IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ ゼット アイ ネクラゾフ アイロン アンド スチール インスチチュート オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ウクライナの特許一覧

<>
  • 特許-転炉設備 図1
  • 特許-転炉設備 図2A
  • 特許-転炉設備 図2B
  • 特許-転炉設備 図3
  • 特許-転炉設備 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】転炉設備
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20220930BHJP
   C21C 5/36 20060101ALI20220930BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C21C5/46 Z
C21C5/36
F27D15/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021513107
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015736
(87)【国際公開番号】W WO2020208767
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521412320
【氏名又は名称】ゼット アイ ネクラゾフ アイロン アンド スチール インスチチュート オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ウクライナ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直人
(72)【発明者】
【氏名】松尾 充高
(72)【発明者】
【氏名】内藤 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】立石 清和
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩
(72)【発明者】
【氏名】セミキン エス アイ
(72)【発明者】
【氏名】ポラコフ ブイ エフ
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-227918(JP,A)
【文献】特開平07-003323(JP,A)
【文献】特開2004-144443(JP,A)
【文献】特開2002-174413(JP,A)
【文献】特開2009-138964(JP,A)
【文献】特開2016-108575(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103408013(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/46
C21C 5/36
F27D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉内の溶融鉄合金浴の上方に生成されるスラグ内に先端が浸漬するように配置される第一の電極と、
前記溶融鉄合金浴又は前記スラグに接するように配置される第二の電極と、
前記スラグを介し、前記第一の電極及び前記第二の電極に直流電流を供給する電源装置と、
前記直流電流があらかじめ設定された最大出力電流を超えないように制御する制御装置と、を備え、
前記第一の電極が、中空の上吹送酸ランスであることを特徴とする転炉設備。
【請求項2】
前記電源装置は、前記スラグと前記溶融鉄合金浴とを介し、前記第一の電極及び前記第二の電極に直流電流を供給することを特徴とする請求項1に記載の転炉設備。
【請求項3】
記第二の電極が、転炉の炉底又は炉腹に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転炉設備。
【請求項4】
前記制御装置が、前記直流電流の供給量を一定に制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の転炉設備。
【請求項5】
前記制御装置が、前記第一の電極と前記第二の電極との間の抵抗値が吹錬開始後あらかじめ設定された抵抗値以下である場合に、前記直流電流の供給を遮断するように制御することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の転炉設備。
【請求項6】
前記電源装置の応答速度が、0.1sec以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の転炉設備。
【請求項7】
前記制御装置は、前記直流電流が50A以上となるように制御することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の転炉設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉設備で溶融鉄合金を精錬する際に、従来よりも金属鉄分の含有量とそのバラツキが減少したスラグを安定して得るための転炉設備に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融銑鉄(以下「溶銑」ともいう)などの溶融鉄合金を転炉精錬する際に生成されるスラグ(以下「転炉スラグ」ともいう)には、遊離CaOが含まれており、それが水和反応を起こして膨張するので体積安定性が低い。
【0003】
さらに、スラグには、処理方法も関係するが通常、1~40%質量%程度の酸化鉄が含まれ、外観が黒色となり、コンクリート用骨材などに使用すると、外観上違和感がある。
【0004】
そのため、スラグの利用は、道路の地盤改良材や下層路盤材等の低級用途に限られ、上層路盤材、コンクリート用骨材、石材原料等には用いられにくい。
【0005】
そこで、従来から、転炉からスラグを反応容器に排出し、該容器内で、溶融状態の転炉スラグに石炭灰等の改質材を添加して遊離CaOを低減させる改質処理を施して、より高級用途である上層路盤材やコンクリート用骨材等に利用されている。
【0006】
また、転炉スラグには、金属鉄分として、数十質量%程度の粒鉄が、懸濁した状態で含まれる。懸濁した粒鉄には炭素が存在しており、溶融スラグの改質の際に、粒鉄の炭素と、溶融スラグ中の酸化鉄や撹拌用の酸素ガスとが反応することによって、溶融スラグ中においてCOガスの気泡が発生(フォーミング)し、種々の悪影響をもたらすという問題がある。
また、粒鉄が存在することでスラグを再利用する際に、粒鉄の偏在や粒鉄の酸化膨張などが起因となり、スラグの強度のバラツキが生じる。
さらに、スラグ中の粒鉄は、転炉吹錬に主眼をおいた場合は歩留ロスの要因であり、その含有量は低いほど好ましい。
スラグ中の粒鉄量にバラツキがあると、スラグ中の粒鉄量を直接瞬時に測定することが難しい。そのため、溶融スラグの処理や冷却後のスラグから粒鉄を回収する際に、重処理側の処理を選択せざるを得ず、効率が悪化する。また、溶融改質処理時のフォーミングにも処理時間にバラツキが発生して、安定した処理ができにくい。
【0007】
また、例えば、特許文献1には、転炉から取り出した溶融スラグ中の粒鉄を反応容器内で沈降させた後に、スラグ改質処理を施す方法が開示されている。しかし、この場合においてもスラグ中の粒鉄量にバラツキがあると沈降時間にバラツキが生じ、安定した処理ができにくい。
【0008】
このように、従来では、転炉スラグを反応容器に排出した後、反応容器でスラグ中の金属鉄分を低減する処理を行っているので、スラグ中の粒鉄量にバラツキがあると、スラグ処理時間にバラツキが生じるという問題があった。
【0009】
ところで、近年、非特許文献1で報告されているように、転炉精錬において、送酸ランスを一方の電極とし、炉底に設けた他方の電極との間に電圧を印加して、吹錬途中の電流、電圧及び抵抗値の変化を測定することにより、ランス先端と溶融金属浴面との間の距離、スラグ層の厚さなどの情報を得る試みがなされている。
【0010】
しかし、通電による溶融スラグの性状への影響については、特に検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】日本国特開2006-199984号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】溶鋼に電位印加する際、転炉浴中の電流分布特性,C.I.セムイキン、V.F.ポリャコフ,E.V.セムキナ,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、転炉で溶融鉄合金を精錬する際に、従来よりもスラグ中の金属鉄分の含有量とそのバラツキが小さいスラグを得、その後のスラグの改質処理において、スラグ中の鉄分を低減する処理を簡便化することを目的とし、スラグ中の金属鉄分の含有量のバラツキの少ないスラグを安定して得ることを可能とする転炉設備の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0015】
(1)本発明の第一の態様は、転炉内の溶融鉄合金浴の上方に生成されるスラグ内に先端が浸漬するように配置される第一の電極と、前記溶融鉄合金浴又は前記スラグに接するように配置される第二の電極と、前記スラグを介し、前記第一の電極及び前記第二の電極に直流電流を供給する電源装置と、前記直流電流があらかじめ設定された最大出力電流を超えないように制御する制御装置と、を備え、前記第一の電極が、中空の上吹送酸ランスである転炉設備である。
【0016】
(2)上記(1)に記載の転炉設備では、前記電源装置は、前記スラグと前記溶融鉄合金浴とを介し、前記第一の電極及び前記第二の電極に直流電流を供給してもよい。
【0017】
(3)上記(1)又は(2)に記載の転炉設備では、前記第二の電極が、転炉の炉底又は炉腹に設けられていてもよい。
【0018】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の転炉設備では、前記制御装置が、前記直流電流の供給量を一定に制御してもよい。
【0019】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の転炉設備では、前記制御装置が、前記第一の電極と前記第二の電極との間の抵抗値が吹錬開始後あらかじめ設定された抵抗値以下である場合に、前記直流電流の供給を遮断するように制御してもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の転炉設備では、前記電源装置の応答速度が、0.1sec以下であってもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の転炉設備では、前記制御装置は、前記直流電流が50A以上となるように制御してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の転炉設備によれば、金属浴への通電を安定して安全に行い、スラグ中に含まれる粒鉄量とそのバラツキを低減させることができる。更に、粒鉄量のバラツキが低減されることにより、後工程である磁力選別による金属鉄分の回収処理を安定して行うことが可能となり、従来よりも金属鉄分の含有量が減少したスラグを安定して得ることができる。その結果、転炉における鉄分歩留を向上し、スラグの改質処理の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る転炉設備の一例の概略を示す図である。
図2A】溶銑脱りん期における、平均電流値とスラグ中粒鉄の含有量との関係を示す図である。
図2B】脱炭期における、平均電流値とスラグ中粒鉄の含有量との関係を示す図である。
図3】本発明に係る転炉設備の他の例の概略を示す図である。
図4】本発明に係る転炉設備の更に他の例の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、転炉で溶融鉄合金を精錬する際に、スラグ中の粒鉄の含有量とそのバラツキを低減する方法について検討し、スラグ浴及び金属浴に通電することに着目した。
そして、通電の際に特定量の電荷を与えた場合には、スラグ中に含まれる粒鉄量とそのバラツキが減少することを知見した。
【0023】
以下、上述の知見に基づきなされた本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において、特に説明が無い限り「%」は「質量%」をあらわし、「電流」は「直流電流」をあらわす。また、電流の制御は、図示しない制御装置により制御するものとする。
【0024】
転炉精錬では、高炉から出銑された溶銑が転炉内に流しこまれ、CaOを主成分としたスラグ原料を加え、脱珪及び/又は脱燐を目的とした吹錬と、仕上げ脱燐と脱炭及び温度の調整を目的とした吹錬が行われる。
【0025】
図1は、本実施形態に係る転炉設備1を示す側面図である。この転炉設備1においては、第一の電極21は、溶融鉄合金浴(以下、「鉄浴12」とも記す)の上方に生成されるスラグ11内に先端が浸漬するように設置される。具体的には、第一の電極21は、その先端部が、スラグ11の上面と鉄浴12の上面との間の高さ位置となるように、炉腹に埋め込まれて配置される。
第二の電極22は、鉄浴12に接するように配置される。
【0026】
このように電極を配置し、転炉の外部に設けた電源装置40と接続することで、スラグ11、鉄浴12、第一の電極21、第二の電極22とで電気回路を形成することができる。従って、精錬中に、電極間に電圧を印加し、スラグ11及び鉄浴12に電流を供給することが可能となる。第一の電極21は、図3に示すように、中空の上吹送酸ランス31を兼用してもよい。
【0027】
転炉の吹錬には、通常、
1)脱珪、脱燐、脱炭を行う、従来の吹錬方法、
2)脱珪及び/又は脱燐を目的とした吹錬と、仕上げ脱燐と脱炭及び温度の調整を目的とした吹錬を分離した吹錬方法、及び、
3)脱珪を別工程で行った後、脱燐を目的とした吹錬と、仕上げ脱燐と脱炭及び温度の調整を目的とした吹錬を分離した吹錬方法、
の3つの方法がある。
【0028】
上記2)、3)の場合、通電を行う時期は、脱珪及び/又は脱燐を目的とした吹錬と、仕上げ脱燐と脱炭及び温度の調整を目的とした吹錬のいずれか一方、又は双方の吹錬とするのが好ましい。上記1)~3)のそれぞれの吹錬において、特に吹錬末期に印加すると、さらに大きな効果が得られる。
【0029】
図2A図2Bに、400トンの転炉で、スラグ11に接する側の第一の電極21を炉腹に、また、鉄浴12に接する側の第二の電極22を炉底にそれぞれ配置して、脱燐吹錬の場合で吹錬停止直前の24秒間、350A以下の電流を、脱炭吹錬の場合で吹錬停止直前の24秒間、350A以下の電流を電極間に供給して吹錬した場合(ON)と、電極間に通電しなかった場合(OFF)について、その間の平均電流値と粒鉄量とそのバラツキの関係を示す。図2A図2Bに示した結果は、3)脱珪を別工程で行った後、脱燐を目的とした吹錬と、仕上げ脱燐と脱炭及び温度の調整を目的とした吹錬を分離した吹錬方法での結果である。
【0030】
それぞれの場合において、吹錬後のスラグを5チャージ分取り出し、縮分法でサンプリングして、粒鉄の全量及びバラツキの量を調べた。
【0031】
図2Aは、転炉における溶銑脱燐処理後のスラグ中の金属鉄濃度に及ぼす平均電流値の影響であり、図2Bは、同じく脱炭処理後のスラグ中の金属鉄濃度への影響である。双方とも電流値が高くなるほど鉄分量が減少すると共に鉄分量のバラツキが減少している。
【0032】
図2A図2Bに示したスラグ中に含まれる粒鉄の含有量(質量%)を統計的にまとめると、それぞれ表1、表2のようになる。表1、表2に示す通り、電流値がOFFの場合と比較し、電流値が高くなるほど鉄分量の平均値、標本標準偏差、相対誤差のいずれも低減していくことがわかる。特に、電流値が50A以上である場合に、その低減効果が顕著であることがわかる。
【0033】
ここで標本標準偏差は、各サンプルの値と平均値との距離の二乗の和で求められる分散の値の平方根である。また、相対誤差とは、標準偏差を平均値で割った値である。表1、表2から、電流値を50A以上とした場合は、標本標準偏差のみではなく相対誤差も大幅に減少していることが判る。従って、電源装置40は、電流値が50A以上となるように電流を制御することが好ましい。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
通常、改質処理後のスラグは、粉砕されて、金属鉄分を磁力選別で回収する。上記の表1、表2に示す結果は、スラグ11中に電流を供給することにより金属鉄分の含有量自体が低減することに加え、金属鉄分のバラツキが少なくなる結果、磁力選別が安定して、スラグ中の金属鉄分を更に低減できるという大きな効果があることを示している。
【0037】
吹錬途中に、スラグ11中に電流を供給することにより、上記のような効果が得られる理由については不明であるが、スラグ中に滞留する粒鉄への通電により粒鉄の凝集粗大化が起こり、その粒鉄が自重により沈降するためであると推察される。
【0038】
電源装置40は、電流があらかじめ設定した最大出力電流を超えないように制御する。この制御は、例えば、電源装置40と電極を接続する配線の途中に電流検出手段41を設け、電流検出手段41からの信号を制御装置42に入力して、電流の大きさや、電極間の抵抗を検出できるようにし、検出された電流の大きさに応じて電源装置40の出力を制御する。
【0039】
具体的には、転炉内の抵抗値の変動は非常に激しいので、電源装置はサイリスタ制御よりもトランジスタ制御を行う方が望ましい。また、設備の構成上、電流が流れる可能性のある範囲・経路を想定し、その中で最も許容通電量(電流)が小さい箇所にあわせて、出力電流値が該許容通電量を超える場合に回路を遮断する機構を設けることが必要である。
【0040】
第一の電極21としては、例えば、MgO-C質煉瓦等の炭素含有煉瓦からなる電極を、転炉の炉腹に配することができる。電極煉瓦と接する煉瓦が同様に炭素を含有するなど抵抗値に大きな差異がない場合は、電極煉瓦の周囲に絶縁用の煉瓦などを配することが望ましい。また、電極煉瓦に接続する炉外への導体については、設備構成や経済的制約などの許す限りで、例えば銅製導体と煉瓦の接合面の面積を広げ、煉瓦稼働面から銅製導体先端の距離を短くするなどの、抵抗を下げる工夫を施すことが望ましい。
【0041】
第二の電極22には、炭素含有煉瓦などが使用できる。第二の電極22は転炉設備1の炉底又は炉腹に設けるのが好適である。第二の電極22が炉腹に設けられる場合、図4に示す第二の電極22’のように、その高さ位置は、溶融鉄合金浴又はスラグ11に接するように設定されてもよい。尚、図4に示す例の場合、電源装置40は、鉄浴12を介さずに、スラグ11のみを介し、第一の電極21及び第二の電極22に直流電流を供給する構成となる。
【0042】
炉腹に第一の電極21を配する場合には、第一の電極21は、転炉の容積から想定される鉄浴12の静止湯面を基準にして、200mm~4000mm上方に設けるのが好ましく、200~400mm上方に設けるのが更に好ましい。静止湯面を基準にして200mm上部の位置より下部につけると、メタル面の振動により短絡する頻度が高くスラグ中を電流が流れる頻度が減少して効果が低減する。静止湯面を基準にして4000mm上部の位置より高い場合、電極がスラグ部分に接触する頻度が低減し、効果も減じてしまう。
【0043】
電源装置40は、第一の電極21と第二の電極22の間の電流値があらかじめ設定された最大許容電流値を超えた電流が流れると電流の供給を遮断する機構を備える。
【0044】
本設備では、最大許容電流値を超える電流が流れた場合、例えば、電流が付着地金を経由することなどに起因し、スラグ中に適切な電流が流れなかったものとして判断する。さらに、最大許容電流を超える電流が流れた際には、この電流は転炉処理に用いられた電流とは記録しない。これにより、転炉で精錬した後に、スラグを後処理工程に送る際には、スラグ中のみに流れた電流値を転炉内のスラグの情報として、スラグ特性に付加して送ることができる。後処理工程で、この電流値情報に従って処理を行えばよく、過剰な後処理をする必要がなくなり、後処理工程が安定化する。
【0045】
なお、最大許容電流の決め方は、実験を行い、スラグを流れる電流か、その他の系である転炉の炉壁や耐火物の付着地金等を流れる電流かを区別して、決めればよい。この最大許容電流は一定値でもよい。
【0046】
スラグを流れる電流か否かを判断する方法の一つに、抵抗値を用いる方法がある。第一電極と電源と第二電極との間の回路抵抗をあらかじめ計算や実測などにより把握しておくと、吹錬中に通電した状態で容易に測定可能な全回路の抵抗から、該抵抗値を引くことで、電極間の抵抗値を得ることができる。
【0047】
通常、スラグを介した場合の抵抗値は、地金などの抵抗値と比べて大きく、有意な差として観測可能である。具体的な抵抗値は、スラグ厚み、電極位置、スラグの組成や性状(液相率や金属や気泡の含有率)によって変わるため、あらかじめ操業中に測定することによって把握することが可能である。
【0048】
また、転炉のスラグ中を流れる電流値の範囲をスラグ中に流れる電流値のバラツキから判断して、その上限を最大許容電流として決めてもよい。この場合には、例えば、スラグ内を流れる平均の電流値に電流値のバラツキの3倍の値を加えた電流値を最大許容電流とすることができる。
【0049】
さらに、最大許容電流を検知した後は電流を遮断し、設定した時間、例えば30秒以上を過ぎて再び電流を投入する機構を設けてもよい。
【0050】
第一の電極21として、図3に示すように、上吹送酸ランス31を用いてもよい。さらに、第一の電極21として上吹送酸ランス31を用いる場合には、先端が上下できるようにし、電極間を流れる電流によって、その位置を上下させ、スラグ中に流れる電流の大きさを制御できるようにしてもよい。
【0051】
第一の電極21として上吹送酸ランス31を用いる場合、ランスを支持する機構、酸素や冷却水の給排系統について絶縁措置を施す必要がある。また、シールコーンなどの、ランスとランス挿入孔の間を密閉する機構が存在する場合は、この部分周辺での絶縁措置も必要となる。
また、第一の電極21として上吹送酸ランス31を用いる場合、耐消耗性の観点から、少なくとも先端部が銅製であることが好ましい。
【0052】
上吹送酸ランス31を第一の電極21として用いる場合には、炉腹の電極を用いる場合に比べて、より安定してスラグに電流を流すことが可能になる。
【0053】
炉腹の電極の場合、炉壁付着物が主な通電経路となりスラグ全体に電流が流れない場合が考えられる。一方で、上吹送酸ランス31を第一の電極21として用いる場合には、スラグの状態に加え、ランスとスラグの相対位置によって、炉内抵抗が大きく変化する。このため、ランス位置を可能な限り低くする必要がある。ランスはスラグと接触できる状態が望ましい。しかし、吹錬中は鉄蒸気などで炉内雰囲気自体の導電率も上昇しているので、必ずしもランスとスラグが接触する状態にある必要はない。
【0054】
ランス位置の自由度がある場合には、上述したように電流値あるいは抵抗値に応じてランス位置を制御することが望ましい。ランス位置が低い場合、火点や鋼浴からの熱負荷が高く、また、飛散地金がランスに付着する傾向が強いため、ランス寿命低下や操業障害の原因になる。
【0055】
ランス位置は、操業経験により定めることができる。ランス位置を高くすると、スラグとの接触面積が減少、あるいはガス層(スラグ上方のダスト、蒸気を含む空間)を介することで抵抗値が上昇し、等しい電圧条件に対して電流値が低位になる。したがって、経験的に得られる効果享受に見合う最低の電流値が確保できる位置以下で、かつ、ランス寿命低下や操業障害の懸念のない位置以上までランスを下げることが望ましい。
【0056】
第一の電極として上吹送酸ランス31を用いる場合においても、炉腹に第一の電極を配する場合と同様に、最大許容電流を設定することが可能である。
【0057】
さらに、電源装置が、電流の供給値が一定の値を超えないように制御する機能を有してもよい(以下「定電流制御」ともいう)。電源装置40が、炉内の抵抗に応じて電圧を変動させ電流の供給量を一定とする、定電流制御機能を有するものであれば、さらに好ましい。吹錬時に電流をほぼ一定に保つように制御することで、スラグ中の粒鉄の存在量をバラツキが少ないように制御することができる。
【0058】
定電流制御においては、電流の上限値はスラグ内を流れる電流と、スラグ以外の系を流れる電流とが区別できるように設定することができる。
また、例えば、上限は設定電流値+電流のバラツキ(標準偏差値)としてもよい。また、下限は、スラグの性状で抵抗値が高い場合に、過剰な電圧がかからないように、0Aと設定してもよい。
【0059】
定電流制御をする際の設定電流値は、実験により求められたスラグ中の粒鉄量のバラツキと、後処理工程で許容される粒鉄量のバラツキとの関係で設定してもよい。例えば、図2A図2Bでは、脱燐処理工程で電流を200A流した時の標本標準偏差は3.7%であり、この値は、後処理工程でも許容される値であるので、設定電流値を200Aとしてもよい。
【0060】
電源装置40は、第一の電極21と第二の電極22の間の抵抗値が、あらかじめ設定された抵抗値以下である場合には、電流の供給を遮断する機構を備えることが好ましい。抵抗値は、電流検出手段41からの信号を制御装置42に入力して求める。そして、求められた抵抗値が、吹錬開始後からあらかじめ設定された時間、あらかじめ設定された抵抗値以下である場合には、電源装置40の出力を停止し、電流の供給を遮断する機構を備えてもよい。
【0061】
スラグの抵抗値はあらかじめ判っているので、その抵抗値以下になることは、電流がスラグ内を流れないで、スラグ以外の系を流れていることが推定される。したがって、抵抗値を求めることで、スラグ中に電流が流れているか否かの識別が可能になる。
【0062】
さらに、上記の最大許容電流や抵抗値を判断することは以下のように、設備の安定化にも寄与する。すなわち、吹錬開始直後は、添加剤の溶解やフォーミングなど、スラグ11内に電流が安定して流れる状況が整っていない。そのため、第一の電極21がスラグ11に急に接触した場合、急激に抵抗が下がり、電流値が急激に上昇する恐れがある。そのような場合、電流値によっては、発熱により設備が損傷する恐れがある。電流の供給を遮断する機構を備えることにより、このような場合に、電流を遮断し、事故を回避することができる。
【0063】
また、何らかのトラブルにより、迷走電流が転炉外に流れた場合などにも、電流の供給を遮断することができるので、安全に設備を運転させることができる。
【0064】
電源装置40の応答速度は、0.1sec以下であることが望ましい。前述したように炉内の抵抗値は、実質的な絶縁状態から、地金による短絡を想定するマイクロオーム以下まで大きく変動し、また、その状態は秒単位で変化する。
【0065】
例えば、吹錬開始直後は十分な量のスラグが存在せず、また、炉内雰囲気も導電率が低い状態であり、実質的にはほぼ絶縁状態にある。一方で、スラグを介した望ましい通電経路を想定した場合、スラグの状態にもよるが、100mΩ程度の抵抗となることが想定される。
【0066】
つまり、急激なスラグのフォーミングなどが発生した場合には、抵抗値が絶縁状態から瞬時に100mΩまで低下する場合がある。出力制御の応答速度が遅い場合、抵抗値の大きな変化に追随できずに、電流値が上昇し、健全な経路を流れているにも関わらず、回路が遮断されることがある。
【0067】
健全な範囲での最小の抵抗値を想定した最大出力電流を設定してしまった場合でも、スラグの状態やガス相の介在の有無によって抵抗値は1ケタ~2ケタ変動するため、高い抵抗値の状態から低い抵抗値の状態への変化が急激である場合には、同様である。
【0068】
したがって、安定した通電を確保するためには、電源装置の応答速度は、これらの状態変化に追随する必要がある。本発明者らが実験によって明らかにした事実によれば、炉内の抵抗値は、0.1sec程度の間隔で変動している場合がある。したがって、電源の応答速度は0.1sec以下であることが望ましい。この場合、応答速度とは、最大電流から最小電流まで、あるいはその逆の変化を、当該時間内で完了することを意味する。
【0069】
さらに、本設備は、炉底にはポーラス煉瓦や多重管あるいは集合管よりなる底吹き羽口50を設け、精錬中に、炉底より鉄浴12内にガスを吹き込むことにより、鉄浴12を撹拌してもよい。底吹き羽口50は1つでもよいが、複数設けるのが好ましい。図1は、底吹き羽口50を2箇所に設けた場合の例を示している。
【0070】
本発明において、処理するスラグの組成は、特定の組成に限定されるものではない。一例を挙げれば、塩基度:0.5以上、酸化鉄濃度:5%以上の組成である。
【0071】
塩基度:0.5以上、酸化鉄濃度:5%以上の組成のスラグの場合には、スラグの抵抗値が組成により変化しやすく、また、スラグと電極が接した時に急激に電流値が上がる恐れがあるので、本願の電流制御機構を用いることが効果的である。
【0072】
処理する溶融鉄合金の組成は、特定の組成に限定されるものではないが、珪素濃度を0.25%以下とした溶融銑鉄を処理する場合に適用すると、効果が増大する。これは、珪素濃度が低位であると通常、スラグ量が少ない場合が多いが、発生する粒鉄の量は炉内投入エネルギー(主に上吹き)や脱炭量によって決まるため、スラグ量が少ない場合はスラグ中の粒鉄含有濃度が相対的に高まるからである。したがって、このような処理を行う際に、本発明の設備を用いることで著しい効果が得られる。
【0073】
また、精錬終点の炭素濃度を2.5%以上の領域の溶鉄を処理する場合にも、本発明の設備を用いることが好ましい。これは、このような領域の精錬では比較的低塩基度で処理を行うことが多く、また低温で終了するために、スラグの粘性が高く、スラグ中に含まれる粒鉄量が多いためである。
【0074】
また、本発明は、脱珪・脱燐工程を別の精錬容器で行う場合、それぞれの工程を別々の転炉で行う場合、両工程を同一の転炉で行う場合のいずれにも適用できる。
【0075】
通電は、吹錬の後半に行うのが、スラグ中の粒鉄の密度が増加した状態で通電することにつながり効果的である。この理由から、送酸停止から遡る1分の間、すなわち、送酸停止の1分間前から送酸を停止するまでの間に電流を供給することが好ましい。
【0076】
以上説明したとおり、本発明の転炉設備によれば、金属浴への通電を安定して、安全に行い、スラグ中に含まれる粒鉄量を低減させることができ、従来よりも金属鉄分の含有量が減少したスラグを安定して得ることができる。
【0077】
なお、本発明の実施の形態の一例について説明したが、本発明は、上記発明の実施の形態の説明に限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も、本発明に含まれることはいうまでもない。
【0078】
(実施例)
以下、本発明の転炉設備を用いた精錬方法の一例を、より具体的な例を挙げて説明する。なお、以下の例はひとつの実施例あるいは参考例について、20チャージ前後の複数チャージで条件を揃えて実施した平均的な結果である。
【0079】
(実施例1)
300t規模の上底吹転炉を改造し、炉底にMgO-C製レンガを設置し、また、トラニオン軸側の両側の炉壁には上部電極として炉底から2000mmの位置にMgO-C製レンガを設置した。炉内径は6000mmであり、溶鉄の深さは1700mmであった。ランス高さは湯面からランス先端の距離が3000mmになるように設置して吹錬した。炉底には酸素吹き羽口を2本設置した。
【0080】
送酸開始と同時に通電を開始し、送酸終了と同時に通電を終了した。電源には、最大許容電流を超える電流が流れると電流を遮断する機構を有するものを用いた。該装置にて、最大許容電流が500Aになるよう設定した。また、あらかじめ測定したスラグの抵抗値を想定した場合、スラグを介して250Aの電流が流れるように電源の電圧を設定した。
【0081】
溶銑成分は、C:3.8~3.9%、Si:0.01%、P:0.02%、Mn:0.01%であり、終点成分はC:0.04%で、温度が1650℃前後になるよう調整した。
【0082】
吹錬開始時に、約4割のチャージで炉壁に付着している地金の影響と見られる電流が流れた。その電流値が500Aを超えたので、電源を遮断した。その後、30秒ごとに電源再投入し、500A以上流れた場合に電源を遮断することを繰り返した。これら約4割のチャージのうち全てのチャージで、吹錬開始から2分~2.5分の時点で電流がほとんど流れない状態になったので、それ以降、そのままの状態に保った。
【0083】
炉壁に付着した地金は、前チャージにスラグに混在して付着したまま溶解せずに残ったものか、あるいは、当該チャージの溶銑装入時に付着したものと推定される。吹錬開始後数分で解消したことを考えると、溶銑であった可能性が高い。なお、この間に電源再投入後に観察された500A超の電流は、後で効果を検証するための電流平均値には含まないようにした。
【0084】
吹錬開始時に、上述の地金影響と推定される電流が流れなかったものは、開始から回路を遮断せずそのまま通電を継続した(開始直後は電流は観察されなかった)。電流値は、初期に炉内抵抗値が高く電流が検出できない領域から徐々に上昇し、吹錬開始後3~3.5分後に、220~270Aに至った。その後、電流値は若干変動があるものの前記電流レベルを保ち、測温サンプリング中の通電中断を除くと、14~14.5分の吹錬全体でほぼ安定して電流が流れ終了した。
【0085】
各々の吹錬終了後、それぞれスラグをほぼ全量排出し、冷却後、粗粉砕してから、各々のチャージの金属鉄の含有量を評価した。
【0086】
吹錬中の電流値の平均は約200Aであり、プラスマイナス20Aの範囲に入っており、スラグ中の粒鉄量の平均値は7.0%、バラツキを表わす標本標準偏差は3.4%であった。
【0087】
このように、粒鉄量のバラツキが定量化できたので、次回からは、転炉内に流れた電流値をスラグの性状を表わす情報として、後処理工程に連絡した。後処理工程では、この情報で、処理時間を設定したので安定した処理を行うことができた。
【0088】
(実施例2)
300t規模の上底吹転炉を改造し、炉底にMgO-C製レンガを設置し、また、炉壁には上部電極としてランスに電源を接続した。炉内径は6000mmであり、溶鉄の深さは1700mmであった。ランス高さは湯面からランス先端の距離が3000mmになるように設置して吹錬した。炉底には酸素吹き羽口を2本設置した。
【0089】
送酸開始と同時に通電を開始し、送酸終了と同時に通電を終了した。電源には、最大許容電流を超える電流が流れると電流を遮断する機構を有するものを用いた。該装置にて、最大許容電流が500Aになるよう設定した。また、あらかじめ測定したスラグの抵抗値を想定した場合、スラグを介して250Aの電流が流れるように電源の電圧を設定した。
【0090】
溶銑成分は、C:3.8~3.9%、Si:0.01%、P:0.02%、Mn:0.01%であり、終点成分はC:0.04%で、温度が1650℃前後になるよう調整した。
【0091】
実施例1と同様に、吹錬開始時に、1チャージのみランス孔の絶縁部に付着している地金の影響と見られる電流が流れた。その電流値が500Aを超えたので、電源を遮断した。その後、30秒して、電源を再投入したところ、電流がほとんど流れなかったので、そのままの状態に保った。
【0092】
地金は、前チャージあるいは当該チャージの吹錬開始直後に絶縁箇所を短絡するように付着したもので、炉内からの熱あるいは500Aの通電時のジュール熱で溶解して除去されたものと推定される。このチャージで観察された500A超の電流は後に示す電流の平均値には含めなかった。
【0093】
その他のチャージは、前述のような電流が観察されなかったので、回路を遮断せずに通電を継続した。ただし、電流は吹錬初期(~2分程度)には観察されなかった。全てのチャージで吹錬開始後3~3.5分程度ころに電流値が徐々に上昇し、250Aに至った。その後2.5~3分程度ほぼ安定して250A程度が流れたのち徐々に電流値が低下したが、さらに吹錬開始後9分程度で電流が再び上昇し、150~200A程度の電流が観察された。この電流は、測温サンプリング中の通電中断を除くと、14~14.5分の吹錬終了までほぼ安定して流れた。吹錬終了直前に電源をOFFとした。
【0094】
吹錬中の電流値の平均は約100Aであり、プラスマイナス10Aの範囲に入っており、スラグ中の粒鉄量の平均値は6.2%、バラツキを表わす標本標準偏差は2.3%であった。
【0095】
実施例1と同様に、後処理工程に、正常に流れた電流の平均値(この場合は100A前後)の値をスラグの情報として連絡した。後処理工程では、この情報で、処理時間を設定したので安定した処理を行うことができた。
【0096】
(参考例)
300t規模の上底吹転炉を改造し、炉底にMgO-C製レンガを設置し、また、トラニオン軸側の両側の炉壁には上部電極として炉底から2000mmの位置にMgO-C製レンガを設置した。炉内径は6000mmであり、溶鉄の深さは1700mmであった。ランス高さは湯面からランス先端の距離が3000mmになるように設置して吹錬した。炉底には酸素吹き羽口を2本設置した。
【0097】
送酸開始と同時に通電を開始し、送酸終了と同時に通電を終了した。電源には、最大許容電流を超える電流が流れると電流を遮断する機構を有するものを用いた。該装置にて、最大許容電流が500Aになるよう設定した。また、スラグの抵抗値を考慮して転炉内には200Aの電流が流れるように設定した。
【0098】
溶銑成分は、C:3.8~3.9%、Si:0.01%、P:0.02%、Mn:0.01%であり、終点成分はC:0.04%で、温度が1650℃前後になるよう調整した。送酸開始と同時に通電を開始し、送酸終了と同時に通電を終了した。
【0099】
また、あらかじめ測定したスラグの抵抗値を想定した場合、スラグを介して250Aの電流が流れるように電源の電圧を設定した。電源には、最大許容電流を超える電流が流れると電流を遮断する機構を備えないものを用いた。
【0100】
実施例1と同様に、45%のチャージで吹錬開始時に炉壁に付着している地金の影響と見られる電流が流れた。その電流値は500Aを超えたが、そのまま電源を切らずに通電と吹錬を続けた。
【0101】
これらのチャージでは吹錬開始後2分を経過したころから電流が低下し、3分ころには250A前後の電流を示した。抵抗値の変化から、初期の2分程度は地金による通電で、その後はスラグを介した通電と推定された。後の電流平均値には、この間の500A超の電流値も含むようにした。
【0102】
残りの55%のチャージでは、前述のような電流が観察されなかったが、やはり、吹錬開始後3~3.5分ころに電流値が徐々に上昇し、250Aに至った。その後は全てのチャージで、2.5~3分程度ほぼ安定して250A程度が流れたのち徐々に電流値が低下したが、さらに吹錬開始後9分程度で電流が再び上昇し、150~200A程度の電流が観察された。この電流は、測温サンプリング中の通電中断を除くと、14~14.5分の吹錬終了までほぼ安定して流れた。吹錬終了直前に電源をOFFとした。
【0103】
吹錬中の電流値の平均は初期通電したもので300A超、初期通電が観察されなかったチャージで約250Aであった。スラグ中の粒鉄量の平均値は7.2%、バラツキを表わす標本標準偏差は3.3%であった。ただし、平均電流値が300A超のチャージと、平均電流値が250Aのチャージを比べた場合、効果に差異はみとめられなかった。
【0104】
一方、前者の300A超のチャージは、そのままの電流平均値を後処理工程に連絡したため、磁選処理での処理速度を下げて対応し、結果として地金の回収効率が悪化した。
【0105】
また、初期500A超の通電を2分以上継続した結果、当該チャージの出鋼後に炉内を観察したところ、電極から下方の炉壁煉瓦の損耗が異常に進んでいることが確認された。当該チャージを含む数十チャージの区間での平均損耗速度で評価した場合、10%程度の上昇に相当することが判明した。地金を大電流が通過した際に発生したジュール熱で耐火物の損耗が極度に進んだと考えられる。
【0106】
(実施例3)
300t規模の上底吹転炉を改造し、炉底にMgO-C製レンガを設置し、また、炉壁には上部電極として路底から2000mmの位置にMgO-C製レンガを設置した。炉内径は6000mmであり、溶鉄の深さは1700mmであった。ランス高さは湯面からランス先端の距離が3000mmになるように設置して吹錬した。炉底には酸素吹き羽口を2本設置した。
【0107】
送酸開始と同時に通電を開始し、送酸終了と同時に通電を終了した。電源には、定電流制御機構を有するものを用いた。その応答速度は0.5secであった。定電流値の設定値は300Aとして、その許容範囲は+50A-300Aとした。
【0108】
溶銑成分は、C:3.8~3.9%、Si:0.01%、P:0.02%、Mn:0.01%であり、終点成分はC:0.04%で、温度が1650℃前後になるよう調整した。
【0109】
吹錬開始時に、約4割のチャージで炉壁に付着している地金の影響と見られる電流が流れた。その電流値が350Aを超えたので、電源を遮断した。その後、30秒ごとに電源再投入し、500A以上流れた場合に電源を遮断することを繰り返した。これら約4割のチャージのうち全てのチャージで吹錬開始から2分~2.5分の時点で電流がほとんど流れない状態になったので、それ以降、そのままの状態に保った。
【0110】
なお、この間に電源再投入後に観察された500A超の電流は、後で効果を検証するための電流平均値には含まないようにした。
【0111】
吹錬開始時に上述の地金影響と推定される電流が流れなかったものは、開始から回路を遮断せずそのまま通電を継続した(開始直後は電流は観察されなかった)。電流が観察されない場合でも定電流制御の下限を0Aとしていたので、そのままの状態に保った電流値は初期に炉内抵抗値が高く、電流が検出できない領域から徐々に上昇し、吹錬開始後3~3.5分後に300Aに至った。その後、電流値は電源の出力制御によってほぼ変動せずに、測温サンプリング中の通電中断を除くと、14~14.5分の吹錬全体でほぼ安定して約300A電流が流れ終了した。
【0112】
吹錬中の電流値の平均は約240Aであり、プラスマイナス20Aの範囲に入っており、スラグ中の粒鉄量の平均値は2.6%、バラツキを表わす標本標準偏差は1.4%であった。
【0113】
このように、粒鉄量のバラツキが定量化できたので、次回からは、転炉内に流れた電流値をスラグの性状を表わす情報として、後処理工程に連絡した。後処理工程では、この情報で、処理時間を設定したので安定した処理を行うことができた。
【0114】
(実施例4)
300t規模の上底吹転炉を改造し、炉底にMgO-C製レンガを設置し、また、炉壁には上部電極として路底から2000mmの位置にMgO-C製レンガを設置した。炉内径は6000mmであり、溶鉄の深さは1700mmであった。ランス高さは湯面からランス先端の距離が3000mmになるように設置して吹錬した。炉底には酸素吹き羽口を2本設置した。
【0115】
送酸開始と同時に通電を開始し、送酸終了と同時に通電を終了した。電源には、実施例3で用いた電源を使用し、回路の抵抗値を算出する計算機構を付加した。抵抗値の上限は1Ωとし、抵抗値の下限は0.05Ωと設定した。そして、設定した抵抗値の上下限の範囲内で、電流が300A流れるように制御した。
【0116】
なお、算出した抵抗値が、設定した抵抗値の上下限を超えている時には。回路に流れる電流は5Vと低い電圧を印加した。抵抗値が0.05Ω~1Ωの範囲では、一定の電流を流すことができた。
【0117】
溶銑成分は、C:3.8~3.9%、Si:0.01%、P:0.02%、Mn:0.01%であり、終点成分はC:0.04%で、温度が1650℃前後になるよう調整した。
【0118】
抵抗値は、吹錬開始時に、炉壁に付着している地金の影響と見られる抵抗値の下降が観察された。その抵抗値の値は0.05Ω以下であったので、300Aは流さなかった。その後、抵抗値を引き続き観察したところ、0.05Ω以下の状態はなくなったが、直後に1Ωを超える状態が続いたので、300Aの電流は流さなかった。
【0119】
そして、吹錬開始後3~3.5分後には抵抗値が1Ω以下0.05Ω以上になったので、電流値を300Aとした。14~14.5分の吹錬を終了し、吹錬終了直前で通電を終了した。
【0120】
これらの吹錬で、電流値の平均は約240Aであり、プラスマイナス20Aの範囲に入っており、スラグ中の粒鉄量の平均値は2.7%、バラツキを表わす標本標準偏差は1.3%であった。
【0121】
このように、粒鉄量のバラツキが定量化できたので、次回からは、転炉内に流れた電流値をスラグの性状を表わす情報として、後処理工程に連絡した。後処理工程では、この情報で、処理時間を設定したので安定した処理を行うことができた。
【0122】
(実施例5)
実施例4と同等の条件で、電源を、応答速度1msecの装置に変更した。吹錬と通電状況は実施例4と同様の結果が観察された。
【0123】
ただし、応答速度が向上した分、電流値の変動がほとんどなく、電流値の平均は約240Aであり、プラスマイナス5Aの範囲に入っていた。また、この電流値の平均の幅は、通電中の電源出力の変動よりも、通電開始時期(炉内抵抗が許容範囲に入った時期)による影響が大きかった。
【0124】
スラグ中の粒鉄量の平均値は2.4%、バラツキを表わす標本標準偏差は1.2%であった。
【0125】
このように、粒鉄量のバラツキが定量化できたので、次回からは、転炉内に流れた電流値をスラグの性状を表わす情報として、後処理工程に連絡した。後処理工程では、この情報で、処理時間を設定したので安定した処理を行うことができた。
【0126】
本発明の転炉設備を用いることにより、スラグ内及びスラグ/鉄浴界面に安定的に電流を流すことができた。これにより、スラグ中の粒鉄量とそのバラツキが低減でき、スラグの後処理を安定して行えるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の転炉設備によれば、通電を安定して安全に行い、スラグ中に含まれる粒鉄量を低減させることができ、従来よりも金属鉄分の含有量が減少したスラグを安定して得ることができるので、鉄分歩留を向上し、スラグの後処理である改質処理の効率を向上させることができる。その結果、道路の地盤改良材や下層路盤材のみならず、上層路盤材、コンクリート用骨材、石材原料等に用いるスラグを得ることができるので、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0128】
1 転炉設備
11 スラグ
12 鉄浴
21 第一の電極
22 第二の電極
31 上吹送酸ランス
40 電源装置
41 電流検出手段
42 制御装置
50 底吹き羽口
図1
図2A
図2B
図3
図4