(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】亜鉛溶解促進部材、製造方法、および亜鉛溶解方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/14 20060101AFI20221003BHJP
C25D 3/12 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C25D21/14 E
C25D3/12 101
(21)【出願番号】P 2018224841
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】石崎 伸治
(72)【発明者】
【氏名】赤松 慎也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 義治
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-204345(JP,A)
【文献】特開2016-138322(JP,A)
【文献】特公昭49-003372(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00- 7/12
C25D 1/00- 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面を有する被処理物と、
ピリジン系化合物を含有する酸性電気めっき浴により前記金属表面に形成された電気めっき皮膜と
を備え
、
前記酸性電気めっき浴が、ニッケルを含有するめっき浴であることを特徴とする亜鉛溶解促進部材。
【請求項2】
前記酸性電気めっき浴が、
0.18~938ミリmol/Lの前記ピリジン系化合物を含有することを特徴とする請求項
1に記載の亜鉛溶解促進部材。
【請求項3】
前記電気めっき皮膜が、
前記酸性電気めっき浴により陰極電解法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の亜鉛溶解促進部材。
【請求項4】
前記金属表面が、
ピリジン系化合物を含有しない酸性電気めっき浴により形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし
請求項3のいずれか1つに記載の亜鉛溶解促進部材。
【請求項5】
亜鉛に電気的に接続した状態で亜鉛めっき浴に浸漬される亜鉛溶解促進部材を製造する製造方法であって、
ピリジン系化合物
及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に、電気めっき皮膜を形成することで、亜鉛溶解促進部材を製造することを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記酸性電気めっき浴が、
0.18~938ミリmol/Lの前記ピリジン系化合物を含有することを特徴とする
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記電気めっき皮膜が、
前記酸性電気めっき浴により陰極電解法を用いて形成されたことを特徴とする
請求項5または
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ピリジン系化合物を含有しない酸性電気めっき浴を用いて、前記被処理物に前記金属表面を形成した後に、ピリジン系化合物を含有する酸性電気めっき浴を用いて、前記金属表面に、電気めっき皮膜を形成することで、亜鉛溶解促進部材を製造することを特徴とする
請求項5ないし
請求項7のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
ピリジン系化合物
及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用い
て金属表面を有する被処理物の表面に形成された電気めっき皮膜を備えた亜鉛溶解促進部材と、亜鉛とを電気的に接続した状態で亜鉛めっき浴に浸漬することで、前記亜鉛を前記亜鉛めっき浴に溶解させることを特徴とする亜鉛溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき浴に亜鉛を溶解させる亜鉛溶解促進部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ性亜鉛めっき浴に亜鉛イオンを供給する方法として、一般的に、強アルカリ性のめっき液中に金属亜鉛を浸漬して化学的に溶解させる方法がある。しかしながら、このような方法では、亜鉛の溶解速度は低く、めっき浴中に必要な亜鉛イオン濃度を維持することは困難である。このため、実際の工場等では、亜鉛金属より貴な金属である鉄、ニッケル等を含む金属と金属亜鉛とを電気的に接触させた状態で、亜鉛めっき浴に浸漬させることで、金属と金属亜鉛との電位差を利用して、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる方法が採用されている。下記特許文献には、金属と金属亜鉛との電位差を利用して、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる方法の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属と金属亜鉛との電位差を利用して亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる方法を採用した場合であっても、高濃度高電流の高速めっきラインでは、亜鉛イオンの供給が追い付かないため、更に多くの亜鉛イオンの供給が望まれている。このため、亜鉛金属と電気的に接続する金属として、白金を採用することで、亜鉛イオンの供給速度を相当高くすることが可能となる。しかしながら、白金は相当高価であるため、コスト面で非常に不利である。このため、本発明は、コスト的に有利な亜鉛溶解促進部材等の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の亜鉛溶解促進部材は、金属表面を有する被処理物と、ピリジン系化合物を含有する酸性電気めっき浴により前記金属表面に形成された電気めっき皮膜とを備え、前記酸性電気めっき浴が、ニッケルを含有するめっき浴であることを特徴とすることを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の亜鉛溶解促進部材の製造方法は、亜鉛に電気的に接続した状態で亜鉛めっき浴に浸漬される亜鉛溶解促進部材を製造する製造方法であって、ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に、電気めっき皮膜を形成することで、亜鉛溶解促進部材を製造することを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の亜鉛溶解方法は、ピリジン系化合物を含有する酸性電気めっき浴及びニッケルを用いて金属表面を有する被処理物の表面に形成された電気めっき皮膜を備えた亜鉛溶解促進部材と、亜鉛とを電気的に接続した状態で亜鉛めっき浴に浸漬することで、前記亜鉛を前記亜鉛めっき浴に溶解させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の亜鉛溶解促進部材では、ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に、電気めっき皮膜が形成される。そして、この亜鉛溶解促進部材と亜鉛とを電気的に接続した状態で亜鉛めっき浴に浸漬することで、効果的に亜鉛の溶解を促進することができる。また、ピリジン系化合物は、コスト的に非常に有利な化合物である。このため、本発明によれば、コスト的に有利な亜鉛溶解促進部材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】下地ニッケル皮膜形成時の酸性電気めっき浴の組成を示す図である。
【
図2】実施例1~5の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,亜鉛溶解促進皮膜の膜厚および、亜鉛溶解速度を示す図である。
【
図3】実施例6~10の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,亜鉛溶解促進皮膜の膜厚および、亜鉛溶解速度を示す図である。
【
図4】実施例11~15の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,亜鉛溶解促進皮膜の膜厚および、亜鉛溶解速度を示す図である。
【
図5】実施例16~20の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,亜鉛溶解促進皮膜の膜厚および、亜鉛溶解速度を示す図である。
【
図6】実施例21~25の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,亜鉛溶解促進皮膜の膜厚および、亜鉛溶解速度を示す図である。
【
図7】実施例26~28の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,亜鉛溶解促進皮膜の膜厚および、亜鉛溶解速度を示す図である。
【
図8】比較例1,2の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,亜鉛溶解促進皮膜の膜厚および、亜鉛溶解速度を示す図である。
【
図9】電気的に接触させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬された亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属板とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に記載の「ピリジン系化合物」は、ピリジン環を有する化合物であり、具体的には、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2-プロピルピリジン、3-プロピルピリジン、4-プロピルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,3,5-トリメチルピリジン、2-メチル-5-エチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、2-シアノピリジン、3-
シアノピリジン、4-シアノピリジン、2-ピコリンアミド、3-ピコリンアミド、4-ピコリンアミド、ピリジン-2-カルボン酸、ピリジン-3-カルボン酸、ピリジン-4-カルボン酸、1-
メチルピリジニウム-2-カルボン酸塩酸塩、1-メチルピリジニウム-3-カルボン酸塩酸塩、1-メチルピリジニウム-4-カルボン酸塩酸塩、2-ピリジンカルボキシアルデヒド、3-ピリ
ジンカルボキシアルデヒド、4-ピリジンカルボキシアルデヒド、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、1-メチルピリジニウムクロリド、1-エチルピリジニウムクロリド、1-プロピルピリジニウムクロリド、1-ブチルピリジニウムクロリド、1-ペンチルピリジニウムクロリド、1-ヘキシルピリジニウムクロリド、1-ヘプチルピリジニウムクロリド、1-オクチルピリジニウムクロリド、1-ノニルピリジニウムクロリド、1-デシルピリジニウムクロリド、1-ウンデシルピリジニウムクロリド、1-ドデシルピリジニウムクロリド、1-ベンジルピリジニウムクロリド、1-ベンジルピリジニウム-3-カルボキシラー
ト、1-ベンジル-3-カルボキシレートピリジニウム塩化ナトリウム、2-ベンジルピリジン
、3-ベンジルピリジン、4-ベンジルピリジン、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、2-アセチルピリジン、3-アセチルピリジン、4-アセチルピリジン、2-フェニルピリジン、3-フェニルピリジン、4-フェニルピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロキノリン 、2-メチルピラジン、5-メチルピラジンなどが挙げられる。
【0011】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴でのピリジン系化合物の濃度は、0.18~938ミリmol/Lであることが好ましく、特に、0.88~368ミリmol/Lであることが好ましい。
【0012】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴の浴温は、5~90℃であることが好ましく、特に、25~45℃であることが好ましい。
【0013】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴には、導電性および緩衝性を与える化合物として、無機酸、有機酸、それらのアルカリ塩類、有機錯化剤などと、それらのアルカリ塩類、さらに、有機アミン、有機ポリアミンなどが含まれてもよい。
【0014】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴には、さらに、皮膜安定剤、皮膜密着性強化剤として、フェノール水酸基を有する化合物、フェノール酸塩など低分子化合物や、それらを骨格に持つ高分子化合物、タンニン、タンニン酸、カテキンなどポリフェノールといわれる高分子化合物などが含まれてもよい。
【0015】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴では、陰極電解方式を採用することが好ましい。これにより、耐久性の高い皮膜を形成することが可能となる。なお、陰極電解時の電流密度は、0.2~60A/dm2であることが好ましく、特に、1~10A/dm2であることが好ましい。これにより、比較的低い電流密度で皮膜を形成することが可能となる。
【0016】
なお、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴では、陰極電解方式ではなく、陽極電解と陰極電解とを交互に繰り返す電解方式、所謂、PR電解方式を採用することも可能である。PR電解方式を採用する際には、陰極電解時の電流密度を0.2~60A/dm2とし、陽極電解時の電流密度を0~30A/dm2とすることが好ましく、特に、陰極電解時の電流密度を1~10A/dm2とし、陽極電解時の電流密度を0~10A/dm2とすることが好ましい。また、陰極電解時間を0.1~10秒とし、陽極電解時間を0.1~10秒とすることが好ましく、陰極電解時間と陽極電解時間との比率は、陰極電解時間:陽極電解時間=1:0.1~1:1とすることが好ましい。
【0017】
また、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴によって皮膜を形成する前に、下地ニッケルめっきを施すことが好ましい。これにより、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴による皮膜を適切に形成するとともに、密着性を高くすることが可能となる。なお、下地ニッケルめっき処理時の陰極電流密度は、0.5~30A/dm2であることが好ましく、特に、1~15A/dm2であることが好ましい。また、浴温は、40~60℃であることが好ましい。
【0018】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴を用いて形成される皮膜には、添加する金属イオン等を調整することで、Ni,Cu,Co,Mn,Fe,In,Ir,Pt,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの単金属または、それら2元素以上の合金などを含むことが可能である。さらに、皮膜には、Mo,W,Zr,Si,Ce,V,Al,Ni,Cu,Co,Mn,Fe,In,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの金属酸化物、硫化物などの微粒子、カーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー,カーボンブラックのような炭素体、アルカリ金属化合物,アルカリ土類金属化合物などを含むことが可能である。
【0019】
本発明に記載の「亜鉛溶解促進部材」は、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴を用いて、基材の表面にめっき皮膜が形成されることで製造される。そして、この亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを電気的に接触させた状態で、亜鉛めっき浴中に浸漬することで、亜鉛金属を溶解し、高速で亜鉛イオンをめっき浴に供給することが可能となる。
【0020】
亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との電気的な接触は、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを直接的に接触させてもよく、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを、導電線等により接続することで、間接的に接触させてもよい。また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを間接的に接触
させる場合には、可変抵抗器を介して接触させてもよい。これにより、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間を流れる電流を調整することが可能となり、亜鉛めっき浴中に供給される亜鉛イオンの量を調整することが可能となる。
【0021】
なお、亜鉛めっき浴中の亜鉛の濃度は、1~100g/Lであることが好ましく、特に、1~80g/Lであることが好ましい。また、亜鉛めっき浴中の水酸化ナトリウムの濃度は、30~250g/Lであることが好ましく、特に、140~200g/Lであることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0023】
図2~
図8に示す配合の各原料から、実施例1~28および比較例1,2の亜鉛溶解促進部材を製造するための酸性電気めっき浴を調整した。なお、各原料の詳細は、下記の通りある。
塩化ニッケル・6水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製
塩化第一鉄・4水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製
クエン酸水素二アンモニウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
35%塩酸:東亜合成株式会社製
ピリジン系化合物A:1-ベンジル-3-カルボキシレートピリジニウム塩化ナトリウム
ピリジン系化合物B:1-メチルピリジニウム-3-カルボン酸塩酸塩
ピリジン系化合物C:1-ドデシルピリジニウムクロリド
【0024】
また、実施例1~28および比較例1,2の酸性電気めっき浴による電気めっき皮膜の形成前には、皮膜の密着性を高めるべく、基材に下地ニッケルめっきが行われる。なお、基材として、実施例1~26および比較例1,2の酸性電気めっき浴では、板形状(50×100×0.8mm:1dm2)のSPCC-SD材(株式会社エンジニアリングテストサービス製)が用いられ、実施例27,28の酸性電気めっき浴では、板形状(50×100×0.8mm:1dm2)のSPCC-SD材(株式会社エンジニアリングテストサービス製)と、板形状(50×100×0.8mm:1dm2)のC1220P材(株式会社エンジニアリングテストサービス製)とが用いられる。
【0025】
下地ニッケル用のめっき浴は、
図1に示すめっき浴組成の各原料により調整される。
図1での各原料の詳細は、下記の通りある。
スルファミン酸ニッケル(II)・4水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製
塩化ニッケル・6水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製
ホウ酸:富士フィルム和光純薬株式会社製
【0026】
また、下地ニッケルのめっき条件は、下記の通りである。
陰極電流密度:5A/dm2
浴温:50℃
液pH:4.0
陽極:Ni材または不溶性陽極
液循環:スターラー撹拌(回転数:500rpm)(撹拌子サイズ:φ8×30mm)
【0027】
上記条件で下地ニッケルめっきが行われると、基材の表面に5μmの膜厚のニッケル皮膜(以下、「下地ニッケル皮膜」と記載する。)が形成される。そして、下地ニッケル皮
膜が形成された基材に、実施例1~28および比較例1,2の酸性電気めっき浴を用いて、陰極電解方式の電気めっきが実行される。この際の電気めっきの条件は、以下のとおりである。
液pH:実施例1~26および比較例1,2では0.1未満、実施例27,28では4.5
なお、実施例27,28の液pHは、25%アンモニア水(富士フィルム和光純薬株式会社製)によって調整
陽極:Ni材または不溶性陽極
液循環:スターラー撹拌(回転数:500rpm)(撹拌子サイズ:φ8×30mm)
なお、陰極電流密度(A/dm2)、浴温(℃)、処理時間(min)は、実施例1~28および比較例1,2のめっき条件に記載されている。
【0028】
上記条件で電気めっきが行われることで、下地ニッケル皮膜が形成された基材に、ニッケル皮膜(以下、「亜鉛溶解促進皮膜」と記載する)が形成される。つまり、基材の表面に、下地ニッケル皮膜が形成され、その下地ニッケル皮膜の表面に、亜鉛溶解促進皮膜が形成される。このようにして形成された亜鉛溶解促進皮膜の膜厚(μm)を測定した。なお、実施例27,28の酸性電気めっき浴では、基材としてC1220P材が用いられた亜鉛溶解促進皮膜の膜厚(μm)を測定した。そして、測定された亜鉛溶解促進皮膜の膜厚(μm)を実施例1~28および比較例1,2に示す。
【0029】
また、上述したようにして形成された実施例1の亜鉛溶解促進皮膜の組成および、実施例27の亜鉛溶解促進部材の組成を、走査電子顕微鏡(JSM-IT300:日本電子株式会社製)及び、エネルギー分散形X線分析装置(EX-37001:日本電子株式会製)によって測定した。以下に、その組成を示す。
実施例1の亜鉛溶解促進皮膜の組成
Ni:93.04wt%
C:3.36wt%
O:3.61wt%
実施例27の亜鉛溶解促進皮膜の組成
Ni:70.16wt%
Fe:19.78wt%
C:3.45wt%
O:6.60wt%
【0030】
また、実施例1~28および、比較例1,2の酸性電気めっき浴を用いて亜鉛溶解促進皮膜が形成された部材(以下、「亜鉛溶解促進部材」と記載する)と、亜鉛金属とを電気的に接触させた状態で、亜鉛めっき浴に浸漬した際の亜鉛溶解速度を測定した。なお、実施例27,28の酸性電気めっき浴では、基材としてSPCC-SD材が用いられた亜鉛溶解促進部材の亜鉛溶解速度を測定した。詳しくは、
図9に示すように、板形状(50×100×0.8mm:1dm2)の亜鉛板10と、板形状(50×100×0.8mm:1dm2)の亜鉛溶解促進部材12とを直接的に接触させた状態で、亜鉛めっき浴14に浸漬する。ここで、亜鉛板10及び亜鉛溶解促進部材12の浸漬面積は、共に0.8dm2である。なお、亜鉛板10と亜鉛溶解促進部材12とは、クリップなどの固定部材16により固定される。また、亜鉛めっき浴14の原料およびめっき浴の状態は、下記のとおりである。
亜鉛:40g
苛性ソーダ:160g/L
メタスZES-M:4mL/L(ユケン工業株式会社製)
メタスZES-G:0.5mL/L(ユケン工業株式会社製)
浴温:40℃
液量:400mL
液循環:スターラー撹拌(回転数:750rpm)(撹拌子サイズ:φ8×30mm)
【0031】
そして、上述した状態で亜鉛めっき浴14に浸漬された亜鉛板10の溶解量(g)を測定し、単位時間当たりの亜鉛の溶解量(亜鉛:1dm2換算)、つまり、亜鉛溶解速度(g/dm2・h)を演算した。その演算された亜鉛溶解速度(g/dm2・h)を、実施例1~28および比較例1,2に示す。
【0032】
この演算された亜鉛溶解速度(g/dm2・h)から、亜鉛溶解促進部材を、ピリジン系化合物Aを含有する電気めっき浴により形成することで、亜鉛を好適に溶解させることが可能となることが解る。詳しくは、実施例1~26の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが含有されており、そのめっき浴を用いて形成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.02~6.08とされている。一方、比較例1の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが含有されておらず、そのめっき浴を用いて形成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.01とされている。つまり、ピリジン系化合物Aを含有する電気めっき浴により形成された亜鉛溶解促進部材は、ピリジン系化合物Aを含有しない電気めっき浴により形成された亜鉛溶解促進部材と比較すると、2~608倍も速い速度で亜鉛を溶解している。このように、亜鉛溶解促進部材を、ピリジン系化合物Aを含有する電気めっき浴により形成することで、亜鉛を好適に溶解させることが可能となる。
【0033】
また、実施例14の電気めっき浴には、塩化ニッケル・6水和物が20g/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が3.90とされている。また、実施例15の電気めっき浴には、塩化ニッケル・6水和物が687g/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が5.00とされている。このため、塩化ニッケル・6水和物を20~687g/L、電気めっき浴に含有することが好ましい。更に言えば、実施例2の電気めっき浴には、塩化ニッケル・6水和物が120g/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が6.08とされている。また、実施例3の電気めっき浴には、塩化ニッケル・6水和物が480g/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.06とされている。このため、塩化ニッケル・6水和物を120~480g/L、電気めっき浴に含有することが特に好ましい。
【0034】
また、実施例16の電気めっき浴には、35%塩酸が65mL/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.50とされている。また、実施例17の電気めっき浴には、35%塩酸が700mL/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.55とされている。このため、35%塩酸を65~700mL/L、電気めっき浴に含有することが好ましい。更に言えば、実施例4の電気めっき浴には、35%塩酸が100mL/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が5.30とされている。また、実施例5の電気めっき浴には、35%塩酸が350mL/L含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.90とされている。このため、35%塩酸を100~350mL/L、電気めっき浴に含有することが特に好ましい。
【0035】
また、実施例18の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが0.05g/L(0.18ミリmol/L)含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進
部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.02とされている。また、実施例19の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが255g/L(938ミリmol/L)含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.31とされている。このため、ピリジン系化合物Aを0.05~255g/L(0.18~938ミリmol/L)、電気めっき浴に含有することが好ましい。更に言えば、実施例6の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが0.24g/L(0.88ミリmol/L)含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.70とされている。また、実施例7の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが100g/L(368ミリmol/L)含有されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.20とされている。このため、ピリジン系化合物Aを0.24~100g/L(0.88~368ミリmol/L)、電気めっき浴に含有することが特に好ましい。
【0036】
また、実施例20の電気めっき浴では、陰極電流密度(A/dm2)が0.2とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.62とされている。また、実施例21の電気めっき浴では、陰極電流密度(A/dm2)が60とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が5.48とされている。このため、陰極電流密度(A/dm2)は0.2~60とされることが好ましい。更に言えば、実施例8の電気めっき浴では、陰極電流密度(A/dm2)が1とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が5.26とされている。また、実施例9の電気めっき浴では、陰極電流密度(A/dm2)が10とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が5.00とされている。このため、陰極電流密度(A/dm2)は、特に1~10とされることが好ましい。
【0037】
また、実施例22の電気めっき浴では、浴温(℃)が5℃とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.78とされている。また、実施例23の電気めっき浴では、浴温(℃)が90℃とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.05とされている。このため、浴温(℃)は5~90℃とされることが好ましい。更に言えば、実施例10の電気めっき浴では、浴温(℃)が25℃とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.63とされている。また、実施例11の電気めっき浴では、浴温(℃)が45℃とされており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.56とされている。このため、陰極電流密度(A/dm2)は、特に25~45℃とされることが好ましい。
【0038】
また、実施例24の電気めっき浴では、処理時間が2分とされることで、亜鉛溶解促進皮膜の膜厚が0.1μmとされている。そして、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.62とされている。このため、亜鉛溶解促進皮膜の膜厚は0.1μm以上であることが好ましい。更に言えば、実施例12の電気めっき浴では、処理時間が20分とされることで、亜鉛溶解促進皮膜の膜厚が1μmとされている。そして、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.10とされている。また、実施例13の電気めっき浴では、処理時間が270分とされることで、亜鉛溶解促進皮膜の膜厚が20μmとされている。そして、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が4.56とされている。このため、亜鉛溶解促進皮膜の膜厚は1μm以上であることが好ましい。
【0039】
また、実施例25の電気めっき浴では、ピリジン系化合物Aの代わりにピリジン系化合物Bが採用されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が0.11とされている。また、実施例26の電気めっき浴では、ピリジン系化合物Aの代わりにピリジン系化合物Cが採用されており、その電気めっき浴を用いて作成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が2.93とされている。このため、ピリジン系化合物A~Cの何れのものを電気めっき浴に含有させても、亜鉛を効果的に溶解させる亜鉛溶解促進部材を製造できる。
【0040】
また、実施例27,28及び比較例2の電気めっき浴では、塩化ニッケル・6水和物に加えて、塩化第一鉄・4水和物が加えられており、35%塩酸の代わりに、クエン酸水素二アンモニウムが加えられている。つまり、実施例1~26及び比較例1の電気めっき浴では、塩酸浴により、Ni-C膜が亜鉛溶解促進皮膜として形成され、実施例27,28及び比較例2の電気めっき浴では、クエン酸浴により、Ni-Fe-C膜が亜鉛溶解促進皮膜として形成されている。そして、実施例27,28の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが含有されており、そのめっき浴を用いて形成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が1.80~4.46とされている。一方、比較例2の電気めっき浴には、ピリジン系化合物Aが含有されておらず、そのめっき浴を用いて形成された亜鉛溶解促進部材では、亜鉛の溶解速度(g/dm2・h)が1.40とされている。つまり、ピリジン系化合物Aを含有する電気めっき浴により形成された亜鉛溶解促進部材は、ピリジン系化合物Aを含有しない電気めっき浴により形成された亜鉛溶解促進部材と比較すると、約1.3~3.2倍も速い速度で亜鉛を溶解している。このため、Ni-C膜と、Ni-Fe-C膜とのうちの何れの亜鉛溶解促進皮膜であっても、亜鉛を効果的に溶解させることが可能となる。つまり、ニッケルめっき浴とニッケル合金めっき浴との何れを用いても、亜鉛を効果的に溶解可能な亜鉛溶解促進部材を製造できる。