(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20220930BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220930BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20220930BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220930BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20220930BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220930BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/36 C
H01M4/485
H01M4/58
H01M10/0566
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020547725
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018035975
(87)【国際公開番号】W WO2020065833
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】513138072
【氏名又は名称】ハイドロ-ケベック
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】對木 洋文
(72)【発明者】
【氏名】浅川 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 寛司
(72)【発明者】
【氏名】アスルサハニ ダサルニ ビルハヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンドロン フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ザギーブ カリム
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209463(JP,A)
【文献】特開2012-204015(JP,A)
【文献】特開2010-251302(JP,A)
【文献】特表2011-517053(JP,A)
【文献】特開2004-087319(JP,A)
【文献】特開2016-081798(JP,A)
【文献】特開2013-127845(JP,A)
【文献】特開2013-120724(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038001(WO,A1)
【文献】特開2017-103141(JP,A)
【文献】特開2013-157260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるリチウムマンガンリン酸化合物を含むと共に100nm以下の平均粒径を有する複数の一次粒子、を含む正極と、
リチウムチタン複合酸化物を含むと共に前記正極の単位面積当たりの電気化学容量以下である単位面積当たりの電気化学容量を有する負極と、
電解液と
を備えた、二次電池。
Li
x Mn
y M1
1-y PO
4 ・・・(1)
(M1は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種である。xおよびyは、0<x<1.2および0<y≦1を満たす。)
【請求項2】
前記式(1)中のyは、y≧0.5を満たす、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記複数の一次粒子の平均粒径は、60nm以下である、
請求項1または請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極は、さらに、前記複数の一次粒子のそれぞれの表面を被覆する炭素材料を含む、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記炭素材料により被覆された前記複数の一次粒子は、複数の二次粒子を形成しており、
前記複数の二次粒子中における前記炭素材料の含有量は、1.4重量%以上4.8重量%以下である、
請求項4記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、正極および負極と共に電解液を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、電源として、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である二次電池の開発が進められている。
【0003】
この二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えている。二次電池の構成は、電池特性に大きな影響を及ぼすため、その二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。具体的には、安定した充放電サイクル性能を実現するために、炭素を含有する電子導電性物質により複数のリチウムリン酸化合物の一次粒子のそれぞれが被覆されており、その複数のリチウムリン酸化合物の一次粒子が電子導電性物質を介して互いに接合されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
二次電池が搭載される電子機器は、益々、高性能化および多機能化しているため、その電子機器の使用頻度は増加していると共に、その電子機器の使用環境は拡大している。そこで、二次電池の電池特性に関しては、未だ改善の余地がある。
【0006】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能な二次電池を提供することにある。
【0007】
本技術の一実施形態の二次電池は、下記の式(1)で表されるリチウムマンガンリン酸化合物を含むと共に100nm以下の平均粒径を有する複数の一次粒子を含む正極と、その正極の単位面積当たりの電気化学容量以下である単位面積当たりの電気化学容量を有する負極と、電解液とを備えたものである。
【0008】
Lix Mny M11-y PO4 ・・・(1)
(M1は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種である。xおよびyは、0<x<1.2および0<y≦1を満たす。)
【0009】
本技術の二次電池によれば、負極の単位面積当たりの電気化学容量が正極の単位面積当たりの電気化学容量以下である場合において、正極に含まれている複数の一次粒子のそれぞれがリチウムマンガンリン酸化合物を含んでいると共に、その複数の一次粒子の平均粒径が100nm以下であるので、優れた電池特性を得ることができる。
【0010】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本技術の一実施形態の二次電池(円筒型)の構成を表す断面図である。
【
図2】
図1に示した二次電池の主要部の構成を拡大して表す断面図である。
【
図3】複数の正極活物質粒子の構成を模式的に表す断面図である。
【
図4】複数の正極活物質粒子の他の構成を模式的に表す断面図である。
【
図5】比較例である複数の正極活物質粒子の構成を模式的に表す断面図である。
【
図6】正極活物質粒子の粒径の測定方法を説明するための断面図である。
【
図7】本技術の一実施形態の他の二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す斜視図である。
【
図8】
図7に示した二次電池の主要部の構成を拡大して表す断面図である。
【
図9】試験用の二次電池(コイン型)の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池(円筒型)
1-1.構成
1-2.動作
1-3.製造方法
1-3-1.正極活物質の製造方法
1-3-2.二次電池の製造方法
1-4.作用および効果
2.二次電池(ラミネートフィルム型)
2-1.構成
2-2.動作
2-3.製造方法
2-4.作用および効果
3.変形例
4.二次電池の用途
【0013】
<1.二次電池(円筒型)>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0014】
ここで説明する二次電池は、後述するように、正極21および負極22を備えている。この二次電池は、例えば、リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量(負極22の容量)が得られるリチウムイオン二次電池である。
【0015】
<1-1.構成>
図1は、二次電池の断面構成を表していると共に、
図2は、
図1に示した二次電池の主要部(巻回電極体20)の断面構成を拡大している。ただし、
図2では、巻回電極体20の一部だけを示している。
【0016】
図3および
図4のそれぞれは、複数の正極活物質粒子1の断面構成を模式的に表している。
図5は、比較例である複数の正極活物質粒子3の断面構成を模式的に表している。
図6は、正極活物質粒子1(一次粒子P1)の粒径の測定方法を説明するために、その正極活物質粒子1の断面構成を模式的に表している。
【0017】
この二次電池は、例えば、
図1に示したように、円筒状の電池缶11の内部に電池素子(巻回電極体20)が収納された円筒型の二次電池である。
【0018】
具体的には、二次電池は、例えば、電池缶11の内部に、一対の絶縁板12,13と、巻回電極体20とを備えている。この巻回電極体20は、例えば、セパレータ23を介して正極21および負極22が互いに積層されたのち、その正極21、負極22およびセパレータ23が巻回された構造体である。巻回電極体20には、液状の電解質である電解液が含浸されている。
【0019】
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空の円筒構造を有しており、例えば、鉄などの金属材料を含んでいる。ただし、電池缶11の表面には、例えば、ニッケルなどの金属材料が鍍金されていてもよい。絶縁板12,13は、例えば、互いに巻回電極体20を挟むように配置されている。
【0020】
電池缶11の開放端部には、例えば、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられている。このため、電池缶11の開放端部は密閉されている。電池蓋14の形成材料は、例えば、電池缶11の形成材料と同様である。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、例えば、内部短絡および外部加熱などに起因して電池缶11の内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転するため、電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続が切断される。熱感抵抗素子16の電気抵抗は、大電流に起因する異常な発熱を防止するために、温度の上昇に応じて増加する。ガスケット17は、例えば、絶縁性材料を含んでいる。ただし、ガスケット17の表面には、例えば、アスファルトなどが塗布されていてもよい。
【0021】
巻回電極体20の巻回中心に設けられた空間20Cには、例えば、センターピン24が挿入されている。ただし、センターピン24は、例えば、空間20Cに挿入されていなくてもよい。正極21には、正極リード25が接続されており、その正極リード25は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料を含んでいる。この正極リード25は、例えば、安全弁機構15を介して電池蓋14と電気的に接続されている。負極22には、負極リード26が接続されており、その負極リード26は、例えば、ニッケルなどの導電性材料を含んでいる。この負極リード26は、例えば、電池缶11と電気的に接続されている。
【0022】
[正極]
正極21は、例えば、
図2に示したように、正極集電体21Aと、その正極集電体21Aに設けられた正極活物質層21Bとを含んでいる。この正極活物質層21Bは、例えば、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよいし、正極集電体21Aの両面に設けられていてもよい。
図2では、例えば、正極活物質層21Bが正極集電体21Aの両面に設けられている場合を示している。
【0023】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウムなどの導電性材料を含んでいる。正極活物質層21Bは、
図3に示したように、複数の一次粒子P1である複数の正極活物質粒子1を含んでおり、その複数の正極活物質粒子1のそれぞれは、リチウムを吸蔵放出可能である正極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層21Bは、例えば、さらに、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0024】
正極材料は、下記の式(1)で表されるリチウムマンガンリン酸化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。リチウムマンガンリン酸化合物は充放電時において著しく安定であるため、充放電反応が円滑かつ安定に進行やすいからである。
【0025】
Lix Mny M11-y PO4 ・・・(1)
(M1は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種である。xおよびyは、0<x<1.2および0<y≦1を満たす。)
【0026】
式(1)に示したリチウムマンガンリン酸化合物は、リチウム(Li)およびマンガン(Mn)を構成元素として含むリン酸化合物である。ただし、リチウムマンガンリン酸化合物は、式(1)から明らかなように、さらに、追加の金属元素(M1)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0027】
具体的には、追加の金属元素(M1)を含んでいないリチウムマンガンリン酸化合物は、例えば、LiMn0.50Co0.50PO4 、LiMn0.30Co0.70PO4 、LiMn0.5 Fe0.5 PO4 、LiMn0.7 Fe0.3 PO4 およびLiMn0.75Fe0.25PO4 などである。また、追加の金属元素(M1)を含んでいるリチウムマンガンリン酸化合物は、例えば、LiMn0.70Fe0.27Mg0.03PO4 、LiMn0.85Fe0.10Mg0.05PO4 およびLiMn0.75Fe0.20Mg0.04Co0.01PO4 などである。
【0028】
追加の金属元素(M1)の種類は、上記したように、マグネシウムなどのうちのいずれか1種類または2種類以上であれば、特に限定されない。すなわち、追加の金属元素(M1)の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0029】
式(1)に示したyの値は、0<y≦<1を満たしていれば、特に限定されない。中でも、yは、y≧0.5を満たしていることが好ましい。後述するように、放電曲線(横軸は放電深度(%)および縦軸は放電電圧(V))中においてマンガンの還元反応(Mn
3+→Mn
2+)に起因する範囲(放電領域R1)が広くなり、すなわち本質的に放電電圧が低下しやすい範囲が広くなるため、その範囲において放電電圧の低下が効果的に抑制されるからである(
図8参照)。
【0030】
複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)の平均粒径(nm)は、著しく小さくなるように制御されており、具体的には、100nm以下である。後述するように、負極22の単位面積当たりの電気化学容量が正極21の単位面積当たりの電気化学容量以下であるという条件下において、複数の正極活物質粒子1(リチウムマンガンリン酸化合物)の平均粒径が100nm以下であることにより、以下の利点が得られるからである。
【0031】
第1に、各正極活物質粒子1において、リチウムの吸蔵放出時におけるストレスが軽減される。第2に、充電時において正極21の電位が低下するため、各正極活物質粒子1の不可逆的な変化(劣化)が抑制される。第3に、各正極活物質粒子1の内部においてリチウムの拡散経路が短縮するため、各正極活物質粒子1の電気抵抗が減少する。これにより、リチウムマンガンリン酸化合物を含む複数の正極活物質粒子1を用いても、電気抵抗が減少しながら放電電圧が低下しにくくなる。より具体的には、充放電を繰り返しても放電電圧が低下しにくくなると共に、放電時の電流値を高くしても放電電圧が低下しにくくなる。
【0032】
中でも、複数の正極活物質粒子1の平均粒径は、60nm以下であることが好ましい。各正極活物質粒子1の不可逆的な劣化がより抑制されると共に、各正極活物質粒子1の電気抵抗がより減少するため、放電電圧がより低下しにくくなるからである。
【0033】
複数の正極活物質粒子1の平均粒径を特定する手順は、例えば、以下で説明する通りである。最初に、不活性ガスの雰囲気中において二次電池を分解することにより、正極21を取り出す。不活性ガスの種類は、特に限定されないが、例えば、アルゴンガスおよび窒素ガスなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。続いて、正極集電体21Aから正極活物質層21Bを剥離させたのち、有機溶剤中に正極活物質層21Bを投入する。有機溶剤の種類は、特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどである。これにより、正極結着剤などの可溶成分が溶解除去されるため、不溶成分である複数の正極活物質粒子1が回収される。
【0034】
続いて、同雰囲気中において、顕微鏡を用いて複数の正極活物質粒子1を観察することにより、顕微鏡写真を得る。顕微鏡の種類は、特に限定されないが、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)および走査型透過電子顕微鏡(STEM)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。観察時の倍率は、特に限定されないが、例えば、10万倍~50万倍である。この顕微鏡写真では、
図3に示したように、一次粒子P1である複数の正極活物質粒子1が観察されると共に、その複数の一次粒子P1の集合体である複数の二次粒子P2が観察される。
【0035】
続いて、顕微鏡写真に基づいて、任意の100個の正極活物質粒子1の粒径を測定する。この場合には、例えば、任意に10個の二次粒子P2を選択したのち、その二次粒子P2ごとに10個の一次粒子P1の粒径を測定することにより、100個の粒径を得る。なお、一次粒子P1の形状が円形でない場合には、例えば、
図6に示したように、その一次粒子P1の外縁(輪郭)に内接する円Cを特定することにより、その円Cの直径Dを粒径とする。
図6では、例えば、一次粒子P1の形状が略長方形である場合を示している。最後に、100個の粒径の平均値を算出することにより、平均粒径を得る。
【0036】
なお、複数の正極活物質粒子1の製造方法は、特に限定されないが、例えば、水熱合成法および固相合成法などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。複数の正極活物質粒子1の製造工程では、例えば、後述するように、リチウムマンガンリン酸化合物を合成するための原料と、後述する炭素材料2を形成するための炭素源とが用いられる。この場合には、リチウムマンガンリン酸化合物が合成される。また、必要に応じて、リチウムマンガンリン酸化合物の表面において炭素源が炭化されるため、炭素材料2が形成される。よって、複数の正極活物質粒子1が得られる。
【0037】
上記した原料とは、リチウムマンガンリン酸化合物の一連の構成元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含む2種類以上の化合物である。具体的には、原料は、例えば、リチウムの供給源であるリチウム含有化合物、マンガンの供給源であるマンガン含有化合物およびリン酸イオンの供給源であるリン酸化合物である。ただし、1種類の化合物が2種類以上の構成元素の供給源を兼ねていてもよい。リチウム含有化合物およびマンガン含有化合物のそれぞれの種類は、特に限定されないが、例えば、硫酸塩、硝酸塩および酢酸塩などであり、水和物でもよい。リン酸化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、リン酸などである。
【0038】
炭素源は、例えば、ショ糖などである。なお、炭素材料2は、正極活物質粒子1(一次粒子P1)同士が互いに焼結することを抑制しながら、二次粒子P2を形成するために正極活物質粒子1同士を互いに密着させる。また、炭素材料2は、正極活物質粒子1(一次粒子P1)の表面に電子伝導性を付与すると共に、二次粒子P2の内部に電子を供給する。
【0039】
より具体的には、複数の正極活物質粒子1の製造工程では、例えば、
図4に示したように、リチウムマンガンリン酸化合物を含む複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)が合成されると共に、その正極活物質粒子1の表面において炭素源が炭化される。これにより、
図3に示したように、各正極活物質粒子1の表面のうちの一部または全部が炭素材料2により被覆されるため、複数の正極活物質粒子1が炭素材料2を介して互いに分離された状態において互いに密集する。よって、炭素材料2により被覆された複数の正極活物質粒子1が互いに密着するため、複数の二次粒子P2が形成される。
【0040】
なお、
図3および
図4では、図示内容を簡略化するために、3個の正極活物質粒子1(一次粒子P1)を示していると共に、その3個の正極活物質粒子1により形成された1個の二次粒子P2を示している。ここで説明したことは、
図5に関しても同様である。
【0041】
この場合には、上記したように、複数の二次粒子P2が形成された状態においても、複数の正極活物質粒子1が炭素材料2を介して互いに分離されている。これにより、上記した顕微鏡写真中では、各正極活物質粒子1の輪郭(占有範囲)を認識することができるため、各正極活物質粒子1を識別することができる。よって、複数の二次粒子P2の形成後においても、各正極活物質粒子1の粒径を測定することができるため、複数の正極活物質粒子1の平均粒径を特定することができる。
【0042】
これに対して、比較のために、炭素源を用いないことを除いて同様の手順により、複数の二次粒子P2を形成すると、例えば、
図5に示したように、複数の正極活物質粒子1が互いに分離されない状態において互いに密集することに起因して、その複数の正極活物質粒子1が互いに密着(焼結)する。これにより、複数の二次粒子P2の形成後には、もはや各正極活物質粒子1を識別することができないため、複数の正極活物質粒子1の平均粒径の平均粒径も特定することができない。
【0043】
ここで説明したように、複数の正極活物質粒子1の製造工程において炭素源を用いた場合には、炭素材料2を利用して複数の正極活物質粒子1により複数の二次粒子P2が形成されている。これにより、上記したように、複数の二次粒子P2の形成後においても平均粒径を特定可能となるように複数の正極活物質粒子1の形成状態が制御されているため、その複数の正極活物質粒子1の平均粒径(nm)が100nm以下となるように制御されている。
【0044】
炭素源を用いて複数の正極活物質粒子1が製造されていると共に、その複数の正極活物質粒子1により複数の二次粒子P2が形成されている場合には、上記したように、その複数の二次粒子P2は、炭素材料2を含んでいる。
【0045】
複数の二次粒子P2中における炭素材料2の含有量は、特に限定されないが、中でも、1.4重量%~4.8重量%であることが好ましい。炭素材料2の形成量が適正化されるため、リチウムの吸蔵放出が阻害されることを抑制しながら、炭素材料2を介して互いに分離された複数の正極活物質粒子1により複数の二次粒子P2が形成されやすくなるからである。
【0046】
詳細には、炭素材料2の含有量が1.4重量%よりも少ない場合には、その炭素材料2の形成量が少なすぎるため、複数の正極活物質粒子1が炭素材料2を介して互いに分離されにくくなる可能性がある。一方、炭素材料2の含有量が4.8重量%よりも多い場合には、その炭素材料2の形成量が多すぎるため、各正極活物質粒子1においてリチウムイオンが入出力しにくくなる可能性がある。
【0047】
なお、正極活物質層21Bは、例えば、さらに、他の正極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。ただし、上記したリチウムマンガンリン酸化合物は、以下で説明する他の正極材料から除かれる。
【0048】
具体的には、他の正極材料は、リチウム化合物を含んでおり、そのリチウム化合物は、リチウムを構成元素として含む化合物の総称である。高いエネルギー密度が得られるからである。リチウム化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、リチウム複合酸化物およびリチウムリン酸化合物などである。
【0049】
リチウム複合酸化物は、リチウムと1種類または2種類以上の他の元素とを構成元素として含む酸化物の総称であり、例えば、層状岩塩型およびスピネル型などの結晶構造を有している。リチウムリン酸化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の他元素とを構成元素として含むリン酸化合物の総称であり、例えば、オリビン型などの結晶構造を有している。
【0050】
他の元素は、リチウム以外の元素である。他の元素の種類は、特に限定されないが、中でも、長周期型周期表のうちの2族~15族に属する元素であることが好ましい。高い電圧が得られるからである。具体的には、他の元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガンおよび鉄などである。
【0051】
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物は、例えば、LiNiO2 、LiCoO2 、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 O2 、LiNi0.8 Co0.15Al0.05O2 、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2 、Li1.2 Mn0.52Co0.175 Ni0.1 O2 およびLi1.15(Mn0.65Ni0.22Co0.13)O2 などである。スピネル型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物は、例えば、LiMn2 O4 などである。オリビン型の結晶構造を有するリチウムリン酸化合物は、例えば、LiFePO4 およびなどである。
【0052】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムおよび高分子化合物などを含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴムなどである。高分子化合物は、例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリイミドなどである。
【0053】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などの導電性材料を含んでいる。この炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどであり、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーなどでもよい。ただし、正極導電剤は、金属材料および導電性高分子などでもよい。
【0054】
[負極]
負極22は、例えば、
図2に示したように、負極集電体22Aと、その負極集電体22Aに設けられた負極活物質層22Bとを含んでいる。この負極活物質層22Bは、例えば、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよいし、負極集電体22Aの両面に設けられていてもよい。
図2では、例えば、負極活物質層22Bが負極集電体22Aの両面に設けられている場合を示している。
【0055】
負極集電体22Aは、例えば、銅などの導電性材料を含んでいる。負極集電体22Aの表面は、電解法などを用いて粗面化されていることが好ましい。アンカー効果を利用して、負極集電体22Aに対する負極活物質層22Bの密着性が向上するからである。
【0056】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、例えば、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0057】
ここで、負極22の単位面積当たりの電気化学容量は、正極21の単位面積当たりの電気化学容量以下であるため、いわゆる二次電池の充電終止極は、負極22である。すなわち、負極22に含まれている負極材料の充電可能である容量は、正極21の放電容量と同等であるか、その正極21の放電容量よりも小さいため、二次電池の充電反応が終止するか否かは、充電終止極である負極22の充電可能容量に応じて決定されている。上記したように、充電時において正極21の電位が低下するため、各正極活物質粒子1の不可逆的な劣化が抑制されるからである。
【0058】
より具体的には、負極22の単位面積当たりの電気化学容量が正極21の単位面積当たりの電気化学容量以下であるということは、以下で説明する2つの条件が満たされていることを意味している。以下では、二次電池の充放電に関する一連の容量(充電容量および放電容量)を定義したのち、2つの条件に関して説明する。
【0059】
まず、正極21に関する一連の容量(充電容量および放電容量)は、以下の通りである。
正極21の単位面積当たりにおける初回の充電容量Qc1(mAh/cm2 )
=[正極活物質の初回の充電容量qc1(mAh/g)×正極活物質層21B中における正極活物質の割合rc×正極活物質層21Bの面積密度lc(mg/cm2 )]/1000
正極21の単位面積当たりにおける初回の放電容量Qc1’(mAh/cm2 )
=[正極活物質の初回の充電容量qc1(mAh/g)×正極21の初回の充放電効率Ec1×正極活物質層21B中における正極活物質の割合rc×正極活物質層21Bの面積密度lc(mg/cm2 )]/1000
正極21の単位面積当たりにおける2回目以降の充電容量QcN(mAh/cm2 )
=[正極21の単位面積当たりにおける初回の放電容量Qc1’(mAh/g)×正極21の充放電効率EcN]/1000
正極21の単位面積当たりにおける2回目以降の放電容量QcN’(mAh/cm2 )
=[直前のサイクルにおける正極21の単位面積当たりにおける充電容量QcN×正極21の充放電効率EcN]/1000
【0060】
また、負極22に関する一連の容量(充電容量および放電容量)は、以下の通りである。
負極22の単位面積当たりにおける初回の充電容量Qa1(mAh/cm2 )
=[負極活物質の初回の充電容量qa1(mAh/g)×負極活物質層22B中における負極活物質の割合ra×負極活物質層22Bの面積密度la(mg/cm2 )]/1000
負極22の単位面積当たりにおける初回の放電容量Qa1’(mAh/cm2 )
=[負極活物質の初回の充電容量qa1(mAh/g)×負極22の初回の充放電効率Ea1×負極活物質層22B中における負極活物質の割合ra×負極活物質層22Bの面積密度la(mg/cm2 )]/1000
負極22の単位面積当たりにおける2回目以降の充電容量QaN(mAh/cm2 )
=[負極22の単位面積当たりにおける初回の放電容量Qa1’(mAh/g)×負極22の充放電効率EaN]/1000
負極22の単位面積当たりにおける2回目以降の放電容量QaN’(mAh/cm2 )
=[直前のサイクルにおける負極22の単位面積当たりにおける充電容量QaN×負極22の充放電効率EaN]/1000
【0061】
この場合において、負極22の単位面積当たりの電気化学容量が正極21の単位面積当たりの電気化学容量以下であるため、以下の2つの条件が満たされている。
正極21の単位面積当たりにおける初回の充電容量Qc1(mAh/cm2 )≧負極22の単位面積当たりにおける初回の充電容量Qa1(mAh/cm2 )
正極21の単位面積当たりにおける2回目以降の充電容量QcN(mAh/cm2 )≧負極22の単位面積当たりにおける2回目以降の充電容量QaN(mAh/cm2 )
【0062】
これに伴い、負極22の単位面積当たりの電気化学容量が正極21の単位面積当たりの電気化学容量以下となるように、その負極22に含まれている負極活物質の量と正極21に含まれている正極活物質の量とが互いに調整されている。
【0063】
負極材料は、例えば、炭素材料、金属系材料、チタン含有化合物およびニオブ含有化合物などである。ただし、チタン含有化合物およびニオブ含有化合物のそれぞれに該当する材料は、金属系材料から除かれる。
【0064】
炭素材料は、炭素を構成元素として含む材料の総称である。リチウムの吸蔵放出時において炭素材料の結晶構造はほとんど変化しないため、高いエネルギー密度が安定に得られるからである。また、炭素材料は負極導電剤としても機能するため、負極活物質層22Bの導電性が向上するからである。
【0065】
具体的には、炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などである。難黒鉛化性炭素における(002)面の面間隔は、例えば、0.37nm以上であると共に、黒鉛における(002)面の面間隔は、例えば、0.34nm以下である。
【0066】
より具体的には、炭素材料は、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭およびカーボンブラック類などである。このコークス類は、例えば、ピッチコークス、ニードルコークスおよび石油コークスなどを含む。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂およびフラン樹脂などの高分子化合物が任意の温度で焼成(炭素化)された焼成物である。この他、炭素材料は、例えば、約1000℃以下の温度で熱処理された低結晶性炭素でもよいし、非晶質炭素でもよい。炭素材料の形状は、例えば、繊維状、球状、粒状および鱗片状などである。
【0067】
金属系材料は、金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料の総称である。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0068】
この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を含む材料でもよい。ただし、合金には、2種類以上の金属元素からなる材料だけでなく、1種類または2種類以上の金属元素と1種類または2種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。また、合金は、1種類または2種類以上の非金属元素を含んでいてもよい。金属系材料の組織は、例えば、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物およびそれらの2種類以上の共存物などである。
【0069】
金属元素および半金属元素のそれぞれは、リチウムと合金を形成可能な元素である。具体的には、金属元素および半金属元素は、例えば、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、ビスマス、カドミウム、銀、亜鉛、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、パラジウムおよび白金などである。
【0070】
中でも、ケイ素およびスズが好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムの吸蔵放出能力が優れているため、著しく高いエネルギー密度が得られるからである。
【0071】
具体的には、金属系材料は、ケイ素の単体でもよいし、ケイ素の合金でもよいし、ケイ素の化合物でもよいし、スズの単体でもよいし、スズの合金でもよいし、スズの化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を含む材料でもよい。ここで説明する単体は、あくまで一般的な単体を意味しているため、その単体は、微量の不純物を含んでいてもよい。すなわち、単体の純度は、必ずしも100%に限られない。
【0072】
ケイ素の合金は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、炭素および酸素などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金に関して説明した構成元素を含んでいてもよい。
【0073】
具体的には、ケイ素の合金およびケイ素の化合物は、例えば、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 OおよびSiOv (0<v≦2)などである。ただし、vの範囲は、例えば、0.2<v<1.4でもよい。
【0074】
スズの合金は、例えば、スズ以外の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、炭素および酸素などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、スズの合金に関して説明した構成元素を含んでいてもよい。
【0075】
具体的には、スズの合金およびスズの化合物は、例えば、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 およびMg2 Snなどである。
【0076】
チタン含有化合物は、チタンを構成元素として含む材料の総称である。チタン含有化合物は、炭素材料などと比較して電気化学的に安定であるため、電気化学的に低反応性を有するからである。これにより、負極22の反応性に起因する電解液の分解反応が抑制される。具体的には、チタン含有化合物は、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物および水素チタン化合物などである。
【0077】
チタン酸化物は、例えば、下記の式(11)で表される化合物であり、すなわちブロンズ型酸化チタンなどである。
【0078】
TiOw ・・・(11)
(wは、1.85≦w≦2.15を満たす。)
【0079】
このチタン酸化物は、例えば、アナターゼ型、ルチル型またはブルッカイト型の酸化チタン(TiO2 )などである。ただし、チタン酸化物は、チタンと共にリン、バナジウム、スズ、銅、ニッケル、鉄およびコバルトなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む複合酸化物でもよい。この複合酸化物は、例えば、TiO2 -P2 O5 、TiO2 -V2 O5 、TiO2 -P2 O5 -SnO2 およびTiO2 -P2 O5 -MeOなどである。ただし、Meは、例えば、銅、ニッケル、鉄およびコバルトなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。なお、チタン酸化物がリチウムを吸蔵放出する電位は、例えば、1V~2V(vs Li/Li+ )である。
【0080】
リチウムチタン複合酸化物は、リチウムおよびチタンを構成元素として含む複合酸化物の総称である。具体的には、リチウムチタン複合酸化物は、例えば、下記の式(12)~式(14)のそれぞれで表される化合物などであり、すなわちラムスデライト型チタン酸リチウムなどである。式(12)に示したM12は、2価イオンになり得る金属元素である。式(13)に示したM13は、3価イオンになり得る金属元素である。式(14)に示したM14は、4価イオンになり得る金属元素である。
【0081】
Li[Lix M12(1-3x)/2Ti(3+x)/2 ]O4 ・・・(12)
(M12は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびストロンチウム(Sr)のうちの少なくとも1種である。xは、0≦x≦1/3を満たす。)
【0082】
Li[Liy M131-3yTi1+2y]O4 ・・・(13)
(M13は、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ga)およびイットリウム(Y)のうちの少なくとも1種である。yは、0≦y≦1/3を満たす。)
【0083】
Li[Li1/3 M14z Ti(5/3)-z ]O4 ・・・(14)
(M14は、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)およびニオブ(Nb)のうちの少なくとも1種である。zは、0≦z≦2/3を満たす。)
【0084】
リチウムチタン複合酸化物の結晶構造は、特に限定されないが、中でも、スピネル型であることが好ましい。充放電時において結晶構造が変化しにくいため、電池特性が安定化するからである。
【0085】
具体的には、式(12)に示したリチウムチタン複合酸化物は、例えば、Li3.75Ti4.875 Mg0.375 O12などである。式(13)に示したリチウムチタン複合酸化物は、例えば、LiCrTiO4 などである。式(14)に示したリチウムチタン複合酸化物は、例えば、Li4 Ti5 O12およびLi4 Ti4.95Nb0.05O12などである。
【0086】
水素チタン化合物は、水素およびチタンを構成元素として含む酸化物の総称である。具体的には、水素チタン化合物は、例えば、H2 Ti3 O7 (3TiO2 ・1H2 O)、H6 Ti12O27(3TiO2 ・0.75H2 O)、H2 Ti6 O13(3TiO2 ・0.5H2 O)、H2 Ti7 O15(3TiO2 ・0.43H2 O)およびH2 Ti12O25(3TiO2 ・0.25H2 O)などである。
【0087】
ニオブ含有化合物は、ニオブを構成元素として含む材料の総称である。ニオブ含有化合物は、上記したチタン含有化合物と同様に、電気化学的に安定であるため、負極22の反応性に起因する電解液の分解反応が抑制されるからである。具体的には、ニオブ含有化合物は、例えば、リチウムニオブ複合酸化物、水素ニオブ化合物およびチタンニオブ複合酸化物などである。ただし、ニオブ含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物から除かれることとする。
【0088】
リチウムニオブ複合酸化物は、リチウムおよびニオブを構成元素として含む複合酸化物の総称であり、例えば、LiNbO2 などである。水素ニオブ化合物は、水素およびチタンを構成元素として含む複合酸化物の総称であり、例えば、H4 Nb6 O17などである。チタンニオブ複合酸化物は、例えば、チタンおよびニオブを構成元素として含む複合酸化物の総称であり、例えば、TiNb2 O7 およびTi2 Nb10O29などである。ただし、チタンニオブ複合酸化物には、例えば、リチウムがインターカレートされていてもよい。チタンニオブ複合酸化物に対するリチウムのインターカレート量は、特に限定されないが、例えば、TiNb2 O7 に対するリチウムのインターカレート量は、そのTiNb2 O7 に対して最大で4等量である。
【0089】
中でも、負極材料は、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、水素チタン化合物、リチウムニオブ複合酸化物、水素ニオブ化合物およびチタン複合酸化物のうちのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。チタン酸化物などは電気化学的に十分に安定であるため、負極22の反応性に起因する電解液の分解反応が十分に抑制されるからである。
【0090】
負極結着剤に関する詳細は、例えば、正極結着剤に関する詳細と同様である。負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極導電剤に関する詳細と同様である。
【0091】
[セパレータ]
セパレータ23は、例えば、合成樹脂およびセラミックなどの多孔質膜を含んでおり、2種類以上の多孔質膜が互いに積層された積層膜でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンなどである。
【0092】
特に、セパレータ23は、例えば、上記した多孔質膜(基材層)と、その基材層に設けられた高分子化合物層とを含んでいてもよい。この高分子化合物層は、例えば、基材層の片面だけに設けられていてもよいし、基材層の両面に設けられていてもよい。正極21に対するセパレータ23の密着性が向上すると共に、負極22に対するセパレータ23の密着性が向上するため、巻回電極体20が歪みにくくなるからである。これにより、電解液の分解反応が抑制されると共に、基材層に含浸された電解液の漏液も抑制される。
【0093】
高分子化合物層は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。なお、高分子化合物層は、例えば、無機粒子などの絶縁性粒子を含んでいてもよい。安全性が向上するからである。無機粒子の種類は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムなどである。
【0094】
[電解液]
電解液は、上記したように、巻回電極体20に含浸されている。このため、電解液は、例えば、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに含浸されている。
【0095】
この電解液は、溶媒および電解質塩を含んでいる。ただし、溶媒の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。このように種類が1種類だけでも2種類以上でもよいことは、電解質塩に関しても同様である。
【0096】
(溶媒)
溶媒は、例えば、非水溶媒(有機溶剤)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。非水溶媒を含む電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0097】
非水溶媒の種類は、特に限定されないが、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、ラクトン、鎖状カルボン酸エステルおよびニトリル(モノニトリル)化合物などである。環状炭酸エステルは、例えば、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどである。鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチルおよび炭酸ジエチルなどである。ラクトンは、例えば、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。鎖状カルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチルおよびプロピオン酸メチルなどである。ニトリル化合物は、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリルおよび3-メトキシプロピオニトリルなどである。
【0098】
また、非水溶媒は、例えば、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルホン酸エステル、酸無水物、ジシアノ化合物(ジニトリル化合物)およびジイソシアネート化合物、リン酸エステルなどでもよい。不飽和環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。ハロゲン化炭酸エステルは、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび炭酸フルオロメチルメチルなどである。スルホン酸エステルは、例えば、1,3-プロパンスルトンおよび1,3-プロペンスルトンなどである。酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水エタンジスルホン酸、無水プロパンジスルホン酸、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸および無水スルホ酪酸などである。ジニトリル化合物は、例えば、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリルおよびフタロニトリルなどである。ジイソシアネート化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。リン酸エステルは、例えば、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。
【0099】
(電解質塩)
電解質塩は、例えば、リチウム塩などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。リチウム塩の種類は、特に限定されないが、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO2 F)2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ジフルオロリン酸リチウム(LiPF2 O2 )およびフルオロリン酸リチウム(Li2 PFO3 )などである。電解質塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下である。
【0100】
<1-2.動作>
この二次電池では、例えば、充電時において、正極21からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。また、二次電池では、例えば、放電時において、負極22からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0101】
<1-3.製造方法>
ここでは、正極活物質の製造方法に関して説明したのち、二次電池の製造方法に関して説明する。
【0102】
<1-3-1.正極活物質の製造方法>
正極活物質を製造する場合には、例えば、以下で説明する手順により、水熱合成法または固相合成法を用いる。ただし、正極活物質を合成するために、他の合成方法を用いてもよい。
【0103】
[水熱合成法]
水熱合成法を用いる場合には、最初に、リチウムマンガンリン酸化合物の原料を準備したのち、その原料を混合することにより、混合物を得る。原料に関する詳細は、上記した通りである。
【0104】
続いて、水中に混合物を投入したのち、その水を撹拌することにより、水溶液を調製する。水の温度などの条件は、任意に設定可能である。
【0105】
続いて、オートクレーブなどの圧力容器を用いて水溶液を加熱することにより、その水溶液を反応させる。圧力容器の内部の圧力は、任意に設定可能であると共に、加熱時の温度は、任意に設定可能である。これにより、高温高圧の条件下において複数のリチウムマンガンリン酸化合物の結晶が成長する。続いて、スプレードライ装置を用いて、複数のリチウムマンガンリン酸化合物を含む水溶液を噴霧したのち、その噴霧物を乾燥させることにより、一次粒子P1である複数の正極活物質粒子1を得る。ただし、ボールミルなどの粉砕機を用いて、複数のリチウムマンガンリン酸化合物の結晶を粉砕することにより、一次粒子P1である複数の正極活物質粒子1を得てもよい。この場合には、粉砕処理を利用して、各正極活物質粒子1の粒径を調整可能である。
【0106】
最後に、複数の正極活物質粒子1に炭素源を加えたのち、その炭素源を加熱する。炭素源に関する詳細は、上記した通りである。加熱時の温度は、特に限定されないが、例えば、700℃以上である。これにより、各正極活物質粒子1の表面において炭素源が炭化(いわゆるカーボンコート)するため、各正極活物質粒子1の表面が炭素材料2により被覆される。この場合には、各正極活物質粒子1(リチウムマンガンリン酸化合物)の結晶性が向上する。よって、炭素材料2により被覆された複数の正極活物質粒子1が互いに密着するため、
図3に示したように、複数の二次粒子P2が形成される。
【0107】
なお、水熱合成法を用いる場合には、例えば、複数の正極活物質粒子1に炭素源を加える代わりに、上記した混合物に炭素源を加えたのち、同様の手順を行うことにより、複数の正極活物質粒子1が合成される際に、各正極活物質粒子1が炭素材料2により被覆されてもよい。この場合においても、
図3に示した複数の二次粒子P2が形成される。
【0108】
[固相合成法]
固相合成を用いる場合には、上記した混合物に炭素源を加えたのち、その混合物を加熱する。混合物および炭素源のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。加熱温度は、特に限定されないが、例えば、500℃以上である。これにより、複数のリチウムマンガンリン酸化合物の粒子が乾式合成されるため、一次粒子P1である複数の正極活物質粒子1が形成されると共に、各正極活物質粒子1の表面において炭素源が炭化されるため、各正極活物質粒子1の表面が炭素材料2により被覆される。この場合には、炭素源の添加量を変更することにより、各正極活物質粒子1の粒径を調整可能である。よって、炭素材料2により被覆された複数の正極活物質粒子1が互いに密着するため、
図3に示したように、複数の二次粒子P2が形成される。
【0109】
<1-3-2.二次電池の製造方法>
二次電池を製造する場合には、例えば、以下で説明する手順により、正極21の作製、負極22の作製および電解液の調製を行ったのち、二次電池の組み立てを行う。
【0110】
[正極の作製]
最初に、複数の正極活物質粒子1を含む正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合することにより、正極合剤とする。続いて、有機溶剤などに正極合剤を分散または溶解させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。最後に、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層21Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0111】
[負極の作製]
上記した正極21の作製手順と同様の手順により、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成する。具体的には、負極活物質と、必要に応じて負正極結着剤および負極導電剤などとを混合することにより、負極合剤としたのち、有機溶剤などに負極合剤を分散または溶解させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層22Bを形成する。こののち、負極活物質層22Bを圧縮成型してもよい。
【0112】
なお、正極21および負極22のそれぞれを作製する場合には、上記したように、負極22の単位面積当たりの電気化学容量が正極21の単位面積当たりの電気化学容量以下となるように、負極活物質の量と正極活物質の量とを互いに調整する。
【0113】
[電解液の調製]
溶媒に電解質塩を加えたのち、その溶媒を撹拌する。この場合には、必要に応じて、上記した不飽和環状炭酸エステルなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を添加剤として溶媒に加えてもよい。
【0114】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などを用いて正極集電体21Aに正極リード25を接続させると共に、溶接法などを用いて負極集電体22Aに負極リード26を接続させる。続いて、セパレータ23を介して正極21および負極22を互いに積層させたのち、その正極21、負極22およびセパレータ23を巻回させることにより、巻回体を形成する。続いて、巻回体の巻回中心に設けられた空間20Cにセンターピン24を挿入する。
【0115】
続いて、一対の絶縁板12,13により巻回体が挟まれた状態において、その巻回体を絶縁板12,13と一緒に電池缶11の内部に収納する。この場合には、溶接法などを用いて正極リード25を安全弁機構15に接続させると共に、溶接法などを用いて負極リード26を電池缶11に接続させる。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入することにより、その電解液を巻回体に含浸させる。これにより、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに電解液が含浸されるため、巻回電極体20が形成される。
【0116】
最後に、ガスケット17を介して電池缶11の開放端部をかしめることにより、その電池缶11の開放端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16を取り付ける。これにより、電池缶11の内部に巻回電極体20が封入されるため、二次電池が完成する。
【0117】
<1-4.作用および効果>
この円筒型の二次電池によれば、正極21に含まれている複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)がリチウムマンガンリン酸化合物を含んでおり、その複数の正極活物質粒子1の平均粒径が100nm以下である。また、負極22の単位面積当たりの電気化学容量が正極21の単位面積当たりの電気化学容量以下である。
【0118】
この場合には、上記したように、各正極活物質粒子1において、リチウムの吸蔵放出時におけるストレスが軽減されると共に不可逆的な劣化が抑制されるだけでなく、電気抵抗が減少する。よって、リチウムマンガンリン酸化合物を含む複数の正極活物質粒子1を用いても、電気抵抗が減少しながら放電電圧が低下しにくくなるため、優れた電池特性を得ることができる。
【0119】
特に、式(1)中のyがy≧0.5を満たしていれば、リチウムマンガンリン酸化合物を含む複数の正極活物質粒子1を用いた場合において放電電圧の低下が効果的に抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0120】
また、複数の正極活物質粒子1の平均粒径が60nm以下であれば、放電電圧がより低下しにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0121】
また、複数の正極活物質粒子1のそれぞれの表面が炭素材料2により被覆されていれば、その複数の正極活物質粒子1が炭素材料2を介して互いに分離された状態において複数の二次粒子P2を形成しやすくなると共に、その炭素材料2の導電性を利用して負極22の電気抵抗が減少するため、より高い効果を得ることができる。この場合には、複数の二次粒子P2中における炭素材料2の含有量が1.4重量%~4.8重量%であれば、リチウムの吸蔵放出が阻害されることを抑制しながら、複数の正極活物質粒子1により複数の二次粒子P2が形成されやすくなるため、さらに高い効果を得ることができる。
【0122】
また、負極22が負極活物質としてチタン酸化物などを含んでいれば、電気化学的に安定であるリチタン酸化物などの性質を利用して、負極22の反応性に起因する電解液の分解反応が抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0123】
<2.二次電池(ラミネートフィルム型)>
図7は、他の二次電池の斜視構成を表していると共に、
図8は、
図7に示したVIII-VIII線に沿った二次電池の主要部(巻回電極体30)の断面構成を拡大している。ただし、
図7では、巻回電極体30と外装部材40とが互いに離間された状態を示している。
【0124】
以下の説明では、随時、既に説明した円筒型の二次電池の構成要素(
図1および
図2参照)を引用する。
【0125】
<2-1.構成>
この二次電池は、例えば、
図7に示したように、柔軟性(または可撓性)を有するフィルム状の外装部材40の内部に電池素子(巻回電極体30)が収納されたラミネートフィルム型の二次電池である。
【0126】
巻回電極体30は、例えば、セパレータ35および電解質層36を介して正極33および負極34が互いに積層されたのち、その正極33、負極34、セパレータ35および電解質層36が巻回された構造体であり、その巻回電極体30の表面は、例えば、保護テープ37により保護されている。電解質層36は、例えば、正極33とセパレータ35との間に介在していると共に、負極34とセパレータ35との間に介在している。
【0127】
正極33には、正極リード31が接続されており、その正極リード31は、外装部材40の内部から外部に向かって導出されている。正極リード31の形成材料は、例えば、正極リード25の形成材料と同様であり、その正極リード31の形状は、例えば、薄板状および網目状などである。
【0128】
負極34には、負極リード32が接続されており、その負極リード32は、外装部材40の内部から外部に向かって導出されている。負極リード32の導出方向は、例えば、正極リード31の導出方向と同様である。負極リード32の形成材料は、例えば、負極リード26の形成材料と同様であり、その負極リード32の形状は、例えば、正極リード31の形状と同様である。
【0129】
[外装部材]
外装部材40は、例えば、
図7に示した矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムである。外装部材40には、例えば、巻回電極体30を収納するための窪み40Uが設けられている。
【0130】
この外装部材40は、例えば、内側から外側に向かって融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層された積層体(ラミネートフィルム)である。二次電池の製造工程では、例えば、融着層同士が巻回電極体30を介して互いに対向するように外装部材40が折り畳まれたのち、その融着層のうちの外周縁部同士が互いに融着される。融着層は、例えば、ポリプロピレンなどの高分子化合物を含むフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウムなどの金属材料を含む金属箔である。表面保護層は、例えば、ナイロンなどの高分子化合物を含むフィルムである。ただし、外装部材40は、例えば、2枚のラミネートフィルムであり、その2枚のラミネートフィルムは、例えば、接着剤を介して互いに貼り合わされていてもよい。
【0131】
外装部材40と正極リード31との間には、例えば、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31に対して密着性を有する材料を含んでおり、その材料は、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0132】
外装部材40と負極リード32との間には、例えば、密着フィルム41と同様の機能を有する密着フィルム42が挿入されている。密着フィルム42の形成材料は、正極リード31の代わりに負極リード32に対する密着性を有することを除いて、密着フィルム41の形成材料と同様である。
【0133】
[正極、負極およびセパレータ]
正極33は、例えば、正極集電体33Aおよび正極活物質層33Bを含んでいると共に、負極34は、例えば、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bを含んでいる。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bのそれぞれの構成は、例えば、正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bのそれぞれの構成と同様である。また、セパレータ35の構成は、例えば、セパレータ23の構成と同様である。
【0134】
すなわち、正極33に含まれている複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)は、リチウムマンガンリン酸化合物を含んでおり、その複数の正極活物質粒子1の平均粒径は、100nm以下である。また、負極34の単位面積当たりの電気化学容量は、正極33の単位面積当たりの電気化学容量以下である。
【0135】
[電解質層]
電解質層36は、電解液と共に高分子化合物を含んでいる。ここで説明する電解質層36は、いわゆるゲル状の電解質であるため、その電解質層36中では、電解液が高分子化合物により保持されている。高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、電解液の漏液が防止されるからである。ただし、電解質層36は、例えば、さらに、各種の添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0136】
電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、例えば、単独重合体および共重合体のうちの一方または双方を含んでいる。単独重合体は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどであると共に、共重合体は、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などである。
【0137】
ゲル状の電解質である電解質層36において、電解液に含まれる溶媒は、液状の材料だけでなく、電解質塩を解離可能であるイオン伝導性を有する材料も含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0138】
<2-2.動作>
この二次電池では、例えば、充電時において、正極33からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解質層36を介して負極34に吸蔵される。また、二次電池では、例えば、放電時において、負極34からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解質層36を介して正極33に吸蔵される。
【0139】
<2-3.製造方法>
電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下で説明する3種類の手順により製造される。
【0140】
[第1手順]
最初に、正極21の作製手順と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成することにより、正極33を作製する。また、負極22の作製手順と同様の手順により、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成することにより、負極34を作製する。
【0141】
続いて、電解液を調製したのち、その電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などとを混合することにより、前駆溶液を調製する。続いて、正極33に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、電解質層36を形成すると共に、負極34に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、電解質層36を形成する。続いて、溶接法などを用いて正極集電体33Aに正極リード31を接続させると共に、溶接法などを用いて負極集電体34Aに負極リード32を接続させる。続いて、セパレータ35および電解質層36を介して正極33および負極34を互いに積層させたのち、その正極33、負極34、セパレータ35および電解質層36を巻回させることにより、巻回電極体30を形成する。続いて、巻回電極体30の表面に保護テープ37を貼り付ける。
【0142】
最後に、巻回電極体30を挟むように外装部材40を折り畳んだのち、熱融着法などを用いて外装部材40の外周縁部同士を互いに接着させる。この場合には、外装部材40と正極リード31との間に密着フィルム41を挿入すると共に、外装部材40と負極リード32との間に密着フィルム42を挿入する。これにより、外装部材40の内部に巻回電極体30が封入されるため、二次電池が完成する。
【0143】
[第2手順]
最初に、正極33および負極34を作製したのち、正極33に正極リード31を接続させると共に、負極34に負極リード32を接続させる。続いて、セパレータ35を介して正極33および負極34を互いに積層させたのち、その正極33、負極34およびセパレータ35を巻回させることにより、巻回体を形成する。続いて、巻回体の表面に保護テープ37を貼り付ける。続いて、巻回体を挟むように外装部材40を折り畳んだのち、熱融着法などを用いて外装部材40のうちの一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部同士を互いに接着させることにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。
【0144】
続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを混合したのち、その混合物を撹拌することにより、電解質用組成物を調製する。続いて、袋状の外装部材40の内部に電解質用組成物を注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40を密封する。最後に、モノマーを熱重合させることにより、高分子化合物を形成する。これにより、電解液が高分子化合物により保持されるため、電解質層36が形成される。よって、外装部材40の内部に巻回電極体30が封入されるため、二次電池が完成する。
【0145】
[第3手順]
最初に、基材層の両面に高分子化合物層が設けられたセパレータ35を用いることを除いて、上記した第2手順と同様の手順により、巻回体を作製したのち、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、外装部材40の内部に電解液を注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材40を密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら、その外装部材40を加熱することにより、高分子化合物層を介してセパレータ35を正極33および負極34のそれぞれに密着させる。これにより、高分子化合物層に電解液が含浸されると共に、その高分子化合物層がゲル化するため、電解質層36が形成される。よって、外装部材40の内部に巻回電極体30が封入されるため、二次電池が完成する。
【0146】
この第3手順では、第1手順と比較して、二次電池が膨れにくくなる。また、第3手順では、第2手順と比較して、溶媒およびモノマー(高分子化合物の原料)が電解質層36中に残存しにくくなるため、正極33、負極34およびセパレータ35のそれぞれに対して電解質層36が十分に密着する。
【0147】
<2-4.作用および効果>
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、正極33に含まれている複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)がリチウムマンガンリン酸化合物を含んでおり、その複数の正極活物質粒子1の平均粒径が100nm以下である。また、負極34の単位面積当たりの電気化学容量が正極33の単位面積当たりの電気化学容量以下である。よって、円筒型の二次電池と同様の理由により、優れた電池特性を得ることができる。これ以外のラミネートフィルム型の二次電池に関する作用および効果は、円筒型の二次電池に関する作用および効果と同様である。
【0148】
<3.変形例>
ラミネートフィルム型の二次電池は、電解質層36の代わりに電解液を備えていてもよい。この場合には、電解液が巻回電極体30に含浸されているため、その電解液が正極33、負極34およびセパレータ35のそれぞれに含浸されている。また、袋状の外装部材40の内部に巻回体が収納されたのち、その袋状の外装部材40の内部に電解液が注入されることにより、その巻回体に電解液が含浸されるため、巻回電極体30が形成される。この場合においても同様の効果を得ることができる。
【0149】
<4.二次電池の用途>
上記した二次電池の用途は、例えば、以下で説明する通りである。
【0150】
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源および電力蓄積用の電力貯蔵源などとして利用可能である機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、例えば、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、必要に応じて主電源から切り替えられる電源でもよい。二次電池を補助電源として用いる場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0151】
二次電池の用途は、例えば、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む。)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、二次電池の用途は、上記した用途以外の他の用途でもよい。
【実施例】
【0152】
以下では、本技術の実施例に関して説明する。
【0153】
<実験例1~8>
以下で説明するように、正極活物質を合成すると共に、
図9に示した試験用の二次電池(コイン型)を作製したのち、その二次電池の電池特性を評価した。ここでは、正極活物質として、
図3に示した複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)の集合体(複数の二次粒子P2)を合成した。
【0154】
コイン型の二次電池は、
図9に示したように、試験極51および対極52がセパレータ53を介して互いに積層されていると共に、試験極51が収容された外装缶54と対極52が収容された外装カップ55とがガスケット56を介して互いにかしめられたリチウムイオン二次電池である。
【0155】
[正極活物質の合成]
正極活物質を合成する場合には水熱合成法を用いた。この場合には、最初に、原料として、リチウム含有化合物(水酸化リチウム(LiOH))と、マンガン含有化合物(硫酸マンガン・一水和物(MnSO4 ・H2 O))と、鉄含有化合物(硫酸鉄・七水和物(FeSO4 ・7H2 O))と、マグネシウム含有化合物(硫酸マグネシウム・七水和物(MgSO4 ・7H2 O))と、リン酸化合物(リン酸(H3 PO4 ))とを準備した。続いて、上記した一連の原料を混合することにより、混合物を得た。この場合には、一連の元素のモル比がLi:P:Mn:Fe:Mg=3:1:0.7:0.27:0.03となるように、一連の原料を混合した。
【0156】
続いて、イオン交換水に混合物を加えることにより、懸濁液を得た。続いて、オートクレーブ中に懸濁液を投入したのち、その懸濁液を加熱(加熱温度=190℃,加熱時間=12時間)した。続いて、オートクレーブ中から加熱処理後の懸濁液を取り出したのち、イオン交換水およびアセトンを用いて懸濁液を洗浄した。続いて、遠心分離器を用いて懸濁液を遠心分離処理することにより、固形物(リチウムマンガンリン酸化合物であるLiMn0.70Fe0.27Mg0.03PO4 )を回収したのち、その固形物を乾燥させた。続いて、ボールミルを用いて固形物を粉砕処理することにより、一次粒子P1である複数の正極活物質粒子1を得た。続いて、複数の正極活物質粒子1と炭素源(ショ糖水溶液)とを混合することにより、混合溶液を得た。続いて、スプレードライ装置を用いて混合溶液を噴霧したのち、その噴霧物を乾燥させた。
【0157】
最後に、窒素雰囲気中において噴霧物を加熱(加熱温度=700℃,加熱時間=3時間)した。これにより、各正極活物質粒子1の表面が炭素材料2により被覆されたため、
図3に示したように、複数の正極活物質粒子1の集合体(複数の二次粒子P2)が得られた。
【0158】
炭素源の添加量(重量%)および複数の二次粒子P2中における炭素材料2の含有量(重量%)は、表1に示した通りである。ボールミルを用いた粉砕処理時におけるボールの大きさおよび粉砕処理の時間などの条件を変更することにより、表1に示したように、複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)の平均粒径(nm)を調整した。
【0159】
[二次電池の作製]
試験極51を作製する場合には、最初に、正極活物質(上記した二次粒子P2)90.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)5.0質量部と、正極導電剤(黒鉛)4.5質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体(帯状のアルミニウム箔,厚さ=12μm)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層を圧縮成型した。
【0160】
対極52を作製する場合には、最初に、負極活物質(リチウムチタン複合酸化物であるLi4 Ti5 O12)90.5質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)5.0質量部と、負極導電剤(黒鉛)4.5質量部とを混合することにより、負極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体(帯状の銅箔,厚さ=15μm)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層を圧縮成型した。
【0161】
試験極51および対極52のそれぞれを作製する場合には、正極活物質の量と負極活物質の量とを互いに調整することにより、表1に示したように、試験極51(正極)の単位面積当たりの電気化学容量と対極52(負極)の単位面積当たりの電気化学容量との大小関係を設定すると共に、充電終止極を設定した。表1中の「電気化学容量」の欄には、上記した大小関係を示している。
【0162】
電解液を調製する場合には、溶媒(炭酸プロピレンおよび炭酸ジメチル)に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム)を加えたのち、その溶媒を撹拌した。この場合には、溶媒の混合比(体積比)を炭酸プロピレン:炭酸ジメチル=40:60とすると共に、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/l(=1mol/dm3 )とした。
【0163】
二次電池を組み立てる場合には、試験極51をペレット状に打ち抜いたのち、その試験極51を外装缶54の内部に収容した。続いて、対極52をペレット状に打ち抜いたのち、その対極52を外装カップ55の内部に収容した。続いて、セパレータ53(多孔性ポリオレフィンフィルム,厚さ=23μm)を介して、外装缶54の内部に収容された試験極51と外装カップ55の内部に収容された対極52とを互いに積層させたのち、ガスケット56を介して外装缶54および外装カップ55を互いにかしめた。これにより、コイン型のリチウムイオン二次電池が完成した。
【0164】
[電池特性の評価]
二次電池の電池特性を評価したところ、表1に示した結果が得られた。ここでは、電池特性としてサイクル特性および放電電圧特性を調べた。
【0165】
(サイクル特性)
サイクル特性を調べる場合には、最初に、二次電池の状態を安定化させるために、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を1サイクル充放電させた。続いて、同環境中において二次電池を1サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同環境中において二次電池を50サイクル充放電させることにより、52サイクル目の放電容量を測定した。最後に、容量維持率(%)=(52サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。
【0166】
充電時には、1Cの電流で電圧が3.0Vに到達するまで定電流充電したのち、3.0Vの電圧で電流が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、1Cの電流で電圧が0.5Vに到達するまで定電流放電した。なお、1Cおよび0.05Cとは、電池容量(理論容量)をそれぞれ1時間および20時間で放電しきる電流値である。
【0167】
(放電電圧特性)
放電電圧特性を調べる場合には、以下で説明するように、4種類の平均放電電圧(V)と、2種類の平均放電電圧維持率(V)とを算出した。なお、4種類の平均放電電圧および2種類の平均放電電圧維持率のそれぞれの値は、小数点第二位の値を四捨五入した値である。
【0168】
(1種類目および2種類目の平均放電電圧の算出)
上記した手順により、二次電池の状態を安定化させたのち、最初に、同環境中において二次電池を1サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電時において放電深度(%)が10%増加するごとに放電電圧(V)を測定した(放電工程1)。充放電条件は、充電時の電流および放電時の電流のそれぞれを0.05Cに変更したことを除いて、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0169】
続いて、同環境中において二次電池を50サイクル充放電させた。充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0170】
続いて、同環境中において二次電池を1サイクル充放電させることにより、53サイクル目の放電時において放電深度(%)が10%増加するごとに放電電圧(V)を測定した(放電工程2)。充放電条件は、充電時の電流および放電時の電流のそれぞれを0.05Cに変更したことを除いて、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0171】
最後に、以下で説明する手順により、上記した放電工程1,2のそれぞれにおける放電電圧の測定結果に基づいて、2種類の平均放電電圧(V)を算出した。
【0172】
図10は、二次電池の放電曲線(横軸は放電深度(%)および縦軸は放電電圧(V))を表している。なお、
図10では、実験例1~8を代表して、実験例2(放電工程1,放電時の電流=0.05C)に関する放電曲線を示している。
【0173】
複数の正極活物質粒子1のそれぞれがリチウムマンガンリン酸化合物(LiMn
0.70Fe
0.27Mg
0.03PO
4 )を含んでいる場合には、二次電池を放電させながら放電電圧を測定すると、
図10に示したように、マンガンの還元反応(Mn
3+→Mn
2+)に起因する放電領域R1と、鉄の還元反応(Fe
3+→Fe
2+)に起因する放電領域R2とが観察される。この場合には、充放電を繰り返すと、マンガンの還元反応に起因する放電領域R1において放電電圧が低下しやすくなる。この放電領域R1では、本質的に放電電圧が低下しやすい傾向にあるだけでなく、電気抵抗が高くなるからである。
【0174】
ここで、放電領域R1,R2の境界に対応する放電深度の値Y(%)は、リチウムマンガンリン酸化合物中におけるマンガンの含有量、すなわち式(1)に示したyの値に対応している。より具体的には、yの値は、yの値を100倍した値である。ここでは、リチウムマンガンリン酸化合物(LiMn0.70Fe0.27Mg0.03PO4 )におけるyの値が0.7であるため、Yの値はおおよそ70%(=0.7×100)となる。
【0175】
1種類目の平均放電電圧(V)を算出する場合には、放電工程1(放電時の電流=0.05C)において放電深度(%)が10%増加するごとに測定された10個の放電電圧のうち、放電領域R1において測定された6個の放電電圧(放電深度=10%~60%)の平均値を算出した。この1種類目の平均放電電圧は、表1中の「平均放電電圧」のうちの「サイクル前(0.05C)」の欄に記載されている。ここで、6個の放電電圧を採用しているのは、上記した10個の放電電圧のうち、Y(=70%)よりも左側の領域において測定された放電電圧を採用するためである。
【0176】
2種類目の平均放電電圧(V)を算出する場合には、放電工程2(放電時の電流=0.05C)において放電深度(%)が10%増加するごとに測定された10個の放電電圧のうち、放電領域R1において測定された6個の放電電圧の平均値を算出した。この2種類目の平均放電電圧は、表1中の「平均放電電圧」のうちの「サイクル後(0.05C)」の欄に記載されている。
【0177】
(3種類目および4種類目の平均放電電圧の算出)
上記した手順により、二次電池の状態を安定化させたのち、最初に、充電時の電流および放電時の電流のそれぞれを1Cに変更したことを除いて放電工程1と同様の手順により、放電深度(%)が10%増加するごとに放電電圧(V)を測定した(放電工程3)。続いて、上記した手順により、二次電池を50サイクル充放電させた。続いて、充電時の電流および放電時の電流のそれぞれを1Cに変更したことを除いて放電工程2と同様の手順により、放電深度(%)が10%増加するごとに放電電圧(V)を測定した(放電工程4)。最後に、以下で説明するように、上記した放電工程3,4のそれぞれにおける放電電圧の測定結果に基づいて、2種類の平均放電電圧(V)を算出した。
【0178】
3種類目の平均放電電圧(V)を算出する場合には、放電工程3(放電時の電流=1C)において放電深度(%)が10%増加するごとに測定された10個の放電電圧のうち、放電領域R1において測定された6個の放電電圧(放電深度=10%~60%)の平均値を算出した。この3種類目の平均放電電圧は、表1中の「平均放電電圧」のうちの「サイクル前(1C)」の欄に記載されている。
【0179】
4種類目の平均放電電圧(V)を算出する場合には、放電工程4(放電時の電流=1C)において放電深度(%)が10%増加するごとに測定された10個の放電電圧のうち、放電領域R1において測定された6個の放電電圧の平均値を算出した。この4種類目の平均放電電圧は、表1中の「平均放電電圧」のうちの「サイクル後(1C)」の欄に記載されている。
【0180】
(2種類の平均放電電圧維持率の算出)
1種類目の平均放電電圧維持率(%)を算出する場合には、平均放電電圧維持率(%)=[放電工程3(放電時の電流=1C)における平均放電電圧/放電工程1(放電時の電流=0.05C)における平均放電電圧]×100を算出した。この1種類目の平均放電電圧維持率は、表1中の「平均放電電圧維持率」のうちの「サイクル前」の欄に記載されている。
【0181】
2種類目の平均放電電圧維持率(%)を算出する場合には、平均放電電圧維持率(%)=[放電工程4(放電時の電流=1C)における平均放電電圧/放電工程3(放電時の電流=1C)における平均放電電圧]×100を算出した。この2種類目の平均放電電圧維持率は、表1中の「平均放電電圧維持率」のうちの「サイクル前後」の欄に記載されている。
【0182】
【0183】
[考察]
表1に示したように、複数の正極活物質粒子1(リチウムマンガンリン酸化合物)の合成時において炭素源を添加することにより、炭素材料2を含む二次粒子P2を形成したところ、100nm以下の平均粒径を有する複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)が得られた。
【0184】
ここで、負極34の単位面積当たりの電気化学容量が正極33の単位面積当たりの電気化学容量以下であると共に、複数の正極活物質粒子1の平均粒径が100nm以下であるという条件が満たされている場合(実験例1~3)には、その条件が満たされていない場合(実験例4~8)とは異なり、サイクル前の平均放電電圧維持率およびサイクル前後の平均放電電圧維持率がいずれも著しく高くなった。
【0185】
特に、上記した条件が満たされている場合には、複数の正極活物質粒子1の平均粒径が60nm以下であると、サイクル前の平均放電電圧維持率およびサイクル前後の平均放電電圧維持率のそれぞれがより増加した。
【0186】
<実験例9~12>
表2に示したように、炭素源の添加量(重量%)に応じて炭素材料2の含有量(重量%)を変更したことを除いて同様の手順により、正極活物質(複数の正極活物質粒子1)を合成すると共に二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を評価した。
【0187】
【0188】
表2に示したように、炭素材料2の含有量を変化させたところ、その炭素材料2の含有量の変化に応じて4種類の平均放電電圧および2種類の平均放電電圧維持率のそれぞれが変化した。この場合には、炭素材料2の含有量が1.4重量%~4.8重量%であると(実験例1,10,11)、サイクル前の平均放電電圧維持率およびサイクル前後の平均放電電圧維持率がいずれもより高くなった。
【0189】
[まとめ]
これらのことから、負極の単位面積当たりの電気化学容量が正極の単位面積当たりの電気化学容量以下である場合において、その正極に含まれている複数の正極活物質粒子1(一次粒子P1)がリチウムマンガンリン酸化合物を含んでおり、その複数の正極活物質粒子1の平均粒径が100nm以下であると、サイクル特性および放電電圧特性が改善された。よって、二次電池において優れた電池特性が得られた。
【0190】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の態様は一実施形態および実施例において説明された態様に限定されないため、その本技術の態様は種々に変形可能である。
【0191】
具体的には、円筒型の二次電池、ラミネートフィルム型の二次電池およびコイン型の二次電池に関して説明したが、これらに限られない。例えば、角型の二次電池などの他の二次電池でもよい。
【0192】
また、円筒型の二次電池およびラミネートフィルム型の二次電池では、電池素子が巻回構造を有する場合に関して説明したが、これに限られない。例えば、電池素子が積層構造などの他の構造を有していてもよい。
【0193】
なお、本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して他の効果が得られてもよい。
【0194】
また、当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲の趣旨およびその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。