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特許7150373可視近赤外分光分析装置及び可視近赤外分光分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】可視近赤外分光分析装置及び可視近赤外分光分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/359 20140101AFI20221003BHJP
【FI】
G01N21/359
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021546095
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036447
(87)【国際公開番号】W WO2021053737
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500287880
【氏名又は名称】ツェンコヴァ ルミアナ
(74)【代理人】
【識別番号】100153811
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 高弘
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(72)【発明者】
【氏名】ツェンコヴァ ルミアナ
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-010717(JP,A)
【文献】特開2013-043062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0154568(US,A1)
【文献】特開2013-228361(JP,A)
【文献】特開2012-237834(JP,A)
【文献】特開2003-011429(JP,A)
【文献】国際公開第2005/050176(WO,A1)
【文献】特許第4710012(JP,B2)
【文献】特開2006-337364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 33/48-G01N 21/98
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる波長の光を順に測定対象物に照射して予備照射を行うと共に、前記予備照射の前記複数の異なる波長の光を順に前記測定対象物に照射して測定照射を行う照射部と、
前記測定照射の各波長において、前記測定対象物からの反射光、透過光または透過反射光を検出して吸光度スペクトルデータを出力する検出部と、
前記吸光度スペクトルデータの解析を行うデータ解析部と、
前記データ解析部が出力する前記測定対象物の成分に関する解析結果を表示する結果表示部とを備え
前記予備照射は、光の照射による摂動付与による前記測定対象物の吸光度変化を目的とするものであり、
前記測定照射は、前記予備照射で照射した位置と同じ位置に照射する、分光分析装置。
【請求項2】
前記予備照射における前記複数の異なる波長、及び前記検出の際の前記複数の異なる波長は、前記解析が必要とする波長に基づいて決定される、請求項1に記載の分光分析装置。
【請求項3】
前記予備照射における前記複数の異なる波長は、及び前記検出の際の前記複数の異なる波長は、同一である、請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【請求項4】
前記照射部は、前記予備照射における前記複数の異なる波長を、長波長側から短波長側に順に照射する場合には、前記検出の際の前記複数の異なる波長を、短波長側から長波長側に順に照射する、又は、
前記予備照射における前記複数の異なる波長を、短波長側から長波長側に順に照射する場合には、前記検出の際の前記複数の異なる波長を、長波長側から短波長側に順に照射する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の分光分析装置。
【請求項5】
前記照射部は、前記予備照射における前記複数の異なる波長を、短波長側から長波長側に順に照射する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の分光分析装置。
【請求項6】
前記照射部は、前記予備照射における前記複数の異なる波長を、長波長側から短波長側に順に照射する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の分光分析装置。
【請求項7】
前記予備照射及び前記検出の際の前記複数の異なる波長は、660nmから970nmの間で定められる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の分光分析装置。
【請求項8】
複数の異なる波長の光を順に測定対象物に照射して予備照射を行い、
前記予備照射の前記複数の異なる波長の光を順に前記測定対象物に照射して測定照射を行い、
前記測定照射の各波長において、前記測定対象物からの反射光、透過光または透過反射光を検出して吸光度スペクトルデータを出力し、
前記吸光度スペクトルデータの解析を行い、
前記測定対象物の成分に関する解析結果を表示し、
前記予備照射は、光の照射による摂動付与による前記測定対象物の吸光度変化を目的とするものであり、
前記測定照射は、前記予備照射で照射した位置と同じ位置に照射する、分光分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視近赤外光を利用して,試料中の成分の濃度、判別や成分の特性を測定する可視近赤外分光分析装置及び可視近赤外分光分析方法であって、特に、得られる吸収スペクトルをスペクトル解析若しくは多変量解析して、各成分の濃度、判別や各試料の特性を測定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
可視光及び近赤外光は、紫外光と比較するとエネルギーが低いために、紫外線のような照射により試料がダメージを受けることは少ないので、近年、いろいろな分野において、特に近赤外光を用いた成分分析が行われている。例えば、近赤外光を測定対象物に照射して、特定成分に由来する吸収波長またはその波長領域の吸光度を測定することで、前記特定成分を定量分析することが行われている。
【0003】
また、ある特定の波長領域の吸収スペクトルを測定し、得られた吸収スペクトルをスペクトル解析もしくは多変量解析して、試料中の成分の判別や成分の特性を測定することが行われている。
【0004】
特許文献1は、試料検体に所定の条件を付加することで摂動を与えながらスペクトル測定を行い、スペクトル解析もしくは多変量解析して、各成分の判別及び/又は成分の特性を測定可能とするモデルを構築する可視光・近赤外分光分析方法について開示している。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4710012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る方法は、精度の高い成分分析には有用である。しかしながら、適切な分析を行うには、多くの知識と経験が必要であった。
【0008】
本発明は、より簡易かつ効率的に測定対象物の成分や成分濃度を高精度に分析することができる分光分析装置及び分光分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示における分光分析装置は、複数の異なる波長の光を順に測定対象物に照射して予備照射を行うと共に、前記予備照射の後、複数の異なる波長の光を順に前記測定対象物に照射して測定照射を行う照射部と、前記測定照射の各波長において、前記測定対象物からの反射光、透過光または透過反射光を検出して吸光度スペクトルデータを出力する検出部と、前記吸光度スペクトルデータの解析を行うデータ解析部と、前記データ解析部が出力する前記測定対象物の成分に関する解析結果を表示する結果表示部とを備えている。
また、分光分析装置において、前記予備照射における前記複数の異なる波長、及び前記検出の際の前記複数の異なる波長は、前記解析が必要とする波長に基づいて決定される、こととしてもよい。
また、分光分析装置において、前記予備照射における前記複数の異なる波長は、及び前記検出の際の前記複数の異なる波長は、同一であってもよい。
また、分光分析装置において、前記照射部は、前記予備照射における前記複数の異なる波長が、長波長側から短波長側に順に照射される場合には、前記検出の際の前記複数の異なる波長は、短波長側から長波長側に順に照射され、前記予備照射における前記複数の異なる波長が、短波長側から長波長側に順に照射される場合には、前記検出の際の前記複数の異なる波長は、長波長側から短波長側に順に照射されることとしてもよい。
また、分光分析装置において、前記照射部は、前記予備照射における前記複数の異なる波長を、短波長側から長波長側に順に照射することとしてもよい。
また、分光分析装置において、前記照射部は、前記予備照射における前記複数の異なる波長を、長波長側から短波長側に順に照射することとしてもよい。
また、分光分析装置において、前記予備照射及び前記検出の際の前記複数の異なる波長は、660nmから970nmの間で定められることとしてもよい。
また、分光分析装置において、前記データ解析部は、前記吸光度スペクトルデータ中のピークを要素ピークに分解するデータ変換処理を行った後、前記解析モデルを適用することとしてもよい。
【0010】
本開示における分光分析方法は、複数の異なる波長の光を順に測定対象物に照射して予備照射を行い、前記予備照射の後、複数の異なる波長の光を順に前記測定対象物に照射して測定照射を行い、前記測定照射の各波長において、前記測定対象物からの反射光、透過光または透過反射光を検出して吸光度スペクトルデータを出力し、前記吸光度スペクトルデータの解析を行い、前記測定対象物の成分に関する解析結果を表示する、分光分析方法である。
【0011】
本開示の一形態に係る可視近赤外分光分析装置の発明は、波長400nm~2500nmの範囲またはその一部範囲の波長の光を照射部から測定対象物に照射し、その反射光、透過光または透過反射光を検出して吸光度スペクトルデータを得た後、その中の測定全波長あるいは特定波長の吸光度(透過光度)を、予め作成した解析モデルを用いて解析することによって前記測定対象物中の成分や成分濃度を定量的または定性的に分析する可視近赤外分光分析装置であって、前記照射部は、単一波長の光を照射する複数の光源と、前記各光源の光の通過・遮断を行う光源選択手段と、前記光源選択手段に連係され前記各光源の光の照射を制御するシャッター開閉手段と、光の通過・遮断を行うタイミングをそれぞれ独立して制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、照射部を、独立して点灯(照射)制御ができ単一波長の光を照射する複数の光源で構成するので、測定時に、測定対象物に照射する光の波長、その光の照射順序、照射回数を任意に簡単に設定することができる。よって、摂動を付与する場合に、前処理として、光の波長、照射順序及び照射回数を適宜変更して、高い解析精度を得られる最適の条件(光の波長、照射順序及び照射回数)を求めることができるので、最適の条件下で摂動を付与でき、解析精度の向上が図れる。
【0013】
この場合、さらに、測定時に前記選択した光源の照射タイミングを設定する照射タイミング設定手段と、測定時に前記選択した光源の照射継続時間を設定する照射継続時間設定手段とを有し、前記点灯制御手段は、選択した前記点灯手段を制御して、前記選択した光源を、前記設定した照射タイミングで照射継続時間だけ点灯する、ようにできる。
【0014】
また、さらに、選択した光源の輝度を設定する輝度設定手段を有する、ようにすることもできる。
【0015】
本開示の一形態に係る発明は、波長400nm~2500nmの範囲またはその一部範囲の波長の光を照射部から測定対象物に照射し、その反射光、透過光または透過反射光を検出して吸光度スペクトルデータを得た後、その中の測定全波長あるいは特定波長の吸光度を、予め作成した解析モデルを用いて解析することによって前記測定対象物の機能性、成分や成分濃度を定量的または定性的に分析する可視近赤外分光分析装置であって、前記照射部は、単一波長の光を照射する複数の光源と、シャッターを備え前記シャッターによって、前記測定対象物への前記各光源からの光の通過・遮断を行うシャッター開閉手段と、前記シャッター開閉手段に連係され前記各光源からの光の通過・遮断を行うタイミング及び照射時間をそれぞれ独立して制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
この場合、前記制御手段は、測定時に、複数の前記光源からの光のうち前記測定対象物に照射させる光の前記光源を選択する光源選択手段と、測定時に、前記光源選択手段よりの信号を受け、選択した前記光源からの光の照射を制御するシャッター開閉制御手段とを有する構成としてもよい。
【0017】
また、前記制御手段は、測定時に前記選択した光源の照射順序を設定する順序設定手段を有し、前記シャッター制御手段は、前記光源選択手段及び前記順序設定手段からの信号を受け、選択した前記光源のシャッターを,設定した前記照射順序で開閉点灯する構成としてもよい。
【0018】
本開示の一形態に係る可視近赤外分光分析方法の発明は、波長400nm~2500nmの範囲またはその一部範囲の波長の光を照射部から測定対象物に関連し水を含む、水、水溶液、生物及び生物由来の検体試料に照射し、その反射光、透過光または透過反射光を検出して水の吸光度スペクトルデータを測定した後、測定した全波長あるいは特定波長の吸光度を、予め作成した解析モデルを用いて解析することによって前記検体試料の時間変化及びエイジングを定性的または定量的に分析することを特徴とする。
【0019】
この場合、前記測定対象物に関連し水分を含む検体試料に対し、測定前に光を照射するという摂動を与えながらスペクトル測定を行うことができる。
【0020】
また、この可視近赤外分光分析方法は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の可視近赤外分光分析装置を用いることもできる。
【発明の効果】
【0021】
上述のような分光分析装置又は分光分析方法を用いることにより、より簡易かつ効率的に測定対象物の成分や成分濃度を高精度に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る可視近赤外分光分析装置の概略的構成を示すブロック図である。
図2】上記装置における照射部の構成を示す図である。
図3】上記装置における照射部の別の構成を示す図である。
図4】水の吸光特性を示す図である。
図5】前分光、後分光を説明する図である。
図6】上記装置において採用可能な反射光検出、透過反射光検出、および透過光検出の3つの検出方式を説明する図である。
図7】摂動を変えた場合における決定係数の相違を示す図である。
図8】摂動を変えた場合における決定係数の相違を示す図である。
図9】摂動を変えた場合におけるクラス間距離の相違を示す図である。
図10】摂動を変えた場合におけるクラス間距離の相違を示す図である。
図11図11(a)は定量モデルとして作成した重回帰式の全偏回帰係数を示す図、図11(b)は実測値(横軸)と推定値(縦軸)の関係を示す図、図11(c)は主成分の数(横軸)と標準誤差(縦軸)との関係を示す図である。
図12】時間の経過による、微生物の数の変化を示す図である。
図13】波長を変化させた場合の、相関係数、標準誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図面に沿って、生乳の鮮度予測に用いる場合を例に説明するが、本発明はこれに限られない。
【0024】
1.本装置の具体的構成
可視近赤外分光分析装置1は、波長400nm~2500nmの範囲またはその一部範囲(例えば600~1000nm)の波長の光を測定対象物(例えば、生乳)に照射し、その反射光、透過光または透過反射光を検出して吸光度スペクトルデータを得た後、その中の測定全波長あるいは特定波長の吸光度を、予め作成した解析モデルを用いて解析することによって前記測定対象物中の成分や成分濃度を定性的または定量的に分析するものである。
【0025】
そして、図1に示すように、可視近赤外分光分析装置1は、照射部2、検出部3、データ解析部4および結果表示部5の4つの要素を備えている。なお、光の波長の範囲は、前記解析モデルを作成した後、前記解析モデルを用いる場合において予測に必要な波長光を含む、1又は複数の波長を選択することができる。以下、各要素について説明する。
【0026】
(1-1)照射部2
照射部2は、図2に示すように、単一波長で波長が異なる光を照射する、LED等の複数の光源11と、各光源11に連係され各光源11を点灯する点灯手段12と、測定時に、複数の光源11のうち光を照射する光源11を選択する光源選択手段13と、測定時に前記選択した光源の照射タイミングを設定する照射タイミング設定手段14と、光源選択手段13及び照射タイミング設定手段14よりの信号を受け測定時に、点灯手段12を制御して選択した光源11を、所定の照射タイミングで所定の照射時間だけ点灯させるように、光源11ごとに独立して制御する点灯制御手段15とを備える。よって、照射部2からは、単一波長で波長が異なる複数種類の光が照射される。
【0027】
さらに、測定時に光源選択手段13によって選択した光源11の照射継続時間を設定する照射継続時間設定手段16を備え、光源11の照射を継続する時間を変更することができる。
【0028】
また、選択した光源の輝度を設定する輝度設定手段17を備え、光源11の輝度を変更することもできる。
【0029】
また、光源11が、例えばハロゲンランプのように照射が点灯当初は不安定で一定時間点灯を継続した後に安定する場合には、照射部2Aを、図3に示すように、構成することもできる。
【0030】
この場合、照射部2Aは、各光源11の光の通過・遮断を行うシャッター手段21を制御するシャッター開閉制御手段22とを備え、点灯制御手段15が、シャッター開閉制御手段22を制御して、各光源11からの光の通過・遮断を行うタイミングをそれぞれ独立して制御する。
【0031】
シャッター手段21は、各光源11の光を光源11ごとに通過させる複数の開口21Aaを有する開口部材21Aと、シャッター開閉制御手段22に連係され開口21Aaをシャッター21Baにて開閉するシャッター開閉手段21Bとを有する。
【0032】
図4に示すように、水に関する波長と吸光度との関係概要を示す。可視光・近赤外線では水の吸光度そのものを利用するので、水の吸光が外乱にならない。このため、可視光・全近赤外線帯域を計測に使用することができる。
【0033】
解析モデルが作成されれば、その解析モデルを用い摂動を付与する場合に、最適の波長の光源11が光源選択手段13によって選択され、最適な照射タイミングが照射タイミング設定手段14によって設定され、点灯制御手段15によって、最適の波長の光源11が、最適な照射順序で測定対象物に照射されるように点灯制御される。
【0034】
また、本装置は、照射する光源の波長、照射順序、照射回数を変更した摂動を与えながらスペクトル測定を行うことが可能なため、波長、照射順序、照射回数及びそれらの組み合わせをいろいろ変えることができ、水の変化及び測定に最適な摂動を容易にかつ迅速に見付けることができる。
【0035】
(1-2)検出部3
検出部3は、照射部2によって、波長400nm~2500nmの全範囲またはその一部範囲の光が照射された測定対象物からの反射光、透過光あるいは透過反射光を検出するものである。検出された光について、波長別に入射光に対する生の吸光度スペクトルデータが得られる。
【0036】
なお、分光方式には前分光と後分光とがあるが(図5参照)、前述したように、照射部2の各光源2Aから測定対象物に直接照射(投光)するので、測定対象物に照射し測定対象物からの光を検出し分光する後分光ではなく、測定対象物に投光する前に分光する前分光とされている。
【0037】
検出方法には3種類あり、反射光検出、透過光検出および透過反射光検出がある。図6に示すように、(a)反射光検出および(b)透過光検出は、それぞれ、測定対象物からの反射光と透過光とを検出器によって検出する。(c)透過反射光検出は、入射光が測定対象物内に入射した屈折光が物体内で反射し、再び物体外に放射された光が反射光と干渉する光を検出する。本装置の検出部3は、反射光検出、透過光検出および透過反射光検出のいずれの検出方式を採用するものであってもよい。
【0038】
検出部3内の検出器は、例えば半導体素子であるCCD(Charge Coupled Device)などによって構成することができるが、これに限定されるものではなく、他の受光素子を使用してもよい。分光器についても公知の手段によって構成することができる。
【0039】
(1-3)データ解析部4
検出部3から波長別の吸光度、即ち吸光度スペクトルデータが得られる。データ解析部4は、この吸光度スペクトルデータをもとに、予め作成した解析モデルを使用して、解析を行う。
【0040】
解析モデルは、定量モデル、定性モデルなどの複数の解析モデルを用意しておき、定量的評価を行うか、あるいは定性的評価を行うかに応じて、異なるものを使用することができる。また、解析モデルは、複数種類のモデルを作成しておき、1つの装置でいずれのモデルを用いた測定も可能である構成としてもよいし、測定対象物の種類に応じてそれぞれ異なる解析モデルを作成しておき、1つの装置で複数種類の測定が可能な構成としてもよい。
【0041】
データ解析部4は、スペクトルデータ、多変量解析用プログラム、解析モデルなどの各種データを記憶する記憶部と、これらのデータおよびプログラムに基づき演算処理を行う演算処理部とによって構成することができ、例えばICチップなどによって実現可能である。したがって、本装置を携帯型とするため小型化することも容易である。上記の解析モデルも、ICチップなどの記憶部に書き込まれる。
【0042】
ここで、生の吸光度スペクトルデータをそのまま使用して解析モデルによる測定・判定を行ってもよいが、得られたスペクトル中のピークを分光学的手法あるいは多変量解析手法により要素ピークに分解するなどのデータ変換処理を行い、変換後の吸光度スペクトルデータを使用して解析モデルによる測定・判定を行うことが好ましい。
【0043】
分光学的手法としては、例えば、2次微分処理やフーリエ変換があり、多変量解析手法としてはウェブレット変換、ニューラルネットワーク法等が例示されるが、特に限定されるものではない。
【0044】
(1-4)結果表示部5
結果表示部5は、データ解析部4における解析結果を表示する。具体的には、解析モデルによる解析の結果得られた測定値を表示する。あるいは、定性モデルの場合は、そのクラス判別結果に基づき,必要な表示を行う。なお、本装置を携帯型とする場合は、結果表示部5を液晶等のフラットディスプレイとすることが好ましい。
【0045】
2.データの解析方法
(2-1)解析モデルの作製
本装置は、上述のようにして得られた吸光度スペクトルデータの中の特定波長(または測定全波長)の吸光度を解析モデルで解析することによって、例えば、生乳鮮度の予測を行う。つまり、最終的な測定を行うには、解析モデルが予め作成されていることを必要とする。
【0046】
解析モデルは多変量解析によって作成可能である。例えば、スペクトル測定により取得した全波長の吸収スペクトルを格納するデータ行列を特異値分解によりスコアとローディングとに分解し、試料中の鮮度予測を要約する主成分を抽出する(主成分分析)。これにより、共線性(=説明変量間の相関が高いこと)の少ない独立な成分を重回帰分析に使用できるようになる。そして説明変量をスコア、目的変量を鮮度予測とする重回帰分析を適用する。これにより、測定全波長あるいは特定波長の吸収スペクトルから生乳の鮮度予測をする解析モデルを作成できる。
【0047】
これら一連の作業(多変量解析)は主成分回帰法(PCR:Principal Component Regression)あるいはPLS(Partial Least Squares)回帰法として確立されている(参考文献:尾崎幸洋、宇田明史、赤井俊男「化学者のための多変量解析-ケモメトリックス入門」、講談社、2002年)。回帰分析法としてはこのほかにCLS(Classical Least Squares)法、クロスバリデーション法などが挙げられる。
【0048】
上記方法は定量的解析モデル作成の場合であったが、定性的解析モデルの作成には、クラス判別用の主成分分析法(PCA:Principal Component Analysis)、SIMCA法(soft independent modeling of class analogy)、KNN法(k nearest neighbors)等の多変量解析を適用することができる。SIMCA法は、複数のグループ(クラス)についてそれぞれ主成分分析を行い、各クラスの主成分モデルを作成する。
【0049】
そして、未知試料が各クラスの主成分モデルに対して比べられ、その未知試料が一番適合する主成分モデルのクラスに割り当てられる。また、SIMCA法などのクラス判別解析は、パターン認識により吸収スペクトルや回帰ベクトルを各クラスに分類する方法ということができる。
【0050】
上記SIMCA法やPLS法などの多変量解析を使用した解析モデルの作成は、自作ソフトや市販の多変量解析ソフトを用いて行うことができる。また、使用目的に特化したソフトの作成により、迅速な解析が可能になる。
【0051】
このような多変量解析ソフトを用いて組み立てられた解析モデルをファイルとして保存しておき、未知の生乳の分析時にこのファイルを呼び出し、測定対象物の生乳に対して解析モデルを用いた定量的または定性的な分析を行う。これにより、簡易迅速な鮮度予測が可能となる。なお、解析モデルは、定量モデル、定性モデルなど複数の解析モデルをファイルとして保存しておき、各モデルは適宜更新されることが好ましい。
【0052】
解析モデルが作成されれば、当該解析モデルによる測定に必要な波長光が決定される。本装置は、こうして決定された1又は複数の波長域を試料に照射する構成とすることで装置構成をより単純化することができる。
【0053】
本装置によるスペクトル測定においては、測定対象物に対し、所定の条件を付加することで摂動(perturbation)を与えることが好ましく、また、本装置によるデータ解析においては、この摂動の効果を引き出すようなデータ解析が好ましいものとなる。
【0054】
(2-2)摂動(perturbation)
「摂動」とは、ある条件について複数の種類・条件を設定し測定することで試料の吸光度変化をもたらし、互いに異なる複数のスペクトルデータを取得することをいう。条件としては、濃度変更(濃度希釈を含む)、光の繰り返し照射、照射時間の延長、電磁力付加、光路長変更、温度、pH圧力、電気伝導率(EC)、機械的振動、その他その条件の変更によって物理的または化学的な変化をもたらすもののいずれか、または、それらの組み合わせを挙げることができるが、本装置では、光の照射による摂動付与が可能となる。
【0055】
光の照射は、照射回数と照射時間を変更可能で、これらの条件を最適化した摂動を与えて試料のスペクトル測定を行うことができる。例えば、測定前に所定の波長の光を3回連続照射することにより、試料の吸光度が微妙に揺らいだ(つまり、変化した)スペクトルデータが得られる。これらのスペクトルデータをSIMCA法やPLS法等の多変量解析に用いることにより、解析精度を向上することができ、高精度な測定が可能になる
【0056】
摂動による試料の吸光度変化は、試料中の水分子の吸収に変化(揺らぎ)が生じるためと考えられる。すなわち摂動として光を3回繰り返し照射することによって、1回目、2回目、3回目それぞれ水の応答、吸収に微妙に異なる変化が起こり、その結果スペクトルに揺らぎが生じるものと考えられる。
【0057】
後述の実施例では、このような3回繰り返し照射によりそれぞれ得られた吸光度スペクトルデータを使用してPLS法による回帰分析を行うことによって、各試料(生乳)について定量分析することができた。
【0058】
また、このように光を3回繰り返し照射した場合、得られた3回の吸光度スペクトルデータのうち少なくとも2回の吸光度スペクトルデータを使用してSIMCA法によるクラス判別を行うことによって、各試料を良好に分類することができ、高精度な分析が可能である。光照射回数は特に3回に制限されない。
【0059】
実施例1:生乳の鮮度予測(1)
生乳の保存日数を予測するための生乳鮮度予測モデルを構築するために、搾乳後1~5日の生乳を試料として、光源が次の単一波長を持つLEDを用いて測定を行った。
【0060】
・LED光源の波長(nm)
660 680 700 720 735 750 770 780
810 830 850 870 890 910 940 970
・測定条件
測定1 660nmから970nmの光を短波長側から長波長側に順に照射(予備照射)した、660nmから970nmの光を長波長側から短波長側に順に照射(測定照射)して測定した。
測定2 予備照射なしで、660nmから970nmの光を長波長側から短波長側に順に照射して測定した。
・多変量解析 アルゴリズム:定性分析
【0061】
・結果
図7に示すとおりである。測定前に照射を行い、摂動(予備照射)を付与した測定1の方が摂動を付与しない測定2よりも高い決定係数が得られた。より精度が高い、決定係数が得られる測定条件を設定するのに、測定波長の照射順などを任意に設定できることは有効であるといえる。
【0062】
実施例2:生乳の鮮度予測(2)
生乳の保存日数を予測するための生乳鮮度予測モデルを構築するために、搾乳後1~5日の生乳を試料として、光源が次の単一波長を持つLEDを用いて測定を行った。
【0063】
・LED光源の波長(nm)
660 680 700 720 735 750 770 780
810 830 850 870 890 910 940 970
・測定条件
測定3 660nmから970nmの光を長波長側から短波長側に順に照射(予備照射)した、660nmから970nmの光を短波長側から長波長側に順に照射(測定照射)して測定した。
測定4 予備照射なしで、660nmから970nmの光を短波長側から長波長側に順に照射して測定した。
・多変量解析 アルゴリズム:定性分析
【0064】
・結果
図8に示すとおりである。測定前に予備照射という摂動を付与した測定3の方が、前記摂動を与えない測定4よりも高い決定係数が得られた。より精度が高い、決定係数が得られる測定条件を設定するのに、測定波長の照射順などを任意に設定できることは有効であるといえる。
【0065】
実施例3:温泉水の識別
各種温泉水の識別モデルを構築するために,4種類の温泉水(温泉水A~D)と超純水を試料として、光源が、次の16波長の単一波長LEDから構成される本装置を用いて測定行った。
【0066】
・LED光源の波長(nm)
660 680 700 720 735 750 770 780
810 830 850 870 890 910 940 970
・測定条件
測定a 660nmから970nmの光を短波長側から長波長側に順に照射(予備照射)した、660nmから970nmの光を長波長側から短波長側に順に照射(測定照射)して測定した。
測定b 660nmから970nmの光を長波長側から短波長側に順に照射(予備照射)した、660nmから970nmの光を短波長側から長波長側に順に照射(測定照射)して測定した。
・解析データ 測定a,bとも、短波長側から長波長側に順に照射して得られた測定値と、長波長側から短波長側に順に照射して得られた測定値の両方を用いて解析を行った。
・多変量解析 アルゴリズム:定量分析
【0067】
・結果
図9に示すとおりである。測定a,bを比較すると、すべての試料間のクラス間距離が測定aの方が大きく、摂動を付与するための照射光の照射順が、測定aの方が測定bより有効であることがわかった。ここで、クラス間距離は、クラス間の識別精度を示す指標で,値が大きいほど識別精度が高いことを示す。
【0068】
実施例4:水耕栽培用養液中金属イオン濃度予測
水耕栽培用養液中鉄イオン、マグネシウムイオン及び電気伝導度予測モデルを構築するために、光源が、次の16波長の単一波長LEDから構成される本装置を用いて測定行った。
【0069】
・LED光源の波長(nm)
660 680 700 720 735 750 770 780
810 830 850 870 890 910 940 970
・測定条件
測定a 660nmから970nmの光を短波長側から長波長側に順に照射(予備照射)した、660nmから970nmの光を長波長側から短波長側に順に照射(測定照射)して測定した。
測定b 660nmから970nmの光を長波長側から短波長側に順に照射(予備照射)した、660nmから970nmの光を短波長側から長波長側に順に照射(測定照射)して測定した。
・解析データ 測定a,bとも、短波長側から長波長側に順に照射して得られた測定値と、長波長側から短波長側に順に照射して得られた測定値の両方を用いて解析を行った。
・多変量解析 アルゴリズム:定量分析
【0070】
・結果
図10に示すとおりである。鉄イオン、マグネシウムイオン及び電気伝導度(EC)のPLS回帰分析のR2値は、測定の方が大きく、摂動を付与するための照射光の照射順が、測定の方が測定より有効であることがわかった。
【0071】
実施例5:加齢度測定
波長680~970nmの範囲の波長光を照射部から測定対象物である、20~70歳の男性被験者(仕事前の400人)あるいは前記被験者に関連する検体試料に照射し、その反射光、透過光または透過反射光を検出して水の吸光度スペクトルデータを得た後、その中の測定全波長あるいは特定波長の吸光度を、予め作成した解析モデルを用いて解析した。被験者あるいは前記被験者に関連する検体試料に対し、繰り返し照射することにより摂動を与えながらスペクトル測定を行う
【0072】
20~70歳の男性被験者は、60~70才(グループ1),50~60才(グループ2)、40~50才(グループ3),20~40才(グループ4)の4つのグループにグループ分けして分析し、その結果を図11(a)(b)(c)に示す。図11(a)は定量モデルとして作成したPLS回帰式の全偏回帰係数を示している。図11(b)は実測値(横軸)と推定値(縦軸)の関係を示している。横軸が波長を、縦軸が係数の値を示す。図11(c)は主成分の数(横軸)と標準誤差(縦軸)との関係を示している。使用した波長は680nmから970nmで、個々の波長に対応する偏回帰係数が存在する。これはPLS回帰法を使用して求めた。
【0073】
図11(a)の相関係数(Rc)を見ても判るように高い有意性が示されている。クロスバリデーションを行った場合でも相関係数(Val)は大きな値となっている。よって、加齢度測定が可能であるといえる。
【0074】
なお、SECV は検量の標準誤差を、SEV はクロスバリデーションの標準誤差を表す。いずれも実測値と推定値との偏差の程度を表している。Factors は使用した主成分の数を表す。
実施例6:微生物の増殖の様子
【0075】
市販ミネラルウォーターに2種類の微生物、Acidovorax(アシドボラックス),Pseudomonas(プセウドモナス)を触菌し(2CFU/mL)、29℃で時間が経過するごとに、微生物が混入したミネラルウォーターの分光測定と生菌数との測定を行った。その後、時間と生菌数の多変量解析(PLS)を用いて、モデルを作成し、特定波長におけるスペクトル解析を行った。
【0076】
結果は,図12及び図13に示すとおりである。図12に示すように、300分経過後から50分経過する前ぐらいまで、増殖様子が変化していることがわかる。
【0077】
また、図13に示すように、選択した前記光を、高波長側から低波長側に順にずらせて点灯した後、低波長側から高波長側に順にずらせて点灯するか、低波長側から高波長側に順にずらせて点灯した後、高波長側から低波長側に順にずらせて点灯することによる光の照射を繰り返すことで、クロスバリデーションを行った場合、生菌数と時間の相関係数(Val)は大きな値となっている。よって、増殖の様子を推測できるといえる。
【0078】
また、前記装置を用いることで、使用する波長を簡単に変化させることができるので、相関係数が大きくなる波長の照射順序を簡単に選択することができる。
【0079】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1 可視近赤外分光分析装置
2,2A 照射部
11 光源
12 点灯手段
13 光源選択手段
14 照射タイミング設定手段
15 点灯制御手段
16 照射継続時間設定手段
17 輝度設定手段
21 シャッター手段
21A 開口部材
21Aa 開口
21B シャッター開閉手段
21Ba シャッター
22 シャッター開閉制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13