細フレッシュマルテンサイトの分率(Ms)との比(Ms/Mt)が60%以上であり、
前記フレッシュマルテンサイトは面積分率
19~35
%、前記ベイナイトは面積分率30%以下(0面積%を除く)で含まれる、
加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項2】
前記鋼板は、少なくとも一面に亜鉛系めっき層を含む、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、780MPa以上の引張強度を有し、4~6%の変形区間で測定した加工硬化指数(n)、延性(El)、引張強度(TS)及び降伏比(YR)の関係が下記関係式2を満たす、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
[関係式2]
(n×El×TS)/YR ≧5000
(ここで、単位はMPa%である。)
【請求項4】
重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):1.5%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.7~2.5%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下、ボロン(B):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)、残部Fe及びその他の不可避な不純物からなり、
前記C、Si、Al、Mn、Mo及びCrの関係が下記関係式1:
[関係式1]
(Si+Al+C)/(Mn+Mo+Cr)≧0.25
(ここで、各元素は重量含量を意味する。)
を満たす鋼スラブを、1050~1300℃の温度範囲で再加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブをAr3変態点以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、
前記巻取後に常温まで0.1℃/s以下の冷却速度で1次冷却する段階と、
前記冷却後に40~70%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板をAc1+30℃~Ac3-20℃の温度範囲で連続焼鈍する段階と、
前記連続焼鈍後に630~670℃まで10℃/s以下(0℃/sを除く)の冷却速度で2次冷却する段階と、
前記2次冷却後に水素冷却設備にて400~500℃まで5℃/s以上の冷却速度で3次冷却する段階と、
前記3次冷却後に70秒以上保持する段階と、
前記保持後に溶融亜鉛めっきする段階と、
前記溶融亜鉛めっき後にMs以下まで1℃/s以上の冷却速度で最終冷却する段階と、
を含み、
微細組織として、面積分率40%以上のフェライトと残部ベイナイト、フレッシュ(fresh)マルテンサイト及び残留オーステナイトを含み、
前記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と前記ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの分率(Mb)との比(Mb/Mt)が60%以上であり、前記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と平均粒度3μm以下の微細フレッシュマルテンサイトの分率(Ms)との比(Ms/Mt)が60%以上であり、
前記フレッシュマルテンサイトは面積分率
19~35
%、前記ベイナイトは面積分率30%以下(0面積%を除く)で含まれる鋼板を得る、
加工性に優れた鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ熱間圧延時に出口側の温度がAr3~Ar3+50℃を満たす、請求項4に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記3次冷却時にベイナイト相が形成される、請求項4に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記溶融亜鉛めっき後の最終冷却時にフレッシュ(fresh)マルテンサイト相が形成される、請求項4に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記溶融亜鉛めっきする段階は430~490℃の亜鉛めっき浴で行う、請求項4に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記最終冷却後に1.0%未満の圧下率で調質圧延する段階をさらに含む、請求項4に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車構造部材用に使用される高強度鋼板に関し、より詳細には、加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用素材において、各種の環境規制及びエネルギー使用規制に伴い、自動車の燃費向上または耐久性向上のために高強度鋼板の使用が求められている。
【0003】
一般に、鋼板の強度が高くなるほど、伸びが減少するようになり、これにより成形加工性が低下するという問題があるため、これを補うことができる素材の開発が求められているのが実情である。
【0004】
一方、鋼を強化する方法には、固溶強化、析出強化、結晶粒微細化による強化、変態強化などがあるが、このうち固溶強化及び結晶粒微細化による強化は、引張強度490MPa級以上の高強度鋼を製造しにくいという欠点がある。
【0005】
析出強化型の高強度鋼は、Cu、Nb、Ti、Vなどのような炭化物または窒化物の形成元素を添加して析出物を形成させることで、鋼を強化させたり、又は微細析出物による結晶粒の成長抑制を通じて結晶粒の微細化による強度を確保する技術である。これは、低い製造コストに対して強度を容易に向上させることができるという利点を有するが、微細析出物により再結晶の温度が急激に上昇するため、十分な再結晶を引き起こして延性を確保するためには、高温焼鈍を施さなければならないという欠点がある。また、フェライト基地に炭化物または窒化物を析出させることで鋼を強化するため、引張強度600MPa以上の高強度鋼を得るのには限界がある。
【0006】
変態強化型の高強度鋼としては、フェライト基地に硬質のマルテンサイトを含ませたフェライト-マルテンサイト2相組織(Dual Phase)鋼、残留オーステナイトの変態誘起塑性を用いたTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼、またはフェライトと、硬質のベイナイトまたはマルテンサイトの低温組織鋼で構成されるCP(Complexed Phase)鋼などが開発されてきた。
【0007】
最近、自動車の燃費向上及び耐久性向上とともに、衝突安全性及び乗客保護のために、引張強度780MPa以上の高強度鋼板の、車体構造や補強材(メンバー(member)、シートレール(seat rail)及びピラー(pillar)など)としての使用量が増大している。
【0008】
しかし、強度が次第に高強度化するにつれて、鋼板を部品として製作するためにプレス成形する過程でクラック(crack)又はシワが発生し、複雑な部品を製造する上で限界にきている。
【0009】
このような高強度鋼板の加工性を向上させるためには、変態強化型の高強度鋼のうち最も広く使用されているDP鋼の特性である低降伏比(low Yield Ratio)を満足させると共に、既存のDP鋼に対して延性(El)及び加工硬化指数(n)を向上させるべきである。このようなことの実現が可能であれば、複雑な部品を製作するための素材として、高強度鋼板の適用を拡大させることができる。
【0010】
一方、高強度鋼板の加工性を向上させようとする技術として、特許文献1では、マルテンサイトを主体とする複合組織からなる鋼板を開示している。具体的に、加工性を向上させるために、組織の内部に粒径1~100nmの微細析出銅(Cu)粒子を分散させた高張力鋼板を製造する方法を提示している。ところが、微細Cu粒子を析出させるためには2~5重量%の高い含量でCuを添加しなければならず、この場合、Cuによる赤熱脆性が発生する恐れがあり、製造コストが過度に上昇するという問題がある。
【0011】
他の例として、特許文献2では、フェライトを基地組織としてパーライト(pearlite)を2~10面積%含む微細組織を有し、且つ析出強化型元素であるNb、Ti、Vなどの元素を添加して析出強化及び結晶粒微細化により強度を向上させた鋼板を開示している。この場合、鋼板の穴拡げ性は良好であるが、引張強度を上げるのに限界があり、降伏強度が高くて延性が低いため、プレス成形時にクラックなどの欠陥が発生するという問題がある。
【0012】
また他の例として、特許文献3では、テンパード-マルテンサイト相を活用して高強度及び高延性を同時に得ると共に、連続焼鈍後の板形状も優れた冷延鋼板について開示している。しかし、この場合には、炭素(C)の含量が0.2%以上と高く、溶接性に劣るという問題及びSiの多量添加に起因する炉内デント欠陥が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開第2005-264176号公報
【文献】韓国公開特許第2015-0073844号公報
【文献】特開第2010-090432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の一側面は、引張強度780MPa級以上の高強度鋼板を提供するにあたり、低降伏比を有しながらも、延性(El)及び加工硬化指数(n)に優れており、加工性が向上した高強度鋼板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面は、重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):1.5%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.7~2.5%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下、ボロン(B):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含み、
微細組織として、面積分率40%以上のフェライトと残部ベイナイト、フレッシュ(fresh)マルテンサイト及び残留オーステナイトを含み、上記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と上記ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの分率(Mb)との比(Mb/Mt)が60%以上であり、上記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と平均粒度3μm以下の微細フレッシュマルテンサイトの分率(Ms)との比(Ms/Mt)が60%以上である、加工性に優れた高強度鋼板を提供する。
【0016】
本発明の他の一側面は、上述の合金組成を満たす鋼スラブを1050~1300℃の温度範囲で再加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブをAr3変態点以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、上記巻取後に常温まで0.1℃/s以下の冷却速度で1次冷却する段階と、上記冷却後に40~70%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、上記冷延鋼板をAc1+30℃~Ac3-20℃の温度範囲で連続焼鈍する段階と、上記連続焼鈍後に630~670℃まで10℃/s以下(0℃/sを除く)の冷却速度で2次冷却する段階と、上記2次冷却後に水素冷却設備にて400~500℃まで5℃/s以上の冷却速度で3次冷却する段階と、上記3次冷却後に70秒以上保持する段階と、上記保持後に溶融亜鉛めっきする段階と、上記溶融亜鉛めっき後にMs以下まで1℃/s以上の冷却速度で最終冷却する段階と、を含む、加工性に優れた鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、合金組成及び製造条件の最適化により高強度を有しながらも、加工性の向上した鋼板を提供することができる。
【0018】
このように、加工性の向上した本発明の鋼板は、プレス成形時にクラック又はシワなどの加工欠陥を防止することができるため、複雑な形状への加工が求められる構造用などの部品に好適に適用できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例による、比較鋼と発明鋼の微細組織形状を模式化して示したものである。ここで、発明鋼の微細組織形状は一例として示したものであり、示された形状に限らない。
【
図2】本発明の一実施例において、発明綱と比較鋼のC、Si、Al、Mn、Mo及びCr間の濃度比(関係式1に該当)による相占有比(Mb/Mt)の変化を示したものである。
【
図3】本発明の一実施例において、相占有比(Mb/Mt)による微細フレッシュマルテンサイト相の占有比(Ms/Mt)の変化を示したものである。
【
図4】本発明の一実施例において、相占有比(Mb/Mt)による機械的性質(関係式2に該当)の変化を示したものである。
【
図5】本発明の一実施例において、微細フレッシュマルテンサイト相の占有比(Ms/Mt)による機械的性質(関係式2に該当)の変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の発明者らは、自動車用素材のうち複雑な形状への加工が求められる部品などに好適に使用できる水準の加工性を有する素材を開発するために、鋭意研究した。
【0021】
その結果、合金組成及び製造条件を最適化することにより、目標とする物性の確保に有利な組織を有する高強度鋼板を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0022】
特に、本発明では、最終組織に少量のベイナイトを導入し、上記ベイナイト粒界の周辺にフレッシュマルテンサイト(fresh martensite)を形成させることにより、マルテンサイトが均一に分散し、その大きさも微細化して加工初期に変形を効果的に分散させることができることを見出した。これにより、加工硬化率を大きく向上させることができ、局部的な応力集中を緩和させることにより、延性を大きく向上させることに技術的意義があるといえる。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、重量%で、炭素(C):0.06~0.18%、シリコン(Si):1.5%以下(0%を除く)、マンガン(Mn):1.7~2.5%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):1.0%以下(0%を除く)、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下、ボロン(B):0.01%以下(0%を除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0%を除く)を含むことが好ましい。
【0025】
以下では、上記高強度鋼板の合金組成を上記のように制御した理由について詳細に説明する。この際、特に言及しない限り、各合金組成の含量は、重量%を意味する。
【0026】
C:0.06~0.18%
炭素(C)は、鋼の変態組織強化のために添加する主な元素である。このようなCは、鋼の高強度化を図り、複合組織鋼においてマルテンサイトの形成を助長する。上記C含量が増加するほど、鋼中のマルテンサイト量が増加するようになる。
【0027】
ところが、このようなCの含量が0.18%を超えると、鋼中のマルテンサイト量の増加により強度は高くなるものの、相対的に炭素濃度の低いフェライトとの強度の差が増加するようになる。このような強度の差は、応力を付加する際、相間の界面で破壊を発生させやすいため、延性と加工硬化率を低下させるという問題がある。また、溶接性に劣るため、クライアント企業での部品加工の際、溶接欠陥が発生するという問題がある。一方、上記Cの含量が0.06%未満であると、目標とする強度を確保しにくくなる。
【0028】
したがって、本発明では、上記Cの含量を0.06~0.18%に制御することが好ましい。より有利には0.08%以上、さらに有利には0.1%以上含むことができる。
【0029】
Si:1.5%以下(0%を除く)
シリコン(Si)は、フェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進し、未変態オーステナイトへのC濃縮を助長することで、マルテンサイトの形成を促進する元素である。また、固溶強化能がよく、フェライトの強度を高めて相間の硬度差を縮めるのに効果的であり、鋼板の延性を低下させることなく強度を確保するのに有用な元素である。
【0030】
このようなSiの含量が1.5%を超えると、表面にスケール欠陥を誘発させてめっきの表面品質が劣り、化成処理性を阻害するという問題がある。
【0031】
したがって、本発明では、上記Siの含量を1.5%以下に制御することが好ましく、0%は除く。より好ましくは0.3~1.0%含むことができる。
【0032】
Mn:1.7~2.5%
マンガン(Mn)は、延性を低下させることなく粒子を微細化させ、鋼中の硫黄(S)をMnSとして析出させてFeSの生成による熱間脆性を防止する効果がある。また、上記Mnは、鋼を強化させる元素であると共に、複合組織鋼においてマルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を下げる役割を果たし、マルテンサイトをより容易に形成させるのに有用である。
【0033】
このようなMnの含量が1.7%未満であると、上述の効果が得られないだけでなく、目標レベルの強度を確保するのに困難がある。一方、その含量が2.5%を超えると、溶接性、熱間圧延性などの問題が発生する可能性が高く、マルテンサイトが過剰に形成されて材質が不安定となり、組織内のMn-Band(Mn酸化物の帯)が形成され、加工クラック及び板破断の発生リスクが高くなるという問題がある。また、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出し、めっき性を大きく阻害するという問題がある。
【0034】
したがって、本発明では、上記Mnの含量を1.7~2.5%に制御することが好ましい。より有利には1.8~2.3%含むことができる。
【0035】
Mo:0.15%以下(0%を除く)
モリブデン(Mo)は、オーステナイトがパーライトに変態することを遅延させると共に、フェライトの微細化及び強度向上のために添加する元素である。 このようなMoは、鋼の硬化能を向上させてマルテンサイトを結晶粒界(grain boundary)に微細に形成させることで、降伏比の制御を可能にするという利点がある。但し、高価な元素であって、その含量が高くなるほど、製造上不利になるという問題があるため、その含量を適切に制御することが好ましい。
【0036】
上述の効果を十分に得るためには、上記Moを最大0.15%添加することができる。もし、その含量が0.15%を超えると、合金コストの急激な上昇を招いて経済性が低下し、過度な結晶粒微細化及び固溶強化の効果により、むしろ鋼の延性も低下するという問題がある。
【0037】
したがって、本発明では、上記Moの含量を0.15%以下に制御することが好ましく、0%は除く。
【0038】
Cr:1.0%以下(0%を除く)
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を向上させ、高強度を確保するために添加する元素である。このようなCrは、マルテンサイトの形成に有効であり、強度上昇に対する延性の低下を最小化するため、高延性を有する複合組織鋼の製造に有利である。特に、熱間圧延過程でCr23C6のようなCr系炭化物を形成するが、これは、焼鈍過程で一部は溶解し、一部は溶解せずに残り、冷却後にマルテンサイト内の固溶C量を適正レベル以下に制御することができるため、降伏点伸び(YP-El)の発生が抑制され、低降伏比の複合組織鋼を製造する際に有利な効果がある。
【0039】
本発明の一側面においては、上記Crの添加により硬化能の向上を図り、マルテンサイトの形成を容易にするが、その含量が1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱延強度が過度に増加して冷間圧延性に劣るという問題がある。また、Cr系炭化物の分率が高くなって粗大化して、焼鈍後にマルテンサイトの大きさが粗大化することで、伸びの低下を招くという問題がある。
【0040】
したがって、本発明では、上記Crの含量を1.0%以下に制御することが好ましく、0%は除く。
【0041】
P:0.1%以下
リン(P)は、固溶強化の効果が最も大きい置換型元素であって、面内異方性を改善し、成形性を大きく低下させることなく、強度を確保するのに有利な元素である。しかし、このようなPを過剰に添加する場合、脆性破壊が発生する可能性が大きく増加して熱間圧延中にスラブの板破断が発生する可能性が高くなり、めっき表面特性を阻害するという問題がある。
【0042】
したがって、本発明では、上記Pの含量を0.1%以下に制御することが好ましく、不可避的に添加される水準を考慮して0%は除く。
【0043】
S:0.01%以下
硫黄(S)は、鋼中の不純物元素であって、不可避的に添加される元素であり、延性及び溶接性を阻害するため、できるだけその含量を低く管理することが好ましい。特に、上記Sは、赤熱脆性を発生させる可能性を高めるという問題があるため、その含量を0.01%以下に制御することが好ましい。但し、製造過程中に不可避的に添加される水準を考慮して0%は除く。
【0044】
Al:1.0%以下(0%を除く)
アルミニウム(Al)は、鋼の粒度微細化と脱酸のために添加される元素である。また、フェライト安定化元素であって、フェライト内の炭素をオーステナイトに分配してマルテンサイトの硬化能を向上させるのに有効であり、ベイナイト領域での保持時にベイナイト内の炭化物の析出を効果的に抑制することで、鋼板の延性を向上させるのに有効な元素である。
【0045】
このようなAlの含量が1.0%を超えると、結晶粒微細化効果による強度向上には有利であるが、製鋼連鋳操業時に介在物が過剰に形成されて、めっき鋼板の表面不良が発生する可能性が高くなる。また、製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0046】
したがって、本発明では、上記Alの含量を1.0%以下に制御することが好ましく、0%は除く。より有利には0.7%以下含むことができる。
【0047】
Ti:0.001~0.04%、Nb:0.001~0.04%
チタン(Ti)とニオブ(Nb)は、強度上昇及び微細析出物の形成による結晶粒微細化に有効な元素である。具体的に、上記TiとNbは、鋼中のCと結合してナノサイズの微細な析出物を形成し、これは、基地組織を強化させて相間の硬度差を減少させる役割を果たす。
【0048】
このようなTiとNbの含量がそれぞれ0.001%未満であると、上述の効果を十分に確保することができない。一方、その含量がそれぞれ0.04%を超えると、製造コストが上昇し、析出物が過剰に形成されて延性を大きく阻害する恐れがある。
【0049】
したがって、本発明では、上記TiとNbをそれぞれ0.001~0.04%に制御することが好ましい。
【0050】
N:0.01%以下
窒素(N)は、オーステナイトを安定化させるのに有効な元素であるが、その含量が0.01%を超える場合、鋼の精錬コストが急激に上昇し、AlN析出物の形成により連鋳時にクラックが発生するリスクが大きく増加する。
【0051】
したがって、本発明では、上記Nの含量を0.01%以下に制御することが好ましい。但し、不可避的に添加される水準を考慮して0%は除く。
【0052】
B:0.01%以下(0%を除く)
ボロン(B)は、焼鈍中に冷却する過程でオーステナイトがパーライトに変態することを遅延させるのに有利な元素である。また、フェライトの形成を抑制し、マルテンサイトの形成を促進する硬化能元素である。
【0053】
このようなBの含量が0.01%を超えると、表面に過剰なBが濃化してめっき密着性の劣化を招くという問題がある。
【0054】
したがって、本発明では、上記Bの含量を0.01%以下に制御することが好ましく、0%は除く。
【0055】
Sb:0.05%以下(0%を除く)
アンチモン(Sb)は、結晶粒界に分布してMn、Si、Alなどの酸化性元素の結晶粒界による拡散を遅延させる役割を果たす。これにより、酸化物の表面濃化を抑制し、温度上昇及び熱延工程の変化による表面濃化物の粗大化を抑制するのに有利な効果がある。
【0056】
このようなSbの含量が0.05%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、製造コストが上昇し、加工性に劣るという問題がある。
【0057】
したがって、本発明では、上記Sbの含量を0.05%以下に制御することが好ましく、0%は除く。
【0058】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲の環境から意図しない不純物が混入されることがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造プロセスの技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容は本明細書で特に言及しない。
【0059】
一方、本発明で目標とする高強度と共に、加工硬化率及び延性を向上させて優れた加工性を確保するためには、上述の合金組成を満たす鋼板の微細組織が以下のように構成される必要がある。
【0060】
具体的に、本発明の高強度鋼板は、微細組織として、面積分率40%以上のフェライトと残部ベイナイト、フレッシュ(fresh)マルテンサイト及び残留オーステナイトを含むことが好ましい。
【0061】
上記残部組織のうち、ベイナイト相を少量、例えば、30面積%以下(0面積%を除く)にて形成することで、フェライトとマルテンサイトとの相間の硬度差を縮める効果が得られる。
【0062】
より好ましくは、上記フェライトを55面積%以下含むことができ、フレッシュマルテンサイト相は35面積%以下含むことができる。
【0063】
また、本発明の高強度鋼板は、上記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と上記ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの分率(Mb)との比(Mb/Mt)が60%以上であり、上記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と平均粒度3μm以下の微細フレッシュマルテンサイトの分率(Ms)との比(Ms/Mt)が60%以上であることが好ましい。
【0064】
ここで、ベイナイトに隣接するとは、ベイナイト相の周辺に存在することを意味するものであり、一例として、
図1に示したように、ベイナイト相内にフレッシュマルテンサイト相が存在することができる。他の例としては、ベイナイト相の粒界周辺にフレッシュマルテンサイト相が存在することもできるが、これに限定されるものではない。
【0065】
図1に示したように、本発明は、少量のベイナイト相を導入し、上記ベイナイト相の内部又は周辺にフレッシュマルテンサイトを形成させるにあたり、全体的にフレッシュマルテンサイト相を微細に形成させることにより、鋼内でフレッシュマルテンサイトを均一に分散させながら、加工性を阻害するマルテンサイトバンドの形成を抑制することができる。
【0066】
但し、ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの占有比(Mb/Mt)が60%未満であると、平均粒度3μm未満の微細フレッシュマルテンサイトの占有比(Ms/Mt)を60%以上に確保することができなくなり、フレッシュマルテンサイトの分散効果を十分に得ることができず、マルテンサイトバンド組織が形成される恐れがある。
【0067】
一方、本発明の一側面において、上述の組織、即ち、ベイナイト相を形成させながらMb/Mtが60%以上、Ms/Mtが60%以上である組織は、前述の合金元素のうち、C、Si、Al、Mn、Mo及びCrの関係が下記関係式1 を満たし、且つ後述の製造条件を制御することにより得られる。
【0068】
[関係式1]
(Si+Al+C)/(Mn+Mo+Cr)≧0.25
(ここで、各元素は重量含量を意味する。)
【0069】
上記[関係式1]において、SiとAlは、フェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進させ、未変態オーステナイトへのC濃縮を助長することにより、マルテンサイトの形成に寄与する元素である。Cも、未変態オーステナイトへのC濃縮を助長することにより、マルテンサイトの形成及び分率の調整に寄与する元素である。一方、Mn、Mo、Crは、硬化能向上に寄与する元素であるが、上記Si、Al、Cのようにオーステナイト内へのC濃縮に寄与する効果は相対的に低い。したがって、オーステナイトへのC濃縮を助長するSi、Al、Cと硬化能向上に有利なMn、Mo、Crの割合を制御することにより、本発明で意図する微細組織が得られる。
【0070】
より好ましくは、本発明で提供する鋼板の厚さ1/4t(ここで、tは、鋼の厚さ(mm)を意味する)地点においてC、Si、Al、Mn、Mo及びCrの成分関係が関係式1を満たす場合、ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの占有比(Mb/Mt)を60%以上に確保することができる(
図2参照)。
【0071】
本発明の高強度鋼板は、上記のような組織を有することで、相間の硬度差を最小化することができ、塑性変形の初期段階において低い応力で変形が開始されるため、降伏比が低くなり、加工時の変形が効果的に分散して加工硬化率を高めることができる。
【0072】
また、上述の組織は、ネッキング(necking)以後に局部的な応力及び変形の集中を緩和させ、延性破壊を引き起こすボイド(void)の生成、成長及び合体を遅延させることで、延性の向上を図ることができる。
【0073】
具体的に、本発明の高強度鋼板は、780MPa以上の引張強度を有し、且つ4~6%の変形区間で測定した加工硬化指数(n)、延性(El)、引張強度(TS)及び降伏比(YR)の関係が、下記関係式2を満たすことができる。
【0074】
[関係式2]
(n×El×TS)/YR≧5000
(ここで、単位はMPa%である。)
【0075】
また、本発明の高強度鋼板は、フェライト内にナノサイズの析出物を形成することで、相間の硬度差をさらに最小化することができる。この際、上記ナノサイズの析出物は、円相当直径を基準として平均30nm以下、好ましくは1~30nmの大きさを有するNb系及び/又はTi系の析出物であってもよい。
【0076】
さらに、本発明の高強度鋼板は、少なくとも一面に亜鉛系めっき層を含むことができる。
【0077】
以下、本発明の別の一側面である、本発明で提供する加工性に優れた高張力鋼を製造する方法について詳細に説明する。
【0078】
簡略に述べると、本発明は、[鋼スラブの再加熱-熱間圧延-巻取-冷間圧延-連続焼鈍-冷却-溶融亜鉛めっき-冷却]の工程を経て目標とする高強度鋼板を製造することができ、各段階ごとの条件については、以下に詳細に説明する。
【0079】
[鋼スラブの再加熱]
まず、前述の成分系を有する鋼スラブを再加熱する。本工程は、後続する熱間圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。本発明では、このような再加熱工程の工程条件については特に制限せず、通常の条件であれば構わない。一例として、1050~1300℃の温度範囲で再加熱工程を行うことができる。
【0080】
[熱間圧延]
上記のように加熱された鋼スラブをAr3変態点以上で仕上げ熱間圧延することができ、この際、出口側の温度がAr3~Ar3+50℃を満たすことが好ましい。
【0081】
上記仕上げ熱間圧延時に出口側の温度がAr3未満であると、フェライト及びオーステナイトの2相域圧延が行われ、材質の不均一を招く恐れがある。一方、その温度がAr3+50℃を超えると、高温圧延による異常粗大粒の形成により材質の不均一をもたらす恐れがある。これにより、後続の冷却時にコイルの歪み現象が発生するという問題がある。
【0082】
一方、上記仕上げ熱間圧延時に入口側の温度は800~1000℃の温度範囲であってもよい。
【0083】
[巻取]
上記のように製造された熱延鋼板を巻き取ることが好ましい。上記巻取は、400~700℃の温度範囲で行うことが好ましいが、もし、上記巻取温度が400℃未満であると、過剰なマルテンサイト又はベイナイトの形成により、熱延鋼板の過度な強度上昇をもたらすため、後続の冷間圧延時に負荷による形状不良などの問題が発生し得る。一方、巻取温度が700℃を超える場合、鋼中のSi、Mn及びBなどのような溶融亜鉛めっきの濡れ性を低下させる元素の表面濃化及び内部酸化が著しくなり得る。
【0084】
[1次冷却]
上記のように巻き取られた熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以下(0℃/sを除く)の平均冷却速度で冷却することが好ましい。より有利には0.05℃/s以下、さらに有利には0.015℃/s以下の平均冷却速度で行うことができる。
【0085】
このように、巻き取られた熱延鋼板を遅い冷却速度で冷却することにより、オーステナイトの核生成サイトとなる炭化物を微細に分散させた熱延鋼板を得ることができる。即ち、熱延過程で微細な炭化物を鋼内に均一に分散させることで、焼鈍時に炭化物が溶解してオーステナイトを微細分散及び形成させることができ、これにより、焼鈍が完了した後は、均一に分散した微細マルテンサイトを得ることができる。
【0086】
[冷間圧延]
上記の巻取及び冷却された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板として製造することができる。この際、上記冷間圧延は40~70%の冷間圧下率で行うことが好ましいが、もし、上記冷間圧下率が40%未満であると、目標とする厚さを確保することが困難であるだけでなく、鋼板の形状矯正が困難になるという問題がある。一方、上記冷間圧下率が70%を超えると、鋼板のエッジ(edge)部でクラックが発生する可能性が高く、冷間圧延の負荷をもたらすという問題がある。
【0087】
[連続焼鈍]
上記のように製造された冷延鋼板を連続焼鈍処理することが好ましい。上記連続焼鈍処理は、一例として、連続合金化溶融めっき炉にて行われることができる。
【0088】
上記連続焼鈍段階は、再結晶と同時にフェライトとオーステナイト相を形成し、炭素を分解するための工程である。
【0089】
上記連続焼鈍処理は、Ac1+30℃~Ac3-20℃の温度範囲で行うことが好ましく、より有利には770~820℃の温度範囲で行うことができる。
【0090】
上記連続焼鈍時に、その温度がAc1-20℃未満であると、十分な再結晶が行われないだけでなく、オーステナイトを十分に形成することが困難であるため、焼鈍後に目標レベルのマルテンサイト相とベイナイト相の分率を確保することができない。一方、その温度がAc3+30℃を超えると、生産性が低下し、オーステナイト相が過剰に形成され、冷却後にマルテンサイト相とベイナイト相の分率が大きく増加することで降伏強度が上昇し、延性が減少することで低降伏比及び高延性の確保が困難になるという問題がある。また、Si、Mn、Bなどのような溶融亜鉛めっきの濡れ性を阻害する元素による表面濃化が著しくなり、めっき表面品質が低下する恐れがある。
【0091】
[段階的冷却]
上記のように連続焼鈍処理された冷延鋼板を段階的に冷却することが好ましい。
具体的に、上記冷却は、630~670℃まで10℃/s以下(0℃/sを除く)の平均冷却速度で冷却(この際の冷却を2次冷却と称する)した後、400~500℃まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却(この際の冷却を3次冷却と称する)することが好ましい。
【0092】
上記2次冷却時の終了温度が630℃未満の場合、低すぎる温度により炭素の拡散活動度が低く、フェライト内の炭素濃度が高くなって降伏比が増加し、加工時にクラックが発生する可能性が高くなる。一方、終了温度が670℃を超える場合、炭素の拡散においては有利であるが、後続の冷却(3次冷却)時に、過度に高い冷却速度を要するという欠点がある。また、上記2次冷却時に平均冷却速度が10℃/sを超えると、炭素拡散が十分に生じなくなる。一方、上記平均冷却速度の下限は特に限定しないが、生産性を考慮して1℃/s以上で行うことができる。
【0093】
上述の条件で2次冷却を完了した後、3次冷却を行うことが好ましいが、上記3次冷却時に、その終了温度が400℃未満であるか、又は500℃を超える場合、ベイナイト相の導入が困難となる。これにより、相間の硬度差を効果的に縮めることができなくなる。また、上記3次冷却時に平均冷却速度が5℃/s未満であると、ベイナイト相が目標レベルに形成されない恐れがある。一方、上記平均冷却速度の上限は特に限定せず、通常の技術者が冷却設備の仕様を考慮して適切に選択することができる。一例として、100℃/s以下で行うことができる。
【0094】
そして、上記3次冷却は、水素ガス(H2 gas)を用いる水素冷却設備を用いることができる。このように、水素冷却設備を用いて冷却を行うことにより、上記3次冷却時に発生し得る表面酸化を抑制する効果を得ることができる。
【0095】
一方、上述のように段階的に冷却を行うにあたり、2次冷却時の冷却速度より3次冷却時の冷却速度を速くすることができ、本発明では、上述の条件で3次冷却時にベイナイト相を形成することができる。
【0096】
[保持]
上述のように、段階的冷却を完了した後、冷却された温度範囲で70秒以上保持することが好ましい。
【0097】
これは、前述の3次冷却時に形成されたベイナイト相に隣接している未変態オーステナイト相に炭素を濃縮させるためである。即ち、後続する工程をすべて完了した後、ベイナイトに隣接した領域に微細なフレッシュマルテンサイト相を形成しようとするものである。
【0098】
この際、保持時間が70秒未満であると、未変態オーステナイト相に濃縮される炭素量が不十分であり、意図する微細組織が確保できなくなる。より好ましくは、70~200秒内に保持することができる。
【0099】
[溶融亜鉛めっき]
上記のように段階的冷却及び保持工程を経た後、鋼板を溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して溶融亜鉛系めっき鋼板を製造することが好ましい。
【0100】
この際、溶融亜鉛めっきは通常の条件で行うことができるが、一例として、430~490℃の温度範囲で行うことができる。また、上記溶融亜鉛めっき時の溶融亜鉛系めっき浴の組成については特に限定せず、純粋亜鉛めっき浴であるか、又はSi、Al、Mgなどを含む亜鉛系合金めっき浴であってもよい。
【0101】
[最終冷却]
上記溶融亜鉛めっきを完了した後は、Ms(マルテンサイトの変態開始温度)以下まで1℃/s以上の冷却速度で冷却することが好ましい。この過程で鋼板(ここで、鋼板はめっき層の下部の母材に該当する)のベイナイト相に隣接した領域で微細なフレッシュマルテンサイト(fresh martenstie)相を形成することができる。
【0102】
上記冷却時に、その終了温度がMsを超えると、フレッシュマルテンサイト相が十分に確保できなくなり、平均冷却速度が1℃/s未満であると、遅すぎる冷却速度によりフレッシュマルテンサイト相が不均一に形成される恐れがある。より有利には1~100℃/sの冷却速度で冷却を行うことができる。
【0103】
上記冷却時に、常温まで冷却しても目標とする組織を確保する上で問題がなく、ここで、常温とは10~35℃程度を示すことができる。
【0104】
一方、必要に応じて、最終冷却する前に、溶融亜鉛系めっき鋼板を合金化熱処理することにより、合金化溶融亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。本発明では、合金化熱処理工程の条件については、特に制限せず、通常の条件であれば構わない。一例として、480~600℃の温度範囲で合金化熱処理工程を行うことができる。
【0105】
次に、必要に応じて、最終冷却された溶融亜鉛系めっき鋼板又は合金化溶融亜鉛系めっき鋼板を調質圧延することにより、マルテンサイトの周囲に位置するフェライトに多量の転位を形成することで、焼付硬化性をより向上させることができる。
【0106】
この際、圧下率は1.0%未満(0%を除く)であることが好ましい。もし、圧下率が1.0%以上の場合には、転位形成の面では有利であるが、設備能力の限界により、板破断が発生するなどの副作用をもたらし得る。
【0107】
前述のように製造された本発明の高強度鋼板は、微細組織として、面積分率40%以上のフェライトと残部ベイナイト、フレッシュ(fresh)マルテンサイト及び残留オーステナイトを含むことができる。また、上記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と、上記ベイナイトに隣接したマルテンサイトの分率(Mb)との比(Mb/Mt)が60%以上であり、上記フレッシュマルテンサイトの全体分率(Mt)と、平均粒度3μm以下の微細フレッシュマルテンサイトの分率(Ms)との比(Ms/Mt)が60%以上を満たすことで、相間の硬度差を大きく縮める効果を得ることができる。
【0108】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明の例示として、より詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、これにより合理的に類推できる事項によって決定されるものである。
【実施例】
【0109】
下記表1に示した合金組成を有する鋼スラブを製作した後、上記鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱してから、下記表2に示した条件で熱間圧延、冷却及び巻取して熱延鋼板を製造した。
【0110】
その後、それぞれの熱延鋼板を酸洗し、40~70%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造してから、下記表2に示した条件で連続焼鈍処理した後、段階的冷却(2次及び3次)を行ってから、3次冷却終了温度で70~100秒の範囲で保持した。この際、3次冷却は水素冷却設備にて行った。
【0111】
またその後、430~490℃の溶融亜鉛めっき浴(0.1~0.3%Al-残部Zn)で亜鉛めっき処理してから、最終冷却した後、0.2%に調質圧延して溶融亜鉛系めっき鋼板を製造した。
【0112】
上記のように製造されたそれぞれの鋼板に対して微細組織を観察し、機械的特性及びめっき特性を評価した後、その結果を下記表3に示した。
【0113】
この際、それぞれの試験片に対する引張試験は、ASTM規格を用いてL方向に施した。また、加工硬化率(n)は、VDA(ドイツ自動車協会)規格に示されている変形率4~6%区間での加工硬化率の値を測定した。
【0114】
そして、微細組織分率は、鋼板の厚さ1/4t地点で基地組織を分析した。 具体的には、ナイタル(Nital)腐食後、FE-SEMとイメージ分析器(Image analyzer)を用いてフェライト、ベイナイト、フレッシュマルテンサイト、オーステナイトの分率を測定した。
【0115】
一方、各鋼板の1/4t地点におけるC、Si、Al、Mn、Mo、Crの濃度は、TEM(Transmission Electron Microscopy)とEDS(Energy Dispersive Spectroscopy)、ELLS分析装備を用いて測定した。
【0116】
さらに、各鋼板の未めっき発生の有無については、SEMで観察したとき、めっき層が形成されていない領域の存在の有無を確認し、めっき層が形成されていない領域が存在する場合、未めっきとして評価した。
【0117】
【表1】
(表1において、成分比は、各鋼の関係式1[(Si+Al+C)/(Mn+Mo+Cr)]の値を示したものである。)
【0118】
【0119】
【表3】
(表3において、Fはフェライト、Bはベイナイト、Aはオーステナイト、Mtはフレッシュマルテンサイト相の全体分率を意味する。また、YSは降伏強度、TSは引張強度、Elは伸び、YRは降伏比、nは加工硬化率を意味する。そして、関係式2は[(n×El×TS)/YR]の計算値を示したものである。また、占有比は百分率で表したものであって、(Mb/Mt)値と(Ms/Mt)値に100を乗じた値で表したものである。)
【0120】
上記表1乃至3に示したように、鋼の合金組成、成分比(関係式1)及び製造条件が本発明の提案範囲を全て満たしている発明鋼1乃至6は、意図する微細組織が形成されることで降伏比が0.6以下と低降伏比を有するだけでなく、(n×El×TS)/YRの値が5000を超えることから、加工性に優れていることが確認できる。
さらに、発明鋼1乃至6は、いずれもめっき特性が良好であることが確認できる。
【0121】
一方、鋼の合金組成、成分比及び製造条件のうち一つ以上の条件が、本発明の提案範囲を外れる比較鋼1乃至6は、本発明で意図する微細組織を得ることができなかった。これにより、降伏比が高く、又は(n×El×TS)/YR の値が5000未満に確保されたことから、加工性が向上していないことが分かる。
これらのうち、比較鋼5及び6の場合はめっき性にも劣っており、未めっきが発生した。
【0122】
図2は、発明鋼と比較鋼の厚さ1/4t地点におけるC、Si、Al、Mn、Mo及びCr間の濃度比(関係式1に該当)による相占有比(Mb/Mt)の変化を示したものである。
図2に示したように、C、Si、Al、Mn、Mo及びCr間の濃度比が0.25以上に確保された場合のみ、意図する組織が得られることが分かる。
【0123】
図3は、相占有比(Mb/Mt)による微細フレッシュマルテンサイト相の占有比(Ms/Mt)の変化を示したものである。
図3に示したように、ベイナイトに隣接するフレッシュマルテンサイト相の占有比(Mb/Mt)が60%以上である場合に、意図する組織が得られることが分かる。
【0124】
図4は、相占有比(Mb/Mt)による機械的性質(関係式2に該当)の変化を示したものである。
図4に示したように、ベイナイトに隣接するフレッシュマルテンサイト相の占有比(Mb/Mt)が60%以上である場合のみ、(n×El×TS)/YRの値が5000以上に確保されることが分かる。
【0125】
図5は、微細フレッシュマルテンサイト相の占有比(Ms/Mt)による機械的性質(関係式2に該当)の変化を示したものである。
図5に示したように、微細フレッシュマルテンサイト相の占有比(Ms/Mt)が60%以上である場合のみ、(n×El×TS)/YRの値が5000以上に確保されることが分かる。