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  • 特許-積層フィルムおよびその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】積層フィルムおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/12 20060101AFI20220930BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220930BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220930BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220930BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20220930BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220930BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B32B7/12
B32B27/00 M
B32B27/30 A
B32B27/36 102
C09J7/35
C09J11/06
C09J133/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021050093
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2021-03-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】福井 和寿
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-193275(JP,A)
【文献】特開2020-023088(JP,A)
【文献】特開2015-98123(JP,A)
【文献】特開2005-179481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、離型層と、前記基材層と前記離型層との間に介在する接着層とを含む積層フィルムであって、
前記基材層が、セルロースエステル、ポリエステル系樹脂またはポリカーボネート系樹脂で形成され、
前記離型層が、熱可塑性樹脂およびシリコーン化合物を含む樹脂組成物で形成され、
前記接着層が、光学透明接着剤で形成され、
前記光学透明接着剤が、(メタ)アクリル系重合体および架橋剤を含む硬化性組成物の硬化物であり、
前記基材層の平均厚みが10~2000μmであり、
前記接着層に対して、フィルム面に平行な方向で5mm/分で歪みを加えたときのせん断降伏応力が0.15N/mm以上である積層フィルム。
【請求項2】
前記せん断降伏応力が0.17N/mm以上である請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
打抜き加工に供するためのフィルムである請求項1または2記載の積層フィルム。
【請求項4】
打抜き加工された打抜きフィルムである請求項1~のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の積層フィルムを打抜き加工して打抜きフィルムを製造する方法。
【請求項6】
表示面に請求項記載の打抜きフィルムを備えた表示装置。
【請求項7】
狭ベゼルディスプレイである請求項記載の表示装置。
【請求項8】
セルロースエステル、ポリエステル系樹脂またはポリカーボネート系樹脂で形成され、かつ 平均厚みが10~2000μmである基材層と、
熱可塑性樹脂およびシリコーン化合物を含む樹脂組成物で形成された 離型層と、
(メタ)アクリル系重合体および架橋剤を含む硬化性組成物の硬化物である光学透明接着剤で形成され、かつ 前記基材層と前記離型層との間に介在する接着層とを含む積層フィルムにおいて、
前記接着層に対して、フィルム面に平行な方向で5mm/分で歪みを加えたときのせん断降伏応力を0.15N/mm以上に調整することにより、前記積層フィルムの打抜き痕耐性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打抜き痕耐性を有する積層フィルムおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特開2015-98123号公報(特許文献1)などに記載されているように、パーソナルコンピュータ(PC)モニターやテレビ、スマートフォンなどの各種表示装置の表示面に配設される光学フィルムとして、基材層、光学機能層、カバー層、粘着層(または接着層)を含む透明積層フィルムが利用されている。透明積層フィルムにおいて、粘着層は、光学透明接着剤(OCA)で形成されている。
【0003】
透明積層フィルムを目的のディスプレイサイズに成形する方法として、打抜き加工が利用されている。従来から、透明積層フィルムの打抜き加工においては、打抜き形状に沿ってフィルム端部の内側に僅かな変形が発生する現象が知られていた。この変形は、ツーリングマーク(TM)と称され、例えば、打抜き加工において粘着層が一時的に変形することにより発生し、フィルム端部近辺(切断箇所近傍)で端部に沿った線状痕として発生する。そのため、従来の表示装置では、ディスプレイの枠によってツーリングマークの存在が隠蔽され、大きな問題となることはなかった。しかし、近年、ディスプレイ(モニター)の狭ベゼル化(スリムベゼル化)に伴って、ツーリングマークがディスプレイ上で顕在化することにより画像に歪みが生じ、ツーリングマークが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-98123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のOCAなどの粘着剤(または接着剤)は、その設計指針として、光学特性や粘弾特性、粘着性が主に注目され、打抜き痕を抑制する観点による設計はされていなかった。また、本発明者が、打抜き痕の発生と、粘着剤の粘着性との相関関係を検討したところ、これらの特性と打抜き痕の発生との間には相関関係がないことが判明した。
【0006】
従って、本開示の目的は、打抜き痕耐性を有する積層フィルムおよびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、積層フィルムの接着層(または粘着層)のせん断降伏応力(または降伏せん断応力)を0.15N/mm以上に調整することにより、打抜き痕耐性が発現することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本開示の積層フィルムは、基材層と、離型層と、前記基材層と前記離型層との間に介在する接着層とを含む積層フィルムであって、前記接着層に対して、フィルム面に平行な方向で5mm/分で歪みを加えたときのせん断降伏応力が0.15N/mm以上である。前記せん断降伏応力は0.17N/mm以上であってもよい。前記接着層は、光学透明接着剤を含んでいてもよい。前記光学透明接着剤は硬化性組成物の硬化物であってもよい。前記硬化性組成物は(メタ)アクリル系重合体および架橋剤を含んでいてもよい。前記基材層は透明樹脂を含んでいてもよい。前記積層フィルムは、打抜き加工に供するためのフィルムであってもよい。前記積層フィルムは、打抜き加工された打抜きフィルムであってもよい。
【0009】
本開示には、前記積層フィルムを打抜き加工して打抜きフィルムを製造する方法も含まれる。
【0010】
本開示には、表示面に前記打抜きフィルムを備えた表示装置も含まれる。この表示装置は狭ベゼルディスプレイであってもよい。
【0011】
本発明には、基材層と、離型層と、前記基材層と前記離型層との間に介在する接着層とを含む積層フィルムにおいて、前記接着層に対して、フィルム面に平行な方向で5mm/分で歪みを加えたときのせん断降伏応力を0.15N/mm以上に調整することにより、前記積層フィルムの打抜き痕耐性を向上させる方法も含まれる。
【0012】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「打抜き痕耐性」とは、ツーリングマークなどの打抜き痕が発生しないか、また打抜き痕が発生したとしても、フィルムの端部近傍に発生して狭ベゼル(スリムベゼル)のディスプレイであっても画像に歪みが生じないフィルム特性を意味する。
【0013】
また、本明細書および特許請求の範囲において「狭ベゼルディスプレイ」とは、表示装置の枠部分(画面周りの縁取り部分)の幅が狭いディスプレイを意味する。
【0014】
さらに、本願明細書および特許請求の範囲において「打抜き面」とは、積層フィルムに打抜き刃が最初に当たる側の表面を意味する。
【発明の効果】
【0015】
本開示では、積層フィルムの接着層のせん断降伏応力[詳しくは、フィルム面方向に変位(横ズリ)させたときの最大応力]が0.15N/mm以上に調整されているため、積層フィルムに打抜き痕耐性を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例において、接着層のせん断降伏応力を測定するためのサンプルの概略側面図(a)および平面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[積層フィルム]
本開示の積層フィルムは、基材層と、離型層と、前記基材層と前記離型層との間に介在する接着層(または粘着層)とを含む。
【0018】
(接着層または粘着層)
本開示の積層フィルムでは、前記接着層に対して、フィルム面に平行な方向で5mm/分で歪みを加えたときのせん断降伏応力(または応力の最大値)が0.15N/mm以上(例えば0.15~1N/mm)であり、好ましくは0.17N/mm以上(例えば0.17~0.8N/mm)、さらに好ましくは0.18N/mm以上(例えば0.18~0.5N/mm)、より好ましくは0.19N/mm以上(例えば0.19~0.4N/mm)、最も好ましくは0.2N/mm以上(例えば0.2~0.3N/mm)である。前記せん断降伏応力が0.15N/mm未満になると、打抜き痕耐性を積層フィルムに付与できない。これに対して、前記せん断降伏応力が0.15N/mm以上であれば、打抜き痕耐性を積層フィルムに付与できる。すなわち、ツーリングマークの発生を抑制でき、ツーリングマークの発生した場合であっても、積層フィルムの端部に近い領域に発生するため、狭ベゼルのディスプレイであっても、画像の歪みを抑制できる。特に、0.17N/mm以上であれば、ツーリングマークの発生自体を抑制できる。
【0019】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、前記せん断降伏応力は、フィルム面方向に接着層を変位(横ズリ)させたときの最大応力を意味し、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0020】
接着層(または粘着層)は、前記せん断降伏応力が0.15N/mm以上であればよく、慣用の接着剤、粘着剤を利用できるが、ツーリングマークが問題となり易い点から、透明な光学的用途で利用される光学透明接着剤(OCA)で形成されているのが好ましい。
【0021】
光学透明接着剤は、慣用のOCAを利用でき、例えば、(メタ)アクリル系接着剤(または粘着剤)、ウレタン系接着剤(または粘着剤)、シリコーン系接着剤(または粘着剤)、ゴム系接着剤(または粘着剤)などであってもよい。これらの接着剤(または粘着剤)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
好ましいOCAとしては、透明性および接着性に優れ、かつ前記せん断降伏応力を容易に調整し易い点から、硬化性組成物の硬化物が好ましく、(メタ)アクリル系重合体および架橋剤を含む硬化性組成物の硬化物が特に好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル系重合体を形成する(メタ)アクリル系単量体には、架橋性基を有する架橋性(メタ)アクリル系単量体、架橋性基を有しない非架橋性(メタ)アクリル系単量体などが含まれる。
【0024】
架橋性基を有する(メタ)アクリル系単量体において、架橋性基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミド基などが挙げられる。
【0025】
ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2-4アルキル(メタ)アクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)C2-4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジないしペンタ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸;β-カルボキシエチル(メタ)アクリレートなどのカルボキシC2-6アルキル(メタ)アクリレート;ジカルボン酸とヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系単量体とのモノエステルなどが挙げられる。
【0027】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
アミド基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド;N,N-ジC1-4アルキル(メタ)アクリルアミドなどのN-置換(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0029】
非架橋性(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートなどの直鎖状または分岐鎖状C1-20アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのC5-10シクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレートなどの橋架け環式(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレートなどのC6-10アリール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0030】
これらの(メタ)アクリル系単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの(メタ)アクリル系単量体は、少なくとも架橋性基を有する(メタ)アクリル系単量体であってもよく、架橋性基を有する(メタ)アクリル系単量体と非架橋性基を有する(メタ)アクリル系単量体との組み合わせであってもよい。架橋性基を有する(メタ)アクリル系単量体と非架橋性基を有する(メタ)アクリル系単量体との組み合わせとしては、C1-10アルキルアクリレートとヒドロキシル基を有するアクリル系単量体および/またはカルボキシル基を有するアクリル系単量体との組み合わせが好ましく、C2-8アルキルアクリレートとヒドロキシルC2-6アルキルアクリレートとの組み合わせが特に好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などにより測定でき、ポリスチレン換算で、例えば1000~100万、好ましくは3000~80万、さらに好ましくは5000~50万、より好ましくは1万~50万である。
【0032】
架橋剤には、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤などが挙げられる。これらのうち、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0033】
イソシアネート系架橋剤としては、複数のイソシアネート基を有していれば特に制限されず、例えば、脂肪族ポリイソシアネート[例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどのジイソシアネート;1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネートなどのトリイソシアネートなど]、脂環族ポリイソシアネート[例えば、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ビス(イソシアナトフェニル)メタンなどのジイソシアネート;ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネートなど]、芳香族ポリイソシアネート[例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトフェニル)メタン(MDI)、トルイジンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトフェニル)プロパンなどのジイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネートなどのトリイソシアネートなど]、これらのポリイソシアネートの二量体、三量体、アダクト体、ビウレット体などが例示できる。
【0034】
これらのイソシアネート系架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのイソシアネート系架橋剤のうち、芳香族ポリイソシアネート系架橋剤(例えば、XDIやMDIなどの芳香族ポリイソシアネートや、トリメチロールプロパンなどのアルカンポリオールで変性された芳香族ポリイソシアネートなど)が好ましい。
【0035】
架橋剤の割合は、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して0.01~10質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.05~5質量部、好ましくは0.1~3質量部、さらに好ましくは0.2~2質量部、より好ましくは0.3~1.5質量部、最も好ましくは0.5~1質量部である。本開示の硬化性組成物では、架橋剤の割合を前記範囲で調整することにより、接着層のせん断降伏応力を調整できる。架橋剤の割合が少なすぎると、せん断降伏応力を0.15N/mm以上に調整するのが困難となる虞がある。
【0036】
(メタ)アクリル系重合体および架橋剤の合計割合は、硬化性組成物の硬化物中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0037】
硬化性組成物は、常温硬化型、熱硬化型、光硬化型のいずれの硬化型組成物であってもよい。これらのうち、容易に前記せん断降伏応力を調整できる点から、常温硬化型が好ましい。
【0038】
硬化性組成物は、溶媒をさらに含んでいてもよい。溶媒としては、慣用の溶媒、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類、ニトリル類、スルホキシド類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル類が好ましい。溶媒の割合は、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは50~500質量部、さらに好ましくは100~400質量部、より好ましくは200~350質量部である。
【0039】
硬化性組成物は、(メタ)アクリル系重合体および架橋剤に加えて、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、粘着付与剤(タッキファイヤー)、粘度調整剤、増粘剤、消泡剤、充填剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤など)、難燃剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の添加剤の合計割合は、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して50質量部以下であってもよく、例えば0.1~30質量部、好ましくは0.5~10質量部である。
【0040】
接着層の全光線透過率は70%以上であってもよく、例えば70~99.9%、好ましくは75~99%、さらに好ましくは80~98%である。全光線透過率が低下すると、打抜き痕が問題とならず、本発明の効果が発現しない虞がある。
【0041】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、全光線透過率は、JIS K7361に準拠して測定できる。
【0042】
接着層の平均厚みは、例えば1~100μm、好ましくは3~80μm、さらに好ましくは5~50μm、より好ましくは10~40μm、最も好ましくは20~30μmである。接着層の平均厚みが薄すぎると、接着性が低下する虞があり、また薄すぎても厚すぎても、打抜き痕が発生し易くなる虞がある。
【0043】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、各層の平均厚みは、接着式膜厚計を用いて、任意の10箇所を測定し、平均値を算出して求めることができる。
【0044】
(基材層)
基材層の材質は、特に限定されず、有機材料、無機材料のいずれであってもよいが、ツーリングマークが問題となり易い点から、透明材料で形成されているのが好ましい。
【0045】
透明材料は、ガラスなどの無機材料であってもよいが、打抜き加工で成形される場合が多く、接着層と基材層とが接する場合は、接着性にも優れる点から、有機材料が好ましい。
【0046】
有機材料としては、例えば、セルロースエステル、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系重合体などの透明樹脂が挙げられる。これらのうち、セルロースエステル、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましい。
【0047】
セルロースエステルとしては、セルローストリアセテート(TAC)などのセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセテートC3-4アシレートなどが挙げられる。
【0048】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリアルキレンアリレート系樹脂などが挙げられる。
【0049】
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネートなどのビスフェノール型ポリカーボネートなどが例示できる。
【0050】
これらのうち、機械的特性や透明性などのバランスに優れる点から、TACなどのセルロースアセテート、PETなどのポリアルキレンアリレート系樹脂が好ましく、ポリC2-4アルキレン-アリレート系樹脂が特に好ましい。
【0051】
透明樹脂の割合は、基材層中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0052】
基材層が透明樹脂を含む場合、前記接着層の硬化性組成物における慣用の添加剤として例示された添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の割合は、透明樹脂100質量部に対して50質量部以下であってもよく、例えば0.1~30質量部、好ましくは0.5~10質量部である。
【0053】
基材層が有機材料(特に、ポリエステル系樹脂)である場合、未延伸フィルムであってもよく、1軸または2軸延伸フィルムであってもよい。有機材料がポリエステル系樹脂である場合は、2軸延伸フィルムであってもよい。
【0054】
基材層は、表面処理(例えば、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾンや紫外線照射処理など)されていてもよく、易接着層を有していてもよい。
【0055】
基材層の全光線透過率は70%以上であってもよく、例えば70~99.9%、好ましくは75~99%、さらに好ましくは80~98%である。全光線透過率が低下すると、打抜き痕が問題とならず、本発明の効果が発現しない虞がある。
【0056】
基材層の平均厚みは10~2000μm程度の範囲から選択でき、例えば20~1000μm、好ましくは30~300μm、さらに好ましくは50~200μm、最も好ましくは75~150μmである。基材層の厚みが薄すぎると、積層フィルムの機械的特性が低下する虞があり、厚すぎると、打抜き痕耐性を付与するのが困難となる虞がある。
【0057】
(離型層)
本開示の積層フィルムは、離型層を有しているため、打抜き加工において、離型層が打抜き刃の動きに伴って一時的に層間剥離し易く、離型層の剥離に起因する打抜き痕が発生し易い。本開示の積層フィルムでは、離型層を有しているにも拘わらず、打抜き痕耐性を向上できる。
【0058】
離型層は、前記接着層と適度に接着し、剥離可能であれば特に限定されず、慣用の離型フィルムなどを利用できる。
【0059】
また、離型層は、熱可塑性樹脂および離型剤を含む樹脂組成物で形成されていてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、セルロースエステルなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性樹脂のうち、PETなどのポリC2-4アルキレン-アリレート系樹脂が好ましい。
【0060】
離型剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、ポリオキシアルキレン単位を有するポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系化合物;植物ろう、動物ろう、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、エチレン共重合体ワックス、ポリプロピレンワックスなどのワックス類;C8-35脂肪酸アルカリ金属塩などの高級脂肪酸金属塩;C8-35脂肪酸アルキルエステルなどの高級脂肪酸アルキルエステル;C8-35脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミドなどの高級脂肪酸アミド;フッ素オイル、フッ素樹脂などのフッ素化合物などが挙げられる。これらの離型剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、シリコーン系化合物が好ましい。
【0061】
離型剤の割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば0.01~30質量部、好ましくは0.05~20質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部程度である。
【0062】
離型層は、前記接着層の硬化性組成物における慣用の添加剤として例示された添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して50質量部以下であってもよく、例えば0.1~30質量部、好ましくは0.5~10質量部である。
【0063】
離型層の平均厚みは1~2000μm程度の範囲から選択でき、例えば5~1000μm、好ましくは10~300μm、さらに好ましくは30~200μmである。
【0064】
(積層フィルムの特性)
本開示の積層フィルムは、打抜き加工に供するためのフィルムであり、接着層の前記せん断降伏応力を0.15N/mm以上に調整することにより、積層フィルムに打抜き痕耐性を付与できる。接着層の前記せん断降伏応力の調整方法としては、接着層の材質を適宜選択することにより調整してもよく、前述のように接着層が硬化性樹脂組成物の硬化物で形成されている場合は、硬化性組成物の材質および/または硬化の程度を制御することにより調整してもよい。
【0065】
本開示の積層フィルムは、基材層と離型層との間に接着層が介在していればよく、基材層、離型層および接着層に加えて、他の層を含んでいてもよい。他の層としては、例えば、ハードコート層、光学機能層(防眩層、偏光層、反射防止層、屈折率調整層、アンチニュートンリング層など)、表面保護層(カバー層)などが挙げられる。他の層は、離型層と接着層との間、基材層と接着層との間、基材層の上(接着層とは反対側の面)のいずれに配設してもよいが、基材層と接着層との間、基材層の上が好ましく、基材層の上が特に好ましい。例えば、基材層の上にハードコート層を積層し、前記ハードコート層の上に、打抜き面となるカバー層を積層してもよい。
【0066】
積層フィルムにおいて、離型層を除いた積層フィルムは、透明性に優れているのが好ましい。離型層を除いた積層フィルムの全光線透過率は70%以上であってもよく、例えば70~99.9%、好ましくは75~99%、さらに好ましくは80~98%である。全光線透過率が低下すると、打抜き痕が問題とならず、本発明の効果が発現しない虞がある。
【0067】
接着層と離型層とが接する場合、接着層と離型層との剥離強度は、例えば0.001~2N/50mm、好ましくは0.01~1N/50mm、さらに好ましくは0.05~0.5N/50mmである。剥離強度が大きすぎると、離型性が低下する虞があり、逆に低すぎると、取り扱い性が低下する虞がある。
【0068】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、剥離強度は、JIS Z 0237 :2009に記載の方法に準拠して測定できる。
【0069】
本開示の積層フィルムは、打抜き面から接着層(または粘着層)までの平均厚み(すなわち、打抜き面と接着層との間の層の平均厚み)は150μm以下(例えば10~150μm)であってもよく、好ましくは135μm以下(例えば20~135μm)、さらに好ましくは130μm以下(例えば30~130μm)、より好ましくは100μm以下(例えば40~100μm)、最も好ましくは80μm以下(例えば50~80μm)である。前記平均厚みが150μmを超えると、打抜き痕耐性が低下する虞がある。
【0070】
(積層フィルムの製造方法)
本開示の積層フィルムは、慣用の方法で製造でき、共押出法、コーティング法、ラミネート法などで製造できるが、接着層が硬化性組成物の硬化物で形成されている場合、接着層の硬化方法を調整することによって、接着層の前記せん断降伏応力を調整できる。硬化性組成物が常温硬化性組成物である場合は、例えば、硬化時間(熟成時間またはエージング時間)を制御することにより、前記せん断降伏応力を調整してもよい。また、硬化性組成物が熱硬化性組成物である場合は、例えば、加熱温度および/または加熱時間を制御することにより、前記せん断降伏応力を調整してもよい。さらに、硬化性樹脂組成物が光硬化性組成物である場合は、例えば、光照射量および/または照射時間を制御することにより、前記せん断降伏応力を調整してもよい。なお、前述の通り、いずれの硬化性組成物であっても、硬化性組成物が架橋剤を含む場合は架橋剤の割合を制御することにより、前記せん断降伏応力を調整してもよい。
【0071】
[打抜きフィルムおよびその用途]
前記積層フィルムは、用途に応じて目的の形状に打抜き加工され、打抜きフィルム(成形フィルム)を製造する。積層フィルムを打抜き加工する方法としては、慣用の方法を利用でき、例えば、ピナクル刃やトムソン刃を備えた打抜きプレス機などを用いて打抜き加工できる。打抜き加工においては、接着層に対して基材層が形成されている側の面を打抜き面として打抜き加工してもよく、接着層に対して離型層が形成されている側の面を打抜き面として打抜き加工してもよい。
【0072】
離型層を除いた積層フィルムの透明性が高い場合には、得られた打抜きフィルムは、表示装置の表示面に配設されるのが好ましい。表示装置としては、例えば、液晶表示(LCD)装置、陰極管表示装置、有機または無機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、表面電界ディスプレイ(SED)、リアプロジェクションテレビディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネル付き表示装置、タッチパネルディスプレイ、タッチセンサーなどが挙げられる。これらの表示装置のなかでも、前記積層フィルムは、打抜き痕耐性を有しているため、表示面における枠の幅が狭い狭ベゼルディスプレイに配設するのが好ましい。狭ベゼルディスプレイにおいて、枠の幅は、例えば5mm以下、好ましくは3mm以下であってもよい。
【0073】
なお、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【実施例
【0074】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例で用いた原料は以下の通りであり、得られた積層フィルムを以下の方法で評価した。
【0075】
[原料]
アクリル系粘着剤:三菱ケミカル(株)製「コーポニールN-7520」
架橋剤:東ソー(株)製「コロネートL-45E」
離型フィルム:東洋紡(株)製「コスモピールTZ-600」
基材フィルム:三菱ケミカル(株)製「ダイアホイルO321E」、平均厚み75~140μm。
【0076】
[ズリ特性]
得られた積層フィルムを、図1に示す形状に加工し、測定サンプルとした。測定サンプルは、図1の側面図(a)および平面図(b)に示すように、測定サンプルは、得られた積層フィルムを幅10mmに切断し、長さ方向の中央部のみ積層構造が残存するように加工されている。詳しくは、測定サンプルは、図1の側面図(a)に示すように、長さ方向の中央部に10mmの長さで積層構造が残存しており、中央部に対して一方の端部では、基材層1および接着層2が除去されて離型層3が露出し、かつ他方の端部では、離型層3および接着層2が除去されて基材層1が露出した構造を有している。
【0077】
テンシロン((株)島津製作所製「AGS-X50N」)に、前記測定サンプルをセットし、図1の側面図(a)に示すように、引張速度5mm/分で、露出した基材フィルムを測定サンプルのフィルム面方向に引っ張って引張試験を行って、接着層にかかるせん断降伏応力値を測定した。具体的には、引張変位が0~1mmにおける応力の最大値またはピーク値を接着層の面積(接着領域の面積)で除した値をせん断降伏応力値とした。
【0078】
[ツーリングマーク]
打抜きプレス機((株)ダイテックス製「PAC-HD」)を用いて、ピナクル刃、刃高2.2mm、両刃30°にて、得られた積層フィルムを基材フィルム側から90mm×130mmに打抜いた。打抜き後の打抜きフィルムに光源として、LED照明(パイフォトニクス(株)製「ホロライト」)を用いて光を透過させて、白板上にフィルムの影を投影してフィルムのエッジ部分の内側に生じるツーリングマークを以下の指標で評価した。投影方法は、打抜き後の積層フィルムを白板と光源との間に設置し、白板と光源の距離は80cm、積層フィルムと白板との距離は5~10cmの間で最もツーリングマークが見え易い位置に調整した。
【0079】
○:ツーリングマークが全く無い
△:ツーリングマークが打抜きフィルムの端部から3mm未満の位置にある
×:ツーリングマークが打抜きフィルムの端部から3mm以上の位置にある。
【0080】
実施例1
(OCA塗工液の調製)
アクリル系粘着剤35質量部、架橋剤0.15質量部を酢酸エチル90質量部に溶解させてOCA塗工液を調製した。
【0081】
(積層フィルムの作製)
離型フィルムの離型面にOCA塗工液をベーカー式アプリケーターで塗布し、乾燥炉を用いて120℃で2分間乾燥させて平均厚み25μmの接着層(粘着層)を形成した。得られた接着層の表面に平均厚み125μmの基材フィルムを圧着ローラーで貼り合わせて積層フィルム前駆体を作製した。得られた積層フィルム前駆体を30℃、50%RHの環境に静置し、接着層を硬化処理して積層フィルムを得た。このとき、静置5日後および10日後の接着層のズリ特性および積層フィルムのツーリングマークを評価した。
【0082】
実施例2
架橋剤を0.3質量部に変えた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、接着層のズリ特性および積層フィルムのツーリングマークを評価した。
【0083】
評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1の結果から明らかなように、接着層のせん断降伏応力が0.15N/mm以上になると、ツーリングマークの発生が抑制された。
【0086】
実施例3
平均厚み75μmの基材フィルムを用いる以外は実施例2と同様にして積層フィルム前駆体を製造し、得られた積層フィルム前駆体を30℃、50%RHの環境に10日間静置し、接着層を硬化処理して積層フィルムを得た。積層フィルムのツーリングマークを評価した結果、評価結果は「〇」であった。
【0087】
実施例4
平均厚み140μmの基材フィルムを用いる以外は実施例2と同様にして積層フィルム前駆体を製造し、得られた積層フィルム前駆体を30℃、50%RHの環境に10日間静置し、接着層を硬化処理して積層フィルムを得た。積層フィルムのツーリングマークを評価した結果、評価結果は「△」であった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示の積層フィルムは、打抜き加工により成形される積層フィルムとして利用でき、例えば、各種のディスプレイの表示面に配設されるフィルムとして有用であり、PCモニター、テレビ、カーナビゲーション、スマートフォン、タブレットPC、ゲーム機器などの表示面に配設されるフィルムとして利用でき、表示面に予め組み込まれたフィルムであってもよく、アフターマーケット向け保護フィルム(プロテクトフィルム)であってもよいが、打抜き痕の存在が目立ち易い狭ベゼルディスプレイに適用されるフィルムとして特に有用である。
【符号の説明】
【0089】
1…基材層
2…接着層
3…離型層
【要約】
【課題】打抜き痕耐性を有する積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材層と、離型層と、前記基材層と前記離型層との間に介在する接着層とを含む積層フィルムにおいて、前記接着層に対して、フィルム面に平行な方向で5mm/分で歪みを加えたときのせん断降伏応力を0.15N/mm以上に調整する。前記せん断降伏応力は0.17N/mm以上であってもよい。前記積層フィルムは、透明フィルムであってもよい。前記接着層は、光学透明接着剤を含んでいてもよい。前記光学透明接着剤は硬化性組成物の硬化物であってもよい。前記硬化性組成物は(メタ)アクリル系重合体および架橋剤を含んでいてもよい。前記基材層は透明樹脂を含んでいてもよい。前記積層フィルムは、打抜き加工するためのフィルムであってもよい。
【選択図】なし
図1