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特許7150143発光蛍光体系、その調製方法、及びそれを含む物品
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  • 特許-発光蛍光体系、その調製方法、及びそれを含む物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】発光蛍光体系、その調製方法、及びそれを含む物品
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20220930BHJP
   C09K 11/58 20060101ALI20220930BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20220930BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C09K11/08 J
C09K11/58
C09K11/61
C09K11/64
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021510714
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 US2019048506
(87)【国際公開番号】W WO2020047055
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】62/723,683
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/541,566
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ロウ、カーステン
(72)【発明者】
【氏名】シュウェデルム、ジャン
(72)【発明者】
【氏名】フィッシュべック、ウェー
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-507669(JP,A)
【文献】特表2017-501274(JP,A)
【文献】特開昭49-039586(JP,A)
【文献】特開昭48-022368(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138594(WO,A1)
【文献】特開2011-144243(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0155679(US,A1)
【文献】特表2002-508718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00-11/89
B42D15/02
B42D25/00-25/485
C09D11/00-13/00
B41M1/00-3/18
B41M7/00-9/04
C01G1/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光蛍光体系であって、
複数の別個の発光蛍光体ロットであって、前記複数の発光蛍光体ロットは、
第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、前記第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びに任意選択的に、アルミニウム、マンガン、及び/又は鉄から選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む、第1のロットの発光蛍光体化合物と、
第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、前記第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、及びアルミニウム又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物と、を含み、
前記第1の発光蛍光体化合物及び前記第2の発光蛍光体化合物は、認証装置によって区別可能である、異なる減衰時定数を有する、複数の別個の発光蛍光体ロットを含む、発光蛍光体系。
【請求項2】
複数の発光蛍光体ロットを含む発光蛍光体系の調製方法であって、前記方法は、
第1のロットの第1の発光蛍光体化合物を提供することであって、前記第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びに任意選択的に、アルミニウム、マンガン、及び/又は鉄から選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む、ことと、
第2のロットの第2の発光蛍光体化合物を、認証装置によって区別可能である、前記第1の発光蛍光体化合物とは異なる減衰時定数を有する前記第2の発光蛍光体化合物に基づいて選択することであって、前記第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びにアルミニウム及び/又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む、ことと、を含む、方法。
【請求項3】
発光蛍光体系を含む物品であって、前記物品は、
基材と、前記基材の表面上にある、又は前記基材内に一体化された第1の認証機能部と、を含む、第1の物品であって、前記第1の認証機能部は、第1のロットからの第1の発光蛍光体化合物を含み、前記第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びに任意選択的に、アルミニウム、マンガン、及び/又は鉄から選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む、第1の物品と、
基材と、前記基材の表面上にある、又は前記基材内に一体化された第2の認証機能部と、を含む、第2の物品であって、前記第2の認証機能部は、前記第1の認証機能部とは異なり、第2のロットからの第2の発光蛍光体化合物を含み、前記第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びにアルミニウム及び/又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む、第2の物品と、を含む、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野は、概して、発光蛍光体系、発光蛍光体系の調製方法、及び発光蛍光体系を含む物品に関する。より具体的には、技術分野は、硫化亜鉛系発光蛍光体化合物を含む発光蛍光体系、発光蛍光体系の調製方法、及び発光蛍光体系を含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
発光タガント又は発光蛍光体化合物は、外部エネルギー源によって化合物が励起される際に赤外、可視、及び/又は紫外スペクトルにおいて検出可能な量の放射線を放出することができる化合物である。発光蛍光体化合物の化学的性質により、化合物が、特定の発光特性及びその励起エネルギーに特有の波長を有することがある。当然ながら、化学的性質に勝る様々な要因も発光蛍光体化合物の発光及び/又は励起ダイナミクスに影響を及ぼし得ることを理解されたい。
【0003】
観察可能な発光を生じさせる特定の発光蛍光体化合物に関して、その発光における高いスペクトルエネルギー含量(又は発光出力)のスペクトル位置(すなわち、その「スペクトルシグネチャ」)は、他の化合物からの発光蛍光体化合物を一意に特定するために使用され得る。減衰時間など発光の時間的挙動はまた、発光蛍光体化合物を互いに一意に識別するために使用されてよい。発光蛍光体化合物の減衰時間は、化合物の減衰時定数(Tau)に基づいている。Tau値は、発光蛍光体化合物からの経時的な発光の強度の関数であり、経時的な発光強度の複数の測定値を得て、測定発光強度対時間測定値を曲線に当てはめることによってTauを決定することができる。例えば、発光強度の単純な指数関数的減衰の場合、減衰時定数は、以下の式において定数τ(Tau)によって表すことができる。
I(t)=I-t/τ (式1)
式中、tは時間を示し、Iは時間tにおける発光強度を示し、Iはt=0(例えば、t=0は、励起放射線の供給が中断された瞬間に対応してよい)における発光強度を意味する。場合によっては、減衰の指数関数的性質に起因して、Tauを決定することは困難であり得るが、一般に、励起中断後の所定の時間間隔(例えば、0.5ms後、1ms後、1.5ms後など)で、異なる発光蛍光体化合物の発光強度の低下を比較することによって、Tau値、つまり減衰時間の近似値を求めることは可能である。
【0004】
一部の発光蛍光体化合物は、その一意のスペクトル特性及び/又は時間特性により、特定の値又は重要度の物品(例えば、紙幣、パスポート、生体サンプルなど)の認証又は識別で用いるのに好適となる。したがって、周知のスペクトルシグネチャ及び/又は時間特性を有する発光蛍光体化合物は、様々なタイプの物品に組み込まれて、かかる物品の偽物若しくは偽造コピーを検出する又はかかる物品を識別し追跡する能力を高めてきた。例えば、発光タガントは、物品を認証又は追跡するプロセスで分析され得る添加剤、コーティング、及び印刷ないしは別の方法で適用された機能部の形態で様々なタイプの物品に組み込まれてきた。
【0005】
発光蛍光体化合物を含む物品は、特別に設計された認証装置を使用して認証され得る。特に、製造業者は、周知の発光蛍光体化合物をその「真正」物品に組み込んでよい。かかる物品の真正性を検出するように構成された認証装置は、認証発光蛍光体化合物に関連した、吸収性励起エネルギーの波長及び発光のスペクトル特性についてのナレッジ(例えば、記憶された情報及び/又は様々なスペクトルフィルタ)を有するであろう。認証用のサンプル物品が与えられると、認証装置は、直接的又は間接的に所望の発光をもたらす発光蛍光体化合物の吸収特性の周知の波長と一致する波長を有する励起エネルギーに物品を曝露する。認証装置は、物品によって生じ得る何らかの発光のスペクトルパラメータを感知し、特性化する。検出した発光のスペクトル信号が、認証発光蛍光体化合物(「検出パラメータ空間」と呼ばれる)に一致する検出装置の認証パラメータ値域内であるとき、物品は真正と見なされ得る。逆に、認証装置が検出パラメータ空間内で予想された信号を感知するのに失敗すると、物品は不正と見なされ得る(例えば、偽物の又は偽造した物品)。
【0006】
特定用途に対する発光蛍光体化合物の選択は、発光蛍光体化合物の励起ダイナミクスに基づいてよい。UV励起性発光蛍光体化合物は周知であり、一般に、セキュリティ文書又は機械可読文書で使用される。発光ダイオード(LED)技術の向上に伴い、現在では約365nmのピーク発光を有するシャープな励起プロファイルを有するLEDが使用可能であり、したがって、365nmにおいて向上した励起性能を発光蛍光体化合物に提供することが望まれている。励起の向上は、発光蛍光体化合物のより明るい発光強度として現れており、このことは、より少ない発光蛍光体化合物でより大きい発光効果を達成できるために望ましい。
【0007】
発光蛍光体化合物の選択はまた、所望の発光色に基づいてよい。緑色又は青色発光を伴う、365nmを包含する帯域において励起することができる発光蛍光体化合物の1つの特定のクラスは、硫化亜鉛系発光蛍光体化合物である。硫化亜鉛系発光蛍光体化合物は、当該技術分野において既知のように、銅、アルミニウム、マンガン、銀、金、ビスマス、ガリウム、インジウムなど1種以上の金属イオンで活性化される。硫化亜鉛系発光蛍光体化合物を配合して特定色の発光を実現する、又は可視スペクトル内の発光を消さずに、かかる発光蛍光体化合物を改質させる取り組みがなされてきた。しかしながら、発光強度の低下は、硫化亜鉛系発光蛍光体化合物を改質した結果であることが多い。更に、認証用途で発光蛍光体化合物を配合する場合、異なるタイプの類似の物品、例えば、異なる通貨の単位を区別するために使用される系において、複数の異なる発光蛍光体化合物を提供することが一般的に望まれている。色のみに基づいた、発光蛍光体化合物間の差異は、概して不十分であり、時間特性の差異を更に呈する発光蛍光体化合物を提供することが一般的に望まれている。
【0008】
したがって、上記の方法で物品の認証を容易にするために多数の発光蛍光体化合物が開発されているが、UV波長で励起可能な発光蛍光体化合物、特に365nmで優れた励起性能を呈し、時間特性に基づいて区別可能である発光蛍光体化合物を含む発光蛍光体系、及びかかる発光蛍光体系の調製方法を開発することが望ましい。更に、他の望ましい特徴及び特性は、後続の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲を、添付図面及び本背景技術と併せ読むことで明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0009】
本明細書では、発光蛍光体系、発光蛍光体系の調製方法、及び発光蛍光体系を含む物品が提供される。一実施形態では、発光蛍光体系は、複数の別個の発光蛍光体ロットを含む。複数の発光蛍光体ロットは、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物を含む。第1のロットの第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びに任意選択的に、アルミニウム、マンガン、及び/又は鉄から選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。第2のロットの第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びにアルミニウム及び/又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、認証装置によって区別可能である、異なる減衰時定数を有する。
【0010】
別の実施形態では、複数の発光蛍光体ロットを含む発光蛍光体系の調製方法が提供される。本方法に従って、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物が提供される。第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びに任意選択的に、アルミニウム、マンガン、及び/又は鉄から選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。第2のロットの第2の発光蛍光体化合物は、第1の発光蛍光体化合物とは異なる減衰時定数を有する第2の発光蛍光体化合物に基づいて選択され、異なる減衰時定数は、認証装置によって区別可能である。第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びにアルミニウム及び/又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。
【0011】
別の実施形態では、発光蛍光体系を含む物品が提供される。この物品は、第1の物品と、第2の物品とを含む。第1の物品は、基材と、基材の表面上にある又は基材内に一体化された、第1の認証機能部とを含む。第1の認証機能部は、第1のロットからの第1の発光蛍光体化合物を含む。第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びに任意選択的に、アルミニウム、マンガン、及び/又は鉄から選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。第2の物品は、基材と、基材の表面上にある又は基材内に一体化された、第2の認証機能部とを含む。第2の認証機能部は、第1の認証機能部とは異なり、第2のロットからの第2の発光蛍光体化合物を含む。第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びにアルミニウム及び/又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示は以下の図と併せて以下で説明され、同様の番号は同様の要素を示す。
【0013】
図1】銅及びアルミニウム含量(百万分の1単位)に基づいて、MINITAB 17統計ソフトウェアパッケージを用いて計算された、硫化亜鉛、アルミニウムイオン、及び銅イオンを含む様々な発光蛍光体化合物の減衰時定数を示すコンター図である。
【0014】
図2】発光蛍光体化合物中に存在する銅及びアルミニウム及び/又はマンガンの様々な組み合わせに基づいた、硫化亜鉛を含む様々な発光蛍光体化合物の365nm励起における相対発光強度を示すグラフである。
【0015】
図3】一実施形態による発光蛍光体系を含む発光物品である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明は、本質的に例示に過ぎず、発光蛍光体系、発光蛍光体系の調製方法、又は発光蛍光体系を含む物品を制限することを意図するものではない。更に、前述の背景技術又は以下の詳細な説明で提示される、いずれの理論によっても拘束されることは意図していない。
【0017】
本明細書では、発光蛍光体系、発光蛍光体系の調製方法、及び発光蛍光体系を含む物品が提供される。発光蛍光体系は、複数の別個の発光蛍光体ロットを含み、各別個のロットは、硫化亜鉛に基づいた、異なるタイプの発光蛍光体化合物を含む。各ロットにおける異なるタイプの発光蛍光体化合物は、認証装置によって区別可能である、異なる減衰時定数を有し、別個の発光蛍光体ロットは、少なくとも減衰時定数の差異に基づいて互いに区別され得る。特に、発光蛍光体化合物中で金属イオンの様々な組み合わせを様々な量で用いると、硫化亜鉛を含む発光蛍光体化合物の減衰時定数が変化し得ることが認識された。更に、銅に加えて二次イオンとして特定の金属イオンを含めると、減衰時定数は低下し得るが、365nmでの励起下で発光強度は中立のままであるか、又は増加することが見出された。例えば、アルミニウムイオンを含めると、減衰時定数は減少するが、発光強度は中立のままであるか、又は増加することが見出された。したがって、発光蛍光体化合物が硫化亜鉛に基づいているために、UV波長において励起可能であり、時間特性に基づいて区別可能であり、発光強度に悪影響を及ぼすことなく短縮された減衰時定数の一意の組み合わせを呈し得る、発光蛍光体化合物を含む発光蛍光体系が実現される。
【0018】
上に言及したように、発光蛍光体系は、複数の別個の異なる発光蛍光体ロットを含む。より具体的には、別個の発光蛍光体ロットは、異なる発光蛍光体化合物を有し、異なる発光特性を呈する。この点に関して、以下に更に詳細に記載するように、異なる認証機能部を区別可能にするために、異なる認証機能部では、異なるロットの発光蛍光体系が用いられ得る。別個の異なる発光蛍光体ロットを含む発光蛍光体系を提供することにより、別個の認証機能部を提供する柔軟性を容易に実現することができる。
【0019】
複数の別個の発光蛍光体ロットは、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物と、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物とを含むが、多数の追加ロットの追加の別個の発光蛍光体化合物が提供されてよいことを理解されたい。第1のロット第1の発光蛍光体化合物は、主として第1の発光蛍光体化合物を含み、他の発光蛍光体化合物を実質的に排除する。例えば、いくつかの実施形態では、第1のロットの第1の発光化合物は、第1の発光蛍光体ロット中に存在する全ての発光蛍光体化合物の総重量に基づいて、少なくとも99重量%の第1の発光蛍光体化合物を含む。他の非発光蛍光体成分が、任意選択的に第1の発光蛍光体ロット内に存在してよいことを理解されたい。
【0020】
第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、ハロゲンイオン、並びに任意選択的に、アルミニウム、マンガン、及び/又は鉄から選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。ハロゲンイオンは、以下に更に詳細に記載するように、ハロゲン含有フラックスが用いられている第1の発光蛍光体化合物を製造した結果として、第1の発光蛍光体化合物中に存在する残留イオンである。いくつかの実施形態では、第1の発光蛍光体化合物は、少なくとも1種の追加金属イオンを含まない。すなわち、第1の発光蛍光体化合物は、銅イオン及び亜鉛イオンのみを含む。この実施形態では、銅イオンは、明らかな灰色の第1の発光蛍光体化合物をもたらす量まで(例えば、約2000ppmまで)存在してよい。他の実施形態では、第1の発光蛍光体化合物は、第1の発光蛍光体化合物の減衰時定数及び発光強度を変更する効果を有する、少なくとも1種の追加金属イオンを含む。イオンの濃度は、本明細書では、第1の発光化合物の合成前の原料ブレンド中の硫化亜鉛の重量に基づいて質量又は重量ppmで記載される。より具体的には、第1の発光蛍光体に含まれる硫化亜鉛の重量は原料ブレンド中で決定され、硫化亜鉛の重量は、最終的な第1の発光蛍光体における重量に非常に類似すると考えられ得るが、第1の発光蛍光体化合物の合成中に材料が蒸発し得るため、偏差が生じ得る。いくつかの実施形態では、第1の発光蛍光体化合物は、合成中に硫化亜鉛に添加され、硫化亜鉛の重量に基づいて重量ppmで表される、約600~約2000重量ppm(硫化亜鉛の重量に基づいて約0.0006重量%~約0.002重量%の10進値に相当する)の量の銅を含む。第1の発光蛍光体化合物は、アルミニウム、マンガン、及び/又はイオンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを更に含み、また、第1の発光蛍光体化合物を製造した結果として存在したままであるハロゲンイオンを含む。銅の量は、あるいは約600ppm~約1800ppm、又は約900~約1800ppm、又は約1200~約1800ppmであり得る。より多量の銅は、365nm励起におけるより高い発光強度及びより短い減衰時定数と相関することが見出されたが、銅の量は、第1の発光蛍光体化合物が明らかに灰色であることを回避するために約2000ppmに制限されることが見出された。
【0021】
存在する場合、少なくとも1種の追加金属イオンの量は、少なくとも1種の追加金属イオンのタイプに応じて異なってよい。しかしながら、アルミニウムは、銅のみで実現することができるよりも短い減衰時定数に寄与することができ、マンガン及び鉄イオンは、365nm励起における発光強度に対して異なる効果を有する。一実施形態では、少なくとも1種の追加金属イオンはアルミニウムを含み、銅と等量の銅のみを含む同等の発光蛍光体化合物と比較して、減衰時定数の短縮及び365nm励起における発光強度の増加の両方を達成する。図1は、発光蛍光体化合物中に存在する、相対量の銅及びアルミニウムに基づいた減衰時定数に対する影響を示し、図1に関する詳細は、以下で更に詳細に説明する。アルミニウムが第1の発光蛍光体化合物中に存在する実施形態では、アルミニウムは、約1000~約4000ppm、又は約2000~約4000ppmなど、0超~約4000ppmの量で存在してよく、アルミニウムの量は約4000ppmに制限されて、第1の発光蛍光体化合物の取り扱いの困難さを回避してよい。
【0022】
別の実施形態では、少なくとも1種の追加金属イオンは、単独で又はアルミニウムに加えてのいずれかでマンガンを含む。マンガンの量を増加させた場合、マンガンは、365nm励起において、発光蛍光体化合物の発光強度に対して中立である、又は発光強度を減少させる、のいずれかである。図2は、発光蛍光体化合物中に存在する銅、アルミニウム、及び/又はマンガンの様々な組み合わせに基づいた、様々な発光蛍光体化合物の365nm励起における相対発光強度を示しており、図2に関する詳細は、以下で更に詳細に説明する。いくつかの実施形態では、マンガンは、365nm励起において発光強度に対して中立であり、0超~500ppmの量で存在する。他の実施形態では、マンガンは、約500~約1000ppm、又は約1000~約5000ppmなどより多くの量で存在し、365nm励起における第1の発光蛍光体の強度を低下させる。例えば、5000ppmのマンガンでは、約50%の強度の低下が観察され得、これは、一部の用途において望ましい効果であり得る。更なる実施形態では、少なくとも1種の追加金属イオンは、単独で又はアルミニウム及び/若しくはマンガンに加えて鉄を含む。上記の観察結果に基づいて、前述の追加金属イオンの任意の組み合わせは、減衰時定数及び発光強度に寄与する。
【0023】
上に言及したように、発光蛍光体系は、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物を更に含む。第1の発光蛍光体化合物と同様に、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、銅イオン、及びハロゲンイオンを含む。更に、第2の発光蛍光体化合物は、アルミニウム及び/又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを含む。発光蛍光体系内の第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、任意の所与の発光蛍光体系におけるそれぞれの第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物のそれぞれの減衰時定数に基づいて区別可能である。この点に関して、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、一般に、重複するgeniiを包含するが、第1の発光蛍光体化合物は、少なくとも1種の追加金属イオンを含まない発光蛍光体化合物を更に包含するという点で、より幅広い。いくつかの実施形態では、第2の発光蛍光体化合物は、合成中に硫化亜鉛に添加され、硫化亜鉛の重量に基づいて重量ppmで表される、約600~約2000重量ppm(硫化亜鉛の重量に基づいて約0.0006重量%~約0.002重量%の10進値に相当する)の量の銅を含む。第2の発光蛍光体化合物は、合成中に硫化亜鉛に添加され、硫化亜鉛の重量に基づいて重量ppmで表される、0超~約4000ppm(硫化亜鉛の重量に基づいて約0.004重量%の10進値に相当する)の量のアルミニウム及び/又はマンガンから選択される少なくとも1種の追加金属イオンを更に含む。第2の発光蛍光体化合物は、第2の発光蛍光体化合物を製造した結果として依然として存在するハロゲンイオンを更に含む。第2の発光蛍光体化合物中の銅の量は、あるいは約600ppm~約1800ppm、又は約900~約1800ppm、又は約1200~約1800ppmであり得る。一実施形態において、少なくとも1種の追加金属イオンはアルミニウムを含み、アルミニウムは、約1000~約4000ppm、又は約2000~約4000ppmなど0超~約4000ppmの量で存在してよい。別の実施形態では、少なくとも1種の追加金属イオンは、単独で又はアルミニウムに加えてのいずれかでマンガンを含む。いくつかの実施形態では、マンガンは、365nm励起において発光強度に対して中立であり、0超~500ppmの量で存在する。他の実施形態では、マンガンは、約1000~約5000ppm、又は約1000~約3000ppmなどのより多くの量で存在し、365nm励起における第2の発光蛍光体の強度を低下させる。
【0024】
それぞれの発光蛍光体化合物が、認証装置によって区別可能である、異なる減衰時定数を有することを条件として、第1のロット及び第2のロットでは様々な組み合わせの発光蛍光体化合物が提供されてよい。それぞれのロットにおいて、全てが硫化亜鉛及び銅イオンを含むが、異なる減衰時定数を有する、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物を提供することにより、類似の化学的性質を含み、類似の可視発光(可視緑色又は青色帯域の発光など)をもたらすが、区別すること及び認証分野の様々なソリューションを可能にする、区別可能な時間特性を有する発光蛍光体化合物の様々な組み合わせが可能である。
【0025】
従来の認証装置を用いて減衰時定数間の差を決定できることを条件として、第1の発光蛍光体化合物の減衰時定数と第2の発光蛍光体化合物の減衰時定数との差異は限定されない。減衰時定数、つまりTauは、365nmを中心とする電磁放射線をもたらす光源で発光蛍光体化合物を励起し、励起光源をオフにし、発光蛍光体化合物からの発光強度を経時的に測定することによって測定することができる。例えば、一実施形態では、シリコン系検出装置及びオシロスコープを用いて、励起光源をオフにしてから0.5ms毎など、ミリ秒スケールの時間間隔で強度を決定してよい。経時的に複数のデータ点を得て、電圧対時間グラフ上にプロットしてよい。発光蛍光体化合物の減衰速度を決定するために、データ点の電圧対時間のグラフに曲線を適合させてよい。例えば、発光強度の単純な指数関数的減衰の場合、減衰時定数は、以下の式において定数τ(Tau)によって表すことができる。
I(t)=I-t/τ (式1)
式中、tは時間を示し、Iは時間tにおける発光強度を示し、Iはt=0(例えば、t=0は、励起放射線の供給が中断された瞬間に対応してよい)における発光強度を意味する。実施例で提供されるように、Tau値を計算するために使用される一実施形態では、Tauは、励起中断後3ms及び8msで測定された、ベースライン補正された強度に基づいて算出される(グラフごとにベースライン補正が適用された)。場合によっては、減衰の多次指数関数的性質に起因して、Tauを決定することは困難であり得るが、一般に、励起中断後の所定の時間間隔(例えば、0.5ms後、1ms後、1.5ms後など)で、異なる発光蛍光体化合物の発光強度の低下を比較することによって、Tau値、つまり減衰時間の近似値を求めることは可能である。いくつかの実施形態では、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、少なくとも0.1ms異なる、あるいは少なくとも0.5ms異なる、あるいは少なくとも1.0ms異なる減衰時定数を有する。
【0026】
それぞれのロットにおいて、全てが硫化亜鉛及び銅イオンを含むが、異なる減衰時定数を有する、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物を提供することにより、類似の化学的性質を有し、類似の可視発光(可視緑色、オレンジ、又は青色帯域の発光など)をもたらすが、区別すること及び認証分野の様々なソリューションを可能にする、区別可能な時間特性を有する発光蛍光体化合物の様々な組み合わせが可能である。いくつかの実施形態では、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、実質的に同量のアルミニウム及び異なる量の銅を有する。他の実施形態では、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、実質的に同量の銅及び異なる量のアルミニウムを有する。更なる例では、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、異なる量のアルミニウム及び異なる量の銅を有する。類似の組み合わせはまた、アルミニウムが存在する又は存在しない、第1の発光蛍光体化合物と第2の発光蛍光体化合物との間でそれぞれの量のマンガンにも適用される。
【0027】
限定することを意図するものではないが、複数の別個の発光蛍光体ロットを含む発光蛍光体系の例としては、以下の組み合わせが挙げられる。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約900ppmの量の銅イオンと、0~約2000ppm未満の量のアルミニウムイオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約900~約1800ppmの量の銅イオンと、2000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物は4.0ms未満の減衰時定数を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約900ppmの量の銅イオンと、0~約2000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約1200~約1800ppmの量の銅イオンと、2000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物は4.0ms超の減衰時定数を有し、かつ/又は第2のロットの第2の発光蛍光体化合物は3.5ms未満の減衰時定数を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約900ppmの量の銅イオンと、0~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約1500~約1800ppmの量の銅イオンと、2000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物は3.5ms未満の減衰時定数を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約1200ppmの量の銅イオンと、0~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約1500~約1800ppmの量の銅イオンと、2000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物は3.5ms超の減衰時定数を有し、かつ第2のロットの第2の発光蛍光体化合物は3.5ms未満の減衰時定数を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約900ppmの量の銅イオンと、0~約1000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約900~約1800ppmの量の銅イオンと、1000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物が4.0ms未満の減衰時定数を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約1200ppmの量の銅イオンを含み、アルミニウムイオンをほぼ有さない、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約1800ppmの量の銅イオンと、約1000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物は4.5ms超の減衰時定数を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約1400ppmの量の銅イオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約900~約1800ppmの量の銅イオンと、1500~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第2の発光蛍光体化合物は4.0ms未満の減衰時定数を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約1200ppmの量の銅イオンと、0~約2000ppmの量のアルミニウムイオンと、を含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約900~約1800ppmの量の銅イオンと、1000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、365nmでの励起下で少なくとも0.1の減衰時定数の差異を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約900ppmの量の銅イオンと、0~約3000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約1200~約1800ppmの量の銅イオンと、1000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、365nmでの励起下で少なくとも0.1の減衰時定数の差異を有することを条件とする)。
- 第1のロットの第1の発光蛍光体化合物であって、第1の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約600~約1500ppmの量の銅イオンと、0~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物、及び第2のロットの第2の発光蛍光体化合物であって、第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛と、約1500~約1800ppmの量の銅イオンと、1000~約4000ppmの量のアルミニウムイオンとを含む、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物(ただし、第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、365nmでの励起下で少なくとも0.1の減衰時定数の差異を有することを条件とする)。
【0028】
ここで、複数の発光蛍光体ロットを含む発光蛍光体系の調製方法について説明する。発光蛍光体系を調製するために、第1のロットの第1の発光蛍光体化合物が提供され、第1の発光蛍光体化合物は上記のとおりである。第1の発光蛍光体化合物は、実質的に銅を含む任意の硫化亜鉛系発光蛍光体であってよく、第1の発光蛍光体化合物は、区別可能な減衰時定数を有する第2の発光蛍光体化合物の特性を確立するための出発点である基本材料を表す。したがって、本方法は、認証装置によって区別可能である第1の発光蛍光体化合物とは異なる減衰時定数を有する第2の発光蛍光体化合物に基づいて、第2のロットの第2の発光蛍光体化合物を選択することを更に含む。第1の発光蛍光体化合物及び第2の発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、金属イオン源、及びハロゲンフラックス材料をブレンドして前駆体ブレンドを形成し、続いて前駆体ブレンドを焼成して発光蛍光体化合物を形成するという従来の技術によって合成されてよい。従来のブレンド条件及び焼成条件を用いて、発光蛍光体化合物を生成してよい。
【0029】
本明細書に記載の発光蛍光体化合物は、発光蛍光体化合物100に加えて、媒質を含む発光材料において用いられてよい。媒質は、インク;インク添加物、糊、液体、ゲル、ポリマー、スラリー、プラスチック、プラスチックベース樹脂、ガラス、セラミック、メタル、布地、木材、繊維、製紙用パルプ、及び紙の群から選択されてもよい。例えば、媒質は、物品の基材を形成するために使用される材料に対応し得るか、又は媒質は、物品基材の表面に適用され得る(例えば、印刷された、コーティングされた、スプレーされた、ないしは別の方法で被着された又は結合された)材料に対応し得るか、又は媒質は、基材内に埋め込まれている機能部(例えば、埋め込まれた機能部、セキュリティスレッドなど)を形成するために使用される材料に対応し得るが、それらに限定されない。前者の場合、発光蛍光体化合物は、例えば、発光蛍光体化合物を媒質と組み合わせ、次に媒質を用いて基材を形成すること、かつ/又は媒質に発光蛍光体化合物の粒子のコロイド分散液を含浸させることによって、基材材料の中に組み込まれ得る。含浸は、例えば、印刷、滴下、コーティング、又は噴霧プロセスによって実行され得る。
【0030】
ここで、図3を参照して発光蛍光体系を含む発光物品の一実施形態について説明する。図3は、例示的な一実施形態例による、あるタイプの発光蛍光体化合物100を含む物品400の断面図を示す。発光蛍光体化合物100は、特定の物品に応じて第1のロットからの第1の発光蛍光体化合物、又は第2のロットからの第2の発光蛍光体化合物のいずれかであってよく、異なる物品は、それぞれ第1の発光蛍光体化合物又は第2の発光蛍光体化合物を含む。本明細書に記載のいくつかの実施形態によると、第1の発光蛍光体化合物又は第2の発光蛍光体化合物を別個に含む、少なくとも第1の物品及び第2の物品が提供され、図3に示される物品400は、第1の物品及び第2の物品の様々な実施形態を表すことを理解されたい。
【0031】
物品400は、基材402及び基材402の表面408上にある又は基材402内に一体化された認証機能部404、406を含み、認証機能部404、406は、発光蛍光体化合物100を含む。例えば、これは、媒質及び発光蛍光体化合物100を物品400の中又はその上に含む発光材料を組み込むことによって達成されてよい。あるいは、発光材料は、基材402のためのベース材料として実際に使用されてもよい。逆に、発光材料が基材402の表面408に適用可能である実施形態では、発光材料は、所定の位置において基材402の1つ以上の表面408に印刷されてもよい。逆に、発光材料が、埋め込まれた認証機能部406に対応するとき、埋め込まれた認証機能部406は、基材材料が展性のある形態であるとき(例えば、材料がスラリー形態、溶融形態、又は未硬化形態のとき)基材材料と一体化されている。上述の方法のうちの任意の1つにおいて、本明細書に記載の発光材料又は発光蛍光体化合物は、物品400に組み込まれてよい。
【0032】
上に言及したように、発光材料は、物品400の中又は上に組み込まれてもよい。特に、この実施形態では、物品400は、表面に適用した及び/若しくは埋め込まれた、発光蛍光体化合物100を含む認証機能部404、406を含んでよく、かつ/又は物品400は、物品400の1つ以上の構成要素内(例えば、基材402及び/又は物品400の1つ以上の層若しくは他の構成要素内)に均一若しくは不均一に分散されている発光蛍光体化合物100の粒子を含んでよい。認証機能部404、406及び発光蛍光体化合物100の粒子の様々な相対寸法は、図3で一定の縮尺ではない場合がある。物品400は、表面に適用した及び/又は埋め込まれた認証機能部404、406並びに発光蛍光体化合物100の粒子の両方を含むように図示されているが、別の物品は、埋め込まれた認証機能部406、表面に適用した認証機能部404、及び発光蛍光体化合物100の分散した粒子のうちの1つ又はこれらの組み合わせを含んでよい。最後に、1つの表面に適用した認証機能部404及び1つの埋め込まれた認証機能部406のみが図3に示されているが、物品は、認証機能部404、406のいずれかのタイプのうちの2つ以上を含んでよい。
【0033】
様々な実施形態において、物品400は、IDカード、運転免許証、パスポート、身元証明書、紙幣、小切手、文書、紙、株券、包装材料成分、クレジットカード、バンクカード、ラベル、シール、商品券、カジノチップ、郵便切手、動物、及び生体サンプルが挙げられるがこれらに限定されない群から選択される任意のタイプの物品であってよい。
【0034】
剛性又は可撓性であり得る基材402は、様々な実施形態において1つ以上の層又は構成成分から形成されてもよい。基材402の様々な構成は、様々な実施形態の発光蛍光体化合物100が無数の異なるタイプの物品と共に使用され得るので枚挙にいとまがない。したがって、単純な単体基材402が図3に示されているが、基材402が様々な異なる構成のうちのいずれかを有し得ることが理解されよう。例えば、基材402は、同じ又は異なる材料の複数の層又は区域を含む「複合」基材であってもよい。例えば、基材402としては、ラミネート加工されて、ないしは別の方法で一緒に結合されて複合基材(例えば、紙層/プラスチック層/紙層又はプラスチック層/紙層/プラスチック層の複合基材)を形成する1つ以上の紙の層又は区域及び1つ以上のプラスチックの層又は区域が挙げられ得るが、それらに限定されない。更に、無生物の固体物品が本明細書で論じられているが、「物品」はまたヒト、動物、生物試料、液体サンプル、及びその中若しくは上に実施形態の発光材料が含まれ得る実質的に他の任意の物体又は材料を含むことが理解されよう。
【0035】
表面に適用した認証機能部404は、例えば、印刷した認証機能部、又はその中若しくはその上に本明細書に記載の発光蛍光体化合物100が含まれる1種以上の剛性若しくは可撓性材料を含む認証機能部であってよいが、それらに限定されない。例えば、表面に適用した認証機能部404としては、発光蛍光体化合物100の粒子を含むインク、顔料、コーティング、又は塗料が挙げられ得るが、これらに限定されない。あるいは、表面に適用した認証機能部404は、その中若しくはその上に発光蛍光体化合物100の粒子が含まれる1種以上の剛性又は可撓性材料を含んでよく、表面に適用した認証機能部404は、次に基材402の表面408に接着され、ないしは別の方法で取り付けられる。様々な実施形態によれば、表面に適用した認証機能部404は、約1マイクロメートル以上の厚さ412を有してもよく、また表面に適用した認証機能部404は、基材402の幅及び長さ以下である幅及び長さを有してもよい。
【0036】
埋め込まれた認証機能部406は、その中若しくはその上に本明細書に記載の発光蛍光体化合物100の粒子が含まれる1種以上の剛性又は可撓性材料を含んでよい。例えば、埋め込まれた認証機能部406は、別々の、剛性若しくは可撓性基材、セキュリティスレッド、又は別のタイプの構造の形態で構成されてもよいが、それらに限定されない。様々な実施形態によれば、埋め込まれた認証機能部406は、最大で基材402の厚さ416までの約1マイクロメートルの範囲の厚さ422を有してもよく、埋め込まれた認証機能部406は、基材402の幅及び長さ以下である幅及び長さを有してもよい。
【0037】
上述したように、発光蛍光体化合物100の粒子は、図3に示されるように基材402内部に、又は他の実施形態では物品400の1つ以上の他の構成要素内(例えば、物品400の1つ以上の層又は他の構成要素内)に、均一又は不均一に分散され得る。発光蛍光体化合物100の粒子は、例えば、前に論じたように、基材402若しくは別の構成要素を形成するために用いられる媒質に発光蛍光体化合物100の粒子を混入することによって、及び/又は基材402若しくは他の構成要素に発光蛍光体化合物100の粒子のコロイド分散液を含浸することによって、基材402又は別の構成要素内に分散されてよいが、それらに限定されない。
【0038】
本明細書に記載の発光蛍光体化合物(例えば、図3の発光蛍光体化合物100)の実施形態の吸収特性及び発光特性は、セキュリティ及び認証機能部と併用しても矛盾することはない。例えば、従来と同様の認証装置を使用すると、発光タガント100、200、300の実施形態は、容易に励起してもよく、また従来の技術によって検出される発光であってもよい。
【0039】
以下の実施例は、上述のように、発光蛍光体系及びその製造方法の説明を補完することを意図するものであり、限定することを意図するものではない。
【実施例
【0040】
発光蛍光体化合物内に硫化亜鉛及び様々な金属イオンを様々な含量で含み、発光蛍光体化合物を調製した結果として存在する残留ハロゲンイオンを含む、異なるロットの発光蛍光体化合物を調製する。発光蛍光体化合物は、硫化亜鉛、塩化銅又は硫酸銅、少なくとも1つの金属イオン源、例えば硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、又は硫酸マンガンなど、及び塩化フラックス材料、例えば塩化ナトリウムなどをブレンドして前駆体ブレンドを形成し、続いて、約600℃~1000℃未満の温度で前駆体ブレンドを焼成して、表Iに示す発光蛍光体化合物を形成することによって調製する。従来のブレンド条件及び焼成条件を用いて、発光蛍光体化合物を生成してよい。
【0041】
第1の発光蛍光体化合物と第2の発光蛍光体化合物との様々な組み合わせの例を、減衰時定数(ΔTau)の近似差と併せて以下の表Iに示す。
【表1】
【0042】
上記の表Iでは、第1の発光蛍光体化合物が銅及び亜鉛イオンのみを含む場合(すなわち、アルミニウム又はマンガンイオンが存在しない実施形態)を除いて、「第1の発光蛍光体化合物」及び「第2の発光蛍光体化合物」という名称は交換可能であり得ることを理解されたい。上記実施例のそれぞれを図1のコンター図にプロットし、減衰時定数間の差異を示す。図1のコンター図のプロットは、MINITAB 17統計ソフトウェアパッケージを用いて計算した。銅イオン含量及びアルミニウムイオン含量を用いて2因子DOEを設定し、中心点(3つの複製)、並びに完全因子設計のエッジ点及び中性点において実験データ点を得た。次いで、応答曲面、つまりコンター図をソフトウェアによって計算した。このモデルの決定係数は96%、調整決定係数は95%であり、データの品質が高いことを示す。
【0043】
図2を参照すると、第1の発光蛍光体化合物と第2の発光蛍光体化合物との様々な組み合わせの更なる実施例が提供されており、365nmを中心とする電磁放射線をもたらすLEDでの励起後の第1の発光蛍光体と第2の発光蛍光体との間の相対強度の差異が経時的に示される。減衰時定数の差異はまた、様々な発光蛍光体化合物の経時的な強度の変化からも生じ得る。実施例のそれぞれの化学的性質は、以下の表IIに提供され、全ての量は百万分率(ppm)で示される。
【表2】
【0044】
前述の詳細な説明で、少なくとも1つの例示の実施形態が提示されてきたが、膨大な数の変更例が存在することを理解されたい。例示の実施形態又は複数の例示の実施形態は、あくまで例示であり、いかなるようにも範囲、適用性、又は構成を制限する意図がないこともまた理解されたい。むしろ、前述の詳細な説明は、当業者らに例示の実施形態を実装するのに簡便なロードマップを提供するだろう。添付の特許請求の範囲に記載される範囲から逸脱することなく、例示の実施形態に説明された要素の機能及び構成に様々な変更を加えることができるものと理解される。
図1
図2
図3