(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/52 20060101AFI20221003BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20221003BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20221003BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
B29D30/52
B60C11/24 Z
B60C19/00 E
G01B7/00 W
(21)【出願番号】P 2018190018
(22)【出願日】2018-10-05
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸川 広人
(72)【発明者】
【氏名】越智 淳
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特許第4054196(JP,B2)
【文献】特開2004-177282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00- 30/72
B60C 1/00- 19/12
G01B 7/00- 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含
み、
前記穴として、前記トレッド部形成用部材の厚み方向に貫通する円柱状の穴を形成し、
前記磁性片として、前記穴の円柱形状に対応した磁性片を用いる
ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記硬磁性材料の粉粒体として、フェライト系の磁性粉を用い、
前記磁性片として、前記硬磁性材料の粉粒体を高分子材料中に分散させて形成した磁性シート体を、複数枚、積層させて形成した磁性片を用いることを特徴とす
る空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記磁性シート体の厚みが、1枚当たり2mm以下であることを特徴とする請求項
2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記磁性片として、
空気入りタイヤのトレッド部において摩耗限度よりもタイヤ内周側の部分を構成する内層部が設けられ、
前記内層部に、前記高分子材料から形成されて前記硬磁性材料の粉粒体が含有されていない磁性片を用いることを特徴とす
る空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記加硫工程の後に、
加硫された空気入りタイヤの内腔部表面に、前記磁性片により形成された磁場の磁束密度を検知する磁気センサを取り付ける磁気センサ取付工程が設けられていることを特徴とす
る空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記磁性片として、前記硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成された未加硫状態または半加硫状態の磁性片を用いることを特徴とする請求項1
ないし請求項5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記磁性片として、前記穴への埋設前に着磁された磁性片を用いることを特徴とする請求項1
ないし請求項6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記磁性片として、前記硬磁性材料の粉粒体を高分子材料中に分散させて形成した磁性層と、前記高分子材料から形成されて前記硬磁性材料の粉粒体を含有しない非磁性層とを交互に複数、積層させて形成した磁性片を用いることを特徴とする請求項1
、請求項4、請求項5、請求項6および請求項7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部の摩耗状態を検知することを可能とする空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装着された空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)は、走行に伴って地面と接するトレッド部が摩耗していき、トレッド溝が徐々に浅くなってくる。そして、このトレッド溝の深さが摩耗限度を超えて浅くなると、走行中にスリップが発生するなどして、事故の発生を招く危険性が増す。このため、従来より、トレッド部の摩耗量が摩耗限度を超えないように管理し、摩耗限度に達した場合には早期にタイヤを交換して、走行時の安全性を確保することが定められている。
【0003】
トレッド部の摩耗状態をチェックする方法として、一般的には、トレッド部に例えばスリップサイン等の目印を設けておき、この目印が現れると摩耗量が摩耗限度に達したと判断している。しかし、一般のユーザーに対して、この目印の確実なチェックについて過大には期待できないため、このようなユーザーによる目視確認に替えて、タイヤの摩耗状態を技術的に把握してユーザーが交換時期が来たことを正確に認識できる技術が提案されている。
【0004】
例えば、タイヤ内の静電気を路面に放出するために導電性のゴム部材を打ち込む技術(例えば、特許文献1)などに基づいて、摩耗が摩耗限度となる箇所に磁性材料からなる磁性片などを被検出体として埋設しておき、磁気センサなどを検知手段として用いて、摩耗により露出した被検出体を検知することでタイヤが摩耗限度まで摩耗したことを検出するタイヤ摩耗限度検出装置(例えば特許文献2)や、トレッドの溝部やタイヤ内部に埋設された磁性片がトレッド部の摩耗に合わせて形状変化することに伴う磁場の強さの変化を、磁気センサなどの検知手段を用いて検知することによってタイヤの摩耗状態を測定するタイヤの摩耗測定方法(例えば特許文献3)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-153092号公報
【文献】実開昭62-83704号公報
【文献】特許第4054196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のタイヤ摩耗限度検出装置や特許文献3のタイヤの摩耗測定方法に使用されるタイヤにおいては、磁性片を埋設したことにより、タイヤの表面に異常な凹凸が生じて、このようなタイヤを装着した場合、走行時の乗り心地が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、タイヤの摩耗状態を検出するための磁性片が埋設されたタイヤであっても、表面に異常な凹凸の発生を招くことなく、設計した形状に仕上げることができ、走行時の乗り心地の低下を招いたりすることがない空気入りタイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
請求項1に記載の発明は、
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記穴として、前記トレッド部形成用部材の厚み方向に貫通する円柱状の穴を形成し、
前記磁性片として、前記穴の円柱形状に対応した磁性片を用いることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記硬磁性材料の粉粒体として、フェライト系の磁性粉を用い、
前記磁性片として、前記硬磁性材料の粉粒体を高分子材料中に分散させて形成した磁性シート体を、複数枚、積層させて形成した磁性片を用いることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
前記磁性シート体の厚みが、1枚当たり2mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記磁性片として、
空気入りタイヤのトレッド部において摩耗限度よりもタイヤ内周側の部分を構成する内層部が設けられ、
前記内層部に、前記高分子材料から形成されて前記硬磁性材料の粉粒体が含有されていない磁性片を用いることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、
トレッド部に硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性部分が設けられた空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫のトレッド部形成用部材に穴を穿設する穿穴工程と、
前記穴に、前記硬磁性材料の粉粒体を含有する磁性片を、前記磁性部分として埋設する磁性片埋設工程と、
前記磁性片が埋設されたトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形する生タイヤ成形工程と、
前記生タイヤを加硫する加硫工程とを含み、
前記加硫工程の後に、
加硫された空気入りタイヤの内腔部表面に、前記磁性片により形成された磁場の磁束密度を検知する磁気センサを取り付ける磁気センサ取付工程が設けられていることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、
前記磁性片として、前記硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成された未加硫状態または半加硫状態の磁性片を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、
前記磁性片として、前記穴への埋設前に着磁された磁性片を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、
前記磁性片として、前記硬磁性材料の粉粒体を高分子材料中に分散させて形成した磁性層と、前記高分子材料から形成されて前記硬磁性材料の粉粒体を含有しない非磁性層とを交互に複数、積層させて形成した磁性片を用いることを特徴とする請求項1、請求項4、請求項5、請求項6および請求項7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、タイヤの摩耗状態を検出するための磁性片が埋設されたタイヤであっても、表面に異常な凹凸の発生を招くことなく、設計した形状に仕上げることができ、走行時の乗り心地の低下を招いたりすることがない空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態で製造されるタイヤの断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態で製造されるタイヤの磁性片の埋設部分を示す模式的断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態で用いられる磁性片の構成を示す模式図である。
【
図4】本発明の他の一実施の形態で用いられる磁性片の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0021】
[1]本発明に至る経緯
本発明者は、従来の磁性片を埋設したタイヤに生じる乗り心地の低下の問題について、検討を行った結果、加硫後のタイヤに後加工を施して磁性片を埋設しているため、磁性片とタイヤとの一体性が十分に確保されず、表面に異常な凹凸の発生を招いて、走行時の乗り心地を低下させていることが分かった。
【0022】
そして、この知見に基づいて、本発明者はさらに検討を行い、磁性片とタイヤとの一体性を確保するためには、加硫後のタイヤに後加工によって磁性片を埋設するのではなく、生タイヤの成形時、予め磁性片を埋設しておけばよいことに思い至り、実験の結果、その効果が確認できた。具体的には、タイヤの製造段階において、使用される未加硫のトレッド部形成用部材に穴を設け、設けた穴に磁性片を埋設し、そのトレッド部形成用部材を有する生タイヤを加硫してタイヤを製造することにより、磁性片を埋設したタイヤであっても、表面に異常な凹凸が発生せず、設計した形状に仕上げることができ、走行時の乗り心地の低下を招くことがない空気入りタイヤを提供することができることを確認した。
【0023】
[2]タイヤの製造方法
1.本実施の形態の概要
本実施の形態のタイヤの製造方法は、穿穴工程、磁性片埋設工程、生タイヤ成形工程および加硫工程を含んでおり、穿穴工程と磁性片埋設工程以外の工程は基本的に従来のタイヤの製造方法と同様である。なお、特に記載した部材以外については、従来のタイヤの製造に用いられる部材が同様に用いられる。
【0024】
図1は本実施の形態で製造されるタイヤの断面図であり、
図2は本実施の形態で製造されるタイヤの磁性片の埋設部分を示す模式的断面図である。本実施の形態のタイヤの製造方法においては、未加硫のトレッド部形成用部材に磁性片4を埋設するための穴10を穿設し(穿穴工程)、磁性片を埋設し(磁性片埋設工程)、生タイヤを成形し(生タイヤ成形工程)、加硫する(加硫工程)各工程を経てタイヤを製造しており、これらの工程を経ることにより、磁性片とタイヤとの一体性を十分に確保して、異常な凹凸の発生がない整然とした状態にタイヤを仕上げることができる。
【0025】
2.本実施の形態のタイヤの製造方法
以下、上記した各工程について、具体的に説明する。
【0026】
(1)穿穴工程
穿穴工程では、未加硫のトレッド部形成用部材の磁性片の埋設予定箇所に、磁性片埋設用の穴10を穿設する。なお、この磁性片埋設予定箇所は、タイヤのサイズ、タイプなどに応じて適宜設定することができ、例えば、
図1に示すように、凹部3によって囲まれた凸部2のタイヤの幅方向の中央部分の1箇所またはタイヤの周方向に等間隔で複数箇所設定する。なお、
図1において、5はカーカス、6はブレーカーである。
【0027】
穴10は、
図2に示すように、トレッド部形成用部材の厚み方向に沿って、トレッド部1の接地面8からトレッド部1の摩耗限度Lを超える深さに至るまで穿設する。なお、摩耗限度Lは、国の法令等で定められた値、具体的には、乗用車用タイヤ、ライトトラック用タイヤおよびトラックバス用タイヤの場合、主溝の底面からの高さ1.6mmに設定されている。
【0028】
穴10の形状は、埋設する磁性片4に対応する形状であれば特に限定されないが、トレッド部形成用部材の厚み方向に貫通する円柱状の穴であると、コルクボーラーなどのボーラーを備える穿穴装置を用いることにより容易に穿設でき好ましい。これに合わせて、磁性片の形状も、穴の円柱形状に対応していることが好ましい。なお、穴10の深さは、埋設する磁性片4により摩耗限度を検出することを考慮して、上記した摩耗限度Lを超える深さとする。
【0029】
(2)磁性片埋設工程
次に、磁性片埋設工程では、
図2に示すように、磁性片4を前工程において設けた穴10に挿入して埋設する。この埋設に際して、上記したように、穴10と磁性片4が円柱状であると、他の形状の穴と磁性片の組み合わせに比べて、容易、かつ確実に埋設でき、好ましい。
【0030】
なお、埋設のタイミングは、成形タイヤを加硫する前であれば特に限定されず、生タイヤの成形前、成形後のいずれでもよい。
【0031】
(3)生タイヤ成形工程
次に、生タイヤ成形工程では、磁性片4を埋設したトレッド部形成用部材およびその他の生タイヤ形成用部材を用いて、公知の方法で生タイヤを成形する。具体的には、従来と同様に、タイヤ成形ドラム上で、トレッド部形成用部材および各種生タイヤ形成用部材を積層することにより、生タイヤを成形する。
【0032】
(4)加硫工程
加硫工程では、前工程において成形した生タイヤを、加硫金型内にセットし、従来と同様の方法で加硫することにより製品タイヤを製造する。このとき、磁性片4は、凹部3によって囲まれた凸部2のタイヤの幅方向の中央部分に位置していることが好ましく、生タイヤを加硫金型内にセットする際には、加硫金型に刻まれたトレッドパターンの凸部2形成用の凹部の中央部分に磁性片4の埋設箇所が来るように調整する。このため、トレッド部形成用部材の形成時に磁性片の位置をマーキングしておいたり、形成されたトレッド部形成用部材に磁気センサを当てて磁性片の埋設位置を確認したりすることにより、磁性片4の位置を調整することが好ましい。
【0033】
このように、本実施の形態においては、予め磁性片が埋設された未加硫のトレッド部形成用部材を用いて生タイヤを成形しているため、加硫時、磁性片とタイヤとを十分に一体化させて、異常な凹凸の発生がない整然とした状態にタイヤを仕上げることができる。
【0034】
3.磁性片
次に、本実施の形態において使用される磁性片について説明する。本実施の形態において、磁性片としては、市販品を使用してもよいが、自前で形成してもよい。
【0035】
磁性片は、硬磁性材料の粉粒体を高分子材料中に分散させることにより形成することができ、得られた磁性片は、着磁によって永久磁石となるため、その周囲に所定の磁束密度で磁場を形成させることができる一方、着磁後は容易に減磁することがない。
【0036】
(1)硬磁性材料の粉粒体
本実施の形態において、硬磁性材料の粉粒体としては、着磁後の保磁力が大きく容易に減磁することがないという観点から、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄を主成分とするアルニコ系磁石、酸化鉄を主成分とするフェライト系磁石、サマリウム、鉄を主成分とするサマリウム系磁石、ネオジウム、鉄、ホウ素を主成分とするネオジウム系磁石作製用の磁性粉を好ましく挙げることができる。
【0037】
そして、具体的なアルニコ系磁石としては、Al-Ni-Co-Fe-Cuなどが、フェライト系磁石としては、Fe2O3-SrOなどが、サマリウム系磁石としては、Sm-Co-Fe-Cu、Sm-Fe-Nなどが、ネオジウム系磁石としては、Nd-Fe-B-Dy、Nd-Fe-Nb-B、Nd-Pr-Fe-Nb-Bなどが挙げられる。
【0038】
中でもフェライト系の磁性材料は、安価であり、他の硬磁性材料と比較して粒径が小さく、高分子材料に混ざりやすい。また、機械的物性に与える影響が他の硬磁性材料に比べて少ないため、トレッド部構成材料として好適である。
【0039】
また、上記した各磁性粉は2種以上を選択して用いてもよく、例えば、フェライト系の磁性粉とサマリウム系の磁性粉との混合、サマリウム系の磁性粉とネオジウム系の磁性粉との混合により、それぞれ、サマリウム・フェライト系の磁性片、サマリウム・ネオジウム系の磁性片を形成させることができる。
【0040】
磁性粉の粒径としては、磁性片の形成に際しての高分子材料への分散性と、金属粒子であることに伴う摩耗性を考慮すると、400μm以下であることが好ましく、250μm以下であるとより好ましい。
【0041】
(2)高分子材料
本実施の形態において、高分子材料としては、タイヤとしての特性を十分に発揮させるという観点から、硬化した状態において弾性を発揮することができる樹脂材料またはゴム材料が好ましく、また、磁性粉を分散させて成る磁性片がトレッドゴムと同じように摩耗しても安定した乗り心地を提供するという観点から、硬化後はトレッドゴム組成物と同等の摩耗特性を発揮することができる樹脂材料またはゴム材料が好ましい。具体的には、例えばトレッド部に用いられるトレッドゴム組成物と同じ配合のゴム材料が好ましい。
【0042】
(3)磁性片の形成
上記したように、磁性片は、トレッドゴム組成物と同じ配合のゴム材料に磁性粉を分散させて形成されていることが好ましく、例えば、トレッドゴム組成物の配合における一部の充填材を磁性粉に置換する形で配合してもよい。磁性片4中に占める磁性粉の配合量としては、10~70質量%が好ましく、より好ましくは30~70質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。磁性粉の配合量をこのように設定した場合、前記した所定の磁束密度の磁場が形成され易く、且つ埋設した磁性片4がトレッド部1の一部として十分に機能する機械的物性が得られ易い。
【0043】
磁性片4を形成する方法としては、高分子材料に磁性粉を分散させた材料を用いて所定の形状・サイズに成形する方法であれば特に限定されないが、得られる磁性片に含まれる多数の磁性粉の着磁の方向が一方向に配向している場合、磁束密度が最大の磁場を形成させることができ、これにより、磁性粉の配合比率をより低く抑えながら所定の磁束密度を得ることができる。
【0044】
(4)内層部
本実施の形態において、磁性片4の深部、具体的には、摩耗限度Lよりタイヤ半径方向内側に、高分子材料で形成されて硬磁性材料の粉粒体が含有されていない内層部41を設けることが好ましい。
【0045】
このように、予め、粉粒体を含有する部分と粉粒体を含有しない部分で磁性片を構成させることにより、粉粒体を含有する部分のタイヤ内方側の端部を、タイヤ厚み方向において容易に所望の位置に配置させることができ、磁性片4の製造工程を簡便にすることができる。従って、例えば、粉粒体を含有する部分のタイヤ内方側の端部を摩耗限度Lに対応した位置に配置させることで、摩耗限度Lまでタイヤが摩耗すると、粉粒体を含有する部分から粉粒体を含有しない部分に変わるため、磁束密度の変化量が相対的に大きくなり、摩耗限度Lまで摩耗したことを検知し易くなる。
【0046】
(5)磁性片の構成
本実施の形態において、磁性片は、
図2の磁性片4に示すように、一体的に形成されていてもよいが、これに限定されず、積層して構成されていてもよい。
【0047】
図3および
図4は、それぞれ、積層して形成された磁性片の構成を示す模式図であり、
図3は磁性シート体積層型の磁性片を、
図4は磁性層と非磁性層の積層型の磁性片である。なお、これらの磁性片においても、上記と同様に内層部41が設けられている。
【0048】
(a)磁性シート体積層型
図3において、4aは硬磁性材料の粉粒体(フェライト系の磁性粉)を含有する磁性シート体であり、複数枚の磁性シート体4aを積層することにより、厚みTの磁性片4を構成している。このとき、フェライト系の磁性粉を磁性片4内で均質に配向させるためには、1枚当たりの厚みが2mmを超えない、即ち、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であるとより好ましい。一方、薄過ぎると、均質な配向の面では好ましいが、所定の厚みTまでには、多くのシート体を積層する必要があり、生産性を向上させることが難しいため、0.5mm以上とすることが好ましい。
【0049】
(b)磁性層と非磁性層の積層型
図4において、4bは硬磁性材料の粉粒体を高分子材料中に分散させて形成した磁性層、4cは高分子材料から形成されて硬磁性材料の粉粒体を含有しない非磁性層であり、磁性層4bと非磁性層4cとを交互に複数、積層させることにより、厚みTの磁性片4を構成している。
【0050】
このように、磁性層4bと非磁性層4cとを交互に積層させることにより、磁性層4bと非磁性層4cとの境界において磁束密度が段階的に変化するため、摩耗の検知に際して、外乱磁場の影響を受け難くなり、摩耗量を検知し易くなる。
【0051】
(6)着磁
形成された磁性片4に対しては、着磁を行う。なお、着磁に際して使用する設備としては、特に限定されず、公知の、例えば、空芯コイル方式、ヨーク方式の着磁装置を用いて行えばよい。
【0052】
そして、着磁を行うタイミングとしては、磁性片4をトレッド部形成用部材に埋設する前、トレッド部形成用部材に埋設した後、あるいは生タイヤ成形後から加硫までの間のいずれのタイミングで実施してもよいが、埋設する前に実施することが好ましい。
【0053】
即ち、埋設する前の着磁は、着磁対象が磁性片だけであり小さいサイズであるため、小型の設備でよく、安価に設置することができる。これに対して、トレッド部形成用部材はサイズが大きく、成形された生タイヤは更にサイズが大きいため、大型の設備が必要となり、広い設置場所を必要とし、設置費用も大きくなる。
【0054】
本実施の形態において、着磁された磁性片4によって形成される磁場の強さとしては、測定される磁束密度の差が地磁気に影響されず、且つタイヤ内部に設けられているスチールコードによる帯磁や減衰の影響下でも確実に磁束密度を測定できる程度であることが好ましい。一方、車載される他の電子機器などが磁場によって悪影響を受けない、且つ道路走行時に路面に落ちている釘などの金属片を吸着しない程度であることが好ましい。このため、磁性片4は、表面で1mT以上60mT以下の磁束密度を有することが好ましい。なお、磁性片4の表面の磁束密度は、着磁された磁性片の表面にテスラメーターを直接接触させることにより測定される値である。
【0055】
(7)予備加硫
本実施の形態において、磁性片4は、未加硫状態または半加硫状態であることが好ましい。未加硫状態の磁性片4の場合には、加硫工程で磁性片4を埋込部周縁と加硫接着し、磁性片4をトレッド部1と一体化することができるため、走行時における磁性片4の脱落を防止することができる。
【0056】
一方、半加硫状態の磁性片4の場合には、相対的に磁性片が変形し難くなり、加硫工程において金型に押し当てられて生じる磁性片の流動変形も生じ難いため、トレッド表面側からブレーカー6の近傍まで、厚み方向に均一な形状を形成しながら加硫することができ、磁束密度の変化をほぼ安定させることができる。
【0057】
なお、上記において「半加硫状態」とは、未加硫状態よりは加硫度が高いが、最終製品として必要とされる加硫度には至っていない状態をいう。
【0058】
(8)磁性片の埋設
本実施の形態において、上記のように形成された磁性片4は、トレッド部1が摩耗する前の新品状態(未摩耗状態)と、トレッド部1が摩耗限度Lまで摩耗したときの状態で、検知される磁束密度の差が1mT以上となるようにトレッド部1内に埋設するのが好ましい。これにより、タイヤが摩耗限度まで摩耗したことを確実に検知し易くすることができる。
【0059】
[3]摩耗測定
次に、本実施の形態により製造されたタイヤを用いて行う摩耗測定について説明する。
【0060】
1.磁気センサの取付け
図1に示すように、本実施の形態により製造されたタイヤには、トレッド部1の凸部2に磁性片4が埋設されており、磁性片4によって磁場が形成されている。この磁性片4は、上記したように、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成されているため、車両の走行に伴うトレッド部1の摩耗に合わせて摩耗し、この摩耗に伴って磁性片4によって形成された磁場の磁束密度が変化する。このため、磁気センサを用いてこの変化する磁束密度を検出することにより、タイヤの摩耗の程度を知ることができる。
【0061】
磁気センサは、車体側の、例えば、タイヤハウスに設けられてもよいが、この場合には、回転するタイヤ側に設けられた磁性体が検知手段に近接した場合しか磁性体を検知することができず、間欠的な測定しかできない。また、磁気センサと磁性体との間の位置関係は、車体の傾斜や、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などで、変化しやすいため、磁場の強さを安定して正確に測定することができない。
【0062】
そこで、本実施の形態においては、上記した加硫工程の後に、磁気センサ取付工程を設けて、
図1に示すように、タイヤの内腔部表面7に、磁性片4により形成された磁場の磁束密度を検知する磁気センサ9aを取り付けることが好ましい。
【0063】
このように、タイヤの内腔部表面7に磁気センサ9aを配置することにより、磁束密度を間断なく常時検知することができ、その結果車両に装着されたタイヤの摩耗状態を経時的に把握することができる。そして、このようなタイヤを使用することにより、車体の傾斜、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などの影響を受けた場合でも、磁気センサ9aと磁性片4との間の位置関係を一定に維持することができるため、磁束密度を安定して正確に測定することができ、タイヤの摩耗状態を高い精度で把握することができる。
【0064】
このとき、磁性片4がタイヤ半径方向に着磁されていると、磁気センサ9aを磁性片4のタイヤ半径方向上に設置した場合、高い感度で磁束密度を検知することができる。このため、磁気センサ9aは、磁性片4のタイヤ半径方向内側のタイヤの内腔部表面7上に設置することが好ましい。
【0065】
磁気センサ9aとしては、タイヤの内腔部表面7に取り付け可能な小さなサイズで、回転するタイヤの振動や変形などにも十分に耐え得るホール素子、磁気抵抗素子(MR)、磁気インピーダンス(MI)素子などを好ましく挙げることができ、これらの内でも、測定精度が高い磁気抵抗素子がより好ましい。また、磁気センサとしては、磁性片4が未摩耗の状態とトレッド部1が摩耗限度まで摩耗した時点で残存している状態の両方を適切に測定できるよう、1mT以上の磁束密度差を測定可能なものを用いるのが、好ましい。すなわち、磁気センサにおける磁束密度の有効測定レンジが1mT以上であることが好ましい。
【0066】
本実施の形態においては、磁気センサ9aに加えて、センサモジュール9がタイヤに同様に配置されることが好ましい。センサモジュール9は、磁気センサ9aで検知されたデータを受信する受信部、受信したデータを車両本体に設けられた摩耗状態判定装置に向けて有線または無線で送信する送信部、それに伴うアンテナ、電源などが筐体内に収納されて構成されている。センサモジュール9は、磁気センサ9aと一体に設置してもよく、また、別に設置してもよい。
【0067】
また、センサモジュール9には、磁気センサ9a以外に、タイヤの内圧を検知する圧力センサ、温度を計測する温度センサ、加速度を検知する加速度センサなどが併せて収納されていてもよく、これらの複数のセンサを用いることにより、磁束密度に加えて、タイヤの内圧、タイヤの温度、加速度データなどをリアルタイムで取得することができる。そして、これらの複数のセンサで取得された各データを利用して総合的に分析することにより、タイヤの状態をより詳細に把握することができ、今後期待されている車両の自動運転制御に有効に利用することができる。
【0068】
また、センサモジュール9は、上記のような構成に限らず、摩耗量と磁束密度との関係を示す照合用のデータを記憶する記憶部、および、記憶部に記憶される照合用のデータを用い、磁気センサ9aによって検知された磁束密度に基づいてトレッド部の摩耗状態を判定する摩耗状態判定部を備え、判定結果を送信部によって車両本体に設けられた摩耗状態表示装置へ送信するように構成されても良い。
【0069】
タイヤへのセンサモジュール9の取付方法としては、例えば、タイヤの内腔部表面7に設けられたソケットに装着する方法、内腔部表面7に直接接着する方法、タイヤに埋め込む方法などを適宜採用することができ、この内でも、ソケットに装着する方法は、取り付け、交換が容易であるため、特に好ましい。
【0070】
2.摩耗状態の測定
以下、上記のようにタイヤの内腔部表面7に磁気センサ9aを取り付けたタイヤにおける摩耗状態の測定について説明する。
【0071】
(1)事前のデータ取得
本実施の形態において、摩耗状態の測定を行って、判定するためには、磁束密度と摩耗状態の関係を示すデータを使用する。なお、このデータは、予め、測定対象と同じ種類の試験サンプルを製造して磁束密度と摩耗状態の関係を計測することにより取得し、取得したデータを前記摩耗状態判定装置または摩耗状態判定部に記憶させている。
【0072】
具体的には、まず、製造直後の新品タイヤ(測定対象と同じ種類のタイヤ)における磁束密度を測定し、その後、このタイヤに対して、タイヤ摩耗ドラム試験機を用いて、摩耗限度を超えるまで、タイヤを摩耗させていく。そして、途中、所定時間毎に装置を停止させて、その時点での摩耗量と磁束密度とを測定する。
【0073】
その後、測定された各時点での摩耗量と磁束密度とに基づいて摩耗量と磁束密度との関係を示す照合用のデータを作成し、作成されたデータを車両本体に設けられた摩耗状態判定装置または摩耗状態判定部に記憶させる。
【0074】
(2)測定対象タイヤの実車への装着と走行
次に、測定対象のタイヤを実車に装着して走行する。走行することにより、トレッド部と共に磁性体が摩耗していくため、磁気センサにより検知される磁束密度が変化する。
【0075】
そして、磁気センサにより測定されたこの磁束密度の変化を、磁気センサから受信した摩耗状態判定装置において、予め記憶されている照合用のデータと照合することにより、測定対象のタイヤにおいて、どの程度まで摩耗が進行しているかを判定することができる。
【0076】
なお、磁束密度の測定に当たっては、外部の磁界変化などによって生じる磁束密度の変化(外乱)の影響が考えられるが、これらの影響は、徐々に進行するタイヤの摩耗に伴い徐々に変更する磁束密度と異なり、大きな変化として現れるため、統計的な処理を施すことによって、これらの外乱を排除することができる。
【0077】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 トレッド部
2 凸部
3 凹部
4 磁性片
4a 磁性シート体
4b 磁性層
4c 非磁性層
5 カーカス
6 ブレーカー
7 内腔部表面
8 接地面
9 センサモジュール
9a 磁気センサ
10 穴
41 内層部
L 摩耗限度
T (磁性片の)厚み