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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】がん免疫療法の新規バイオマーカ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20221003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221003BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221003BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221003BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221003BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
A61P35/00
A61P37/02
A61K45/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
G01N33/53 D
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019506231
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2018010028
(87)【国際公開番号】W WO2018168949
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2017050105
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514286871
【氏名又は名称】Repertoire Genesis株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】松本 成司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆二
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536642(JP,A)
【文献】国際公開第2015/162596(WO,A1)
【文献】特表2016-531849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12Q 1/00-3/00
A61K39/395
A61K45/00
A61P35/00
A61P37/02
G01N33/53
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体のT細胞のT細胞受容体(TCR)多様性を、該被験体のがん免疫療法に対する応答性の指標として用いる方法であって、
該被験体の末梢血サンプルからT細胞を単離する工程と、
該T細胞のTCR多様性を決定する工程と
を含み、該T細胞が、CD8PD-1T細胞である、方法。
【請求項2】
前記がん免疫療法が、免疫チェックポイント阻害剤の投与を含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記PD-1阻害剤が、ニボルマブまたはペムブロリズマブである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記TCR多様性が、Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、標準化Shannon指数、Unique50指数、DE30指数、DE80指数またはDE50指数であらわされる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記TCR多様性が、DE50指数であらわされる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記TCRがTCRαである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
以下の表:
【表45】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である場合、該被験体が奏効患者であることが示されるか、または該閾値未満である場合、該被験体が非奏効患者であることが示される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記TCRがTCRβである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
以下の表:
【表46】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である場合、該被験体が奏効患者であることが示されるか、または該閾値未満である場合、該被験体が非奏効患者であることが示される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
該被験体の末梢血サンプルからCD8PD-1T細胞を単離する工程と、
該CD8PD-1T細胞のTCR多様性を決定する工程と
をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記TCR多様性が、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって決定される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、T細胞のTCR多様性が高い被験体においてがんを治療するためのものであり、該被験体のTCR多様性を表す多様性指数が閾値以上であることによって、該TCR多様性が高いと判断され、該T細胞が、CD8PD-1T細胞である、組成物。
【請求項14】
前記T細胞が、前記被験体の末梢血中のT細胞である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤である、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
前記PD-1阻害剤が、ニボルマブまたはペムブロリズマブである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記被験体のT細胞のTCR多様性が、Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、標準化Shannon指数、Unique50指数、DE30指数、DE80指数またはDE50指数であらわされる、請求項13~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記被験体のT細胞のTCR多様性が、DE50指数であらわされる、請求項13~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記TCRがTCRαである、請求項13~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
以下の表:
【表47】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記TCRがTCRβである、請求項13~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
以下の表:
【表48】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記被験体のTCR多様性が、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって決定される、請求項13~22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
大規模高効率レパトア解析を含む方法によって決定されたレパトアの多様性を、被験体の治療への応答性の指標として用いる方法であって、
該被験体の末梢血サンプルからT細胞を単離する工程と、
該T細胞のTCR多様性を決定する工程と
を含み、該T細胞が、CD8PD-1T細胞である、方法。
【請求項25】
前記治療は免疫反応に関連する治療である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記レパトア解析はTCRレパトア解析である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記被験体のTCR多様性をあらわす多様性指数が閾値以上であることは、該被験体が奏効患者であることの指標であるか、または、該多様性指数が閾値未満であることは、該被験体が非奏効患者であることの指標である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法であって、該閾値が、ROC解析に基づいて定められるか、感度に基づいて定められるか、または特異度に基づいて決定されたものである、方法。
【請求項28】
前記被験体のTCR多様性をあらわす多様性指数が閾値以上であることは、該被験体が奏効患者であることの指標であるか、または、該多様性指数が閾値未満であることは、該被験体が非奏効患者であることの指標である、請求項1~12または27のいずれか1項に記載の方法であって、該閾値が、該被験体の多様性指数の算出に用いられたリード数に対して標準化されたものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん免疫療法の分野に関する。より詳細には、がん免疫療法に対する被験体の応答性の予測、および予測に基づいたがん免疫療法を用いた治療に関する。別の局面において、本発明は大規模高効率レパトア解析の新規用途に関する。より詳細には、本発明は、大規模高効率レパトア解析によって得られた多様性指数を用いたがん免疫療法に対する被験体の応答性の予測に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対する治療として、がん免疫療法が注目されている。特に、免疫チェックポイント阻害剤、例えば、抗PD-1抗体であるニボルマブは、非小細胞肺癌について従来標準治療であったドセタキセルに対して全生存期間で大きく上回る結果を示し、標準治療となっている。
【0003】
しかしながら、免疫チェックポイント阻害剤を受けた患者には、がんの進行が停止するまたはがんが寛解するような著効を示す患者が存在する一方で、抗PD-1抗体臨床試験においては3ヶ月以内に病勢増悪する「無効群」が認められる。しかし、効率よく無効群を判定できる手法は知られていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の1つの実施形態では、T細胞のT細胞受容体(TCR)多様性をがん免疫療法に対する応答性の指標として用いる方法が提供される。一般的に、がん免疫療法は、生体防御機構を利用するものであるため、治療への応答への個人差が存在するところ、その個人差を治療前に判定することのできるバイオマーカ(例えば、T細胞における特定の表面マーカを発現する細胞の割合、腫瘍に発現する表面タンパク質など)が探索されていた。しかしながら、腫瘍を攻撃していると考えられる細胞の組成(例えば、CD8PD-1細胞の割合)等は、がん免疫療法に対する奏効患者と非奏効患者との間で差がなく(図4)、バイオマーカとして使用できない。本発明者らは、驚くべきことに、被験体のT細胞のTCR多様性が、被験体の治療への応答の予測に用いることができることを見出した。例えば、肺がん患者に対して抗PD-1抗体(Nivolumab)に有効な患者は20~30%である。免疫チェックポイント阻害剤を含めたがん免疫療法は、非常に高価なものであることが多く、抗PD-1抗体等による治療を開始する前に有効患者を予測できればより効果的な治療を実現し、医療費の無駄をなくし、高騰する社会保障費の低減に寄与することができる。したがって、本発明は、がん免疫療法に対する応答性を予測するための新規なバイオマーカを提供するものである。
【0005】
本発明の1つの実施形態では、がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤の投与を含む。免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤であり得る。PD-1阻害剤は、ニボルマブまたはペムブロリズマブを含めた抗PD-1抗体であり得る。本発明の1つの実施形態は、T細胞のT細胞受容体(TCR)多様性を免疫チェックポイント阻害剤に対する応答性の指標として用いる方法を提供する。
【0006】
TCR多様性としては、複数の指標が利用されており、例えば、Shannon指数、Simpson指数、逆シンプソン指数、標準化Shannon指数、DE指数(例えば、DE50指数、DE30指数、DE80指数)またはUnique指数(例えば、Unique30指数、Unique50指数、Unique80指数)などである。本発明の好ましい実施形態において、TCR多様性はDE指数である。本発明のより好ましい実施形態において、TCR多様性はDE50指数である。
【0007】
本発明の1つの実施形態では、TCR多様性は、被験体のT細胞のTCR多様性である。1つの実施形態では、T細胞としては、T細胞抑制系細胞表面マーカが陽性であるものが使用され得る。あるいは、別の実施形態では、T細胞としては、T細胞刺激系細胞表面マーカが陽性であるものが使用され得る。T細胞としては、CD8、PD-1、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)、CD27、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITおよびCD367(GITR)からなる群から選択される1以上の細胞表面マーカが陽性であるT細胞のTCR多様性を用いる。1つの実施形態では、T細胞は、CD8であることが好ましい。さらなる実施形態では、T細胞は、CD8であり、かつ、T細胞抑制系細胞表面マーカが陽性である。さらなる実施形態では、T細胞は、CD8であり、かつ、T細胞刺激系細胞表面マーカが陽性である。さらなる実施形態では、T細胞は、CD8であり、かつ、T細胞抑制系細胞表面マーカおよびT細胞刺激系細胞表面マーカが陽性である。1つの実施形態では、T細胞は、CD8であり、かつPD-1、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)、CD27、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITおよびCD367(GITR)からなる群から選択される1以上の細胞表面マーカが陽性である。1つの実施形態では、T細胞は、CD8PD1、CD84-1BB、CD8TIM3、CD8OX40、CD8TIGIT、およびCD8CTLA4T細胞からなる群から選択される。好ましくは、T細胞は、CD8+PD-1T細胞であり得る。T細胞は、末梢血中のT細胞であり得る。
【0008】
TCR多様性は、TCRαの多様性であるか、またはTCRβの多様性とすることができる。本発明の1つの実施形態では、このようなTCR多様性が高いことは被験体が奏効患者であることを示す。
【0009】
本発明の別の実施形態は、TCR多様性が高い被験体にがん免疫療法を施すことを含む。1つの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、T細胞のTCR多様性が高い被験体においてがんを治療するための、組成物が提供される。さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、末梢血中のCD8+PD-1T細胞のTCR多様性が高い被験体においてがんを治療するための、組成物が提供される。
【0010】
一部の実施形態では、被験体のTCR多様性が閾値よりも高い場合に、被験体ががん免疫療法の奏効患者であることが示される。別の実施形態では、被験体のTCR多様性が閾値よりも低い場合に、被験体ががん免疫療法の非奏効患者であることが示される。DE指数を用いる場合には、リード数に対して標準化したDE指数を用いるか、リード数に対して調整した閾値との比較により、被験体ががん免疫療法の奏効患者であることを示すことができる。1つの実施形態では、被験体のTCRαの30000リードに標準化したDE50指数が0.39%以上である場合、被験体が奏効患者であることが示される。他の実施形態では、被験体のTCRβの30000リードに標準化したDE50指数が0.24%以上である場合、被験体が奏効患者であることが示される。任意のリード数に標準化したDE50指数と、該リード数に対応する閾値の比較によって、被験体が奏効患者であることまたは被験体が非奏効患者であることを示すことができる。リード数と閾値との組み合わせの例は本明細書において提供されている。
【0011】
一部の実施形態では、ROC解析に基づいて閾値を決定する。一部の実施形態では、特異度に基づいて閾値を決定し、例えば、非応答の最大値より高い値を閾値にする。一部の実施形態では、感度に基づいて閾値を決定し、例えば、応答者の最低ラインより低い値を閾値にする。本発明において、そのような閾値を決定する工程を含むこともでき、また、そのようにして決定された閾値を用いることができる。
【0012】
本発明の1つの実施形態は、被験体からT細胞を単離する工程と、T細胞のTCR多様性を測定する工程とを含む方法であり、T細胞は、CD8、PD-1、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)、CD27、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITおよびCD367(GITR)からなる群から選択される1以上の細胞表面マーカが陽性であるものを単離することができる。1つの実施形態では、T細胞は、CD8であることが好ましい。さらなる実施形態では、T細胞は、CD8であり、かつ、T細胞抑制系細胞表面マーカが陽性である。1つの実施形態では、T細胞は、CD8PD1、CD84-1BB、CD8TIM3、CD8OX40、CD8TIGIT、およびCD8CTLA4T細胞からなる群から選択される。さらなる実施形態では、T細胞は、CD8であり、かつ、T細胞刺激系細胞表面マーカが陽性である。特に好ましくは、被験体の末梢血サンプルからCD8+PD-1T細胞を単離する工程と、CD8+PD-1T細胞のTCR多様性を測定する工程とを含む方法である。
【0013】
大規模高効率TCRレパトア解析を用いることは、低頻度(1/10,000~1/100,000またはそれ以下)の遺伝子を同定することができるため、好ましい場合がある。本発明の1つの実施形態は、TCR多様性を大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって決定する工程を含む。本発明の1つの実施形態は、大規模高効率TCRレパトア解析によって決定したTCR多様性を、被験体の医療的状態、特に治療への応答性の指標として用いる方法である。
【0014】
本発明の1つの実施形態は、被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法であって、in vitroで被験体のT細胞のTCR多様性を測定する工程と、TCR多様性が高い場合、被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定する工程とを含む、方法に関する。あるいは、TCR多様性が低い場合、被験体ががん免疫療法に対して応答性が悪いと判定することも可能である。T細胞は、CD8PD-1であり得る。さらに、T細胞は、被験体の末梢血由来のものであり得る。
【0015】
本発明の別の実施形態は、被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法であって、被験体から末梢血サンプルを得る工程と、被験体の末梢血中のT細胞のTCR多様性を、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって測定する工程と、TCR多様性が高い場合、被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定する工程とを含む、方法に関する。あるいは、TCR多様性が低い場合、被験体ががん免疫療法に対して応答性が悪いと判定することも可能である。T細胞は、CD8PD-1であり得る。
【0016】
本発明のさらなる実施形態では、被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断し、被験体のがんを治療する方法であって、被験体から末梢血サンプルを得る工程と、被験体の末梢血中のT細胞のTCR多様性を測定する工程と、TCR多様性が基準値より高い場合、被験体にがん免疫療法を施す工程とを含む、方法が提供される。T細胞は、CD8PD-1であり得る。
【0017】
本発明はまた、大規模高効率レパトア解析により得られた多様性指数を用いて、がん免疫療法に対する被験体の応答性の予測する技術を提供する。
【0018】
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1) 被験体のT細胞のT細胞受容体(TCR)多様性を、該被験体のがん免疫療法に対する応答性の指標として用いる方法。
(項目2) 前記T細胞が、CD8であり、かつ1以上のT細胞抑制系細胞表面マーカが陽性である、前記項目に記載の方法。
(項目3) 前記T細胞が、CD8であり、かつ1以上のT細胞刺激系細胞表面マーカが陽性である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4) 前記T細胞が、CD8であり、かつPD-1、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)、CD27、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITおよびCD367(GITR)からなる群から選択される1以上の細胞表面マーカが陽性である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5) 前記T細胞が、CD8PD-1T細胞である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6) 前記T細胞が、前記被験体の末梢血中のT細胞である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7) 前記がん免疫療法が、免疫チェックポイント阻害剤の投与を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8) 前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目9) 前記PD-1阻害剤が、ニボルマブまたはペムブロリズマブである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10) 前記TCR多様性が、Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、標準化Shannon指数、Unique50指数、DE30指数、DE80指数またはDE50指数であらわされる、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11) 前記TCR多様性が、DE50指数であらわされる、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12) 前記TCRがTCRαである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13) 以下の表:
【表1A】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である場合、該被験体が奏効患者であることが示されるか、または該閾値未満である場合、該被験体が非奏効患者であることが示される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14) 前記TCRがTCRβである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15) 以下の表:
【表1B】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である場合、該被験体が奏効患者であることが示されるか、または該閾値未満である場合、該被験体が非奏効患者であることが示される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16) 該被験体の末梢血サンプルからCD8PD-1T細胞を単離する工程と、
該CD8PD-1T細胞のTCR多様性を決定する工程と
をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17) 前記TCR多様性が、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって決定される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18) 免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、T細胞のTCR多様性が高い被験体においてがんを治療するための、組成物。
(項目18A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載される特徴を有する、前記項目に記載の組成物。
(項目19) 前記T細胞が、CD8であり、かつ1以上のT細胞抑制系細胞表面マーカが陽性である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目20) 前記T細胞が、CD8であり、かつ1以上のT細胞刺激系細胞表面マーカが陽性である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目21) 前記T細胞が、CD8であり、かつPD-1、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)、CD27、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITおよびCD367(GITR)からなる群から選択される1以上の細胞表面マーカが陽性である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目22) 前記T細胞が、CD8PD-1T細胞である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目23) 前記T細胞が、前記被験体の末梢血中のT細胞である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目24) 前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目25) 前記PD-1阻害剤が、ニボルマブまたはペムブロリズマブである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目26) 前記被験体のT細胞のTCR多様性が、Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、標準化Shannon指数、Unique50指数、DE30指数、DE80指数またはDE50指数であらわされる、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目27) 前記被験体のT細胞のTCR多様性が、DE50指数であらわされる、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目28) 前記TCRがTCRαである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目29) 以下の表:
【表1C】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目30) 前記TCRがTCRβである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目31) 以下の表:
【表1D】

に記載されるリード数のいずれかに標準化した前記被験体のDE50指数が、該表に記載される該リード数に対応する閾値以上である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目32) 前記被験体のTCR多様性が、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって決定される、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目33) 被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法であって、
in vitroで該被験体のT細胞のTCR多様性を測定する工程と、
該TCR多様性が高い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定するか、または該TCR多様性が低い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が悪いと判定する工程と
を含む、方法。
(項目33A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載の方法。
(項目34) 被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法であって、
該被験体から末梢血サンプルを得る工程と、
該被験体の末梢血中のT細胞のTCR多様性を、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって測定する工程と、
該TCR多様性が高い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定するか、または該TCR多様性が低い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が悪いと判定する工程と
を含む、方法。
(項目34A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載の方法。
(項目35) 被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断し、該被験体のがんを治療する方法であって、
該被験体から末梢血サンプルを得る工程と、
該被験体の末梢血中のT細胞のTCR多様性を測定する工程と、
該TCR多様性が基準値より高い場合、該被験体にがん免疫療法を施す工程と
を含む、方法。
(項目35A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載の方法。
(項目36) 大規模高効率レパトア解析を含む方法によって決定されたレパトアの多様性を、被験体の治療への応答性の指標として用いる方法。
(項目36A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載の方法。
(項目37) 前記治療は免疫反応に関連する治療である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目38) 前記レパトア解析はTCRレパトア解析である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目39) 前記被験体のTCR多様性をあらわす多様性指数が閾値以上であることは、該被験体が奏効患者であることの指標であるか、または、該多様性指数が閾値未満であることは、該被験体が非奏効患者であることの指標である、前記項目のいずれかに記載の方法であって、該閾値が、ROC解析に基づいて定められるか、感度に基づいて定められるか、または特異度に基づいて決定されたものである、方法。
(項目40) 前記被験体のTCR多様性をあらわす多様性指数が閾値以上であることは、該被験体が奏効患者であることの指標であるか、または、該多様性指数が閾値未満であることは、該被験体が非奏効患者であることの指標である、前記項目のいずれかに記載の方法であって、該閾値が、該被験体の多様性指数の算出に用いられたリード数に対して標準化されたものである、方法。
【0019】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、試料採取の容易な末梢血細胞におけるTCRレパトア解析を行って得られた多様性指標は、がん免疫療法の効果予測のためのバイオマーカとして利用可能である。これにより、コンパニオン治療や個別改良が可能となり、社会保険料を低減させることができ、個人にとっては的確な治療を受けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、抗PD-1抗体による治療を受ける患者の治療効果を予測するためのTCRレパトア解析の例示的な手順を示す図である。
図2A図2Aは、抗PD-1抗体による治療を受けた患者#1および患者#2の、治療開始前および治療開始後のCT画像診断による臨床評価を示す図である。
図2B図2Bは、抗PD-1抗体による治療を受けた患者#3の治療開始前および治療開始後のCT画像診断による臨床評価と、患者#4の治療開始前および治療開始後のFDG-PET画像診断による臨床評価とを示す図である。
図3図3は、患者#1についてのFACS解析の結果を示す図である。
図4図4は、抗PD-1抗体奏効患者と非奏効患者間のPD1陽性細胞の比較を示す図である。抗PD-1抗体治療奏効患者(Responder、n=6)と非奏効患者(Non-Responder、n=6)の治療前のCD8T細胞中のPD1細胞の割合(左)と末梢血細胞のリンパ球分画に占めるCD8PD1細胞の割合(右)とを示した。CD8T細胞中に占めるPD1細胞の割合は、両群でほとんど差がなかった。
図5図5は、治療前PD-1抗体奏効患者と非奏効患者間のTCRαの多様性指標の比較を示す図である。抗PD-1抗体治療患者(n=12)の治療前に、患者全血より末梢血単核球細胞を単離し、FACSソーターによりCD8+PD-1+細胞を分画した。CD8+PD1+細胞からRNAを抽出し、大規模高効率TCRレパトア解析を実施して、その多様性指数を算出した(TCRα)。Shannon指数(A)、標準化Shannon指数(B)、Simpson指数(C)、逆Simpson指数(D)およびDE50指数(E)の多様性指数を用いて、PD-1抗体奏効患者(Responder,n=6)と非奏効患者(Non-Responder,n=6)間で比較した。すべての多様性指数において、PD-1抗体治療奏効患者が非奏効患者に比べ高い多様性を示した。
図6図6は、治療前PD-1抗体奏効患者と非奏効患者間のTCRβの多様性指標の比較を示す図である。抗PD-1抗体治療患者の治療前のCD8+PD1+細胞からRNAを抽出し、大規模高効率TCRレパトア解析を実施して、その多様性指数を算出した(TCRβ)。Shannon指数(A)、標準化Shannon指数(B)、Simpson指数(C)、逆Simpson指数(D)およびDE50指数(E)の多様性指数を用いて、PD-1抗体奏効患者(Responder,n=6)と非奏効患者(Non-Responder,n=6)間で比較した。その結果、すべての多様性指数において、PD-1抗体治療奏効患者が非奏効患者に比べ高い多様性を示した。
図7図7は、実施例1において用いた、各患者のTCRαおよびTCRβの多様性指数のそれぞれを指標として用いた場合に、閾値を様々に変化させた際の感度と、1-特異度とをプロットしたROC曲線である。上はTCRαの多様性指数を用いたものであり、下はTCRβの多様性指数を用いたものである。
図8図8は、TCRαについての各多様性指数(Shannon指数、標準化Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、DE30指数、DE50指数、DE80指数、Unique30指数、Unique50指数およびUnique80指数)のリード数に応じた変化を示す図である。実施例1において得られたデータから種々のリード数をランダムリサンプリングすることによって、各リード数に対応する多様性指数を算出し、100回のランダムリサンプリングの中央値を各被験者についてプロットした。各ドットは本明細書実施例1の各被験体を示す(n=12)。横軸は、リサンプルリード数(対数)であり、縦軸は多様性指数の値である。DE指数については、縦軸も対数軸で表している。各個体については、各々の指数において同じ色を使用して表示した。
図9図9は、TCRβについての各多様性指数(Shannon指数、標準化Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、DE30指数、DE50指数、DE80指数、Unique30指数、Unique50指数およびUnique80指数)のリード数に応じた変化を示す図である。実施例1において得られたデータから種々のリード数をランダムリサンプリングすることによって、各リード数に対応する多様性指数を算出し、100回のランダムリサンプリングの中央値を各被験者についてプロットした。各ドットは本明細書実施例1の各被験体を示す(n=12)。横軸は、リサンプルリード数(対数)であり、縦軸は多様性指数の値である。DE指数については、縦軸も対数軸で表している。各個体については、各々の指数において同じ色を使用して表示した。
図10A図10は、治療前PD-1抗体奏効患者と非奏効患者間のTCRαの、30000リードに標準化した多様性指標の比較を示す図である。抗PD-1抗体治療患者(n=12)の治療前に、患者全血より末梢血単核球細胞を単離し、FACSソーターによりCD8+PD-1+細胞を分画した。CD8+PD1+細胞からRNAを抽出し、大規模高効率TCRレパトア解析を実施して、その多様性指数を算出した(TCRα)。Shannon指数(A)、標準化Shannon指数(B)、Simpson指数(C)、逆Simpson指数(D)、DE30指数(E)、DE50指数(F)、DE80指数(G)、Unique30指数(H)、Unique50指数(I)およびUnique80指数(J)の多様性指数を用いて、PD-1抗体奏効患者(Responder,n=6)と非奏効患者(Non-Responder,n=6)間で比較した。30000リードに標準化したすべての多様性指数において、PD-1抗体治療奏効患者が非奏効患者に比べ高い多様性を示した。
図10B図10は、治療前PD-1抗体奏効患者と非奏効患者間のTCRαの、30000リードに標準化した多様性指標の比較を示す図である。抗PD-1抗体治療患者(n=12)の治療前に、患者全血より末梢血単核球細胞を単離し、FACSソーターによりCD8+PD-1+細胞を分画した。CD8+PD1+細胞からRNAを抽出し、大規模高効率TCRレパトア解析を実施して、その多様性指数を算出した(TCRα)。Shannon指数(A)、標準化Shannon指数(B)、Simpson指数(C)、逆Simpson指数(D)、DE30指数(E)、DE50指数(F)、DE80指数(G)、Unique30指数(H)、Unique50指数(I)およびUnique80指数(J)の多様性指数を用いて、PD-1抗体奏効患者(Responder,n=6)と非奏効患者(Non-Responder,n=6)間で比較した。30000リードに標準化したすべての多様性指数において、PD-1抗体治療奏効患者が非奏効患者に比べ高い多様性を示した。
図11A図11は、治療前PD-1抗体奏効患者と非奏効患者間のTCRβの、30000リードに標準化した多様性指標の比較を示す図である。抗PD-1抗体治療患者(n=12)の治療前に、患者全血より末梢血単核球細胞を単離し、FACSソーターによりCD8+PD-1+細胞を分画した。CD8+PD1+細胞からRNAを抽出し、大規模高効率TCRレパトア解析を実施して、その多様性指数を算出した(TCRα)。Shannon指数(A)、標準化Shannon指数(B)、Simpson指数(C)、逆Simpson指数(D)、DE30指数(E)、DE50指数(F)、DE80指数(G)、Unique30指数(H)、Unique50指数(I)およびUnique80指数(J)の多様性指数を用いて、PD-1抗体奏効患者(Responder,n=6)と非奏効患者(Non-Responder,n=6)間で比較した。30000リードに標準化したすべての多様性指数において、PD-1抗体治療奏効患者が非奏効患者に比べ高い多様性を示した。
図11B図11は、治療前PD-1抗体奏効患者と非奏効患者間のTCRβの、30000リードに標準化した多様性指標の比較を示す図である。抗PD-1抗体治療患者(n=12)の治療前に、患者全血より末梢血単核球細胞を単離し、FACSソーターによりCD8+PD-1+細胞を分画した。CD8+PD1+細胞からRNAを抽出し、大規模高効率TCRレパトア解析を実施して、その多様性指数を算出した(TCRα)。Shannon指数(A)、標準化Shannon指数(B)、Simpson指数(C)、逆Simpson指数(D)、DE30指数(E)、DE50指数(F)、DE80指数(G)、Unique30指数(H)、Unique50指数(I)およびUnique80指数(J)の多様性指数を用いて、PD-1抗体奏効患者(Responder,n=6)と非奏効患者(Non-Responder,n=6)間で比較した。30000リードに標準化したすべての多様性指数において、PD-1抗体治療奏効患者が非奏効患者に比べ高い多様性を示した。
図12図12は、TCRαについての各多様性指数(Shannon指数、標準化Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、DE30指数、DE50指数、DE80指数、Unique30指数、Unique50指数およびUnique80指数)のROC解析に基づく閾値のリード数に応じた変化を示す図である。横軸はリサンプルリード数(対数軸)を示し、縦軸は、各指数の値を示す。DE指数の閾値は、縦軸も対数軸で示される。DE指数の閾値は、両対数軸においてリード数と直線関係を有することが理解される。
図13図13は、TCRβについての各多様性指数(Shannon指数、標準化Shannon指数、Simpson指数、逆Simpson指数、DE30指数、DE50指数、DE80指数、Unique30指数、Unique50指数およびUnique80指数)のROC解析に基づく閾値のリード数に応じた変化を示す図である。横軸はリサンプルリード数(対数軸)を示し、縦軸は、各指数の値を示す。DE指数の閾値は、縦軸も対数軸で示される。DE指数の閾値は、両対数軸においてリード数と直線関係を有することが理解される。
図14図14は、TCRαおよびTCRβのDE50指数の閾値のリード数による変化の両対数軸における線形回帰による推定値を示す図である。
図15図15は、T細胞分画間のリード数の相関解析を示す図である。X軸はCD8+PD-1+分画における各TCRβクローンのリード数、Y軸は各細胞分画(CD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、CD8+CTLA4+)におけるリード数を示している。ドットは個々のTCRβクローンを示している。RはPearsonの相関係数を示した。
図16図16は、治療奏効患者のPBMCからFACSソートにより分離されたCD8+PD-1+、CD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、およびCD8+CTLA4+分画におけるTCRα鎖のShannon指数、Normalized Shannon指数、InverseSimpson指数、%DE50指数を算出した値を示す(中央)。治療奏効患者(n=6、左)および非奏効患者(n=6、右)のCD8+PD-1+における多様性指数も示した。治療奏効患者のCD8+PD-1+細胞は非奏効患者に比べ有意に高く、同時にCD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、およびCD8+CTLA4+分画はCD8+PD-1+細胞と同程度の多様度を示した。
図17図17は、治療奏効患者のPBMCからFACSソートにより分離されたCD8+PD-1+、CD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、およびCD8+CTLA4+分画におけるTCRβ鎖のShannon指数、Normalized Shannon指数、Inverse Simpson指数、%DE50指数を算出した値を示す(中央)。治療奏効患者(n=6、左)および非奏効患者(n=6、右)のCD8+PD-1+における多様性指数も示した。各T細胞分画はTCRα鎖同様にCD8+PD-1+細胞と同程度の多様度を示した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0023】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0024】
(がん免疫療法)
本明細書において、「がん免疫療法」とは、生物の有する免疫機能を用いてがんを治療する方法をいう。がん免疫療法には、大きく分けて、がんに対する免疫機能を強化することによるがん免疫療法と、がんの免疫回避機能を阻害することによるがん免疫療法が存在する。さらに、がん免疫療法には、体内での免疫機能を賦活化する能動免疫療法と、体外で免疫機能を賦活化させた、または増殖させた免疫細胞を体内に戻すことによる受動免疫療法とがある。
【0025】
本発明に記載される方法によって、このようながん免疫療法の治療効果に対する応答性を、TCRレパトアの多様性を指標として予測することができることを見出した。
【0026】
がん免疫療法の例としては、非特異的免疫賦活薬、サイトカイン療法、がんワクチン療法、樹状細胞療法、養子免疫療法、非特異的リンパ球療法、がん抗原特異的T細胞療法、抗体療法、免疫チェックポイント阻害療法、CAR-T療法などが挙げられる。
【0027】
免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫チェックポイント(阻害)療法は、近年大きな注目を集めている(Pardoll DM. The blockade of immune checkpoints in cancer immunotherapy. Nat Rev Cancer. 2012 Mar 22;12(4):252-64.)。がん細胞は、様々なタンパク質を表面に発現させるが、これが、T細胞などの免疫細胞による攻撃からの回避につながっているため、通常の状態では、生体の免疫機能のみではがん組織を排除できなくなっていると考えられている。免疫チェックポイント阻害剤は、そのようながん組織から免疫機能への抑制的シグナルの伝達を司る、リガンド-受容体相互作用等を阻害することによって、生体の免疫機能による効率的ながんの排除を可能にするものである。本発明の1つの実施形態は、T細胞(例えば、CD8PD-1T細胞)のT細胞受容体(TCR)多様性を、以下に記載するような免疫チェックポイント阻害剤への被験体の応答性を予測するための指標として用いる方法である。本発明の別の実施形態は、T細胞受容体(TCR)多様性に基づいて選択した(応答性の)被験体に、以下に示すような免疫チェックポイント阻害剤を投与する方法である。別の実施形態では、T細胞受容体(TCR)多様性に基づいて応答性ではないことが判明した被験体への免疫チェックポイント阻害剤を中断または中止あるいは回避する方法が提供される。
【0028】
免疫チェックポイント阻害剤の代表的な例は、PD-1阻害剤である。PD-1阻害剤としては、抗PD-1抗体であるニボルマブ(Nivolumab;オブジーボTMとして販売されている)およびペムブロリズマブ(Pembrolizumab;キイトルーダTMとして販売されている)が挙げられるがこれらに限定されない。1つの好ましい実施形態では、ニボルマブが対象として選択され得る。理論に束縛されることを望まないが、ニボルマブを用いた療法が好ましい一つの理由としては、本発明の大規模高効率TCRレパトア解析で算出された多様性指数を用いると、応答性の被験者と非応答性被験者とを明確に識別することができることが実施例において示されており、特にDE50指数を用いる、特定の閾値により明確に応答性と非応答性とを区別することができることが判明しているからである。もちろん、他のPD-1阻害剤についても同程度に多様性指数を利用することができると考えられる。
【0029】
抗PD-1抗体は、PD-1シグナルによるT細胞活性化の抑制を解除することによって抗がん効果を奏するものと考えられている。PD-1(programmed death 1)とPD-L1あるいはPD-L2とが相互作用すると、PD-1の細胞質ドメインにチロシン脱リン酸化酵素の一種であるSHP-2がリクルートされ,T細胞受容体シグナル伝達タンパク質であるZAP70を不活性化させることにより、T細胞の活性化が抑制されると考えられている(Okazaki, T., Chikuma, S., Iwai, Y. et al.: A rheostat for immune responses: the unique properties of PD-1 and their advantages for clinical application. Nat. Immunol., 14, 1212-1218 (2013))。その他、PD-L1はCD80とも相互作用してT細胞活性化を抑制するとも考えられている(Butte, M. J., Keir, M. E., Phamduy, T. B. et al.: PD-L1 interacts specifically with B7-1 to inhibit T cell proliferation. Immunity, 27, 111-122 (2007))。
【0030】
PD-1は、がん組織に浸潤しているキラーT細胞およびナチュラルキラー細胞で高く発現されており、腫瘍上のPD-L1によって免疫応答が減弱していると考えられている。このPD-1シグナルによる免疫応答の減弱を、抗PD-1抗体によって阻害すると、抗腫瘍免疫応答の増強効果が得られる。
【0031】
免疫チェックポイント阻害剤の他の例としては、PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-L1抗体であるアベルマブ、デュルバルマブまたはアテゾリズマブ)が挙げられる。
【0032】
PD-L1阻害剤は、上記のPD-1経路をPD-L1の側に結合して阻害し、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。
【0033】
免疫チェックポイント阻害剤の他の例としては、CTLA-4阻害剤(例えば、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブまたはトレメリルマブ)が挙げられる。
【0034】
CTLA-4阻害剤は、PD-1阻害とは異なる経路でT細胞を活性化し、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。T細胞は、表面のCD28が、CD80またはCD86と相互作用することによって活性化される。しかしながら、一旦活性化されたT細胞であっても、表面に発現したCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)が、CD80またはCD86と、CD20よりも高い親和性で優先的に相互作用し、それによって活性化が抑制されると考えられている。CTLA-4阻害剤は、CTLA-4を阻害することによって、CD20とCD80またはCD86との相互作用が阻害されることを防ぐことによって、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。
【0035】
さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin containing protein-3)、LAG-3(lymphocyte activation gene-3)、B7-H3、B7-H4、B7-H5(VISTA)、またはTIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domain)などの免疫チェックポイントタンパク質を標的としてもよい。
【0036】
上記のような免疫チェックポイントは、自己組織への免疫応答を抑制していると考えられるが、ウイルスなどの抗原が生体内に長期間存在する場合にもT細胞に免疫チェックポイントが増加する。腫瘍組織についても、生体内に長期間存在する抗原となっているため、これらの免疫チェックポイントによって抗腫瘍免疫を回避していると考えられ、上記のような免疫チェックポイント阻害剤は、このような回避機能を無効化し、抗腫瘍効果を奏する。
【0037】
本発明の1つの実施形態において、がんを有する被験体の、がん免疫療法に対する応答性の予測の指標が提供される。
【0038】
本発明において対象となるがんとしては、肺がん、非小細胞肺がん、腎(腎細胞)がん、前立腺がん、胃がん、精巣がん、肝(臓)がん、皮膚がん、食道がん、黒色腫、すい臓がん、膵がん、骨腫瘍・骨肉腫、大腸がん、軟部腫瘍、胆道がん、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫)、膀胱がん、喉頭がん、子宮がん(体部・頸部)、頭頸部がん、卵巣がん、乳がんなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の1つの実施形態では、肺がんを有する被験体のTCR多様性を、被験体のがん免疫療法に対する応答性の指標として用いる方法が提供される。
【0039】
(TCR多様性)
免疫システムによる生体防御機構は、主にT細胞やB細胞によって担われる特異的免疫に大きく依存している。T細胞やB細胞は自己の細胞や分子には反応せず、ウイルスや細菌などの外来性の病原体を特異的に認識して攻撃することができる。そのために、T細胞やB細胞は細胞表面上に発現した受容体分子によって自己抗原とともに他の生物由来の多様な抗原を認識し、識別できる機構を有している。T細胞ではT細胞受容体(T cell receptor, TCR)が抗原受容体として働く。それら抗原受容体からの刺激によって細胞内シグナルが伝達され、炎症性サイトカインやケモカインなどの産生が亢進し、細胞増殖が増進され、様々な免疫応答が開始される。
【0040】
TCRは、抗原提示細胞上に発現する主要組織適合遺伝子複合体(Major histocompatibility complex, MHC)のペプチド結合溝に結合したペプチド(peptide-MHC complex, pMHC)を認識することで、自己と非自己を識別するとともに抗原ペプチドを認識している(Cell 1994, 76, 287-299)。TCRは、2つのTCRポリペプチド鎖からなるヘテロダイマー受容体分子であり、通常のT細胞が発現するαβ型TCRと特殊な機能をもつγδ型TCRが存在する。αおよびβ鎖TCR分子は複数のCD3分子(CD3ζ鎖、CD3ε鎖、CD3γ鎖、CD3δ鎖)と複合体を形成し、抗原認識後の細胞内シグナルを伝達し、様々な免疫応答を開始させる。ウイルス感染に伴い細胞内で増殖したウイルス抗原やがん細胞由来のがん抗原などの内在性抗原は、MHCクラスI分子上に抗原ペプチドとして提示される。また、外来微生物由来の抗原はエンドサイトーシスにより抗原提示細胞に取り込まれ、プロセシングを受けたのちにMHCクラスII分子上に提示される。これらの抗原は、それぞれCD8+ T細胞あるいはCD4+ T細胞の発現するTCRにより認識される。TCR分子を介した刺激には、CD28、ICOS、OX40分子などの共刺激分子が重要であることも知られている。
【0041】
TCR遺伝子は、ゲノム上では異なる領域にコードされた多数のV領域(variable region、V)、J領域(joining region、J)、D領域(diversity region、D)と定常領域のC領域(constant region, C)から成る。T細胞の分化過程において、これら遺伝子断片が様々な組み合わせで遺伝子再構成され、α鎖およびγ鎖TCRはV-J-Cから成る遺伝子を、β鎖およびδ鎖TCRはV-D-J-Cから成る遺伝子を発現する。これら遺伝子断片の再構成により多様性が創出されるとともに、VとDあるいはDとJ遺伝子断片の間に1つ以上の塩基の挿入や欠失が起こることにより、ランダムなアミノ酸配列が形成され、より多様性の高いTCR遺伝子配列が作り出されている。
【0042】
TCR分子とpMHC複合体表面が直接結合する領域(TCRフットプリント)は、V領域内の多様性に富んだ相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)CDR1、CDR2およびCDR3領域から構成される。中でもCDR3領域はV領域の一部、ランダム配列により形成されるV-D-J領域とJ領域の一部を含み、最も多様性に富んだ抗原認識部位を形成している。一方、他の領域はFR(framework region)と呼ばれ、TCR分子の骨格となる構造を形成する役割を果たしている。胸腺におけるT細胞の分化成熟過程において、β鎖TCRが最初に遺伝子再構成され、pTα分子と会合してpre-TCR複合体分子を形成する。その後、α鎖TCRが再構成され、αβTCR分子が形成されるとともに、機能的αβTCRが形成されない場合はもう一方のα鎖TCR遺伝子アレルにおいて再構成が起こる。胸腺における正・負の選択を受け、適切な親和性をもったTCRが選択され、抗原特異性を獲得することが知られる(Annual Review Immunology, 1993, 6,309-326)。
【0043】
T細胞は、特定の抗原に対し高い特異性を持った1種類のTCRを産生する。生体には多数の抗原特異的T細胞が存在することで、多様なTCRレパートリー(レパトア)が形成され、様々な病原体に対する防御機構として有効に機能することができる。
【0044】
本明細書において「TCR多様性」とは、ある被験体のT細胞受容体のレパートリー(レパトア)の多様性をいい、当業者は当該分野で公知の様々な手段を用いて測定することができる。TCR多様性を示す指数を「TCR多様性指数」という。TCR多様性指数としては、当該分野で公知の任意のものを利用することができ、例えば、シャノン-ウィーバー指数(Shannon-Weaver index)、シンプソン指数(Simpson index)、逆シンプソン指数(Inverse Simpson index)、標準化シャノン-ウィーバー指数(Normalized Shannon-Weaver index)、DE指数(例えば、DE50指数、DE30指数、DE80指数)またはUnique指数(例えば、Unique50指数、Unique30指数、Unique80指数)などの多様性指数をTCRに適用して利用することができる。
【0045】
1つには、試料中のT細胞が個々のV鎖をどれくらい使用するかを、特定のVβ鎖特異的抗体を用いて、個々のVβ鎖を発現するT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析する方法(FACS解析)がある。
【0046】
その他に、ヒトゲノム配列から入手されるTCR遺伝子の情報をもとに、分子生物学的手法によるTCRレパトア解析が考案されてきた。細胞試料からRNAを抽出し、相補的DNAを合成後、TCR遺伝子をPCR増幅して定量する方法がある。
【0047】
細胞試料からの核酸の抽出は、RNeasy Plus Universal Mini Kit (QIAGEN)などの当技術分野で公知のツールを用いて行うことができる。TRIzol LS試薬に溶解した細胞からRNeasy Plus Universal Mini Kit (QIAGEN)を用いて全RNAの抽出および精製を行うことができる。
【0048】
抽出されたRNAからの相補的DNAの合成は、Superscript IIITM (Invitrogen)などの、当技術分野で公知の任意の逆転写酵素を用いて行うことができる。
【0049】
TCR遺伝子のPCR増幅は、当技術分野で公知の任意のポリメラーゼを用いて、当業者が適宜行うことができる。しかしながら、TCR遺伝子のような変動の大きい遺伝子の増幅においては、「非バイアス」で増幅することができれば、正確な測定のためには有利な効果があるといえる。
【0050】
PCR増幅のために用いるプライマーとしては、個々のTCR V鎖特異的プライマーを多数設計して、別個にリアルタイムPCR法等で定量する方法、あるいはそれら特異的プライマーを同時に増幅する方法(Multiple PCR)法が用いられてきた。しかしながら、各V鎖について内在性コントロールを用いて定量する場合でも、利用するプライマーが多いと正確な解析ができない。さらに、Multiple PCR法ではプライマー間の増幅効率の差が、PCR増幅時のバイアスを引き起こす欠点がある。このMultiple PCR法の欠点を克服するため、鶴田らはTCR遺伝子の二本鎖相補的DNAの5’末端にアダプターを付加した後に、共通のアダプタープライマーとC領域特異的プライマーによってすべてのγδTCR遺伝子を増幅するAdaptor-ligation PCR法を報告した(Journal of Immunological Methods, 1994,169, 17-23)。さらに、αβTCR遺伝子の増幅にも応用し、個々のV鎖に特異的なオリゴプローブによって定量するReverse dot blot法(Journal of Immunological Methods, 1997,201, 145-15.)やMicroplate hybridization assay法(Human Immunology, 1997, 56, 57-69)が開発された。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、WO2015/075939(Repertoire Genesis Inc.)に記載されているような、1種のフォーワードプライマーと1種のリバースプライマーからなる1セットのプライマーですべてのアイソタイプやサブタイプ遺伝子を含むTCR遺伝子を、存在頻度を変えることなく増幅して、TCR多様性を決定する。以下のようなプライマー設計は、非バイアス的な増幅に有利である。
【0052】
TCRあるいはBCR遺伝子の遺伝子構造に着目し、高度な多様性をもつV領域にプライマーを設定することなく、その5’末端にアダプター配列を付加することにより、すべてのV領域を含む遺伝子を増幅する。このアダプターは塩基配列上において任意の長さと配列であり、20塩基対程度が最適であるが、10塩基から100塩基までの配列を使用することができる。3’末端に付加されたアダプターは制限酵素により除去され、20塩基対のアダプターと同一配列のアダプタープライマーと共通配列であるC領域に特異的なリバースプライマーにより増幅することですべてのTCR遺伝子を増幅する。
【0053】
TCRあるいはBCR遺伝子メッセンジャーRNAから逆転写酵素により相補鎖DNAを合成し、続いて二本鎖相補的DNAを合成する。逆転写反応や二本鎖合成反応によって異なる長さのV領域を含む二本鎖相補的DNAが合成され、それら遺伝子の5’末端部に20塩基対と10塩基対からなるアダプターをDNAリガーゼ反応によって付加する。
【0054】
TCRのα鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖のC領域にリバースプライマーを設定し、これらの遺伝子を増幅することができる。C領域に設定されるリバースプライマーは、TCRの各Cβ、Cα、Cγ、Cδの配列に一致し、かつ他のC領域配列にはプライミングしない程度のミスマッチをもつプライマーを設定する。C領域のリバースプライマーはアダプタープライマーとの増幅ができるように、塩基配列、塩基組成、DNA融解温度(Tm)、自己相補配列の有無を考慮し、最適に作製する。C領域配列におけるアレル配列間で異なる塩基配列を除く領域にプライマーを設定することで、すべてのアレルを均一に増幅することができる。増幅反応の特異性を高めるため、複数段階のnested PCRを行う。
【0055】
いずれのプライマーもアレル配列間で異なる配列を含まない配列に対して、プライマー候補配列の長さ(塩基数)は、特に制限されないが、10~100塩基数であり、好ましくは、15~50塩基数であり、より好ましくは、20~30塩基数である。
【0056】
このような非バイアス的な増幅を用いることは、低頻度(1/10,000~1/100,000またはそれ以下)の遺伝子の同定に有利であり、好ましい。
【0057】
以上のように増幅したTCR遺伝子をシークエンシングすることによって、得られたリードデータからTCR多様性を決定することができる。
【0058】
ヒト試料からTCR遺伝子をPCR増幅し、次世代シーケンス解析技術を利用することで、従来は小規模かつV鎖使用頻度など限られた情報を得るTCRレパトア解析から、クローンレベルのより詳細な遺伝子情報を入手して解析する大規模高効率TCRレパトア解析が実現できるようになった。
【0059】
シークエンシングの手法は、核酸試料の配列を決定することができる限り限定されず、当技術分野で公知の任意のものを利用することができるが、次世代シークエンシング(NGS)を用いることが好ましい。次世代シークエンシングとしては、パイロシーケンシング、合成によるシークエンシング(シークエンシングバイシンセシス)、ライゲーションによるシーケンシング、イオン半導体シーケンシングなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
得られたリードデータを、V、D、J遺伝子を含む参照配列にマッピングすることで、ユニークリード数を導出して、TCR多様性を決定することができる。
【0061】
1つの実施形態では、使用される参照データベースは、V、D、J遺伝子領域ごとに準備する。典型的にはIMGTより公開されている領域ごと、アリルごとの核酸配列データセットを使用するが、それに限らず、各配列に一意のIDが割り振られているデータセットであれば利用可能である。
【0062】
得られたリードデータ(トリミングなどの適当な処理を必要に応じて行ったものを含む)を入力配列セットとして、遺伝子領域ごとの参照データベースと相同性検索し、最も近しい参照アリルおよびその配列とのアラインメントを記録する。ここで相同性検索には、Cを除きミスマッチ許容性の高いアルゴリズムを使用することになる。例えば相同性検索プログラムとして一般的なBLASTを使用する場合、ウィンドウサイズの短縮、ミスマッチペナルティの低減、ギャップペナルティの低減といった設定を、領域ごとに行うことになる。最も近しい参照アリルの選択においては、相同性スコア、アラインメント長、カーネル長(連続して一致する塩基列の長さ)、一致塩基数を指標とし、これらを定められた優先順位にしたがって適用する。本発明で使用されるVおよびJが確定した入力配列については、参照V上のCDR3先頭および参照J上のCDR3末尾を目印に、CDR3配列を抽出する。これをアミノ酸配列に翻訳することで、D領域の分類に使用する。D領域の参照データベースが準備できている場合は、相同性検索結果とアミノ酸配列翻訳結果の組合せを分類結果とする。
【0063】
上記により、入力セット中の各配列についてV、D、Jの各アリルがアサインされる。続いて、入力セット全体でV、D、Jの各出現頻度、もしくはその組合せの出現頻度を算出することで、TCRレパトアを導出する。分類に要請される精確さに応じて、出現頻度はアリル単位もしくは遺伝子名単位で算出される。後者は、各アリルを遺伝子名に翻訳することで可能となる。
【0064】
リードデータにV領域、J領域、C領域がアサインされたのち、一致するリードを集計し、ユニークリード(他に同じ配列をもたないリード)別に、試料中に検出されたリード数および全リード数に占める割合(頻度)を算出することができる。
【0065】
サンプル数、リード種類、リード数などのデータを使って、ESTIMATESあるいはR(vegan)などの統計解析ソフトウェアを用いて多様性指数あるいは類似性指数を算出することができる。好ましい実施形態では、TCRレパトア解析ソフトウェア(Repertoire Genesis Inc.)を用いる。
【0066】
上記のようにして得られた各ユニークリードのリード数データから多様性指数を求めることができる。例えば、シャノン-ウィーバー指数(Shannon-Weaver index)(単にShannon指数とも表記する)、シンプソン指数(Simpson index)、標準化シャノン-ウィーバー指数(Normalized Shannon-Weaver index)およびDE50指数は次の数式に従って算出することができる。N:全リード数、ni: i番目ユニークリードのリード数、S: ユニークリード数、S50: 全リードの50%を占める上位ユニークリードの数
【数1】


【数2】


【数3】


【数4】


【数5】
【0067】
他の多様性の指標としては、逆シンプソン指数(1/λ)、森下のβ指数、McIntoshの均衡度指数、McNaughtonの優占度指数、元村の1/α、Fisherの多様度指数、SheldonのeH’、Pielouの均衡度指数、Prestonの1/σ、森下の繁栄指数Nβ、PielouのH’Nなどを用いてもよい。DE50指数を含めたDE指数は、割合またはパーセント(%)によって表記することも可能であり、当業者は表記される数値の意味を明確かつ適切に理解して、閾値を換算するなどして本発明を実施することが可能である。DE指数は、全リードの任意の割合(1~99%)を占める上位ユニークリードの数/ユニークリード数として算出することができ、本発明における多様性指標として使用することが可能である。
【0068】
DE指数としては、DE50指数の他、S50(全リードの50%を占める上位ユニークリードの数)に替えて、S(x=0~100の任意の数値)に基づくDEX指数を用いることが可能である。例えば、S30(全リードの30%を占める上位ユニークリードの数)およびS80(全リードの80%を占める上位ユニークリードの数)を用いたDE30指数およびDE80指数を用いることも可能である。また、DE指数は、リード数に対して標準化した値(例えば、80000リード、30000リード、10000リードなどに対して標準化)を用いることが可能である。
【0069】
また、DE指数の分子である、Sを直接用いるUniqueX指数も用いることができる。Unique指数としては、例えば、Unique30、Unique50またはUnique80指数等が挙げられる。
【0070】
(大規模高効率TCRレパトア解析)
本発明の好ましい実施形態では、大規模高効率TCRレパトア解析を用いてTCR多様性を測定する。本明細書において、「大規模高効率レパトア解析」とは、WO2015/075939(この文献の開示は本明細書においてその全体が必要に応じて参考として援用される。)に記載されており、対象がTCRの場合「大規模高効率TCRレパトア解析」と称する。大規模高効率レパトア解析では、データベースを用いて被験体のレパトア(Repertoire)(T細胞レセプター(TCR)またはB細胞レセプター(BCR)の可変領域)を定量的に解析する方法であり、この方法は、(1)該被験者から非バイアス的に増幅した、T細胞レセプター(TCR)またはB細胞レセプター(BCR)の核酸配列を含む核酸試料を提供する工程;(2)該核酸試料に含まれる該核酸配列を決定する工程;および(3)決定された該核酸配列にもとづいて、各遺伝子の出現頻度またはその組み合わせを算出し、該被験体のレパトアを導出する工程を包含し、前記(1)は、以下の工程(1-1)標的となる細胞に由来するRNA試料を鋳型として相補的DNAを合成する工程;(1-2)該相補的DNAを鋳型として二本鎖相補的DNAを合成する工程;(1-3)該二本鎖相補的DNAに共通アダプタープライマー配列を付加してアダプター付加二本鎖相補的DNAを合成する工程;(1-4)該アダプター付加二本鎖相補的DNAと、該共通アダプタープライマー配列からなる共通アダプタープライマーと、第1のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーとを用いて第1のPCR増幅反応を行う工程であって、該第1のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーは、該TCRまたはBCRの目的とするC領域に十分に特異的であり、かつ、他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計される、工程;(1-5)(1-4)のPCR増幅産物と、該共通アダプタープライマーと、第2のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーとを用いて第2のPCR増幅反応を行う工程であって、該第2のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーは、該第1のTCRのC領域特異的プライマーの配列より下流の配列において該TCRまたはBCRのC領域に完全マッチの配列を有するが他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計される、工程;および(1-6)(1-5)のPCR増幅産物と、該共通アダプタープライマーの核酸配列に第1の追加アダプター核酸配列を含む付加共通アダプタープライマーと、第2の追加アダプター核酸配列および分子同定(MID Tag)配列を第3のTCRまたはBCRのC領域特異的配列に付加したアダプター付の第3のTCRのC領域特異的プライマーとを用いて第3のPCR増幅反応を行う工程であって、該第3のTCRのC領域特異的プライマーは、該第2のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーの配列より下流の配列において該TCRまたはBCRのC領域に完全マッチの配列を有するが他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計され、該第1の追加アダプター核酸配列は、DNA捕捉ビーズへの結合およびemPCR反応に適切な配列であり、該第2の追加アダプター核酸配列は、emPCR反応に適切な配列であり、該分子同定(MID Tag)配列は、増幅産物が同定できるように、ユニークさを付与するための配列である、工程を包含する。この方法の具体的な詳細はWO2015/075939に記載されており、当業者はこの文献および本明細書の実施例等を適宜参照して解析を実施することができる。
【0071】
本発明の1つの実施形態では、T細胞の亜集団のTCR多様性を用いる方法が提供される。1つの実施形態では、T細胞としては、T細胞抑制系細胞表面マーカが陽性であるものが使用され得る。あるいは、別の実施形態では、T細胞としては、T細胞刺激系細胞表面マーカが陽性であるものが使用され得る。例えば、CD8、PD-1、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)、CD27、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITおよびCD367(GITR)からなる群から選択される1以上の細胞表面マーカが陽性であるT細胞の亜集団のTCR多様性を用いることができる。1つの実施形態では、T細胞は、CD8PD1、CD84-1BB、CD8TIM3、CD8OX40、CD8TIGIT、およびCD8CTLA4T細胞からなる群から選択される。
【0072】
本明細書において、「T細胞刺激系細胞表面マーカ」とは、T細胞を活性化させるシグナルを伝達する細胞表面分子をいう。「T細胞刺激系細胞表面マーカ」の例としては、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)またはCD27などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0073】
本明細書において、「T細胞抑制系細胞表面マーカ」とは、T細胞を抑制するシグナルを伝達する細胞表面分子をいう。「T細胞抑制系細胞表面マーカ」の例としては、PD-1、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITまたはCD367(GITR)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
理論に拘束されるものではないが、このような細胞表面マーカを発現しているT細胞亜集団のTCR多様性が高いことは、その亜集団中にがん組織の表面抗原を認識するTCRを有するものが確実に存在するため、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって利益を受けやすいものと考えることが可能である。
【0075】
T細胞の亜集団は、例えば、CD8T細胞の集団である。好ましくは、CD8であり、かつ1以上の免疫チェックポイント分子を発現しているT細胞亜集団であり、例えば、CD8かつPD-1、CD28、CD154(CD40L)、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD278(ICOS)、CD27、CD152(CTLA-4)、CD366(TIM-3)、CD223(LAG-3)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、TIGITおよびCD367(GITR)からなる群から選択される1以上の細胞表面マーカが陽性であるT細胞の亜集団である。1つの実施形態では、T細胞は、CD8である。一部の実施形態では、T細胞刺激系細胞表面マーカが陽性であるT細胞の亜集団のTCR多様性を、T細胞抑制系細胞表面マーカが陽性であるT細胞の亜集団のTCR多様性、あるいは、T細胞刺激系細胞表面マーカおよびT細胞抑制系細胞表面マーカが陽性であるT細胞の亜集団のTCR多様性を用いることができる。一部の場合には、T細胞の亜集団は、PD-1T細胞の集団であり得る。TCRの多様性は、T細胞の亜集団ごとに決定することができ、本発明の好ましい実施形態では、T細胞の亜集団は、CD8PD-1T細胞の集団である。適切な亜集団についてのTCR多様性は、被験体の医療的状態の指標として用いた場合に、より正確な指標として用いることができる場合がある。
【0076】
そのようなT細胞の亜集団を分離する方法は、当該技術分野で公知であり、適切なセルソーター(例えば、BD FACSAria III セルソーター(BD Bioscience))を用いて行うことができる。当業者は、分離しようとする亜集団を区別する細胞表面マーカに対する標識抗体を適宜用いることができる。分離した亜集団から抽出した核酸試料を用いて前記したようにTCRレパトア解析を行えば、特定のT細胞亜集団についてのTCR多様性を決定することができる。
【0077】
特定細胞を分画しない方法でPBMCにおけるTCR多様性を調べた報告(https://meetinglibrary.asco.org/record/126066/abstract)においては、特定細胞を分画しない場合には、抗PD-1抗体に対する奏効患者と非奏効患者とをTCR解析によっては有意に峻別することができなかったことが報告された。本明細書において実証されるように、特定の細胞集団におけるTCR多様性ががん免疫療法に対する奏効患者と非奏効患者との区別に使用できるという知見は予想外のものである。
【0078】
T細胞は、任意の組織から取得してきたものを使用することができる。T細胞としては、例えば、末梢血、腫瘍部位、正常組織中、骨髄または胸腺等から取得することができる。好ましい実施形態では、被験体の末梢血中のT細胞のTCR多様性を決定する。末梢血からのT細胞の採取は、非侵襲的であり、簡便である。
【0079】
TCRを測定するTCR鎖は、α鎖、β鎖、γ鎖および/またはδ鎖である。1つの実施形態では、TCRαの多様性が用いられる。別の実施形態ではTCRβが用いられる。
【0080】
(診断)
がん免疫療法に対する応答は、RECIST v1.1(New response evaluation criteria in solid tumours:Revised RECIST guideline (version 1.1))に基づいて決定することができる。
【0081】
がん治療の効果は、腫瘍のサイズの変化などから、完全奏効(Complete Response:CR)、部分奏効(Partial Response:PR)、進行(Progressive Disease:PD)または安定(Stable Disease:SD)として判定することができる。
【0082】
本明細書において、「奏効患者」(Responder)とは、がん治療に対して、完全奏効または部分奏効を示す被験体をいう。本明細書において、「非奏効患者」(Non-Responder)とは、がん治療に対して、進行または安定を示す被験体をいう。
【0083】
被験体のがん治療に対する応答性は、被験体が「奏効患者」であること、または被験体が「非奏効患者」であることを含む。したがって、被験体のがん治療に対する応答性の判断は、被験体が奏効患者であるか非奏効患者であるかを判断することを含む。
【0084】
本発明の1つの局面は、TCR多様性を用いて、被験体が「奏効患者」であること、または被験体が「非奏効患者」であることを、予測または判断する。判断の時期は、治療の開始前に予測することが好ましいが、治療開始後でもよい。現在行っている治療が適切かどうかを判断することも医療上の有用性を有するからである。あるいは、本発明のTCR多様性を用いて予後を判断することもできる。例えば、本発明のTCR多様性を用いて、奏効患者が非奏効になること、つまり再発を予測することが可能である。さらに、判断の時期としては、がん免疫療法を施した後(例えば、免疫チェックポイント阻害剤の投与後)、経時的にレパトア解析を実施し、多様性指標から予後を判断することが可能である。
【0085】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0086】
(応答性の指標)
1つの局面において本発明は、被験体のT細胞のT細胞受容体(TCR)多様性を、該被験体のがん免疫療法に対する応答性の、または当該応答性の診断の指標として用いる方法を提供する。ここで、TCR多様性は、多様性指数として提供され得る。T細胞は、末梢血中のCD8PD-1であり得る。
【0087】
別の局面において、本発明は、被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法であって、in vitroで該被験体のT細胞のTCR多様性を測定する工程と、該TCR多様性が高い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定する工程とを含む、方法を提供する。あるいは、TCR多様性が低い場合、被験体ががん免疫療法に対して応答性が悪いと判定することも可能である。T細胞は、末梢血中のCD8PD-1T細胞であり得る。
【0088】
さらに別の局面では、本発明は、被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法であって、該被験体から末梢血サンプルを得る工程と、該被験体の末梢血中のT細胞のTCR多様性を、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって測定する工程と、該TCR多様性が高い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定する工程とを含む、方法を提供する。あるいは、TCR多様性が低い場合、被験体ががん免疫療法に対して応答性が悪いと判定することも可能である。T細胞は、末梢血中のCD8PD-1T細胞であり得る。
【0089】
理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、被験体のTCR多様性の高さ、すなわち、多様性指数が高い値であると、がん免疫療法へのより良い応答性と相関していることを見出した。特に、CD8PD-1T細胞のTCR多様性は、免疫チェックポイント阻害剤、特に、PD-1阻害剤(例えば、ニボルマブまたはペムブロリズマブ)による治療への応答性の有利な指標として有用である。
【0090】
被験体のシャノン-ウィーバー指数(Shannon-Weaver index)、逆シンプソン指数(Inverse Simpson index)、シンプソン指数(Simpson index)、標準化シャノン-ウィーバー指数(Normalized Shannon-Weaver index)、DEX指数(Xは0~100、例えば、DE30指数、DE50指数、DE80指数など)、および/またはUniqueX(Xは0~100、例えば、Unique30指数、Unique50指数、Unique80指数等)を用いて、これらが高いことを、がん免疫療法へのより良い応答性の指標として用いることができる。
【0091】
理論に拘束されるものではないが、本発明の実施例の結果から、がんを攻撃するCD8T細胞(キラーT細胞、または細胞傷害性T細胞(CTL))集団の中に、がん組織の表面抗原を認識するTCRを有するものが存在しない、または少ない場合、免疫チェックポイントを阻害したとしても、抗腫瘍効果があまり得られないということが考えられる。TCR多様性が高い被験体においては、がん組織の表面抗原を認識するTCRを有するものが確実に存在するため、免疫チェックポイント阻害剤による治療によって利益を受けやすいものと考えることが可能である。
【0092】
さらに、がんは、一様な細胞集団ではなく複数の細胞集団によって構成されていることが知られる。それら多様ながん細胞は、細胞ごとに異なるがん抗原を発現していると考えられる。従って、本発明の実施例の結果から、がん細胞を抑制するにはより多様な抗原を認識する免疫細胞が必要になると予測され、多様なT細胞を有する患者では免疫チェックポイント阻害薬による効果が発揮されやすいと考えることが可能である。
【0093】
本発明の1つの実施形態では、被験体のTCRのシャノン-ウィーバー指数(Shannon-Weaver index)、逆シンプソン指数(Inverse Simpson index)、シンプソン指数(Simpson index)、標準化シャノン-ウィーバー指数(Normalized Shannon-Weaver index)、DEX指数(Xは0~100、例えば、DE30指数、DE50指数、DE80指数など)、および/またはUniqueX(Xは0~100、例えば、Unique30指数、Unique50指数、Unique80指数等)の値に基づいて、本明細書に記載されるいずれかのがん免疫療法に対して該被験体が奏効患者であることを決定するか、奏効患者でないことを決定するか、非奏効患者であることを決定するか、または非奏効患者でないことを決定する。
【0094】
本発明の1つの実施形態では、本明細書において記載される、多数解析に基づく数値を閾値として用いることが可能である。本明細書において記載される閾値は、あくまでも例示であり、当業者は、さらなる被験体集団における判定の結果に基づいて、さらなる閾値を定めて用いることも可能である。本明細書においては、閾値を定める方法についても開示され、本発明の方法は、閾値を定める工程を含んでもよく、そのような方法に従って予め定められている閾値を使用してもよい。
【0095】
多様性指数の閾値は、一定数の奏効患者と非奏効患者の多様性指数を算出し、奏効患者と非奏効患者を鑑別する数値を決定することによって設定することができる。鑑別する数値の決定方法としては、奏効患者集団の最小値を用いること(奏効患者を確実に奏効と判定する、感度が100%となる)、非奏効患者集団の最大値を用いること(非奏効患者を奏効患者と判定しない、特異度が100%となる)、またはROC解析を用いること(感度と特異度のバランスによる判定の有効性を最大化する)が挙げられる。
【0096】
他の手法として、非奏効群または奏効群の数値から、基準範囲(基準値)を求めることによって、かかる基準範囲を超えた異常値で鑑別することも可能である。基準範囲は、例えば、平均値±標準偏差(SD)や、平均値±2SDなどの範囲であり得、その基準範囲の上限または下限は基準値とされ得る。一部の場合には、非奏効群の数値から、平均値+SDまたは平均値+2SD等を算出することによって閾値を決定することが可能である。一部の場合には、奏効群の数値から、平均値-SDまたは平均値-2SD等を算出することによって閾値を決定することが可能である。
【0097】
多様性指標や閾値がリード数に影響を受ける場合は、リード数の標準化処理を行い閾値を設定する、あるいは再標本化(リサンプリング)によって異なるリード数における閾値を算出し、リード数と閾値との回帰分析等から与えられる予測式(例えば、リード数:X、閾値:Yとした場合に、一般式Y=aX^bなどで表され得る)を用いて閾値を設定することが挙げられる。
【0098】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαのシャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約3.2~4.4、好ましくは約3.3~約4.2の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0、約4.1、約4.2など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0099】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの逆シンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約9~約19、好ましくは、約10~約18の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0100】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαのシンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.86~約0.96、好ましくは、約0.88~約0.94の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.86、約0.87、約0.88、約0.89、約0.90、約0.91、約0.92、約0.93、約0.94、約0.95、約0.96など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0101】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの標準化シャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.41~約0.51、好ましくは約0.42~約0.49の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.42、約0.43、約0.44、約0.45、約0.46、約0.47、約0.48、約0.49など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0102】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαのDE50指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.0007~約0.0015の範囲で設定することができ、好ましくは約0.0008~約0.0014、約0.0009~約0.0013、約0.0010~約0.0011等の範囲で適宜決定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.0007、約0.0008、約0.0009、約0.0010、約0.0011、約0.0012、約0.0013、約0.0014、約0.0015など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0103】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRβのシャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約3.2~約4.3、好ましくは約3.4~約4.1の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0、約4.1など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0104】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRβの逆シンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、約8~32、好ましくは約10~約30の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0105】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRβのシンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.90~約0.96、好ましくは、約0.92~約0.95の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.90、約0.91、約0.92、約0.93、約0.94、約0.95、約0.96など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0106】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの標準化シャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、約0.37~約0.48、好ましくは約0.38~約0.47の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約0.38、約0.39、約0.40、約0.41、約0.42、約0.43、約0.44、約0.45、約0.46、約0.47など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0107】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαのDE50指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、約0.0004~約0.0012、好ましくは、約0.0005~約0.0012の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約0.0005、約0.0006、約0.0007、約0.0008、約0.0009、約0.0010、約0.0011、約0.0012など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0108】
したがって、本発明の被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法は、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定するための閾値を特定する工程を含みうる。このような特定するための方法は、実施例等で例示されるような臨床試験を行い、多様性指数を算出し、必要に応じて統計学的処理を行うことによって特定することができる。
【0109】
被験体のTCR多様性を測定して算出した上記のような指数の値は、適宜四捨五入して(例えば、DE50であれば、小数点以下5桁を四捨五入するなど、)、閾値との比較を行うことができる。有効数字は、検出限界を考慮して、2桁または1桁を採用することができる。
【0110】
なお、本明細書の実施例の結果から、Responder群の平均値-SD、平均値-2SDを下限とした数値以上、ならびにROC解析から算出された閾値を採用することができる。例えば、本明細書の実施例における一部の多様性指数についての、Responder群の平均値-SDは下記のとおりである。
TCRαのシャノン-ウィーバー指数: 3.37
TCRαの逆シンプソン指数: 9.83
TCRαの標準化シャノン-ウィーバー指数: 0.422
TCRαのDE50指数: 0.0013605
TCRβのシャノン-ウィーバー指数: 3.69
TCRβの逆シンプソン指数: 15.84
TCRβの標準化シャノン-ウィーバー指数: 0.433
TCRβのDE50指数: 0.0009545
【0111】
また、Responder群の平均値-2SDは下記のとおりである。
TCRαのシャノン-ウィーバー指数: 2.66
TCRαの逆シンプソン指数: -4.19
TCRαの標準化シャノン-ウィーバー指数: 0.366
TCRαのDE50指数: 0.0007697
TCRβのシャノン-ウィーバー指数: 3.03
TCRβの逆シンプソン指数: 1.43
TCRβの標準化シャノン-ウィーバー指数: 0.385
TCRβのDE50指数: 0.0005064
【0112】
閾値(カットオフ値)の設定は、ROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis)を用いて行うことができる。ROC解析を用いて決定したカットオフ値を利用して、例えば、抗PD-1抗体治療患者における治療前の効果予測を行うことができる。
【0113】
ROC解析では、カットオフ値を変化させていった場合の陽性率を感度として縦軸に、偽陽性率(1-特異度)を横軸にプロットしたROC曲線を作成する。カットオフ値を設定する場合、ROC曲線の左上隅との距離が最小になる点をカットオフ値とする方法と、ROC曲線における曲線下面積(AUC)が0.500となる斜点線から最も離れたポイント、すなわち(感度+特異度-1)を計算して、その最大値となるポイント(Youden index)をカットオフ値にする方法がある。本明細書に記載される各多様性指標におけるROC曲線は、図7に示されている。本明細書の実施例1に基づいてYouden指数より算出されたカットオフ値は、表12に示されており、このように例示された数値を閾値として使用することができる。
【0114】
本明細書において「感度」とは、陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確率をいい、感度が高いと偽陰性が減るという関係にある。感度が高いと除外診断(rule out)に有用である。
【0115】
本明細書において「特異度」とは、陰性のものを正しく陰性と判定する確率をいい、特異度が高いと偽陽性が減るという関係にある。特異度が高いと確定診断に有用である。
【0116】
例えば、TCRαのシャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として約3.7、TCRαの逆シンプソン指数のカットオフ値として約13、TCRαの標準化シャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として約0.43、TCRαのDE50指数のカットオフ値として約0.0012、TCRβのシャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として3.8、TCRβの逆シンプソン指数のカットオフ値として約17、TCRβの標準化シャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として約0.42、TCRβのDE50指数のカットオフ値として約0.0007を用いることができる。
【0117】
しかしながら、例示されたこれらの数値に限定されず、当業者は、ROC解析に基づき、所望の感度および/または特異度に応じて閾値を調節することが可能である。また、本明細書の実施例に例示されるものに限定されず、さらなる被験体についての情報を用いてROC解析を行ってカットオフ値を決定することができる。
【0118】
1つの実施形態では、これらのカットオフ値未満では抗PD-1抗体による高い治療効果が見込めないと予測することができる。
【0119】
多様性指標は、サンプリングされた量によって影響を受ける場合があり得る。すなわち、一部のTCR多様性の指標は、シーケンシングのリード数によって変動する。そのような多様性指標を用いる場合には、特定リード数に対応する標準化を行うことにより、より正確な応答性の評価が可能である。シャノン、シンプソン、逆シンプソン指数はリード数にかかわらずほぼ一定の数値となっており、特に実際の解析レベルである1万リード以上ではリード数の影響はほとんど受けないと考えられ、そのような場合には、指数を標準化することは必ずしも必要ではない。
【0120】
DE指数は、リード数の増加に伴い、一般的に減少する傾向を有する。被験体間、または被験体と参照被験体の間でシーケンシングリード数の差が大きくなる場合(例えば、10倍以上の変動がある場合)、一定のリード数に対して標準化したDE指数を用いることによって、より正確な応答性の評価が可能と考えられる。
【0121】
標準化の1つの方法としては、DE指数は、リード数と、両対数軸において直線関係を有するものと近似することができ、この関係性に基づいて指数を標準化することが可能である。したがって、あるリード数でのDE指数を、直線関係に従って調節した閾値と比較することによって、応答性の評価をすることが可能である。
直線関係の一例として、本明細書の実施例に記載されるDE指数の閾値とリード数との直線関係は、以下の式:
【数6】
【0122】
(式中、yは閾値であり、xはリード数である)によって表され、当業者は、この関係を用いて標準化を行うことができる。すなわち、リード数xに基づいて得られたDE指数を、上記yと比較することによって応答性の評価をすることができる。また、当業者は、複数のシークエンシング結果から、新たに直線関係を導出して標準化に用いることも可能である。
【0123】
また、閾値の直線関係については幅を有するものとして扱うことができる。例えば、多様性指数の値を縦軸、リード数を横軸にした場合に、帯状に表すことができる。その上限以上であれば、奏効者と判定し、その下限以下であれば非奏効と判定し、中間であれば、医師の裁量で投与を判断するという指標の使い方も可能である。変動幅は、例えば、fitting curveの95%信頼性区間を用いることができ、一例が本明細書の実施例に示されている。このような計算を行うことによって、特異度または感度を最大化させることができる。
【0124】
また、他の標準化方法として、シーケンシングによって得られたリードから、一定数のリードをリサンプリングし、リサンプリングされたリードに基づいて多様性指数を算出することによって標準化することも可能である。リサンプリングは、得られたリードからランダムにリードを取得することによって行うことができる。また、リサンプリングは、複数回行ってもよく、そのような場合には、試行ごとの多様性指数の代表値(中央値、平均値等)を標準化された多様性指数として用いることができる。
【0125】
標準化の基準とするリード数は、限定されるものではないが、例えば、1000、10000、20000、40000、80000、100000または200000等(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。一部の実施形態では、30000リードに対して標準化したDE50指数を用いる。
【0126】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの30000リードに対して標準化したシャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約2.8~4.1、好ましくは約3.9~約4.1の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約2.8、約2.9、約3.0、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0、約4.1など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0127】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの30000リードに対して標準化した逆シンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約8~約16、好ましくは、約13~約15の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0128】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの30000リードに対して標準化したシンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.89~約0.94、好ましくは、約0.92~約0.94の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.89、約0.90、約0.91、約0.92、約0.93、約0.94など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0129】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの30000リードに対して標準化した標準化シャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.41~約0.54、好ましくは約0.50~約0.52の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.41、約0.42、約0.43、約0.44、約0.45、約0.46、約0.47、約0.48、約0.49、約0.50、約0.51、約0.52、約0.53、約0.54など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0130】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの30000リードに対して標準化したDE50指数(%)が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.36~0.40等の範囲で適宜決定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.36、約0.37、約0.38、約0.39、約0.40など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0131】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRβの30000リードに対して標準化したシャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約3.2~約4.0、好ましくは約3.7~約3.9の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0132】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRβの30000リードに対して標準化した逆シンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、約10~23、好ましくは約12~約22の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0133】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRβの30000リードに対して標準化したシンプソン指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、対象患者について後ろ向きまたは前向きの臨床試験を行って決定することができ、1つの具体的な実施形態では、閾値は、約0.90~約0.97、好ましくは、約0.92~約0.96の範囲で設定することができ、具体的閾値としては、例えば、約0.90、約0.91、約0.92、約0.93、約0.94、約0.95、約0.96、約0.97など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)であり得る。
【0134】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの30000リードに対して標準化した標準化シャノン-ウィーバー指数が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、約0.42~約0.53、好ましくは約0.47~約0.52の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約0.42、約0.43、約0.44、約0.45、約0.46、約0.47、約0.48、約0.49、約0.50、約0.51、約0.52、約0.53など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0135】
1つの実施形態では、被験体のCD8PD-1T細胞のTCRαの30000リードに対して標準化したDE50指数(%)が、閾値以上である場合に、該被験体が奏効患者であることが示され、閾値は、約0.22~約0.26、好ましくは、約0.23~約0.25の範囲で設定することができ、具体的数値としては、例えば、約0.22、約0.23、約0.24、約0.25、約0.26など(これらの特定の数値の間の別の任意の特定の数値を用いてもよい)を挙げることができる。
【0136】
標準化した多様性指数について上記と同様にROC解析に基づいて算出した閾値を使用することができ、例えば、30000リードに対して標準化した多様性指数について、本明細書に例示されている閾値を用いることが可能である。
【0137】
例えば、TCRαの30000リードに対して標準化したシャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として約3.9、TCRαの30000リードに対して標準化した逆シンプソン指数のカットオフ値として約14、TCRαの30000リードに対して標準化したシンプソン指数のカットオフ値として約0.92、TCRαの30000リードに対して標準化した標準化シャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として約0.51、TCRαの30000リードに対して標準化したDE50指数のカットオフ値として約0.39、TCRβの30000リードに対して標準化したシャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として3.8、TCRβの30000リードに対して標準化した逆シンプソン指数のカットオフ値として約22、TCRβの30000リードに対して標準化したシンプソン指数のカットオフ値として約0.95、TCRβの30000リードに対して標準化した標準化シャノン-ウィーバー指数のカットオフ値として約0.51、TCRβの30000リードに対して標準化したDE50指数のカットオフ値として約0.24を用いることができる。
【0138】
また、カットオフ値は、目的に応じて調節して選択することが可能であり、例えば、(i)非応答患者を排除する(社会保障費の観点)、または(ii)応答患者の漏れをなくす(医師・治療の観点)といった目的に応じて決定することが可能である。(i)のためには、非応答の最高ラインより高い値をカットオフ値にすることで達成でき、(ii)のためには、応答者の最低ラインより低い値をカットオフ値にすることで達成できる。これらの値は、被験体集団の多様性指数に基づいて当業者が決定することができ、または、本明細書に記載される、非応答および応答被験体の示す多様性指数の最大値または最小値の例に基づいて閾値を設定することが可能である。
【0139】
一般に生物学的マーカはばらつきをもったデータになり、比較する2群が明確に分離できることは稀である。通常は、多数のデータから正常値の閾値を設けて、それを基準にして異常値かどうかを判別することができれば、マーカとして使用することが可能であり、例えば、キートルーダ(PD-L1抗体)の適用に関してPD-1高陽性がマーカとされているが、実際の奏効率は50%程度である。マーカとしては、100%の予測ができなくても十分に価値があるところ、2群の分離を感度・特異度ともに100%で行い得るマーカ(例えば、TCR多様性のDE50指数)は、非常に有利なものであるということができる。
【0140】
1つの好ましい実施形態では、TCRはTCRαである。別の好ましい実施形態では、TCRはTCRβである。TCRβのほうが好ましくあり得る。理論に束縛されることを望まないが、TCRβの多様性指数は、応答性被験体と非応答性被験体の示す数値に重複がないようであるからである。しかし、本発明は、これに限定されず、TCRαであってもよい。理論に束縛されることを望まないが、例えば、DE50指数を用いることによって峻別することが可能であることが示されているからである。
【0141】
1つの実施形態では、本発明で利用される多様性は、被験体の末梢血サンプルからCD8PD-1T細胞を単離する工程と、CD8PD-1T細胞のTCR多様性を測定、決定または算出する工程とを用いて算出することができる。
【0142】
本発明の1つの実施形態は、被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法であって、該TCR多様性が高い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定する工程を含む、方法である。
【0143】
好ましくは、ここで算出されるTCR多様性は、本明細書において詳述される大規模高効率TCRレパトア解析(WO2015/075939)を用いることが有利である。理論に束縛されることを望まないが、他のTCRレパトア解析を用いる場合、大規模高効率TCRレパトア解析で検出できるユニークリードを一部検出できない。そのため大規模高効率TCRレパトア解析で算出される多様性指数がより精緻なものであり、被験体の状況をより正確に反映する。そして、理論に束縛されることを望まないが、実際に、大規模高効率TCRレパトア解析での多様性指数は応答性と非応答性とを明確に識別できるのに対して、従来の大規模高効率TCRレパトア解析以外のレパトア解析では応答性と非応答性との識別が十分ではないと考えられる。したがって、大規模高効率レパトア解析を用いて測定したTCR多様性を用いた場合、従来解析よりも、正確な評価結果を与え得る。
【0144】
本発明の被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断する方法において、被験体のT細胞のTCR多様性を、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって測定した後、該TCR多様性が高い場合、該被験体ががん免疫療法に対して応答性が良いと判定する。TCR多様性が高いかどうかは、相対的に判断してもよく、あるいは、あらかじめ定めた多様性指数の閾値(例えば、本明細書に記載されるもの)と対比して多様性が高いか否かを判定することができる。そして、多様性指数が高い場合は、がん免疫療法に対して応答性がよい、またはあると判断し、適宜必要に応じてその後の治療を行うことができる。使用され得るT細胞は、本明細書において記載される任意の種類の1または複数のT細胞であり得、好ましくは末梢血中のCD8PD-1T細胞であり得る。
【0145】
本発明のさらなる実施形態は、被験体のがん免疫療法に対する応答性を診断し、該被験体のがんを治療する方法であって、被験体のT細胞のTCR多様性を測定する工程と、該TCR多様性が基準値より高い場合、該被験体にがん免疫療法を施す工程とを含む、方法(いわゆるコンパニオン診断、またはコンパニオン治療)である。TCR多様性の基準値または閾値は、本明細書の記載に基づいて当業者が適切に定めることが可能であり、その具体的な多様性指数の数値は本明細書において例示されており、適宜採用することができる。使用され得るT細胞は、本明細書において記載される任意の種類の1または複数のT細胞であり得、好ましくはT細胞は、末梢血中のCD8PD-1T細胞であり得る。
【0146】
(免疫チェックポイント阻害剤のコンパニオン用途)
本発明のさらなる局面において、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、T細胞のTCR多様性が高い被験体においてがんを治療するための、組成物を提供する。このような免疫チェックポイント阻害剤が、T細胞のTCR多様性が高い被験体に投与することが有利であることが、本発明者らによって見出された。そして、T細胞のTCR多様性が低い被験体には、非奏効患者であると判断することができ、免疫チェックポイント阻害剤を投与しない、または投与を中断もしくは中止するという判断も行うことができる。TCR多様性を測定するT細胞は、本明細書において記載される任意の種類の1または複数のT細胞であり得、好ましくは末梢血中のCD8PD-1T細胞であり得る。
【0147】
本発明の組成物は、好ましくは医薬組成物であり、その有効成分として含まれる免疫チェックポイント阻害剤としては、例えば、PD-1阻害剤が挙げられる。PD-1阻害剤としては、抗PD-1抗体である、ニボルマブまたはペムブロリズマブが挙げられる。
【0148】
組成物は、エアゾール、液剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏、散剤、錠剤、溶液、懸濁液、エマルジョン等の任意の剤形に製剤化することができる。組成物は、当技術分野で公知の任意の薬学的に許容される添加物および/または賦形剤を含んでよい。
【0149】
本発明の組成物は、当業者によって決定される任意の適切な経路によって投与することができ、限定されるものではないが、静脈注射、点滴、経口、非経口、経皮などを挙げることができる。
【0150】
1つの実施形態では、T細胞のTCRのShannon指数、Simpson指数、標準化Shannon指数、またはDE50指数が高い被験体においてがんを治療するための組成物が提供される。好ましい実施形態では、T細胞のTCRのDE50指数が高い被験体においてがんを治療するための組成物が提供される。
【0151】
末梢血中のCD8PD-1T細胞のTCRαについて、30000リードに標準化したDE50指数が0.39%以上である被験体においてがんを治療するための組成物が提供される。
【0152】
末梢血中のCD8PD-1T細胞のTCRβについて、30000リードに標準化したDE50指数が0.24%以上である被験体においてがんを治療するための組成物が提供される。
【0153】
(大規模高効率TCRレパトア解析の新規用途)
1つの局面では、大規模高効率TCRレパトア解析を含む方法によって決定されたレパトアの多様性を、被験体の治療への応答性の指標として用いる方法を提供する。この手法は、1種のフォーワードプライマーと1種のリバースプライマーからなる1セットのプライマーですべてのアイソタイプやサブタイプ遺伝子を含むTCR遺伝子またはBCR遺伝子を、存在頻度を変えることなく増幅して、レパトアの多様性を決定する。本明細書に記載され、WO2015/075939でも記載されるようにこのプライマー設計は、非バイアス的な増幅に有利である。
【0154】
他のレパトア解析を用いる場合、大規模高効率レパトア解析で検出できるユニークリードを一部検出できない。そのため大規模高効率レパトア解析で算出される多様性指数がより精緻なものであり、被験体の状況をより正確に反映する。そして、理論に束縛されることを望まないが、実際に、大規模高効率レパトア解析での多様性指数は治療に対する応答性と非応答性とを明確に識別できるのに対して、従来の大規模高効率レパトア解析以外のレパトア解析では当該治療に対する応答性と非応答性との識別が十分ではないと考えられる。
【0155】
1つの実施形態では、対象となる治療は免疫反応に関連する治療である。別の好ましい実施形態では、利用されるレパトア解析はTCRレパトア解析である。
【0156】
(注記)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0157】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0158】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0159】
以下に実施例を記載する。必要な場合、以下の実施例において、全ての実験は、兵庫医科大学倫理委員会で承認されたガイドラインに従って実施した。また、文部科学省・厚生労働省・経済産業省作成の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年12月22日26文科振第475号厚生労働省発科1222第1号医政発1222 第1号)の指針にのっとって行った。また、ヒト遺伝子解析研究の倫理指針に準拠した。実験は、兵庫医科大学倫理委員会における審査後、承認のもとに実施した。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0160】
(実施例1:抗PD-1抗体治療を受ける患者のTCR多様性)
(1.材料と方法)
1.1.末梢血単核球細胞(PBMC)の分離
12例の肺癌患者における抗PD-1抗体(nivolumab、オプジーボ)治療開始前において、全血をヘパリン含採血管に8mL採取した。全血はFicoll-Hypaqueを用いた比重遠心分離によりPBMCを分離し、血球計数盤にて細胞数をカウントした。単離されたPBMCは直接免疫細胞染色するか、あるいは細胞用凍結保存液STEM-CELLBANKERに懸濁して液体窒素中にて保管された。
【0161】
1.2.抗CD8抗体および抗PD-1抗体による二重染色
PBMCは下記の手順に従って免疫染色した。
1.凍結保管した細胞はSTEM-CELLBANKERを取り除くため、Stain Buffer(PBS、0.1% BSA、0.1% Sodium Azide)に懸濁し、遠心後に上清を捨てることで2回洗浄した。
2.新鮮あるいは保管PBMCを1×106/tubeになるようにStain bufferに懸濁し、1,000rpmで5分間、4℃で遠心した。
3.細胞は100μLの抗体希釈液(5μl/test抗ヒトCD8抗体、2.0μg 抗ヒトPD-1抗体)中で、室温、30分間、遮光下で染色した。
4.抗体染色後、2mLのStain bufferに懸濁し、1,000rpm、5分間4℃で遠心後、上清を捨てることで2回洗浄した。
5.洗浄後100μLのStain bufferに懸濁して、5μLの7-AADを添加し、遮光下室温で10分間反応させた。
6.細胞に500μLのStain bufferを加え、フィルトレーションを行った。
7.染色細胞は、BD FACSAria III セルソーター(BD Bioscience)を用いて、7AAD-CD8+PD-1+細胞集団をソーティング分離した。
8.ソーティングした細胞は、1.5mLエッペンチューブに移し、1,000rpm、5分間4℃で遠心した。
9.50μLの上清を残してStain bufferを除去後、750μLのTRIzol LS試薬(Invitrogen)を加えてピペッティングすることで細胞を溶解した。
10.溶解したTRIzol液に200μLのDEPC Waterを加え、1000μLに調整した後、Vortexによる混和後に-80℃にて凍結保管した。
【0162】
1.3.RNA抽出
TRIzol LS試薬に溶解した細胞からの全RNAの抽出と精製は、RNeasy Plus Universal Mini Kit (QIAGEN)を用いて行った。精製されたRNAを、Nanodrop吸光度計(Thermo Scientific)あるいはTapeStation2200(Agilent)を用いて定量した。
【0163】
1.4.相補的DNAおよび二本鎖相補的DNAの合成
抽出されたRNAを用いて、相補的DNAを合成するため、1.25μLのBSL-18Eプライマー(表1)と3.75μLのRNAを混和して、70℃で8分間アニーリングした。
【表1】
【0164】
氷上で冷却後、下記の組成においてRNase阻害剤(RNAsin)の存在下で逆転写反応を行い、相補的DNAを合成した。
【表2】
【0165】
続いて、下記の二本鎖DNA合成緩衝液中、E. coli DNA polymerase I、E. coli DNA Ligase、RNase Hの存在下、16℃で2時間保温し、二本鎖相補的DNAを合成した。さらに、T4 DNA polymeraseを16℃で5分間反応させ、5’末端平滑化反応を行った。
【表3】
【0166】
二本鎖DNAは、MiniElute Reaction Cleanup Kit(QIAGEN)によりカラム精製された後、下記のT4 リガーゼ緩衝液中、P20EA/10EAアダプター(表4)およびT4 ligaseの存在下、16℃で終夜保温して、ライゲーション反応を行った。
【表4】
【0167】
前述同様カラムにより精製されたアダプター付加二本鎖DNAは、3’末端に付加したアダプターを除去するため、Not I制限酵素(50U/μL、Takara)を用いて下記の組成で消化された。
【表5】
【0168】
なお、消化時間は、適宜変更することができる。
【0169】
1.5. PCR
二本鎖相補的DNAから、表2に示す共通アダプタープライマーP20EAとC領域特異的プライマー(CG1、CK1またはCL1)を用いて、1st PCR増幅を行った。PCRは次に示す組成で、95℃ 20秒、60 ℃30秒、72℃ 1分のサイクルを20サイクル行った。
【表6】
【0170】
次に、1st PCR増幅産物を用いて、P20EAプライマーとC領域特異的プライマー(CA2、またはCB2)を用いて、を用いて、次に示す反応組成で2nd PCRを行った。PCRは次に示す組成で、95℃ 20秒、60 ℃30秒、72℃ 1分のサイクルを20サイクル行った。
【表7】
【0171】
得られた2nd PCR増幅産物10μLをAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いて増幅産物を精製した。最終溶出液30μLのうち5μLを鋳型として、Tag付加PCRを行った。増幅には、図1に示したP22EA-ST1-RとmCG-ST1-R、mCK-ST1-RまたはmCL-ST1-Rプライマーを用いた。PCRサイクルは、95℃ 20秒、60℃ 30秒、72℃ 1分を20サイクル行った。
【表8】
【0172】
得られたTag PCR増幅産物10μLをAgencourt AMPure XP (Beckman Coulter)を用いて増幅産物を精製した。最終溶出液30μLのうち2μLを鋳型として、Nextera XT Index Kit v2 SetA(Illumina)を用いて、INDEXを付加した。PCRサイクルは、95℃ 20秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒を12サイクル行った。PCR増幅を確認するため、10μLの増幅産物を2%アガロースゲル電気泳動で確認した。得られたINDEX化PCR増幅産物は、Qubit 2.0 Fluorometer(Thermo Fisher Scientific)を用いて定量され、適切な濃度に希釈された後、MiSeqシーケンサ(Illumina)を用いてシーケンスされた。シーケンス装置の操作および手順は、MiSeq使用説明書およびマニュアルに従った。
【0173】
シーケンスにより得られたFastqデータは、Repertoire Genesis社レパトア解析ソフト(Repertoire Genesis)を用いて、既知のリファレンス配列とV、D、JおよびC領域の照合およびCDR3アミノ酸配列の決定を行った。配列が同一であるものをユニークリードとして、そのコピー数をカウントすることで全体に占める割合を求めた。
【0174】
1.6.多様性指数の算出
得られた各ユニークリードのリード数データから多様性指数を求めた。シャノン-ウィーバー指数(Shannon-Weaver index)、シンプソン指数(Simpson index)、逆シンプソン指数(Inverse Simpson index)(1/λ)およびDE50指数は次の数式に従って算出された。N:全リード数、n:i番目ユニークリードのリード数、S:ユニークリード数、S50:全リードの50%を占める上位ユニークリードの数
【数7】


【数8】

【数9】


【数10】
【0175】
計算は、Repertoire Genesis社解析サーバにおいてレパトア解析プログラムの解析プログラムの一部として実施された(http://www.repertoire.co.jp/)。この他、S50(全リードの50%を占める上位ユニークリードの数)に替えて、S30(全リードの30%を占める上位ユニークリードの数)およびS80(全リードの80%を占める上位ユニークリードの数)を用いたDE30指数およびDE80指数、S部分をそのまま用いるUnique指数についても計算を行った。
【0176】
(2.結果)
2.1.臨床評価
抗PD-1抗体治療開始前および治療後3カ月後において患者胸部CTもしくはPET画像診断を行い、腫瘍量の形態的評価および腫瘍量の変化に基づいて治療効果を評価した(図1)。一部の患者の効果判定結果(完全奏効、部分奏効、安定、進行)および主な治療経過は表9に示した。一部の患者の胸部CT画像を図2に示した。図2に示される4例のうち2例の患者が治療後3か月の時点で部分奏効(PR)と判定され、他の2例は非奏効と判定された。
【表9】
【0177】
2.2.FACSソーティング
12例の肺癌患者治療前において採取されたPBMCを用いてFACS解析を行った。PBMCはPE-Cy7標識抗ヒトCD8抗体およびFITC標識抗PD-1抗体で染色された。FSC/SSCゲーティングによりリンパ球分画を、さらに7AADにより死細胞を除去した。FACS Aria IIIセルソーターにより7AADCD8PD-1T細胞を集め、TRIzol LS RNA抽出試薬に溶解した。図3にFACS解析の結果の一部を示す。FSC/SSCによるリンパ球ゲート(上段)およびCD8抗体およびPD-1抗体の二重染色(下段)を示した。リンパ球分画について、7AADCD8PD-1細胞分画(P3)をFACSソーティングにより分取した(図3)。
【0178】
各患者におけるリンパ球に占めるCD8+PD-1+細胞の割合およびCD8+ T細胞に占めるCD8+PD-1+細胞の割合について、抗PD-1抗体治療奏効患者(n=6)と非奏効患者(n=6)の間で比較した(図4)。前者は非奏効患者が奏効患者に比べ高い傾向を示し、一方後者は明確な差が見られなかった。
【0179】
2.3.CD8+PD-1+T細胞のTCRレパトア解析
FACSソーティングにより回収したCD8+PD-1+T細胞を用いて、方法に記載された方法に従って次世代シーケンサによるTCR遺伝子の網羅的塩基配列の決定を行った。FACSソーティングにより回収された細胞数およびRNA量を表10に示す。各サンプルより獲得したTCRリード数、アサインされたリード数、In-frameリード数およびユニークリード数を表11に示す。
【表10】

【表11】
【0180】
獲得されたTCRリード数とユニークリード数が非奏効患者である患者4が最も多く、TCRリード数あるいはユニークリード数と治療効果との関連は見られなかった。
【0181】
2.4.多様性指標を用いたCD8+PD-1+T細胞の治療患者間での多様性の比較
抗PD-1抗体治療患者の間でCD8+PD-1+T細胞の多様性を比較するため、12例の肺癌患者試料から配列決定されたTCRリードデータを用いて多様性指標を算出し、比較した。個々のユニークリードとそのリード数(コピー数)を用いて、方法に記載の数式に従って多様性指標を算出した。多様性指標には、Shannon-Weaver index、Normalized Shannon-Weaver index、Simpson index、逆Simpson indexおよびDE50 indexを用いた(図5および6)。有意差検定は、ノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定(両側検定)を用いた。TCRα鎖において、Shannon-Weaver indexはNon-Responderに比してResponderで有意に高い値を示した(平均値±標準偏差、Non-Responder vs. Responder、2.796±0.9519 vs. 4.081±0.7124、P=0.0411)。同様に、Normalized Shannon-Weaver index、逆Simpson indexおよびDE50の多様性指標は、それぞれ0.3327±0.1018 vs. 0.4771±0.05547(P=0.0260)、7.530±4.906 vs. 23.85±14.02(P=0.0152)、0.0006220±0.0003472 vs. 0.001951±0.0005909(P=0.0022)であり、いずれもNon-Responderに比してResponderで有意に高い値を示した。また、同様にTCRβ鎖においてもすべての指標においてNon-Responderに比べResponderで有意に高い値を示した。平均値±標準偏差は、それぞれ3.129±0.6742 vs. 4.345±0.6555、P=0.0087(Shannon-Weaver index)、0.3528±0.0612 vs. 0.4815±0.04832、P=0.0087(Normalized Shannon-Weaver index)、8.198±3.551 vs. 30.25±14.41、P=0.0087(逆Simpson index)、0.0003910±0.00007243 vs. 0.001403±0.0004480、P=0.0022(DE50)であった。これらの結果から、CD8+PD-1+T細胞の多様性はNon-Responderに比べResponderの方が明らかに高いことが明らかになった。
【0182】
2.5.カットオフ値の設定
抗PD-1抗体治療患者における治療前の効果予測をするために、各多様性指標のカットオフ値の設定をROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis)を用いて行った。ROC解析では、カットオフ値を変化させていった場合の陽性率を感度として縦軸に、偽陽性率(1-特異度)を横軸にプロットしたROC曲線が作成される。カットオフ値を設定する場合、ROC曲線の左上隅との距離が最小になる点をカットオフ値とする方法と、ROC曲線における曲線下面積(AUC)が0.500となる斜点線から最も離れたポイント、すなわち(感度+特異度-1)を計算して、その最大値となるポイント(Youden index)をカットオフ値にする方法がある。各多様性指標におけるROC曲線を図7に示した。DE50は他の多様性指標と比較して、TCRα、TCRβともにAUCが最も高い値を示し、予測能が最も優れていると示唆された。各多様性指標におけるカットオフ値は、Rプログラム(ROCRpackage)を用いてYouden指数より算出され、表12に示された。これらカットオフ値未満では抗PD-1抗体による高い治療効果が見込めないと予測されることになる。
【表12】
【0183】
また、理論に束縛されることを望まないが、TCRαレパトア多様性よりもTCRβレパトア多様性のほうがより明確に峻別し得る傾向があることが観察される。また、DE50指数であれば、いずれのレパトアでもより明確に峻別し得る傾向があることが観察される。
【0184】
(3.考察)
CD8+PD-1+T細胞は抗PD-1抗体により免疫抑制を解除され、抗腫瘍効果を発揮することが知られる。本実験から肺癌患者の末梢血中のCD8+PD-1+T細胞の多様性が高い患者ほど抗PD-1抗体に対する治療効果が高いことが分かった。腫瘍浸潤T細胞は腫瘍特異的抗原を認識し、抗腫瘍効果を発揮する。腫瘍細胞は腫瘍化の過程で多くの遺伝子変異を蓄積し、正常細胞には発現していない新生抗原(ネオアンチゲン)を産生するようになる。免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法はより多くの遺伝子変異を蓄積する腫瘍に対する効果が高いことが知られている。より多数の新生抗原がT細胞のターゲットとなることが腫瘍を抑制するために重要であると考えられる。抗PD-1抗体に有効な患者には、治療前に免疫抑制された多数の新生抗原に反応する多様なT細胞が存在すると推測される。それらが抗PD-1抗体により抑制解除され、より高い治療効果をもたらすと推測される。肺がん患者に対して抗PD-1抗体(Nivolumab)に有効な患者は20~30%である。抗PD-1抗体治療前に有効患者を予測できればより効果的な治療を実現し、医療費の無駄をなくすことができる。試料採取の容易な末梢血細胞におけるTCRレパトア解析を行い、多様性指標をバイオマーカとして利用すれば、これまで不可能であった抗PD-1抗体治療の効果予測が可能になると期待される。
【0185】
(実施例2:リード数による多様性指数の変化の検討)
多様性指数は、サンプル数、すなわち、シーケンシングによって得られたリード数の影響を受け変動する可能性がある。そのため、実施例1において得られた各被験体のデータから、ランダムサンプリングにより一定リード数(100、300、1000、3000、10000、30000、80000)を取得し、当該リードに基づいた多様性指数(Shannon-Weaver指数、Simpson指数、標準化Shannon指数、逆Simpson指数、DE30指数、DE50指数、DE80指数、Unique30指数、Unique50指数、Unique80指数)をそれぞれ算出し、プロットした。リサンプリングは100回試行し、各多様性指標の中央値をそれぞれのリード数に対して標準化された値として用いた。TCRαおよびTCRβの多様性指数についてのリード数による変化は、図8および図9にそれぞれ示される。
【0186】
シャノン、シンプソン、逆シンプソン指数はリード数にかかわらずほぼ一定の数値となっており、特に実際の解析レベルである1万リード以上ではリード数の影響はほとんど受けないと考えられる。一方、DE指数は、リード数の影響を受け、リード数が多くなると指数が低下する傾向が観察される。DE50以外のDE指数であるDE30、DE80についても、同様の傾向を示す。従って、DE指数について、閾値として特定の数値を用いる場合には、リード数の影響を考慮した閾値を設定することが有利であると考えられる。
【0187】
さらに、実施例1の奏効群と非奏効群のTCR多様度指数を、30000リードに標準化した比較の結果を図10および11に示した。それぞれの被験体について、各多様性指数を100、300、1000、3000、10000、30000および80000リードに標準化した値は、以下の表13~33に示される。Clinicalの欄には各被験体の治療効果が示される。Res_minは、応答群における指数の最小値を示し、Non_maxは、非応答群における指数の最大値を示す。表13~33において、Discrimは、応答群における指数の最小値が、非応答群における指数の最大値よりも大きいか否かを示す。応答群および非応答群の間の多様性指数のt統計値がttestの欄に示される。
【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【表19】

【表20】

【表21】

【表22】

【表23】

【表24】

【表25】

【表26】

【表27】

【表28】

【表29】

【表30】

【表31】

【表32】
【0188】
このようにして標準化した多様性指数について、実施例1において検出された奏効群(n=6)と非奏効群(n=6)の有意差が、どのリード数でも同様に検出されるかを検定した。有意差検定は、非等分散、t検定で行った。結果は、表13~32に示されており、シャノン、シンプソン、DE50など実施例1で用いたすべての多様性指数はリード数の影響を受けることなく、有意差を示した。リード数は、DE50指数等のDE指数の絶対値には影響するものの有意差には影響せず、多様性指数による効果予測の意義は変わらないものと考えられる。
【0189】
したがって、多様性指数は、リード数に対して標準化して比較することが可能であり、絶対値の変化するDE指数の場合には、特定の閾値との比較についてはリード数に対して標準化することが有利であるということができる。
【0190】
さらに、DE50値は実施例1のデータから奏効群と非奏効群の分離がよいことが分かっている。本実施例では、一定リード数(100、300、1000、3000、10000、30000、80000)に標準化した場合でも同様に峻別性がいいかどうかを調べた。奏効群の最小値が非奏効群の最大値を上回るような「くっきり」とした分離を示す(ROC曲線のAUCが1となる)指数およびリード数を探索し、そのような指標について表13~32のDiscrimの欄においてYesとして示している。DE50において、そのような完全な分離が可能であることが実証された。また、DE30では有意差がなくなることがあるものの、DE50指数ではリード数も10000リードから80000リードまでほぼ同程度の識別性を示すことがわかった。DE指数の中ではDE50値が最もよく、予想し得なかった峻別性がDE50を使うことで達成できることが実証された。
【0191】
さらに、そのような標準化した多様性指数を用いて応答性を評価する場合に用いる閾値について検討した。まず、各多様性指数を各リード数に標準化した場合の値に基づいて、ROC解析を行い、閾値を求めた。ROC解析に基づいて算出された各多様性指数のカットオフ値は、以下の表33(TCRα)および表34(TCRβ)に示した。例えば、算出した各リード数に対する閾値は、各リード数に対して標準化した指数を用いて応答性を評価する場合に使用することが可能である。
【表33】

【表34】
【0192】
さらに、(i)非応答患者を排除する(社会保障費の観点)、または(ii)応答患者の漏れをなくす(医師・治療の観点)といった目的に応じて使用する閾値を決定するために、30000リードに標準化した場合の各多様性指数の閾値についてさらに検討した。30000リードに標準化した非応答および応答被験体の示す多様性指数の最大値または最小値の例と、ROC解析に基づく閾値は以下の表35(TCRα)および表36(TCRβ)に示される。このような値の例に基づいて閾値を設定することで、上記目的を達成するような応答性の評価が可能である。
【表35】

【表36】
【0193】
さらに、ランダムリサンプリングによる、多様性指数の閾値の変動について検討した。各多様性指数について、各リード数に標準化した値に基づくROC解析から算出した閾値をプロットした(図12および図13)。シャノン、シンプソン、逆シンプソン指数、Unique指数についての閾値はリード数にかかわらずほぼ一定の数値となっている。リード数の増加に伴い、減少する傾向を示しているDE指数の閾値は、log-logプロット(両対数)で一次関数に近似されることが見出された(図12および図13)。特に、実際の解析で使用する可能性が高い3000リード以上のプロットにおいては、相関係数も非常に高い。DE50指数について、α鎖はy=1892.344x^(-0.8239)、β鎖はy=993.116x^(-0.8072)と近似することが可能である(x=リード数、y=DE50指数の閾値)(図14)。したがって、あるリード数に対して算出されたDE50指数を、上記の関係から導出される当該リード数におけるDE50指数の閾値と比較することによって、被験体の応答性を評価することが可能であると考えられる。
【0194】
他のDE指数については、以下のように近似することが可能である。
【数11】

(x=リード数、y=DE指数の閾値)
【0195】
このような直線関係の適用される範囲を検討するため、これらのfitting curveについての95%信頼性区間を計算した。計算された95%信頼性区間は下記の表37に示す
【表37】
【0196】
さらに、各ポイントのデータ(値が)が10%変動した場合に、最大と最小値でどの程度Slopeとinterceptが変動するかを求めた。結果は以下の表38に示される。
【表38】
【0197】
また、奏効者の判定に関して、奏効患者の最小値および/または非奏功患者の最大値を閾値として用いることができ、そのような値のリード数に対する直線的な変動についても検討した。Res_Min以上では奏効、NonRes_Max以下では非奏功という使い分けも可能である。変動の結果は以下の表39に示される。
【表39】
【0198】
(実施例3:免疫抑制分子発現T細胞分画におけるTCR多様性)
(1.材料と方法)
1.末梢血単核球細胞(PBMC)の分離
1例の抗PD-1抗体(nivolumab、オプジーボ)治療奏効患者の全血をヘパリン含採血管に20mL採取した。Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare)を用いた比重遠心分離によりPBMCを分離し、血球計数盤にて細胞数をカウントした。単離されたPBMCは細胞用凍結保存液STEM-CELLBANKER(TaKaRa Bio)に懸濁し、-80℃超低温冷凍庫に保管した。
【0199】
2.PBMCの抗体染色
PBMCは下記の手順に従って免疫染色した。
2.1 凍結保管したPBMCを溶解し、表41に示される細胞数をStain Bufferに懸濁した。
2.2 STEM-CELLBANKERを取り除くため、Stain Bufferで懸濁後、800×gで5分間、4℃で遠心し、2回洗浄した。
2.3 細胞をStain bufferに懸濁し、下記表40の抗体を添付説明書の指示に従い添加し、遮光、室温で30分間細胞と反応させた。
【表40】
2.4 洗浄後100μLのStain bufferに懸濁して、5μLの7-AADを添加し、遮光下室温で10分間反応させた。
2.5 細胞に500μLのStain bufferを加え、フィルトレーションを行った後、BD FACSAria IIIセルソーター(BD Bioscience)、あるいはFACSMelodyセルソーター(BD Bioscience)を用いて、上記ソート分画をソーティング分離した。
2.6 ソーティング分画は、800×g、5分間、4℃で遠心することで回収した。
2.7 上清を250μl残して除去後、Trizol LS試薬(Invitrogen)を750μl加えてピペッティングし、細胞を溶解した。
2.8 RNA抽出後のTCRレパトア解析は、実施例1の「1.3.RNA抽出」、「1.4.相補的DNAおよび二本鎖相補的DNAの合成」および「1.5. PCR」の方法に従って実施した。
2.9 抗体染色後、2mLのStain bufferに懸濁し、800×g、5分間4℃で遠心後、上清を捨てることで2回洗浄した。
【0200】
(2.結果)
CD8+PD1+、CD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、およびCD8+CTLA4+T細胞分画のリンパ球に占める割合(%)とFACSソーティングにより回収された細胞数を表41に示した。CD8と各分子マーカを共発現する約1 x 104~1 x 105のT細胞を回収し、これらのT細胞分画からRNAを抽出し、定法に従いTCRレパトア解析を行った。TCRシーケンス解析の結果、各試料より得られた全リード数、ユニークリード数、In-frameリード数を表42aおよび表42bに示した。いずれの試料においても10万リード以上のリードを獲得することができた。
【表41】
【表42a】
【表42b】
【0201】
(各T細胞分画間のTCRレパトアの共通性)
TCRレパトア解析によって獲得されたTCRクローンの配列について、CD8P+PD1+、CD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、およびCD8+CTLA4+T細胞分画間で共通するクローンを比較した。すべての分画間、あるいは複数の分画間に共通して存在するTCRクローンを表43に示した。CD8+PD-1+分画に高頻度に存在するTCRクローンは、CD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、あるいはCD8+CTLA4+分画にも高頻度に存在することが明らかになった。このことは、CD8+PD-1+T細胞が、4-1BB、TIM3、OX40、TIGIT、あるいはCTLA4分子を共発現している可能性を示唆していた。また、TCRクローンのリード数について各T細胞分画間の相関を調べた(図15)。高頻度に存在するTCRクローンは、共通して各T細胞分画に存在し、高い相関を示した。次に、CD8+PD-1+T細胞とCD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、あるいはCD8+CTLA4+T細胞の間で共通するTCRクローンのリードの割合を調べた(表44)。CD8+PD-1+のTCRクローンが各分画に占めるリードの割合は、対照のCD8+T細胞と比べ、著明にCD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、あるいはCD8+CTLA4+T細胞で高かった。このことは、CD8+PD-1+T細胞に含有される腫瘍特異的T細胞の腫瘍特異的TCRが、4-1BB、TIM3、OX40、TIGIT、またはCTLA-4陽性のT細胞分画にも高頻度に含まれることを示唆していた。これらのことから、末梢血中のCD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、CD8+CTLA4+のいずれのT細胞分画も、TCR多様性によるバイオマーカとして利用できることと期待される。

【表43】
【表44】
【0202】
治療奏効患者のPBMCからFACSソートにより分離されたCD8+PD1+、CD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、およびCD8+CTLA4+分画について、TCRレパトア解析を実施し、Shannon指数、Normalized Shannon指数、Inverse Simpson指数、DE50指数を算出した。その結果、CD8+PD1+T細胞の多様性指数は、同じ患者のCD8+4-1BB+、CD8+TIM3+、CD8+OX40+、CD8+TIGIT+、あるいはCD8+CTLA4+T細胞と同程度の多様度を示した。また、いずれの分画も、治療奏効患者(N=6)のCD8+PD-1+T細胞と同程度で、非奏効患者(N=6)のCD8+PD-1+T細胞より明らかに高い多様性指数を示した(図16および図17)。これらのことから、CD8+PD1+T細胞に限らず、4-1BB+、TIM3+、OX40+、TIGIT+、あるいはCTLA4+等のT細胞表面マーカを有するCD8+T細胞を解析することで、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測のバイオマーカとして利用することができると期待される。
【0203】
(注記)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0204】
試料採取の容易な末梢血細胞におけるTCRレパトア解析を行って得られた多様性指標は、がん免疫療法の効果予測のためのバイオマーカとして利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0205】
配列番号1:BSL-18E プライマー
配列番号2:P20EA プライマー
配列番号3:P10EA プライマー
配列番号4:P22EA-ST1-R プライマー
配列番号5:CA1 プライマー
配列番号6:CA2 プライマー
配列番号7:CA-ST1-R プライマー
配列番号8:CB1 プライマー
配列番号9:CB2 プライマー
配列番号10:CB-ST1-R プライマー
配列番号11~60:実施例3における各TCRβ鎖クローンのCDR3配列
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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