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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】階段用昇降装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 9/08 20060101AFI20221003BHJP
【FI】
B66B9/08 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020213741
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099757
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】500539561
【氏名又は名称】株式会社テムザック
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】高本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】清水 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】畑迫 和紀
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0326521(US,A1)
【文献】特開2019-137344(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0231050(US,A1)
【文献】特開2002-087735(JP,A)
【文献】特開2009-012866(JP,A)
【文献】特開平02-003579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 9/00- 9/08
B66F 11/00-11/04
B62D 57/00-57/04
B62B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の階段上に該階段の全長にわたって設置され、搬送対象物を前記階段に沿って昇降させる階段用昇降装置であって、
使用時に前記階段の昇降方向に沿って設置されるガイド部と、前記搬送対象物を保持する搬送台車を有し前記ガイド部に沿って往復動する往復移動部と、前記ガイド部に取付けられて該ガイド部を支持する本体移動手段とを備え、該本体移動手段により、前記階段上の設置位置と前記階段外の退避位置との間を移動する階段昇降ロボットを有することを特徴とする階段用昇降装置。
【請求項2】
請求項1記載の階段用昇降装置において、前記本体移動手段は、前記ガイド部の両側部に配置された複数の多関節脚部を有することを特徴とする階段用昇降装置。
【請求項3】
請求項2記載の階段用昇降装置において、前記各多関節脚部は、前記ガイド部の外側部に回動可能に取付けられた水平軸支部と、該水平軸支部の先側に回動可能に保持された垂直軸支部と、基側が該垂直軸支部に対して上下方向に回動可能に保持された上脚部と、基側が該上脚部の先側に対して前記ガイド部の幅方向に回動可能に保持された下脚部とを有することを特徴とする階段用昇降装置。
【請求項4】
請求項3記載の階段用昇降装置において、前記各多関節脚部は、前記下脚部の先側に対して前記ガイド部の幅方向に回動可能に保持され先端に接地部が形成された接地脚部を有することを特徴とする階段用昇降装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1記載の階段用昇降装置において、前記往復移動部は、前記搬送台車に連結されて前記ガイド部に沿って移動する移動部と、該移動部に搭載された駆動モータと、該駆動モータの回転軸に取付けられたピニオンとを有し、前記ガイド部は、該ガイド部の長手方向に沿って取付けられ前記ピニオンが噛合するラック部を有することを特徴とする階段用昇降装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1記載の階段用昇降装置において、前記ガイド部に着脱可能に連結される延長ガイド部と、該延長ガイド部に取付けられて該延長ガイド部を支持する延長ガイド移動手段とを備え、該延長ガイド移動手段により、前記階段上の設置位置と前記階段外の退避位置との間を移動するガイド部延長用ロボットを有することを特徴とする階段用昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の階段上に必要に応じて設置され、人が搭乗した車椅子、家具(例えば本棚、テーブル等)、又は電化製品(例えば冷蔵庫、洗濯機等)等の重量物を搬送対象物として階段に沿って昇降させる階段用昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、足腰の弱った高齢者又は病気若しくは怪我により歩行が困難な要介護者の移動には車椅子が使用されているが、二階建て以上の建築物において、各階の間を車椅子で移動するには、エレベータ若しくは専用のリフターが不可欠である。しかし、木造建築物及び5階建て以下の建築物では、エレベータが設置されていないことが多く、車椅子の利用者及びそれを介護する介護者にとって大きな負担となっている。また、建築物への重量物の搬入若しくは搬出に関しては、建築物にエレベータが設置されていなくても、人力で搬送することが可能であるが、人力による重量物の搬送は重労働であり、作業者の負担増大と共に、作業者不足を招いている。そこで、車椅子の利用者のためのバリアフリーの推進及び重量物の搬送における作業負担の軽減と労働力の確保を目的として、既存の建築物にエレベータを設置しようとすると、大掛かりな工事が必要となり、時間と費用がかかるという問題がある。また、木造建築物の場合、構造的な問題から、エレベータを設置できないこともある。特に、文化的に価値のある建築物については、美観的な面からも改修が制限されることがあり、エレベータの設置は困難である。これらの問題に対し、例えば、特許文献1では、平地走行車に階段走行コンベアを常時装着し、平地走行時は階段走行コンベア部を縮小して平地走行車に収納して車椅子のように走行でき、階段走行時は階段走行コンベアを後傾にして階段に接地させ、階段走行コンベアの荷重受け範囲を延長して荷重受け範囲の中央付近に全体の重心を移動して走行する階段走行可能な運搬車が提案されている。また、特許文献2では、階段の左右両端及び中央付近のうちのいずれか2箇所に階段上面に沿って階段の傾斜方向に配置した2本の軌道と、被運搬物を載せて軌道上を軌道に沿って昇降することで、被運搬物を運搬する運搬台車と、運搬台車を軌道に沿って昇降させる駆動装置と、を備えた階段昇降運搬装置が提案されている。さらに、特許文献3では、2つの門型構造体と、2つの門型構造体の頂部を結合するレールと、レールに設けたトロリと、トロリに設けられ、重量物を揚重する揚重手段とを有する門型雇と、重量物が搭載される台部と、台部の下部に設けたローラと、台部に取付けた脚と、2つの門型構造体のそれぞれとレールとの間の左右方向の相対的な回動を可能にさせる回動部とを備えた重量物の階段揚重装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-181040号公報
【文献】特開2008-74539号公報
【文献】特開2017-71488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、階段を走行するために専用の運搬車を購入するか、既存の車椅子に対して大掛かりな改造を行う必要があり、利用者の負担が増大するという問題がある。また、平地走行車(車椅子)に階段走行コンベアを装着した構造で、人が搭乗して移動することを目的としており、家具や電化製品等の重量物の搬送については考慮されておらず、汎用性に欠けるという問題がある。特許文献2では、階段上面に沿って2本の軌道を設置し、ウインチ等の駆動装置を階上踊場の壁面等に取付けなければならないので、設置作業に手間がかかると共に、設置場所の制約を受けるという問題がある。また、装置を使用しないときに、運搬台車を軌道から外すことにより、通常の階段使用の邪魔にならないとされているが、頻繁に運搬台車の取付け及び取外しの作業が必要であり、作業にも人手と手間が掛かり、省力性に欠けるという問題がある。特許文献3の装置は、重量物の運搬時に必要に応じて階段上に設置されるものであり、大型で、設置及び撤去の作業に人手と手間が掛かり、設置中及び撤去作業中には階段を使用することが困難になる。これは、この装置が、同じ場所で頻繁(断続的)に又は突発的に使用されることを想定していないためであり、人が搭乗した車椅子の搬送に柔軟に対応することができないという問題がある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、建築物の階段上に必要に応じて設置され、人が搭乗した車椅子、家具、又は電化製品等の重量物を搬送対象物として階段に沿って昇降させることができ、使用時以外は直ちに階段上から退避させて階段の通常使用を可能とし、設置及び退避時の工事や建築物の改造が不要で、低コスト性、設置自在性及び汎用性に優れ、設置及び退避の作業を自動化することが可能な省力性及び機能性に優れた階段用昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る階段用昇降装置は、建築物の階段上に該階段の全長にわたって設置され、搬送対象物を前記階段に沿って昇降させる階段用昇降装置であって、
使用時に前記階段の昇降方向に沿って設置されるガイド部と、前記搬送対象物を保持する搬送台車を有し前記ガイド部に沿って往復動する往復移動部と、前記ガイド部に取付けられて該ガイド部を支持する本体移動手段とを備え、該本体移動手段により、前記階段上の設置位置と前記階段外の退避位置との間を移動する階段昇降ロボットを有する。
【0006】
本発明に係る階段用昇降装置において、前記本体移動手段は、前記ガイド部の両側部に配置された複数の多関節脚部を有することが好ましい。
ここで、多関節脚部は、ガイド部の両側部に対となって対向配置されることが好ましいが、必ずしも対向している必要はなく、互い違いに配置されてもよい。
【0007】
本発明に係る階段用昇降装置において、前記各多関節脚部は、前記ガイド部の外側部に回動可能に取付けられた水平軸支部と、該水平軸支部の先側に回動可能に保持された垂直軸支部と、基側が該垂直軸支部に対して上下方向に回動可能に保持された上脚部と、基側が該上脚部の先側に対して前記ガイド部の幅方向に回動可能に保持された下脚部とを有することが好ましい。
【0008】
本発明に係る階段用昇降装置において、前記各多関節脚部は、前記下脚部の先側に対して少なくとも前記ガイド部の幅方向に回動可能に保持され先端に接地部が形成された接地脚部を有することが好ましい。
ここで、接地脚部は下脚部に対して少なくともガイド部の幅方向に回動可能であればよいが、接地時の安定性をさらに増すために、連結部に球状関節又は3自由度を有する関節を用いることが望ましい。なお、下脚部と接地脚部との連結部は能動関節である必要はなく、接地面の傾斜に合わせて回動する受動関節でもよい。
【0009】
本発明に係る階段用昇降装置において、前記往復移動部は、前記搬送台車に連結されて前記ガイド部に沿って移動する移動部と、該移動部に搭載された駆動モータと、該駆動モータの回転軸に取付けられたピニオンとを有し、前記ガイド部は、該ガイド部の長手方向に沿って取付けられ前記ピニオンが噛合するラック部を有することが好ましい。
【0010】
本発明に係る階段用昇降装置において、前記ガイド部に着脱可能に連結される延長ガイド部と、該延長ガイド部に取付けられて該延長ガイド部を支持する延長ガイド移動手段とを備え、該延長ガイド移動手段により、前記階段上の設置位置と前記階段外の退避位置との間を移動するガイド部延長用ロボットを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る階段用昇降装置によれば、使用時に階段の昇降方向に沿って設置されるガイド部に沿って往復動する往復移動部が、搬送対象物を保持する搬送台車を有するので、エレベータ若しくはリフターが設置されていない建築物において、人が搭乗した車椅子、家具、又は電化製品等の重量物を搬送対象物として階段に沿って簡単に昇降させることができる。ガイド部及び往復移動部を備えた階段昇降ロボットは、ガイド部を支持する本体移動手段により、階段上の設置位置と階段外の退避位置との間を移動できるので、使用時以外は直ちに階段上から退避させて階段を通常使用することができ、設置及び退避時の工事や建築物の改造が不要で、低コスト性及び設置自在性に優れる。また、階段昇降ロボットの設置及び退避の作業を自動化することが可能で、省力性及び機能性に優れる。
【0012】
本体移動手段が、ガイド部の両側部に対向配置された複数対の多関節脚部を有する場合、階段上の設置位置でも、階段外の退避位置(平地)でも、ガイド部を所定の姿勢で確実に支持することができ、ガイド部の支持安定性に優れる。
【0013】
各多関節脚部が、ガイド部の外側部に取付けられた水平軸支部と、水平軸支部の先側に回動可能に保持された垂直軸支部と、基側が垂直軸支部に対して上下方向に回動可能に保持された上脚部と、基側が上脚部の先側に対してガイド部の幅方向に回動可能に保持された下脚部とを有する場合、階段昇降ロボットをスムーズに移動(歩行)させることができると共に、ガイド部の高さ及び傾斜角度を自在に設定してガイド部を確実に支持することができ、汎用性及び機能性に優れる。
【0014】
各多関節脚部が、下脚部の先側に対してガイド部の幅方向に回動可能に保持され先端に接地部が形成された接地脚部を有する場合、ガイド部の支持安定性を向上させることができる。
【0015】
往復移動部が、搬送台車に連結されてガイド部に沿って移動する移動部と、移動部に搭載された駆動モータと、駆動モータの回転軸に取付けられたピニオンとを有し、ガイド部が、ガイド部の長手方向に沿って取付けられピニオンが噛合するラック部を有する場合、移動部を介して搬送台車を確実にガイド部に沿って移動させて、各種重量物を昇降(搬送)することができ、動作不良が発生し難く、往復移動動作の確実性及び安定性に優れる。
【0016】
ガイド部に着脱可能に連結される延長ガイド部と、延長ガイド部に取付けられて延長ガイド部を支持する延長ガイド移動手段とを備え、延長ガイド移動手段により、階段上の設置位置と階段外の退避位置との間を移動するガイド部延長用ロボットを有する場合、階段昇降ロボットが使用される階段の長さに対して、ガイド部の長さが不足しても、直ちに延長ガイド部を設置して対応することができ、汎用性に優れる。また、延長ガイド部(ガイド部延長用ロボット)の設置及び退避の作業を自動化することが可能で、省力性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係る階段用昇降装置の階段昇降ロボットを示す斜視図である。
図2】同階段用昇降装置の階段昇降ロボットの多関節脚部を示す要部拡大斜視図である。
図3】同階段用昇降装置のガイド部延長用ロボットを示す斜視図である。
図4】(A)、(B)はそれぞれ同階段用昇降装置の階段昇降ロボットとガイド部延長用ロボットを連結する連結手段を示す要部拡大斜視図及び要部側断面図である。
図5】同階段用昇降装置を階段に設置した状態を示す斜視図である。
図6】同階段用昇降装置の使用状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る階段用昇降装置10は、図5及び図6に示すように、建築物の階段11上に設置され、車椅子、家具、又は電化製品等の重量物を搬送対象物として階段11に沿って昇降させるものである。以下、搬送対象物として車椅子12を例にして説明する。
まず、図1図2図5図6により、階段用昇降装置10の階段昇降ロボット13について説明する。階段昇降ロボット13は、使用時に階段11の昇降方向に沿って設置されるガイド部15と、車椅子12を保持する搬送台車16を有しガイド部15に沿って往復動する往復移動部17と、ガイド部15に取付けられてガイド部15を支持する本体移動手段18とを備えている。そして、階段昇降ロボット13は、本体移動手段18により、階段11上の設置位置と階段11外の退避位置(平地)との間を移動することができる。ここで、本体移動手段18は、ガイド部15の両側部に対向配置された複数対(ここでは3対)の多関節脚部20を有している。
【0019】
以下、多関節脚部20の詳細について説明する。
図2に示すように、各多関節脚部20は、ガイド部15の外側部に回動可能に取付けられた水平軸支部21と、水平軸支部21の先側に回動可能に保持された垂直軸支部22と、基側が垂直軸支部22に対して上下方向に回動可能に保持された上脚部23と、基側が上脚部23の先側に対してガイド部15の幅方向に回動可能に保持された下脚部24と、下脚部24の先側に対してガイド部15の幅方向に回動可能に保持され先端に接地部25が形成された接地脚部26を有する。ここで、水平軸支部21、垂直軸支部22及び上脚部23の基側の連結部を合わせたものが互いに直交する3軸(x1、y1、z1)の回転自由度を有する第1関節部28を構成する。また、上脚部23の先側と下脚部24の基側との連結部が1軸(y2)の回転自由度を有する第2関節部29を構成し、下脚部24の先側と接地脚部26の基側との連結部が1軸(y3)の回転自由度を有する第3関節部30を構成する。これらの多関節脚部20(本体移動手段18)により、階段昇降ロボット13は、昆虫(例えばナナフシ)のように歩行(移動)を行うと共に、昆虫の胴体部に相当するガイド部15の高さ及び傾斜角度を自在に設定してガイド部15を確実に支持することができる。特に、接地部25が平板状に形成されていることにより、接地面積を拡大して、支持安定性を向上できる。また、接地部25の底面(接地面)に滑り止め加工(凹凸の形成等)を施したり、ゴム板等の滑り止めを貼付けたりして接地安定性を高めることもできる。
【0020】
なお、第1~第3関節部28~30には、従来公知の各種多関節脚部(多関節ロボット)と同様の構造を採用することができるが、各関節部にアクチュエータ(例えば電動モータ)を搭載し、水平軸支部21、垂直軸支部22、上脚部23、下脚部24及び接地脚部26を、それぞれの回動軸を中心に回動させるものが好適に用いられる。
このとき、階段昇降ロボット13には、動作制御を行うための制御部(図示せず)と各種センサ(図示せず)が搭載される。センサとしては、例えば、ガイド部15の姿勢を検出するための姿勢センサ、各関節部での変位量(回転角)を検出するための変位センサ、各アクチュエータ(電動モータ)の通電電流を検出する電流センサ、接地部25が接地面から受ける外力を検出するための力センサ、階段昇降ロボット13の周囲の状況を観測するためのカメラ等が搭載される。姿勢センサとしては、例えば、3軸の角速度を検出するジャイロセンサと3軸の並進加速度を検出する加速度センサから構成されたものが好適に用いられる。また、変位センサとしては、ロータリエンコーダやポテンショメータ等の回転角センサが好適に用いられ、力センサとしては、6軸力センサが好適に用いられる。カメラは、少なくとも階段昇降ロボット13(ガイド部15)の正面側を撮影できるように配置されるが、必要に応じて、側方や後方を撮影するためのカメラを追加してもよいし、1つのカメラを鉛直軸を中心に回転させて撮影方向を切り替えてもよい。なお、カメラの代わり、或いはカメラと併せて、階段昇降ロボット13から階段11や周囲の障害物までの距離を検出可能な測距センサ(例えば、レーザ式測距センサ等)を搭載してもよい。
制御部は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路等を含む電子回路ユニットにより構成され、上記の各センサの検出信号が入力される。そして、制御部は、予めティーチングされた動作指令、カメラ等による周囲のセンシング情報、及び予め記憶した地図情報のいずれか1以上を基に各アクチュエータを制御し、各関節部を動作させる。なお、階段昇降ロボット13が設置位置と退避位置との間を移動する際の移動開始指令は、階段昇降ロボット13の制御部と通信可能なコントローラから送信されることにより、必要に応じて、階段昇降ロボット13の設置と退避を行うことができる。
【0021】
次に、往復移動部17は、図1図5図6に示すように、搬送台車16に連結されてガイド部15に沿って移動する移動部32を有している。そして、移動部32には駆動モータ(図示せず)が搭載されており、その回転軸にはピニオン(図示せず)が取付けられている。また、上面が開口した溝状(断面コ字形)のガイド部15の内側には、図4(A)に示すように、ガイド部15の長手方向に沿って、ピニオンが噛合するラック部33が取付けられている。往復移動部17の駆動モータを駆動して回転軸と共にピニオンを回転させることにより、移動部32(搬送台車16)をラック部33(ガイド部15)に沿って往復移動させることができる。本実施の形態では、往復移動部17のピニオンと、ガイド部15に設けたラック部33との組合せで移動部32(搬送台車16)を往復動させる構成としたが、これに限定されるものではなく、搬送台車をガイド部に沿って往復動することができればよい。例えば、駆動モータでウインチを回転させ、ワイヤを巻き取ることにより、搬送台車を往復動させるものでもよい。
【0022】
次に、搬送台車16は、図1図5図6に示すように、車椅子12の左右の車輪を保持する一対の車輪保持部35を有している。各車輪保持部35は、車輪の幅と同等以上の溝幅を有する断面コ字形で、車輪を下方から支持する水平部36と、車輪を後方から支持する垂直部37からなるL字状に形成されている。また、搬送台車16は、車椅子12の背もたれに当接する背もたれ支持部38を有している。そして、背もたれ支持部38の幅方向両側には、車椅子12の背もたれの左右の支柱に係合するコ字形の係止部38aが取付けられている。さらに、搬送台車16は、移動部32に対して傾動可能に連結されている。以上の構成により、図5に示す初期状態(水平状態)で搬送台車16に車椅子12を載せ、各車輪保持部35、背もたれ支持部38、及び係止部38aで車椅子12を確実に保持した後、図6に示すように、搬送台車16を傾動して車椅子12を後傾させることができる。その結果、車椅子12に搭乗した人に不安を与えることなく、安定した姿勢で、階段11を昇降させることができる。このとき、水平部36の先側には上方に突出したストッパー部39が設けられており、車椅子12の前後方向の移動を規制することができる。
【0023】
なお、垂直部37の基側(下端側)は、水平部36の基側に回動可能に連結されており、各水平部36の内側部が、搬送台車16の外側に回動可能に保持されている。また、背もたれ支持部38の基側(下端側)も、搬送台車16の底部側に回動可能に連結されている。よって、非使用時には、図1に示すように、垂直部37が水平部36と重なるように折り畳み、水平部36と垂直部37を搬送台車16側に立てるように回動させると共に、背もたれ支持部38を搬送台車16の底部側に折り畳むことができ、非使用時のコンパクト性に優れる。特に、折り畳み後の搬送台車16の幅をガイド部15の幅と同程度にすることにより、退避位置での占有面積を削減することができる。また、図6の状態から搬送台車16を階段11の最上段まで移動させた後、水平部36と垂直部37が一直線上に並ぶように、垂直部37を車椅子12の後方側に倒し、背もたれ支持部38も車椅子12の後方側に倒せば、車椅子12を簡単に搬送台車16から降ろすことができる。
なお、搬送台車の構造は、上記のものに限定されるものではなく、搬送対象物の種類、形状、大きさ等に応じて、適宜、選択することができる。また、搬送台車を移動部に対して着脱可能な構造とし、搬送対象物の種類等に応じて搬送台車を交換するようにしてもよい。
【0024】
次に、階段用昇降装置10は、図5に示すように、階段昇降ロボット13と連結されて使用されるガイド部延長用ロボット40を備えている。
ガイド部延長用ロボット40は、図3に示すように、ガイド部15に着脱可能に連結される延長ガイド部41と、延長ガイド部41に取付けられて延長ガイド部41を支持する延長ガイド移動手段42とを備えている。そして、ガイド部延長用ロボット40は、延長ガイド移動手段42により、階段11上の設置位置と階段11外の退避位置(平地)との間を移動することができる。ここで、延長ガイド移動手段42は、延長ガイド部41の両側部に対向配置された複数対(ここでは3対)の多関節脚部43を有しているが、この多関節脚部43は、階段昇降ロボット13の多関節脚部20と同一なので詳細な説明は省略する。また、延長ガイド部41は、ガイド部15と同一形状に形成され、その内側には、図4(A)に示すように、ガイド部15のラック部33と同一形状のラック部44が取付けられている。そして、ガイド部延長用ロボット40にも、階段昇降ロボット13と同様に、制御部(図示せず)と各種センサ(図示せず)が搭載される。従って、ガイド部延長用ロボット40は、階段昇降ロボット13の構成から、往復移動部17を除いたものに相当する。以上により、ガイド部15と延長ガイド部41が一直線上に並ぶように階段昇降ロボット13とガイド部延長用ロボット40を連結すれば、往復移動部17はガイド部15と延長ガイド部41の間を簡単に乗り移ることができる。
【0025】
次に、図4(A)、(B)により、階段昇降ロボット13とガイド部延長用ロボット40を連結する連結手段45について説明する。
まず、延長ガイド部41の後端側に突出する差込み片46が設けられ、その上面に嵌合凸部47が形成されている。そして、ガイド部15の前端側の下部には差込み片46が挿通される挿通孔48が設けられ、ガイド部15の底部(挿通孔48の上面)には嵌合凸部47が嵌合される嵌合孔49が形成されている。以上のように構成された連結手段45を備えることにより、ガイド部15と延長ガイド部41が一直線上に並ぶように、階段昇降ロボット13とガイド部延長用ロボット40の姿勢を制御しながら、ガイド部15を前進させ、又は延長ガイド部41を後退させて、差込み片46を挿通孔48に挿通するだけで、簡単かつ確実に階段昇降ロボット13(ガイド部15)とガイド部延長用ロボット40(延長ガイド部41)を連結することができる。このとき、図4(B)に示すように、嵌合凸部47の上面がなだらかな円弧状に湾曲していることにより、嵌合孔49との挿抜をスムーズに行うことができる。
【0026】
なお、連結手段は、上記の構成に限定されるものではなく、階段昇降ロボット13(ガイド部15)とガイド部延長用ロボット40(延長ガイド部41)を連結できるものであればよい。例えば、嵌合凸部を差込み片の下面又は側面に形成し、それに対応させて挿通孔の下面又は側面に嵌合孔を形成してもよいし、ガイド部に差込み片及び嵌合凸部を形成し、延長ガイド部に挿通孔及び嵌合孔を形成してもよい。また、嵌合孔の代わりに嵌合凹部を形成してもよいし、嵌合凸部をバネで支持して上下動可能な構造としてもよい。さらに、ガイド部及び延長ガイド部の長手方向両端に連結手段を設ければ、階段昇降ロボットとガイド部延長用ロボットの前後が入れ代わっても両者を連結することができるだけでなく、階段昇降ロボットの前後にガイド部延長用ロボットを連結することや、複数のガイド部延長用ロボットを連結することもでき、汎用性に優れる。
【0027】
基本的に階段昇降ロボット13のガイド部15は、設置対象となる階段11の全長に合わせて設計されるが、階段11の全長が長い場合や階段11の前後に十分なスペースがない場合に、階段昇降ロボット13の移動(歩行)が困難になるおそれがある。そこで、ガイド部延長用ロボット40を用意することにより、階段昇降ロボット13(ガイド部15)及びガイド部延長用ロボット40(延長ガイド部41)のそれぞれの全長を短くして、スムーズな移動(歩行)を実現できると共に、広い退避スペースを必要とせず、汎用性に優れる。なお、階段昇降ロボットに連結するガイド部延長用ロボット(延長ガイド部)の全長及び連結数は、適宜、選択することができる。
【0028】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、上記実施の形態では、本体移動手段及び延長ガイド移動手段として、多関節脚部を用いたが、その数及び配置は、適宜、選択することができる。また、多関節脚部の構造も、上記実施の形態で説明したものに限定されず、適宜、選択することができる。さらに、本体移動手段及び延長ガイド移動手段は、ガイド部及び延長ガイド部をそれぞれ支持して、階段上の設置位置と階段外の退避位置との間を移動できるものであればよく、多関節脚部に限らず、例えばクローラで移動する構造とすることもできる。また、関節を曲げてガイド部及び延長ガイド部の高さ及び傾斜角度を調整する多関節脚部の代わりに、又は多関節脚部に併せて、脚部の一部を伸縮させる多脚構造とすることもできる。
なお、本実施の形態では、階段用昇降装置として、階段昇降ロボットとガイド部延長用ロボットを組合せたものについて説明したが、階段昇降ロボットを単独で使用することもできるし、延長ガイド移動手段を備えたガイド部延長用ロボットの代わりに、階段昇降ロボットのガイド部に連結可能な延長ガイド部と、延長ガイド部を階段上で支持する支持脚部とを有する移動手段のないガイド部延長部材を手動(人手)で移動させて設置してもよい。
【符号の説明】
【0029】
10:階段用昇降装置、11:階段、12:車椅子(搬送対象物)、13:階段昇降ロボット、15:ガイド部、16:搬送台車、17:往復移動部、18:本体移動手段、20:多関節脚部、21:水平軸支部、22:垂直軸支部、23:上脚部、24:下脚部、25:接地部、26:接地脚部、28:第1関節部、29:第2関節部、30:第3関節部、32:移動部、33:ラック部、35:車輪保持部、36:水平部、37:垂直部、38:背もたれ支持部、38a:係止部、39:ストッパー部、40:ガイド部延長用ロボット、41:延長ガイド部、42:延長ガイド移動手段、43:多関節脚部、44:ラック部、45:連結手段、46:差込み片、47:嵌合凸部、48:挿通孔、49:嵌合孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6