(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20221003BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20221003BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20221003BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20221003BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20221003BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20221003BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221003BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221003BHJP
【FI】
H01M4/90 M
H01M4/88 K
H01M4/92
B01J23/89 M
B01J37/16
B01J37/02 101D
B01J37/08
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2021109869
(22)【出願日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 克彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴信
(72)【発明者】
【氏名】青木 直也
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-057317(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2242203(GB,A)
【文献】特開昭63-319052(JP,A)
【文献】特開2014-002981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粉末の水懸濁液を用意する工程と、
塩化白金酸の水溶液を用意する工程と、
L-アスコルビン酸を80~100℃に加熱した前記カーボン粉末の水懸濁液に加え、次いで、この加熱温度を維持しつつ、得られた前記アスコルビン酸含有カーボン粉末の水懸濁液に前記カーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分の投入速度で前記塩化白金酸水溶液を加えることにより、前記カーボン粉末の表面上にナノメーターオーダーの大きさに成長した白金粒子を房状に担持する第一の還元工程であって、前記で用いられる塩化白金酸に対して、モル比で、2.33から3.17倍の前記アスコルビン酸が用いられる、第一の還元工程と、
第一の還元工程後の80~100℃に加熱された懸濁液に、当該還元工程後に残存する塩化白金酸の全部を還元できる量のL-アスコルビン酸を加えて前記塩化白金酸を還元することにより、前記白金粒子表面上に白金を析出させる第二の還元工程と、
第二の還元工程で得られる白金粒子を担持するカーボン粒子を含む懸濁液を濾過して前記白金を担持するカーボン粒子を取得し、洗浄し、水に再懸濁した後の再懸濁液に、クロム化合物水溶液およびコバルト化合物水溶液を加え、次いでアンモニア水でpHを9~11に調整することで、水酸化コバルトと水酸化クロムを前記白金粒子表面上に析出させる析出工程と、
前記析出工程で得られる懸濁液を濾過して、前記白金粒子表面上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した粒子を洗浄し、乾燥し、前記カーボン粉末の表面上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した白金粒子を房状に担持する粉末を得る工程と、
前記工程で得られる水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した白金粒子を房状に担持するカーボン粉末を不活性ガスまたは窒素雰囲気中で熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法。
【請求項2】
前記白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒中の白金量を、重量基準で、11wt%~15wt%に調整することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法。
【請求項3】
前記塩化白金酸の第一および第二の還元工程において、前記懸濁液の温度を92℃~95℃とし、白金コバルトクロム合金粒子の平均粒子径を10~20nmに調整することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から燃料電池の電極触媒としてカーボン担体の表面上、あるいは排ガス処理触媒としてシリカ等の無機酸化物担体に白金または白金合金を担持させた触媒が使用されている。
【0003】
白金合金を担持させた触媒の作製において、最初に、白金をカーボン担体等に担持させておき、次に合金化すべき金属を化合物の形で添加して最終的にそれら金属を合金化する手法が用いられることがある。
【0004】
白金担持カーボンの製法について、特許文献1には、カーボンブラック等からなる触媒担体を酸水溶液に接触させて親水処理を施した触媒担体と、塩化白金酸水溶液とを充分に接触させた後に、系のpHをアルカリ性にし、還元剤が作用する温度まで系の温度を上げ、コロイド凝集防止剤としての過酸化水素を添加し、アルデヒド基を有する還元剤を徐々に添加し、塩化白金酸を還元・担持する方法により、担持量約10.5%、白金粒子径約30オングストロームである触媒が得られることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ジニトロジアンミン白金を硝酸に溶解した溶液に担体としてのカーボン粉末を加えて、60分間攪拌を続けて十分分散させたのち、L-アスコルビン酸水溶液を加え、攪拌混合下で65℃の湯浴中で一夜間(16時間)加熱保持し、放冷後、濾過・洗浄・乾燥することで、白金9重量%担持したカーボン粉末が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-49253
【文献】特開平04-298238
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2は、先ずカーボン担体に白金化合物を接触させ、次いで前記白金化合物を還元剤で還元し、数ナノサイズの微細な白金粒子をカーボン粉末表面に担持させる方法であり、初期性能が高いが、使用中に触媒粒子の凝集が進行し、性能が変化(低下)してしまう問題があった。
初期から使用終了時までの性能の安定性および耐久性を向上することが強く要望されている燃料電池用触媒、例えば、リン酸型燃料電池用カソード触媒は、より大きいサイズで、かつ、大きさのばらつきが小さい触媒粒子をカーボン粉末に担持させることが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、白金コバルトクロム合金粒子を得る前段階の白金粒子を形成する場合において、水にカーボン粉末を懸濁させた懸濁液に、所定量の塩化白金酸の70%~95%を還元可能な量として、塩化白金酸に対してモル比で2.33~3.17倍のL-アスコルビン酸を80~100℃に加熱した前記懸濁液に加え、次いで、塩化白金酸水溶液をカーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分の投入速度でその懸濁液に加えること(第一の還元工程)により、カーボン粉末の表面上にナノメーターオーダーの大
きさに成長した白金粒子を房状に担持させ、次いで、第一の還元工程後の80~100℃に加熱された懸濁液に、未だ、還元されることなく残存し得る(限定されるものでないが、第一の還元工程の初期量の5%~30%に相当する)塩化白金酸を、さらに、L-アスコルビン酸を使用して、当該残存する塩化白金酸の全てを還元する第二の還元工程を実施すると、効率よく、初期使用量の全ての塩化白金酸をカーボン粉末の表面上に担持させることができ、しかも、その後の水酸化コバルトと水酸化クロム析出工程を経て、比較的大きくてバラつきが小さい粒径の白金コバルトクロム合金粒子をカーボン粉末表面に担持できることを見出した。
【0009】
したがって、上記課題は、次の特徴を有するか又は態様の本発明によって解決される。
態様1: カーボン粉末の水懸濁液を用意する工程と、
塩化白金酸の水溶液を用意する工程と、
L-アスコルビン酸を80~100℃に加熱した前記カーボン粉末の水懸濁液に加え、次いで、この加熱温度を維持しつつ、得られる前記アスコルビン酸含有カーボン粉末の水懸濁液に前記カーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分の投入速度で前記塩化白金酸水溶液を加えることにより、前記カーボン粉末の表面上にナノメーターオーダーの大きさに成長した白金粒子を房状に担持する第一の還元工程であって、前記で用いられる塩化白金酸に対して、モル比で、2.33から3.17倍のアスコルビン酸が用いられる、第一の還元工程と、
第一の還元工程後の80~100℃に加熱された懸濁液に、当該還元工程後に残存する塩化白金酸の全部を還元できる量のL-アスコルビン酸を加えて前記塩化白金酸を還元することにより、前記白金粒子表面上に白金を析出させる第二の還元工程と、
第二の還元工程で得られる白金粒子を担持するカーボン粒子を含む懸濁液を濾過して前記白金を担持するカーボン粒子を含む濾過ケーキを取得し、この濾過ケーキを洗浄し、水に再懸濁した後の再懸濁液に、クロム化合物水溶液およびコバルト化合物水溶液を加え、次いでアンモニア水でpHを9~11に調整することで、水酸化コバルトと水酸化クロムを前記白金粒子表面上に析出させる析出工程と、
前記析出工程で得られる懸濁液を濾過して、前記白金粒子表面上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した粒子を洗浄し、乾燥し、前記カーボン粉末の表面上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した白金粒子を房状に担持する粉末を得る工程と、
前記工程で得られる水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した白金粒子を房状に担持するカーボン粉末を不活性ガスまたは窒素雰囲気中で熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法。
態様2: 前記白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒中の白金量を、重量基準で、11wt%~15wt%に調整することを特徴とする態様1の燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法。
態様3: 前記塩化白金酸の第一および第二の還元工程において、前記懸濁液の温度を92℃~95℃とし、白金コバルトクロム合金粒子の平均粒子径を10~20nmに調整することを特徴とする態様1または2の燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従うと、比較的大きな粒径であって、大きさのばらつきが小さい白金コバルトクロム合金粒子を担持させた燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の製造方法における第二の還元工程を経た後の白金担持カーボンのTEM像の一例である。
【
図2】本発明の製造方法により得られる白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒のTEM像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使用される用語は、特記しない限り、当該技術分野で常用されている意味内容を有するものと理解される。
塩化白金酸は、ヘキサクロリド白金(IV)酸(H2PtCl6)を意味する。また、L-アスコルビン酸は、単に、「アスコルビン酸」ということもある。
態様1では、第一の還元工程と第二の還元工程が採用されることに特徴がある。このような特徴ある構成の採用に加えて、第一の還元工程及び第二の還元工程は、次のような特徴ある構成を含む。具体的には、第一の還元工程は、L-アスコルビン酸を予め用意したカーボン粉末の水懸濁液の80~100℃の加熱溶液に加え、次いで、この加熱温度を維持しつつ、得られる前記アスコルビン酸含有カーボン粉末の水懸濁液に前記カーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分の投入速度で前記塩化白金酸水溶液を加えることにより、カーボン粉末の表面上にナノメーターオーダーの大きさに成長した白金粒子を房状に担持させるものであるが、さらに、前記処理で用いられる塩化白金酸に対して、モル比で、2.33から3.17倍の前記アスコルビン酸が用いられる、ことにも特徴がある。ここにいう、塩化白金酸に対するアスコルビン酸のモル比は、前者を還元するのに必要とされる化学量論上のモル比より過剰な量のアスコルビン酸が用いられている。これは、態様1における第一の還元工程の反応条件下では、必ずしも、化学量論に従って用いられるアスコルビン酸が作用しないことが確認されたことに基づく。限定されるものでないが、態様1では、上述の「2.33から3.17倍の前記アスコルビン酸が用いられる」ことにより、用いられている塩化白金酸の約70%~約95%が還元される。こうして、第二の還元工程が採用され、当該工程では、第一の還元工程後の80~100℃に加熱された懸濁液に、当該還元工程後に残存する塩化白金酸の全部を還元できる量のL-アスコルビン酸が加えられる。ところで、仮に、第一の還元工程で用いられている塩化白金酸の全量を還元するためには、モル比で、ほぼ3.33倍のアスコルビン酸を用いることが必要であることが確認されている。したがって、第一の還元工程後に残存する塩化白金酸の全部(計算上、5%~30%)を還元できる量のアスコルビン酸は、第一の還元工程でアスコルビン酸の加えた量が塩化白金酸に対してX倍モルのモル比である場合において、塩化白金酸に対してモル比で(3.33-X)倍以上のアスコルビン酸を、第一の還元工程後の加熱懸濁液に加えればよい。
これは、理論により本発明の範囲が限定されるものでないが、次のように理解されている。
アスコルビン酸を含む加熱した懸濁液に塩化白金酸水溶液を加えると、加え始めた初期においては、直ちに白金の還元反応が進行し、ナノメーターサイズの白金粒子を形成する。一方、塩化白金酸水溶液の投入後半から投入終了時点においては、L-アスコルビン酸の量が塩化白金酸の70%~95%を還元可能な量に制限されているため、L-アスコルビン酸は少ない状態となり、塩化白金酸は、ゆっくりと還元される。このゆっくりと還元される塩化白金酸は、より大きな粒子となり安定状態になろうとする際に、白金粒子同士をつなぐ接着剤のような役割を果たし、カーボン上に担持された白金粒子上に、初期に生成した白金粒子をつなぐ働きを及ぼす。これにより、本製法では白金粒子は房状に成長してカーボン担体上に担持される。こうして、態様1の発明では、第一の還元工程と第二の還元工程が採用される。
次に、第二の還元工程後の懸濁液は、濾過され、白金粒子を担持するカーボン粒子を含む濾過ケーキが得られ、この濾過ケーキを水を用いて洗浄し、水に再懸濁した再懸濁液の調製に用いられる。さらに、この懸濁液は、クロム化合物水溶液およびコバルト化合物水溶液を加え、次いでアンモニア水でpHを9~11に調整することで、水酸化コバルトと水酸化クロムを前記白金粒子表面上に析出させる析出工程に供される。この析出工程で得られる懸濁液は、上述の白金粒子を担持するカーボン粒子を含む濾過ケーキを得るのと同様
に、濾過、洗浄、乾燥処理され、カーボン粉末の表面上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した白金粒子を房状に担持した粉末を得る工程に供される。当該粉末は、さらに、不活性ガスまたは窒素雰囲気中でその粉末を熱処理する熱処理工程に供される、目的の燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒が提供できる。
【0013】
以下に、説明が重複する場合があるが、さらに本発明を具体的に説明する。
【0014】
態様1で用いるカーボン粉末としては特に限定されるものではないが、電極触媒の製造において白金を担持させるために用いられるものであってよく、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、これらを黒鉛化処理した黒鉛化カーボン等が挙げられる。例えば、比表面積が50m2/g~300m2/gの導電性の黒鉛化カーボンを、水に懸濁させて懸濁液を得る。懸濁液中のカーボン濃度は10g/L~18g/Lとすることができる。
【0015】
ここで用いる水は、イオン交換した純水とすることができる。
【0016】
塩化白金酸の水溶液を用意する工程を含む。濃度は白金換算で130g/L~660g/Lとすることができる。
【0017】
第一の還元工程及び第二の還元工程では、L-アスコルビン酸が白金の還元剤として用いられるが、アスコルビン酸は、各種の還元系で多用されるアルデヒド類、ヒドラジン、エタノールと比較し、安全で取り扱いやすい還元剤である。また、塩化白金酸は白金化合物の中で最も一般的で、比較的安価である。
【0018】
また、第一の還元工程では、アスコルビン酸含有カーボン粉末の80~100℃水懸濁液に、カーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分の投入速度で前記塩化白金酸水溶液が加えられる。ここで、懸濁液の温度が80℃より低いと塩化白金酸の還元反応が進行しにくくなり、100℃以上では、溶媒である水の蒸発量が大きくなり溶媒量の適正化が難しくなるため、加熱温度は80~100℃の範囲とすることが一般的である。また、第一の還元工程中の加熱温度が還元反応の速度、房状の白金粒子の成長度に影響を与えるため、房状の白金粒子を精度よく制御するためには、前記加熱温度は所定の±1.5℃の範囲で制御することが望ましい。
【0019】
次に、塩化白金酸水溶液を、懸濁液中のカーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分、好ましくは、0.002g/分~0.01g/分、より好ましくは、0.003g/分~0.006g/分、の投入速度で、その懸濁液に加える。
【0020】
図1に本製造方法で製造した第二の還元工程後の白金担持カーボンのTEM像の一例を示す。
【0021】
図1によると、白金の大部分は第一の還元工程で還元されており、第一の還元工程後には、白金粒子はTEM像のとおり房状にカーボン担体上に担持されていると考えられる。この房状の白金粒子の成長度が合金粒径を決める最大の因子となる場合がある。
【0022】
塩化白金酸水溶液をカーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分の間の所定の投入速度で加えることで、粒子の成長度を工業的に実施可能なレベルで安定的かつ均一に制御することができる。
この理由は、当該段階において、塩化白金酸を加える速度をコントロールすることで、十分な混合、拡散条件下で還元反応速度をコントロールできるためであると考える。
【0023】
後に示す表1から分かる通り、塩化白金酸水溶液の投入速度に対して合金の平均粒子径が変化するため、この関係を利用し、合金の平均粒子径を8~20nmの中から特に狙いとする合金の平均粒子径に調整することが可能である。合金の平均粒子径の好ましくは、8~16nm、より好ましくは、10~14nmとすることができる。
【0024】
第二の還元工程では、上述したとおり、第一の還元工程で還元されることなく残存した塩化白金酸のすべてを還元することのできる量のアスコルビン酸が、第一の還元工程後の80~100℃に加熱された懸濁液に加えられ、これにより、第一の還元工程でカーボン粉末状に析出した白金粒子上に追加の白金を析出させることができる。
【0025】
第二の還元工程で懸濁液に加えるL-アスコルビン酸の量は第一の還元工程で残った塩化白金酸の全部を還元できる量以上とする。例えば、第一の還元工程において塩化白金酸に対して2.33倍のモル比のL-アスコルビン酸を加えた場合には、第二の還元工程において(3.33-2.33)=1.00倍モル以上の量のL-アスコルビン酸の量とする。
また、例えば、第一の還元工程において塩化白金酸に対して3.17倍モルのL-アスコルビン酸を加えた場合には、第二の還元工程において(3.33-3.17)=0.16倍モル以上の量のL-アスコルビン酸の量とする。
【0026】
第二の還元工程で懸濁液に加えるL-アスコルビン酸の量を上記のようにすることで、第一の還元工程後に残った5~30%の未還元の塩化白金酸については、第二の還元工程で、接着剤的役割を果たしている塩化白金酸を含めて、塩化白金酸の全部を還元して、白金カーボン上に担持することができる。このように、ほぼ完全にカーボン上に担持させ、白金のロスにつながる未還元の白金を生じさせないことが工業的に重要であることはいうまでもなく、そのため、大過剰(塩化白金酸の全部を還元可能な量の3倍程度)のL-アスコルビン酸を加えて還元することが望ましい。すなわち、第二の還元工程では、わずかに残った未還元の塩化白金酸を完全に還元するために、大過剰(塩化白金酸の全部を還元可能な量の3倍程度)のL-アスコルビン酸を加えることができ、L-アスコルビン酸を複数回に分けて加えてもよい。
【0027】
上述したとおり、第二の還元工程後の懸濁液は、濾過され、白金粒子を担持するカーボン粒子を含む濾過ケーキが得られ、この濾過ケーキを水を用いて洗浄し、水に再懸濁した再懸濁液の調製に用いられる。さらに、この懸濁液は、クロム化合物水溶液およびコバルト化合物水溶液を加え、次いでアンモニア水でpHを9~11に調整することで、水酸化コバルトと水酸化クロムを前記白金粒子表面上に析出させる析出工程に供される。この析出工程で得られる懸濁液は、上述の白金粒子を担持するカーボン粒子を含む濾過ケーキを得るのと同様に、濾過、洗浄、乾燥処理され、カーボン粉末の表面上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した白金粒子を房状に担持した粉末を得る工程に供される。当該粉末は、さらに、不活性ガスまたは窒素雰囲気中でその粉末を熱処理する熱処理工程に供される、目的の燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒が提供できる。前記の、水酸化コバルトと水酸化クロムを前記白金粒子表面上に析出させる析出工程は、一般的に、5℃~50℃の温度で、0.1時間~3時間行うことができる。
上述の洗浄の方法は、特に限定されるものではなく種々の手段によって行うことができる。濾過は、ベルトフィルター、ドラムフィルター、遠心分離機、真空濾過器、加圧濾過器、フィルタープレスなどを用いて行うことができる。
水酸化コバルト、水酸化クロムの析出担持の方法については、第二の還元工程で得られる白金を担持するカーボン粒子を含む濾過ケーキの水に対する再懸濁を、例えば、酢酸クロム水溶液および酢酸コバルト水溶液と混合し、こうして得られる混合液をアンモニア水でpHを9~11に調整することで水酸化コバルトと水酸化クロムを白金粒子表面上に析出させることができる。コバルト化合物、クロム化合物としては、酢酸クロム、および酢酸
コバルトを用いることができる。また、酢酸塩の代わりに硝酸クロム、硝酸コバルトなどの化合物を用いることができる。
【0028】
こうして、カーボン粉末の表面上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出したナノメーターオーダーの大きさの白金粒子を房状に担持した粉末を得ることができるが、かような粉末は、不活性ガスまたは窒素雰囲気中で熱処理される。
【0029】
白金-水酸化コバルト-水酸化クロム担持カーボン粉末の懸濁液の濾過、洗浄は白金担持カーボン懸濁液の濾過、洗浄と同様の手段によって行うことができる。
【0030】
これらの工程で用いられる乾燥方法は、特に限定されるものではないが、さまざまな乾燥器を用いて乾燥を行うことができ、具体的には、熱風乾燥器、真空乾燥器、イナートオーブンなどを用いて50℃~250℃の温度で、数時間から数10時間行う方法が挙げられる。
【0031】
乾燥した白金-水酸化コバルト-水酸化クロム担持カーボン粉末を不活性ガスまたは窒素雰囲気中、例えば800℃~1100℃で熱処理する。これにより、白金コバルトクロムの合金粒子が生成される。この際、用いる不活性ガスとしては特に限定されるものではないが、ヘリウムガスやアルゴンガスを使用することができる。このましくは、ガスを流通下で行うことができる。
【0032】
以上により得られる白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒のTEM像の一例を
図2に示す。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
まず、比表面積が約80m2/gの導電性の黒鉛化カーボン1877gを、150Lの純水中に懸濁させ、前記懸濁液を撹拌しながら97-100℃に加熱後、L-アスコルビン酸594gを加え、その5分後に塩化白金酸水溶液を加え始めた。この際、白金含有量で264gに相当する塩化白金酸を純水1100gに溶解させたものを、送液ポンプを使用し、一定の速度で40分かけて加えた。従って、塩化白金酸水溶液の投入速度はカーボン粉末1g当たり白金換算で0.0035g/分となる。前記塩化白金酸水溶液の投入完了5分後に、L-アスコルビン酸1306gを加え、その10分後に加熱を停止した。このようにして、カーボン担体上に白金粒子が房状に担持された粉末を含む懸濁液を得た。以下、この懸濁液を「SPtC1」と呼ぶ。
【0035】
<水酸化コバルト、水酸化クロムの析出>
懸濁液SPtC1を、濾過して、濾過ケーキを得た。これを洗浄した後、純水120L中に懸濁させ、撹拌しながら25~30℃に加熱後、酢酸コバルト(II)四水和物174gと酢酸クロム(III)118gを3Lの水に溶解した液を加え、30分以上混合した。その後、水酸化コバルトと水酸化クロムを析出させるために25%アンモニア水762gを送液ポンプを使用し、一定の速度で10分かけて前記懸濁液に加えた。このようにして、白金粒子表面上に、水酸化コバルト、水酸化クロムを析出させた房状の白金粒子が担持されたカーボン粉末を含む懸濁液を得た。以下、この懸濁液を「SPtCoCrC1」と呼ぶ。
【0036】
懸濁液SPtCoCrC1を濾過して、濾過ケーキを得た。これを洗浄した後、100℃で48時間に亘って、真空乾燥に供した。このようにして、白金粒子表面上に、水酸化コバルト、水酸化クロムを析出させた房状の白金粒子が担持されたカーボン粉末を得た。以
下、この粉末を「粉末P1」と呼ぶ。
【0037】
次いで、粉末P1を、細かい粉末状に粉砕した後、窒素雰囲気中、980℃で1.5時間に亘る熱処理に供した。
【0038】
以上のようにして、白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒を製造した。以下、これを「実施例1」と呼ぶ。
【0039】
(実施例2)
塩化白金酸の還元担持時の温度を92-95℃にしたことと、塩化白金酸の投入時間を35分としたことを除いては、実施例1と同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「実施例2」と呼ぶ。この際、塩化白金酸の投入速度はカーボン粉末1g当たり0.0040g/分となる。
【0040】
(実施例3)
塩化白金酸の還元担持時の温度を92-95℃にしたことと、塩化白金酸の投入時間を31分としたことを除いては、実施例1と同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「実施例3」と呼ぶ。この際、塩化白金酸の投入速度はカーボン粉末1g当たり0.0045g/分となる。
【0041】
(実施例4)
塩化白金酸の還元担持時の温度を92-95℃にしたことと、塩化白金酸の投入時間を29分としたことを除いては、実施例1と同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「実施例4」と呼ぶ。この際、塩化白金酸の投入速度はカーボン粉末1g当たり0.0049g/分となる。
【0042】
(比較例1)
第一の還元工程で投入するL-アスコルビン酸の量を塩化白金酸を全部還元可能な量である1900gとしたことと、塩化白金酸の投入時間を10秒としたことと、第二の還元工程行わないことを除いては、実施例1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「比較例1」と呼ぶ。この際、塩化白金酸の投入速度はカーボン粉末1g当たり0.8443g/分となる。
【0043】
下記表1に、実施例1~4と比較例1の白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の白金コバルトクロム合金の平均粒子径と標準偏差σを示す。
【0044】
【0045】
<触媒粒子の平均粒子径の測定>
各試料のTEM観察より求めた。
【0046】
上記表1の比較例1では、合金粒径のバラつきが大きく好ましくない触媒物性であった。
【0047】
一方、上記表1の実施例1乃至実施例4に係る触媒は、合金粒子の平均粒径径は8~20nmの範囲となっており、比較的均一であった。また、温度と塩化白金酸の滴下時間を変更することで特に狙いとする合金粒径に調整可能となっている。即ち、これらの結果から、本製造方法で触媒を製造することにより、白金-コバルト-クロム合金触媒において、合金触媒粒子径を8~20nmの範囲から狙いとする触媒粒径に工業スケールで再現よく製造できることができることが示唆された。
【0048】
<電気化学的評価>
燃料電池用電極触媒としての性能を評価するために、実施例2の触媒について酸素還元反応(ORR)活性をビー・エー・エス製ポテンショガルバノスタットを用いて回転電極法によって評価した。
【0049】
実施例2の触媒及びパーフルオロスルホン酸分散液を2-プロパノール及び水の混合溶媒に分散させて、触媒インクを調製した。前記調整した触媒インクをガラス状カーボン(直径6mm)に、白金量が18μg/cm2になるように塗布し、測定用電極を作製した。作製した測定用電極を窒素ガス飽和した25℃、0.1mol/L過塩素酸に浸漬し、参照電極に可逆水素電極(RHE)、対極に白金線を使用し、電位走査範囲を0.05V~1.2V(vs.RHE)、電位走査速度50mV/secでCV(サイクリックボルタモグラム)を測定した。得られたCVの水素脱離波から、ECSA(電気化学的活性表面積)を算出した。その後、セル内に酸素ガスを導入し、酸素ガス飽和雰囲気下で、測定用電極を1600rpmで回転させながら、電位を0.05V~1.2V(vs.RHE)、電位走査速度10mV/secで分極曲線を測定した。得られた分極曲線から、0.9Vの酸素還元電流値(I)および拡散限界電流値として0.4Vの酸素還元電流値(Id)から、下式にて酸素の拡散影響を排除した活性化支配電流値(Ik)を算出した。
Ik=Id・I (Id・I)
この活性化支配電流値(Ik)をECSAで除することで比活性を、前記ガラス状カーボン電極上の白金重量で除することで質量活性を算出した。実施例2の触媒のECSAは8.4m2/gであり、比活性及び質量活性はそれぞれ5692μA/cm2、478A/gであった。触媒粒径を大きくしたことで、ECSAは比較的小さいが、比活性及び質量活性は高く、高出力が得られている。従って、本製造方法で製造した触媒は、燃料電池用電極触媒として使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の方法により得られる、触媒は、比較的大きな粒径であって、大きさのばらつきが小さい白金コバルトクロム合金粒子を担持させたカーボン触媒は、特に、使用時の性能の安定性および耐久性が高いので、燃料電池用白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒として使用できる。
【要約】 (修正有)
【課題】使用時の性能の安定性および耐久性が高い白金コバルトクロム合金担持カーボン触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】80~100℃に加熱したL-アスコルビン酸含有カーボン粉末の水懸濁液に、カーボン粉末1g当たり白金換算で0.001g/分~0.03g/分の投入速度で塩化白金酸水溶液を加え、カーボン粉末の表面上にナノメーターオーダーの大きさに成長した白金粒子を房状に担持する第一還元工程と、第一還元工程後の80~100℃に加熱された懸濁液に、還元工程後に残存する塩化白金酸の全部を還元できる量のL-アスコルビン酸を加えて塩化白金酸を還元し、白金粒子表面上に白金を析出させる第二還元工程を含み、得られるカーボン粉末の表面上に白金粒子を析出させ、さらに、当該白金粒子上に水酸化コバルトと水酸化クロムが析出した白金粒子を房状に担持する粉末を得る方法。
【選択図】
図2