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特許7150312胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20221003BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20221003BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221003BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
G01N33/569 F
G01N33/574 D
G01N33/53 D
C12Q1/37 ZNA
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018144207
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020020649
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】福山 隆
(72)【発明者】
【氏名】信太 昭子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 等
(72)【発明者】
【氏名】西 八嗣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 禎人
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲忠
(72)【発明者】
【氏名】市来 嘉伸
(72)【発明者】
【氏名】二渡 信江
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-128418(JP,A)
【文献】特開2017-195803(JP,A)
【文献】国際公開第2008/025877(WO,A1)
【文献】WATABE, H. et al.,Predicting the Development of Gastric Cancer fromCombining Helicobacter pylori Antibodies and Serum Pepsinogen Status: A Prospective Endoscopic Cohort Study,Gut,2005年,Vol.54, No.6,pp.764-768
【文献】牛久秀樹 ほか,胃癌における Helicobacter pylori 感染と癌/精巣抗原の発現との関連性,第117回日本外科学会定期学術集会,2017年04月,PS-011-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/37
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃癌患者の血液中における抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価の測定によりヘリコバクター・ピロリ感染を検出することと、
前記胃癌患者の血液中のペプシノーゲンIとペプシノーゲンIIの濃度を測定することと、を含む、
前記胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法。
【請求項2】
記胃癌患者の血液中における、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価が20以上であり、ペプシノーゲンIの濃度が70ng/mL以下かつペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比(PGI/PGII)が3以下であることが、前記胃癌患者の胃癌細胞がKK-LC-1を発現することを示す、請求項1に記載の胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法。
【請求項3】
血液中の抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の検出試薬と、血液中のペプシノーゲンI及びペプシノーゲンIIの濃度測定試薬と、を含む、胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現予測用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、癌精巣抗原の一種であるKita-Kyushu lung cancer antigen-1(KK-LC-1)タンパク質について詳細な解析を進めてきた。癌精巣抗原とは、癌細胞と、精巣・卵巣等の生殖系細胞以外では発現が認められないタンパク質の総称である(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
胃癌患者の約8割は、胃癌部位においてKK-LC-1を発現し、この割合は、他の癌精巣抗原と比較して顕著に高い(例えば、非特許文献2を参照)。このことから、KK-LC-1は、癌免疫療法に用いる癌抗原として有力な候補であるといえる。
【0004】
そして、2017年に、KK-LC-1を発現する癌に対する免疫応答の有用性が報告された。この免疫療法を実現するためには、KK-LC-1の癌細胞における発現を簡便に検出する方法を早急に確立する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fukuyama T et al., Identification of a new cancer/germline gene, KK-LC-1, encoding an antigen recognized by autologous CTL induced on human lung adenocarcinoma. Cancer Res. 66(9), 4922-4928, 2006.
【文献】Fukuyama T et al., Expression of KK-LC-1, a cancer/testis antigen, at non-tumour sites of the stomach carrying a tumour. Sci Rep. 8(1), 6131, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
胃癌患者の胃癌部位の組織を用いて、KK-LC-1遺伝子又はタンパク質の発現を検出することは、労力と時間を要する。そこで、血液等の容易に採取できる試料を用いて、胃癌患者の胃癌部位における、KK-LC-1遺伝子の発現を検出することのできる技術の開発が必要である。
【0007】
しかしながら、上述したように、血液中には生殖細胞由来のKK-LC-1遺伝子又はタンパク質が存在することから、血液試料を用いてKK-LC-1の発現を検出すると、癌患者でなくてもKK-LC-1の発現が検出されてしまう。このため、血液試料を用いて胃癌細胞におけるKK-LC-1タンパク質の発現を簡便に検出することは不可能である。そこで、本発明では、胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を簡便に予測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]胃癌患者のヘリコバクター・ピロリ感染を検出することと、前記胃癌患者の血液中のペプシノーゲンIとペプシノーゲンIIの濃度を測定することと、を含む、前記胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法。

[2]前記ヘリコバクター・ピロリ感染を検出することが、前記胃癌患者の血液中における抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価の測定により行われ、前記胃癌患者の血液中における、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価が20以上であり、ペプシノーゲンIの濃度が70ng/mL以下かつペプシノーゲンIIの濃度に対するペプシノーゲンIの濃度の比(PGI/PGII)が3以下であることが、前記胃癌患者の胃癌細胞がKK-LC-1を発現することを示す、[1]に記載の胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法。
[3]ヘリコバクター・ピロリ感染の検出試薬と、ペプシノーゲンI及びペプシノーゲンIIの濃度測定試薬と、を含む、胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現予測用キット。
[4]前記ヘリコバクター・ピロリ感染の検出試薬が、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の検出試薬である、[3]に記載の胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現予測用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を簡便に予測する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法]
1実施形態において、本発明は、胃癌患者のヘリコバクター・ピロリ感染を検出することと、前記胃癌患者のペプシノーゲンIとペプシノーゲンIIの濃度を測定することを含む、前記胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を予測する方法を提供する。
【0011】
本明細書において、KK-LC-1の発現とは、転写、翻訳の過程を経て、KK-LC-1遺伝子から、KK-LC-1 mRNA又はKK-LC-1タンパク質が合成されることを指す。したがって、KK-LC-1の発現とは、KK-LC-1 mRNAの発現及びKK-LC-1タンパク質の発現の双方を意味する。
【0012】
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、グラム陰性微好気性細菌であり、ヒトの胃に生息する場合がある。ヘリコバクター・ピロリが胃に感染することにより、慢性胃炎や胃潰瘍、さらには胃癌が引き起こされる。
【0013】
ヘリコバクター・ピロリ感染の検出方法は特に限定されず、例えば、ヘリコバクター・ピロリの存在を検出する検出試薬、ヘリコバクター・ピロリの感染によって生じる炎症反応又は免疫応答を検出する検出試薬等を用いて検出することができる。
【0014】
ヘリコバクター・ピロリの存在を検出する検出試薬としては、ヘリコバクター・ピロリ由来の遺伝子又はタンパク質を検出する検出試薬が挙げられる。ヘリコバクター・ピロリ由来のタンパク質としては、ウレアーゼA、ウレアーゼB等のウレアーゼ;FlaA、FlaB、FliD、FliK、FlgE、FlgM等の鞭毛タンパク質;空胞化毒素(VacA);毒素随伴タンパク質(CagA);好中球活性化タンパク質(NapA)等が挙げられる。また、ヘリコバクター・ピロリ由来の遺伝子としては、上述したヘリコバクター・ピロリ由来のタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0015】
また、ヘリコバクター・ピロリ感染によって生じる炎症反応又は免疫応答を検出する検出試薬としては、被検者由来の血清中の抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体を検出する検出試薬、ヘリコバクター・ピロリ感染により、胃粘膜上皮細胞から放出されるIL-8を検出する検出試薬、IL-8が産生誘導するTNF-α、IL-1、IL-6等を検出する検出試薬等が挙げられる。
【0016】
胃にヘリコバクター・ピロリが感染すると、ヘリコバクター・ピロリに対する抗体が患者の血液中に産生される。これを利用して、患者の血液中の抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価を解析することにより、胃におけるヘリコバクター・ピロリの感染を検出することができる。抗ヘリコバクター・ピロリ抗体は、一般的にはIgG抗体である。
【0017】
ヘリコバクター・ピロリ感染を検出する検出試薬としては、上述したもの以外にも、尿素呼気試験法による検出試薬が挙げられる。本検出試薬は次のようなものである。まず、安定性同位元素又は放射性同位元素で標識した尿素を被検者に経口投与する。すると、ヘリコバクター・ピロリが有するウレアーゼにより同位元素で標識した尿素が加水分解され、アンモニアと同位元素で標識されたCOが発生し、呼気から放出される。そこで、この呼気を採取し、呼気中に存在する、同位元素で標識されたCOと自然界に存在するCOとの比率を測定する。測定された比率に基づいてヘリコバクター・ピロリ感染を検出することができる。
【0018】
また、ヘリコバクター・ピロリ感染を検出する方法は、ウレアーゼ試験法であってもよい。この試験法は、被験者から採取した胃の粘膜を、尿素を含む溶液に入れ、ヘリコバクター・ピロリ由来のウレアーゼにより産生するアンモニアが、pHを上昇させることを利用した方法である。
【0019】
また、ヘリコバクター・ピロリ感染を検出する方法は、培養法であってもよい。この培養法は、被験者から採取した胃の粘膜を培地に入れて培養し、ヘリコバクター・ピロリの有無を判定する方法である。
【0020】
ペプシノーゲンは胃粘膜から分泌される不活性型のタンパク質である。胃に分泌されたペプシノーゲンは、低いpHの環境において、プロセシングを受けて、活性型のタンパク質分解酵素であるペプシンとなる。
【0021】
ペプシノーゲンは、これらを認識する抗体の種類により、ペプシノーゲンIとIIに分類されている。ペプシノーゲンI(以下、「PGI」という場合がある。)は、胃底部や胃体部の胃底腺から分泌され、ペプシノーゲンII(以下、「PGII」という場合がある。)は、胃全体の、噴門腺、胃底腺、幽門腺、十二指腸腺から分泌される。
【0022】
胃粘膜が炎症を起こし、さらに慢性化すると、血液中のPGIの濃度とPGIIの濃度は共に上昇し、PGIIの濃度に対するPGIの濃度の比(以下、「PGI/PGII」という場合がある。)は低下することが知られている。
【0023】
本実施形態における、胃癌患者の血液中の、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価及びPGI及びPGIIの濃度の測定方法は、例えば、酵素免疫測定法又は免疫凝集比濁法であってもよい。
【0024】
酵素免疫測定法としては、酵素で標識した、抗原に対する一次抗体と、抗原を混合した後、酵素の適当な基質を加えて、酵素と基質の反応による発色や発光の程度を測定する方法等が挙げられる。これらの測定値から、抗原の量を算出することができる。
【0025】
測定するシグナルの強度を増強するために、抗原に対する一次抗体と、一次抗体に対する、酵素で標識した二次抗体を用いてもよい。また、抗原と抗体の特異性を高めるために、予め抗原に対する抗体を固相に吸着させておき、抗原を固相に捕捉させる、サンドイッチ法等の公知の方法を用いてもよい。
【0026】
免疫凝集比濁法としては、例えば、ラテックス免疫凝集比濁法が挙げられる。この方法は、抗原に対する抗体を吸着させたラテックス粒子と、抗原を混合し、凝集したラテックスの吸光度を測定する方法である。この吸光度から、抗原の量を算出することができる。
【0027】
実施例において後述するように、本実施形態の方法において、前記ヘリコバクター・ピロリ感染を検出することが、前記胃癌患者の血液中における抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価の測定により行われてもよい。そして、前記胃癌患者の血液中の抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価が20以上であり、PGIの濃度が70ng/mL以下かつPGIIの濃度に対するPGIの濃度の比(PGI/PGII)が3以下であることが、前記胃癌患者の胃癌細胞がKK-LC-1を発現することを示すと判断してもよい。
【0028】
この場合、胃癌患者の血液試料を用いて測定した抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗体価、PGIの濃度、PGIIの濃度、及びPGIIの濃度に対するPGIの濃度の比(PGI/PGII)から、患者を次のA~Dの4グループに分ける。抗ヘリコバクター・ピロリ抗体としては、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体を測定することが好ましい。
【0029】
まず、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価と、PGI/PGIIについて、次のように、陽性あるいは陰性に分類する。抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が20Unit/mL未満である場合には、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陰性とする。また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が20Unit/mL以上である場合には、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陽性とする。
【0030】
また、PGIの濃度が70ng/mL以下、かつ、PGI/PGIIが3以下である場合には、ペプシノーゲン値が陽性と判断する。また、PGIの濃度が70ng/mLより大きい、又は、PGI/PGIIが3より大きい場合には、ペプシノーゲン値が陰性と判断する。
【0031】
そして、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陰性であり、かつ、ペプシノーゲン値が陰性である場合には、グループAに分類する。また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陽性であり、かつ、ペプシノーゲン値が陰性である場合には、グループBに分類する。また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陽性であり、かつ、ペプシノーゲン値が陽性である場合には、グループCに分類する。また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陰性であり、かつ、ペプシノーゲン値が陽性である場合には、グループDに分類する。
【0032】
この測定方法及び分類は、ABC検診法として、当業者には公知である。ABC検診法とは、胃癌のリスクを検査する方法のひとつである。本実施形態における、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価、PGIの濃度、PGIIの濃度は、一般的に用いられているABC検診キット(例えば、デンカ生研株式会社製)を用いて、測定することができる。
【0033】
実施例において後述するように、グループCに分類された患者の94%において、胃癌部位の癌細胞がKK-LC-1を発現することが明らかとなった。すなわち、グループCに分類された患者は、非常に高い確率で胃癌部位の癌細胞がKK-LC-1を発現していると予測することができる。これらの患者には、KK-LC-1を標的とした癌の免疫療法が有効であると考えられる。
【0034】
[キット]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、ヘリコバクター・ピロリ感染の検出試薬と、PGI及びPGIIの濃度測定試薬と、を含む、胃癌患者の胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現予測用キットを提供する。
【0035】
上述したように、ヘリコバクター・ピロリ感染の検出は、例えば、ヘリコバクター・ピロリの存在を検出する方法、ヘリコバクター・ピロリの感染によって生じる炎症反応又は免疫応答を検出する方法、尿素呼気試験法、ウレアーゼ試験法、培養法等により行うことができる。
【0036】
したがって、ヘリコバクター・ピロリ感染の検出試薬としては、ヘリコバクター・ピロリ由来の遺伝子又はタンパク質を検出する検出試薬、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体を検出する検出試薬、IL-8を検出する検出試薬、IL-8が産生誘導するTNF-α、IL-1、IL-6等を検出する検出試薬、尿素呼気試験法による検出試薬、ウレアーゼ試験法による検出試薬、培養法による検出試薬等が挙げられる。
【0037】
また、PGI及びPGIIの濃度測定試薬は、例えば、酵素免疫測定法による測定試薬であってもよいし、免疫凝集比濁法による測定試薬であってもよい。
【0038】
ヘリコバクター・ピロリの感染が検出され、ペプシノーゲン値が陽性である場合、高確率で胃癌部位の癌細胞がKK-LC-1を発現していると予測することができる。
【0039】
(第2実施形態)
第1実施形態のキットにおいて、ヘリコバクター・ピロリ感染の検出試薬は、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の検出試薬であってもよい。第2実施形態のキットは、ヘリコバクター・ピロリ感染の検出試薬が、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の検出試薬に特定されている点において、第1実施形態のキットと主に異なる。
【0040】
第2実施形態のキットによる、抗ヘリコバクター・ピロリIgGの検出、PGI及びPGIIの濃度測定に用いられる測定法は、従来のABC検診法に用いられるキットと同様の測定方法を用いるものであってもよい。
【0041】
抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価、PGI、PGIIを測定するために、胃癌患者から血液を採取し、血清や血漿等を得る方法としては、公知の方法を利用することができる。
【0042】
測定され、又は算出された、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価、PGI、PGII、PGI/PGIIをもとに、上述した分類方法により、胃癌患者をグループA~Dに分類する。その結果、グループCに分類された患者は、高確率で胃癌部位の癌細胞がKK-LC-1を発現していると予測することができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実験例1]
(胃癌患者のABC検診)
胃癌患者の胃癌細胞についてABC検診法を実施し、これによりKK-LC-1の発現を予測できるかを検討した。
【0045】
胃癌と診断された77名の患者について、手術前の血液を採取した。採取した血液から血清を分離した。
【0046】
また、患者の胃癌部位を切除する手術を行った後、切除した腫瘍部位を回収した。続いて、切除した腫瘍部位から、全RNAを調製し、cDNAを調製した。
【0047】
続いて、調製したcDNAを鋳型として、配列番号1に示すセンスプライマー及び配列番号2に示すアンチセンスプライマーを用いて、40サイクルのPCRを行った。続いて、PCR後の産物をアガロース電気泳動により展開し、342bpの増幅産物の有無を判定した。判定結果から、腫瘍部位におけるKK-LC-1の発現の有無を判断した。
【0048】
一方、以下に述べる方法により、各患者の血液中の、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価、PGIの濃度、PGIIの濃度を測定した。また、PGIの濃度、PGIIの濃度に基づいて、PGI/PGIIを算出した。
【0049】
PGIの濃度は、市販のキット(商品名「Human Pepsinogen I ELISA」、RayBiotech社)を用いて、次に述べる方法により、測定した。
【0050】
まず、既知濃度のPGI溶液と、希釈した患者の血清を、抗PGI抗体でコートされたマイクロウェルプレートに入れた。その後、ウェルを洗浄した。この結果、PGIがウェルに捕捉された。
【0051】
続いて、ビオチン標識された抗PGI抗体を各ウェルに加えた。続いて、ウェルを洗浄した後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識されたストレプトアビジンを各ウェルに加えた。
【0052】
続いて、ウェルを洗浄した後、基質として、3,3,5,5’-tetramethylbenzidine(TMB)を各ウェルに加え、発色させた。
【0053】
次に、発色させた試料の吸光度を測定した。続いて、既知濃度のPGIの吸光度に基づいて、検量線を作成した。続いて、作成した検量線に基づいて、試料の吸光度からPGIの濃度を算出した。本キットを用いた場合、濃度が100pg/mL~1000pg/mLの範囲にあるPGIの濃度を測定することが可能である。
【0054】
次に、患者の血清を加えた試料の吸光度と、検量線を用いて、患者の血清中に含まれるPGIの濃度を算出した。
【0055】
また、PGIIの濃度は、市販のキット(商品名「Human Pepsinogen II ELISA」、RayBiotech社)を用いて、PGIの濃度の測定方法と同様にして測定した。
【0056】
また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価は、市販のキット(商品名「H. pylori IgG (Human)ELISA Kit(quantitative)」、フェニックス・ファーマシューティカルズ社)を用いて、次に述べる方法により、測定した。
【0057】
まず、抗体価が既知である、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体を含む溶液を調製した。続いて、抗体価が既知の抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体を含む溶液と、希釈した患者の血清を、ヘリコバクター・ピロリ抗原でコートされたマイクロウェルプレートに入れた。その後、ウェルを洗浄した。この結果、抗ヘリコバクター・ピロリIgGがウェルに捕捉された。
【0058】
続いて、ウェルを洗浄した後、HRP標識された抗ヒトIgG抗体を各ウェルに加えた。続いて、ウェルを洗浄した後、TMBを各ウェルに加え、発色させた。
【0059】
次に、発色させた試料の吸光度を測定した。続いて、既知の抗体価の抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体の吸光度に基づいて、検量線を作成した。本キットを用いた場合、抗体価が10U/mL~100U/mLの範囲にあるIgGを測定することが可能である。
【0060】
次に、患者の血清を加えた試料の吸光度と、検量線を用いて、患者の血清中に含まれる抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体の抗体価を算出した。
【0061】
各患者の血液試料の、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価を、胃癌細胞の定量PCR法に基づいて判定した、KK-LC-1陽性のグループとKK-LC-1陰性のグループに分けて、それぞれ平均値を算出した。算出した平均値を表1に示す。
【0062】
次に、各患者の血液試料の、PGIとPGIIの値から、PGI/PGIIを算出した。続いて、PGI、PGII、及びPGI/PGIIを、胃癌細胞の定量PCR法に基づいて判定した、KK-LC-1陽性のグループとKK-LC-1陰性のグループに分けて、それぞれ平均値を算出した。算出した平均値を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
その結果、KK-LC-1陽性グループの抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価の平均値は、KK-LC-1陰性グループの抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価の平均値に比べて、有意に高かった(P=0.0159,Wilcoxon signed-rank test.)。
【0065】
また、KK-LC-1陽性グループのPGI/PGIIの平均値は、KK-LC-1陰性グループのPGI/PGIIの平均値に比べて、有意に低かった(P=0.0077,Wilcoxon signed-rank test.)。
【0066】
さらに、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価と、PGI/PGIIについて、次のように、陽性又は陰性に分類した。すなわち、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が20未満である場合には、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陰性、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が20以上である場合には、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陽性とした。
【0067】
また、PGIの濃度が70ng/mL以下、かつ、PGI/PGIIが3以下である場合には、ペプシノーゲン値が陽性とした。また、PGIの濃度が70ng/mLより高く、または、PGI/PGIIが3より大きい場合には、ペプシノーゲン値が陰性とした。
【0068】
次に、患者の血液試料の測定結果をA~Dの4個のグループに分類した。すなわち、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陰性であり、かつ、PGI/PGIIが陰性である場合には、グループAに分類した。また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陽性であり、かつ、PGI/PGIIが陰性である場合には、グループBに分類した。また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陽性であり、かつ、PGI/PGIIが陽性である場合には、グループCに分類した。また、抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体価が陰性であり、かつ、PGI/PGIIが陽性である場合には、グループDに分類した。
【0069】
77名の患者について、胃癌細胞の定量PCR法に基づいて判定した、KK-LC-1の検出結果と、血液試料に基づいて判定した、A~Dのグループへの分類結果を、表2に示す。また、各グループについて、胃癌細胞の定量PCR法に基づいて判定した、KK-LC-1 mRNAの発現が陽性である割合を算出した。この結果を表3に示す。表3中、カッコ内の値の分母は各グループに分類された患者の数を示し、分子は胃癌細胞の定量PCR法に基づいて判定した、KK-LC-1 mRNAの発現が陽性である患者の数を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
その結果、Cのグループに分類された49名の胃癌患者のうち、94%にあたる46名の胃癌患者が、胃癌部位の胃癌細胞においてKK-LC-1の発現が陽性であることが明らかになった。
【0073】
この結果は、胃癌患者に対して、上述の方法でABC診断を行うことにより、胃癌患者の胃癌部位の組織を用いなくても、胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を簡便に予測できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、胃癌細胞におけるKK-LC-1の発現を簡便に予測する技術を提供することができる。
【配列表】
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