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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】広カッ香顆粒剤の噴霧乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/53 20060101AFI20220930BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61K36/53
A61K9/16
A61K47/40
A61P43/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021510502
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 CN2018114811
(87)【国際公開番号】W WO2019214196
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】201810425303.6
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520429808
【氏名又は名称】ベイジン インクリースファーム コーポレイション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】チャン バオシャン
(72)【発明者】
【氏名】リー ヤンイン
(72)【発明者】
【氏名】リー シンシン
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101862458(CN,A)
【文献】国際公開第2015/115512(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107397787(CN,A)
【文献】特開昭57-024306(JP,A)
【文献】特開昭61-005024(JP,A)
【文献】徳島県立農業試験場試験研究報告,1997年,No.33,p.18-24
【文献】Industrial Crops and Products,2014年,Vol.60 ,p.39-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮後の60℃における相対密度が1.0~1.08である広カッ香エキス剤を取り、次に、濃縮後の前記広カッ香エキス剤の重量を基準として算出した添加量が%であるβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃~180℃、出口温度90℃~95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集することを含む、ことを特徴とする広カッ香の漢方薬顆粒剤の噴霧乾燥方法。
【請求項2】
前記噴霧乾燥では、入口温度が175℃であり、出口温度が95℃である、請求項に記載の噴霧乾燥方法。
【請求項3】
乾燥エキス剤の収率が78.02%~96.56%である、請求項1又は2に記載の噴霧乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方薬顆粒剤の生産技術分野に関し、より詳細には、改善された広カッ香の顆粒剤の噴霧乾燥方法に関し、漢方薬の生産技術分野に属する。
(訳注:広カッ香の「カッ」は草冠に霍)
【背景技術】
【0002】
漢方薬顆粒剤とは、単味生薬を抽出濃縮することにより作られ、漢方薬の臨床処方用の顆粒剤を指す。中国では、昔に単味漢方薬濃縮顆粒剤とも呼ばれており、商品名や通称として、煎じ不要漢方薬生薬、新生薬、精製生薬、飲料型生薬、科学漢方薬等も挙げられる。
【0003】
乾燥プロセスは、漢方薬顆粒剤の製造において重要な一環である。漢方薬のエキス剤を乾燥させる方法として、例えば真空乾燥、凍結乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥など数多くの方法が挙げられる。中でも、噴霧乾燥は、乾燥時間が短く、乾燥面積が広く、有効成分の破壊が少ないなどのメリットを有し、漢方薬液体・半液体物質の乾燥にとっては理想的な方法である。
【0004】
生薬広カッ香は、シソ科の植物であるパチョリPogostemon cablin(Blanco)Benth.の地上部を乾燥したものであり、香りで濁りを解消し、脾臓と胃の不調を整えて嘔吐を停止させ、暑気を払うなどの効能を有し、主に湿濁中阻、カン痞嘔吐、暑湿表証、湿温初起、発熱倦怠、胸悶不舒、寒湿閉暑、腹痛吐瀉、鼻渊頭痛の治療に用いられる。
【0005】
広カッ香が漢方薬顆粒剤として使用されることは従来の技術であるが、広カッ香顆粒剤の乾燥技術についてはほとんど開示されていない。中国特許出願(CN107397787A)には、搾った広カッ香の調合液を40~80℃で減圧濃縮し、相対密度が1.02~1.10である濃縮液を得、次に、噴霧乾燥を行い、入口温度を100~140℃とし、出口温度を90~120℃とする条件下でそのまま噴霧乾燥する、広カッ香の生搾り噴霧乾燥顆粒飲片の製造プロセスが開示されている。CN107397787Aに開示されている方法は簡単で操作しやすいが、広カッ香に様々なアルコール、ケトン、グリコシドなどの成分が含まれており、調合液の粘度が高いことで、調合液が噴霧乾燥中に塔に付着した現象が発生し、噴霧乾燥の効率に大きな悪影響を与えるのみならず、材料の一部が失われ、乾燥エキス剤粉末の収率が低下することもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の技術の欠点を克服し、プロセスが簡単で工業的生産に有利であり、噴霧乾燥中の壁面の付着現象の発生を効果的に防止し、かつ、漢方薬エキス剤の噴霧乾燥工程における乾燥エキス剤粉末の収率を効果的に向上させることができる広カッ香の漢方薬顆粒剤の噴霧乾燥プロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明で採用される構成は以下の通りである。
【0008】
濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、2%~5%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃~180℃、出口温度90℃~95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集することを含む、広カッ香の漢方薬顆粒剤の噴霧乾燥方法。
【0009】
前記噴霧乾燥方法であって、1つの好ましい実施の形態においては、前記濃縮後のエキス剤の60℃における相対密度が1.02~1.10であり、好ましくは1.03~1.10である。
【0010】
前記噴霧乾燥方法であって、1つの好ましい実施の形態においては、前記濃縮後のエキス剤の60℃における相対密度が1.05~1.08である。
【0011】
前記噴霧乾燥方法であって、1つの好ましい実施の形態においては、エキス剤に3%~4%のβ-シクロデキストリンを加える。好ましくは、3%のβ-シクロデキストリンを加える。
【0012】
前記噴霧乾燥方法であって、1つの好ましい実施の形態においては、噴霧乾燥では、入口温度が175℃であり、出口温度が95℃である。
【0013】
前記噴霧乾燥方法であって、1つの好ましい実施の形態においては、前記乾燥エキス剤の収率が78.02%~96.56%であり、好ましくは78.02%、81.09%、81.15%、84.57%、95.44%又は96.56%である。
【0014】
一般的に使用される計量方法として、本発明では、β-シクロデキストリンの添加量は、濃縮後の広カッ香エキス剤の重量を基準として算出するものである。
【0015】
本発明者は、漢方薬顆粒剤の噴霧乾燥について鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、広カッ香顆粒剤を製造する際に、広カッ香顆粒剤の噴霧乾燥時の補助剤としてβ-シクロデキストリンを少量で添加すれば、噴霧乾燥中に塔に付着する現象を大いに改善でき、広カッ香顆粒剤の噴霧乾燥工程における乾燥エキス剤の収率を顕著に向上できることを見出した。従来の技術では、通常、β-シクロデキストリンは慣用の医薬品用補助剤として認識され、主に揮発性油の包接に用いられるが、噴霧乾燥の補助剤として用いられることが少ないと考えられている。少数の文献には、その使用量が5%以上であることしか報道されていない。補助剤の使用量が多すぎると、処方顆粒剤における主剤の含有量が影響され、患者の服用量が多くなるだけでなく、工業的生産時にコストが高くなるなど不利な結果につながる。また、本発明の出願人は、広カッ香エキス剤の相対密度も、噴霧乾燥プロセス及び乾燥エキス剤の収率に影響を与える1つの大きな要素であり、相対密度が高すぎたり、低すぎたりすると、噴霧乾燥状況及び乾燥エキス剤の収率がともに影響されるが、相対密度が適切な範囲内であれば、噴霧乾燥中のプロセス制御及び乾燥エキス剤粉末の収率に有利であるということが見出した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0017】
〔実施例1〕
相対密度が1.05(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0018】
〔実施例2〕
相対密度が1.05(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、2%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0019】
〔実施例3〕
相対密度が1.05(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、3%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0020】
〔実施例4〕
相対密度が1.05(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、4%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0021】
〔実施例5〕
相対密度が1.03(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、3%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0022】
〔実施例6〕
相対密度が1.08(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、3%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0023】
〔実施例7〕
相対密度が1.10(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、3%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0024】
〔実施例8〕
相対密度が1.01(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、3%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0025】
〔実施例9〕
相対密度が1.11(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、3%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0026】
〔実施例10〕
相対密度が1.05(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、1.5%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥を行い、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0027】
〔実施例11〕
相対密度が1.05(60℃)である濃縮後の広カッ香エキス剤を取り、次に、6%のβ-シクロデキストリンを加え、均一に混合し、ろ過し、入口温度175℃、出口温度95℃の条件下で噴霧乾燥させ、乾燥エキス剤粉末を収集した。
【0028】
噴霧乾燥状況及び乾燥エキス剤の収率の考察結果
【0029】
【表1】
【0030】
考察結果から分かるように、濃縮乾燥エキス剤粉末の相対密度、補助剤であるβ-シクロデキストリンを使用するか、及びβ-シクロデキストリンの使用量は、噴霧乾燥プロセス及び乾燥エキス剤の収率に大きな影響を与える。相対密度が1.05~1.08であり、β-シクロデキストリンの使用量が3%程度の場合に、噴霧乾燥状況が最も良く、乾燥エキス剤の収率が最も高かった。