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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20220930BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20220930BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20220930BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20220930BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220930BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220930BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
H01L21/02 C
H01L29/78 627D
H01L29/78 626C
H01L27/12 B
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021112485
(22)【出願日】2021-07-07
(62)【分割の表示】P 2020121246の分割
【原出願日】2014-02-19
(65)【公開番号】P2021177564
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2013031401
(32)【優先日】2013-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】保本 清治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 将孝
(72)【発明者】
【氏名】江口 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-221561(JP,A)
【文献】特開2004-214281(JP,A)
【文献】特開2003-174153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/336
H05B 33/10
H01L 51/50
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基板上に接着層と、
前記接着層上に、タングステン酸化物を含む酸化物層と、
前記酸化物層上に、酸化窒化シリコンを含む第1の層と、
前記第1の層上に、窒化シリコンを含む第2の層と、
前記第2の層上に、トランジスタと、を有し、
前記酸化物層は、二次イオン質量分析法で検出される窒素の含有量が前記第1の層よりも高い領域、及び二次イオン質量分析法で検出される水素の含有量が前記第1の層よりも高い領域を含む、
半導体装置。
【請求項2】
前記第1の層は、二次イオン質量分析法で検出される窒素及び水素の濃度が、前記第2の層側から前記酸化物層側にかけて低くなるように勾配を有する、
請求項に記載の、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物、方法、または、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシ
ン、マニュファクチャ、または、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。特
に、本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、それらの駆動方法、または、
それらの製造方法に関する。特に、本発明の一態様は、フレキシブルデバイスの作製方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可撓性を有する基板上に半導体素子や発光素子などが設けられたフレキシブルデ
バイスの開発が進められている。フレキシブルデバイスの代表的な例としては、照明装置
、画像表示装置の他、トランジスタなどの半導体素子を有する種々の半導体回路などが挙
げられる。
【0003】
可撓性を有する基板を用いた半導体装置の作製方法としては、ガラス基板や石英基板な
どの支持基板上に薄膜トランジスタなどの半導体素子を作製したのち、可撓性を有する基
板に半導体素子を転置する技術が開発されている。この方法では、支持基板から半導体素
子を含む層を剥離する工程が必要である。
【0004】
例えば、特許文献1には次のようなレーザアブレーションを用いた剥離技術が記載され
ている。基板上に非晶質シリコンなどからなる分離層、分離層上に薄膜素子からなる被剥
離層を設け、被剥離層を接着層により転写体に接着させる。レーザ光の照射により分離層
をアブレーションさせることで、分離層に剥離を生じさせている。
【0005】
また、特許文献2には次のような剥離技術が記載されている。基板と酸化物層との間に
金属層を形成し、酸化物層と金属層との界面の結合が弱いことを利用して、酸化物層と金
属層との界面で剥離を生じさせることで、被剥離層と基板とを分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-125931号公報
【文献】特開2003-174153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体素子を支持基板から剥離する際、剥離界面における剥離性が劣ると、半導体素子
に大きな応力がかかり、半導体素子を破壊してしまう場合がある。
【0008】
したがって本発明の一態様は、剥離性が向上した剥離方法などを提供することを課題の
一とする。または、剥離工程における歩留まりを向上することを課題の一とする。または
、フレキシブルデバイスなどの製造歩留まりを向上することを課題の一とする。または、
信頼性の高い半導体装置などを提供することを課題の一とする。または、可撓性を有する
基板を備え、信頼性の高められた半導体装置などを提供することを課題の一とする。また
は、新規な半導体装置などを提供することを課題の一とする。または、新規な半導体装置
などの製造方法を提供することを課題の一とする。なお、これらの課題の記載は、他の課
題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決す
る必要はないものとする。なお、これら以外の課題は、明細書、図面、請求項などの記載
から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以
外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、支持基板上にタングステンを含む剥離層を形成する第1の工程と、
剥離層上に、酸化窒化シリコンを含む第1の層、及び窒化シリコンを含む第2の層が順に
積層された被剥離層と、剥離層と被剥離層との間にタングステン酸化物を含有する酸化物
層と、を形成する第2の工程と、加熱処理により、酸化物層中にタングステンと窒素を含
む化合物を形成する第3の工程と、酸化物層を境に、被剥離層から剥離層を剥離する第4
の工程と、を有する、剥離方法である。
【0010】
また、上記第1の工程と第2の工程との間に、剥離層表面に対し、一酸化二窒素を含む
雰囲気下でプラズマ処理を行う第5の工程を有することが好ましい。
【0011】
また、上記第2の工程において、二次イオン質量分析法で検出される窒素の含有量が、
5.0×1020分子/cm以上1.0×1023分子/cm以下である領域と、水
素の含有量が1.0×1020分子/cm以上1.0×1022分子/cm以下であ
る領域と、を含む酸化窒化シリコンを含む第1の層を形成することが好ましい。
【0012】
また、上記第2の工程において、昇温脱離ガス分光法分析で検出される質量電荷比28
におけるスペクトルにおいて、100℃以上450℃以下の範囲での放出量が、窒素分子
に換算して5×1017分子/cm以上であり、且つ質量電荷比2におけるスペクトル
において、100℃以上450℃以下の範囲での放出量が、水素分子に換算して5×10
19分子/cm以上である、酸化窒化シリコンを含む第1の層を形成することが好まし
い。
【0013】
また、上記第2の工程において、昇温脱離ガス分光法分析で検出される質量電荷比28
におけるスペクトルにおいて、100℃以上450℃以下の範囲での放出量が、窒素分子
に換算して5×1019分子/cm以下であり、且つ質量電荷比2におけるスペクトル
において、100℃以上450℃以下の範囲での放出量が、水素分子に換算して1×10
20分子/cm以上である、窒化シリコンを含む第2の層を形成することが好ましい。
【0014】
また、上記第4の工程において、剥離層と被剥離層との間に水または水溶液を侵入させ
ながら剥離を行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明の他の一態様は、可撓性を有する基板上に接着層と、接着層上に、タング
ステン酸化物を含む酸化物層と、酸化物層上に、酸化窒化シリコンを含む第1の層と、第
1の層上に、窒化シリコンを含む第2の層と、第2の層上に、トランジスタと、を有し、
酸化物層は、二次イオン質量分析法で検出される窒素の含有量が第1の層よりも高い領域
、及び二次イオン質量分析法で検出される水素の含有量が第1の層よりも高い領域を含む
、半導体装置である。
【0016】
また、上記半導体装置において、上記第1の層は、二次イオン質量分析法で検出される
窒素及び水素の濃度が、第2の層側から酸化物層側にかけて低くなるように勾配を有する
ことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、剥離性が向上した剥離方法を提供できる。または、剥離工程における
歩留まりを向上することができる。または、フレキシブルデバイスの製造歩留まりを向上
することができる。または、信頼性の高い半導体装置を提供できる。または、可撓性を有
する基板を備え、信頼性の高められた半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態に係る、剥離方法を説明する図。
図2】実施の形態に係る、剥離方法を説明する図。
図3】実施の形態に係る、表示装置の構成例。
図4】実施の形態に係る、表示装置の構成例。
図5】実施の形態に係る、発光装置の構成例。
図6】実施の形態に係る、計算に用いたモデルを説明する図。
図7】実施の形態に係る、結合エネルギーの計算結果。
図8】実施の形態に係る、結合エネルギーの計算結果。
図9】実施の形態に係る、結合エネルギーの計算結果。
図10】実施の形態に係る、剥離試験に用いる装置構成例。
図11】実施の形態に係る、剥離時に用いる溶液の種類と剥離性の関係。
図12】実施の形態に係る、計算に用いたモデルを説明する図。
図13】実施の形態に係る、架橋構造の計算結果。
図14】実施の形態に係る、架橋構造の計算結果。
図15】実施の形態に係る、エネルギーダイアグラムの計算結果。
図16】実施の形態に係る、剥離装置の構成例。
図17】実施の形態に係る、剥離方法を説明する図。
図18】実施の形態に係る、剥離方法を説明する図。
図19】実施の形態に係る、剥離方法を説明する図。
図20】実施の形態に係る、剥離方法を説明する図。
図21】実施の形態に係る、電子機器の構成例。
図22】実施例1に係る、剥離性の評価結果。
図23】実施例1に係る、断面観察像。
図24】実施例1に係る、断面観察像。
図25】実施例1に係る、SIMS測定結果。
図26】実施例1に係る、XPS測定結果。
図27】実施例1に係る、XPS測定結果。
図28】実施例2に係る、TDS測定結果。
図29】実施例2に係る、TDS測定結果。
図30】実施例3に係る、剥離性の評価結果。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定
されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更
し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態
の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0020】
なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には
同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様
の機能を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0021】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、層の厚さ、または領域は、
明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されな
い。
【0022】
なお、本明細書等における「第1」、「第2」等の序数詞は、構成要素の混同を避ける
ために付すものであり、数的に限定するものではない。
【0023】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の剥離方法の一例について、図面を参照して説明す
る。
【0024】
[作製方法例]
〈剥離層の形成〉
まず、支持基板101上に、剥離層102を形成する(図1(A))。
【0025】
支持基板101は少なくとも後の工程に係る熱に対して耐熱性を有する基板を用いる。
支持基板101としては、例えばガラス基板、樹脂基板のほか、半導体基板、金属基板、
セラミック基板などを用いることができる。
【0026】
剥離層102としては、タングステン、チタン、モリブデンなどの高融点金属材料を用
いることができる。好ましくはタングステンを用いる。
【0027】
剥離層102は、例えばスパッタリング法により形成することができる。剥離層102
の厚さは10nm以上200nm以下、好ましくは20nm以上100nm以下とする。
【0028】
〈被剥離層、酸化物層の形成〉
続いて、剥離層102上に被剥離層110を形成すると共に、剥離層102と被剥離層
110との間に酸化物層111を形成する(図1(B))。
【0029】
被剥離層110は、酸化窒化シリコンを含む第1の層103と、窒化シリコンを含む第
2の層104とが順に積層された積層構造を有する。
【0030】
なお、本明細書等において「酸化窒化シリコン」とは、その組成として、窒素よりも酸
素の含有量が多いものをいう。一方、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多いも
のは「窒化酸化シリコン」という。
【0031】
第1の層103は、後の加熱工程において、水素及び窒素を放出することができる層で
ある。また第2の層104は、後の加熱工程において、水素を放出する機能を有し、且つ
第1の層103から放出された窒素が外部に放出されることを抑制する(窒素の放出をブ
ロックする)機能を有する。
【0032】
第1の層103は、二次イオン質量分析法で検出される窒素の含有量が、5.0×10
20分子/cm以上1.0×1023分子/cm以下、好ましくは1.0×1021
分子/cm以上5.0×1022分子/cm以下である領域と、水素の含有量が1.
0×1020分子/cm以上1.0×1022分子/cm以下、好ましくは5.0×
1020分子/cm以上5.0×1021分子/cm以下である領域と、を含む酸化
窒化シリコン膜を含むことが好ましい。
【0033】
また、第1の層103は、昇温脱離ガス分光法分析で検出される質量電荷比28におけ
るスペクトルにおいて、100℃以上450℃以下の範囲での放出量が、窒素分子に換算
して5×1017分子/cm以上、好ましくは1×1018分子/cm以上、であり
、且つ質量電荷比2におけるスペクトルにおいて、100℃以上450℃以下の範囲での
放出量が、水素分子に換算して5×1019分子/cm以上、好ましくは1×1020
分子/cm以上である、酸化窒化シリコン膜を含むことが好ましい。
【0034】
第2の層104は、昇温脱離ガス分光法分析で検出される質量電荷比28におけるスペ
クトルにおいて、100℃以上450℃以下の範囲での放出量が、窒素分子に換算して5
×1019分子/cm以下、好ましくは1×1019分子/cm以下であり、且つ質
量電荷比2におけるスペクトルにおいて、100℃以上450℃以下の範囲での放出量が
、水素分子に換算して1×1020分子/cm以上、好ましくは5×1020分子/c
以上である、窒化シリコン膜を含むことが好ましい。
【0035】
第1の層103は、スパッタリング法、プラズマCVD法などの成膜方法により形成で
きる。特に第1の層103に含まれる酸化窒化シリコン膜を、シランガス及び一酸化二窒
素ガスを含む成膜ガスを用いたプラズマCVD法により成膜することで、多量の水素及び
窒素を膜中に含有させることができるため好ましい。また、成膜ガス中のシランガスの割
合を大きくするほど、後の加熱工程において水素の放出量が多くなるため好ましい。
【0036】
第2の層104は、スパッタリング法、プラズマCVD法などの成膜方法により形成で
きる。特に第2の層104に含まれる窒化シリコン膜を、シランガス、窒素ガス及びアン
モニアガスを含む成膜ガスを用いたプラズマCVD法により成膜することで、多量の水素
を膜中に含有させることができる。
【0037】
第1の層103の厚さが厚いほど、水素及び窒素の放出量が多くなるため好ましいが、
生産性を考慮した厚さに設定することが好ましい。一方、第1の層103が薄すぎると水
素及び窒素の放出量が不十分になってしまう。第1の層103の厚さは、200nm以上
1μm以下、好ましくは400nm以上800nm以下とすることが好ましい。
【0038】
第2の層104の厚さは、少なくとも窒素の放出をブロックすることのできる程度の厚
さであれば特に限定されない。例えば、50nm以上600nm以下、好ましくは100
nm以上300nm以下の厚さとすればよい。
【0039】
ここで、第1の層103の成膜時に剥離層102の表面が酸化されることにより、剥離
層102と第1の層103との間に酸化物層111を形成することができる。
【0040】
酸化物層111は、剥離層102に含まれる金属の酸化物を含む層である。好ましくは
、タングステン酸化物を含む層とする。
【0041】
タングステン酸化物は一般にWO(3-x)で表記され、代表的にはWO、W
、W11、WOといった様々な組成をとりうる不定比性化合物である。またチタン
酸化物TiO(2-x)、やモリブデン酸化物MoO(3-x)も同様に不定比性化合物
である。
【0042】
この段階における酸化物層111は、酸素を多く含む状態であることが好ましい。例え
ば剥離層102としてタングステンを用いた場合には、酸化物層111がWOを主成分
とするタングステン酸化物であることが好ましい。
【0043】
ここで、第1の層103の形成前に、剥離層102の表面に対して一酸化二窒素ガスを
含む雰囲気下でプラズマ処理を施し、剥離層102の表面に予め酸化物層111を形成す
ることもできる。このような方法を用いると、酸化物層111の厚さをプラズマ処理の条
件を異ならせることで変化させることができ、プラズマ処理を行わない場合に比べて酸化
物層111の厚さの制御性を高めることができる。
【0044】
酸化物層111の厚さは、例えば0.1nm以上100nm以下、好ましくは0.5n
m以上20nm以下とする。なお、酸化物層111が極めて薄い場合には、断面観察像で
は確認できない場合がある。
【0045】
〈加熱処理〉
続いて、加熱処理を行い、酸化物層111を変質させる。
【0046】
加熱処理を行うことにより、第1の層103及び第2の層104から水素が放出され、
酸化物層111に供給される。さらに、第1の層103から窒素が放出され、酸化物層1
11に供給される。このとき、第2の層104が窒素の放出をブロックするため、酸化物
層111に効果的に窒素を供給することができる。
【0047】
加熱処理は、第1の層103から窒素及び水素が脱離する温度以上、支持基板101の
軟化点以下で行えばよい。また酸化物層111内の金属酸化物と水素の還元反応が生じる
温度以上で加熱を行うことが好ましい。例えば剥離層102にタングステンを用いる場合
には、420℃以上、450℃以上、600℃以上、または650℃以上の温度で加熱す
る。
【0048】
加熱処理の温度が高いほど、第1の層103からの窒素の脱離量、及び第1の層103
と第2の層104からの水素の脱離量が高まるため、その後の剥離性を向上させることが
できる。しかし、支持基板101の耐熱性や、生産性を考慮して加熱温度を低くしたい場
合には、上述のように予め剥離層102に対してプラズマ処理を施して酸化物層111を
形成することにより、加熱処理の温度を低くしても高い剥離性を実現できる。
【0049】
加熱処理を行う雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下で行ってもよいが、窒素や希ガ
スなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0050】
加熱処理により被剥離層110から放出された水素や窒素は、第1の層103と剥離層
102との間にトラップされる。その結果、第1の層103と剥離層102との間の酸化
物層111に、水素濃度及び窒素濃度の高い領域が形成される。
【0051】
例えば酸化物層111中に、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary
Ion Mass Spectrometry)により検出される水素の濃度が、第1の
層103よりも高い領域が形成される。また、酸化物層111中に二次イオン質量分析法
により検出される窒素の濃度が、第1の層103よりも高い領域が形成される。
【0052】
酸化物層111に供給された水素により、酸化物層111内の金属酸化物が還元され、
酸化物層111中に酸素の組成の異なる複数の領域が複数混在した状態となる。例えば、
剥離層102としてタングステンを用いた場合には、酸化物層111中のWOが還元さ
れてこれよりも酸素の組成の少ない状態(例えばWOなど)が生成され、これらが混在
した状態となる。このような金属酸化物は酸素の組成に応じて異なる結晶構造を示すため
、酸化物層111内に酸素の組成が異なる複数の領域を設けることで酸化物層111の機
械的強度が脆弱化する。その結果、酸化物層111の内部で崩壊しやすい状態が実現され
、後の剥離工程における剥離性を向上させることができる。
【0053】
さらに、酸化物層111に供給された窒素により、酸化物層111内の金属と窒素を含
む化合物も生成される。例えば、剥離層102としてタングステンを用いた場合には、W
-N結合を有する化合物が酸化物層111に生成される。
【0054】
加熱処理を行った酸化物層111にW-N結合を有する化合物が含まれていることは、
例えば剥離後に残存した酸化物層111の表面に対してX線光電子分光法(XPS:X-
ray Photoelectron Spectroscopy)などを用いた分析方
法により確認することができる。
【0055】
酸化物層111中に金属と窒素を含む化合物が含まれることにより、酸化物層111の
機械的強度をさらに脆弱化させることができ、剥離性を高めることができる。
【0056】
加熱処理を行う前後において、酸化物層111の断面形状にも顕著な差が確認できる。
以下では、加熱処理の前後における酸化物層111の断面形状について説明する。
【0057】
図2(A)、(B)はそれぞれ加熱処理前後における、図1(B)中の破線で囲った領
域を拡大した断面概略図である。
【0058】
加熱処理を行う前では、図2(A)に示すように、剥離層102と第1の層103の間
に、酸化物層111が形成された断面形状を確認することができる。
【0059】
一方、加熱処理を行った後には、図2(B)に示すように、剥離層102と酸化物層1
11の境界付近に、これらとはコントラストの異なる領域112が形成されていることが
断面観察にて確認できる。このようなコントラストの異なる領域112の存在は、透過電
子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscop
e)などにより確認することができる。
【0060】
領域112としては、剥離層102と酸化物層111とが部分的に剥離した際に形成さ
れた空洞であると考えられる。または、領域112は、酸化物層111を構成する元素を
含んで構成され、且つ、酸化物層111よりも低密度な領域である可能性もある。または
、領域112は、剥離層102、酸化物層111、及び被剥離層110のそれぞれの構成
元素の一部を含んで構成される層、または、酸化物層111から放出された窒素、酸素、
水素などが気体の状態で存在している領域である可能性もある。
【0061】
例えば被剥離層110として第1の層103のみを用いた場合、または第2の層104
のみを用いた場合では、加熱処理を施してもこのような領域112は確認されない。さら
に、第1の層103と第2の層104の積層順を逆にした場合であっても、このような領
域112は確認することができない。したがって、領域112の形成には、酸化物層11
1の放出する窒素、水素、酸素などの元素が関与していることが示唆される。
【0062】
また、例えば、加熱処理を行った場合と行わない場合、すなわち領域112の有無によ
り、後の剥離工程での剥離に要する外力に顕著な差が生じ、加熱処理により領域112を
形成した場合の方がより弱い力で剥離することができる。このことは、領域112の存在
が剥離性の向上に大きく寄与していることが示唆される。
【0063】
例えば、領域112が空洞または気体が充填された状態であるとき、酸化物層111と
剥離層102との接触面積が低下することで密着性が低下し、剥離性が向上することが期
待される。また、領域112が剥離層102及び酸化物層111とは異なる組成の層であ
る場合や低密度な領域である場合、酸化物層111と剥離層102との密着性と、領域1
12と剥離層102との密着性の差により剥離性が向上するとも考えられる。
【0064】
〈貼り合わせ〉
続いて、支持基板101と基板121とを接着層122により貼り合わせる(図1(C
))。
【0065】
基板121としては、可撓性を有する基板を用いることが好ましい。例えばポリエチレ
ンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの樹脂のほか、
可撓性を有する程度に薄い金属基板、ガラス基板などを用いることができる。または、金
属、ガラス、または樹脂のいずれか2種以上を積層した複合材料を用いてもよい。
【0066】
また、基板121としては必ずしも可撓性を有していなくてもよく、その場合は上記支
持基板101と同様の材料を用いることができる。また、基板121として、トランジス
タなどの半導体素子、有機EL(Electro Luminescence)素子など
の発光素子、液晶素子などの光学素子があらかじめ形成された基板を用いてもよい。
【0067】
接着層122としては、被接着面同士を固着することができればよく、熱硬化樹脂や紫
外線硬化樹脂を用いることができる。例えば、アクリル、ウレタン、エポキシ、またはシ
ロキサン結合を有する樹脂などの樹脂を用いることができる。また、後に基板121を除
去する場合には、水溶性樹脂や有機溶媒に可溶な樹脂などを用いることもできる。
【0068】
〈剥離〉
続いて、酸化物層111を境にして、剥離層102と被剥離層110とを剥離する(図
1(D))。
【0069】
剥離の方法としては、例えば支持基板101または基板121を吸着ステージに固定し
、剥離層102と被剥離層110の間に剥離の起点を形成する。例えば、これらの間に刃
物などの鋭利な形状の器具を差し込むことで剥離の起点を形成してもよい。また一部の領
域にレーザ光を照射し剥離層102の一部を溶解させることで剥離の起点を形成してもよ
い。また、液体(例えばアルコールや水、二酸化炭素を含む水など)を例えば剥離層10
2や被剥離層110の端部に滴下し、毛細管現象を利用して該液体を剥離層102と被剥
離層110の境界に浸透させることにより剥離の起点を形成してもよい。
【0070】
次いで、剥離の起点が形成された部分において、密着面に対して概略垂直方向に、緩や
かに物理的な力を加えることにより、被剥離層110を破損することなく剥離することが
できる。このとき、支持基板101または基板121にテープ等を貼り付け、当該テープ
を上記方向に引っ張ることで剥離を行ってもよいし、鉤状の部材を支持基板101または
基板121の端部に引っかけて剥離をおこなってもよい。また、粘着性の部材や真空吸着
が可能な部材を支持基板101または基板121の裏面に吸着させて引っ張ることにより
、剥離を行ってもよい。
【0071】
ここで、剥離時に、剥離界面に水や水溶液など、水を含む液体を添加し、該液体が剥離
界面に浸透するように剥離を行うことで、剥離性を向上させることができる。液体を添加
させた場合に剥離性が向上する理由については、後の実施の形態で詳細に示す。
【0072】
剥離は主として酸化物層111の内部、及び酸化物層111と剥離層102との界面で
生じる。したがって、図1(D)に示すように、剥離後の剥離層102の表面及び第1の
層103の表面には、酸化物層111の一部が付着する場合がある。なお付着した酸化物
層111のそれぞれの厚さは異なっていてもよく、上述のように酸化物層111と剥離層
102との界面で剥離しやすいことから第1の層103側に厚く付着する場合が多い。
【0073】
以上の方法により、剥離層102と被剥離層110を歩留まりよく剥離することができ
る。
【0074】
〈貼り合わせ〉
その後、図1(E)に示すように、被剥離層110の剥離面側に接着層132を介して
基板131を貼り付けてもよい。接着層132及び基板131としては、それぞれ上記接
着層122、基板121を参酌できる。
【0075】
基板121及び基板131として、いずれも可撓性を有する基板を用いることで、フレ
キシブルな積層体を作製することができる。
【0076】
[適用例]
上記作製方法例で例示した剥離方法は、様々なフレキシブルデバイスに適用できる。
【0077】
例えば、トランジスタを用いたフレキシブルデバイスに適用する場合には、被剥離層1
10を形成した後に、トランジスタを作製すればよい。
【0078】
例えば、ボトムゲート型のトランジスタを作製する場合には、被剥離層110上にゲー
ト電極、ゲート絶縁層、半導体層、ソース電極及びドレイン電極を順に形成する。その後
、基板121を貼り合わせる工程、剥離工程、及び基板131を貼り合わせる工程を経て
、トランジスタを含むフレキシブルデバイスを作製することができる。
【0079】
なお、トランジスタの構成は、スタガ型のトランジスタ、逆スタガ型のトランジスタな
どを用いてもよい。また、トップゲート型またはボトムゲート型のいずれのトランジスタ
構造としてもよい。また、チャネルエッチ型のトランジスタ、または、チャネル保護型の
トランジスタを用いてもよい。チャネル保護型の場合、チャネル領域の上にのみ、チャネ
ル保護膜を設けてもよい。または、ソースドレイン電極と半導体層とを接触させる部分の
み開口し、その開口以外の場所にも、チャネル保護膜を設けてもよい。
【0080】
トランジスタのチャネルが形成される半導体層に適用可能な半導体として、例えばシリ
コンやゲルマニウムなどの半導体材料、化合物半導体材料、有機半導体材料、または酸化
物半導体材料を用いてもよい。
【0081】
また、トランジスタに用いる半導体の結晶性についても特に限定されず、非晶質半導体
、結晶性を有する半導体(微結晶半導体、多結晶半導体、単結晶半導体、または一部に結
晶領域を有する半導体)のいずれを用いてもよい。結晶性を有する半導体を用いると、ト
ランジスタ特性の劣化が抑制されるため好ましい。
【0082】
例えば上記半導体としてシリコンを用いる場合、アモルファスシリコン、微結晶シリコ
ン、多結晶シリコン、または単結晶シリコンなどを用いることができる。
【0083】
また、上記半導体として酸化物半導体を用いる場合、インジウム、ガリウム、亜鉛のう
ち少なくともひとつを含む酸化物半導体を用いることが好ましい。代表的にはIn-Ga
-Zn系金属酸化物などが挙げられる。シリコンよりもバンドギャップが広く、且つキャ
リア密度の小さい酸化物半導体を用いると、オフ状態におけるリーク電流を抑制できるた
め好ましい。
【0084】
本発明の一態様の剥離方法は、支持基板上に素子を形成した後に剥離を行うことでフレ
キシブル性を実現できるため、素子の形成工程にかかる熱に対する制限がほとんど無い。
したがって、高温プロセスにて作製した極めて信頼性の高い半導体素子を、耐熱性の劣る
可撓性を有する基板上に歩留まりよく作製することができる。
【0085】
また、一対の電極間に発光性の有機化合物を含む層を挟持した発光素子を、上記被剥離
層110上に形成することにより、フレキシブルな発光装置を作製することもできる。例
えば発光素子を有するフレキシブルな照明装置(又は光源)を作製することもできるし、
トランジスタと発光素子や液晶素子のような表示素子とを含む複数の画素を被剥離層11
0上に作製することで、画像表示装置を作製してもよい。フレキシブルな画像表示装置の
例については、後の実施の形態で説明する。
【0086】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて
実施することができる。
【0087】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の剥離方法を適用することにより作製可能なフレキ
シブルデバイスについて図面を参照して説明する。以下では、フレキシブルデバイスの一
例として、有機EL素子を備える画像表示装置(以下、表示装置ともいう)、及び照明装
置等の発光装置について説明する。
【0088】
なお、本明細書中において、発光装置とは画像表示装置、もしくは光源(照明装置含む
)をいう。また、発光装置にコネクター、例えばFPC(Flexible print
ed circuit)もしくはTCP(Tape Carrier Package)
が取り付けられたモジュール、TCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、ま
たは発光素子が形成された基板にCOG(Chip On Glass)方式によりIC
(集積回路)が直接実装されたモジュール、タッチセンサが実装されたモジュールなども
、発光装置に含まれている場合がある。
【0089】
また、本明細書等において、半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる
装置全般を指す。トランジスタ、半導体回路、記憶装置、撮像装置、電気光学装置、発電
装置(薄膜太陽電池、有機薄膜太陽電池等を含む)及び電子機器等は、半導体装置に含ま
れていたり、半導体装置を有していたりする場合がある。
【0090】
したがって以下で例示する発光装置のうち、半導体特性を有する素子(例えばトランジ
スタ)を含む構成も、半導体装置の一態様である。つまり、そのような場合は、発光装置
は、発光素子と、半導体装置とを有している、とも言える。
【0091】
[表示装置の構成例1]
図3(A)に、上面射出(トップエミッション)方式が採用された表示装置200の上
面概略図を示す。
【0092】
表示装置200は、可撓性を有する基板254の上面に、表示部201、走査線駆動回
路202及び信号線駆動回路203を有する。また、表示装置200は、表示部201を
覆う封止層252と、封止層252上に可撓性を有する基板253を有する。また、表示
装置200は、走査線駆動回路202及び信号線駆動回路203と電気的に接続する外部
接続端子204を可撓性を有する基板254上に有し、当該外部接続端子204に電気的
に接続されたFPC205により、走査線駆動回路202、信号線駆動回路203等を駆
動する電源電位や駆動信号などの信号を外部から入力することができる。
【0093】
図3(B)は、図3(A)中に示す外部接続端子204、走査線駆動回路202、及び
表示部201を含む領域を切断する、切断線A-B及びC-Dにおける断面概略図である
【0094】
表示装置200は、可撓性を有する基板254上に、接着層132を介して第1の層1
03及び第2の層104を含む被剥離層110を有する。また第2の層104上に発光素
子240及び走査線駆動回路202(及び信号線駆動回路203)、及び外部接続端子2
04を有する。
【0095】
外部接続端子204は、表示装置200内のトランジスタまたは発光素子を構成する導
電層と同一の材料で構成される。本構成例では、トランジスタのゲート電極を構成する導
電層と同一の材料からなる層、及びトランジスタのソース電極及びドレイン電極を構成す
る導電層と同一の材料からなる層を積層して用いる。このように、複数の導電層を積層し
て外部接続端子204を構成することにより、機械的強度を高め、且つ電気抵抗を低減で
きるため好ましい。また、外部接続端子204に接して接続体206が設けられ、当該接
続体206を介してFPC205と外部接続端子204とが電気的に接続している。接続
体206としては、熱硬化性の樹脂に導電性粒子を混ぜ合わせたペースト状の材料、また
は熱硬化性の樹脂の内部に導電性粒子を含むシート状の材料を用い、熱圧着によって異方
性の導電性を示す材料を用いることができる。導電性粒子としては、例えばニッケル粒子
を金で被覆したものや、樹脂を金属で被覆したものなどを用いることができる。
【0096】
図3(B)には走査線駆動回路202の一部として、いずれもnチャネル型のトランジ
スタ211とトランジスタ212を組み合わせた回路を有する例を示している。なお、走
査線駆動回路202はnチャネル型のトランジスタを組み合わせた回路に限られず、nチ
ャネル型のトランジスタとpチャネル型のトランジスタを組み合わせた種々のCMOS回
路や、pチャネル型のトランジスタを組み合わせた回路を有する構成としてもよい。なお
、信号線駆動回路203についても同様である。また、本構成例では、表示部201が形
成される絶縁表面上に走査線駆動回路202と信号線駆動回路203が形成されたドライ
バ一体型の構成を例示するが、例えば走査線駆動回路202と信号線駆動回路203のい
ずれか一方または両方として駆動回路用ICを用い、COG方式により実装してもよいし
、COF方式により駆動回路用ICが実装されたフレキシブル基板(FPC)を実装して
もよい。
【0097】
図3(B)には、表示部201の一例として、一画素分の断面構造を示している。画素
は、スイッチング用のトランジスタ213と、電流制御用のトランジスタ214と、電流
制御用のトランジスタ214の電極(ソース電極またはドレイン電極)に電気的に接続さ
れた第1の電極233を含む。また第1の電極233の端部を覆う絶縁層219が設けら
れている。
【0098】
発光素子240は、絶縁層217上に第1の電極233、EL層235、第2の電極2
37が順に積層された積層体である。本構成例で例示する表示装置200は上面発光型の
表示装置であるため、第2の電極237に透光性の材料を用いる。第1の電極233には
反射性の材料を用いることが好ましい。EL層235は少なくとも発光性の有機化合物を
含む。EL層235を挟持する第1の電極233と第2の電極237の間に電圧を印加し
、EL層235に電流を流すことにより、発光素子240を発光させることができる。
【0099】
可撓性を有する基板253の基板254と対向する面上には、接着層242を介して第
1の層243及び第2の層244を含む被剥離層245を有する。また第2の層244上
の発光素子240と重なる位置にカラーフィルタ221を有し、絶縁層219と重なる位
置にブラックマトリクス222を有する。第1の層243及び第2の層244は、第1の
層103または第2の層104と同様の材料からなる層である。なお、基板253の基板
254と対向しない面上には、透明導電膜を形成することによって、タッチセンサを形成
してもよい。
【0100】
第2の層104や第2の層244は、それぞれ基板254または基板253に含まれる
不純物が拡散することを抑制する機能を有する。また、トランジスタの半導体層に接する
絶縁層216及び絶縁層218は、半導体層への不純物の拡散を抑制することが好ましい
。これらの絶縁層には、例えばシリコンなどの半導体、アルミニウムなどの金属の酸化物
または窒化物を用いることができる。また、このような無機絶縁材料の積層膜、または無
機絶縁材料と有機絶縁材料の積層膜を用いてもよい。
【0101】
上記無機絶縁材料としては、例えば窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化酸化ア
ルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ガリウム、窒化シリコン、
酸化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニ
ウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化タンタル等から選ばれた材料を、単層で又は積
層して形成する。なお、本明細書中において、窒化酸化とは、その組成として、酸素より
も窒素の含有量が多いものであって、酸化窒化とは、その組成として、窒素よりも酸素の
含有量が多いものを示す。なお、各元素の含有量は、例えば、RBS等を用いて測定する
ことができる。
【0102】
また、上記無機絶縁材料として、ハフニウムシリケート(HfSiO)、窒素が添加
されたハフニウムシリケート(HfSi)、窒素が添加されたハフニウムアル
ミネート(HfAl)、酸化ハフニウム、酸化イットリウム等のhigh-k
材料を用いてもよい。
【0103】
ここで、被剥離層110は、実施の形態1で例示した剥離方法により剥離することによ
り形成することができる。被剥離層110上に各トランジスタや発光素子240を形成し
た後に剥離を行い、その後被剥離層110の裏面側に接着層132を介して基板254を
貼り付けることにより、図3(B)に示す構成とすることができる。また、被剥離層24
5も実施の形態1で例示した剥離方法により剥離することで形成することができる。被剥
離層245上にカラーフィルタ221及びブラックマトリクス222を形成した後に剥離
を行い、その後被剥離層245の裏面側に接着層242を介して基板253を貼り付ける
ことにより図3(B)に示す構成とすることができる。
【0104】
また、図3(B)に示すように、第1の層103と接着層132の間、または第1の層
243と接着層242の間に酸化物層111または酸化物層241を有していてもよい。
酸化物層111及び酸化物層241は極めて薄く、且つ透光性を有するため、発光素子2
40からの発光の取り出し側に設けられていても、発光効率を低下させることはほとんど
ない。
【0105】
ここで、トランジスタなどが形成された被剥離層110とカラーフィルタ221等が形
成された被剥離層245とを、封止層252により貼り合わせる際、それぞれ剥離を行う
前に支持基板上に設けられた状態で貼り合わせを行い、貼り合わせ後にそれぞれの支持基
板から剥離を行うことが好ましい。特に高精細な表示部201を有する表示装置のように
、カラーフィルタ221と画素との位置合わせに高い精度が要求される場合では、ガラス
基板などの支持基板に固定された状態で貼り合わせを行うことで、高い精度でこれらの位
置合わせを行うことができる。このような方法により、高精細が実現されたフレキシブル
な表示装置を作製することができる。
【0106】
なお、図3(A)(B)では、表示素子として、発光素子を用いた場合を示した。ただし
、本発明の実施形態の一態様は、これに限定されない。表示素子として、液晶素子や、電
気泳動素子(電子ペーパー)などを用いることも可能である。電気泳動素子を用いる場合
、バックライトが不要であるため、フレキシブルな表示装置の一態様として好適である。
【0107】
[表示装置の構成例2]
本構成例では、下面射出(ボトムエミッション)方式が採用された表示装置について説
明する。なお、上記構成例1と重複する部分については説明を省略する。
【0108】
図4は、本構成例で例示する表示装置250の断面概略図である。
【0109】
表示装置250は主に、以下の点において構成例1で例示した表示装置200と相違し
ている。表示装置250は、発光素子240よりも基板254側にカラーフィルタを有し
ている。また、可撓性を有する基板253が直接、封止層252に接して設けられ、表示
装置200における被剥離層245や接着層242等を有していない。
【0110】
発光素子240において、第1の電極233には透光性の材料を用い、第2の電極23
7には反射性の材料を用いる。したがって、EL層235からの発光は、基板254側に
射出される。
【0111】
また、トランジスタを覆う絶縁層218上の、発光素子240と重なる位置にカラーフ
ィルタ221が設けられている。さらに、カラーフィルタ221を覆って絶縁層217が
設けられている。
【0112】
ここで、基板253としては、基板253よりも外側から水などの不純物が透過しない
材料を用いることが好ましい。または、基板253の封止層252と接する面に、上述し
た不純物が拡散することを抑制する機能を有する絶縁材料からなる膜が設けられているこ
とが好ましい。このような材料としては、例えば上記第2の層104や第2の層244に
用いることのできる無機絶縁材料を用いることができる。
【0113】
[材料及び形成方法について]
以下では、上述した各要素に用いることのできる材料、及び形成方法について説明する
【0114】
〈可撓性を有する基板〉
可撓性を有する基板の材料としては、有機樹脂や可撓性を有する程度に薄いガラス材料
などを用いることができる。
【0115】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN
)等のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタ
クリレート樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂
、ポリアミド樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、
ポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。特に、熱膨張係数の低い材料を用いることが好まし
く、例えば、熱膨張係数が30×10-6/K以下であるポリアミドイミド樹脂、ポリイ
ミド樹脂、PET等を好適に用いることができる。また、繊維体に樹脂を含浸した基板(
プリプレグとも記す)や、無機フィラーを有機樹脂に混ぜて熱膨張係数を下げた基板を使
用することもできる。
【0116】
上記材料中に繊維体が含まれている場合、繊維体は有機化合物または無機化合物の高強
度繊維を用いる。高強度繊維とは、具体的には引張弾性率またはヤング率の高い繊維のこ
とを言い、代表例としては、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエステル系繊維、ポリア
ミド系繊維、ポリエチレン系繊維、アラミド系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキ
サゾール繊維、ガラス繊維、または炭素繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、Eガラ
ス、Sガラス、Dガラス、Qガラス等を用いたガラス繊維が挙げられる。これらは、織布
または不織布の状態で用い、この繊維体に樹脂を含浸させ樹脂を硬化させた構造物を可撓
性を有する基板として用いても良い。可撓性を有する基板として、繊維体と樹脂からなる
構造物を用いると、曲げや局所的押圧による破損に対する信頼性が向上するため、好まし
い。
【0117】
発光素子240からの光を取り出す側の可撓性を有する基板には、EL層235からの
発光に対して透光性を有する材料を用いる。光射出側に設ける材料において、光の取り出
し効率向上のためには、可撓性及び透光性を有する材料の屈折率は高い方が好ましい。例
えば、有機樹脂に屈折率の高い無機フィラーを分散させることで、該有機樹脂のみからな
る基板よりも屈折率の高い基板を実現できる。特に粒子径40nm以下の小さな無機フィ
ラーを使用すると、光学的な透明性を失わないため、好ましい。
【0118】
また、光射出側とは反対側に設ける基板は、透光性を有していなくてもよいため、上記
に挙げた基板の他に、金属基板等を用いることもできる。金属基板の厚さは、可撓性や曲
げ性を得るために、10μm以上200μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下
であることが好ましい。金属基板を構成する材料としては、特に限定はないが、例えば、
アルミニウム、銅、ニッケル、または、アルミニウム合金もしくはステンレス等の金属の
合金などを好適に用いることができる。光を取り出さない側の可撓性を有する基板に、金
属または合金材料を含む導電性の基板を用いると、発光素子240からの発熱に対する放
熱性が高まるため好ましい。
【0119】
また、導電性を有する基板を用いる場合には、基板の表面を酸化する、または表面に絶
縁膜を形成するなどし、絶縁処理が施された基板を用いることが好ましい。例えば、電着
法、スピンコート法やディップ法などの塗布法、スクリーン印刷法などの印刷法、蒸着法
やスパッタリング法など堆積法などの方法を用いて導電性の基板表面に絶縁膜を形成して
もよいし、酸素雰囲気下で放置または加熱する方法や、陽極酸化法などの方法により、基
板の表面を酸化してもよい。
【0120】
また、可撓性を有する基板の表面に凹凸形状を有する場合、当該凹凸形状を被覆して平
坦化した絶縁表面を形成するために平坦化層を設けてもよい。平坦化層としては絶縁性の
材料を用いることができ、有機材料または無機材料で形成することができる。例えば、平
坦化層は、スパッタリング法などの堆積法、スピンコート法やディップ法などの塗布法、
インクジェット法やディスペンス法などの吐出法、スクリーン印刷法などの印刷法等を用
いて形成することができる。
【0121】
また、可撓性を有する基板として、複数の層を積層した材料を用いることもできる。例
えば有機樹脂からなる層を2種類以上積層した材料、有機樹脂からなる層と無機材料から
なる層を積層した材料、無機材料からなる層を2種類以上積層した材料などを用いる。無
機材料からなる層を設けることにより、水分等の内部への浸入が抑制されるため、発光装
置の信頼性を向上させることができる。
【0122】
上記無機材料としては、金属や半導体の酸化物材料や窒化物材料、酸窒化材料などを用
いることができる。例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミ
ニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウムなどを用いればよい。
【0123】
例えば、有機樹脂からなる層と無機材料からなる層を積層する場合、有機樹脂からなる
層の上層または下層に、スパッタリング法、CVD法または塗布法などにより、上記無機
材料からなる層を形成することができる。
【0124】
また、可撓性を有する基板として、可撓性を有する程度に薄いガラス基板を用いてもよ
い。特に発光素子240に近い側から有機樹脂層、接着層、及びガラス層を積層したシー
トを用いることが好ましい。当該ガラス層の厚さとしては20μm以上200μm以下、
好ましくは25μm以上100μm以下の厚さとする。このような厚さのガラス層は、水
や酸素に対する高いバリア性と可撓性を同時に実現できる。また、有機樹脂層の厚さとし
ては、10μm以上200μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下とする。この
ような有機樹脂層をガラス層と接して設けることにより、ガラス層の割れやクラックを抑
制し、機械的強度を向上させることができる。このようなガラス材料と有機樹脂の複合材
料を可撓性を有する基板に適用することにより、極めて信頼性が高く、且つフレキシブル
な発光装置とすることができる。
【0125】
〈発光素子〉
発光素子240において、光射出側に設ける電極にはEL層235からの発光に対して
透光性を有する材料を用いる。
【0126】
透光性を有する材料としては、酸化インジウム、酸化インジウム酸化スズ、酸化インジ
ウム酸化亜鉛、酸化亜鉛、ガリウムを添加した酸化亜鉛などを用いることができる。また
は、グラフェンを用いても良い。また、上記導電層として、金、銀、白金、マグネシウム
、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、また
はチタンなどの金属材料や、これらを含む合金を用いることができる。または、これら金
属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)などを用いても良い。なお、金属材料(またはそ
の窒化物)を用いる場合には、透光性を有する程度に薄くすればよい。また、上記材料の
積層膜を導電層として用いることができる。例えば、銀とマグネシウムの合金と酸化イン
ジウム酸化スズの積層膜などを用いると、導電性を高めることができるため好ましい。
【0127】
このような電極は、蒸着法や、スパッタリング法などにより形成する。そのほか、イン
クジェット法などの吐出法、スクリーン印刷法などの印刷法、またはメッキ法を用いて形
成することができる。
【0128】
なお、透光性を有する上述の導電性酸化物をスパッタリング法によって形成する場合、
当該導電性酸化物を、アルゴン及び酸素を含む雰囲気下で成膜すると、透光性を向上させ
ることができる。
【0129】
また導電性酸化物膜をEL層上に形成する場合、酸素濃度が低減されたアルゴンを含む
雰囲気下で成膜した第1の導電性酸化物膜と、アルゴン及び酸素を含む雰囲気下で成膜し
た第2の導電性酸化物膜の積層膜とすると、EL層への成膜ダメージを低減させることが
できるため好ましい。ここで特に第1の導電性酸化物膜を成膜する際に用いるアルゴンガ
スの純度が高いことが好ましく、例えば露点が-70℃以下、好ましくは-100℃以下
のアルゴンガスを用いることが好ましい。
【0130】
光射出側とは反対側に設ける電極には、EL層235からの発光に対して反射性を有す
る材料を用いることが好ましい。
【0131】
光反射性を有する材料としては、例えばアルミニウム、金、白金、銀、ニッケル、タン
グステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、またはパラジウム等の金属、または
これらを含む合金を用いることができる。またこれら金属材料を含む金属または合金にラ
ンタンやネオジム、ゲルマニウムなどを添加してもよい。そのほか、アルミニウムとチタ
ンの合金、アルミニウムとニッケルの合金、アルミニウムとネオジムの合金などのアルミ
ニウムを含む合金(アルミニウム合金)や、銀と銅の合金、銀とパラジウムと銅の合金、
銀とマグネシウムの合金などの銀を含む合金を用いることもできる。銀と銅を含む合金は
耐熱性が高いため好ましい。さらに、アルミニウム合金膜に接する金属膜、または金属酸
化物膜を積層することで、アルミニウム合金膜の酸化を抑制することができる。該金属膜
、金属酸化物膜の材料としては、チタン、酸化チタンなどが挙げられる。また、上記透光
性を有する材料からなる膜と金属材料からなる膜とを積層しても良い。例えば、銀と酸化
インジウム酸化スズの積層膜、銀とマグネシウムの合金と酸化インジウム酸化スズの積層
膜などを用いることができる。
【0132】
このような電極は、蒸着法や、スパッタリング法などにより形成する。そのほか、イン
クジェット法などの吐出法、スクリーン印刷法などの印刷法、またはメッキ法を用いて形
成することができる。
【0133】
EL層235は、少なくとも発光性の有機化合物を含む層(以下、発光層ともいう)を
含めば良く、単数の層で構成されていても、複数の層が積層されていてもよい。複数の層
で構成されている構成としては、陽極側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送
層、並びに電子注入層が積層された構成を例に挙げることができる。なお、発光層を除く
これらの層はEL層235中に必ずしも全て設ける必要はない。また、これらの層は重複
して設けることもできる。具体的にはEL層235中に複数の発光層を重ねて設けてもよ
く、電子注入層に重ねて正孔注入層を設けてもよい。また、中間層として電荷発生層の他
、電子リレー層など他の構成を適宜加えることができる。また、例えば、異なる発光色を
呈する発光層を複数積層する構成としてもよい。例えば補色の関係にある2以上の発光層
を積層することにより白色発光を得ることができる。
【0134】
EL層235は、真空蒸着法、またはインクジェット法やディスペンス法などの吐出法
、スピンコート法などの塗布法を用いて形成できる。
【0135】
〈接着層、封止層〉
接着層、封止層としては、例えば、二液混合型樹脂などの常温で硬化する樹脂、熱硬化
性樹脂、光硬化性樹脂などの硬化性材料や、ゲルなどを用いることができる。例えば、エ
ポキシ樹脂やアクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリビニル
クロライド(PVC)、ポリビニルブチラル(PVB)、エチレンビニルアセテート(E
VA)などを用いることができる。特に、エポキシ樹脂等の透湿性が低い材料が好ましい
【0136】
また接着層、封止層には乾燥剤が含まれていても良い。例えば、アルカリ土類金属の酸
化物(酸化カルシウムや酸化バリウム等)のように、化学吸着によって水分を吸着する物
質を用いることができる。その他の乾燥剤として、ゼオライトやシリカゲル等のように、
物理吸着によって水分を吸着する物質を用いてもよい。また、粒状の乾燥剤を設けること
により、当該乾燥剤により発光素子240からの発光が乱反射されるため、信頼性が高く
、且つ視野角依存性が改善した発光装置(特に照明用途等に有用)を実現できる。
【0137】
〈トランジスタ〉
表示部201、走査線駆動回路202、信号線駆動回路203を構成するトランジスタ
の構造は特に限定されない。例えば、スタガ型のトランジスタとしてもよいし、逆スタガ
型のトランジスタとしてもよい。また、トップゲート型またはボトムゲート型のトランジ
スタのいずれのトランジスタ構造としてもよい。また、トランジスタに用いる半導体材料
としては、例えばシリコンやゲルマニウムなどの半導体材料を用いてもよいし、インジウ
ム、ガリウム、及び亜鉛のうち少なくともひとつを含む酸化物半導体を用いてもよく、有
機半導体を用いてもよい。インジウム、ガリウム、及び亜鉛のうち少なくともひとつを含
む酸化物半導体としては、代表的にはIn-Ga-Zn系金属酸化物などが挙げられる。
シリコンよりもバンドギャップが広く、かつキャリア密度の小さい酸化物半導体を用いる
と、オフ電流の低いトランジスタを実現でき、後に形成される発光素子のオフ時のリーク
電流を抑制できるため好ましい。また、トランジスタに用いる半導体の結晶性についても
特に限定されず、非晶質半導体、または結晶性を有する半導体(微結晶半導体、多結晶半
導体、または一部に結晶領域を有する半導体)のいずれを用いても良い。結晶性を有する
半導体を用いると、トランジスタ特性の劣化が抑制されるため好ましい。
【0138】
〈カラーフィルタ及びブラックマトリクス〉
カラーフィルタ221は、発光素子240からの発光色を調色し、色純度を高める目的
で設けられている。例えば、白色発光の発光素子を用いてフルカラーの表示装置とする場
合には、異なる色のカラーフィルタを設けた複数の画素を用いる。その場合、赤色(R)
、緑色(G)、青色(B)の3色のカラーフィルタを用いてもよいし、これに黄色(Y)
を加えた4色とすることもできる。また、R、G、B、(及びY)に加えて白色(W)の
画素を用い、4色(または5色)としてもよい。
【0139】
また、隣接するカラーフィルタ221の間には、ブラックマトリクス222が設けられ
ている。ブラックマトリクス222は隣接する画素の発光素子240から回り込む光を遮
光し、隣接画素間における混色を抑制する。ここで、カラーフィルタ221の端部を、ブ
ラックマトリクス222と重なるように設けることにより、光漏れを抑制することができ
る。ブラックマトリクス222は、発光素子240からの発光を遮光する材料を用いるこ
とができ、金属や、顔料を含む有機樹脂などを用いて形成することができる。なお、ブラ
ックマトリクス222は、走査線駆動回路202などの表示部201以外の領域に設けて
もよい。
【0140】
また、カラーフィルタ221及びブラックマトリクス222を覆うオーバーコートを設
けてもよい。オーバーコートは、カラーフィルタ221やブラックマトリクス222を保
護するほか、これらに含まれる不純物が拡散することを抑制する。オーバーコートは発光
素子240からの発光を透過する材料から構成され、無機絶縁膜や有機絶縁膜を用いるこ
とができる。
【0141】
[照明装置の構成例]
以下では、本発明の一態様の発光装置の他の例として、有機EL素子を備える照明装置
の構成例について説明する。なお、ここでは上記と重複する部分については、説明を省略
する。
【0142】
図5(A)は、本構成例で例示する発光装置500の上面概略図である。また、図5
B)は、図5(A)中の切断線E-Fに沿って切断した断面概略図である。発光装置50
0は、上面射出方式が採用された照明装置である。なお、照明装置として、図4と同様に
、下面射出(ボトムエミッション)方式を用いることもできる。
【0143】
発光装置500は、可撓性を有する基板254上に、接着層132を介して第1の層1
03及び第2の層104を含む被剥離層110を有する。また第2の層104上に発光素
子240を有する。また、発光素子240上に封止層252を介して可撓性を有する基板
253を有する。
【0144】
また、第2の層104上の基板253と重ならない領域に、発光素子240の第1の電
極233と電気的に接続する取り出し電極503と、第2の電極237と電気的に接続す
る取り出し電極507が設けられている。
【0145】
図5(B)には、取り出し電極503と取り出し電極507が同一平面上に形成され、
且つ、第1の電極233と同一導電膜を加工して形成した構成を示している。また図5
B)では、第1の電極233の一部が取り出し電極503を構成している。
【0146】
第2の電極237は、第1の電極233と取り出し電極507の各々の端部を覆う絶縁
層509を越えて取り出し電極507と接するように設けられ、これと電気的に接続して
いる。
【0147】
なお取り出し電極503や取り出し電極507を、第1の電極233とは異なる導電膜
を用いて別途作製してもよい。このとき、当該導電膜に銅を含む導電膜を用いると、導電
性を高めることができるため好ましい。
【0148】
絶縁層509は、第2の電極237が第1の電極233とショートしないように、第1
の電極233の端部を覆って設けられる。また、絶縁層509の上層に形成される第2の
電極237の被覆性を良好なものとするため、絶縁層509の上端部または下端部に曲率
半径(例えば0.2μm以上3μm以下)を有する曲面を持たせるのが好ましい。また、
絶縁層509の材料としては、ネガ型またはポジ型の感光性樹脂などの有機化合物や、酸
化シリコン、酸窒化シリコンなどの無機化合物を用いることができる。
【0149】
また、図5(A)、(B)に示すように、基板253の発光素子240と対向しない面
には、レンズ状の凹凸形状が形成されていることが好ましい。当該凹凸形状は、基板25
3と外部(空気)との界面で、発光素子240からの発光の全反射が生じることを抑制す
る目的で設けられる。基板253の表面に、高屈折率材料からなるレンズアレイ、マイク
ロレンズアレイ、または拡散シート、拡散フィルムなどを設けることもできる。特にマイ
クロレンズアレイを用いると、効率的に光り取り出し効率を向上させ、さらに視野角依存
性を改善できるため、均一な発光輝度の照明装置を実現できる。
【0150】
また、基板253の表面に凹凸形状を形成する方法としては、フォトリソグラフィ法、
ナノインプリント法、サンドブラスト法などを適用できる。
【0151】
ここで、基板253の屈折率が、封止層252の屈折率以上であることが好ましい。す
なわち、発光素子240から遠い位置にある材料ほど、屈折率が高くなるように設定する
ことが好ましい。このような構成とすることで、それぞれの層の界面での全反射が抑制さ
れ、実質的に発光素子240からの発光を全て取り出すことができる。
【0152】
以上が本構成例についての説明である。
【0153】
本実施の形態で例示した表示装置は、高いフレキシブル性と高い信頼性を兼ね備えた表
示装置である。
【0154】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて
実施することができる。
【0155】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様の剥離方法に関する剥離メカニズムについて説明す
る。
【0156】
[剥離箇所の検討]
本発明の一態様の剥離方法において、剥離層と被剥離層の間に挟持される酸化物層で剥
離が生じる。このとき、剥離層と酸化物層の界面、酸化物層と被剥離層の界面、及び酸化
物層内部の3箇所の内、いずれの箇所で最も結合が切れやすいかを調べることは、剥離の
メカニズムを考察する上で重要である。そこで以下では、上記3箇所におけるそれぞれの
結合エネルギーを見積もり、いずれの箇所で剥離が生じやすいかを調べた。
【0157】
本実施の形態では、剥離層としてタングステン(W)膜を、被剥離層として酸化シリコ
ン(SiO)膜をそれぞれ仮定した。またWは4価のWの酸化物であるWOと6価の
Wの酸化物であるWOの2つの状態をとりやすいことから、酸化物層としてこの2種類
の状態を含む酸化物を仮定した。
【0158】
計算で考慮した剥離箇所を図6(A)に示す。図6(A)に示す構成は、WとSiO
の間に、4価のWの酸化物であるWOと、6価のWの酸化物であるWOと備える。
【0159】
図6(A)において、剥離に伴って結合が切れうる箇所は、(1)SiO/WO
、(2)SiO/WO間、(3)WO内、(4)WO内、(5)WO/WO
間、(6)WO/W間、及び(7)WO/W間の7通りが考えられる。そこで、これ
らの箇所における結合エネルギーを以下の方法により算出した。
【0160】
計算モデルには、クラスターモデルを用いた。図6(B)に用いたクラスターモデルの
一例を示す。図6(B)は、SiOとWOの結合エネルギーの算出に用いたクラスタ
ーモデルである。図6(B)に示すクラスターモデルは、Si及びWに結合する酸素原子
の末端を水素原子(H)で終端している。クラスターモデルにおいて、架橋する酸素原子
を介してSi原子側(A)とW原子側(B)の2箇所について、結合エネルギーの算出を
行っている。
【0161】
結合エネルギーを算出するため、密度汎関数法を用いて、構造最適化計算と振動解析を
行った。汎関数にはB3LYPを使用し、電荷は0、スピン多重度は一重項状態、二重項
状態と五重項状態を考慮した。また、基底関数はLanL2DZを全ての原子に使用した
。なお、量子化学計算プログラムとして、Gaussian09を用いた。計算は、ハイ
パフォーマンスコンピュータ(SGI社製、Altix4700)を用いて行った。算出
した結合エネルギーは零点補正を考慮している。
【0162】
なお、クラスターモデルでは、架橋している酸素原子以外の原子は大きな自由度を持ち
、エネルギーを安定化させるように配置をとる。しかし実際ではこれらの原子は隣接する
他の原子の影響により自由に動くことはできない。したがってクラスターモデルと実際の
系とでの自由度の違いにより、得られる結合エネルギーの値と実際の値に若干の乖離が生
じる場合があることに注意する必要がある。
【0163】
まず、6価のW原子を有するWOと、4価のW原子を有するWOについて、W原子
とO原子の結合エネルギーを算出した結果を図7に示す。なお、以下では特に説明のない
限り、O原子が有する未結合手をH原子で終端したクラスターモデルを用いている。
【0164】
図7より、4価のW原子に係るW-O結合よりも6価のW原子に係るW-O結合の方が
、結合エネルギーが小さいことが分かる。したがって、6価のW原子に係るW-O結合の
方が結合が切れやすいことが示唆される。
【0165】
続いて、図6(A)で示したそれぞれの箇所を想定して算出した、結合エネルギーの結
果を図8に示す。
【0166】
図8より、(1)SiO/WO間ではSi-O結合(A)の方が、結合エネルギー
が小さい。(2)SiO/WO間では、W-O結合(B)の方が、結合エネルギーが
小さい。(1)と(2)を比較すると、(1)の方がSiとの結合エネルギーが小さいこ
とから、SiO/WO界面で剥離が生じやすいことが示唆される。
【0167】
(3)WO内、(4)WO内、及び(5)WO/WO間を比較すると、(5)
におけるW-O結合(B)の結合エネルギーが1.09eVと最も小さい値であった。こ
のことは、WOとWOとが混在した酸化物層では、酸化物層中で剥離が生じやすいこ
とを示唆する。また、(5)に着眼すると、図7に示した結果と比較し、4価のW原子に
係るW-O結合(A)の結合エネルギーが増大し、6価のW原子に係るW-O結合(B)
の結合エネルギーが減少している。これは、4価のW原子側に電子が引きつけられること
による影響であると考えられる。したがって、4価のW原子と6価のW原子とを架橋する
O原子において、4価のW原子とは反対側の結合、換言すると、6価のW原子に係る結合
がより切れやすい状態となる。
【0168】
(6)WO/W間、及び(7)WO/W間を比較すると、(6)におけるW-O結
合の結合エネルギーが1.46eVと小さく、WO/W間で剥離が生じやすいことが示
唆される。
【0169】
以上の結果から、酸化物層中に4価のW原子を含む場合に、O原子で架橋されたW-O
-W結合が切れやすい傾向があることが分かる。このことはWO/WO間、及びWO
/W間で剥離が生じやすいことを示唆する。すなわち、WOを多く含む酸化物層を有
する構成では剥離が生じやすいことを示唆する。
【0170】
したがって、剥離性を向上させるためには、WOからWOへ還元し、酸化物層内の
WOの含有量を多くすることが重要であると考えられる。
【0171】
本発明の一態様の剥離方法は、酸化物層の上層に設けられる被剥離層に、加熱により水
素を放出する第1の層及び第2の層を設ける。さらに加熱処理によって当該被剥離層から
放出された水素により、酸化物層内のWOを還元し、WOを多く含有する酸化物層を
形成することができる。その結果、剥離性を向上させることができる。
【0172】
[N原子の効果について]
上記では、剥離の際にW-O結合が最も切れやすいことを示した。これを踏まえ、W原
子間を架橋するO原子をN原子に置換した場合に、結合エネルギーがどのようになるかを
解析した。
【0173】
ここではW原子間を架橋するO原子に換えて、NH基を導入したときのW-N結合の結
合エネルギーを算出した。
【0174】
まず、6価のW原子を有するWOと4価のW原子を有するWOについて、それぞれ
1つのO原子をNH基に置換したクラスターモデルについて、W-O結合及びW-N結合
の結合エネルギーを算出した結果を図9の上段に示す。
【0175】
図9より、価数に関わらず、W-O結合よりもW-N結合の方が、結合エネルギーが小
さいことがわかる。さらに、図7で示したN原子を導入していないモデルに対して、W-
O結合の結合エネルギーも低下していることが分かる。したがって、N原子を導入するこ
とにより、W-N結合だけでなくW-O結合も、結合が切れやすくなることが示唆される
【0176】
続いて、図6(A)に示した箇所の内、(3)WO内、(4)WO内、(5)WO
/WO間のそれぞれを想定したクラスターモデルの内、架橋するO原子をNH基に置
き換えたモデルについてW-N結合の結合エネルギーを算出した結果を図9の下段に示す
【0177】
NH基で架橋した場合であっても、図8で示したそれぞれのモデルにおけるW-O結合
エネルギーの大小関係は変わらない結果であった。(4)に着目すると、NH基で架橋し
た場合の方が結合エネルギーが小さい結果であった。また特に、(5)に着目すると、6
価のW原子に係るW-O結合(B)の結合エネルギーが0.42eVと極めて小さい値と
なった。
【0178】
以上の結果から、W原子間を架橋するO原子をN原子に置換することで、これらの結合
がより切れやすくなる傾向があることが分かる。このことは、酸化物層中に窒素を供給す
ることにより、より剥離が生じやすくなることを示唆する。
【0179】
したがって、剥離性を向上させるためには、酸化物層中の窒素原子をより多く供給する
ことが重要であると考えられる。
【0180】
本発明の一態様の剥離方法は、酸化物層の上層に設けられる被剥離層に、加熱により窒
素を放出する第1の層と、当該第1の層の上層に窒素が外部に放出されることを抑制する
(窒素の放出をブロックする)機能を有する第2の層を設ける。さらに加熱処理によって
当該被剥離層から放出された窒素を酸化物層内に多量に供給し、窒素を多く含有する酸化
物層を形成することができる。その結果、剥離性を向上させることができる。
【0181】
[水導入時の剥離性向上に関する検討]
実施の形態1で述べたように、剥離時に剥離界面に水を含む液体を添加し、該液体が剥
離界面に浸透するように剥離を行うことにより、剥離性が向上する。以下では、剥離現象
における水の役割について説明する。
【0182】
〈液体の種類と剥離性の関係について〉
まず、剥離時に導入する液体の種類を換えたときに剥離に要する力に違いがあるかどう
かを評価した結果について説明する。
【0183】
剥離に要する力の評価は、図10に示すような治具を用いて行った。図10に示す治具
は、複数のガイドローラ154と、サポートローラ153を有する。測定は、予め支持基
板101上に形成された被剥離層を含む層150上にテープ151を貼り付け、端部を一
部剥離しておく。次いで、支持基板101を治具にテープ151をサポートローラ153
に引っ掛けるように取り付け、テープ151及び被剥離層を含む層150が支持基板10
1に対して垂直方向になるようにする。ここで、テープ151を支持基板101に対して
垂直方向に引っ張り、被剥離層を含む層150が支持基板101から剥離する際に、垂直
方向に引っ張るのに要する力を測定することで、剥離に要する力を測定することができる
。ここで、剥離が進行している間、剥離層102が露出した状態で支持基板101がガイ
ドローラ154に沿ってその面方向に走行する。サポートローラ153及びガイドローラ
154は、被剥離層を含む層150及び支持基板101の走行中の摩擦の影響を無くすた
めに回転可能に設けられている。
【0184】
使用した試料は、以下のようにして作製した。まずガラス基板上に厚さ約100nmの
酸化窒化シリコン膜をプラズマCVD法で形成し、その後剥離層として厚さ約50nmの
W膜をスパッタリング法により形成した、次いで、第1の層として厚さ約600nmの酸
化窒化シリコン膜、第2の層として厚さ約50nmの窒化酸化シリコン膜を形成し、その
上層に厚さ約100nmの酸化窒化シリコン膜及び、厚さ約66nmのシリコン膜を形成
した。その後、650℃6分の熱処理を行った。続いて、シリコン膜に対してレーザ光を
照射してポリシリコンを形成した後に、ゲート絶縁膜、ゲート電極、層間絶縁層、ソース
電極及びドレイン電極、層間絶縁層、電極などを形成し、トランジスタを作製した。ここ
で、650℃6分の熱処理を行った後の工程では、これ以上の温度のかかる工程は行って
いない。
【0185】
このようにして、ガラス基板上に剥離層及び被剥離層を有するサンプルを作製した。
【0186】
その後、支持基板を20mm×126.6mmに分断し、テープ151としてUVフィ
ルム(電気化学工業株式会社製 UHP-0810MC)をテープマウンタにより貼り付
けた後、UVフィルムの端部を約20mm剥離し、上記治具に取り付けた。
【0187】
剥離試験には、島津製作所製の小型卓上試験機(EZ-TEST EZ-S-50N)
を用いた。剥離試験方法には、日本工業規格(JIS)の規格番号JIS Z0237に
準拠する粘着テープ・粘着シート試験方法を用いた。なお、液体の供給は、試料を上記治
具に取り付けた後、剥離部分にスポイトで滴下することで行った。
【0188】
図11は、剥離時に導入する液体の種類を換えて、剥離に要する力を測定した結果であ
る。
【0189】
評価に用いた液体は大きく分けて、水・水溶液、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極
性溶媒、無極性溶媒の4種類である。水・水溶液として、純水、CO水溶液、HCl水
溶液、NaHCO水溶液を用いた。プロトン性極性溶媒としては、蟻酸、エタノール、
メタノール、2プロパノール、エチレングリコール、アニリンを用いた。非プロトン性極
性溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、DMSO、DMF、酢酸エチル、Nメチル
ピロリドン、クロロホルム、イオン液体であるN-Methyl-N-n-pentyl
pyrrolidinium bis(trifluoromethylsulfony
l)imideを用いた。無極性溶媒としては、トルエン、ヘキサン、フロリナート、ベ
ンゼンを用いた。また、比較として、液体を導入しない場合の剥離に要する力も測定した
【0190】
図11に示す結果から、水・水溶液といった水を含む液体を導入した場合では、液体を
用いない場合に比べて剥離に要する力が低減する、すなわち剥離性が向上する傾向が見ら
れた。一方、水以外の液体では、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、無極性溶
媒の順に剥離に要する力が大きくなっていく傾向が見られ、特に無極性溶媒の場合は、剥
離性に関しては逆効果であることが解かった。
【0191】
この結果から、剥離面に液体を導入して剥離性を向上させる要因として、水素(イオン
)の存在が関与していることが示唆され、特に水や水溶液系の液体を選択した場合により
効果的に作用すると推察される。
【0192】
〈水分子の効果について〉
以下では、水分子を導入した場合における剥離過程を計算することで、水分子と剥離性
との関連性を解析した結果について説明する。
【0193】
上記では、WOよりもWOに面した界面で剥離が生じにくいことが推測されること
を示した。したがって本計算において、より結合エネルギーの高いWO内のW-O結合
エネルギーに着眼して計算を行った。
【0194】
図12(A)に、計算に用いたモデルを示す。WOの結晶構造における(001)面
で剥離が生じている。ここで、注目する2つのW原子を架橋するO原子を境に、図面左側
から剥離が進行している場合を考える。当該O原子より図面左側では上下の層が分断され
、当該O原子を含む図面右側では上下の層が結合している状態である。ここで、破線で囲
った水分子が注目するO原子に近い位置に存在している。
【0195】
続いて、検討した剥離過程について説明する。水分子が存在していない場合では、図1
2(B)に示すように、剥離に伴いW原子を架橋するW-O結合が開裂する。開裂後には
W原子及びO原子にダングリングボンド(未結合手)が生成するが、これを終端する原子
は存在しない。
【0196】
一方、図12(C)に示すように、水分子が存在している場合では、剥離前には水分子
がW原子間を架橋するO原子と水素結合を形成していると考えられる。水素結合を形成す
ることで、架橋するO原子は水素結合形成なしの場合よりもより負の電荷を帯び、水分子
の水素のうち、水素結合に関与している一方のH原子は他方のH原子と比較してより正電
荷を帯びるようになる。その結果両者の間に静電的な相互作用が働くことで緩和効果が生
じ、W-O結合が弱まる可能性がある。また、剥離に伴いW-O結合が開裂し、W原子及
びO原子にダングリングボンドが生成するが、水分子に由来したH基及びOH基によりこ
れらの終端が起こると考えられる。この終端により2つのOH基由来の立体効果が生じ、
次に開裂するW-O結合が弱まっている可能性がある。
【0197】
このように、剥離における水分子の働きとして、剥離前の静電的な相互作用による緩和
効果や、剥離後のOH基同士の立体効果などが考えられる。以下では、これらの効果によ
り剥離が生じやすくなりうるという仮定を計算により検証する。
【0198】
計算方法には、「Quantum Mechanics(量子力学計算)」/「Mol
ecular Mechanics(分子力学計算)」(QM/MM)法の一つであるO
NIOM法を用いた。図12(A)に示す計算モデル中で、原子を球で示したQM領域に
は、密度汎関数法を用い、汎関数はB3LYPを使用した。基底関数はLanL2DZを
使用した。原子を棒で示したMM領域には力場として「Universal Force
Field」を使用した。電荷は0、スピン多重度は一重項状態を考慮した。
【0199】
まず、水分子が存在している場合としていない場合について、電荷分布と構造の変化を
解析した。図13(A)に水分子が存在しない場合の架橋構造を、図13(B)に水分子
が存在している場合の架橋構造をそれぞれ示す。また、図13(A)、(B)中に番号を
付記した原子における電荷分布(Mulliken電荷)を表1に示す。
【0200】
【表1】
【0201】
表1より、剥離前の架橋構造では、水分子の存在によって架橋している番号2で示す原
子(以下、2Oと表記する)の電荷分布がよりマイナスに変化していることがわかる。こ
れは、架橋しているO原子と水分子との間に水素結合が形成され、電子が当該2O原子へ
引き寄せられていることを示唆する。さらに、番号1で示す原子(以下、1Wと表記する
)に関し、架橋構造の1W-2O結合距離に着目すると、図13(A)、(B)に示すよ
うに、水分子が存在している場合には結合距離が長くなっている。
【0202】
以上のことから、架橋している2O原子と、水分子の4H原子との水素結合間の電子密
度の上昇に伴い、1W-2O結合間の電子密度が低下し、1W-2Oの結合が切れやすい
状態となっていると推察される。この結果は、水分子の静電的な相互作用により構造緩和
が起こり、剥離が生じやすくなっていることを示唆する。
【0203】
次に、OH基による立体効果について検証を行った。水分子に由来するH基及びOH基
により、ダングリングボンドの終端が生じると仮定すると、図14(A)に示すように、
W原子同士がO原子で架橋されている場合(左図)に比べて、OH基でW原子のダングリ
ングボンドが終端されている場合(右図)では、OH基間の立体的な反発により上層と下
層の間隔が広がること(立体効果)が予測される。
【0204】
図14(B)に解析した構造とエネルギーの変化を示す。図14(B)中、楕円で囲っ
た領域は、OH基同士による立体効果が生じている領域である。図14(B)の下方には
、立体効果が生じている領域に隣接した箇所と、これより十分に離れた箇所におけるそれ
ぞれの架橋構造を拡大した図を示している。
【0205】
上記2つの箇所における架橋構造を比較すると、OH基同士による立体効果によりW-
W間結合距離が0.031nm程度、W-O結合距離が0.011nm程度、いずれも長
くなっている。このことは、W-O間結合が弱まり、結合が切れやすい状態であることを
示す。またこの立体効果が生じることにより上層と下層とが上下に引き延ばされ、系のエ
ネルギーが0.95eV程度活性化されているため、W-O結合が開裂しやすい状態とな
っている。
【0206】
以上の結果から、OH基によるダングリングボンドの終端が行われるとOH基に由来す
る立体効果により、剥離がより生じやすくなることを示唆する。
【0207】
続いて、ダングリングボンドのOH基による終端が行われるという仮定を検証した。こ
こでは、水分子が存在する場合の剥離過程において、水分子の解離がどのように生じるの
かを検討した。解析を行った反応経路とエネルギーダイアグラムを図15に示す。
【0208】
反応経路としては、図15に示す状態1から状態2を経て状態3へと反応する過程を検
討した。状態1は、架橋しているO原子と水分子とが弱い相互作用をした状態である。状
態2は、水分子由来のO原子がW原子と結合を形成し、水分子由来のH原子が架橋してい
るO原子の近傍に移動する遷移状態である。状態3は、W-O結合が開裂し、W原子のダ
ングリングボンドがOH基により終端された状態である。
【0209】
状態1を基準としたエネルギーダイアグラムを図15の下方に示している。状態2は剥
離とOH基終端が同時に起こる遷移状態であり、活性化エネルギーは2.28eVである
。この値は、水分子が存在しない場合の剥離エネルギー(3.61eV)よりも低く、水
分子が存在することによって剥離が生じやすくなっていることを示唆する。
【0210】
遷移後の状態3では相対エネルギーが2.06eVであり、状態1よりも不安定な状態
であることがわかる。これは、OH基同士の立体効果による影響であると考えられる。
【0211】
以上の結果から、剥離現象はOH基によるダングリングボンドの終端と同時に進行する
と、エネルギー的に有利であることが分かった。このような水分子の働きにより、剥離過
程における剥離性が向上していると考えられる。
【0212】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて
実施することができる。
【0213】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様の剥離方法を適用可能な剥離装置について、図面を
参照して説明する。
【0214】
[剥離装置の構成例]
フレキシブルデバイスを量産する場合において、大面積の支持基板を用いて薄膜集積回
路を形成し、当該支持基板から自動的に剥離することで、作業時間の短縮、または製品の
製造歩留まりを向上させることができる。また、製品の製造コストを低減できる。
【0215】
薄膜集積回路を含む被剥離層を支持基板から剥離する際、剥離前に予め被剥離層にキャ
リアテープを貼り付け、キャリアテープを引っ張る。そして剥離後にキャリアテープは不
要となるため、キャリアテープを引き剥がす。
【0216】
ここで、キャリアテープに引っ張る力や、引き剥がす力が加わる際、キャリアテープの
速度やキャリアテープの送り出す方向などによって剥離不良や、薄膜集積回路へのクラッ
クの発生が生じる恐れがある。
【0217】
キャリアテープに加えられる力、キャリアテープの速度、キャリアテープ送り出す方向
が調節された剥離装置を用いて、キャリアテープの貼り付け工程またはキャリアテープの
剥離工程を自動化する。これらの工程を自動化することのできる剥離装置の一例を図16
に示す。
【0218】
図16に示す剥離装置は、支持基板を搬送する複数の搬送ローラと、キャリアテープ6
01を繰り出すテープリール602と、キャリアテープ601を巻き取る第1の巻き取り
リール603と、キャリアテープ601を第1の巻き取りリール603まで案内する複数
のガイドローラ(ガイドローラ631、632、633等)と、薄膜集積回路を含む被剥
離層を支持基板から剥離する第1の押圧ローラ606と、を少なくとも有する。
【0219】
また、図16に示す剥離装置は、キャリアテープ601の分離テープ(セパレートフィ
ルムとも呼ぶ)600を剥離してキャリアテープ601の接着面を露出させるため、分離
テープ600を第2の巻き取りリール613で引っ張ることで剥離する。
【0220】
分離テープ600を剥離して露出させたキャリアテープ601の接着面は、第2の押圧
ローラ605及び搬送ローラ644によって支持基板に押しつけられる。
【0221】
薄膜集積回路を含む被剥離層を支持基板から剥離する際、薄膜集積回路へのクラックの
発生を抑えるためには、搬送ローラ644によって板材を搬送する方向(水平方向)と、
第1の押圧ローラ606によって変換されるキャリアテープ601の送り方向との角度、
第1の押圧ローラ606の直径、第1の押圧ローラ606の素材、キャリアテープの速度
などが重要となる。
【0222】
また、図16に示す剥離装置は、キャリアテープ601の送り方向を水平方向に変換す
るローラ607と、キャリアテープ601を折り返す方向に引っ張るテンションローラ6
08と、キャリアテープ601の折り返し位置に配置する第1の楔状部材611と、を有
する。
【0223】
薄膜集積回路を含む被剥離層をキャリアテープ601から剥離する際、薄膜集積回路へ
のクラックの発生を抑えるためには、キャリアテープ601を折り返す方向の角度を鋭角
とし、キャリアテープ601に接触する第1の楔状部材611の先端部の角度、第1の巻
き取りリール603に巻き取るキャリアテープ601の速度などが重要である。
【0224】
また、図16に示す剥離装置は、支持基板から剥離して露出する薄膜集積回路を含む被
剥離層が上面となり、当該薄膜集積回路を含む被剥離層がテーブル637に接触しないよ
うに搬送されてテーブル637上に載置される。
【0225】
また、キャリアテープ601の送り方向を水平方向に変換するローラ607と、テーブ
ル637との間には第1のキャリアプレート610が配置されており、第1の楔状部材6
11は第1のキャリアプレート610に固定されている。また、テーブル637には第2
の楔状部材612が固定されており、キャリアテープ601が第1の楔状部材611と第
2の楔状部材612との隙間を通過して第1の巻き取りリール603に巻き取られる。
【0226】
作業者が手作業で剥離を行うこともできるが、時間がかかると共に、素早く剥離するに
は熟練を要するため、図16に示すような剥離装置を用いて自動化することが重要である
図16に示すような剥離装置を用いて自動化することで、一定の速度で基板を搬送し、
剥離を行うことができ、均一な力をキャリアテープ601に加えることができ、剥離不良
や、薄膜集積回路へのクラックの発生を抑えることができる。
【0227】
すなわち、本発明の一態様は、一方の面に分離テープを有するキャリアテープを繰り出
すテープリールと、キャリアテープを巻き取る第1の巻き取りリールとの間に、分離テー
プを引っ張り剥離してキャリアテープの接着面を露出させる第2の巻き取りリールと、一
方の面上に薄膜集積回路を含む被剥離層を有する支持基板を搬送する搬送手段と、薄膜集
積回路を含む被剥離層と支持基板とを分離する第1の押圧ローラとを少なくとも有する剥
離装置である。
【0228】
また、上記構成において、支持基板を搬送する搬送手段は、搬送ローラやベルトコンベ
アや搬送ロボットなどを用いることができる。
【0229】
また、上記構成において、さらにテープリールと、第1の押圧ローラとの間に、キャリ
アテープの接着面と支持基板とを接着させる第2の押圧ローラとを有する。第2の押圧ロ
ーラによって支持基板を搬送しながら、キャリアテープと支持基板に対して均一な力を加
えることができる。
【0230】
また、上記構成において、さらに第1の押圧ローラと第1の巻き取りリールとの間に、
キャリアテープの送り方向を水平方向に変換するローラを有し、キャリアテープの送り方
向を水平方向に変換するローラと、第1の押圧ローラとの間のキャリアテープの搬送方向
は、水平方向に対して斜めとする。斜め方向にキャリアテープを搬送することにより、キ
ャリアテープに接着している薄膜集積回路を含む被剥離層に対してブローを行い、余分な
水分を除去してウォーターマークの発生を抑えることができる。薄膜集積回路は静電気に
弱いため、予め水分を支持基板と薄膜集積回路を含む被剥離層の界面に供給した状態で支
持基板からの剥離を行うことが好ましい。したがって、支持基板からの剥離が終わった直
後に薄膜集積回路を含む被剥離層に対してブローを行い、キャリアテープの斜め方向に沿
って下方向に気流を流し、水滴を下に落とすことは有効である。
【0231】
また、キャリアテープの送り方向を水平方向に変換するローラと、第1の押圧ローラと
の間のキャリアテープの搬送方向は、水平方向に対して垂直とすることもできるが、垂直
とすると搬送中のキャリアテープが不安定となり、振動してしまうため、斜め方向とする
ことは有効である。
【0232】
また、本発明の一態様は、一方の面に分離テープを有するキャリアテープを繰り出すテ
ープリールと、キャリアテープを巻き取る第1の巻き取りリールとの間に、キャリアテー
プの送り方向を水平方向に変換するローラと、キャリアテープを折り返す方向に引っ張る
ローラと、キャリアテープの折り返し位置に配置する第1の楔状部材とを有する剥離装置
である。
【0233】
また、上記構成において、さらに平面を有するテーブルと、該テーブルに固定された第
2の楔状部材を有し、キャリアテープが第1の楔状部材と第2の楔状部材との隙間を通過
して第1の巻き取りリールに巻き取られる。なお、平面を有するテーブルの上には、キャ
リアテープから剥離された薄膜集積回路を含む被剥離層が載置される。
【0234】
また、上記構成において、折り返す方向は、第1の楔状部材が固定されたキャリアプレ
ートの第1の平面と、第1の楔状部材のテーパ部が成す角度によって決定され、その角度
は鋭角であり、さらに第2の平面を有するテーブルと、該テーブルに固定された第2の楔
状部材を有し、第1の平面は、第2の平面よりも高い位置であり、キャリアテープが第1
の楔状部材と第2の楔状部材との隙間を通過して第1の巻き取りリールに巻き取られる。
なお、第1の平面は、第2の平面よりも高い位置とは、即ち、第1の平面は、断面方向か
ら見た場合、第2の平面と同一平面ではなく、段差を有しており、段差を有しているので
あれば、上面方向から見た場合に、第1の楔状部材と第2の楔状部材は重なっていても、
重なっていなくともよい。第1の楔状部材と第2の楔状部材が重なる場合には、第2の楔
状部材の先端が第1の楔状部材の下方に位置することとなる。
【0235】
また、上記構成において、テープリールと第1の巻き取りリールとの間に、分離テープ
を引っ張り剥離してキャリアテープの接着面を露出させる第2の巻き取りリールと、一方
の面上に薄膜集積回路を含む被剥離層を有する支持基板を搬送する搬送手段と、薄膜集積
回路を含む被剥離層と支持基板とを接着させる第2の押圧ローラとを有する。
【0236】
上述の剥離装置は、キャリアテープを用いて、板材であるガラス基板を自動的に剥離除
去できるようにし、その後、さらにキャリアテープと薄膜集積回路を含む層とを自動的に
分離して作業時間の短縮及び製品の製造歩留まりを向上させることができる。
【0237】
[工程例]
以下では、本発明の一態様の剥離装置を用いて支持基板から被剥離層を分離する工程に
ついて説明する。
【0238】
まず、支持基板として大型のガラス基板401を準備する。大面積であれば、一枚当た
りの製品の個数を多くすることが可能であるため、製造コストを低減することができる。
なお、ガラス基板401のサイズとしては、特に限定されないが、例えば600mm×7
20mmのガラス基板を用いる。また、支持基板はガラス基板に限定されず、半導体ウェ
ハ、鋼板、または樹脂基板なども用いることができる。
【0239】
次いで、ガラス基板上に実施の形態1で例示した方法により絶縁層402を形成する。
絶縁層402は後に形成される剥離層403のエッチング時にガラス基板401がエッチ
ングされることを防ぐ機能があり、窒化珪素膜、酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜、又は酸化
窒化珪素膜から選ばれた一又は複数の膜による積層構造により形成することができる。
【0240】
次いで、剥離層403を形成した後、選択的にエッチングを行い、少なくとも基板周縁
部分の剥離層403を部分的に除去する。次いで、被剥離層404を形成し、その上に薄
膜集積回路を含む層405を形成する。この段階までの断面概略図を図17(A)に示す
。またガラス基板401の平面概略図を図18(A)に示す。図18(A)の一点鎖線G
-Hで切断した断面図が図17(A)に相当する。
【0241】
本実施の形態においては、後にガラス基板401を4枚に分断する例であるため、図1
8(A)に示すように4箇所に剥離層403を形成する。
【0242】
なお、本発明の一態様の剥離装置は、実施の形態1で例示した剥離方法に限られず、他
の剥離法を用いた場合にも用いることができる。
【0243】
次いで、スクライバーやブレイカーなどを用いてガラス基板401を4枚に分断し、そ
の後、ガラス基板401と第1の可撓性基板406との間に薄膜集積回路を含む層405
が位置するように、第1の可撓性基板406を重ねる。なおここでは、第1の可撓性基板
406として、ホットプレス(熱圧着)により接着可能なプリプレグシートを用いる場合
について説明する。なお、第1の可撓性基板406を、実施の形態1で例示した接着層及
び可撓性基板を含む構成に置き換えることができる。
【0244】
第1の可撓性基板406は、薄膜集積回路を含む層405と固定するため、例えば19
5℃、2時間(昇温時間30分を含む)の真空ホットプレスを行う。なお、第1の可撓性
基板406とプレスプレートが接着することを防ぐため、緩衝材で挟んで真空ホットプレ
スを行うことが好ましい。
【0245】
次いで、剥離のきっかけとなる溝407を形成する。ここでは、COレーザ(波長2
66nm)装置を用いて溝407を形成する。レーザ光により、剥離層403を露出する
溝407が形成される。波長266nmのレーザ光を照射した場合、金属膜は除去されず
、且つ金属膜上の絶縁膜などを選択的に除去することができる。この段階までの上面概略
図を図18(B)に示し、図18(B)中の一点鎖線I-Jで切断した断面概略図を図1
7(B)に示す。
【0246】
図18(B)に示すように、剥離層403の周縁を一周つなげてレーザ光を照射して溝
を形成するのではなく、剥離層403の周縁の四隅に溝407を形成しない箇所を設けて
おくことが重要である。ここで隣接する2つの溝の間隔を例えば1cm以上2cm以下程
度離間しておくことが好ましい。剥離層403の周縁を一周つなげて溝を形成すると、そ
の直後で剥離が開始され、一周つなげた溝の内側の領域が全て剥がれてしまう恐れがある
。また、剥離層403の周縁を一周つなげて溝を形成した際に、一部剥離してしまった部
分があると、後のサポートフィルムの貼り付けが困難となってしまう恐れがある。
【0247】
次いで、第1の可撓性基板406にサポートフィルム411を貼り付ける。サポートフ
ィルム411の一方の面には保護シートが貼り合わされており、保護シートを剥がすこと
により、サポートフィルム411の粘着面が露出する。本実施の形態では、図18(C)
に示すようにサポートフィルム411の周縁に保護シート412を残し、中央部に粘着面
を露出させたサポートフィルム411を用いる。平面図である図18(C)の鎖線K-L
で切断した断面が図17(C)に相当する。なお、保護シート412が溝407と重なる
ように貼り合わせることが好ましい。図17(D)に示すように、一対のローラ413、
414の間に通過させることで均一に第1の可撓性基板406にサポートフィルム411
を貼りつけることができる。
【0248】
なお、サポートフィルム411は、感圧接着性の片面接着テープであれば特に限定され
ず、材料としては、ポリエチレン等のフィルム(例えばPETフィルム)やポリプロピレ
ンフィルムなどを用いることができる。サポートフィルム411は、静電気破壊防止のた
めだけでなく、薄膜集積回路を含む層405の支持体としても機能する。
【0249】
次いで、図17(E)に示すように、スポイトや注射器のような形態の注入器415を
用いて水滴416を溝407に供給する。なお、供給する水滴416の量は微量であって
も、後に行われる剥離工程時で生じる静電気発生を抑えることができる。保護シート41
2を介してサポートフィルム411と重なる部分(溝407と重なる部分及びその外側領
域)は、第1の可撓性基板406と接着しておらず、保護シート412と第1の可撓性基
板406との隙間に注入器415で水滴416を注入する。なお、水滴416は純水を用
いることで剥離性をより向上させることができ好ましいが、静電破壊防止を主な目的とす
る場合には、そのほか酸性溶液、アルカリ性溶液などの他の溶液を用いることもできる。
【0250】
また、必要であれば、水滴416を溝407に供給する前に、溝に沿って刃物などの鋭
利な部材で力を加え、よりスムーズに剥離を行えるように前処理を施してもよい。
【0251】
次いで、図16に示す剥離装置にサポートフィルム411を貼り付けたガラス基板40
1を基板ロードカセット641にセットする。次いで、図16では図示していない基板搬
送手段を用いて、ガラス基板401を第1の搬送ローラ643に載せる。第1の搬送ロー
ラ643に載せられたガラス基板401は、第2の搬送ローラ644上、第3の搬送ロー
ラ645上を経て基板アンロードカセット642に搬送される。
【0252】
第1の搬送ローラ643、第2の搬送ローラ644、または第3の搬送ローラ645は
、複数に並べられた搬送ローラの1つであり、所定の間隔で設けられ、ガラス基板401
の送出方向である実線矢印で示す右回転する方向に回転駆動される。複数に並べられた搬
送ローラは、それぞれ図示しない駆動部(モータ等)により回転駆動される。なお、搬送
ローラに限定されず、ベルトコンベアであってもよい。
【0253】
第2の搬送ローラ644でガラス基板401を搬送中、図19(A)に示すようにサポ
ートフィルム411にキャリアテープ601を貼る。キャリアテープ601は、テープリ
ール602から繰り出され、複数のガイドローラ631、632、633などにより第1
の巻き取りリール603まで案内される。
【0254】
テープリール602から繰り出されたキャリアテープ601は、分離テープ600(セ
パレートフィルムともよぶ)を剥離して、キャリアテープ601の接着面を露出させた後
、サポートフィルム411に貼る。分離テープ600はガイドローラ634を介して第2
の巻き取りリール613で引っ張ることで剥離する。また、接着面が露出したキャリアテ
ープ601は折り返され、図示しない駆動部(モータ等)により回転駆動される第1の押
圧ローラ606に引っ張られ、方向転換ローラ604によりガラス基板401の搬送方向
とほぼ同一方向に走行させる。
【0255】
図19(A)に示すように、分離テープ600を剥離して露出させたキャリアテープ6
01の接着面は、第2の押圧ローラ605及び第2の搬送ローラ644によってサポート
フィルム411に押し付けられる。
【0256】
サポートフィルム411が貼り付けられたガラス基板401は、複数の搬送ローラによ
って第1の押圧ローラ606と、水を有する溝407とが重なる位置に搬送される。そし
て、第1の押圧ローラ606がガラス基板401を押し付けながら回転することによって
、ガラス基板401と剥離層403との間の接着力と、キャリアテープ601とサポート
フィルム411との接着力の差によりガラス基板401から薄膜集積回路を含む層405
が引き剥がされる。
【0257】
なお、サポートフィルム411と薄膜集積回路を含む層405との接着力は、キャリア
テープ601とサポートフィルム411との接着力よりも強い。但し、剥離工程は、キャ
リアテープ601の粘着力に依存しない。
【0258】
第1の押圧ローラ606の直径は、第2の押圧ローラ605の直径よりも大きく、例え
ば直径30cmのものを用いればよい。第1の押圧ローラ606として直径15cmより
も小さいものを用いた場合、薄膜集積回路を含む層405にクラックが形成される恐れが
ある。また、第1の押圧ローラ606は、ガラス基板401が割れない程度に押圧してい
る。本実施の形態では、支持基板であるガラス基板401の厚さが0.7mm、キャリア
テープ601の厚さが0.1mmであり、第2の押圧ローラ605と第2の搬送ローラ6
44との間隔を0.75mm未満とするとガラス基板401が割れてしまう恐れがある。
【0259】
また、ガラス基板401が割れてしまうことを防ぐため、第1の押圧ローラ606及び
第2の押圧ローラ605はゴム製の部材を用いる。ゴムを用いることで、金属を用いた場
合に比べて均一に圧を加えることができる。
【0260】
また、第1の押圧ローラ606によってキャリアテープ601を折り返す角度αは、4
5度乃至60度とする。本実施の形態では、キャリアテープ601を折り返す角度αは約
49度とする。角度αは、図19(B)に示すように、第1の押圧ローラ606と接して
いる側のキャリアテープ601の一方の面(水平面:点線で示す仮想線)と、折り返され
たキャリアテープ601の面(点線で示す仮想線)とが成す角度を示している。なお、図
19(B)には、2つの仮想線の第1の交点651を示している。
【0261】
また、剥離工程の際には、溝に溜めておいた液体(好ましくは純水)が、キャリアテー
プ601の移動と同時に毛細管現象で被剥離層404と剥離層403との界面に浸透して
剥離される領域が広がる。溝に溜めておいた液体は、剥離開始部分で生じる静電気の発生
を抑える役目も有する。
【0262】
剥離が終了し、ガラス基板401と分離した後には、薄膜集積回路を含む層405に液
体が付着したままであるため、薄膜集積回路を含む層405を水平面に対して斜め、好ま
しくは約60度に保持した状態で一方向にブローを行い、液体を下方向に移動させる。図
16においては、ブローを行う乾燥手段614とキャリアプレート609の間にキャリア
テープ601が斜め方向に走行する例を示している。キャリアプレート609はキャリア
テープ601の撓みを防止するために設けられている。液体が付着したまま揮発するとウ
ォーターマークが形成されることがあるため、剥離直後に除去することが好ましい。
【0263】
また、ブローを行った後は、キャリアテープ601の送り方向を水平方向に変換するロ
ーラ607によって斜めに走行していたキャリアテープ601を水平方向に走行させる。
ローラ607はゴム製の部材を有する第1の押圧ローラ606とは異なり、金属製のロー
ラであってもよい。ローラ607の直径は、第1の押圧ローラ606よりも小さくてよく
、例えば約20cmとすればよい。ローラ607と接する側のキャリアテープ601の面
(水平面:点線で示す仮想線)と、折り返されたキャリアテープ601の面(点線で示す
仮想線)との成す角βは180度からαを引いた値となり、本実施の形態では約131度
である。図19(B)では、ローラ607と接する側のキャリアテープ601の面(水平
面)と、折り返されたキャリアテープ601の面を示す仮想線の第2の交点652は、キ
ャリアテープ601内に位置している。
【0264】
例えば、図19(B)において、剥離前に水平方向に走行しているキャリアテープ60
1と、剥離後に方向転換され再び水平方向に走行しているキャリアテープとの間の距離6
50は、約77cmとすればよい。また、第1の交点651との第2の交点652との間
の距離は約102.07cm、またこれらの間の水平距離は、約67cmとすればよい。
【0265】
また、剥離工程の際には、直径30cmの第2の押圧ローラ605に接するキャリアテ
ープ601を比較的遅い速度で走行させることで、剥離残りやクラックの発生を抑制する
ことができる。また、剥離残りやクラックの発生は角度αにも依存するため、角度αを上
述の範囲とすることが好ましい。
【0266】
そして、剥離工程の後、再び水平方向に走行させたキャリアテープ601は、キャリア
プレート610に固定された第1の楔状部材611の先端部に接触させ、その先端部に沿
ってキャリアテープ601が折り返して引っ張られることにより、薄膜集積回路を含む層
405とキャリアテープ601とを分離する。
【0267】
図20(A)に、第1の楔状部材611の先端部の周辺の拡大図を示す。
【0268】
第1の楔状部材611の先端の角度γは、図20(A)に示すキャリアプレート610
の平面と水平な面(点線で示す仮想線)に対して90度未満の鋭角とすることが好ましく
、本実施の形態では69度とする。第1の楔状部材611の先端部を鋭角もしくは薄肉と
することで、キャリアテープ601を確実に引き剥がすことができる。なお、キャリアテ
ープ601は、第1の楔状部材611の先端によって切断されることはない。第1の楔状
部材611の先端の角度γは、90度以上の鈍角とすると、キャリアテープ601が剥が
れにくくなる。
【0269】
キャリアテープ601の張力は、テンションローラ608によって制御される。テンシ
ョンローラ608は上下に軸を移動することができ、その位置によってキャリアテープ6
01の張力を制御することができる。第1の楔状部材611の先端部に沿って折り返して
剥離された後のキャリアテープ601は、ガイドローラ635、636によって第1の巻
き取りリール603まで案内される。
【0270】
また、キャリアテープ601から剥離された薄膜集積回路を含む層405が載置される
平面を有するテーブル637にも第2の楔状部材612を設ける。また、テーブル637
の平面に平行な面と、キャリアプレート610の平面に平行な面は一致させない、すなわ
ち同一平面としないことが重要である。これらを同一平面とすると、薄膜集積回路を含む
層405を巻き込んでしまい、剥離が行われない恐れがある。本実施の形態では、図20
(A)に示すように、キャリアプレート610の平面に平行な面に対しテーブル637の
平面に平行な面が低くなるように、これらの間に段差を設け、段差の距離653を約2m
mとする。ただし、段差の距離653はこれに限定されず、用いるキャリアテープ601
の厚さや材質、第2の楔状部材612と第1の楔状部材611との間隔654などとも関
係するため、これらを考慮して適宜設定する。
【0271】
また、本実施の形態では第2の楔状部材612と第1の楔状部材611との間隔654
を2mmとするが、これも特に限定されず、段差を設けるのであれば、上面から見た場合
に一部重畳する配置としてもよい。
【0272】
図20(A)に示す構成とすることで、薄膜集積回路を含む層405に対して必要以上
の負荷を与えることなく、安定してキャリアテープ601を剥離することができる。
【0273】
キャリアテープ601から分離された薄膜集積回路を含む層405は、テーブル637
に接する側がサポートフィルム411となるように載置される。図20(B)はキャリア
テープ601の剥離工程が終了してテーブル637に載置された様子を示している。図2
0(B)に示すように、サポートフィルム411上に第1の可撓性基板406と、薄膜集
積回路を含む層405と、被剥離層404が積層され、被剥離層404の裏面が露出した
状態でテーブル637に載置される。また、サポートフィルム411の周縁に保護シート
412が設けられており、露出している保護シート412上は、第1の可撓性基板406
、薄膜集積回路を含む層405、及び被剥離層404と重ならない。
【0274】
また、図16に示すように、静電気が発生する恐れのある位置には、イオナイザ638
、639、620、621、622を設け、イオナイザからエアまたは窒素ガス等を、薄
膜集積回路を含む層405に吹き付けて除電処理を行い、静電気による薄膜集積回路への
影響を低減することが好ましい。
【0275】
図16において、電動モータなどにより回転駆動する駆動ローラは、第1の搬送ローラ
643、第2の搬送ローラ644及び第3の搬送ローラ645などの搬送ローラ、第1の
押圧ローラ606、第2の押圧ローラ605であり、これらの駆動ローラと、テープリー
ル602及び、第1の巻き取りリール603によってキャリアテープ601の走行速度や
張力を調整している。また、従動ローラは、複数のガイドローラ631、632、633
、634、635、636、方向転換ローラ604、第2の押圧ローラ605、及びテン
ションローラ608である。
【0276】
また、本実施の形態では、キャリアテープ601の搬送方向の上流側から下流側に配置
するローラの数は、特に図16に示す個数に限定されず、さらに増やすこともできる。
【0277】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて
実施することができる。
【0278】
(実施の形態5)
本実施の形態では、本発明の一態様の剥離方法を用いて作製可能なフレキシブルデバイ
スを具備した電子機器について説明する。
【0279】
ここでは特に、フレキシブルな形状を備える発光装置を適用した電子機器や照明装置の
例を示す。このような電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、またはテレ
ビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビ
デオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)
、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが
挙げられる。また、照明や表示装置を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車の内装ま
たは外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0280】
図21(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体740
1に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、
スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、発
光装置を表示部7402に用いることにより作製される。
【0281】
図21(A)に示す携帯電話機7400は、表示部7402を指などで触れることで、
情報を入力することができる。また、電話を掛ける、或いは文字を入力するなどのあらゆ
る操作は、表示部7402を指などで触れることにより行うことができる。
【0282】
また操作ボタン7403の操作により、電源のON、OFFや、表示部7402に表示
される画像の種類を切り替えることができる。例えば、メール作成画面から、メインメニ
ュー画面に切り替えることができる。
【0283】
ここで、表示部7402には、本発明の一態様の発光装置が組み込まれている。したが
って、湾曲した表示部を備え、且つ信頼性の高い携帯電話機とすることができる。
【0284】
図21(B)は、リストバンド型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置710
0は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び送受信装置7104を
備える。
【0285】
携帯表示装置7100は、送受信装置7104によって映像信号を受信可能で、受信し
た映像を表示部7102に表示することができる。また、音声信号を他の受信機器に送信
することもできる。
【0286】
また、操作ボタン7103によって、電源のON、OFF動作や表示する映像の切り替
え、または音声のボリュームの調整などを行うことができる。
【0287】
ここで、表示部7102には、本発明の一態様の発光装置が組み込まれている。したが
って、湾曲した表示部を備え、且つ信頼性の高い携帯表示装置とすることができる。
【0288】
図21(C)~(E)は、照明装置の一例を示している。照明装置7200、7210
、7220はそれぞれ、操作スイッチ7203を備える台部7201と、台部7201に
支持される発光部を有する。
【0289】
図21(C)に示す照明装置7200は、波状の発光面を有する発光部7202を備え
る。したがってデザイン性の高い照明装置となっている。
【0290】
図21(D)に示す照明装置7210の備える発光部7212は、凸状に湾曲した2つ
の発光部が対称的に配置された構成となっている。したがって照明装置7210を中心に
全方位を照らすことができる。
【0291】
図21(E)に示す照明装置7220は、凹状に湾曲した発光部7222を備える。し
たがって、発光部7222からの発光を、照明装置7220の前面に集光するため、特定
の範囲を明るく照らす場合に適している。
【0292】
また、照明装置7200、照明装置7210及び照明装置7220の備える各々の発光
部はフレキシブル性を有しているため、発光部を可塑性の部材や可動なフレームなどの部
材で固定し、用途に合わせて発光部の発光面を自在に湾曲可能な構成としてもよい。
【0293】
なおここでは、台部によって発光部が支持された照明装置について例示したが、発光部
を備える筐体を天井に固定する、または天井からつり下げるように用いることもできる。
発光面を湾曲させて用いることができるため、発光面を凹状に湾曲させて特定の領域を明
るく照らす、または発光面を凸状に湾曲させて部屋全体を明るく照らすこともできる。
【0294】
ここで、各発光部には、本発明の一態様の発光装置が組み込まれている。したがって、
湾曲した発光面を備え、且つ信頼性の高い照明装置とすることができる。
【0295】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施するこ
とができる。
【実施例1】
【0296】
本実施例では、被剥離層を形成した後の加熱処理の有無の影響について調べた結果につ
いて説明する。
【0297】
[サンプルの作製]
サンプルの作製は、まずガラス基板上に下地膜として厚さ約200nmの酸化窒化シリ
コン膜をプラズマCVD法により形成した。続いて剥離層として、厚さ約30nmのタン
グステン膜をスパッタリング法により形成した。続いて、第1の層として厚さ約600n
mの酸化窒化シリコン膜を、第2の層として厚さ約200nmの窒化シリコン膜を、それ
ぞれプラズマCVD法により順に形成した。
【0298】
第1の層である酸化窒化シリコン膜は、シランガスとNOガスの流量をそれぞれ75
sccm、1200sccmとし、電源周波数13.56MHz、電力120W、圧力7
0Pa、基板温度330℃として成膜した。また、酸化窒化シリコン膜の成膜の直前に、
Oガス雰囲気下で500W、240秒のNOプラズマ処理を行った。
【0299】
第2の層である窒化シリコン膜は、シランガス、N2ガス及びNH3ガスの流量をそれ
ぞれ75sccm、5000sccm、100sccmとし、電源周波数13.56MH
z、電力1kW、圧力70Pa、基板温度330℃として成膜した。
【0300】
その後、450℃、1時間の加熱処理を行った。
【0301】
このようにしてサンプル1を作製した。また、最後の加熱処理を行わないものも作製し
、これをサンプル2とした。
【0302】
[剥離性の評価]
加熱処理を行ったサンプル1と、加熱処理を行わないサンプル2のそれぞれについて、
剥離に要する力を測定した。測定方法は、上記実施の形態3で例示した方法と同様の方法
を用いた。
【0303】
ここで、剥離に要する力が0.14N以上の場合、剥離試験後に支持基板側に被剥離層
が残存してしまう。一方、剥離に要する力が0.14N未満の場合では、被剥離層が支持
基板側に残存することなく、良好に剥離を行うことができる。そのため、以降の剥離試験
では、剥離に要する力が0.14N未満である場合に剥離可能な条件であるとする。
【0304】
図22に、それぞれのサンプルにつき6ポイント(a~f)で剥離に要する力を測定し
た結果について示す。
【0305】
熱処理を行ったサンプル1では、全てのポイントで0.1N以下と、極めて良好な剥離
性を示した。一方、熱処理を行わないサンプルでは、6ポイント中3ポイントで剥離する
ことができない結果となった。また、剥離を行うことのできた3ポイントはいずれも剥離
に要する力が0.25N以上であり、剥離可能な条件である0.14N未満を大きく逸脱
した結果となった。
【0306】
以上の結果から、加熱処理を行うことにより剥離性を高めることができることが確認で
きた。
【0307】
[断面観察結果]
続いて、加熱処理を行ったサンプル1と、加熱処理を行わないサンプル2のそれぞれに
ついて、断面観察を行った結果について示す。断面観察はSTEM(Scanning
Transmission Electron Microscopy)法を用いて行っ
た。
【0308】
図23(A)は、サンプル1における断面観察像である。タングステン膜(剥離層)と
酸化窒化シリコン膜(第1の層)の間に、厚さ約10nmの酸化タングステン層が形成さ
れていることが確認できる。
【0309】
図23(B)は、サンプル2における断面観察像である。こちらもサンプル1と同様に
、タングステン膜と酸化窒化シリコン膜の間に、厚さ約10nmの酸化タングステン層が
形成されていることが確認できる。
【0310】
また、サンプル1では、酸化タングステン層とタングステン膜との間に、コントラスト
の異なる領域(図中破線で囲った領域)が形成されていることが分かる。
【0311】
図24は、サンプル1についてさらに拡大したときの断面観察像である。図中破線で囲
った酸化タングステン層とタングステン膜との間のコントラストの異なる領域では、重原
子(タングステン)の密度が小さい領域が形成されているように見える。
【0312】
以上の結果から、タングステン膜に対しNOプラズマ処理を施すことにより、タング
ステン膜の表面に酸化タングステン層が形成されることが分かった。また、さらに加熱処
理を行うことにより、タングステン膜と酸化タングステン層との間に、低密度な領域が形
成されていることが確認できた。
【0313】
上記剥離性の結果を鑑みると、加熱処理によりタングステン膜と酸化タングステン層と
の間に低密度領域を形成することで、剥離性が向上するということが確認できる。
【0314】
[SIMS分析結果]
続いて、サンプル1及びサンプル2について、二次イオン質量分析法(SIMS)を用
いて、水素及び窒素の深さ方向の濃度プロファイルを測定した結果について説明する。
【0315】
図25(A)、図25(B)はそれぞれ水素濃度、窒素濃度についての深さ方向のプロ
ファイルを示している。なお分析は窒化シリコン(第2の層)側から行った。また、それ
ぞれの図において、サンプル1は実線で、サンプル2は破線でそれぞれ示している。
【0316】
水素濃度に着目すると、加熱処理を行わないサンプル2と比較して、サンプル1では酸
化タングステン層における水素濃度が高くなっていることが分かる。また、第1の層であ
る酸化窒化シリコン膜中に着目すると、タングステン膜との界面から約400nmの領域
に渡って水素濃度が低下していることが確認できる。また窒化シリコン膜における水素濃
度も低下していることがわかる。
【0317】
また、窒素濃度も同様に、加熱処理を行わないサンプル2と比較して、サンプル1では
酸化タングステン層における窒素濃度が高くなっていることが分かる。また第1の層であ
る酸化窒化シリコン膜中の、タングステン膜との界面から約400nmの領域に渡って、
窒素濃度が低下していることが分かる。一方、窒化シリコン膜中の窒素濃度はほとんど変
化していないことが確認できる。
【0318】
以上の結果から、加熱処理によりタングステン膜と酸化窒化シリコン膜との界面に、水
素濃度及び窒素濃度の極めて高い領域が形成されることがわかる。また、水素は窒化シリ
コン膜及び酸化窒化シリコン膜から供給されていることが示唆される。一方窒素は酸化窒
化シリコン膜から供給されていることが示唆される。また、窒化シリコン膜中の窒素濃度
がほとんど変化していないことから、酸化窒化シリコン膜から放出された窒素は窒化シリ
コン膜により効果的にブロックされていることが推察される。
【0319】
上記剥離性の結果を鑑みると、この結果から加熱処理による酸化タングステン層の水素
濃度及び窒素濃度の増大が、剥離性の向上に寄与していることが確認できる。
【0320】
[XPS分析結果]
続いて、サンプル1及びサンプル2のそれぞれを剥離した後に、剥離表面についてX線
光電子分光法(XPS)を用いて組成分析を行った結果について説明する。
【0321】
まず、図26(A)を用いて、サンプルの概要を説明する。サンプル1について、タン
グステン膜と酸化窒化シリコン膜との間で剥離したサンプルのうち、タングステン膜側の
サンプルをサンプル1A、酸化窒化シリコン膜側のサンプルをサンプル1Bと表記する。
同様に、サンプル2についてもタングステン膜側のサンプルをサンプル2A、酸化窒化シ
リコン膜側のサンプルをサンプル2Bと表記する。
【0322】
ここで、サンプル1A及びサンプル2Aのそれぞれでは、タングステン膜上に残存した
酸化タングステンは極めて薄く、数nmであった。これは剥離がタングステン膜と酸化タ
ングステン層との界面で生じやすいことを示唆する。
【0323】
図26(B)は、XPS分析によって得られたタングステンに対する酸素及び窒素の原
子数比を示している。
【0324】
加熱処理を行ったサンプル1A及び1Bは、加熱処理を行わないサンプル2A及び2B
よりも酸素の濃度が低く、且つ窒素の濃度が高いことが確認できる。特に、加熱処理を行
わないサンプル2A及びサンプル2Bでは、窒素濃度が極めて低いことが確認できる。
【0325】
続いて、高分解能のXPS測定の結果について説明する。なお、サンプル1A及びサン
プル2Aは、残存する酸化タングステン層の厚さが極めて薄く分析が困難であったため、
ここではサンプル1B及びサンプル2Bについて示す。
【0326】
図27(A)にW4fにおける高分解能測定結果について示す。加熱を行っていないサ
ンプル2Bでは、WOに由来するピークが顕著であり、その他のピークはあまり見られ
ていない。一方、加熱処理を行ったサンプル1Bでは、WOに由来するピークに加え、
WO(2<x<3)、WOに由来するピークが確認された。このことは、加熱処理に
より酸化窒化シリコン膜及び窒化シリコン膜から供給された水素によってWOが還元さ
れ、酸化数の小さな酸化物となっていることを示唆する。
【0327】
さらに、図27(A)では、窒化タングステン、窒素を含む酸化タングステンといった
窒素を含む化合物に由来するピークが確認されている。
【0328】
図27(B)は、N1sにおける高分解能測定結果である。加熱処理を行っていないサ
ンプル2Bではノイズが大きく顕著なピークは得られていない。一方加熱処理を行ったサ
ンプル1Bでは、W-N結合に由来するピークが顕著にみられている。
【0329】
このことから、加熱処理により酸化窒化シリコン膜から供給された窒素とタングステン
とが反応し、酸化物層中にW-N結合を有する領域が形成されることが確認できる。上記
剥離性の結果や実施の形態3を鑑みると、酸化物層中に形成されたW-N結合を有する領
域の存在が剥離性を向上させていることを強く示唆する。
【0330】
以上が本実施例についての説明である。
【実施例2】
【0331】
本実施例では、被剥離層及び被剥離層を構成しうる層に対しTDS分析を行った結果に
ついて説明する。
【0332】
[サンプルの作製]
本実施例では、以下の方法により4つのサンプルを作製した。
【0333】
第1の層に用いることのできる酸化窒化シリコン膜をシリコンウェハ上に成膜したサン
プルをサンプル3とした。酸化窒化シリコン膜は、シランガスとNOガスの流量をそれ
ぞれ75sccm、1200sccmとし、電源周波数13.56MHz、電力120W
、圧力70Pa、基板温度330℃として、厚さ約600nm成膜した。
【0334】
第2の層に用いることのできる窒化シリコン膜をシリコンウェハ上に成膜したサンプル
をサンプル4とした。窒化シリコン膜は、シランガス、Nガス及びNHガスの流量を
それぞれ75sccm、5000sccm、100sccmとし、電源周波数13.56
MHz、電力1kW、圧力70Pa、基板温度330℃として、厚さ約200nm成膜し
た。
【0335】
サンプル5は、シリコンウェハ上に酸化窒化シリコン膜を成膜し、続いて窒化シリコン
膜を成膜することにより作製した。酸化窒化シリコン膜及び窒化シリコン膜は、サンプル
3及びサンプル4と同様の条件、厚さとした。
【0336】
サンプル6は、シリコンウェハ上に窒化シリコン膜を成膜し、続いて酸化窒化シリコン
膜を成膜することにより作製した。酸化窒化シリコン膜及び窒化シリコン膜は、サンプル
3及びサンプル4と同様の条件、厚さとした。
【0337】
[TDS分析結果]
続いて、上記サンプル3~6の4サンプルについて、TDS分析を行った。
【0338】
図28(A)にサンプル3及びサンプル4における、質量電荷比(m/z)2で検出さ
れるTDS測定結果を示す。ここで、質量電荷比2で検出されるスペクトルの全てが水素
分子に由来するものと仮定する。
【0339】
図28(A)より、酸化窒化シリコン膜(サンプル3)及び窒化シリコン膜(サンプル
4)からは、温度400℃以上で水素が放出されることが確認できた。ここで図28(A
)に示すスペクトルから算出される単位体積当たりの水素分子の放出量は、サンプル3で
は50℃から450℃までの温度範囲で約2.53×1020分子/cm、50℃から
550℃までの温度範囲で5.95×1020分子/cmであり、サンプル4では50
℃から450℃までの温度範囲で約1.30×1021分子/cm、50℃から550
℃までの温度範囲で3.52×1021分子/cmであった。
【0340】
図28(B)にサンプル5及びサンプル6における、質量電荷比(m/z)2で検出さ
れるTDS測定結果を示す。
【0341】
図28(B)から、酸化窒化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層順によらず、いずれの
サンプルでも400℃付近から多量の水素分子が放出されることが確認できた。ここで、
図28(B)に示すスペクトルから算出される単位体積当たりの水素分子の放出量は、サ
ンプル5では50℃から450℃までの温度範囲で約9.50×1019分子/cm
50℃から550℃までの温度範囲で4.61×1020分子/cmであり、サンプル
6では50℃から450℃までの温度範囲で約3.46×1020分子/cm、50℃
から550℃までの温度範囲で1.02×1021分子/cmであった。
【0342】
以上の結果から、被剥離層に適用しうる酸化窒化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層膜
は、400℃以上の温度で多量の水素分子を放出しうることが確認できた。
【0343】
続いて、図29(A)にサンプル3及びサンプル4における、質量電荷比(m/z)2
8で検出されるTDS測定結果を示す。ここで、質量電荷比28で検出されるスペクトル
の全てが窒素分子に由来するものと仮定する。
【0344】
図29(A)より、600℃未満の領域で、酸化窒化シリコン膜(サンプル3)からの
窒素分子の放出は、200℃付近と450℃付近に2つのピークを有することが確認され
た。また、窒化シリコン膜(サンプル4)からは450℃付近に1つのピークを有するこ
とが確認できた。またいずれのサンプルにおいても、さらに高温の600℃以上の領域で
多量に窒素分子が放出されている。
【0345】
ここで、図29(A)に示すスペクトルから算出される単位体積当たりの窒素分子の放
出量は、サンプル3では50℃から450℃までの温度範囲で約2.23×1018分子
/cm、50℃から550℃までの温度範囲で2.64×1018分子/cmであり
、サンプル4では50℃から450℃までの温度範囲で約6.86×1018分子/cm
、50℃から550℃までの温度範囲で1.17×1019分子/cmであった。
【0346】
図29(B)に、サンプル5及びサンプル6における、質量電荷比(m/z)28で検
出されるTDS測定結果を示す。
【0347】
サンプル6からの窒素分子の放出は、サンプル3と同様に200℃付近と450℃付近
に2つのピークを有することが確認された。一方、サンプル5からの窒素分子の放出量は
、サンプル4と同様に450℃付近に1つのピークを有することが確認できた。この結果
から、酸化窒化シリコン膜上に窒化シリコン膜を形成した積層体とすることで、酸化窒化
シリコン膜からの窒素分子の放出が窒化シリコン膜によりブロック可能であることが分か
った。
【0348】
なお、図29(B)に示すスペクトルから算出される単位体積当たりの窒素分子の放出
量は、サンプル5では50℃から450℃までの温度範囲で約1.78×1018分子/
cm、50℃から550℃までの温度範囲で1.91×1018分子/cmであり、
サンプル6では50℃から450℃までの温度範囲で約1.61×1018分子/cm
、50℃から550℃までの温度範囲で2.33×1019分子/cmであった。
【0349】
以上の結果より、剥離層上に被剥離層として酸化窒化シリコン膜と窒化シリコン膜を順
に積層した積層体を用い、加熱処理を行うことで、剥離層側に多量の水素と窒素を供給で
きることが確認できた。さらに、上層に設けられる窒化シリコン膜により、酸化窒化シリ
コン膜から放出される窒素分子が外部に放出されることを抑制し、効果的に剥離層側に多
量の窒素を供給できることが確認できた。
【0350】
以上が本実施例についての説明である。
【実施例3】
【0351】
本実施例では、第1の層に適用可能な酸化窒化シリコン膜の成膜条件と剥離性との関連
性について調べた結果について説明する。
【0352】
[サンプルの作製]
ここでは、酸化窒化シリコン膜の成膜において、シランガスの流量を異ならせた条件で
サンプルを作製し、その剥離性を評価した。
【0353】
サンプルの作製は、酸化窒化シリコン膜の成膜条件におけるシランガスの流量以外は、
上記実施例1でのサンプル1と同様の方法を用いた。ここで、シランガスの流量を50s
ccmとして作製したサンプルをサンプル7、75sccmとして作製したサンプルをサ
ンプル8、100sccmとして作製したサンプルをサンプル9とした。
【0354】
[剥離性の評価]
続いて、実施例1と同様の方法を用いて、サンプル7~9のそれぞれについて剥離に要
する力の評価を行った。
【0355】
図30に、それぞれのサンプルについて6ポイントで剥離に要する力を測定した結果を
示す。
【0356】
サンプル7では、全てのポイントで剥離することができなかった。またサンプル8では
、6ポイントの平均値が0.083Nと、良好な剥離性を示した。さらに、サンプル9で
は、サンプル8よりも剥離に要する力が低く、6ポイントの平均値が0.072Nであっ
た。
【0357】
以上の結果から、第1の層に適用可能な酸化窒化シリコンの成膜条件が、剥離性に大き
く影響することが分かった。上記実施例での結果を鑑みると、成膜中のシランガスの流量
を小さくすることで、膜中の水素濃度が低減し、加熱処理時における酸化窒化シリコン膜
から放出される水素の量が減るために、剥離性が低下すると推察される。
【0358】
以上が本実施例についての説明である。
【符号の説明】
【0359】
101 支持基板
102 剥離層
103 層
104 層
110 被剥離層
111 酸化物層
112 領域
121 基板
122 接着層
131 基板
132 接着層
150 層
151 テープ
153 サポートローラ
154 ガイドローラ
200 表示装置
201 表示部
202 走査線駆動回路
203 信号線駆動回路
204 外部接続端子
205 FPC
206 接続体
211 トランジスタ
212 トランジスタ
213 トランジスタ
214 トランジスタ
216 絶縁層
217 絶縁層
218 絶縁層
219 絶縁層
221 カラーフィルタ
222 ブラックマトリクス
233 電極
235 EL層
237 電極
240 発光素子
241 酸化物層
242 接着層
243 層
244 層
245 被剥離層
250 表示装置
252 封止層
253 基板
254 基板
401 ガラス基板
402 絶縁層
403 剥離層
404 被剥離層
405 層
406 可撓性基板
407 溝
411 サポートフィルム
412 保護シート
413 ローラ
414 ローラ
415 注入器
416 水滴
500 発光装置
503 電極
507 電極
509 絶縁層
600 分離テープ
601 キャリアテープ
602 テープリール
603 リール
604 方向転換ローラ
605 押圧ローラ
606 押圧ローラ
607 ローラ
608 テンションローラ
609 キャリアプレート
610 キャリアプレート
611 楔状部材
612 楔状部材
613 リール
614 乾燥手段
620 イオナイザ
621 イオナイザ
622 イオナイザ
631 ガイドローラ
632 ガイドローラ
633 ガイドローラ
634 ガイドローラ
635 ガイドローラ
636 ガイドローラ
637 テーブル
638 イオナイザ
639 イオナイザ
641 基板ロードカセット
642 基板アンロードカセット
643 搬送ローラ
644 搬送ローラ
645 搬送ローラ
650 距離
651 交点
652 交点
653 距離
654 間隔
7100 携帯表示装置
7101 筐体
7102 表示部
7103 操作ボタン
7104 送受信装置
7200 照明装置
7201 台部
7202 発光部
7203 操作スイッチ
7210 照明装置
7212 発光部
7220 照明装置
7222 発光部
7400 携帯電話機
7401 筐体
7402 表示部
7403 操作ボタン
7404 外部接続ポート
7405 スピーカ
7406 マイク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
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図26
図27
図28
図29
図30