(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】窒化ガリウム単結晶基板の製造方法および周期表第13族元素窒化物単結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220930BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20220930BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
H01L21/304 622W
H01L21/304 631
H01L21/304 622G
C30B29/38 D
B24B1/00 B
(21)【出願番号】P 2021564899
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024722
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大隅 祐李
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-158377(JP,A)
【文献】特開2011-71180(JP,A)
【文献】特開2009-286652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C30B 29/38
B24B 1/00
B24B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面が半極性面である窒化ガリウム単結晶を保持した単結晶保持部と、砥石を保持した砥石保持部とを対向して配置し、前記窒化ガリウム単結晶と前記砥石とを、該窒化ガリウム単結晶と砥石の一方または両方を回転させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程含む、窒化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、
前記砥石が前記主面を研削する方向と、前記窒化ガリウム単結晶のc軸を前記主面へ投影した方向とのなす角が以下の範囲A、CおよびEのうち少なくとも1つの範囲内となるように研削加工する、窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
範囲A:-45°以上45°以下
範囲C:55°以上135°以下
範囲E:-135°以上-55°以下
(但し、前記角度は、前記主面が、[0001]方向側の面の場合は、前記窒化ガリウム単結晶の[0001]方向を、[000―1]方向側の面の場合は、前記窒化ガリウム単結晶の[000-1]方向をそれぞれ前記主面上へ投影した方向と、前記砥石が前記主面を研削する方向とのなす角であり、前記基板の回転方向上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°とする。)
【請求項2】
前記窒化ガリウム単結晶を、前記範囲A内となるように保持して研削加工する、請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記主面の方位が、無極性面からc面方向に0°より大きく45°以下で傾斜している請求項1または2に記載の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記砥石は、矩形状で構成され、複数の前記砥石を、前記砥石保持部の周方向に配置した、請求項1~3のいずれかに記載の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
前記砥石の砥粒は、番手が#1000~#5000である、請求項1~4のいずれかに記載の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
前記窒化ガリウム単結晶を固定する前記単結晶保持部の表面は、中央部を頂点として傾斜している、請求項1~5のいずれかに記載の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記範囲内で前記砥石によって研削された前記単結晶の主面が0.2μm以上の算術平均高さ(Sa)を有する、請求項1~6のいずれかに記載の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項8】
主面が半極性面または無極性面である周期表第13族元素窒化物単結晶と、砥石とを対向して配置し、前記単結晶と前記砥石とを、前記単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と略直交する方向に相対的に往復動させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程を含む、周期表第13族元素窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項9】
主面が半極性面である周期表第13族元素窒化物単結晶と、砥石とを対向して配置し、前記砥石を、前記主面が[0001]方向側面の場合は、前記単結晶の[0001]方向を前記主面上へ投影した方向と略同一な方向に、前記主面が[000-1]方向側面の場合は、前記単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と略同一な方向に、相対的に移動させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程を含む、周期表第13族元素窒化物単結晶基板の製造方法。
【請求項10】
主面が無極性面である窒化ガリウム単結晶を保持した単結晶保持部と、砥石を保持した砥石保持部とを対向して配置し、前記窒化ガリウム単結晶と前記砥石とを、該窒化ガリウム単結晶と砥石の一方または両方を回転させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程含む、窒化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、
前記窒化ガリウム単結晶を、前記砥石が前記主面を研削する方向が以下の範囲GおよびIの一方または両方の範囲内となるように保持するか、または、範囲HおよびJの一方または両方の範囲内となるように保持して研削加工する、窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
範囲G:-45°以上45°以下
範囲H:45°を超え135°未満範囲I:135°以上180°以下および-180°以上-135°以下
範囲J:-135°を超え-45°未満
(但し、前記角度は、前記窒化ガリウム単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と、前記砥石が前記主面を研削する方向とのなす角であり、前記基板の回転方向上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°とする。)
【請求項11】
前記範囲内で前記砥石によって研削された前記単結晶の主面が0.1μm以上の算術平均高さ(Sa)を有する、請求項8~10のいずれかに記載の周期表第13族元素窒化物単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ガリウム単結晶基板の製造方法および周期表第13族元素窒化物単結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表される周期表第13族元素窒化物結晶は、バンドギャップや絶縁破壊電界といった半導体特性に優れていることから、発光ダイオード、レーザーダイオード等の発光デバイスや高周波および高出力の電子デバイス等に有用な物質である。
【0003】
周期表第13族元素窒化物結晶は、六方晶系の結晶構造を有し、c軸方向に極性がある。従来、窒化ガリウム系発光ダイオード(LED)には、主面が極性面(c面)の窒化ガリウム結晶が使用されている。しかし、極性に起因した内部電界によって電子と正孔が分離し、発光効率が低下する現象(ドループ現象)が指摘されている。そのため、主面が半極性面、または無極性面の窒化ガリウム結晶を用いたLED等のデバイスの開発が進められている。窒化ガリウム結晶は、極性に起因して加工性にも異方性があり、c面窒化ガリウム結晶のGa面とN面とで加工性が異なる。窒化ガリウム結晶の研削加工の先行文献として、特許文献1などがあるが、半極性面、無極性面の加工についてはよく知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明者は、窒化ガリウム単結晶の極性の影響が、半極性面、無極性面の加工にも表れることを見出した。そして、結晶方位と研削方向と加工性との関係について検討を重ね、以下の製造方法を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本開示に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法は、主面が半極性面である窒化ガリウム単結晶を保持した単結晶保持部と、砥石を保持した砥石保持部とを対向して配置し、窒化ガリウム単結晶と砥石とを、該窒化ガリウム単結晶と砥石の一方または両方を回転させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程を含み、前記砥石が前記主面を研削する方向と、前記窒化ガリウム単結晶のc軸を前記主面へ投影した方向とのなす角が以下の範囲A、CおよびEのうち少なくとも1つの範囲内となるように研削加工するものである。
範囲A:-45°以上45°以下
範囲C:55°以上135°以下
範囲E:-135°以上-55°以下
(但し、前記角度は、前記主面が、[0001]方向側の面の場合は、前記窒化ガリウム単結晶の[0001]方向を、[000―1]方向側の面の場合は、窒化ガリウム単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と、前記砥石が前記主面を研削する方向とのなす角であり、前記基板の回転方向上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°とする。)
【0007】
本開示に係る周期表第13族元素窒化物単結晶基板の製造方法は、主面が半極性面である周期表第13族元素窒化物単結晶と、砥石とを対向して配置し、前記単結晶と前記砥石とを、前記単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と略直交する方向に相対的に往復動させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程を含む。
【0008】
本開示に係る周期表第13族元素窒化物単結晶基板の他の製造方法は、主面が半極性面である周期表第13族元素窒化物単結晶と、砥石とを対向して配置し、前記砥石を、前記主面が[0001]方向側面の場合は、前記単結晶の[0001]方向を前記主面上へ投影した方向と略同一な方向に、前記主面が[000-1]方向側面の場合は、前記単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と略同一の方向に相対的に移動させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程を含む。
【0009】
本開示に係る窒化ガリウム単結晶基板の他の製造方法は、主面が無極性面である窒化ガリウム単結晶を保持した単結晶保持部と、砥石を保持した砥石保持部とを対向して配置し、前記窒化ガリウム単結晶と前記砥石とを、該窒化ガリウム単結晶と砥石の一方または両方を回転させながら押し付けて、前記主面を研削加工する工程含み、窒化ガリウム単結晶を、砥石が主面を研削する方向が以下の範囲GおよびIの一方または両方の範囲内となるように保持するか、または、範囲HおよびJの一方または両方の範囲内となるように保持して研削加工する。
範囲G:-45°以上45°以下
範囲H:45°以上135°以下
範囲I:135°以上180°以下および-180°以上-135°以下
範囲J:-135°以上-45°以下
(但し、前記角度は、前記窒化ガリウム単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と、前記砥石が前記主面を研削する方向とのなす角であり、前記基板の回転方向上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°とする。)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】(a)~(c)はそれぞれ窒化ガリウム単結晶の極性面、半極性面および無極性面を説明するための概略図である。
【
図3】(a)~(d)は窒化ガリウム単結晶に対する表面研削工程を示す概略図である。
【
図4】(a)は表面研削工程における単結晶保持部とホイール形の砥石保持部との位置関係を模式的に示す平面図であり、(b)はその側面図である。
【
図5】複数の窒化ガリウム単結晶の貼付状態の一例を示す説明図である。
【
図6】表面研削工程において研削加工する範囲の規定を説明するための概略図である。
【
図7】表面研削工程において研削加工する範囲A~Fを示す説明図である。
【
図8A】範囲Aで研削加工した基板表面の顕微鏡写真である。
【
図8B】範囲Bで研削加工した基板表面の顕微鏡写真である。
【
図8C】範囲Cで研削加工した基板表面の顕微鏡写真である。
【
図8D】範囲Dで研削加工した基板表面の顕微鏡写真である。
【
図8E】範囲Eで研削加工した基板表面の顕微鏡写真である。
【
図8F】範囲Fで研削加工した基板表面の顕微鏡写真である。
【
図9】複数の窒化ガリウム単結晶の他の貼付状態を示す説明図である。
【
図10】表面研削工程において研削加工する範囲G~Jを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示の一実施形態に係る窒化ガリウム基板の製造方法を説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【0012】
図1に示すように、準備工程S1では、まず板状の窒化ガリウム単結晶1(以下、単結晶1と略称することがある)を準備する。例えば気相成長法によって作製された窒化ガリウム単結晶のインゴットを、例えばワイヤーソウ等でスライスするスライス工程によって、主面が特定方位の板状窒化ガリウム単結晶1を得ることができる。スライス工程の前または後に、単結晶1の外形状を所望の形状に加工するための外形加工工程を行ってもよい。
【0013】
本開示では、主面が半極性面または無極性面である窒化ガリウム単結晶1を使用する。
図2(a)~(c)はそれぞれ窒化ガリウム単結晶の極性面、半極性面および無極性面を示している。
窒化ガリウム単結晶において、
図2(a)に示すように、主面が極性面(c面、{0001}面)である単結晶は、育成技術が確立しており、一般的に用いられる面である。一方、
図2(c)に示すm面({1-100}面)のように、極性面に垂直な面が無極性面である。
図2(b)に示す{11-22}面、{11-21}面、{11-23}面、{30-31}面、{20-21}面、{10-11}面、{10-12}面のように、極性面と無極性面の中間の面が半極性面である。主面が半極性面または無極性面である窒化ガリウム単結晶の基板は、高効率・高出力の発光素子への応用が期待されている。
ミラー指数の表記は、( )は特定の面、{ }は等価な面、[ ]は特定の方向、< >は等価な方向を表すものとする。なお、負の数字を持つ方位は数字の上にバーをつけてと表すのが一般的であるが、本明細書では便宜上マイナス(-)で表している。例えば、{0001}面は、(0001)面と(000-1)面とを含む。{20-21}面は、(20―21)面、(20―2-1)面およびそれらと等価な面を含む。
【0014】
スライス工程では、例えばc面成長窒化ガリウム単結晶に対してc面に斜めに(主面が極性面からも無極性面からも傾斜するように)スライスすることにより、主面が半極性面である板状の窒化ガリウム単結晶1を切り出すことができる。一方、c面に垂直にスライスすることにより、主面が無極性面である板状の窒化ガリウム単結晶1を切り出すことができる。
特に、主面の方位が、無極性面からc面方向に0°より大きく45°以下で傾斜していると極性の比較的小さい主面が得られるのでよい。無極性面からの傾斜が大きいほど、加工特性の異方性が顕著になる。本実施形態は、主面の方位が無極性面からc面方向に2°以上、さらに好ましくは5°以上傾斜している窒化ガリウム単結晶1において、特に好適である。主面の方位が無極性面からc面方向に2°未満傾斜している窒化ガリウム単結晶1においては、後述する無極性面の加工方法を適用してもよい。
【0015】
スライス工程で切り出した板状の単結晶1は、ダイシング等にて外形を所望の形状に加工するとよい。得られた単結晶1の外形状(平面形状)には特に限定はなく、円形であってもよいし、多角形状であってもよい。また、板状(平面の寸法に対して厚みが比較的小さい)であれば寸法も特に限定されない。
【0016】
以上で準備工程S1を完了し、次に
図1に示す裏面研削工程S2に移る。裏面研削工程S2は、主に、所望の厚みへの加工と、裏面の平坦化および面粗さの制御のために行われる。具体的には、単結晶1の表面を基台に貼付し、例えばラッピング加工、砥石研削加工等を用いて裏面を研削するのがよい。研削によって生じた結晶欠陥、残留応力等をエッチングによって除去してもよい。
【0017】
次に、表面研削工程S3に移る。表面研削工程S3を
図3(a)~(d)に示す。研削装置として、
図4に示すような、単結晶1を載置するチャックテーブル3の回転軸と、砥石4を保持する砥石保持部5の回転軸が平行な、立軸円テーブル型研削装置を使用した。まず、
図3(a)に示すように、窒化ガリウム単結晶1を単結晶保持部2の表面に貼付・保持する。単結晶保持部2として、単結晶1よりも大面積の板状体を使用し、複数枚、例えば3枚~十数枚程度の窒化ガリウム単結晶1を単結晶保持部2の表面に保持するのが生産性を高めるうえで好ましい。
単結晶保持部2としては、例えば、シリコン基板、アルミナ(Al
2O
3)基板、サファイア(単結晶アルミナ)基板、炭化珪素(SiC)基板などを用いることができる。窒化ガリウム単結晶1を単結晶保持部2上に貼付させるには、例えば、ワックス、エポキシ系接着剤などの接着剤、または両面粘着テープ(接着剤が両面についた粘着テープ)を用いてもよい。窒化ガリウム単結晶1の周囲に、窒化ガリウム単結晶1とともに研削されるダミー(テンプレート)を配置すると、端部の加工精度が向上する。ダミーの材質は、例えば、GaN、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、シリコン、サファイア、SiCなどである。
【0018】
次に、
図3(b)に示すように、窒化ガリウム単結晶1を貼付した単結晶保持部2をチャックテーブル3上に載置する。チャックテーブル3は、多孔質構造の表面を有し、負圧を利用して単結晶保持部2を平面保持する。また、チャックテーブル3は、図示しない回転駆動源によって中心軸を中心に回転可能である。なお、単結晶保持部2を用いずに、窒化ガリウム単結晶1を直接チャックテーブル3で保持してもよい。
【0019】
窒化ガリウム単結晶1を研削する砥石4(
図4を参照)は、例えば矩形状で構成され、ホイール状の砥石保持部5に保持される。その際、複数の砥石4が砥石保持部5の周方向に沿って円状に等間隔で配列されているのがよい。砥石4が長軸と短軸とを有する形状であれば、長軸を周方向、短軸を径方向に配置するとよい。砥石4の軌道径(ピッチ円径)は、単結晶保持部2の幅w(径)よりも大きいか同等である。砥石4は軌道に対応した曲率で湾曲した形状であってもよい。砥石4の軌道は曲率を有するので、単結晶1の配置領域の幅(砥石4の軌道と交差する長さ、配置領域が環状で砥石4の軌道と2回交差する場合はその一方の幅)が砥石4の軌道径に対して小さいほど各単結晶1に対する砥石4の研削方向を制御しやすい。例えば、単結晶1の配置領域の幅は、砥石4の軌道径の半分以下であってもよい。また、各単結晶1の幅(砥石4の軌道と交差する長さ)は砥石4の軌道径の半分以下であってもよい。複数の単結晶1を単結晶保持部2の半径方向に配置する場合、砥石4の軌道に合わせて内側の単結晶1と外側の単結晶1の向きを調整してもよい。
使用する砥石4としては、例えばダイヤモンド砥石、SiC砥石等が使用可能である。また、砥石4の砥粒は、窒化ガリウム単結晶1を研削可能である限り、特に制限されないが、番手が#1000~#5000であるのがよい。粒度の比較的大きい低番手(#1000~#5000)の砥石4で研削した後、さらに粒度の比較的小さい高番手(例えば#6000以上)の砥石4で研削してもよい。
図3(c)に示すように、砥石保持部5は、スピンドル6の先端部に固定され、スピンドル6の回転により砥石保持部5を周方向に回転させる。
【0020】
窒化ガリウム単結晶1の研削にあたっては、単結晶保持部2と、砥石保持部5とが対向して配置される(
図3(c)、
図4(a)、(b)を参照)。そして、窒化ガリウム単結晶1と砥石4とを回転させながら所定の圧力で押し付けて、窒化ガリウム単結晶1の主面を研削加工する。
図4(a)、(b)では、単結晶1を単結晶保持部2の中央付近に保持し、砥石4が単結晶1の中央付近を通るように、単結晶保持部2と砥石保持部5の位置関係を調整している。
【0021】
図3(c)および
図4(a)に示すように、単結晶保持部2と砥石保持部5とは同方向に回転しているが、互いに反対方向に回転してもよい。
単結晶保持部2を保持したチャックテーブル3の回転数は50rpm以上300rpm以下であるのがよい。砥石4の回転速度(周速度)は10m/秒以上30m/秒以下であるのがよい。また、砥石4の単結晶1の厚み方向の送り速度は、0.05μm/秒以上1.0μm/秒以下であるのがよい。
研削加工が終了後、
図3(d)に示すように、単結晶保持部2をチャックテーブル3から取り外す。
【0022】
図4(b)に示す、窒化ガリウム単結晶1を保持するチャックテーブル3の表面2aは、中央部を頂点として傾斜していてもよい。単結晶保持部2と単結晶1がチャックテーブル3の形状に倣って変形し、研削領域を限定することができる。砥石4による研削領域を、単結晶保持部2の半分程度に限定することにより、装置や治具への負荷を低減しつつ加工性を向上させることができる。
図4(a)、(b)において、研削領域を矢印Lで示す。加工領域を限定することで、単結晶1の主面に対する砥石4の研削速度と研削方向も限定される。
【0023】
本発明者は、主面が無極性面または半極性面である窒化ガリウム単結晶1の研削加工では、砥石4の入射する方向(角度)によって加工性が異なり、面粗さが変化することを見出した。例えば、
図5に示すように、半極性面の窒化ガリウム単結晶1の18枚を単結晶保持部2の表面に貼付した場合について説明する。主面が半極性面である窒化ガリウム単結晶1には、[0001]方向側の主面と[000-1]方向側の主面とがある。以下、[000―1]方向側の主面を研削加工する場合について説明する。
図5において、矢印は窒化ガリウム単結晶1の[0001]方向(ガリウム面の方向)を主面上へ投影した方向を示している。各単結晶1の上側(矢印の方向)がガリウム面に近い側で、下側が窒素面に近い側となる。
【0024】
砥石4の研削方向は、
図6に示すように、窒化ガリウム単結晶1の[000-1]方向を主面上へ投影した方向Mと、単結晶保持部2と砥石保持部5の回転に伴って砥石4が前記主面を研削する方向R1とのなす角で表す。
図6において、なす角は、窒化ガリウム単結晶1の回転方向R2の上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°としている。
【0025】
このような条件で、主面(表面と裏面)が(20-21)面と(20-2―1)面である半極性窒化ガリウム単結晶1の(20-2―1)面([000―1]方向側の主面)の研削を行ったところ、窒化ガリウム単結晶1の配置された範囲によって、窒化ガリウム単結晶1の表面粗さに差がある(各範囲の境界で表面粗さが変化する)ことが見出された。すなわち、研削後の各窒化ガリウム単結晶1での表面粗さを調べたところ、
図7に示す範囲A~Fに分類されることが分かった。各範囲は、窒化ガリウム単結晶1の[000-1]方向を主面上へ投影した方向Mと、砥石4が主面を研削する方向R1とのなす角で表され、単結晶1の回転方向上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°とする。砥石4の研削方向は、主面に形成された研削痕(砥石4の軌跡)から決定した。
研削後の各窒化ガリウム単結晶1での表面状態を範囲毎に
図8A~
図8Fに示す。また、範囲毎の面粗さを表1に示す。
【表1】
【0026】
表1に示す面粗さ(算術平均高さSa)を得た具体的な加工条件は、チャックテーブル3の回転数が100rpm、砥石4は#3000のダイヤモンド砥石、砥石4の回転速度(周速度)が19m/秒、砥石4の送り速度が0.12μm/秒以下である。
また、算術平均高さSaは、例えば、キーエンス社製のレーザーマイクロスコープVK-X1100により求めることができる。例えば、測定モードをカラー超深度、測定倍率を1200倍(対物50倍、接眼24倍)、測定範囲を約60μm×80μmとして、測定ピッチ、カットオフフィルタλs、カットオフフィルタλcを測定領域の表面形状に合わせて適宜設定して、複数箇所(5点以上)算術平均高さを測定し、平均値を測定値とする。また、単結晶1の厚さTは、マイクロメーターにより求めることができる。
【0027】
図8A~
図8Fおよび表1から明らかなように、範囲A、CおよびEでは、窒化ガリウム単結晶1の算術平均高さSaが、その他の範囲B、DおよびFに比べて大きくなっていることがわかる。すなわち、範囲B、DおよびFでは、主面は鏡面に近いのに対して、範囲A、CおよびEでは、算術平均高さSaが0.2μm以上であり、いわゆる梨地面となっている。また、範囲A、CおよびEでは、窒化ガリウム単結晶1の厚さTが、その他の範囲B、DおよびFに比べて小さく(研削量が大きく)なっていることもわかる。
【0028】
#3000の砥石4による研削加工面は、一般に梨地面である。範囲A、CおよびE内は、砥石4によって研削された単結晶1の主面が0.2μm以上の算術平均高さ(Sa)を有しており、研削加工が適正に実施されていることを示唆している。一方、範囲B、DおよびFでは、砥石4によって研削された単結晶1の主面が0.2μm未満の算術平均高さ(Sa)を有しており、研削加工が適正に実施されていないことを示唆している(すなわち、研削用の砥石を用いているにもかかわらず、研磨的な加工となっている)。これらの範囲では、研削加工が適正に実施されていないために、加工面に比較的大きな残量応力が発生していることが予想される。また、範囲A、CおよびE内では、いずれも加工面の表面状態が比較的均一である(
図8A、8C、8Eを参照)。本開示では、単結晶1の主面上の研削痕は複数の円弧で形成されていて、砥石4の研削方向は、単結晶1の主面内で変化している。そのような場合、主面の全領域で砥石4の研削方向(つまりすべての研削痕)が範囲A、C、Eであることが好ましいが、主面の少なくとも半分以上の領域で砥石4の研削方向(つまり半分以上の研削痕)が範囲A、C、Eであるとよい。算術平均高さ(Sa)は砥石4の番手に依存し、#1000~#5000の砥石4による研削加工では、範囲A、CおよびE内は算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上となる。
【0029】
本開示では、範囲Aは、算術平均高さSaが、他の範囲と比べて大きくなっている。また、範囲Aは、他の範囲と比べて加工面の表面状態が特に均一である(
図8参照)。したがって、特に、砥石4の研削方向が範囲A内となるように研削加工するのが好ましい。
【0030】
図1に戻って、表面研削工程S3が終了後、主面を研削加工した単結晶1をCMP(ケミカル・メカニカル・ポリシング)工程S4に送る。CMPは、表面を研磨(鏡面化)するとともに表面の微細な歪み等をなくすための加工であって、例えば、酸性溶液またはアルカリ性溶液中にコロイダルシリカなどの砥粒を分散させたスラリーを用いて行うことができる。
【0031】
CMP工程S5が終了後、洗浄工程S5に送られ、酸性洗浄液、アルカリ性洗浄液、機能水、超純水等で洗浄・乾燥して、窒化ガリウム単結晶基板を得る。得られた窒化ガリウム単結晶基板は、ワイドバンドギャップや高絶縁破壊電界といった半導体特性を有するので、発光ダイオード、レーザーダイオード等の発光デバイスや高周波および高出力の電子デバイス、短波長レーザー、次世代パワーデバイス等に好適に使用される。
【0032】
なお、
図5に示す例では、複数枚の半極性面の窒化ガリウム単結晶1を単結晶保持部2の表面に、窒化ガリウム単結晶1の[0001]方向を主面上へ投影した方向(矢印の方向)を揃えて、貼付した場合について説明したが。
図9に示すように、複数の窒化ガリウム単結晶1を、単結晶保持部2の周方向に配置し、上記矢印が単結晶保持部2の径方向外側に向くように、単結晶保持部2の表面に貼付するのが、いわゆる梨地面の単結晶1を効率よく作成するうえで好ましい。
【0033】
以上の説明では、主として主面が半極性面である窒化ガリウム単結晶1を使用した場合について説明したが、窒化ガリウム単結晶1の主面が無極性面である場合、窒化ガリウム単結晶1を保持して主面を研削加工するにあたり、砥石4が窒化ガリウム単結晶1の主面を研削する方向が、
図10に示す以下の範囲GおよびIの一方または両方の範囲内となるように保持するか、または、範囲HおよびJの一方または両方の範囲内となるようにするのがよい。
範囲G:-45°以上45°以下
範囲H:45°以上135°以下
範囲I:135°以上180°以下および-180°以上-135°以下
範囲J:-135°以上-45°以下
(但し、前記角度は、前記窒化ガリウム単結晶の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と、前記砥石が前記主面を研削する方向とのなす角であり、前記基板の回転方向上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°とする。)
【0034】
主面(表裏面)を研削後の各窒化ガリウム単結晶1の範囲毎の面粗さ(算術平均高さSa)を求めた。その結果を表2に示す。なお、算術平均高さSaを得た具体的な加工条件は、前記した表1の加工条件と同様である。
【表2】
【0035】
表2から、主面が無極性面である窒化ガリウム単結晶1に対しては、範囲G、H、I、Jでは、表面および裏面に加工特性にほとんど差がないことがわかる。主面が無極性面である窒化ガリウム単結晶1では、半極性面で見られた表面と裏面との加工特性の違いは見られない。主面が半極性面であっても、無極性面からの傾斜が小さい(例えば、2°未満)場合は、表面と裏面との加工特性の違いが小さいので、本実施形態は、主面の方位が無極性面からc面方向に2°未満傾斜している窒化ガリウム単結晶1にも適用可能である。
【0036】
また、主面が半極性面または無極性面である周期表第13族元素窒化物単結晶1と、砥石4とを対向して配置し、単結晶1と砥石4とを、単結晶1の[000-1]方向を前記主面上へ投影した方向と略同一な方向(すなわち、
図7に示す範囲Aから範囲Dへと向かう方向)に砥石4を相対的に移動させながら押し付けて、主面を研削加工してもよい。窒化ガリウムでは、範囲Aは[000-1]投影方向とのなす角が0°±45°である。周期表第13族元素窒化物の材質(組成)によって、各範囲の境界となる角度は、いくらか異なることが予想されるが、窒化ガリウムと同程度と推測される。研削装置として、
図3、
図4に示すような研削装置を用いてもよいし、単結晶1と砥石4とが相対的に往復動する平面研削装置を用いて、砥石4を範囲Aと範囲Dとを結ぶ方向に相対的に往復動させながら、砥石4が範囲Aから範囲Dへと向かう一方方向へ移動するときに単結晶1と砥石4との距離を小さくする(砥石4を単結晶1の方向に移動させる)ようにしてもよい。
【0037】
以上、[000―1]方向側の主面を研削加工する場合について説明したが、[0001]方向側の主面を加工するときには、窒化ガリウム単結晶1の[0001]方向を主面上へ投影した方向(矢印の方向)が
図5に示す矢印とは反対方向となるように配置し、砥石の研削方向を[0001]方向を投影した方向と略同一な方向とすることで、同様な加工結果が得られた。
【0038】
また、本開示によれば、上記表面研削工程に代えて、主面が半極性面または無極性面である周期表第13族元素窒化物単結晶1と、砥石4とを対向して配置し、単結晶1と砥石4とを、単結晶1の[000-1]方向を主面上へ投影した方向と略直交する方向(すなわち、
図7に示す範囲Cと範囲Eとを結ぶ方向)に相対的に往復動させながら押し付けて、主面を研削加工する工程を採用してもよい。砥石4を往復動させて研削加工する場合、例えば範囲Aと範囲Dとを結ぶ方向に往復動させると、範囲Aから範囲Dへと向かう方向に加工するときの研削性と、範囲Dから範囲Aへと向かう方向に加工するときの研削性とが大きく異なるため、適切な加工条件の設定が難しくなるとともに、均一な加工面が得られにくい。これに対して、範囲Cと範囲Eとを結ぶ方向に往復動させると、範囲Cから範囲Eへと向かう方向に加工するときの研削性と、範囲Eから範囲Cへと向かう方向に加工するときの研削性とに違いがないので、適切な加工条件の設定が容易になるとともに、均一な加工面が得られやすい。窒化ガリウムでは、範囲Cおよび範囲Eは[000-1]投影方向Mとのなす角が55°~135°、-55°~-135°である。周期表第13族元素窒化物の材質(組成)によって、各範囲の境界となる角度は、いくらか異なることが予想されるが、窒化ガリウムと同程度と推測される。研削装置として、例えば、単結晶1と砥石4とが相対的に往復動する平面研削装置を用いて、砥石4を範囲Cと範囲Eとを結ぶ方向に相対的に往復動させながら研削加工するとよい。
【0039】
ここで、周期表第13族元素窒化物としては、例えば、前記した窒化ガリウムのほか、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはこれらの混晶が使用可能である。その他は上記の実施形態と同じである。
【0040】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は以上の実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々の変更や改善が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 窒化ガリウム単結晶(単結晶)
2 単結晶保持部
3 チャックテーブル
4 砥石
5 砥石保持部
6 スピンドル
【要約】
窒化ガリウム単結晶基板の製造方法は、主面が半極性面または無極性面である窒化ガリウム単結晶と砥石とを対向して配置して相対的に移動させながら押し付けて、主面を研削加工する工程を含み、砥石が主面を研削する方向と、窒化ガリウム単結晶のc軸を主面へ投影した方向とのなす角が以下の範囲A、C、Eのうち少なくとも1つの範囲内となるように研削加工するものである。
A:-45°以上45°以下
C:55°以上135°以下
E:-135°以上-55°以下
(但し、前記角度は、主面が、[0001]方向側の面の場合は、窒化ガリウム単結晶の[0001]方向を、[000―1]方向側の面の場合は、窒化ガリウム単結晶の[000-1]方向をそれぞれ主面上へ投影した方向と、砥石が主面を研削する方向とのなす角であり、基板の回転方向上流側を0°~180°、下流側を0°~-180°とする。)