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特許7150268スケール除去方法及びスケール除去用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】スケール除去方法及びスケール除去用組成物
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/50 20060101AFI20221003BHJP
   B01D 53/74 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
B01D53/50 245
B01D53/74
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018049760
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019155339
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】平嶋 英則
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065663(JP,A)
【文献】特開2001-149744(JP,A)
【文献】特開2017-125137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/18
B01D 53/34-53/85
A61K 6/00
C11D 7/00- 7/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着したスケールを除去するスケール除去方法であって、
スケール除去用組成物を前記スケールに接触させる工程を有し、
前記スケール除去用組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤のアルカリ金属塩と、炭酸アルカリ塩と、水と、ベンゾトリアゾール系防食剤とを含み、
前記スケール除去用組成物が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHが7~10であり、
前記排ガス系の金属材料が炭素鋼であり、
前記スケールは、少なくとも硫酸カルシウム、ケイ素及び鉄を含むことを特徴とするスケール除去方法。
【請求項2】
スケール除去用組成物は、キレート剤のアルカリ金属塩を、3~25重量%含む水溶液である請求項1に記載のスケール除去方法。
【請求項3】
湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着したスケールの除去に用いられるスケール除去用組成物であって、
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤のアルカリ金属塩と、炭酸アルカリ塩と、水と、ベンゾトリアゾール系防食剤とを含み、
前記スケール除去用組成物が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHが7~10であり、
前記排ガス系の金属材料が炭素鋼であり、
前記スケールは、少なくとも硫酸カルシウム、ケイ素及び鉄を含むことを特徴とするスケール除去用組成物。
【請求項4】
キレート剤のアルカリ金属塩が、3~25重量%含まれる水溶液である請求項に記載のスケール除去用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを煙突まで流す排ガス系に付着したスケールを除去するスケール除去方法及びスケール除去用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の硫黄酸化物(SOx)を除去する設備として、排煙脱硫設備が数多く設置されている。近年における排煙脱硫プロセスの主流は、湿式法であり、吸収剤の種類、副生成分の違いはあるが、基本的には、(1)冷却・吸収装置、(2)通風装置、(3)ガス再加熱装置、(4)原料(吸収剤)貯蔵供給装置、及び、(5)副生成分処理装置の組合せにより構成されている。なお、湿式法の中でも石灰-石膏法は、事業用大型ボイラ排ガスの脱硫装置として多く採用されている。
【0003】
また、上記構成に加え、湿式排煙脱硫によるSOxの吸収処理時に発生するミストを処理するため、ミストを除去するミスト除去装置(ミストエリミネーター)が備えられている。そして、上記ミスト除去装置で除去しきれないミストを除去するため、SGH(蒸気-ガスヒーター)が備えられている場合もある。このような機器によってミストが除去された排ガスが、GGH(ガス-ガスヒーター)再加熱器に送り込まれ、加熱され、拡散性が向上した状態で煙突から大気に放出されている。
【0004】
このような排煙処理装置の一つとして、特許文献1に係るものが提供されている。特許文献1においては、排ガス中の飛散ミストはSGHでの加熱・衝突で除去している。そのため、SGHを長期に使用すると、発生するスケールにより、加熱・衝突の機能が低下し、これを放置するとミスト除去機能が低下してしまうという問題点があった。また、残存するミストがGGH再加熱器に達し、この残存するミストに起因して、GGH再加熱器にスケールが固着し、スケールがGGH再加熱器のエレメントを閉塞させ、差圧の上昇を招くおそれがあった。
【0005】
排ガス中の飛散ミストにより生じるSGH及びGGHにおけるスケールを予防する方法として、特許文献2に記載のように、排煙脱硫装置を経た排ガスを再加熱する排ガス再加熱器の上流に、排ガスを加熱し該排ガス中のミストを除去する可洗式排ガス加熱ユニットを設ける方法が提案されている。
しかしながら、本方法は、上述の通りSGH及びGGHにおけるスケールの付着を防止するための方法であり、付着後のスケールを除去する方法ではなく、また、スケール付着を完全に防止することもできていなかった。
【0006】
ここで、排煙脱硫装置で処理する燃焼排ガスは、事前に脱硝装置や電気集塵装置により処理されてはいるものの、上記燃焼排ガス中には大量の亜硫酸ガス(SO)と、微量の塩化物(Cl)、フッ化物(F)及びフライアッシュ等の成分が含まれている。これらの成分が、排煙脱硫装置における吸収塔においても吸収されるため、吸収塔周辺は非常に厳しい腐食及び摩耗環境にさらされている。特に、吸収塔において硫黄酸化物が脱硫された後の排ガスは、上述の通りミストも含んでいるため、脱硫後の排ガスが昇温される部分では、排ガスの乾湿状態が存在し、スケールの付着が起こりやすい環境となっている。
【0007】
なお、特許文献3のように排煙脱硫装置から排出される排水に起因した石膏スケールを除去する方法は提案されているが、排煙脱硫装置から排出される排ガスに起因したスケールについては、これまで除去方法が提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3852820号公報
【文献】特許第5848032号公報
【文献】特開2000-24452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
排煙脱硫装置の吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系において生じたスケールは、様々な成分が含有されていることから、その除去が困難であり、従来は、上記排ガス系にスケールが付着堆積した場合は、適宜、排煙脱硫装置の稼働を停止し、上記排ガス系を構成する機器及び配管の補修や交換が行われていた。
しかしながら、補修や交換は、時間と費用を要するため、頻繁に行われるものではなく、上記排ガス系にスケールが付着することに起因する性能の低下がボトルネックとなり、排煙脱硫装置ひいてはボイラの稼働率を抑えなければならない場面も出てきている。
したがって、従来の排煙処理装置では、吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着堆積したスケールを除去する方法が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みて、石灰-石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着したスケールの除去方法、及びこの方法に用いられるスケール除去用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着したスケールを除去するスケール除去方法であって、スケール除去用組成物を上記スケールに接触させる工程を有し、上記スケール除去用組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤のアルカリ金属塩と、炭酸アルカリ塩と、水と、ベンゾトリアゾール系防食剤とを含み、上記スケール除去用組成物が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHが7~10であり、上記排ガス系の金属材料が炭素鋼であり、上記スケールは、少なくとも硫酸カルシウム、ケイ素及び鉄を含むことを特徴とするスケール除去方法である。
また、上記スケール除去用組成物は、キレート剤のアルカリ金属塩を、3~25重量%含む水溶液であることが好ましい
【0012】
本発明は、また、湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着したスケールの除去に用いられるスケール除去用組成物であって、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤のアルカリ金属塩と、炭酸アルカリ塩と、水と、ベンゾトリアゾール系防食剤とを含み、上記スケール除去用組成物が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHが7~10であり、上記排ガス系の金属材料が炭素鋼であり、上記スケールは、少なくとも硫酸カルシウム、ケイ素及び鉄を含むことを特徴とするスケール除去用組成物。
また、本発明のスケール除去用組成物は、上記キレート剤のアルカリ金属塩が、3~25重量%含まれる水溶液であることが好ましい
以下に本発明を詳細に説明する。
なお、本発明に記載の「排ガス系」とは、吸収塔から排出された排ガスが流れる系を意味し、配管及び機器(ミストエリミネーター、可洗式排ガスユニット、SGH、GGH及び再加熱器等)を含むものである。
【0013】
なお、本明細書中、「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意味する。
【0014】
湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置は、燃焼プラント(例えば、発電所のボイラ等)から排出される燃焼排ガスに含まれる硫黄酸化物を除去するための設備である。燃焼排ガス中の硫黄酸化物の除去が行われる吸収塔では、燃焼排ガスに吸収剤である石灰を含む吸収液を接触させ、燃焼排ガス中の硫黄酸化物を石膏として回収している。そのため、吸収塔から排出された排ガスは、脱硫処理がされているため基本的に硫黄酸化物を含むものではないが、吸収塔で用いられる吸収液に起因するミストを含むか、又は、ミストエリミネーターやSGH等でミストが取り除かれている場合であっても完全な乾き排気とはなっておらず水分を含む。
本発明者の考察によると、吸収塔から排出される排ガス中にはミスト及び/又は水分に加え、吸収塔で生成された石膏成分(硫酸カルシウム)と、燃焼排ガスに含まれていた塩化物(Cl)、フッ化物(F)及びフライアッシュ等の成分とが含まれていると考えられる。
このように、脱硫後の排ガスにおいても、微量ではあるが上記の種々の成分が含まれると考えられ、現実に、吸収塔から排出された排ガスが流れる排ガス系において、スケールが付着することが問題となっている。
【0015】
また、湿式石灰石膏法による排煙脱硫装置では、乾式法によるものと比較し、上記燃焼排ガスと上記吸収液との接触率が向上するため反応率が高い反面、湿式であるために処理後の排煙温度が低下し、脱硫後の排ガスが拡散不良となる問題がある。この問題に対しては、再加熱設備を付けて排ガス温度を上げる方法がとられており、吸収塔の後流には、SGH(蒸気-ガスヒーター)再加熱器及び/又はGGH(ガス-ガスヒーター)再加熱器が設置されている。
上述した吸収塔から排出された排ガスが流れる排ガス系におけるスケールの付着は、特にこれらの再加熱器において顕著に生じ、当該機器の熱効率の低下のみならず、当該機器前後でのガス差圧の上昇を生じ、該差圧の低減のために定期的な水洗作業を要することが問題となっている。上記水洗作業は、排煙脱硫装置の規模により異なるが、例えば、火力発電所から排出される燃焼排ガスの処理のために用いられている排煙脱硫装置では、上記水洗作業の実施に当たり14日間程度のユニット停止が必要となり、安定運転の大きな支障となっている。
【0016】
また、上記GGH再加熱器及びSGH再加熱器に堆積したスケールは、定期的な水洗作業で除去できるものではないため、使用期間が長期化するにつれて該再加熱器における差圧が顕著に上昇する傾向にある。従って、最終的には、該再加熱器のチューブを交換する等、定期的な修繕・交換が必要とされている機器である。
【0017】
ここで、本発明者の調査によれば、工作・美術用、歯科用途において「型取り」を行う際、昔から「石膏」が多く利用されており、加工時に用いる容器、器具類に付着した石膏を除去するための石膏溶解剤は用いられているが(特開2014-065663号公報参照)、石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出される排ガスの流れる排ガス系に付着したスケールを除去するための方法、及び、スケール除去用組成物は提案されていない。その理由は、上述の通り、上記排ガス系には、吸収塔で生成された硫酸カルシウムの他に、燃焼排ガスに含まれている塩化物、フッ化物及びフライアッシュ等の種々の成分が含まれるため、工作等用途において利用されていた石膏溶解剤が効果を有するか否かは全く不明であり、また、燃焼排ガス処理の分野における機器及び配管の保守管理は、水洗作業及び修繕・交換が一般的であるという技術常識が存在していたためと考えられる。
【0018】
本発明者は、上述の技術常識に囚われることなく鋭意検討した結果、湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着したスケールを除去するスケール除去方法及びスケール除去用組成物を見出し、本発明を完成させた。
【0019】
本発明のスケール除去方法は、スケール除去用組成物を上記排ガス系に付着したスケールに接触させる工程を有し、上記スケール除去用組成物は、選択された特定のキレート剤のアルカリ金属塩と、炭酸アルカリ塩と、水とを含むものである。
上記工程における接触させる手段は、特に限定されるものではないが、例えば、散布手段、噴霧手段及び(高圧)噴き付け手段等を用いることができる。
また、本発明のスケール除去方法は、例えば、上記排煙脱硫装置の定期点検時等において上記排煙脱硫装置の運転を停止した際に、上記スケール除去用組成物をそのまま又は水で希釈して一定時間、上記排ガス系に付着したスケールに接触(噴霧など)することにより実施することができる。
なお、上記スケール除去用組成物も本発明の一つである。
以下、本発明のスケール除去用組成物について詳述するが、スケール除去用組成物に関する内容は、上記スケール除去方法においても採用することができる。
【0020】
また、上記キレート剤のアルカリ金属塩は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤のアルカリ金属塩である。
上記キレート剤のアルカリ金属塩を構成するアルカリ金属塩は、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩であり、ナトリウム塩であることが好ましく、3ナトリウム塩であることがより好ましい。
また、上記キレート剤のアルカリ金属塩は、EDTA・2ナトリウム塩、EDTA・2.5ナトリウム塩、EDTA・3ナトリウム塩、EDTA・3カリウム塩、DTPA・3ナトリウム塩、CyDTA・3ナトリウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、EDTA・3ナトリウム塩であることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明のスケール除去用組成物における上記キレート剤のアルカリ金属塩の配合量は、上記スケール除去用組成物の全重量に対して、3~25重量%であることが好ましい。3重量%より小さいと、スケール除去を効果的に行うことができない場合があり、25重量%より大きいと水溶液として取り扱うことが困難になる場合があるためである。また、上記キレート剤のアルカリ金属塩の配合量は、15~25重量%であることがより好ましい。
【0022】
また、上記炭酸アルカリ塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等を挙げることができる。なかでも炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。安価で水溶性が高く、適切なpHに調整し易いためである。
【0023】
なお、本発明のスケール除去用組成物における上記炭酸アルカリ塩の配合量は、上記スケール除去用組成物の全重量に対して、2~5重量%であることが好ましい。2重量%より小さいと、スケール除去を効果的に行うことができない場合があり、5重量%より大きいと水溶液にすることが困難になる場合があるためである。また、上記炭酸アルカリ塩の配合量は、4~5重量%であることがより好ましい。
【0024】
また、上記スケール除去用組成物は、水を用いて3倍程度に希釈されて用いられる場合があるが、上記排ガス系に付着したスケール除去効果の点では、水で希釈することなくそのまま用いられることが好ましい。
【0025】
本発明のスケール除去用組成物は、上記スケール除去用組成物が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHが7~10である。よって、本発明のスケール除去用組成物におけるキレート剤のアルカリ金属塩の配合量が、上記スケール除去用組成物の全重量に対して、3~25重量%である場合は、上記スケール除去用組成物が1.0重量%となるように水で希釈し、上記キレート剤のアルカリ金属塩の濃度が0.03~0.25重量%になるときのpHが7~10である。pHが10より高くなると上記排ガス系に付着したスケールが充分に溶解しない場合があり好ましくなく、pHが7未満であると炭酸アルカリ塩が充分に溶解しない場合があり好ましくない。なお、pHの測定法は一般的に用いられている方法を使用することができる。具体的な測定方法例を実施例に示す。
【0026】
また、上記スケール除去用組成物におけるキレート剤のアルカリ金属塩と炭酸アルカリ塩との重量比率は10:1~1:1の範囲内であることが好ましく、5:1~2:1の範囲内であることがより好ましい。スケールの溶解速度の上昇が見込まれるためである。
【0027】
また、本発明のスケール除去用組成物は、さらにベンゾトリアゾール系防食剤を含むことが好ましい。ベンゾトリアゾール系防食剤を含むことで、上記排ガス系材料の金属腐食を防止することができるためである。なお、ベンゾトリアゾール系防食剤は、銅や銅合金の防食剤として知られているが、炭素鋼の防食剤として用いられてはいなかった。しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、本発明のスケール除去用組成物に起因する炭素鋼腐食に対して、ベンゾトリアゾール系防食剤が有意な防食効果を発揮することを見出した。
【0028】
上記ベンゾトリアゾール系防食剤としては、一般的に用いられているベンゾトリアゾール系防食剤を用いることができる。具体的には、例えばベンゾトリアゾール、6-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、7-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、1-アミノベンゾトリアゾール、1-フェニルベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシメチルベンゾトリアゾール、1-ベンゾトリアゾールカルボン酸メチル、5-ベンゾトリアゾールカルボン酸、1-メトキシ-ベンゾトリアゾール、1-(2,2-ジヒドロキシエチル)-ベンゾトリアゾール、1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、あるいは「IRGAMET」シリーズとしてチバ・スペシャリティー・ケミカルズより市販されている、2,2’-{[(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタノール、2,2’-{[(5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタノール、2,2’-{[(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタン、または2,2’-{[(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスプロパン等を挙げることができる。
これらの中でも、ベンゾトリアゾール、6-メチル-1H-ベンゾトリアゾール及び7-メチル-1H-ベンゾトリアゾール等が好ましく用いられる。ベンゾトリアゾール系防食剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0029】
なお、本発明のスケール除去用組成物にベンゾトリアゾール系防食剤を配合する場合、その配合量は、上記スケール除去用組成物の全重量に対して、0.2~1.0重量%であることが好ましい。その配合量が0.2重量%未満では防食効果が十分ではない場合があり、1.0重量%より多く配合してもそれ以上の防食効果が期待できないためである。また、上記ベンゾトリアゾール系防食剤の配合量は、0.3~0.5重量%であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明のスケール除去用組成物は、さらに有機酸を含むことが好ましく、具体的には、ヘキサヒドロキシフタル酸塩(塩としては、Na、Li、K等)を含むことが好ましい。上記排ガス系に付着したスケールの溶解速度が速くなるためである。
【0031】
なお、本発明のスケール除去用組成物にヘキサヒドロキシフタル酸塩を配合する場合、その配合量は、上記スケール除去用組成物の全重量に対して、0.1~1.0重量%であることが好ましい。その配合量が0.1重量%未満では上記排ガス系に付着したスケールの溶解速度の向上が期待できない場合があり、1.0重量%より多く配合してもそれ以上の溶解速度のアップが期待できないためである。また、上記ヘキサヒドロキシフタル酸塩の配合量は、0.3~0.5重量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明のスケール除去方法においては、さらに、上記排ガス系に付着したスケールに接触する前のスケール除去用組成物の温度が10~40℃であることが好ましい。上記排ガス系に付着したスケールに接触する上記スケール除去用組成物の温度が10℃以上であることで、スケールの溶解速度が速くなるためである。また、上記排ガス系に付着したスケールに接触する上記スケール除去用組成物の温度を40℃より高くすると、副反応である脱炭酸が生じ、反応効率が低下する場合があり、これ以上高温としても所望の効果が得られない場合があるためである。
したがって、本発明のスケール除去方法は、スケール除去用組成物の温度を調整する工程を有していることが好ましい。なお、温度を調整する工程で用いられる手段は特に限定されず、一般的に利用されている冷却手段や加温手段等を用いることができる。
【0033】
また、本発明のスケール除去方法は、上記排ガス系に付着したスケールに接触した後のスケール除去用組成物を回収し、再び上記スケールに接触させる工程を有していることが好ましい。本発明のスケール除去用組成物を循環利用することにより、コスト面からも効率的に上記スケールを除去できるためである。また、スケール除去用組成物を10~40℃に温度調整して、上記スケールに接触させる場合は、上記スケールに接触した後のスケール除去用組成物は既に温度調整がされているため、これを再利用することにより、加熱及び/又は冷却エネルギーを少なくすることができるためである。
【0034】
また、本発明のスケール除去方法は、上記排ガス系に付着したスケールに接触した後のスケール除去用組成物を採取し、上記組成物中のキレート剤のアルカリ金属塩の残留濃度を測定する工程を有していることが好ましい。上記残留濃度を測定することにより、上記スケールの除去効率を確認することができるためである。
さらに、本発明のスケール除去方法は、上記残留濃度の測定値に基づき、スケール除去用組成物の添加量を調整し、添加量が調整された上記スケール除去用組成物を上記回収されたスケール除去用組成物に添加する工程を有していてもよい。上記残留濃度の測定値に基づき、上記回収されたスケール除去用組成物(循環(再)利用されるスケール除去用組成物)に添加されるスケール除去用組成物の添加量を調整することで、効率よく上記排ガス系のスケール除去を行うことができるためである。
【0035】
なお、上記排ガス系に付着したスケールに接触した後のスケール除去用組成物中のキレート剤のアルカリ金属塩の残留濃度の測定方法は、一般的に用いられているキレート滴定法に準拠した方法を用いることができるが、例えば、キレート剤のアルカリ金属塩としてEDTA・3Na(19.0重量%)と、炭酸アルカリ塩として炭酸水素ナトリウム(5.0重量%)と、残部水とから成るスケール除去用組成物におけるEDTA・3Naの残留濃度は次のように測定することができる。
【0036】
<キレート滴定法>
EDTA(キシダ化学株式会社:試薬特級 エチレンジアミン四酢酸)
NANA指示薬(キシダ化学株式会社:3-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-スルホ-1-ナフチルアゾ)-2-ナフタレンカルボン酸)の100倍希釈粉末
48%水酸化ナトリウム水溶液(株式会社要薬品:苛性ソーダ液体)
EDTA・3Na(19.0重量%)と炭酸水素ナトリウム(5.0重量%)が含まれるように、水、キレート剤、48%水酸化ナトリウム水溶液、及び炭酸水素ナトリウムを混合し、スケール除去用組成物を調製した。
次に、キレート剤のアルカリ金属塩の残留濃度を測定する試料である上記スケール除去用組成物2gを200mL容三角フラスコに精秤し、ここに水50mLと48%KOH(株式会社大阪ソーダ:かせいカリ液)3gを混合したものにトリエタノールアミン1滴(約40μL)を加え、さらにNANA指示薬(約0.1g)を添加し、攪拌した。
これを0.05モル/Lの塩化カルシウム水溶液で滴定することによりEDTA濃度を測定できる。
滴定量(mL)×Caイオンのモル濃度(モル/L)÷試料量(g)=EDTA・3Na濃度(モル/Kg)
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔から排出された排ガスを流す排ガス系に付着したスケールを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置の一形態を示すフロー図である。
図2図2は、実施例11で用いられた実験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に本発明の実施例を示し、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0040】
某石炭火力発電所Aに設置されている湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔の後流に設置されているガス-ガスヒーター再加熱器の伝熱面であるフィンチューブに付着していたスケール(灰色)を採取し、これを試験用スケール1とした。
また、某石炭火力発電所Bに設置されている湿式石灰石膏法の排煙脱硫装置における吸収塔の後流に設置されているガス-ガスヒーター再加熱器の伝熱面であるフィンチューブに付着していたスケール(灰色)を採取し、これを試験用スケール2とした。
これらの試験用スケール1及び2の性状を表す蛍光X分析結果及び1%懸濁水のpH値測定結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1~10及び比較例1~11では、表2に示される成分が、最終的に表2に示される配合量含まれるように、水、キレート剤及び48%水酸化ナトリウム水溶液又は48%水酸化カリウム水溶液から、キレート剤のアルカリ金属塩水溶液を調製し、次に炭酸アルカリ塩水溶液又は酢酸ナトリウム水溶液を配合して実施例及び比較例に係る試験用水溶液を得た。これら試験用水溶液を300mL容ビーカーに、250g入れ、30℃の恒温バスに静置した。ここに、約1cm×1cm×1cmにカットされた上記スケール1又は上記スケール2を重量測定後(約3g前後)、先に得られたそれぞれの試験用水溶液が入ったビーカーに入れ、7時間後に塊を取り出し、室温(15~25℃)にて24時間風乾後、重量測定を行い塊残存率を算出した。
測定結果を表2に示す。
【0043】
(キレート剤)
EDTA(キシダ化学株式会社:試薬特級 エチレンジアミン四酢酸)
DTPA(東京化成工業株式会社:特級 ジエチレントリアミン五酢酸)
CyDTA(東京化成工業株式会社:特級 トランス-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸一水和物)
NTA(東京化成工業株式会社:特級 ニトリロ三酢酸)
PDTA(東京化成工業株式会社:1級 1,3-プロパンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸)
DPTA-OH(東京化成工業株式会社:特級 1,3-ジアミンノ-2-プロパノール-N,N,N’,N’-四酢酸)
TTHA(東京化成工業株式会社:特級 トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-六酢酸)
EDDS・3ナトリウム(シグマ アルドリッチ ジャパン(同):(S,S)-エチレンジアミン-N,N’-二コハク酸三ナトリウム塩溶液 35%in HO)
48%水酸化ナトリウム水溶液(株式会社要薬品:苛性ソーダ液体)
48%水酸化カリウム水溶液(株式会社大阪ソーダ:かせいカリ液)
【0044】
(炭酸アルカリ塩)
NaHCO(和光純薬工業株式会社:試薬特級 炭酸水素ナトリウム)
NaCO(キシダ化学株式会社:試薬特級 炭酸ナトリウム無水)
KHCO(和光純薬工業株式会社:試薬特級 炭酸水素カリウム)
【0045】
(スケール塊残存率の算出方法)
7時間後の塊重量(g)÷投入前塊重量(g)×100=スケール塊残存率(%)
(評価基準)
スケール1及びスケール2における塊残存率が5%以下である場合:○
スケール1又はスケール2における塊残存率が5%を超え20%以下である場合:△
スケール1又はスケール2における塊残存率が20%を超える場合:×
【0046】
(実施例及び比較例に係る各試験用水溶液が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHの測定方法)
上記で調製して得られた実施例及び比較例に係る各試験用水溶液1.5gを200mL容ビーカーに秤取り、さらにイオン交換水148.5gを加え攪拌混合した。これを試験用水溶液が1.0重量%含まれるよう水で希釈された1重量%水溶液とした。上記1重量%水溶液を25℃の恒温層に60分間保管し、恒温に調整されたそれぞれの上記水溶液についてpHメーター(株式会社堀場製作所製:D-51)を用いてpHを測定した。上記1重量%水溶液のpH測定結果を、上記1重量%水溶液に含まれるキレート剤のアルカリ金属塩の濃度(重量%)と共に、表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
上記表2の結果から、特定のキレート剤のアルカリ金属塩と、炭酸塩と、水とを含む試験用水溶液であって、上記試験用水溶液が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHが7以上10以下である実施例1~10は、いずれもスケール除去能力を示すことが確認された。一方、特定のキレート剤のアルカリ金属塩を含まない、炭酸塩を含まない、又は試験用水溶液が1.0重量%となるように水で希釈したときのpHが上記特定の範囲から外れている比較例1~11は、いずれもスケール除去能力が実施例1~10と比較して著しく劣っており、実用的なスケール除去能力を有さないことが確認された。
【0049】
(実施例11)
上記の実施例4と同様に水、EDTA及び48%水酸化ナトリウム水溶液から、キレート剤のアルカリ金属塩水溶液を調製し、次に炭酸水素ナトリウム水溶液を配合して実施例11に係る試験用水溶液1500gを得た。これを2L容ビーカーに入れ、30℃恒温バスに静置した。このビーカーにスクリューポンプを繋ぎ、ビーカー底部から上記試験用水溶液を抜き取り、上記ビーカーの上部に設置した篩(直径8cm、目開き2mm)の上部から1200mL/分の流速で上記試験用水溶液が循環吐出される装置を作製した(図2を参照)。上記篩の上に湿潤状態で18.0gのスケール1の塊(約1cm×2cm×3cm)を置き、該塊の上部より吐出液を掛け、15分後、1時間後、3時間後、6時間後の塊重量(湿潤状態)を測定した。その結果を表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に記載の実施例11の結果から、本発明のスケール除去方法において、上記スケール除去用組成物を上記排ガス系に付着したスケールに接触させる工程では、上記スケールに対し上記組成物を掛けたり、散布する方法においても確実にスケール除去効果が得られることを確認した。
【0052】
実施例12~16、比較例12~16では、表4に示される成分が、最終的に表4に示される配合量含まれるように、水、キレート剤及び48%水酸化ナトリウム水溶液から、EDTA・3Na水溶液を調製し、ここに炭酸水素ナトリウム水溶液を配合し、さらに防食剤を配合して上記実施例及び上記比較例に係る試験用水溶液を調製した。各試験用水溶液を80mL容マヨネーズ瓶に9割容量まで加え、ここにテストピース(SPCC、3cm×5cm、#400研磨)を全浸漬させ蓋をした。該マヨネーズ瓶を30℃恒温層内に静置し、72時間(3日間)経過後、浸漬後のテストピースを取り出し、浸漬前後の重量差により腐食速度(MDD)を算出した。結果を下記表4に示す。
(評価基準)
MDDが30mg/dm・24h以下である場合:○
MDDが30mg/dm・24hより大きい場合:×
【0053】
(防食剤)
BT(ベンゾトリアゾール)(キシダ化学株式会社:試薬特級 1,2,3-ベンゾトリアゾール)
MBT(和光純薬工業株式会社:1級 5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール)
モリブデン酸ソーダ(キシダ化学株式会社:試薬特級 モリブデン酸ナトリウム2水和物)
亜硝酸ソーダ(キシダ化学株式会社:試薬特級 亜硝酸ナトリウム)
HEDP(キシダ化学株式会社:化学用 1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸1水和物)
【0054】
【表4】
【0055】
表4の結果から、試験用水溶液に、EDTA・3Naと、炭酸水素ナトリウムと、特定の防食剤とを含む実施例12~16は、いずれもテストピースの腐食速度が比較例12~16に係る試験用水溶液から得られた結果と比べ著しく小さく、防食効果を示すことが確認された。なお、上記実施例12~16及び比較例13~16の試験用水溶液によるスケール除去効果は、比較例12の試験用水溶液によるスケール除去効果と同程度であった。よって、スケール除去効果は、水溶液中の防食剤の有無に影響されないことが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1 ボイラ
2 電気集塵機
3 ガス-ガスヒーター熱回収器
4 ガス-ガスヒーター再加熱器
5 吸収塔
6 ミストエリミネーター
7 煙突
10 排ガス通路
11 石灰石サイロ
12 原料ピット
13 ろ液ピット
14 石こう脱水機
20 実施例11で用いられた試験装置
21 ビーカー
22 櫛
23 循環ポンプ
24 ウォーターバス


図1
図2