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特許7150121造形プログラムの作成方法、積層造形方法および積層造形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】造形プログラムの作成方法、積層造形方法および積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20220930BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20220930BHJP
   B22F 10/40 20210101ALI20220930BHJP
   B22F 10/80 20210101ALI20220930BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20220930BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20220930BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20220930BHJP
【FI】
B29C64/386
B22F10/28
B22F10/40
B22F10/80
B28B1/30
B29C64/40
B33Y50/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021173787
(22)【出願日】2021-10-25
【審査請求日】2022-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】宮下 泰行
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特表平6-502735(JP,A)
【文献】特開平9-76352(JP,A)
【文献】特開平9-122821(JP,A)
【文献】特開2021-94698(JP,A)
【文献】国際公開第2019/091621(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/195062(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3127635(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B28B 1/30
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の三次元造形物に係る三次元モデルを読み込む読込工程と、
前記三次元モデルを所定の大きさを有する通常積層ピッチで積層方向に複数の分割層に分割する分割工程と、
前記複数の分割層のそれぞれについて、直下の分割層に対して水平方向に突出した部位であるオーバーハング部の傾斜角度であるオーバーハング角度、または、前記オーバーハング部の水平方向の長さであるオーバーハング長さを算出するオーバーハング算出工程と、
所定の分割層の前記オーバーハング角度が第1の角度閾値未満であるとき、または所定の分割層の前記オーバーハング長さが第1の長さ閾値以上であるときに実施される、当該分割層の前記オーバーハング部を含む少なくとも一部を積層方向に2以上再度分割する再分割工程と、
所定の分割層の前記オーバーハング角度が第1の角度閾値以上であるとき、または所定の分割層の前記オーバーハング長さが第1の長さ閾値未満であるときに実施される、当該分割層について再度の分割を行わず、当該分割層を支持するサポート部の付与も行わない維持工程と、
各分割層の形状に基づき、積層造形に係る指令が規定された造形プログラムを出力する出力工程と、を備える、造形プログラムの作成方法。
【請求項2】
前記再分割工程において、当該分割層は、前記通常積層ピッチを2以上の整数で除した再分割積層ピッチで2以上の分割層に再度分割される、請求項1に記載の造形プログラムの作成方法。
【請求項3】
前記再分割工程において、前記オーバーハング角度または前記オーバーハング長さの大きさに応じて、当該分割層の分割数が異なる、請求項1または請求項2に記載の造形プログラムの作成方法。
【請求項4】
所定の分割層の前記オーバーハング角度が前記第1の角度閾値未満であるとき、または所定の分割層の前記オーバーハング長さが第1の長さ閾値以上であるときに実施される、当該分割層について前記オーバーハング部の領域を設定するオーバーハング部設定工程をさらに備え、
前記再分割工程において、当該分割層の前記オーバーハング部を含む一部のみが2以上再度分割される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の造形プログラムの作成方法。
【請求項5】
前記オーバーハング部設定工程後、前記オーバーハング部に隣接する位置に所定幅の領域であるオーバーラップ部を設定するオーバーラップ部設定工程をさらに備え、
前記再分割工程において、当該分割層の前記オーバーハング部およびオーバーラップ部のみが2以上の分割層に再度分割され、
前記再分割工程が行われた分割層における同じ高さに位置する前記オーバーハング部および前記オーバーラップ部については、当該オーバーハング部よりも当該オーバーラップ部に対して先にレーザ光または電子ビームが照射されるよう、照射順を設定する照射順設定工程をさらに備える、請求項4に記載の造形プログラムの作成方法。
【請求項6】
所定の分割層の前記オーバーハング角度が前記第1の角度閾値よりも小さい第2の角度閾値未満であるとき、または所定の分割層の前記オーバーハング長さが前記第1の長さ閾値よりも大きい第2の長さ閾値以上であるときに、前記再分割工程に代えて実施される、当該分割層について再度の分割を行わず、当該分割層を支持するサポート部を前記三次元モデルに付与するサポート部付与工程をさらに備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の造形プログラムの作成方法。
【請求項7】
前記オーバーハング角度または前記オーバーハング長さに関わらず、前記サポート部付与工程を実施する分割層を任意に設定する例外設定工程をさらに備える、請求項6に記載の造形プログラムの作成方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の造形プログラムの作成方法によって作成された前記造形プログラムに従って積層造形を行う積層造形方法であって、
前記三次元造形物を製造する領域である造形領域上に、粉体の材料からなる材料層を形成する材料層形成工程と、
前記材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する固化層形成工程と、を繰り返して前記三次元造形物を製造する、積層造形方法。
【請求項9】
請求項8の積層造形方法を実施する積層造形装置であって、
前記造形領域上に前記材料層を形成する材料層形成装置と、
前記材料層に前記レーザ光または前記電子ビームを照射して前記固化層を形成する照射装置と、
前記造形プログラムに基づいて、前記材料層形成装置および前記照射装置を制御する制御装置と、を備える、積層造形装置。
【請求項10】
前記材料層形成装置は、
前記造形領域に設けられ、鉛直方向に移動可能に構成された造形テーブルと、
前記造形テーブル上を水平方向に往復移動可能に構成されたリコータヘッドと、
前記リコータヘッドの一方の側面に取り付けられ、前記造形領域に吐出された前記材料を均す第1のブレードと、
前記リコータヘッドの他方の側面に取り付けられ、前記造形領域に吐出された前記材料を均す第2のブレードと、を含み、
前記リコータヘッドは、
前記材料を貯留する材料収容部と、
前記材料収容部の上面に設けられ、前記材料収容部に供給される前記材料の受口となる材料供給口と、
前記材料収容部の底面に設けられ、前記材料収容部内の材料を吐出する材料排出口と、を有し、
前記第2のブレードは、前記第2のブレードの下端が前記第1のブレードの下端よりも高く、前記材料排出口よりも低い位置になるよう設けられ、
前記制御装置は、1つの前記材料層を形成するにあたり、前記リコータヘッドを前記造形領域よりも前記他方側から前記造形領域よりも前記一方側に移動させた後、前記リコータヘッドを前記造形領域よりも前記一方側から前記造形領域よりも前記他方側に移動させるよう制御する、請求項9の積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形プログラムの作成方法と、当該作成方法によって作成された造形プログラムに基づいて積層造形を行う積層造形方法と、当該積層造形方法を実施する積層造形装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形装置は、一般的には、コンピュータ支援製造装置によって作成された造形プログラムに従って動作し、所望の三次元造形物を製造する。造形プログラムには、所望の三次元造形物を所定の積層ピッチで分割してなる分割層ごとの、材料層の形成や固化層の形成に係る指令が規定されている。例えば、粉末床溶融結合を実施する積層造形装置は、分割層ごとに、所望の三次元造形物を形成する領域である造形領域に材料層を形成し、材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する。そして、材料層と固化層の形成が交互に繰り返され、複数の固化層の積層体である三次元造形物が形成される。
【0003】
三次元造形物には、直下の固化層よりも張り出した部位であるオーバーハング部が存在する場合がある。オーバーハング部には自重や熱収縮による変形が発生しやすいので、必要に応じて、オーバーハング部を支持するためのサポート部が付与される。特許文献1は、力学量を考慮して適切なサポート部を付与するコンピュータ支援製造装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6824428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サポート部は積層造形後には除去されなければならないが、除去には手間と時間がかかる。また、サポート部を造形するために余分の材料が必要となるし、サポート部の造形にかかる分だけ造形時間が長くなる。そのため、造形に支障が出ない範囲で、サポート部を削減することが望ましい。
【0006】
所定の分割層に対するサポート部の要否は、直接的には、当該分割層におけるオーバーハング部の水平方向の長さであるオーバーハング長さに依存する。オーバーハング長さは、オーバーハング部の傾斜角度であるオーバーハング角度と、分割層の厚さ、すなわち積層ピッチによって定まる。オーバーハング長さを短くすることで、サポート部なしで造形できる可能性が高まる。
【0007】
積層ピッチをより小さくすれば、分割層それぞれにおけるオーバーハング長さを短くすることができる。一方で、積層ピッチを小さくすると分割層の数も増大するので、必然的に材料層と固化層の形成により多くの時間を要することになり、造形時間が増大してしまう。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、オーバーハング角度またはオーバーハング長さに基づき、特定の分割層の少なくとも一部のみを再分割することで、造形時間を過大に増加させることなく、サポート部を削減することができる、造形プログラムの作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、所望の三次元造形物に係る三次元モデルを読み込む読込工程と、三次元モデルを所定の大きさを有する通常積層ピッチで積層方向に複数の分割層に分割する分割工程と、複数の分割層のそれぞれについて、直下の分割層に対して水平方向に突出した部位であるオーバーハング部の傾斜角度であるオーバーハング角度、または、オーバーハング部の水平方向の長さであるオーバーハング長さを算出するオーバーハング算出工程と、所定の分割層のオーバーハング角度が第1の角度閾値未満であるとき、または所定の分割層のオーバーハング長さが第1の長さ閾値以上であるときに実施される、当該分割層のオーバーハング部を含む少なくとも一部を積層方向に2以上再度分割する再分割工程と、所定の分割層のオーバーハング角度が第1の角度閾値以上であるとき、または所定の分割層のオーバーハング長さが第1の長さ閾値未満であるときに実施される、当該分割層について再度の分割を行わず、当該分割層を支持するサポート部の付与も行わない維持工程と、各分割層の形状に基づき、積層造形に係る指令が規定された造形プログラムを出力する出力工程と、を備える、造形プログラムの作成方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の造形プログラムの作成方法においては、オーバーハング角度またはオーバーハング長さに基づいて、再度の分割を行わない維持工程または再度の分割を行う再分割工程を選択的に実施する。これにより、再分割が必要な分割層のみが再分割されることとなるので、造形時間が過大に増加することなく、サポート部を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】積層造形装置の概略構成図である。
図2】リコータヘッドの斜視図である。
図3】リコータヘッドの斜視図である。
図4】材料層形成工程の説明図である。
図5】材料層形成工程の説明図である。
図6】材料層形成工程の説明図である。
図7】照射装置の概略構成図である。
図8】制御装置およびCAM装置のブロック図である。
図9】造形プログラムの作成方法のフローチャートである。
図10】三次元モデルの一例を示す。
図11】分割工程後の三次元モデルを示す。
図12】5番目の分割層の拡大図である。
図13】7番目の分割層の拡大図である。
図14】オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程後の7番目の分割層の拡大図である。
図15】再分割工程後の7番目の分割層の拡大図である。
図16】9番目の分割層の拡大図である。
図17】オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程後の9番目の分割層の拡大図である。
図18】再分割工程後の9番目の分割層の拡大図である。
図19】維持工程、再分割工程またはサポート部付与工程後の三次元モデルを示す。
図20】照射順設定工程の説明図である。
図21】変形例に係る再分割工程、オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程後の説明図である。
図22】本実施形態の造形プログラムに従って造形された、三次元造形物の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に説明される各種変形例は、それぞれ任意に組み合わせて実施することができる。
【0013】
まず、積層造形装置1について説明する。積層造形装置1は、CAM(Computer Aided Manufacturing)装置5で作成された造形プログラムに従って積層造形を行う。図1に示される本実施形態の積層造形装置1は、具体的には、粉末床溶融結合を実施する装置であり、材料層73を形成する材料層形成工程と、固化層75を形成する固化層形成工程と、を交互に繰り返して所望の三次元造形物を製造する。積層造形装置1は、チャンバ11と、材料層形成装置2と、照射装置3と、制御装置4と、を備える。
【0014】
チャンバ11は、実質的に密閉されるように構成され、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域Rを覆う。造形中、チャンバ11には不図示の不活性ガス供給装置から不活性ガスが供給され、所定濃度の不活性ガスがチャンバ11内に充満する。不活性ガス供給装置は、例えば、空気から不活性ガスを生成する不活性ガス生成装置または不活性ガスが貯留されるガスボンベである。また、固化層75の形成時に発生するヒュームを含んだ不活性ガスは、チャンバ11内から排出される。望ましくは、チャンバ11から排出された不活性ガスは、不図示のヒュームコレクタによりヒュームが除去された上でチャンバ11内に返送される。ヒュームコレクタは、例えば、電気集塵機またはフィルタである。不活性ガスは、材料層73や固化層75と実質的に反応しないガスをいい、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等から材料の種類に応じて適当なものが選択される。
【0015】
材料層形成装置2はチャンバ11内に設けられ、造形領域R上に所望の厚みの材料層73を形成する。材料層形成装置2は、ベース台21と、造形テーブル22と、リコータヘッド25と、第1のブレード27と、第2のブレード28と、を含む。
【0016】
ベース台21は、造形領域Rを有する。ベース台21の下方には余剰材料貯留部213が設けられ、ベース台21には余剰材料貯留部213と連通する排出開口211が形成される。材料層73の形成時にベース台21上に撒布された余剰材料は、リコータヘッド25の移動に伴い第1のブレード27または第2のブレード28によって押し出され、排出開口211から落下し、余剰材料貯留部213に貯留される。
【0017】
造形テーブル22は、造形領域Rに配置され、任意のアクチュエータを有する造形テーブル駆動装置23により鉛直方向に移動可能に構成される。造形テーブル22と、造形テーブル22を囲む槽壁24により、未固化の材料が保持される。槽壁24の下方に余剰材料貯留部213と連通する開口を形成してもよい。造形完了後、造形テーブル22を開口より低い位置に位置決めすることで、未固化の材料が余剰材料貯留部213に排出される。造形にあたり、造形テーブル22上にベースプレート71が載置されてもよい。
【0018】
リコータヘッド25は、ベース台21上に配置され、任意のアクチュエータを有するリコータヘッド駆動装置26により造形テーブル22上を水平方向に往復移動可能に構成される。リコータヘッド25の両側面にはそれぞれ、第1のブレード27および第2のブレード28が取り付けられる。
【0019】
本実施形態においては、リコータヘッド25は、内部に貯留した材料を吐出しながら、移動可能に構成される。図2および図3に示されるように、リコータヘッド25は、材料収容部251と、材料供給口253と、材料排出口255と、を有する。材料収容部251は、粉体の材料を収容する。より具体的には、材料としては、金属の粉体や、セラミックの粉体等が使用される。材料供給口253は、材料収容部251の上面に設けられ、材料供給装置17から材料収容部251に供給される材料の受口となる。材料排出口255は、材料収容部251の底面に設けられ、材料収容部251内の材料を吐出する。材料排出口255はスリット形状であり、リコータヘッド25の移動方向に直交する水平方向に沿って延びる。
【0020】
材料供給装置17は、リコータヘッド25に材料を補充する装置である。本実施形態の材料供給装置17は、材料が貯留される材料ボトル171と、材料ボトル171から供給される材料を受けるホッパ173と、ホッパ173と接続されリコータヘッド25に材料を案内するダクト175と、を有する。余剰材料貯留部213に貯留された材料は、バキュームコンベア等の搬送装置で移送され、分級装置177により夾雑部が除去された上で、ホッパ173に送られる。分級装置177は、例えば、三次元篩または超音波篩である。材料ボトル171から供給された材料および余剰材料貯留部213から回収された材料は、ホッパ173およびダクト175を通り、リコータヘッド25へと投下される。なお、材料供給装置17は、任意のタイミングでリコータヘッド25に材料を補充可能に構成されればよく、上述の構成に限定されない。
【0021】
第1のブレード27は、リコータヘッド25の一方の側面に取り付けられる。第2のブレード28は、リコータヘッド25の他方の側面に取り付けられる。第1のブレード27および第2のブレード28は、例えば平板状の部材であるが、ブラシ状等他の形状であってもよい。ここで、第2のブレード28は、第2のブレード28の下端が第1のブレード27の下端よりも高く、材料排出口255よりも低い位置となるよう設けられる。
【0022】
第1のブレード27の下端と第2のブレード28の下端の高さを同一にすれば、例えば、リコータヘッド25を一方側から他方側に移動させても、他方側から一方側に移動させても、同一の厚さの材料層73が形成可能である。しかしながら、不可避の取付誤差により、第1のブレード27の下端と第2のブレード28の下端の高さを完全に同一にすることは困難である。後述するように、本実施形態においては、材料層73の厚みが比較的小さくなる場合があり、材料層73の厚みの誤差の影響が比較的大きくなる。一方、内部に貯留した材料を吐出可能に構成されたリコータヘッド25の一側面にのみブレードを設けた場合、ブレードを設けなかった側から不必要に材料が漏出してしまう可能性がある。そこで、本実施形態においては、第2のブレード28により所望の厚みより厚く材料を均した上で、第1のブレード27により材料をさらに均し、所望の厚みの材料層73を形成する。第1のブレード27は所望の厚みの材料層73を形成する役割を果たし、第2のブレード28はリコータヘッド25から吐出される材料の量を制限する役割を果たす。
【0023】
ここで、図4から図6を参照して、1つの材料層73を形成するにあたっての、材料層形成工程の動作を説明する。以下において、説明を簡易にするために、実施形態に即して第1のブレード27が設けられる一方側を左側、第2のブレード28が設けられる他方側を右側とするが、第1のブレード27および第2のブレード28の取付位置はこれに限定されない。以下の説明におけるリコータヘッド25の移動方向も、第1のブレード27および第2のブレード28の取付位置に応じて適宜読み替えが可能である。すなわち、以下の材料層形成工程に係る説明において、「左側」は「第1のブレード27が設けられる一方側」、「右側」は「第2のブレード27が設けられる他方側」とそれぞれ読み替え可能である。
【0024】
所望の厚みの材料層73を形成するにあたり、造形テーブル22が適切な高さに設定される。材料層形成工程の開始時、リコータヘッド25は、造形領域Rよりも右側に位置している。
【0025】
まず、リコータヘッド25を造形領域Rよりも右側から造形領域Rよりも左側に移動させる。図4および図5には、造形領域R上を右側から左側へ移動中のリコータヘッド25が示される。このとき、リコータヘッド25の材料排出口255から吐出された材料が、第2のブレード28によって均される。第2のブレード28によって均された材料の層の厚みは、材料層73の厚みよりも大きい。第2のブレード28を設けることで、材料排出口255から吐出される材料の量が適度に制限される。
【0026】
次に、リコータヘッド25を造形領域Rよりも左側から造形領域Rよりも右側に移動させる。図6には、造形領域R上を左側から右側へ移動中のリコータヘッド25が示される。このとき、第2のブレード28によって均された材料が、さらに第1のブレード27によって均される。このようにして、所望の厚みの材料層73が形成される。
【0027】
照射装置3は、チャンバ11の上方に設けられる。照射装置3は、材料層73にレーザ光Lを照射して溶融または焼結させ、固化層75を形成する。本実施系形態の照射装置3は、図7に示されるように、光源31と、コリメータ33と、フォーカス制御ユニット35と、走査装置37と、を含む。
【0028】
光源31はレーザ光Lを生成する。ここで、レーザ光Lは、材料層73を焼結または溶融可能なものであればその種類は限定されず、例えば、ファイバレーザ、COレーザ、YAGレーザ、グリーンレーザまたは青色レーザである。コリメータ33は、光源31より出力されたレーザ光Lを平行光に変換する。フォーカス制御ユニット35は、焦点調節レンズ351と、焦点調節レンズ351を前後に移動させるレンズアクチュエータ353と、所定位置に固定された集光レンズと、を有する。光源31より出力されたレーザ光Lは、焦点調節レンズ351および集光レンズを通り、所望のスポット径に調整される。走査装置37は、例えば、ガルバノスキャナである。走査装置37は、X軸ガルバノミラー371と、X軸ガルバノミラー371を回転させるX軸アクチュエータ373と、Y軸ガルバノミラー375と、Y軸ガルバノミラー375を回転させるY軸アクチュエータ377と、を有する。X軸ガルバノミラー371およびY軸ガルバノミラー375は回転角度が制御され、光源31より出力されたレーザ光Lを2次元走査する。
【0029】
X軸ガルバノミラー371およびY軸ガルバノミラー375を通過したレーザ光Lは、チャンバ11の上面に設けられたウインドウ13を透過して、造形領域Rに形成された材料層73に照射される。ウインドウ13は、レーザ光Lを透過可能な材料で形成される。例えば、レーザ光LがファイバレーザまたはYAGレーザの場合、ウインドウ13は石英ガラスで構成可能である。
【0030】
チャンバ11の上面には、ウインドウ13を覆うように汚染防止装置15が設けられる。汚染防止装置15は、円筒状の筐体と、筐体内に配置された円筒状の拡散部材を含む。筐体と拡散部材の間に不活性ガス供給空間が設けられる。また、拡散部材の内側の筐体の底面には、開口部が設けられる。拡散部材には多数の細孔が設けられており、不活性ガス供給空間に供給された清浄な不活性ガスは細孔を通じて清浄室に充満される。そして、清浄室に充満された清浄な不活性ガスは、開口部を通じて汚染防止装置15の下方に向かって噴出される。このようにして、ウインドウ13に、ヒュームが付着することが防止される。
【0031】
なお、本実施形態の照射装置3はレーザ光Lを照射して固化層75を形成するように構成されるが、照射装置は電子ビームを照射するものであってもよい。例えば、照射装置は、電子を放出するカソード電極と、電子を収束して加速するアノード電極と、磁場を形成して電子ビームの方向を一方向に収束するソレノイドと、被照射体である材料層73と電気的に接続されカソード電極との間に電圧を印加するコレクタ電極と、を有するよう構成されてもよい。
【0032】
積層造形装置1は、固化層75の表面や不要部分に対して切削を行う切削装置を備えていてもよい。切削装置は、例えば、加工ヘッドと、加工ヘッドをチャンバ11内の所望の位置に移動させる加工ヘッド駆動装置と、加工ヘッドに設けられ切削工具を把持して回転させるスピンドルと、を含む。
【0033】
制御装置4は、CAM装置5によって作成された造形プログラムに基づき、積層造形装置1の各部を制御する。図8に示されるように、制御装置4は、主制御装置41と、照射制御装置43と、を含む。
【0034】
主制御装置41は、CAM装置5が作成した造形プログラムに従って各部を制御する。具体的に、主制御装置41は、造形テーブル駆動装置23およびリコータヘッド駆動装置26を駆動させ、造形テーブル22およびリコータヘッド25を移動させて、材料層73の形成を行う。より具体的には、前述の通り、主制御装置41は、1つの材料層73を形成するにあたり、リコータヘッド25を造形領域Rよりも右側から造形領域Rよりも左側に移動させた後、リコータヘッド25を造形領域Rよりも左側から造形領域Rよりも右側に移動させるよう制御する。また、積層造形装置1が切削装置を備える場合は、主制御装置41は切削装置を制御して固化層75に対する切削を行う。また、主制御装置41は造形プログラムのうち、照射装置3に係る指令を照射制御装置43に送る。
【0035】
照射制御装置43は、主制御装置41から送られた造形プログラムに応じて照射装置3を制御する。具体的に、照射制御装置43は、X軸アクチュエータ373を駆動させX軸ガルバノミラー371の回転角度を制御し、Y軸アクチュエータ377を駆動させY軸ガルバノミラー375の回転角度を制御する。これにより、レーザ光Lの照射位置が制御される。また、照射制御装置43は、光源31を制御してレーザ光Lの強度やオン/オフの切り替えを行う。また、照射制御装置43は、レンズアクチュエータ353を駆動させ焦点調節レンズ351の位置を制御し、レーザ光Lのスポット径の制御を行う。
【0036】
なお、制御装置4は、CAM装置5が作成した造形プログラムの指令に基づいて、各部を制御するよう構成されればよく、上述の実施形態に限定されない。制御装置4は、ハードウェアとソフトウェアを任意に組み合わせて構成可能である。
【0037】
次に、造形プログラムを作成するCAM装置5を説明する。CAM装置5は、コンピュータ支援製造ソフトウェアがインストールされたコンピュータであり、積層造形装置1にて使用される造形プログラムを作成する。図8に示されるように、CAM装置5は、入力装置51と、出力装置53と、演算装置55と、記憶装置57と、を有する。入力装置51は、オペレータが各種処理に必要な情報を入力する装置であり、例えばキーボードやマウスである。出力装置53は、オペレータに各種情報を表示する装置であり、例えばモニタである。演算装置55は、コンピュータ支援製造ソフトウェアのプログラムや、三次元造形物に係る三次元モデル6や、オペレータが入力した情報等に基づいて、種々の演算を行う。演算装置55は、例えばCPUである。記憶装置57は、三次元モデル6や、演算に必要なデータを記憶する。記憶装置57は、例えば、RAM、ROM、補助記憶装置またはこれらの組み合わせである。
【0038】
ここで、CAM装置5における造形プログラムの作成方法を説明する。図9に示されるように、本実施形態の造形プログラムの作成方法は、読込工程と、分割工程と、例外設定工程と、オーバーハング算出工程と、維持工程と、オーバーハング部設定工程と、オーバーラップ部設定工程と、再分割工程と、サポート部付与工程と、照射順設定工程と、照射条件設定工程と、出力工程と、を備える。以下の説明において、直下の分割層に対して水平方向に突出した部位をオーバーハング部64という。また、オーバーハング部64の傾斜角度をオーバーハング角度θという。また、オーバーハング部64の水平方向の長さをオーバーハング長さdという。
【0039】
読込工程においては、CAD(Computer Aided Design)装置等で作成された所望の三次元造形物に係る三次元モデル6が読み込まれる。読み込まれた三次元モデル6は、三次元座標上に、適切な位置および角度で配置される。ここで、三次元座標の水平軸をX軸、X軸に直交する水平軸をY軸、鉛直軸をZ軸とする。Z軸の向きは、固化層75が積層される方向である積層方向と一致する。図10には、三次元モデル6の例が示される。ここでは説明を簡略化するため、オーバーハング部64がX軸方向にのみ突出する三次元モデル6を例に説明するが、Y軸方向に突出するオーバーハング部64を含む三次元モデルについても同様の手順で造形プログラムが作成可能である。
【0040】
分割工程においては、三次元モデル6が、所定の大きさの積層ピッチで積層方向に複数の分割層に分割される。すなわち、分割層は、三次元モデル6のいわゆるスライスデータである。以下において、分割工程における積層ピッチを特に通常積層ピッチpといい、通常積層ピッチpごとに分割された分割層を特に第1の分割層61という。図11には、分割工程後の三次元モデル6の例が示される。なお、第1の分割層61のそれぞれについて、下から順に番号が付される。図中のNは第1の分割層61の番号を示している。
【0041】
例外設定工程においては、オペレータが、オーバーハング角度θまたはオーバーハング長さdに関わらず、後述するサポート部付与工程を実施する第1の分割層61を任意に設定する。サポート部66は、オーバーハング部64の支持という目的以外でも付与されることがある。例えば、造形時に固化層75に発生する残留応力の影響による歪みを抑制するために、サポート部66が付与されてもよい。また、造形時に材料層73および固化層75に生じる熱を造形テーブルに逃がす、あるいは、加熱された造形テーブル22の熱を材料層73および固化層75に伝達するために、サポート部66が付与されてもよい。例外設定工程を実施することで、オーバーハング部64の支持という観点からはサポート部66が不要な第1の分割層61に対しても、必要に応じてサポート部66を付与することができる。本実施形態の三次元モデル6においては、12番目および13番目の第1の分割層61に対して例外設定が行われる。
【0042】
例外設定工程後、例えば1番目の第1の分割層61から順に、オーバーハング算出工程と、維持工程、再分割工程およびサポート部付与工程のいずれか1つと、が行われる。ただし、例外設定工程において例外設定がされた第1の分割層61においては、オーバーハング算出工程を飛ばして直接サポート部付与工程が実施されてもよい。
【0043】
オーバーハング算出工程においては、第1の分割層61のそれぞれについて、オーバーハング角度θが算出される。なお、第1の分割層61の端面は、曲面部分を含む場合や、多段回に傾斜している場合もある。そのため、オーバーハング角度θの算出対象となる第1の分割層61の上面端部と下面端部とを直線で補完してオーバーハング角度θが算出されてもよい。本実施形態では、オーバーハング角度θは、オーバーハング長さdの大きさと、通常積層ピッチpの大きさとから、式:θ=tan-1(p/d)によって算出される。所定の第1の分割層61のオーバーハング角度θが90°未満であるとき、当該第1の分割層61はオーバーハング部64を有する。オーバーハング角度θの算出は、X軸方向、Y軸方向のそれぞれについて行われる。
【0044】
オーバーハング算出工程において算出したオーバーハング角度θに基づき、維持工程、再分割工程、またはサポート部付与工程が選択的に実施される。具体的に、オーバーハング角度θが第1の角度閾値tm以上である第1の分割層61に対しては、維持工程が実施される。オーバーハング角度θが第1の角度閾値tm未満、第2の角度閾値ts以上である第1の分割層61に対しては、再分割工程が実施される。オーバーハング角度θが第2の角度閾値ts未満である第1の分割層61に対しては、サポート部付与工程が実施される。ただし、第1の角度閾値tmは90°以下の任意の値であり、第2の角度閾値tsは第1の角度閾値tmよりも小さい。本実施形態の三次元モデル6においては、1番目から6番目、14番目および15番目の第1の分割層61に対して維持工程が行われる。7番目から10番目の第1の分割層61に対して再分割工程が行われる。11番目の第1の分割層61に対してサポート部付与工程が行われる。
【0045】
第1の角度閾値tmは、第1の分割層61のままで造形可能と考えられる角度の閾値である。第2の角度閾値tsは、サポート部66の付与が必要と考えられる角度の閾値である。第1の角度閾値tmおよび第2の角度閾値tsについては、オペレータが任意の値を入力可能に構成されればよい。第1の角度閾値tmは、例えば45°である。第2の角度閾値tsは、例えば15°である。
【0046】
維持工程においては、第1の分割層61について再度の分割は行われず、第1の分割層61を支持するサポート部66の付与も行われない。すなわち、分割工程によって生成された第1の分割層61の状態が維持される。オーバーハング部64を有する第1の分割層61であっても、オーバーハング角度θが大きい、すなわち傾斜が緩やかであれば、通常積層ピッチpのままで造形が可能である。図12には、維持工程が実施される5番目の第1の分割層61が示される。なお、第1の分割層61にオーバーハング部64が存在しないときは、オーバーハング角度θが90°以上となるので、例外設定がされている場合を除き、維持工程が選択される。
【0047】
本実施形態においては、再分割工程が実施される前に、オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程が行われ、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65のみが再分割の対象となる。しかしながら、再分割工程においては、対象となる第1の分割層61において、オーバーハング部64を含む少なくとも一部が積層方向に再度分割されればよい。例えば、対象となる第1の分割層61の全体を再度積層方向に分割してもよい。この場合、オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程は実施されなくてもよい。ただし、一部のみを再度分割する方が、造形時間短縮の観点からは有利である。
【0048】
ここでは、図13に示される7番目の第1の分割層61を例にオーバーハング部設定工程、オーバーラップ部設定工程および再分割工程を説明する。図14に示されるように、まず、オーバーハング部設定工程においては、再分割工程の対象となる第1の分割層61について、オーバーハング部64の領域が設定される。すなわち、X軸方向に突出する部分と、Y軸方向に突出する部分が、それぞれオーバーハング部64として設定される。次に、オーバーハング部64に隣接する位置に、所定幅の領域であるオーバーラップ部65が設定される。オーバーラップ部65の幅の大きさは任意に設定されればよく、例えば、0.1mm以上10mm以下である。以下において、第1の分割層61において、オーバーラップ部65およびオーバーハング部64以外の領域を、通常部63という。そして、再分割工程においては、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65が、積層方向に2以上再度分割される。具体的に、7番目の第1の分割層61においては、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65が、通常積層ピッチpを2で除した再分割積層ピッチp/2で、2つに再度分割される。以下において、再分割工程が実施された分割層を特に第2の分割層62という。このようにして、図15に示されるように、第1の分割層61の少なくとも一部がさらに分割された、第2の分割層62が得られる。
【0049】
通常積層ピッチpの値は、照射装置3のスペックにもよるが、約20μmから約150μmが一般的である。再分割積層ピッチは、通常積層ピッチpよりも小さい任意の値でよいが、下限値は材料の平均粒形によって定まる。材料層73を溶融または焼結して固化層75を形成する際、層の厚さがわずかに減少することを考慮すると、理論上、再分割積層ピッチの下限値は材料の平均粒形よりもわずかに小さくなる。例えば、平均粒形約35μmの材料を使用する場合は、再分割積層ピッチの下限値を約10μmとしてもよい。
【0050】
第1の分割層61の少なくとも一部を再度分割するにあたり、それぞれの厚みを均等にすることは必須ではないが、演算および制御を簡易に行う上で、通常積層ピッチpを2以上の整数mで除した再分割積層ピッチp/mで2以上に等分することが望ましい。
【0051】
また、オーバーハング角度θまたはオーバーハング長さdの大きさに応じて、再分割工程における分割層の分割数が異なるように構成してもよい。すなわち、オーバーハング角度θまたはオーバーハング長さdの大きさに応じて、再分割積層ピッチの大きさを変化させてもよい。本実施形態においては、オペレータがオーバーハング角度θの値ごとに、適する再分割積層ピッチを設定する。例えば、オーバーハング角度θが30°以上45°未満の場合は、再分割積層ピッチをp/2とし、オーバーハング角度θが15°以上30°未満の場合は、再分割積層ピッチをp/3と設定する。これに代えて、オペレータがオーバーハング長さdの値ごとに、適する再分割積層ピッチを設定するように構成されてもよい。あるいは、第2の分割層62のオーバーハング長さdとして許容できる値を設定しておき、第2の分割層62のオーバーハング長さdが規定値未満となるように、再分割積層ピッチが自動で算出されるように構成されてもよい。
【0052】
また、第1の分割層61内に複数のオーバーハング部64が存在しており、各オーバーハング部64に係るオーバーハング角度θが異なる場合、最も小さいオーバーハング角度θを当該第1の分割層61のオーバーハング角度θとみなすよう構成してもよい。具体的に、X軸方向に突出する2以上のオーバーハング部64が存在する場合や、Y軸方向に突出する2以上のオーバーハング部64が存在する場合や、X軸方向に突出する1以上のオーバーハング部64およびY軸方向に突出する1以上のオーバーハング部64が存在する場合があるが、いずれの場合においても、最も小さいオーバーハング角度θを当該第1の分割層61のオーバーハング角度θとみなすように構成してもよい。
【0053】
図16から図18には、9番目の第1の分割層61に係るオーバーハング部設定工程、オーバーラップ部設定工程および再分割工程が示される。9番目の第1の分割層61は、2つのオーバーハング部64を有し、それぞれのオーバーハング角度θが異なっている。9番目の第1の分割層61は、2つのオーバーハング角度θのうちより小さいオーバーハング角度θに基づき、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65が、通常積層ピッチpを3で除した再分割積層ピッチp/3で、3つに再度分割される。
【0054】
サポート部付与工程においては、第1の分割層61について再度の分割は行われず、第1の分割層61を支持するサポート部66が三次元モデル6に付与される。オーバーハング角度θが小さい、すなわち傾斜が急であるとき、再分割によりオーバーハング長さdをサポート部66なしで造形が行える程度まで小さくすると、再分割積層ピッチが非常に小さくなる場合がある。再分割積層ピッチがあまりに小さいと、造形が困難となる場合や、造形時間が過剰にかかる虞がある。そこで、本実施形態においては、オーバーハング角度θが小さい第1の分割層61については、サポート部66を付与して対応する。また、前述のように、例外設定工程にて例外設定をした第1の分割層61についても、サポート部66が付与される。サポート部66の形状は、第1の分割層61の支持等の目的を果たせる限りにおいて任意の形状であってよい。例えば、サポート部66は、単純な柱状形状であってもよいし、ラティス形状等空隙を有する形状であってもよい。なお、サポート部66は、通常積層ピッチpにより積層方向に分割される。
【0055】
以上の工程が繰り返され、全ての第1の分割層61に対して、維持工程、再分割工程およびサポート部付与工程のうちの1つが選択的に実施される。このようにして、図19に示されるような三次元モデル6が得られる。ここで、維持工程、再分割工程またはサポート部付与工程が実施された分割層に対して、照射順設定工程および照射条件設定工程が実施される。
【0056】
照射順設定工程においては、各分割層の照射順が設定される。例えば、1番目の分割層および同一高さのサポート部66、2番目の分割層および同一高さのサポート部66、……、といったように、下から順番に照射順が設定される。また、再分割工程が行われた分割層、すなわち、第2の分割層62における同じ高さに位置するオーバーハング部64およびオーバーラップ部65については、当該オーバーハング部64よりも当該オーバーラップ部65に対して先にレーザ光Lまたは電子ビームが照射されるよう、照射順が設定される。
【0057】
ここでは、図20に示す第2の分割層62を例に説明する。なお、図中の丸囲み数字は照射順を示す。以下、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65をm個に分割した場合、一番下のオーバーハング部64およびオーバーラップ部65を1番目とし、一番上のオーバーハング部64およびオーバーラップ部65をm番目とする。まず、1番目のオーバーラップ部65、1番目のオーバーハング部64の順に照射順が設定される。2番目以降も同様に、オーバーラップ部65、オーバーハング部64の順に照射順が設定される。m-1番目のオーバーハング部64の次は、通常部63、m番目のオーバーラップ部65、m番目のオーバーハング部64の順に照射順が設定される。ただし、通常部63の照射順は、m番目のオーバーラップ部65またはm番目のオーバーハング部64の次でもよい。また、第2の分割層62と同一高さのサポート部66が存在する場合は、m-1番目のオーバーハング部64以降に当該サポート部66の照射順が設定されればよい。このようにして、第2の分割層62における照射順が設定される。
【0058】
オーバーハング部64に係る固化層75の少なくとも一部は、直下に固化層75が存在しない部分に造形される。対して、オーバーラップ部65に係る固化層75は、別の固化層75上に形成されるため、比較的安定して造形を行うことができる。同じ高さにおいて、オーバーラップ部65、オーバーハング部64の順に造形を行うことで、オーバーハング部64に係る固化層75がオーバーラップ部65に係る固化層75の側面に固着するので、より安定して造形を行うことができる。
【0059】
照射条件設定工程においては、オペレータが入力した情報や、あらかじめ記憶されているデータ等に基づき、各分割層におけるレーザ光Lまたは電子ビームの照射条件を設定する。第1の分割層61および通常部63に対しては、従来と同様の照射条件が設定されればよい。
【0060】
オーバーハング部64およびオーバーラップ部65に係る材料層73および固化層75の厚みは比較的小さくなる。そこで、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65に対しては、第1の分割層61および通常部63に対する照射条件よりもエネルギ密度が低い照射条件が設定されることが望ましい。ここで、エネルギ密度は、以下の式:エネルギ密度[J/mm]=強度[W]/(スポット径[mm]×照射速度[mm/s])によって定まる。すなわち、強度を下げる、スポット径を大きくする、または照射速度を上げることで、エネルギ密度を下げることができる。例えば、所定の第2の分割層62におけるオーバーハング部64およびオーバーラップ部65の分割数をmとしたとき、第1の分割層61および通常部63に対する照射条件における強度をmで除した上で、その照射条件を当該オーバーハング部64およびオーバーラップ部65の照射条件として設定してもよい。
【0061】
サポート部66は最終的に除去されるので、要求される寸法精度は比較的低い。また、オーバーハング部64の支持を目的に付与されるサポート部66については、サポート部66自体に求められる強度は比較的低い。そこで、支持目的のサポート部66に対しては、サポート部66の除去の容易さと、造形速度を重視した照射条件が設定されることが望ましい。例えば、支持目的のサポート部66に対しては、所定のエネルギ密度が得られる範囲で、強度を上げ、スポット径を大きくし、照射速度を上げた照射条件が適用されてもよい。一方、固化層75の残留応力による歪み抑制を目的に付与されるサポート部66については、ある程度の強度が求められる。そのため、歪み抑制目的等、ある程度の強度が必要なサポート部66に対しては、第1の分割層61および通常部63に対する照射条件と同等の照射条件が設定されてもよい。
【0062】
最後に、各分割層の積層ピッチおよび形状、照射順、照射条件等の情報に基づき、積層造形に係る指令が規定された造形プログラムを出力する出力工程が実施される。造形プログラムには、材料層形成装置2および照射装置3への動作指令が含まれる。積層造形装置1が切削装置を備える場合は、造形プログラムは切削パス等、切削装置への動作指令を含んでいてよい。CAM装置5から出力された造形プログラムは、例えば、可搬記憶媒体を介して、または有線または無線による通信により、積層造形装置1の制御装置4へと送られる。
【0063】
以上に説明した造形プログラムの作成方法はあくまで一例であり、これに限定されない。本発明の技術思想を逸脱しない範囲で一部の工程を改変、省略または追加してもよいし、各工程の順番を入れ替えてもよいし、一部の工程を平行して行なってもよい。また、各工程の少なくとも一部が、CAM装置5ではなく積層造形装置1の制御装置4で実施されてもよい。
【0064】
例えば、本実施形態においては、オーバーハング角度θに基づいて、再分割の要否およびサポート部66の要否を判定したが、オーバーハング長さdに基づいて判定等を行ってもよい。本変形例では、オーバーハング算出工程において、オーバーハング角度θを算出する必要はなく、オーバーハング長さdのみを算出すればよい。そして、オーバーハング長さdが第1の長さ閾値um未満である第1の分割層61に対しては、維持工程が実施される。オーバーハング長さdが第1の長さ閾値um以上、第2の長さ閾値us未満である第1の分割層61に対しては、再分割工程が実施される。オーバーハング長さdが第2の長さ閾値us以上である第1の分割層61に対しては、サポート部付与工程が実施される。ただし、第1の長さ閾値umは0μm超の任意の値であり、第2の長さ閾値usは第1の長さ閾値umよりも大きい。
【0065】
また、本実施形態においては、再分割工程を実施する際、先にオーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程を実施したが、オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程は再分割工程後に実施されてもよい。本変形例においては、まず、第1の分割層61に対して再分割工程が実施され、当該第1の分割層61の全体が再分割積層ピッチで分割される。次に、再分割積層ピッチで分割されたそれぞれの層に対して、オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程が実施され、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65が設定される。オーバーハング部64およびオーバーラップ部65として設定されなかった残部が、通常部63として扱われる。図21には、以上の手順で再分割工程、オーバーハング部設定工程およびオーバーラップ部設定工程が実施された第2の分割層62が示される。なお、本変形例の第2の分割層62においては、通常部63の積層ピッチが位置によって異なる。そのため、照射条件設定工程においては、通常部63の位置ごとに照射条件を変えることが望ましい。本変形例によれば、オーバーハング部64の大きさを小さくできるので、造形速度をより早めることができる。
【0066】
以上に説明した造形プログラムの作成方法によれば、オーバーハング角度θまたはオーバーハング長さdに応じて、再分割によりサポート部66なしで造形が可能である第1の分割層61が判定され、当該第1の分割層61にのみ再分割工程が実施されるので、造形時間が過大になることなく、サポート部66の削減を行うことができる。また、第2の分割層62に係る固化層75の面相度向上も期待できる。
【0067】
以上の手順で作成された造形プログラムに従って、積層造形装置1において積層造形が行われる。ただし、制御装置4により、レーザ座標系や切削座標系に係る補正データや、積層造形装置1または周辺環境の状態に応じて、造形プログラムに対し補正が行われてもよい。本実施形態の積層造形方法は、造形領域R上に粉体の材料からなる材料層73を形成する材料層形成工程と、材料層73にレーザ光Lまたは電子ビームを照射して固化層75を形成する固化層形成工程と、を交互に繰り返す。
【0068】
造形テーブル22上にベースプレート71が載置され、チャンバ11内が所定濃度の不活性ガスで満たされる。そして、下層の分割層から順番に、材料層形成工程および固化層形成工程を実施する。
【0069】
第1の分割層61に係る固化層75を形成する場合の動作を説明する。まず、造形テーブル22を通常積層ピッチp分だけ下降させる。ただし、最初の材料層73および固化層75を形成する際は、ベースプレート71と第1のブレード27の下端との距離が通常積層ピッチpと同一になるよう、造形テーブル22を位置決めする。次に、リコータヘッド25が造形領域R上で往復移動し、材料を均して所望の厚さの材料層73を形成する。そして、照射装置3が材料層73に対してレーザ光Lまたは電子ビームを照射し、第1の分割層61に係る固化層75を形成する。ここで、同一高さにサポート部66が存在する場合は、当該サポート部66の造形も行う。
【0070】
第2の分割層62に係る固化層75を形成する場合の動作を説明する。以下においては、オーバーハング部64およびオーバーラップ部65の分割数をmとして説明する。まず、造形テーブル22を再分割積層ピッチp/m分だけ下降させる。ただし、最初の材料層73および固化層75を形成する際は、ベースプレート71と第1のブレード27の下端との距離が再分割積層ピッチp/mと同一になるよう、造形テーブル22を位置決めする。次に、リコータヘッド25が造形領域R上で往復移動し、材料を均して所望の厚さの材料層73を形成する。そして、照射順設定工程によって定められた照射順に従って、照射装置3が材料層73に対してレーザ光Lまたは電子ビームを照射し、1番目のオーバーラップ部65およびオーバーハング部64に係る固化層75を形成する。以上の手順を繰り返し、m-1までのオーバーラップ部65およびオーバーハング部64に係る固化層75を形成する。そして、造形テーブル22を再分割積層ピッチp/m分だけ下げ、照射順設定工程によって定められた照射順に従って、通常部63と、m番目のオーバーラップ部65およびオーバーハング部64とに係る固化層75を形成する。ここで、同一高さにサポート部66が存在する場合は、当該サポート部66の造形も行う。
【0071】
以上の手順で、第1の分割層61または第2の分割層62に係る固化層75の形成が下から順に行われ、図22に示される所望の三次元造形物が形成される。なお、積層造形装置1が切削装置を備える場合は、所定数の固化層75を形成するごとに、固化層75の内部または外部の側面に対して切削加工を行う切削工程が実施されてもよい。
【0072】
本発明は、すでにいくつかの例が具体的に示されているように、図面に示される実施形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 積層造形装置
2 材料層形成装置
22 造形テーブル
25 リコータヘッド
251 材料収容部
253 材料供給口
255 材料排出口
27 第1のブレード
28 第2のブレード
3 照射装置
4 制御装置
5 CAM装置
6 三次元モデル
64 オーバーハング部
65 オーバーラップ部
66 サポート部
73 材料層
75 固化層
R 造形領域
L レーザ光
【要約】      (修正有)
【課題】造形時間を過大に増加させることなく、サポート部を削減することができる、造形プログラムの作成方法を提供する。
【解決手段】三次元モデルを読み込む読込工程と、三次元モデルを複数の分割層に分割する分割工程と、分割層のオーバーハング角度またはオーバーハング長さを算出するオーバーハング算出工程と、オーバーハング角度またはオーバーハング長さに基づき、選択的に実施される、当該分割層のオーバーハング部を含む少なくとも一部を積層方向に2以上再度分割する再分割工程および当該分割層について再度の分割を行わず当該分割層を支持するサポート部の付与も行わない維持工程と、積層造形に係る指令が規定された造形プログラムを出力する出力工程と、を備える、造形プログラムの作成方法が提供される。
【選択図】図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22