(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】非感染性パラミクソウイルス粒子を用いた感染症ワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20221003BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20221003BHJP
A61K 39/155 20060101ALI20221003BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P31/14
A61K39/155
A61P31/18
(21)【出願番号】P 2018551711
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2017041492
(87)【国際公開番号】W WO2018092887
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2016224475
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、感染症実用化研究事業 エイズ対策実用化研究事業、「HIV感染防御ワクチン開発に関する研究」委託 研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】505048482
【氏名又は名称】株式会社IDファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】俣野 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】原 裕人
(72)【発明者】
【氏名】朱 亜峰
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/103310(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/069518(WO,A2)
【文献】国際公開第2000/070070(WO,A1)
【文献】飯田章博他,4.センダイウイルスベクター,ウイルス,2003年,第53巻第2号,p.171-175
【文献】Vaccine ,2008年,26,6839-6843
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 35/00
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス粒子表面に異種病原体の抗原タンパク質を発現する
センダイウイルス非感染性粒子
を含むワクチン製剤であって、
該センダイウイルス非感染性粒子は、該
センダイウイルスの少なくとも
Fタンパク質がウイルス粒子表面から欠失している
センダイウイルス非感染性粒子
である、ワクチン製剤。
【請求項2】
該センダイウイルス非感染性粒子は、少なくともF
タンパク質遺伝
子を欠失した
センダイウイルスゲノムを含む
センダイウイルス非感染性粒子である、請求項
1に記載の
ワクチン製剤。
【請求項3】
該センダイウイルス非感染性粒子は、
該異種病原体の抗原タンパク質を、非感染性粒子の外側に該抗原タンパク質を含み、非感染性粒子の内側に該
Fタンパク質の細胞質領域またはその断片を含む融合タンパク質として発現する
センダイウイルス非感染性粒子である、請求項1
または2に記載の
ワクチン製剤。
【請求項4】
異種病原体の抗原タンパク質が、レトロウイルスのエンベロープタンパク質の一部あるいは全体を含む、請求項1から
3のいずれかに記載の
ワクチン製剤。
【請求項5】
異種病原体の抗原タンパク質が、HTLV-1あるいはHIV-1のエンベロープタンパク質の一部あるいは全体を含む、請求項1から
4のいずれかに記載の
ワクチン製剤。
【請求項6】
ブースター接種の使用のための、請求項
1から5のいずれかに記載のワクチン製剤。
【請求項7】
ブースター接種において使用され、該病原体が、プライマリー接種の抗原が由来する病原体とは異なっており、誘導される抗体の交差性を上昇させる使用のための、請求項
1から5のいずれかに記載のワクチン製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原タンパク質をエンベロープ上に保持する非感染性パラミクソウイルス粒子を用いた感染症ワクチン、当該ワクチンの製造方法及び当該ワクチンの使用による感染防御法等に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の拡大抑制は国際的重要課題となっている(WHO World Health Statistics 2016 (非特許文献1))。特に、ヒト免疫不全ウイルス1型(human immunodeficiency virus, HIV-1)を原因ウイルスとする(後天性免疫不全症候群acquired immunodeficiency syndrome, AIDS)や、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)を原因とする成人型T細胞白血病/リンパ腫(ATL, Adult T-cell leukemia/lymphoma)をはじめとするエンベロープウイルス(細胞膜由来の脂質二重膜を被ったウイルス)による感染症は、最も対策が求められているウイルス感染症である。そして、これらを含む病原体感染症対策において、ワクチンの普及は重要な役割を担っており、抗体誘導ワクチン開発は重要戦略の一つとなっている。
【0003】
エイズはレトロウイルス科のレンチウイルスに属するHIV-1の感染によって引き起こされ、重篤な全身性免疫不全によって特徴づけられる疾患である。感染後の高い発症率・死亡率と予防・治療の難しさから、現在人類が直面する最も深刻な医療問題の一つとなっている。HIVは獲得免疫を統御する細胞であるCD4 陽性ヘルパーT細胞やマクロファージに感染して破壊するため、獲得免疫の著しい機能低下により全身性の免疫不全状態が引き起こされ、様々な日和見感染症や日和見腫瘍、中枢神経障害など多様で重篤な全身症状の発症に至る。適切な治療が行われなかった場合の発症後の生存期間は6から19ヶ月とされる(UNAIDS Obligation HQ/05/422204, 2006 (非特許文献2))。
【0004】
感染症としてのエイズは1981年に米国で初めて報告されたが、エイズの流行としてはそれ以前に中央アフリカ地域に始まったと推定されている(Sharp PM and Hahn BH, Cold Spring Harb Perspectives in Medicine 1(1): a006841, 2011 (非特許文献3))。その後1980年代以降流行地域は全世界に拡大し、1990年代には東欧や中国などの諸地域において急激なHIV 流行が起っている。
【0005】
国連エイズ合同計画(UNAIDS)による推計では、2014年の時点で世界のHIV-1感染者数3,700万人、年間新規感染者数は210万人、年間死亡者数110万人と推計されており、現在も増加し続けている。世界の推計総人口約70億人(2011年版「世界人口白書」(非特許文献4))の約200人に1人が感染していることになり、また、一日当たり5,700人すなわち15 秒に1人の新たな感染者が発生していることを意味する。特にアフリカには2,500万人以上の患者が集中している。アフリカのいくつかの国々では、エイズの流行によって平均余命が60歳から40歳にまで低下し、一つの国の存否を左右するほどの深刻な社会・経済問題を引き起こしている。その他、中国を中心にしたアジア・太平洋地域には510万人、欧米にも240万人もの感染者がいると推計されている(UNAIDS Fact Sheet 2016 (非特許文献5))。
【0006】
エイズ治療は近年急速な進歩をとげ、AZT(azidothymidine)を代表とする逆転写酵素阻害剤(reverse transcriptase inhibitor, RTI)に加え、すぐれたプロテアーゼ阻害剤(protease inhibitor, PI)が開発されてきた。近年には、インテグレース阻害剤(integrase inhibitor, INI)等も実用化されている。その結果、これら作用機序の異なる複数の薬剤の組み合わせによる抗HIV薬治療(antiretroviral therapy, ART)によって、感染者におけるウイルス複製制御によるエイズ発症阻止が可能となった(Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing. HIV infection: recommendations for a public health approach June 2013, WHO (非特許文献6))。ARTの導入により、先進国における日和見感染症の頻度や、エイズによる死亡者数が1995 年以来40%も減少している。
【0007】
しかし、ARTは決して根治的療法ではなく、リンパ節、中枢神経系などにウイルスが駆逐されずに残存(latent reservoir)することが知られており、服薬を中止すると直ちにウイルスの再増殖が起きる。そのため感染者はエイズ発症阻止のために薬剤投与を生涯継続する必要があるが、患者の薬剤へのアドヒランス(投薬スケジュールの遵守)は、副作用、服薬条件等の問題で必ずしも容易でない。さらに、耐性エイズウイルス出現の問題などから、米国においても年々半減してきた死亡数減少が頭打ちになりつつある(Campo JE et al., AIDS and Clinical Research S5:002. doi:10.4172/2155-6113.S5-002, 2012 (非特許文献7))。加えて、近年ART下のHIV-1感染者における骨粗鬆症、心血管障害、脳認知障害等の非エイズ疾患の促進が新たな問題となってきている。さらに、ARTは薬剤価格の面でも開発途上国の患者には負担が過大となることが指摘されている。
【0008】
このような薬物療法の限界を乗り越えるためには、感染細胞内の残存ウイルスをも押さえ込む有効な治療用ワクチンの開発が不可欠とされている。さらにエイズが猖獗を極める開発途上国はもちろんのこと、東南アジアや中国などエイズ感染の急速な拡大に直面している諸国では、HIV-1感染拡大の抑制の切り札となる予防ワクチン開発が切望されている。HIV-1感染防御に結びつく抗体誘導は、ワクチン開発における重要戦略である。
【0009】
しかし、1980年代にHIV-1が病原体と同定された直後からエイズワクチンの開発が精力的に行われて来たにもかかわらず、HIV-1のタンパク質やその遺伝子によるワクチンはこれまでのところ臨床試験において充分な有効性を示せていない。新しい概念、方法を用いた有効な新型ワクチン開発が強く望まれている。
【0010】
一方、レトロウイルス科のHTLV-1による感染症は、感染者の一部が成人性T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia, ATL)、HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy, HAM)、HTLV-1ぶどう膜炎(HTLV-1 uveitis, HU)といった深刻な病態にいたる感染症である。HTLV-1による感染症の臨床経過は多彩であるが、特にALTの急性型、リンパ腫型の場合では極めて予後不良であるため、直ちに加療する必要がある。急性型と診断された患者の生存期間中央値は1年未満とされる(Tsukasaki K and Tobinai K, Clin Cancer Res. 20:5217-25,2014 (非特許文献8))。
【0011】
国内のHTLV-Iの陽性率は0.32%、感染者は100万人以上と推定されている。以前は感染者(キャリア)は九州、特に沖縄県・鹿児島県・宮崎県・長崎県に偏在していた。たとえば、東京都におけるHTLV-1の陽性率が0.15%であるのに対して、全国で最も陽性率が高い鹿児島県では1.95%であると報告されている。しかし、近年、関東や関西等の大都市圏でも増加していることが確認されており、今後全国へ拡散していくおそれがある(Satake M et al. J Med Virol 84:327-35, 2012 (非特許文献9))。日本以外では、カリブ海沿岸諸国、中央アフリカ、南米などに感染者がみられ、成人T細胞白血病(ATL)患者もこれらの地域に多く報告されている。新規感染者は年間3000人と推定されている。日本ではHTLV-Iキャリアのうち、毎年600-700人程度がATLを発症している。一人のキャリアの生涯を通しての発症危険率は5%程度である。日本におけるATLによる年間死亡者数は約1,000人と推計されており、近年も減少傾向はみられていない。
【0012】
ATLの治療としては、急性白血病と同様に、寛解導入療法後の造血幹細胞移植が検討されている。寛解導入療法としてはCHOP療法(3 種類の抗がん剤(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン)に副腎皮質ホルモン(プレドニゾロン)を組み合わせた化学療法)やさらに多くの薬剤を組み合わせたLSG15療法といった化学療法が用いられる。また造血幹細胞移植として同種骨髄移植が考えられている。ATLは初回から薬剤耐性を示すことが少なくない。また、科学療法によって完全寛解を得る症例が近年増えているが、再発が多く、再発した場合は薬剤耐性があるため、標準的な治療法が未だに確立していない(Goncalves DU et al., Clinical Microbiol Rev 23:577-589, 2010 (非特許文献10))。
【0013】
HTLV-1の感染経路として主に母乳による母子感染および性交渉や血液を介した水平感染があげられる(Carneiro-Proietti ABF et al., Journal of the Pediatric Infectious Diseases Society 3:s24-s29, 2014 (非特許文献11))。最も重要なのは母子感染であって、主に母乳中のHTLV-1感染リンパ球が乳児の消化管内で乳児のリンパ球に接触することでHTLV-1の新たな感染がおこると考えられている。キャリアの母親が母乳保育を続けた場合、児の約20%がキャリアとなるとされる。近年、垂直感染予防を目的として、人工栄養による哺乳への切り替えが推奨され、母子感染がある程度低下したが、今だHTLV-1感染を完全に予防するには至っておらず、母乳以外の感染経路の可能性も示唆されている。よって感染拡大抑制に向けて、ワクチン開発が切望されている。
【0014】
HIV-1、HTLV-1をはじめとするエンベロープウイルスの感染防御においては、ウイルス表面膜蛋白質であるエンベロープ(Env)タンパク質を標的とする抗体誘導が重要となる。Envは細胞表面のウイルス受容体を認識して、ウイルスを細胞内に侵入させるために必須であり、その機能を抗体で阻害することで感染を抑制する(中和する)ことができると考えられるからである(Haynes BF et al.,Cell Host Microbe19:292-303, 2016 (非特許文献12))。
【0015】
HIV-1には流行地域によって異なる多くの株が存在することが知られており、そのEnvタンパク質をコードするenv遺伝子は多様性に富むことから、HIV-1感染防御には、多様なHIV-1株を認識可能な広い交差性を有する中和抗体が必要と考えられ、その誘導を目指したワクチン開発研究が進められている(Stephenson KE et al.,Current Opinion in Immunology 41:39-46, 2016 (非特許文献13))。しかし、不活化ウイルス粒子や精製Env蛋白gp120等を用いた従来の方法では、交差性の高い中和抗体の誘導は困難であることが判明し、新規手法の開発を目指して基礎的研究が展開されている。現時点では、中和抗体誘導のための抗原としては天然のウイルス表面に存在するのと同様の三量体構造を有するEnv抗原が最も有望とされているが、HIV-1粒子1個あたりにEnv三量体は10-20分子しか搭載されていないことから、三量体構造を有するEnv抗原をより高密度に提示できるシステムが求められる。また、広域交差性を有する中和抗体誘導には、Env特異的B細胞の成熟が重要で、多様な抗原の複数回刺激が必要と考えられており、複数回接種が可能であることも重要である。
【0016】
HTLV-1は、感染細胞が別の細胞に直接接触することによって感染伝播することが知られており、その際にEnvたんぱく質と標的細胞受容体との相互作用が必要であるため、HTLV-1 Envを標的とする抗体を誘導するワクチン開発は、HTLV-1感染拡大抑制に向けた重要戦略となる(Gross C and Thomas-Kress AK, Viruses 8:74-95, 2016 (非特許文献14))。
【0017】
このような抗体を誘導するワクチンを構築するにあたっては、効率よい誘導に結びつくデリバリーシステムと抗原の最適化が求められる。一般にワクチンの安全性と有効性は相反する関係にある。病原体の遺伝子DNAそのものやタンパク質を用いたワクチンは安全性は高いものの効果は限定される。一方弱毒化した病原体そのものを使うワクチンは効果が望まれるものの、ポリオ生ワクチンの事故に見られるように安全性の問題を伴う。特にHIVやHTLV-1については病原性を有さない弱毒化生ワクチン樹立の可能性は示されていない。またジェンナーが牛痘を天然痘ワクチンとして用いたように、免疫原性が共通しかつヒトでは全く病原性がない類縁ウイルスを使う方法もHIVやHTLV-1の場合は適当な類縁ウイルスが存在しないため不可能である。
【0018】
不活化ウイルス粒子は、代表的な抗体誘導ワクチン候補である。Envは多量体(主に三量体)を形成し、精製タンパク質抗原と比べ、粒子内のコア抗原やゲノム等によるアジュバント効果の点でも有利であると期待される。しかし、不活化ウイルス粒子においても、不活化処理で抗原性が失われる場合や、ウイルス粒子上の抗原密度が限られている場合などの問題点がある。さらに、不活化処理が不十分であった場合の感染の危険性やワクチン製造時の安全性も懸念される。
【0019】
一方、近年安全性と有効性を合わせ持つワクチン技術として注目されたのが「ウイルスベクター」によるワクチンである。ヒトの細胞に感染し、かつヒトでの病原性がないウイルスを免疫用の抗原遺伝子の運び屋として利用する。このワクチンは接種されたヒトの細胞内で、搭載した抗原遺伝子から抗原タンパク質を発現する。この抗原タンパク質があたかも病原体ウイルスそのものから発現したように体内の免疫系に提示されて免疫を惹起することが期待される。
【0020】
しかし、「ウイルスベクター」によるワクチンも期待した効果をあげていない。タイ保健省と米軍などが協力して行った1万6千人以上を対象とするこれまでで最大規模の第III相治験(感染予防試験)において、被験者群のエイズ感染リスクが約3割下がったとの報告がされた(Rerks-Ngarm S et al., New Englan Journal of Medicine 361:2209-2220, 2009 (非特許文献15))。これ以前の臨床試験で単独では無効とされた2種類の既存ワクチン(ALVACカナリア痘ワクチンとAIDSVAX蛋白ワクチン)を組み合わせて使用したもので、エイズワクチンにおいて世界で初めて有効性を証明したことに意義がある。しかし、30%という予防効果は予防ワクチンとしては十分ではなく、またいったん感染した人の血液中のウイルス量を減らす効果はみられなかったことから、実用化のためには今後の改善が必要とされている。さらに、「ウイルスベクター」によるワクチンも、投与後ウイルスベクターが増殖する複製型ウイルスベクターである場合は、体内でウイルスベクターそのものに対する免疫が惹起され、ワクチンの繰返し投与が妨げられてしまうという弱点がある。
【0021】
一方近年、VLPワクチンと呼ばれる新しいワクチンが実用化されている。ウイルス様粒子(virus-like particle, VLP)とは、ウイルスの構造タンパク質のみを昆虫や酵母など真核細胞あるいは結核菌などの細菌中で合成させた時に、細胞外に放出されてくる粒子である。VLPはウイルスと同じ外観や抗原性を持つが粒子は中空であり、ウイルスゲノムを持たないため病原性がなく安全性が高いと考えられている。VLPワクチンとしては、子宮頸癌予防のためのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンや、B型肝炎ウイルスなどが実用化されている。HIV-1のVLPも試みられているが、多くは充分な中和抗体の誘導に至っていない(Zhao et al., Vacines 4:2-21, 2016 (非特許文献16))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【文献】WHO World Health Statistics 2016.
【文献】Zwahlen M, Egger M (2006) Report on UNAIDS Obligation HQ/05/422204.
【文献】Sharp PM and Hahn BH, Cold Spring Harb Perspectives in Medicine 1(1): a006841, 2011.
【文献】世界人口白書 2011, UNFPA.
【文献】UNAIDS Fact Sheet 2016.
【文献】Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing. HIV infection: recommendations for a public health approach June 2013, WHO.
【文献】Campo JE et al., AIDS and Clinical Research S5:002. doi:10.4172/2155-6113.S5-002, 2012.
【文献】Tsukasaki K and Tobinai K, Clin Cancer Res. 20:5217-25, 2014.
【文献】Satake M et al. J Med Virol 84:327-35, 2012.
【文献】Goncalves DU et al., Clinical Microbiol Rev 23:577-589, 2010.
【文献】Carneiro-Proietti ABF et al., Journal of the Pediatric Infectious Diseases Society 3:s24-s29, 2014.
【文献】Haynes BF et al.,Cell Host Microbe19:292-303, 2016.
【文献】Stephenson KE et al.,Current Opinion in Immunology 41:39-46, 2016.
【文献】Gross C and Thomas-Kress AK, Viruses 8:74-95, 2016.
【文献】Rerks-Ngarm S et al., New Englan Journal of Medicine 361:2209-2220, 2009.
【文献】Zhao et al., Vacines 4:2-21, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の課題は、上記のような既存のワクチン技術の欠点を克服し、免疫の標的抗原であるエンベロープ蛋白質等の表面抗原多量体の高次構造を維持したまま高密度に表面に保持し、且つ複数回の投与が可能な免疫誘導用の新規なワクチンを提供することであり、この目的のために、パラミクソウイルスの非感染性粒子をワクチンとして利用し、当該粒子の製造法ならびに当該非感染性粒子ワクチンを用いた病原体感染の防御法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
課題解決のために、発明者らはパラミクソウイルスベクターの非感染性粒子をワクチンとして利用することに想到し、当該粒子の製造法ならびに当該非感染性粒子ワクチンを用いた、病原体に対する抗体誘導の方法を提供することに成功した。
【0025】
センダイウイルスを始めとするパラミクソウイルスは一本鎖アンチセンスRNAをゲノムとして持つエンベロープウイルスである。その増殖複製はRNAのままで行なわれ、DNA相を経ることがない。しかも、細胞内の染色体と相互作用することなく、生活環のすべてが細胞質のみに限局されるため、感染細胞の遺伝子を傷つけることがない。中でもセンダイウイルスはヒトに対する病原性がない。このようなパラミクソウイルス、特にセンダイウイルスの優れた安全性と、ゲノム上に導入された遺伝子を強力に発現する能力は、既に遺伝子治療用ベクターやiPS細胞誘導用ベクターとして発明者らによって開発され、近年医療・研究分野で広く利用されるようになっている。
【0026】
発明者らは、このセンダイウイルスベクター開発の過程において、そのゲノムからエンベロープ遺伝子(FまたはHN遺伝子、または両方)を欠失させることに成功した。エンベロープタンパク質はパラミクソウイルスの細胞感染に必須であるため、通常の遺伝子治療用ベクターやiPS細胞誘導用ベクターの場合は、欠失させたエンベロープ遺伝子を別途ヘルパー細胞で発現することにより、エンベロープタンパク質を表面に持った感染性のある粒子を作成する。
【0027】
一方、エンベロープタンパク質を供給することなく複製増殖させたパラミクソウイルスは、その表面にゲノムから除いたエンベロープタンパク質を持たず、従って細胞に感染する能力を持たない。発明者らはこの非感染性粒子に着目し、HIV-1やHTLV-1のエンベロープタンパク質をこの非感染性粒子上に発現させてデリバリーするシステムを着想した。エンベロープタンパク質欠失型パラミクソウイルスの表面には、パラミクソウイルスの本来のエンベロープタンパク質が少なくとも1つ発現していないため、ウイルス粒子が本体持っている粒子安定性やゲノム保持機能を持つかどうかは予測できなかった。また、感染能を持たないため、複製増殖能も発揮できない非感染性のパラミクソウイルス粒子は、インビボにおいて通常の感染性ウイルス粒子のように免疫誘導性を発揮できるかは予測できなかった。しかし本発明者らは、非感染性粒子はパラミクソウイルスの本来のエンベロープタンパク質が発現していないことから、この粒子そのものに対する免疫誘導能が低くなり、繰返し投与においては非感染性粒子の方が感染性粒子よりもむしろ有利なのではないかと考えた。
【0028】
HIV-1やHTLV-1のエンベロープタンパク質をこれらとは別種のウイルスであるパラミクソウイルスの粒子表面に効率よく発現させるため、HIV-1やHTLV-1のエンベロープ遺伝子の細胞外ドメインに相当する部分を、センダイウイルスのエンベロープ遺伝子の膜貫通部分-細胞質部分と結合したハイブリッド遺伝子(以下「融合遺伝子」ともいう。融合遺伝子から発現されるタンパク質を「ハイブリッドタンパク質」あるいは「融合タンパク質」という。)を作成した(WO2016/069518)。この細胞質部分のN末にはさらに、センダイウイルスF遺伝子由来のシグナルシークエンスを結合し効率的な細胞外への移動をはかった。
【0029】
このようにして作製したHIV-1またはHTLV-1のエンベロープタンパク質を表面に発現する非感染性センダイウイルス粒子(F欠失型)と、Fタンパク質をヘルパー細胞から供給して作製した感染性センダイウイルス粒子(F欠失型)をウェスタンブロットで比較したところ、驚くべきことに、非感染性センダイウイルス粒子(F欠失型)は感染性センダイウイルス粒子(F欠失型)より多くのHIV-1/HTLV-1のエンベロープタンパク質を表面に発現していることがわかった。非感染性粒子上にパラミクソウイルスの本来のエンベロープタンパク質が発現していない分、外来のエンベロープタンパク質が取込まれやすくなり、粒子表面における抗原の提示にとっては感染性粒子よりもむしろ有利になったと考えられた。
【0030】
さらに、これら非感染性センダイウイルス粒子(F欠失型)を、感染性センダイウイルス粒子(F欠失型)でプライムしたマウスにブーストとして投与したところ、有意なブースト効果が確認され、非感染性センダイウイルス粒子(F欠失型)のワクチンとしての可能性が示された。
【0031】
すなわち本発明は、非感染性ウイルス粒子上に病原体の抗原タンパク質を発現する技術、当該非感染性ウイルス粒子の製造法、ならびに当該非感染性ウイルス粒子の病原体に対するワクチンとしての使用およびそのために用いられる組成物等に関し、より具体的には請求項の各項に記載の発明に関する。なお同一の請求項を引用する請求項に記載の発明の2つまたはそれ以上の任意の組み合わせからなる発明も、本明細書において意図された発明である。すなわち本発明は、以下の発明に関する。
〔1〕 ウイルス粒子表面に異種病原体の抗原タンパク質を発現するパラミクソウイルス非感染性粒子。
〔2〕 該パラミクソウイルスの少なくとも1つのエンベロープタンパク質がウイルス粒子表面から欠失している、〔1〕に記載の非感染性粒子。
〔3〕 該パラミクソウイルスのF蛋白質がウイルス粒子表面から欠失している、〔1〕または〔2〕に記載の非感染性粒子。
〔4〕 エンベロープタンパク質遺伝子の少なくとも1つを欠失したパラミクソウイルスゲノムを含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の非感染性粒子。
〔5〕 欠失したエンベロープタンパク質遺伝子がF遺伝子である、〔4〕に記載の非感染性粒子。
〔6〕 パラミクソウイルスが、センダイウイルスである、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の非感染性粒子。
〔7〕 異種病原体の抗原タンパク質が、レトロウイルスのエンベロープタンパク質の一部あるいは全体を含む、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の非感染性粒子。
〔8〕 異種病原体の抗原タンパク質が、HTLV-1あるいはHIV-1のエンベロープタンパク質の一部あるいは全体を含む、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の非感染性粒子。
〔9〕 〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の非感染性粒子を含む組成物。
〔10〕 〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の非感染性粒子を含むワクチン製剤。
〔11〕 ブースター接種の使用のための、〔10〕に記載のワクチン製剤。
〔12〕 ブースター接種において使用され、該病原体が、プライマリー接種の抗原が由来する病原体とは異なっており、誘導される抗体の交差性を上昇させる使用のための、〔10〕に記載のワクチン製剤。
〔13〕 〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の非感染性粒子の製造方法であって、少なくとも1つのエンベロープタンパク質遺伝子を欠失し、異種病原体の抗原タンパク質遺伝子を搭載するパラミクソウイルスベクターを細胞に導入する工程、および、生成したパラミクソウイルス非感染性粒子を回収する工程を含む方法。
〔14〕 少なくとも一つのエンベロープタンパク質遺伝子をゲノムから欠失し、異種病原体の抗原タンパク質遺伝子を搭載するパラミクソウイルスベクターであって、異種病原体の抗原タンパク質遺伝子をウイルス粒子表面に発現するパラミクソウイルスベクター。
〔15〕 異種病原体の抗原タンパク質遺伝子が、HTLV-1またはHIV-1のエンベロープタンパク質である〔14〕に記載のパラミクソウイルスベクター。
〔16〕 パラミクソウイルスベクターがセンダイウイルスベクターである〔14〕または〔15〕に記載のパラミクソウイルスベクター。
〔17〕 欠失したエンベロープタンパク質遺伝子がF遺伝子である〔14〕から〔16〕のいずれかに記載のパラミクソウイルスベクター。
【0032】
また本発明は、本発明の非感染性ウイルス粒子が持つパラミクソウイルスゲノムRNA、該ゲノムRNAのアンチゲノムRNA(すなわちゲノムRNAの相補配列からなるRNA)、およびこれらの少なくともいずれかのRNAをコードするDNAに関する。また本発明は、これらの少なくともいずれかのRNAをコードするベクター、および該DNAを含むベクターを提供する。ベクターは特に限定はなく、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター、人工染色体等、核酸を保持できる限り所望のベクターであってよい。ゲノムRNAやアンチゲノムRNAを転写する能力を有する発現ベクターは、本発明の非感染ウイルス粒子やウイルスベクターを製造するために有用である。
【0033】
なお、本明細書に記載した任意の技術的事項およびその任意の組み合わせは、本明細書に意図されている。また、それらの発明において、本明細書に記載の任意の事項またはその任意の組み合わせを除外した発明も、本明細書に意図されている。また本発明に関して、明細書中に記載されたある特定の態様は、それを開示するのみならず、その態様を含むより上位の本明細書に開示された発明から、その態様を除外した発明も開示するものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、表面に病原体の抗原タンパク質を自然界に存在するのと同様の3次元構造で発現した非感染性ウイルス粒子を、病原体に対するワクチンとして使用することが可能となる。特にEnv遺伝子欠失型ベクターを利用することにより、多分子の抗原タンパク質の粒子上搭載を可能とし、ワクチンとして投与することにより、効率良く抗体誘導を行うことができる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】非感染性粒子搭載抗原(HIV-1/HTLV-1エンベロープ)構築の概念図。A: gp63ectoF融合遺伝子の構築。B: sfEnvF融合遺伝子の構築。上図は融合遺伝子にコードされた融合タンパクが細胞膜上に発現した様子の模式図である。ss: シグナルペプチド、SU: 細胞外部分、TM: 細胞膜貫通部分。下図は融合遺伝子の模式図である。矢印は融合遺伝子構築に用いたプライマーの位置を、番号は配列番号を示す。1:Not1_gp63ecto_N,2: gp63ectoF_C, 3: gp63ectoF_N, 4: sfEnvF_EIS_Not1_C, 6: sfEnv_N1, 7: EnvF_C, 8: EnvF_N, 9: sf_N2。C: SeV/dFベクターのゲノム上の融合遺伝子の搭載位置を示す図である。
【
図2】ウェスタンブロット法によるHTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子と非感染性粒子の分析。 HTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)を、ウェスタンブロット法を用いて分析した。各検体15μlをアクリルアミドゲルで電気泳動後、抗HTLV-1 gp46抗体を用いて、粒子上のgp63ectoFタンパク質を検出した。非感染性粒子上のgp63ectoFタンパク質の量は、感染性粒子と比較して有意に上昇した。M. Magic maker、1. SeV18+gp63ecto/dF
*、2. SeV18+gp63ectoF/dF、3. SeV18+gp63ectoF/dF/NVP。* SeV18+gp63ecto/dFはセンダイウイルスFと融合していないgp63ectoのみを搭載したベクターが産生する感染性粒子。
【
図3】ウェスタンブロット法によるHTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子と非感染性粒子の分析。 HTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)を、ウェスタンブロット法を用いて分析した。各検体1μgをアクリルアミドゲルで電気泳動後、抗HTLV-1 gp46抗体を用いて、粒子上のgp63ectoFタンパク質を検出した。非感染性粒子上のgp63ectoFタンパク質の量は、感染性粒子と比較して有意に上昇した。左:感染性粒子あるいは非感染性粒子、右:SeV F蛋白質と融合させた(SeV18+gp63ectoF/dF)または融合していない(SeV18+gp63ecto/dF)HTLV-1 エンベロープタンパク質を発現するセンダイウイルスベクターを導入した細胞(LLC/MK2細胞)のライセート。左:M. Magic maker、1. SeV18+gp63ecto/dF、2. SeV18+gp63ectoF/dF、3. SeV18+gp63ectoF/dF/NVP。右:M. Magic maker、4. MK2/control(非感染)、5. MK2/SeV18+gp63ecto/dF、6. MK2/SeV18+gp63ectoF/dF。
【
図4】ウェスタンブロット法によるHIV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子と非感染性粒子の分析。 HIV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)と非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)を、ウェスタンブロット法を用いて分析した。各検体をアクリルアミドゲルで電気泳動後、抗HIV-1 gp120抗体を用いて、粒子上のsfEnvFタンパク質を検出した(パネルA)。アプライした各検体中のセンダイウイルスの量が一定であることを確認するため、アクリルアミドゲルで電気泳動後、抗センダイウイルス抗体を用いて、センダイウイルスタンパク質を検出した(パネルB)。アプライする各検体の総タンパク質量を調整して、レーンあたりのセンダイウイルスの量を一定にしている。非感染性粒子上のsfEnvFタンパク質の量は、感染性粒子と比較して有意に上昇した。パネルA:抗HIV-1 gp120抗体によるsfEnvFタンパク質の検出。M. Magic maker、1. SeV-sfEnvF (NP) 総タンパク質量 1.0μg、2. SeV18+sfEnvF/dF同1.35μg、3. SeV18+sfEnvF/dF/NVP同1.5μg。パネルB:抗センダイウイルス抗体によるセンダイウイルスタンパク質の検出。M. Magic maker、1. SeV-sfEnvF (NP) 総タンパク質量0.1μg、2. SeV18+sfEnvF/dF同0.135μg、3. SeV18+sfEnvF/dF/NVP同0.15μg。
【
図5】HTLV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子によるブースト効果(ELISA法)。 HTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)を用いたマウス(BALB/c)による免疫誘導実験の結果を示す。免疫マウスの血漿を用いたHTLV-1 gp46タンパクを標的とするELISAデータのバックグランドを差し引いたOD450測定値の各群の平均値を比較すると、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回行った後、非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)によるブースト接種を2回行った群は、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回のみ行った群と比較して、約3.9倍の値を示した。
【
図6】HTLV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子によるブースト効果(ウェスタンブロット法)。
図5と同じ実験で、免疫マウスの血漿中のHTLV-1 gp46結合抗体をWestern Blotによって検出した結果を示す。感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回行った後、非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)によるブースト接種を2回行った群は、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回のみ行った群と比較して、約8.5倍の値を示した
【
図7】HIV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子によるブースト効果。 sfEnv-Fを発現するF欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)と非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)を用いて行なったマウス(BALB/c)による免疫誘導実験の結果を示す。免疫マウスの血漿を用いたHIV-1 gp120タンパクを標的とするELISAデータのバックグランドを差し引いた測定値の各群の平均値を比較すると、感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)接種を2回のみ行った群と比較して、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を2回行った後、非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)によるブースト接種を2回行った群は、約3.0倍の値を示し、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を2回行った後、非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)によるブースト接種を4回行った群は、約8.0倍の値を示した。
【
図8】HTLV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子の抗HTLV抗体ブースト効果。 gp63ectoFを発現するF遺伝子欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)を用いて行なったマウス(BALB/c)による免疫誘導実験の結果を示す。第1群(SeV/SeV群)には感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を4回行い、第2群(SeV/NVP群)には感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回および非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)接種を3回行った。また陰性コントロールとして第3群(PBS群)にはPBS接種を4回行った。ELISAによるHTLV-1 gp46タンパクに対する抗体価測定においては、8,000倍希釈の血漿を用いたデータにおいて、SeV/SeV群, SeV/NVP群ともに高い値を示し、特にSeV/NVP群はコントロール群と比べて有意に高い値を示した。またエンドポイントタイターでの比較では、SeV/NVP群はSeV/SeV群よりも有意に高値を示した。
【
図9】AD8EO株(HIV-1 サブタイプB)由来EnvのエクトドメインsfAD8EOEnvを含むsfAD8EOEnvF融合蛋白質をコードする核酸を作製するための3段階のPCRのスキームを示す図である。
【
図10】HIV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子の抗HIV-1抗体ブースト効果。 sfEnv-Fを発現するF欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)と非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)を用いて行なったマウス(BALB/c)による免疫誘導実験の結果を示す。EnvFについてはBG505株由来のエクトドメインを用いたBG505EnvFとAD8EO株由来のエクトドメインを用いたAD8EOEnvFを使用した。PBS群(G1)は、陰性コントロールとしてPBS接種を4回行った。SeV/SeV-BG505群(G2)には、BG505EnvF発現感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF)接種を4回行い、SeV/NVP-BG505群(G3)には、BG505EnvF発現感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF)接種を1回行った後、BG505EnvF発現非感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF/NVP)接種を3回行った。さらに異なる抗原をブーストに用いることによる抗体の交差性拡大効果を検討するため、BG505EnvF発現感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF)接種を2回行った後、SeV/SeV-AD8EO群(G4)としてAD8EOEnvF発現感染性粒子(SeV18+sfAD8EOEnvF/dF)接種を2回、もしくはSeV/NVP-AD8EO群(G5)としてBG505EnvF発現非感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF/NVP)及びAD8EOEnvF発現非感染性粒子(SeV18+sfAD8EOEnvF/dF/NVP)接種をそれぞれ1回行った。ELISAによる抗BG505 gp120抗体価測定においては、OD450値の平均値およびエンドポイントタイターにおいて、SeV/NVP-BG505群(G3)はSeV/SeV-BG505群(G2)と同等もしくは高い値を示し、sfEnvF発現非感染性粒子(NVP)による抗体ブースト能がsfEnvF発現感染性粒子(SeV)と同等以上であることを示した。また、SeV/SeV-AD8EO群(G4)およびSeV/NVP-AD8EO群(G5)の両群においても、OD450値の平均値およびエンドポイントタイターにおいて、SeV/NVP-BG505群(G3)及びSeV/SeV-BG505群(G2)と同等もしくは高い値を示し、AD8EOEnvF発現感染性粒子及び非感染性粒子によるブーストにより、BG505 gp120に反応する抗体を有効に誘導できることを示した。
【
図11】HIV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子の抗HIV-1抗体ブースト効果(2)。
図10に示したマウス実験において採血したサンプルを用いて、AD8EOEnvF発現感染性粒子または非感染性粒子のブースト接種による抗体の交差性拡大効果を検討するため、AD8EOと同じHIV-1 サブタイプBに属するBaL gp120蛋白を用いて、同様の抗gp120抗体ELISAを行った。その結果、エンドポイントタイターにおいて、SeV/SeV-AD8EO群(G4)において高値を示し、SeV/NVP-AD8EO群(G5)においてもSeV/SeV-AD8EO群(G4)と同等の値を示した。またBG505エンドポイントタイターとBaLエンドポイントタイターとの比の値を解析した結果、SeV/SeV-AD8EO群(G4), SeV/NVP-AD8EO群(G5)では, SeV/NVP-BG505群(G3)及びSeV/SeV-BG505群(G2)よりも高値を示し、特にSeV/NVP-AD8EO群(G5)において高い値を示した。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0037】
本発明において「ワクチン」とは、抗原に対する免疫反応を惹起させるための組成物を言い、例えば、伝染病や感染症等の予防または治療のために使用される組成物を言う。ワクチンは抗原を含んでいるか、または抗原を発現可能であり、これにより抗原に対する免疫応答を誘導することができる。病原微生物の感染、伝播、および流行の予防または治療のために、本発明のパラミクソウイルス非感染性粒子は、抗原を含むワクチンとして製剤化されうる。このワクチンは、所望の形態で用いることができる。
【0038】
「抗原」とは、1つまたはそれ以上のエピトープ(抗体あるいは免疫細胞が認識する抗原の一部分)を含む分子であり、宿主の免疫系を刺激して抗原特異的な免疫応答を誘導し得るものを言う。免疫応答は、体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答であってよい。 3個~数個程度のアミノ酸でも 1つのエピトープとなり得るが、通常、蛋白質中の 1つのエピトープは、約 7~約 15アミノ酸、例えば少なくとも 8、 9、 10、 12、または 14アミノ酸を含んでいる。なお本発明においてエピトープには、一次構造から形成されるエピトープだけでなく、蛋白質の立体構造に依存したエピトープも含まれる。また抗原は免疫原とも言う。
【0039】
本発明の「非感染性ウイルス粒子」は、感染性を持たないウイルス粒子を言う。具体的には、通常のウイルス粒子が持つ、細胞表面に接触することにより粒子内の核酸を細胞内に導入する能力を持たないウイルス粒子を言う。非感染性ウイルス粒子は、1種またはそれ以上の、感染に必要なウイルス蛋白質を実質上持たない粒子であってよい。実質上持たないとは、野生型ウイルス粒子が持つ蛋白質レベルの1/50以下、好ましくは1/100以下、1/200以下、1/500以下、1/1000以下、1/2000以下、好ましくは1/5000以下であることを言う。またウイルス粒子とは、ウイルスの粒子形成機構と同様の作用で形成される粒子を言う。本発明の非感染性ウイルス粒子は、エンベロープ(細胞膜由来の生体膜)に包まれた粒子である。例えばパラミクソウイルスの非感染性ウイルス粒子は、パラミクソウイルスのゲノムRNAを含んでよい。当該ウイルスゲノムRNAは、少なくとも一のエンベロープ遺伝子を欠失していてよい。また。当該ウイルスゲノムRNAは、パラミクソウイルスタンパク質と複合体(リボヌクレオタンパク質;RNP)を形成していてよい。当該RNPは、例えばパラミクソウイルスのゲノムRNAと、N、P、Lタンパク質との複合体である。N、P、Lタンパク質は、例えば当該ウイルスゲノムにコードされていてよい。本発明の「非感染性ウイルス粒子」は、例えば、少なくとも一のエンベロープ遺伝子を欠失するウイルスベクターを、当該欠失エンベロープタンパク質を供給することなく複製増殖させた時に生産される粒子である。
【0040】
本発明において「ウイルスベクター」は、当該ウイルスに由来するゲノム核酸を有し、該核酸に導入遺伝子を組み込むことにより、細胞に導入後、該遺伝子を発現させることができるベクターである。パラミクソウイルスベクターは、染色体非組み込み型ウイルスベクターであって、ベクターは細胞質中で発現されるので、導入遺伝子が宿主の染色体(核由来染色体)に組み込まれる危険性がない。従って安全性が高く、また感染細胞からベクターを除去することが可能である。本発明においてパラミクソウイルスベクターには、感染性ウイルス粒子の他、ウイルスコア、ウイルスゲノムとウイルス蛋白質との複合体、または非感染性ウイルス粒子などからなる複合体であって、細胞に導入することにより搭載する遺伝子を発現する能力を持つ複合体が含まれる。例えばパラミクソウイルスにおいて、パラミクソウイルスゲノムとそれに結合するパラミクソウイルス蛋白質(NP、P、およびL蛋白質)からなるリボヌクレオ蛋白質(ウイルスのコア部分)は、細胞に導入することにより細胞内で導入遺伝子を発現することができる(WO00/70055)。細胞への導入は、適宜トランスフェクション試薬等を用いて行えばよい。このようなリボヌクレオ蛋白質(RNP)も本発明においてパラミクソウイルスベクターに含まれる。本発明においてパラミクソウイルスベクターは、好ましくは上記のRNPが細胞膜由来の生体膜に包まれた粒子である。
【0041】
本発明において「異種病原体の抗原タンパク質」とは、本発明の非感染性粒子が由来するパラミクソウイルスとは由来が異なる病原体に由来する抗原を含むタンパク質を言う。そのような病原体は、本発明の非感染性粒子が由来するパラミクソウイルスとは由来が異なる病原性パラミクソウイルスであってもよく、あるいは、異なる種、すなわちパラミクソウイルス以外の生物(ウイルスも生物のうちに含まれる)であってもよい。また病原体とは、宿主の健康状態を少なくとも一過的に損ない得る生物(ウイルスを含む)を言い、好ましくは微生物、さらに好ましくはウイルス、例えばエンベロープを持つウイルス(エンベロープウイルス)である。宿主は特に制限はないが、好ましくはほ乳動物、さらに好ましくはヒトである。
【0042】
本発明において「あるタンパク質がウイルス粒子表面に発現する」とは、当該粒子表面に当該タンパク質が発現されていることを言い、具体的には、当該粒子表面に当該タンパク質が保持されていることを言う。当該粒子が細胞から形成されるときに、当該細胞において当該タンパク質が発現して細胞膜に存在しており、その細胞膜からウイルス粒子が出芽することにより、当該タンパク質がウイルス表面に発現するウイルス粒子を取得することができる。当該ウイルス粒子は、当該タンパク質を発現する能力を有していてもいなくてもよいが、好ましくは、当該タンパク質を発現する能力を有している。
【0043】
本発明において「パラミクソウイルスの少なくとも1つのエンベロープタンパク質がウイルス粒子表面から欠失している」とは、当該パラミクソウイルスの野生型ウイルス粒子が粒子表面に保持している少なくとも1つのエンベロープタンパク質が粒子表面に存在しないことを言う。そのようなウイルス粒子は、上記の通り、少なくとも一つのエンベロープ遺伝子を欠失するウイルスを、当該欠失エンベロープタンパク質を供給することなく細胞で発現させることで生産させることができる。そのようにして生産されるウイルス粒子は、パラミクソウイルスの少なくとも1つのエンベロープタンパク質がウイルス粒子表面から欠失しており、その粒子中に、当該エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を欠失するウイルスゲノムを保持している。当該エンベロープタンパク質としては、例えばFおよび/またはHNタンパク質が挙げられる。
【0044】
本発明においてパラミクソウイルスとはパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)に属するウイルスまたはその誘導体を指す。パラミクソウイルス科は、非分節型ネガティブ鎖RNAをゲノムに持つモノネガウイルスグループの1つで、パラミクソウイルス亜科(Paramyxovirinae)(レスピロウイルス属(パラミクソウイルス属とも言う)、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)およびニューモウイルス亜科(Pneumovirinae)(ニューモウイルス属およびメタニューモウイルス属を含む)を含む。パラミクソウイルス科ウイルスに含まれるウイルスとして、具体的にはセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1, 2, 3型等が挙げられる。より具体的には、例えば Sendai virus (SeV)、human parainfluenza virus-1 (HPIV-1)、human parainfluenza virus-3 (HPIV-3)、phocine distemper virus (PDV)、canine distemper virus (CDV)、dolphin molbillivirus (DMV)、peste-des-petits-ruminants virus (PDPR)、measles virus (MeV)、rinderpest virus (RPV)、Hendra virus (Hendra)、Nipah virus (Nipah)、human parainfluenza virus-2 (HPIV-2)、simian parainfluenza virus 5 (SV5)、human parainfluenza virus-4a (HPIV-4a)、human parainfluenza virus-4b (HPIV-4b)、mumps virus (Mumps)、およびNewcastle disease virus (NDV) などが含まれる。ラブドウイルスとしては、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)の水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)、狂犬病ウイルス(Rabies virus)等が含まれる。
【0045】
なおパラミクソウイルスのゲノムRNAはネガティブ鎖であり、タンパク質のアミノ酸配列はゲノムRNAの相補配列を持つアンチゲノムにコードされている。本発明においては便宜上、ゲノムもアンチゲノムもゲノムと称することがある。
【0046】
本発明のウイルスは、好ましくはパラミクソウイルス亜科(レスピロウイルス属、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)に属するウイルスまたはその誘導体であり、より好ましくはレスピロウイルス属(genus Respirovirus)(パラミクソウイルス属(Paramyxovirus)とも言う)に属するウイルスまたはその誘導体である。誘導体には、ウイルスによる遺伝子導入能を損なわないように、ウイルス遺伝子が改変されたウイルス、および化学修飾されたウイルス等が含まれる。本発明を適用可能なレスピロウイルス属ウイルスとしては、例えばヒトパラインフルエンザウイルス1型(HPIV-1)、ヒトパラインフルエンザウイルス3型(HPIV-3)、ウシパラインフルエンザウイルス3型(BPIV-3)、センダイウイルス(Sendai virus; マウスパラインフルエンザウイルス1型とも呼ばれる)、麻疹ウイルス、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、およびサルパラインフルエンザウイルス10型(SPIV-10)などが含まれる。本発明においてパラミクソウイルスは、最も好ましくはセンダイウイルスである。
【0047】
パラミクソウイルスは、一般に、エンベロープの内部にRNAとタンパク質からなる複合体(リボヌクレオプロテイン; RNP)を含んでいる。RNPに含まれるRNAはマイナス鎖RNAウイルスのゲノムである(-)鎖(ネガティブ鎖)の一本鎖RNAであり、この一本鎖RNAが、NPタンパク質、Pタンパク質、およびLタンパク質と結合し、RNPを形成している。このRNPに含まれるRNAがウイルスゲノムの転写および複製のための鋳型となる(Lamb, R.A., and D. Kolakofsky, 1996, Paramyxoviridae: The viruses and their replication. pp.1177-1204. In Fields Virology, 3rd edn. Fields, B. N., D. M. Knipe, and P. M. Howley et al. (ed.), Raven Press, New York, N. Y.)。
【0048】
パラミクソウイルスの「NP、P、M、F、HN、およびL遺伝子」とは、それぞれヌクレオキャプシド、ホスホ、マトリックス、フュージョン、ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ、およびラージタンパク質をコードする遺伝子のことを指す。ヌクレオキャプシド(NP)タンパク質は、ゲノムRNAに結合し、ゲノムRNAが鋳型活性を有するために不可欠なタンパク質である。一般に、NP遺伝子は「N遺伝子」と表記されることもある。ホスホ(P)タンパク質は、RNAポリメラーゼの小サブユニットであるリン酸化タンパク質である。マトリックス(M)タンパク質は、ウイルス粒子構造を内側から維持する機能を果たす。フュージョン(F)タンパク質は、宿主細胞への侵入にかかわる膜融合タンパク質であり、ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質は宿主細胞との結合にかかわるタンパク質である。ラージ(L)タンパク質は、RNAポリメラーゼの大サブユニットである。上記各遺伝子は個々の転写制御ユニットを有し、各遺伝子から単独のmRNAが転写され、タンパク質が転写される。P遺伝子からは、Pタンパク質以外に、異なるORFを利用して翻訳される非構造タンパク質(C)と、Pタンパク質mRNAを読み取り途中のRNA編集により作られるタンパク質(V)が翻訳される。例えばパラミクソウイルス亜科に属する各ウイルスにおける各遺伝子は、一般に、ゲノムの先頭(3')からコードされている順に、次のように表記される。
レスピロウイルス属 N P/C/V M F HN - L
ルブラウイルス属 N P/V M F HN (SH) L
モービリウイルス属 N P/C/V M F H - L
【0049】
例えばセンダイウイルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、N遺伝子については M29343, M30202, M30203, M30204, M51331, M55565, M69046, X17218、P遺伝子については M30202, M30203, M30204, M55565, M69046, X00583, X17007, X17008、M遺伝子については D11446, K02742, M30202, M30203, M30204, M69046, U31956, X00584, X53056、F遺伝子については D00152, D11446, D17334, D17335, M30202, M30203, M30204, M69046, X00152, X02131、HN遺伝子については D26475, M12397, M30202, M30203, M30204, M69046, X00586, X02808, X56131、L遺伝子については D00053, M30202, M30203, M30204, M69040, X00587, X58886を参照のこと。またその他のウイルスがコードするウイルス遺伝子を例示すれば、N遺伝子については、CDV, AF014953; DMV, X75961; HPIV-1, D01070; HPIV-2, M55320; HPIV-3, D10025; Mapuera, X85128; Mumps, D86172; MeV, K01711; NDV, AF064091; PDPR, X74443; PDV, X75717; RPV, X68311; SeV, X00087; SV5, M81442; および Tupaia, AF079780、P遺伝子については、CDV, X51869; DMV, Z47758; HPIV-l, M74081; HPIV-3, X04721; HPIV-4a, M55975; HPIV-4b, M55976; Mumps, D86173; MeV, M89920; NDV, M20302; PDV, X75960; RPV, X68311; SeV, M30202; SV5, AF052755; および Tupaia, AF079780、C遺伝子については CDV, AF014953; DMV, Z47758; HPIV-1, M74081; HPIV-3, D00047; MeV, ABO16162; RPV, X68311; SeV, AB005796; および Tupaia, AF079780、M遺伝子については CDV, M12669; DMV Z30087; HPIV-1, S38067; HPIV-2, M62734; HPIV-3, D00130; HPIV-4a, D10241; HPIV-4b, D10242; Mumps, D86171; MeV, AB012948; NDV, AF089819; PDPR, Z47977; PDV, X75717; RPV, M34018; SeV, U31956; および SV5, M32248、F遺伝子については CDV, M21849; DMV, AJ224704; HPN-1, M22347; HPIV-2, M60182; HPIV-3, X05303, HPIV-4a, D49821; HPIV-4b, D49822; Mumps, D86169; MeV, AB003178; NDV, AF048763; PDPR, Z37017; PDV, AJ224706; RPV, M21514; SeV, D17334; および SV5, AB021962、HN(HまたはG)遺伝子については CDV, AF112189; DMV, AJ224705; HPIV-1, U709498; HPIV-2. D000865; HPIV-3, AB012132; HPIV-4A, M34033; HPIV-4B, AB006954; Mumps, X99040; MeV, K01711; NDV, AF204872; PDPR, X74443; PDV, Z36979; RPV, AF132934; SeV, U06433; および SV-5, S76876 、L遺伝子についてはCDV, AF014953; DMV, AJ608288; HPIV-1, AF117818; HPIV-2, X57559; HPIV-3, AB012132; Mumps, AB040874; MeV, K01711; NDV, AY049766; PDPR, AJ849636; PDV, Y09630; RPV,Z30698; およびSV-5, D13868が例示できる。但し、各ウイルスは複数の株が知られており、株の違いにより上記に例示した以外の配列からなる遺伝子も存在する。これらのいずれかの遺伝子に由来するウイルス遺伝子を持つセンダイウイルスベクターは、本発明の非感染性粒子を産生するためのウイルスベクターとして有用である。例えば本発明のセンダイウイルスベクター、および感染性および非感染性粒子は、上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列と、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を持つ塩基配列を含んでよい。また、本発明のセンダイウイルスベクター、および感染性および非感染性粒子は、例えば上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列がコードするアミノ酸配列と、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を持つアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでよい。また、本発明のセンダイウイルスベクター、および感染性および非感染性粒子は、例えば上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列がコードするアミノ酸配列において、10個以内、好ましくは9個以内、8個以内、7個以内、6個以内、5個以内、4個以内、3個以内、2個以内、または1個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでよい。
【0050】
なお本明細書に記載した塩基配列およびアミノ酸配列などのデータベースアクセッション番号が参照された配列は、例えば本願の出願日および優先日における配列を参照するものであって、本願の出願日および優先日のいずれ時点における配列としても特定することができ、好ましくは本願の出願日における配列として特定される。各時点での配列はデータベースのリビジョンヒストリーを参照することにより特定することができる。
【0051】
本発明において用いられるパラミクソウイルスは誘導体であってもよく、誘導体には、ウイルスによる遺伝子導入能を損なわないように、ウイルス遺伝子が改変されたウイルス、および化学修飾されたウイルス等が含まれる。
【0052】
またパラミクソウイルスは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などに由来してもよい。例えばセンダイウイルスであればZ株が挙げられるがそれに限定されるものではない(Medical Journal of Osaka University Vol.6, No.1, March 1955 p1-15)。つまり、当該ウイルスは、目的とする非感染性ウイルス粒子を製造できる限り、天然から単離されたウイルスと同様の構造を持つウイルスであっても、遺伝子組み換えにより人為的に改変したウイルスであってもよい。例えば、野生型ウイルスが持ついずれかの遺伝子に変異や欠損があるものであってよい。例えば、ウイルスのエンベロープ蛋白質または外殻蛋白質をコードする少なくとも1つの遺伝子に欠損あるいはその発現を抑制するストップコドン変異などの変異を有するウイルスを好適に用いることができる。このようなエンベロープ蛋白質を発現しないウイルスは、例えば感染細胞においてはゲノムを複製することはできるが、感染性ウイルス粒子を形成できないウイルスである。このような伝搬能欠損型のウイルスは、非感染性ウイルス粒子の製造に好適である。例えば、FまたはHNのいずれかのエンベロープ蛋白質(スパイク蛋白質)の遺伝子、あるいはFおよびHNの遺伝子をゲノムにコードしないウイルスを用いることができる (WO00/70055 および WO00/70070; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。少なくともゲノム複製に必要な蛋白質(例えば N、P、およびL蛋白質)をゲノムRNAにコードしていれば、ウイルスは感染細胞においてゲノムを増幅することができる。エンベロープ蛋白質欠損型でありかつ感染性を持つウイルス粒子を製造するには、例えば、欠損している遺伝子産物またはそれを相補できる蛋白質をウイルス産生細胞において外来的に供給する(WO00/70055 および WO00/70070; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。一方、欠損するウイルス蛋白質を全く相補しないことによって、非感染性ウイルス粒子を回収することができる(WO00/70070)。
【0053】
また、本発明のウイルスの生産において、変異型のウイルス蛋白質遺伝子を搭載するウイルスを用いることも好ましい。例えば、ウイルスの構造蛋白質(NP, M)やRNA合成酵素(P, L)において弱毒化変異や温度感受性変異を含む多数の変異が知られている。これらの変異蛋白質遺伝子を有するパラミクソウイルスを本発明において目的に応じて好適に用いることができる。本発明においては、望ましくは細胞傷害性を減弱したウイルスを用い得る。細胞傷害性は、例えば細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を定量することにより測定することができる。細胞傷害性の減弱化の程度は、例えば、ヒト由来HeLa細胞(ATCC CCL-2)またはサル由来CV-1細胞(ATCC CCL 70)にMOI(感染価) 3で感染させて3日間培養した培養液中のLDH放出量が野生型に比べ有意に低下したもの、例えば20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、または50%以上低下したウイルスを用いることができる。また細胞傷害性を低下させる変異には、温度感受性変異も含まれる。温度感受性変異とは、低温 (30℃ないし36℃、例えば30℃ないし32℃) に比べ、ウイルス宿主の通常の温度(例えば37℃ないし38℃)において有意に活性が低下する変異のことである。このような、温度感受性変異を持つ蛋白質は、許容温度(低温)下でウイルスを作製することができるので便利である。本発明において有用な温度感受性変異を持つウイルスは、例えば培養細胞において32℃で感染させた場合に比べ、37℃で感染させた場合に、増殖速度または遺伝子発現レベルが、少なくとも1/2以下、好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5以下、より好ましくは1/10以下、より好ましくは1/20以下である。
【0054】
本発明に用いるウイルスは、そのゲノムにウイルス蛋白質遺伝子以外に、ウイルスの性質を制御する外来の遺伝子や調節因子をコードしていてもよい。例えば、ウイルスタンパク質の発現を調整するためにdegron配列やmiRNAの標的配列をコードしていてもよい。
【0055】
また本発明において用いられるパラミクソウイルスは、非感染性ウイルス粒子の製造を阻害せず、抗原遺伝子の発現産物を粒子上に発現する限り野生型でもよい。本発明において好適に用いられるパラミクソウイルスは、少なくとも1つのエンベロープ遺伝子が、欠失または変異している。このようなウイルスには、少なくとも1つのエンベロープ遺伝子が欠失しているもの、少なくとも1つのエンベロープ遺伝子が変異しているもの、少なくとも1つのエンベロープ遺伝子が変異しており少なくとも1つのエンベロープ遺伝子が欠失しているものが含まれる。変異または欠失している少なくとも1つのエンベロープ遺伝子は、好ましくはエンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子であり、例えばF遺伝子および/またはHN遺伝子が挙げられる。例えば、F遺伝子を欠失しているか、F遺伝子が機能喪失型変異Fタンパク質をコードするものを好適に用いることができる。また、HN遺伝子を欠失しているか、HN遺伝子が機能喪失型変異HNタンパク質をコードするものであってもよい。また、例えばF遺伝子を欠失し、HN遺伝子をさらに欠失するか、HN遺伝子に変異をさらに有するパラミクソウイルスは、本発明において好適に用いられる。また、例えばF遺伝子を欠失し、HN遺伝子をさらに欠失するパラミクソウイルスも、本発明において好適に用いられる。このような変異型のウイルスは、公知の方法に従って作製することが可能である。また本発明のパラミクソウイルスは、好ましくはM遺伝子を有している。
【0056】
本発明の非感染性ウイルス粒子は、表面に抗原分子を発現する(すなわち、表面に抗原分子を保持する)。抗原分子は、当該非感染性ウイルス粒子を投与した際に、ヒトおよび動物に当該抗原に対する免疫反応を惹起する分子であり、病原体由来の構造タンパク質あるいは病原体の増殖に必須のウイルスタンパク質があげられる。病原体の中でも病原ウイルスの感染を阻止する目的のためには、ウイルス粒子表面に発現されるエンベロープタンパク質が、抗原として好適に用いられる。エンベロープを持つウイルスとしては、上述のパラミクソウイルス科の諸ウイルスの他、モノネガウイルスに分類されるエボラウイルスなどのフィロウイルス科(Filoviridae)、狂犬病ウイルスなどのラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ブンヤウイルス科(Bunyaviridae)、ラッサウイルスなどのアレナウイルス科(Arenaviridae)が含まれ、さらに分節型ネガティブ鎖RNAをゲノムとして持つオルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、ポジティブ鎖RNAをゲノムとして持つフラビウイルス科(Flaviviridae)、トーガウイルス科(Togaviridae)、レトロウイルス科(Retroviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、さらに二重鎖DNAをゲノムとして持つB型肝炎ウイルスなどのヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、天然痘ウイルスなどのポックスウイルス科(Poxviridae)にそれぞれ属するウイルスを含む。病原体としては、特にHIVおよびHTLVなどのT細胞感染性のウイルスが挙げられる。HIV-1とHTLV-1は共にレトロウイルス科に属するエンベロープウイルスである。
【0057】
これらエンベロープウイルスはその粒子表面のエンベロープタンパク質を介して、標的となる細胞を認識し、感染する。よって、粒子表面のエンベロープタンパク質に結合してウイルスの細胞感染を阻止するような抗体を誘導するワクチンは、感染阻止に有効であると考えられる。すなわち本発明のパラミクソウイルス非感染性粒子には、病原性ウイルスのエンベロープタンパクの質一部あるいは全体を抗原タンパク質として粒子表面に発現するものが包含される。ここでエンベロープタンパク質の一部とは、免疫原性を示す限りその長さに制限はなく、上述の通り、1つまたはそれ以上のエピトープを含み、宿主の免疫系を刺激して抗原特異的な免疫応答を誘導し得るものを適宜用いることはできるが、通常、少なくとも約7~約15アミノ酸、例えば 8、 9、 10、 12、または 14アミノ酸を含んでいる。そのような抗原タンパク質は、好ましくは、当該エンベロープタンパク質のエクトドメイン(細胞外ドメイン)の一部または全部を含んでいる。より好ましくは、本発明のパラミクソウイルス非感染性粒子は、病原性ウイルスのエンベロープタンパク質のエクトドメインの全アミノ酸配列の少なくとも20%以上、好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、またはすべての配列を含む。標的とするウイルスのエンベロープタンパク質抗原を粒子表面に発現させることにより、感染阻止に有効なワクチンを生産することが可能となる。抗原タンパク質は天然の蛋白質、その断片、または該断片を含む融合タンパク質などであってよい。融合タンパク質は、例えば該断片と他のウイルス(例えばパラミクソウイルス)のエンベロープタンパク質(一部でも全部でもよい)との融合タンパク質である。
【0058】
しかし、ウイルスのエンベロープタンパク質は、異種のウイルス粒子表面には発現されにくい場合があり得る。発明者らは、この問題を解決するため、抗原エンベロープ分子の細胞外に提示されている部分を、本発明の非感染性粒子が由来するパラミクソウイルスのエンベロープ分子の細胞内部分と融合した遺伝子を作製し、これをウイルスゲノムに搭載した。このようにして作製した融合遺伝子から発現した融合タンパク質は、効率よく非感染性ウイルス粒子上に取込まれることが確認された。本発明の抗原タンパク質としては、ウイルス粒子の外側に病原体の抗原断片を含み、ウイルス粒子の内側にパラミクソウイルスのエンベロープタンパク質の細胞質領域断片を含む融合タンパク質が好適に用いられる。
【0059】
例えば、本発明のパラミクソウイルス非感染性粒子の粒子表面に発現している異種病原体の抗原タンパク質としては、粒子の膜の外側に異種病原体の抗原を含み、粒子の膜の内側に該パラミクソウイルスのエンベロープタンパク質の粒子内部分を含む融合タンパク質を好適に用いることができる。抗原タンパク質が病原性ウイルスのエンベロープタンパク質である場合は、抗原部分としては当該エンベロープタンパク質のエクトドメイン(細胞で発現させた場合の細胞外領域)を用いることができる。パラミクソウイルスのエンベロープタンパク質の粒子内部分としては、当該エンベロープタンパク質を細胞で発現させたときの細胞質領域を用いることができる。融合タンパク質に用いるエクトドメインや細胞質領域は、それぞれ、全長でなくても部分断片であってもよい。融合タンパク質の膜貫通領域はどちらに由来してもよいが、好ましくはパラミクソウイルスタンパク質の膜貫通領域であり、前記の細胞質領域と同じエンベロープタンパク質の膜貫通領域を用いることがより好ましい。
【0060】
レトロウイルスのエンベロープ遺伝子はI型膜貫通タンパク質であるエンベロープタンパク質前駆体をコードしている。この前駆体はゴルジ装置で糖鎖修飾等の修飾を受けた後、アミノ末端のシグナルペプチドによって、細胞表面に移送され、プロテアーゼによってプロセスされ、細胞外部分(SU)と細胞膜貫通部分(TM)の2つのサブユニットに分割される。SUはTMの細胞外部分と相互作用することにより細胞膜上に複合体を形成し、さらにこの複合体が3量体を形成することによって、活性のあるエンペロープタンパク質となる。この3量体は、TMの細胞質側を介してレトロウイルス粒子の裏打ちタンパク質であるMAタンパク質との相互作用によって、ウイルス粒子が発芽する際にウイルス粒子に取込まれると考えられている。
【0061】
本発明の非感染性粒子の粒子表面に発現させる異種病原体の抗原タンパク質が、上記のレトロウイルスのエンベロープタンパク質のようにI型膜貫通タンパク質に由来する場合は、融合させるパラミクソウイルスのエンベロープタンパク質もI型膜貫通タンパク質を選択することが好ましく、異種病原体の抗原タンパク質がII型膜貫通タンパク質に由来する場合は、融合させるパラミクソウイルスのエンベロープタンパク質もII型膜貫通タンパク質を選択することが好ましい。例えば、レトロウイルスのエンベロープタンパク質を抗原タンパク質として選択する場合は、そのエクトドメインを、例えばパラミクソウイルスのFタンパク質の細胞内領域(細胞膜貫通部分(TM)を含んでもよい)と融合させることが好ましい。なお、レトロウイルスのエンベロープタンパク質を抗原として用いて融合タンパク質を発現させる場合、3量体を形成しやくすくするために、レトロウイルスのエンベロープタンパク質のエクトドメインのC末端を少なくとも含むことが好ましく、より好ましくは、エクトドメインのC末端を含むエクトドメインの50アミノ酸以上、好ましくは60アミノ酸以上、70アミノ酸以上、80アミノ酸以上、90アミノ酸以上、100アミノ酸以上、120アミノ酸以上、150アミノ酸以上、200アミノ酸以上、または250アミノ酸以上を含むことが好ましい。また、レトロウイルスのエンベロープタンパク質のTM領域のN末端を含むことが好ましく、より好ましくは、TM領域のN末端を含むTM領域側の50アミノ酸以上、好ましくは60アミノ酸以上、70アミノ酸以上、80アミノ酸以上、90アミノ酸以上、100アミノ酸以上、または120アミノ酸以上を含むことが好ましい。
【0062】
また好ましくは、レトロウイルスのエンベロープタンパク質のエクトドメインとTMとの間にあるプロテアーゼ切断部位を含むことが好ましく、当該タンパク質は、当該切断部位で切断されることが好ましい。
【0063】
抗原タンパク質をコードする遺伝子は、パラミクソウイルスゲノムの所望の位置に挿入することができる。パラミクソウイルスの場合、ゲノムの3'末端に近いほど発現レベルの上昇が期待できるので、例えば3'末端にあるリーダー配列とその5'側にある最初のパラミクソウイルスタンパク質(通常Nタンパク質)の遺伝子との間に、抗原タンパク質をコードする塩基配列を挿入することができる。あるいは、最初のパラミクソウイルスタンパク質(通常Nタンパク質)と2番目のパラミクソウイルスタンパク質(通常Pタンパク質)の遺伝子の間、2番目と3番目(通常PとMの間)などであってもよい。
【0064】
HTLV-1のエンベロープ遺伝子は、本明細書の実施例に用いたHTLV-1感染患者の血球からの分離株(国立感染症研究所)の場合1467塩基のコーディング配列からなり、488アミノ酸からなるエンベロープタンパク質前駆体(gp63)をコードしている。この前駆体はプロテアーゼによるプロセス後、細胞外部分(gp43, SU,アミノ酸1-322)と細胞膜貫通部分(gp21, TM,アミノ酸323-488)に分割される。本明細書の実施例においては、プロテアーゼ切断部位をまたぐgp63のアミノ酸1-442(「gp63ecto」と呼ぶ)に相当する塩基配列を、センダイウイルスFタンパク質の細胞膜貫通部分の遺伝子と融合した遺伝子(「gp63ectoF」と呼ぶ)を作成し(
図1A)、これをF欠失型センダイウイルスゲノムの最も上流(3'側)にコードされているセンダイウイルスタンパク質(通常Nタンパク質)のN末端に対応する部位の上流(3'側)にある挿入部位(18+位)に挿入した(
図1C)。
【0065】
融合遺伝子gp63ectoFの作成は、具体的には、まずgp63ecto(配列番号:10)をコードする遺伝子断片を、HTLV-1感染者の血球DNAよりPCR法を用いて増幅したHTLV-1のプロウイルス配列を搭載したプラスミド(pCXSN-gp63efoldo、国立感染症研究所)を鋳型にしたPCR法によって作成した。これとは別にセンダイウイルスFタンパク質の細胞膜貫通部分以降(細胞質領域も含む)(Accession No. AAB06281.1のアミノ酸496-565;配列番号:11)に相当する遺伝子断片を、センダイウイルス配列をコードするプラスミド鋳型としてPCR法によって作成した。この時、gp63ecto遺伝子増幅用の下流側プライマーと、センダイウイルスFタンパク質の細胞膜貫通部分の増幅用の上流プライマーが、目的とする融合遺伝子の境界部分をまたいで互いに相補的な部分を持つように設計した。次に作成した二つの遺伝子断片を混合して、再度PCRを行うことにより、gp63ectoとセンダイウイルスFタンパク質のアミノ酸496-565からなる融合遺伝子gp63ectoF(配列番号:12および13)を作成した。この時、融合遺伝子を含む断片の上流と下流にセンダイウイルスベクターへの挿入を容易にするためのNotI認識配列を導入した。
【0066】
HTLV-1のエンベロープ抗原タンパク質を含む融合タンパク質の好ましい態様を挙げれば、例えばHTLV-1のエンベロープタンパク質(成熟型)の細胞外領域、および、TM領域のN末端側から少なくとも50アミノ酸以上(好ましくは60アミノ酸以上、70アミノ酸以上、80アミノ酸以上、90アミノ酸以上、100アミノ酸以上、または120アミノ酸以上)を含むHTLV-1のエンベロープタンパク質断片と、そのC末端側に、パラミクソウイルスFタンパク質の細胞膜貫通領域および細胞内領域を含む融合タンパク質が挙げられる。なお、融合タンパク質のN末端には、パラミクソウイルスエンベロープタンパク質のシグナル配列を付加してもよい。シグナルペプチドとしては、例えばセンダイウイルスのシグナルペプチド(配列番号:15)が挙げられるが、それに限定されるものではない。また、融合蛋白質の各境界部分は、適宜リンカーやスペーサー(例えば1または複数のアミノ酸からなる配列)を挿入してもよい。好ましくは、配列番号:10の1-322番目、好ましくは1-442番目のアミノ酸配列、あるいは当該配列と相同な領域の配列を含み、そのC末端側に配列番号:11のアミノ酸配列あるいは当該配列と相同な領域の配列を含むタンパク質であり、例えば配列番号:13に記載のアミノ酸配列を含む融合タンパク質が挙げられる。
【0067】
ここで相同な領域とは、株の異なるウイルスのアミノ酸配列において対応する領域のことを言う。ウイルスは一般に多様性に富み、単離株によってエンベロープタンパク質のアミノ酸配列は異なる場合がある。本発明は所望の株のウイルスを包含するものであり、上に示した配列は単なる例示に過ぎない。異なる配列を持つウイルス株においても、上記の相同な領域の配列等を用いて本発明を実施することが可能である。相同な領域は、例えばコンピュータープログラムなどを用いてアミノ酸配列のアライメントを作成することにより同定することができる。
【0068】
好ましい融合タンパク質を例示すれば、これに限定されるものではないが、例えば配列番号:13のアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、細胞膜上に発現する機能を有するタンパク質が挙げられる。配列の同一性は、例えばBLASTPプログラム(Altschul, S. F. et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410, 1990)を用いて決定することができる。例えばNCBI(National Center for Biothchnology Information)のBLASTのウェブページにおいて、デフォルトのパラメータを用いて検索を行うことができる(Altschul S.F. et al., Nature Genet. 3:266-272, 1993; Madden, T.L. et al., Meth. Enzymol. 266:131-141, 1996; Altschul S.F. et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1997; Zhang J. & Madden T.L., Genome Res. 7:649-656, 1997)。例えば2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al., FEMS Microbiol Lett. 174:247-250, 1999)により、2配列のアライメントを作成し、配列の同一性を決定することができる。ギャップはミスマッチと同様に扱い、例えば分泌後の成熟型タンパク質のアミノ酸配列全体に対する同一性の値を計算する。
【0069】
HIV-1の場合、本発明の実施例に用いたBG505株(Wu et al. J. Virol. 80 (2), 835-844 (2006))のエンベロープタンパク質前駆体gp160(Accession No. ABA61516.1)は860アミノ酸からなる。この前駆体はプロテアーゼによるプロセス後、細胞外部分(gp120, SU,アミノ酸1-508)と細胞膜貫通部分(gp41, TM,アミノ酸 509-860)に分割される。実施例においては、シグナルペプチド(アミノ酸1-29)を除くgp160のアミノ酸30-680(配列番号:14)に相当する塩基配列をセンダイウイルスFタンパク質の細胞膜貫通部分(Accession No. AAB06281.1のアミノ酸496-565、細胞質領域も一部含む、配列番号:12)の遺伝子と融合した遺伝子を作成した。この時同時に、N末端にセンダイウイルスのシグナルペプチド(Accession No. AAB06281.1のアミノ酸1-26、配列番号:15)を2アミノ酸残基(AS)からなるリンカーを介して付加した(
図1B)。作成した融合遺伝子(「sfEnvF」と呼ぶ、配列番号:16)は、F欠失型センダイウイルスベクターゲノムのN末端の挿入部位(18+位)に挿入した(
図1C)。
【0070】
sfEnvF融合遺伝子の作成は、具体的には、まずHIV-1 BG505株のEnv遺伝子をコードするプラスミドを鋳型としてgp160のアミノ酸30-680に相当する遺伝子断片をPCR法によって作成し、これとは別にセンダイウイルスFタンパク質の細胞膜貫通部分に相当する遺伝子断片を、センダイウイルス配列をコードするプラスミド鋳型としてPCR法によって作成した。この時、gp160遺伝子増幅用の下流側プライマーと、センダイウイルスFタンパク質の細胞膜貫通部分の増幅用の上流プライマーが、目的とする融合遺伝子の境界部分をまたいで互いに相補的な部分を持つように設計した。次に作成した二つの遺伝子断片を混合して再度PCRを行うことにより、gp160のアミノ酸30-680とセンダイウイルスFタンパク質のアミノ酸496-565からなる、融合遺伝子を作成した。このとき、センダイウイルスのシグナルペプチドとリンカーに相当する配列を含むプライマーを上流用のプライマーに用いることにより、融合遺伝子にセンダイウイルスのシグナルペプチドを付加した。また、同時に融合遺伝子を含む断片の上流と下流にセンダイウイルスベクターへの挿入を容易にするためのNotI認識配列を導入した。
【0071】
また、AD8EO株(Shingai, M. et al., 2012, Proc Natl Acad Sci U.S.A. 109(48): 19769-19774)のエンベロープタンパク質前駆体gp160(Accession No.KM082921.1)を用いることも可能である。この前駆体はプロテアーゼによるプロセス後、細胞外部分(gp120, SU,アミノ酸1-504)と細胞膜貫通部分(gp41, TM,アミノ酸505~850)に分割される。実施例においては、シグナルペプチド(アミノ酸1-31)を除くgp160のアミノ酸32~677(配列番号:28)に相当する塩基配列をセンダイウイルスFタンパク質の細胞膜貫通部分(Accession No. AAB06281.1のアミノ酸496-565、細胞質領域も一部含む、配列番号:12)の遺伝子と融合した遺伝子を作成した。この時同時に、N末端にセンダイウイルスのシグナルペプチド(Accession No. AAB06281.1のアミノ酸1-26、配列番号:15)を2アミノ酸残基(AS)からなるリンカーを介して付加した。作成した融合遺伝子(「sfAD8EOEnvF」と呼ぶ、アミノ酸配列は配列番号:29)は、F欠失型センダイウイルスベクターゲノムのN末端の挿入部位(18+位)に挿入した。
【0072】
HIV-1のエンベロープ抗原タンパク質を含む融合タンパク質の好ましい態様としては上記のHTLV-1の場合と同様であり、例えばHIV-1のエンベロープタンパク質(成熟型)の細胞外領域、および、TM領域のN末端側から少なくとも50アミノ酸以上(好ましくは60アミノ酸以上、70アミノ酸以上、80アミノ酸以上、90アミノ酸以上、100アミノ酸以上、120アミノ酸以上、200アミノ酸以上、300アミノ酸以上、400アミノ酸以上、500アミノ酸以上、または600アミノ酸以上)を含むHIV-1のエンベロープタンパク質断片と、そのC末端側に、パラミクソウイルスFタンパク質の細胞膜貫通領域および細胞内領域を含む融合タンパク質が挙げられる。なお、融合タンパク質のN末端には、パラミクソウイルスエンベロープタンパク質のシグナル配列を付加してもよい。シグナルペプチドとしては、例えばセンダイウイルスのシグナルペプチド(配列番号:15)が挙げられるが、それに限定されるものではない。また、融合蛋白質の各境界部分は、適宜リンカーやスペーサー(例えば1または複数のアミノ酸からなる配列)を挿入してもよい。好ましくは、配列番号:14の1-479番目、好ましくは1-651番目のアミノ酸配列、あるいは当該配列と相同な領域の配列を含み、そのC末端側に配列番号:11のアミノ酸配列あるいは当該配列と相同な領域の配列を含むタンパク質であり、例えば配列番号:17の29-749番目のアミノ酸配列を含む融合タンパク質が挙げられる。相同な領域の配列とは上述の通りであり、当業者であれば容易に決定することができる。
【0073】
例えばHIV-1のAD8EO株を例に挙げれば、好ましくは、配列番号:28の1-473番目、好ましくは1-646番目のアミノ酸配列、あるいは当該配列と相同な領域の配列を含み、そのC末端側に配列番号:29のアミノ酸配列あるいは当該配列と相同な領域の配列を含むタンパク質であり、例えば配列番号:29の31-746番目のアミノ酸配列を含む融合タンパク質が挙げられる。相同な領域の配列とは上述の通りであり、当業者であれば容易に決定することができる。
【0074】
HIVウイルスのエンベロープ蛋白質は多様性が高く、単離株によってアミノ酸配列や蛋白質のサイズは異なる場合があるが、本発明は所望の株を包含するものであり、上に示した配列に限定されるものではない。異なる配列を持つ株においても、上記の相同な領域の配列等を用いて本発明を実施することが可能である。
【0075】
HIV-1のエンベロープ蛋白質についての好ましい融合タンパク質を例示すれば、これに限定されるものではないが、例えば配列番号:17または29のアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは85%以上、90%以上、または95%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、細胞膜上に発現する機能を有するタンパク質が挙げられる。配列の同一性は、上記と同様に例えばBLASTPプログラムを用いて決定することができる。
【0076】
融合遺伝子gp63ectoFあるいはsfEnvFまたはsfAD8EOEnvFのF欠失型センダイウイルスベクターゲノムへの挿入、およびウイルスベクターの増幅と回収は、公知の方法を用いて行なった(国際公開公報WO97/16539;国際公開公報WO97/16538;国際公開公報WO00/70070;国際公開公報WO01/18223;国際公開公報WO2005/071092;Hasan, MK et al.J Gen Virol 78:2813-2820, 1997; Kato A et al. EMBO J 16: 578-587, 1997; Yu D et al. Genes Cells 2: 457-466, 1997; Kato A et al., Genes Cells 1;569-579, 1996;Tokusumi T et al. Virus Res 86:33-38, 2002; Li HO et al., J Virol 74: 6564-6569, 2000)。本発明のウイルスベクターやウイルス粒子も、これと同様に取得することができる。
【0077】
好ましい態様において、本発明の非感染性粒子は、感染性粒子と比較して、粒子に含まれる病原体抗原タンパク質の量が増加している。すなわち本発明は、本発明の非感染性粒子であって、感染性粒子と比較して、粒子に含まれる該抗原タンパク質量が増加している粒子を提供する。ここで粒子に含まれる病原体抗原タンパク質には、粒子の膜表面に発現しているものも含まれる。また本発明の非感染性粒子は、好ましくは、感染性粒子と比較して、粒子表面にある病原体抗原タンパク質の量が増加している。比較する感染性粒子は、本発明の非感染性粒子と同じゲノムを持つウイルス粒子か、あるいは、そのゲノムに感染性を付与するエンベロープタンパク質遺伝子が搭載されたゲノムを持つウイルス粒子を好適に用いることができる。例えば、ゲノム上のエンベロープタンパク質遺伝子が欠損する非感染性粒子の場合、当該エンベロープタンパク質遺伝子が欠損していないこと以外は同じゲノム配列を持つウイルス粒子を比較対象とすることができる。本発明の非感染性粒子は、感染性粒子と比較して、病原体抗原タンパク質の量は、例えば1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、1.8倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、または8倍以上である。病原体抗原タンパク質量の比較は、例えば粒子あたり、粒子の単位重量あたり、あるいは粒子に含まれる核酸量あたりで比較してよく、好ましくは1粒子あたりの病原体抗原タンパク質量で比較される。病原体抗原タンパク質量は、例えばELISAやウェスタンブロッティングなどの公知の方法で測定することができる。
【0078】
また本発明は、少なくとも一つのエンベロープタンパク質遺伝子をゲノムから欠失するパラミクソウイルスベクターであって、少なくとも1つのエンベロープタンパク質遺伝子を欠失し、異種病原体の抗原タンパク質遺伝子を搭載するパラミクソウイルスベクターに関する。該ウイルスベクターは、好ましくは導入細胞においてゲノム複製能および粒子形成能を有するベクターであって、ゲノム上にN、P、L遺伝子を搭載している。また該ウイルスベクターは、好ましくはゲノム上にM遺伝子を搭載している。該ウイルスベクターは、本発明の非感染性ウイルス粒子を製造するために有用であり、また、ウイルスベクターそのものをワクチンとして使用することもできる。この場合、該ウイルスベクターは、好ましくは、該異種病原体の抗原タンパク質をウイルス粒子表面に発現している。すなわち、ウイルス粒子表面に該異種病原体の抗原タンパク質を保持している。
【0079】
特に本発明は、HTLVに由来するエンベロープ抗原タンパク質をウイルス粒子表面に発現するパラミクソウイルスベクターを初めて提供することに成功した。本発明のHTLVエンベロープ抗原タンパク質発現パラミクソウイルスベクターは、高レベルのHTLVエンベロープ抗原タンパク質を粒子に含んでおり、感染性ウイルス粒子であっても、非感染性ウイルス粒子であっても、効率よく免疫反応を誘導することができる。よってウイルス粒子表面にHTLVエンベロープ抗原タンパク質を保持する本発明の感染性ウイルスベクターおよび非感染性ウイルス粒子は、HTLVの感染または感染に起因する疾患の予防および/または治療のためのワクチンとして有用である。
【0080】
ゲノムから欠失するエンベロープタンパク質遺伝子、および異種病原体の抗原タンパク質は、上述の非感染性ウイルス粒子に関する記載がそのまま当てはまる。例えば、F遺伝子および/またはHN遺伝子が欠失していてよく、好ましくは少なくともF遺伝子が欠失している。また、M遺伝子は保有していてよい。異種病原体の抗原タンパク質は、天然の蛋白質、その断片、または該断片を含む融合タンパク質などであってよい。異種病原体の抗原タンパク質は、上述の通り、好ましくは膜タンパク質であって、粒子の膜の外側に異種病原体の抗原を含み、粒子の膜の内側に該パラミクソウイルスのエンベロープタンパク質の粒子内部分を含む融合タンパク質である。例えば病原性ウイルスのエンベロープタンパク質のエクトドメインと、パラミクソウイルスのエンベロープタンパク質の膜貫通領域および細胞質領域とを含む融合タンパク質が好ましい。エクトドメインや細胞質領域は、全長でなくても部分断片(例えば全長の30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上を含む)であってもよい。
【0081】
パラミクソウイルスベクターから感染性粒子を製造するためには、ウイルスベクターを導入した細胞において、ウイルスベクターのゲノムにおいて欠失しているエンベロープタンパク質を供給すればよい。当該エンベロープタンパク質は、ウイルスベクター生産細胞において一過的に発現させてもよいし、恒常的に発現させてもよい。恒常的に発現させるには、当該エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を細胞の染色体に導入することができる。一過的に発現させるためには、発現プラスミドベクターや、他の所望のベクターを利用して当該エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を導入したり、あるいは、Cre-loxPなどのシステムを利用して、細胞の染色体に組み込まれた当該エンベロープタンパク質遺伝子を特定のタイミングで発現させたりすることができる。また、非感染性粒子を製造するためには、ウイルスベクターのゲノムにおいて欠失しているエンベロープタンパク質を発現しない細胞に、ウイルスベクターを導入する。
【0082】
また本発明は、本発明のパラミクソウイルスベクターを含む組成物に関する。当該組成物は、例えば本発明のパラミクソウイルスベクターおよび所望の担体を含む組成物である。また本発明は、本発明の非感染性粒子を含む組成物に関する。当該組成物は、例えば非感染性粒子および所望の担体を含む組成物である。担体としては、薬学的に許容できる所望の担体であってよく、例えば、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、緩衝液、培養液など、本発明のパラミクソウイルスベクターまたは非感染性粒子を懸濁することができる所望の溶液等が挙げられる。また本発明は、本発明のパラミクソウイルスベクターまたは非感染性粒子を含むワクチン製剤に関する。本発明のワクチン製剤は病原体の抗原タンパク質に対する免疫応答を効率的に誘導することができるため、当該病原体に対する予防および治療のためのワクチンとして特に有用である。本発明のワクチン製剤は、例えば本発明のパラミクソウイルスベクターまたは非感染性粒子と、所望の担体とを含む組成物として調製することができる。また、アジュバントをさらに含んでもよい。
【0083】
本発明のワクチン製剤の接種形態に特に制限はなく、例えば単回接種や複数回接種に使用することができる。複数回の接種においては、本発明のワクチンを複数回接種してもよく、あるいは、別のタイプのワクチンと組み合わせて用いることもできる。例えば、プライマリー接種では、接種した細胞において感染性ウイルス粒子を産生する能力を持つウイルスベクターをワクチン製剤として用いて接種を行い、ブースター接種において、本発明の非感染性粒子を含むワクチン製剤を接種してもよい。非感染性粒子は感染性粒子を産生しないため、安全性が高く、複数回(例えば2回またはそれ以上、3回またはそれ以上、4回またはそれ以上、あるいは5回またはそれ以上)のブースター接種を行うのに特に適している。
【0084】
また、本発明のワクチン製剤は、ワクチン接種を行った個体で産生される抗体の交差性を広げるためにも有用であることが示された。例えば本発明のワクチン製剤を用いてブースター接種を行う場合に、プライマリー接種で用いたワクチン製剤に含まれる抗原とは異なる抗原を含むワクチン製剤を用いることができる。例えば同じ病原体の抗原であっても、プライマリー接種で用いた抗原とは異なる蛋白質を抗原として用いたり、あるいは同じ蛋白質であっても、プライマリー接種で用いた抗原とは異なる部分を抗原として用いたり、あるいは、プライマリー接種で用いた抗原が属する病原体とは異なる病原体の蛋白質を抗原として用いることができる。特に、同種の病原体であっても、プライマリー接種で用いたワクチン製剤が由来する病原体とは異なる株を本発明のブースター接種に用いることで、病原体に対する交差性を有意に上昇させることができる(実施例10参照)。具体的には、例えばエンベロープウイルスのEnv蛋白質を抗原として用いる場合に、プライマリー接種で用いたEnv蛋白質が由来するウイルス株とは異なる株のEnv蛋白質を抗原として含む非感染性粒子を用いて製造した本発明のワクチン製剤をブースター接種に用いることで、交差性の高い免疫反応を惹起することができる。
【0085】
本発明のパラミクソウイルスベクター、非感染性粒子粒子、該パラミクソウイルスベクターまたは非感染性粒子を含むワクチン、あるいは該パラミクソウイルスベクターまたは非感染性粒子を含む組成物等を動物に投与する場合、その投与量は、疾患、患者の体重、年齢、性別、症状、投与目的、投与組成物の形態、投与方法等に応じて適宜決定することが可能である。投与経路は適宜選択することができ、例えば経鼻投与、腹腔内投与、筋肉内投与、腫瘍部位への局所投与などが挙げられるが、それらに限定されない。また投与量は、対象動物、投与部位、投与回数などに応じて適宜調整してよい。例えば、1 ng/kg~1000mg/kg、5 ng/kg~800mg/kg、10 ng/kg~500mg/kg、0.1 mg/kg~400mg/kg、0.2 mg/kg~300mg/kg、0.5 mg/kg~200mg/kg、または 1 mg/kg~ 100mg/kgが挙げられるが、それらに限定されない。また、例えば1x104 ~ 1x1015 CIU/kg、1x105 ~ 1x1014 CIU/kg、1x106 ~ 1x1013 CIU/kg、1x107 ~ 1x1012 CIU/kg、1x108 ~ 5x1011 CIU/kg、1x109 ~ 5x1011 CIU/kg、または1x1010 ~ 1x1011 CIU/kgで投与すること、ならびに、1x106 ~ 1x1017 particles/kg、1x107 ~ 1x1016 particles/kg、1x108 ~ 1x1015 particles/kg、1x109 ~ 1x1014 particles/kg、1x1010 ~ 1x1013 particles/kg、1x1011 ~ 5x1012 particles/kg、または5x1011 ~ 5x1012 particles/kgで投与することが挙げられるが、それらに限定されない。
【0086】
本発明のベクターを含む組成物の投与対象は、好ましくは哺乳動物(ヒトおよび非ヒト哺乳類を含む)である。具体的には、ヒト、サル等の非ヒト霊長類、マウス、ラットなどのげっ歯類、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコなどその他の全ての哺乳動物が含まれる。
【実施例】
【0087】
[実施例1]HTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルス(SeV18+gp63ectoF/ΔF、SeV18+gp63ecto/ΔF)の構築
1)gp63ectoF遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス作製用のプラスミド(pSeV18+gp63ectoF/ΔF)の構築
gp63ecto遺伝子フラグメントの作製は、HTLV-1感染者の血球DNAよりPCR法を用いて増幅したHTLV-1のプロウイルス配列を搭載したplasmid(pHTLV-1、国立感染症研究所)を鋳型にしたPCRによって行った。プライマーNot1_gp63ecto_N(5'-ATATGCGGCCGCGACGCCACCATGGGCAAGTTCCTGGCCACCC-3'(配列番号:1))及びプライマーgp63ectoF_C(5'-CGTAATCACAGTCTCTCTTGAGTTAGCTTCTCTGGCCCACTGGC-3'(配列番号:2))を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメント(約1.3kbp)をQIAquick PCR purification kitを用いて精製した。
F遺伝子フラグメントの作製は、pSeV18+(WO00/070070; Hasan, M. K. et al., 1997, J. General Virology 78: 2813-2820; なお「pSeV18+」は「pSeV18+b(+)」ともいう)に搭載されたセンダイウイルスゲノムcDNA上のF遺伝子を鋳型にしたPCRによって行った。プライマーgp63ectoF_N(5’-GCCAGTGGGCCAGAGAAGCTAACTCAAGAGAGACTGTGATTACG-3'(配列番号:3))及びプライマーsfEnvF_EIS_Not1_C(5’-TTAGCGGCCGCGATGAACTTTCACCCTAAGTTTTTCTTACTACGGTCATCTTTTCTCAGCCATTGC-3’(配列番号:4))を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したF遺伝子フラグメント(約0.3kbp)をQIAquick PCR purification kitを用いて精製した。
gp63ectoF遺伝子フラグメントの構築は、前述のPCRによって作製したgp63ecto遺伝子フラグメント及びF遺伝子フラグメントを混合して鋳型にしたPCRによって行った。プライマーNot1_gp63ecto_N及びプライマーsfEnvF_EIS_Not1_Cを用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 2分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したgp63ectoF遺伝子フラグメント(約1.6kbp)をQIAquick PCR purification kitを用いて精製した。このフラグメントはgp63のエクトドメイン(SUとTMの一部とを含む)のC端側にSeV F蛋白質のTM領域および細胞質領域が融合している融合蛋白質をコードする。
次に、F欠失型センダイウイルスゲノムのNP遺伝子の上流に搭載遺伝子挿入部位(NotI切断部位)を有するpSeV18+/ΔFプラスミド(WO00/070070)のNotI切断部位に、NotI処理した上記のgp63ectoFフラグメント(両端にNotIサイトを有する)をライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+gp63ectoF/ΔFプラスミドを得た。なお「ΔF」は「dF」とも表記する。
【0088】
2)gp63ecto遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス作製用のプラスミド(pSeV18+gp63ecto/ΔF)の構築
SeV F蛋白質のC末が融合していない蛋白質をコードするgp63ecto遺伝子フラグメントの作製は、plasmid(pHTLV-1)に搭載されたHTLV-1のプロウイルス(Seiki,M. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80 (12), 3618-3622 (1983))を鋳型にしたPCRによって行った。プライマーNot1_gp63ecto_N(配列番号:1)及びプライマーgp63ecto_EIS_Not1_C(5'-ATATGCGGCCGCGATGAACTTTCACCCTAAGTTTTTCTTACTACGGTCAAGCTTCTCTGGCCCACTGGC-3'(配列番号:5))を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたgp63ectoフラグメント(約1.3kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
次に、pSeV18+/ΔFプラスミド(WO00/070070)のNotI切断部位に、NotI処理した上記のgp63ectoフラグメント(両端にNotIサイトを有する)をライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+gp63ectoΔFプラスミドを得た。
【0089】
3)gp63ectoF遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス(SeV18+gp63ectoF/ΔF)およびgp63ecto遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス(SeV18+gp63ecto/ΔF)の作製(再構成)
トランスフェクションの前日に6ウェルプレートに1ウェル当たり5×105細胞の293T/17細胞を播種し、37℃、5% CO2条件下で培養した。その293T/17細胞にpCAGGS-NP(0.5μg), pCAGGS-P4C(-)(0.5μg), pCAGGS-L(TDK)(2μg), pCAGGS-T7(0.5μg), pCAGGS-F5R(0.5μg) (WO2005/071085参照)、並びに上記で作製したgp63ectoF遺伝子搭載SeVベクター作製用プラスミド(pSeV18+gp63ectoF/ΔF)(5.0μg)あるいはgp63ecto遺伝子搭載SeVベクター作製用プラスミド(pSeV18+gp63ectoF/ΔF)(5.0μg)を混合し、TransIT-LT1 (Mirus)を使用して前述の293T/17細胞にトランスフェクションを行った。37℃、5% CO2の条件下で2日間培養した後、トランスフェクションを行った293T/17細胞をトリプシン-EDTAでウェルから剥がし、トリプシン(2.5μg/ml)、ペニシリン、ストレプトマイシンを含むMEM培地(以下Try/PS/MEMとする)で懸濁した後、別ウェルに準備したセンダイウイルスのFタンパク質を発現するヘルパー細胞LLC-MK2/F/Ad (Li, H.-O. et al., J. Virology 74. 6564-6569 (2000), WO00/70070) の上に播種し、3~4日毎に培地交換を行いながら、培養を継続した。培養上清の一部を用いて赤血球凝集反応を行なうことにより、培養上清中のウイルス量をモニターし、十分な赤血球凝集反応が得られた後に培養上清を回収した。回収した培養上清よりQIAamp Viral RNA Mini Kitを用いてRNAを抽出し、このRNAを鋳型とするRT-PCRによって、搭載した遺伝子(gp63ectoFあるいはgp63ecto)領域を増幅し、得られたRT-PCR産物はシークエンスにより正しい塩基配列であることを確認した。回収したSeV18+gp63ectoF/ΔFウイルスあるいはSeV18+gp63ecto/ΔFウイルスを含む培養上清は液体窒素にて急速凍結後、-80℃にて保存した。
【0090】
4)gp63ectoF遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス(SeV18+gp63ectoF/ΔF)およびgp63ecto遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス(SeV18+gp63ecto/ΔF)の増幅
ヘルパー細胞LLC-MK2/F/Adを、T225フラスコ12枚を用いて37℃、5% CO2の条件下で、セミコンフルエントになるまで培養し、上記で作製したSeV18+gp63ectoF/ΔFウイルスあるいはSeV18+gp63ecto/ΔFウイルスを含む培養上清を用いて、moi 5.0で1時間感染させた。感染後培養上清を取り除き、リコンビナントトリプシン(5.33 mrPU/ml TrypLE Select、GIBCO)とゲンタマイシンを含むMEM培地(以下Try/GE/MEMとする)をフラスコ当たり30mL添加し、32℃、5% CO2条件下で培養した。適宜、培養上清の一部を採取して赤血球凝集分析することによりウイルス生産の状況を確認し、十分な赤血球凝集反応が得られた後に回収した培養上清を、SeV18+gp63ectoF/ΔFウイルスおよびSeV18+gp63ecto/ΔFウイルスの感染性粒子の溶液とした。
【0091】
[実施例2]HTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルス非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/ΔF NVP)の作製
LLC-MK2細胞を、T225フラスコ12枚を用いて37℃、5%CO2の条件下で、セミコンフルエントになるまで培養し、上記で作製したSeV18+gp63ectoF/ΔFウイルスあるいはSeV18+gp63ecto/ΔFウイルスを含む培養上清を用いて、moi 5.0で1時間感染させた。感染後培養上清を取り除き、Try/GE/MEM培地をフラスコ当たり30mL添加し、32℃、5% CO2条件下で培養した。適宜、培養上清の一部を採取して赤血球凝集分析することによりウイルス生産の状況を確認し、十分な赤血球凝集反応が得られた後に回収した培養上清を、非感染性粒子SeV18+gp63ectoF/ΔF/NVPおよびSeV18+gp63ecto/ΔF/NVPの溶液とした。
【0092】
[実施例3]HIV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスの構築
1)sfEnvF遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+sfEnvF/TSΔF)の構築
sfEnvの作製はHIV-1 BG505株のEnv遺伝子を搭載したプラスミド(WO2016/069518)を鋳型にしたPCRによっておこなった。プライマーsfEnv_N1(5'- CAACATCACTACTGGTTGTTCTCACCACATTGGTCTCGTGTCAGGCTAGCGCAGAGAATTTGTGGGTAACAG -3'(配列番号:6))及びプライマーEnv_F_C(5'-CACAGTCTCTCTTGAGTTCTTAATATACCAGAGCC-3'(配列番号:7))を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 2分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメント(約2kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
F遺伝子フラグメントの作製は、pSeV18+ に搭載されたセンダイウイルスゲノムcDNA上のF遺伝子を鋳型にしたPCRによって行った。プライマーEnvF_N(5’-GGCTCTGGTATATTAAGAACTCAAGAGAGACTGTG-3'(配列番号:8))及びプライマーsfEnvF_EIS_Not1_C(配列番号:4))を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 2分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したF遺伝子フラグメント(約0.3kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
次にsfEnvF遺伝子フラグメントの構築は、前述のPCRによって作製したsfEnv遺伝子フラグメント及びF遺伝子フラグメントを混合して鋳型にしたPCRによって行った。プライマーsf_N2(5’-TAAGCGGCCGCCAAGGTTCACTTATGACAGCATATATCCAGAGATCACAGTGCATCTCAACATCACTACTGGTTG-3'(配列番号:9))及びプライマーsfEnvF_EIS_Not1_C(配列番号:4)を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 2.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したsfEnvF遺伝子フラグメント(約2.5kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。このフラグメントはHIV-1エンベロープ蛋白質のエクトドメイン(SUとTMの一部とを含む)のC端側にSeV F蛋白質のTM領域および細胞質領域が融合している融合蛋白質をコードする。
次に、精製したsfEnvFフラグメント(両端にNotIサイトを有す)をNotI処理し、上記のpSeV18+/ΔFプラスミドのNotI切断部位にライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+sfEnvF/ΔFプラスミドを得た。
【0093】
2)sfEnvF遺伝子搭載SeVベクター(SeV18+sfEnvF/ΔF)の作製(再構成)
トランスフェクションの前日に6ウェルプレートに1ウェル当たり5×105細胞の293T/17細胞を播種し、37℃、5% CO2条件下で培養した。その293T/17細胞にpCAGGS-NP(0.5μg), pCAGGS-P4C(-)(0.5μg), pCAGGS-L(TDK)(2μg), pCAGGS-T7(0.5μg), pCAGGS-F5R(0.5μg) (WO2005/071085参照)、並びに上記で作製したsfEnvF遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+sfEnvF/ΔF)(5.0μg)を混合し、TransIT-LT1 (Mirus)を使用して前述の293T/17細胞にトランスフェクションを行った。37℃、5% CO2の条件下で2日間培養した後、トランスフェクションを行った293T/17細胞をトリプシン-EDTAでウェルから剥がし、Try/PS/MEM培地で懸濁した後、別ウェルに準備したヘルパー細胞LLC-MK2/F/Ad (Li, H.-O. et al., J. Virology 74. 6564-6569 (2000), WO00/70070) の上に播種し、3~4日毎に培地交換を行いながら、培養を継続した。培養上清の一部を用いて赤血球凝集反応を行なうことにより、培養上清中のウイルス量をモニターし、十分な赤血球凝集反応が得られた後に培養上清を回収した。回収した培養上清よりQIAamp Viral RNA Mini Kitを用いてRNAを抽出し、このRNAを鋳型とするRT-PCRによって、搭載した遺伝子(sfEnvFあるいはsfEnv)領域を増幅し、得られたRT-PCR産物はシークエンスにより正しい塩基配列であることを確認した。回収したSeV18+sfEnvF/ΔFウイルスを含む培養上清は液体窒素にて急速凍結後、-80℃にて保存した。
【0094】
3)sfEnvF遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス(SeV18+sfEnvF/ΔF)の増幅
ヘルパー細胞LLC-MK2/F/Adを、T225フラスコ12枚を用いて37℃、5% CO2の条件下で、セミコンフルエントになるまで培養し、上記で作製したSeV18+sfEnvF/ΔFウイルスを含む培養上清を用いて、moi 5.0で1時間感染させた。感染後培養上清を取り除き、Try/GE/MEM培地をフラスコ当たり30mL添加し、32℃、5% CO2条件下で培養した。適宜、培養上清の一部を採取して赤血球凝集分析することによりウイルス生産の状況を確認し、十分な赤血球凝集反応が得られた後に回収した培養上清をSeV18+sfEnvF/ΔFウイルスの感染性粒子の溶液とした。
【0095】
[実施例4]HIV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルス非感染性粒子の作製
LLC-MK2細胞を、T225フラスコ12枚を用いて37℃、5%CO2の条件下で、セミコンフルエントになるまで培養し、上記で作製したSeV18+sfEnvF/ΔFウイルスを含む培養上清を用いて、moi 5.0で1時間感染させた。感染後培養上清を取り除き、Try/GE/MEM培地をフラスコ当たり30mL添加し、32℃、5% CO2条件下で培養した。適宜、培養上清の一部を採取して赤血球凝集分析することによりベクター生産の状況を確認し、十分な赤血球凝集反応が得られた後に回収した培養上清を非感染性粒子SeV18+sfEnvF/ΔF/NVPの溶液とした。
【0096】
[実施例5]ウェスタンブロット法によるHTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子と非感染性粒子の分析
HTLV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)をウェスタンブロット(WB)法を用いて分析した。各検体15μl(
図2)あるいは総タンパク質量として1μg(
図3)をアクリルアミドゲル(5-20% wako)にて電気泳動(40mA, 80min)後、ナイロンメンブレンにエレクトロブロッティング法(60V, 2hr)を用いて転写した。メンブレンを5% Skim Milk/0.05%Tween/TBST中4℃で一夜ブロッキングした後、0.05%Tween/TBSTで2000倍に希釈した一次抗体(抗HTLV-1 gp46抗体、Abcam ab9086)を室温で1時間反応させ、洗浄後0.05%Tween/TBSTで2000倍に希釈した二次抗体(HRP標識抗マウスIg抗体、BIOSOURCE Cat#:AMI4704)を室温で1時間反応させた。0.05%Tween/TBST中で洗浄(5min×3回)後、ECL prime (GE) を用いて検出した(
図2,
図3)。非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)上のgp63ectoFタンパク質の量は、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と比較して有意に上昇した。
【0097】
[実施例6]ウェスタンブロット法によるHIV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子と非感染性粒子の分析
HIV-1エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)と非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/ΔF/NVP)をウェスタンブロット(WB)法を用いて分析した。各検体をアクリルアミドゲル(12.5% wako)にて電気泳動(30mA, 80min)後、ナイロンメンブレンにエレクトロブロッティング法(60V, 2hr)を用いて転写した。メンブレンを5% Skim Milk/0.05%Tween/TBST中4℃で一夜ブロッキングした後、0.05%Tween/TBSTで2000倍に希釈した一次抗体(
図4パネルA: 抗HIV-1 gp120抗体(AALTO Cat#:D7324)、
図4パネルB: 抗センダイウイルス抗体(IDファーマ))を室温で1時間反応させ、洗浄後0.05%Tween/TBSTで希釈した二次抗体(
図4A: HRP標識抗ヒツジIg抗体(Invitrogen Cat#:618620)10,000倍希釈、
図4B: HRP標識抗ウサギIg抗体(BIOSOURCE Cat#:ALI4404)1,000倍希釈)を室温で1時間反応させた。0.05%Tween/TBST中で洗浄(5min×3回)後、ECL prime (GE) を用いて検出した(
図4)。非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/ΔF/NVP)上のsfEnvFタンパク質の量は、感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)と比較して有意に上昇した。
【0098】
[実施例7]HTLV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子によるブースト効果
HTLV-1 Envのgp63のエクトドメインとセンダイウイルスFタンパク質の細胞質ドメインの融合タンパク質 gp63ectoFを発現するF遺伝子欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)を用いてマウス(BALB/c)による免疫誘導実験を行った。第1群(n = 6、Se群)には、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回(week 0)のみ行い、第2群(n = 6、Se/VLP群)には、感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回(week 0)行った後、非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)接種を2回(weeks 4 & 5)行った。感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種においては、2.4 x 10
7 CIU (0.02 ml)を経鼻接種し、非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)接種においては、1.1 x 10
10 particles (0.1 ml)を筋肉内接種した。初回接種(SeV18+gp63ectoF/dF)後8週目の安楽殺時に採取した血液を用いて、Western Blot(WB)およびELISAにより抗HTLV Env結合抗体価を測定した。
ELISAによる抗体価測定においては、HTLV-1 gp46タンパク(Abcam, 100 ng/0.05 ml/well)を96-well plate(Corning Costar #3690)の各wellに固相化し、3% BSA/PBSでブロッキング後、マウス血漿を加え、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体反応、TMB基質を用いた発色反応の後、プレートリーダーで吸光度(OD450)を測定した。その結果、1,000倍希釈の血漿を用いたデータ(バックグランドを差し引いたOD450測定値の各群の平均値)で、第2群(0.256)は第1群(0.066)の3.9倍の値を示した(
図5)。
WBによる抗体価測定においては、プロブロットHTLV-1キット(富士レビオ#204450)を用い、そのプロトコールに従って(ビオチン標識抗マウスIgG抗体使用)、HTLV-1 Env gp46結合抗体を検出した。その結果、WBでの検出限界希釈タイター(各群相乗平均値)は、第1群(7.6 x 10
1)と比べ、第2群(6.5 x 10
2)で高値(8.5倍)を示した(
図6)。
【0099】
[実施例8]HIV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子によるブースト効果
HIV-1 (BG505) Envのgp160のエクトドメインとセンダイウイルスFタンパク質の細胞質ドメインの融合タンパク質 sfEnv-Fを発現するF欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)と非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)を用いてマウス(BALB/c)による免疫誘導実験を行った。第1群(n = 4、Se群)には、感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)接種を2回(weeks 0 & 1)のみ行い、第2群(n = 4 [当初n = 5であったがweek 1の体重減少により1匹除外]、Se/VLP群)には、感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)接種を2回(weeks 0 & 1)行った後、非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)接種を2回(weeks 4 & 5)行った。第3群(n = 5、Se/VLP/VLP群)には、感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)接種を2回(weeks 0 & 1)行った後、非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)接種を4回(weeks 4, 5, 8 & 9)行った。感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)接種においては、5.0 x 10
7 CIU (0.02 ml)を経鼻接種し、非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)接種においては、2.0 x 10
9 particles (0.1 ml)を筋肉内接種した。初回の感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)接種後8週目(第1群・第2群)あるいは12週目(第3群)の安楽殺時に採取した血液を用いて、ELISAにより抗HIV-1 Env gp120結合抗体価を測定した。
抗体価測定においては、HIV-1 BG505 gp120蛋白(50 ng/0.05 ml/well)を96-well plate(Corning Costar #3690)の各wellに固相化し、3% BSA/PBSでブロッキング後、マウス血漿を加え、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体反応、TMB基質を用いた発色反応の後、プレートリーダーで吸光度(OD450)を測定した。その結果、12,500倍希釈の血漿を用いたデータ(バックグランドを差し引いたOD450測定値の各群の平均値)で、第2群(0.475)は第1群(0.157)の3.0倍、第3群(1.242)は第1群の8.0倍の値を示した(
図7)。
【0100】
[実施例9]HTLV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子の抗HTLV抗体ブースト効果
HTLV-1 Envのgp63のエクトドメインとセンダイウイルスFタンパク質の細胞質ドメインの融合タンパク質 gp63ectoFを発現するF遺伝子欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)と非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)を用いてマウス(BALB/c)による免疫誘導実験を行った。第1群(n = 6、SeV/SeV群)には感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を4回(week 0, 4, 8 & 9)行い、第2群(n = 6、SeV/NVP群)には感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種を1回(week 0)および非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)接種を3回(weeks 4, 8 & 9)行った。また陰性コントロールとして第3群(n = 4、PBS群)にはPBS接種を4回(week 0, 4, 8 & 9)行った。感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF)接種においては、5.0 x 10
7 CIU (0.05 ml)を筋肉内接種し、非感染性粒子(SeV18+gp63ectoF/dF/NVP)接種においては、5.0 x 10
9 particles (0.05 ml)を筋肉内接種した。初回接種後11週目の安楽殺時に採取した血液を用いて、ELISAにより抗HTLV Env結合抗体価を測定した。
ELISAによる抗体価測定においては、HTLV-1 gp46タンパク(Abcam, 200 ng/0.05 ml/well)を96-well plate(Corning Costar #3690)の各wellに固相化し、3% BSA/PBSでブロッキング後、マウス血漿を加え、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体反応、TMB基質を用いた発色反応の後、プレートリーダーで吸光度(OD450)を測定した。その結果、8,000倍希釈の血漿を用いたデータ(OD450測定値の平均)において、第1, 2群ともに高い値を示し、特に第2群(SeV/NVP群)はコントロール群と比べて有意に高い値を示した。またエンドポイントタイター(OD450値がバックグラウンドを越える最大の希釈倍率)での比較では、第2群(SeV/NVP群)は第1群(SeV/SeV群)よりも有意に高値を示した(
図8)。以上の結果より、感染性を持たない点で安全性の高いgp63ectoF発現非感染性粒子(NVP)接種においても、gp63ectoF発現感染性粒子(SeV)接種よりも高い抗HTLV-1 Env抗体ブースト能を有することを示した。
【0101】
[実施例10]HIV-1 AD8-EO株エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルスの構築
1)AD8EO株由来EnvのエクトドメインsfAD8EOEnvF遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+sfAD8EOEnvF/TSΔF)の構築
AD8EO株(HIV-1 サブタイプB)由来EnvのエクトドメインsfAD8EOEnvの作製はHIV-1 AD8EO株のEnv遺伝子を搭載したプラスミド(Shingai, M. et al., 2012, Proc Natl Acad Sci U.S.A. 109(48): 19769-19774)、HIV-1 BG505株のsfEnvF、或いは各PCRの産物を鋳型にしたPCRによって、
図9で示す3段階のPCRでおこなった。一段階目として、AD8EO株Env遺伝子を鋳型に、プライマーSf_AD8-EO_N(5'-ggctagcgcagagAATTTGTGGGTCACAG -3'(配列番号:18))及びプライマーAD8-EO_A450G_C(5'-TATTGAAAGAGCAGTTcTTTATTTCTCCTC-3'(配列番号:19))の組み合わせ(1)、プライマーAD8-EO_A450G_N(5'-GAGGAGAAATAAAgAACTGCTCTTTCAATA-3'(配列番号:20))及びプライマーAD8-EO_A831G_C(5'-CTGTACTATTATGTTcTTTGTATTGTCTG-3'(配列番号:21))の組み合わせ(2)、プライマーAD8-EO_A831G_N(5'-CAGACAATACAAAgAACATAATAGTACAG-3'(配列番号:22))及びプライマーAD8-EO_A1506G_C(5'-CTGTACTATTATGTTcTTTGTATTGTCTG-3'(配列番号:21))の組み合わせ(3)、プライマーAD8-EO_A1506G_N(5'-CAGACAATACAAAgAACATAATAGTACAG-3'(配列番号:22))及びプライマーF_C(5'-CTCTCTTGAGTTcTTTATATACCACAGCC-3'(配列番号:23))の組み合わせ(4)を用いて、また、HIV-1 BG505株のsfEnvFを鋳型に、プライマーNot1_Sf_N(5'-ATATgcggccgcgacgccaccATGACAGCATATATCCAGAG-3'(配列番号:24))及びプライマーSf_AD8-EO_C(5'-CCCACAAATTctctgcgctagcctgacacg-3'(配列番号:25))の組み合わせ(5)、プライマーF_N(5'-TATAAAgAACTCAAGAGAGACTGTGATTAC-3'(配列番号:26))及びプライマーEIS-NotI-3R(5'-CTGCGGCCGCGATGAACTTTCACCCTAAGTTTTTC-3'(配列番号:27))の組み合わせ(6)を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 2分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメント(それぞれ、(1)約0.4kbp、(2)約0.4kbp、(3)約0.7kbp、(4)約0.54kbp、(5)約0.13kbp、(6)約0.26kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。二段階目として、(1)及び(5)を鋳型に、プライマーNot1_Sf_N(5'-ATATgcggccgcgacgccaccATGACAGCATATATCCAGAG-3'(配列番号:24))及びプライマーAD8-EO_A450G_C(5'-TATTGAAAGAGCAGTTcTTTATTTCTCCTC-3'(配列番号:19))の組み合わせ(7)、(2)及び(3)を鋳型に、プライマーAD8-EO_A450G_N(5'-GAGGAGAAATAAAgAACTGCTCTTTCAATA-3'(配列番号:20))及びプライマーAD8-EO_A1506G_C(5'-CTGTACTATTATGTTcTTTGTATTGTCTG-3'(配列番号:21))の組み合わせ(8)、(4)及び(6)を鋳型に、プライマーAD8-EO_A1506G_N(5'-CAGACAATACAAAgAACATAATAGTACAG-3'(配列番号:22))及びプライマーEIS-NotI-3R(5'-CTGCGGCCGCGATGAACTTTCACCCTAAGTTTTTC-3'(配列番号:27))の組み合わせ(9)を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 2分30秒)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメント(それぞれ、(7)約0.5kbp、(8)約1.1kbp、(9)約0.7kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。三段階目として、(7), (8)及び(9)を鋳型に、プライマーNot1_Sf_N(5'-ATATgcggccgcgacgccaccATGACAGCATATATCCAGAG-3'(配列番号:24))及びプライマーEIS-NotI-3R(5'-CTGCGGCCGCGATGAACTTTCACCCTAAGTTTTTC-3'(配列番号:27))の組み合わせ(10)を用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 2分30秒)のサイクルを40サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメント((10)約2.3kbp)をQIAquick PCR purification kitにてsfAD8EOEnvF遺伝子フラグメントを精製した。
このsfAD8EOEnvF遺伝子フラグメントはHIV-1 AD8-EO株エンベロープ蛋白質のエクトドメイン(SUとTMの一部とを含む)のC端側にSeV F蛋白質のTM領域および細胞質領域が融合している融合蛋白質をコードする。
次に、精製したsfAD8EOEnvFフラグメント(両端にNotIサイトを有す)をNotI処理し、上記のpSeV18+/ΔFプラスミドのNotI切断部位にライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+sfAD8EOEnvF/ΔFプラスミドを得た。
【0102】
2)sfAD8EOEnvF遺伝子搭載SeVベクター(SeV18+sfAD8EOEnvF/ΔF)の作製(再構成)
トランスフェクションの前日に6ウェルプレートに1ウェル当たり5×105細胞の293T/17細胞を播種し、37℃、5% CO2条件下で培養した。その293T/17細胞にpCAGGS-NP(0.5μg), pCAGGS-P4C(-)(0.5μg), pCAGGS-L(TDK)(2μg), pCAGGS-T7(0.5μg), pCAGGS-F5R(0.5μg) (WO2005/071085参照)、並びに上記で作製したsfEnvF遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+sfAD8EOEnvF/ΔF)(5.0μg)を混合し、TransIT-LT1 (Mirus)を使用して前述の293T/17細胞にトランスフェクションを行った。37℃、5% CO2の条件下で2日間培養した後、トランスフェクションを行った293T/17細胞をトリプシン-EDTAでウェルから剥がし、Try/PS/MEM培地で懸濁した後、別ウェルに準備したヘルパー細胞LLC-MK2/F/Ad (Li, H.-O. et al., J. Virology 74. 6564-6569 (2000), WO00/70070) の上に播種し、3~4日毎に培地交換を行いながら、培養を継続した。培養上清の一部を用いて赤血球凝集反応を行なうことにより、培養上清中のウイルス量をモニターし、十分な赤血球凝集反応が得られた後に培養上清を回収した。回収した培養上清よりQIAamp Viral RNA Mini Kitを用いてRNAを抽出し、このRNAを鋳型とするRT-PCRによって、搭載した遺伝子(sfAD8EOEnvF)領域を増幅し、得られたRT-PCR産物はシークエンスにより正しい塩基配列であることを確認した。回収したSeV18+sfAD8EOEnvF/ΔFウイルスを含む培養上清は液体窒素にて急速凍結後、-80℃にて保存した。
【0103】
3)sfAD8EOEnvF遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス(SeV18+sfAD8EOEnvF/ΔF)の増幅
ヘルパー細胞LLC-MK2/F/Adを、T225フラスコ12枚を用いて37℃、5% CO2の条件下で、セミコンフルエントになるまで培養し、上記で作製したSeV18+sfAD8EOEnvF/ΔFウイルスを含む培養上清を用いて、moi 5.0で1時間感染させた。感染後培養上清を取り除き、Try/GE/MEM培地をフラスコ当たり30mL添加し、32℃、5% CO2条件下で培養した。適宜、培養上清の一部を採取して赤血球凝集分析することによりウイルス生産の状況を確認し、十分な赤血球凝集反応が得られた後に回収した培養上清をSeV18+sfAD8EOEnvF/ΔFウイルスの感染性粒子の溶液とした。
【0104】
[実施例11]HIV-1 AD8-EO株エンベロープタンパク質搭載F欠失型センダイウイルス非感染性粒子の作製
LLC-MK2細胞を、T225フラスコ12枚を用いて37℃、5%CO2の条件下で、セミコンフルエントになるまで培養し、上記で作製したSeV18+sfAD8EOEnvF/ΔFウイルスを含む培養上清を用いて、moi 5.0で1時間感染させた。感染後培養上清を取り除き、Try/GE/MEM培地をフラスコ当たり30mL添加し、32℃、5% CO2条件下で培養した。適宜、培養上清の一部を採取して赤血球凝集分析することによりベクター生産の状況を確認し、十分な赤血球凝集反応が得られた後に回収した培養上清を非感染性粒子SeV18+sfAD8EOEnvF/ΔF/NVPの溶液とした。
【0105】
[実施例12]HIV-1エンベロープタンパク質発現非感染性粒子の抗HIV-1抗体ブースト効果
HIV-1 Envのgp160のエクトドメインとセンダイウイルスFタンパク質の細胞質ドメインの融合タンパク質 sfEnv-Fを発現するF欠失型センダイウイルスベクターの感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF)と非感染性粒子(SeV18+sfEnvF/dF/NVP)を用いてマウス(BALB/c)による免疫誘導実験を行った。EnvFについてはBG505株(HIV-1 サブタイプA)由来のエクトドメインを用いたもの(BG505EnvF)とAD8EO株(HIV-1 サブタイプB)由来のエクトドメインを用いたもの(AD8EOEnvF)を使用した。第1群(n = 4、PBS群)は、陰性コントロールとしてPBS接種を4回(week 0, 4, 8 & 9)行った。第2群(n = 6、SeV/SeV-BG505群)には、BG505EnvF発現感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF)接種を4回(week 0, 4, 8 & 9)行い、第3群(n = 6、SeV/NVP-BG505群)には、BG505EnvF発現感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF)接種を1回(weeks 0)行った後、BG505EnvF発現非感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF/NVP)接種を3回(weeks 4, 8 & 9)行った。さらに異なる抗原をブーストに用いることによる抗体の交差性拡大効果を検討するため、第4群には、BG505EnvF発現感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF)接種を2回(week 0 & 4)行った後、AD8EOEnvF発現感染性粒子(SeV18+sfAD8EOEnvF/dF)接種を2回(week 8 & 9)行い、第5群には、BG505EnvF発現感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF)接種を1回(weeks 0)およびBG505EnvF発現非感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF/NVP)接種を1回(weeks 4)行った後、AD8EOEnvF発現非感染性粒子(SeV18+sfAD8EOEnvF/dF/NVP)接種を2回(weeks 8 & 9)行った。感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dFまたはSeV18+sfAD8EOEnvF/dF)接種においては、5.0 x 10
7 CIU (0.05 ml)を筋肉内接種し、非感染性粒子(SeV18+sfBG505EnvF/dF/NVPまたはSeV18+sfAD8EOEnvF/dF/NVP)接種においては、5.0 x 10
9 particles (0.05 ml)を筋肉内接種した。初回接種後11週目の安楽殺時に採取した血液を用いて、ELISAにより抗HIV-1 Env(BG505 gp120およびBaL gp120)結合抗体価を測定した。
抗体価測定においては、HIV-1 BG505 gp120蛋白(50 ng/0.05 ml/well)を96-well plate(Corning Costar #3690)の各wellに固相化し、3% BSA/PBSでブロッキング後、マウス血漿を加え、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体反応、TMB基質を用いた発色反応の後、プレートリーダーで吸光度(OD450)を測定した。抗BG505 gp120抗体ELISAの結果、OD450値の平均値およびエンドポイントタイターにおいて、第3群(SeV/NVP-BG505群)は第2群(SeV/SeV-BG505群)と同等もしくは高い値を示し、sfEnvF発現非感染性粒子(NVP)による抗体ブースト能がsfEnvF発現感染性粒子(SeV)と同等以上であることを示した(
図10)。
AD8EOEnvF発現非感染性粒子のブースト接種による抗体の交差性拡大効果を検討するため、AD8EOと同じHIV-1 サブタイプBに属するBaL gp120蛋白を用いて、同様の抗gp120抗体ELISAを行った。その結果、エンドポイントタイターにおいて、AD8EOEnvF発現感染性粒子でブーストした第4群(SeV/SeV-AD8EO群)において高値を示し、AD8EOEnvF発現非感染性粒子でブーストした第5群(SeV/NVP-AD8EO群)においても第4群と同等の値を示した。またBG505エンドポイントタイターとBaLエンドポイントタイターとの比の値を解析した結果、第4, 5群ではBG505EnvF発現粒子でブーストした第2, 3群よりも高値を示し、特に第5群において高い値を示した(
図11)。以上の結果より、異なる株由来の抗原を用いたsfEnvF発現非感染性粒子のブースト接種により、交差性の高い抗体を効果的に誘導可能であることを示した。
【0106】
本発明の好ましい態様を詳細に説明してきたが、これらの態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。よって、本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法や態様で実施され得ることを意図する。即ち、本発明は添付の「特許請求の範囲」の精神またはその本質的部分を同じくする範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
【0107】
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の非感染性粒子は、既存の感染性粒子に比べて高い安全性を保持しつつ、抗原タンパク質をより高レベルで保持している。本発明の非感染性粒子が持つこうした特徴は、ウイルスをはじめとする病原体等に対するワクチンとしての有利性を裏付けるものであって、感染症の予防や治療において極めて有用であると考えられる。
【配列表】