IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バーゼル・ポリオレフィン・ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7150200懸濁媒質のワークアップ含むエチレンポリマーの製造のための懸濁方法
<>
  • 特許-懸濁媒質のワークアップ含むエチレンポリマーの製造のための懸濁方法 図1
  • 特許-懸濁媒質のワークアップ含むエチレンポリマーの製造のための懸濁方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】懸濁媒質のワークアップ含むエチレンポリマーの製造のための懸濁方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/24 20060101AFI20220930BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20220930BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C08F6/24
C08F10/02
C08F2/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021570846
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2020064792
(87)【国際公開番号】W WO2020239885
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】19177333.2
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500289758
【氏名又は名称】バーゼル・ポリオレフィン・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ロールバハ、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】パルツマイヤー、ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ダム、エルケ
(72)【発明者】
【氏名】プラング、ハラルド
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-158227(JP,A)
【文献】特開平06-293805(JP,A)
【文献】特表2017-524052(JP,A)
【文献】国際公開第2018/104080(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/108951(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 6/00 - 6/28
C08F 10/00 - 10/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合反応器または一連の重合反応器で懸濁重合によりエチレンポリマーを製造する方法であって、
重合触媒の存在下で、40~150℃の温度及び0.1~20MPaの圧力でエチレンを重合するか、もしくはエチレンと1種以上のC-C12-1-アルケンとを共重合し、炭化水素希釈液を含む懸濁媒質中でエチレンポリマー粒子の懸濁液を形成するステップ、
エチレンポリマー粒子の懸濁液を固液分離器内に移すステップであって、上記懸濁液が湿潤エチレンポリマー粒子及び母液に分離されるステップ、
母液のワックス枯渇部分(wax-depleted portion)から分離された希釈液を生成する希釈液蒸留部を含む、母液のワックス枯渇部分を生成するための蒸発器を含み、炭化水素ワックス溶液からワックスを除去するために直接蒸気蒸留によって作動するワックス除去部であって、該ワックス除去部は、第1の液液分離器内で凝縮した後に、水相と炭化水素相とに分離されるガス状炭化水素-蒸気混合物を生成する、ワックス除去部を含む、ワークアップセクションへ母液の一部を移送するステップ、
希釈液蒸留部で生成した分離された希釈液の少なくとも一部を、重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルさせるステップ、を含み、
第1の液液分離器で得られた炭化水素相の少なくとも一部は、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送される、方法。
【請求項2】
前記母液のワックス枯渇部分を生成するための前記蒸発器を通過することなく前記希釈液蒸留部に移送される、前記第1の液液分離器で得られた炭化水素相の一部が、第2の液液分離器に移送され、その内部で第2の水相と第2の炭化水素相とに分離され、前記第2の炭化水素相は、前記希釈液蒸留部に移送される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の液液分離器がコアレッサを備えているものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記固液分離器で得られた湿潤エチレンポリマー粒子は、粒子をガス流と接触させて乾燥させて炭化水素負荷(load)を運ぶガス流を形成した後、ガス流から炭化水素負荷を分離して液体炭化水素回収流を形成し、炭化水素回収流の少なくとも一部は、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記希釈液蒸留部に移送された炭化水素回収流は、希釈液蒸留部内に導入される前にフィルタを通過する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記フィルタが逆洗(backwash)フィルタである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記逆洗フィルタによって前記炭化水素回収流から分離された前記エチレンポリマー粒子が、前記炭化水素回収流の一部によって前記固液分離器の上流のエチレンポリマー粒子懸濁液に移送される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記製造されたエチレンポリマーは、マルチモーダルエチレンコポリマーである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エチレンポリマーの製造が、一連の重合反応器で行われ、エチレンホモポリマーが前記重合反応器のいずれか一つで製造される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記エチレンホモポリマーは、一連の重合反応器のうちの第1の重合反応器で製造され、エチレンのコポリマーは、後続の重合反応器で製造される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、重合反応器または一連の重合反応器で懸濁重合によりエチレンポリマーを製造する方法を提供する。本開示は、特に重合反応器または一連の重合反応器で懸濁重合によりエチレンポリマーを製造する方法であって、懸濁媒質中にエチレンポリマー粒子の得られた懸濁液は、固液分離器に移送され、前記懸濁液は湿潤エチレンポリマー粒子と母液とに分離され、前記湿潤エチレンポリマー粒子は、該粒子をガス流と接触させることで乾燥される方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを製造する懸濁プロセスは、エチレンポリマーを生成するために確立された方法であり、例えば、EP0905152A1またはWO2012/028591A1に開示されている。このようなプロセスは、多くの場合一連の反応器において実行され、そのために重合反応器における異なる反応条件を設定し、個々の重合反応器における異なるポリマー組成を生成することが可能となる。したがって、生成されたマルチモーダルエチレンコポリマーは、例えば、生成物特性及び加工性の優れた組み合わせを有することを特徴とする。エチレンポリマーを製造するための懸濁プロセスは、一般に炭化水素または炭化水素混合物を希釈剤として使用する。液相または超臨界相の懸濁液を形成する懸濁媒質は、主成分として希釈液の他にも溶解されたエチレン、コモノマー、アルミニウムアルキル、及び水素などのさらなる成分、ならびにオリゴマー及びワックスなどの溶解された反応生成物を含む。一連の反応器における懸濁液中のマルチモーダルエチレンコポリマーを生成する原理は、例えば、文献[F.Altら,Macromol.Symp.2001,163,135-143]に開示されている。
【0003】
経済的及び生態学的理由で、希釈液(diluent)または非重合モノマーまたはコモノマーのような反応混合物の消耗しない成分を重合工程にリサイクルするのが一般的である。形成された懸濁液からの生成したポリエチレン粒子の分離は、湿潤エチレンポリマー粒子及び分離された懸濁媒質、いわゆる母液を生成する。ポリマー粒子は、一般に高温窒素流のような高温ガス流を用いて粉末乾燥器で乾燥される。その後、高温ガス流に含有された炭化水素は、高温ガス流から分離され、液体炭化水素回収流に移送されて、重合に戻る。
【0004】
母液は、重合プロセスに直接リサイクルされることができるしかし、重合プロセスから、懸濁媒質中に溶解される重合反応の副産物を除去するためには、母液の一部をワークアップ(work up)しなければならない。母液をワークアップする他の理由は、一連の重合反応器の最終反応器の以後に得られた懸濁液が、特定の特性の組み合わせを持つポリエチレンを製造するための以前の重合反応器のいずれか一つに導入されてはならない成分を含有することがあり得るからである。例えば、高いESCRを有するマルチモーダル(multimodal)エチレン共ポリマーを製造するために、重合反応器のいずれか一つでの重合の一つがエチレン単独重合(homopolymerization)である必要がたびたびあるので、それぞれの重合反応器にコモノマーが存在してはならない。ワークアップされる母液は多成分混合物である。したがって、蒸発または蒸留段階のような多様な分離段階は、所望しないすべての成分を除去し、また重合工程にリサイクルされるように意図されたこれらの成分を分離するのに必要である。例えば、WO2010/136202 A1は、母液の一部を蒸発させる工程を開示している。このプレ蒸留の重質留分(heavy ends)は、ワックス豊富炭化水素流がポリエチレンワックスに濃縮されるワックス除去部に供給される。プレ蒸留のオーバーヘッドストリーム、例えば、ワックス枯渇希釈液は、希釈液蒸留カラムで蒸留される。最終的に、希釈液は吸着機で精製されて工程に再び供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それにもかかわらず、エチレン重合工程で製造された懸濁液から、製造されたエチレンポリマー粒子を除去することで得られた母液をワークアップするための工程を提供する必要があり、このワークアップ工程は、精製された希釈液を提供するだけでなく、経済的でかつエネルギー効率的な方式で行われることができ、蒸発される母液の量を最小化させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、重合反応器または一連の重合反応器で懸濁重合によりエチレンポリマーを製造する方法であって、
重合触媒の存在下で、40~150℃の温度及び0.1~20MPaの圧力でエチレンを重合するか、もしくはエチレンと0.1つ以上のC-C12-1-アルケンとを共重合し、炭化水素希釈液を含む懸濁媒質中でエチレンポリマー粒子の懸濁液を形成するステップ、
エチレンポリマー粒子の懸濁液を固液分離器内に移すステップであって、上記懸濁液が湿潤エチレンポリマー粒子及び母液に分離されるステップ、
母液のワックス枯渇部分(wax-depleted portion)から分離された希釈液を生成する希釈液蒸留部を含む、母液のワックス枯渇部分を生成するための蒸発器を含み、炭化水素ワックス溶液からワックスを除去するために直接蒸気蒸留によって作動するワックス除去部であって、該ワックス除去部は、第1の液液分離器内で凝縮した後に、水相と炭化水素相とに分離されるガス状炭化水素-蒸気混合物を生成する、ワックス除去部を含む、ワークアップセックションへ母液の一部を移送するステップ、
希釈液蒸留部で生成した分離された希釈液の少なくとも一部を、重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルさせるステップ、を含み、
第1の液液分離器で得られた炭化水素相の少なくとも一部は、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送される、方法を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態において、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送された、第1の液液分離器で得られた炭化水素相の一部は、直接に希釈液蒸留部に移送される。
【0008】
いくつかの実施形態において、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送された、第1の液液分離器で得られた炭化水素相の一部は、第2の液液分離器に移送され、内部で第2の水相と第2の炭化水素相とに分離され、前記第の2炭化水素相は希釈液蒸留部に移送される。
【0009】
いくつかの実施形態において、第2の液液分離器には、コアレッサ(coalescer)が取り付けられる。
【0010】
いくつかの実施形態において、第2の液液分離容器から排出された水相は、第1の液液分離容器に戻るようになる。
【0011】
いくつかの実施形態において、固液分離器で得られた湿潤エチレンポリマー粒子は、粒子をガス流と接触させて乾燥させて炭化水素負荷(load)を運ぶガス流を形成した後、ガス流から炭化水素負荷を分離して液体炭化水素回収流を形成し、炭化水素回収流の少なくとも一部は、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送される。
【0012】
いくつかの実施形態において、希釈液蒸留部に移送された炭化水素回収流は、希釈液蒸留部内に導入される前にフィルタを通過する。
【0013】
いくつかの実施形態において、フィルタは逆洗(backwash)フィルタである。
【0014】
いくつかの実施形態において、逆洗フィルタによって炭化水素回収流から分離されたエチレンポリマー粒子は、炭化水素回収流の一部によって固液分離器の上流のエチレンポリマー粒子懸濁液に移送される。
【0015】
いくつかの実施形態において、炭化水素回収流は、炭化水素負荷を運ぶガス流を、スクラバーで冷却した液相と接触させ、スクラバーの底部から炭化水素回収流を排出させることで形成され、炭化水素負荷を運ぶガス流と接触されるためにスクラバーに導入される冷却した液相は、スクラバーの底部から排出された炭化水素回収流の冷却された部分である。
【0016】
いくつかの実施形態で、製造されたエチレンポリマーは、マルチモーダルエチレン共ポリマーである。
【0017】
いくつかの実施形態において、エチレンポリマーの製造は、一連の重合反応器で行われ、エチレンホモポリマーは、重合反応器のうち一つで製造される。
【0018】
いくつかの実施形態において、エチレンホモポリマーは、一連の重合反応器のうちの第1の重合反応器で製造され、エチレンのコポリマーは、後続の重合反応器で製造される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】懸濁によりエチレンポリマーを製造するための構成を概略的に示す図である。
図2】本開示のプロセスにしたがって懸濁によりエチレンポリマーを製造するためのセットアップを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、重合反応器または一連の重合反応器で懸濁重合によりエチレンポリマーを製造する方法を提供する。エチレンポリマーは、重合触媒の存在下でエチレンを重合するか、もしくはエチレンと1つ以上のC-C12-1-アルケンとを共重合して製造される。C-C12-1-アルケンは、線状または分岐状であり得る。好ましいC-C12-1-アルケンは、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンまたは1-デセンなどの線状C-C10-1-アルケンであるか、または4-メチル-1-ペンテンなどの分枝状C-C10-1-アルケンである。2種以上のC-C12-1-アルケンの混合物をエチレンと共重合することも可能である。好ましいコモノマーは、C-C-1-アルケン、特に、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン及び/または1-オクテンである。製造されたエチレンコポリマーの中で、組み込まれたコモノマーから誘導される単位の量は、好ましくは0.01重量%~25重量%、より好ましくは0.05重量%~15重量%、特に0.1重量%~12重量%である。¥エチレンが0.1重量%~12重量%の1-ヘキセン及び/または1-ブテンと、そして特に0.1重量%~12重量%の1-ブテンと共重合されるプロセスが特に好ましい。
【0021】
重合は、すべての通常的なオレフィン重合触媒を使用して実施することができる。これは、例えば、酸化クロムベースのフィリップス触媒を使用するか、チタンベースのチーグラーまたはチーグラーナッタ触媒を使用するか、シングルサイト触媒を使用するか、またはこれら触媒の混合物を使用して重合を実施できることを意味する。本開示の目的のために、シングルサイト触媒は、化学的に均一な遷移金属配位化合物に基づく触媒である。さらに、オレフィンの重合のために、これら触媒のうちの2つ以上の混合物を使用することもできる。このような混合触媒は、ハイブリッド触媒と呼ばれることが多い。オレフィン重合用のこれら触媒の製造及び使用は、一般に知られている。
【0022】
好ましい触媒は、チーグラー型であり、好ましくは担体材料としてチタニウムまたはバナジウムの化合物、マグネシウムの化合物及び任意選択で電子供与体化合物及び/または粒子状無機酸化物を含む。
【0023】
チーグラー型の触媒は、通常的に助触媒の存在下で重合される。好ましい助触媒は、元素周期律表の1、2、12、13または14族の金属の有機金属化合物、特に13族の金属の有機金属化合物及び特に有機アルミニウム化合物である。好ましい助触媒は、例えば、有機金属アルキル、有機金属アルコキシド、または有機金属ハライドである。
【0024】
好ましい有機金属化合物は、リチウムアルキル、マグネシウムまたは亜鉛アルキル、マグネシウムアルキルハライド、アルミニウムアルキル、シリコンアルキル、シリコンアルコキシド及びシリコンアルキルハライドを含む。より好ましくは、有機金属化合物は、アルミニウムアルキル及びマグネシウムアルキルを含む。さらに好ましくは、有機金属化合物は、アルミニウムアルキル、最も好ましくはトリアルキルアルミニウム化合物またはアルキル基がハロゲン原子、例えば、塩素または臭素で置換されているこの類型の化合物を含む。そのようなアルミニウムアルキルの例は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-イソブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウムまたはジエチルアルミニウムクロリドまたはそれらの混合物である。
【0025】
本開示の方法は、懸濁液で実行される重合プロセスである。スラリー重合とも呼ばれるかかる懸濁重合は、それぞれの重合反応器の条件下で液体または超臨界状態にあり、生成されたエチレンポリマーが不溶性で固体粒子を形成する媒質、いわゆる懸濁媒質で起こる重合を含む。懸濁液の固形分含量は、一般に10~80重量%、好ましくは20~40重量%の範囲にある。
【0026】
懸濁液の液相または超臨界相を形成する懸濁媒質は、一般に希釈剤を主成分として含むが、例えば、溶解されたモノマーまたはコモノマー、アルミニウムアルキルのような溶解された助触媒またはスカベンジャー、水素のような溶解された反応助剤、あるいはオリゴマーまたはワックスのような重合反応の溶解された反応生成物などのさらなる成分も含む。適切な希釈液は、不活性でなければならない。すなわち、反応条件下で分解されてはならない。このような希釈液は、例えば、3~12個の炭素原子を有する炭化水素、特にイソブタン、ブタン、プロパン、イソペンタン、ペンタン、ヘキサンまたはオクタンのような飽和炭化水素またはこれらの混合物である。好ましい実施形態において、希釈液は、炭化水素混合物である。原料から炭化水素混合物を生成するためには、特定の炭化水素を生成することよりも原料成分を分離するための需要が少ないことが求められ、これにより炭化水素混合物は、希釈液よりも経済的に魅力的であるが、特定の炭化水素と同一の希釈性能を示す。しかしながら、炭化水素混合物は、沸点範囲を有し得る。
【0027】
希釈液は、望ましくは、蒸留によって混合物からこれらの出発物質を回収するために使用されたモノマー及びコモノマーの沸点とかなり異なる沸点を有する。このような希釈液は、例えば、40℃を超えるか、ひいて60℃すらを超える沸点を有する炭化水素またはこれらの炭化水素を高い割合で含有する混合物である。したがって、本開示の望ましい実施形態において、重合は、0.1MPaで60℃を超える沸点を有する飽和炭化水素を、50重量%を超えて含有するか、または0.1MPaで60℃を超える沸点を有する飽和炭化水素を、ひいて80重量%すらを超えて含有する液体懸濁媒質中で発生する。
【0028】
本開示のプロセスは、40~150℃、好ましくは50~130℃、特に好ましくは60~90℃の範囲の温度及び0.1~20MPa、特に好ましくは0.3~5MPaの圧力下で工業的に知られているすべての懸濁重合プロセスを使用して実施することができる。
【0029】
本開示の望ましい実施形態において、重合は、直列に連結された少なくとも2つの一連の重合反応器で実行される。これらの反応器は、特定の設計に限定されず、好ましくはこれらの反応器は、ループ反応器または撹拌タンク型反応器である。このような一連の反応器の数には制限がないが、望ましくは、2つ、3つまたは4つのシリーズの反応器で構成され、最も望ましくは、2つまたは3つの反応器で構成される。一連の重合反応器が本開示の方法で使われる場合、重合反応器における重合条件は、例えば、コモノマーの性質及び/または量によって、若しくは水素のような重合補助剤の相異なる濃度によって異なることがある。望ましくは、重合は撹拌タンク反応器での懸濁重合である。
【0030】
エチレンポリマーは、通常粉末として得られ、これは小粒子の形態であることを意味する。粒子は、通常、触媒形態と大きさ、ならびに重合条件に応じて多少規則的な形態と大きさを有する。使用される触媒によっては、ポリオレフィン粉末の粒子は、一般に数百~数千マイクロメーターの平均直径を有する。クロム触媒の場合、平均粒子直径は、一般に約300~約1600μmであり、チーグラー型触媒の場合、平均粒子直径は、一般に約50~約3000μmである。望ましいポリオレフィン粉末は、100~250μmの平均粒径を有する。粒度分布は、例えば、ふるい分けによって有利に決められることができる。適した技術は、例えば、振動ふるい分析またはエアジェット下のふるい分析である。
【0031】
本開示の方法によって得られた望ましいエチレンポリマーの密度は、0.90g/cm~0.97g/cmである。望ましくは、密度は0.920~0.968g/cmの範囲、特に0.945~0.965g/cmの範囲である。密度は、180℃、20MPaで8分間圧着した後、沸騰水での30分間結晶化される2mm厚さの圧縮成形プラークを用いて、DIN EN ISO 1183-1:2004、方法A(浸漬)によって測定された密度であることが理解しなければならない。
【0032】
望ましい実施形態において、本開示の方法によって製造されたポリエチレンは、190℃の温度で21.6kgの荷重の下に、DIN EN ISO 1133:2005、条件Gによって測定された、0.5~300g/10分、より望ましくは1~100g/10分、一層望ましくは、1.2~100g/10分、特に1.5~50g/10分のMFR21.6を持つ。
【0033】
本開示の方法によって得られたエチレンポリマーは、モノモーダル、バイモーダルまたはマルチモーダルのエチレンポリマーであることができる。望ましくは、エチレンポリマーは、バイモーダルまたはマルチモーダルエチレンポリマーである。本明細書にて、用語「マルチモーダル(multimodal)」とは、得られたエチレンコポリマーの様相を指し、このような様相がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)曲線で分離された最大値として認識され得るか否かにかかわらず、エチレンコポリマーが互いに異なる反応条件下で得られるポリマーの少なくとも2つの分率を含むことを示す。異なる重合条件は、例えば、異なる重合反応器における異なる水素濃度を使用し、及び/または異なるコモノマー濃度を使用することによって達成され得る。一連の2つ以上の重合反応器内の異なるゾーン内において異なる反応条件下においてオレフィン重合を行うことにより、このようなポリマーを得ることができる。しかし、混合触媒を用いてこのようなバイモーダルまたはマルチモーダルポリオレフィンを得ることも可能である。分子量分布以外にも、ポリオレフィンは、コモノマー分布を有することができ、望ましくは、分子量がより高いポリマー鎖の平均コモノマー含量は、分子量がより低いポリマー鎖の平均コモノマー含量よりも高い。本明細書にて使用される用語「マルチモーダル」はまた「バイモーダル(bimodal)」を含む。
【0034】
本開示の方法の望ましい実施形態において、重合は一連の重合反応器で行われ、エチレンホモポリマー、望ましくは、低分子量のエチレンホモポリマーが第1の重合反応器で製造され、エチレン共ポリマー、望ましくは、高分子量のエチレン共ポリマーは、後続の重合反応器で製造される。第1の重合反応器におけるエチレンホモポリマーが製造できるためには、コモノマーを第1の重合反応器に供給せず、一連の重合反応器の第1の重合反応器に導入される供給ストリームまたは再循環ストリームの成分としてもコモノマーを直接供給しない。このようにして得られたマルチモーダルエチレンコポリマーは、好ましくは、第1の重合反応器で製造された35~65重量%のエチレンホモポリマー及び後続の重合反応器で製造された35~65重量%のエチレンコポリマーを含む。一連の重合反応器が1つ以上の予備重合反応器を含む場合、予備重合は、好ましくはコモノマーを添加せずに実施される。
【0035】
本開示の他の望ましい実施形態において、エチレンポリマーは、一連の3つの重合反応器、すなわち、第1の重合反応器及び2つの後続の重合反応器で製造され、ここで、第1の重合反応器で製造されたエチレンポリマーは、エチレンホモポリマー、好ましくは低分子量のエチレンホモポリマーであり、後続の重合反応器のうちの1つで製造されたポリエチレンは、エチレンコポリマー、好ましくは高分子量のコポリマーであり、他の後続の重合反応器で製造されたポリエチレンは、より高い分子量のエチレンコポリマー、好ましくは超高分子量のコポリマーである。このようにして得られたマルチモーダルエチレンコポリマーは、好ましくは第1の重合反応器で製造されたエチレンホモポリマー30~60重量%、より好ましくは45~55重量%、1つの後続の重合反応器で製造されたエチレンコポリマー30~65重量%、より好ましくは20~40%、及び他の後続の重合反応器で製造された高分子量のエチレンコポリマー1~30重量%、より好ましくは15~30重量%を含む。
【0036】
本開示の方法で、重合反応器または一連の重合反応器で形成されたエチレンポリマーの懸濁液は、固液分離器に移送され、ここでエチレンポリマー粒子は懸濁媒質から分離される。エチレンポリマー粒子及び母液へのこのような分離は、遠心分離機、デカンタ(decanter)、フィルタまたはこれらの組み合わせなどのすべての適切な分離装置で実行され得る。好ましくは、固液分離器は遠心分離機である。本開示の望ましい実施形態において、重合反応器または一連の重合反応器から回収された懸濁液は、最初に分離供給容器内に移され、その後、分離供給容器から固液分離器に運ばれる。
【0037】
本明細書に使われる用語「母液」は、固液分離器で懸濁液から得られた分離懸濁媒質を指す。典型的に、母液は、70重量%以上の希釈液を含む。母液のさらなる成分は、エチレン、コモノマー、アルミニウムアルキル及び水素、ならびにオリゴマー及びワックスのような溶解された反応生成物である。本明細書に使われる用語「オリゴマー」は、希釈液及びコモノマーまたはコモノマーに比べてより大きい分子量を有し、標準圧力及び室温で液体である炭化水素を指す。本明細書に使われる用語「ワックス」は、母液中に溶解され、希釈液とオリゴマーの蒸発後、標準圧力及び室温で固体である炭化水素を指す。望ましい実施形態において、母液は、75~99重量%、望ましくは、80~98重量%の希釈液;1~20重量%、望ましくは、2~10重量%のオリゴマー;0~5重量%、望ましくは、0.3~3重量%のコモノマーまたはコモノマー;0~3重量%、望ましくは、0.2~2重量%のワックス、0~1重量%、望ましくは、0.001~0.1重量%のエチレン、0~0.1重量%の水素及び0.1~2.5mmol/Lのアルミニウムアルキルまたはアルミニウムアルキルの反応生成物で構成される。
【0038】
固液分離器で得られたエチレンポリマー粒子は、依然として懸濁媒質を含有しており、すなわち、エチレンポリマー粒子は「湿潤(wet)」である。湿潤エチレンポリマー粒子は、典型的に15重量%~40重量%、望ましくは、20重量%~35重量%の懸濁媒質、すなわち、母液を含む。本開示の望ましい実施形態において、分離されたエチレンポリマー粒子は、粒子をガス流と接触させることで乾燥し、これによって、炭化水素負荷を運ぶガス流を形成する。乾燥は、粉末が接触され得る如何なる種類の適した装備で行われることができ、望ましくは、エチレンポリマー粒子に付着するか、または内部に含有された懸濁媒質を吸収するためのガス流と逆流式に接触されることができる。このような粉末乾燥器は、望ましくは閉ループで循環される高温窒素で作動する。乾燥は、望ましくは、2つの後続する段階で残りの懸濁媒質がエチレンポリマー粒子から剥離される二段乾燥器で行われる。乾燥されたエチレンポリマー粒子は、好ましくは適切な量の添加剤が添加され、混合物が溶融され、均質化され、ペレット化される押出セクションに空気圧で運ばれる。望ましい実施形態において、粉末乾燥器から出る乾燥したエチレンポリマー粒子は、押出セクションに運ばれる前に脱気部及び/または粉末処理部を前もって通過する。
【0039】
望ましい実施形態において、湿潤エチレンポリマー粒子を乾燥させるためのガス流によって吸収された炭化水素負荷は、引き続いてガス流から分離されて、液体炭化水素回収流を形成する。このような分離は、例えば、凝縮によって発生することができる。望ましい実施形態において、炭化水素負荷は、冷却した液相が導入されるスクラバーでガス流から分離される。このような実施形態において、乾燥器から出るガス流から炭化水素負荷を吸収した液相は、液体炭化水素回収流を形成する。液体炭化水素回収流は、スクラバーの底部から回収され、この流の一部は、冷却器を通過した後に冷却した液相でスクラバーに戻るようになる。スクラバーの底部から回収された液体炭化水素回収流の残部分の少なくとも一部は重合工程に戻る。
【0040】
望ましくは、乾燥器から出るガス流は、炭化水素負荷がガス流から分離される前に、フィルタまたはサイクロンのようなパーティクル除去装置を通過する。
【0041】
望ましくは、大部分の母液は、重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルされる。重合が一連の重合反応器で行われる場合、望ましくは、一連の重合反応器のすべての重合反応器に母液のリサイクルされた部分が提供される。望ましくは、母液の90~99.99重量%、より望ましくは、95~99.5重量%、特に98~99重量%が重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルされる。再循環されない母液の部分は、例えば、ポンプの連続フラッシング(flushing)、供給ストリームのガス状不純物または重合プロセスのガス状副産物を除去するために排出され得るオフガス、または母液から意図的に除去されるワックスのような溶解された反応生成物を含む。
【0042】
母液は、望ましくは先に母液収集容器に供給され、重合工程にリサイクルされるために、母液は母液収集容器から回収される。
【0043】
母液は、重合反応器または一連の重合反応器にそのままリサイクルされることができるか、あるいは母液はワークアップされた形態でリサイクルされることができる。本開示の方法で、母液の一部は、母液のワークアップ成分を生成するためのワークアップセクションでワークアップされる。本開示の文脈におけるワークアップは、組成が1つ以上の分離された組成で分離されるか、または組成のうちの1つ以上の成分が組成から除去され、除去された成分(ら)がないか、少なくとも実質的に枯渇された精製組成が得られることを意味する。しかしながら、ワークアップは、組成中の個々の成分が単離される程度まで行くことができる。このようなワークアップ工程は、例えば、母液から希釈液よりも著しく低い沸点を有する母液の成分、例えば、母液から、エチレン及び/または1-ブテンを除去するか、希釈液よりも著しく高い沸点を有する懸濁媒質の成分、例えば、オリゴマー及び/またはワックスを除去することを含むことができる。ワークアップセクションを通過する母液の量は、望ましくは、一連の重合反応器にリサイクルされる母液の1~90重量%、より望ましくは5~80重量%である。ワークアップ工程の望ましい実施形態で、母液は個別リサイクル回路で重合にリサイクルされる2種以上の成分に分離される。分離後、それぞれの再循環回路は、さらなる精製ステップを含むことができる。個々の再循環回路における一連の重合反応器に再循環され得る母液中の成分は、希釈液の他にもエチレン及びコモノマーなどであり得る。母液のワークアップ成分は、本開示の重合を行うために用いられる任意の重合反応器に移送されることができる。
【0044】
本開示による母液をワークアップするためのワークアップセクションは、母液のワックス枯渇部分を生成するための蒸発器を含む。本開示の方法において、ワークアップされる母液の一部は、蒸発器に移送され、蒸発器からガス状の形態で排出されるより低い沸点成分と、より低い沸点成分が枯渇した残部分とに分離される。蒸発器から排出された蒸発された部分は、引き続いて望ましくは凝縮し、母液のワックス枯渇部分として希釈液蒸留部に移送される。蒸発器から回収されるより低い沸点成分が枯渇した液相は、望ましくは、炭化水素ワックス溶液としてワックス除去部に搬送される。蒸発器は、望ましくは、液相が部分的に気化される外部の熱交換器を通じて蒸発される液相を循環させて作動する循環式蒸発器である。
【0045】
母液のワックス枯渇部分をさらにワークアップするために、ワークアップセクションは母液のワックス枯渇部分から分離された希釈液を生成する希釈液蒸留装置を含む。希釈液蒸留部において、望ましくは、母液のより低い沸点成分は、蒸留段階によって希釈液から分離される。典型的には、低い沸点の成分は、エチレン、水素、使用された希釈液よりも低いか、または類似の沸点を有するコモノマー、及び希釈液の一部を含む。これは、例えば、n-ヘキサンまたはヘキサン異性体の混合物を希釈剤として使用し、1-ブテンをコモノマーとして使用する場合、母液に含まれる1-ブテンの大部分が希釈液蒸留部で希釈液から分離された低い沸点の成分の一部を形成することを意味する。望ましくは、母液のより低い沸点成分の大部分は、個別リサイクル回路で重合にリサイクルされ、最も望ましくは、一つ以上の追加のワークアップ段階を経た後にリサイクルされる。
【0046】
本開示の方法によれば、蒸留段階によって希釈液から母液のより高い沸点成分を分離することも可能である。このようなより高い沸点成分は、使用された希釈液の沸点に類似するか、もしくはより高い沸点を有するコモノマーであることができる。望ましくは、蒸留によって得られた大部分のより高い沸点成分は、最も望ましくは、一つ以上の追加のワークアップ段階を経た後に重合にリサイクルされる。
【0047】
希釈液蒸留部内で生成した分離された希釈液は、重合反応器または一連の重合反応器に少なくとも部分的にリサイクルされる。本開示の望ましい実施形態において、分離された希釈液は、エチレンホモポリマーが製造される重合反応器にリサイクルされる。
【0048】
望ましくは、重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルされる母液の5~70重量%は、分離された希釈液として重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルされ、より望ましくは、10~60重量%、特に15~50重量%の母液が分離された希釈液として重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルされる。
【0049】
本開示の望ましい実施形態で、分離された希釈液は、重合反応器または一連の重合反応器にリサイクルされる前に、一つ以上の精製段階を経ることになり、それによって精製された希釈液が得られる。このような希釈液精製段階は、例えば、吸着による精製、吸収による精製、触媒水素化、または膜精製工程による精製であることができる。
【0050】
本開示の方法において、母液をワークアップするためのワークアップセクションは、直接蒸気蒸留によって、すなわちワックスが除去される炭化水素ワックス溶液を含む容器内に蒸気を直接注入することにより作動する、炭化水素ワックス溶液からワックスを除去するためのワックス除去部をさらに含む。蒸気を注入すると、主に希釈液及び蒸気を含む、ガス状炭化水素-蒸気の混合物がワックス除去装置で生成される。重合プロセスから回収されたワックスは、エネルギーを生成させるために燃焼されるか、または重合プロセスの副産物として販売され得る。
【0051】
ワックスが除去された炭化水素ワックス溶液は、望ましくは固液分離器で得られるような母液ではなく、母液からより低い沸点成分を回収することで得られた液相である。より低い沸点成分の母液と、より低い沸点成分が枯渇した残部分とのこのような分離は、望ましくは、母液の一部が蒸発される蒸発段階によって行われる。望ましくは、蒸発段階で得られた母液の蒸発された部分は、引き続き凝縮し、母液のワックス枯渇部分として希釈液蒸留部に移送される。より低い沸点成分が枯渇した残りの液相は、望ましくは炭化水素ワックス溶液としてワックス除去部に運搬される。
【0052】
ワックス除去部で得られたガス状炭化水素-蒸気の混合物は、ワックス除去部から回収されて凝縮し、第1の液液分離器に移送され、ここで混合物は水相と炭化水素相とに分離される。第1の液液分離器で得られた水相は望ましくは廃棄される。
【0053】
第1の液液分離器で得られた炭化水素相の部分は、例えば、ワークアップセクション内に移送された母液に添加することで、母液のワックス枯渇部分を生成するための蒸発器の上流の母液ワークアップ工程の段階にリサイクルされることができる。しかし、本開示の方法によれば、第1の液液分離器で得られた炭化水素相の少なくとも一部は、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送される。母液が低い沸点の成分の中で枯渇されるステップの上流の母液に第1の液液分離器で得られた炭化水素相の一部を添加することではなく、希釈液蒸留部に第1の液液分離器から得られた炭化水素相を移送することにより、母液のワックス枯渇部分を生成し、それによって経済的でかつエネルギー効率的な方式でプロセスを作動するために蒸発される液体の量を減少させることができる。さらに、これは生成した分離された希釈液の量を減少させないながらも蒸発器もしくはその同等の装備をより小さく設計し得るようにする。第1の液液分離器で得られた炭化水素相を、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送することは、第1の液液分離器で得られた炭化水素相が事前に蒸発さてから凝縮されているから可能である。
【0054】
本開示の望ましい実施形態において、母液のワックス枯渇部分を生成するための蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送される、第1の液液分離器で得られた炭化水素相の一部は、希釈液蒸留部に直接移送される。
【0055】
本開示の他の望ましい実施形態において、母液のワックス枯渇部分を生成するための蒸発器を通過することなく希釈蒸留部に移送される、第1の液液分離器で得られた炭化水素相の一部は、第2の液液分離器を通過し、その内部で第2の水相と第2の炭化水素相とに分離されることで、含水量がさらに低減し、第2の炭化水素相は、希釈液蒸留部に移送される。第2の液液分離容器から回収された水相は、望ましくは第1の液液分離容器に戻る。第1の液液分離器で得られた炭化水素相を、第2の液液分離器に通過させることで、炭化水素相と水相との分離段階における向上した分離器の効率が達成できる。例えば、分離性能と係わって、第1の液液分離器内で発生することができる乱れ(disturbances)は、第2の液液分離器によって捕捉されることができ、蒸留部内へのあまりにも多い水のブレークスルー(breakthrough)を防止し、これにより蒸留部から流出する分離された希釈液の品質に影響を及ぼすことができる。
【0056】
望ましい実施形態において、第2の液液分離器はコアレッサを備える。コアレッサとは、炭化水素-水の混合物のようなエマルジョンを、これらの成分に分離しやすくするのに主に用いられる技術的装置である。
【0057】
更なる望ましい実施形態において、第1の液液分離器または第2の液液分離器、あるいは望ましくは、第1の液液分離器及び第2の液液分離器には、各層の表面から反射されるロッドセンサーの高周波のマイクロ波インパルスを使用するレベル及び分離層測定装置が装着される。送信と受信との間の時間は、レベル表示に用いられる。
【0058】
本開示の望ましい実施形態において、固液分離器で得られた湿潤エチレンポリマー粒子は、粒子をガス流と接触させて乾燥させて炭化水素負荷(load)を運ぶガス流を形成した後、ガス流から炭化水素負荷を分離して液体炭化水素回収流を形成し、炭化水素回収流の少なくとも一部は、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発器を通過することなく希釈液蒸留部に移送される。このような炭化水素回収流のそうした希釈液蒸留部への移送は、母液のワックス枯渇部分を生成するために蒸発される液体の量を追加で減少させ、これにより、この部分でエネルギーの消費を減少させる。
【0059】
望ましくは、炭化水素回収流は、粉末乾燥器から出る乾燥ガスに同伴して、最終的に炭化水素回収流に入り込む微細エチレンポリマー粒子が、希釈液蒸留部に移送されることを防止するために、希釈液蒸留部に導入される前に前もってフィルタを通過する。フィルタは、望ましくは逆洗フィルタ、より望ましくは自動逆洗フィルタである。このような自己洗浄フィルタは、システムの流れを実質的に邪魔することなく逆洗を用いてスクリーンを洗浄することができる。逆洗フィルタによって炭化水素回収流から分離された、エチレンポリマー粒子は、望ましくは、炭化水素回収流の一部によって固液分離器に供給される前にエチレンポリマー粒子の懸濁液に移送され、より望ましくは分離器供給容器に移送される。
【0060】
図1は、希釈液としてヘキサンを使用する懸濁重合工程によって一連の3つの重合反応器でマルチモーダルエチレンポリマーを製造するための設定を概略的に示す。
【0061】
第1の重合反応器(1)における懸濁でエチレンを単独重合するか、もしくはエチレンと他のオレフィンを共重合するためには、再循環されたヘキサンを供給ライン(2)を介して反応器(1)に供給する。触媒、エチレン、及び重合助剤及び可能なコモノマーのような選択的成分のような反応混合物の他の成分及び/又は直接再循環された母液は、1つ以上の供給ライン(3)を介して反応器に供給される。
【0062】
反応器(1)における重合した結果として、懸濁媒質中で固体エチレンポリマー粒子の懸濁液が形成される。この懸濁液は、ライン4を介して更なる重合が起こる第2の重合反応器5に供給される。新鮮なコモノマー、または反応混合物のさらなる成分は、1つ以上の供給ライン(6)を介して反応器(5)に供給され得る。直接リサイクルされた母液は、ライン(43)を介して反応器(5)に供給されることができる。
【0063】
その後、反応器(5)の懸濁液は、ライン(7)を介して追加の重合が実施される第3の重合反応器(8)に供給される。1つ以上の供給ライン(9)は、コモノマー、または反応混合物のさらなる成分を反応器(8)に補足的に供給できるようにする。重合反応器(8)内においては、さらなる重合が起こる。直接リサイクルされた母液は、ライン(44)を介して反応器(8)に供給されることができる。
【0064】
反応器(8)で形成された懸濁媒質中のエチレンポリマー粒子の懸濁液は、ライン(10)を介して分離供給容器(11)に連続的に移される。次に、上記懸濁液は、ライン(12)を介して遠心分離機(13)に通し、ここで、懸濁液は、固体エチレンポリマー粒子及び母液、すなわち回収された液体懸濁媒質で分離される。
【0065】
分離された湿潤エチレンポリマー粒子は、ライン(20)を介して粉末乾燥器(21)に移送される。主にヘキサンである、懸濁媒質の残部分をエチレンポリマー粒子から除去するために、高温窒素が一つ以上のライン(22)を介して粉末乾燥器(21)に流入される。懸濁媒質、主にヘキサンの蒸発された部分を吸収した窒素は、ライン(23)を介してサイクロン(24)に搬送され、しかるのちライン(25)を介してスクラバー(26)に移送される。スクラバー(26)に移送された窒素流からヘキサンを回収するために、冷却した液相が位置(27)でスクラバー(26)に供給される。その後、導入された液体は、液体ヘキサン回収流を形成するライン(28)を介して、洗浄されたヘキサンとともにスクラバー(26)から排出される。かかるヘキサン回収流の一部は、ポンプ(29)によりライン(30)及び(31)を介して熱交換器(32)を通じて位置(27)に供給されるためにすくラバー(26)にリサイクルされる。ヘキサン回収流の残りは、ライン(33)を介して分離器供給容器(11)に移送される。ヘキサン中で枯渇した窒素は、ライン(34)を介して上部にスクラバー(26)を外れる。乾燥されたエチレンポリマー粒子は、ライン(36)を介して粉末乾燥器(21)から放出され、エチレンポリマー粒子を窒素-蒸気の混合物で処理するための容器に移送され、最終的にペレット化装置(図示せず)に移送される。
【0066】
遠心分離機(13)で得られた母液は、ライン(40)を介して母液収集容器(41)に移送される。上記収集容器から、母液は、ポンプ(42)によってライン(43)と(44)を介して重合反応器(5)及び/または重合反応器(8)に再循環される。
【0067】
ワークアップのために、母液はライン(43)から分岐し、ライン(50)を介して母液タンク(51)に移送される。そこから、母液はポンプ(52)によってライン(53)を介して蒸発器(54)に移送される。ライン(50)から分岐するライン(55)は、母液タンク(51)を通過しないで母液収集容器(41)から蒸発器(54)へ母液を直接供給可能にする。
【0068】
蒸発器(54)は、蒸発される液相を熱交換器(56)を通じて循環させることで作動する循環蒸発器に設計されており、ここで液相は部分的に気化される。母液の気化された分画は、ライン(57)を介して蒸発器(54)の上部から排出され、熱交換器(58)で凝縮して蒸留カラム供給容器(59)内に移送される。そこから、母液の凝縮して気化された分画は、ポンプ(60)によってライン(61)を介して蒸留カラム(62)にポンプされる。
【0069】
蒸留カラム(62)は、ライン(63)を介して蒸留カラム(62)から排出された底流の一部を分岐させ、底流の分岐した部分を熱交換器(64)を通過させて、内部でこのストリームを部分的に気化させ、底流の加熱されてかつ部分的に気化された部分を、ライン(65)を介して蒸留カラム(62)に戻すことにより作動する。主にヘキサンである、蒸留カラム(62)から排出された底流の残りは、ポンプ(66)によってライン(67)を介してヘキサン精製装置(68)にポンプされ、その後、ライン(69)を介してヘキサン収集容器(70)にポンプされる。上記収集容器から、精製されたヘキサンは、ポンプ(71)によってライン(2)を介して希釈液として重合反応器(1)に再循環される。低い沸点成分は、ライン(72)を介して蒸留カラム(62)の上段から回収される。
【0070】
母液のより高い沸点分画に富む液相は、ライン(80)を介して蒸発器(54)の底部から排出され、ライン(82)を介してワックス分離器容器(81)に直接注入することで作動するワックス分離容器(81)に移送される。液体ワックスは、ライン(83)を介してワックス分離容器(81)の下段から回収され、例えば、蒸気発生用焼却ユニット(図示せず)に運ばれるか、または市販中の固形化ユニット又は液体搬送ユニット(図示せず)に運ばれる。
【0071】
主にヘキサンと水を含む、ワックス分離器容器(81)で得られたガス状分画は、ライン(84)を介してワックス分離器容器(81)の上部から排出され、熱交換器(85)で凝縮し、液液分離容器(86)に移送される。重合工程の他の位置で得られたさらに凝縮したヘキサン-水の混合物、例えば粉末処理容器から排出された凝縮したヘキサン-水の混合物は、ライン(91)を介して液液分離容器(86)に移送されることができる。
【0072】
水は、ライン(87)を介して液液分離容器(86)から排出されて廃水システム(図示せず)に移送される。ヘキサン相は、ライン(88)を介して液液分離容器(86)から排出され、ポンプ(89)によってライン(90)を介して母液タンク(51)に移送される。
【0073】
図2は、本開示のプロセスにしたがって懸濁によりエチレンポリマーを製造するためのセットアップを概略的に示す。
【0074】
図2に示された工程は、ライン(88)を介した液液分離容器(86)から排出されたヘキサン相が、ポンプ(89)によってライン(90)を母液タンク(51)に移送されるのではなく、ポンプ(89)によってライン(92)を介して第2の液液分離容器(93)に移送されることを除けば、希釈液としてヘキサンを使用する一連の3つの重合反応器でマルチモーダルエチレンポリマーを製造する、図1に示された工程と同一の工程である。水は、ライン(94)を介して第2の液液分離容器(93)から排出されて液液分離容器(86)に戻る。ヘキサン相は、ライン(95)を介して第2の液液分離容器(93)から排出され、このヘキサン相の大部分がライン(96)を介して蒸留カラム(62)に直接移送される。ライン(90)は、第2の液液分離容器(93)から排出されたヘキサン相を母液タンク(51)に移送する。
【0075】
本開示の方法は、エチレンポリマーの製造のための懸濁重合工程で得られた懸濁液から、製造されたエチレンポリマー粒子を除去することで得られる母液を、経済的でエネルギー効率的な方式でワークアップして、蒸発されなければならない母液の量を最少化することにより、精製された希釈液を提供することを可能にする。
実施例
比較例A
【0076】
エチレンは、図1のように直列に配列された3つの反応器から連続工程で重合された。WO91/18934の実施例2に明示されたように製造されて動作番号2.2を有するチーグラー触媒成分を、69mol/hのトリエチルアルミニウムと、希釈液として十分な量のヘキサン、エチレン、及び水素とともに、触媒化合物のチタン含量に対して2.6mol/hの量で第1の反応器1に供給した。エチレンの量(=24.1t/h)と水素の量(=21.7kg/h)は、第1の反応器のガス空間で測定されたエチレン及び水素の百分率の割合がエチレン20体積%及び水素62体積%であり、残部は、窒素と気化された希釈液との混合物になるように調整された。
【0077】
第1の反応器(1)での重合は、84℃で遂行された。
【0078】
次いで、第1の反応器(1)からの懸濁液は、第2の反応器(5)に移送され、ここで気相中の水素の百分率の割合は、0.5体積%に減少され、12.8t/h量のエチレンが397kg/h量の1-ブテンとともにこの反応器に添加された。水素の量は、中間H減圧を通じて減少された。64体積%のエチレン、0.5体積%の水素、及び6.0体積%の1-ブテンが第2の反応器の気相で測定され、残りは、窒素及び気化された希釈液の混合物であった。
【0079】
第2の反応器(5)での重合は、85℃で遂行された。
【0080】
第2の反応器(5)からの懸濁液は、第3の反応器のガス空間で水素の量を0.08体積%未満に減少させるために、更なる中間H減圧を用いて第3の反応器(8)に移送された。
【0081】
10.3t/h量のエチレンが476kg/h量の1-ブテンとともに第3の反応器(8)に添加された。72体積%のエチレン、0.05体積%の水素、及び6.8体積%の1-ブテンが第3の反応器の気相で測定され、残りは、窒素と気化された希釈液との混合物であった。
【0082】
第3の反応器(8)での重合は、84℃の圧力で遂行された。
【0083】
第3の反応器(8)からの懸濁液は、分離器供給容器(11)に移送された。
【0084】
ライン(12)を介して分離器供給容器(11)から放出された懸濁液のワークアップは、図1に示されているように進行された。懸濁液は、遠心分離機(13)で固体エチレンポリマー粒子と母液とに分離された。分離された湿潤エチレンポリマー粒子は、高温窒素のストリームによって粉末乾燥器(21)で乾燥された。粉末乾燥器(21)で湿潤エチレンポリマー粒子から除去された、ヘキサンの蒸発部分は、粉末乾燥器(21)を外れるガス流をスクラバー(26)で洗浄することにより回収された。回収された液相は、ライン(33)を介して分離器供給容器(11)に再度移送された。
【0085】
遠心分離機(13)で得られた母液は、部分的に第2及び第3の重合反応器(5)及び(8)にリサイクルされ、液相が部分的に気化される蒸発器(54)へ、ライン(53)を介して移送されて部分的にワークアップされた。蒸発器(54)は、熱交換器(56)を通じて蒸発される液相を循環させて作動する循環蒸発器に設計される。母液の気化された分画は、ライン(57)を介して蒸留カラム供給容器(59)に移送され、これからポンプ(60)によってライン(61)を介して、低沸点成分が分離される蒸留カラム(62)に移送される。主にヘキサンである蒸留カラム(62)の底流の一部は、ヘキサン精製部(68)を通過し、ライン(2)を介して第1の重合反応器(1)に移送される。
【0086】
母液の高沸点分画に富む液相は、ライン(80)を介して蒸発器(54)の底部から排出され、ライン(82)を介して蒸気を直接注入することで作動するワックス分離容器(81)に移送された。ワックス分離容器(81)で得られたガス状分画は、凝縮して液液分離容器(86)に移送され、水とヘキサン相とに分離された。得られたヘキサン相は、母液の一部と結合されてワークアップされ、ライン(53)を介して蒸発器(54)に移送された。
【0087】
母液ワークアップ工程で選択されたストリームの流量及び組成は、表1に示している。
【表1】
【0088】
蒸留カラム(62)に移送される母液の分画を蒸発させるために、熱交換器(56)には7433kWの熱出力を有する蒸気が提供されなければならなかった。
実施例1
【0089】
比較例Aの重合が繰り返されたが、ライン(12)を介して分離器供給容器(11)から放出された懸濁液のワークアップが、図2に示されたように遂行された。
【0090】
比較例Aで行われたワークアップとは対照的に、液液分離容器(86)から排出されたヘキサン相は、第2の液液分離容器(93)に移送された。第2の液液分離容器(93)から排出されたヘキサン相は、全部母液タンク(51)に移送されたではなく、大部分のヘキサン相は、ライン(96)を介して蒸留カラム供給容器(59)に移送され、第2の液液分離容器(93)から排出されたヘキサン相のわずかの一部だけがライン(90)を介して母液タンク(51)に移送された。
【0091】
母液ワークアップ工程で選択されたストリームの流量及び組成は、表2に示されている。
【表2】
【0092】
蒸留カラム(62)に移送される母液の分画を蒸発させるために、熱交換器(56)には6910kWの熱出力を有する蒸気が提供されなければならなかった。比較例Aと係わって、熱交換器(56)への母液の減少されたフローは、蒸留カラム(62)の処理量の減少なしに熱交換器(56)に供給されるエネルギーを7%減少させた。

図1
図2