IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メディア株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】骨密度測定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20221003BHJP
   A61B 6/14 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
A61B6/00 390A
A61B6/00 330Z
A61B6/14 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018561391
(86)(22)【出願日】2018-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2018000357
(87)【国際公開番号】W WO2018131611
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2017002038
(32)【優先日】2017-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398065520
【氏名又は名称】メディア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】下田 信治
(72)【発明者】
【氏名】小林 馨
(72)【発明者】
【氏名】勝又 明敏
(72)【発明者】
【氏名】辻 啓延
(72)【発明者】
【氏名】辻 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】林 達郎
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-266053(JP,A)
【文献】特許第4077430(JP,B2)
【文献】特許第3300690(JP,B2)
【文献】特表2016-523162(JP,A)
【文献】特開2004-174162(JP,A)
【文献】特開2007-136213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線画像情報検出媒体と、骨部の骨密度測定用の参照媒体と、前記参照媒体が収容される自動読み取り可能なマーカーを付したケースと、前記X線画像情報検出媒体を保持すると共に前記ケースを固定して前記骨部と前記参照体とが同一の前記X線画像情報検出媒体に検出されるように設定する撮影補助具と、前記骨部と前記参照体を同時に撮影するX線画像撮影装置とを有する撮影装置、
及び、
前記X線画像撮影装置により前記画像情報検出媒体に検出される骨部及び前記参照体に係るX線画像を同一画面に表示する画像表示部と、前記マーカーを読み取り、前記参照体の検出を開始することが指示され、前記参照体の濃度分散が最小となる関心領域が設定される参照体関心領域設定部と、表示された前記参照体に係る前記X線画像の濃度を測定する参照体濃度測定部と、表示された前記骨部に係る前記X線画像の濃度を測定する骨部濃度測定部と、前記骨部に係る前記X線画像濃度と前記参照体に係る前記X線画像濃度とを比較して前記骨部の骨密度を算出する骨密度算出部とを有する骨密度測定装置を少なくとも備えていることを特徴とする骨密度測定システム
【請求項2】
前記参照体が、ハイドロキシアパタイト又は前記ハイドロキシアパタイトのOH基を他の元素に置換したハイドロキシアパタイト同族体と炭素とを異なる混合比で混和して構成したものであることを特徴とする請求項1に記載の骨密度測定システム
【請求項3】
前記参照体が3段階の画像濃度が得られる試料を含み、前記骨密度算出部は前記3段階の画像濃度を用いて骨密度を算出することを特徴とする請求項に記載の骨密度測定システム
【請求項4】
前記撮影補助具が、前記画像情報検出媒体を保持する保持部と、前記保持部の一端に設けられ、上顎歯と下顎歯で咬合して前記保持部を支持する ための支持部とを有し、
前記骨部と前記参照体とが 前記画像情報検出媒体に検出されるように、前記参照体を収容する前記ケースが前記支持部に固定される機構であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の骨密度測定システム
【請求項5】
前記ケースが前記支持部に固定される機構が、前記ケースと前記支持部の嵌合であることを特徴とする請求項4に記載の骨密度測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨部のX線画像を用いて骨密度を測定する装置及びシステムに係り、特に、歯科のX線画像から、歯槽骨の骨密度を定量的に算出する骨密度測定装置、及び骨密度測定システムに関する。更に、その測定を行うための撮影補助具にも関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の分野においては、治療に際して、X線画像を撮影することが広く行われている。近年は、撮影された画像から歯槽骨の骨密度を測定し、治療に役立てるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム標準物質を用いて、歯槽骨のX線像の陰影濃度を測定して歯槽骨の濃度パターンを求め、次いで該濃度パターンより歯槽骨幅、吸収面積および最大吸収度の少なくとも1つの指標を求め、該指標により歯槽骨の骨萎縮度を評価することを特徴とする歯槽骨の骨萎縮度評価法の技術思想が開示されている。
【0004】
ここでは、骨萎縮度の定量的な指標として、歯槽骨幅、吸収面積および最大吸収度という指標を用いることとしている。
【0005】
また、特許文献2には、下顎骨、特に第1小臼歯の周囲の歯槽骨部分のレントゲン撮影画像を基に骨密度を評価する骨密度評価装置であって、レントゲン撮影画像は下顎骨と並んで配置された標本体(アルミニウム製ブロック)の画像を含み、標本体の画像の濃淡度を検出する検出手段と、検出手段による検出結果が基準値と一致するようにレントゲン撮影画像の濃淡度を補正する補正手段と、補正手段によって補正された補正後濃淡度に基づいて骨密度を評価する評価手段とを具備することを特徴とする、骨密度評価装置の技術思想が開示されている。
【0006】
ここでは、例えば同一患者について異なる日に撮影された複数の画像データについて、レントゲン撮影画像毎の濃淡度の差異に関係なく、骨密度を定量的に評価することができる。
【0007】
また、特許文献3には、人体の歯や骨等の被測定対象物の密度、そして無機塩量を定量的に算出できるための、人体の歯や骨等の被測定対象物に非常に近い組成及び緻密度を有すると共に不純物を含まない標準試料、及びその製造方法についての技術思想が開示されている。
【0008】
これによれば、X線撮影画像から骨密度を定量的に評価する際に、標準試料として望ましい組成及びその製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭62-266053号公報
【文献】特許第4077430号公報
【文献】特許第3300690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の骨萎縮度評価法においては、一般的な骨密度の表現方法である単位面積当たりの骨量(g/平方cm)で表すことができず、そのため、普遍性のある評価結果とは言いがたいという問題があった。
【0011】
また、特許文献2の骨密度評価装置においても、画像毎の濃淡度を補正して、定量的に比較できるようにはなっているが、やはり、一般的な骨密度の表現方法では表現されていないという問題があった。
【0012】
なお、特許文献3の標準試料については、その有効性に鑑み、積極的にその応用を図ることが望ましい。なお、本発明においては、標準試料を参照体として表現している。
【0013】
また、参照体と、被測定対象物、すなわち骨部、特に歯槽骨部とを、同一画面に撮影するための有効な撮影補助具については、いずれの特許文献にも開示がなされていない。
【0014】
そこで、上記問題を解決するため、本発明は、撮影された骨部、特に歯槽骨のX線画像を用いて骨密度を定量的に算出する装置及びシステム、及び歯槽骨のX線撮影を正確にかつ容易に行うための撮影補助具を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するため、本発明では、骨密度測定装置であって、
-撮影された骨部及び参照体に係るX線画像を同一画面に表示する画像表示部と、
-表示された参照体に係るX線画像の濃度を測定する参照体濃度測定部と、
-表示された骨部に係るX線画像の濃度を測定する骨部濃度測定部と、
-骨部に係るX線画像濃度と参照体に係るX線画像濃度とを比較して骨部の骨密度を算出する骨密度算出部と
を有することを特徴とする。
【0016】
このようにすると、参照体濃度測定部と骨部濃度測定部とが、参照体と骨部関心領域との濃度(グレースケール画像の画素値あるいは階調)を測定し、次に、骨密度算出部がそれらの濃度を比較することで骨密度を絶対数値で算出することができ、正確で、普遍的な骨密度の評価結果が得られる。
【0017】
また、本発明の骨密度測定装置は、参照体が歯の組成と近似する組成であることを特徴としてもよい。
【0018】
このようにすると、参照体と骨部との間の画像濃度の相関がより正確に得られ、精度の高い骨密度の値が得られる。
【0019】
更に、本発明の骨密度測定装置は、参照体が、ハイドロキシアパタイト又は該アパタイトのOH基を他の元素に置換したハイドロキシアパタイトの同族体と炭素とを、異なる混合比で混和して構成したものであることを特徴としてもよい。
【0020】
このようにすると、具体的に最も好適な参照体が得られ、更に相関が正確になる。
【0021】
更に、本発明の骨密度測定装置は、参照体が3段階の画像濃度が得られる試料を含み、それらを用いて骨密度を算出することを特徴としてもよい。
【0022】
このようにすると、参照体の段階数を少なくしたため、撮影段階、比較段階、骨密度算出段階での処理が簡便になる一方で、本発明においては、3段階としても十分に実用的な精度を保つことができるため、経済的利点が大きい。
【0023】
更に、本発明の骨密度測定装置は、更に、参照体を収容するケースに付されたマーカーを読み取ることにより、参照体の検出を開始することを特徴としてもよい。
【0024】
このようにすると、マーカーを利用することで装置や検出手順が簡素化され、かつ、正確にデータが得られる。
【0025】
更に、参照体の検出を開始したのちに参照体の関心領域を設定する、参照体関心領域設定部を有することを特徴としてもよい。
【0026】
このようにすると、参照体の濃度が均一でない場合にも、多くの画素をサンプリングして代表値(平均値、中央値、最頻値など)を求めることができるので、より正確な検出が可能となる。
【0027】
更に、本発明の別の態様では、骨密度測定システムであって、骨密度測定用の参照体と、骨部及び参照体に係るX線画像を同時に撮影する撮影装置と、先に述べた骨密度測定装置とを有することを特徴とする。
【0028】
このようにすると、骨密度測定装置を含むシステムとして、骨密度測定装置の効果を十分に発揮することができる。
【0029】
また、本発明の参照体が、歯の組成と近似する組成であることを特徴としてもよい。このようにすると、参照体と骨密度測定装置とを含むシステムとして、骨密度測定装置の効果を十分に発揮することができる。
【0030】
更に、本発明の骨密度測定システムは、参照体が、ハイドロキシアパタイト又は該アパタイトのOH基を他の元素に置換したハイドロキシアパタイトの同族体と炭素とを、異なる混合比で混和して構成したものであることを特徴としてもよい。これも参照体と骨密度測定装置とを含むシステムとして、骨密度測定装置の効果を十分に発揮することができる。
【0031】
また、本発明の骨密度測定システムは、参照体が3段階の画像濃度が得られる試料を含むことを特徴としてもよい。これによれば、参照体と骨密度測定装置とを含むシステムとして、骨密度測定装置の効果を十分に発揮することができる。
【0032】
更に、本発明の骨密度測定システムは、参照体を収容するケースと、ケースに設けられた自動読み取り可能なマーカーとを有することを特徴としてもよい。このようにすると、参照体と骨密度測定装置とを含むシステムとして、マーカーを利用することで、骨密度測定装置の効果を十分に発揮することができる。
【0033】
更に、本発明の骨密度測定システムは、参照体と骨部とを同時に撮影するために参照体を保持する撮影補助具を有することを特徴としてもよい。
【0034】
このようにすると、参照体と歯槽骨とのX線撮影を正確にかつ容易に行うことができ、被撮影者に対する負担の軽減と、精度の高い骨密度測定結果が得られる。
【0035】
更に、本発明の別の態様では、撮影補助具であって、骨部撮影用に、画像情報検出媒体を保持する保持部と、保持部の一端に設けられ保持部を適切な位置に支持するための支持部とを有し、保持部の支持部側に、骨部とともに画像情報検出媒体に検出されるように、参照体が保持される機構を備えることを特徴としてもよい。
【0036】
このようにすると、骨密度測定用に、骨部と同時に撮影される参照体を保持する撮影補助具として、本発明の骨密度測定システムのみならず、それ以外の骨密度測定システムとともに用いられても、有効である。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る骨密度測定装置及び骨密度測定システムでは、適切な参照体を用いることで、画像比較部により参照体と関心領域の比較がなされ、更に骨密度算出部において骨密度が絶対数値で算出されるため、正確で、普遍的な骨密度の数値が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施形態に係る骨密度測定システムのハードウエア構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係るシステムの参照体の説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係るシステムの撮影補助具の説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係るシステムの別の撮影補助具の説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係る骨密度測定装置の機能構成図である。
図6】本発明の一実施形態に係るシステムの動作フローである。
図7】本発明の一実施形態に係るシステムの撮影された画像の例である。
図8】本発明の一実施形態に係るシステムの参照体関心領域設定の動作フローである。
図9】本発明の一実施形態に係るシステムの参照体関心領域設定部の画像の例である。
図10】本発明の一実施形態に係るシステムの参照体関心領域設定部の画像の例である。
図11】本発明の一実施形態に係るシステムの画像濃度と骨密度との相関図である。
図12】本発明の一実施形態に係る装置の骨部関心領域設定の方法の説明図である。
図13A】本発明の一実施形態に係る装置の骨部関心領域の例を示す説明図である。
図13B】本発明の一実施形態に係る装置の骨部関心領域の例を示す説明図である。
図13C】本発明の一実施形態に係る装置の骨部関心領域の例を示す説明図である。
図13D】本発明の一実施形態に係る装置の骨部関心領域の例を示す説明図である。
図13E】本発明の一実施形態に係る装置の骨部関心領域の例を示す説明図である。
図13F】本発明の一実施形態に係る装置の骨部関心領域の例を示す説明図である。
図14】本発明の一実施形態に係るシステムの撮影された画像の別の例である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照し、本発明の第1の実施形態にかかる骨密度測定システム及び骨密度測定装置について説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0040】
図1は、本発明の一実施形態に係る骨密度測定システム100のハードウエア構成図である。骨密度測定システム100は、骨密度測定装置1、撮影装置2、参照体3、撮影補助具4を含んでいる。なお、撮影補助具4は、状況によっては使用しないか、あるいは異なる撮影補助手段を用いるようにしてもよい。
【0041】
ここで、骨密度測定装置1は、文字情報や画像情報を表示する表示部11、情報を入力するキーボードなどの入力部12、情報を出力するプリンターなどの出力部13、情報やプログラムなどを記憶するハードディスクなどの記憶部14、有線及び/もしくは無線によって外部と接続するインターフェース部15、これら全体を制御するCPUなどの制御部16などからなり、パーソナルコンピュータ、サーバなどであればよいし、あるいは専用機であってもよい。また、これらの構成要素が一体で構成されていてもよいし、クラウドコンピューティングのように分散して設置されていてもよい。
【0042】
撮影装置2は、歯科関連の歯槽骨部分のX線撮影などを行う撮影装置である。歯科X線画像撮影装置が好適であるが、それに限定せず、歯科パノラマX線画像撮影装置、歯科に限定しないX線画像撮影装置、MRI・CTなどによる画像撮影装置、超音波による画像撮影装置などでもよく、それらの組み合わせであってもよい。得られる画像により、適切な骨密度測定が行える場合もある。
【0043】
なお、撮影装置2には、装置本体から離れて設けられる、画像情報検出媒体を含んでいる。画像情報検出媒体としては、例えば有機フィルム上の片面に輝尽性蛍光体粉末を塗布した板などのようなイメージングプレート21が好適であるが、それに限定せず、撮影方法・方式によっては、写真フィルム(X線フィルム)、あるいはフラットパネルディテクター(FPD)などの固体半導体方式の検出器を画像情報検出媒体としてもよい。
【0044】
参照体3は、被撮影者の骨部、特に歯槽骨部(本発明の構成外)を撮影する際に、同一画面に写り込まれるように配置されるものである。ここで、参照体3は歯の組成と近似する組成であることが好ましく、更に具体的には、ハイドロキシアパタイト又は該アパタイトのOH基を他の元素に置換したハイドロキシアパタイトの同族体と炭素とを、異なる混合比で混和して構成したものであることがより好ましい。
【0045】
図2は、本発明の一実施形態に係る骨密度測定システム100の参照体3に関連する部分の説明図である。参照体3は、3段階の画像濃度が得られる試料3a、3b、3cから構成されている。ここで、参照体3の各々の試料と骨密度相当値との相関は、例えば、
参照体3a 混合比 20% 骨密度相当値 0.50g/平方cm
参照体3b 混合比 60% 骨密度相当値 0.75g/平方cm
参照体3c 混合比100% 骨密度相当値 1.00g/平方cm
であるように製作されている。ここで、混合比とは、全体に対するハイドロキシアパタイトの同族体の比率であり、アパタイト当量とも言う。3段階の参照体で、実用的な精度は得られる。もちろん、更に細かい段階、例えば4ないし5段階の参照体を用いてもよく、その方が取り扱いは煩瑣になるが、精度の向上は期待できる。
【0046】
なお、参照体の骨密度相当値の決定は、参照体の組成から算出する理論値によってもよいが、濃度と骨密度の相関が確定している、例えば「骨塩定量ファントム」あるいは「骨密度標準チャート」と呼ばれる試料と並べて参照体を撮影することで求めてもよい。
【0047】
なお、参照体3の概略寸法は、例えば、参照体3a、3b、3cのそれぞれが、撮影装置2に対向する面が1辺5mmの正方形で、奥行が10mm程度であるが、この寸法に限定されるものではなく、骨密度がg/平方cmで表現されることが通例であることから、測定対象となる骨部などの硬組織と近似した厚みとすることでもよい。例えば、下顎前歯部ならば8mm、小臼歯部ならば10mm、大臼歯部ならば12mmとしてもよい。
【0048】
また、参照体3はケース31に設けられた穴部に挿入して収容され、更にケース31には、参照体の列の延長上に、例えば銅の金属線などで、参照体3方向に長くそれと垂直の方向に短い十字状に形成した自動読み取り可能なマーカー32が付されている。なお、マーカーの位置・形状などはこの図の形態に限定されるものではなく、自動読取りが容易なものであればよく、参照体3の挿入方向も図のようなマーカー32側からに限らず、反対側からでも、上面からでも、下面からでもよい。
【0049】
更に、ケース31の上面には、2カ所の突起部33が設けられている。これは、組み立て時に位置決めをして固定するためのものである。
【0050】
ケース31の概略寸法は、例えば、撮影装置2に対向する面が、7mm×24mm程度で、奥行が10mm程度であることが望ましいが、これに限定するものではない。なお、必ずしもケース31に収容されることを要しないし、マーカー32を有せずに、画像の位置や参照体の形状などを用いて自動読取してもよいし、あるいは、装置の操作者がマウスなどの入力部によって読み取りを支援するようにしてもよい。
【0051】
図3および図4は、本発明の一実施形態に係る骨密度測定システム100の撮影補助具4の説明図である。ここで、撮影補助具4は、参照体3と歯槽骨部Bとを同時に撮影するために参照体3を保持するものであり、参照体3は、マーカー32を付したケース31に収容された状態で保持されているものとする。但し、必ずしもケース31に収容されることを要さず、ケース31を用いない方法、例えば、参照体3自体を撮影補助具4に固定するようにして保持してもよい。
【0052】
撮影補助具4は、X線画像を捕らえる平面状のイメージングプレート21を撮影装置2の本体の撮影主軸Zと略直交するように挟み込んで保持する保持部41、保持部41の一端に、保持部41と略直交するように設けられ、保持部41を適切な位置に上顎歯と下顎歯で咬合して支持するための細長棒状の支持部42、支持部42の保持部41と反対側に設けられた撮影を容易にするための円環状の方向指示ガイド43を有し、特に図3では、方向指示ガイド43の中央部に設けられた空間であり、撮影された画像が矩形になるようにするための矩形絞り431を有する。
【0053】
なお、図4は、矩形絞り431を有さず、方向指示ガイド43の内側が大きく空間となっているものであり、矩形に絞る必要のない場合には、このような簡便な構造のものでもよい。更に、方向指示ガイド43自体も、撮影方法などによっては必ずしも有しなくてもよい。
【0054】
更に、支持部42の保持部41側の端部に、歯槽骨部とともにイメージングプレート21に検出されるように、参照体3を収容したケース31を設置する。
【0055】
具体的には、支持部42の保持部41側端部に形成された略コの字型の空間に、参照体3を収容したケース31を挿入し、ケース31側に設けられた2個所の突起部33を図示しない支持部42側の溝部に嵌合することで固定する。
【0056】
ここで、参照体3を収容したケース31の設置場所及び固定方法は、これまでの説明に限定されず、保持部41に設置してもよいし、固定方法もねじ止めなど周知の方法によってもよいし、あるいはケース31を用いずに参照体3及びマーカー32そのものを支持部42または保持部41に固定するようにしてもよい。
【0057】
なお、撮影補助具4は、歯槽骨部以外の骨部の撮影の際に用いてもよい。その場合は、イメージングプレート21と、参照体3を収容したケース31または参照体3そのものとを保持する保持具4、及び、保持具41を適切に支持する支持具42の形状は、撮影部位に合わせて設計すればよく、要するに、骨部と参照体3とが同一の画面に捕らえられるようにできればよい。
【0058】
図5は、本発明の一実施形態に係る骨密度測定装置1の機能構成図である。骨密度測定装置1は、先に述べたハードウエア構成要素が協働して実現する機能要素として、撮影された歯槽骨などの骨部及び骨密度測定用の参照体のX線画像を同一画面に表示する画像表示部101、表示された参照体画像の関心領域を設定する参照体関心領域設定部102、設定された参照体関心領域の濃度を測定する参照体濃度測定部103、表示された歯槽骨などの骨部の画像において関心領域を設定する骨部関心領域設定部104、骨部関心領域の濃度を測定する骨部濃度測定部105、骨部関心領域の画像濃度と参照体の画像濃度とを比較して骨部関心領域の骨密度を算出する骨密度算出部106などを有する。
【0059】
これらの構成の骨密度測定システム及び骨密度測定部の動作を説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る骨密度測定システム100の動作フローである。骨密度測定装置1が、表示部11を介して、骨密度の測定を行おうとする被測定者について、測定する部位を示して、撮影補助具4の装着を指示する(ステップS01)。具体的には、上顎歯の場合は、参照体3を格納しているケース31に撮影したい歯の先端部(歯頂部)を載置し、イメージングプレート21を保持している保持部41を対象歯の内側で、歯根方向(上方)に向かうように、咬合部42を被測定者に咬合させ、固定する。なお、下顎歯については、保持部41の上下が逆になる。
【0060】
次に、撮影装置2を、その先頭部分を方向指示ガイド43に突き当てて固定し、撮影主軸Zをイメージングプレート21に略垂直になるようにして、参照体3と歯槽骨部とを同一画面に入るように口内法にて撮影を行い、イメージングプレート21に画像を捕捉する(ステップS02)。
【0061】
次に、骨密度測定装置1が、イメージングプレート21から撮影装置2の本体を経由し、あるいは、イメージングプレート21を、直接、骨密度測定装置測定装置1の入力部12にて読み取らせることにより、撮影された画像情報を受領し、画像表示部101が、撮影された画像を表示する(ステップS03)。
【0062】
図7は、本発明の一実施形態の骨密度測定システムの撮影された画像の例であり、骨密度測定装置1の画像表示部101が、歯槽骨部Bの画像を下部に、参照体3の画像を上部に配置して、同一画面に表示する。ここで、参照体3の画像には、図中で、左から順に3段階の画像濃度が得られる参照体試料3a、3b、3cの画像、及び、自動測定のためのマーカー32の画像が表示される。
【0063】
なお、本図においては、マーカー32、参照体3が水平方向に並んでおらず、やや傾いた状態で撮影されている。撮影の状況が様々であり、このように水平方向からずれる場合も頻発するのでその場合でも参照体3を正確に把握できる方法が要求される。
【0064】
そのために、参照体関心領域設定部102が、参照体についての関心領域を設定する。図8は、本発明の一実施形態に係る骨密度測定システムの参照体関心領域設定の動作フローである。
【0065】
まず、画像上で、マーカー32の中心座標を抽出する(ステップS11)。具体的にはマーカー32の画像が比較的細い線で、かつ、高輝度であることを用いて、濃淡OPENING処理、画像差分処理などの手法により、マーカー32部分の画像のみを求め、その中心座標(位置)を抽出する。なお、マーカー32の中心座標の抽出は、この方法に限定せず、例えば、パターンマッチングによって探してもよい。
【0066】
次に、マーカー32の中心座標を用いて最遠の参照体試料3aの中心座標を求める(ステップS12)。具体的には、マーカー32の略水平方向の辺を延伸して、予め設定しておいた最遠の参照体試料3aまでの距離に相当する画像上の距離の位置を中心座標とする。図9は本発明の一実施形態に係る骨密度測定システムの参照体関心領域設定部に関する画像の例であり、マーカー32の中心座標及び最遠の参照体試料3aの中心座標が示されている。
【0067】
次に、マーカー32の中心座標と最遠の参照体試料3aの中心座標とを用いて参照体の関心領域を決定する(ステップS13)。具体的には、図9に示すように、マーカー32の中心座標と最遠の参照体試料3aの中心座標との間を、予め設定してある比率で内分(例えば、図示するようにl:m:n)して、その他の参照体試料3c、3bの中心座標を求める。
【0068】
図10は、本発明の一実施形態に係る骨密度測定システムの参照体関心領域設定部に関する画像の例であり、関心領域が設定された状態を示す。参照体3の画像は、先に示すように、水平方向から傾いて撮影される場合も多く、更に、X線の入射角度などの影響で微妙な誤差があるため補正が必要であり、マーカー32の画像から参照体試料3a、3b、3cへの距離の相対値から参照体の画像であることの確認を行い、更に、関心領域内の濃度の分散が最小となる係数で関心領域を作成するなどの手法が必要な場合もある。
【0069】
その後、各参照体試料3a、3b、3cの中心座標から縦横それぞれ所定の画素数の領域を設定する。これが参照体関心領域3ar、3br、3crである。ここでは、参照体関心領域3ar、3br、3crのサイズは、それぞれ1辺が30画素の正方形となっている。
【0070】
このようにすることで、参照体の関心領域が、人手を介さず、自動で正確に行えることになり、その効果は大きい。
【0071】
なお、もちろん、参照体の関心領域が何らかの理由で、自動で行えない場合であっても、図9に示す画像を画面に提示して、操作者に入力を促すようにしてもよい。
【0072】
次に、参照体濃度測定部103が、参照体3の関心領域の画像から、周知の方法で、参照体試料3a、3b、3cの画像濃度を測定する(図6のステップS04)。ここで、濃度の代表値としては、状況に応じて、平均値、中央値、最頻値のいずれをも設定できるようになっている。
【0073】
例えば、参照体3a、3b、3cの濃度については、その中央を濃度の代表値とするのが好ましいので、平均値もしくは中央値を用いることが望ましく、特に、濃度分布が安定している場合は平均値が最も望ましい。一方、マーカー32の濃度のように一部分だけ尖った濃度分布の場合は、尖った部分を濃度の代表値とするのが好ましいので、最頻値を用いることが望ましい。
【0074】
図11は、本発明の一実施形態における参照体の画像の濃度と骨密度との相関を示す図である。すなわち、上記の例の場合には、測定の結果、以下のようになった。
参照体3a 濃度 96
参照体3b 濃度 135
参照体3c 濃度 152
ここで、参照体3bと参照体3cとは、撮影補助具4の保持部41または支持部42と重複して濃度が過剰に高くなるため、その部分を補正する。
参照体3a 濃度 96(補正なし)
参照体3b 濃度 135x0.93=126
参照体3c 濃度 152x0.97=148
その結果、先に述べた濃度と骨密度の関係は、次のようになる。
参照体3a 濃度 96 骨密度相当値 0.50g/平方cm
参照体3b 濃度 126 骨密度相当値 0.75g/平方cm
参照体3c 濃度 148 骨密度相当値 1.00g/平方cm
これを図示したものが本図であり、ほぼ直線状の相関がみられる。なお、この場合の近似式は、濃度をx、骨密度をyとして、y=0.0095x-0.427 となる。
【0075】
次に、骨部関心領域設定部104が、骨部、特に、歯槽骨部の関心領域Brを設定する(図6のステップS05)。図12は、本発明の一実施形態の骨密度測定装置における骨部関心領域設定の方法を示す説明図であり、特定の歯の歯軸の両側にほぼ等距離だけ離れた位置に幅w、高さhの寸法の2カ所の骨部関心領域Br1、Br2を設定する。なお、これらの歯の特定、領域の指定については、骨密度測定の用途に応じて、適宜、決定すればよい。
【0076】
ここで、関心領域を設定する骨部関心領域については、それ以外の場所であってもよい。図13A図13Fは、本発明の一実施形態の骨密度測定装置における骨部関心領域の例を示す説明図で、黒塗り部分が骨部関心領域を示しており、先に述べた歯槽骨部(図13A)のほか、顎骨骨体部以外にも、歯槽頂部(図13B)、根尖部(図13C)、顎骨骨体部(図13D)、抜歯窩(図13E)、顎堤(インプラント・技師などの治療予定部)(図13F)などであってもよく、所定の距離、寸法については、適宜、選択すればよい。
【0077】
ここで、図中、図13E図13Fについては、特に、歯科医師に対する治療経過の評価と治療計画の立案支援のために有用であり、その他については、特に、歯槽骨吸収の定量評価に基づく歯周病の診断支援に有用である。
【0078】
なお、骨部の関心領域については、必ずしも領域を設定せず、特定の個所を指定してその個所の濃度を測定することであってもよい。
【0079】
次に、骨部濃度測定部105が、骨部、特に、歯槽骨部の関心領域の濃度を測定する(図6のステップS06)。例えば、先に述べた歯槽骨部の骨部関心領域について、濃度の代表値を求める。歯槽骨部の関心領域は、ユーザが任意に選べるため、歯の領域と歯でない領域を同時に含む関心領域になり得る。そのような場合には、濃度分布を観察した上で、代表値を、平均値、中央値、最頻値のいずれかに設定する。ここで、代表値として、例えば、濃度が120と求められたとする。
【0080】
なお、関心領域の代表値としての濃度を求めることが精度を確保する点からは好適であるが、特定の個所のみの濃度など、他の方法で求めてもよい。簡便に測定することが出来る場合もある。
【0081】
次に、骨密度算出部106が、参照体の濃度と骨密度との相関、及び歯槽骨部の関心領域の濃度から、歯槽骨部の骨密度を算出する(図6のステップS07)。この場合、図11の近似式を用いて算出すると、濃度120の場合の骨密度は、約0.71g/平方cmと算出される。このようにして、歯槽骨部の骨密度が、汎用の単位であるg/平方cmで求められることになる。
【0082】
なお、これまで述べた参照体濃度と骨密度との関係は、撮影された画像毎に異なり、例えば、図14は、デジタル画像でなく、フィルム画像の例であるが、この場合には一見して、濃度(画素値)が大幅に低くなっているが、参照体関心領域3a、3b、3c、骨部関心領域Brのいずれもが、同様に濃度低下をしているために、図11と同様の手法で相関図を作成することで、適切に骨密度を算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本願は、歯科X線画像を用いて骨密度を測定し、骨粗鬆症の診断の支援などに用いることができる点において、広く、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0084】
1 骨密度測定装置
2 撮影装置
3 参照体
4 撮影補助具
100 骨密度測定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図14