(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】流体ライン
(51)【国際特許分類】
F02M 37/00 20060101AFI20220930BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
F02M37/00 321A
F16L11/04
(21)【出願番号】P 2021500444
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2019066103
(87)【国際公開番号】W WO2020011500
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】102018116567.6
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591044393
【氏名又は名称】ノルマ ジャーマニー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】キャロリン コール
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュタインカンプ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス バウアー
(72)【発明者】
【氏名】デビッド シューマッハ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ ピオヴェサン
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0009107(US,A1)
【文献】国際公開第2010/061289(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/039445(WO,A1)
【文献】特開2007-030306(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0162591(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00
F16L 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層式プラスチック材から構成されて内部空間を取り巻くチューブを有し、該チューブが、ポリアミド9T(PA9T)から構成された内側の第1の層と、ポリアミド12(PA12)から構成されて前記第1の層の周りに延在する第2の層と、ポリアミド612(PA612)から構成されて前記第2の層の周りに延在する第3の層と、ポリアミド6(PA6)から構成されて前記第3の層の周りに延在する第4の層と、ポリアミド612(PA612)から構成された外側の第5の層とを有し、前記内側の第1の層が、前記内部空間を画定する流体ライン。
【請求項2】
前記内側の第1の層が、前記チューブの壁厚全体の15%~25%の範
囲の厚さを有する請求項1に記載の流体ライン。
【請求項3】
前記第2の層が、前記チューブの壁厚の2%~18%の範
囲の厚さを有する請求項1または2に記載の流体ライン。
【請求項4】
前記第3の層が、前記チューブの壁厚の2%~18%の範
囲の厚さを有する請求項1から3のいずれか一項に記載の流体ライン。
【請求項5】
前記第4の層が、前記チューブの壁厚の30%~50%の範
囲の厚さを有する請求項1から4のいずれか一項に記載の流体ライン。
【請求項6】
前記外側の第5の層が、前記チューブの壁厚の12%~28%の範
囲の厚さを有する請求項1から5のいずれか一項に記載の流体ライン。
【請求項7】
前記外側の第5の層が、カラーマスタバッチを追加して含む請求項1から6のいずれか一項に記載の流体ライン。
【請求項8】
車両内で燃料を移送するための、請求項1から7のいずれか一項に記載の流体ラインの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プラスチック材料から構成されて内部空間を取り巻くチューブを有する流体ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
化学活性流体、たとえば車両内の燃料を移送するラインは、使用に際し特有な要件を満足しなければならない。すなわち、ラインの材料は、流体によって溶解してはならない。この溶解は、比較的高い温度でも回避されるべきである。さらに、ラインは、移送する流体に対して不透過性でなければならず、また、流体に含まれ得る揮発性物質がラインの壁を決して通り抜けることがないように、移送する流体の化学成分に対して不透過性でなければならない。これは、一方で、移送する流体の品質の低下を防止し、他方で、揮発性物質が環境に漏れ出すのを防止することを意図している。さらに、溶脱を防止すべきである。これは、特に、流体がライン内に留まるとき、すなわち、少なくとも一時的に、流体の移送が行われないときに関連する。さらに、ラインは、他のライン構成要素へのラインの簡単かつ信頼性の高い接続を可能にする機械的特性を有さなければならない。
【0003】
特許文献1は、炭酸成分およびジアミン成分から形成されるポリアミド樹脂(ナイロン9T)を含む最も内側の第1の層と、ポリアミド6(PA6)から構成される第2の層と、コポリアミド(CoPa)系の結合層から構成される第3の層と、ポリアミド12(PA12)から構成される外側の第4の層とを備える、多層式の自動車両燃料ラインを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、燃料ラインの材料の溶脱の減少および揮発性物質に対する透過性の減少を示し、なおかつ、ラインの他の構成要素に接続するのに十分な機械的特性を有する、冒頭で言及したタイプの燃料ラインを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の主要な特徴が、請求項1の特徴部分に示されている。細部が請求項2~10の主題を形成する。
【0007】
目的を達成するために、流体ラインが多層式プラスチック材のチューブを有し、そのチューブが内部空間を取り巻く場合、チューブが、ポリアミド9T(PA9T)から構成された内側の第1の層と、ポリアミド12(PA12)から構成された第2の層と、ポリアミド612(PA612)から構成された第3の層と、ポリアミド6(PA6)から構成された第4の層と、ポリアミド612(PA612)から構成された外側の第5の層とを有し、内側の第1の層が、内部空間を画定することが想定される。
【0008】
すなわち、本発明は、多層式チューブ壁を有する、流体ライン用のチューブを提供する。この構成では、チューブは、移送される流体がそこを通る内部空間を取り巻く。ここで、内側の第1の層は、内部空間に直接接し、その空間を画定する。この場合、内側の第1の層は、ポリアミド9T(PA9T)から構成される。この材料は、低透過性を有する層を形成する。具体的には、この場合、この層は、流体内の揮発性物質、たとえばアルコール、または燃料中のある種の添加物に対するバリアを形成する。さらに、内側の第1の層は、化学物質および加水分解物質に耐性があり、ほんの少量の水分を吸収する。溶脱は、生じても少量である。高温でも、内側の第1の層は、良好な機械的特性を有し、したがって、寸法的に安定である。すなわち、内側の第1の層は、プロジェクトから漏出する物質に対するバリアを形成し、そのバリアが、なおかつチューブの内壁の十分な機械的安定性を確保する。
【0009】
ポリアミド12から構成される第2の層は、同様に、ほんの僅かな水分吸収を示し、したがって、漏出する水分に対する追加のバリアが、第2の層によって形成される。さらに、第2の層は、機械的に安定であり、高圧においても、または他の機械的力が存在しても、チューブの安定性を向上させる。
【0010】
第4の層のポリアミド6は、容易に入手可能であり、比較的安価である。ポリアミド6から構成される第4の層は、流体ラインのチューブの基礎構造を形成する。
【0011】
ポリアミド612から構成される外側の第5の層は、グリース、オイル、燃料、作動油、水、およびアルカリ性物質に関して良好な環境耐性を示す。流体ラインが、これら物質がチューブの外側の層に達し得る環境で使用されている場合、内側の諸層は、外側の第5の層によって保護される。すなわち、外側の第5の層は、内側の諸層に対する外部からの影響に対して保護層を形成する。さらに、外側の第5の層は可撓性がある。
【0012】
流体ラインのチューブにおいて5つの層を組み合わせることによって、チューブは、従来技術に比較して、たとえば揮発性物質または浸食性化学物質を含む流体の移送に関して改善された特性を有する。同時に、チューブは、なおかつ、多層式プラスチック材によって、機械的に安定し、撓みやすくなる。個々の層が、互いに支持し合い、それぞれの特性を相乗的に組合せ、それによって、良好な化学的耐性と共に、良好な機械的特性も形成されて、様々な要件を有する様々な状況において流体ラインを使用することが可能になる。そして、機械的特性は、流体ラインを他のライン構成要素に信頼性高くかつ簡単に接続することを可能にする。
【0013】
内側の第1の層は、チューブの壁厚全体の15%~25%の範囲、好ましくは20%の厚さを有し得る。この相対厚さを有する内側の第1の層は、内部空間に配置される流体から漏出し得る物質に対する不透過性に関する内側の第1の層の特性を保持する。
【0014】
第2の層は、チューブの壁厚全体に対して2%~18%の範囲、好ましくは10%の厚さを有し得る。このように、第2の層は、内側の第1の層と組み合わさって作用する相対厚さを有する。さらに、この厚さは既に、チューブの機械的安定性の増加をもたらしている。
【0015】
第3の層は、チューブの壁厚全体に対して2%~18%の範囲、好ましくは10%の厚さを有し得る。この相対的層厚さによって、チューブの引張および曲げ強度の増加がもたらされる。
【0016】
第4の層は、チューブの壁厚全体に対して30%~50%の範囲、好ましくは40%の厚さを有し得る。この相対的層厚さが、安価であり、なおかつ機械的安定性を付与する、流体ラインの基礎構造を形成する。
【0017】
外側の第5の層は、チューブの壁厚全体に対して12%~28%の範囲、好ましくは20%の厚さを有し得る。その結果、外側の第5の層によって形成される外側の保護層は、内側の諸層に対する外部の、特に化学的な、影響に対して十分な保護を行うことができ、他の層と比較して、比較的少量の材料が使われる。
【0018】
それゆえ、外側の第5の層は、好ましくは、カラーマスタバッチを追加して備え得る。このようにして、外側の第5の層は着色することができる。外側の第5の層の残りの成分を、外側の第5の層の物理的特性を僅かに変更する他の物質によって、さらに追加して形成することができる。外側の第5の層の基本的特性が、カラーマスタバッチおよび/または添加物によって実質的に変更されることはない。
【0019】
さらに、目的を達成するために、車両内で燃料を移送するために上記の説明による流体ラインを使用することが想定される。
【0020】
流体ラインの使用の効果および利点が、上記に示された流体ラインの説明から明らかになる。
【0021】
本発明のさらに他の特徴、詳細、および利点が、特許請求の範囲の記述、および図面を参照する以下の例示的実施形態の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1および2は、たとえば車両の燃料ラインになり得る流体ライン10を示す。この場合、燃料は、アルコールもしくは他の揮発性物質または浸食性化学物質を含んでもよい。流体ライン10は、車両の燃料タンクとエンジンとの間の燃料ラインの少なくとも小区間を形成することができる。
【0024】
図1によれば、燃料ライン10は、内部空間14を取り巻くチューブ12を備える。内部空間14は、チューブ12全体を貫通して延在し、チューブ12の両端に貫通開口26を有する。チューブ12は、燃料ラインの別のライン要素または何らかの別のラインに接続することができ、したがって、貫通開口26は、内部空間から別のライン要素の内孔への移行部を形成する。その場合、移送される燃料は、一方の貫通開口26を通ってチューブ12の内部14に導入され、他方の貫通開口26を通って排出される。
【0025】
チューブ12は、多層構造のプラスチック材料から製造される。これは、チューブ12が、層状の様々な材質を有するチューブ壁を有することを意味する。
【0026】
ここで、
図2が、流体ライン10の断面を示す。この場合は、流体ライン10のチューブ12が、5つの層を備える。
【0027】
内側の第1の層16は、内部空間14を画定する、チューブ12の内壁を形成する。内側の第1の層16は、ポリアミド9T(PA9T)を含む。この場合、内側の第1の層16は、完全にポリアミド9Tから構成することができる。ポリアミド9Tから構成される内側の第1の層16は、殆どの物質、特にプラスチックならびにプラスチックの成分および添加物に対して、低溶解性および低透過性を有する。その第1の層は、また、水分の漏出に対してバリアを形成する。したがって、内側の第1の層16は、化学成分の通過に対するバリアを形成し、さらに、流体、特に燃料の成分によって溶解されることもあり得るチューブ12の残りの部分の保護を行う。
【0028】
図2に示された例では、内側の第1の層16は、チューブ12の壁厚全体の15%~25%を形成する厚さを有する。
【0029】
第2の層18は、ポリアミド12を含み、内側の第1の層16の周りに延在する。第2の層18は、内側の第1の層16からの水分の漏出をさらに低減する。さらに、第2の層18は、チューブの機械的特性を強化し、それによって、高圧下になり得る流体を、流体ライン10を通して移送することを可能にする。
【0030】
この例では、第2の層18は、チューブ12の壁厚全体の12~18%を形成する厚さを有する。
【0031】
第3の層20は、ポリアミド612を含み、第2の層18の周りに延在し、したがって内側の第1の層16の周りにも延在する。この配置では、内部空間14から視ると、第3の層20が第2の層18に接している。
【0032】
第3の層20は、チューブ12の引張および曲げ強さを増加させ、同時に、なおかつ湿潤しても強く、弾力性がある。したがって、第3の層20は、チューブ12の安定性をさらに増強する。
【0033】
この場合、この例の第3の層20は、チューブ12の壁厚全体の2%~18%を形成する厚さを有する。
【0034】
第4の層22は、ポリアミド6を含み、この例ではチューブ12の壁厚全体の30~50%を構成する層厚さを有し、チューブ12の基礎構造を形成する。ポリアミド6の効力により、第4の層22は、他の層とほぼ同様に機械的に安定し、同時に、容易に入手可能であり、比較的安価である。他の層と組み合わせることによって、必要な物理的特性を犠牲にすることなく、チューブのコストを低減することができる。
【0035】
第4の層22は、さらに第3の層20の周りに延在し、したがって同様に第2の層18および内側の第1の層16の周りに延在する。
【0036】
外側の第5の層24は、第3の層20と同様に、ポリアミド612を含む。第5の層24は、第4の層22の周り、したがって他の層の周りに延在する。第5の層は、チューブ12の最も外側の層を形成し、したがって外界に対してチューブ12を画定する。
【0037】
ポリアミド612の効果により、外側の第5の層24は、たとえば車両に使用される殆どの物質に対して反応しない。したがって、外側の第5の層の上、またはその層に隣接して位置する対応するチューブからの物質の漏出、およびそれら物質による外側の第5の層24の濡れは、チューブ12の物理的特性に影響する結果を外側の第5の層24に対して生じない。すなわち、外側の第5の層24は、4つの内側の層16、18、20、および22に対する保護層を形成する。
【0038】
外側の第5の層24の厚さは、この例では、チューブ12の壁厚の12%~28%である。それによって、内側の諸層の十分な保護が確保される。
【0039】
さらに、外側の第5の層24は、ポリアミド612とカラーマスタバッチとの混合物を含み得る。それによって、外側の第5の層24は、カラーマスタバッチの色によって着色することができ、ポリアミド612の物理的特性がカラーマスタバッチによって損なわれることはない。
【0040】
この場合、外側の第5の層24は、ポリアミド612に加えてカラーマスタバッチおよび/またはさらに別の添加物を含み得る。
【0041】
各層の材料が、層厚さ比率と共に、下記に表形式で列記されている。ここで、表中、数字1による層は、内側の第1の層16であり、数字5による層は、外側の第5の層24である。したがって、表中、数字2、3、および4による各層は、層18、20、および22に対応する。
【表1】
【0042】
この層厚さに則れば、内側の第1の層16が、0.1mm~0.3mmの範囲、たとえば好ましくは0.2mmの厚さをもつチューブ12を有する流体ライン10を設けることが可能である。その場合、第2の層18は、0.01mm~0.2mmの範囲、好ましくは1mmの厚さを有し得る。この場合、第3の層20は、同様に、0.01mm~0.2mmの範囲、好ましくは1mmの厚さを有し得る。さらに、第4の層22は、0.3mm~0.5mmの範囲、好ましくは0.4mの厚さを有し得る。さらに、その場合、第5の層24は、0.1mm~0.3mmの範囲、好ましくは0.2mmの厚さを有し得る。
【0043】
本発明は、上記の実施形態の1つに限定されることはなく、多様な方式で変更することができる。
【0044】
特許請求の範囲、本明細書、および図面から明らかになる全ての特徴および利点は、設計の細部、空間上の配置、および方法のステップを含めて、それら自体または多様な組合せのいずれにおいても本発明にとって本質的であり得る。
【符号の説明】
【0045】
10 流体ライン
12 チューブ
14 内部空間
16 内側の第1の層
18 第2の層
20 第3の層
22 第4の層
24 外側の第5の層
26 貫通開口