(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】受光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20221003BHJP
【FI】
H01L31/10 A
(21)【出願番号】P 2019031642
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 永児
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀一
(72)【発明者】
【氏名】青木 敬
(72)【発明者】
【氏名】小野 篤史
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-303927(JP,A)
【文献】特表2011-501433(JP,A)
【文献】特開2013-069892(JP,A)
【文献】特開2011-133472(JP,A)
【文献】特開2007-248141(JP,A)
【文献】特開2008-053615(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102709346(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/0392,31/08-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、
一面(10a)を有する基板(10)と、
前記一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、
前記基板に形成され、前記光に応じた前記検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、
前記開口部は、前記基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、
前記検知部は、前記基板の一面に対する法線方向から視たとき、前記開口部内のみに位置して
おり、
前記アンテナ部は、複数の凸部(42)を有し、前記複数の凸部が前記開口部を中心とする同心状に形成されており、
前記複数の凸部は、前記開口部における長手方向に沿った部分を有する四角枠状において、各角部が前記開口部側に凹まされた八角枠状とされている受光素子。
【請求項2】
入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、
一面(10a)を有する基板(10)と、
前記一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、
前記基板に形成され、前記光に応じた前記検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、
前記開口部は、前記基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、
前記検知部は、前記基板の一面に対する法線方向から視たとき、前記開口部内のみに位置して
おり、
前記開口部は、mを1以上の整数とし、前記表面プラズモンと前記光との共鳴波長をλとすると、前記長手方向の長さ(L)が{(2m-1)λ/2}~{(2m+1)λ/2}とされ、
前記検知部は、前記開口部を前記長手方向に沿って(2m-1)個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている受光素子。
【請求項3】
入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、
一面(10a)を有する基板(10)と、
前記一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、
前記基板に形成され、前記光に応じた前記検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、
前記開口部は、前記基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、
前記検知部は、前記基板の一面に対する法線方向から視たとき、前記開口部内のみに位置して
おり、
前記一面上に形成されて前記アンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、
前記アンテナ部の周囲に位置する部分の平均屈折率をnとし、mを1以上の整数とし、前記表面プラズモンと前記光との共鳴波長をλとすると、前記開口部は、前記長手方向の長さ(L)が{(2m-1)λ/2n}~{(2m+1)λ/2n}とされ、
前記検知部は、前記開口部を前記長手方向に沿って(2m-1)個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている受光素子。
【請求項4】
入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、
一面(10a)を有する基板(10)と、
前記一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、
前記基板に形成され、前記光に応じた前記検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、
前記開口部は、前記基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、
前記検知部は、前記基板の一面に対する法線方向から視たとき、前記開口部内のみに位置して
おり、
前記一面上に形成されて前記アンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、
前記アンテナ部の誘電率をε1とし、前記アンテナ部の周囲に位置する部分の平均誘電率をε2とし、mを1以上の整数とし、前記表面プラズモンと前記光との共鳴波長をλとし、前記表面プラズモンの波長をλpとすると、λp=λ(1/ε1+1/ε2)
1/2
であり、
前記開口部は、前記長手方向の長さ(L)が{(2m-1)λp/2}~{(2m+1)λp/2}とされ、
前記検知部は、前記開口部を前記長手方向に沿って(2m-1)個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている受光素子。
【請求項5】
入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、
一面(10a)を有する基板(10)と、
前記一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、
前記基板に形成され、前記光に応じた前記検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、
前記開口部は、前記基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、
前記検知部は、前記基板の一面に対する法線方向から視たとき、前記開口部内のみに位置して
おり、
前記開口部は、mを1以上の整数とし、前記表面プラズモンと前記光との共鳴波長をλとすると、前記長手方向の長さ(L)が{(2m)λ/2}~{2(m+1)λ/2}とされ、
前記検知部は、前記開口部を前記長手方向に沿って2m個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている受光素子。
【請求項6】
入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、
一面(10a)を有する基板(10)と、
前記一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、
前記基板に形成され、前記光に応じた前記検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、
前記開口部は、前記基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、
前記検知部は、前記基板の一面に対する法線方向から視たとき、前記開口部内のみに位置して
おり、
前記一面上に形成されて前記アンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、
前記アンテナ部の周囲に位置する部分の平均屈折率をnとし、mを1以上の整数とし、前記表面プラズモンと前記光との共鳴波長をλとすると、前記開口部は、前記長手方向の長さ(L)が{(2m)λ/2n}~{2(m+1)λ/2n}とされ、
前記検知部は、前記開口部を前記長手方向に沿って2m個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている受光素子。
【請求項7】
入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、
一面(10a)を有する基板(10)と、
前記一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、
前記基板に形成され、前記光に応じた前記検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、
前記開口部は、前記基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、
前記検知部は、前記基板の一面に対する法線方向から視たとき、前記開口部内のみに位置して
おり、
前記一面上に形成されて前記アンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、
前記アンテナ部の誘電率をε1とし、前記アンテナ部の周囲に位置する部分の平均誘電率をε2とし、mを1以上の整数とし、前記表面プラズモンと前記光との共鳴波長をλとし、前記表面プラズモンの波長をλpとすると、λp=λ(1/ε1+1/ε2)
1/2
であり、
前記開口部は、前記長手方向の長さ(L)が{(2m)λp/2}~{2(m+1)λp/2}とされ、
前記検知部は、前記開口部を前記長手方向に沿って2m個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている受光素子。
【請求項8】
前記開口部は、前記開口部における中心を基準とした2回以上の回転対称形とされている請求項
2ないし7のいずれか1つに記載の受光素子。
【請求項9】
前記アンテナ部は、複数の凸部(42)を有し、前記複数の凸部が前記開口部を中心とする同心状に形成されている請求項
2ないし8のいずれか1つに記載の受光素子。
【請求項10】
前記複数の凸部は、前記開口部における長手方向に沿った部分を有する四角枠状とされている請求項
9に記載の受光素子。
【請求項11】
前記複数の凸部は、前記開口部における長手方向に沿った部分を有する四角枠状において、各角部が前記開口部側に凹まされた八角枠状とされている請求項
9に記載の受光素子。
【請求項12】
前記複数の凸部は、円環状とされている請求項
9に記載の受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモンを励起させるアンテナ部を有する受光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1には、光に応じた検出信号を出力する受光素子が形成されている。具体的には、この受光素子は、基板を有し、基板に検知部が形成されている。そして、基板上には、表面プラズモンを励起するアンテナ部が形成され、アンテナ部には、検知部を露出させる開口部が形成されている。
【0003】
このような受光素子では、光が入射されると、表面プラズモンが入射光に含まれる所定の波長と表面プラズモン共鳴して近接場光を発生させる。そして、受光素子は、開口部から露出する検知部から近接場光(すなわち、受光素子に入射された光)に応じた検出信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記受光素子では、検知部は、基板の法線方向から視たとき、開口部内から開口部外に渡って形成されている。この場合、検知部のうちの開口部外に位置する部分は、光を検出せずに暗電流等のノイズを主に発生する部分となる。このため、上記受光素子では、信号とノイズとの比であるSN比が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、SN比を向上できる受光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1ないし7では、入射された光に応じた検出信号を出力する受光素子であって、一面(10a)を有する基板(10)と、一面上に形成されて表面プラズモンを励起し、厚さ方向に貫通する開口部(50)が形成されたアンテナ部(40)と、基板に形成され、光に応じた検出信号を出力する検知部(20)と、を備え、開口部は、基板の一面における一方向を長手方向とする部分を有しており、検知部は、基板の一面に対する法線方向から視たとき、開口部内のみに位置している。
そして、請求項1では、アンテナ部は、複数の凸部(42)を有し、複数の凸部が開口部を中心とする同心状に形成されており、複数の凸部は、開口部における長手方向に沿った部分を有する四角枠状において、各角部が開口部側に凹まされた八角枠状とされている。
請求項2では、開口部は、mを1以上の整数とし、表面プラズモンと光との共鳴波長をλとすると、長手方向の長さ(L)が{(2m-1)λ/2}~{(2m+1)λ/2}とされ、検知部は、開口部を長手方向に沿って(2m-1)個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている。
請求項3では、一面上に形成されてアンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、アンテナ部の周囲に位置する部分の平均屈折率をnとし、mを1以上の整数とし、表面プラズモンと光との共鳴波長をλとすると、開口部は、長手方向の長さ(L)が{(2m-1)λ/2n}~{(2m+1)λ/2n}とされ、検知部は、開口部を長手方向に沿って(2m-1)個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている。
請求項4では、一面上に形成されてアンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、アンテナ部の誘電率をε1とし、アンテナ部の周囲に位置する部分の平均誘電率をε2とし、mを1以上の整数とし、表面プラズモンと光との共鳴波長をλとし、表面プラズモンの波長をλpとすると、λp=λ(1/ε1+1/ε2)
1/2
であり、開口部は、長手方向の長さ(L)が{(2m-1)λp/2}~{(2m+1)λp/2}とされ、検知部は、開口部を長手方向に沿って(2m-1)個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている。
請求項5では、開口部は、mを1以上の整数とし、表面プラズモンと光との共鳴波長をλとすると、長手方向の長さ(L)が{(2m)λ/2}~{2(m+1)λ/2}とされ、検知部は、開口部を長手方向に沿って2m個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている。
請求項6では、一面上に形成されてアンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、アンテナ部の周囲に位置する部分の平均屈折率をnとし、mを1以上の整数とし、表面プラズモンと光との共鳴波長をλとすると、開口部は、長手方向の長さ(L)が{(2m)λ/2n}~{2(m+1)λ/2n}とされ、検知部は、開口部を長手方向に沿って2m個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている。
請求項7では、前記一面上に形成されて前記アンテナ部が配置される絶縁膜(30)を有し、前記アンテナ部の誘電率をε1とし、前記アンテナ部の周囲に位置する部分の平均誘電率をε2とし、mを1以上の整数とし、前記表面プラズモンと前記光との共鳴波長をλとし、前記表面プラズモンの波長をλpとすると、λp=λ(1/ε1+1/ε2)
1/2
であり、前記開口部は、前記長手方向の長さ(L)が{(2m)λp/2}~{2(m+1)λp/2}とされ、前記検知部は、前記開口部を前記長手方向に沿って2m個に分割した領域のうちの当該領域の中心部を含むように形成されている。
【0008】
これによれば、光を検出せずに暗電流等のノイズを主に発生する部分が存在し難くなり、SN比の向上を図ることができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態における受光素子の平面図である。
【
図2】
図1中のII-II線に沿った断面図である。
【
図3】入射光の波長と開口部の透過率との関係を示す図である。
【
図4】開口部の長さと、透過率の積分値との関係を示す図である。
【
図5】開口部に形成される定在波のモードを説明するための図である。
【
図6】第1実施形態における開口部と検知部との関係を示す断面図である。
【
図7】第1実施形態の変形例における開口部と検知部との関係を示す断面図である。
【
図8】第2実施形態における開口部と検知部との関係を示す断面図である。
【
図9】第3実施形態における受光素子の平面図である。
【
図10】第4実施形態における受光素子の平面図である。
【
図11】第4実施形態の変形例における開口部の平面図である。
【
図12】第5実施形態における受光素子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態の受光素子の構成について、
図1および
図2を参照しつつ説明する。なお、
図1では、後述する第2絶縁膜60を省略して示している。
【0013】
本実施形態の受光素子は、
図1および
図2に示されるように、一面10aを有する基板10を備えている。本実施形態では、基板10は、シリコン基板等で構成されている。そして、基板10には、光に応じた検出信号を出力可能とされた検知部20が形成されている。
【0014】
検知部20は、基板10の一面10aに対する法線方向(以下では、単に法線方向と称する)から視たとき、後述するアンテナ部40に形成された開口部50から露出する位置に形成されている。そして、検知部20は、例えば、ショットキーダイオードやPNダイオード等で構成され、
図1とは別断面において適宜引き回された拡散配線層等を通じて外部回路との電気的な接続が図れるようになっている。
【0015】
基板10の一面10a上には、酸化膜や窒化膜等で構成される第1絶縁膜30が形成されている。そして、第1絶縁膜30上には、表面プラズモンを励起可能なアンテナ部40が形成されている。アンテナ部40は、導電性材料で構成されており、例えば、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(M)等で構成される。
【0016】
アンテナ部40は、本実施形態では、基板10の面方向に沿って全体的に形成された主部41と、主部41上に形成されて規則的に配列された複数の凸部42とを有している。本実施形態では、複数の凸部42は、それぞれ基板10の一面10aにおける一方向に沿って延設されており、隣合う凸部42同士の間隔が等しくされたストライプ状とされている。なお、凸部42は、アンテナ部40における略中心部と異なる位置に形成されている。
【0017】
このような主部41および凸部42を有するアンテナ部40は、例えば、複数回のマスク蒸着法やリフトオフ法を行うことによって形成される。但し、アンテナ部40の形成方法はこれに限定されるものではなく、アンテナ部40は、導電性材料で構成される膜を蒸着等した後、当該膜がエッチング等されることによって形成されるようにしてもよい。
【0018】
アンテナ部40の略中心部には、法線方向から視たとき、検知部20を露出させる開口部50が形成されている。本実施形態では、開口部50は、凸部42の延設方向を長手方向とする矩形状とされており、主部41を厚さ方向に貫通するように形成されている。
【0019】
ここで、基板10には、上記のように検知部20が形成されているが、検知部20は、基板10の法線方向から視たとき、開口部50内のみに位置するように形成されている。つまり、検知部20は、法線方向から視たとき、開口部50から突出した部分を有さないように形成されている。また、本実施形態では、検知部20は、法線方向から視たとき、開口部50の長手方向における中心部(以下では、単に開口部50における中心部と称する)を含むように形成されている。
【0020】
第1絶縁膜30上には、アンテナ部40を被覆するように、酸化膜や窒化膜等で構成される第2絶縁膜60が配置されている。以上が本実施形態における受光素子の構成である。
【0021】
次に、上記受光素子の作動について説明する。上記受光素子では、アンテナ部40によって表面プラズモンの定在波が励起されている。このため、受光素子では、第2絶縁膜60側から光が入射すると、表面プラズモンが入射光に含まれる所定の波長と表面プラズモン共鳴して近接場光を発生させる。そして、受光素子は、開口部50から露出する検知部20から近接場光(すなわち、受光素子に入射された光)に応じた検出信号を出力する。
【0022】
続いて、本実施形態の開口部50の長さについて、具体的に説明する。なお、以下では、
図1に示されるように、開口部50における長手方向の長さを長さLとして説明する。
【0023】
まず、
図3に示されるように、受光素子に所定の波長を有する光を入射した場合、開口部50における光の透過率は、開口部50の長さLおよび入射した光の波長によって変化することが確認される。
図3の例では、透過率は、各開口部50の長さにおいて、入射した光の波長が約3.3μmの際に最も大きくなることが確認される。なお、
図3における透過率は、開口部50の長手方向における中心部の値である。
【0024】
そして、
図4に示されるように、
図3中の3.3μmを含む3~5μmの波長の範囲の透過率を積分すると、積分値は、開口部50の長さLに依存することが確認される。具体的には、積分値は、開口部50の長さLが長くなるにしたがって、極大となるピークPLと極小となるピークPSとが交互に形成されることが確認される。このように、極大のピークPLと極小のピークPSとが交互に形成されるのは、開口部50の長さLによって形成される表面プラズモンの定在波のモードが変化するためである。なお、透過率を積分した積分値は、開口部50の中心部における光の強度ということもでき、大きいほど検知部20への集光度が高いことを示している。
【0025】
すなわち、
図5に示されるように、開口部50での定在波Wは、モードによって振動の状態が異なる。例えば、1次モードや3次モード等の奇数モードである定在波Wでは、開口部50の中心部が振動の腹となる。一方、2次モードや4次モード等の偶数モードである定在波Wでは、開口部50の中心部が振動の節となる。
【0026】
そして、
図4は、開口部50における中心部の積分値であるため、開口部50での定常波が奇数モードである場合に大きくなり易い。つまり、極大となるピークPLは、奇数モードの影響が強いことを示し、極小となるピークPSは、偶数モードにおける影響が強いことを示している。
【0027】
本実施形態では、検知部20は、上記のように、法線方向から視たときに開口部50の中心部を含むように形成されている。このため、開口部50は、極大となるピークPLが得られるように長さLが設定されることが好ましい。この場合、極大となるピークPLは、開口部50の長さLが、その奇数モードの定在波Wが立ち始める長さから次の奇数モードの定在波Wが立ち始める長さまでの間の長さである場合に少なくとも含まれる。例えば、
図4中の最初の極大となるピークPL1は、少なくとも、1次モードの定在波Wが立ち始める長さから3次モードの定在波Wが立ち始める長さに含まれる。
【0028】
ここで、定在波Wにおけるモードの境界となるカットオフ波長は、Mを1以上の整数(すなわち、モードにおける次数)とし、λを共鳴波長とすると、Mλ/2で示される。そして、本実施形態では、法線方向から視たときに検知部20が開口部50の中心部を含むように形成されているため、開口部50の長さLは、開口部50の中心に振動の腹となる部分が形成される長さであることが好ましい。つまり、開口部50の長さLは、開口部50に奇数モードの定在波Wが形成されるようにすることが好ましい。このため、本実施形態では、開口部50の長さLは、mを1以上の整数とし、{(2m-1)λ/2}~{(2m+1)λ/2}とされている。
【0029】
これにより、例えば、
図6に示されるように、開口部50での定在波Wが1次モードとなるように開口部50の長さLを設定した場合には、定在波Wにおける振動の腹となる部分と対向する位置に検知部20が形成された状態となる。このため、検知部20への集光度をさらに向上でき、SN比の向上をさらに図ることができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態では、検知部20は、法線方向から視たとき、開口部50内にのみ位置するように形成されている。このため、光を検出せずに暗電流等のノイズを主に発生する部分が存在し難くなり、SN比の向上を図ることができる。
【0031】
また、本実施形態では、開口部50の長さLが{(2m-1)λ/2}~{(2m+1)λ/2}とされている。そして、検知部20は、法線方向から視たとき、開口部50の中心部を含むように形成されている。つまり、検知部20は、定在波Wにおける振動の腹となる部分と対向する位置に形成されている。このため、検知部20への集光度を向上でき、さらにSN比の向上を図ることができる。
【0032】
(第1実施形態の変形例)
上記第1実施形態の変形例について説明する。上記第1実施形態では、開口部50の中心に1つの検知部20を有する例について説明したが、検知部20は、1つのみではなく、複数配置されていてもよい。例えば、開口部50が3次モードの定在波Wが存在する長さLとされる場合、
図7に示されるように、振動の腹となる部分は、開口部50の中心部およびその両側に形成される。この場合、検知部20は、定在波Wにおける振動の腹となる部分とそれぞれ対向するように形成されていてもよい。
【0033】
つまり、開口部50の長さLを{(2m-1)λ/2}~{(2m+1)λ/2}とする場合、検知部20は、開口部50を長手方向に沿って(2m-1)個に分割し、分割した領域の略中心部に形成されるようにしてもよい。言い換えると、開口部50を奇数モードの定在波Wが存在する長さLとした場合、検知部20は、振動の腹となる部分と対向する位置にそれぞれ形成されるようにしてもよい。これによれば、各検知部20への集光度を向上できるため、さらにSN比の向上を図ることができる。
【0034】
なお、検知部20は、振動の腹となる部分と対向する位置の全てに形成されていなくてもよい。例えば、
図7の例では、検知部20が2つしか形成されていなくてもよく、検知部20の数は適宜変更可能である。
【0035】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、開口部50の長さLおよび検知部20の形成場所を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0036】
本実施形態の構成は、基本的には上記第1実施形態と同様であるが、開口部50の長さLおよび検知部20の形成場所を変更している。すなわち、上記第1実施形態では、法線方向から視たときに検知部20が開口部50の中心部を含むように形成され、開口部50を奇数モードの定在波Wが存在する長さLとする例について説明した。
【0037】
これに対し、本実施形態では、開口部50の長さLを偶数モードの定在波Wが存在する長さとしている。つまり、開口部50は、mを1以上の整数とすると、長さLが{(2m)λ}/2~{2(m+1)λ}/2を満たすように形成されている。
【0038】
この場合、上記
図5で説明したように、偶数モードの定在波Wでは、開口部50の中心部が振動の節となり、当該中心部と開口部50の端部との間に振動の腹が形成される。このため、本実施形態では、
図8に示されるように、検知部20は、開口部50の中心部と異なる部分に形成されており、定在波Wにおける振動の腹となる部分と対向するように形成されている。
【0039】
以上説明したように、本実施形態では、開口部50の長さLが{(2m)λ/2}~{2(m+1)λ/2}とされている。そして、検知部20は、法線方向から視たとき、定在波Wにおける腹となる部分と対向するように形成されている。このため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、上記のように開口部50および検知部20が形成されている。このため、開口部50の長さLを{(2m)λ/2}~{2(m+1)λ/2}とする場合、検知部20は、開口部50を長手方向に沿って(2m)個に分割し、分割した領域の略中心部に形成されているといえる。但し、検知部20は、分割した領域にそれぞれ形成されておらず、一部の領域のみに形成されていていてもよい。例えば、開口部50の長さLが2次モードの定在波Wを形成する長さである場合、検知部20が1つのみ形成されるようにしてもよい。
【0041】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、アンテナ部40の形状を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0042】
本実施形態では、
図9に示されるように、アンテナ部40は、複数の凸部42が四角枠状に形成され、これらが同心状に配置されることで構成されている。本実施形態では、複数の凸部42は、開口部50の長手方向と同じ方向を長手方向とする四角枠状とされている。なお、
図9では、第2絶縁膜60を省略して示してある。
【0043】
これによれば、開口部50の長手方向に沿った方向、および開口部50の長手方向と直交する方向の2方向で集光できる。このため、本実施形態の受光素子では、偏向依存性を抑制しつつ、検知部20への集光度をさらに向上できる。
【0044】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対し、アンテナ部40の形状を変更したものである。その他に関しては、第3実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0045】
本実施形態では、
図10に示されるように、開口部50は、基板10の面方向における一方向を長手方向とする第1開口部51と、当該一方向と直交する方向を長手方向とする第2開口部52とが連通されることで構成されている。具体的には、第1開口部51および第2開口部52は、各長手方向における中心部が一致するように形成されており、略十字状とされている。言い換えると、開口部50は、中心を基準とした2回以上の回転対称形とされている。
【0046】
そして、検知部20は、法線方向から視たとき、第1開口部51および第2開口部52の中心を含むように形成されている。
【0047】
なお、開口部50を上記構成とする場合、第1開口部51および第2開口部52の長さLは互いに直交する方向の長さとなる。また、開口部50は、複数の凸部42で囲まれた位置に形成されている。このため、開口部50は、第1開口部51および第2開口部52の少なくとも一方の長さLが上記第1実施形態で説明した長さとされていることが好ましい。
【0048】
また、アンテナ部40における複数の凸部42は、四角枠状における各角部が中心側に凹まされた八角枠状とされている。言い換えると、複数の凸部42は、四角枠状における各角部が中心側に凹まされた段差を有する形状とされている。
【0049】
以上説明したように、本実施形態では、凸部42が八角枠状とされている。このため、凸部42が四角枠状とされている場合と比較して、四角枠状とされている場合における各角部を開口部50側に位置させることができる。したがって、さらに偏向依存性を抑制しつつ、検知部20への集光度をさらに向上できる。
【0050】
なお、上記第3実施形態において、開口部50の形状は、第3実施形態と同様に、第1開口部51と第2開口部52とが連通された略十字状とされていてもよい。
【0051】
(第4実施形態の変形例)
第4実施形態の変形例について説明する。上記第4実施形態において、開口部50は、上記第1実施形態のように矩形状とされていてもよい。また、開口部50は、
図11に示されるように、第1~第3開口部51~53の中心部が連通されることで構成されていてもよい。この場合、第1~第3開口部51~53は、第1~第3開口部51~53における連通部分を中心とし、周方向に等角度ずつずれて配置されることが好ましい。なお、このような構成としても、開口部50は、中心を基準とした2回以上の回転対称形となる。
【0052】
これによれば、さらに偏向依存性を抑制しつつ、検知部20への集光度をさらに向上できる。なお、上記第3実施形態においても、第1~第3開口部51~53が連通されることで開口部50が構成されるようにしてもよい。
【0053】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対し、アンテナ部40の形状を変更したものである。その他に関しては、第3実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
本実施形態では、
図12に示されるように、アンテナ部40は、複数の凸部42が円環状に形成され、これらが同心状に配置されることで構成されている。
【0055】
このように、アンテナ部40における複数の凸部42を円環状に形成しても、上記第3実施形態と同様の効果を得ることができる。また、複数の凸部42を円環状に形成することにより、開口部50を中心として各径方向から集光できるため、さらに検知部20への集光度を向上できる。
【0056】
(第6実施形態)
第6実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、開口部50の長さLを変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0057】
本実施形態の基本的な構成は、上記第1実施形態と同様である。そして、本実施形態では、第1絶縁膜30および第2絶縁膜60の屈折率を考慮して開口部50の長さLを決定するようにしている。
【0058】
具体的には、開口部50は、第1絶縁膜30および第2絶縁膜60の平均屈折率をnとすると、長さLが{(2m-1)λ/2n}~{(2m+1)λ/2n}とされている。なお、第1絶縁膜30および第2絶縁膜60の平均屈折率とは、言い換えると、アンテナ部40の周囲に位置する部分の平均屈折率のことである。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、開口部50の長さLが{(2m-1)λ/2n}~{(2m+1)λ/2n}とされている。このため、第1、第2絶縁膜30、60の屈折率の影響を低減でき、検出精度の向上を図ることができる。
【0060】
(第7実施形態)
第7実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、開口部50の長さLを変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0061】
本実施形態の基本的な構成は、上記第1実施形態と同様である。そして、本実施形態では、アンテナ部40および第1、第2絶縁膜30、60の誘電率を考慮し、表面プラズモンの波長に基づいて開口部50の長さLを決定するようにしている。
【0062】
具体的には、表面プラズモンの波長をλpとし、アンテナ部40の誘電率をε1、第1絶縁膜30および第2絶縁膜60の平均誘電率をε2とすると、λp=λ(1/ε1+1/ε2)1/2で示される。このため、開口部50は、長さLが{(2m-1)λp/2}~{(2m+1)λp/2}を満たすように形成されている。なお、第1絶縁膜30および第2絶縁膜60の平均誘電率とは、言い換えると、アンテナ部40の周囲に位置する部分の平均誘電率のことである。
【0063】
以上説明したように、本実施形態では、開口部50の長さLが{(2m-1)λp/2}~{(2m+1)λp/2}とされている。このため、誘電率の影響を低減でき、検出精度の向上を図ることができる。
【0064】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0065】
例えば、上記各実施形態において、検知部20は、定在波Wにおける節の部分と対向するように形成されていてもよい。このような受光素子としても、法線方向から視たとき、検知部20が開口部50内にのみ位置するのであれば、光を検出せずにノイズを主に発生させる部分が少なくなるため、SN比の向上を図ることができる。
【0066】
また、上記第6実施形態において、第2絶縁膜60は配置されていなくてもよい。つまり、アンテナ部40は、周囲に第1絶縁膜30および空気が位置するように配置されていてもよい。この場合は、アンテナ部40の周囲に位置する部分の平均屈折率は、第1絶縁膜30および空気の平均屈折率となる。同様に、上記第7実施形態において、第2絶縁膜60は配置されていなくてもよい。この場合は、アンテナ部40の周囲に位置する部分の平均誘電率は、第1絶縁膜30および空気の平均誘電率となる。
【0067】
さらに、上記各実施形態を適宜組み合わせることもできる。例えば、上記第6実施形態を上記第2~第5実施形態に組み合わせてもよい。この場合、例えば、上記第6実施形態を上記第2実施形態に組み合わせる場合には、開口部50の長さLが{(2m)λ}/2n~{2(m+1)λ}/2nとなるようにすればよい。また、上記第7実施形態を上記第2~第4実施形態に組み合わせてもよい。この場合、例えば、上記第7実施形態を上記第2実施形態に組み合わせる場合には、開口部50の長さLが{(2m)λp}/2~{2(m+1)λp}/2となるようにすればよい。
【符号の説明】
【0068】
10 基板
10a 一面
20 検知部
40 アンテナ部
50 開口部