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特許7150144加圧接合用組成物、並びに導電体の接合構造及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】加圧接合用組成物、並びに導電体の接合構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/08 20060101AFI20220930BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220930BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220930BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B22F7/08 C
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 N
H01B1/22 A
H01L21/52 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021511529
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013254
(87)【国際公開番号】W WO2020203530
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2019068288
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穴井 圭
(72)【発明者】
【氏名】山内 真一
(72)【発明者】
【氏名】趙 亭來
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-501657(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115139(WO,A1)
【文献】特開2014-029897(JP,A)
【文献】特開2015-090900(JP,A)
【文献】特開2015-076232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粉と、固体還元剤と、沸点が300℃未満の液媒体とを含む加圧接合用組成物であって、
前記固体還元剤は少なくとも1個のアミノ基及び複数の水酸基を有する化学構造を有し、
前記固体還元剤の含有割合は前記銅粉100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であり、
前記組成物を大気雰囲気下で110℃、大気圧、20分間乾燥して形成した乾燥塗膜の厚みをA(μm)とし、該乾燥塗膜を窒素雰囲気下で280℃、6MPa、20分間処理して形成した焼結体の厚みをB(μm)としたときに、以下の式(X)で表される圧縮率が10%以上90%以下であり、
せん断速度10s -1 及び25℃における粘度が、20Pa・s以上200Pa・s以下である接合部位一括形成用加圧接合用組成物。
圧縮率(%)=((A-B)/A)×100 ・・・(X)
【請求項2】
前記銅粉が扁平状銅粒子を含む、請求項1に記載の加圧接合用組成物。
【請求項3】
前記扁平状銅粒子のアスペクト比(a/b)が2以上80以下である、請求項2に記載の加圧接合用組成物。
【請求項4】
前記銅粉がデンドライト状銅粒子を含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の加圧接合用組成物。
【請求項5】
前記銅粉は、金、銀、パラジウム、アルミニウム、ニッケル及びスズの少なくとも一種を含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の加圧接合用組成物。
【請求項6】
前記固体還元剤がアミノアルコール化合物である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の加圧接合用組成物。
【請求項7】
前記固体還元剤は、以下の化学式(1)又は(2)で表されるアミノアルコール化合物である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の加圧接合用組成物。
【化1】
化学式(1)又は(2)中、R ないしR は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表し、式(2)中、R は、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。
【請求項8】
前記液媒体がポリエチレングリコールを含む、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の加圧接合用組成物。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の加圧接合用組成物を、第1の導電体の表面上に塗布して塗膜を形成し、
前記塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を形成し、
第2の導電体を前記乾燥塗膜上に積層して積層体を得て、然る後に、
前記積層体を窒素雰囲気下で300℃未満、0.001MPa以上で銅粉を焼結させることで、前記第1の導電体と前記第2の導電体とを接合する接合部位を形成する、導電体の接合構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧接合用組成物、並びに導電体の接合構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の世界的な省エネルギー化の流れに伴い、インバータなど電力変換・制御装置としてパワーデバイスと呼ばれる半導体デバイスが盛んに用いられるようになってきている。パワーデバイスは、メモリやマイクロプロセッサといった集積回路と異なり、高電流及び高電圧を制御するためのものなので、駆動時の発熱量が非常に大きくなる傾向にある。したがって、その熱によって半導体素子がダメージを受けないようにするために、半導体パッケージには冷却システムなどの熱対策が要求される。
【0003】
また、半導体素子の高効率化及び省スペース化を実現するために、セラミックス板の両面に銅を配置した接合体上に複数の半導体素子が搭載されたパワーモジュールと呼ばれる電子部品が用いられている。しかし、パワーモジュールは小型化するにつれて、駆動時の熱がこもりやすくなってしまうため、はんだ材料等の耐熱性が低い接合材料を用いた場合、十分な信頼性が得られないことがあった。
【0004】
このような不具合を解決すべく、はんだ材料に代わる、銀や銅などの金属を焼結させた接合材料が注目されている。例えば、特許文献1には、サブマイクロ銅粒子及びフレーク状銅粒子と、分散媒とを含む接合用銅ペーストが開示されている。同文献には、このペーストと部材との積層体を無加圧で焼結して、接合体を製造できることも開示されている。
【0005】
また特許文献2には、基板と、チップと、銀や銅などの金属粒子を含む焼結前層とを有する焼結前積層体を加圧下で加熱して、シート状の焼結体を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】EP3348337 A1
【文献】US2018/273808 A1
【発明の概要】
【0007】
特許文献1に記載の無加圧による接合方法では、流動性が維持されているペーストを塗布した後に半導体素子を載置して焼結させる必要があり、この状態で焼結させると、焼結時の温度上昇によってペースト中の溶媒がガス化してしまう。その結果、接合部位にボイドが生じたり、ペーストが導電体間の意図しない部位に流出したり、ペーストの焼結体からなる接合部位の厚みが不均一となりうる。つまり、半導体素子の傾斜現象(チップチルト)が生じやすくなり、その結果、半導体パッケージの信頼性の低下の要因となる。
【0008】
また特許文献2に記載の方法は、加圧による接合方法であるが、シート状の材料を取り扱うため、新たな設備や製造工程を導入する必要があり、コスト及び生産効率の観点から好ましくない。また同文献の接合方法では、半導体素子などの導電体を一括して複数接合する場合の接合強度は何ら検討されていない。
【0009】
したがって、本発明の課題は、接合部位を一括して複数形成したときに高い接合強度を安定的に発現できる加圧接合用組成物及びこれを用いた導電体を提供することにある。
【0010】
本発明は、金属粉と、固体還元剤とを含む加圧接合用組成物であって、
前記組成物を大気雰囲気下で110℃、大気圧、20分間乾燥して形成した乾燥塗膜の厚みをA(μm)とし、該乾燥塗膜を窒素雰囲気下で280℃、6MPa、20分間処理して形成した焼結体の厚みをB(μm)としたときに、以下の式(X)で表される圧縮率が10%以上90%以下である、加圧接合用組成物を提供するものである。
圧縮率(%)=((A-B)/A)×100 ・・・(X)
【0011】
また本発明は、前記加圧接合用組成物を、第1の導電体の表面上に塗布して塗膜を形成し、
前記塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を形成し、
第2の導電体を前記乾燥塗膜上に積層して積層体を得て、然る後に、
前記積層体を窒素雰囲気下で300℃未満、0.001MPa以上で金属粉を焼結させることで、前記第1の導電体と前記第2の導電体とを接合する接合部位を形成する、導電体の接合構造の製造方法を提供するものである。
【0012】
更に本発明は、前記加圧接合用組成物に含まれる金属粉が焼結されてなる接合部位を有する導電体の接合構造であって、
2つの導電体が前記接合部位によって電気的に接続されており、
前記接合部位は銅を含み、
前記接合部位に以下の構造(3)が形成されてなる、導電体の接合構造を提供するものである。
【化1】

(式中、RないしRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表し、*は銅との結合部位を表す。)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の加圧接合用組成物は、金属粉と、固体還元剤とを含み、2つの導電体を加圧接合するために好適に用いられるものである。加圧接合用組成物は、これを2つの導電体間に介在させ、その状態下に焼結させることで導電膜となり、2つの導電体を接合させるとともに導通させる。本発明でいう「加圧」とは、接合対象の部材に対して、0.001MPa以上の圧力を部材の外部から意図的に加えることをいい、大気圧の変化や導電体等の部材の自重に起因した圧力負荷のみからなるものを除く趣旨である。後述する乾燥塗膜の割れや破壊を防止する観点から、加える圧力は好ましくは20MPa以下である。
【0014】
本発明の加圧接合用組成物は、これを大気圧で乾燥したときに形成される乾燥塗膜の厚みと、該乾燥塗膜に対して所定の処理をして形成した焼結体の厚みとが所定の関係を有していることを特徴の一つとしている。詳細には、金属粉と固体還元剤とを含む加圧接合用組成物を、大気雰囲気下で110℃、大気圧、20分間処理して形成した乾燥塗膜の厚みをA(μm)とし、該乾燥塗膜を窒素雰囲気下で280℃、6MPa、20分間処理して形成した焼結体の厚みをB(μm)とする。このとき、以下の式(X)で表される圧縮率が、好ましくは10%以上90%以下である。
圧縮率(%)=((A-B)/A)×100 ・・・(X)
【0015】
本発明の加圧接合用組成物が上述した物性を有していることによって、加圧接合用組成物を基板等の導電体に塗工して形成した塗膜は、嵩高な構造を有する緩衝材のような層となる。このような塗膜を介して導電体どうしを加圧接合させることによって、接合対象となる導電体の厚みのばらつきの影響を受けにくい状態で導電体どうしを十分に接合することができる。その結果、例えば、導電体の面積が大きい場合や、半導体素子などの小型の導電体を複数個同時に加圧接合させる場合であっても、導電体の大きさや配置位置に依存せず、導電体どうしを密着性が高く且つ安定的に接合できるとともに、接合強度が高いものとなる。この効果を一層顕著なものとする観点から、上述の式(X)で表される圧縮率は、より好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上である。一方、上限としてより好ましくは85%、更に好ましくは75%である。
【0016】
上述した乾燥塗膜の厚みA、及び焼結体の厚みBは、以下の方法で測定することができる。
乾燥塗膜の厚みAは、例えば干渉顕微鏡等を用いることで、プローブ接触による膜厚変化の影響を受けずに、非接触状態で測定することができる。具体的には、加圧接合用組成物を10mm四方の寸法となるように導電性基板(20mm四方)の中央に塗布して塗膜とし、該塗膜を上述の条件で乾燥して乾燥塗膜とする。乾燥塗膜が一方の面に形成された基板について、Zygo社の3Dプロファイラーを用い、乾燥塗膜周囲の枡状のエリア(基板中央の15.0mm四方から12.5mm四方までの、乾燥塗膜のないエリア)にて、水平方向に縦横5.9μmピッチで基板厚みデータを複数抽出して基板平均厚みD1を計測する。続いて、基板中央の5mm四方のエリアにて、水平方向に縦横5.9μmピッチで乾燥塗膜と基板との合計厚みデータを複数抽出して平均厚みD2を計測する。かかる平均厚みD2から平均厚みD1を差し引いた値を、乾燥塗膜の厚みAとする。
【0017】
また、焼結体の厚みBは、乾燥塗膜を上述の条件で処理して得られた焼結体をその平面方向に対して鉛直に、導電性基板の中央部まで研磨した後、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、厚みを実測することで測定することができる。具体的には、二つの導電体の間に焼結体が配された接合構造を例にとると、該接合構造を樹脂で包埋し、研磨紙により一方の導電体の中央部まで平面方向に対して鉛直に機械研磨を行い、その後、クロスセクションポリッシャでArによりイオン研磨を行い、焼結体断面を露出させる。露出した焼結体断面をSEMにより観察し、視野内で観察される最小の厚みを焼結体の厚みをBとする。
【0018】
圧縮率の算定のもととなる乾燥塗膜の厚みAは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。また乾燥塗膜の厚みAは、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが更に好ましい。
【0019】
焼結体の厚みBは、乾燥塗膜の厚みAよりも薄いことを条件として、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。また焼結体の厚みBは、350μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることが更に好ましい。このような乾燥塗膜及び焼結体は、例えばこれらの膜を形成するために用いられる組成物に含まれる金属粒子の形状やその含有量、或いは後述する固体還元剤の含有割合を変更することによって適宜調整することができる。
【0020】
加圧接合用組成物に含まれる金属粉は、金属粒子の集合体からなる。以下の説明において、金属粉は、文脈に応じ金属粒子のことを指すか、あるいは金属粒子の集合体のことを指す。
【0021】
金属粉は、金、銀、銅、パラジウム、アルミニウム、ニッケル及びスズの少なくとも一種の金属を含むことが好ましい。これらの金属の含有態様としては、例えば、実質的に単一の金属からなる金属粒子の集合体、実質的に単一の金属からなる金属粒子が複数種類混合された集合体、或いは互いに異なる金属からなる金属粒子が複数種類混合された集合体であり得る。
【0022】
コストの低減と接合構造の耐熱性の向上とを両立する観点から、上述の金属のうち、銀、銅、ニッケル及びスズの少なくとも一種の金属を含むことがより好ましい。また、金属粉が銅を含む場合、導電性を向上させる観点から、焼結体中の金属成分として銅を70質量%以上含むことが好ましい。なお、金属粉が複数の金属種を含む態様である場合、銅の含有量は、複数の金属の合計質量を基準として算出する。また、本発明の効果を損なわない範囲で、金属粉が不可避不純物を含有することは許容される。
【0023】
本発明に用いられる金属粉を構成する金属粒子の形状は、例えば、球状、扁平状(フレーク状)、デンドライト状(樹枝状)、棒状等であり、これらを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。金属粒子の形状は、その製造方法に依存する。例えば湿式還元法やアトマイズ法を用いた場合には球状の粒子が得られやすい。電解還元法を用いた場合にはデンドライト状や棒状の粒子が得られやすい。扁平状の粒子は、例えば球状の粒子に機械的な外力を加えて塑性変形させることで得られる。以下の説明では、球状以外の形状を有する金属粒子を総称して、「非球状金属粒子」ともいう。
【0024】
金属粉は、扁平状の金属粒子を含むことが好ましい。このとき、扁平状の金属粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上あることがより好ましく、0.7μm以上であることが更に好ましい。また扁平状の金属粒子の粒径は、D50で表して、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。このような粒径の粒子を含むことによって、上述の圧縮率を維持しつつ、緻密に焼結した塗膜を形成することができ、導電体どうしの高い接合強度と、導電信頼性の向上とを実現することができる。扁平状とは、粒子の主面を形成している一対の板面と、これらの板面に交差する側面とを有する形状を指し、板面及び側面はそれぞれ独立して、平面、曲面又は凹凸面でありうる。
【0025】
50の測定は、例えば以下の方法で行うことができる。すなわち、0.1gの測定試料と分散剤水溶液とを混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製、US-300T)で1分間分散させる。その後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置として、例えばマイクロトラックベル製MT3300 EXIIを用いて粒度分布を測定する。本測定方法は、後述する非球状金属粒子にも適用可能である。
【0026】
金属粉が扁平状の金属粒子を含む場合、扁平状金属粒子は、短軸bの長さに対する長軸aの長さの比(以下、これをアスペクト比(a/b)ともいう。)が2以上であることが好ましく、5以上であることが好ましい。また、アスペクト比は、80以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましい。このような形状の粒子を更に含むことによって、上述の圧縮率を維持しつつ、緻密に焼結した塗膜を形成することができ、導電体どうしの高い接合強度と、導電信頼性の向上とを実現することができる。
【0027】
扁平状金属粒子における長軸a及び短軸bの長さは、以下のようにして求める。即ち、測定対象の粒子を、板面に水平な方向において360度回転させながら、各二次元投影像における仮想的な外接長方形を考えたときに、その中で外接長方形の一辺が最大となるものについて、その長辺を長軸aとする。一方、測定対象の粒子を、板面に鉛直な方向において360度回転させながら、各二次元投影像における仮想的な外接長方形を考えたときに、その中で外接長方形の一辺が最大となるものを長辺とした際の、その短辺を短軸bとする。同様にして、当該粒子を無作為に50個以上選んで長軸a及び短軸bをそれぞれ測定し、これらの算術平均値から求める。
【0028】
また金属粉は、扁平状金属粒子に加えて、又は該金属粒子に代えて、デンドライト状の金属粒子を含むことが好ましい。このような粒子を含むことによって、塗膜が嵩高な構造となるので、加圧接合の際に、接合対象の導電体の厚みのばらつきの影響を一層低減して、導電体どうしの高い接合強度を発現させることができる。デンドライト状粒子は、例えば特開2013-53347号公報に記載のものを用いることができる。
【0029】
デンドライト状金属粒子の粒径は、上述の方法で測定されるD50で表して、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることが更に好ましい。またデンドライト状金属粒子の粒径は、D50で表して、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。デンドライト状粒子の粒径が上述した範囲であることによって、JIS K5101で規定される吸油量を低く抑えて粒子の分散性を高め、組成物中の金属粒子の濃度を高くすることができるとともに、塗膜中での金属粒子どうしの接触点を増加させることができる。その結果、組成物からなる塗膜を焼結したときに密な焼結構造が形成されやすくなる。これに加えて、塗膜の焼結によって形成される接合部位の厚みのコントロールが容易となる点でも有利である。
【0030】
また金属粉は、上述した形状を有する金属粒子に加えて、又はこれらの金属粒子に代えて、棒状の金属粒子を含むことが好ましい。棒状の金属粒子の粒径は、上述の方法で測定されるD50で表して、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることが更に好ましい。また棒状の金属粒子の粒径は、D50で表して、100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。棒状金属粒子の粒径が上述した範囲であることによって、JIS K5101で規定される吸油量を低く抑えて粒子の分散性を高め、組成物中の金属粒子の濃度を高くすることができるとともに、塗膜中での金属粒子どうしの接触点を増加させることができる。その結果、組成物からなる塗膜を焼結したときに密な焼結構造が形成されやすくなる。これに加えて、塗膜の焼結によって形成される接合部位の厚みのコントロールが容易となる点でも有利である。
【0031】
金属粉が棒状の金属粒子を含む場合、金属粒子どうしの接触点を増やして、焼結時に密な焼結構造を形成しやすくする観点から、棒状の金属粒子の短軸cの長さに対する長軸aの長さの比であるアスペクト比(a/c)は、3以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、またアスペクト比は、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。
【0032】
棒状の金属粒子における長軸及び短軸の長さは、以下のようにして求める。即ち、測定対象の粒子を、板面に水平な方向において360度回転させながら、各二次元投影像における仮想的な外接長方形を考えたときに、その中で外接長方形の一辺が最大となるものについて、その長辺を長軸aとし、その短辺を短軸cとする。なお、上述した長軸a、短軸b及び短軸cの測定は、例えばマウンテック社製Mac-Viewにより行うことができる。
【0033】
また金属粉は、上述した形状を有する粒子に加えて、又はこれに代えて、球状の金属粒子を含むことが好ましい。球状の金属粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡観察の画像解析によって測定された累積体積50容量%における体積累積粒径DSEM50で表して、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましい。また球状の金属粒子の粒径は、DSEM50で表して、200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましい。このような構成となっていることによって、塗膜中の金属粒子を比較的低温の条件でも十分に焼結させることができ、また塗膜の焼結によって得られる接合部位の強度を高めることができる。
【0034】
SEM50は、球状の金属粒子の走査型電子顕微鏡像から、無作為に50個以上選んで粒径(ヘイウッド径)を測定し、次いで、得られた粒径から、粒子が真球であると仮定したときの体積を算出し、該体積の累積体積50容量%における体積累積粒径をDSEM50とする。
【0035】
具体的には、マウンテック社製Mac-Viewを用い、金属粒子の画像データを読み込んだ後、データ上の金属粒子を無作為に50個以上選んで、該粒子の粒径(ヘイウッド径)、該粒子の二次元投影像の面積S、及び該粒子の二次元投影像の周囲長Lをそれぞれ測定する。次いで、得られたヘイウッド径から、粒子が真球であると仮定したときの体積を算出し、該体積の累積体積50容量%における体積累積粒径をDSEM50とする。
【0036】
また、金属粒子が球形であるか否かは、上述の方法で無作為に選んだ各粒子の面積Sと周囲長Lとから円形度係数4πS/Lを算出し、さらにその算術平均値を算出する。円形度係数の算術平均値が0.85以上、好ましくは0.90以上である場合に、金属粒子が球状であると定義する。
【0037】
上述した粒子形状のうち、金属粉は、球状の金属粒子と、扁平状金属粒子、デンドライト状金属粒子及び棒状金属粒子のうち少なくとも一種とを組み合わせて含むことがより好ましく、球状の金属粒子と扁平状金属粒子とを組み合わせて含むことが更に好ましい。このように、球状金属粒子と非球状金属粒子とを組み合わせて用いることによって、粒子間の空隙を少なくして、塗膜中に金属粒子を高密度に充填させることができるので、金属粒子どうしの接触点をより増加させることができる。その結果、組成物からなる塗膜を焼結したときに密な焼結構造が容易に形成されやすくなり、該構造の強度がより一層向上する。
【0038】
加圧接合用組成物に含まれる固体還元剤は、1気圧、室温(25℃)において固体であり、該組成物に含まれる金属粒子どうしの焼結を促進させるために用いられる。この目的のために、固体還元剤は少なくとも1個のアミノ基及び複数の水酸基を有する化学構造のものであることが有利である。このような構造を有する還元剤を用いることで、複数の水酸基を有するもののアミノ基を含まない還元剤と比較して、焼結時における金属粒子の酸化を抑制することができるので、金属粒子どうしが焼結した緻密な焼結構造を得ることができる。「1気圧、室温(25℃)において固体」とは、1気圧での固体還元剤の融点が25℃超であることを指す。
【0039】
固体還元剤の融点は、金属粉の焼結温度以下であることが好ましい。また、固体還元剤の沸点は、後述する液媒体の沸点よりも高いことも好ましい。このような物性を有する固体還元剤を用いることによって、該固体還元剤は、加圧接合用組成物の乾燥時(加圧接合用組成物の塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を得るとき)において加圧接合用組成物中に固体として残留しつつ、乾燥後の加圧接合用組成物の焼結時(加圧接合用組成物の乾燥塗膜を焼結させるとき)において溶融する。その結果、塗膜の焼結時に、該加圧接合用組成物の乾燥塗膜が加圧されても、2つの導電体間から該接合用組成物がはみ出し難く、厚みの制御が一層容易になるので、接合強度の高い接合構造を得ることができる。また、該加圧接合用組成物の乾燥塗膜を焼結する際に、還元剤が溶融して乾燥塗膜中に均一に広がることにより、金属粉の焼結が均一に促進され、より緻密な焼結構造を有する導電信頼性の高い接合構造を得ることができる。固体還元剤の沸点は、1気圧における温度とする。
【0040】
加圧接合を行ったときの高い接合強度と、加圧接合後の高い導電信頼性とを両立する観点から、固体還元剤は、アミノアルコール化合物であることが好ましく、以下の化学式(1)又は(2)で表されるアミノアルコール化合物であることが更に好ましい。「アミノアルコール化合物」とは、第一級ないし第三級アミンの少なくとも一種のアミンと、第一級ないし第三級アルコールの少なくとも一種のアルコールとを一つの化学構造中に有する有機化合物を指す。
【0041】
【化2】
【0042】
化学式(1)又は(2)中、RないしRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。炭化水素基としては飽和又は不飽和の脂肪族基が挙げられる。この脂肪族基は直鎖状のものであってもよく、あるいは分岐鎖状のものであってもよい。RないしRにおける炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0043】
式(2)中、Rは、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。炭化水素基としては飽和又は不飽和の脂肪族基が挙げられる。この脂肪族基は直鎖状のものであってもよく、あるいは分岐鎖状のものであってもよい。Rにおける炭化水素基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。
【0044】
化学式(1)において、RないしRの少なくとも2つは水酸基を含んでいる。すなわち、RないしRの少なくとも2つは、水酸基であるか、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基である。また式(2)においては、RないしRの少なくとも2つは水酸基を含んでいる。すなわち、RないしRの少なくとも2つは、水酸基であるか、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基である。特に化学式(1)において、RないしRの少なくとも2つは水酸基を有する炭素数1以上4以下の炭化水素基であることが好ましい。また化学式(2)において、RないしRの少なくとも2つは水酸基を有する炭素数1以上4以下の炭化水素基であることが好ましい。この場合、ヒドロキシアルキル基における水酸基は、アルキル基の末端に結合していることが好ましい。
【0045】
化学式(1)で表される還元剤は、金属粒子どうしの焼結性を高める観点から、RないしRのうちの3つ以上が水酸基を含んでいることが好ましく、4つ以上が水酸基を含んでいることがより好ましく、RないしRのすべてが水酸基を含むことが更に好ましい。同様の観点から、化学式(2)で表される還元剤は、RないしRのうちの3つ以上が水酸基を含んでいることが好ましく、4つ以上が水酸基を含んでいることがより好ましく、4つ以上が水酸基を含んでいることが更に好ましい。
【0046】
化学式(1)又は(2)で表されるアミノアルコール化合物の具体例としては、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS-TRIS、融点:104℃、沸点:300℃超、化学式(1)に該当)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール(TRIS、融点:169~173℃、沸点:300℃超、化学式(1)に該当)、1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン(BIS-TRIS propane、融点:164~165℃、沸点:300℃超、化学式(2)に該当)などが挙げられる。これらのうち、金属粒子どうしの焼結性を高めつつ、導電体どうしの高い接合強度を発現する接合構造を得る観点から、固体還元剤としてビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS-TRIS)を用いることが好ましい。上述した各化合物の融点及び沸点は、1気圧における温度とする。
【0047】
上述した固体還元剤は、一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。いずれの場合であっても、加圧接合用組成物における固体還元剤の含有割合は、金属粒子どうしの焼結性を高める観点から、金属粉100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。また、加圧接合用組成物中に占める金属粉の割合を維持しつつ、導電体への好適な塗布性能を発揮する観点から、10質量部以下とすることが現実的であり、8質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下とすることが更に好ましい。
【0048】
加圧接合用組成物は、1気圧における沸点が300℃未満の液媒体を更に含むことが好ましい。このような液媒体を含むことによって、加圧接合用組成物をペースト状又はインク状の性状にして、塗膜の塗布性を良好なものとすることができる。同様の観点から、上述の液媒体は、1気圧、室温(25℃)において液体であることが好ましい。加圧接合用組成物に液媒体を含有させる場合、金属粉の酸化を抑制する観点から、液媒体は非水媒体であることも好ましい。
【0049】
加圧接合用組成物の塗布性、及び液媒体の適度な揮発性を兼ね備える観点から、液媒体は、一価又は多価のアルコールであることが好ましく、多価アルコールであることが更に好ましい。多価アルコールとしては、例えばプロピレングリコール(沸点:188℃)、エチレングリコール(沸点:197℃)、ヘキシレングリコール(沸点:197℃)、ジエチレングリコール(沸点:245℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点:228℃)、ジプロピレングリコール(沸点:231℃)、トリプロピレングリコール(沸点:273℃)、グリセリン(沸点:290℃)、ポリエチレングリコール200(沸点:250℃)、ポリエチレングリコール300(沸点:250℃)などが挙げられる。液媒体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、加圧接合用組成物に適度な粘性を付与して塗膜の塗布性及び保形性を高めるとともに、加圧接合用組成物中の成分の分散性を高めて、均一且つ緻密な焼結構造とする観点から、液媒体がポリエチレングリコール200及びポリエチレングリコール300等のポリエチレングリコールを含むことが好ましい。上述した各化合物の沸点は、1気圧における温度とする。
【0050】
加圧接合用組成物に液媒体を含む場合、液媒体の含有量は、加圧接合用組成物に適度な粘性を付与し、該接合用組成物を導電体上に塗布したときの塗膜の保形性を高める観点から、金属粉100質量部に対して10質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上35質量部以下であることが更に好ましい。
【0051】
加圧接合用組成物は、導電体への塗膜の塗布性及び保形性を高める観点から、未加熱時において、せん断速度10s-1及び25℃における粘度が、20Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、25Pa・s以上180Pa・s以下であることが更に好ましい。接合用組成物の粘度は、センサーをパラレルプレート型とし、レオメーター(粘弾性測定装置)にて測定することができる。
【0052】
加圧接合用組成物は、本発明の効果が奏される限りにおいて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えばバインダー成分、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤などが挙げられる。他の成分の割合は、その総量が、金属粉100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
【0053】
次に、上述した接合用組成物を用いた導電体の接合構造の製造方法について説明する。この接合構造は、金属粉の焼結によって形成された接合部位を介して、2つの導電体が電気的に接続されているものである。本製造方法は、第1の導電体の表面上に加圧接合用組成物を塗布して塗膜を形成する塗布工程、該塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を形成する乾燥工程、及び該乾燥塗膜上に第2の導電体を積層して加圧接合させる加圧接合工程の3つに大別される。
【0054】
まず、第1の導電体の表面上に加圧接合用組成物を塗布して塗膜を形成する。接合用組成物の塗布の手段に特に制限はなく、公知の塗布手段を用いることができる。例えばスクリーン印刷、ディスペンス印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などを用いることができる。印刷性の向上の観点から、加圧接合用組成物は、液媒体を含むペースト状又はインク状のものであることが好ましい。形成する塗膜は、第1の導電体の表面の全域に形成されていてもよく、あるいは第1の導電体の表面に不連続に形成されていてもよい。塗膜が第1の導電体の表面に不連続に形成されている場合、塗膜が形成されていない部位は第1の導電体が露出した部位となっている。
【0055】
形成する塗膜の厚みは、高い接合強度を安定的に有する接合構造を形成する観点から、塗布直後において、1μm以上500μm以下に設定することが好ましく、5μm以上300μm以下に設定することが更に好ましい。
【0056】
次に、形成した塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を得る。本工程では、乾燥により該塗膜から液媒体の少なくとも一部を除去して、塗膜中の液媒体の量が低減した乾燥塗膜を得る。塗膜から液媒体を除去することで、乾燥塗膜の保形性を一層高めることができる。これに加えて嵩高な塗膜を形成することができるので、後述する加圧接合工程において乾燥塗膜に圧力を加えて焼結させるときに、塗膜の嵩高さに起因する加圧方向への緩衝材としての作用によって、導電体の厚みのばらつきの影響を低減することができ、その結果、各接合部位の密着性を高め、接合強度を高いものとすることができる。乾燥塗膜とは、膜の全質量に対する液媒体の割合が9質量%以下のものである。塗膜と、該塗膜を乾燥させた乾燥塗膜とは、液媒体以外の各構成材料の含有量は実質的に同一であるので、液媒体の割合は、例えば、乾燥前後の塗膜の質量変化を測定して算出することができる。
【0057】
液媒体を乾燥して除去するためには、該液媒体の揮発性を利用した自然乾燥、熱風乾燥、赤外線の照射、ホットプレート乾燥等の乾燥方法を用いて、液媒体を揮発させればよい。液媒体が除去された後の乾燥塗膜における該液媒体の割合は、塗膜の全質量100質量部に対して、上述のとおり9質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることが更に好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。本工程は、用いる加圧接合用組成物の組成に応じて適宜変更可能であるが、例えば大気雰囲気下で、60℃以上150℃以下、大気圧、1分以上30分以下で行うことができる。
【0058】
最後に、乾燥塗膜上に第2の導電体を積層して加圧接合する。詳細には、上述の工程を経て乾燥塗膜が得られたら、第2の導電体を該乾燥塗膜上に積層して、第1の導電体と第2の導電体と、これらの間に乾燥塗膜が配された積層体を得る。第1の導電体及び第2の導電体はそれぞれ、同種の材料から構成されていてもよく、あるいは異種の材料から構成されていてもよい。また積層体は、第1の導電体、第2の導電体及び乾燥塗膜に加えて、導電体の表面に樹脂フィルムなどの固体層を更に積層したものとしてもよい。
【0059】
次いで、積層体を加圧下で加熱処理して、乾燥塗膜に含まれる金属粉を焼結させることで、第1の導電体と第2の導電体との接合部位を形成する。焼結時の雰囲気は、窒素等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。焼結温度は、好ましくは300℃未満、より好ましくは150℃以上300℃未満、更に好ましくは200℃以上300℃未満、一層好ましくは230℃以上300℃未満である。焼結時に加える圧力は、好ましくは0.001MPa以上、より好ましくは0.001MPa以上20MPa以下、更に好ましくは0.01MPa以上15MPa以下である。焼結時間は、焼結温度が前記範囲であることを条件として、好ましくは20分以下、より好ましくは0.5分以上20分以下、更に好ましくは1分以上20分以下である。
【0060】
以上の工程を経て形成された接合部位は、加圧接合用組成物の焼結によって形成されるものであり、詳細には、加圧接合用組成物を構成する金属粉に含まれる金属粒子の焼結体である。加圧接合用組成物を構成する金属粉として銅を含む場合を例にとると、接合部位は銅を含むものであり、また、上述した化学式(1)又は(2)で表される固体還元剤を含む場合には、以下の構造(3)が接合部位に形成されてなる。接合部位の厚みは、上述した焼結体の厚みBと同様の範囲とすることができる。
【0061】
【化3】
【0062】
式中、RないしRは、それぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。RないしRの詳細は、上述した化学式(1)及び(2)の説明が適宜適用される。また、*は、銅との結合部位を表す。
【0063】
接合部位に前記構造(3)が形成されているか否かは、接合部位の断面を対象として、TOF-SIMSによる質量分析等を行うことにより確認することができる。例えば還元剤としてBIS-TRISを用いる場合、TOF-SIMSでの正極側のマススペクトルにおいてC-N(Cu)に起因する分子量152のフラグメントが観察される。
【0064】
このような接合部位を有する導電体の接合構造は、その高い接合強度や熱伝導性の特性を活かして、高温に曝される環境、例えば車載用電子回路やパワーデバイスが実装された電子回路に好適に用いられる。
【実施例
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、DSEM50、D50、及びアスペクト比(a/b)は上述の方法に従って、それぞれ測定した。また、圧縮率の評価も上述の方法に従って行なった。
【0066】
〔実施例1〕
(1)加圧接合用組成物の調製
金属粉として、DSEM50が140nmの球状銅粒子(三井金属鉱業株式会社製)を用いた。本実施例で用いた球状銅粒子は、実質的に銅からなる金属粒子(Cu:100質量%)の集合体であった。固体還元剤として、BIS-TRIS(同仁化学株式会社製)を用いた。液媒体としてヘキシレングリコール(HG)(三井化学株式会社製)及びポリエチレングリコール300(PEG300)(日油株式会社製)の混合物を用いた。これらの材料を混合して、ペースト状の加圧接合用組成物を得た。組成物中における金属粉、固体還元剤及び液媒体の含有量は、表1に示す値とした。また、せん断速度10s-1及び25℃における加圧接合用組成物の粘度は、73.6Pa・sであった。
【0067】
〔実施例2〕
金属粉として、上述した球状銅粒子に加えて、扁平状銅粒子(D50:4.9μm、アスペクト比(a/b):13.3;三井金属鉱業株式会社製)を用い、表1に記載の組成割合としたほかは、実施例1と同様に、加圧接合用組成物を製造した。本実施例で用いた扁平状銅粒子は、球状銅粒子と同様に、実質的に銅からなる金属粒子(Cu:100質量%)の集合体であった。せん断速度10s-1及び25℃における加圧接合用組成物の粘度は、86.9Pa・sであった。
【0068】
〔実施例3〕
表1に記載の組成割合としたほかは、実施例2と同様に、加圧接合用組成物を製造した。せん断速度10s-1及び25℃における加圧接合用組成物の粘度は、66.0Pa・sであった。
【0069】
〔実施例4〕
表1に記載の組成割合としたほかは、実施例2と同様に、加圧接合用組成物を製造した。せん断速度10s-1及び25℃における加圧接合用組成物の粘度は、63.0Pa・sであった。
【0070】
〔比較例1〕
金属粉として、表1に記載の組成割合としたほかは、実施例2と同様に、加圧接合用組成物を製造した。
【0071】
〔実施例5〕
金属粉として、実施例3の球状銅粒子に加えて、デンドライト状銅粒子(D50:6.8μm;三井金属鉱業株式会社製)を用い、表2に記載の組成割合としたほかは、実施例3と同様に、加圧接合用組成物を製造した。本実施例で用いたデンドライト状銅粒子は、球状銅粒子と同様に、実質的に銅からなる金属粒子(Cu:100質量%)の集合体であった。せん断速度10s-1及び25℃における加圧接合用組成物の粘度は、66Pa・sであった。
【0072】
(2)接合構造の製造と評価
〔(i)接合構造の製造〕
第1の導電体として銅板(20mm四方、厚み2mm)を用いた。この銅板の中央部にメタルマスクを載置し、該銅板に対して、実施例及び比較例の加圧接合用組成物をスクリーン印刷によって塗布して、塗膜を形成した。塗膜は、10mm四方に1箇所形成した。この塗膜を、大気雰囲気下における熱風乾燥機中で、110℃、大気圧、20分間乾燥させて液媒体を一部除去し、その後、室温下に放置して乾燥塗膜を得、その乾燥塗膜の厚みA(μm)をZygo社製Zygo NEXVIEWにより測定した。結果を表1に示す。
【0073】
次いで、第2の導電体を乾燥塗膜上に積層して積層体を得て、この積層体を加圧下で加熱処理して、導電体の接合構造を得た。詳細には、第2の導電体として、アルミナ板(5mm四方、厚み0.5mm)の表面にCu膜を形成し、該Cu膜の表面にAgメタライズによって形成されたAg層を有するものを用いた。このアルミナ板を乾燥塗膜の上に載置し、さらに、フッ素樹脂フィルム(厚み50μm)を第2の導電体上に載置し、積層体とした。この積層体に対して、6MPaの圧力を加え、窒素雰囲気下に280℃で20分間にわたり処理を行って実施例及び比較例の導電体の接合構造を得た。焼結体の厚みB(μm)を断面研磨後のSEM観察により測定した。結果を表1に示す。また、実施例の導電体の接合構造の接合断面をTOF-SIMSによる質量分析によって確認したところ、前記構造(3)で表される銅及び固体還元剤由来の構造が形成されていた。
【0074】
なお比較例1は、加圧下で加熱処理した後に、導電体が焼結体から剥離してしまったため、焼結体の厚みBは、乾燥塗膜の厚みA(μm)の測定方法に準じて測定を行った。
【0075】
〔(ii)導電体単体の接合における接合強度(単体接合強度)の評価〕
単体接合強度の評価は、XYZTEC社製のボンドテスター Condor Sigmaを用いて、得られた接合構造のシェア強度を測定した。シェア強度(MPa)は、破断荷重(N)/接合面積(mm)で定義される値であり、3回の測定結果の算術平均値を結果として表1に示す。シェア強度が高いほど接合強度が高いことを示す。シェア強度が80MPaを超えるものは、表1中「>80」と示す。なお比較例1は、加圧下で加熱処理した後に、導電体が焼結体から脱落してしまったため、接合強度はゼロである。また比較例1は、以後の評価は行わなかった。
【0076】
〔(iii)導電体の複数一括接合における接合強度の評価〕
一括接合強度の評価は、以下のように行った。第1の導電体として、厚みバラツキが9.5μm±0.5μm存在する銅板(20mm四方、厚み2mm)を用いた。この銅板の中央部にメタルマスクを載置し、該銅板に対して、加圧接合用組成物をスクリーン印刷によって塗布して、塗膜を5.5mm四方かつ互いが重ならないようにグリッド状に4箇所形成した。これらの塗膜を、大気雰囲気下における熱風乾燥機中、110℃、大気圧、20分で乾燥させて液媒体を一部除去し、その後、室温下に放置して乾燥塗膜を得た。
【0077】
次いで、第2の導電体として、前記工程(i)で用いたものと同様のアルミナ板を用い、該アルミナ板を一枚ずつ各乾燥塗膜の中央部にそれぞれ載置した。これらのアルミナ板は、厚みゲージにより厚みを測定し、同じ厚みであるものを用いた。その後、フッ素樹脂フィルム(厚み50μm)を各アルミナ板上に載置し、積層体とした。これら4つの積層体に対して同時に6MPaの圧力を加え、窒素雰囲気下に280℃で20分間にわたり加圧下での加熱処理を一括して行って、接合構造を複数形成した。その後、4つの接合構造全てに対し、前記(ii)の方法でシェア強度を測定した。4つの接合構造のうち最も低いシェア強度(最低シェア強度)の値を表1に示す。
【0078】
なお、上述の工程(i)及び工程(iii)で用いるメタルマスクの厚みは、実施例1は35μm、実施例2~5及び比較例1は100μmのものを用いた。したがって、それぞれ乾燥前の塗膜の厚みは、実施例1は35μm、実施例2~5及び比較例1は100μmであった。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1及び表2に示すように、実施例の加圧接合用組成物及びこれを用いた接合構造は、比較例のものと比較して、複数の導電体を一括して同時に加圧接合させた場合であっても、各導電体の接合強度を非常に高く且つ安定的に発現できるものであることが判る。また、表には示していないが、固体還元剤の含有量を金属粉100質量部に対して1質量部以上8質量部以下の範囲で調整した実施例1ないし3の加圧接合用組成物は、導電体への塗布性能が特に良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、接合対象となる導電体の厚みのばらつきの影響を受けにくい状態で導電体どうしを十分に接合することができる。その結果、接合部位を一括して複数形成したときに高い接合強度を安定的に発現できる。